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特開2024-71979細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071979
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240520BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182532
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】米山 鷹介
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA25
4B029BB11
4B029HA01
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイドの内腔に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法を提供する。
【解決手段】細胞注入装置は、細胞から培養され上皮層210の内側に内腔220を有するオルガノイド200を、開口60aを有する先端に保持可能な第1ピペット60と、第1ピペット60の内部圧力を調整可能なシリンジポンプと、オルガノイド200を構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞Ceを先端から吐出可能な第2ピペット90と、第1ピペット60の内部を陰圧にすることでオルガノイド200を吸引保持させ、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んだ状態で、第2ピペット90で上皮層210を穿孔させ、外来細胞Ceを内腔220に吐出させるコントローラと、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞から培養され上皮層の内側に内腔を有するオルガノイドが載置される試料ステージと、
先端に開口を有し、先端に前記オルガノイドを保持可能な第1ピペットを備える第1マニピュレータと、
前記第1ピペットと接続して前記第1ピペットの内部圧力を調整可能なシリンジポンプと、
前記オルガノイドを構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペットを備える第2マニピュレータと、
前記試料ステージ、前記第1マニピュレータ、前記シリンジポンプ、及び前記第2マニピュレータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記第1ピペットの内部を陰圧にすることで前記オルガノイドを吸引保持させ、
前記オルガノイドの一部が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んだ状態で、
前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔させ、前記外来細胞を前記内腔に吐出させる、
細胞注入装置。
【請求項2】
前記第1ピペット及び前記オルガノイドを撮像する撮像部を備え、
前記コントローラは、
前記撮像部の画像データに基づいて、前記オルガノイドの一部が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んだ状態か否かを前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいるか否かで判断する、
請求項1に記載の細胞注入装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記第1ピペットの内部に入り込んだ前記上皮層と前記内腔との境界の頂端膜が、前記開口より前記第1ピペットの内部に位置している場合、前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいると判断する、
請求項2に記載の細胞注入装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記第1ピペットで前記オルガノイドを吸引させる前の前記画像データにおける前記内腔の面積を初期値として予め取得し、
前記第1ピペットの内部に入り込んだ前記内腔の前記画像データにおける面積が、前記初期値より大きいか否かを判断し、
前記初期値より大きいと判断した場合、前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいると判断する、
請求項2に記載の細胞注入装置。
【請求項5】
前記第1ピペット及び前記オルガノイドを撮像する撮像部を備え、
前記コントローラは、
前記第1ピペットで前記オルガノイドを吸引させる前の前記撮像部の画像データにおける前記上皮層の厚みを初期値として予め取得し、
前記第1ピペットに吸引保持された前記オルガノイドの前記開口とは反対側の前記上皮層の前記撮像部の画像データにおける厚みが、前記初期値より小さいか否かを判断し、
前記初期値より小さいと判断した場合、前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔させ、前記外来細胞を前記内腔に吐出させる、
請求項1に記載の細胞注入装置。
【請求項6】
前記第2ピペットを軸方向に移動させるための圧電素子を含む微動機構を備え、
前記コントローラは、
前記第2ピペットを軸方向に加振した状態で、前記上皮層を穿孔させる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞注入装置。
【請求項7】
先端に開口を有する第1ピペットを、細胞から培養され上皮層の内側に内腔を有するオルガノイドに対向させる第1ピペット配置ステップと、
前記オルガノイドを構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペットを、前記オルガノイドの前記第1ピペットとは反対側の位置に対向させる第2ピペット配置ステップと、
前記第1ピペットの内部を陰圧にさせて、前記先端に前記オルガノイドを吸引保持する保持ステップと、
前記オルガノイドの一部を前記開口より第1ピペットの内部に入り込むまで吸引する吸引ステップと、
前記オルガノイドの一部が前記開口より第1ピペットの内部に入り込んだ後、前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔する穿孔ステップと、
前記第2ピペットから前記外来細胞を前記内腔に吐出させる注入ステップと、
を含む、外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、生体内で周りの細胞と密接な相互作用を介して生命活動を担う。このため、臓器の形成過程を模倣して多能性幹細胞から3次元培養して作成される3次元組織であるオルガノイドは、細胞の機能をより引き出す形態として注目されている。オルガノイドは、臓器を構成する細胞から臓器と同様の構造に形成され、例えば、大腸オルガノイドは、腸管上皮層及び管腔構造を有しており、上皮層の内腔側は頂端膜、外側は基底膜の極性を有している。
【0003】
ところで、オルガノイドの特徴を生かした研究の一環として、臓器を構成する細胞ではない細胞(外来細胞という)と、臓器の内腔の頂端膜との相互作用を、オルガノイドを用いて評価することが求められている。この場合、形成した直径約100~1000μm程度のオルガノイドの内腔の内部に、直径約10~20μmの外来細胞へ注入して、外来細胞を内包したオルガノイドを作成する必要がある。例えば、特許文献1には、細胞構造物へのインジェクション方法が記載されている。また、特許文献2には、マイクロインジェクションによりオルガノイドの内腔から液体を採取することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-185810号公報
【特許文献2】特開2022-119862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、細胞構造物が約5mm程度であり、使用する注射針は実験動物等への細胞注入に用いられるものであるため、上記オルガノイドに対して注射針の径が大きく、注入操作が困難な上、オルガノイドを損傷させる可能性がある。また、特許文献2は、細胞の注入ではなく、熟練の手技によって行われる採取である。これに対し、外来細胞を内包したオルガノイドを形成するためには、μm単位の微小なオルガノイドに対して、大きすぎず細胞注入が可能な口径の毛細管を使用して上皮層を穿孔し、外来細胞を注入する必要がある。しかしながら、オルガノイドの上皮層は粘弾性体であるため、細胞注入が可能な口径の毛細管では穿孔が困難である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイドの内腔に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、細胞から培養され上皮層の内側に内腔を有するオルガノイドが載置される試料ステージと、先端に開口を有し、先端に前記オルガノイドを保持可能な第1ピペットを備える第1マニピュレータと、前記第1ピペットと接続して前記第1ピペットの内部圧力を調整可能なシリンジポンプと、前記オルガノイドを構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペットを備える第2マニピュレータと、前記試料ステージ、前記第1マニピュレータ、前記シリンジポンプ、及び前記第2マニピュレータを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1ピペットの内部を陰圧にすることで前記オルガノイドを吸引保持させ、前記オルガノイドの一部が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んだ状態で、前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔させ、前記外来細胞を前記内腔に吐出させる。
【0008】
これにより、オルガノイドの一部が第1ピペットの開口より内部に入り込んだ状態では、オルガノイドの上皮層が第1ピペットの開口より内部に引っ張られ、第1ピペットの開口より外部の上皮層に面方向の張力が生じる。粘弾性体である上皮層に張力を生じさせることで、第2ピペットの先端が上皮層に接触した際の反力が増大し、容易に穿孔することができる。第2ピペットで穿孔する前に、第1ピペットでオルガノイドを十分吸引すればよいので、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイドの内腔に外来細胞を安定して注入することが可能である。
【0009】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、前記第1ピペット及び前記オルガノイドを撮像する撮像部を備え、前記コントローラは、前記撮像部の画像データに基づいて、前記オルガノイドの一部が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んだ状態か否かを前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいるか否かで判断する。
【0010】
これにより、コントローラが、画像データに基づいて第1ピペット及びオルガノイドの位置及び形状を検出することができ、第1ピペットの開口の位置や上皮層と内腔との境界の位置及び形状に基づいて、内腔が開口より内部に入り込んでいるか否かを判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る細胞注入装置において、前記コントローラは、前記第1ピペットの内部に入り込んだ前記上皮層と前記内腔との境界の頂端膜が、前記開口より前記第1ピペットの内部に位置している場合、前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいると判断する。
【0012】
これにより、コントローラが、画像データに基づいて、内腔が開口より内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る細胞注入装置において、前記コントローラは、前記第1ピペットで前記オルガノイドを吸引させる前の前記画像データにおける前記内腔の面積を初期値として予め取得し、前記第1ピペットの内部に入り込んだ前記内腔の前記画像データにおける面積が、前記初期値より大きいか否かを判断し、前記初期値より大きいと判断した場合、前記内腔が前記開口より前記第1ピペットの内部に入り込んでいると判断する。
【0014】
これにより、コントローラが、画像データに基づいて、内腔が開口より内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、前記第1ピペット及び前記オルガノイドを撮像する撮像部を備え、前記コントローラは、前記第1ピペットで前記オルガノイドを吸引させる前の前記撮像部の画像データにおける前記上皮層の厚みを初期値として予め取得し、前記第1ピペットに吸引保持された前記オルガノイドの前記開口とは反対側の前記上皮層の前記撮像部の画像データにおける厚みが、前記初期値より小さいか否かを判断し、前記初期値より小さいと判断した場合、前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔させ、前記外来細胞を前記内腔に吐出させる。
【0016】
これにより、コントローラが、画像データに基づいて、内腔が開口より内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る細胞注入装置は、前記第2ピペットを軸方向に移動させるための圧電素子を含む微動機構を備え、前記コントローラは、前記第2ピペットを軸方向に加振した状態で、前記上皮層を穿孔させる。
【0018】
これにより、微動機構が第2ピペットを挿入方向に加振することができるため、加振された第2ピペットを上皮層に接触させることで、オルガノイドの大変形を抑制した穿孔を行うことができる。
【0019】
本発明の一態様に係る外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法は、先端に開口を有する第1ピペットを、細胞から培養され上皮層の内側に内腔を有するオルガノイドに対向させる第1ピペット配置ステップと、前記オルガノイドを構成する細胞とは異なる細胞を示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペットを、前記オルガノイドの前記第1ピペットとは反対側の位置に対向させる第2ピペット配置ステップと、前記第1ピペットの内部を陰圧にさせて、前記先端に前記オルガノイドを吸引保持する保持ステップと、前記オルガノイドの一部が前記開口より第1ピペットの内部に入り込むまで吸引する吸引ステップと、前記オルガノイドの一部が前記開口より第1ピペットの内部に入り込んだ後、前記第2ピペットで前記上皮層を穿孔する穿孔ステップと、前記第2ピペットから前記外来細胞を前記内腔に吐出させる注入ステップと、を含む。
【0020】
これにより、オルガノイドの一部が第1ピペットの開口より内部に入り込んだ状態では、オルガノイドの上皮層が第1ピペットの開口より内部に引っ張られ、第1ピペットの開口より外部の上皮層に面方向の張力が生じる。粘弾性体である上皮層に張力を生じさせることで、第2ピペットの先端が上皮層に接触した際の反力が増大し、容易に穿孔することができる。第2ピペットで穿孔する前に、第1ピペットでオルガノイドを十分吸引すればよいので、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイドの内腔に外来細胞を安定して注入し、外来細胞を内包するオルガノイドを作成することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイドの内腔に外来細胞を安定して注入することができる細胞注入装置、及び外来細胞を内包するオルガノイドの作成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る物質注入装置の構成例を模式的に示す図である。
図2図2は、図1に示す微動機構の一例を示す断面図である。
図3図3は、図1に示す物質注入装置の制御ブロック図である。
図4図4は、操作対象であるオルガノイドの一例を模式的に示す図である。
図5図5は、比較例におけるオルガノイドへの穿孔動作の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態におけるオルガノイドへの穿孔準備動作を示す図である。
図7図7は、実施形態におけるオルガノイドへの穿孔動作を示す図である。
図8図8は、図1に示す物質注入装置の動作の一例を示すフローチャート図である。
図9図9は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
図10図10は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
図11図11は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
図12図12は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
図13図13は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
図14図14は、図1に示す物質注入装置の動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0024】
(実施形態)
[システムの物理構成]
まず、物質注入装置1の物理構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、実施形態に係る物質注入装置1の構成例を模式的に示す図である。図2は、図1に示す微動機構42の一例を示す断面図である。物質注入装置1は、顕微鏡観察下で細胞等の微小対象物を操作するためのマニピュレーションシステムであり、本実施形態においてはオルガノイド200へ細胞Ceを注入するための装置である。
【0025】
図1において、物質注入装置1は、顕微鏡ユニット10と、第1マニピュレータ30と、第2マニピュレータ70と、物質注入装置1を制御するコントローラ(制御装置)100とを備えている。顕微鏡ユニット10の両側に第1マニピュレータ30と第2マニピュレータ70とが分かれて配置されている。なお、実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0026】
撮像部としての顕微鏡ユニット10は、顕微鏡12と、撮像素子を含むカメラ14と、試料ステージ20と、を備える。顕微鏡ユニット10は、顕微鏡12とカメラ14とが一体構造となっている、例えば、マイクロスコープである。顕微鏡12及びカメラ14は、例えば、試料ステージ20に支持される試料保持部材22の直上に配置され、試料保持部材22に収容された試料(例えば、図6に示すオルガノイド200)等を平面視可能である。図1に示す実施形態において、顕微鏡12及びカメラ14の光軸は、試料等に対して垂直方向に入射する。なお、図1に示す実施形態では、顕微鏡12及びカメラ14は、試料保持部材22の上方に配置されているが、試料保持部材22の下方に配置してもよい。また、カメラ14は、顕微鏡12と別体に設けてもよい。
【0027】
顕微鏡ユニット10は、さらに、試料保持部材22に向けて光を照射する不図示の光源と、焦点合わせ機構16(図3参照)を備えている。試料保持部材22の試料に光が照射され、試料保持部材22の試料で反射した光が顕微鏡12に入射すると、試料に関する光学像は、顕微鏡12で拡大された後、カメラ14で撮像される。光学像は、焦点合わせ機構16によって、顕微鏡12及びカメラ14のレンズの位置及びレンズ間の距離を調整して顕微鏡12及びカメラ14の焦点合わせを行うことで明瞭に投影される。なお、顕微鏡12の焦点合わせ方向は、実施形態において、Z軸方向である。顕微鏡ユニット10は、カメラ14で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
【0028】
試料ステージ20は、顕微鏡12及びカメラ14の下方に配置される台座であり、試料保持部材22を支持可能である。試料ステージ20の載置面は、X軸-Y軸平面に平行なX-Y平面である。試料ステージ20は、例えば、載置面に試料保持部材22を載置する。試料保持部材22は、図1に示す一例では培養ディッシュ(シャーレ)であるが、本実施形態ではウェルプレートでもよい。
【0029】
第1マニピュレータ30は、X-Y軸テーブル32と、Z軸テーブル34と、X-Y軸テーブル32を駆動する駆動装置36と、Z軸テーブル34を駆動する駆動装置38と、第1ピペット保持部材40と、微動機構42と、を備える。第1マニピュレータ30は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0030】
X-Y軸テーブル32は、駆動装置36の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル34は、X-Y軸テーブル32上に上下移動可能に配置され、駆動装置38の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置36、38は、コントローラ100に電気的に接続されている。
【0031】
第1ピペット保持部材40は、Z軸テーブル34に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット60が取り付けられている。第1ピペット保持部材40は、X-Y軸テーブル32とZ軸テーブル34の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材22に収容された試料を、第1ピペット60を介して保持することができる。
【0032】
すなわち、第1マニピュレータ30は、試料の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット60は、試料の保持手段として用いられるホールディングピペットである。試料は、例えば、第1ピペット60と接続されているシリンジポンプ62によって、第1ピペット60の先端にて吸引保持される。第1ピペット60の内部圧力は、シリンジポンプ62から供給される圧力の制御値により制御される。第1ピペット60の口径φ図5参照)は、保持対象の試料の直径の1/10以上1/5以下であることが好ましい。実施形態において、オルガノイド200(図6参照)の直径が200~400μm程度である場合、第1ピペット60として、口径φが40μmのピペットを使用することが好ましい。
【0033】
X-Y軸テーブル32とZ軸テーブル34は、第1ピペット保持部材40を、試料保持部材22に収容された試料等の保持位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル34と第1ピペット保持部材40との連結部には、ナノポジショナとして微動機構42が備えられている。微動機構42は、第1ピペット保持部材40をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第1ピペット保持部材40をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
【0034】
図2に示すように微動機構42は、第1ピペット保持部材40を駆動対象とする圧電アクチュエータ44を備える。圧電アクチュエータ44は、筒状のハウジング46と、ハウジング46の内部に設けられた転がり軸受48と、中空部材50と、ロックナット52と、スペーサ54と、圧電素子56と、蓋58と、を含む。ハウジング46の軸方向に第1ピペット保持部材40が挿通される。
【0035】
第1ピペット保持部材40は、転がり軸受48を介してハウジング46に支持される。転がり軸受48は、第1ピペット保持部材40を回転可能に支持する。転がり軸受48は、内輪48aと、外輪48bと、内輪48aと外輪48bとの間に設けられたボール48cとを備える。外輪48bがハウジング46の内周面に固定され、内輪48aが中空部材50を介して第1ピペット保持部材40の外周面に固定される。このように、転がり軸受48は、第1ピペット保持部材40を回転自在に支持するようになっている。第1ピペット保持部材40の先端側(図2左側)には第1ピペット60(図1参照)が取り付けられ固定される。
【0036】
中空部材50の軸方向の略中央部には、径方向外方に突出するフランジ部50aが設けられている。転がり軸受48は、実施形態において、フランジ部50aに対して第1ピペット保持部材40の軸方向の先端側及び後端側に1つずつ、内輪間座としてのフランジ部50aを挟んで配置される。ロックナット52は、外周面にねじ加工が施された第1ピペット保持部材40に、内輪48aの先端側及び後端側から螺合されて、転がり軸受48の軸方向の位置を固定している。円環状のスペーサ54は、転がり軸受48と同軸に外輪48bの軸方向後端側に配置される。
【0037】
スペーサ54の軸方向後端側には、円環状の圧電素子56がスペーサ54と略同軸に配置される。圧電素子56はスペーサ54を介して転がり軸受48と接している。圧電素子56は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ100に接続されている。圧電素子56は、コントローラ100からの印加電圧に応答して第1ピペット保持部材40の軸方向に沿って伸縮し、第1ピペット保持部材40をその軸方向に沿って微動させるようになっている。
【0038】
圧電素子56の軸方向後端側にはハウジング46の蓋58が配置される。蓋58は、圧電素子56を軸方向に固定するためのもので、第1ピペット保持部材40が挿通する孔部を有する。蓋58は、例えば、ハウジング46の側面に不図示のボルトにより締結されていてもよい。なお、圧電素子56は、棒状又は角柱状としてスペーサ54の周方向に略等配となるように並べても良く、第1ピペット保持部材40を挿通する孔部を有した角筒としても良い。
【0039】
第1ピペット保持部材40が軸方向に沿って微動すると、この微動が第1ピペット60(図1参照)に伝達され、第1ピペット60の位置が微調整されることになる。また、圧電素子56により第1ピペット保持部材40が軸方向に振動すると、第1ピペット60も軸方向に振動する。このように微動機構42により、試料への操作(試料の保持及び移動)の際には、より正確な操作が可能となる。
【0040】
図1に示すように、第2マニピュレータ70は、X-Y軸テーブル72と、Z軸テーブル74と、X-Y軸テーブル72を駆動する駆動装置76と、Z軸テーブル74を駆動する駆動装置78と、第2ピペット保持部材80と、微動機構82と、を備える。第2マニピュレータ70は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
【0041】
X-Y軸テーブル72は、駆動装置76の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル74は、X-Y軸テーブル72上に上下移動可能に配置され、駆動装置78の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置76、78は、コントローラ100に接続されている。
【0042】
第2ピペット保持部材80は、Z軸テーブル74に連結され、先端にマイクロピペットである第2ピペット90が取り付けられている。第2ピペット保持部材80は、X-Y軸テーブル72とZ軸テーブル74の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材22に収容された試料を人工操作することが可能である。
【0043】
すなわち、第2マニピュレータ70は、試料の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作等)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット90は、試料のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。試料は、例えば、第2ピペット90と接続されている注入ポンプ92によって、第2ピペット90の先端から細胞Ce(図7等参照)等が注入される。第2ピペット90の内部圧力は、注入ポンプ92から供給される圧力の制御値により制御される。第2ピペット90の口径φ図5参照)は、細胞Ceの直径以上である。実施形態において、細胞Ceの直径が10~15μm程度である場合、第2ピペット90として、口径φが15μm以上のピペットが使用される。
【0044】
X-Y軸テーブル72とZ軸テーブル74は、第2ピペット保持部材80を、試料保持部材22に収容された試料等の操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル74と第2ピペット保持部材80との連結部には、ナノポジショナとして微動機構82が備えられている。微動機構82は、第2ピペット保持部材80をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材80をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。微動機構82の構成は、第1マニピュレータ30の微動機構42と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0045】
第2ピペット保持部材80が軸方向に沿って微動すると、この微動が第2ピペット90に伝達され、第2ピペット90の位置が微調整されることになる。また、圧電素子56(図2参照)により第2ピペット保持部材80が軸方向に振動すると、第2ピペット90も軸方向に振動する。このように微動機構82により、試料への操作(細胞Ceの注入操作や穿孔操作等)の際には、より正確な操作が可能となる。
【0046】
なお、上述の微動機構42、82は、試料の固定用の第1マニピュレータ30及び試料の操作用の第2マニピュレータ70のいずれにも設けられるとしているが、操作用の第2マニピュレータ70のみに設けてもよく、省略することも可能である。
【0047】
[システムの制御構成]
次に、コントローラ100による物質注入装置1の制御について図3を参照して説明する。図1に示す物質注入装置1の制御ブロック図である。
【0048】
コントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロプロセッサを有する演算処理装置を含む演算部110、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリを有する記憶装置を含む記憶部112、及び入出力インターフェース装置等のハードウェア資源を備える。コントローラ100の機能は、記憶部112に格納された所定のプログラムを演算部110が実行することで実現される。コントローラ100は、演算部110による演算結果に従って、各構成要素に各種機能を実行させる制御信号を出力する。
【0049】
コントローラ100は、顕微鏡ユニット10の焦点合わせ機構16、第1マニピュレータ30の駆動装置36、駆動装置38、圧電素子56、シリンジポンプ62、第2マニピュレータ70の駆動装置76、駆動装置78、圧電素子56、注入ポンプ92を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに制御信号を出力する。
【0050】
コントローラ100は、例えば、駆動装置36、38、76、78にそれぞれ駆動信号VXY、V図1参照)を供給する。駆動装置36、38、76、78は、駆動信号VXY、Vに基づいてX-Y-Z軸方向に駆動する。コントローラ100は、微動機構42、82にナノポジショナ制御信号V図1参照)を供給して、微動機構42、82の制御を行ってもよい。コントローラ100は、例えば、シリンジポンプ62に、第1ピペット60(図1参照)の内部を加圧又は減圧調整するための圧力制御信号VP1を供給する。シリンジポンプ62は、圧力制御信号VP1に基づいて、第1ピペット60の内部を加圧又は減圧する。コントローラ100は、例えば、注入ポンプ92に、第2ピペット90(図1参照)の内部を加圧又は減圧するための圧力制御信号VP2を供給する。この場合、注入ポンプ92は、圧力制御信号VP1に基づいて、第2ピペット90の内部を減圧する。
【0051】
コントローラ100は、情報入力手段としてジョイスティック114と、キーボード、マウス又はタッチパネル等の入力部116と、シリンジポンプインターフェース118と、注入ポンプインターフェース120と、が接続されている。
【0052】
ジョイスティック114は公知のものを用いることができる。ジョイスティック114は、基台114aと、基台114aから直立するハンドル部114bとを備えており、ハンドル部114bを傾斜させるように操作することで駆動装置36、76のX-Y駆動を行うことができ、ハンドル部114bをねじることで駆動装置38、78のZ駆動を行うことができる。ジョイスティック114は、圧電素子56、シリンジポンプ62、注入ポンプ92の各駆動を操作するためのボタン114cを備えていてもよい。
【0053】
シリンジポンプインターフェース118は、作業者がシリンジポンプ62に対する操作情報を入力するためのポンプ操作情報入力部である。図1に示すように、シリンジポンプインターフェース118は、操作ノブ118aを備えている。シリンジポンプインターフェース118は、操作ノブ118aを回転させることで、回転変位量に対応した制御値によってシリンジポンプ62から供給される圧力を調整することができる。
【0054】
注入ポンプインターフェース120は、作業者が注入ポンプ92に対する操作情報を入力するためのポンプ操作情報入力部である。図1に示すように、注入ポンプインターフェース120は、操作ノブ120aを備えている。注入ポンプインターフェース120は、操作ノブ120aを回転させることで、回転変位量に対応した制御値によって注入ポンプ92から供給される圧力を調整することができる。
【0055】
また、コントローラ100は、液晶パネル等の表示部122が接続される。表示部122にはカメラ14で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部116としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部122の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、作業者が表示部122の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
【0056】
図3に示すように、コントローラ100は、さらに画像入力部102、画像処理部104、画像出力部106及び、位置検出部108を備えている。顕微鏡12を通してカメラ14で撮像した画像信号VPIX図1参照)が画像入力部102に入力される。画像処理部104は、画像入力部102から画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像処理部104は、例えば、画像入力部102から受け取った画像信号をグレースケール化して、グレースケール画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。画像出力部106は、画像処理部104で画像処理された画像情報を表示部122へ出力する。
【0057】
位置検出部108は、カメラ14で撮像された試料の位置や、試料に対して操作を行う第1ピペット60及び第2ピペット90等の治具の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。位置検出部108は、画像情報に基づいてカメラ14の撮像領域内における試料及び治具等の有無を検出することができる。画像入力部102、画像処理部104、画像出力部106及び位置検出部108は、演算部110により制御される。
【0058】
コントローラ100は、位置検出部108からの試料及び治具等の有無の情報及び位置情報に基づいて、第1マニピュレータ30及び第2マニピュレータ70を制御してもよい。本実施形態において、コントローラ100は、第1マニピュレータ30及び第2マニピュレータ70を所定のシーケンスで自動的に駆動してもよい。かかるシーケンス駆動は、記憶部112にあらかじめ保存された所定のプログラムによる演算部110の演算結果に基づいて、コントローラ100が順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
【0059】
[オルガノイド200への細胞Ceの注入手順]
次に、オルガノイド200への細胞Ceの注入手順について、図4から図7までを参照して説明する。図4は、操作対象であるオルガノイド200の一例を模式的に示す図である。図5は、比較例におけるオルガノイド200への穿孔動作の一例を示す図である。図6は、実施形態におけるオルガノイド200への穿孔準備動作を示す図である。図7は、実施形態におけるオルガノイド200への穿孔動作を示す図である。
【0060】
オルガノイド200は、臓器の形成過程を模倣して多能性幹細胞から3次元培養して作成される3次元組織である。オルガノイド200は、ミニ臓器とも呼ばれ、臓器を構成する細胞から臓器と同様の構造に形成される。実施形態のオルガノイド200は、上皮層210と、内腔220と、を有する。すなわち、実施形態のオルガノイド200は、管腔構造を有する臓器を模倣した構造である。
【0061】
上皮層210は、管腔臓器の粘膜を構成する上皮細胞による層であり、粘弾性体である。上皮層210は、オルガノイド200の外部に面する外表面に基底膜212を有し、内表面に頂端膜214を有する。実施形態において、オルガノイド200全体の直径が200~400μm程度であるのに対し、上皮層210の厚みは、10~20μm程度である。内腔220は、上皮層210の頂端膜214より内側の空洞である。すなわち、頂端膜214は、上皮層210と内腔220との境界である。実施形態のオルガノイド200は、MATRIGAL(登録商標)等の基底膜マトリックスの中で成長し培養された後、分注機器によって、試料保持部材22(図1参照)内に培養用培地により作成された500μm程度の細胞操作用ドロップDm(図9等参照)に分注される。
【0062】
細胞Ceは、オルガノイド200が摸倣する臓器を構成する細胞ではない細胞(外来細胞という)である。実施形態の細胞Ceの直径は、10~15μm程度である。試料保持部材22の細胞懸濁ドロップDs(図9等参照)内には、オルガノイド200に注入するための細胞Ceが複数配置される。実施形態では、第2ピペット90によって、細胞懸濁ドロップDs内の細胞Ceを1つ回収する。
【0063】
細胞操作用ドロップDm内で第1ピペット60によってオルガノイド200を吸引保持した状態で、1つの細胞Ceを回収した第2ピペット90をオルガノイド200に対向する位置まで移動させ、図6に示す穿孔準備動作を行った後、図7に示す穿孔動作を実施してオルガノイド200の内腔220に先端を挿入し、細胞Ceを注入する。
【0064】
ここで、図5に示す比較例のように、後述の穿孔準備動作を実施せずに穿孔を試行した場合について説明する。図5に示すように、第1ピペット60の先端の開口60aをオルガノイド200に対向させ、シリンジポンプ62(図1参照)を陰圧に駆動すると、オルガノイド200が第1ピペット60の先端に吸引され保持される。
【0065】
この状態で、オルガノイド200を挟んで、第1ピペット60の先端の開口60aに対して先端の開口90aが対向する位置に、第2ピペット90を配置し、オルガノイド200に向かって軸方向に移動させる。すると、粘弾性体である上皮層210は、第2ピペット90の先端により内腔220側に押されて変形するのみで穿孔されない。
【0066】
実施形態では、第2ピペット90の先端でオルガノイド200の上皮層210を穿孔する穿孔動作を実施する前に、図6に示す穿孔準備動作を実施する。穿孔準備動作は、穿孔する部分の上皮層210に面方向の張力を生じさせるとともに厚みを薄くすることを目的とする。図6に示すように、第1ピペット60の先端の開口60aをオルガノイド200に対向させ、シリンジポンプ62(図1参照)を陰圧に駆動すると、オルガノイド200が第1ピペット60の先端に吸引され保持される。
【0067】
この状態で、さらに吸引を進め、第1ピペット60の開口60aより内部側に、内腔220の一部が入り込むまで、第1ピペット60の内部にオルガノイド200を吸引する。これにより、上皮層210は、第1ピペット60の内部に入り込んでいる部分に向かって引っ張られ、面方向の張力が生じるとともに、第1ピペット60の開口60aとは反対側で厚みが薄くなる。第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込み、上皮層210の第1ピペット60の開口60aとは反対側で厚みtが薄くなったことを確認すると、穿孔準備動作を終了する。
【0068】
図6に示す穿孔準備動作の後、図7に示すように、オルガノイド200を挟んで、第1ピペット60の先端の開口60aに対して先端の開口90aが対向する位置に、細胞Ceを内包した第2ピペット90を配置し、オルガノイド200に向かって軸方向に移動させる。すると、上皮層210は、面方向に張力が生じているため、第2ピペット90の先端により内腔220側に押された際に内腔220側に変形して逃げることができず、穿孔される。第2ピペット90の先端が内腔220に挿入された後は、注入ポンプ92を陽圧に駆動させて、内部の細胞Ceを吐出させることで、オルガノイド200の内腔220内への細胞Ce注入を実施する。
【0069】
[システムの動作]
次に、物質注入装置1の駆動方法について説明する。図8は、図1に示す物質注入装置1の動作の一例を示すフローチャート図である。図9から図14までは、図1に示す物質注入装置1の動作を説明するための説明図である。実施形態において、物質注入装置1では、1つのオルガノイド200に対して、1つの細胞Ceを注入する操作を実行する。
【0070】
物質注入装置1の動作を開始する前に、作業者は、まず、ジョイスティック114を操作して、図1に示すカメラ14の視野内に、第1ピペット60及び第2ピペット90を配置する。ここで、第1ピペット60の先端の高さは試料保持部材22の底面よりわずかに上の位置とする。作業者は、次に、顕微鏡12の焦点合わせ機構16(図3参照)を用いて、焦点を第1ピペット60に合わせる。
【0071】
作業者は、焦点を第1ピペット60に合わせた状態で、焦点が合うように第2ピペット90の高さを調整する。作業者は、次に、試料保持部材22内の細胞懸濁ドロップDs及び細胞操作用ドロップDmの周辺を、カメラ14の視野と重なるように試料ステージ20を移動させる。
【0072】
図8及び図9に示すように、ステップS1では、細胞懸濁ドロップDsの内部において、先端の開口90aが細胞Ceに近接する位置へ、第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端が細胞懸濁ドロップDsの内部において細胞Ceに近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90は、先端の開口90aが、細胞Ceの1つに対向する位置に移動する。
【0073】
図8及び図10に示すように、ステップS2では、注入ポンプ92を陰圧に駆動し、第2ピペット90の内部を陰圧にさせて、細胞Ceを回収する。具体的には、作業者は、注入ポンプインターフェース120を操作して、コントローラ100に注入ポンプ92を陰圧に駆動するための圧力制御信号VP2を供給させる。これにより、第2ピペット90の内部が減圧されることで、先端の開口90aから内部に細胞Ceが引き込まれて回収される。
【0074】
図8及び図11に示すように、ステップS3では、細胞操作用ドロップDmの内部において、先端の開口60a、90aがオルガノイド200を挟んで対向する位置へ、第1ピペット60及び第2ピペット90を移動させる。具体的には、作業者は、まず、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、第1ピペット60の先端の開口60aが細胞操作用ドロップDmの内部においてオルガノイド200に近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第1ピペット60は、先端の開口60aが、オルガノイド200に対向する位置に移動する。
【0075】
作業者は、次に、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90の先端の開口90aが細胞操作用ドロップDmの内部において第1ピペット60と反対側からオルガノイド200に近接する位置へ移動するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90は、先端の開口90aが、オルガノイド200に対向する位置に移動する。
【0076】
図8及び図12に示すように、ステップS4では、シリンジポンプ62を陰圧に駆動し、第1ピペット60でオルガノイド200を吸引保持し、さらにオルガノイド200の一部を内部に吸引させる。具体的には、作業者は、まず、シリンジポンプインターフェース118を操作して、コントローラ100にシリンジポンプ62を陰圧に駆動するための圧力制御信号VP1を供給させる。これにより、第1ピペット60の内部が減圧されて、開口60aからオルガノイド200が吸引され、オルガノイド200が第1ピペット60の先端に吸引保持される。
【0077】
作業者は、第1ピペット60の開口60aより内部側に、オルガノイド200の一部が入り込むまで、吸引を継続させる。実施形態において、作業者は、第1ピペット60の開口60aより内部側に、内腔220の一部が入り込むまで、吸引を継続させる。内腔220の一部が入り込んだ状態とは、第1ピペット60の開口60aよりも内部側に、少なくとも頂端膜214の一部が存在する状態である。内腔220の一部が入り込まない場合、作業者は、シリンジポンプインターフェース118を操作して、圧力の制御値をさらに陰圧側に調整し、コントローラ100にシリンジポンプ62による陰圧を大きくするための圧力制御信号VP1を供給させる。第1ピペット60の内部に内腔220の一部が入り込むまでオルガノイド200を吸引すると、上皮層210は、第1ピペット60の内部に入り込んでいる部分に向かって引っ張られ、面方向の張力が生じるとともに、第1ピペット60の開口60aとは反対側で厚みが薄くなる。
【0078】
作業者は、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだことを確認することで、上皮層210の穿孔予定位置に十分な張力が生じたと判断する。作業者は、シリンジポンプインターフェース118を操作して、シリンジポンプ62による圧力の制御値を一定のまま維持させる。第1ピペット60の開口60aより内部側にオルガノイド200の一部、又は内腔220の一部が入り込んだことの確認は、コントローラ100が実施してもよい。
【0079】
具体的には、第1ピペット60及びオルガノイド200を、カメラ14により撮像し、この画像データを、画像入力部102から画像信号として画像処理部104に送る。画像データは、第1ピペット60の開口60aの仮想面に平行な方向から撮像したものであることが好ましい。画像処理部104は、第1ピペット60の開口60aの位置及び形状と、オルガノイド200の上皮層210の位置及び形状と、が検出できるよう、二値化処理、フィルタ処理、エッジ抽出処理及びパターンマッチングを行う。その処理結果に基づいて、位置検出部108は、第1ピペット60の開口60a及び上皮層210の位置及び形状を検出することができる。
【0080】
コントローラ100は、検出された各々の位置及び形状に基づいて、内腔220が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んでいるか否かを判断する。コントローラ100は、内腔220が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んでいるか否かの判断結果によって、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んだ状態か否かを判断する。コントローラ100は、例えば、開口60aのラインより上皮層210の内側である頂端膜214が第1ピペット60の内側に位置している場合、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断する。コントローラ100は、第1ピペット60の軸方向において、第1ピペット60の内側に入り込んだ頂端膜214と開口60aとの距離が所定の閾値以上である場合に、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断してもよい。
【0081】
また、コントローラ100は、画像データにおいて、第1ピペット60の開口60aより内側に入り込んだ内腔220の面積が、ステップS4より以前に取得した内腔220の面積の初期値より大きいか否かを判断し、初期値より大きいと判断した場合に、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断してもよい。コントローラ100は、第1ピペット60の開口60aより内側に入り込んだ内腔220の面積が、初期値を基準とした所定の閾値以上である場合に、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断してもよい。
【0082】
また、コントローラ100は、画像データにおいて、第1ピペット60の開口60aより外側である内腔220の面積が、ステップS4より以前の初期値より小さいか否かを判断し、初期値より小さいと判断した場合に、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断してもよい。コントローラ100は、第1ピペット60の開口60aより外側である内腔220の面積が、初期値に対して、所定の閾値以下に減少した場合に、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断してもよい。すなわち、コントローラ100は、各状態における画像データを取得し、これら比較することで、第1ピペット60の開口60aより内部側に内腔220の一部が入り込んだと判断できる。
【0083】
また、コントローラ100は、第1ピペット60の開口60aとは反対側の上皮層210の厚みt(図6参照)が減少しているか否かによって、張力の状態を評価してもよい。すなわち、コントローラ100は、画像データに基づいて、吸引されている部分とは反対側の上皮層210の厚みtが、オルガノイド200を吸引保持する前の厚み(初期値)より小さいか否かを判断し、初期値より小さいと判断した場合に、上皮層210に十分な張力が生じたと判断し、次のステップS5に進んでもよい。コントローラ100は、厚みtが、初期値に対して、所定の閾値以上減少した場合、厚みtが薄くなったと判断し、上皮層210に十分な張力が生じたと判断してもよい。
【0084】
ここで、上述した各「所定の閾値」は、予め記憶部112等に記憶された値である。例えば、カメラ14による撮像画像に基づいて取得されたオルガノイド200の外径や内腔220の面積、上皮層210の厚み等と、対応する閾値と、の相関関係を記憶部112に予め記憶しておき、撮像画像から取得したオルガノイド200の各部のサイズに基づいて、コントローラ100が都度閾値を決定してもよい。
【0085】
図8及び図13に示すように、ステップS5では、第2ピペット90を軸方向に移動させ、先端をオルガノイド200の内腔220内へ挿入させる。具体的には、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90がオルガノイド200に向かって前進するための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第2ピペット90の先端でオルガノイド200の上皮層210が穿孔され、先端の開口90aが内腔220内へ挿入される。
【0086】
図8及び図14に示すように、ステップS6では、注入ポンプ92を陽圧に駆動し、第2ピペット90の内部を陽圧にさせて、細胞Ceをオルガノイド200の内腔220内へ吐出させる。具体的には、作業者は、注入ポンプインターフェース120を操作して、コントローラ100に注入ポンプ92を陽圧に駆動するための圧力制御信号VP2を供給させる。これにより、第2ピペット90の内部が加圧されることで、内包された細胞Ceが、先端の開口90aを通ってオルガノイド200内腔220内へ吐出される。
【0087】
オルガノイド200の内腔220内へ細胞Ceを吐出した後、作業者は、コントローラ100に第2マニピュレータ70の駆動装置76、78を駆動させ、第2ピペット90をオルガノイド200から抜き、所定の初期位置に移動させるための駆動信号VXY、Vを供給させる。これにより、第2ピペット90は、所定の初期位置に戻る。なお、第2ピペット90による穿孔で開いた上皮層210の孔は、上皮層210を構成する細胞が成長することにより数日で閉塞する。
【0088】
また、作業者は、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、処理済みのオルガノイド200を載置する所定の位置に第1ピペット60が吸引保持するオルガノイド200を移動させるための駆動信号VXYを供給させる。これにより、第1ピペット60は、先端が、処理済みのオルガノイド200を載置する所定の位置に移動する。
【0089】
作業者は、次に、シリンジポンプインターフェース118を操作して、コントローラ100にシリンジポンプ62を陽圧に駆動するための圧力制御信号VP1を供給させる。これにより、第1ピペット60の内部が加圧されて、オルガノイド200への吸引が解除され、オルガノイド200が第1ピペット60の先端の開口60aから離れる。作業者は、次に、ジョイスティック114を操作して、コントローラ100に第1マニピュレータ30の駆動装置36、38を駆動させ、第1ピペット60を所定の初期位置に移動させるための駆動信号VXY、Vを供給させる。これにより、第1ピペット60は、所定の初期位置に戻る。
【0090】
以上説明したように、実施形態の物質注入装置1は、細胞から培養され上皮層210の内側に内腔220を有するオルガノイド200が載置される試料ステージ20と、先端に開口60aを有し、先端にオルガノイド200を保持可能な第1ピペット60を備える第1マニピュレータ30と、第1ピペット60と接続して第1ピペット60の内部圧力を調整可能なシリンジポンプ62と、オルガノイド200を構成する細胞とは異なる細胞Ceを示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペット90を備える第2マニピュレータ70と、試料ステージ20、第1マニピュレータ30、シリンジポンプ62、及び第2マニピュレータ70を制御するコントローラ100と、を備え、コントローラ100は、第1ピペット60の内部を陰圧にすることでオルガノイド200を吸引保持させ、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んだ状態で、第2ピペット90で上皮層210を穿孔させ、外来細胞(細胞Ce)を内腔220に吐出させる。
【0091】
これによれば、オルガノイド200の一部が第1ピペット60の開口60aより内部に入り込んだ状態では、オルガノイド200の上皮層210が第1ピペット60の開口60aより内部に引っ張られ、第1ピペット60の開口60aより外部の上皮層210に面方向の張力が生じる。粘弾性体である上皮層210に張力を生じさせることで、第2ピペット90の先端が上皮層210に接触した際の反力が増大し、容易に穿孔することができる。第2ピペット90で穿孔する前に、第1ピペット60でオルガノイド200を十分吸引すればよいので、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイド200の内腔220に外来細胞を安定して注入することが可能である。
【0092】
また、実施形態の物質注入装置1は、第1ピペット60及びオルガノイド200を撮像する撮像部(顕微鏡ユニット10)を備え、コントローラ100は、撮像部の画像データに基づいて、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んだ状態か否かを内腔220が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んでいるか否かで判断する。
【0093】
これによれば、コントローラ100が、画像データに基づいて第1ピペット60及びオルガノイド200の位置及び形状を検出することができ、第1ピペット60の開口60aの位置や上皮層210と内腔220との境界の位置及び形状に基づいて、内腔220が開口60aより内部に入り込んでいるか否かを判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層210に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0094】
また、実施形態の物質注入装置1おいて、コントローラ100は、第1ピペット60の内部に入り込んだ上皮層210と内腔220との境界の頂端膜214が、開口60aより第1ピペット60の内部に位置する場合、内腔220が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んでいると判断する。
【0095】
これによれば、コントローラ100が、画像データに基づいて、内腔220が開口60aより内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層210に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0096】
また、実施形態の物質注入装置1おいて、コントローラ100は、第1ピペット60でオルガノイド200を吸引させる前の画像データにおける内腔220の面積を初期値として予め取得し、第1ピペット60の内部に入り込んだ内腔220の画像データにおける面積が、初期値より大きいか否かを判断し、初期値より大きいと判断した場合、内腔220が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んでいると判断する。
【0097】
これによれば、コントローラ100が、画像データに基づいて、内腔220が開口60aより内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層210に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0098】
また、実施形態の物質注入装置1は、第1ピペット60及びオルガノイド200を撮像する撮像部(顕微鏡ユニット10)を備え、コントローラ100は、第1ピペット60でオルガノイド200を吸引させる前の撮像部の画像データにおける上皮層210の厚みを初期値として予め取得し、第1ピペット60に吸引保持されたオルガノイド200の開口60aとは反対側の上皮層210の撮像部の画像データにおける厚みが、初期値より小さいか否かを判断し、初期値より小さいと判断した場合、第2ピペット90で上皮層210を穿孔させ、外来細胞(細胞Ce)を内腔220に吐出させる。
【0099】
これによれば、コントローラ100が、画像データに基づいて、内腔220が開口60aより内部に入り込んでいるか否かを定量的に判断することができる。また、これらの撮像、検出、判断が、制御により自動的に行われるため、効率よくかつ好適に上皮層210に張力を生じさせた状態で穿孔することができる。
【0100】
また、実施形態の物質注入装置1は、第2ピペット90を軸方向に移動させるための圧電素子56を含む微動機構82を備え、コントローラ100は、第2ピペット90を軸方向に加振した状態で、上皮層210を穿孔させる。
【0101】
これによれば、微動機構82が第2ピペット90を挿入方向に加振することができるため、加振された第2ピペット90を上皮層210に接触させることで、オルガノイド200の大変形を抑制した穿孔を行うことができる。
【0102】
また、実施形態の外来細胞(細胞Ce)を内包するオルガノイド200の作成方法は、先端に開口60aを有する第1ピペット60を、細胞から培養され上皮層210の内側に内腔220を有するオルガノイド200に対向させる第1ピペット配置ステップと(ステップS3)、オルガノイド200を構成する細胞とは異なる細胞Ceを示す外来細胞を先端から吐出可能な第2ピペット90を、オルガノイド200の第1ピペット60とは反対側の位置に対向させる第2ピペット配置ステップと(ステップS3)、第1ピペット60の内部を陰圧にさせて、先端にオルガノイド200を吸引保持する保持ステップと(ステップS4)、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込むまで吸引する吸引ステップと(ステップS4)、オルガノイド200の一部が開口60aより第1ピペット60の内部に入り込んだ後、第2ピペット90で上皮層210を穿孔する穿孔ステップと(ステップS5)、第2ピペット90から外来細胞を内腔220に吐出させる注入ステップと(ステップS6)、を含む。
【0103】
これによれば、オルガノイド200の一部が第1ピペット60の開口60aより内部に入り込んだ状態では、オルガノイド200の上皮層210が第1ピペット60の開口60aより内部に引っ張られ、第1ピペット60の開口60aより外部の上皮層210に面方向の張力が生じる。粘弾性体である上皮層210に張力を生じさせることで、第2ピペット90の先端が上皮層210に接触した際の反力が増大し、容易に穿孔することができる。第2ピペット90で穿孔する前に、第1ピペット60でオルガノイド200を十分吸引すればよいので、作業者の熟練度及び技術によらず、オルガノイド200の内腔220に外来細胞を安定して注入し、外来細胞を内包するオルガノイド200を作成することが可能である。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、本明細書において「上皮層」とは、複数の細胞によって形成された粘弾性を有する層であり、内腔を囲繞する層をいう。したがって、内腔の外側の層が「上皮層」とは異なった名称にて規定されているオルガノイドに対しても適用可能である。
【0105】
(評価例)
本出願人は、上記実施形態により作成した外来細胞(細胞Ce)を内包するオルガノイド200について、以下の通り実験を行った。本実験において、オルガノイド200は、ヒトiPS細胞由来の大腸オルガノイド(HCO)であり、細胞Ceは、大腸がん細胞である。
【0106】
大腸オルガノイドの内腔側(頂端膜側)へ、大腸がん細胞を一細胞レベルで注入することにより、大腸がん細胞が正常上皮及び間質の周辺で増殖して基底膜側へ浸潤する、初期のがん浸潤を模倣するオルガノイドモデルを構築した。大腸がん細胞としては、転移性の細胞株(SW620、HCT116)、非転移性の細胞株(SW480)を大腸オルガノイドの内腔に数個注入し、経時的に観察した。
【0107】
その結果、大腸オルガノイドの内腔でがん細胞が増殖するとともに、注入後約7日目には上皮層を破り、基底膜側へ浸潤していく遊走挙動が生じることが明らかになった。さらに、非転移性大腸がん細胞株と比較して、転移性大腸がん細胞株は、この浸潤様の挙動をより高い頻度で示すことを見出した。以上の結果は,正常大腸オルガノイドの中でのごく少数のがん細胞の悪性度をin vitroで再現できる可能性を示している。本浸潤モデルは、がん細胞が正常上皮細胞や間質細胞との相互作用を介した浸潤・転移等の機序解明に貢献するとともに、創薬研究での幅広い応用にも期待される。
【符号の説明】
【0108】
1 物質注入装置
10 顕微鏡ユニット
12 顕微鏡
14 カメラ
16 焦点合わせ機構
20 試料ステージ
22 試料保持部材
30 第1マニピュレータ
32 X-Y軸テーブル
34 Z軸テーブル
36、38 駆動装置(第1駆動装置)
40 第1ピペット保持部材
42、82 微動機構
44 圧電アクチュエータ
46 ハウジング
48 転がり軸受
48a 内輪
48b 外輪
48c ボール
50 中空部材
50a フランジ部
52 ロックナット
54 スペーサ
56 圧電素子
58 蓋
60 第1ピペット
60a 開口
62 シリンジポンプ
70 第2マニピュレータ
72 X-Y軸テーブル
74 Z軸テーブル
76、78 駆動装置
80 第2ピペット保持部材
90 第2ピペット
90a 開口
92 注入ポンプ
100 コントローラ(制御装置)
102 画像入力部
104 画像処理部
106 画像出力部
108 位置検出部
110 演算部
112 記憶部
114 ジョイスティック
114a 基台
114b ハンドル部
114c ボタン
116 入力部
118 シリンジポンプインターフェース
120 注入ポンプインターフェース
118a、120a 操作ノブ
122 表示部
200 オルガノイド
210 上皮層
212 基底膜
214 頂端膜
220 内腔
Ce 細胞(外来細胞)
Dm 細胞操作用ドロップ
Ds 細胞懸濁ドロップ
φ、φ 口径
t 厚み
XY、V 駆動信号
ナノポジショナ制御信号
P1、VP2 圧力制御信号
PIX 画像信号
S1、S2、S3、S4、S5、S6 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14