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特開2024-71871アルカリ電池及びアルカリ電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071871
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】アルカリ電池及びアルカリ電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/06 20060101AFI20240520BHJP
   H01M 6/02 20060101ALI20240520BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240520BHJP
【FI】
H01M6/06 C
H01M6/02 Z
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182350
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】大竹 孝典
【テーマコード(参考)】
5H021
5H024
【Fターム(参考)】
5H021BB17
5H021EE12
5H021EE16
5H021HH00
5H024AA03
5H024AA04
5H024AA14
5H024BB08
5H024BB14
5H024CC03
5H024DD09
5H024FF08
5H024FF09
5H024FF20
5H024HH01
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルカリ電池及びアルカリ電池の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルカリ電池は、容器内に、正極と、負極と、セパレータと、電解液を収容したアルカリ電池であり、前記電解液が濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液であり、前記負極が負極活物質とアルカリ水溶液を含むジェル状の負極合剤からなり、前記アルカリ水溶液が水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の範囲で含むアルカリ水溶液であり、前記正極が、酸化銀と二酸化マンガンを含む正極活物質を備える正極合剤からなり、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比が25~50質量%であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に、正極と、負極と、セパレータと、電解液を収容したアルカリ電池であり、
前記電解液が濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液であり、
前記負極が負極活物質とアルカリ水溶液を含むジェル状の負極合剤からなり、前記アルカリ水溶液が水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の範囲で含むアルカリ水溶液であり、
前記正極が、酸化銀と二酸化マンガンを含む正極活物質を備える正極合剤からなり、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比が50質量%以下であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記電解液が濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比が25~44質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記セパレータの電気抵抗率が250mΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記容器が、正極缶と、負極缶と、前記正極缶及び前記負極缶を封止したガスケットを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項6】
容器内に、正極と、負極と、セパレータと、電解液を収容したアルカリ電池の製造方法であり、
濃度45%の水酸化カリウム水溶液と濃度27%の水酸化ナトリウム水溶液を88:12~95:5の質量比で混合してなる混合水溶液と、負極活物質とを含むジェル状の負極合剤からなる負極と、
酸化銀と二酸化マンガンを含む正極活物質を備える正極合剤からなり、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比を50質量%以下とした正極と、
濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液からなる電解液と、を準備し、
前記容器内に、前記正極と、前記負極と、前記セパレータと、前記電解液を収容することを特徴とするアルカリ電池の製造方法。
【請求項7】
濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液を電解液として用いることを特徴とする請求項6に記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項8】
前記二酸化マンガンの配合比を25~44質量%とした正極を用いることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のアルカリ電池の製造方法。
【請求項9】
電気抵抗率が250mΩ・cm以下であるセパレータを用いることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のアルカリ電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池及びアルカリ電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質として酸化銀を用いた酸化銀電池は、小型かつ高容量である。この特徴を活かした用途として、従来の時計や電卓などに加えて医療機器用途への適用が進んでいる。酸化銀電池は、新たな用途への適用にあたり、コストや電気的特性といった種々の条件に応じた改良がなされている。
例えば、以下の特許文献1には、重負荷の使用環境において短期間使用する医療機器用途の酸化銀電池において、重負荷特性向上を課題として、負極亜鉛の粒径(330メッシュを通過する粒子割合)を規定する技術が開示されている。特許文献1には、セパレータの電気抵抗値(5~30mΩ・in)を規定することにより、所定条件における1分後及び10分後の閉路電圧特性を得られることが示されている。
また、負極を非ゲル状とすることで、イオンの移動速度を高く保つことにより重負荷特性向上を図り、かつ、負極中に占める亜鉛系粒子の割合を大きくして電池容量を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-252899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルカリ電池の正極活物質において、酸化銀よりも安価な材料である二酸化マンガン等を酸化銀と併用し、コストを抑えることで、新たな用途に適用し易くすることを検討できる。このようなアルカリ電池において、上述の酸化銀電池同様の電気的特性を得るためには、電極の放電反応の効率を従来よりも向上させる必要がある。
また、酸化銀(7.143g/cm)よりも比重の小さな二酸化マンガン(5.02g/cm)を加えることでペレット密度を上げることが難しくなり、電池高さが高くなりやすい。この点を対処しようとすると、使用できる正極量を上げることができず、放電容量が十分に得られないという問題もある。
【0005】
このため本願発明は、放電特性に優れ、かつ低コスト化が可能なアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るアルカリ電池は、容器内に、正極と、負極と、セパレータと、電解液を収容したアルカリ電池であり、前記電解液が濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液であり、前記負極が負極活物質とアルカリ水溶液を含むジェル状の負極合剤からなり、前記アルカリ水溶液が水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の範囲で含むアルカリ水溶液であり、前記正極が、酸化銀と二酸化マンガンを含む正極活物質を備える正極合剤からなり、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比が50質量%以下であることを特徴とする。
【0007】
二酸化マンガンを正極合剤に対し50質量%以下の好適な割合で配合し、低コスト化を図りながら、濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液を電解液として備え、ジェル状の負極に含まれる電解液としての水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比を89:11~96:4の好適な比率にすることで、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を提供できる。
【0008】
(2)本発明に係る(1)に記載のアルカリ電池において、前記電解液が濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液であることが好ましい。
【0009】
電解液として濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液であるならば、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を確実に提供できる。
【0010】
(3)本発明に係る(1)または(2)に記載のアルカリ電池において、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比が25~44質量%であることが好ましい。
【0011】
二酸化マンガンの配合比を25~44質量%に設定することにより、高価な酸化銀の使用量を少なくして確実に低コスト化を図るとともに、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を提供できる。
【0012】
(4)本発明に係る(1)~(3)のいずれかに記載のアルカリ電池において、前記セパレータの電気抵抗率が250mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0013】
セパレータの電気抵抗率が250mΩ・cm以下にすることにより、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を確実に得ることができる。
【0014】
(5)本発明に係る(1)~(4)のいずれかに記載のアルカリ電池において、前記容器が、正極缶と、負極缶と、前記正極缶及び前記負極缶を封止したガスケットを備えることが好ましい。
【0015】
前述の正極および負極とセパレータと電解液を正極缶と負極缶からなる容器の内部に備えたボタン形アルカリ電池を提供できる。このアルカリ電池は、低コストであって、重負荷条件であっても放電特性に優れた特徴を有する。
【0016】
(6)本発明に係るアルカリ電池の製造方法は、容器内に、正極と、負極と、セパレータと、電解液を収容したアルカリ電池の製造方法であり、濃度45%の水酸化カリウム水溶液と濃度27%の水酸化ナトリウム水溶液を水酸化カリウムと水酸化ナトリウムが88:12~95:5の質量比となるように混合してなる混合水溶液と、負極活物質とを含むジェル状の負極合剤からなる負極と、酸化銀と二酸化マンガンを含む正極活物質を備える正極合剤からなり、前記正極合剤における二酸化マンガンの配合比を50質量%以下とした正極と、濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液からなる電解液と、を準備し、前記容器内に、前記正極と、前記負極と、前記セパレータと、前記電解液を収容することを特徴とする。
【0017】
二酸化マンガンを正極合剤に対し50質量%以下の好適な割合で配合し、低コスト化を図りながら、濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液を電解液として用い、負極に含まれる電解液として水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを88:12~95:5の質量比となるよう混合して用いることで、負極合剤中の水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比を89:11~96:4の好適な比率にすることができ、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を製造できる。
また、負極合剤に添加する水酸化カリウムを95質量%以下とすることで負極合剤のハンドリング性を良好な状態にすることができる。
【0018】
(7)本発明に係る(6)に記載のアルカリ電池において、濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液を電解液として用いることが好ましい。
【0019】
電解液として濃度44~50%の水酸化カリウム水溶液を用いるならば、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を確実に製造することができる。
【0020】
(8)本発明に係る(6)または(7)に記載のアルカリ電池において、前記二酸化マンガンの配合比を25~44質量%とした正極を用いることが好ましい。
【0021】
二酸化マンガンの配合比を25~44質量%に設定することにより、高価な酸化銀の使用量を少なくして確実に低コスト化を図るとともに、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を製造することができる。
【0022】
(9)本発明に係る(6)~(8)の何れかに記載のアルカリ電池において、電気抵抗率が250mΩ・cm以下であるセパレータを用いることが好ましい。
【0023】
電気抵抗率として250mΩ・cm以下のセパレータを用いることにより、重負荷条件であっても放電特性に優れたアルカリ電池を確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、二酸化マンガンを酸化銀と好適な割合で配合し、低コスト化を図りながら、電解液を好適な濃度の水酸化カリウム水溶液とし、負極に含まれる水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比を好適な比率に調整することで、放電特性に優れたアルカリ電池を提供できる。
二酸化マンガンの配合率をより好適な範囲に調整し、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比をより好適な比率に調整することにより、放電特性を更に良好としたアルカリ電池を提供できる。また、セパレータの電気抵抗率を低い範囲に調整することにより、放電特性を更に改善したアルカリ電池を提供できる。
【0025】
本発明に係る製造方法によれば、特定濃度の水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を特定の質量比で混合し、負極活物質とともに負極を作製し、特定割合で酸化銀と二酸化マンガンを配合した正極活物質を含む正極を作製し、特定濃度の電解液を用いることで、低コスト化を図りながら、放電特性を良好としたアルカリ電池を提供できる。
二酸化マンガンの配合率をより好適な範囲に調整し、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比をより好適な比率に調整することにより、放電特性を更に良好としたアルカリ電池を製造できる。また、セパレータの電気抵抗率を低い範囲に調整することにより、放電特性を更に改善したアルカリ電池を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係るアルカリ電池を示す斜視図である。
図2】実施例において製造したアルカリ電池の負極において、水酸化ナトリウムに対する水酸化カリウムのモル比と放電容量との関係を示すグラフ。
図3】実施例において製造したアルカリ電池におけるセパレータの電気抵抗と放電容量との関係を示すグラフ。
図4】実施例において製造したアルカリ電池における電解液中の水酸化カリウム濃度と放電容量との関係を示すグラフ。
図5】実施例において製造したアルカリ電池における二酸化マンガン比率と放電容量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をボタン形アルカリ電池に適用した実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し、表示している場合がある。
【0028】
<第1実施形態>
図1は本発明に係る第1実施形態のボタン型アルカリ電池を示す断面図である。
本実施形態の電池1は、後述する正極合剤と負極合剤および電解液などを扁平形の金属製の容器に収容した電池である。金属缶は正極缶2と負極缶3を有する。
【0029】
正極缶2は、例えば、ステンレススチール(SUS)にニッケルメッキを施した材質からなり、偏平円筒状(浅底のカップ状)に成型されている。この正極缶2は、正極合剤5を収容するとともに、正極集電体として機能する。負極缶3は、例えば、ニッケルよりなる外表面層と、ステンレススチール(SUS)よりなる金属層と、銅よりなる集電体層とを有する3層構造のクラッド材からなり、偏平円筒状(浅底のカップ状)に成型されている。また、負極缶3は、その円形の開口部3aが折り返し形成されており、その開口部3aには、例えば、ナイロン製のリング状のガスケット4が装着されている。
【0030】
正極缶2の円形の開口部2fに、負極缶3を、ガスケット4を装着した開口部3a側から嵌合させ、該正極缶2の開口部2fを該ガスケット4に向かってかしめて封口することによって、円盤状(ボタン形又はコイン形)の容器(ケース)8が形成されている。該容器8の内部には、密閉空間8Sが形成されている。ガスケット4は正極缶2と負極缶3を絶縁封止する。
密閉空間8Sには、正極合剤5、セパレータ6、負極合剤7、図示略の電解液が収容され、セパレータ6を挟んで正極缶2側に正極合剤5、負極缶3側に負極合剤7がそれぞれ配置されている。
【0031】
正極合剤5は、正極活物質、導電剤、電解液、結着剤、添加剤等を含んでいる。正極活物質としては、亜鉛または亜鉛合金を負極活物質とした場合に正極活物質として使用可能であるものが好ましい。例えば、正極活物質を酸化銀粉末(AgO粉末)と二酸化マンガン粉末(MnO粉末)の混合物にすることができる。正極活物質には、銀ニッケライト(AgNiO)を更に添加しても良い。導電助剤は、グラファイトなどを用いることができる。添加剤は、水素吸蔵合金(LaNi)などを用いることができる。
【0032】
正極活物質を酸化銀粉末と二酸化マンガン粉末の混合物とする場合、二酸化マンガンは正極合剤中に、50質量%以下含まれていることが好ましい。正極合剤中の二酸化マンガン含有量は、25~50質量%が好ましく、25~44質量%がより好ましい。
二酸化マンガンの含有量を上述の範囲とすることで、酸化銀の使用量を少なくして低コスト化するとともに、放電特性の向上効果を得ることができ、特に大電流放電時、放電末期の容量低下を防ぐことができる。
一例として、MnO含有量91.0%以上、粒度が75μm以下の粒子の含有量80.0%以上、アルカリ電位220mV以上の物性を有する二酸化マンガンを用いることができる。
なお、本明細書において成分含有量の上限と下限に関し、「~」を用いて表記する場合、特に説明しない限り、上限と下限を含む範囲を示す。従って、25~50質量%は25質量%以上50質量%以下を意味する。
【0033】
負極合剤7は、例えば、負極活物質、増粘剤、電解液(アルカリ水溶液)、その他酸化亜鉛等の添加剤を含んでいることが好ましい。酸化亜鉛(ZnO)は伝導度安定剤として機能する。添加剤には粘弾性調整剤、樹脂粉末などが含まれていても良い。
負極活物質として、例えば、亜鉛粉末または亜鉛合金粉末を用いることができる。増粘剤としては、ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロース、もしくはポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロースとの混合物が好ましい。ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロースを用いることによって、負極合剤7の電解液に対する親液性及び保液性を向上することができる。
【0034】
負極合剤7に含まれる電解液は、アルカリ水溶液、特に水酸化カリウム(KOH)水溶液と水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の混合水溶液を用いることが好ましい。負極合剤7をジェルとして得る場合、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の割合で含有することが好ましく、モル比で89.70:10.30~95.76:4.24の割合で含有することがより好ましい。
この負極合剤7は、後述する組成の電解液(濃度30~50%のKOH水溶液)との組合せにより、伝導性に優れることに加え、放電末期まで負極活物質(Zn)の周囲に電解液を保持することができる。これにより、活物質の利用効率を向上させることができ、放電特性に優れたアルカリ電池を提供できるようにすることができる。
【0035】
負極合剤7に用いるアルカリ水溶液は、濃度45%水酸化カリウム水溶液と濃度27%水酸化ナトリウム水溶液とを用いる。水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の投入比率は質量比で88:12~95:5の範囲とし、例えば質量比で91:9とすることができる。
以上の関係により、負極合剤7中の水酸化カリウムと水酸化ナトリウムは、モル比で89:11~96:4、より具体的には89.70:10.30~95.76:4.24の比率で負極合剤7中に含まれることとなる。
水酸化カリウム水溶液の投入比率を88~95質量%とすることにより、目的とする電池の電気的特性(放電容量)を得ることができる。また、水酸化カリウム水溶液の投入比率を95質量%以下とすることで負極合剤のハンドリング性を良好な状態にできるので、アルカリ電池を製造する場合に負極合剤の取り扱いを容易にできる。このような電池の電気的特性および負極合剤のハンドリング性を得るために、上述の負極合剤7中の水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとのモル比となるよう、投入するアルカリ水溶液の濃度および投入比率を適宜調整することができる。
なお、本明細書におけるアルカリ水溶液の濃度は、特に説明しない限り質量分率(質量パーセント濃度)により表している。
【0036】
粘弾性調整材は、負極合剤7の粘弾性を、良好なハンドリング性が得られる粘弾性とし、且つ生産性を向上するために必要に応じて配合される。この粘弾性調整材としては、強アルカリ性である電解液と反応しない樹脂粉末が用いられ、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン粉末、アクリル樹脂等が用いられる。ここでは、電解液と化学的反応をせず、且つ電解液を吸収しない状態を、電解液と反応しない状態とする。
【0037】
セパレータ6は、正極合剤5と負極合剤7の間に介在され、大きなイオン透過度を有し、かつ、高い機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。
セパレータ6は、電池のセパレータに用いられるものを適用できるが、中でも250mΩ・cm以下程度の電気抵抗率を有するものが好ましい。セパレータ6は、セロハン、グラフト膜等からなる。これらの材料は組み合わせて用いても良いし、同種の材料からなる膜やシートを必要枚数重ねて用いても良い。250mΩ・cm以下程度の電気抵抗率を有する材料からセパレータ6を構成することで、後述する電解液と組み合わせて伝導性に優れたアルカリ電池を構成できる。
【0038】
本実施形態において容器8に充填する電解液として、濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液を用いることができる。水酸化カリウム水溶液の濃度は、44~50%であることが好ましく、45~50%であることがより好ましい。電解液の濃度が上述の範囲であれば、十分な伝導性が得られる。水酸化カリウムの濃度は高いほど、伝導性に優れるが、50%を超えると伝導性の悪化が懸念されるため、十分な放電容量が得られるなくなるおそれがある。
【0039】
「アルカリ電池の製造方法」
アルカリ電池1を製造するには、正極合剤と負極合剤を作製し、正極缶2に電解液を注入した後、正極合剤5を正極缶内に載置する。次にセパレータ6とガスケット4を正極缶2に組み込み、電解液を注入後、負極合剤7を配置し、次いで負極缶3を組み込み、封口することによりアルカリ電池1が得られる。
より詳しく説明すると、アルカリ電池1を製造するには、ペレット状に成形された正極合剤5を正極缶2に充填する。次に、正極合剤5の上に、セパレータ6を敷設し、正極缶2にガスケット4を圧入する。そして、セパレータ6の上に、ジェル状の負極合剤7を載置し、電解液を充填後、これらの上に負極缶3を被せる。さらに、正極缶2の開口縁部を加締しめて、ケース8を封口することにより図1に示すアルカリ電池1を得ることができる。
ジェル状の負極合剤7をセパレータ6の上に載置する場合、電解液として水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の割合で配合したハンドリング性の良好な負極合剤7を用いているので、支障なく必要量の負極合剤7を載置できる。
【0040】
本実施形態のアルカリ電池1は、二酸化マンガンを正極合剤に対し50質量%以下の好適な割合で配合し、高価な酸化銀の使用量を削減することで、低コスト化できる。また、濃度40~50%の水酸化カリウム水溶液を電解液として備え、ジェル状の負極に含まれる電解液としての水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比を89:11~96:4の好適な比率にすることで、重負荷条件であっても放電末期まで容量低下を防ぐことができ、放電特性の優れたアルカリ電池1を提供できる。
【0041】
ところで、本実施形態においては、金属製の正極缶2と負極缶3からなる容器8を備えたアルカリ電池1について説明したが、容器は金属製に限らず、金属箔と樹脂層とのラミネートフィルムからなる正極容器と負極容器からアルカリ電池を構成しても良い。容器の構成は特に制限されるものではなく、一般的な電池に適用されている何れの形態の容器を用いても良い。
【実施例0042】
図1に示す内部構造の直径11.6mm、高さ5.4mmのボタン形電池を試作し、後述する試験に供した。このボタン型電池の正極缶はステンレススチール製であり、負極缶はニッケルとステンレススチールと銅とからなる3層構造のクラッド材からなる。
後述するように正極缶と負極缶からなる容器の内部に図1に示すように正極合剤、セパレータ、負極合剤、電解液を収容し、ガスケットを装着し、正極缶を加締めて封口することで、アルカリ電池を試作することができる。
【0043】
正極の作製:
活物質である酸化銀(AgO)65.0質量%およびバインダーであるアクリル系ポリマーを含んだ二酸化マンガン(MnO)31.0質量%、導電助剤であるグラファイト3.0質量%、水素吸蔵合金(LaNi)1.0質量%、を混合してなる正極合剤794.0mgをプレス成形することによりペレット形状の正極を作製した。
このペレット状の正極を作製するにあたり、二酸化マンガンの含有量を0、25、39、42、49、59質量%の6通りに変更した他の正極ペレットも作製し、試作アルカリ電池の作製に用いた。
負極の作製:
活物質である亜鉛(Zn)粉末58.4質量%と、増粘剤であるポリアクリル酸0.5質量%と、カルボキシメチルセルロース2.8質量%と、負極合剤用電解液38.3質量%を混合してなるジェル状負極合剤を作製した。
負極合剤用電解液は、濃度45%水酸化カリウム水溶液と濃度27%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、負極合剤中における水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比が83:17~96:4の範囲となるように、後述する混合比で5種類作製した。各混合比の電解液を使い分けて各試作アルカリ電池を作製した。5種類の混合比は、水酸化カリウムのモル比において、83、90、92、93、96%である。
【0044】
組立工程:
外径11.6mmの正極缶の内部に電解液として濃度30~50%の水酸化カリウム水溶液を30.2μL注入し、前記ペレット形状の正極合剤を正極缶の内底面に載置し、セロハンとグラフト膜の積層セパレータを2枚重ねで載置した後、ナイロン製ガスケットを正極缶に組み込む。電解液として、後述する4つの組成の水酸化カリウム水溶液を使い分けて各試作アルカリ電池を構成した。
次に、摺り切りにより負極合剤をセパレータ上に載置し、負極缶を組み込み、加締め封口した。
以上の工程により、直径11.6mm、高さ5.4mmのボタン形試作アルカリ電池(いわゆる44サイズ)を作製した。なお、セパレータについては、電気抵抗が176、250、525mΩ・cmのものを使い分けて複数の試作アルカリ電池を作製した。
このようなセパレータの電気抵抗は通常、セロハンとグラフト膜の厚さや、グラフト膜のグラフト率(グラフト重合におけるグラフト鎖の重量を基材の重量で除した割合)といった種々の条件を調節することにより得ることができる。
以上説明した複数の試作アルカリ電池について、以下の試験に供した。
【0045】
各試作アルカリ電池を用いて定電流(10mA)放電試験を行い、COV1.0V時における放電容量値を求めた。定電流(10mA)放電試験は、ボタン形アルカリ電池において重負荷試験に相当する。
以下の表1および図2は、前述の負極合剤用電解液における水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの混合モル比について、変更して複数のアルカリ電池を作製した場合、水酸化カリウムのモル比と得られた試作アルカリ電池の放電容量測定結果を示す。
負極合剤において、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比は合計100としている。このため、100から表1に示す水酸化カリウムのモル比を除算すると水酸化ナトリウムのモル比となる。また、モル比の異なるそれぞれの試作アルカリ電池を2個ずつ作製し、試験に供したので、得られた放電容量値は2つの試作アルカリ電池の平均値を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1と図2に示す関係から、アルカリ電池の負極合剤に含まれる電解液は、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムをモル比で89:11~96:4の範囲で含むアルカリ水溶液を用いることが望ましいとわかった。上述の範囲であっても、90:10~96:4の範囲を選択することで放電容量値の特に優れたアルカリ電池を得られることがわかる。
【0048】
以下の表2および図3は、負極合剤に含まれる水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比について、水酸化カリウムのモル比を93に固定し、前述の如くアルカリ電池を作製する場合に電気抵抗の異なる種々のセパレータを用いて得られた試作アルカリ電池の放電容量測定結果を示す。
負極合剤において、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのモル比は合計100としている。このため、水酸化ナトリウムのモル比は7となる。また、電気抵抗の異なるセパレータを用いたアルカリ電池を2個ずつ作製し、試験に供したので、得られた放電容量値は2つの試作アルカリ電池の平均値である。
【0049】
【表2】
【0050】
表2および図3に示すようにセパレータの電気抵抗が500mΩ・cmを超えるアルカリ電池は放電容量値が低くなっているため、セパレータの電気抵抗は500mΩ・cm以下が望ましい。セパレータの電気抵抗に関し、250mΩ・cm以下であれば、放電容量を十分に高くできることが判る。
【0051】
以下の表3および図4は、正極や負極とともに容器に収容する電解液について、水酸化カリウム濃度を変更して複数の試作アルカリ電池を作製し、各試作アルカリ電池と放電容量との関係を測定した結果を示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3および図4に示すように電解液中の水酸化カリウム濃度が30%の試作アルカリ電池では放電容量値が大きく低下し、44~50%の試作アルカリ電池は優れた放電容量値が得られている。表3および図4の結果に鑑み、電解液中の水酸化カリウムの濃度は40~50%の範囲で採用することが望ましいと考えられ、優れた放電容量を確実に得るためには、44~50%の範囲が望ましいと考えられる。
【0054】
以下の表4および図5は、正極合剤を構成する酸化銀と二酸化マンガンに関し、正極合剤における二酸化マンガンの配合比を変更して複数の試作アルカリ電池を作製し、各試作アルカリ電池における二酸化マンガンの配合比と放電容量の関係を測定した結果を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4および図5に示す二酸化マンガン配合量を0質量%としたアルカリ電池は、酸化銀のみからなる正極活物質を適用したアルカリ電池である。酸化銀の50質量%以下を二酸化マンガンに置き換えたとして、放電容量低下割合の少ないアルカリ電池を得ることができた。なお、二酸化マンガンの配合量を44質量%以下、より具体的には25~44質量%の範囲とするならば、酸化銀のみからなる正極活物質を用いた試作アルカリ電池と対比し、放電容量の低下をほとんど生じないアルカリ電池を提供できることがわかった。
【符号の説明】
【0057】
1…電池、2…正極缶、3…負極缶、4…ガスケット、5…正極合剤、6…セパレータ、7…負極合剤、8…容器(ケース)、8S…密閉空間。
図1
図2
図3
図4
図5