IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナカバヤシ株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社森市商店の特許一覧

特開2024-71841車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両
<>
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図1
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図2
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図3
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図4
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図5
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図6
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図7
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図8
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図9
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図10
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図11
  • 特開-車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071841
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】車両搬送用クローラ並びに該クローラを備える車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/20 20060101AFI20240520BHJP
   B62M 27/02 20060101ALI20240520BHJP
   B62B 11/00 20060101ALI20240520BHJP
   A63C 17/10 20060101ALI20240520BHJP
   A63C 17/12 20060101ALI20240520BHJP
   A63C 17/28 20060101ALI20240520BHJP
   A61G 3/08 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B62D55/20 Z
B62M27/02 C
B62B11/00 A
A63C17/10
A63C17/12
A63C17/28
A61G3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182293
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】390006921
【氏名又は名称】ナカバヤシ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522446672
【氏名又は名称】株式会社森市商店
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】森 清高
(72)【発明者】
【氏名】石丸 紀人
(57)【要約】
【課題】
小型の車両にも使用できるような簡単な構造で、雪上や柔軟な地盤においても高い推進力の得られるクローラおよび該クローラを用いた車両を提供すること。
【解決手段】動力により回転する無端状のチェーン20と、チェーンに固定され、チェーンの回転と共に回転するスクレーパ体30とを備え、スクレーパ体は、チェーンに固定される固定部40と、固定部から無端状のチェーンの外側に張り出し、車両が前進するためにチェーンが回転する方向に傾斜している板状のスクレーパ部50とを有し、スクレーパ部は、車両が路面上を走行するときには固定部側に変形し、車両が軟弱地盤上を走行するときには傾斜が復元する、車両を搬送するためのクローラ10、および、該クローラを有する車両。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を搬送するためのクローラであって:
動力により回転する無端状のチェーンと;
前記チェーンに固定され、チェーンの回転と共に回転するスクレーパ体とを備え;
前記スクレーパ体は、前記チェーンに固定される固定部と、前記固定部から前記無端状のチェーンの外側に張り出し、前記車両が前進するために前記チェーンが回転する方向に傾斜している板状のスクレーパ部とを有し;
前記スクレーパ部は、前記車両が路面上を走行するときには前記固定部側に変形し、前記車両が軟弱地盤上を走行するときには前記傾斜が復元する;
クローラ。
【請求項2】
前記スクレーパ体は、固定部としての支持フレームと、スクレーパ部としての板状のスクレーパと、前記スクレーパを前記支持フレームとの間に挟み、前記スクレーパを固定する固定プレートとを備える;
請求項1に記載のクローラ。
【請求項3】
前記スクレーパは、路面上で車両の重量が掛かるときに変形する弾性体で形成される;
請求項2に記載のクローラ。
【請求項4】
前記支持フレームには前記チェーンの回転方向に直交する方向の溝が形成され;
前記固定プレートは、該溝に配置されたナットと前記ナットに締め付けられるボルトにより前記スクレーパを固定する;
請求項3に記載のクローラ。
【請求項5】
前記支持フレームは、前記チェーンに固定される固定部分と、前記固定部分に回動可能に接続され、前記固定プレートとの間に前記スクレーパを挟んで固定する可動部分とを有し;
前記可動部分と前記固定部分との間に、前記スクレーパを前記スクレーパ部の前記傾斜している位置に保持すると共に、前記車両が路面上を走行するときには前記スクレーパを前記固定部分側にするように構成された、ばねをさらに有する;
請求項2に記載のクローラ。
【請求項6】
運転者が座るサドルを有する本体フレームと;
前記本体フレームに回動可能に支持されるハンドル部と;
前記ハンドル部の下端に固定されるスキー板と;
前記本体フレームに結合される、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のクローラと;
前記クローラを駆動する駆動部とを有する;
雪上バイク。
【請求項7】
運転者が乗るボード本体と;
前記ボード本体に回動可能に支持されるハンドル部と;
前記ハンドル部の下端に固定されるスキー板と;
前記ボード本体に結合される、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のクローラと;
前記クローラを駆動する駆動部とを有する;
雪上キックボード。
【請求項8】
貨物を乗せる台板と;
前記台板に固定されるハンドル付き本体フレームと;
前記台板の下方に結合される、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のクローラと;
前記クローラを駆動する駆動部とを有する;
雪上台車。
【請求項9】
車椅子を乗せる本体フレームと;
前記本体フレーム上で前記車椅子を固定するクランプと;
前記本体フレームの側方に結合される、一対の請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のクローラと;
前記クローラを駆動する駆動部とを有する;
車椅子運搬用クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両搬送用クローラおよび該クローラを用いた車両に関する。特に、雪上あるいは車両が沈下するような軟弱地盤等で車両を搬送するのに適したクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械等の重機では、足回りとしてクローラが利用されている。クローラは小さい接地圧となる特徴を有し、雪上や柔らかい地盤でも移動可能で、急勾配にも対応可能である。これらのクローラは、ゴムベルト状の本体に突起を一定間隔で設けたクローラで、突起は断面形状が対称な台形や三角形のような形状を有するのが一般的である。
【0003】
一方、近年、重機以外でもクローラを利用した、不整地などの走行に適した軽量の車両等が提案されている。例えば、特許文献1に開示された発明では、立ち乗り電動スクーターのような車両にクローラを利用し、クローラの設置面積を調整することにより走破性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-59416号公報(例えば、段落0048-0049)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された発明では、クローラ自体は、無端ベルトのすべり止め用の突起部が形成されているものである。突起部だけでは水分を多量に含むぬかった土壌、柔らかい雪上などの設置対象物が柔らかい地盤上、または、アイスバーンなどの凍結した路面では、充分なグリップ力が得られず適切な推進力を得ることが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、小型の車両にも使用できるような簡単な構造で、雪上や柔軟な地盤においても高い推進力の得られるクローラおよび該クローラを用いた車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る車両を搬送するためのクローラ10は、例えば図1図2および図4に示すように、動力により回転する無端状のチェーン20と、チェーン20に固定され、チェーン20の回転と共に回転するスクレーパ体30とを備え、スクレーパ体30は、チェーン20に固定される固定部40と、固定部40から無端状のチェーン20の外側に張り出し、車両が前進するためにチェーン20が回転する方向に傾斜している板状のスクレーパ部50とを有し、スクレーパ部50は、車両が路面上を走行するときには固定部40側に変形し、車両が軟弱地盤上を走行するときには傾斜が復元する。
【0008】
このように構成すると、スクレーパ部は、車両が前進するためにチェーンが回転する方向に傾斜しているので、軟弱地盤の場合にはスクレーパが軟弱地盤を掻くことで、スリップすることなく推進力を確保することができる。また、路面上を走行する場合には、スクレーパ部が固定部側に変形するので、路面でスクレーパ部を損傷せず、また、路面との接触面積が増えて適切な摩擦力により推進力を確保することができる。
【0009】
また、本発明の第2の態様に係るクローラ10では、例えば図2に示すように、スクレーパ体30は、固定部としての支持フレーム40と、スクレーパ部としての板状のスクレーパ50と、スクレーパ50を支持フレーム40との間に挟み、スクレーパ50を固定する固定プレート42とを備える。このように構成すると、簡単な構造で、雪上や柔軟な地盤においても高い推進力が得られ、路面上でもスクレーパを損傷しないクローラとなる。
【0010】
また、本発明の第3の態様に係るクローラ10では、例えば図2に示すように、スクレーパ50は、路面上で車両の重量が掛かるときに変形する弾性体で形成される。このように構成すると、路面上を走行すると、スクレーパに車両の重量が掛かり、弾性体で形成されたスクレーパが変形し、自動的に確実に変形するので、使い勝手の良いクローラとなる。
【0011】
また、本発明の第4の態様に係るクローラ10では、例えば図5に示すように、支持フレーム40にはチェーン20の回転方向に直交する方向の溝44が形成され、固定プレート42は、溝44に配置されたナット48とナット48に締め付けられるボルト46によりスクレーパ50を固定する。このように構成すると支持フレームと固定プレートをボルト・ナットで締め付け、スクレーパを固定することができるので、スクレーパの交換が容易で、メンテナンス性の優れたクローラとなる。
【0012】
また、本発明の第5の態様に係るクローラ10では、例えば図8に示すように、支持フレーム140は、チェーン20に固定される固定部分142と、固定部分142に回動可能に接続され、固定プレート42との間にスクレーパ150を挟んで固定する可動部分144とを有し、可動部分144と固定部分142との間に、スクレーパ150をスクレーパ部の傾斜している位置に保持すると共に、車両が路面上を走行するときにはスクレーパ150を固定部分142側にするように構成された、ばね146をさらに有する。このように構成すると、路面上を走行すると、スクレーパに車両の重量が掛かり、ばねによりスクレーパが変位するので、変位のしやすさを調整しやすく、使い勝手の良いクローラとなる。
【0013】
また、本発明の第6の態様に係る雪上バイク200では、例えば図9に示すように、運転者が座るサドル220を有する本体フレーム210と、本体フレーム210に回動可能に支持されるハンドル部240と、ハンドル部240の下端に固定されるスキー板250と、本体フレーム210に結合される、本発明の第1ないし第5の態様のいずれかに記載のクローラ10と、クローラ10を駆動する駆動部260とを有する。このように構成すると、雪上や柔軟な地盤においても堅い路面においても高い推進力で走行可能な雪上バイクとなる。
【0014】
また、本発明の第7の態様に係る雪上キックボード300では、例えば図10に示すように、運転者が乗るボード本体310と、ボード本体310に回動可能に支持されるハンドル部340と、ハンドル部340の下端に固定されるスキー板350と、ボード本体310に結合される、本発明の第1ないし第5の態様のいずれかに記載のクローラ10と、クローラ10を駆動する駆動部360とを有する。このように構成すると、雪上や柔軟な地盤においても堅い路面においても高い推進力で走行可能な雪上キックボードとなる。
【0015】
また、本発明の第8の態様に係る雪上台車400では、例えば図11に示すように、貨物を乗せる台板420と、台板420に固定されるハンドル440付き本体フレーム410と、台板420の下方に結合される本発明の第1ないし第5の態様のいずれかに記載のクローラ10と、クローラ10を駆動する駆動部460とを有する。このように構成すると、雪上や柔軟な地盤においても堅い路面においても高い推進力で走行可能な雪上台車となる。
【0016】
また、本発明の第9の態様に係る車椅子運搬用クローラ500では、例えば図12に示すように、車椅子580を乗せる本体フレーム510と、本体フレーム510上で車椅子を固定するクランプ520と、本体フレーム510の側方に結合される一対の本発明の第1ないし第5の態様のいずれかに記載のクローラ10と、クローラ10を駆動する駆動部560とを有する。このように構成すると、雪上や柔軟な地盤においても堅い路面においても高い推進力で走行可能な車椅子運搬用クローラとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクローラによれば、動力により回転する無端状のチェーンと、チェーンに固定され、チェーンの回転と共に回転するスクレーパ体とを備え、スクレーパ体は、チェーンに固定される固定部と、固定部から無端状のチェーンの外側に張り出し、車両が前進するためにチェーンが回転する方向に傾斜している板状のスクレーパ部とを有し、スクレーパ部は、車両が路面上を走行するときには固定部側に変形し、車両が軟弱地盤上を走行するときには傾斜が復元するので、簡単な構造で、軟弱地盤の場合にはスクレーパ部が軟弱地盤を掻くことで、スリップすることなく推進力を確保することができ、また、堅い路面上を走行する場合には、スクレーパ部が固定部側に変形するので、路面でスクレーパ部を損傷せず、また、路面との接触面積が増えて適切な摩擦力により推進力を確保することができる。
【0018】
また、本発明の雪上バイク、雪上キックボード、雪上台車、車椅子運搬用クローラ等の車両によれば、上記のクローラを備えるので、柔らかい雪上あるいは軟弱地盤でも堅い雪上あるいは路面上でも使用可能な車両となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によるクローラの一例を示す斜視図で、堅い路面上を走行するところを示す。
図2図1に示すクローラの側面図で、堅い路面上を走行するところを示す。
図3図1と反対側から見たクローラの側面図で、クローラを駆動するモータおよび減速歯車をも示す。
図4図1に示すクローラの側面図で、軟弱地盤上を走行するところを示す。
図5図1に示すクローラの部分拡大図で、チェーン、固定部およびスクレーパ部の詳細例を示す。
図6図1に示すクローラの部分拡大図で、チェーンガイドを上方に移動してチェーンを示し、また、ガイドレールを示す。
図7図6に示すクローラの部分拡大図のチェーン、チェーンガイド、ガイドレールおよびスクレーパ体の断面図である。
図8図1に示すクローラのスクレーパ体とは異なる構造の支持フレームを示す斜視図である。
図9】本発明による雪上バイクの一例を示す斜視図である。
図10】本発明による雪上キックボードの一例を示す斜視図である。
図11】本発明による雪上台車の一例を示す斜視図である。
図12】本発明による車椅子運搬用クローラの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。先ず図1図3を参照して、本発明のクローラ10の概要を説明する。
【0021】
クローラ10は、無端状のチェーン20を有する。チェーン20は、本体プレート12の周囲に配置される。図3に示すように、チェーン20は、2つのスプロケット70、72に掛け回される。なお、さらなるスプロケットに掛け回されてもよい。1つのスプロケット70は、駆動源としてのモータ80により回転し、チェーン20をスプロケット70、72周りに回転させる。モータ80とスプロケット70の間には減速機としての複数の減速歯車84が配置される。図3の例では、モータ80の出力軸82に減速歯車84が噛合し、減速歯車84の1つがスプロケット70を駆動する。スプロケット70、72、減速歯車84、モータ80などは、本体プレート12に支持される。また、これらは、公知の構造でよいので、詳細な説明は省略する。また、チェーン20を回転させる駆動源は他の公知の構成でもよい。
【0022】
チェーン20には、所定の間隔で複数のスクレーパ体30が固定される。スクレーパ体30は、チェーン20に固定される固定部としての支持フレーム40に板状のスクレーパ50が固定される。スクレーパ50は、図1に矢印Fで示すように、クローラ10を用いる車両が前進する際に、矢印Rで示すようにチェーン20が回転する方向に向けて傾斜する。チェーン20表面からの垂線に対する傾斜角度は、クローラ10の用途によって異なるが、チェーン20に対し10°~80°の範囲でよく、20°以上、30°以上が好ましく、70°以下が好ましい。
【0023】
例えば図2に示されるように、スクレーパ50は、車両の重量を受けると固定部40側、すなわちチェーン20側に変形する弾性体で形成される。スクレーパ50が固定部40に重なるほどに変形しても、固定部40側に傾斜が大きくなる程度に変形してもよい。図2に示すように、路面上を走行するクローラ10では、スクレーパ50自身の弾性で折れ曲ってもよい。なお、折れ曲るというときに、部分的に曲がりを生じても、全体が撓んでもよい。例えばシリコン系ゴム、ウレタン系ゴム、高密度ナイロンなどの弾性材料で形成すると、スクレーパ50を、車両の重量で変形するようにすることができる。
【0024】
スクレーパ50が変形することにより、スクレーパ50の先端に過大な荷重がかかることを防げる。また、スクレーパ50の先端ではなく、面が路面に接することになるので、路面との接触面積が増え、路面との間の摩擦力により推進力を確保することができる。すなわち、路面上でもスリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。なお、本書では、路面というときには、舗装道路またはアイスバーン、あるいは砂利ないし土の路面などの堅い路面を指し、軟弱な地盤あるいは雪上などのスクレーパ50が変形せずに地盤を掻いて推進力を得るような地盤以外の地盤であり、すなわち、車輪で普通に走行する地盤を言う。さらに、スクレーパ50が支持フレーム40を覆うように変形することで、支持フレーム40が路面に接して損傷することを防止できる。
【0025】
また、図4に軟弱地盤を走行するクローラ10を示すが、スクレーパ50はほとんど変形することなく、初期の形状、すなわち、スクレーパ50に荷重が作用しないときの形状に戻る。なお、本書では、軟弱地盤というときは、泥状あるいは雪などの、軟弱であり車輪では走行することがほとんど不可能な地盤を指す。そのときには、スクレーパ50は、軟弱地盤に食い込み、地盤を掻きだすように作用する。そのため、雪上などの軟弱地盤上でも、スリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。さらに、雪上を走行する際に、進行方向前方のスクレーパ50により雪を掻いて踏み固めながら進むことも可能である。
【0026】
ここで、図5を参照して、スクレーパ体30をチェーン20に固定する構造の一例につき説明する。スクレーパ体30では、支持フレーム40の長手方向がチェーン20に、チェーン20の回転方向に直交する方向に向けて固定される。支持フレーム40は、例えば押出成形されたアルミニウムの型材でよい。支持フレーム40をアルミニウムで成形することにより軽量で耐食性に優れたものと出来る。さらに、アルミニウムであれば、押出成形しやすいという利点もある。しかし、アルミニウムの押出材に限定されることはなく、公知の部材を用いることができる。支持フレーム40はチェーン20に面する面40cとスクレーパ50に面する面40sとが角度を有する。すなわち、スクレーパ50に面する面40sとチェーン20に固定される面40cとが傾斜しており、この傾斜に基づきスクレーパ50の傾斜角度を決めることができる。具体的には、面40cと面40sのなす角度の余角がスクレーパ50の傾斜角度となる。
【0027】
面40s側では、固定プレート42がボルト46とナット48により支持フレーム40にスクレーパ50を挟み込み、固定する。支持フレーム40には、固定プレート42との締め付け用の溝44が軸方向に形成され、例えば四角ナット48を嵌め、スクレーパ50および固定プレート42に形成されたボルト孔(不図示)を通してボルト46をナット48と締めることにより、スクレーパ50が所定の傾斜でチェーン20に固定される。このように構成すると、固定プレート42の支持フレーム40への取付け取り外しが容易になり、スクレーパ50の交換が容易となり、メンテナンス性が優れたクローラ10となる。特に、弾性材料で形成され、変形するスクレーパ50は傷みやすいので、取り換えが容易なことは大きなメリットとなる。面40c側でも、面40s側と同様の溝が形成され、ボルトとナットによりチェーン20と固定されるのが好ましい。このように構成されると、支持フレーム40をチェーン20から取り外しやすく、すなわちスクレーパ体30の交換が容易になる。
【0028】
スクレーパ50は、図1等で示されるように、先端が鋭角のブレード状の形状を有するのが好ましい。先端がブレード状に形成されることにより、路面との接地がスムースになされる。ブレード状の角度は、用途によって異なるが15―75°とするのが好ましい。なお、さらに最先端はフラットな形状として路面との接地の際の破損を防止するのが好ましい。スクレーパの材質としては、折れ曲る弾性を有することと共に、耐摩耗性および耐衝撃性に優れること、雪上で使用する場合にはマイナス20℃くらいまでの耐寒性を有すること、高温での熱変形性や薬品耐性に優れることなど、用途に応じて、適宜選定する必要がある。スクレーパの材質は、シリコンゴム系、ナイロン系、ウレタンゴム系などが好ましいが、これらに限られることはない。
【0029】
図6および図7に示すように、チェーン20は、スクレーパ体30が固定されるのと反対側は、チェーンガイド22で覆われ、チェーン20がチェーンガイド22内で安定した姿勢で直進するようにすると共に、異物を巻き込まないようにするのが好ましい。さらに、スクレーパ体30に荷重がかかった際に、チェーン20が撓まないように、ガイドレール24がクローラ10の底部のチェーン20に沿って配置される。ガイドレール24は、スクレーパ50を介してスクレーパ体30に作用する荷重を受けても変形しないような剛性を有する部材で形成される。また、スクレーパ体30がチェーン20と共に移動することの妨げとならないように、滑らかで、かつ、摩擦が小さくなる部材で形成される。ガイドレール24を備えることで、チェーン20が撓むことがなく、スクレーパ50の傾斜が保たれ、軟弱地盤でも堅い地盤でもクローラ10により、適切な推進力を得ることができる。
【0030】
続いて、図8を参照して、これまで説明したスクレーパ体30とは異なる構成のスクレーパ体130について説明する。スクレーパ体130は、支持フレーム140として、チェーン20に固定される固定部分142と、固定部分142とヒンジ結合される可動部分144と、可動部分144に固定される板状のスクレーパ150と、スクレーパ部としてのスクレーパ150を傾斜している位置に保持すると共に、車両が路面上を走行するときにはスクレーパ150を固定部分142側にするように構成された、ばね146を有する。固定部分142は、例えば押出成形されたアルミニウムの型材でよい。そして、スクレーパ体30の支持フレーム40と同様に、チェーン20と固定される側にチェーン20との締め付け用の溝148が形成され、例えば四角ナット(不図示)を嵌め、チェーン20を通してボルト(不図示)をナットと締めることにより、固定部分142がチェーン20に固定される。なお、チェーン20は、ボルト貫通孔が形成されたボルト締結用の小片(不図示)を有するのが好ましい。このように構成すると、スクレーパ体130のチェーン20への取付け取り外しが容易になり、メンテナンス性が優れたクローラ10となる。
【0031】
スクレーパ体130では、可動部分144は、固定部分142にヒンジ160で回動可能に接続される、すなわちヒンジ結合される。可動部分144にスクレーパ150が固定される。そして、固定部分142と可動部分144との間にばね146が設置されて、可動部分144を固定部分142に対して、すなわちチェーン20に対して所定の角度に保持する。図8では、ばね146として略C字形の板バネを用いているが、バネの種類および配置の仕方は特に制限されない。ただ、図8に示すような板バネを用いると、製作も容易で、場所も取らず、使いやすい。ばね146は図8では、固定部分142、可動部分144で設けられた突起143、145で所定位置からずれないようにされてもよい。
【0032】
固定プレート42がボルトにより可動部分144にスクレーパ150を挟み込み、固定するように構成すると、スクレーパ150の取付け取り外しが容易で、すなわちスクレーパの交換が容易で、好ましいが、スクレーパ150の固定の仕方はこれには限られない。スクレーパ体130では、スクレーパ150は、金属等の変形しにくい材料で形成されてもよい。車両が路面上の走行する場合など、スクレーパ体130に大きな荷重が作用する場合には、ばね146が変形して、可動部分144が固定部分142側に変形する。すなわち、スクレーパ150が固定部分142側に変形する。また、大きな荷重が取り除かれると、ばね146の復元力により、可動部分144およびスクレーパ150は、元の位置に復元する。
【0033】
続いて図9図12を参照して、クローラ10を車両に用いる例を説明する。図9は、車両として雪上バイク200とした場合の例を示す。雪上バイク200は、本体フレーム210の前方(図9の左側)にハンドル部240が回動可能に結合され、ハンドル部240の下端にスキー板250が固定され、後方にクローラ10が結合され、クローラ10が駆動することにより走行する。スキー板250は、ハンドル部240に対し、上下方向に移動し、ピッチ軸回りに回動してもよい。本体フレーム210は、運転者(不図示)が座るサドル220を有する。さらに、走行中に運転者の足を乗せる足置き230を有してもよい。ハンドル部240は、運転者が雪上バイク200の走行方向を決めるためのハンドル242と、ハンドル242の回転をスキー板250に伝え、かつ、本体フレーム210からの荷重をスキー板250で支えるハンドルポット246を有する。ハンドルポット246は、ハンドル242とスキー板250を連結すると共に、本体フレーム210のハンドルガイド212で回転可能に支持されて、軸方向変位を拘束される。本体フレーム210は、さらに後部フォーク214を有し、クローラ10の本体プレート12と結合される。図9では、雪上バイク200は1つのクローラ10を有するが、複数のクローラ10を有してもよい。
【0034】
雪上バイク200は、さらにクローラ10を駆動制御する駆動部260を有する。駆動部260には、図3を参照して説明したように、クローラ10のチェーン20を回転させるための、モータ80、モータ80の回転を減速してチェーン20に伝える減速歯車84、スプロケット70、72が含まれる。また、モータ80に電力を供給するためのバッテリ262、モータの回転を制御すると共にバッテリ262からの電力を制御する駆動回路264、雪上バイク200の走行を運転者がコントロールするためのコントローラ270も駆動部260に含まれる。コントローラ270には、走行スピード等を示すための表示装置(不図示)が含まれてもよい。図9では、バッテリ262は雪上バイク200の走行安定性のために本体フレーム210の中央部付近に配置され、駆動回路264はバッテリ262に隣接して配置され、コントローラ270はハンドル242に配置されているが、配置される場所は特に限定されない。また、駆動回路264とコントローラ270とは、有線あるいは無線で通信可能である。
【0035】
このように構成すると、雪上バイク200はサドル220に座った運転者が、ハンドル242およびハンドル242に取り付けられたコントローラ270により雪上バイク200を操縦できる。ハンドル242の回動により、スキー板250の向きが変わり、走行方向を、コントローラ270の操作により、走行状態、すなわち、停止、走行、走行スピード等を変えることが可能となる。そして、雪上バイク200では、雪上あるいは軟弱地盤上でもクローラ10のスクレーパ50、150が雪や軟弱地盤を掻くことによりスリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。そして、アイスバーン、舗装道路などの固い地盤である路面では、クローラ10のスクレーパ50、150は変形して、広い接地面で路面との間の摩擦力により推進力を確保して走行することができる。よって、雪上や柔軟な地盤においても、堅い地盤においても高い推進力の得られる雪上バイク200となる。
【0036】
続いて図10を参照して、車両として雪上キックボード300の例について説明する。図10に示す雪上キックボード300は、ボード本体310の前方(図10の左側)にハンドル部340が回動可能に結合され、ハンドル部340の下端にスキー板350が固定され、後方にクローラ10が結合され、クローラ10が駆動することにより走行する。スキー板350とハンドル部340は、雪上バイク200のスキー板250とハンドル部240と同様であるので、重複した説明は省略する。ボード本体310の両側に一対のクローラ10が結合されると、雪上キックボード300の安定性が増して好ましいが、雪上バイク200のように後方フォークを用いて1つのクローラ10と結合してもよい。雪上キックボード300は、さらにクローラ10を駆動制御する駆動部360を有する。駆動部360は、駆動部260と同様であるので、重複した説明は省略する。図10では、バッテリ362は雪上キックボード300の走行安定性のためにボード本体310の後部に配置され、駆動回路364はバッテリ362に隣接して配置され、コントローラ370はハンドル342に配置されているが、配置される場所は特に限定されない。
【0037】
このように構成すると、雪上キックボード300はボード本体310に立った運転者(不図示)が、ハンドル342およびハンドル342に取り付けられたコントローラ370により雪上キックボード300を操縦できる。ハンドル342の回動によりスキー板350の向きが変わり、さらにコントローラ370により左右のクローラ10の走行スピードを変えることにより走行方向を、また、コントローラ370の操作により、走行状態、すなわち、停止、走行、走行スピード等を変えることが可能となる。そして、雪上キックボード300では、雪上あるいは軟弱地盤上でもクローラ10のスクレーパ50、150が雪や軟弱地盤を掻くことによりスリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。そして、アイスバーン、舗装道路などの固い地盤では、クローラ10のスクレーパ50、150は変形して、広い接地面で路面との間の摩擦力により推進力を確保して走行することができる。よって、雪上や柔軟な地盤においても、堅い地盤においても高い推進力の得られる雪上キックボード300となる。
【0038】
続いて図11を参照して、車両として雪上台車400の例について説明する。図11に示す雪上台車400は、貨物を乗せる台板420と、台板420に固定され、後方(図11の右側)がハンドル440とされた本体フレーム410を有し、台板420の下方にクローラ10が結合され、クローラ10が駆動することにより走行する。台板420の下方に一対のクローラ10が結合されると、雪上台車400の安定性が増し、また、左右のクローラ10の走行スピードを変えることにより走行方向をかえやすく好ましいが、1つのクローラ10と結合してもよい。雪上台車400は、さらにクローラ10を駆動制御する駆動部460を有する。駆動部460は、駆動部260と同様であるので、重複した説明は省略する。図11では、バッテリ462は雪上台車400の走行安定性性のために台板420の後方、ハンドル440の近くで左右の中央に配置され、駆動回路464はバッテリ462に隣接して配置され、コントローラ470はハンドル440に配置されているが、配置される場所は特に限定されない。
【0039】
このように構成すると、雪上台車400は台板420上に貨物を乗せ、運転者(不図示)が後方からハンドル440およびハンドル440に取り付けられたコントローラ470により雪上台車400を操縦できる。ハンドル440により雪上台車400の安定性を確保しながら、コントローラ470により左右のクローラ10の走行スピードを変えることにより走行方向を、また、コントローラ470の操作により、走行状態、すなわち、停止、走行、走行スピード等を変えることが可能となる。そして、雪上台車400では、雪上あるいは軟弱地盤上でもクローラ10のスクレーパ50、150が雪や軟弱地盤を掻くことによりスリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。そして、アイスバーン、舗装道路などの固い地盤では、クローラ10のスクレーパ50、150は変形して、広い接地面で路面との間の摩擦力により推進力を確保して走行することができる。よって、雪上や柔軟な地盤においても、堅い地盤においても高い推進力の得られる雪上台車400となる。
【0040】
続いて図12を参照して、車両として車椅子運搬用クローラ500の例について説明する。図12に示す車椅子運搬用クローラ500は、車椅子580を乗せる本体フレーム510を有し、本体フレーム510の側方に左右一対のクローラ10が結合され、クローラ10が駆動することにより走行する。本体フレーム510には、載置した車椅子を固定するためのクランプ520を有する。クランプ520で車椅子580を固定することで、車椅子運搬用クローラ500としてのハンドルを有さず、運転者は車椅子ハンドル590を掴むことにより、車椅子運搬用クローラ500の安定性を確保することができる。車椅子運搬用クローラ500は、さらにクローラ10を駆動制御する駆動部560を有する。駆動部560は、駆動部260と同様であるので、重複した説明は省略する。図12では、バッテリ562は車椅子運搬用クローラ500の走行安定性性のために本体フレーム510上で車椅子580の下方に配置され、駆動回路564はバッテリ562に隣接して配置され、コントローラ570は携帯式として車椅子ハンドル590にバンドで取付けられているが、配置される場所は特に限定されない。
【0041】
車椅子運搬用クローラ500は、本体フレーム510の左右に一対のクローラ10を結合することにより、車椅子580を乗せる高さを低くし、車椅子580を乗せやすくすると共に、走行安定性を高める。車椅子580を車椅子運搬用クローラ500に乗せたり下ろしたりするときには、車椅子運搬用クローラ500の前方(図12の左側)で地上から本体フレーム510にプレートを渡してスロープを作り、スロープ上で車椅子580を移動させる。本体フレーム510上には、車椅子後輪594を左右から挟む後輪クランプ524と車椅子前輪592を前後方向から挟む前輪クランプ522で車椅子を固定するのが好ましい。このようにクランプ520として前輪クランプ522と後輪クランプ524を用いると、車椅子580が本体フレーム510上でずれることなく固定され、車椅子ハンドル590を車椅子運搬用クローラ500のハンドルとして用いることが可能となる。
【0042】
このように構成すると、車椅子運搬用クローラ500は本体フレーム510に車椅子580を乗せ、運転者(不図示)が後方から車椅子ハンドル590および車椅子ハンドル590に取り付けられたコントローラ570により車椅子運搬用クローラ500を操縦できる。車椅子ハンドル590により車椅子運搬用クローラ500の安定性を確保しながら、コントローラ570により左右のクローラ10の走行スピードを変えることにより走行方向を、また、コントローラ570の操作により、走行状態、すなわち、停止、走行、走行スピード等を変えることが可能となる。そして、車椅子運搬用クローラ500では、雪上あるいは軟弱地盤上でもクローラ10のスクレーパ50、150が雪や軟弱地盤を掻くことによりスリップせずに確実に推進力を得て走行することができる。そして、アイスバーン、舗装道路などの固い地盤では、クローラ10のスクレーパ50、150は変形して、広い接地面で路面との間の摩擦力により推進力を確保して走行することができる。よって、雪上や柔軟な地盤においても、堅い地盤においても高い推進力の得られる車椅子運搬用クローラ500となる。
【0043】
これまでの説明では、車両としての雪上バイク200、雪上キックボード300、雪上台車400および車椅子運搬用クローラ500では、クローラ10は、バッテリとモータで駆動するように説明したが、エンジン、水素エンジン等の他の駆動源を用いてもよい。また、雪上バイク200、雪上キックボード300、雪上台車400および車椅子運搬用クローラ500は例示に過ぎず、本発明のクローラ10は、他の車両に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 クローラ
12 本体プレート
20 チェーン
22 チェーンガイド
24 ガイドレール
30、130 スクレーパ体
40 支持フレーム(固定部)
42 固定プレート
44 溝
50 スクレーパ(スクレーパ部)
70、72 スプロケット
80 モータ
82 出力軸
84 減速歯車
142 固定部分
144 可動部分
146 ばね
148 溝
150 スクレーパ
160 ヒンジ
200 雪上バイク
210 本体フレーム
212 ハンドルガイド
220 サドル
230 足置き
240 ハンドル部
242 ハンドル
250 スキー板
260 駆動部
262 バッテリ
264 駆動回路
270 コントローラ
300 雪上キックボード
310 ボード本体
340 ハンドル部
342 ハンドル
350 スキー板
360 駆動部
362 バッテリ
364 駆動回路
370 コントローラ
400 雪上台車
410 本体フレーム
420 台板
440 ハンドル
460 駆動部
462 バッテリ
464 駆動回路
470 コントローラ
500 車椅子運搬用クローラ
510 本体フレーム
520 クランプ
522 前輪クランプ
524 後輪クランプ
560 駆動部
562 バッテリ
564 駆動回路
570コントローラ
580 車椅子
590 車椅子ハンドル
592 車椅子前輪
594 車椅子後輪
F 前進方向
R 回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12