(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071813
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】疲労試験治具、及び疲労試験システム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20240520BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20240520BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20240520BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20240520BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
G01N3/04 P
G01N29/04
G01N29/24
G01N29/265
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182241
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 茂峻
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
(72)【発明者】
【氏名】植松 充良
【テーマコード(参考)】
2G047
2G061
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AA06
2G047AD08
2G047BC07
2G047BC11
2G047CA02
2G047DB03
2G047DB04
2G047EA10
2G047GA05
2G047GA06
2G047GE01
2G047GJ14
2G061AA01
2G061AA02
2G061AA11
2G061AA17
2G061AB01
2G061BA03
2G061CA01
2G061CA14
2G061CB01
2G061DA16
2G061EA08
2G061EB08
(57)【要約】
【課題】さらに正確な疲労試験を行うことが可能な疲労試験治具、及び疲労試験システムを提供する。
【解決手段】疲労試験治具は、被検査物を支持する治具本体と、荷重を付与する荷重付与部と、治具本体に対して被検査物の検査面に沿う基準方向に相対移動する移動体を有する移動機構と、移動体に設けられた超音波探触子と、超音波探触子に検査面に向かっての付勢力を付与する付勢部材と、移動体が基準方向における第一位置にある際に超音波探触子を付勢力に従って検査面に当接させるとともに、移動体が基準方向における第二位置にある際に超音波探触子を付勢力に抗して離間させる案内機構と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物を支持する治具本体と、
前記被検査物に対して荷重を付与する荷重付与部と、
前記治具本体に一体に設けられて、前記治具本体に対して前記被検査物の検査面に沿う基準方向に相対移動する移動体を有する移動機構と、
前記移動体に設けられた超音波探触子と、
前記超音波探触子に前記検査面に向かっての付勢力を付与する付勢部材と、
前記移動体が前記基準方向における第一位置にある際に前記超音波探触子を前記付勢力に従って前記検査面に当接させるとともに、前記移動体が前記基準方向における第二位置にある際に前記超音波探触子を前記付勢力に抗して離間させる案内機構と、
を備える疲労試験治具。
【請求項2】
前記移動機構は、前記基準方向に延びるネジ軸と、
該ネジ軸を中心軸回りに回転駆動する駆動装置と、
を有し、
前記移動体は、前記ネジ軸に螺合する雌ネジが形成されたコマを有する請求項1に記載の疲労試験治具。
【請求項3】
前記案内機構は、
前記基準方向に延びるとともに、前記第一位置から前記第二位置に向かうに従って前記検査面から離間するように延びる案内面が形成された案内部材と、
前記移動体に設けられて、前記案内部材の前記案内面に沿って摺動するピン部材と、
を有する請求項1又は2に記載の疲労試験治具。
【請求項4】
前記移動体に設けられて、該移動体が前記第二位置にある際に、前記検査面に向かって液剤を噴霧可能な噴霧装置をさらに有する請求項1に記載の疲労試験治具。
【請求項5】
請求項1に記載の疲労試験治具と、
前記疲労試験治具、及び前記被検査物が収容される検査空間を有する環境槽と、
該環境槽の外部から前記移動機構を操作可能な遠隔操作機構と、
を備える疲労試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疲労試験治具、及び疲労試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料および複合材の疲労強度を計測するために、引張荷重や圧縮荷重を被検査物に与える試験が広く行われている。この種の試験に用いられる装置の具体例として下記特許文献1に記載されたものが挙げられる。この装置では、被検査物の側面に沿って移動可能なプローブが設けられている。被検査物に荷重を与えた後で、プローブを検査位置まで移動させて超音波探傷検査が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された装置では、プローブと被検査物が常態的に接触している。このため、検査装置を取り付けたままの状態で強度試験機に組み込むことができない。つまり、例えば反復して荷重を与える際に、都度検査装置を強度試験機から取り外す必要がある。その結果、試験を行うたびにプローブが接触する位置がわずかにずれてしまい、正確な検査・試験を行うことができない虞がある。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、さらに正確な疲労試験を行うことが可能な疲労試験治具、及び疲労試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る疲労試験治具は、被検査物を支持する治具本体と、前記被検査物に際して荷重を付与する荷重付与部と、前記治具本体に一体に設けられて、前記治具本体に対して前記被検査物の検査面に沿う基準方向に相対移動する移動体を有する移動機構と、前記移動体に設けられた超音波探触子と、前記超音波探触子を前記検査面に向かっての付勢力を付与する付勢部材と、前記移動体が前記基準方向における第一位置にある際に前記超音波探触子を前記付勢力に従って前記検査面に当接させるとともに、前記移動体が前記基準方向における第二位置にある際に前記超音波探触子を前記付勢力に抗して離間させる案内機構と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、さらに正確な疲労試験を行うことが可能な疲労試験治具、及び疲労試験システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る疲労試験治具の構成を示す側面図であって、移動体が第一位置にある状態を示す図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る疲労試験治具の構成を示す側面図であって、移動体が第二位置にある状態を示す図である。
【
図3】本開示の第二実施形態に係る疲労試験システムの構成を示す模式図である。
【
図4】本開示の各実施形態に共通する疲労試験治具の第一変形例を示す断面図である。
【
図5】本開示の各実施形態に共通する疲労試験治具の第二変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
以下、本開示の第一実施形態に係る疲労試験治具1について、
図1と
図2を参照して説明する。この疲労試験治具1は、被検査物2に対して荷重(引張荷重、圧縮荷重、又はせん断荷重)を与え、その前後で被検査物2に生じた傷やクラックを超音波探傷によって検査するために用いられる。
【0010】
(被検査物の構成)
図1に示すように、被検査物2は、検査面22を有する板状の本体部20と、この本体部20の中央部から直交方向に延びる立設部21と、を有する。つまり、被検査物2はT字型の断面形状を有している。本体部20における立設部21とは反対側を向く面は検査面22とされている。検査面22の長手方向は、基準方向Aとされている。立設部21は基準方向Aにおける中央部に設けられている。
【0011】
(疲労試験治具の構成)
疲労試験治具1は、治具本体3と、荷重付与部4と、移動機構5と、超音波探触子6と、付勢部材7と、案内機構8と、噴霧装置9と、を備えている。
【0012】
(治具本体の構成)
治具本体3は、被検査物2を支持するための部材である。治具本体3は、被検査物2の本体部20を、基準方向Aの両側で把持する一対の把持部30と、この把持部30同士を基準方向Aに接続するステージ部31と、を有する。把持部30は、基準方向Aに交差する方向に延びている。望ましくは、把持部30は基準方向Aに直交する方向に延びている。以下の説明では、この基準方向Aに直交する方向(つまり、上記の立設部21が延びる方向)を直交方向Bと呼ぶ。被検査物2は、把持部30の直交方向Bにおける一方側の端部で把持されている。
【0013】
ステージ部31は、一対の把持部30の直交方向Bにおける一方側の端部同士を基準方向Aに接続している。したがって、一対の把持部30とステージ部31との間には空間が形成されている。ステージ部31の基準方向Aにおける中央部にはネジ孔32が形成されている。このネジ孔32には、作業台に固定された固定ネジ33が螺合する。つまり、治具本体3が作業台に対して相対移動しないように固定されている。
【0014】
(荷重付与部の構成)
荷重付与部4は、被検査物2の立設部21を挟持するチャック40と、このチャック40に直交方向Bの荷重を発生させる荷重発生部(不図示)と、を有する。荷重発生部は、チャック40によって立設部21が挟持された状態で、当該立設部21、及び本体部20に対して直交方向Bへの圧縮荷重や引張荷重を与えることが可能である。つまり、荷重付与部4は荷重試験機を構成している。
【0015】
(移動機構の構成)
移動機構5は、ネジ軸50と、移動体51と、駆動装置52と、を有する。ネジ軸50は、基準方向Aに延びる中心軸Xを中心とする棒状をなしている。ネジ軸50の外周面には雄ネジが形成されている。ネジ軸50は好ましくは台形ネジである。ネジ軸50は、上述した一対の把持部30同士の間にかけて延びている。ネジ軸50の一端側は、把持部30を貫通して当該把持部30の外側まで延びている。当該一端部には、ネジ軸50を回転させるための駆動装置52としてのハンドル53が取り付けられている。ネジ軸50の他端側は、他方の把持部30によって、中心軸X回りに回転可能な状態で支持されている。
【0016】
移動体51は、コマ54と、移動体本体55と、を有する。コマ54は、ネジ軸50の雄ネジに螺合する雌ネジを有する。つまり、ネジ軸50を回転させると、コマ54がネジ軸50に沿って基準方向Aに移動することが可能である。移動体本体55は、このコマ54に一体に設けられている。つまり、移動体本体55は、コマ54とともに基準方向Aに移動することが可能である。移動体本体55は、コマ54の直交方向Bの一方側に固定されている。
【0017】
移動体本体55には、付勢部材7と、超音波探触子6とが取り付けられている。付勢部材7は、一例として圧縮コイルバネである。付勢部材7の一端は移動体本体55に固定され、他端は超音波探触子6を支持している。付勢部材7によって超音波探触子6が直交方向Bの一方側、つまり被検査物2の検査面22に向かって付勢されている。なお、
図1の例では、超音波探触子6と検査面22との間にシュー56が介在している例を示しているが、当該シュー56を省略することも可能である。
【0018】
(超音波探触子の構成)
詳しくは図示しないが、超音波探触子6は、励磁コイルと検出コイルを有する。励磁コイルは、検査面22の近傍で渦電流を発生させる。検査面22に傷やクラック等の不良個所が存在すると渦電流に乱れが生じる。検出コイルは、この渦電流の乱れを検出して外部の計測装置等に電気信号として送出する。これにより、傷やクラック等の性状を観察することが可能とされている。
【0019】
(案内機構の構成)
案内機構8は、上記の移動体51が基準方向Aに移動する中途で、超音波探触子6が検査面22に当接している状態(以下では、この状態の移動体51の位置を「第一位置P」と呼ぶ。)と、超音波探触子6が検査面22から離間している状態(以下では、この状態の移動体51の位置を「第二位置Q」と呼ぶ。)との間で遷移させるための機構である。
【0020】
案内機構8は、案内部材80と、ピン部材81と、を有する。案内部材80は、治具本体3の一対の把持部30同士の間にかけて基準方向Aに延びている。案内部材80におけるステージ部31側を向く面は案内面82とされている。案内面82は、第一平坦部83と、一対の傾斜部84と、一対の第二平坦部85と、を有する。
【0021】
案内面82は、基準方向Aの中央部を対称軸として線対称であることから、以下では代表的に案内面82の基準方向Aの一方側の構成のみについて説明する。第二平坦部85は、把持部30から基準方向Aに延びている。直交方向Bにおける第二平坦部85の位置が上記の第二位置Qに相当する。第二平坦部85の把持部30とは反対側の端部は傾斜部84に接続されている。傾斜部84は、把持部30側から離間するに従って検査面22に近接する方向に延びている。傾斜部84の第二平坦部85とは反対側の端部は第一平坦部83に接続されている。つまり、第一平坦部83は、直交方向Bにおいて第二平坦部85よりも検査面22側に近接している。第一平坦部83は基準方向Aに延びている。直交方向Bにおけるこの第一平坦部83の位置が上記の第一位置Pに相当する。
【0022】
ピン部材81は、移動体51に一体に固定されている。ピン部材81は、案内部材80の案内面82に摺動可能な位置に取り付けられている。付勢部材7によって超音波探触子6が検査面22側に付勢された状態で、ピン部材81が案内面82上を基準方向Aに摺動することで、超音波探触子6の直交方向Bにおける位置が上記の第一位置Pと第二位置Qとの間で変化する。具体的には、ピン部材81が案内面82の第一平坦部83にある時には超音波探触子6は第一位置Pにある。この時、超音波探触子6は付勢部材7に付勢されることで検査面22に当接している。一方で、ピン部材81が案内面82の第二平坦部85にある時には超音波探触子6は第二位置Qにある(
図2参照)。この時、超音波探触子6は付勢部材7の付勢力に抗して検査面22から離間した状態となっている。
【0023】
(噴霧装置の構成)
噴霧装置9は、検査面22に向かって水や油脂等の液剤を噴霧するためのスプレー装置である。噴霧装置9は、移動体51に一体に取り付けられている。主として噴霧装置9は、移動体51が第二位置Qにある際に検査面22に向かって液剤を噴霧する。液剤が検査面22に噴霧されることで、超音波探触子6と検査面22との密着性が増し、検査精度を高めることが可能である。
【0024】
(作用効果)
次に、上記の疲労試験治具1の使用方法の一例について説明する。疲労試験を行うに当たってはまず、移動体51を第二位置Qに退避させた状態で、荷重付与部4によって被検査物2に対して荷重を付与する。なお、荷重の付与に先立って検査面22への液剤の噴霧を行ってもよい。その後、所定の期間、又は回数の荷重付与を行った後、ネジ軸50を回転させて移動体51を第一位置Pに移動させる。これにより、超音波探触子6が検査面22に当接した状態となる。なお、この時、超音波探触子6と検査面22との間に上述のシュー56が介在してもよい。この状態で、超音波探傷検査を行う。検査面22に、荷重に起因する傷やクラックが生じている場合には、当該超音波探傷検査によってその性状が観察される。このような疲労試験を、例えば一週間から数か月のスパンで繰り返して行う。その中途で、移動体51を第二位置Qに退避させつつ、噴霧装置9による液剤の噴霧が行われる。また、荷重を反復して複数回にわたってかけるような疲労試験を行うことも可能である。この場合も、荷重を付与する際には移動体51を第二位置Qに退避させ、荷重付与が完了した後に移動体51を第一位置Pに移動させて超音波探傷検査を行う。
【0025】
ここで、従来の装置では、超音波探触子6と被検査物2が常態的に接触していることが一般的であった。このため、治具本体3を取り付けたままの状態で被検査物2を強度試験機に組み込むことができない。つまり、例えば反復して荷重を与える際に、都度被検査物2を強度試験機から取り外す必要がある。その結果、試験を行うたびに超音波探触子6が接触する位置がわずかにずれてしまい、正確な検査・試験を行うことができないという課題があった。この課題を解決するために、本実施形態では上述の各構成を採用している。
【0026】
上記構成によれば、荷重付与部4によって被検査物2に荷重を与える際には超音波探触子6を第二位置Qに退避させて、当該超音波探触子6を検査面22から離間させる。他方で、荷重を与え終わった際には当該超音波探触子6を第一位置Pに移動させて検査面22に当接させることで疲労検査を行うことができる。つまり、荷重が付与される前後で、被検査物2を治具本体3に対して脱着する必要がない。これにより、例えば反復して荷重をかける疲労試験を行う際に、超音波探触子6と検査面22との相対位置やその他の環境条件が変化してしまう可能性を低減することができる。その結果、より高い精度で疲労試験を長期にわたって進めることが可能となる。したがって、疲労試験の結果の信頼度をさらに向上させることができ、最終製品の強度設計をより精緻なものとすることができる。
【0027】
さらに、上記構成によれば、駆動装置52としてのハンドル53によってネジ軸50を回転させることのみによって、移動体51のコマ54を当該ネジ軸50に沿って基準方向Aに移動させることができる。つまり、ネジ軸50と駆動装置52によって直動機構が構成される。このように、簡素な構成のもとで移動体51、及び超音波探触子6の位置を自在に変化させることができる。また、ネジ軸50のピッチとハンドル53の回転数に基づいて移動体51の基準方向Aにおける位置を精緻にコントロールすることが可能となる。したがって、検査面22における不良個所の特定に際してさらに高い精度と正確性を期することが可能となる。
【0028】
また、上記構成によれば、移動体51が基準方向Aに第一位置Pと第二位置Qとの間で移動する際に、ピン部材81が案内面82に摺動されながら案内される。つまり、案内部材80とピン部材81とはカムとフォロワのような機能を発揮する。これにより、第一位置Pでは超音波探触子6が検査面22に当接する一方で、第二位置Qでは当該超音波探触子6が検査面22から離間する。このように、移動体51を基準方向Aに進退動させることのみによって超音波探触子6と検査面22との離間・当接をコントロールすることが可能となる。少ない部品点数のもとでこのような機能を実現できることから装置の信頼性を向上させることができるとともに、製造コストやメンテナンスコストを低く抑えることも可能となる。
【0029】
加えて、上記構成によれば、移動体51が第二位置Qにある際、つまり被検査物2に荷重を与えている際に、超音波探傷に先立って、噴霧装置9によって検査面22に液剤を噴霧することができる。検査面22と超音波探触子6との間に液剤が介在することによって両者の密着性が高まり、疲労検査の精度が向上する。また、噴霧装置9が移動体51に一体に取り付けられていることから、液剤噴霧のために被検査物2を治具本体3から取り外す必要がない。このため、疲労検査を行う第一位置Pにおける被検査物2と超音波探触子6の相対位置が液剤噴霧の前後で変化しない。その結果、疲労試験の精度をさらに高めることができる。
【0030】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第一実施形態では、被検査物2がT字型をなしている例について説明した。しかしながら、被検査物2の形状はこれに限定されず、単なる板状又は棒状の部材や、その他L字型の断面を有する部材等を被検査物2として適用することが可能である。その場合、荷重付与部4の形状と構成を種々に変更することが考えられる。
【0031】
<第二実施形態>
(疲労試験システムの構成)
次に、本開示の第二実施形態に係る疲労試験システム200について、
図3を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。疲労試験システム200は、第一実施形態で説明した疲労試験治具1に加えて、環境槽100と、遠隔操作機構110と、を備える。
【0032】
(環境槽の構成)
環境槽100は、疲労試験治具1、及び被検査物2を収容する収容空間101を内部に有する容器である。この環境槽100では、収容空間101内の温度や湿度、又は圧力等の環境条件を種々変更することが可能とされている。具体的には環境槽100としてクライオスタットが用いられる。
【0033】
(遠隔操作機構の構成)
遠隔操作機構110は、収容空間101内の疲労試験治具1の移動機構5、及び荷重付与部4を外部から操作することが可能な機構である。具体的には、遠隔操作機構110は、移動機構5を駆動するサーボモータ111と、このサーボモータ111、荷重付与部4、及び超音波探触子6と電気的に接続されたコントローラ112と、を有する。コントローラ112を通じて作業者が適宜指令を各装置に送信する。この指令によって、荷重の付与、移動体51の移動、及び超音波探触子6の動作が遠隔から行われる。
【0034】
(作用効果)
上記構成によれば、疲労試験治具1、荷重付与部4、及び被検査物2が環境槽100に収容された状態で、遠隔操作によって移動機構5を操作することができる。これにより、環境槽100の内部の温度や湿度、圧力等の環境条件を維持したまま、被検査物2を第一位置Pと第二位置Qとの間で移動させることができる。つまり、反復して被検査物2に荷重をかけたり、荷重をかけていない際に液剤を検査面22に噴霧したりすることができる。このように、環境槽100を開放することなく各種の作業を遠隔から行えるため、疲労試験ごとの環境条件の変化が小さく抑えられる。したがって、長期にわたる疲労試験の精度をより一層向上させることができる。
【0035】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第二実施形態では、駆動装置52としてサーボモータ111を用いた例について説明した。しかしながら、駆動装置52としてステッピングモータやその他の電動モータを用いることも可能である。また、第一実施形態で説明したものと同様に、種々の形状の部材を被検査物2として適用することが可能である。
【0036】
<各実施形態に共通する変形例>
続いて、各実施形態に共通する変形例について、
図4と
図5を参照して説明する。疲労試験治具1の第一変形例として
図4に示すような構成を採ることが可能である。同図の例では、被検査物2がT字型をなしていることは第一実施形態と同一であるが、立設部21ではなく、本体部20の両端に対して荷重を付与する点で第一実施形態と相違している。疲労試験治具1のその他の構成は第一実施形態と同様である。また、第二変形例として
図5に示すように、超音波探触子6の先端形状を円弧状断面とすることによって、L字型の被検査物2のアール部(隅部)に対して超音波探傷検査を行うことが可能となる。この場合も、上記各実施形態と同様の移動機構5、及び案内機構8を用いることで、当該超音波探触子6は第一位置Pと第二位置Qとの間で移動可能に構成することができる。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載の疲労試験治具1、及び疲労試験システム200は、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係る疲労試験治具1は、被検査物2を支持する治具本体3と、前記被検査物2に際して荷重を付与する荷重付与部4と、前記治具本体3に一体に設けられて、前記治具本体3に対して前記被検査物2の検査面22に沿う基準方向Aに相対移動する移動体51を有する移動機構5と、前記移動体51に設けられた超音波探触子6と、前記超音波探触子6に前記検査面22に向かっての付勢力を付与する付勢部材7と、前記移動体51が前記基準方向Aにおける第一位置Pにある際に前記超音波探触子6を前記付勢力に従って前記検査面22に当接させるとともに、前記移動体51が前記基準方向Aにおける第二位置Qにある際に前記超音波探触子6を前記付勢力に抗して離間させる案内機構8と、を備える。
【0039】
上記構成によれば、荷重付与部4によって被検査物2に荷重を与える際には超音波探触子6を第二位置Qに退避させ、荷重を与え終わった際には当該超音波探触子6を第一位置Pに移動させて検査面22に当接させることで疲労検査を行うことができる。つまり、荷重が付与される前後で、被検査物2を治具本体3に対して脱着する必要がない。これにより、例えば反復して荷重をかける疲労試験を行う際に、環境条件が変化してしまう可能性を低減することができる。その結果、より高い精度で疲労試験を進めることが可能となる。
【0040】
(2)第2の態様に係る疲労試験治具1は、(1)の疲労試験治具1であって、前記移動機構5は、前記基準方向Aに延びるネジ軸50と、該ネジ軸50を中心軸X回りに回転駆動する駆動装置52と、を有し、前記移動体51は、前記ネジ軸50に螺合する雌ネジが形成されたコマ54を有する。
【0041】
上記構成によれば、駆動装置52によってネジ軸50を回転させることのみによって、移動体51のコマ54を当該ネジ軸50に沿って基準方向Aに移動させることができる。このように、簡素な構成のもとで移動体51、及び超音波探触子6の位置を自在に変化させることができる。
【0042】
(3)第3の態様に係る疲労試験治具1は、(1)又は(2)の疲労試験治具1であって、前記案内機構8は、前記基準方向Aに延びるとともに、前記第一位置Pから前記第二位置Qに向かうに従って前記検査面22から離間するように延びる案内面82が形成された案内部材80と、前記移動体51に設けられて、前記案内部材80の前記案内面82に沿って摺動するピン部材81と、を有する。
【0043】
上記構成によれば、移動体51が基準方向Aに第一位置Pと第二位置Qとの間で移動する際に、ピン部材81が案内面82に摺動されながら案内される。これにより、第一位置Pでは超音波探触子6が検査面22に当接する一方で、第二位置Qでは当該超音波探触子6が検査面22から離間する。このように、移動体51を基準方向Aに進退動させることのみによって超音波探触子6と検査面22との離間・当接をコントロールすることが可能となる。
【0044】
(4)第4の態様に係る疲労試験治具1は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る疲労試験治具1であって、前記移動体51に設けられて、該移動体51が前記第二位置Qにある際に、前記検査面22に向かって液剤を噴霧可能な噴霧装置9をさらに有する。
【0045】
上記構成によれば、移動体51が第二位置Qにある際、つまり被検査物2に荷重を与えている際に、超音波探傷に先立って検査面22に液剤を噴霧することができる。検査面22と超音波探触子6との間に液剤が介在することによって疲労検査の精度が向上する。また、液剤噴霧のために被検査物2を治具本体3から取り外す必要がない。このため、疲労検査を行う第一位置Pにおける被検査物2と超音波探触子6の相対位置が液剤噴霧の前後で変化しない。その結果、疲労試験の精度をさらに高めることができる。
【0046】
(5)第5の態様に係る疲労試験システム200は、(1)から(4)のいずれか一態様に係る疲労試験治具1と、前記疲労試験治具1、前記荷重付与部4、及び前記被検査物2が収容される検査空間を有する環境槽100と、該環境槽100の外部から前記移動機構5を操作可能な遠隔操作機構110と、を備える。
【0047】
上記構成によれば、疲労試験治具1、荷重付与部4、及び被検査物2が環境槽100に収容された状態で、遠隔操作によって移動機構5を操作することができる。これにより、環境槽100の内部の条件を維持したまま、被検査物2を第一位置Pと第二位置Qとの間で移動させることができる。つまり、反復して被検査物2に荷重をかけたり、荷重をかけていない際に液剤を検査面22に噴霧したりすることができる。これにより、試験ごとの環境条件の変化が小さく抑えられるため、疲労試験の精度をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…疲労試験治具
2…被検査物
3…治具本体
4…荷重付与部
5…移動機構
6…超音波探触子
7…付勢部材
8…案内機構
9…噴霧装置
20…本体部
21…立設部
22…検査面
30…把持部
31…ステージ部
32…ネジ孔
33…固定ネジ
40…チャック
50…ネジ軸
51…移動体
52…駆動装置
53…ハンドル
54…コマ
55…移動体本体
56…シュー
80…案内部材
81…ピン部材
82…案内面
83…第一平坦部
84…傾斜部
85…第二平坦部
100…環境槽
101…収容空間
110…遠隔操作機構
111…サーボモータ
112…コントローラ
200…疲労試験システム
A…基準方向
B…直交方向
P…第一位置
Q…第二位置
X…中心軸