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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071872
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】匣鉢、匣鉢セット及び匣鉢の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/12 20060101AFI20240520BHJP
   F27D 5/00 20060101ALI20240520BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20240520BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20240520BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
F27D3/12 S
F27D5/00
C22C19/03 J
C22F1/10 A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 641A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182351
(22)【出願日】2022-11-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 道郎
(72)【発明者】
【氏名】小牧 毅史
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055AA06
4K055BA03
4K055HA07
4K055HA08
4K055HA13
4K055HA23
4K055HA27
(57)【要約】
【課題】熱処理中に匣鉢を破損し難くする技術を提供する。
【解決手段】匣鉢は、リチウム正極材の粉体を収容した状態で熱処理炉内に配置されて粉体を熱処理するための匣鉢である。匣鉢は、ニッケル基合金により形成されている。匣鉢を上面視したときに、匣鉢の上端部の大きさは、匣鉢の底部の大きさ以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム正極材の粉体を収容した状態で熱処理炉内に配置されて前記粉体を熱処理するための匣鉢であって、
前記匣鉢は、ニッケル基合金により形成されており、
前記匣鉢を上面視したときに、前記匣鉢の上端部の大きさは、前記匣鉢の底部の大きさ以下である、匣鉢。
【請求項2】
前記匣鉢を上面視したときに、前記匣鉢の上端部の外周形状は、前記匣鉢の底部の外周形状の内側に位置する、請求項1に記載の匣鉢。
【請求項3】
前記匣鉢は、矩形の底面と、前記底面の各辺に接続する4つの側面を備えており、
少なくとも各側面間には、隣接する側面同士を溶接によって接合する接合部が設けられている、請求項1に記載の匣鉢。
【請求項4】
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、2wt%以上5wt%以下である、請求項1に記載の匣鉢。
【請求項5】
前記匣鉢は、矩形の底面と、前記底面の各辺に接続する4つの側面を備えており、
前記匣鉢は、前記4つの側面のうちの少なくとも2つに設置される第1突起をさらに備えており、
前記第1突起は、前記側面の外表面に設置され、前記側面の上端より突出している、請求項1に記載の匣鉢。
【請求項6】
前記匣鉢は、矩形の底面と、前記底面の各辺に接続する4つの側面を備えており、
前記4つの側面は、第1側面と第2側面とを含み、
前記匣鉢は、前記第1側面に設置される第2突起と、前記第2側面に設置される第3突起と、をさらに備えており、
前記第2突起は、前記第1側面の下端と上端との間の外表面に設置され、
前記第3突起は、前記第2側面の下端と上端との間の外表面に設置され、
前記第3突起の下端は、前記第2突起の上端より高い位置に位置している、請求項1に記載の匣鉢。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の匣鉢と、
複数の前記匣鉢を平面上に並べたときに前記複数の匣鉢を連結する連結治具と、を備えており、
前記連結治具は、ニッケル基合金により形成されており、
前記連結治具は、板状の上面と、前記上面の下方に設置される複数の突出部と、を備えており、
前記上面は、平面上に並べられた前記複数の匣鉢の上端に跨って配置可能となっており、
前記複数の突出部のうちの少なくとも1つは、平面上に並べられた前記複数の匣鉢のうちの1の匣鉢の側面の内側に配置されると共に、前記複数の突出部のうちの少なくとも他の1つは、平面上に並べられた前記複数の匣鉢のうちの他の匣鉢の側面の内側に配置される、匣鉢セット。
【請求項8】
矩形の底面と、前記底面の各辺に接続する4つの側面を備え、前記底面と4つの側面で囲まれた空間にリチウム正極材の粉体を収容可能とされる匣鉢であって、
前記空間に収容された前記粉体を熱処理するために熱処理炉内に配置される前記匣鉢の製造方法であって、
ニッケル基合金の平板から前記底面と前記4つの側面とを含む金属片を切断する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記金属片を溶接することによって、前記匣鉢の形状に成形する溶接工程と、
を備え、
前記切断工程では、前記匣鉢を上面視したときに、前記匣鉢の上端部の大きさが、前記匣鉢の底部の大きさ以下となるように前記金属片を切断する、匣鉢の製造方法。
【請求項9】
前記切断工程では、前記底面の各辺と各側面との間が接続された展開状態で1つの金属片を切断し、
前記切断工程で切断された前記1つの金属片を、前記底面の各辺と各側面との間で折り曲げる折り曲げ工程をさらに備え、
前記溶接工程では、前記折り曲げ工程で折り曲げられた前記1つの金属片に含まれる各側面間を溶接する、請求項8に記載の匣鉢の製造方法。
【請求項10】
前記切断工程では、前記底面と前記4つの側面とをそれぞれ個別の金属片として切断し、
前記溶接工程では、前記底面の各辺と各側面との間と、各側面間と、をそれぞれ溶接する、請求項8に記載の匣鉢の製造方法。
【請求項11】
前記溶接工程では、ティグ溶接で溶接する、請求項8に記載の匣鉢の製造方法。
【請求項12】
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、2wt%以上5wt%以下であり、
前記溶接工程で溶接された匣鉢を、雰囲気温度750~1000℃の酸素雰囲気下で5~10時間だけ熱処理する熱処理工程をさらに備える、請求項8~11のいずれか一項に記載の匣鉢の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、リチウム正極材の粉体を熱処理する際に用いる匣鉢に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉(例えば、ローラハースキルン等)を用いて、リチウム正極材の原料となる粉体を熱処理することがある。リチウム正極材の粉体(以下、単に粉体ともいう)を熱処理炉内で熱処理する際には、粉体を匣鉢に収容し、粉体が収容された匣鉢を熱処理炉内で搬送させる。リチウム正極材の粉体を熱処理するための温度は高温であるため、一般的には、粉体は高い耐熱性を有するセラミックで形成された匣鉢内に収容される。しかしながら、近年では、金属製の匣鉢を用いて粉体を熱処理する技術が開発されている。セラミック製の匣鉢と比較して、金属製の匣鉢は割れ難い。例えば、特許文献1には、ニッケル基合金を用いて匣鉢を製造する技術の一例が開示されている。特許文献1には、高温による耐食性や機械強度に優れたニッケル基合金が開示されており、このニッケル基合金を用いて匣鉢を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/132350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のニッケル基合金を用いた匣鉢は、鍛造や鋳造等の製法を用いて製造される。鍛造や鋳造等の製法を用いて金属製の匣鉢を製造すると、金型から離型するために、匣鉢を上面視したときに、匣鉢の底面の大きさより匣鉢の上端部の大きさの方が大きくなり易い。匣鉢は、上端部が開放された箱型であるため、上端部の強度は底面の強度より低くなる。一方、匣鉢に収容された粉体を熱処理する際は、複数の匣鉢が搬送方向及び搬送方向に直交する方向に整列した状態で熱処理炉内を搬送される。匣鉢が、熱処理炉内を搬送する間に蛇行すると、隣接する匣鉢に接触することとなる。匣鉢の底面より匣鉢の上端部の方が大きいと、隣接する匣鉢と接触するときに匣鉢の上端部同士が接触し、匣鉢が破損する虞があった。
【0005】
本明細書は、熱処理中に匣鉢を破損し難くする技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する技術の第1の態様の匣鉢は、リチウム正極材の粉体を収容した状態で熱処理炉内に配置されて粉体を熱処理するための匣鉢である。匣鉢は、ニッケル基合金により形成されている。匣鉢を上面視したときに、匣鉢の上端部の大きさは、匣鉢の底部の大きさ以下である。
【0007】
上記の匣鉢では、熱処理炉内の搬送中に隣接する匣鉢に接触する場合は、大きさが大きい底部同士が接触し易くなる。匣鉢は箱状であるため、底部は上端部より強度が高い。このため、熱処理中に匣鉢が破損し難くなる。
【0008】
また、本明細書に開示する技術の第1の態様の匣鉢の製造方法は、矩形の底面と、底面の各辺に接続する4つの側面を備え、底面と4つの側面で囲まれた空間にリチウム正極材の粉体を収容可能とされる匣鉢であって、空間に収容された粉体を熱処理するために熱処理炉内に配置される匣鉢の製造方法である。製造方法は、ニッケル基合金の平板から底面と4つの側面とを含む金属片を切断する切断工程と、切断工程で切断された金属片を溶接することによって、匣鉢の形状に成形する溶接工程と、を備える。切断工程では、匣鉢を上面視したときに、匣鉢の上端部の大きさが、匣鉢の底部の大きさ以下となるように金属片を切断する。
【0009】
上記の匣鉢の製造方法では、匣鉢の上端部の大きさが匣鉢の底部の大きさ以下となるように切断された金属片を、溶接によって匣鉢の形状に成形する。これにより、匣鉢の上端部を底面より小さくする。匣鉢の上端部が底面より小さいため、熱処理炉内の搬送中に匣鉢の上端部が隣接する匣鉢に接触し難くなり、匣鉢が破損し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、2に係る匣鉢を示す斜視図。
図2】変形例1の匣鉢を示しており、(a)は側面図であり、(b)は上面図である。
図3】変形例2の匣鉢を示す斜視図。
図4】変形例2の匣鉢を示しており、(a)は側面図であり、(b)は上面図である。
図5】変形例2の匣鉢を搬送面上に並べた状態を示す側面図。
図6】連結治具を示す斜視図。
図7】搬送面上に並べた複数の匣鉢と、匣鉢を連結する連結治具を示す上面図。
図8】実施例1に係る匣鉢の製造方法の一例を示すフローチャート。
図9】匣鉢を展開した状態の1つの金属片を示す図。
図10】実施例2に係る匣鉢の製造方法の一例を示すフローチャート。
図11】匣鉢の各面(底面と4つの側面)となる5つの金属片を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0012】
本明細書に開示する技術の第2の態様の匣鉢では、上記の第1の態様の匣鉢において、匣鉢を上面視したときに、匣鉢の上端部の外周形状は、匣鉢の底部の外周形状の内側に位置してもよい。このような構成によると、熱処理炉内を搬送中に隣接する匣鉢と接触する場合に、底部同士が接触し易くなる。このため、上端部が隣接する匣鉢に接触し難くなり、匣鉢が破損し難くなる。
【0013】
本明細書に開示する技術の第3の態様の匣鉢では、上記の第1又は第2の態様の匣鉢において、匣鉢は、矩形の底面と、底面の各辺に接続する4つの側面を備えていてもよい。少なくとも各側面間には、隣接する側面同士を溶接によって接合する接合部が設けられていてもよい。このような構成によると、少なくとも各側面間を溶接によって接合することによって、匣鉢の上端部を底面より小さくし易くなる。
【0014】
本明細書に開示する技術の第4の態様の匣鉢では、上記の第1~第3の態様の匣鉢のいずれか1つにおいて、ニッケル基合金は、アルミニウムを含有していてもよい。ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、2wt%以上5wt%以下であってもよい。このような構成によると、ニッケル基合金がアルミニウムを含有することによって、匣鉢が熱処理条件下に置かれたとき(例えば、熱処理炉内に配置されたとき)に、匣鉢の表面にアルミナ被膜が形成される。これにより、匣鉢の強度を向上させることができると共に、熱処理中に匣鉢内の粉体により匣鉢が酸化することを抑制できる。
【0015】
本明細書に開示する技術の第5の態様の匣鉢では、上記の第1~第4の態様の匣鉢のいずれか1つにおいて、匣鉢は、矩形の底面と、底面の各辺に接続する4つの側面を備えていてもよい。匣鉢は、4つの側面のうちの少なくとも2つに設置される第1突起をさらに備えていてもよい。第1突起は、側面の外表面に設置され、側面の上端より突出していてもよい。このような構成によると、側面の少なくとも2つに第1突起を設置することによって、匣鉢を上下方向に重ねたときに、上下方向に重ねた匣鉢がずれることを抑制することができる。
【0016】
本明細書に開示する技術の第6の態様の匣鉢では、上記の第1~第5の態様の匣鉢のいずれか1つにおいて、匣鉢は、矩形の底面と、底面の各辺に接続する4つの側面を備えていてもよい。4つの側面は、第1側面と第2側面とを含んでいてもよい。匣鉢は、第1側面に設置される第2突起と、第2側面に設置される第3突起と、をさらに備えていてもよい。第2突起は、第1側面の下端と上端との間の外表面に設置されてもよい。第3突起は、第2側面の下端と上端との間の外表面に設置されてもよい。第3突起の下端は、第2突起の上端より高い位置に位置していてもよい。このような構成によると、第2突起と第3突起を設けることによって、匣鉢を熱処理炉内に並べて搬送させたときに匣鉢が隣接する他の匣鉢に接触する場合は、第2突起や第3突起が隣接する匣鉢に接触し易くなり、匣鉢本体(底面と側面)同士は接触し難くなる。このため、匣鉢本体(底面と側面)が破損し難くなる。また、第3突起の下端が第2突起の上端より高い位置に位置していることにより、第2突起と第3突起は、異なる高さに位置する。このため、1の匣鉢の第2突起が設けられる第1側面と、他の匣鉢の第3突起が設けられる第2側面とが対向するように配置すると、1の匣鉢の第2突起と他の匣鉢の第3突起は、上下方向にずれて位置して互いに接触しない。1の匣鉢の第2突起と他の匣鉢の第3突起が接触すると、1の匣鉢や他の匣鉢が蛇行したり、回転したりする原因となる。1の匣鉢の第2突起と他の匣鉢の第3突起は、上下方向にずれて位置することにより、隣接する匣鉢本体(底面と側面)が直接接触することを回避しながら、第2突起と第3突起により匣鉢が蛇行することを回避できる。
【0017】
また、本明細書に開示する匣鉢セットは、上記の第1~第5の態様の匣鉢のいずれか1つの匣鉢と、複数の匣鉢を平面上に並べたときに複数の匣鉢を連結する連結治具と、を備えていてもよい。連結治具は、ニッケル基合金により形成されていてもよい。連結治具は、板状の上面と、上面の下方に設置される複数の突出部と、を備えていてもよい。上面は、平面上に並べられた複数の匣鉢の上端に跨って配置可能となっていてもよい。複数の突出部のうちの少なくとも1つは、平面上に並べられた複数の匣鉢のうちの1の匣鉢の側面の内側に配置されると共に、複数の突出部のうちの少なくとも他の1つは、平面上に並べられた前記複数の匣鉢のうちの他の匣鉢の側面の内側に配置されていてもよい。このような構成によると、複数の匣鉢を連結する連結部を備えることによって、複数の匣鉢を連結した状態で熱処理炉内を搬送できる。このため、複数の匣鉢がばらばらになって蛇行することを防ぐことができる。また、連結治具がニッケル基合金で形成されていることにより、連結治具が熱処理中に破損することを抑制することができる。
【0018】
また、本明細書に開示する技術の第2の態様の匣鉢の製造方法では、上記の第1の態様の匣鉢の製造方法において、切断工程では、底面の各辺と各側面との間が接続された展開状態で1つの金属片を切断してもよい。製造方法は、切断工程で切断された1つの金属片を、底面の各辺と各側面との間で折り曲げる折り曲げ工程をさらに備えていてもよい。溶接工程では、折り曲げ工程で折り曲げられた1つの金属片に含まれる各側面間を溶接してもよい。このような方法によると、上端部の大きさが底面の大きさ以下となる匣鉢を好適に製造できる。
【0019】
本明細書に開示する技術の第3の態様の匣鉢の製造方法では、上記の第1の態様の匣鉢の製造方法において、切断工程では、底面と4つの側面とをそれぞれ個別の金属片として切断してもよい。溶接工程では、底面の各辺と各側面との間と、各側面間と、をそれぞれ溶接してもよい。このような方法によっても、上端部の大きさが底面の大きさ以下となる匣鉢を好適に製造できる。
【0020】
本明細書に開示する技術の第4の態様の匣鉢の製造方法では、上記の第1~第3の態様の匣鉢の製造方法のいずれか1つにおいて、溶接工程では、ティグ溶接で溶接してもよい。
【0021】
本明細書に開示する技術の第5の態様の匣鉢の製造方法では、上記の第1~第4の態様の匣鉢の製造方法のいずれか1つにおいて、ニッケル基合金は、アルミニウムを含有していてもよい。ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、2wt%以上5wt%以下であってもよい。製造方法は、溶接工程で溶接された匣鉢を、雰囲気温度750~1000℃の酸素雰囲気下で5~10時間だけ熱処理する熱処理工程をさらに備えていてもよい。このような構成によると、熱処理工程により、内部応力を緩和することができる。また、ニッケル基合金がアルミニウムを含有しているため、上記の条件下で熱処理することにより、匣鉢の表面に緻密なアルミナ被膜を形成することができる。このため、熱処理中に匣鉢内に収容された粉体により匣鉢の成分が匣鉢内部より析出することを抑制できる。
【実施例0022】
(実施例1)
図面を参照して、匣鉢10について説明する。匣鉢10は、粉体である被処理物を収容する。本実施例では、匣鉢10に収容される被処理物は、リチウム正極材の粉体(以下、単に「粉体」ともいう)である。粉体を熱処理する熱処理炉(例えば、ローラハースキルン等)は、搬入口から搬出口まで匣鉢10を搬送するように構成されている。匣鉢10は、粉体を収容した状態で熱処理炉内を搬送される。
【0023】
図1に示すように、匣鉢10は、略直方体形状の箱型であり、底面12と、4つの側面14a~14dを備えている。匣鉢10(すなわち、底面12、4つの側面14a~14d)は、金属製であり、ニッケル基合金で形成されている。本実施例のニッケル基合金は、アルミニウムを2wt%以上5wt%以下含有している。
【0024】
底面12は矩形であり、4つの各辺には側面14a~14dがそれぞれ接続されている。側面14a~14dは、略矩形であり、底面12に対して略垂直に接続している。隣接する側面14a~14dの端部同士は溶接によって接合されている。すなわち、隣接する側面14a~14dの端部同士の間には、溶接によって形成された接合部16が設けられている。側面14a~14dと底面12との間には接合部16は設けられておらず、後述するように、一枚の金属片を折り曲げることによって、側面14a~14dが成形される。なお、図1では、4つの側面14a~14dは、周方向に側面14a、14b、14c、14dと区別して記載している。以下、他の構成要素についても、その構成要素を区別する必要があるときは添字のアルファベットを用いて記載し、その構成要素を区別する必要がないときは添字のアルファベットを省略して単に数字で記載することがある。
【0025】
匣鉢10を上面視したときに、上端部の大きさは、底面12の大きさ以下にされており、本実施例では、上端部の大きさは、底面12の大きさと略一致する。すなわち、匣鉢10を上面視すると、4つの側面14a~14dの上端部の外周形状と、底面12の外周形状は略一致し、また、4つの側面14a~14dの外周形状は、底面12の外周形状より外側には位置しない。
【0026】
なお、匣鉢10の4つの側面14a~14dの上端部の大きさは、底面12の大きさ以下であればよく、例えば、図2に示すように、変形例1の匣鉢110の側面114の上端部の大きさは、底面112より小さくてもよい。すなわち、匣鉢110を上面視すると、4つの側面114の上端部の外周形状は、底面112の外周形状より小さく、底面112の外周形状の内側に位置していてもよい。例えば、本実施例では、匣鉢10の底面12の一辺が300mmであり、側面114の上辺の寸法L1は、側面114の下辺の寸法L2に対して0~2mm小さい。
【0027】
本実施例では、匣鉢10の上端部の大きさは、底面12の大きさ以下となっており、匣鉢10を上面視したときに、4つの側面14a~14dの外周形状は、底面12の外周形状より外側に位置しない。匣鉢10は、その内部に粉体を収容した状態で、熱処理炉内を搬送される。匣鉢10は、熱処理炉内を搬送される間に蛇行することがあり、熱処理炉内で隣接する匣鉢10同士が接触することがある。本実施例では、匣鉢10は、上端部の大きさが底面12の大きさ以下となっているため、隣接する匣鉢10同士が接触する場合には、上面視したときに外側に位置する底面12同士が接触し、上端部は接触し難い。匣鉢10は箱型であり、上面が開放している。このため、上端部は底面12より強度が低くなる。隣接する匣鉢10同士が接触する場合に、強度の高い底面12同士が接触することによって、熱処理炉内で匣鉢10が破損することを抑制することができる。
【0028】
また、本実施例では、匣鉢10は、ニッケル基合金で形成されている。例えば、匣鉢は、セラミックで形成されることがある。匣鉢10が金属製であることにより、セラミック製の匣鉢より強度が高くなり、熱処理炉内を搬送されるときに匣鉢10に衝撃が加わっても破損し難い。また、匣鉢10をニッケル基合金で形成することによって、匣鉢10が腐食され難くなり、また、腐食されたとしても、反応膨張時にクラックが生じ難い。さらに、ニッケル基合金は強度が高いため、匣鉢10は、セラミック製の匣鉢より大きくすることができると共に、セラミック製の匣鉢より板厚を薄くすることができる。このため、匣鉢10への粉体の収容量を多くすることができる。本実施例では、底面12及び側面14の板厚は、2~5mmである。板厚を2~5mmにすることによって、匣鉢10を製造する際に溶接し易くなる。また、板厚を5mm以下にすることによって、コストが増加することを回避できる。
【0029】
以下の表1は、ムライト(セラミックの一例)とニッケル基合金の物性値の比較を示している。以下の表1に示すように、ニッケル基合金は、ムライトと比較して熱容量が小さいため、匣鉢10は、熱処理炉で昇温する際の熱エネルギーを削減できる。また、ニッケル基合金は、ムライトと比較して熱伝導率が大きいため、匣鉢10は、内部に収容した粉体を短時間で加熱できる。
【0030】
【表1】
【0031】
また、ニッケル基合金は、ニッケルを溶融して分離できる。このため、セラミック製の匣鉢は、割れ等が生じて使用不能になると廃棄される一方で、本実施例のニッケル基合金製の匣鉢10は、使用不能となった後でリサイクルすることができる。
【0032】
また、図3及び図4に示すように、変形例2の匣鉢210には、側面14に複数の突起20、22、24が設置されていてもよい。匣鉢210は、匣鉢本体211と、複数の突起20、22、24を備えている。なお、匣鉢本体211は、図1の匣鉢10と同様の形状を有している。このため、匣鉢本体211についての説明は省略する。
【0033】
変形例2の匣鉢210では、複数の突起20、22、24が匣鉢本体211の側面14a~14dに設置されている。複数の突起20、22、24は、匣鉢本体211(すなわち、図1の匣鉢10)と同様に、アルミニウムを2wt%以上5wt%以下含有するニッケル基合金で形成されている。匣鉢210は、上下方向に複数重ねて(段積みして)熱処理炉内を搬送させることが可能であると共に、搬送面(平面)上に並べて熱処理炉内を搬送させることも可能である。複数の突起20、22、24は、匣鉢210が熱処理炉内を搬送する間に、上下方向に重ねた匣鉢210がずれたり、搬送面上に並べた匣鉢210同士が接触したりすることを抑制するために設置されている。突起20は、匣鉢210の上方に突出しており、突起22、24は、匣鉢210の側方に突出している。以下では、突起20を「上部突起20」と称し、突起22、24を「側方突起22、24」と称する。
【0034】
まず、上部突起20について説明する。上部突起20は、側面14の外表面に取り付けられている。上部突起20は、4つの側面14a~14dのうちの2つ以上に設置されている。本実施例では、2つの上部突起20a、20bが設置されており、上部突起20aは、側面14aに設置され、上部突起20bは、側面14aに隣接する側面14bに設置されている。上部突起20aは、板状であり、設置される側面14aに平行に配置されている。上部突起20aは、側面14aの外表面に沿った方向(図3ではX方向)の寸法が、側面14aの同一方向の寸法より小さくされている。また、上部突起20aの高さ方向(図3ではZ方向)の寸法も、側面14aの高さ方向の寸法より小さくされている。上部突起20aの上端は、側面14aの上端より上方に位置している。上部突起20bは、上部突起20aと同一の形状を有しており、上部突起20bの上端は、側面14bの上端より上方に位置している。なお、図2に示す匣鉢110では、匣鉢110の4つの側面114の上端部の大きさが底面112の大きさより小さくされている。このような場合であっても、図3に示すように、隣接する2つの側面に上部突起を設けることで、匣鉢110を上下方向に重ねて配置することができる。
【0035】
側面14に複数の上部突起20(本実施例では、上部突起20a、20b)が設置されることによって、段積みした匣鉢210がずれることを抑制することができる。匣鉢210が熱処理炉内を搬送されるときに、匣鉢210に振動が加えられることがある。段積みされた匣鉢210に振動が加えられても、上部突起20がストッパとなり、上方に位置する匣鉢210が、下方に位置する匣鉢210に対してずれることを抑制することができる。
【0036】
なお、本実施例では、匣鉢210には2つの上部突起20a、20bが設置されていたが、このような構成に限定されない。例えば、匣鉢210には、3つ以上の上部突起20が設置されていてもよい。具体的には、側面14a、14bだけでなく、側面14c、14dのいずれか一方にも上部突起20が設置されていてもよいし、側面14c、14dの両方に(すなわち、4つの側面14a~14dのそれぞれに)上部突起20が設置されていてもよい。また、1つの側面14に複数の上部突起20が設置されていてもよい。ただし、匣鉢の4つの側面の上端部の大きさが底面の大きさより小さくされている場合(例えば、図2に示す匣鉢110の場合)、匣鉢の対向する2つの側面の外表面に上部突起を設けると、このような匣鉢は上下方向に積み重ねることができない。このため、複数の上部突起20は、上面視したときに底面12の外周形状より外側に位置するように設置する。すなわち、匣鉢の側面の外表面から外側にシフトした位置に上部突起が位置するように、上部突起20の形状を変更する、
【0037】
次いで、側方突起22、24について説明する。側方突起22、24は、側面14の外表面に取り付けられている。側方突起22、24は、板状であり、底面12と平行に設置されている。側方突起22、24の側面14の外表面に沿った方向(例えば、側面14aでは、図3のX方向)の寸法は、側面14の同一方向の寸法より小さくされている。複数の側方突起22、24の側面14から伸びる方向(側面14に直交する方向)の寸法は、略同一である。
【0038】
側方突起22は、側方突起24とは異なる高さに設置されている。以下では、側方突起22を「第1側方突起22」と称し、側方突起24を「第2側方突起24」と称することがある。詳細には、第2側方突起24の下端は、第1側方突起22の上端より高い位置に位置する。
【0039】
4つの側面14のうち、隣接する2つの側面14(本実施例では、側面14a、14b)には、第1側方突起22が設置されており、隣接する他の2つの側面14(本実施例では、側面14c、14d)には、第2側方突起24が設置されている。すなわち、対向する側面14には、異なる種類の側方突起22、24が設置される。例えば、側面14aには、第1側方突起22が設置され、側面14aに対向する側面14cには、第2側方突起24が設置される。同様に、側面14bには、第1側方突起22が設置され、側面14bに対向する側面14dには、第2側方突起24が設置される。
【0040】
各側面14には、同一種類の側方突起22、24が2つずつ設置されている。本実施例では、側面14a、14bにそれぞれ第1側方突起22が2つずつ設置されており、側面14c、14dにそれぞれ第2側方突起24が2つずつ設置されている。1つの側面14に設置される2つの側方突起22、24は、側面14の長辺と平行な方向に離間して設置されている。なお、本実施例では、各側面14に側方突起22、24が2つずつ設置されているが、各側面14には、側方突起が1つ設置されていてもよいし、側方突起が同じ高さに3つ以上設置されていてもよい。
【0041】
第1側方突起22及び第2側方突起24を設置することによって、熱処理炉内を搬送される間に隣接する匣鉢210が接触する場合には、第1側方突起22及び/又は第2側方突起24が隣接する匣鉢210の側面14に接触し、隣接する匣鉢210の側面14同士が接触することを回避できる。なお、第1側方突起22又は第2側方突起24が接触する位置は、側面14の上端ではなく、上端と下端の間の中間部となる。側面14の中間部は、側面の上端部より機械的な強度が高いことから、匣鉢210の破損を抑制することができる。また、上記のように第1側方突起22及び第2側方突起24を設けることにより、隣接する匣鉢210の対向する側面14に、異なる種類の側方突起22、24が位置するように、複数の匣鉢210を搬送面上に配置することができる。すなわち、第1側方突起22が設置される側面14は、他の匣鉢210の第2側方突起24が設置される側面14が対向し、第2側方突起24が設置される側面14は、他の匣鉢210の第1側方突起22が設置される側面14が対向するように、隣接する2つの匣鉢210を並べて配置することができる。例えば、側面14bには、第1側方突起22が設置され、側面14bに対向する側面14dには、第2側方突起24が設置される。図5に示すように、2つの匣鉢10a、10bを搬送面上にX方向に並べたとき、匣鉢210aの側面14bは、隣接する匣鉢210bの側面14dに対向する。匣鉢210aの側面14bには、第1側方突起22が設置されており、隣接する匣鉢210bの側面14dには、第2側方突起24が設置されている。第1側方突起22と第2側方突起24が異なる高さに設置されているため、匣鉢210aの側面14bに設置される第1側方突起22と、隣接する匣鉢210bの側面14dに設置される第2側方突起24は接触しない。隣接する匣鉢210の対向する側面14に同じ種類の側方突起22又は24が設置されていると、同じ種類の側方突起22又は24は高さが同一であるため、隣接する匣鉢210に設置される側方突起22又は24が接触する。同じ種類の側方突起22、24同士が接触すると、匣鉢210が回転して蛇行する虞がある。隣接する匣鉢210では、異なる種類の側方突起22、24が対向することによって、側方突起22、24が原因で匣鉢210が蛇行することを回避することができる。
【0042】
また、第1側方突起22と第2側方突起24を設けることによって、匣鉢210の側面14同士が接触しないため、匣鉢210間に隙間が生じる。匣鉢210間に隙間ができることにより、匣鉢210間の隙間を雰囲気ガスが通過可能となり、匣鉢210内に雰囲気ガスを供給し易くできると共に、熱処理により粉体から発生する反応ガスを掃気し易くできる。
【0043】
なお、本実施例では、全ての側面14に側方突起22又は24が設置されているが、このような構成に限定されない。例えば、隣接する2つの側面14(例えば、側面14aと側面14b)に側方突起22又は24が設置され、他の2つの側面14(例えば、側面14cと側面14d)には側方突起22又は24が設置されていなくてもよい。この場合にも、隣接する匣鉢210において、側方突起22又は24が設置されていない側面14同士が対向することが回避され、隣接する2つの匣鉢210の側面14同士が接触することを回避できる。
【0044】
また、図6及び図7に示すように、搬送面上に複数の匣鉢10、110、210を並べて熱処理炉内を搬送させるときには、連結治具30を用いて、複数の匣鉢10、110、210を連結した状態で搬送することができる。
【0045】
図6に示すように、連結治具30は、上板32と、突出部34を備えている。上板32は、略矩形であり、下面に4つの突出部34が接続されている。突出部34は、棒状であり、上板32に接続される4つの突出部34は同一の形状を有している。連結治具30(すなわち、上板32と4つの突出部34)も、ニッケル基合金で形成されている。
【0046】
図7は、搬送面上に並べられた複数の匣鉢10が連結治具30で連結されている状態を示している。なお、図7では、上部突起20と側方突起22、24を有していない匣鉢10(図1参照)が連結治具30で連結されているが、上部突起20と側方突起22、24を有する匣鉢210(図3及び図4参照)も本実施例の連結治具で連結することができる。この場合には、連結治具で連結された複数の匣鉢210において、隣接する匣鉢210の側面14間に側方突起22、24による隙間が生じる(図示省略)。
【0047】
連結治具30は、平面上に並べられた4つの匣鉢10の上面に跨って配置される。このとき、4つの突出部34が、それぞれ異なる匣鉢10内に位置するように、連結治具30は配置される。例えば、図7では、匣鉢10aの+X方向側に匣鉢10bが配置され、匣鉢10aの-Y方向側に匣鉢10dが配置され、匣鉢10bの-Y方向側に匣鉢10eが配置されている。この場合、連結治具30(すなわち、図7の左側の連結治具30)は、匣鉢10a、10b、10d、10eの角部に跨るように配置される。また、匣鉢10aの角部に位置する突出部34(図7では、左上の突出部34)は、匣鉢10a内に位置し、匣鉢10bの角部に位置する突出部34(図7では、右上の突出部34)は、匣鉢10b内に位置し、匣鉢10dの角部に位置する突出部34(図7では、左下の突出部34)は、匣鉢10d内に位置し、匣鉢10eの角部に位置する突出部34(図7では、右下の突出部34)は、匣鉢10e内に位置する。複数の突出部34が異なる匣鉢10内に位置することにより、複数の匣鉢10を連結することができる。これにより、匣鉢10が熱処理炉内を搬送される際に、連結された複数の匣鉢10がばらばらに蛇行することが抑制され、隣接する匣鉢10同士が衝突することを防ぐことができる。
【0048】
また、連結治具30は、ニッケル基合金で形成されている。例えば、連結治具30をセラミックで形成すると、匣鉢10を形成しているニッケル基合金より強度が低く、粉体の熱処理中に熱衝撃や搬送中の衝撃等により破損する虞がある。連結治具30がニッケル基合金で形成されていることにより、匣鉢10が熱処理炉内を搬送される間に、連結治具30が破損することを抑制することができる。
【0049】
次に、図8及び図9を参照して、匣鉢10の製造方法について説明する。以下では、上部突起20及び側方突起22、24を有していない匣鉢10(図1参照)の製造方法について説明する。なお、上部突起20及び側方突起22、24を有する匣鉢210(図3及び図4参照)を製造する場合には、以下の方法で匣鉢10(すなわち、匣鉢本体211)を製造した後、上部突起20及び側方突起22、24を溶接によって取り付ければよい。
【0050】
図8に示すように、まず、ニッケル基合金の平板から、底面12に対応する部分と4つの側面14に対応する部分を含む1つの金属片40を切断する切断工程を実行する(S12)。金属片40は、匣鉢10を展開した状態の1つの金属片であり、底面12の各辺に側面14が接続した状態の金属片である(図9参照)。なお、図2に示すように、匣鉢110の4つの側面114の上端部の大きさが底面112の大きさより小さくする場合、側面114の上端部側の長辺の長さを、側面の底面側の長辺の長さより短くする。すなわち、側面114の形状を台形状とすることで、匣鉢110の4つの側面の上端部の大きさが底面の大きさより小さくすることができる。
【0051】
次いで、金属片40を、底面12の各辺と各側面14との間で折り曲げる折り曲げ工程を実行する(S14)。折り曲げ工程では、各側面14に対応する部分を、底面12に対応する部分に対して略直角に折り曲げる(図9参照)。
【0052】
次いで、隣接する側面14間を溶接する溶接工程を実行する(S16)。溶接工程では、ティグ溶接で金属片40を溶接する。ニッケル基合金は加工性が低いため、溶接の種類によっては適切に溶接することが難しい。ティグ溶接を用いることによって、ニッケル基合金である金属片40を適切に溶接することができる。隣接する側面14間を溶接することによって、隣接する側面14間に接合部16(図1参照)が形成される。ステップS12~ステップS16の処理により、匣鉢10の形状に成形される。
【0053】
例えば、鍛造や鋳造等の製法を用いて匣鉢10の形状に成形すると、匣鉢10の上端部の大きさが底面12の大きさより大きくなり易い。本実施例では、ニッケル基合金の平板から匣鉢10の各面(底面12と4つの側面14)に対応する部分を含む金属片40を切断し、金属片40を溶接することによって匣鉢10の形状に成形している。所望の形状となるように金属片40を切断し、必要な個所を溶接することで匣鉢10に成形することによって、匣鉢10の上端部の大きさが底面12の大きさ以下となるように匣鉢10を正確に成形することができる。
【0054】
次いで、匣鉢10の形状に成形された金属片40を熱処理する熱処理工程を実行する(S18)。以下、熱処理工程後の金属片40を匣鉢10と称する。熱処理工程では、雰囲気温度750~1000℃の酸素雰囲気下で5~10時間だけ金属片40を熱処理する。ステップS16の溶接工程を実行すると、金属片40に内部応力が発生する。成形された金属片40を上記の条件で熱処理することによって、溶接後の金属片40の内部応力を緩和することができる。また、金属片40を形成するニッケル基合金には、アルミニウムが含有されている。このため、上記の条件(特に酸素雰囲気下)で熱処理することによって、匣鉢10の形状に成形された金属片40の表面に緻密なアルミナ被膜が形成される。表面にアルミナ被膜を形成することによって、熱処理炉で匣鉢10内の粉体を熱処理する間に、粉体により匣鉢10の成分が匣鉢10内部より析出することを抑制することができる。
【0055】
(実施例2)
上記の実施例では、ニッケル基合金の平板から匣鉢10を展開した状態の1つの金属片40を切断したが、このような構成に限定されない。例えば、図11に示すように、ニッケル基合金の平板から底面12の形状の金属片42と4つの側面14の形状の金属片44をそれぞれ別個に切断してもよい。以下に、本実施例における匣鉢10(すなわち、上部突起20及び側方突起22、24を有していない匣鉢10)の製造方法について説明する。なお、本実施例においても、以下の方法で匣鉢10(すなわち、匣鉢本体211)を製造した後、上部突起20及び側方突起22、24を溶接によって取り付けることによって、上部突起20及び側方突起22、24を有する匣鉢210を製造することができる。
【0056】
図10に示すように、まず、ニッケル基合金の平板から、底面12の形状の金属片42と、側面14の形状の4つの金属片44を切断する切断工程を実行する(S22)。すなわち、本実施例の溶接工程では、ニッケル基合金の平板から、1つの金属片42と4つの金属片44の5つの別個の金属片が切断される。本実施例では、匣鉢10を構成する各面(底面12と4つの側面14)が別個に切断されるため、実施例1と異なり折り曲げ工程(図8のS14)は実行されない。
【0057】
次いで、匣鉢10の形状となるように、1つの金属片42と4つの金属片44を溶接する溶接工程が実行される(S24)。具体的には、金属片42の各辺に金属片44が垂直に配置され、金属片42の各辺と金属片44とが溶接される。また、隣接する金属片44間が溶接される。このため、本実施例の方法を用いると、側面14間に接合部16が形成されるだけでなく、底面12と側面14との間にも溶接による接合部(図示省略)が形成される。また、本実施例においても、溶接工程では、ティグ溶接で金属片40を溶接する。ステップS22及びステップS24の処理により、匣鉢10の形状に成形される。
【0058】
次いで、匣鉢10の形状に成形された金属片42、44を熱処理する熱処理工程を実行する(S26)。なお、ステップS26の処理は、上記の実施例1のステップS18の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。本実施例の方法でも、溶接によって匣鉢10が成形される。このため、匣鉢10の上端部の大きさが底面12の大きさ以下となるように匣鉢10を正確に成形することができる。
【0059】
実施例で説明した匣鉢10に関する留意点を述べる。実施例の上部突起20は、「第1突起」の一例であり、第1側方突起22は、「第2突起」の一例であり、第2側方突起24は、「第3突起」の一例であり、上板32は、「上面」の一例である。
【0060】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0061】
10、110:匣鉢
12、112:底面
14、114:側面
16:接合部
20:上部突起
22:第1側方突起
24:第2側方突起
30:連結治具
32:上板
34:突出部
40、42、44:金属片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の底面と、前記底面の各辺に接続する4つの側面を備え、前記底面と4つの側面で囲まれた空間にリチウム正極材の粉体を収容可能とされる匣鉢であって、
前記空間に収容された前記粉体を熱処理するために熱処理炉内に配置される前記匣鉢の製造方法であって、
ニッケル基合金の平板から前記底面と前記4つの側面とを含む金属片を切断する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記金属片を溶接することによって、前記匣鉢の形状に成形する溶接工程と、
を備え、
前記切断工程では、前記匣鉢を上面視したときに、前記匣鉢の上端部の大きさが、前記匣鉢の底部の大きさ以下となるように前記金属片を切断し、
前記ニッケル基合金は、アルミニウムを含有しており、
前記ニッケル基合金のアルミニウムの含有量は、2wt%以上5wt%以下であり、
前記溶接工程で溶接された匣鉢を、雰囲気温度750~1000℃の酸素雰囲気下で5~10時間だけ熱処理する熱処理工程をさらに備える、匣鉢の製造方法。
【請求項2】
前記切断工程では、前記底面の各辺と各側面との間が接続された展開状態で1つの金属片を切断し、
前記切断工程で切断された前記1つの金属片を、前記底面の各辺と各側面との間で折り曲げる折り曲げ工程をさらに備え、
前記溶接工程では、前記折り曲げ工程で折り曲げられた前記1つの金属片に含まれる各側面間を溶接する、請求項に記載の匣鉢の製造方法。
【請求項3】
前記切断工程では、前記底面と前記4つの側面とをそれぞれ個別の金属片として切断し、
前記溶接工程では、前記底面の各辺と各側面との間と、各側面間と、をそれぞれ溶接する、請求項に記載の匣鉢の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程では、ティグ溶接で溶接する、請求項1~3のいずれか一項に記載の匣鉢の製造方法。