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特開2024-71856モータ駆動制御装置およびファンユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071856
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置およびファンユニット
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/08 20160101AFI20240520BHJP
【FI】
H02P6/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182320
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】林 公洋
(72)【発明者】
【氏名】西 秀平
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA01
5H560BB04
5H560BB07
5H560DA02
5H560DA07
5H560DA10
5H560DA19
5H560DB07
5H560DB20
5H560DC03
5H560DC12
5H560EB01
5H560EC01
5H560SS01
5H560TT02
5H560TT11
5H560TT15
5H560TT18
5H560UA10
5H560XA02
5H560XA12
5H560XA13
5H560XA17
(57)【要約】
【課題】簡易な構成および演算によってモータ出力一定制御を実現する。
【解決手段】モータ駆動制御装置1は、ファン22のモータ20の駆動を制御するための駆動制御信号Sdを出力する制御回路3と、駆動制御信号Sdに基づいてモータ20を駆動するモータ駆動回路2を備える。制御回路3は、モータ出力が所定の値で一定になるときのモータ20の回転速度に基づく値とトルクとの関係を示す対応情報310_1~310_nを記憶する記憶部31と、指定されたモータ出力に対応する対応情報310を用いて回転速度から目標トルクTgを決定する目標トルク決定部30と、目標トルクTgとモータ20のトルク値Tsとの差ΔTが小さくなるように目標回転速度EXCを決定する目標回転速度決定部34と、モータ20の回転速度が目標回転速度EXCに近づくように駆動制御信号Sdを生成する駆動制御信号生成部35とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号を出力する制御回路と、
前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、
前記制御回路は、
前記モータのモータ出力が所定の値で一定になるときの前記モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を示す対応情報を記憶する記憶部と、
指定された前記モータ出力に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度に基づく値から目標トルク値を決定する目標トルク決定部と、
前記モータのトルク値を取得するトルク取得部と、
前記目標トルク値と前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度を決定する目標回転速度決定部と、
前記目標回転速度に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を含む
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記モータの回転速度に基づく値は、前記モータのロータの回転位置に応じて電圧が周期的に変化する回転位置検出信号の周期である
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記モータの回転速度に基づく値は、前記モータの回転速度の逆数である
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、
前記トルク取得部は、前記トルク値として、前記モータのトルクに応じたq軸電流の値を取得し、
前記目標トルク決定部は、前記目標トルク値として、前記q軸電流の目標値を決定する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記モータは3相のコイルを有し、
前記駆動制御信号生成部は、前記モータの各相の前記コイルに流れる電流に基づいて、前記q軸電流と前記モータの磁束に応じたd軸電流とを夫々算出し、算出した前記q軸電流および前記d軸電流とが前記目標回転速度に応じた目標電流値に夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を前記駆動制御信号として出力し、
前記トルク取得部は、前記駆動制御信号生成部によって算出した前記q軸電流を前記トルク値として取得する
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記対応情報は、前記モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を表す関数を含み、
前記記憶部は、指定可能な複数の前記モータ出力の指令値毎に前記関数を記憶している
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータ駆動制御装置によって駆動される前記モータと、
前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、を備える
ファンユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置及びファンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
換気扇やドライヤー等のファンのモータを駆動するモータ駆動制御装置には、静圧等が変化した場合であってもファンの送風量が一定となるようにモータを制御する風量一定制御の機能を備えているものが知られている。例えば、特許文献1には、所定の風量値とモータのトルクの値とを用いてモータの回転速度を補正することにより、ファンの風量を一定に保つ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5327045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、換気扇やドライヤー等のファンの省電力化および低コスト化が望まれている。本願発明者は、ファンの省電力化および低コスト化を実現するために、モータのモータ出力(単位時間あたりの仕事量)が一定になるように制御するモータ出力一定制御が不可欠であると考えた。
しかしながら、従来のモータ出力一定制御技術は、複雑な構成および演算が必要であり、ファンの省電力化および低コスト化を実現するためには、簡易な構成および演算によってモータ出力一定制御を実現する必要がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、簡易な構成および演算によってモータ出力一定制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号を出力する制御回路と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、前記制御回路は、前記モータのモータ出力が所定の値で一定になるときの前記モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を示す対応情報を記憶する記憶部と、指定された前記モータ出力に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度に基づく値から目標トルク値を決定する目標トルク決定部と、前記モータのトルク値を取得するトルク取得部と、前記目標トルク値と前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度を決定する目標回転速度決定部と、前記目標回転速度に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、簡易な構成および演算によってモータ出力一定制御を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を備えるファンユニットの構成を示す図である。
図2】制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
図3】ホール周期とモータのq軸電流(トルク)の関係を示す図である。
図4】駆動制御信号生成部の内部構成を示すブロック図である。
図5】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置によるモータ出力一定制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図6】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置によってモータ出力一定制御を行ったときのモータの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0010】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(1)は、モータ(20)の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)を出力する制御回路(3)と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路(2)とを備え、前記制御回路は、前記モータのモータ出力が所定の値で一定になるときの前記モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を示す対応情報(310,310_1~310_n)を記憶する記憶部(31)と、指定された前記モータ出力に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度に基づく値から目標トルク値(Tg)を決定する目標トルク決定部(30)と、前記モータのトルク値(Ts)を取得するトルク取得部(32)と、前記目標トルク値と前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差(ΔT)を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度(EXC)を決定する目標回転速度決定部(34)と、前記目標回転速度に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部(35)と、を含むことを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータの回転速度に基づく値は、前記モータのロータの回転位置に応じて電圧が周期的に変化する回転位置検出信号(Hu,Hv,Hw)の周期(Hp)であってもよい。
【0012】
〔3〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータの回転速度に基づく値は、前記モータの回転速度の逆数であってもよい。
【0013】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置において、前記トルク取得部は、前記トルク値として、前記モータのトルクに応じたq軸電流の値(Iq)を取得し、前記目標トルク決定部は、前記目標トルク値(Tg)として、前記q軸電流の目標値(Iq_g)を決定してもよい。
【0014】
〔5〕上記〔4〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータは3相のコイル(Lu,Lv,Lw)を有し、前記駆動制御信号生成部は、前記モータの各相の前記コイルに流れる電流(Si)に基づいて、前記q軸電流と前記モータの磁束に応じたd軸電流とを夫々算出し、算出した前記q軸電流および前記d軸電流とが前記目標回転速度に応じた目標電流値(Iq_req,Id_ref)に夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を前記駆動制御信号として出力し、前記トルク取得部は、前記駆動制御信号生成部によって算出した前記q軸電流を前記トルク値として取得してもよい。
【0015】
〔6〕上記〔1〕乃至〔5〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置において、前記対応情報は、前記モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を表す関数(601~603)を含み、前記記憶部は、指定可能な複数の前記モータ出力の指令値毎に前記関数を記憶していてもよい。
【0016】
〔7〕本発明の代表的な実施の形態に係るファンユニット(100)は、上記〔1〕乃至〔5〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置(1)と、前記モータ駆動制御装置によって駆動される前記モータ(20)と、前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラ(21)と、を備えることを特徴とする。
【0017】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
≪実施の形態≫
【0019】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えるファンユニットの構成を示す図である。
【0020】
図1に示されるファンユニット100は、インペラ(羽根車)を回転させることによって風を発生させる装置である。ファンユニット100は、例えば、ドライヤーや換気設備(換気扇)等に適用することができる。
【0021】
図1に示すように、ファンユニット100は、モータ20と、インペラ21と、モータ20の回転位置を検出するための回転位置検出器25と、モータ20の回転速度を検出する回転速度検出器26と、モータ20に流れる電流を検出する電流検出器27と、モータ20を駆動するモータ駆動制御装置1と、を備えている。
【0022】
モータ20は、例えば、ブラシレスモータである。本実施の形態において、モータ20は、3相のコイルを有するブラシレスモータである。モータ駆動制御装置1は、モータ20の回転を制御するための装置である。モータ駆動制御装置1は、例えば、モータ20に正弦波駆動信号を出力してモータ20の3相のコイルLu,Lv,Lwに周期的に正弦波状の駆動電流を流してモータ20を回転させる。
【0023】
インペラ(羽根車)21は、風を発生させる部品であり、モータ20の回転力によって回転可能に構成されている。例えば、インペラ21の回転軸は、モータ20の出力軸に同軸に連結されている。本実施の形態では、例えば、インペラ21とモータ20とが一つのファン22を構成しているものとする。
【0024】
モータ駆動制御装置1は、モータ駆動回路2および制御回路3を有している。なお、図1に示されているモータ駆動制御装置1の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置1は、図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0025】
モータ駆動回路2は、後述する制御回路3から出力された駆動制御信号Sdに基づいてモータ20を駆動する。モータ駆動回路2は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有する。
【0026】
インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bから出力された出力信号に基づいてモータ20に駆動信号を出力し、モータ20が備えるコイルLu,Lv,Lwに通電する。インバータ回路2aは、例えば、直流電源Vccとグラウンド電位の間に直列に接続された2つのスイッチ素子の対が、コイルLu,Lv,Lwの各相(U相、V相、W相)に対してそれぞれ配置されて構成されている。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ20の各相の端子が接続されている。
【0027】
プリドライブ回路2bは、制御回路3からの駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aを駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路2aに出力する。
【0028】
駆動制御信号Sdは、モータ20の駆動を制御するための信号であり、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号である。具体的には、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aの各スイッチ素子に対応する6種類のPWM信号を含む。より具体的には、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aを構成する各スイッチ素子のオン/オフを切り替える信号である。
【0029】
プリドライブ回路2bは、例えば、駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aの各スイッチ素子を駆動する6種類の駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを生成して出力する。これらの駆動信号がインバータ回路2aに入力されることにより、インバータ回路2aを構成する、それぞれの駆動信号に対応するスイッチ素子がオン、オフ動作を行う。インバータ回路2aの各スイッチ素子のオン/オフが制御されることにより、モータ20のコイルLu,Lv,Lwの通電パタンが切り替わり、モータ20の各相に電力が供給される。
【0030】
回転位置検出器25u,25v,25wは、モータ20のロータの回転位置に応じた信号を生成する。回転位置検出器25u,25v,25wは、例えば、ホール(HALL)素子である。以下、回転位置検出器25u,25v,25wを「ホール素子25u,25v,25w」とも称する。
【0031】
3つのホール素子25u,25v,25wは、モータ20の各相(U相、V相、W相)にそれぞれ対応して設けられている。ホール素子25u,25v,25wは、例えば、互いに略等間隔(例えば、隣り合うものと120度の間隔)にモータ20のロータ(回転子)の周囲に配置されている。
【0032】
ホール素子25u,25v,25wは、それぞれ、モータ20のロータの磁極を検出し、ロータの回転位置に応じて電圧が周期的に変化するホール信号を出力する。以下、ホール素子25u,25v,25wからそれぞれ出力されるホール信号を「回転位置検出信号Hu,Hv,Hw」とも称する。
【0033】
回転位置検出信号Hu,Hv,Hwは、制御回路3に入力される。なお、制御回路3には、このようなホール信号に代えて、モータ20のロータの回転位置に対応する他の信号が回転位置検出信号として入力されるように構成されていてもよい。例えば、エンコーダやレゾルバ、モータ電流検出回路などを設け、その検出信号が制御回路3に入力されるようにしてもよい。すなわち、回転位置検出器25u,25v,25wは、ホール素子に限定されない。
【0034】
回転速度検出器26は、モータ20のロータの回転に応じた回転速度信号Srを生成する。回転速度検出器26は、例えば、モータ20が搭載される基板(プリント基板)上に形成されたFG(Frequency Generator)パタンである。回転速度検出器26としてのFGパタンは、モータ20の回転数に対応する周期を有する信号(FG信号)を発生させる。回転速度検出器26から出力されたFG信号は、回転速度信号Srとして制御回路3に入力される。
【0035】
なお、本実施例においては回転速度検出器26としてFGパタンを用いているが、これに限らず、エンコーダやレゾルバ等その他の回転速度検出器を用いてもよい。あるいは、回転速度検出器26がホール信号(回転位置検出信号Hu,Hv,Hw)をもとにして回転速度を導出し、回転速度信号Srとして制御回路3に入力してもよいし、制御回路3がホール信号に基づいて回転速度を算出してもよい。
【0036】
電流検出器27は、モータ駆動回路2を構成するインバータ回路2aの直流側に流れる電流の電流値に対応する電流検出信号Siを生成する。電流検出器27は、例えば、インバータ回路の負側(グラウンド側)に配置される電流検出素子であり、例えば抵抗(シャント抵抗)である。電流検出器27としての電流検出素子は、自身に流れる電流に応じた電圧を発生して、電流検出信号Siとして出力する。
【0037】
制御回路3は、モータ出力の大きさを指定する出力指令信号Sfに基づいてモータ20を駆動させるための駆動制御信号Sdを生成し、モータ駆動回路2に供給する。具体的に、制御回路3は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwおよび回転速度信号Srに基づいてモータ20のロータの回転位置や回転速度等の情報を得ることでモータ20の回転状態を監視し、モータ20のモータ出力が出力指令信号Sfによって指定された値となるように駆動制御信号Sdを生成してモータ20の駆動を制御する。
【0038】
本実施の形態において、制御回路3は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)によって実現されている。
【0039】
なお、モータ駆動制御装置1は、制御回路3の少なくとも一部とモータ駆動回路2の少なくとも一部とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化された構成であってもよいし、制御回路3とモータ駆動回路2がそれぞれ個別の集積回路装置として夫々パッケージ化された構成であってもよい。
【0040】
制御回路3は、出力指令信号Sfに基づいてファン22を制御するとき、モータ20のモータ出力が一定になるように駆動制御信号Sdを生成するモータ出力一定制御を行う。以下、制御回路3によるモータ出力一定制御について説明する。
【0041】
図2は、制御回路3の機能ブロック構成を示す図である。
図2に示すように、制御回路3は、モータ出力一定制御を実現するための機能ブロックとして、目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、誤差算出部33、目標回転速度決定部34、および駆動制御信号生成部35を有している。これらの機能ブロックは、例えば、制御回路3としてのプログラム処理装置において、プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行するとともに、カウンタやA/D変換回路等の周辺回路を制御することによって実現される。なお、制御回路3を構成する機能ブロックの一部または全部が、専用ハードウェア回路によって実現されていてもよい。
【0042】
目標トルク決定部30は、モータ20のモータ出力(単位時間あたりの仕事量)が出力指令信号Sfで指定された値となるために必要なモータ20のトルクの目標値(以下、「目標トルク値」と称する。)を決定する機能部である。詳細は後述するが、目標トルク決定部30は、モータの回転速度に基づく値とトルクとの関係を示す対応情報310を用いて、回転速度に基づく値から目標トルク値Tgを算出する。
【0043】
記憶部31は、モータ出力一定制御に必要なパラメータ等を記憶する機能部である。記憶部31は、例えば、対応情報310や、モータ出力の指令値毎に設けられた目標回転速度EXCの初期値等のデータを記憶している。
【0044】
対応情報310とは、上述したように、モータ20のモータ出力が所定の値で一定になるときのモータ20の回転速度に基づく値とトルクとの関係を示すデータである。
【0045】
ここで、モータ20の回転速度に基づく値とは、例えば、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwの周期、または回転速度〔rpm〕の逆数である。
【0046】
本実施の形態では、一例として、モータ20の回転速度に基づく値が、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwのうちいずれか一つの信号の周期であるとし、その周期を「ホール周期Hp」と称する。
【0047】
一般に、モータのトルクは、モータのベクトル制御における2軸(q軸、d軸)の回転座標系におけるq軸の電流と比例関係にあることが知られている。そこで、本実施の形態では、一例として、モータのトルクを表す物理量としてq軸電流Iqを用いる。
【0048】
一般に、モータ出力、すなわち単位時間あたりの仕事量P〔W〕は、下記式(1)で表される。式(1)において、Tはトルク〔N・m〕、Nは回転速度〔rpm〕である。
【0049】
【数1】
【0050】
上述したように、モータのベクトル制御において、q軸電流IqとモータのトルクTは比例関係にあることから、下記式(2)が成り立つ。αは定数である。
【0051】
【数2】
【0052】
また、モータの回転速度Nは、ホール周期Hp〔s〕と反比例の関係にあることから、下記式(3)が成り立つ。βは定数である。
【0053】
【数3】
【0054】
上記式(1)乃至(3)より、q軸電流Iqについて下記式(4)が成り立つ。
【0055】
【数4】
【0056】
上記式(4)から理解されるように、モータ出力Pを一定にした場合、q軸電流Iq(トルク)とホール周期Hpとの関係は一次式で表すことができる。
【0057】
図3は、ホール周期とモータのq軸電流(トルク)の関係を示す図である。
図3において、横軸はホール周期Hpを表し、縦軸はモータ20のトルクとしてのq軸電流Iqを表している。
【0058】
参照符号601~603で示される各グラフは、モータ20のモータ出力が所定の値で一定になるようにモータ20を動作させたときのホール周期Hpの実測値とモータ20のq軸電流Iq(トルク)の実測値との関係を示すホール周期-トルク特性である。具体的には、参照符号601は、モータ20のモータ出力が第1の値(W1=5W(ワット))であるときのホール周期Hpに対するモータ20のq軸電流Iq(トルク)の特性を表している。参照符号602は、モータ20のモータ出力が第2の値(W2=10W)であるときのホール周期Hpに対するモータ20のq軸電流Iqの特性を表している。参照符号603は、モータ20のモータ出力が第3の値(W3=15W)であるときのホール周期Hpに対するモータ20のq軸電流の特性を表している。
【0059】
図3によれば、実測結果に基づくモータのホール周期-トルク特性は、上述した式(4)で示したように一次式で近似できることが理解される。したがって、モータ20に要求されるモータ出力に応じてホール周期(回転速度)およびモータ20のq軸電流が特性601~603に沿って変化するように制御することにより、モータ出力が要求された値で一定になるようにモータ20を動作させることが可能となる。
【0060】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、モータ出力毎のモータ20の回転速度に基づく値(ホール周期Hp)とトルク(q軸電流Iq)との関係を表す対応関係310を記憶部31に予め記憶しておき、それらの対応関係310を用いてモータ20の回転速度とトルクを調整することにより、モータ20のモータ出力を一定にする。
【0061】
具体的には、記憶部31に、モータ20に指定可能な複数のモータ出力の指令値に応じた関数を対応関係310として記憶しておく。例えば、モータ20において、モータ出力のレベルがn(nは2以上の整数)段階に切替可能である場合、n通りのモータ出力の指令値毎にホール周期Hpとq軸電流Iqの関係を表す関数を対応関係310_1~310_nとして記憶部31に記憶しておく。
【0062】
例えば、図3に示したように、予め実験やシミュレーション等によって、モータ20のモータ出力が所定の値で一定になるようにモータ20を駆動したときのホール周期とモータ20のq軸電流(トルク)を測定する。次に、ホール周期およびq軸電流の測定値を用いて回帰分析を行うことにより、ホール周期とq軸電流の関係を示す近似関数(例えば、一次関数)をモータ出力毎に算出する。そして、例えば、それらの近似関数を表す情報(例えば、一次関数の係数)を対応情報310_1~310_nとして、モータ駆動制御装置1の記憶部31に記憶しておく。以下、対応情報310_1~310_nを「関数310_1~310_n」とも称する。
【0063】
例えば、ファンユニット100がドライヤーに適用され、ドライヤー(モータ20)のモータ出力が“弱(5W)”、“中(10W)”、“強(15W)”の3段階(n=3)に設定可能な場合を考える。この場合、モータ出力を“弱(5W)”で一定にしたときのホール周期の測定値とq軸電流の測定値との関係を表す近似関数の係数を対応情報310_1として記憶部31に記憶しておく。同様に、モータ出力を“中(10W)”で一定にしたときのホール周期の測定値とq軸電流の測定値との関係を表す近似関数の係数を対応情報310_2とし、モータ出力を“強(15W)”で一定にしたときのホール周期の測定値とq軸電流の測定値との関係を表す近似関数の係数を対応情報310_3として記憶部31に記憶しておく。
【0064】
目標トルク決定部30は、出力指令信号Sfと、モータ20の回転速度に基づく値と、記憶部31に記憶されている関数310_1~310_nとに基づいて、目標トルク値Tgを算出する。具体的には、図2に示すように、目標トルク決定部30は、出力指令取得部36、関数選択部37、および目標トルク算出部38を有する。
【0065】
出力指令取得部36は、外部から入力された出力指令信号Sfからモータ出力の指令値を取得する機能部である。例えば、ユーザがファン22の操作入力部を操作することにより所望の出力が指定された場合、操作入力部が指定された出力を示す出力指令信号Sfを生成し、出力指令取得部36に入力する。
【0066】
出力指令取得部36は、入力された出力指令信号Sfからモータ出力の指令値を取得する。例えば、上述したようにドライヤー(モータ20)のモータ出力が“弱”、“中”、“強”の3段階に設定可能であり、出力指令信号Sfが2ビットのデジタル信号である場合を考える。この場合、出力指令取得部36は、出力指令信号Sfの2ビットの論理値に基づいて、モータ出力の指令値が“弱”、“中”、“強”、または“動作の停止”の何れであるかを判定する。例えば、出力指令取得部36は、出力指令信号Sfが“00”の場合にはドライヤー(モータ20)の停止指示と判定し、出力指令信号Sfが“01”の場合にはドライヤーのモータ出力の指令値が“弱”と判定し、出力指令信号Sfが“10”の場合にドライヤーのモータ出力の指令値が“中”と判定し、出力指令信号Sfが“11”の場合にドライヤーのモータ出力の指令値が“強”と判定する。
【0067】
関数選択部37は、出力指令取得部36によって取得したモータ出力の指令値に基づいて、関数310_1~310_nの何れか一つを選択する。関数選択部37は、出力指令取得部36によって取得したモータ出力の指令値で指定されたモータ20のモータ出力に対応する関数310_1~310_nを選択して、記憶部31から読み出す。
【0068】
目標トルク算出部38は、関数選択部37によって選択された関数310を用いて、モータ20の回転速度に基づく値から目標トルク値Tgを算出する。
【0069】
先ず、目標トルク算出部38は、モータ20の回転速度に基づく値を算出する。例えば、目標トルク算出部38は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、回転速度に基づく値としてホール周期Hpを算出する。具体的には、目標トルク算出部38は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwの何れか一つの信号の周期を算出し、ホール周期Hpとする。
【0070】
なお、ホール周期Hpの算出方法は、上述した手法に限定されない。例えば、目標トルク算出部38は、3つの回転位置検出信号Hu,Hv,Hwの周期の平均値を算出してホール周期Hpとしてもよいし、公知の手法によって3つの回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを合成して3相合成信号を生成し、3相合成信号の周期に基づいてホール周期Hpを算出してもよい。
【0071】
次に、目標トルク算出部38は、算出したホール周期Hpと関数選択部37によって選択された関数310とに基づいて、モータ20の目標トルク値Tgを算出する。例えば、目標トルク算出部38は、関数310における変数(ホール周期)に回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて算出したホール周期Hpの値を代入することにより、q軸電流の目標値Iq_gを算出し、算出したq軸電流の目標値Iq_gを目標トルク値Tgとして出力する。
【0072】
トルク取得部32は、モータ20のトルクの測定値を取得する機能部である。例えば、トルク取得部32は、後述する駆動制御信号生成部35において行われるベクトル制御の計算過程で算出されるq軸電流Iqを取得する。トルク取得部32は、駆動制御信号生成部35において算出されたq軸電流Iqに基づいてトルク値Tsを算出する。例えば、トルク取得部32は、駆動制御信号生成部35において算出されたq軸電流Iqをトルク値Tsとして出力する。
【0073】
なお、トルク取得部32によるトルク値Tsの算出方法は、上述した手法に限定されない。例えば、トルク取得部32は、所定期間毎のq軸電流Iqの平均値を算出し、その値をトルク値Tsとして出力してもよいし、q軸電流Iqまたは所定期間毎のq軸電流Iqの平均値に所定の係数を乗算した値をトルク値Tsとして出力してもよい。トルク取得部32がq軸電流Iqをトルクに換算する場合には、例えば、目標トルク算出部38が、対応情報310を用いて算出したq軸電流の目標値Iq_gに所定の係数を乗算してトルク値Tsを算出してもよいし、q軸電流をトルクに換算した値とホール周期Hpとの関係を示す関数を対応情報310とすればよい。
【0074】
誤差算出部33は、目標トルク決定部30によって決定した目標トルク値Tgとトルク取得部32によって取得したモータ20のトルクの測定値であるトルク値Tsとの差分を算出する機能部である。誤差算出部33は、目標トルク値Tgとトルク値Tsとの差分をトルク誤差ΔTとして出力する。
【0075】
目標回転速度決定部34は、目標トルク値Tgとトルク値Tsとの差が小さくなるようにモータ20の目標回転速度EXCを決定する機能部である。図2に示すように、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40と目標回転速度算出部41を有する。PI制御演算部40は、PI制御演算によってトルク誤差ΔTがゼロになるように制御量を算出する。すなわち、目標回転速度算出部41は、目標トルク値Tgとトルク取得部32によって取得したトルク値Tsとの差を小さくする速度である、モータ20の目標回転速度EXCを決定する。目標回転速度算出部41は、例えば、PI制御演算部40によって算出した制御量に所定の変換係数を乗算して目標回転速度EXCを算出する。
【0076】
例えば、ファンにおいて、一般に、モータの回転速度を上げると空気抵抗が大きくなり負荷(トルク)が上昇し、逆にモータの回転速度を下げると空気抵抗が小さくなることで負荷が低下する。つまり、ファンにおいては、モータの回転速度を制御することで、トルク誤差ΔTが0になるように制御することができる。このとき、PI制御演算部40の出力信号が10bitのデジタル値である場合、その出力信号は、0~1023で表される操作量の信号になる。そこで、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40の出力信号(デジタル値)に所定の変換係数を乗算することによって、PI制御演算部40から出力された操作量を目標回転速度EXCに変換する。
【0077】
なお、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40の出力信号に所定の変換係数を乗算するのではなく、Qフォーマット化(固定小数点)や上下限の飽和処理を行うことによって、PI制御演算部40の出力信号から目標回転速度EXCを算出してもよい。
【0078】
なお、目標回転速度決定部34と駆動制御信号生成部35とが互いに異なる集積回路装置(IC)で実現されている場合には、目標回転速度決定部34は、例えば、目標回転速度EXCに対応する周波数を有する周期信号を生成すればよい。この場合、周期信号は、目標回転速度決定部34が形成されている集積回路装置の外部端子から出力され、駆動制御信号生成部35が形成されている集積回路装置の外部端子に入力される。駆動制御信号生成部35は、入力された周期信号の周波数を解析することにより、目標回転速度EXCの情報を取得する。
【0079】
駆動制御信号生成部35は、モータ20の回転速度が目標回転速度EXCに近づくように駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部35は、例えば、PWM信号としての駆動制御信号Sdを所謂ベクトル制御演算により生成する。なお、駆動制御信号生成部35による駆動制御信号Sdの生成方法は、上述したベクトル制御演算に限らず、vf制御、進角制御等の公知のモータ駆動制御技術に基づく演算であってもよいが、本実施の形態では、駆動制御信号生成部35がベクトル制御演算によって駆動制御信号Sdを生成するものとして説明する。
【0080】
駆動制御信号生成部35は、ベクトル制御演算として、モータ20の各相のコイルに流れる電流に基づいてモータ20のトルクに応じたq軸電流Iqとモータ20の磁束に応じたd軸電流Idとを夫々算出し、算出したq軸電流Iqおよびd軸電流Idが目標回転速度EXCに応じた目標電流値Iq_ref,Id_refに夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を駆動制御信号Sdとして出力する。
【0081】
なお、本実施の形態では、駆動制御信号生成部35が、ホール素子から出力される回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを用いたベクトル制御演算を行う場合について説明するが、これに限られず、駆動制御信号生成部35は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを用いない所謂センサレスベクトル制御演算を行ってもよい。
【0082】
図4は、駆動制御信号生成部35の内部構成を示すブロック図である。
駆動制御信号生成部35は、ベクトル制御部として機能するための機能ブロックとして、電流計測部50、クラーク変換部51、パーク変換部52、回転情報生成部56、回転速度PI制御部60、弱め磁束PI制御部61、トルクPI制御部62、磁束PI制御部63、逆パーク変換部64、逆クラーク変換部65、およびPWM信号生成部66を有する。
これらの機能ブロックは、制御回路3を構成するプログラム処理装置において、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行し、カウンタやA/D変換回路等の周辺回路を制御することによって実現される。なお、これらの機能ブロックの一部または全部が、専用ハードウェア回路によって実現されていてもよい。
【0083】
電流計測部50は、電流検出器27から出力された電流検出信号Siを取得し、取得した電流検出信号Siに基づいてモータ20の各相の相電流Iu,Iv,Iwの計測値を生成する。クラーク変換部51は、電流計測部50によって生成された相電流Iu,Iv,Iwの計測値をクラーク変換することにより、2相の直交座標(固定座標)系(α,β)の電流Iα,Iβを算出する。パーク変換部52は、電気角算出部54によって算出した電気角θ(sinθおよびcosθ)を用いて電流Iα,Iβをパーク変換することにより、2相の固定座標の電流Iα,Iβを回転座標のq軸電流Iqとd軸電流Idを算出する。
【0084】
ここで、q軸電流Iqはモータ20のトルクに対応する電流(トルク電流)であり、d軸電流Idはモータ20の励磁電流である。
【0085】
回転情報生成部56は、モータ20の回転状態に関する情報(回転情報)を生成する機能部である。回転情報生成部56は、モータ20の回転情報として、モータ20のロータの回転角θ、sinθ、cosθ、およびモータ20の回転速度(実回転速度)を算出する。
【0086】
回転情報生成部56は、例えば、回転位置検出信号取得部53、電気角算出部54、および回転速度信号取得部55を含む。回転位置検出信号取得部53は、回転位置検出器25u,25v,25wから出力された回転位置検出信号(ホール信号)Hu,Hv,Hwを取得する。電気角算出部54は、回転位置検出信号取得部53によって取得した3つの回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、公知の演算手法により、モータ20のロータの回転角θを算出するとともに、sinθおよびcosθを算出する。回転速度信号取得部55は、回転速度検出器26から出力された回転速度信号(FG信号)Srを取得し、取得した回転速度信号Srに基づいてモータ20の回転速度の計測値を取得する。
【0087】
なお、駆動制御信号生成部35が上述したセンサレスベクトル制御を行う場合には、回転情報生成部56は、公知のセンサレスベクトル制御の演算により、ロータの回転角θ、sinθ、cosθ、および回転速度(ω)を算出してもよい。
【0088】
回転速度PI制御部60は、目標回転速度決定部34から出力されたモータ20の目標回転速度EXCと回転速度信号取得部55によって取得したモータ20の回転速度の計測値とに基づいてPI制御演算を行う。回転速度PI制御部60は、目標回転速度EXCとモータ20の回転速度の計測値との差分を算出し、PI制御演算により、その差分が小さくなるように制御量を算出する。
【0089】
弱め磁束PI制御部61は、後述する電圧指令値Vq,Vdと回転速度PI制御部60によって算出された制御量とに基づいて、公知の計算方法により、トルク電流の目標値であるq軸電流目標値Iq_refと励磁電流の目標値であるd軸電流目標値Id_refをそれぞれ算出する。
【0090】
トルクPI制御部62は、弱め磁束PI制御部61によって算出されたq軸電流目標値Iq_refとパーク変換部52によって算出されたq軸電流Iqとに基づいてPI制御演算を行う。トルクPI制御部62は、q軸電流目標値Iq_refとq軸電流Iqとの差分を算出し、PI制御演算により、その差分を小さくするための制御量としての電圧指令値Vqを算出する。磁束PI制御部63は、d軸電流目標値Id_refとd軸電流Idとの差分を算出し、PI制御演算により、その差分を小さくするための制御量としての電圧指令値Vdを算出する。
【0091】
逆パーク変換部64は、電気角算出部54によって算出した電気角θ(sinθおよびcosθ)を用いて電圧指令値Vq,Vdを逆パーク変換することにより、回転座標から2相の固定座標の電圧Vα,Vβを算出する。逆クラーク変換部65は、2相の固定座標の電圧Vα,Vβを逆クラーク変換することにより、3相の相電圧Vu,Vv,Vwを算出する。
【0092】
PWM信号生成部66は、逆クラーク変換部65によって算出された各相の相電圧Vu,Vv,Vwに基づいて、公知の演算手法により、3相のPWM信号を生成するためのデューティ比(各相のデューティ比の設定値)Udu,Vdu,Wduを算出する。PWM信号生成部66は、算出した各相のデューティ比を有する3相のPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0093】
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によるモータ出力一定制御の処理の流れについて説明する。
【0094】
図5は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によるモータ出力一定制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
例えば、ファン22(例えば、ドライヤー)の動作が停止している状態において、ユーザがファン22の操作入力部を操作して、所定の出力でファン22が動作するように指示した場合を考える。この場合、ファン22の操作入力部は、ユーザの操作に応じて、モータ出力の指令値を含む出力指令信号Sfをモータ駆動制御装置1に入力する(ステップS1)。
【0096】
モータ駆動制御装置1は、出力指令信号Sfが入力されると、モータ20の駆動制御を開始する(ステップS2)。具体的には、モータ駆動制御装置1において、例えば、目標トルク決定部30が、出力指令信号Sfで指定されたモータ出力の指令値に対応する目標回転速度EXCの初期値を記憶部31から読み出して目標回転速度決定部34に設定し、目標回転速度決定部34が、設定された目標回転速度EXCの初期値を駆動制御信号生成部35に入力する。駆動制御信号生成部35は、目標回転速度決定部34から入力された目標回転速度EXCの初期値に基づいて、上述したベクトル制御演算を行って駆動制御信号Sdを生成し、モータ駆動回路2に入力する。これにより、モータ20が回転を始める。
【0097】
次に、目標トルク決定部30が、ステップS1において指定されたモータ出力の指令値に対応する関数310を選択する(ステップS3)。具体的には、上述したように、関数選択部37が、出力指令信号Sfによって指定されたモータ出力の指令値に対応する関数310を記憶部31から読み出して、目標トルク算出部38に与える。
【0098】
目標トルク算出部38は、ホール周期Hpを取得する(ステップS4)。例えば、上述したように、目標トルク算出部38は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwの少なくとも一つの信号の周期をホール周期Hpとして取得する。
【0099】
次に、目標トルク算出部38は、上述した手法により、ステップS3で読み出した関数310を用いて、ステップS4で算出したホール周期Hpから目標トルク値Tg(q軸電流の目標値Iq_g)を算出する(ステップS5)。
【0100】
また、モータ駆動制御装置1において、トルク取得部32が、モータ20のトルクを算出する(ステップS6)。具体的には、上述したように、トルク取得部32が、駆動制御信号生成部35によるベクトル制御演算によって算出されたq軸電流Iqを取得し、そのq軸電流Iqに基づいてモータ20のトルク値Ts(トルクの計測値)を算出する。
【0101】
次に、モータ駆動制御装置1において、誤差算出部33が、ステップS4で算出した目標トルク値Tg(q軸電流の目標値Iq_g)とステップS6で算出したトルク値Ts(q軸電流Iq)との差分であるトルク誤差ΔTを算出する(ステップS7)。
【0102】
次に、モータ駆動制御装置1において、目標回転速度決定部34が、上述した手法により、ステップS7で算出されたトルク誤差ΔTから目標回転速度EXCを算出する(ステップS8)。これにより、モータ20の実際の駆動状態を反映したトルク誤差ΔTに基づいて、目標回転速度EXCの値が更新されることになる。
【0103】
次に、モータ駆動制御装置1において、駆動制御信号生成部35が、ステップS8において更新された目標回転速度EXCに基づいて、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を決定し、決定したデューティ比を有する駆動制御信号Sdを生成してモータ駆動回路2に与える(ステップS9)。
これにより、モータ20の回転速度が目標回転速度EXCになるように調整されるとともにモータ20のトルクが目標トルク値Tgになるように調整される。すなわち、モータ20の回転に応じたホール周期Hpとモータ20のトルクとが、図3に示したホール周期-トルク特性に沿うように制御されることにより、モータ20(ファン22)のモータ出力がステップS1で指定された値で一定になるようにモータ20が動作する。
【0104】
その後、モータ駆動制御装置1は、モータ出力の指定値が変更されたか否かを判定する(ステップS10)。新たな出力指令信号Sfによってモータ出力の指令値が変更された場合には(ステップS10:Yes)、モータ駆動制御装置1は、ステップS3に移行して上述の処理(S3~S9)を実行することにより、新たなモータ出力の指令値に応じた関数310を読み出して目標トルク値Tg(q軸電流の目標値Iq_g)を更新し、再計算した目標回転速度EXCに基づいて駆動制御信号Sdを生成してモータ20の回転を制御する。これにより、ファン22は、新たに指定された一定のモータ出力で動作する。
【0105】
一方、モータ出力の指令値が変更されていない場合には(ステップS10:No)、モータ駆動制御装置1は、ファン22の動作の停止が指示されたか否かを判定する(ステップS11)。出力指令信号Sfによってファン22の動作の停止が指示されていない場合には(ステップS11:No)、モータ駆動制御装置1は、ステップS5に移行し、上述の処理(S6~S9)を実行して、引き続きファン22がステップS1で指定されたモータ出力で動作するように、駆動制御信号Sdを生成する。
【0106】
一方、ファン22の動作の停止が指示された場合には(ステップS11:Yes)、モータ駆動制御装置1は、駆動制御信号Sdによってモータ20の回転を停止させる。例えば、目標トルク決定部30(例えば出力指令取得部36)が目標回転速度決定部34(例えば目標回転速度算出部41)に対して目標回転速度EXCをゼロに設定するように指示する。これにより、モータ20の回転が停止し、ファン22が停止することになる。
【0107】
図6は、モータ駆動制御装置1によってモータ出力一定制御を行ったときのモータ20の特性を示す図である。
【0108】
図6において、横軸はモータ20のトルク〔mN・m〕を表し、縦軸の左側は、モータ20の回転速度〔rpm〕を表し、縦軸の右側はモータ出力〔W〕を表している。
参照符号701は、モータ出力を5Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対するモータ出力の変化(実測値)を示し、参照符号801は、モータ出力を5Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対する回転速度の変化(実測値)を示している。参照符号702は、モータ出力を10Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対するモータ出力の変化(実測値)を示し、参照符号802は、モータ出力を10Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対する回転速度の変化(実測値)を示している。参照符号703は、モータ出力を15Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対するモータ出力の変化(実測値)を示し、参照符号803は、モータ出力を15Wで一定にしたときのモータ20のトルクに対する回転速度の変化(実測値)を示している。
【0109】
図6に示すように、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によれば、モータ20のトルクの変化に追従して回転速度(ホール周期Hp)が制御されることにより、モータ出力が一定になることが理解できる。
【0110】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、モータ20のモータ出力が所定の値で一定になるときのモータ20の回転速度に基づく値(例えば、ホール周期Hp)とトルクとの関係を示す対応情報(ホール周期-トルク特性)310_1~310_nを予め記憶部31に記憶しておく。モータ駆動制御装置1は、指定されたモータ出力の指令値に応じた対応情報310を用いて、モータ20の回転速度に基づく値から目標トルク値Tgを算出する。モータ駆動制御装置1は、算出した目標トルク値と測定されたモータ20のトルク値との差が小さくなるように、モータの目標回転速度EXCを決定し、目標回転速度EXCに基づいて駆動制御信号Sdを生成してモータ20を駆動する。
【0111】
これによれば、モータ駆動制御装置1は、指定されたモータ出力の値におけるモータ20の回転速度に基づく値とトルクとの関係に従ってモータ20の目標回転速度EXCを決定するので、モータ出力が一定になるようにモータ20を回転させることができる。
【0112】
また、モータ駆動制御装置1は、所定のモータ出力におけるモータ20の回転速度に基づく値とトルクとの関係を対応情報310として予め記憶部31に記憶しており、その対応情報310を用いて回転速度に基づく値から目標トルク値を算出するので、目標トルク値を算出するために複雑な演算が必要ない。これにより、制御回路3を構成するマイクロコントローラ等の処理負荷を抑えることができる。
【0113】
したがって、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によれば、簡易な構成および演算によってモータ出力が一定になるように制御することが可能となる。すなわち、複雑な演算を高速で実行することが可能な高価なマイクロコントローラではなく、より安価なマイクロコントローラを用いて、モータ出力一定制御を実現することが可能となる。
【0114】
また、モータ駆動制御装置1において、対応情報310は、モータ20の回転速度に基づく値とトルクとの関係を表す関数を含み、記憶部31は、ファン22に指定可能な複数のモータ出力の指令値毎に関数310_1~310_nを記憶している。
【0115】
これによれば、ファン22において複数のモータ出力が選択可能な場合であっても、指定されたモータ出力に応じて、回転速度に基づく値-トルク特性の関数310_1~310_nを適切に選択することにより、モータ出力が指定された値で一定になるように、モータ20を制御することが容易となる。
【0116】
また、モータ駆動制御装置1において、モータ20の回転速度に基づく値は、モータ20のロータの回転位置に応じて電圧が周期的に変化する回転位置検出信号Hu,Hv,Hwの周期(ホール周期Hp)である。
【0117】
これによれば、以下に示すように、目標トルク値Tgを算出することが更に容易になる。
仮に、モータ20の回転速度に基づく値として回転速度そのものを用いた場合、トルク(目標トルク値)と回転速度とが反比例関係となり、回転速度から目標トルク値を算出するために“除算”が必要となり、制御回路3としてのマイクロコントローラの処理負荷が増える。これに対し、モータ20の回転速度に基づく値としてホール周期Hpを用いた場合、トルク(目標トルク値)とホール周期Hpとは比例関係にあることから(式(4)参照)、制御回路3は、ホール周期Hpから目標トルク値を算出するために“乗算”を行えばよい。これによれば、制御回路3の処理負荷を抑えることが可能となり、制御回路3としてより安価なマイクロコントローラを用いることが可能となる。
【0118】
また、モータ駆動制御装置1は、モータ20のトルク値Tsとして、所謂ベクトル制御演算によって算出されるq軸電流Iqを取得し、目標トルク値Tgとしてq軸電流の目標値Iq_gを算出する。
【0119】
これによれば、トルク取得部32は、モータ20のトルク値Tsを算出するために複雑な演算処理を行う必要がないので、より簡易且つ安価な構成によってモータ出力一定制御を実現することが可能となる。例えば、モータ駆動制御装置1における駆動制御信号生成部(ベクトル制御部)35を既存のベクトル制御演算用の集積回路装置(IC)によって実現し、モータ駆動制御装置1における目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、および目標回転速度決定部34を上記ベクトル制御演算用の集積回路装置とは異なる集積回路装置によって実現する場合を考える。
【0120】
この場合、目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、および目標回転速度決定部34を実現するための集積回路装置は、トルク値Tsを算出するためにベクトル制御のような複雑な演算を行う必要がない。したがって、この集積回路装置には、機能が限定された安価なマイクロコントローラを用いることができる。
【0121】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0122】
例えば、上記実施の形態において、駆動制御信号生成部35がセンサレスベクトル制御演算によって回転速度を算出する場合には、目標トルク算出部38は、駆動制御信号生成部35によって算出された回転速度の逆数をホール周期Hpとして用いて、上述した手法により目標トルク値Tgを算出してもよい。
【0123】
また、モータの回転速度の検出方法は特に限定されない。例えば、ホール素子を用いないセンサレス駆動制御によってモータ20を駆動する場合、モータ駆動制御装置1(制御回路30)は、モータ20の逆起電力を用いて回転速度を検出するようにしてもよい。この場合、目標トルク算出部38は、例えば、検出した回転速度の逆数をホール周期Hpとして用いて、上述した手法により目標トルク値Tgを算出してもよい。
【0124】
また、制御回路3は、上述に示されるような回路構成に限定されない。制御回路3は、本発明の目的にあうように構成された、様々な回路構成を適用することができる。
【0125】
上述のフローチャートは具体例であって、このフローチャートに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【0126】
上述の実施の形態のモータ駆動制御装置1により駆動されるモータの相数は、3相に限られない。また、ホール素子の数は、3個に限られない。
【符号の説明】
【0127】
1…モータ駆動制御装置、2…モータ駆動回路、2a…インバータ回路、2b…プリドライブ回路、3…制御回路、20…モータ、21…インペラ(羽根車)、22…ファン、25,25u,25v,25w…回転位置検出器(ホール素子)、26…回転速度検出器、27…電流検出器、30…目標トルク決定部、31…記憶部、32…トルク取得部、33…誤差算出部、34…目標回転速度決定部、35…駆動制御信号生成部(ベクトル制御部)、36…出力指令取得部、37…関数選択部、38…目標トルク算出部、40…PI制御演算部、41…目標回転速度算出部、50…電流計測部、51…クラーク変換部、52…パーク変換部、53…回転位置検出信号取得部、54…電気角算出部、55…回転速度信号取得部、56…回転情報生成部、60…回転速度PI制御部、61…磁束PI制御部、62…トルクPI制御部、63…磁束PI制御部、64…逆パーク変換部、65…逆クラーク変換部、66…PWM信号生成部、100…ファンユニット、310,310_1~310_n…対応情報(関数)、EXC…目標回転速度、Id…d軸電流、Id_ref…d軸電流目標値、Iq…q軸電流、Iq_ref…q軸電流目標値、Iq_g…q軸電流目標値、Sd…駆動制御信号、Sf…出力指令信号、Si…電流検出信号、Sr…回転速度信号(FG信号)、Tg…目標トルク値、Ts…トルク値、ΔT…トルク誤差。
図1
図2
図3
図4
図5
図6