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特開2024-7191撥水性組成物、及びそれを使用した繊維構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007191
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】撥水性組成物、及びそれを使用した繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240111BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C09K3/18 102
D06M15/277
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108487
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上枝 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】主森 敬一
(72)【発明者】
【氏名】南 晋一
(72)【発明者】
【氏名】川部 留美
(72)【発明者】
【氏名】原 良輔
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直人
【テーマコード(参考)】
4H020
4L033
【Fターム(参考)】
4H020AA03
4H020BA12
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC03
4L033CA22
(57)【要約】
【課題】優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着を提供する。
【解決手段】示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃未満である含フッ素重合体(I)と、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃以上である含フッ素重合体(II)とを含み、含フッ素重合体(I)と、含フッ素重合体(II)との質量比は、(I)/(II)=10/90~90/10である、撥水性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃未満である含フッ素重合体(I)と、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃以上である含フッ素重合体(II)とを含み、
前記含フッ素重合体(I)と、前記含フッ素重合体(II)との質量比は、(I)/(II)=10/90~90/10である、撥水性組成物。
【請求項2】
前記含フッ素重合体(I)および前記含フッ素重合体(II)は、含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体であり、
前記含フッ素単量体(a1)は、
式:CH2=C(-X1)-C(=O)-Y1-Z1-Rf1
[式中、X1はハロゲン原子であり、Y1は-O-または-NH-であり、Z1は直接結合または二価の有機基であり、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物であり、
前記含フッ素単量体(a2)は、
式:CH2=C(-X2)-C(=O)-Y2-Z2-Rf2
[式中、X2は一価の有機基または水素原子であり、Y2は-O-または-NH-であり、Z2は直接結合または二価の有機基であり、Rf2は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物である、請求項1記載の撥水性組成物。
【請求項3】
前記含フッ素重合体(I)および前記含フッ素重合体(II)は、ハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体である、請求項1または2記載の撥水性組成物。
【請求項4】
合成繊維からなる繊維基材と、請求項1または2記載の撥水性組成物と、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とを有し、
前記撥水性組成物と、前記水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とは、前記合成繊維の表面に固定化された、撥水性繊維構造物。
【請求項5】
前記合成繊維の断面形状は、外周に広幅部を有する溝部を複数有する形状である、請求項4記載の撥水性繊維構造物。
【請求項6】
前記溝部の深さは、1.0~10.0μmであり、
前記溝部の入り口の幅は、0.5~5.0μmであり、
前記溝部の数は、3~10個である、請求項5記載の撥水性繊維構造物。
【請求項7】
前記合成繊維は、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維を含む、請求項4記載の撥水性繊維構造物。
【請求項8】
保水率が撥水性繊維構造物の質量全体の30質量%以下である、請求項4記載の撥水性繊維構造物。
【請求項9】
請求項4記載の撥水性繊維構造物を用いた水着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着に関する。より詳細には、本発明は、織物などの繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで、優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する撥水性繊維構造物を得ることできる撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水撥油性を付与し、生地内に水が含浸せず低保水性を持った繊維製品が、スポーツ、アウトドア向けで特に要望されている。このような製品を得るため、フッ素系撥水撥油剤が広く使用されている。たとえば、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有するアクリレート共重合体からなる撥水成分と環状シリコーンをメラミン樹脂やイソシアネート化合物で固着させることで生地の低保水性を得る方法や(特許文献1)、炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体とフッ化モノマーとのフッ素重合体に非フッ素撥水成分を含む撥水剤を使用し、メラミン樹脂やイソシアネート化合物を付与する方法が知られている(特許文献2)。また、炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物以外のフッ素系撥水剤を繊維に使用したものとしてフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体にフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンを重合させたフッ素重合体が提案されている(特許文献3)。ほかにも、(A)フルオロアルキル基を有するα-ハロゲンアクリレートである含フッ素単量体、(B)フッ素原子を含まない単量体から誘導された繰り返し単位を有してなる含フッ素重合体を含む表面処理剤が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-209763号公報
【特許文献2】特開2014-194098号公報
【特許文献3】特開2012-97125号公報
【特許文献4】国際公開第2004/096939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~2に記載の方法には以下の問題がある。これらの文献に記載の撥水性組成物では、2種の撥水成分を用いているが、環状シリコーンや非フッ素撥水成分は撥水性・耐久性が低いことから、フッ素撥水成分と混合した際に性能を低下させる。よって、これらの撥水性組成物を適用した織物などの繊維基材では、高い撥水性と低保水性とその耐久性を両立することができない問題がある。
【0005】
さらに、撥水性の耐久性を付与するために使用されるメラミン樹脂は、非常に硬い樹脂被膜となり、洗濯や着用時の物理的な揉みや摩耗によって亀裂が入り、水中に浸漬した場合など、亀裂から布帛構造内部に水が含浸しやすく、低保水性が低下するとの問題がある。
【0006】
特許文献3に記載の方法によれば、重合体を繊維に固着させただけでは低保水性得ることが難しい。特にポリウレタン繊維を含むような繊維布帛に適用した場合、ポリウレタン繊維は、表面に撥水剤が付着しにくく、低保水性が得られないとの問題がある。
【0007】
特許文献4に記載の方法によれば、洗濯耐久性が充分でないとの問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着には、以下の構成が主に含まれる。
【0010】
(1)示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃未満である含フッ素重合体(I)と、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃以上である含フッ素重合体(II)とを含み、前記含フッ素重合体(I)と、前記含フッ素重合体(II)との質量比は、(I)/(II)=10/90~90/10である、撥水性組成物。
【0011】
このような構成によれば、撥水性組成物は、織物などの繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで、優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する撥水性繊維構造物を得ることができる。
【0012】
(2)前記含フッ素重合体(I)および前記含フッ素重合体(II)は、含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体であり、
前記含フッ素単量体(a1)は、
式:CH2=C(-X1)-C(=O)-Y1-Z1-Rf1
[式中、X1はハロゲン原子であり、Y1は-O-または-NH-であり、Z1は直接結合または二価の有機基であり、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物であり、
前記含フッ素単量体(a2)は、
式:CH2=C(-X2)-C(=O)-Y2-Z2-Rf2
[式中、X2は一価の有機基または水素原子であり、Y2は-O-または-NH-であり、Z2は直接結合または二価の有機基であり、Rf2は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物である、(1)記載の撥水性組成物。
【0013】
このような構成によれば、撥水性組成物は、織物などの繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで、優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性を有する。
【0014】
(3)前記含フッ素重合体(I)および前記含フッ素重合体(II)は、ハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体である、(1)または(2)記載の撥水性組成物。
【0015】
このような構成によれば、撥水性組成物は、織物などの繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで、優れた洗濯耐久性を有する。
【0016】
(4)合成繊維からなる繊維基材と、(1)~(3)のいずれかに記載の撥水性組成物と、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とを有し、前記撥水性組成物と、前記水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とは、前記合成繊維の表面に固定化された、撥水性繊維構造物。
【0017】
このような構成によれば、撥水性繊維構造物において撥水性組成物は、繊維基材を構成する合成繊維の表面に柔軟性と優れた撥水性とを併せ持つ皮膜を形成し得る。その結果、撥水性繊維構造物は、水が浸み込みにくく、優れた低保水性を示す。
【0018】
(5)前記合成繊維の断面形状は、外周に広幅部を有する溝部を複数有する形状である、(4)記載の撥水性繊維構造物。
【0019】
このような構成によれば、合成繊維は、溝部の入り口が狭いことにより、水滴が入り込みにくく、さらには溝部に取り込まれた空気が、水滴を押し上げるように作用するため空気層を維持することによって、撥水効果が向上する。さらに、溝内部に付着した撥水成分は、外部からの力を受けにくく、撥水剤などが脱落しにくく、高い耐久性を付与することができる。
【0020】
(6)前記溝部の深さは、1.0~10.0μmであり、前記溝部の入り口の幅は、0.5~5.0μmであり、前記溝部の数は、3~10個である、(5)記載の撥水性繊維構造物。
【0021】
このような構成によれば、撥水性繊維構造物は、ロータス効果による撥水性向上効果が発現しやすく、かつ、充分な繊維の強度が得られやすい。
【0022】
(7)前記合成繊維は、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維を含む、(4)~(6)のいずれかに記載の撥水性繊維構造物。
【0023】
このような構成によれば、撥水性繊維構造物は、合成繊維と多官能性ブロックイソシアネートとの接着性が優れる。これにより、撥水性繊維構造物は、耐久性に優れ水中での使用や洗濯耐久性が優れる。
【0024】
(8)保水率が撥水性繊維構造物の質量全体の30質量%以下である、(4)~(7)のいずれかに記載の撥水性繊維構造物。
【0025】
このような構成によれば、撥水性繊維構造物は、たとえば水着やアウトドア向けに使用される場合に好適である。
【0026】
(9)(4)~(8)のいずれかに記載の撥水性繊維構造物を用いた水着。
【0027】
このような構成によれば、水着は、水中での撥水性、低保水性が優れ、かつ耐久性が優れ、水中での長時間使用や洗濯にも優れた耐久性を示す。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、優れた撥水性、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する撥水性組成物、撥水性繊維構造物および水着を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<撥水性組成物>
本発明の一実施形態の撥水性組成物は、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃未満である含フッ素重合体(I)と、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃以上である含フッ素重合体(II)とを含む。含フッ素重合体(I)と、含フッ素重合体(II)との質量比は、(I)/(II)=10/90~90/10である。撥水性組成物は、さらに、(1)液状媒体、および、(2)界面活性剤を含んでよい。以下、それぞれについて説明する。
【0030】
本実施形態の含フッ素重合体(含フッ素重合体(I)および含フッ素重合体(II))は、含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位を有することが好ましい。含フッ素重合体は、含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位のみを有していてよい。含フッ素重合体は、含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位に加えて、ハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導された繰り返し単位を有していてよい。
【0031】
示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃未満である含フッ素重合体(I)、および、示差走査熱量測定の熱吸収ピークが50℃以上である含フッ素重合体(II)は、第1含フッ素単量体(a1)、第2含フッ素単量体(a2)、非フッ素単量体の量比を調整することにより調製し得る。
【0032】
(a)含フッ素単量体
含フッ素単量体(a)は、フルオロアルキル基およびα位にハロゲン基を有するアクリル酸基を有する第1含フッ素単量体(a1)と、フルオロアルキル基およびα位に一価の有機基または水素原子を有するアクリル酸基を有する第2含フッ素単量体(a2)との組合せを含むことが好ましい。
【0033】
(a1)第1含フッ素単量体
第1含フッ素単量体(a1)は、
式:CH2=C(-X1)-C(=O)-Y1-Z1-Rf1
[式中、X1はハロゲン原子であり、Y1は-O-または-NH-であり、Z1は直接結合または二価の有機基であり、Rf1は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物である。
【0034】
第1含フッ素単量体(a1)は、上記構造の中でも、X1は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であることが好ましく、X1は塩素原子であることが好ましい。Y1は-O-であることが好ましい。Z1は、直接結合、炭素数1~10の脂肪族基、炭素数6~18の芳香族基または環状脂肪族基、式-R2(R1)N-SO2-または式-R2(R1)N-CO-で示される基(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基であり、R2は、炭素数1~10の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基である。)、あるいは、式-CH2CH(OR3)CH2-(Ar-O)p-(式中、R3は、水素原子または炭素数1~10のアシル基(例えば、ホルミルまたはアセチルなど)、Arは、置換基を必要により有するアリーレン基、pは0または1を表す。)で示される基、あるいは、式-(CH2)n-Ar-(O)q-(式中、Arは、置換基を必要により有するアリーレン基、qは0または1である。)で示される基、-(CH2)m-SO2-(CH2)n-基または、-(CH2)m-S-(CH2)n-基(但し、mは1~10、nは0~10である。)である。脂肪族基は、アルキレン基(特に炭素数は1~4、例えば1または2である。)であることが好ましい。芳香族基または環状脂肪族基は、置換または非置換であってよい。S基または、SO2基はRf1基に直接に結合していてよい。
【0035】
(a2)第2含フッ素単量体
第2含フッ素単量体(a2)は、
式:CH2=C(-X2)-C(=O)-Y2-Z2-Rf2
[式中、X2は一価の有機基または水素原子であり、Y2は-O-または-NH-であり、Z2は直接結合または二価の有機基であり、Rf2は炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物である。
【0036】
第2含フッ素単量体(a2)は、上記構造の中でも、X2は、一価の有機基または水素原子であり、Y2は、-O-または-NH-であり、Z2は、直接結合または二価の有機基であり、Rf2は、炭素数1~20のフルオロアルキル基である化合物であることが好ましい。X2は、炭素数2~21の直鎖状または分岐状のアルキル基、または水素原子であることが好ましい。X2はメチル基、水素原子が好ましい。Y2は、-O-であることが好ましい。Z2の例は、直接結合、炭素数1~10の脂肪族基、炭素数6~18の芳香族基または環状脂肪族基、式-R2(R1)N-SO2-または式-R2(R1)N-CO-で示される基(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基であり、R2は、炭素数1~10の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基である。)、あるいは、式-CH2CH(OR3)CH2-(Ar-O)p-(式中、R3は、水素原子または炭素数1~10のアシル基(例えば、ホルミルまたはアセチルなど)、Arは、置換基を必要により有するアリーレン基、pは0または1を表す。)で示される基、あるいは、式-(CH2)n-Ar-(O)q-(式中、Arは、置換基を必要により有するアリーレン基、qは0または1である。)で示される基、-(CH2)m-SO2-(CH2)n-基または-(CH2)m-S-(CH2)n-基(但し、mは1~10、nは0~10である。)である。脂肪族基は、アルキレン基(特に炭素数は1~4、例えば1または2である。)であることが好ましい。芳香族基または環状脂肪族基は、置換または非置換であってよい。S基またはSO2基はRf2基に直接に結合していてよい。
【0037】
(b)非フッ素単量体
非フッ素単量体は、ハロゲン化オレフィン単量体(b)等である。ハロゲン化オレフィン単量体(b)は特に限定されない。一例を挙げると、ハロゲン化オレフィン単量体(b)は、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンである。
【0038】
本実施形態の撥水性組成物は、含フッ素重合体(I)および含フッ素重合体(II)が、上記第1含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および上記第2含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体であることにより、繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで、撥水性が優れる。
【0039】
含フッ素重合体(I)および含フッ素重合体(II)において、第1含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および第2含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位の割合は、10:90~90:10であることが好ましく、25:75~90:10であることがより好ましい。第1含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位および第2含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位の割合が上記範囲内であることにより、撥水性組成物は、繊維基材を構成する繊維の表面に固定化することで撥水性の洗濯耐久性が優れる(撥水性が、洗濯を繰り返しても低下しにくい)。
【0040】
また、本実施形態の撥水性組成物は、第1含フッ素単量体(a1)、第2含フッ素単量体(a2)およびハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導される繰り返し単位を有する含フッ素重合体であることにより、撥水性組成物が繊維基材を構成する繊維の表面に固定化されることで撥水性の洗濯耐久性が優れる。
【0041】
含フッ素重合体(I)および含フッ素重合体(II)において、第1含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、第2含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位およびハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導される繰り返し単位の割合は、第1含フッ素単量体(a1)と第2含フッ素単量体(a2)の合計に対してハロゲン化オレフィン単量体が0~60%であることが好ましく、10~40%であることがより好ましい。第1含フッ素単量体(a1)から誘導される繰り返し単位、第2含フッ素単量体(a2)から誘導される繰り返し単位およびハロゲン化オレフィン単量体(b)から誘導される繰り返し単位の割合が上記範囲内であることにより、撥水性組成物は、繊維基材を構成する繊維の表面に固定化されることで撥水性の洗濯耐久性が優れる。
【0042】
また、本実施形態の撥水性組成物の製造過程や、本実施形態の撥水性組成物を適用した撥水性繊維構造物の製造過程などにおいて、含フッ素重合体は、有機溶媒に溶解した溶液の形態で存在してもよく、水系分散体の形態で存在することが好ましい。
【0043】
(1)液状媒体
液状媒体は、水系媒体であってよい。液状媒体は、水の単独、あるいは、水と(水混和性)有機溶媒との混合物であってもよい。有機溶媒の量は、液状媒体に対して、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。有機溶媒の量は、液状媒体に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。液状媒体は、水の単独であることが好ましい。液状媒体は、有機溶媒のみであってもよい。ここで、液状媒体は、以下のように用いることができる。すなわち、液状媒体は、本実施形態の撥水性組成物を分散させて処理剤組成物とし、繊維基材を構成する合成繊維の表面に撥水性組成物を固定させる工程において用いることができる。
【0044】
(2)界面活性剤
表面処理剤組成物が水性分散液である場合、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤またはアニオン界面活性剤のうち、少なくとも1種を含む。さらに、界面活性剤は、両性界面活性剤を含んでもよい。なお、表面処理剤組成物とは、本実施形態の撥水性組成物と溶媒とを少なくとも有するものであり、「撥水剤」と称することもある。
【0045】
本実施形態において、含フッ素重合体の示差走査熱量測定の熱吸収ピーク温度は、繊維基材上での撥水性組成物の被膜の均一性や柔軟性に影響し、撥水度、低保水性、耐久性を変化させる。熱吸収ピーク温度が高い場合、繊維基材上で硬い被膜が形成されやすい。そのため、得られる構造物は、撥水度が高く、環境応答性が低くなるが、風合いが硬くなり、皮膜に亀裂が入りやすい。その結果、構造物は、亀裂から水が浸み込むことで、低保水性を維持できなくなりやすい。一方、熱吸収ピーク温度が低い場合、比較的柔らかい皮膜が得られ、耐久性が高くなる傾向がある。
【0046】
すなわち、本実施形態の撥水性組成物は、熱吸収ピーク温度が比較的高い含フッ素重合体(含フッ素重合体(II))と、比較的低い含フッ素重合体(含フッ素重合体(I))とを、所定の質量比となるよう混合することにより、両重合体の特徴を両立し、高撥水性、低保水性、および高耐久性の発現を見出したものである。
【0047】
より詳細には、本実施形態の撥水性組成物は、両含フッ素重合体を区別する際の熱吸収ピーク温度として、「50℃」を境界することを特徴とする。これは、加熱時に皮膜の形成時に熱吸収ピーク温度の差が生じ、柔軟性と優れた撥水性とを併せ持つ皮膜を形成しうるという理由による。
【0048】
含フッ素重合体(I)の熱吸収ピーク温度は、50℃未満であればよく、45℃以下であることが好ましい。一方、含フッ素重合体(II)の熱吸収ピーク温度は、50℃以上であればよく、55℃以上であることが好ましい。
【0049】
含フッ素重合体(I)と、含フッ素重合体(II)との質量比は、(I)/(II)=10/90~90/10であればよく、20/80~80/20であることがより好ましい。含フッ素重合体(I)の割合が10質量%未満であり、含フッ素重合体(II)の割合が90質量%を超える場合、撥水性組成物は、繊維基材を構成する繊維の表面に固定化された際に撥水性が低下する。一方、含フッ素重合体(I)の割合が90質量%を超え、含フッ素重合体(II)の割合が10質量%未満である場合、撥水性組成物は、加熱時に皮膜が形成しにくい。
【0050】
以上、本実施形態の撥水性組成物は、優れた撥水性を示す。また、撥水性組成物を用いて繊維構造物を得る場合において、得られた繊維構造物は、水中に浸漬した場合に濡れにくい低保水性、および、優れた洗濯耐久性を有する。
【0051】
<撥水性繊維構造物>
本発明の一実施形態の撥水性繊維構造物は、合成繊維からなる繊維基材と、上記した撥水性組成物と、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とを有する。撥水性組成物と、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とは、合成繊維の表面に固定されている。以下、それぞれについて説明する。
【0052】
(繊維基材)
繊維基材は、合成繊維からなる。繊維基材は、織物、編み物および不織布等の布帛状の形態などがあり、特に限定されない。
【0053】
合成繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維等である。これらの中でも、合成繊維は、耐久性が優れる点から、含フッ素重合体を含むことが好ましく、多官能性ブロックドイソシアネートとの接着性が良好なポリエステル繊維またはポリアミド繊維を含むことが好ましい。これにより、撥水性繊維構造物は、撥水性とその耐久性が高い。
【0054】
本実施形態によれば、布帛を伸長した状態でも、優れた撥水性および低保水性を示し、伸長率の大きい布帛で特に優れた効果を発揮する。通常、伸長率の大きい布帛を伸長した状態では、撥水性被膜が崩れやすく、高い撥水性を維持することは難しい。しかしながら、本実施形態の撥水性繊維構造物は、上記した示差走査熱量測定の吸収ピークが異なる含フッ素重合体を含む撥水性組成物と、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とを有し、合成繊維の表面に固定化することによって、柔軟性と耐久性を併せ持った樹脂被膜を繊維構造物上に付与することができる。その結果、撥水性繊維構造物は、伸張された状態であっても、優れた高い撥水性と低含水性を両立することができる。
【0055】
本実施形態の撥水性繊維構造物は、編物や、収縮率の異なる糸を混繊させたり、撚をかけたりした糸を用いた織物や、繊維自身に伸縮性を有するポリトリメチレンテレフタレートやポリウレタン弾性繊維を含んだ編物、織物等であってもよい。伸縮性を有する繊維と組み合わせることができる繊維は特に限定されない。
【0056】
合成繊維の断面形状は特に限定されない。一例を挙げると、合成繊維の断面形状は、入り口が狭く、奥に広くなっている溝部(溝の広幅部)を、外周に複数有する特殊断面形状であることが好ましい。このような特殊断面形状を有する合成繊維は、溝部の入り口が狭いことにより、水滴が入り込みにくく、さらには溝部に取り込まれた空気が、水滴を押し上げるように作用するため空気層を維持することによって、撥水効果が向上する。さらに、溝内部に付着した撥水成分は、外部からの力を受けにくく、撥水剤などが脱落しにくく、高い耐久性を付与することができる。
【0057】
合成繊維の断面形状における溝部の深さは、1.0μm以上であることが好ましい。また、溝部の深さは、10.0μm以下であることが好ましい。溝部の深さが上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、ロータス効果による撥水性向上効果が発現しやすく、かつ、充分な繊維の強度が得られやすい。
【0058】
溝部の入り口の幅は、0.5μm以上であることが好ましい。また、溝部の入り口の幅は、5.0μm以下であることが好ましい。溝部の入り口の幅が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、ロータス効果による撥水性向上効果が発現しやすく、凹凸溝内に水が浸入しにくい。なお、本実施形態において、溝部の入り口の幅は、合成繊維の長手方向に対して垂直方向の繊維ポリマー断面である横断面を観察したときに観察される隣り合う凸部の端を結ぶ直線の長さとして定義される。
【0059】
溝部の数は、3個以上であることが好ましい。また、溝部の数は、10個以下であることが好ましく、8個以下であることがより好ましい。溝部の数が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は充分な繊維の強度とロータス効果による撥水性向上効果が得られやすい。
【0060】
合成繊維は、溝部が形成されていることにより、繊維表面に凹凸が形成されている。そのため、撥水性繊維構造物は、ロータス効果により高い撥水性能が発現され、水中において溝部に空気が満たされ、その空気膜により繊維表面が水に触れず、凸部の個体壁の一部分のみが水に触れることとなる。
【0061】
このように、本実施形態の撥水性繊維構造物は、水に触れる凸部をできるだけ小さくすることにより、水摩擦抵抗や繊維表面の皮膜脱落を抑制することができる。また、撥水性繊維構造物は、溝部の空気を、水滴を押し上げるように作用させることができるため、撥水効果を向上させることができる。
【0062】
なお、凸部が鋭角になると、撥水性繊維構造物(たとえば水着)は、着用時に、繊維表面と様々な個体面との摩擦によって、繊維表面がフィブリル化し、単糸割れが発生しやすくなったり、ひび割れが発生して繊維表面が白化する問題が発生しやすくなる。そのため、凸部の幅は、1.0μm以上であることが好ましく、10.0μm以下であることが好ましい。凸部の幅が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、ロータス効果が発現しやすく、優れた撥水性を維持しやすい。なお、撥水性繊維構造物は、着用耐久性を重視する場合には、凸部の幅を広くしてもよい。これにより、撥水性繊維構造物は、摩耗耐久性が向上し得る。
【0063】
溝部の形状は、水を侵入しにくくし、着用時の摩耗によるフィブリル化を防ぐ点から、狭窄型の溝部であることが好ましい。狭窄型の溝部は、たとえば、繊維の長さ方向に対して垂直方向の横断面を観察したとき、単繊維の外周に広幅部を有する溝部である。広幅部は、複数であることが好ましい。
【0064】
(撥水性組成物)
撥水性組成物は、繊維基材を構成する合成繊維の表面に固定化され、被膜を形成している。
【0065】
合成繊維に対する撥水性組成物の付着量は、繊維基材の質量全体に対し、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。また、合成繊維に対する撥水性組成物の付着量は、繊維基材の質量全体に対し、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。付着量が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、撥水性が優れるとともに、加工時の加工液の安定性が優れ、かつ、界面活性剤が添加される場合であっても撥水性が低下しにくい。
【0066】
(水分散型多官能性イソシアネート架橋剤)
水分散型多官能性イソシアネート架橋剤は、合成繊維の表面に固定化されている。これにより、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤は、繊維基材と含フッ素重合体の間に架橋構造を付与し耐久性を付与することができる。
【0067】
水分散型多官能イソシアネート架橋剤は特に限定されない。一例を挙げると、水分散型多官能イソシアネート架橋剤は、分子中に2個以上のイソシアネート官能基を含む有機化合物であればよく、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニールメタンジイソシアネート、水素添加ジフェニールメタンジイソシアネート、トリフェニールトリイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、水分散型多官能イソシアネート架橋剤は、トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネートアダクト、フリセリントリレンジイソシアネートアダクト、などにブロッキング化化合物(イソシアネートアダクトとともに70~200℃に加熱することで、イソシアネート基を再生させる化合物)である、フェノール、イミン、マロン酸ジエチルエステル、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ、ヒドロキシブタン、ε-カプロラクタムなどを反応させた多官能ブロックドイソシアネート架橋剤等であることが好ましい。
【0068】
合成繊維に対する水分散型多官能イソシアネート架橋剤の付着量は、繊維基材の質量全体に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、合成繊維に対する水分散型多官能イソシアネート架橋剤の付着量は、繊維基材の質量全体に対し、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。付着量が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、撥水性および耐久性が優れるとともに、界面活性剤が添加される場合であっても撥水性が低下しにくい。
【0069】
ブロックイソシアネートの熱分離速度を向上させたり、熱解離温度を低下させたりするために、解離触媒が用いられてもよい。解離触媒は特に限定されない。一例を挙げると、解離触媒は、ジブチルスズジオレート、ジブチルスズステアレート、ステアリル亜鉛、有機アミン化合物等である。
【0070】
解離触媒が用いられる場合、解離触媒の含有量は特に限定されない。
【0071】
撥水性繊維構造物全体の説明に戻り、本実施形態の撥水性繊維構造物は、撥水性組成物と水分散型多官能性イソシアネート架橋剤とを合成繊維の表面に固定化する際に、スルホン基含有化合物または多価フェノール系化合物のうち少なくともいずれか1種を介して固定化することが好ましい。これにより、得られる撥水性繊維構造物は、耐久性が向上し、撥水性および低保水性が維持されやすい。
【0072】
スルホン基含有化合物は、α-オレフィンスルホン化物の塩やフェノールホルマリン樹脂のスルホン化物、イソフタル酸ジメチルスルホン酸ナトリウム塩等であり、平均炭素数12~30であるα-オレフィンスルホン化物の塩であることが好ましい。
【0073】
多価フェノール系化合物は、天然タンニンやノボラック型、レゾール型などのフェノールホルマリン樹脂のスルホン化物で代表される合成タンニン等である。
【0074】
スルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物は、アミノ基に対して親和性を有するため、ポリアミド繊維に対して使用される。しかしながら、スルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物は、その他の合成繊維(たとえばポリエステル、ポリウレタン弾性繊維、ポリプロピレン繊維等)に対しても皮膜を形成させることができる。このような皮膜を介することにより、撥水性繊維構造物は、含フッ素重合体の付着性が向上しやすく、フッ素重合体が繊維表面に均一に付着しやすく、撥水性が向上しやすい。
【0075】
スルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物を繊維に固着させる方法は特に限定されない。一例を挙げると、スルホン基含有化合物や多価フェノール系化合物を含む水溶液(以下、前処理液と称する)に、繊維構造物を浸漬処理する方法が好ましい。スルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物の固着量は、スルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物を含む繊維質量に対し、固形分で、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。また、固着量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。固着量が上記範囲内であることにより、撥水性繊維構造物は、風合いが硬くなり過ぎず、かつ、優れた撥水性を示しやすい。
【0076】
前処理液のpHは、2~6に調整されることが好ましい。pHの調整は、酢酸、マレイン酸、塩酸、硫酸、ギ酸等の酸を使用し得る。撥水性繊維構造物と、前処理液との浴比(質量比)は特に限定されない。撥水性繊維構造物に対する前処理液の浴比は、10~50であることが好ましい。前処理温度は、40~100であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましい。前処理時間は、10~60分であることが好ましい。
【0077】
以上、本実施形態の撥水性繊維構造物は、柔軟性と優れた撥水性とを併せ持つ皮膜を形成し得る。その結果、撥水性繊維構造物は、水が浸み込みにくく、優れた低保水性を示す。
【0078】
本実施形態の撥水性繊維構造物の保水性は、実施例に記載の方法で測定することができ、水着やアウトドア向けに使用する観点から、撥水性繊維構造物の質量全体の30質量%以下であることが好ましく、特に競泳用水着用途などで使用する場合には25%以下であることがより好ましい。
【0079】
本実施形態の撥水性繊維構造物は、水着に好適に用いられる。撥水性繊維構造物は、水着として着用して泳いだ際に、水中での撥水性、低保水性が優れ、かつ耐久性が優れ、水中での長時間使用や洗濯にも優れた耐久性を示す。
【実施例0080】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0081】
測定方法、評価方法は、以下のとおりである。
(撥水度)
繊維構造物に対し、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(1998年)に規定される方法でスプレー法により評価を行い、級判定を行った。級判定は4級と5級との間は4-5級、3級と4級との間は3-4級、2級と3級との間は2-3級、1級と2級との間は1-2級とし、1級から5級間の計9段階で級判定を行った。
(保水率)
20×20cmに切った繊維構造物を10枚準備し、1枚ずつ質量を測定したものを「処理前質量」とした。洗濯機(JIS C 9606)に30Lの水を入れ(水温:25~29℃)、繊維構造物10枚を水中に入れ「強条件」で10分間回転させた後、水中から1枚ずつ取り出し、拡布状態で15度程度傾けて10秒間待って、繊維構造物についた水滴を落とし、質量を測定したものを「処理後質量」とし、下記式により保水率を測定した。
保水率(%)=((処理後質量-処理前質量)/処理前質量)×100
(洗濯方法)
JIS L 0217「繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその表示方法」(1995)の付表1の103に規定されている方法で、繊維構造物を、洗濯した。具体的には、JIS C 9606に規定する遠心式脱水装置付きの家庭用電気洗濯機に、浴比(質量比)1:30となるように40±2℃の水を入れ、弱アルカリ性合成洗剤を添加して溶解し、強条件で繊維構造物を、5分洗濯した。次いで排水・脱水し、新たに浴比が1:30となるように水を入れ、2分間すすぎを行った。再び排水・脱水した後、新たに浴比が1:30となるように水を入れ、2分間すすぎを行い、排水・脱水した。これを30回繰り返したものを家庭洗濯30回とした。そして、洗濯後は20℃×65%RHの環境下の室内につり干しし、乾燥した。
【0082】
(試験用基布1)
33デシテックス、10フィラメントのナイロン66加工糸で78デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を経糸に使用し、33デシテックス、10フィラメントのナイロン66加工糸で55デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を緯糸に使用したナイロン66%、ポリウレタン34%織物を作製し、通常の精練、染色を行いタテ密度188本/インチ×ヨコ密度182本/インチの織物としたものを試験用基布1とした。試験用基布1の断面形状は、丸断面であった。
【0083】
(試験用基布2)
33デシテックス、10フィラメントで断面形状において外周に広幅部を有した溝部が8箇所存在するナイロン66糸で44デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を経糸に使用し、33デシテックス、10フィラメントで断面形状において外周に広幅部を有した溝部が8箇所存在するナイロン66糸で44デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を緯糸に使用したナイロン73%、ポリウレタン27%織物を作製し、通常の精練、染色を行いタテ密度200本/インチ×ヨコ密度196本/インチの織物としたものを試験用基布2とした。それぞれの溝部の寸法は、深さが3μmであり、入り口の幅が1μmであった。凸部の幅は、6μmであった。
【0084】
(フッ素重合体)
含フッ素重合体(I):ポリマーTg=55℃であるユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 ポリマー固形分25~35質量%)
含フッ素重合体(II):ポリマーTg=36℃であるユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 ポリマー固形分20~30質量%)
【0085】
<実施例1>
試験用基布1を用いて液流染色機を使用し、前処理として加工液(ナイロンフィックス501(センカ(株)製 多価フェノール系縮合物):5%owf)で浴比1:20に調整し、常温から80℃まで2℃/分で昇温し、30分間浴中処理した。次いで50℃まで降温した後、廃液、水洗、脱水後にピンテンターを使用し140℃で乾燥し、基布1を得た。次いで、基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液1に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を洗濯前後で測定した結果を表1に示す。得られた加工布は、高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液1の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0086】
【表1】
【0087】
<実施例2>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液2に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液2の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):20g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):60g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0088】
<実施例3>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液3に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液3の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):60g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):20g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0089】
<実施例4>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液4に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液4の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):25g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0090】
<実施例5>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液5に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液5の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・PHOBOL EXTENDER XAN(ハンツマン・ジャパン(株)製 イソシアネート架橋剤 含有量非開示):20g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0091】
<実施例6>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液6に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液6の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):20g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):60g/L
・リケンレヂンMBX-31(三木理研工業(株)製 イソシアネート架橋剤 含有量45%):20g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0092】
<実施例7>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液7に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液の処方7)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):60g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):20g/L
・メイカネートCX(明成化学工業(株)製 イソシアネート架橋剤 含有量非開示):20g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0093】
<実施例8>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液8に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液8の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):100g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):100g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):25g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0094】
<実施例9>
試験用基布1に対して実施例1と同様の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液9に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液9の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):15g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):45g/L
・スーパーフレッシュ JB―7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):25g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0095】
<実施例10>
試験用基布2に対して実施例1と同様の前処理を行った基布2を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液10に浸漬し、絞り率84%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに保水率が低く、優れた撥水性、洗濯耐久性を示す繊維構造物であった。
(加工液10の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):20g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):60g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):20g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0096】
<比較例1>
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液11に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は家庭洗濯30回後の撥水度が低く、洗濯耐久性に乏しいものであった。
(加工液11の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):80g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0097】
<比較例2>
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液12に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は家庭洗濯30回後の撥水度が低く、洗濯耐久性に乏しいものであった。
(加工液12の処方)
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):80g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0098】
<比較例3>
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液13に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は家庭洗濯30回後の撥水度が低く、洗濯耐久性に乏しいものであった。
(加工液13の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):76g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):4g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0099】
<比較例4>
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液14に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は家庭洗濯30回後の撥水度が低く、洗濯耐久性に乏しいものであった。
(加工液14の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):4g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):76g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):5g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0100】
<比較例5>
試験用基布1を各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液15に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は洗濯耐久性、低保水性ともに乏しいものであった。
(加工液15の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):40g/L
・スーパーフレッシュ JB-7200((株)京絹化成製 イソシアネート架橋剤 含有量36%):20g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L
【0101】
<比較例6>
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、各薬剤を以下に示した濃度に蒸留水を用いて調製した加工液16に浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度、保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は洗濯耐久性、低保水性ともに乏しいものであった。
(加工液16の処方)
・ユニダインTG-5573(ダイキン工業(株)製 撥水剤):25g/L
・ユニダインTG-5574(ダイキン工業(株)製 撥水剤):75g/L
・テキスポート BG-290(日華化学(株)製 浸透剤):10g/L