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特開2024-71876細菌組成物の製造方法及び細菌組成物の提供方法
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  • 特開-細菌組成物の製造方法及び細菌組成物の提供方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071876
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】細菌組成物の製造方法及び細菌組成物の提供方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240520BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240520BHJP
   A61K 35/741 20150101ALN20240520BHJP
【FI】
C12N1/20 E
C12N1/20 A
C12Q1/04
A61K35/741
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182359
(22)【出願日】2022-11-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517118102
【氏名又は名称】SheepMedical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123881
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100134625
【弁理士】
【氏名又は名称】大沼 加寿子
(72)【発明者】
【氏名】島田 和典
(72)【発明者】
【氏名】松本 直純
(72)【発明者】
【氏名】小山 信裕
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR75
4B063QS25
4B065AA21X
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA03
4C087BC56
4C087BC60
4C087BC61
4C087CA08
4C087MA52
4C087MA55
4C087ZC80
(57)【要約】
【課題】提供者から採取された、細菌叢を含む検体から、提供者又はその近親者の細菌叢内で特定の菌種を効率よく増やすことができるような細菌組成物を容易に製造できるようにする。
【解決手段】 (A)1の提供者から採取された検体を受領するステップ(S1)、(B)前記検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のコロニーを複数取得するステップ(S2~S3)、(C)ステップBで取得した各コロニーの菌種を同定するステップ(S4)、(D)前記同定の結果に基づき、ステップBで取得した複数のコロニーのうち、1以上の所望の菌種についてそれぞれ複数の各コロニーの細菌を培養対象として特定するステップ(S5)、(E)ステップDで特定した各細菌を混合して培養するステップ(S7)、を含む工程により、細菌組成物を製造する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1の提供者から採取された検体を受領するステップ
(B)前記検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のコロニーを複数取得するステップ
(C)前記ステップ(B)で取得した各コロニーの菌種を同定するステップ
(D)前記同定の結果に基づき、前記ステップ(B)で取得した複数のコロニーのうち、1以上の所望の菌種についてそれぞれ複数のコロニーの細菌を培養対象として特定するステップ
(E)前記ステップ(D)で特定した各細菌を混合して培養するステップ
を含むことを特徴とする細菌組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の細菌組成物の製造方法であって、
前記ステップ(E)の前に、
(D2)それぞれ個別に培養された、前記ステップ(D)で特定した各細菌を混合し、前記ステップ(D)で特定した各細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物を調製するステップ
を含み、
前記ステップ(E)は、前記ステップ(D2)で調製した細菌組成物を培養するステップであることを特徴とする細菌組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の細菌組成物の製造方法であって、
前記ステップ(D2)で調製する細菌組成物は凍結保存可能な細菌組成物であり、
前記ステップ(D2)は、調製した前記細菌組成物を凍結保存するステップを含むことを特徴とする細菌組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の細菌組成物の製造方法であって、
前記ステップ(B)が、
(B1)前記細菌叢を構成する細菌を培養してコロニーを形成させるステップ
(B2)前記ステップ(B1)で形成されたコロニーのうち形態学的特徴が異なる複数のコロニーを取得するステップ
を含むことを特徴とする細菌組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の細菌組成物の製造方法の各ステップを含み、
前記ステップ(E)は、前記ステップ(D2)で調製した細菌組成物を液体培地に植菌して該細菌組成物に含まれる細菌を培養するステップであり、
(F)前記ステップ(E)で培養された細菌群を増殖可能な状態で含む、前記提供者又はその近親者に投与するための組成物を製造するステップ
(G)前記ステップ(F)で製造した組成物を、前記提供者又はその近親者に提供するステップ
をさらに含むことを特徴とする、細菌組成物の提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、提供者から採取された検体に含まれる細菌叢に由来する細菌組成物の製造方法及びその細菌組成物の提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヒトをはじめとする様々な動物の体内に、多種多様な細菌が生息することが知られており、このような細菌の群は細菌叢と呼ばれる。この細菌叢を構成する細菌の種類や構成比は個人ごとに異なることや、同一人でも健康状態によって変化することが知られている。さらに、近年では、細菌叢の移植を通じて健康状態の改善を行うことが提案されている。
【0003】
特許文献1には、健康状態の変化と提供される細菌叢の変化が互いに関連付けられたデータを含むデータベースと、当該細菌叢とが保存された細菌叢バンクを構築し、被験者の健康状態の回復のために必要な細菌を当該データベースを用いて当該細菌叢バンクから選択して被験者に提供することにより、被験者の健康状態を改善することが提案されている。
また、細菌叢は、腸内、膣内、鼻腔、口腔など、体内の様々な場所にあることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7016182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の発明では、不特定多数の人物起因の細菌叢を用いて被験者に細菌を提供しており、自分や家族等近親者の細菌叢を用いていないため、自分の体内への取り込みに不安を感じることがある。
なお、自らの体内の細菌叢や家族等近親者の体内の細菌叢から、自らが利用するために、その細菌叢由来の細菌における特定の菌種を効率的に増やすことは難しかったため、自己(および近親者)起因の細菌組成物による保存ビジネス(バンキング)は行われていなかった。
この発明は、提供者から採取された、細菌叢を含む検体から、提供者又はその近親者の細菌叢内で特定の菌種を効率よく増やすことができるような細菌組成物を容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、(A)1の提供者から採取された検体を受領するステップ、(B)上記検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のコロニーを複数取得するステップ、(C)上記ステップ(B)で取得した各コロニーの菌種を同定するステップ、(D)上記同定の結果に基づき、上記ステップ(B)で取得した複数のコロニーのうち、1以上の所望の菌種についてそれぞれ複数のコロニーの細菌を培養対象として特定するステップ、(E)上記ステップ(D)で特定した各細菌を混合して培養するステップ、を含むことを特徴とする細菌組成物の製造方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様におけるステップ(E)の前に、(D2)それぞれ個別に培養された、上記ステップ(D)で特定した各細菌を混合し、上記ステップ(D)で特定した各細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物を調製するステップ、を含み、上記ステップ(E)を、上記ステップ(D2)で調製した細菌組成物を培養するステップとした方法である。
本発明の第3の態様は、上記第2の態様における上記ステップ(D2)で調製する細菌組成物が凍結保存可能な細菌組成物であり、上記ステップ(D2)が、調製した上記細菌組成物を凍結保存するステップを含む方法である。
本発明の第4の態様は、上記のいずれかの態様における上記ステップ(B)が、(B1)上記細菌叢を構成する細菌を培養してコロニーを形成させるステップ及び、(B2)上記ステップ(B1)で形成されたコロニーのうち形態学的特徴が異なる複数のコロニーを取得するステップを含む方法である。
【0008】
本発明の第5の態様は、上記第2乃至第4のいずれかの態様における細菌組成物の製造方法の各ステップを含み、上記ステップ(E)が、上記ステップ(D2)で調製した細菌組成物を液体培地に植菌して該細菌組成物に含まれる細菌を培養するステップであり、(F)上記ステップ(E)で培養された細菌群を増殖可能な状態で含む、上記提供者又はその近親者に投与するための組成物を製造するステップ、および、(G)上記ステップ(F)で製造した組成物を、上記提供者又はその近親者に提供するステップ、をさらに含む、細菌組成物の提供方法である。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記ステップ(B1)において、上記培養を、上記ステップ(D)で特定すべき細菌の菌種を選択的に増殖させる選択培地を用いて行う方法である。
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記ステップ(D)で特定する細菌がビフィズス菌に該当する菌種である方法である。
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記ステップ(D)で特定する細菌が乳酸菌に該当する菌種である方法である。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記ステップ(E)が、上記ステップ(D)で特定した培養対象の各細菌をそれぞれ個別に培養した後、該培養した細菌を混合してさらに培養するステップである方法である。
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記検体が上記提供者の糞便である方法である。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、上記検体が上記提供者の膣、口腔又は鼻腔から採取されたものである方法である。
本発明のさらに別の態様は、上記のいずれかの態様の方法であって、(F′)上記ステップ(E)で培養された細菌群を増殖可能な状態で含む、上記提供者の、上記検体の採取場所へ投与するための組成物を製造するステップ、をさらに含む方法である。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、1の提供者の特定部位から採取された検体又は1の提供者の糞便である検体を構成する細菌のコロニーであって1以上の所定の菌種についてそれぞれ複数のコロニーから取得され培養された細菌を含む細菌組成物である。このような細菌組成物は、上記のいずれかの態様の細菌組成物の製造方法により製造することができる。
本発明のさらに別の態様は、上記の細菌組成物であって、上記提供者に投与するための細菌組成物である。
【0013】
また、本発明は、以上説明してきた態様で実施する他、以下の実施形態又は実施例で説明するものを含む装置、装置の組み合わせとしてのシステム、装置の動作方法その他の方法、これらの装置やシステムの動作を実現するためのプログラム、このようなプログラムを記録した記録媒体など、任意の態様で実施可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明によれば、提供者から採取された、細菌叢を含む検体から、提供者又はその近親者の細菌叢内で特定の菌種を効率よく増やすことができるような細菌組成物を容易に製造できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の細菌組成物の製造方法の一実施形態について説明するための図である。
図2図1に続く図である。
図3図2に続く図である。
図4】本発明の細菌組成物の製造方法及び細菌組成物の提供方法の一実施形態の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
この発明の一実施形態は、細菌組成物の製造方法である。
一実施形態の細菌組成物の製造方法は、以下の(A)~(E)のステップを含む。
(A)1の提供者から採取された検体を受領するステップ
(B)上記検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のコロニーを複数取得するステップ
(C)上記ステップ(B)で取得した各コロニーの菌種を同定するステップ
(D)上記同定の結果に基づき、上記ステップ(B)で取得した複数のコロニーのうち、1以上の所望の菌種についてそれぞれ複数のコロニーの細菌を培養対象として特定するステップ
(E)上記ステップ(D)で特定した各細菌を混合して培養するステップ
この場合に製造される細菌組成物は、ステップ(E)の培養により増殖された細菌を含む組成物である。
【0017】
また、上記ステップ(A)~(E)に加え、上記ステップ(E)の前に実行される以下のステップ(D2)も含めて細菌組成物の製造方法と捉えることもできる。
(D2)それぞれ個別に培養された、前記ステップ(D)で特定した各細菌を混合し、前記ステップ(D)で特定した各細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物を調製するステップ
【0018】
ステップ(A)において、提供者はヒトであることが考えられるが、ヒト以外の生物であっても、体内に細菌叢を有する生物には本実施形態を適用可能である。例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ等に、本実施形態を適用可能である。
また、ここで説明する実施形態において、提供者は1個体である。
【0019】
検体は、提供者の体内あるいは体表面に存在する細菌叢を含むものであり、細菌叢を構成する細菌が増殖可能な状態で採取する。細菌叢を構成する細菌のバリエーションを以後のステップに反映させるためには、ある程度の数の菌数を含む検体を採取することが好ましく、例えば一万個以上の菌数を含むことが好ましい。
例えば、検体として糞便を、スクリュー採便管を用いて採取することで、提供者の腸内の細菌叢を含む検体を得ることができる。糞便の採取方法としては、他にも適宜公知の手法を採用可能である。
【0020】
これ以外に、膣、口腔又は鼻腔から検体を採取することで、提供者のこれらの部位の細菌叢を含む検体を得ることができる。これらの部位からの検体の採取は、例えば滅菌スワブを用いて行うことができるが、他にも適宜公知の手法を採用可能である。
もちろん、これらの部位に限らず、細菌叢を含むと想定される箇所であれば、他にも提供者の任意の部位あるいは提供者から排出される任意の物から検体を採取することができる。なお、提供者の異なる部位に由来する検体は混合せずにステップ(B)以下の処理に供することが好ましい。
【0021】
また、採取した検体は、検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のうち少なくともステップ(D)で特定しようとする細菌が増殖可能な状態で生存できるような適当な方法で、ステップ(B)を実行する場所に移送し、ステップ(B)を担当するオペレータがこれを受領してステップ(B)を実行する。
例えば、ステップ(D)で特定しようとする細菌が乳酸菌やビフィズス菌である場合には、嫌気PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を満たして酸素溶存しにくくした採取容器中に保存して保冷した状態で移送することが考えられる。
【0022】
次に、上記ステップ(B)において、検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のコロニーを取得する方法としては、例えば平板培地上に細菌叢中の単一個体に由来するコロニーを形成させて(ステップB1)、そのコロニーを採取する(ステップB2)ことが考えられる。この場合、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の適当なバッファに検体を懸濁させた懸濁液を調製した上で、10倍毎等の適当な倍率で希釈列を作製し、希釈列の各サンプルを平板培地上にプレーティングし、これを適当な環境に置いて平板培地上にコロニーを形成させることが考えられる。
【0023】
ここでいう「適当な環境」は、少なくともステップ(D)で特定しようとする細菌のコロニー形成が進む環境であり、例えば検体の採取部位に近い環境である。
ステップ(B)で取得するコロニーの数は、細菌叢を構成する細菌中の、ステップ(D)で培養対象として特定したい所望の菌種の存在数、存在比率、培地の選択性の強さ、後述するように同一菌種内で存在を期待する菌株のバリエーション数、ステップ(C)での同定の手間及びコスト等を勘案して適宜に定めればよい。少なくとも2以上のコロニー由来の細菌を取得することは必須であるが、コストが許せば上限は特にない。
【0024】
乳酸菌やビフィズス菌など、細菌叢内に一定程度の菌数が存在することが期待され、かつ後述のように一定程度の選択性を持つ培地により選択的にコロニーを形成させることができる菌種を「所望の菌種」とする場合、発明者らの実験から、50程度のコロニーを取得してステップ(C)以下に供すれば、ステップ(D)にて十分なバリエーションの細菌を培養対象として特定できると考えられる。
しかし、取得するコロニーの数はこれに限られることはない。
【0025】
また、プレート上に形成されたコロニーの数が、取得しようとするコロニーの数よりも多い場合、コロニーを形態学的特徴によって分類し、その全ての分類から少なくとも1つ、なるべく複数のコロニーを取得することが好ましい。細菌叢に含まれる細菌(のうち「所望の細菌」に含まれる菌種及びその菌株)の、なるべく多くのバリエーションを取得するためである。
【0026】
ここで着目すべき形態学的特徴としては、コロニーの色、大きさ、形状、表面の滑らかさ、輪郭のシャープさなど、様々なものが考えられる。カメラ等の撮像手段でプレートを撮像した画像に基づきこれらのパラメータを数値化してその数値によりコロニーを分類することも考えられるが、人の目で見てコロニーの外観から識別できる程度の分類であっても、十分なバリエーションのコロニーを取得することは可能である。
【0027】
また、上記の平板培地として、「所望の菌種」を選択的に増殖させることができる選択培地を用いると、形成されるコロニー中の、当該所望の菌種のコロニーの比率を高めることができ、好ましい。この実施形態の方法では、取得したコロニーについてステップ(C)でそのコロニーを形成する細菌の菌種を同定し、この同定が比較的手間やコストのかかるステップとなっているため、なるべくコロニー取得の時点で「所望の菌種」の存在比率を高め、あまり多くのコロニーを取得せずとも、「所望の菌種」のコロニーを複数、さらには十分な数だけ、得られるようにしておくことが有用である。なお、ステップ(C)での菌種の同定は、必ずしもコロニー1つ1つについて別々に行う必要はないが、この点については後述する。
【0028】
ステップ(D)における「所望の菌種」には、複数の菌種が含まれていても構わない。すなわち、特定の一の種の細菌だけでなく、属あるいはその他の単位の、特定の特性を持つ細菌のグループであって構わない。複数のグループであっても構わない。細菌組成物の投与先個体において、細菌叢の中で増やした場合に健康状態に好ましい影響を与えると期待できる菌種を、適宜に「所望の菌種」として設定すればよい。
例えば、ビフィズス菌や乳酸菌といった単位で「所望の菌種」を設定することもできる。
【0029】
ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の細菌を指し、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium stercorisなど、様々な種を含む。ビフィズス菌を選択的に増殖させ、コロニーを形成させる選択培地としては、例えばTOSプロピオン酸寒天平板培地(成分例は後述)を用いることができる。
【0030】
なお、ビフィドバクテリウム属の細菌のうち一又は複数の特定の種や亜種のみを「所望の菌種」とすることもできる。この場合、TOSプロピオン酸培地を用いても、「所望の菌種」のみを選択的に増殖させることはできないが、ビフィドバクテリウム属の細菌を選択的に増殖させることにより、特段の選択性のない培地を用いる場合に比べ、培地上に形成されるコロニーの中での「所望の菌種」のコロニーの割合を高めることができ、この点で有用であると言える。
【0031】
また、乳酸菌は、一般に、発酵によって糖類から多量の乳酸を産生し、かつ、悪臭の原因になるような腐敗物質を作らない細菌を指し、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属(2020年に再分類された25属も含む)、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属等の細菌が含まれる。
これらのうちラクトバチルス属を含む代表的な乳酸菌を選択的に増殖させ、コロニーを形成させる選択培地としては、例えばMRS寒天平板培地(成分例は後述)を用いることができる。MRS培地の選択性はさほど高くなく、ラクトバチルス属以外にも、エンテロコッカス属及びストレプトコッカス属の細菌が生育し得ることが知られている。
【0032】
なお、乳酸菌と呼ばれる細菌の中には上述のビフィドバクテリウム属細菌も含まれるが、ビフィドバクテリウム属細菌を「所望の菌種」に含める場合でも、必ずしもラクトバチルス属等の乳酸菌と同時にコロニーを取得する必要はない。
例えば、MRS寒天平板培地を用いてラクトバチルス属の細菌にコロニーを形成させ、TOSプロピオン酸寒天平板培地を用いてビフィドバクテリウム属の細菌にコロニーを形成させ、それぞれのプレートからコロニーを取得してもよい。
このように、1の培地では「所望の菌種」の全てを効率的に選択することが難しい場合には、属毎、種毎等の適当な区分ごとに異なる条件で培養し、コロニーを取得してもよい。
【0033】
所望の菌種と選択培地の組み合わせには、上述したもの以外でも、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属のFaecalibacterium prausnitziiを選択的に増殖させるために、YBHI培地(溶液1リットル(L)に対しBrain heart infusion 35g、yeast extract 5g、cellobiose 1g、maltose 1g、cysteine 0.5g、pH7.2)を用いるなど、種々の組み合わせが考えられる。適宜に公知の組み合わせを採用すればよい。
【0034】
また、いずれの組み合わせを用いる場合でも、プレーティングを行う前に、検体を選択性を有する液体培地及び培養条件にて培養してもよい。このことにより、「所望の菌種」の生菌数を、他の菌種に比べて相対的に増加させることができる。
例えばMRS培地の選択性はあまり高くないが、プレーティングの前段でMRS液体培地で嫌気条件下の培養を行うことにより、ラクトバチルス属等の乳酸菌の生菌数をその他の細菌に比べて相対的に増やし、プレート上に形成されるコロニーの中での、ラクトバチルス属等の乳酸菌の比率を高めて、ステップ(B)で取得するコロニー中における「所望の菌種」のコロニーの割合を高めることができる。
【0035】
なお、「所望の菌種」を選択的に培養できる培地が知られていない場合、特段の選択性のない培地を用いてもよい。例えば、嫌気性細菌を培養するための、特段の選択性のない培地としては、GAM培地(溶液1Lに対し、Peptone 10g、soy peptone 3g、proteose peptone 10g、digested serum 13.5g、yeast extract 5.0g、meat extract 2.2g、liver extract 1.2g、glucose 3.0g、KH2PO4 2.5g、NaCl 3.0g、soluble starch 5.0g、L-cysteine 0.3g、sodium thioglycolate 0.3g、pH7.1)を用いることが考えられる。このような培地上にコロニーを形成させても、細菌叢の中にある程度の割合で存在する菌種であれば、十分な数のコロニーを取得し、ステップ(C)の同定を行うことにより、ステップ(D)で「所望の菌種」のコロニーの細菌を培養対象として特定することを期待できる。
【0036】
また、ステップ(B)で細菌のコロニーを複数取得する際には、マイクロ流路や菌体に特異的な抗体を利用して濃縮分離する方法などを利用して分離した細菌からコロニー形成してもよく、任意の方法を用いることができる。
【0037】
次に、ステップ(C)での各コロニーの細菌(コロニーを構成する細菌)の菌種の同定は、例えば16S rRNA遺伝子解析により行うことが考えられる。各コロニーの細菌を適当な条件で培養した上で破砕してDNAを抽出・精製し、DNA中の、16S rRNA超可変領域と対応する配列をシークエンサーにより決定することで、各コロニーの細菌の菌種を同定することができる。超可変領域としてはV1-V2領域や、V3-V4領域を用いることが考えられる。しかし、他の領域を用いることも妨げられない。
このように、16S rRNAの超可変領域の配列であれば、比較的安価(比較的短時間)に決定することができる。
【0038】
例えばコロニーごとに細菌のDNAの全ゲノム配列を決定すれば、又は16S rRNAの全長と対応する領域の配列決定によっても、同じ菌種内に属する異なる菌株を区別して同定することが可能である。しかし、このような配列決定は高コスト(長時間が必要)であるので、本実施形態では、菌種を特定できる程度の領域についてのみ配列決定を行うこととしている。
コストが許す場合には、ステップ(C)で、菌種だけでなく菌株も含めて同定することも妨げられない。
【0039】
次に、ステップ(D)での培養対象の特定は、ステップ(C)で同定した各コロニーの細菌の菌種の情報に基づき行うことができる。
例えば、ステップ(B)で取得したコロニーの細菌のうち、「所望の菌種」に該当する菌種と同定された細菌から、種毎に複数のコロニーの細菌を、培養対象として特定すればよい。同一種の中からも、なるべくバリエーションに富んだ菌株を得る観点から、ステップ(B)で取得したコロニーのうち、構成する細菌が「所望の菌種」に該当する菌種と同定されたコロニー全ての細菌を培養対象として特定してもよい。また、同一菌種で形態学的特徴が異なるコロニーが複数ある場合、それら全てのコロニーの細菌を培養対象とすることが好ましい。しかし、これに限られることはない。
【0040】
また、細菌叢での存在比率が小さく、コロニーの取得自体が難しい菌種については、1つのコロニーの細菌のみしか培養対象とできないものがあってもやむを得ない。存在比率が大きい1又は複数の菌種についてのみ、複数のコロニーの細菌を培養対象として特定できるだけでも、当該菌種を細菌叢内で増やすことについて有用な効果は期待できる。
【0041】
また、「所望の菌種」に該当する菌種により構成されると同定されたコロニーが十分な数だけ得られなかった場合には、同じ検体を用いてステップ(B)からステップ(D)を再度実行してもよい。このとき、ステップ(B)での培養条件を、回によって変更してもよい。また、用いた検体が同じであれば、以降のステップ(E)において、ステップ(B)からステップ(D)の異なる回において特定した培養対象の細菌を区別せずに、一群の培養対象の細菌として取り扱ってよい。ただし、ステップ(B)での培養条件が異なる回で得られた細菌については、当該培養条件毎に区別して培養対象の細菌を特定することが好ましい。ステップ(E)での好ましい培養条件が、ステップ(B)での培養条件毎に異なると考えられるためである。
【0042】
なお、次世代シークエンサーを用いることにより、ステップ(C)での菌種の同定を、複数の菌種や菌株が混在した状態でも行える16S rRNAメタゲノム解析による手法が知られている。
例えば、ステップ(B)で取得したコロニーの細菌を液体培地で個別に培養した上で、所定数のコロニー分の培養液を混合して混合菌液を調製し、その混合菌液中の細菌を破砕してDNAを抽出・精製し、上述した超可変領域と対応する配列を解析することができる。そして、その解析結果に基づき、菌種ごとの存在比を求めることができる。
例えば、サーモフィッシャーサイエンス社の次世代シークエンサーS5及びIon Reporter(商標)システムにより、このような解析を行うことができる。
【0043】
そして、混合菌液中に、ステップ(D)で培養対象として特定する「所望の菌種」の細菌しかいなければ、当該混合菌液の調製に用いた全てのコロニーの細菌を、ステップ(D)で培養対象として特定してよい。ステップ(E)での培養時には、ステップ(D)で培養対象として特定した細菌を混合して培養するので、少なくともその特定した細菌の中には「所望の菌種」の細菌しかいないことがわかっていれば、ステップ(B)で取得したどのコロニーがどの菌種であるかを特定する必要はないためである。すなわち、取得した各コロニーの菌種の同定は、この程度の精度で行えば足りる。
このように、複数コロニー由来の細菌を混合した状態でDNA解析を行うことにより、解析に要する時間やコストを低減することができる。
【0044】
ただし、混合菌液中に、ステップ(D)で培養対象として特定する「所望の菌種」以外の菌種の細菌が存在した場合、1コロニー毎の菌液や、より少ないコロニー数で混合した菌液に対して再度解析を行って「所望の菌種」以外の菌種の細菌により構成されるコロニーを特定し培養対象から除外するか、または、当該混合菌液の調製に用いたコロニー全てを培養対象から除外する等の対応が必要となる。
【0045】
従って、あまり多くのコロニー由来の培養液を混合してしまうと、ステップ(D)で培養対象として特定できる細菌の種類(コロニー数)が減ってしまう。この点を考慮して適宜な混合数を定めればよい。ステップ(B)で取得するコロニーに、「所望の菌種」以外の菌種が含まれる可能性が低いほど、混合数を大きくすることができる。
例えば、ステップ(B)で選択性の比較的高い培地から50コロニーを取得し、それらのほとんどが「所望の菌種」であると期待できる場合には、10コロニー分ずつ混合することが考えられる。
【0046】
次に、ステップ(D2)での細菌組成物の調製は例えば、ステップ(B)で取得したコロニーの細菌のうち、ステップ(D)で培養対象として特定した細菌をコロニー毎に個別に培養し、その培養液を混合して、ステップ(E)でのより大スケールの培養に用いるための植菌用菌液を調製する形で行うことができる。この植菌用菌液が、細菌組成物の一実施形態である。このとき、各コロニーの細菌の培養液は、等量ずつ混合してよいが、各培養液における体積当たり菌数や菌体重量等に応じて培養液の混合比を調整することも妨げられない。
【0047】
ステップ(C)で16S rRNA遺伝子解析を行う場合、この解析のためにコロニーの細菌を液体培地で培養するステップが含まれ得るので、ここで培養した菌液の残りから凍結保存用の菌液を調製して凍結保存しておき、その凍結保存した菌液をステップ(D2)で用いるとよい。この場合、ステップ(C)で行う同定のための工程の一部が、ステップ(D2)にも該当することになる。凍結保存用の菌液は、例えば菌体を含む培養液を等量の30%(v/v)グリセロール水溶液5mLと混合して調製することができる。
【0048】
ステップ(C)で混合菌液に対して16S rRNAメタゲノム解析を行う場合、混合菌液の残りから凍結保存用の混合菌液を調製して凍結保存しておき、その凍結保存した混合菌液をステップ(D2)での混合に用いることもできる。
もちろん、ステップ(C)と全く別に、ステップ(B)で取得したコロニーごとの培養を行ってもよい。
【0049】
また、上記の植菌用菌液は、上記のコロニーごとの凍結保存用の菌液と同様に、凍結保存が可能なように調製して、凍結保存しておくことが好ましい。このことで、特定の提供者の細菌叢由来の細菌が必要になった場合に、凍結保存しておいた菌液を用いて、容易にステップ(E)の大量培養を行い、培養された細菌を含む細菌組成物を投与対象者に提供することができる。
また、ステップ(D)で特定された培養対象に、適切な培養条件の異なる細菌が含まれる場合には、培養条件が共通する細菌(コロニー)ごとに分けて、植菌用菌液を調製することが好ましい。
【0050】
以上をまとめると、ステップ(B)乃至ステップ(D2)は、例えば図1乃至図3に示すように行うことができる。
まず、図1に示すように、検体を適宜なバッファや培地に懸濁し、必要に応じて培養や希釈をした後で、適宜な培地のプレート10上にプレーティングしてコロニー11を形成させる。そして、形成されたコロニー11のうち形態学的特徴が異なるコロニーをなるべく等しく含むように、50程度のコロニーを取得し、個別に適宜な液体培地20で培養する(ステップ(B))。
【0051】
次に、図2に示すように、培養後の菌液30を複数、例えば10ずつ混合して混合菌液40を調製し、各混合菌液40に対して16S rRNA遺伝子解析を行って(ステップ(C))、混合菌液40に含まれる細菌の菌種を同定する(ステップ(C))。例えば50コロニー由来の細菌を培養し10ずつ混合すると、5つの混合菌液40に対して解析を行うことになる。
【0052】
その後、図3に示すように、混合菌液40のうち、所望の菌種の細菌のみ含むもの(図3では上側2つ)を培養対象として特定し、それらを混合して、培養対象とする細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物である植菌用菌液50を調製する(ステップ(D)及びステップ(D2))。
【0053】
このとき、少なくとも、植菌用菌液50の調製に用いる複数の混合菌液40に同じ菌種の細菌が含まれていれば、その菌種については、複数のコロニーに由来する細菌が植菌用菌液50に含まれることが保証される。1の混合菌液40にしか含まれない菌種Xがあった場合には、菌種Xが含まれるものであって培養対象とすべき混合菌液40が得られるまでステップ(B)乃至ステップ(D)を繰り返し、当該得られた混合菌液40も植菌用菌液50に混合することで、菌種Xについても、複数のコロニーに由来する細菌が植菌用菌液50に含まれることが保証される。
【0054】
いずれにせよ、ステップ(E)にて、ステップ(D2)で調製した植菌用菌液を適当な液体培地に植菌し、徐々にスケールアップしながら培養することで、植菌用菌液に含まれる細菌、すなわちステップ(D)で培養対象として特定した細菌が混合された状態の菌体を、所望の量だけ得ることができる。
なお、ステップ(E)における植菌の際に、ステップ(D)で培養対象として特定した細菌を予め混合しておくことは、必須ではない。ステップ(D)で培養対象として特定した各細菌を個別に培養しそれらをステップ(E)で用いる培地に個別に植菌することも、可能である。
【0055】
ところで、一般に、同じ菌種であっても、異なる菌株を混ぜて液体培地で大量に培養しようとするととうまく増殖できないことが多いことが知られている。また、異なる菌種を混ぜて液体培地で大量に培養しようとするととうまく増殖できないケースがあることも知られている。したがって、上述したような複数のコロニー由来の細菌を混合した植菌用菌液を液体培地に植菌して増殖させようとしても、収量が伸びないことがある。
【0056】
例えば、発明者らの実験では、ビフィズス菌と同定した複数(数十個)のコロニーから混合菌液を調製して、SCD液体培地(37.5g(1L)中:Casein peptone 17.0g、soy peptone 3.0g、NaCl 5.0g、K2HPO4 2.5g、glucose 2.5g(pH 7.3))に植菌して嫌気条件下37℃で24時間培養しても、菌の増殖性が悪く、充分な収量を得ることが難しい場合があった。
【0057】
一方で、上記SCD液体培地にyeast extractとfructooligosaccharideを添加した新規な改変SCD液体培地A(組成例は実施例1参照)を用い、同様に調製した混合菌液を植菌して同条件で培養したところ、安定して高い収量(例えば実施例1に記載の程度の収量)が得られた。
【0058】
また、乳酸菌と同定した複数(数十個)のコロニーから混合菌液を調製してSCD液体培地(42.5g(1L)中:Casein peptone 17.0g、soy peptone 3.0g、NaCl 5.0g、K2HPO4 2.5g 、glucose 2.5g(pH 7.3))に植菌して嫌気条件下37℃で24時間培養しても、菌の増殖性が悪く、充分な収量を得ることが難しい場合があった。
一方で、上記SCD液体培地にglucoseを増量しyeast extractを添加した改変SCD液体培地B(組成例は実施例2参照)を用い、同様に調製した混合菌液を植菌して同条件で培養したところ、安定して高い収量(例えば実施例2に記載の程度の収量)が得られた。
【0059】
ステップ(D)で特定した培養対象の細菌の菌体を、提供者等への投与に適した量だけ培養しようとする場合、全体としてリットルオーダーでの培養が必要となる。例えば菌株のバリエーションを増やすために50のコロニー由来の細菌をこのオーダーで個別に培養しようとする場合、かなりの手間と費用がかかってしまう。
しかし、今回発明者が新たに見出した組成の培地を用いることにより、異なる菌種や菌株の細菌が混合された状態でも、安定して大量に培養することができ、少ない手間と費用で、提供者の細菌叢における細菌の構成を反映した細菌組成物を大量に製造することができる。
【0060】
また、この発明の細菌組成物の製造方法の別の実施形態は、以上のステップ(A)~(E)に加え、以下のステップ(F)を含む。
(F)上記ステップ(E)で培養された細菌群を増殖可能な状態で含む、上記提供者又はその近親者に投与するための組成物を製造するステップ
このステップ(F)の組成物の製造は、ステップ(E)で必要量培養された菌体から、提供者又はその近親者への投与に適した形態の組成物を製造するステップを含む。
【0061】
この実施形態において、ステップ(E)での菌体の培養では、上述のようにステップ(D2)で調製した複数のコロニー由来の細菌を混合した植菌用菌液を、まず試験管レベルの少量の培地に植菌して培養し、その後、培地の容量をスケールアップしつつ、必要量の菌体が得られるだけ培養すればよい。必要な培地の容量は、培養する菌種によっても異なるが、例えば乳酸菌やビフィズス菌の場合には、2L程度の培地を用いれば、提供者にカプセルの経口摂取により2週間投与するために十分な量の菌体が得られると考えられる。培養に用いる培地は液体培地とし、培地成分、雰囲気及び温度等の条件は、ステップ(B)と同様とするとよい。しかし、より好ましい培養条件がある場合には、他の条件とすることも妨げられない。ステップ(B)では上述した一般的な組成の培地で培養を行い、ステップ(E)では上述の改変した組成の培地で培養を行う等である。
【0062】
培養の終了後は、高速遠心処理等により菌体を培養液から分離し、滅菌生理食塩水等により洗浄した上で、含まれる菌体の増殖能を維持した状態で凍結保存可能な組成物を調製し、凍結保存するとよい。例えば、菌体を10%(w/v)スクロース水溶液に懸濁させて、-80℃で保存することが考えられる。
【0063】
ステップ(D)で特定された培養対象に、適切な培養条件が異なる細菌が含まれる場合には、培養条件が共通する細菌ごとに分けて、それぞれの細菌(群)に適した培養条件で、ステップ(E)の培養を行うとよい。このときには、植菌用菌液も、当該細菌群毎に調製するとよい。そして、菌体を培養液から分離した後で混合し、凍結保存可能な組成物を調製するとよい。このとき、各培養条件のロットから得られた菌体は、単に全量を混合してもよいし、各培養条件で得られた菌数や菌体重量に応じて混合比を調整してもよい。
この凍結保存可能な菌体あるいは凍結された状態の凍結菌液の調製までの手順も、この発明の細菌組成物の製造方法の一実施形態であり、当該菌体又は凍結菌液が、当該実施形態により製造される細菌組成物の一実施形態である。
【0064】
また、ここまでのステップで調製された組成物を用いて、様々な態様での生体への投与に適した組成物を調製することができる。
例えば、凍結菌液を凍結乾燥して、腸内で溶解する耐酸性カプセルに充填することにより、経口投与して、ステップ(E)で培養した菌体を増殖能を維持したまま腸内に供給するために適した組成物を調製することができる。凍結乾燥は、例えば、棚式凍結乾燥機を用いて、真空度10Pa(パスカル)以下、冷却トラップ温度-80℃以下、乾燥棚を一定温度に加温した条件下で、数時間かけて行うことが考えられる。
【0065】
以上のステップ(F)で調製した組成物は、提供者から採取した検体に含まれる細菌叢を構成する細菌のうち、所望の菌種について、当該細菌叢における菌株の分布を一定程度反映した菌株が混合されたものとなっている。
この提供者への投与に適した組成物の調製までの手順も、この発明の細菌組成物の製造方法の一実施形態であり、当該投与に適した組成物が、当該実施形態により製造される細菌組成物の一実施形態である。
また、上記ステップ(A)乃至(F)に加え、(G)上記ステップ(F)で製造した組成物を、上記提供者又はその近親者に提供するステップ、を含み、製造した細菌組成物を提供者に提供する方法は、この発明の細菌組成物の提供方法の実施形態である。
【0066】
以上のステップ(A)乃至(G)の手順は、まとめると、例えば図4に示すように構成することができる。図4のステップS1がステップ(A)に、ステップS2及びS3がステップ(B)に、ステップS4がステップ(C)に、ステップS5がステップ(D)に、ステップS6がステップ(D2)に、ステップS7がステップ(E)に、ステップS8がステップ(F)に、ステップS9がステップ(G)に、それぞれ対応する。ステップS9は、製造された細菌組成物を、それを摂取すべき対象者に提供するステップである。ステップS10は、ステップS3で取得した細菌のうち所望の菌種でなかった細菌を廃棄するステップである。
【0067】
ここで、同じ種の細菌であっても、菌株によってその特性が異なる場合があることはよく知られている。このため、特定の種の細菌を特定の個体の細菌叢内で増やそうとした場合でも、適切な菌株の菌を移植しなければ定着すら難しい可能性もある。一方、細菌叢内に予め含まれていた菌株であれば、少なくとも定着は問題なく行えることが期待でき、体外からの投与によって人工的に菌数を増やすことにより、当該種の細菌を、細菌叢内において効率よく増やせると期待できる。
【0068】
特に、提供者の体調が変化したり、有用菌が減少する等により細菌叢の構成が変わるようなケースにおいて、当該有用菌を「所望の菌種」として製造した上記細菌組成物を投与することで、細菌叢の状態を元の状態に戻すことができると考えられる。またこのことで、提供者の体調に好ましい影響を与えることも期待できる。さらに、植菌用菌液を保存しておけば、必要になった場合に速やかにこのような細菌組成物を製造することができる。
【0069】
このとき、細菌叢内には、同一菌種でも複数の菌株が含まれ得るので、投与する菌株にも、当該複数の菌株が含まれていることが好ましいと考えられる。一方で、細菌叢からコロニーとして取得した全ての細菌について全ゲノム配列を解析する等して菌株の種類まで完全に特定すると、非常に高コストとなる。
【0070】
そこで、上述した実施形態のように、検体の含まれる細菌叢からコロニーとして取得した細菌について、菌種を同定できる程度の精度で低コストの同定を行った上で、所望の菌種についてそれぞれ複数のコロニーの細菌を混合した組成物を調製することにより、低コストで、細菌叢内の菌株の分布をある程度反映した細菌組成物を調製することができる。
【0071】
このような細菌組成物を、検体の提供者の、検体を採取した場所に供給することにより、細菌叢内における所望の種の細菌を、低コストで効果的に増加させることができる。すなわち、細菌叢の状態を改善することができる。また、この細菌叢の改善を通じて、提供者の健康状態の改善につながることも期待できる。
どの種の細菌を増加させることにより提供者の健康状態にどのような変化を与えることが期待できるかについては、適宜公知の知見を適用して予測することができる。
【0072】
なお、検体が糞便である場合には、腸内の細菌叢を含むものであるが、腸内への細菌組成物の直接的な投与は容易でないことから、簡便な手法としてカプセルを用いて経口投与を行う例について説明した。しかし、カプセル以外で胃酸でのダメージを回避する方式で体内にダイレクトに菌体を入れる方式も有用である。例えば、生理食塩水などに懸濁して、内視鏡、内挿管や浣腸で、小腸や大腸へ菌体を挿入することが考えられる。これらの投与のための細菌組成物は、各投与法に適した形態で調製するとよい。
投与の頻度は、毎日、隔日など、適宜に定めればよい。また、投与期間も、1回のみ、数日、1週間、2週間、1ヵ月、数か月等から、投与対象者の経過を見つつ適宜に定めればよい。
【0073】
また、検体を、膣、口腔、鼻腔、皮膚など、体外からのアクセスが容易な部位から採取しており、これらの部位の細菌叢において所望の菌種を増やしたい場合には、当該部位への投与に適した形態の組成物を調製するとよい。
膣であれば膣剤や塗抹液、口腔であればトローチやチュアブル錠、鼻腔であればスプレー剤や塗抹液とすることが考えられる。
【0074】
また、以上のように調製した細菌組成物は、検体を提供した提供者の、検体を採取した部位(糞便の場合には腸内)における細菌叢へ供給するために特に適したものである。しかし、細菌叢の分析等により、提供者と似た細菌叢を有することがわかっている個体であれば、提供者と異なる個体へ供給しても、上述した所望の種の細菌を増加させる効果をある程度発揮できることが考えられる。例えば、提供者と親子や兄弟姉妹の関係にある近親個体は、特に生活を共にする場合に、提供者と近い細菌叢を持つことが考えられる。従って、近親個体への投与は、有用であると考えられる。
【実施例0075】
以下、上述した実施形態を実施した具体的な実施例について説明する。これらの実施例は、本発明がこれらの実施例に限定されることを意味するものではない。
【0076】
〔実施例1〕
本実施例は、便検体から分離したビフィズス菌を含む細菌組成物を製造する例である。
本実施例では、20~30代の3名の人間の提供者から、スクリュー採便管を用いて便検体を採取、各便検体について以下の処理を行った。
便検体を嫌気PBS溶液中に分散させた後、一定期間冷蔵保存した。次いで、この便検体を嫌気PBS溶液で希釈した10倍希釈列を数段階作製し、それぞれTOSプロピオン酸寒天平板培地上にプレーティングし、嫌気条件下37℃で72時間培養した。
【0077】
嫌気PBS溶液の1L当たりの組成は以下の通りである。KH2PO4 4.5g、Na2HPO4 6.0g、L-cysteine 0.5g、agar 0.5g、tween 20 0.5g
TOSプロピオン酸寒天培地の1L当たりの組成は以下の通りである。62.5g(1L)中:Peptone 10.0 g、yeast extract 1.0g、KH2PO4 3.0g、K2HPO4 4.8g、(NH4)2SO4 3.0g、MgSO4・7H2O 0.2g、L-cysteine 0.5g、sodium propionate 15g、galactooligosaccharide 10.0g、agar 15g(pH 6.3)
【0078】
相互に分離した適当な数のコロニーが出現したプレートから、出現したコロニーの形態学的特徴をもとに、形状や色調の異なるコロニーをできる限り選択し、50個のコロニーを採取した。
各コロニーを構成する細菌を、それぞれ改変SCD液体培地A5mLに植菌し、嫌気条件下37℃で24時間培養した。その後、それぞれの培養液に30%(v/v)グリセロール水溶液5mLを添加・混和し、凍結保存用の菌液を作製して-30℃で凍結した。
【0079】
改変SCD液体培地Aの1L当たりの組成は以下の通りである。37.5g(1L)中:Casein peptone 17.0g、soy peptone 3.0g、NaCl 5.0g、K2HPO4 2.5g、glucose 2.5g、yeast extract 5.0g、fructooligosaccharide 2.5g(pH 7.3)
【0080】
また各コロニー由来のグリセロール混和後の菌液の一部を用いて16S rRNA遺伝子解析を行い、当該コロニーから採取した細菌の菌種を同定した。
16S rRNA遺伝子解析は、以下の手順で行った。すなわち、50個の各コロニー由来の50個のグリセロール混和後の菌液を10個ずつ少量ずつ等量混合して、混合液5つとした後、各混合液を4Mグアニジンチオシアネート溶液に分散させ、ジルコニアビーズを添加して攪拌し、物理的破砕を行った。その後、プロメガ社のDNA自動抽出装置Maxwell(商標)を用いてDNAの抽出・精製を行った。鋳型のDNAは、細菌が共通で保有する16S rRNA領域の超可変領域V1からV2を含む、およそ300塩基を増幅するように設計された27Fと338Rに、シークエンスに必要な配列を付加する形で合成したプライマーを用いて増幅した。
【0081】
増幅産物からプライマーやdNTPs(デオキシヌクレオシド三リン酸)などを分解・除去する操作を行なった後、リアルタイムPCRを用いて増幅産物の定量を行った。定量された値を元にライブラリーを作成し、サーモフィッシャーサイエンス社のテンプレート調製自動化装置OneTouchを使用してエマルジョンPCRを行い、得られたビーズを濃縮・精製の後、サーモフィッシャーサイエンス社のシーケンス解析用チップである電子チップ530にローディングした。この電子チップ530をサーモフィッシャーサイエンス社の次世代シークエンサーS5にセットし、シークエンスを行った。
シークエンスで得られた配列データをサーモフィッシャーサイエンス社のIon Reporter(商標)システムに送り、菌種やリード数から計算した存在比率に関するデータを取得した。
【0082】
上記の-30℃で凍結しておいた保存菌液のうち、以上の16S rRNA遺伝子解析によりBifidobacterium属のいずれかの種の細菌のみ存在すると同定した菌液を選択し、それらを等量ずつ混合した植菌用混合菌液を調製後、その分注液を100個の個別容器(チューブ)に封入して-80℃のディープフリーザーで凍結保管した。
以上により、大量培養の際に植菌に用いる、培養対象の各細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物である植菌用混合菌液を調製し、凍結保存することができた。
【0083】
次に、植菌用混合菌液からリットルオーダーで菌体の培養を行い、得られた菌体から乾燥菌末を調製した。
すなわち、まず凍結しておいた植菌用混合菌液0.2mLを改変SCD液体培地A20mLに植菌し、嫌気条件下37℃で48時間培養した。次いで、この培養液を改変SCD液体培地A2.0Lに移植し、さらに嫌気条件下37℃で72時間培養した。
その後、4,000g、15分間の条件で高速遠心を行い、菌体と上清とに分離した。続いて、得られた菌体を滅菌生理食塩水で洗浄した後、菌体を10%(w/v)スクロース水溶液10mLに懸濁させ、-80℃のディープフリーザーで凍結させた。
【0084】
この凍結菌液について、棚式凍結乾燥機を用いて、真空度10パスカル(Pa)以下、冷却トラップ温度-80℃以下、乾燥棚を一定温度に加温した条件下で、数時間かけて十分に乾燥を行って、細菌組成物を得た。
続いて、細菌組成物の重量(菌重量)の計測後、その一部について適当な希釈列を作製してTOSプロピオン酸寒天培地上にプレーティングし、嫌気条件下37℃で48時間培養し、出現したコロニー数に基づき、得られた細菌組成物中の生菌数を測定した。
【0085】
以上の手順により、20~30代の3名の提供者の便検体から調製できた細菌組成物に含まれる細菌の菌種、収量及び生菌数は、それぞれ以下の通りであった。
すなわち、各検体から、提供者毎に異なる種のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属細菌)を、増殖可能な状態で含む細菌組成物を調製することができた。
【0086】
検体1:
菌種:Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum
収量:2.53g
生菌数:20億個
検体2:
菌種:Bifidobacterium longum、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium bifidum
収量:2.13g
生菌数:85億個
検体3:
菌種:Bifidobacterium longum
収量:3.25g
生菌数:6.5億個
【0087】
〔実施例2〕
本実施例は、便検体から分離した乳酸菌(ビフィドバクテリウム属を除く)を含む細菌組成物を製造する例である。
本実施例では、30~60代の3名の人間の提供者から、スクリュー採便管を用いて便検体を採取、各便検体について以下の処理を行った。
【0088】
便検体0.1mLをMRS液体培地10mLに添加し、嫌気条件下37℃で72時間培養した。次いで、この培養液を実施例1と同じ嫌気PBS溶液で希釈した10倍希釈列を数段階作製し、それぞれMRS寒天平板培地上にプレーティングし、好気条件下37℃で48時間培養し、続けて嫌気条件下37℃で24時間培養した。
【0089】
MRS液体培地の1L当たりの組成は以下の通りである。Enzymatic digest of casein 10.0g、meat extract 10.0g、yeast extract 4.0g、glucose 20.0g、tween 80 1.08g、dipotassium phosphate 2.0g、sodium acetate 5.0g、ammonium citrate 2.0g、magnesium sulfate 0.2g、manganese sulfate 0.05g(pH 5.7)
なお、MRS寒天培地は、上記培地組成に寒天15.0gを追加したものを使用した。
【0090】
相互に分離した適当な数のコロニーが出現したプレートから、出現したコロニーの形態学的特徴をもとに、形状や色調の異なるコロニーをできる限り選択し、50個のコロニーを採取した。
各コロニーを構成する細菌を、それぞれMRS液体培地5mLに植菌し、嫌気条件下37℃で48時間培養した。その後、それぞれの培養液に30%(v/v)グリセロール水溶液5mLを添加・混和し、凍結保存用の菌液を作製して-30℃で凍結した。
【0091】
また各コロニー由来のグリセロール混和後の菌液50個を10個ずつ少量ずつ等量混合して、混合液5つとした後、各混合液に対し実施例1と同様な16S rRNA遺伝子解析を行い、当該各混合液に含まれる菌種を同定した。
そして、上記の-30℃で凍結しておいた保存菌液のうち、16S rRNA遺伝子解析により乳酸菌(ここでは、Lactobacillus属、Enterococcus属、Lactococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属のいずれかの属の細菌とした)のみ存在すると同定した菌液を選択し、それらを等量ずつ混合した植菌用混合菌液を調製後、その分注液を100個の個別容器(チューブ)に封入して-80℃のディープフリーザーで凍結保管した。
以上により、大量培養の際に植菌に用いる、培養対象の各細菌を増殖可能な状態で含む細菌組成物である植菌用混合菌液を調製し、凍結保存することができた。
【0092】
次に、植菌用混合菌液からリットルオーダーで菌体の培養を行い、得られた菌体から乾燥菌末を調製した。
すなわち、まず凍結しておいた植菌用混合菌液0.4mLをMRS液体培地20mLに植菌し、嫌気条件下37℃で24時間培養した。次いで、この培養液を改変SCD液体培地B2.0Lに移植し、さらに嫌気条件下37℃で72時間培養した。
【0093】
改変SCD液体培地Bの1L当たりの組成は以下の通りである。42.5g(1L)中:Casein peptone 17.0g、soy peptone 3.0g、NaCl 5.0g、K2HPO4 2.5g、glucose 10.0g、yeast extract 5.0g(pH 7.3)
【0094】
その後、5,000g、15分間の条件で高速遠心を行い、菌体と上清とに分離した。続いて、得られた菌体を滅菌生理食塩水で洗浄した後、菌体を10%(w/v)スクロース水溶液10mLに懸濁させ、-80℃のディープフリーザーで凍結させた。
この凍結菌液を実施例1の場合と同様に凍結乾燥して、本実施例における細菌組成物を得た。
続いて、細菌組成物の重量(菌重量)の計測後、その一部について適当な希釈列を作製してMRS寒天平板培地上にプレーティングし、嫌気条件下37℃で48時間培養し、出現したコロニー数に基づき、得られた細菌組成物中の生菌数を測定した。
【0095】
以上の手順により、30~60代の3名の提供者の便検体から調製できた細菌組成物に含まれる細菌の菌種、収量及び生菌数は、それぞれ以下の通りであった。
すなわち、各検体から、提供者毎に異なる種の乳酸菌を、増殖可能な状態で含む細菌組成物を調製することができた。
【0096】
検体1:
菌種:Lactobachillus
plantarum(Lactiplantibachillus plantarum)
収量:1.65g
生菌数:332億個
検体2:
菌種:Lactobachillus gasseri
収量:1.53g
生菌数:306億個
検体3:
菌種:Enterococcus durans、Enterococcus faecium
収量:2.03g
生菌数:1827億個
【0097】
〔実施例3〕
本実施例は、実施例1又は実施例2と同様な方法により提供者の便検体から調製した細菌組成物を該提供者に摂取させる例である。
摂取試験は、30~60代の男女8名を被験者として行った。この中には、実施例1又は実施例2における提供者も含まれる。
【0098】
この実施例では、実施例1と同様な方法により予め便検体から調製しておいた細菌組成物(ビフィズス菌の乾燥菌末)又は実施例2と同様な方法により予め便検体から調製しておいた細菌組成物(乳酸菌の乾燥菌末)を、耐酸性カプセルに1カプセル当たり約100mg充填し、被験者(提供者)に投与するための細菌組成物とした。
ビフィズス菌及び乳酸菌について、それぞれ4名の被験者に、1日1回食後に1カプセルを2週間にわたり摂取させた際の影響を検討した。
【0099】
摂取期間中において、悪心、嘔吐、下痢や腹痛などの問題となる有害事象は、被験者いずれにおいても検出されなかった。一方、摂取後に個別にアンケートを実施した結果、ビフィズス菌の摂取者と乳酸菌の摂取者ともに、4名中3名の被験者において、すなわち7割以上の被験者で、摂取期間中に便性状の改善や排便回数の増加が確認され、ビフィズス菌や乳酸菌の摂取によると考えられる腸内環境に対する好ましい影響が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のような本発明の細菌組成物の製造方法は、提供者又はその近親者個々人の細菌叢の状態に応じて、細菌叢における特定の菌種を効率よく増やすことができるため、例えばいわゆるオーダーメイド医療において用いるに好適な、受診者の体質改善につながることが期待できる細菌組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0101】
10…プレート、11…コロニー、20…液体培地、30…菌液、40…混合菌液、50…植菌用菌液
図1
図2
図3
図4