(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071918
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ制御方法および洗濯機
(51)【国際特許分類】
H02P 21/34 20160101AFI20240520BHJP
【FI】
H02P21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182432
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬飼野 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知也
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA09
5H505BB09
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF01
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ22
5H505JJ25
5H505KK05
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】モータを適切に制御するモータ制御装置を実現する。
【解決手段】電流指令値I
dc
*,I
qc
*と、修正速度指令値ω
**と、に基づいて、インバータ14がモータ50に出力すべき電圧である電圧指令値V
dc
*,V
qc
*を出力する電圧指令生成部10と、前記電圧指令値と検出した電流値I
dc,I
qcと、に基づいて前記モータ50に生じる軸誤差Δθを計算する軸誤差演算部20と、前記軸誤差Δθに基づいて、前記モータ50の振動を抑制するように速度補償量Δω
*を演算する振動抑制演算部30と、入力された速度指令値ω
*と、前記速度補償量と、に基づいて、前記修正速度指令値を出力する修正速度指令値出力部24と、をモータ制御装置1に設けた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値と、修正速度指令値と、に基づいて、インバータがモータに出力すべき電圧である電圧指令値を出力する電圧指令生成部と、
前記電圧指令値と検出した電流値と、に基づいて前記モータに生じる軸誤差を計算する軸誤差演算部と、
前記軸誤差に基づいて、前記モータの振動を抑制するように速度補償量を演算する振動抑制演算部と、
入力された速度指令値と、前記速度補償量と、に基づいて、前記修正速度指令値を出力する修正速度指令値出力部と、を備える
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記軸誤差は、直流成分と、振動成分と、を含むものであり、
前記振動抑制演算部は、前記振動成分を通過させ、前記直流成分を、少なくとも前記振動成分よりも減衰させる振動成分抽出部と、前記振動成分抽出部の出力信号に対して所定のゲインを付与することにより前記速度補償量を出力するゲイン付与部と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記振動成分抽出部は、前記振動成分を通過させ、前記インバータのキャリア周波数成分を、少なくとも前記振動成分よりも減衰させる
ことを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
電流指令値と、修正速度指令値と、に基づいて、インバータがモータに出力すべき電圧である電圧指令値を出力する電圧指令生成過程と、
前記電圧指令値と検出した電流値と、に基づいて前記モータに生じる軸誤差を計算する軸誤差演算過程と、
前記軸誤差に基づいて、前記モータの振動を抑制するように速度補償量を演算する振動抑制演算過程と、
入力された速度指令値と、前記速度補償量と、に基づいて、前記修正速度指令値を出力する修正速度指令値出力過程と、を備える
ことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項5】
インバータと、
前記インバータによって駆動されるモータと、
前記モータによって回転駆動される攪拌羽と、
前記モータによって回転駆動される洗濯槽と、
モータ制御装置と、を備え、
前記モータ制御装置は、
電流指令値と、修正速度指令値と、に基づいて、前記インバータが前記モータに出力すべき電圧である電圧指令値を出力する電圧指令生成部と、
前記電圧指令値と検出した電流値と、に基づいて前記モータに生じる軸誤差を計算する軸誤差演算部と、
前記軸誤差に基づいて、前記モータの振動を抑制するように速度補償量を演算する振動抑制演算部と、
入力された速度指令値と、前記速度補償量と、に基づいて、前記修正速度指令値を出力する修正速度指令値出力部と、を備える
ことを特徴とする洗濯機。
【請求項6】
少なくとも洗い工程および脱水工程を含む洗濯工程を通知する洗濯情報を出力する洗濯機制御装置をさらに備え、
前記軸誤差は、直流成分と、振動成分と、を含むものであり、
前記振動抑制演算部は、前記振動成分を通過させ、前記直流成分を、少なくとも前記振動成分よりも減衰させる振動成分抽出部と、前記振動成分抽出部の出力信号に対して所定のゲインを付与することにより前記速度補償量を出力するゲイン付与部と、を備え、
前記振動抑制演算部は、前記洗濯情報に基づいて、振動成分抽出部の周波数特性を設定する
ことを特徴とする請求項5に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータ制御方法および洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2には、永久磁石同期電動機であるモータの制御技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-151678号公報
【特許文献1】特開2007-28721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した技術において、一層適切にモータを制御したいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、モータを適切に制御できるモータ制御装置、モータ制御方法および洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明のモータ制御装置は、電流指令値と、修正速度指令値と、に基づいて、インバータがモータに出力すべき電圧である電圧指令値を出力する電圧指令生成部と、前記電圧指令値と検出した電流値と、に基づいて前記モータに生じる軸誤差を計算する軸誤差演算部と、前記軸誤差に基づいて、前記モータの振動を抑制するように速度補償量を演算する振動抑制演算部と、入力された速度指令値と、前記速度補償量と、に基づいて、前記修正速度指令値を出力する修正速度指令値出力部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、モータを適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】モータの運転モードの推移の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態によるモータ制御装置のブロック図である。
【
図3】第1実施形態における座標軸の関係を示す図である。
【
図4】同期運転モードにおける電流ベクトルの例を示す図である。
【
図5】同期運転モードでモータを起動した際の電流波形等の変化を示す図である。
【
図7】振動抑制演算部の構成を示すブロック図である。
【
図8】第1実施形態における各部の波形の一例を示す図である。
【
図9】比較例における各部の波形の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態による縦型洗濯機の模式的な断面図である。
【
図11】洗い工程と脱水工程におけるイナーシャの変動例を示す図である。
【
図12】第2実施形態における振動成分抽出部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
永久磁石電動機であるモータは、回転子内の磁極位置に応じて固定子コイルに通電を行うものであり、そのために回転子の位置情報を検出する位置検出センサを設けることが考えられる。一方、位置検出センサを用いることなく位置センサレス制御にてモータを制御することも考えられる。例えば、上述の特許文献1の技術を応用すると、モータの回転数指令(周波数指令)に応じて通電電圧の大きさを比例制御するV/f制御が可能になると考えられる。すなわち、当該技術では、q軸と出力電圧との負荷角を制御器内で推定し、周波数指令にフィードバックすることで安定性を向上できると考えられる。
【0009】
また、上述の特許文献2の技術を応用すると、電流振幅が一定となるような電圧指令を制御してモータを起動させる同期運転モードにおいて、モータを安定化できると考えられる。すなわち、当該技術では、モータのイナーシャ(慣性モーメント)に起因して機械共振が発生することを抑制し、これによって同期運転中に振動が発生する振動を抑制できると考えられる。この振動は、モータに接続された負荷のトルク変動を起因とした振動でなく、イナーシャ値にのみに依存する。こうしたイナーシャ値に依存した振動に対して、特許文献2の技術を応用すると、q軸電流を検出し、周波数指令を減少させることで速度変動を抑制し安定化を図ることができると考えられる。
【0010】
しかしながら、イナーシャが大きなシステムでは同期運転時に必要な加速トルクが大きくなり、同期運転中に流れるq軸電も大きくなる。従って、周波数指令の減少量(補償量)が大きくなり所望の回転速度指令に追従することが難しくなる。
そこで、後述する実施形態は、モータのイナーシャ値の大きさによって生じる共振に起因した振動を効果的に抑制し、特に同期運転モードにおいて安定した速度追従性を実現するモータ制御装置を提供するものである。
【0011】
ここで、
図1を参照し、永久磁石同期電動機であるモータの運転モードについて説明する。
図1は、後述する各実施形態におけるモータの運転モードの推移の一例を示す図である。
図1において、横軸は時刻tであり、縦軸は回転速度またはモータ電流である。時刻t=0において、モータが停止状態にある場合、最初に運転モードとして位置決めモードが選択される。位置決めモードにおいては、モータ電流を0から定格電流値までランプ状に上昇させることにより、モータの回転子における主磁束の位置を所定位置に位置決めする。次に、運転モードが同期運転モードに変更される。同期運転モードにおいては、モータ電流の振幅を概ね一定値(例えばモータの定格電流値)として、モータ電流の周波数を徐々に上昇させる。この同期運転モードにおいて、回転速度が所定値まで上昇すると、運転モードはセンサレスベクトル制御モードに変更される。センサレスベクトル制御モードにおいては、モータ電流の振幅は、負荷トルクに応じた値になる。後述する実施形態においては、上述したように、特に同期運転モードにおいて安定した速度追従性を実現するものである。
【0012】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図2は、第1実施形態によるモータ制御装置1のブロック図である。
モータ制御装置1は、例えば永久磁石同期電動機であるモータ50を制御するものであり、電圧指令生成部10(電圧指令生成過程)と、座標変換部11,12と、インバータ14と、電流検出部16と、積分器18と、軸誤差演算部20(軸誤差演算過程)と、減算器24(修正速度指令値出力部、修正速度指令値出力過程)と、振動抑制演算部30(振動抑制演算過程)と、を備える。
【0013】
インバータ14は、モータ50に印加すべき電圧の三相の電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*に基づいて、直流電圧にPWM(Pulse Width Modulation)変調を施し、その結果であるPWM波をモータ50に印加する。電流検出部16は、CT(Current Transformer)やシャント抵抗等用いて、モータ50に流れる電流を検出する。
【0014】
ここで、モータ50の電気角速度ωで回転する回転座標を想定し、この回転座標において、モータ50のロータのN極の主磁束の向きをd軸とし、d軸に直交する軸をq軸とする。本実施形態においては、位置センサレス制御を採用し、実際の磁極位置θに代えて、磁極位置推定値θcを用いて各種計算を行う。詳細は後述するが、積分器18は、この磁極位置推定値θcを出力する。この磁極位置推定値θcに基づいて推定されたN極の主磁束の向きをdc軸とし、dc軸に直交する軸をqc軸とする。以下の説明においては、dc軸上またはqc軸上の電圧値、電流値等には、“c”を付した符号を用いる。
【0015】
図3は、第1実施形態における座標軸の関係を示す図である。
上述したように、d軸とq軸は直交し、dc軸とqc軸も直交している。そして、磁極位置推定値θ
cと磁極位置θとの差分を軸誤差Δθと呼ぶ。
【0016】
図2に戻り、座標変換部12は、磁極位置推定値θ
cに基づいて、モータ50に供給される三相の電流値を、dc軸およびqc軸の2相の電流値I
dc,I
qcに変換する。モータ制御装置1には、図示せぬ上位装置から、電流値I
dc,I
qcの指令値である電流指令値I
dc
*,I
qc
*と、電気角速度ωの指令値である速度指令値ω
*と、が供給される。減算器24は、速度指令値ω
*から、速度補償量Δω
*を減算し、その結果を修正速度指令値ω
**として出力する。積分器18は、修正速度指令値ω
**を積分することによって、磁極位置推定値θ
cを出力する。
【0017】
電圧指令生成部10は、電流指令値Idc
*,Iqc
*と、修正速度指令値ω**と、に基づいて、下式(1)によって、dc軸およびqc軸の電圧指令値Vdc
*,Vqc
*(これらを総称して、電圧指令値Vdc
*,Vqc
*と呼ぶことがある)を出力する。下式(1)において、Rはモータ50の巻線抵抗値であり、LdおよびLqは、モータ50のd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスである。また、keは、モータ50の誘起電圧定数である。
【0018】
【0019】
座標変換部11は、磁極位置推定値θ
cに基づいて、dc軸およびqc軸の電圧指令値V
dc
*,V
qc
*を、上述した三相の電圧指令値V
u
*,V
v
*,V
w
*に変換する。また、軸誤差演算部20は、電圧指令値V
dc
*,V
qc
*(または電圧指令値V
dc
*,V
qc
*)と、電流値I
dc,I
qcと、に基づいて、下式(2)によって軸誤差Δθ(
図3参照)を出力する。ここで、軸誤差Δθは、定常的な負荷トルクにより生じる軸誤差の直流成分Δθdcと、振動成分Δθfと、の和になる。
【0020】
【0021】
振動抑制演算部30は、軸誤差Δθに基づいて、速度補償量Δω*を計算する。なお、その詳細は後述する。
【0022】
図4は、同期運転モードにおける電流ベクトルの例を示す図である。
すなわち、
図4は、同期運転モードにおいて電流値I
dcの大きさがIである場合における電流ベクトルの例を示す。図示のように、電流値I
dはI・cosΔθになり、電流値I
qはI・sinΔθになる。同期運転モードでは、モータにおける摩擦力や加速トルクに応じて、軸誤差Δθが発生する。
【0023】
このときに発生するモータトルクTmは、下式(3)によって表される。ここで、Pnはモータ50の極対数である。下式(3)により、同期運転モードでは、軸誤差Δθが生じることでモータトルクモータトルクTmが発生することが分かる。また、軸誤差Δθが振動すると、モータトルクTmも振動する。同期運転モードにおいては、速度指令値ω*を与えた場合、負荷トルクとモータトルクTmとがつり合うまで軸誤差Δθが増加する。
【0024】
【0025】
図5は同期運転モードでモータ50を起動した際の電流波形等の変化を示す図である。
図5では、負荷トルクがゼロであると仮定し、加速トルクのみを考慮している。モータの加速とともに、軸誤差Δθが発生し、d軸およびq軸の電流値I
d,I
qが発生する。この場合、軸誤差Δθが生じることから、電流指令値I
dc
*は電流値I
dとは一致しない。加速終了後は、加速トルクがゼロとなることから、軸誤差Δθがゼロとなり、電流指令値I
dc
*と電流値I
dとが一致するようになる。
【0026】
図6は、コンピュータ980のブロック図である。
図2に示したモータ制御装置1は、
図6に示すコンピュータ980を、1台または複数台備えている。
図6において、コンピュータ980は、CPU981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM982aと、ROM982bと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。ROM982bには、CPUによって実行される制御プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU981は、この制御プログラム等を実行することにより、各種機能を実現する。先に
図2に示した、モータ制御装置1の内部は、制御プログラム等によって実現される機能をブロックとして示したものである。
【0027】
図7は、振動抑制演算部30の構成を示すブロック図である。
振動抑制演算部30は、振動成分抽出部32と、振動抑制補償ゲイン乗算部34(ゲイン付与部)と、を備えている。振動成分抽出部32は、軸誤差Δθから振動成分Δθfを抽出するフィルタを有している。当該フィルタは、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタ等、直流成分を減衰する機能を持つフィルタである。当該フィルタの通過帯域は、少なくとも5~20Hzの範囲を含むことが好ましく、0.1Hz~100Hzの範囲を含むことが一層好ましい。
【0028】
振動成分抽出部32は、定常的な負荷トルクにより生じる軸誤差の直流成分Δθdcを減衰させ(より好ましくは除去し)、主として振動成分Δθfのみを通過させる。また、振動成分Δθfの周波数は、インバータ14のキャリア周波数fc(一般的には1kHz以上)と比較して、低い周波数帯域にあることが多い。そこで、振動成分抽出部32は、このため、キャリア周波数fcの成分、例えば1kHz以上の成分を大きく減衰する(より好ましくは除去する)帯域特性を持つフィルタが好ましい。振動抑制補償ゲイン乗算部34は、振動成分抽出部32の出力信号である、振動成分Δθfに対して所定のゲインkωを乗算し、その結果を速度補償量Δω*として出力する。
【0029】
図8は、第1実施形態における各部の波形の一例を示す図である。
すなわち、
図8は、モータ50のイナーシャを比較的大きくし、同期運転モードで起動させた際の波形例を示している。なお
図8では、モータ50に一定の摩擦力が生じているものとする。イナーシャが大きな条件下でモータ50を同期運転モードで起動した場合、図示のようにd軸およびq軸の電流値I
d,I
qが振動するが、モータトルクTmおよび電気角速度ωの振動は比較的小さくすることができる。これにより、同期運転モードでの安定した起動が実現できる。
【0030】
このように、第1実施形態によれば、振動抑制演算部30は、軸誤差Δθの振動成分Δθfに基づいて速度補償量Δω*を計算し、速度指令値ω*を補償することによって修正速度指令値ω**を算出する。これにより、イナーシャが大きな条件においても安定した同期運転モードでモータ50を駆動できる。
【0031】
〈比較例〉
ここで、第1実施形態の比較例について説明する。
比較例の構成は、振動抑制演算部30および減算器24が設けられていない点を除いて第1実施形態のもの(
図2参照)と同様である。すなわち、比較例の構成は、
図2において、速度補償量Δω
*を常に「0」とした構成であると考えてよい。
図9は、比較例における各部の波形の一例を示す図である。
図9には、
図8と同様の条件における波形例を示している。すなわち、イナーシャが大きな条件下でモータ50を同期運転モードで起動した場合、図示のようにd軸およびq軸の電流値I
d,I
qが振動し、これによってモータトルクTmおよび電気角速度ωも振動する。
【0032】
このような振動は、同期運転モードでの起動を不安定にさせるだけでなく、駆動対象機器の異音や故障等を招く。なお、駆動対象機器のイナーシャ値を予め把握できる場合には、同期運転モードの加速率や電流指令値Idc
*の大きさを調整することで、不安定化の対策を講じることができる。しかし、駆動対象機器が洗濯機等である場合には、イナーシャ特性が時々刻々と変化するため、加速率等を事前に調整することは難しい。このため、比較例においては、モータトルクTmおよび電気角速度ωにおける振動を抑制することが困難になる。
【0033】
[第2実施形態]
図10は、第2実施形態による縦型洗濯機S(洗濯機)の模式的な断面図である。
なお、以下の説明において、上述した第1実施形態の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
縦型洗濯機Sは、モータ制御装置1と、洗濯槽3と、攪拌羽4と、外蓋5と、筐体6と、水槽7と、給水装置8と、クラッチ9と、洗濯機制御装置40と、モータ50と、を備えている。
【0034】
モータ制御装置1は、第1実施形態のものと同様であるが、本実施形態においては、振動成分抽出部32(
図7参照)に代えて、
図12に示す振動成分抽出部33が適用される点が異なる。なお、振動成分抽出部33の詳細については後述する。洗濯機制御装置40は、モータ制御装置1の上位装置であり、後述する各洗濯工程において、モータ制御装置1に対して、
図1に示した電流指令値I
dc
*,I
qc
*と、速度指令値ω
*と、を供給する。
【0035】
筐体6は、上面を開放した略直方体箱状に形成されている。外蓋5は、筐体6の上面を開閉する。水槽7は、下端を閉塞した略円筒状に形成され、筐体6に固定されている。洗濯槽3は、水槽7の内側に設けられ、モータ50によって回転駆動される。攪拌羽4は、洗濯槽3の底部に設けられ、モータ50によって回転駆動される。給水装置8は、水槽7に水を蓄える。クラッチ9は、モータ50を洗濯槽3および/または攪拌羽4に結合させる。これにより、モータ50は、洗濯槽3および/または攪拌羽4を回転駆動できるようになる。
【0036】
縦型洗濯機Sにおける各種工程を、洗濯工程と呼ぶ。洗濯工程には、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程等が含まれるが、ここでは洗い工程および脱水工程について説明する。まず、洗い工程では、洗濯槽3の中に洗濯物が投入され、給水装置8よって洗濯水が水槽7に蓄えられる。そして、クラッチ9によってモータ50と攪拌羽4とを接続し、攪拌羽4を回転させ洗濯物を洗浄する。
【0037】
洗い工程では、クラッチ9はモータ50と洗濯槽3を接続しないため、洗濯槽3は回転しない。一方、脱水工程では、クラッチ9は、モータ50を、洗濯槽3および攪拌羽4の双方に接続する。これにより、脱水工程では、洗濯槽3および攪拌羽4の双方が回転し、遠心力によって洗濯物の脱水を行う。
【0038】
図11は、縦型洗濯機Sの各洗濯工程におけるイナーシャ値の変化範囲を示す図である。
図11の縦軸は、洗濯槽3を空にして脱水工程を行った場合の洗濯槽3および攪拌羽4によるイナーシャ値の最大値を1.0[p.u.](パワーユニット)とし、これに対する比率によって各洗濯工程においてモータ50に生じるイナーシャ値を表したものである。
【0039】
図中のイナーシャ領域JW0は、洗い工程において洗濯槽3を空にし、攪拌羽4を回転駆動させた場合のイナーシャ値の変化範囲であり、図示の例では0.01[p.u.]以下である。また、イナーシャ領域JWは、洗い工程において洗濯槽3に洗濯物を入れ、洗濯水を蓄えた状態で攪拌羽4を回転駆動させた場合のイナーシャ値の変化範囲である。図示の例では、洗濯物および洗濯水の量に応じて、イナーシャ領域JWは、0.01~0.05[p.u.]の範囲になる。
【0040】
同様に図中のイナーシャ領域JS0は、脱水工程において洗濯槽3を空にし、洗濯槽3と攪拌羽4とを回転駆動させた場合のイナーシャ値の変化範囲であり、図示の例では1.0[p.u.]以下である。また、イナーシャ領域JSは、脱水工程において洗濯槽3に水を含んだ洗濯物を入れ、洗濯槽3と攪拌羽4とを回転駆動させた場合のイナーシャ値の変化範囲である。図示の例では、洗濯物および洗濯水の量に応じて、イナーシャ領域JSは、1.0~1.5[p.u.]の範囲になる。このように、各洗濯工程に応じて、イナーシャ値が取り得る変動範囲が異なる。
【0041】
図12は、第2実施形態における振動成分抽出部33の模式図である。
図12において振動成分抽出部33は、洗濯機制御装置40(
図10参照)から、現状の洗濯工程等を通知する洗濯情報DWを受信する。そして、振動成分抽出部33は、洗濯情報DWに応じて、周波数特性を変更する。
【0042】
図12に示す周波数特性CWは、洗い工程における周波数特性を示している。周波数特性CWにおいては、通過帯域の中心周波数がfw0であり、帯域幅がfwである。一方、周波数特性CSは、脱水工程における周波数特性を示している。周波数特性CWにおいては、通過帯域の中心周波数がfs0であり、帯域幅がfsである。
【0043】
実験的には、イナーシャ値が大きいほど、軸誤差Δθの振動周波数が低周波になることが知られている。従って、
図12に示すように、脱水工程における中心周波数fs0は、洗い工程における中心周波数fw0よりも低い帯域に設定することが望ましい。また、洗濯情報DWは、洗い工程、脱水工程等の洗濯工程のみならず、給水装置8からの注水量や、洗濯物の重量等の情報も含めてもよい。そして、振動成分抽出部33は、注水量、または、洗濯物の重量が大きいほど、周波数特性CS,CWを低い周波数帯域にシフトするとよい。
【0044】
このように、本実施形態によれば、洗濯情報DWに応じて振動成分抽出部33の周波数特性を変更するため、振動成分抽出部33が不必要に広帯域化することを抑制でき、振動成分Δθfを適切に抽出することが可能となる。これにより、本実施形態においては、ノイズ等に対するロバスト性が向上する。
【0045】
[実施形態の効果]
以上のように上述の実施形態によれば、モータ制御装置1は、電流指令値Idc
*,Iqc
*と、修正速度指令値ω**と、に基づいて、インバータ14がモータ50に出力すべき電圧である電圧指令値Vdc
*,Vqc
*を出力する電圧指令生成部10と、電圧指令値Vdc
*,Vqc
*と検出した電流値Idc,Iqcと、に基づいてモータ50に生じる軸誤差Δθを計算する軸誤差演算部20と、軸誤差Δθに基づいて、モータ50の振動を抑制するように速度補償量Δω*を演算する振動抑制演算部30と、入力された速度指令値ω*と、速度補償量Δω*と、に基づいて、修正速度指令値ω**を出力する修正速度指令値出力部(24)と、を備えるこれにより、振動抑制演算部30は、軸誤差Δθに基づいて、モータ50の振動を抑制するように速度補償量Δω*を演算するため、モータ50を適切に制御できる。
【0046】
また、軸誤差Δθは、直流成分Δθdcと、振動成分Δθfと、を含むものであり、振動抑制演算部30は、振動成分Δθfを通過させ、直流成分Δθdcを、少なくとも振動成分Δθfよりも減衰させる振動成分抽出部32,33と、振動成分抽出部32,33の出力信号に対して所定のゲインkωを付与することにより速度補償量Δω*を出力するゲイン付与部(34)と、を備えると一層好ましい。これにより、直流成分Δθdcを大きく減衰させることができ、モータ50に生じる振動を一層抑制することができる。
【0047】
また、振動成分抽出部32,33は、振動成分Δθfを通過させ、インバータ14のキャリア周波数成分を、少なくとも振動成分Δθfよりも減衰させると一層好ましい。これにより、キャリア周波数成分による影響を抑制できるため、モータ50を一層適切に制御できる。
【0048】
また、第2実施形態のように、洗濯機(S)は、少なくとも洗い工程および脱水工程を含む洗濯工程を通知する洗濯情報DWを出力する洗濯機制御装置40をさらに備え、軸誤差Δθは、直流成分Δθdcと、振動成分Δθfと、を含むものであり、振動抑制演算部30は、振動成分Δθfを通過させ、直流成分Δθdcを、少なくとも振動成分Δθfよりも減衰させる振動成分抽出部33と、振動成分抽出部32,33の出力信号に対して所定のゲインkωを付与することにより速度補償量Δω*を出力するゲイン付与部(34)と、を備え、振動抑制演算部30は、洗濯情報DWに基づいて、振動成分抽出部33の周波数特性を設定すると一層好ましい。これにより、洗濯情報DWに応じて、モータ50を一層適切に制御できる。
【0049】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、もしくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0050】
(1)上記実施形態におけるモータ制御装置1のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図2に示したアルゴリズム、その他上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0051】
(2)
図2に示した処理、その他上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0052】
(3)上記第2実施形態においては、洗濯機の一例として縦型洗濯機Sを適用した例を説明したが、洗濯機はドラム式洗濯機であってもよい。また、縦型でもドラム式でも、洗濯機は洗濯乾燥機であってもよい。
【0053】
(4)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 モータ制御装置
3 洗濯槽
4 攪拌羽
10 電圧指令生成部(電圧指令生成過程)
14 インバータ
20 軸誤差演算部(軸誤差演算過程)
24 減算器(修正速度指令値出力部、修正速度指令値出力過程)
30 振動抑制演算部(振動抑制演算過程)
32,33 振動成分抽出部
34 振動抑制補償ゲイン乗算部(ゲイン付与部)
40 洗濯機制御装置
50 モータ
S 縦型洗濯機(洗濯機)
DW 洗濯情報
Δθ 軸誤差
Δθf 振動成分
kω ゲイン
Δθdc 直流成分
Δω* 速度補償量
Idc,Iqc 電流値
Idc
*,Iqc
* 電流指令値
Vdc
*,Vqc
* 電圧指令値