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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071927
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】空気入りタイヤおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/06 20060101AFI20240520BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B29D30/06
B60C19/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182446
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】辻井 政統
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC24
3D131BC49
3D131LA13
3D131LA28
4F215AH20
4F215AP06
4F215AP20
4F215AR07
4F215VA11
4F215VC03
4F215VD22
4F215VL11
4F215VL25
4F215VQ07
4F215VQ14
4F215VR03
4F501TA11
4F501TB03
4F501TC21
4F501TC25
4F501TE10
4F501TE20
4F501TQ07
4F501TQ14
4F501TR06
4F501TR20
4F501TT03
4F501TU07
4F501TV24
(57)【要約】
【課題】タイヤ内面にシーラント層を備える空気入りタイヤのユニフォミティを改善できる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】静的アンバランス状態測定工程と、動的アンバランス状態測定工程と、動的アンバランス補償位置を把握する動的アンバランス補償位置把握工程と、タイヤ1の内面にシーラント層60を設けるシーラント層形成工程と、動的アンバランス補償位置にシーラント材61を部分的に配置する動的アンバランス補償シーラント材配置工程と、を備え、シーラント層形成工程では、測定された静的アンバランス量に応じた重量のシーラント材増加部62A1、62B1が配置され、動的アンバランス補償シーラント材配置工程では、測定された動的アンバランス量に応じた重量の動的アンバランス補償シーラント材65が動的アンバランス補償位置に配置される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの静的アンバランス位置および静的アンバランス量を測定する静的アンバランス状態測定工程と、
測定された静的アンバランス位置に基づいて、前記タイヤの軽点を把握する軽点把握工程と、
前記タイヤの動的アンバランス位置および動的アンバランス量を測定する動的アンバランス状態測定工程と、
測定された動的アンバランス位置に基づいて、前記タイヤの動的アンバランスが補償される動的アンバランス補償位置を把握する動的アンバランス補償位置把握工程と、
前記タイヤの内面に、帯状のシーラント材を、タイヤ周方向に沿って周回させながら、かつ、その周回の経路を少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行させながら塗布することにより、タイヤ周方向に延びる複数のシーラント材の環状の周回部をタイヤ幅方向に並列させてシーラント層を設けるシーラント層形成工程と、
前記動的アンバランス補償位置に、シーラント材を部分的に配置する動的アンバランス補償シーラント材配置工程と、を備え、
前記シーラント層形成工程では、前記軽点に対応するタイヤ周方向位置に、前記タイヤの内面に周回させる前記シーラント材の巻始め端および巻終り端のそれぞれを配置するとともに、当該巻始め端および巻終り端のそれぞれに、測定された静的アンバランス量に応じた重量のシーラント材増加部が配置され、
前記動的アンバランス補償シーラント材配置工程では、測定された動的アンバランス量に応じた重量の前記動的アンバランス補償シーラント材が前記動的アンバランス補償位置に配置される、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
静的アンバランス位置に基づく軽点、および動的アンバランス位置に基づく動的アンバランス補償位置を有するタイヤと、
前記タイヤの内面に設けられたシーラント層と、を備え、
前記シーラント層は、前記タイヤの内面に、帯状のシーラント材が、タイヤ周方向に沿って周回し、かつ、その周回の経路が少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行することにより、タイヤ周方向に延びる複数の環状の周回部がタイヤ幅方向に並列しており、
前記複数の周回部のうち、タイヤ幅方向一端側の最も外側に配置される周回部は、前記シーラント材の巻始め端を有し、タイヤ幅方向他端側の最も外側に配置される周回部は、前記シーラント材の巻終り端を有し、
前記巻始め端および前記巻終り端のそれぞれのタイヤ周方向位置は、前記軽点のタイヤ周方向位置に対応しており、
前記巻始め端および前記巻終り端のそれぞれに、静的アンバランスを補償する重量のシーラント材増加部が配置され、
前記動的アンバランス補償位置に、動的アンバランスを補償する重量の動的アンバランス補償シーラント材が部分的に配置されている、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ内面に設けられたシーラント層によって、パンク時に形成されるタイヤの孔が自動的に塞がれるパンク防止機能を備えた空気入りタイヤが知られている。例えば特許文献1には、略紐状形状のシーラント材をタイヤ内面に沿って連続的に螺旋状に塗布することによりシーラント層が形成された空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-78817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にタイヤにおいては良好なユニフォミティが求められる。タイヤ内面にシーラント層が配置される空気入りタイヤの場合、そのシーラント層がユニフォミティに影響する可能性がある。
【0005】
本発明は、タイヤ内面にシーラント層を備える空気入りタイヤのユニフォミティを改善できる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、タイヤの静的アンバランス位置および静的アンバランス量を測定する静的アンバランス状態測定工程と、測定された静的アンバランス位置に基づいて、前記タイヤの軽点を把握する軽点把握工程と、前記タイヤの動的アンバランス位置および動的アンバランス量を測定する動的アンバランス状態測定工程と、測定された動的アンバランス位置に基づいて、前記タイヤの動的アンバランスが補償される動的アンバランス補償位置を把握する動的アンバランス補償位置把握工程と、前記タイヤの内面に、帯状のシーラント材を、タイヤ周方向に沿って周回させながら、かつ、その周回の経路を少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行させながら塗布することにより、タイヤ周方向に延びる複数のシーラント材の環状の周回部をタイヤ幅方向に並列させてシーラント層を設けるシーラント層形成工程と、前記動的アンバランス補償位置に、シーラント材を部分的に配置する動的アンバランス補償シーラント材配置工程と、を備え、前記シーラント層形成工程では、前記軽点に対応するタイヤ周方向位置に、前記タイヤの内面に周回させる前記シーラント材の巻始め端および巻終り端のそれぞれを配置するとともに、当該巻始め端および巻終り端のそれぞれに、測定された静的アンバランス量に応じた重量のシーラント材増加部が配置され、前記動的アンバランス補償シーラント材配置工程では、測定された動的アンバランス量に応じた重量の前記動的アンバランス補償シーラント材が前記動的アンバランス補償位置に配置される。
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、静的アンバランス位置に基づく軽点、および動的アンバランス位置に基づく動的アンバランス補償位置を有するタイヤと、前記タイヤの内面に設けられたシーラント層と、を備え、前記シーラント層は、前記タイヤの内面に、帯状のシーラント材が、タイヤ周方向に沿って周回し、かつ、その周回の経路が少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行することにより、タイヤ周方向に延びる複数の環状の周回部がタイヤ幅方向に並列しており、前記複数の周回部のうち、タイヤ幅方向一端側の最も外側に配置される周回部は、前記シーラント材の巻始め端を有し、タイヤ幅方向他端側の最も外側に配置される周回部は、前記シーラント材の巻終り端を有し、前記巻始め端および前記巻終り端のそれぞれのタイヤ周方向位置は、前記軽点のタイヤ周方向位置に対応しており、前記巻始め端および前記巻終り端のそれぞれに、静的アンバランスを補する重量のシーラント材増加部が配置され、前記動的アンバランス補償位置に、動的アンバランスを補償する重量の動的アンバランス補償シーラント材が部分的に配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タイヤ内面にシーラント層を備える空気入りタイヤのユニフォミティを改善できる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るタイヤの側面図である。
図2】上記タイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図3】実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係るタイヤの内面を示す展開図であって、シーラント層を模式的に示す図である。
図5】実施形態に係るタイヤを製造するにあたり、タイヤ内面にシーラント材を塗布する方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る製造方法によって製造されるタイヤ1の側面図である。図1のGは、図1の紙面表裏方向に延びるタイヤ1の回転中心である回転軸線を示している。図1には、タイヤ1の周方向を矢印Rで示している。図2は、タイヤ1のタイヤ幅方向断面を概略的に示す図である。実施例に係るタイヤ1は、図示しないリムに装着されてその内腔に空気等による内圧が充填される空気入りタイヤである。実施形態に係るタイヤ1は、乗用車用のタイヤである。なお、実施形態に係るタイヤの製造方法は、ライトトラック、トラック、バス等の各種車両用のタイヤの製造方法にも適用可能である。
【0011】
図2により、タイヤ1の内部構造を簡単に説明する。図2は、図1に示した回転軸線Gの延びる方向で左右対称の構造を有するタイヤ1の断面を示している。図2の断面図は、タイヤ1を図示せぬ規定リムに装着し、かつ、規定内圧を充填した無負荷状態でのタイヤ1の状態を示している。
【0012】
図2中、符号S1は、回転軸線Gに直交するタイヤ赤道面である。図2には、本明細書でいうタイヤ幅方向、タイヤ径方向を、それぞれ矢印X、Yで示している。タイヤ幅方向(矢印X方向)とは、回転軸線Gに平行な方向であり、図2の断面図における紙面左右方向である。タイヤ幅方向内側とは、タイヤ赤道面S1に近づく方向であり、図2においては、紙面中央側である。タイヤ幅方向外側とは、タイヤ赤道面S1から離れる方向であり、図2においては、紙面左側および右側である。タイヤ径方向(矢印Y方向)とは、回転軸線Gに垂直な方向であり、図2における紙面上下方向である。図1には、タイヤ径方向Yを示している。タイヤ径方向外側とは、回転軸線Gから離れる方向であり、図2においては紙面上側である。タイヤ径方向内側とは、回転軸線Gに近づく方向であり、図2においては紙面下側である。
【0013】
タイヤ1は、タイヤ幅方向両側に設けられた一対のビード10と、路面との接地面を形成するトレッド20と、一対のビード10とトレッド20との間に延びる一対のサイドウォール30と、を備える。
【0014】
一対のビード10は、タイヤ1のタイヤ径方向内側部分を構成する。当該部分の剛性を高めるため、ビード10はモジュラスの高いゴムを含む。ビード10は、複数回巻いた金属製のビードワイヤをゴムで被覆した環状のビードコア11を備える。ビードコア11は、タイヤ1をリムに固定する役目を果たす。
【0015】
トレッド20は、ベルト21と、ベルト21のタイヤ径方向外側に配置されたトレッドゴム25と、を備える。トレッドゴム25は、路面に接地する接地面25aを有する。接地面25aには、周方向に延びる複数の主溝26が形成されている。
【0016】
ベルト21は、トレッド20を補強する部材である。実施形態のベルト21は、内側ベルト22と、内側ベルト22のタイヤ径方向外側に配置された外側ベルト23と、を備えた二層構造である。内側ベルト22および外側ベルト23は、いずれも複数のスチールコード等のベルトコードがゴムで覆われた構造を有する。内側ベルト22の方が外側ベルト23よりもタイヤ幅方向長さは大きい。したがってベルト21のタイヤ幅方向両側の端21Aのそれぞれは、内側ベルト22のタイヤ幅方向の端で構成される。なお、外側ベルト23の方が内側ベルト22よりもタイヤ幅方向長さが大きくてもよい。さらに、ベルト21は一層構造でもよく、三層以上の構造でもよい。
【0017】
サイドウォール30は、タイヤ1の外側の側壁面を構成するサイドウォールゴム31を含む。サイドウォールゴム31は、タイヤ1がクッション作用をする際に最も撓み、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムで構成される。
【0018】
図2では省略しているが、タイヤ1の内部には、タイヤ1の骨格となるプライを構成するカーカスプライが埋設されている。このカーカスプライは、一対のビードコア11の間を、一対のサイドウォール30およびトレッド20を通過する態様で、タイヤ1の内部に埋設されている。このカーカスプライは、例えば、ポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等からなる複数のプライコードがゴムにより被覆された構成を有する。上記ベルト21は、このカーカスプライのタイヤ径方向外側に配置されている。また、図2では省略しているが、上記カーカスプライのタイヤ内腔側には、タイヤ1の内壁面を構成するゴム層としてのインナーライナーが、一対のビード間にわたって設けられている。このインナーライナーは、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に係るタイヤ1は、シーラント層60をさらに備える。シーラント層60は、上記インナーライナーで構成されるタイヤ内腔面の、少なくともトレッド20に対応する領域に、タイヤ周方向全周にわたって配置されている。シーラント層60のタイヤ幅方向の長さはトレッド20の接地面25aよりも大きく、シーラント層60のタイヤ幅方向両端60Aは、接地面25aのタイヤ幅方向両端よりもタイヤ幅方向外側に位置することが好ましい。また、シーラント層60のタイヤ幅方向の長さはベルト21のタイヤ幅方向の長さよりも小さく、シーラント層60のタイヤ幅方向両端60Aのそれぞれは、ベルト21のタイヤ幅方向両端21Aよりもタイヤ幅方向外側に位置することが好ましい。シーラント層60は、後述するように、帯状のシーラント材が、タイヤ内面にタイヤ周方向に沿って巻き付けられることにより形成される。シーラント材としては、粘着性を備えるものが好適に用いられ、その粘着性によってタイヤ内腔面に貼り付けられる。シーラント層60の厚みは、2mm以上が好適とされる。
【0020】
以上の構成を備えたタイヤ1を製造するための、実施形態に係るタイヤの製造方法を以下に説明する。実施形態に係るタイヤの製造方法は、上記構成となるように成型されたタイヤ1の原形品である生タイヤを加硫して得たタイヤ1に対して、上記シーラント層60を形成する方法に関する。
【0021】
なお、ここで、実施形態に係るタイヤの製造方法を実施する上で必要な要件である「静的アンバランス位置」、「静的アンバランス量」、「動的アンバランス位置」および「動的アンバランス量」について先に説明する。一般に空気入りタイヤにおいては、タイヤの質量不均一により発生するユニフォミティは、大きく分けて、静的アンバランス、偶的アンバランス、動的アンバランスの3種類が挙げられる。これらユニフォミティは、例えば、製造工程における製品検査工程で測定される。
【0022】
静的アンバランスとは、タイヤ非転動時の周方向の質量不釣り合いのことをいい、周方向で最も重い位置を静的アンバランス位置といい、その質量を静的アンバランス量という。静的アンバランスは、例えば、タイヤを構成する部材そのもののばらつきや、生タイヤの成型時や加硫時での部材の変形等に起因して生じる。偶的アンバランスとは、タイヤ非転動時の、タイヤの両側面における表側および裏側の質量不釣り合いのことをいい、例えば、タイヤ成型時の部材の偏心や、生タイヤや加硫金型の偏心等に起因して生じる。動的アンバランスとは、タイヤ転動時における質量の不釣り合いであって、転動することで静的アンバランスと偶的アンバランスが合成されて生じ、その質量を動的アンバランス量という。動的アンバランス位置および動的アンバランス量は、タイヤの両側面における表側と裏側でそれぞれ測定される。
【0023】
図3は、実施形態に係る製造方法を工程順に示すフローチャートである。図3に示すように、実施形態のタイヤの製造方法としては、まず、タイヤ1の静的アンバランス位置および静的アンバランス量を測定する静的アンバランス状態測定工程が行われる(ステップS1)。次いで、測定された静的アンバランス位置に基づいて、図1に示すタイヤ1の軽点Kを把握する軽点把握工程が行われる(ステップS2)。タイヤ1の軽点の位置は、静アンバランス位置に対して周方向で180°の位置であって、最も重い静的アンバランス位置に対して180°反対側の周方向で最も軽い位置である。したがってこの軽点Kに、静的アンバランス量に対してカウンターとなる所定質量の錘が配置されると、静的アンバランスが補償されてタイヤ周方向の重量バランスの改善が図られる。次いで、タイヤ1の動的アンバランス位置および動的アンバランス量を測定する動的アンバランス状態測定工程が行われる(ステップS3)。次いで、測定された動的アンバランス位置に基づいて、タイヤ1の動的アンバランスが補償される位置を把握する動的アンバランス補償位置把握工程が行われる(ステップS4)。以上により、タイヤ1内での、静的アンバランスを補償できるタイヤ周方向位置と、動的アンバランスを補償できる位置と、が把握される。
【0024】
次いで、タイヤ内面に、シーラント材塗布によりシーラント層60が形成される(ステップS5)。次いで、把握された動的アンバランス補償位置に動的アンバランス補償シーラント材65を配置する動的アンバランス補償シーラント材配置工程が行われる(ステップS6)。
【0025】
図4は、ステップS5を具体的に実施する方法の一例を示す図であって、シーラント材61が貼り付けられてシーラント層60が形成されたタイヤ内面の周方向の一部を示す展開図である。図4には、タイヤ周方向をRで示し、タイヤ幅方向をXで示している。図4に示すように、シーラント層60は、タイヤ内面に対して、タイヤ周方向に沿って周回されながら貼り付けられた1本の帯状のシーラント材61により形成される。シーラント層60は、シーラント材61によって形成された複数の環状の周回部62および複数の移行部63を有する。
【0026】
シーラント層60は、タイヤ内面におけるシーラント材61のタイヤ幅方向の塗布領域の全周に、帯状のシーラント材61を、タイヤ周方向に沿って周回させながら、かつ、その周回の経路を1周ごとにタイヤ幅方向の一方向(図4では右方向)側に移行させながら塗布することにより、形成される。これにより、タイヤ周方向に延びる複数のシーラント材61による環状の周回部62が、タイヤ幅方向に並列している。なお、シーラント材61は、1周ごとにタイヤ幅方向に移行しながらタイヤ内面に貼り付けられてよいが、タイヤ幅方向の同一箇所で2周、あるいは3周以上重ねて貼り付けられてもよい。
【0027】
図4において、符号61Aはシーラント材61の巻始め端を示し、符号61Bはシーラント材61の巻終り端を示している。シーラント材61は、巻始め端61Aから巻終り端61Bまで、矢印Fで示すようにして周回しながら、タイヤ幅方向一端側から他端側(図4で左側から右側)に連続して貼り付けられる。巻始め端61Aおよび巻終り端61Bは、いずれもその周方向位置が軽点Kの周方向位置に対応する位置に設定される。すなわち、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのそれぞれと、軽点Kとは、タイヤ周方向位置が同じである。
【0028】
周回部62は、シーラント材61がタイヤ周方向と平行にタイヤ内面に貼り付けられて形成される。複数の周回部62は、タイヤ幅方向に互いに密接した状態で隣接するように並列配置される。複数の移行部63は、タイヤ周方向に対して所定角度をもって傾斜しており、互いに密接した状態で隣接するように並列配置される。
【0029】
移行部63は、タイヤ周方向の所定位置に揃って設けられる。移行部63は、シーラント材61がタイヤ内面にほぼ1周貼り付けられて1つの周回部62が形成された後に、タイヤ幅方向の一方側(図4で右側)にシーラント材61が移行する部分である。移行部63を経て、貼り付け済みの周回部62のタイヤ幅方向一方側に、次の周回部62が隣接して貼り付けられる。移行部63を経てタイヤ幅方向の一方側に隣接する次の周回部62が繰り返し形成されて、シーラント層60が形成される。このように、シーラント材61をタイヤ内面に貼り付けるにあたって、タイヤ周方向に平行な周回部62を、移行部63を経ながらタイヤ幅方向に順次配置していく貼り付け方を、以下においてステップ貼りという場合がある。
【0030】
シーラント材61としては、例えば、未加硫または半加硫状態のブチルゴムに、ポリイソブチレン、ポリブテン等の可塑剤と、熱可塑性オレフィン/ジオレフィン共重合体等の粘着性付与剤と、カーボンブラックやシリカ等の充填材を配合した粘着性を有する密封材を使用することができる。なお、これに限定されることなく、シーラント材61は従来から使用されている他の公知の密封材であってもよい。また、流動性が低く高速走行時にも流動しにくい特性を備えるものが好ましい。
【0031】
図5は、タイヤ内面にシーラント材61をステップ貼りで塗布する方法の一例を模式的に示す図である。図5においては、タイヤ1の幅方向断面が示されるとともに、タイヤ幅方向X、タイヤ径方向Y、タイヤ周方向Rがそれぞれ示されている。シーラント材61をステップ貼りするには、図5に示すように、タイヤ1を軸線G周りに回転させるとともに、ノズル100をタイヤ幅方向に移動させながら、ノズル100からタイヤ1の内面にシーラント材61を吐出して塗布することにより行うことができる。ノズル100は押出機(不図示)の先端に取り付けられており、タイヤ1の内側に挿入される。当該押出機から押し出されたシーラント材61が、ノズル100の先端からタイヤ1の内面に吐出されて塗布される。
【0032】
ノズル100から連続的にシーラント材61を吐出させながら、かつ、タイヤ1を軸周りに連続的に回転させながら、タイヤ幅方向への移動を停止した状態でタイヤ1をほぼ1周回転させることにより、1つの周回部62が塗布される。次いで、シーラント材61の幅分、ノズル100をタイヤ幅方向一方側に移動させると、その間に移行部63が塗布される。次いで、タイヤ幅方向への移動を停止して、先に塗布した周回部62の隣りに周回部62を塗布する。以上の動作を繰り返すことにより、シーラント層60の形成領域にシーラント材61をステップ貼りできる。シーラント層60の形成領域の全域にシーラント材61を塗布して貼り付けたら、ノズル100からのシーラント材61の吐出を停止する。このようにして、シーラント材61によるシーラント層60が形成される。ステップ貼りするにあたっては、タイヤ幅方向中心の左側および右側で塗布量が変わらないように巻始め端61Aを決定することが好ましい。
【0033】
なお、図5に示すように、ノズル100から吐出されてタイヤ内面に貼り付けられるシーラント材61の断面形状は、略矩形状であることが好ましい。これにより、シーラント層60としての厚みを均一化できる。また、隣接する周回部62は、タイヤ幅方向で互いに密接し、周回部62間に隙間が生じにくい。
【0034】
上記のようにしてタイヤ内面にシーラント材61がステップ貼りされる場合、図4に示すように、複数の周回部62のうち、最初に形成されるタイヤ幅方向一端側(図4で左側)の最初周回部62Aは、当該最初周回部62Aから隣りの周回部62への移行部63に対してタイヤ厚み方向に重畳する第1シーラント材増加部62A1を有する。最初周回部62Aは、複数の周回部62のうちの、タイヤ幅方向一端側の最も外側に配置される周回部である。また、最後に形成されるタイヤ幅方向他端側(図4で右側)の最後周回部62Bは、当該最後周回部62Bに移行する移行部63に対してタイヤ厚み方向に重畳する第2シーラント材増加部62B1を有する。最後周回部62Bは、複数の周回部62のうちの、タイヤ幅方向他端側の最も外側に配置される周回部である。第1シーラント材増加部62A1は、巻始め端61Aの上に移行部63が重畳する三角形状の部分である。第2シーラント材増加部62B1は、移行部63の上に巻終り端61Bが重畳する三角形状の部分である。
【0035】
上述したように、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bは、いずれもタイヤ周方向で軽点Kに対応する位置に配置されている。したがってこれら巻始め端61Aおよび巻終り端61Bに設けられた第1シーラント材増加部62A1および第2シーラント材増加部62B1は、いずれもタイヤ周方向で軽点Kに対応する位置に配置されている。第1シーラント材増加部62A1および第2シーラント材増加部62B1は、タイヤ周方向で最も重い静的アンバランス位置に対してカウンターとなる軽点Kの位置に配置される。これにより、タイヤ1の周方向の重量バランスの不均一な状態が補償され、静的アンバランスに関するユニフォミティを改善することが可能となる。
【0036】
このように静的アンバランスに関するユニフォミティを改善するために、本実施形態では、巻始め端61Aに設けられる第1シーラント材増加部62A1および巻終り端61Bに設けられる第2シーラント材増加部62B1の合計重量が、測定された静的アンバランス量に応じた適切な重量に設定される。その合計重量M1は、第1シーラント材増加部62A1および第2シーラント材増加部62B1の形状がいずれも三角形状であることに基づき、以下の式によって算出される。なお、下記式でのシーラント材の端とは、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのことをいう。すなわち、シーラント材の端は、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bの2つあるため、「シーラント材の端×2」としている。
【0037】
M1=[1周あたりのシーラント材の幅(mm)]×[シーラント材の端の周長(mm)×2]×1/2×[シーラント材の厚み(mm)]×[シーラント材の密度(g/mm)]
【0038】
なお、1周あたりのシーラント材の幅は、例えば、図5に示したノズル100の幅を変更することにより調整が可能である。また、シーラント材の端の周長は、例えば、タイヤ幅方向への移行時において移行時間を長くすればするほど、シーラント材の端の周長が長くなるように調整することができる。また、シーラント材の厚みは、塗布速度すなわちシーラント材塗布時のタイヤの回転速度を変更することにより調整が可能である。
【0039】
ステップS6の動的アンバランス補償シーラント材配置工程では、図4に示すように、把握された動的アンバランス補償位置に動的アンバランス補償シーラント材65が配置される。動的アンバランス補償シーラント材65は、帯状のシーラント材61を適宜長さに切断した切断片を用いることができる。動的アンバランス補償シーラント材65は、タイヤ内面のシーラント層60のタイヤ幅方向一方側に近接する位置に貼り付けられる。この動的アンバランス補償シーラント材65により、動的アンバランスに関するユニフォミティを改善することが可能となる。
【0040】
図3のステップS4においては、以下のようにして、動的アンバランス補償位置を把握することができ、図3のステップS6においては、以下のようにして、測定された動的アンバランス量に応じた重量の動的アンバランス補償シーラント材65を動的アンバランス補償位置に配置することができる。
【0041】
まず、以下で定義するタイヤ周方向の角度θの位置は、基準位置(原点)に対する位置となる。その基準位置とは、測定された上記静的アンバランス位置(θ0とする)に基づくもので、(上記軽点Kの位置-180°)-(静的アンバランス位置)とされる。ここで、上述した静的アンバランスを補償する位置に設定される巻始め端61Aおよび巻終り端61Bの位置を、静的アンバランス位置θ0から+180°もしくは-180°の位置θ1とする。
【0042】
タイヤ1の両側面において、表側の動的アンバランス量をM2、裏側の動的アンバランス量をM3とする。M2はタイヤ1の表側の動的アンバランス量を補償するシーラント材61の重量に等しく、M3はタイヤ1の裏側の動的アンバランス量を補償するシーラント材61の重量に等しい。タイヤ1の表側における上述した基準位置を基にした動的アンバランス量M2の位置に対する+180°もしくは-180°の位置をθ2、タイヤ2の裏側における上述した基準位置を基にした動的アンバランス量M3の位置に対する+180°もしくは-180°の位置をθ3とする。表側の動的アンバランス補償位置θ4は、式1より求められる。裏側の動的アンバランス補償位置θ5は、式2より求められる。図3のステップS6においては、求めたθ4の位置にM2の重量の動的アンバランス補償シーラント材65が配置されるとともに、求めたθ5の位置にM3の重量の動的アンバランス補償シーラント材65が配置される。
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
なお、動的アンバランス補償位置は、結果としてタイヤ1の表側のみ、あるいは裏側のみに配置される場合もあり、両側に配置される場合ある。動的アンバランス補償シーラント材65の塗布量は、塗布厚や幅等で調整される。また、周方向への塗布長さは、動的アンバランス補償位置を中心として、±周長×(5/360)以下とすることが好ましい。
【0045】
実施形態のタイヤ1によれば、トレッド20に例えば釘等が刺さってシーラント層60に達する孔が生じた場合、その孔がシーラント層60によって自動的に塞がれ、パンクが未然に防止される。
【0046】
上記実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0047】
(1)実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、タイヤ1の静的アンバランス位置および静的アンバランス量を測定する静的アンバランス状態測定工程と、測定された静的アンバランス位置に基づいて、タイヤ1の軽点Kを把握する軽点把握工程と、タイヤ1の動的アンバランス位置および動的アンバランス量を測定する動的アンバランス状態測定工程と、測定された動的アンバランス位置に基づいて、タイヤ1の動的アンバランスが補償される動的アンバランス補償位置を把握する動的アンバランス補償位置把握工程と、タイヤ1の内面に、帯状のシーラント材61を、タイヤ周方向に沿って周回させながら、かつ、その周回の経路を少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行させながら塗布することにより、タイヤ周方向に延びる複数のシーラント材61の環状の周回部62をタイヤ幅方向に並列させてシーラント層60を設けるシーラント層形成工程と、動的アンバランス補償位置に、シーラント材61を部分的に配置する動的アンバランス補償シーラント材配置工程と、を備え、シーラント層形成工程では、軽点Kに対応するタイヤ周方向位置に、タイヤ1の内面に周回させるシーラント材61の巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのそれぞれを配置するとともに、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのそれぞれに、測定された静的アンバランス量に応じた重量のシーラント材増加部62A1、62B1が配置され、動的アンバランス補償シーラント材配置工程では、測定された動的アンバランス量に応じた重量の動的アンバランス補償シーラント材65が動的アンバランス補償位置に配置される。
【0048】
これにより、タイヤ内面にシーラント層60を備える空気入りタイヤの静的アンバランスおよび動的アンバランスに関するユニフォミティを改善できる空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【0049】
(2)実施形態に係る空気入りタイヤは、静的アンバランス位置に基づく軽点K、および動的アンバランス位置に基づく動的アンバランス補償位置を有するタイヤ1と、タイヤ1の内面に設けられたシーラント層60と、を備え、シーラント層60は、タイヤ1の内面に、帯状のシーラント材61が、タイヤ周方向に沿って周回し、かつ、その周回の経路が少なくとも1周ごとにタイヤ幅方向の一方向側に移行することにより、タイヤ周方向に延びる複数の環状の周回部62がタイヤ幅方向に並列しており、複数の周回部62のうち、タイヤ幅方向一端側の最も外側に配置される周回部62は、シーラント材61の巻始め端61Aを有し、タイヤ幅方向他端側の最も外側に配置される周回部62は、シーラント材61の巻終り端61Bを有し、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのそれぞれのタイヤ周方向位置は、軽点Kのタイヤ周方向位置に対応しており、巻始め端61Aおよび巻終り端61Bのそれぞれに、静的アンバランスを補する重量のシーラント材増加部62A1、62B1が配置され、動的アンバランス補償位置に、動的アンバランスを補償する重量の動的アンバランス補償シーラント材65が部分的に配置されている。
【0050】
これにより、タイヤ内面にシーラント層60を備える空気入りタイヤの静的アンバランスおよび動的アンバランスに関するユニフォミティを改善できる空気入りタイヤを提供することができる。
【0051】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 空気入りタイヤ
60 シーラント層
61 シーラント材
61A 巻始め端
61B 巻終り端
62 周回部
62A1、62B1 シーラント材増加部
65 動的アンバランス補償シーラント材
K 軽点
図1
図2
図3
図4
図5