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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071963
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】車両のエンジントルク抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240520BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20240520BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182508
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 昴瑠
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA33
3D241CC02
3D241CD07
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB32Z
3D241DC01Z
3D241DC33Z
(57)【要約】
【課題】 不要作動を考慮しながら、エンジントルクを適切な条件のもとで低減させる。
【解決手段】 車両のエンジントルク抑制装置は、車両の進行方向における障害物の存在を検知する障害物検知手段と、障害物の高さを検出する障害物高さ検出手段と、障害物検知手段により障害物の存在を検知した場合に、所定の条件のもとで、エンジンが実際に生じさせるトルクをアクセル開度に相当するトルクよりも低減させるエンジントルク抑制手段と、を備え、エンジントルク抑制手段は、エンジントルクを低減させる条件を、障害物高さ検出手段により検出した障害物の高さに応じて異ならせる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向における障害物の存在を検知する障害物検知手段と、
前記障害物の高さを検出する障害物高さ検出手段と、
前記障害物検知手段により前記障害物の存在を検知した場合に、所定の条件のもとで、エンジンが実際に生じさせるトルクをアクセル開度に相当するトルクよりも低減させるエンジントルク抑制手段と、を備え、
前記エンジントルク抑制手段は、前記エンジントルクを低減させる条件を、前記障害物高さ検出手段により検出した前記障害物の高さに応じて異ならせる、車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項2】
前記エンジントルク抑制手段は、所定の高さよりも高い障害物のみの存在を検知した場合と、前記所定の高さよりも低い障害物のみの存在を検知した場合と、前記所定の高さよりも高い障害物と前記所定の高さよりも低い障害物との双方の存在を検知した場合とで、前記エンジントルクを低減させる条件を異ならせる、請求項1に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項3】
前記エンジントルク抑制手段は、
前記アクセル開度が所定の開度以上であり、車速が所定の車速以下であり、かつ前記障害物までの距離が所定の距離以下である場合に、前記エンジントルクを低減させ、
前記所定の高さよりも低い障害物のみの存在を検知した場合に、前記所定の高さよりも高い障害物のみの存在を検知した場合と比べ、前記所定の開度を低下させ、前記所定の車速を上昇させまたは前記所定の距離を短縮する、請求項2に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項4】
前記エンジントルク制御手段は、前記所定の高さよりも低い障害物のみの存在を検知した場合に、前記所定の高さよりも高い障害物のみの存在を検知した場合と比べ、走行時における前記所定の開度を低下させ、後退時における前記所定の車速を上昇させまたは前記所定の距離を短縮する、請求項3に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項5】
前記エンジントルク制御手段は、前記所定の高さよりも高い障害物と前記所定の高さよりも低い障害物との双方の存在を検知した場合に、前記所定の高さよりも高い障害物のみの存在を検知した場合と比べ、車両が前記障害物に近い位置にあるときほど前記所定の開度を低下させ、後退時における前記所定の車速を上昇させまたは前記所定の距離を短縮し、さらに、前記所定の高さよりも低い障害物のみの存在を検知した場合と比べ、前記車速が高いときほど後退時における前記所定の距離を短縮する、請求項4に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項6】
前記エンジントルク抑制手段は、イグニッションオフ後の再始動において、前記障害物検知手段により前記障害物の存在が未検知であるかまたは前記障害物から前記所定の距離よりも近い位置に車両がある場合は、前記所定の条件とは異なる条件により、前記エンジントルクを低減させる、請求項1に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項7】
前記エンジントルク抑制手段は、イグニッションオフ後の再始動において、前記障害物検知手段により前記障害物の存在が未検知であるかまたは前記障害物から前記所定の距離よりも近い位置に車両がある場合に、車両が停車しており、かつ前記アクセル開度が前記所定の開度よりも低い開度以上であることを条件に、前記エンジントルクを低減させる、請求項3に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項8】
車両の操舵角を検出する操舵角検出手段をさらに備え、
前記エンジントルク抑制手段は、前記障害物検知手段により検知した障害物に前記所定の高さよりも高い障害物が含まれる場合に、前記操舵角検出手段により検出した操舵角が大きいときほど前記所定の距離を短縮する、請求項3に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【請求項9】
前記障害物検知手段は、所定の視野または画角を有し、車両の進行方向に向けて設置された外界センサであり、
前記障害物が前記視野または画角の範囲に収まる場合に、前記外界センサの撮像情報をもとに前記障害物までの距離を検出する一方、前記障害物が前記視野または画角の範囲から外れる場合に、前記外角センサの撮像情報をもとに検出した距離とこの距離を検出した後の車両の走行距離とをもとに前記障害物までの距離を推定する障害物距離推定手段と、
前記障害物距離推定手段により推定した距離を記憶する記憶手段と、をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の車両のエンジントルク抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジントルク抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の進行方向に障害物を検知した場合に、自車両が低速走行中であるかまたは停車中であり、かつ運転者によるアクセル操作が急激であったことを条件に、エンジンが実際に出力するトルクをアクセル開度に相当するトルクよりも低減させる制御(「誤発進抑制制御」と呼ばれる)が知られている。
【0003】
特許文献1には、外界センサにより検知可能な障害物が自車両から離れた範囲にあるものに限られ、自車両に近い位置にある障害物(例えば、道路の段差)を検知することができない場合に、障害物の位置を記憶しておき、記憶している障害物の位置と自車両の挙動とをもとに、自車両に対する現在の障害物の相対位置を推定し、障害物との衝突の可能性がある場合は、運転者に知らせたり、自車両が障害物に近付かないように制御したりするものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-094213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誤発進抑制制御において、車速およびアクセル開度等、エンジントルクを低減させる条件は、一律に設定されるのが一般的である。
【0006】
ここで、衝突を回避すべき障害物には、先行車両のほか、道路に面した壁、電柱等の比較的高い障害物に限らず、駐車場の輪止め、道路の段差、縁石等の比較的低い障害物も含まれ、障害物に対する衝突が実際に問題となる状況は、障害物の種類に応じて相違する。
【0007】
例えば、先行車両との衝突が問題となるのは、先行車両に追従して走行する状況であり、輪止めに対する衝突が問題となるのは、駐車または車庫入れ等の状況である。先行車両に追従して走行する状況では、追従に必要な加速性を担保したうえで、先行車両に対する衝突を回避するのに必要な距離が残されているうちにエンジントルクを低減させることが求められる。他方で、駐車または車庫入れ等の状況では、さほどの加速性は求められないが、駐車場における混雑緩和のために迅速に駐車を終える必要があることから、車速に関する条件については一定の範囲での緩和が許容される。
【0008】
このように、エンジントルクの不要な低減を抑制しながら、障害物との衝突を確実に回避するため、エンジントルクを低減させる条件を障害物の種類や障害物として認識される状況等に応じて適切に設定することが望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、不要作動を考慮しながら、エンジントルクを適切な条件のもとで低減させることのできる車両のエンジントルク抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係る車両のエンジントルク抑制装置は、車両の進行方向における障害物の存在を検知する障害物検知手段と、前記障害物の高さを検出する障害物高さ検出手段と、前記障害物検知手段により前記障害物の存在を検知した場合に、所定の条件のもとで、エンジンが実際に生じさせるトルクをアクセル開度に相当するトルクよりも低減させるエンジントルク抑制手段と、を備え、前記エンジントルク抑制手段は、前記エンジントルクを低減させる条件を、前記障害物高さ検出手段により検出した前記障害物の高さに応じて異ならせる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジントルクを低減させる条件を障害物の種類や障害物として認識される状況等に応じて適切に設定することが可能となり、不要作動を考慮しながら、エンジントルクを適切な条件のもとで低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る車両のエンジントルク抑制装置の構成を示す概略図である。
図2】同上実施形態に係る車両のエンジントルク抑制装置により実行されるエンジントルク抑制制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
図3】同上エンジントルク抑制制御におけるトルクダウン条件設定処理(S103)の内容を示すフローチャートである。
図4】障害物の種類に応じたトルクダウン条件A~Dの概要を一覧に示す説明図である。
図5】トルクダウン条件Cにおけるトルクダウン実施アクセル開度APOthrを示すグラフである。
図6】トルクダウン条件Cにおけるトルクダウン実施障害物距離Dthrを示すグラフである。
図7】障害物距離Dobsの推定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両のエンジントルク抑制装置1の構成を示す概略図である。
【0015】
本実施形態において、エンジントルク抑制装置1は、エンジンコントローラ101と、前方カメラ201と、後方カメラ202と、により構成される。
【0016】
本実施形態において、車両は、図示しない内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)を走行用の駆動源とする。車両は、エンジンと電動モータとを駆動源とするハイブリッド自動車であってもよい。エンジンコントローラ101は、エンジンの出力、つまり、エンジントルクを制御する。エンジントルクの制御により、運転者のアクセル操作に応じた車両の加速および減速を実現する。
【0017】
エンジンコントローラ101の制御対象には、燃料インジェクタ121が含まれ、エンジンコントローラ101は、エンジン制御に関わる各種センサ出力情報を読み込むとともに、これらの情報をもとに所定の演算を実施し、演算の結果であるアクチュエータ操作量を所定のエンジン制御デバイスに出力する。例えば、エンジンコントローラ101は、エンジンに対する燃料供給量を算出し、燃料供給量に応じた燃料インジェクタ操作量を、燃料インジェクタ121に出力する。燃料インジェクタ121は、燃料インジェクタ操作量に応じて作動し、燃料供給量に応じた量の燃料を、エンジンに供給する。
【0018】
エンジンコントローラ101は、演算の基礎とするセンサ出力情報として、アクセルセンサ111により検出されるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APO、第1車輪速センサ112faにより検出される右前輪の回転速度WSPfa、第2車輪速センサ112fbにより検出される左前輪の回転速度WSPfb、第3車輪速センサ112raに検出される右後輪の回転速度WSPra、第4車輪速センサ112rbにより検出される左後輪の回転速度WSPrb、加速度センサ113により検出される車両の加速度ACC、操舵角センサ114により検出される車両の操舵角STR、具体的には、ステアリンホイールの回転角を入力するほか、イグニッションスイッチ211により出力される始動要求信号IGNを入力する。イグニッションスイッチ211は、車両の始動スイッチとして機能するものであり、車両に対する運転者の始動操作に応じた始動要求信号IGNを生成し、出力する。イグニッションスイッチ211からの始動要求信号IGNは、エンジンコントローラ101のほか、後に述べる前方カメラ201および後方カメラ202にも出力される。エンジンコントローラ101は、以上に加え、図示しないエアフローメータにより検出されるエンジンの吸入空気量等を入力する。
【0019】
車輪速WSPfa、WSPfb、WSPra、WSPrbは、車両の走行速度、つまり、車速VSPに相関する状態パラメータである。車輪速、例えば、全ての車輪速センサ112fa~112rbにより検出された車輪速WSPfa、WSPfb、WSPra、WSPrbの平均値を変換することにより算出可能である。
【0020】
前方カメラ201は、前方監視用の外界センサとして、運転者の目の高さに近い位置、例えば、車両のフロントシールド上縁近傍の部位に設置されている。本実施形態において、前方カメラ201は、所定の画角を有する単眼カメラセンサにより構成され、画角の範囲に収まる前方視野を撮影する。本実施形態において、前方カメラ201は、前方視野を撮影する撮像素子により構成される検出部201aと、検出部201aにより取得された撮像情報、例えば、画像情報または映像情報をもとに、所定の演算を実行する回路素子により構成される演算部201bと、を備える。演算部201bは、検出部201aからの撮像情報をもとに、車両の前方における障害物の存在を検知するとともに、障害物の高さおよび自車両から障害物までの距離を検出する。
【0021】
本実施形態では、外界センサとして、前方カメラ201に加え、後方監視用の外界センサとして、後方カメラ202が設けられている。後方カメラ202も、前方カメラ201と同様に、所定の画角を有する単眼カメラセンサにより構成することが可能である。本実施形態において、後方カメラ202は、検出部と演算部とを備え、例えば、車体のリアバンパ部分に設置されて画角の範囲に収まる後方視野を撮影する。
【0022】
前方カメラ201および後方カメラ202からの出力情報、具体的には、障害物の存在、検出された障害物の高さおよび障害物までの距離は、いずれもエンジンコントローラ101に出力される。
【0023】
エンジンコントローラ101は、電子制御ユニットとして構成され、例えば、中央演算ユニットのほか、各種メモリおよび入出力インターフェースを備える。エンジンコントローラ101と前方カメラ201、後方カメラ202(具体的には、演算部201b)とは、互いに通信可能に接続され、一方に入力されるセンサ出力情報、例えば、エンジンコントローラ101に入力される車輪速WSPfa、WSPfb、WSPra、WSPrbおよび加速度ACCは、これら双方の間で、例えば、バス通信により共有可能である。
【0024】
エンジンコントローラ101は、通常のエンジン制御に加え、車両(障害物との区別のため、以下「自車両」という場合がある)の進行方向に障害物の存在を検知した場合に、障害物との衝突ないし接触を回避しまたは抑制するための制御を実施する。車両の進行方向は、前進方向であってもよいし、後退方向であってもよい。
【0025】
具体的には、車両の進行方向における障害物の存在を検知した場合に、車両が低速走行中であるかまたは停車中であり、かつ運転者によるアクセル操作、具体的には、アクセルペダルの踏み込みが誤操作であると認められる程度に深い場合に、エンジントルク抑制制御を実施し、運転者によるアクセル操作によらず、エンジントルクを所定の低トルクに抑制する。本実施形態では、エンジントルク抑制制御により、登坂中に後方へのずり下がりが生じず、降坂中に前方へのずり下がりが生じない程度のトルクにエンジントルクを抑制する。
【0026】
本実施形態において、前方カメラ201および後方カメラ202は、「外界センサ」に相当するとともに、「障害物検知手段」、「障害物高さ検出手段」、「障害物距離推定手段」および「記憶手段」を具現し、エンジンコントローラ101は、「エンジントルク抑制手段」を具現する。さらに、操舵角センサ114は、「操舵角検出手段」を具現する。
【0027】
図2は、本実施形態に係るエンジントルク抑制制御の全体的な流れを示すフローチャートである。本実施形態において、エンジントルク抑制制御は、始動後、エンジンコントローラ101により所定の時間毎に実行される。
【0028】
図3は、エンジントルク抑制制御におけるトルクダウン条件設定処理の内容を示すフローチャートである。トルクダウン条件設定処理は、エンジンコントローラ101により、エンジントルク抑制制御のサブルーチンとして実行される。
【0029】
S101では、各種センサ出力情報を読み込む。
【0030】
S102では、前方カメラ201および後方カメラ202からの出力情報をもとに、車両の進行方向、例えば、車両の前方または後方における障害物の存在を検知したか否かを判定する。障害物の存在を検知した場合は、S103へ進み、検知していない場合は、今回のルーチンにおける制御を終了する。
【0031】
S103では、エンジントルクを低減させるか否かの判定に用いる条件(以下「トルクダウン条件」という)を設定する。本実施形態において、トルクダウン条件は、障害物の種類および障害物として認識される状況等に応じて異なる条件として設定する。
【0032】
S104では、自車両から障害物までの距離(以下「障害物距離」という)Dobsがトルクダウン条件により定められる所定の距離(以下「トルクダウン実施障害物距離」という場合がある)Dthr以下であるか否か、換言すれば、自車両が障害物から所定の距離Dthrよりも近い位置にあるか否かを判定する。障害物距離Dobsが所定の距離Dthr以下である場合は、S105へ進み、所定の距離Dthrよりも長い場合は、今回のルーチンにおける制御を終了する。
【0033】
S105では、車速VSPがトルクダウン条件により定められる所定の速度(以下「トルクダウン実施車速」という場合がある)VSPthr以下であるか否かを判定する。車速VSPが所定の速度VSPthr以下である場合は、S106へ進み、所定の速度VSP1よりも高い場合は、今回のルーチンにおける制御を終了する。
【0034】
S106では、アクセル開度APOがトルクダウン条件により定められる所定の開度(以下「トルクダウン実施アクセル開度」という場合がある)APOthr以上であるか否かを判定する。アクセル開度APOが所定の開度APOthr以上である場合は、S107へ進み、所定の開度APOthrよりも小さい場合は、今回のルーチンにおける制御を終了する。
【0035】
S107では、トルクダウンを実施し、エンジントルクを低減させる。具体的には、エンジントルクを、アクセル開度APOに相当するトルクよりも低いトルクに低減させ、本実施形態では、登降坂に際してトルクダウンにより車両にずり下がりが生じない程度のトルクに低減させる。
【0036】
S108では、トルクダウンを実施した後、所定の時間が経過したか否かを判定する。所定の時間が経過した場合は、S109へ進み、経過していない場合は、所定の時間が経過するまでトルクダウンを継続し、低減後のエンジントルクを維持する。所定の時間は、例えば、5秒である。
【0037】
S109では、トルクダウンを解除し、エンジントルクをアクセル開度相当のトルクに復帰させる。エンジントルクの復帰は、徐々に行うのが好適である。
【0038】
図3に移り、S201では、始動要求信号IGNおよび車速VSPの履歴をもとに、イグニッションスイッチ211をオンすることによる始動後、車両が加速を経験したか否か、換言すれば、直前の始動から現在までに発進を経た履歴があるか否かを判定する。始動後の加速経験がある場合は、S202へ進み、これがない場合は、S207へ進む。
【0039】
S202では、検知した障害物に所定の高さHthrよりも高い障害物が含まれているか否かを判定する。所定の高さHthrよりも高い障害物が含まれている場合は、S203へ進み、含まれていない場合は、S205へ進む。本実施形態において、所定の高さHthrは、外界センサ、例えば、前方カメラ201についてはこれが配置されている位置またはこれよりも低い位置の高さとして適宜に設定することが可能であり、例えば、自車両が障害物に接近する過程で前方カメラ201の画角の範囲から外れる程度の高さに設定される。所定の高さHthrの一例として、車体のバンパー下部またはバンパー底部の高さが掲げられる。
【0040】
S203では、検知した障害物に所定の高さHthrよりも低い障害物が含まれているか否かを判定する。所定の高さHthrよりも低い障害物が含まれている場合は、S206へ進み、含まれていない場合は、S204へ進む。
【0041】
S204では、検知した障害物に高い障害物のみが含まれる場合、換言すれば、所定の高さHthrよりも高い障害物のみの存在を検知した場合にエンジントルクを低減させる条件として、トルクダウン条件Aを設定する。
【0042】
S205では、検知した障害物に低い障害物のみが含まれる場合、換言すれば、所定の高さHthrよりも低い障害物のみの存在を検知した場合に検知エンジントルクを低減させる条件として、トルクダウン条件Bを設定する。
【0043】
S206では、検知した障害物に高い障害物と低い障害物との双方が含まれる場合、換言すれば、所定の高さHthrよりも高い障害物と低い障害物との双方の存在を検知した場合にエンジントルクを低減させる条件として、トルクダウン条件Cを設定する。
【0044】
S207では、イグニッションスイッチ211をオフした後の再始動に際してエンジントルクを低減させる条件として、トルクダウン条件Dを設定する。
【0045】
図4は、障害物の種類に応じたトルクダウン条件A~Dの概要を一覧に示す説明図である。図4に示す車速VSP等の具体的な数値は、トルクダウン条件A~D毎の数値の相対的な大小関係を示すだけの例示であって、目安の提示や数値の限定を目的としたものではなく、制御の実効性を保証するものでもない。
【0046】
トルクダウン条件Aでは、図2に示すフローチャートのS104~S106で判定の基準とされる障害物距離Dthr、車速VSPthr、アクセル開度APOthrのそれぞれを、Dthr=4[m]、VSPthr=10[km/h]、APOthr=70~90[%]に設定する。
【0047】
トルクダウン条件Bでは、図2に示すフローチャートのS104~S106で判定の基準とされる障害物距離Dthr、車速VSPthr、アクセル開度APOthrのそれぞれを、障害物距離Dthrについては4[m]に設定し、車速VSPthrについては前進時に10[km/h]、後退時に15または20[m/h]に夫々設定し、さらに、アクセル開度APOthrについては走行時に40~60[%]、停車時に70~90[%]に夫々設定する。
【0048】
トルクダウン条件Cでは、図2に示すフローチャートのS104~S106で判定の基準とされる障害物距離Dthr、車速VSPthr、アクセル開度APOthrのそれぞれを、障害物距離Dthrについては前進時に1[m]、後退時には車速VSPに応じて設定し、車速VSPthrについては前進時に10[km/h]、後退時に15または20[km/h]に夫々設定し、さらに、障害物距離Dobsに応じて設定する。
【0049】
図5は、トルクダウン条件Cにおけるトルクダウン実施アクセル開度APOthrを示すグラフである。
【0050】
トルクダウン条件Cでは、障害物距離Dobsが所定の第1距離Dobs11までは、トルクダウン実施アクセル開度APOthrを第1判定開度APO1に設定し、第1距離Dobs11から所定の第2距離Dobs12までは、第2判定開度APO2に設定する。第2判定開度APO2は、第1判定開度APO1よりも大きな開度であり、本実施形態では、第1距離Dobs11から第2距離Dobs12までの範囲において、第1判定開度APO1と第2判定開度APO2との間でトルクダウン実施アクセル開度APOthrを比例配分により割り付けている。
【0051】
本実施形態では、先に述べたように、第1距離Dobs11は、1[m]であり、第2距離Dobs12は、2[m]である。そして、第1判定開度APO1は、40~60[%]の範囲にある開度であり、第2判定開度APO2は、70~90[%]の範囲にある開度である。
【0052】
図6は、トルクダウン条件Cにおけるトルクダウン実施障害物距離Dthrを示すグラフである。
【0053】
トルクダウン条件Cでは、車速VSPが所定の第1車速VSP1までは、トルクダウン実施障害物距離Dthrを第2判定距離Dobs22に設定し、第1車速VSP1から所定の第2車速VSP2までは第1判定距離Dobs21に設定する。第2判定距離Dobs22は、第1判定距離Dobs21よりも長い距離であり、本実施形態では、第1車速VSP1から第2車速VSP2までの範囲において、第2判定距離Dobs22と第1判定距離Dobs21との間でトルクダウン実施障害物距離Dthrを比例配分により割り付けている。
【0054】
本実施形態では、先に述べたように、第1車速VSP1は、10[km/h]であり、第2車速VSP2は、15または20[km/h]である。そして、第1判定距離Dobs21は、1[m]であり、第2判定距離Dobs22は、2[m]である。
【0055】
トルクダウン条件Dでは、図2に示すフローチャートのS104~S106で判定の基準とされる障害物距離Dthr、車速VSPthr、アクセル開度APOthrのそれぞれを、Dthr=0.5[m]、VSPthr=0[km/h]、APOthr=30[%]に設定する。
【0056】
ここで、トルクダウン条件A~Dのそれぞれで定められる基準について、以下に説明する。
【0057】
(1)トルクダウン条件A
所定の高さHthrよりも高い障害物として、先行車両や道路に面した壁等を想定する。
【0058】
トルクダウン実施車速VSPthrを10[km/h]に設定することで、発進直後までトルクダウンを実施可能とする一方、車速VSPが10[km/h]を超えて通常走行へ移行した後にトルクダウンが作動する事態を回避する。
【0059】
トルクダウン実施アクセル開度APOthrを70~90[%]の範囲で設定することで、先行車両に追従する状況でトルクダウンが頻発する事態を回避する。
【0060】
トルクダウン実施障害物距離Dthrを4[m]に設定することで、障害物(例えば、先行車両)との距離を縮める際にトルクダウンが作動して、追従が妨げられる事態を回避するとともに、トルクダウンの実施後、障害物に対して直ぐには衝突しないだけの距離を確保する。
【0061】
(2)トルクダウン条件B
所定の高さHthrよりも低い障害物として、駐車場の輪止めや道路の段差等を想定する。
【0062】
トルクダウン実施車速VSPthrを、前進時には10[km/h]に設定する一方、後退時には15または20[km/h]に設定することで、後退時の状況に応じた条件とする。具体的には、後退時には運転者が低い障害物、例えば、輪止めの存在に気付かない事態が想定されることから、トルクダウン実施車速VSPthrを前進時よりも上昇させ、トルクダウンの条件を緩和する。一例として、20[km/h]を掲げるが、後退時でこの車速に至ることはまれであるため、前進時よりも高い範囲で20[km/h]よりも低い車速、例えば、15[km/h]であってもよい。
【0063】
トルクダウン実施アクセル開度APOthrを、停車時には70~90[%]の範囲で設定する一方、走行時には40~60[%]の範囲で設定することで、駐車時における走行等に過度な影響が及ばない範囲で、比較的小さなアクセル開度のもとでもトルクダウンを実施可能として、輪止めや段差等の低い障害物を乗り越えてしまうだけの慣性力を車両が持たないようにする。他方で、停車時には、比較的大きなアクセル開度のもとでのみ、トルクダウンの実施を許容し、発進性が過度に損なわれる事態を回避する。ここで、衝突を回避すべき障害物に区分されないようなより低い障害物を検知したとしても、比較的大きなアクセル開度に達するまではエンジントルクが生成されるため、これを乗り越え、走行を継続することが可能である。
【0064】
トルクダウン実施障害物距離Dthrを1[m]に設定することで、例えば、輪止めから遠い位置にあるにも拘わらずトルクダウンが作動して、駐車が円滑に進まない事態を回避する。他方で、障害物に近付いた場合は、車速およびアクセル開度に関する条件が緩和されているため、トルクダウンを積極的に実施し、車両が過度な勢いをもって障害物に衝突する事態を回避する。
【0065】
(3)トルクダウン条件C
所定の高さHthrよりも低い障害物と高い障害物との双方を検知する場合として、例えば、駐車場において輪止め(低い障害物)の奥に建築物や敷地を区切る壁(高い障害物)が存在する場合を想定する。
【0066】
トルクダウン実施車速VSPthrを、前進時には10[km/h]に設定する一方、後退時には15または20[km/h]に設定することで、建築物や壁の存在にも拘わらず運転者がアクセルペダルを踏み続け、輪止めに近付いた場合に、より高い車速のもとでもトルクダウンを実施可能として、車両が輪止めで止まらず、これを乗り越えてしまう事態を回避する。
【0067】
トルクダウン実施アクセル開度APOthrを、障害物(例えば、輪止め)から2[m]の距離の位置では70~90[%]の範囲で設定する一方、障害物に近付くほど低下させ、障害物から1[m]の距離またはこれよりも障害物に近い位置では40~60[%]の範囲で設定することで、輪止めから離れているうちは、建築物や壁には気付いているであろう運転者の認識を信頼可能であるとして、トルクダウンの実施を抑制し、エンジントルクの生成により加速を許容する一方、輪止めに近付いてもなお運転者がアクセルペダルを踏み続ける場合は、アクセル開度に関する条件を緩和し、比較的低いアクセル開度のもとでもトルクダウンを実施可能として、車両がさらに勢いを増す事態を回避する。
【0068】
トルクダウン実施障害物距離Dthrを、前進時には1[m]に設定する一方、後退時には車速VSPが高いときほど短縮し、10[km/h]またはこれよりも低い車速では2[m]に設定し、車速VSPの上昇とともに短縮し、15または20[km/h]では1[m]に設定することで、駐車時を想定して障害物(輪止め)に近付いた時点でトルクダウンを実施することを基本としながら、比較的低い車速のもとでは輪止めから遠い位置にあってもトルクダウンを実施可能として、車両が障害物に近付くまでに70[%]に満たない程度のアクセル開度での加速により車速が上昇し、トルクダウンを実施したとしても輪止めで停止させることができず、これを乗り越えてしまう事態を回避する。
【0069】
(4)トルクダウン条件D
イグニッションスイッチ211をオフした後の再始動に際し、車両が停止している状態を想定する。
【0070】
トルクダウン実施車速VSPthrを0[km/h]に設定する。
【0071】
トルクダウン実施アクセル開度APOthrを30[%]に設定するとともに、トルクダウン実施障害物距離Dthrを0.5[m]に設定することで、停車からの発進時においては障害物との距離を積極的に詰める状況がまれであることを考慮し、障害物から近い距離にある場合に限り、トルクダウンの実施を許可することとし、かつその際にアクセル開度に関する条件を緩和して、障害物から近いにも拘わらずエンジントルクが生成され、障害物に衝突する事態を回避する。
【0072】
ここで、イグニッションオフ後の再始動において、車速VSPが0[km/h]よりも高い場合は、再始動から現在までに発進を経た履歴があり、既に加速経験があるとして、図3に示すフローチャートのS201からS202へ進むことで、トルクダウン条件A~Cのいずれかを設定する。
【0073】
前方カメラ201および後方カメラ202夫々の演算部は、演算の結果を記憶し、イグニッションスイッチ211をオフした後もこれを保持可能なメモリを備える。そして、接近に伴って画角の範囲から外れる低い障害物について、障害物距離Dobsの検出は、次のようにして行う。
【0074】
図7は、障害物距離Dobsの推定方法を模式的に示す説明図である。障害物OBS、OBS’は、自車両Vから異なる相対距離D1、D2の位置にある。ここで、時刻t1に相対距離D2の位置にあった障害物OBSが、時刻t1後の時刻t2には車両の前進により相対距離D1の位置(障害物OBS’)に移動するものとする。図7中、前方カメラ201により撮影可能な視野範囲Rを二点鎖線により示し、この視野範囲の画角は、上下方向に角度Aである。
【0075】
障害物OBSは、時刻t1では前方カメラ201が有する画角Aの範囲にあるが、時刻t2ではこの画角Aの範囲から外れる。よって、前方カメラ201が取得した撮像情報によっては現在、つまり、時刻t2における障害物OBS’の距離D1を検出することができない。
【0076】
前方カメラ201の演算部201bは、障害物OBSの存在を検知した時点でのその障害物OBSの距離D2を検出するとともに、障害物OBSの存在を検知した後の自車両の走行距離を検出し、障害物距離D2からこの走行距離を減ずることで、現在における障害物OBS’の距離D1を推定する。自車両の走行距離は、車速および走行に要した時間をもとに算出することが可能である。
【0077】
本実施形態に係る車両のエンジントルク抑制装置1は、以上の構成を有する。以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0078】
車両の衝突が問題となる障害物として認識される対象は、一律に同じまたは近い高さではなく、先行車両や道路に面した壁等、比較的高いものもあれば、駐車場の輪止めや道路の段差、縁石等、比較的低いものも存在する。そして、障害物の種類が異なれば、障害物として認識される状況も異なる。
【0079】
本実施形態によれば、第1に、車両の進行方向における障害物の存在を検知するとともに、障害物の高さを検知し、障害物の存在を検知した場合に、実際のエンジントルクをアクセル開度相当のトルクよりも低減させる条件(つまり、トルクダウン条件A~D)を、障害物の高さに応じて異ならせることで、障害物の種類および障害物として認識される状況等に応じた適切な条件のもと、適切なタイミングでエンジントルクを低減させることが可能となる。
【0080】
第2に、高い障害物のみの存在を検知した場合と、低い障害物のみの存在を検知した場合と、に加え、高い障害物と低い障害物との双方の存在を検知した場合で、エンジントルクを低減させる条件を異ならせることで、障害物として認識される状況に応じたより適切な条件のもと、より適切なタイミングでエンジントルクを低減させることが可能となる。
【0081】
具体的には、高い障害物と低い障害物との双方が検知される例として、輪止めの奥に建築物や敷地を区切る壁が存在する状況における駐車時に、壁があることにより運転者が障害物の存在を認識している可能性が高いにも拘わらず障害物から遠い位置でエンジントルクを不要に低減させ、駐車に停滞が生じる事態を回避することができる。
【0082】
第3に、低い障害物のみの存在を検知した場合に、高い障害物のみの存在を検知した場合と比べ、エンジントルクを低減させる際のアクセル開度を低下させ、車速を上昇させまたは障害物までの距離を短縮することで、低い障害物が認識される場合に、その状況に応じた適切な条件のもと、適切なタイミングでエンジントルクを低減させることが可能となる。
【0083】
具体的には、低い障害物が、例えば、駐車場の輪止めである場合に、運転者がその存在を認識しないことが想定されるところ、より小さなアクセル開度またはより高い車速であってもエンジントルクを低減可能として(換言すれば、アクセル開度および車速に関する条件を緩和することで)、運転者の誤ったアクセル操作による加速をより積極的に回避することができる。そして、輪止めにより近付いたタイミングでエンジントルクを低減させることで、輪止めから遠い位置にあるにも拘わらずエンジントルクを不要に低減させ、駐車に停滞を生じる事態を回避することができる。
【0084】
第4に、高い障害物と低い障害物との双方が認識される場合に、その状況に応じた適切な条件のもと、適切なタイミングでエンジントルクを低減させることが可能となる。
【0085】
具体的には、高低双方の障害物が検知される例として、輪止めの奥に建築物や敷地を区切る壁が存在する状況では、壁があることにより運転者が障害物の存在を認識している可能性が高く、運転者によるアクセル操作の信頼性が高いことから、障害物から遠い位置にあるうちはエンジントルクの低減を抑制し、加速性を担保する一方、障害物に近付いた場合に、より高い車速のもと、より小さなアクセル開度であってもエンジントルクを低減させるようにして、輪止めに勢いよく衝突し、輪止めを乗り越えてしまう事態を回避することができる。
【0086】
そして、後退時には、車速が高いときほど障害物に近付いた時点でエンジントルクを低減させることで、障害物(輪止め)への衝突を回避しながら、駐車時における迅速な走行を促すことができる。
【0087】
第5に、イグニッションオフ後の再始動において、障害物の存在が未検知であるかまたは障害物から比較的近い位置にある場合に、エンジントルクを低減させる条件を上記所定の条件とは異ならせることで、障害物との衝突を回避するのとは異なる観点から、良好な発進性を担保するうえで適切な条件を設定することが可能となる。
【0088】
そして、イグニッションオフ後の再始動において、障害物から特に近い位置にあり、かつ車両が停車している場合に、より一層低いアクセル開度であってもエンジントルクを低減可能とすることで、車両の発進に必要なエンジントルクを確保する一方、発進時の加速により障害物、例えば、自車両の前方近くに存在する輪止めを乗り越えてしまう事態を回避することが可能となる。
【0089】
第6に、自車両から障害物までの距離を推定するとともに、推定した距離を記憶手段により記憶可能としたことで、前方カメラ201または後方カメラ202の画角の範囲から障害物が外れ、障害物の存在を直接的には検知することができない場合にあっても障害物までの距離を把握し、エンジントルクを低減させる条件の成否を適切に判定することが可能となる。
【0090】
以上には記載していないが、前方カメラ201または後方カメラ202により検知した障害物に所定の高さHthrよりも高い障害物が含まれる場合に、操舵角センサ114により検出した操舵角STRが大きいときほど、トルクダウン実施障害物距離Dthrを短縮するように構成してもよい。トルクダウン実施障害物距離Dthrの短縮は、例えば、操舵角STRが大きいときほど減少する傾向を有し、かつ1よりも小さい係数を設定し、トルクダウン条件AおよびCを設定した場合に得られるトルクダウン実施障害物距離Dthrに、この係数を乗じることによる。
【0091】
検知した障害物に高い障害物が含まれ、操舵角に変化が生じた場合は、その障害物を操舵により回避しようとしていることが想定される。そのような場合に、操舵角STRが大きいときほどトルクダウン実施障害物距離Dthrを短縮し、障害物から比較的遠い位置にあるうちはエンジントルクを低減させず、障害物により近付いた時点で低減させることで、エンジントルクの低減により障害物の回避に支障を来たす事態を回避することが可能となる。
【0092】
以上の説明では、外界センサとして単眼カメラセンサを採用した。採用可能な外界センサは、これに限定されるものではなく、ステレオカメラセンサであってもよいし、カメラ以外の外界センサであってもよい。つまり、障害物の種類、特に障害物の高さの判別に寄与する情報を出力可能な適宜の外界センサを採用することが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…車両のエンジントルク抑制装置、101…エンジンコントローラ、111…アクセル開度センサ、112fa…第1(右前輪)車輪速センサ、112fb…第2(左前輪)車輪速センサ、112ra…第3(右後輪)車輪速センサ、112rb…第4(左後輪)車輪速センサ、113…加速度センサ、114…操舵角センサ、121…燃料インジェクタ、201…前方カメラ(外界センサ)、201a…前方カメラの検出部、201b…前方カメラの演算部、202…後方カメラ(外界センサ)、211…イグニッションスイッチ(起動スイッチ)、V…車両(自車両)、R…前方カメラの視野、A…前方カメラの画角、OBS…障害物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7