(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071900
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20240520BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182398
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 健雄
(72)【発明者】
【氏名】武藤 将史
(72)【発明者】
【氏名】原川 将人
(72)【発明者】
【氏名】田村 匡
(72)【発明者】
【氏名】飯野 隆文
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】溶接における作業工数を正確に見積り溶接作業の作業計画を策定する溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムを提供する。
【解決手段】溶接管理システム50は、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理システム50であって、溶接に関する情報が入力される入力部51と、溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得部52と、溶接対象部位の形状に基づき体積を求め、溶接対象物の溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出部53と、溶接に関する情報および溶金量に基づき、溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出部54と、作業工数を出力する出力部55と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理システムであって、
溶接に関する情報が入力される入力部と、
前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得部と、
前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、前記溶接対象物の溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出部と、
前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出部と、
前記作業工数を出力する出力部と、
を備える溶接管理システム。
【請求項2】
前記工数算出部は、前記溶接対象物の初層の溶接を行う初期溶接の工数と、前記溶接対象物の初層以外の他層の溶接を行う他層溶接の工数と、に基づき前記作業工数を算出する請求項1に記載の溶接管理システム。
【請求項3】
前記工数算出部は、前記溶接対象物の初層の溶接を行う初期溶接と、前記溶接対象物の初層以外の他層の溶接を行う他層溶接とで、異なる係数を用いて前記作業工数を算出する請求項2に記載の溶接管理システム。
【請求項4】
前記初期溶接の前記係数は、前記他層溶接の前記係数よりも前記作業工数が大きくなる値である請求項3に記載の溶接管理システム。
【請求項5】
溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理方法であって、
溶接に関する情報が入力される入力工程と、
前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得工程と、
前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出工程と、
前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出工程と、
前記作業工数を出力する出力工程と、
を備えるコンピュータが実行する溶接管理方法。
【請求項6】
コンピュータに、請求項5に記載の溶接管理方法を実行させるための溶接管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の加工において、材料の接合に溶接が用いられている。特にボイラなどの大型製品の加工を行う場合、溶接作業が多大な量となる。そのため、溶接作業に係る作業工数や費用の算出、また溶接材料の必要量、材料費の算出など、事前に溶接作業に関する作業計画を正確に策定しておくことが求められている。例えば特許文献1では、板材加工製品の作業見積りにおいて、段取り時間、及び部品の最大寸法と素材の板厚との組合せに基づく所定溶接長さ当たりの加工時間に対し、難易度係数及び工数単価を乗じて、製品の溶接についての見積りを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の発明では、作業者の経験に基づき設定される難易度係数を用い工数を算出しており、熟練作業者の経験則に頼らず工数の算出を行う、という課題が解決されていない。また、溶接作業に必要な溶接棒(溶加材)についての検討がなされておらず、溶接棒の準備量の計画が行われていない。
【0005】
例えばボイラの加工、溶接を行う場合、ボイラは水や蒸気が流通する多数の伝熱管や配管から構成されているため、製造にあたり膨大な数の溶接作業を行う必要がある。そのため、ボイラの溶接作業に先立ち、作業計画の策定にあたっては、溶接作業に必要な作業者の人数や工数を適切に把握して計画することが求められている。
【0006】
また溶接に必要な溶接棒の手配にあたり、通常は配管の外径と肉厚に基づき予め定められた相関表などから溶接棒の量を決定しているため、正確な必要量を算出できていない。溶接棒の手配においては、不足を生じさせないために余裕分を考慮した見積り及び手配がなされており、過剰見積りや余剰材が発生する恐れがあった。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、溶接における作業工数を正確に見積り溶接作業の作業計画を策定する溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムは以下の手段を採用する。
本開示の溶接管理システムは、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理システムであって、溶接に関する情報が入力される入力部と、前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得部と、前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、前記溶接対象物の溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出部と、前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出部と、前記作業工数を出力する出力部と、を備える。
【0009】
本開示の溶接管理方法は、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理方法であって、溶接に関する情報が入力される入力工程と、前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得工程と、前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出工程と、前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出工程と、前記作業工数を出力する出力工程と、を備え、コンピュータが実行する。
【0010】
本開示の溶接管理プログラムは、コンピュータに、上述の溶接管理方法を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、従来経験則に従い求めていた作業工数を、作業の熟練度を問わず正確に求めることができ、作業計画の精度が向上する。また、溶接に必要な溶金量を算出することから、溶接用資材の手配において余剰の発生を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の幾つかの実施形態における初期溶接および他層溶接の例を示す図である。
【
図2】本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムの機能の一例を示す図である。
【
図4】本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムの制御フローチャートを示す図である。
【
図5】本開示の幾つかの実施形態における管接続における溶接対象部位を示す図である。
【
図6】本開示の幾つかの実施形態における座繰り部における溶接対象部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係る溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
本開示の溶接管理システム50は、ボイラなどの大型製品における溶接作業の作業工数を見積り、溶接作業の作業計画を策定するものとするが、溶接が行われる製品であればその種類は問わない。
【0014】
図1は、本開示の幾つかの実施形態における初期溶接および他層溶接の例を示す図である。
図1は、配管同士を接続する場合の溶接方法を示す。
図1の例では、溶接対象物としての管母材10及び11を溶接して接続する管の突き合わせ溶接の例を示している。管母材10及び11の厚さ(肉厚)はTである。
図1の管母材10及び11の上方が管母材10及び11の外面、下方が管母材10及び11の内面を示す。
【0015】
溶接を行う場合は、各端部に開先20を加工した管母材10及び11を突き合わせる。管同士の突合せ部分には、一定の隙間(ルートギャップ)を持ったルート面(ルートフェイス)21が設けられる。
【0016】
次に溶接棒を供給しながら開先20内側のルート面21上に初期溶接が行われ、初層30が形成される。初期溶接では、溶接対象物の隙間を埋める必要がある。初期溶接は、隙間を埋めるために溶金を足して溶接対象物同士の橋渡しをしていくブリッジ作業となる。
【0017】
次に、初層30の上に同じく溶接棒を供給しながら他層溶接が行われ、複数の他層41、42、43、44、45が順に形成される。他層溶接では、初期溶接により隙間が埋まった初層30の上での溶接となるため、初期溶接と比較して作業時間が短い。
【0018】
発明者らは、初期溶接の作業時間が、他層溶接の作業時間と比較して長く、他層溶接の約6倍の時間がかかるとの知見を得た。よって、本開示では、他層溶接の係数を1とした場合に、初期溶接の係数を6とするものとする。係数は、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理システムに適用される。
【0019】
図2は、本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
図2に示すように、溶接管理システム(制御装置、Controller)50は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)1100、二次記憶装置(ROM、Secondary storage:メモリ)1200、主記憶装置(RAM、Main Memory)1300、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)1400と、ネットワーク等に接続するための通信部1500とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス1800を介して接続されている。
【0020】
CPU1100は、例えば、バス1800を介して接続された二次記憶装置1200に格納されたOS(Operating System)により溶接管理システム50全体の制御を行うとともに、二次記憶装置1200に格納された各種プログラムを実行することにより各種処理を実行する。CPU1100は、1つ又は複数設けられており、互いに協働して処理を実現してもよい。
【0021】
主記憶装置1300は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPU1100の実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
【0022】
二次記憶装置1200は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置1200は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。二次記憶装置1200の一例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)フラッシュメモリなどが挙げられる。二次記憶装置1200は、例えば、Windows(登録商標)、iOS(登録商標)、Android(登録商標)等の情報処理装置全体の制御を行うためのOS、BIOS(Basic Input/Output System)、周辺機器類をハードウェア操作するための各種デバイスドライバ、各種アプリケーションソフトウェア、及び各種データやファイル等を格納する。また、二次記憶装置1200には、各種処理を実現するためのプログラムや、各種処理を実現するために必要とされる各種データが格納されている。二次記憶装置1200は、複数設けられていてもよく、各二次記憶装置1200に上述したようなプログラムやデータが分割されて格納されていてもよい。
【0023】
また、溶接管理システム50は、アプリケーションとして提供されてもよい。この場合、溶接管理システム50は、前述のコンピュータシステム上で実行され、二次記憶装置1200に格納される。
【0024】
図3は、本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムの機能の一例を示した図である。
図3に示すように、溶接管理システム50は、入力部51と、形状取得部52と、溶金量算出部53と、工数算出部54と、出力部55と、を備えている。
【0025】
溶接管理システム50が備える機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で後述する二次記憶装置1200(
図2参照)などに記憶されており、このプログラムを後述するCPU(プロセッサ)1100(
図2参照)が後述する主記憶装置1300(
図2参照)に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置1200に予めインストールされている形態や、他の非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
【0026】
図3に示される入力部51は、溶接に関する情報が入力される。溶接に関する情報とは、例えば溶接対象物の種類、寸法、外径、厚み(肉厚、板厚)、溶接個所数、溶接個所の長さ、溶接方法の種類、溶接の組合せ、溶接対象物の母材の材質、バックシールドの有無、などである。さらに、作業者区分(業務所掌や資格有無等)、溶接事業者検査の要否、計画日数(溶接期間等であり、必要な作業人員数、1日当たりの作業工数、作業コスト等を算出するための情報)などを含んでもよい。少なくとも、溶接に使用される溶金量および作業工数を算出するために必要な情報が入力される。入力部51への入力は、キーボードやマウス等の入力装置により行われる。CAD図面データ等に格納された各種情報が抽出されたデータファイルを介して入力されてもよい。
【0027】
形状取得部52は、入力部51から入力された溶接に関する情報に基づき、溶接対象物の溶接対象部位の形状を取得する。溶接対象部位の形状には、後述する
図5の管接続の溶接や、
図6の座繰り部の溶接などがあり、溶接対象物や溶接の形態に応じて溶接対象部位の形状を得る。
【0028】
溶金量算出部53は、形状取得部52で算出された溶接対象部位の形状に基づき、溶接対象部位の体積を求める。求められた溶接対象部位の体積は、溶接に必要な溶金量の体積に相当するため、溶金量を算出することができる。溶接対象部位の体積は、例えば溶接対象が管である場合、管の外径、厚み(肉厚)及び開先の形状から算出される。
【0029】
工数算出部54は、溶金量算出部53で算出された溶金量と、入力部51から入力された溶接に関する情報に基づき、溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する。
【0030】
出力部55は、工数算出部54が算出した作業工数を出力する。出力部55の出力は、データを表示する液晶表示装置等の表示装置に渡され、表示装置により表示される。表示装置は、ランプ、音、特にアラーム音を出力するスピーカーなどの通知部を備えていてもよい。
【0031】
図4は、本開示の幾つかの実施形態における溶接管理システムの制御フローチャートを示す図である。
【0032】
ステップS401において、入力部51に溶接に関する情報が入力される。溶接に関する情報は、例えば既定の情報が既に登録されており、登録済の情報から選択する方式であるとしてもよい。
【0033】
ステップS402において、形状取得部52は、ステップS401において入力部51で入力された溶接に関する情報に基づき、溶接対象物の溶接対象部位の形状を取得する。
【0034】
ステップS403において、溶金量算出部53は、ステップS402において形状取得部52が取得した溶接対象物の溶接対象部位の形状に基づき、溶接対象部位の体積を求める。溶金は溶接対象部位を満たす体積となることから、溶接対象部位の体積が、溶金の体積となる。よって溶金量算出部53は、溶金の体積から溶金量を算出する。
【0035】
ここで、溶接の工程は初期溶接と他層溶接とに分けられる。初期溶接に用いられる溶金量を初期溶金量、他層溶接に用いられる溶金量を他層溶金量とすると、溶金量は、次の(1)式で定義される。
【0036】
[数1]
(溶金量)=(初層溶金量)+(他層溶金量)・・・(1)
【0037】
初層溶金量については、溶接の種類、溶接対象の形状など溶接に関する情報に基づき算出または設定される。他層溶金量については、溶金量算出部53が算出した溶金量から、初層溶金量を減算することで求められる。
【0038】
ステップS404において、工数算出部54は、ステップS403において溶金量算出部53が算出した溶金量に基づき、作業工数(必要作業時間)を求める。溶接は初期溶接と他層溶接とに分けられ、初期溶接に係る作業工数を初層溶接作業工数、他層溶接に係る作業工数を他層溶接作業工数とすると、溶接に係る作業工数は、次の(2)式で求められる。
【0039】
[数2]
(作業工数)=(初層溶接作業工数)+(他層溶接作業工数)・・・(2)
【0040】
初層溶接作業工数は、初期溶接を行う場合の作業工数である。初層溶接作業工数は、初層溶金量と、単位体積当たりの平均初層溶接作業工数とから求められ、次の(3)式で表される。
【0041】
[数3]
(初層溶接作業工数)={(初層溶金量)/(単位体積当たりの平均初層溶接作業工数)}×(材質などに基づく係数)・・・(3)
【0042】
単位体積当たりの平均初層溶接作業工数は、初期溶接における単位体積当たりの平均溶接作業工数である。初期溶接における単位体積当たりの平均溶接作業工数は、溶接作業の実績に基づき設定された値である。単位体積当たりの平均初層溶接作業工数は、溶接の形態によって変更可能である。
【0043】
他層溶接作業工数は、他層溶接を行う場合の作業工数である。他層溶接作業工数は、他層溶金量と、単位体積当たりの平均他層溶接作業工数とから求められ、次の(4)式で表される。
【0044】
[数4]
(他層溶接作業工数)={(他層溶金量)/(単位体積当たりの平均他層溶接作業工数)}×(材質などに基づく係数)・・・(4)
【0045】
単位体積当たりの平均他層溶接作業工数は、他層溶接における単位体積当たりの平均溶接作業工数である。他層溶接における単位体積当たりの平均溶接作業工数は、溶接作業の実績に基づき設定された値である。単位体積当たりの平均他層溶接作業工数は、溶接の形態によって変更可能である。
【0046】
(3)式及び(4)式における「材質などに基づく係数」は、溶接対象の材質によって溶接の難しさが異なるため、材質ごとに溶接に要する時間の度合いを数値化し係数に表したものである。本実施形態では、材質に基づく係数の他に、開先形状に基づく係数、曲率による溶接の難しさに基づく係数、作業人員数に基づく係数、溶接の種類に基づく係数、バックシールドの有無に基づく係数などが用いられてもよい。また、複数の係数を用いるとしてもよい。
【0047】
ここで、単位体積当たりの平均初層溶接作業工数と単位体積当たりの平均他層溶接作業工数の係数の割合は、次の(5)式で表される。
【0048】
[数5]
(単位体積当たりの平均初層溶接作業工数):(単位体積当たりの平均他層溶接作業工数)=6:1・・・(5)
【0049】
初期溶接の作業時間は、他層溶接の作業時間と比較して長く、他層溶接よりも時間がかかる。よって、本開示では、例えば他層溶接の係数を10とした場合に、初期溶接の係数を60とする。初期溶接と他層溶接の係数の割合については、本数値に関わらず、溶接の形態によって変更可能である。
【0050】
ステップS405において、出力部55は、ステップS404において工数算出部54が算出した作業工数を出力する。出力部55は、溶金量算出部53が算出した溶金量を出力するとしてもよい。また、作業工数及び作業者数に基づき、作業日数や作業時間などを出力するとしてもよい。
【0051】
図5は、本開示の幾つかの実施形態における管接続における溶接対象部位を示す図である。
図5では、管母材80及び管母材81の断面を示している。管母材80及び管母材81の管接続において溶接を行うものとする。
図5の黒塗り部分である溶接部分65は、管母材80及び81のルート面に設けられた隙間(ルートギャップ)の溶接部分(溶金)を示し、網掛け部分である溶接部分66は、ルートギャップを除いた開先部の溶接部分(溶金)を示す。以下に、管接続における作業工数の算出について示す。
【0052】
溶接管理システム50の入力部51には、溶接対象物(管母材80及び81)の種類、寸法、管外径(2×r2)、厚み(t)、溶接対象物の母材の材質などが入力される。
【0053】
形状取得部52は、溶接に関する情報に基づき、
図5の溶接部分65及び66のように管母材80及び81の溶接対象部位の形状を取得する。本実施形態の場合、厚みtの管母材80及び81の開先がV型開先であって、開先の管母材80及び81の外側の開始端から内側の終了端までの管母材80及び81が延びる方向の長さがbの形状である。また、管母材80及び81のルート面に長さaのルートギャップがある。
【0054】
溶金量算出部53は、溶接対象部位の形状に基づき、体積を求める。
管母材80及び81のルート面に設けられた溶接部分65のルートギャップの長さをaとすると、溶接部分65の体積は次の(6)式で表される。
【0055】
[数6]
(溶接部分65の体積)=π×r22×a-π×r12×a・・・(6)
【0056】
(6)式において、r1は管母材80及び81の内径側(内側)の半径、r2は管母材80及び81の外径側(外側)の半径である。
【0057】
溶接部分66の体積は、半径r2、高さbの円柱の体積から、上面の半径r1、底面の半径r2、高さbの円錐台の体積を減算し、2倍することで求められる。よって溶接部分66の体積は、次の(7)式で表される。
【0058】
[数7]
(溶接部分66の体積)=〔(π×r22×b)-{1/3×π×b×(r12+r1×r2+r22)}〕×2・・・(7)
【0059】
(7)式において、r1は管母材80及び81の内径側(内側)の半径、r2は管母材80及び81の外径側(外側)の半径である。
【0060】
以上より、溶接部分65及び66の体積が求められる。溶金は溶接部分65及び66を満たす体積となることから、溶接部分65の体積と溶接部分66の体積とを足し合わせた体積が、管母材80及び81の溶接に必要な溶金量の体積となる。
【0061】
工数算出部54は、溶金量算出部53で算出された溶金量と、溶接に関する情報に基づき、溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する。
【0062】
管母材80及び81の溶接において、溶接部分65の管母材80及び81の内径側(内側)、すなわち開先内側のルート面上の最初に溶接される部分(数mm、さらに具体的には1乃至2mm)が初期溶接による初層である。また、初層以外の溶接部分65および溶接部分66が他層溶接による他層である。よって、溶接部分65の初層の体積を(3)式に代入して初期溶接の作業工数を算出し、溶接部分65の初層以外の体積および溶接部分66の体積を(4)式に代入して他層溶接の作業工数を算出する。算出された各作業工数を(2)式に代入して、溶接全体の作業工数を算出する。
【0063】
出力部55は、算出された作業工数および溶金量を出力する。
【0064】
図6は、本開示の幾つかの実施形態における座繰り部における溶接対象部位を示す図である。
図6では、部材70及び管母材71の断面を示している。部材70及び管母材71の座繰り接続において溶接を行うものとする。
図6の網掛け部分である溶接部分75は、部材70の座繰りを行って管母材71を挿入した場合の溶接部分(溶金)を示し、黒塗り部分である溶接部分76は、隅肉溶接の溶接部分(溶金)を示す。以下に、座繰り部における作業工数の算出について示す。
【0065】
溶接管理システム50の入力部51には、溶接対象物(部材70及び管母材71)の種類、寸法、管(外径2×r3)、厚み(t1)、溶接対象物の母材の材質などが入力される。
【0066】
形状取得部52は、溶接に関する情報に基づき、
図6の溶接部分75及び76のように部材70及び管母材71の溶接対象部位の形状を取得する。本実施形態の場合、座繰り部の深さがt2、座繰り部外側斜面と垂線(部材70が延びる方向に対する垂線)とのなす角がθ、座繰り部の部材70内部側の管母材71からの長さがc、である。また、溶接部分76の高さ及び脚の長さが管母材71の厚みと同じt1である。
【0067】
溶金量算出部53は、溶接対象部位の形状に基づき、体積を求める。
溶接部分75の体積は、上面の半径r3+c、底面の半径r3+c+t2tanθ、高さt2の円錐台の体積から、半径r3、高さt2の円柱の体積を減算することで求められる。よって溶接部分75の体積は、次の(8)式で表される。
【0068】
[数8]
(溶接部分75の体積)=〔1/3×π×t2×{(r3+c)2+(r3+c)×(r3+c+t2tanθ)+(r3+c+t2tanθ)2}〕-(π×r32×t2)・・・(8)
【0069】
溶接部分76の体積は、上面の半径r3、底面の半径r3+t1、高さt1の円錐台の体積から、半径r3、高さt1の円柱の体積を減算することで求められる。よって、溶接部分76の体積は、次の(9)式で表される。
【0070】
[数9]
(溶接部分76の体積)=〔1/3×π×t1×{r32+r3×(r3+t1)+(r3+t1)2}〕-(π×r32×t1)・・・(9)
【0071】
以上より、溶接部分75及び76の体積が求められる。溶金は溶接部分75及び76を満たす体積となることから、溶接部分75の体積と溶接部分76の体積とを足し合わせた体積が、溶金量の体積となる。
【0072】
工数算出部54は、溶金量算出部53で算出された溶金量と、溶接に関する情報に基づき、溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する。
【0073】
座繰り部の溶接においては、全ての溶接が他層溶接であるとして作業工数の算出を行う。よって、(4)式を用いて作業工数の算出を行う。
【0074】
出力部55は、算出された作業工数および溶金量を出力する。
【0075】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の溶接管理システム、溶接管理方法、及び溶接管理プログラムは、例えば以下のように把握される。
【0076】
本開示の第1態様は、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理システム(50)であって、溶接に関する情報が入力される入力部(51)と、前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得部(52)と、前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、前記溶接対象物の溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出部(53)と、前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出部(54)と、前記作業工数を出力する出力部(55)と、を備える。
【0077】
溶接対象部位の形状から得られた溶金量に基づいて作業工数を算出することとしたので、従来経験則に従い求めていた溶接の作業工数を、作業の熟練度を問わず正確に求めることができ、作業計画の精度が向上する。また、溶接に必要な溶金量を算出することから、溶接用資材の手配において余剰の発生を最小限に抑えることができる。
【0078】
本開示の第2態様は、前記第1態様において、前記工数算出部は、前記溶接対象物の初層の溶接を行う初期溶接の工数と、前記溶接対象物の初層以外の他層の溶接を行う他層溶接の工数と、に基づき前記作業工数を算出するとしてもよい。
【0079】
作業工数を、初期溶接の工数および他層溶接の工数から算出するため、より正確に工数を算出することができ、作業計画の精度が向上する。
【0080】
本開示の第3態様は、前記第2態様において、前記工数算出部は、前記溶接対象物の初層の溶接を行う初期溶接と、前記溶接対象物の初層以外の他層の溶接を行う他層溶接とで、異なる係数を用いて前記作業工数を算出するとしてもよい。
【0081】
初期溶接と他層溶接とで異なる係数を用いて作業工数を算出するため、より正確に工数を算出することができ、作業計画の精度が向上する。
【0082】
本開示の第4態様は、前記第3態様において、前記初期溶接の前記係数は、前記他層溶接の前記係数よりも前記作業工数が大きくなる値であるとしてもよい。
【0083】
初期溶接は、隙間を埋めるためにブリッジ作業を行う必要があり、他層溶接よりも時間を要する。初期溶接の係数を他層溶接よりも大きくすることで、初期溶接に要する時間を精度高く算出することができる。
【0084】
本開示の第5態様は、溶接対象物に対する溶接の作業計画の管理を行う溶接管理方法(50)であって、溶接に関する情報が入力される入力工程と、前記溶接対象物の溶接対象部位の形状を得る形状取得工程と、前記溶接対象部位の前記形状に基づき体積を求め、溶接に必要な溶金量を算出する溶金量算出工程と、前記溶接に関する情報および前記溶金量に基づき、前記溶接対象物の溶接に必要な作業工数を算出する工数算出工程と、前記作業工数を出力する出力工程と、を備え、コンピュータが実行する。
【0085】
本開示の第6態様は、コンピュータに、前記第5態様の溶接管理方法を実行させるための溶接管理プログラム(50)である。
【符号の説明】
【0086】
10 管母材
11 管母材
20 開先
21 ルート面
30 初層
41、42、43、44、45 他層
50 溶接管理システム
51 入力部
52 形状取得部
53 溶金量算出部
54 工数算出部
55 出力部
65 溶接部分
66 溶接部分
70 部材
71 管母材
75 溶接部分
76 溶接部分
80 管母材
81 管母材
1100 CPU
1200 二次記憶装置
1300 主記憶装置
1400 ハードディスクドライブ
1500 通信部
1800 バス