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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071982
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】等速自在継手の組立装置及び組立方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 21/00 20060101AFI20240520BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20240520BHJP
   F16D 3/2245 20110101ALI20240520BHJP
【FI】
B23P21/00 301A
F16D3/20 H
F16D3/2245
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182536
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中塚 志朗
(72)【発明者】
【氏名】緒方 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】岡本 純一
【テーマコード(参考)】
3C030
【Fターム(参考)】
3C030BC27
3C030CA11
(57)【要約】
【課題】固定式等速自在継手を効率良く自動組立可能とする。
【解決手段】内側継手部材3と保持器5とを内側継手部材3の中心軸Oi回りに相対回転可能に嵌合してなるカセット11について、内側継手部材3の内側トラック溝9と保持器5のポケット10の周方向位置を一致させる位相合わせを行う位相合わせ装置20を備えた組立装置である。位相合わせ装置20は、互いに反対方向に同期移動する一対の移動体23を有し、各移動体23は、先端部(に設けた突起24)をポケット10に挿入した状態で、上記中心軸Oiを含む軸平行平面Pを基準として平面Pに対して直交する方向に沿ってスライド移動する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状内周面に複数の外側トラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の内側トラック溝が形成された内側継手部材と、対をなす前記外側トラック溝と前記内側トラック溝の間に転動自在に配された複数のボールと、ボールを個別に収容する複数のポケットが形成された保持器と、を備えた等速自在継手の組立装置であって、
前記内側継手部材と前記保持器とを前記内側継手部材の中心軸回りに相対回転可能に嵌合してなるカセットについて、前記内側トラック溝と前記ポケットの周方向位置を一致させる位相合わせを行う位相合わせ装置を備え、
前記位相合わせ装置は、互いに反対方向に同期移動する一対の移動体を有し、各移動体は、その先端部を前記保持器の一つのポケットに挿入した状態で、前記中心軸を含む軸平行平面を基準として軸平行平面に対して直交する方向にスライド移動することを特徴とする等速自在継手の組立装置。
【請求項2】
前記位相合わせ装置は、前記中心軸回りに回転することにより、前記内側継手部材及び/又は前記保持器を前記中心軸回りに回転させる回転機構をさらに備える請求項1に記載の等速自在継手の組立装置。
【請求項3】
前記位相合わせ装置は、前記移動体の移動基準からのスライド移動量を測定する測定手段をさらに備える請求項1又は2に記載の等速自在継手の組立装置。
【請求項4】
球状内周面に複数の外側トラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の内側トラック溝が形成された内側継手部材と、対をなす前記外側トラック溝と前記内側トラック溝の間に転動自在に配された複数のボールと、ボールを個別に収容する複数のポケットが形成された保持器と、を備えた等速自在継手を組み立てるための方法であって、
前記内側継手部材と前記保持器とを前記内側継手部材の中心軸回りに相対回転可能に嵌合してなるカセットについて、前記内側トラック溝と前記ポケットの周方向位置を一致させる位相合わせを行う位相合わせ工程を含み、
前記位相合わせ工程では、先端部を前記保持器の一つのポケットに挿入した互いに反対方向に同期移動可能な一対の移動体を、前記中心軸を含む軸平行平面を基準として前記軸平行平面に対して直交する方向に沿ってスライド移動させることを特徴とする等速自在継手の組立方法。
【請求項5】
前記位相合わせ工程では、前記移動体の移動基準からのスライド移動量に基づき、前記一対の移動体の先端部が挿入されたポケットの周長を算出する請求項4に記載の等速自在継手の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手の組立装置及び組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動軸及び従動軸の二軸を連結し、かつ連結した二軸が相対的に角度変位しても等速でトルクを伝達可能な構造を有する。この等速自在継手には、上記二軸の相対的な角度変位のみを許容する固定式と、上記二軸の相対的な角度変位及び軸方向変位を許容する摺動式とがある。固定式等速自在継手の一種であるツェッパ型(「バーフィールド型」とも称される)の等速自在継手(BJ)は、球状内周面に軸方向に延びる複数の外側トラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数の内側トラック溝が形成された内側継手部材と、対をなす外側トラック溝と内側トラック溝の間に転動自在に配された複数のボールと、外側継手部材の球状内周面に嵌合する球状外周面及び内側継手部材の球状外周面に嵌合する球状内周面を有し、ボールを個別に収容する複数のポケットが周方向に間隔を空けて設けられた保持器と、を備えている。
【0003】
このツェッパ型等速自在継手は、継手内部部品(内側継手部材、保持器及びボール)を収容する外側継手部材のカップ部が、その内径寸法を一端開口部に向けて徐々に縮小させたアンダーカット形状(球状内周面)を有する関係上、継手内部部品を外側継手部材の内周に組み込む際に工夫が必要となる。例えば下記の特許文献1には、以下のような第1~第3工程を順に実施することでツェッパ型等速自在継手を自動組立することが記載されている。
・第1工程:内側継手部材と保持器とを内側継手部材の中心軸回りに相対回転可能に嵌合してなるカセットについて、内側トラック溝とポケットの周方向位置を一致させる位相合わせを行った後、一つのポケットにボール(基準ボール)を挿入する工程。
・第2工程:基準ボールが一つのポケットに挿入されたカセットを外輪の内周に組み込んだ後、対をなす外側トラック溝と内側トラック溝の間に基準ボールを嵌合する工程。
・第3工程:所定の順序で残りのポケット全てにボールを1つずつ挿入する工程。
【0004】
特許文献1では、保持器に計6つ設けられるボールポケットのうち、保持器の中心を挟んで対向する一組(2つ)のポケットを「長ポケット」に形成すると共に、残り4つのポケットを、周長(周方向の開口寸法)が長ポケットよりも短い「短ポケット」に形成し、上記第1工程で計4つの短ポケットのうちの1つに基準ボールを挿入するようにしている。このため、第1工程で実施される内側継手部材(内側トラック溝)と保持器(ポケット)の位相合わせは、カセット(を構成する保持器)を径方向に挟持する一対のアームにそれぞれ設けた突起を保持器の長ポケットに嵌合することにより行われる。これにより、保持器の長ポケットに上記突起が嵌合されると、基準ボールの挿入対象となる短ポケットがボール挿入機のボール供給口に対向配置される(特許文献1の第8図)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6-15885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の組立装置・方法において、等速自在継手を効率良くかつ精度良く組み立てるためには、例えば第1工程で一対のアームによりカセットを径方向に挟持したときに、各アームに設けた突起を保持器の長ポケットにスムーズに嵌合する必要がある。そこで、例えば、突起を長ポケットよりも小さくすると、長ポケットと短ポケットの周長差が僅かな場合には短ポケットに突起が嵌合してしまい、基準ボールを所定のポケットに挿入できなくなるおそれがある。また、長ポケットとこれに嵌合した突起の間に大きなクリアランスが形成されると内側継手部材と保持器を精度良く位相合わせすることができない。このような理由から、アームに設ける突起の形状・サイズは、長ポケットの形状・サイズと略同一にする必要がある。しかしながら、このようにすると、突起を長ポケットに円滑かつ正確に嵌合させることが難しくなり、内側継手部材と保持器の位相合わせ作業が繰り返し実施される。その結果、カセット、ひいては等速自在継手の組立に要するサイクルタイムが長くなり、等速自在継手の製造コストが増加する。
【0007】
また、従来の組立装置・方法は、一対のアームでカセットを挟持したときに各アームに設けた突起を保持器の長ポケットに嵌合する必要があることから、長ポケット形状・サイズに応じた突起を具備するアームを準備・保有すると共に、カセットを構成する保持器が変更される毎にアームの交換作業を実施する必要もある。このため、汎用性が無くて設備投資が嵩む、装置稼働率を向上することが難しい、などという課題もある。
【0008】
上記の実情に鑑み、本発明の主な目的は、多額の投資を必要とすることなく、アンダーカット形状(球状内周面)を有する外側継手部材を構成部材とする等速自在継手(固定式等速自在継手)を効率良く自動組立可能とするための技術手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、球状内周面に複数の外側トラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の内側トラック溝が形成された内側継手部材と、対をなす外側トラック溝と内側トラック溝の間に転動自在に配された複数のボールと、ボールを個別に収容する複数のポケットが周方向に間隔を空けて設けられた保持器とを備えた等速自在継手の組立装置であって、
内側継手部材と保持器とを内側継手部材の中心軸回りに相対回転可能に嵌合してなるカセットについて、内側トラック溝とポケットの周方向位置を一致させる位相合わせを行う位相合わせ装置を備え、
位相合わせ装置は、互いに反対方向に同期移動する一対の移動体を有し、各移動体は、先端部を一つのポケットに挿入した状態で、上記中心軸を含む軸平行平面を基準としてこの平面に対して直交する方向に沿ってスライド移動することを特徴とする。
【0010】
上記の位相合わせ装置によれば、先端部をポケットに挿入した一対の移動体が、先端部がポケットの内壁面の周方向一方側及び他方側の端部にそれぞれ当接するまで上記軸平行平面を基準として互いに離反するように同期移動すると、上記ポケットの周方向中央部を、上記軸平行平面、つまり一対の移動体の移動基準に一致させることができる。そのため、内側トラック溝の周方向中央部が上記軸平行平面(一対の移動体の移動基準)と一致していれば、内側トラック溝とポケットの周方向位置(周方向中央部)を一致させる位相合わせを行うことができる。また、上記の位相合わせ装置に設けた一対の移動体によれば、先端部の挿入対象であるポケットの周長が変更されても先端部が挿入可能である限り、これを交換せずとも上記の位相合わせを精度良く実施することができる。そのため、多額の投資を必要とすることなく、内側トラック溝とポケットの周方向位置が一致した位相合わせ済のカセット、ひいてはこれが外側継手部材の内周に組み込まれた固定式等速自在継手を効率良く得ることができる。
【0011】
上記の位相合わせ装置には、上記中心軸回りに回転することにより、カセットを構成する内側継手部材及/又は保持器をその中心軸回りに回転させる回転機構をさらに設けることができる。
【0012】
このように、上記一対の移動体とは別の回転機構を設けておけば、カセットを構成する内側継手部材及び保持器の何れか一方を他方から独立して回転させることができるので、位相合わせ作業を精度良くかつ効率良く実施することができる。
【0013】
上記の位相合わせ装置には、移動体の移動基準からのスライド移動量を測定する測定手段をさらに設けることができる。この場合、例えば上記の位相合わせが完了した時点で移動体の移動量を測定手段で測定すれば、一対の移動体が挿入されたポケットの周長を算出することができる。そのため、例えば、周長が互いに異なる二種類のポケット(長ポケット及び短ポケット)が設けられた保持器を用いたカセットの場合には、移動体が挿入されたポケットが長ポケット又は短ポケットの何れであるか、ひいては、上記の位相合わせが完了したカセットに対して次の作業工程(例えば、所定のポケットにボールを挿入する工程)を実施して良いか否かを正確に把握することが可能となる。
【0014】
また、上記の目的を達成するため、本発明では、球状内周面に複数の外側トラック溝が形成された外側継手部材と、球状外周面に複数の内側トラック溝が形成された内側継手部材と、対をなす外側トラック溝と内側トラック溝の間に転動自在に配された複数のボールと、ボールを個別に収容する複数のポケットが形成された保持器と、を備えた等速自在継手を組み立てるための方法であって、
内側継手部材と保持器とを内側継手部材の中心軸回りに相対回転可能に嵌合してなるカセットについて、内側トラック溝とポケットの周方向位置を一致させる位相合わせを行う位相合わせ工程を含み、
上記位相合わせ工程では、先端部を保持器の一つのポケットに挿入した互いに反対方向に同期移動可能な一対の移動体を、上記中心軸を含む軸平行平面を基準として上記軸平行平面に対して直交する方向に沿ってスライド移動させることを特徴とする等速自在継手の組立方法を提供する。
【0015】
係る構成を有する組立方法によれば、本発明に係る組立装置と同様の作用効果を享受することができる。
【0016】
位相合わせ工程では、移動体の移動基準からのスライド移動量に基づき、一対の移動体の先端部が挿入されたポケットの周長を算出することもできる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明によれば、アンダーカット形状(球状内周面)を有する外側継手部材を構成部材とする等速自在継手(固定式等速自在継手)を組み立てる際に必要となる、内側継手部材と保持器を組み合わせたカセットを多額の投資を必要とせずに効率良くかつ精度良く組み立てることができる。これにより、外側継手部材の内周に上記カセットを組み込む作業を経て作製される等速自在継手を低コストにかつ効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)図は、本発明の実施形態に係る組立装置を用いて得られるカセットを含む等速自在継手の縦断面図[(b)図のA-O-A線断面図]、(b)図は同等速自在継手の横断面図である。
図2図1に示す等速自在継手の組立工程(組立手順)を示すフロー図である。
図3】本発明の実施形態に係る等速自在継手の組立装置を構成する位相合わせ装置の部分概略側面図である。
図4図3に示す位相合わせ装置の部分概略平面図である。
図5】位相合わせ装置に設けられる計測手段の概要図である。
図6】(a)図は、位相合わせ装置により実施される位相合わせ工程(位相合わせ作業)の途中段階を示す部分拡大図、(b)図は、位相合わせが完了した段階を示す部分拡大図である。
図7】位相合わせ装置の部分斜視図である。
図8】位相合わせ装置に設けられる回転機構の作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
まず、本発明に係る組立装置・方法を用いて組み立てられるカセットを含む等速自在継手の一例を、図1(a)に示す作動角0°の状態における縦断面図[図1(b)のA-O-A線断面図]、及び図1(b)に示す横断面図に基づいて簡単に説明する。図1(a)(b)に示す等速自在継手1は、自動車の車台上に搭載されたエンジンや電動モータ等の駆動源から出力される回転動力を車輪に伝達するドライブシャフトの構成要素であり、車輪側に配設されて連結すべき二軸の角度変位のみを許容する固定式等速自在継手(ツェッパ型等速自在継手)である。
【0021】
等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材3と、複数のボール4と、保持器5とを備える。外側継手部材2の球状内周面6には、軸方向に延びる複数(計8本)の外側トラック溝7が周方向に間隔を空けて設けられ、内側継手部材3の球状外周面8には、軸方向に延びる複数の内側トラック溝9が周方向に間隔を空けて設けられている。互いに対向する外側トラック溝7と内側トラック溝9の間に形成されるボールトラックにボール4が転動自在に配置されている。保持器5は、外側継手部材2の球状内周面6に嵌合する球状外周面、及び内側継手部材3の球状外周面8に嵌合する球状内周面を有し、ボール4を個別に保持する複数(計8つ)のポケット10が周方向に間隔を空けて設けられている。
【0022】
保持器5に計8つ設けられたポケット10(10A~10H)には、周長(周方向の開口寸法)が互いに異なる2種類のポケット(長ポケット及び短ポケット)があり、図1(b)においては、長ポケットと短ポケットが周方向で交互に設けられている。ここでは、ポケット10A,10C,10E,10Gが長ポケットとされ、ポケット10B,10D,10F,10Hが、長ポケットよりも周長が短い短ポケットとされる。長ポケットと短ポケットの周長差は、例えば1mm以下程度と僅かである。
【0023】
上記の構成を有する等速自在継手1は、図2に示すように、カセット作製工程S1、位相合わせ工程S2、基準ボール挿入工程S3、アセンブリ組込工程S4及びボール挿入工程S5を順に経ることで組み立てられ、その後、図示しない検査工程で実施される品質検査に合格した合格品が後工程に搬出される。本発明の実施形態に係る等速自在継手の組立方法は、上記の各工程S1~S5のうち、主に位相合わせ工程S2に特徴がある。従って、以下、位相合わせ工程S2以外の各工程について簡単に説明してから、位相合わせ工程S2について詳細に説明する。
【0024】
[カセット作製工程S1]
この工程S1では、内側継手部材3の球状外周面8に保持器5の球状内周面を嵌合することにより、内側継手部材3と保持器5とが内側継手部材3の中心軸回りに相対回転可能に嵌合されたカセット11が作製される。
【0025】
[基準ボール挿入工程S3]
この工程S3では、後段で詳述する位相合わせ工程S2にて位相合わせが行われたカセット11(図3等を参照)の保持器5に設けられた計8つのポケット10(10A~10H)のうち、1つのポケット10にボール4(基準ボール4)が挿入される。これにより、内側継手部材3、保持器5及び1つの基準ボール4からなり、この基準ボール4によって内側継手部材3と保持器5の相対回転が規制されたアセンブリが得られる。
【0026】
なお、基準ボール4は、図示しないボール挿入機を用いて所定のポケット10(ここでは、長ポケット10A,10C,10E,10Gの何れか一つ)に自動で挿入される。このボール挿入機は、位相合わせが完了した後、後述する位相合わせ装置20を構成する第1の回転機構22に入れ替わるかたちでカセット11の径方向外側(ポケット10にボール4を挿入可能な挿入位置)に配置され、ポケット10に対するボール挿入作業を実行する。ボール挿入作業が完了すると、ボール挿入機は、第1の回転機構22に入れ替わるかたちでポケット10に対してボール4を挿入できない退避位置に移動する。
【0027】
[アセンブリ組込工程S4]
この工程S4では、別途準備された外側継手部材2(のカップ部)の内周に上記アセンブリが組み込まれる。図示は省略するが、外側継手部材2の内周へのアセンブリの組み込みは、特許文献1の第2~第4図に示された態様と同様にして行われる。
【0028】
すなわち、アセンブリは、その中心軸(内側継手部材3の中心軸Oi:図4参照)を外側継手部材2の中心軸に対して直交させると共に、基準ボール4を外側継手部材2の外側に配置した状態で外側継手部材2の内周に挿入される(特許文献1の第2図を参照)。アセンブリの挿入開始時には、アセンブリの中心軸を挟んで対向する2つのポケット10(例えば、長ポケットであるポケット10C,10G)を外側継手部材2の球状内周面6(周方向で隣り合う2つの外側トラック溝7,7間に設けられる凸状の部分)に嵌合させる(特許文献1の第3図を参照)。これにより、外側継手部材2と保持器5の干渉を回避することができる。
【0029】
アセンブリの一部が外側継手部材2の内周に挿入されると、アセンブリを外側継手部材2の中心軸回りに回転させることにより、外側継手部材2の球状内周面6と保持器5の球状外周面とを嵌合させつつ、保持器5のポケット10と外側トラック溝7の周方向位置を一致させる(特許文献1の第4図を参照)。その後、アセンブリを外側継手部材2の径方向に延びる軸回りに90°回転させると、アセンブリは、その中心軸を外側継手部材2の中心軸と一致させた状態で外側継手部材2の内周に組み込まれる。
【0030】
[ボール挿入工程S5]
この工程S5では、外側継手部材2の内周に組み込まれた保持器5のポケット10(10A~10H)のうち、基準ボール4が挿入された長ポケット10A以外のポケット10B~10Hに対してボール4が1個ずつ挿入される。ボール4は所定の順序で各ポケット10B~10Hに挿入される。具体的な順序を例示すると、短ポケット10F→長ポケット10C→長ポケット10G→長ポケット10E→短ポケット10B→短ポケット10D→短ポケット10Hの順にボール4が挿入される。なお、各ポケット10B~10Hにボール4を挿入する際には、外側継手部材2に対してカセット11(内側継手部材3及び保持器5)を角度変位させることでボール挿入対象のポケットを外側継手部材2の外側に露出させる。
【0031】
以下、図3図8を参照しながら位相合わせ工程S2について説明する。位相合わせ工程S2では、カセット作製工程S1で作製されたカセット11について、内側継手部材3と保持器5とを内側継手部材3の中心軸Oi回りに相対回転させることにより、内側トラック溝9の周方向中央部とポケット10の周方向中央部の周方向位置を一致させる位相合わせ作業が実施される。この位相合わせ作業は、図3等に示す本発明の実施形態に係る位相合わせ装置20を用いて自動で実施することができる。
【0032】
図3及び図4に、位相合わせ装置20の部分概略側面図及び部分概略平面図をそれぞれ示す。この位相合わせ装置20は、カセット11を下方側から支持する支持部材21と、支持部材21で支持されたカセット11の保持器5を内側継手部材3の中心軸Oi回りに微小回転させる第1の回転機構22と、支持部材21で支持されたカセット11の内側継手部材3又は保持器5を中心軸Oi回りに回転させる第2の回転機構30とを備える。第2の回転機構30は、その機能上、特許請求の範囲でいう「回転機構」に相当する。
【0033】
支持部材21は、内側継手部材3の中心軸Oiを鉛直方向(図3等に示す矢印Z方向)に沿わせた平置き姿勢のカセット11を下方側から支持する。この支持部材21は、図示しない駆動機構の駆動力を受けることによって昇降移動する。
【0034】
図3及び図4に示すように、第1の回転機構22は、その全体がカセット11の径方向外側に配置されている。この回転機構22は、互いに反対方向に同期移動する一対の移動体23,23を有し、各移動体23は、上記中心軸Oiを含む軸平行平面(鉛直平面)Pを基準として、この鉛直平面Pに対して直交する水平方向(図3等に示す矢印X方向)に沿ってスライド移動する。また、一対の移動体23,23は、鉛直平面Pに沿う水平方向(図3等に示す矢印Y方向)、つまりカセット11に対して接近及び離反する方向にスライド移動可能である。各移動体23の先端部には、保持器5のポケット10に挿入可能な突起24が設けられている。
【0035】
第1の回転機構22は、図5に示すような測定手段26を具備する。この測定手段26は、移動体23(一対の移動体23,23の何れか一方)の移動基準からのスライド移動量を測定するものであり、位相合わせ装置20の図示しない静止側部材(例えば、構造体)に取り付けられたセンサ本体27と、一対の移動体23,23の何れか一方に取り付けられた端子28とを備えたものが使用される。この場合、例えば、各移動体23が、上記鉛直平面P上で相手の移動体23と当接した移動基準(図4参照)から、相手の移動体23との離間距離を拡大させるようにして互いに反対方向にスライド移動すると、一方の移動体23に取り付けられた上記端子28の移動量がセンサ本体27によって測定される。そのため、この測定値を2倍すれば、一対の移動体23,23の離間距離、ひいては突起24,24が挿入されたポケット10の周長を算出することができる。
【0036】
第2の回転機構30は、図7及び図8にも示すように、支持部材21と同軸に配置され、図示しないサーボモータ等の回転駆動源の出力を受けることにより支持部材21の中心軸回り、すなわち支持部材21により支持されたカセット11の内側継手部材3の中心軸Oi回りに回転駆動される回転ヘッド31を有する。この回転ヘッド31は、支持部材21と同軸に配置され、内側継手部材3の軸孔に挿入可能な位置決めピン32と、当該位置決めピン32の径方向外側に配置され、内側継手部材3の内側トラック溝9に挿入可能な一本の係合ピン33とを備えており、その全体が図示しない駆動機構の駆動力を受けて昇降する。
【0037】
位相合わせ装置20は、概ね以上の構成を有し、以下のようにして内側トラック溝9の周方向中央部とポケット10の周方向中央部の周方向位置を一致させる位相合わせ作業を行う。
【0038】
まず、カセット作製工程S1で作製されたカセット11を、内側継手部材3の中心軸Oiを鉛直方向に沿わせた平置き姿勢の状態で支持部材21上にセットしてから、このカセット11に対して第1の回転機構22(一対の移動体23,23)を接近移動させ、各移動体23の先端部に設けた突起24を保持器5のポケット10に挿入する[図6(a)参照]。
【0039】
このとき、回転ヘッド31の位置決めピン32を内側継手部材3の軸孔に挿入することにより、支持部材21上でカセット11を位置決めしておく。また、回転ヘッド31をカセット11の保持器5に当接させることにより、回転ヘッド31と支持部材21とで挟持する。図示は省略しているが、支持部材21にはこれを上記中心軸Oi(鉛直軸)回りに回転させ得るスラスト軸受が組み込まれている。そのため、カセット11の保持器5は、支持部材21と回転ヘッド31とで挟持された状態であっても、上記スラスト軸受(及び支持部材21)とともに鉛直軸回りに回転可能である。このようにしておけば、保持器5は、ポケット10に挿入された突起24を有する移動体23が以下説明する態様で動作した場合のみならず、回転ヘッド31が回転した場合にも鉛直軸回りに回転できる。このため、例えば、突起24に対してポケット10が周方向に位置ズレしているために突起24をポケット10に挿入することができないような場合には、回転ヘッド31を回転駆動することで保持器5を回転させ、保持器5のポケット10を、突起24を挿入可能な位置に配置することができる。従って、ポケット10に対する突起24の挿入作業(カセット11に対する一対の移動体23,23の接近移動)は、回転ヘッド31を回転駆動させながら行うのが好ましい。
【0040】
突起24,24が保持器5のポケット10に挿入されると、各移動体23は、相手側の移動体23との離間距離を拡大させるように、鉛直平面Pに対して直交する水平方向(矢印X方向)にスライド移動する[図6(a)中の黒塗り矢印参照]。そして、一方の突起24がポケット10の周方向一端部に当接すると共に、他方の突起24がポケット10の周方向他端部に当接すると、一対の移動体23,23のスライド移動が停止される。
【0041】
カセット11(の保持器5)が上記態様で支持されていることにより、一対の移動体23にそれぞれ設けた突起24がポケット10の周方向一端部及び他端部に当接するまでの間は、突起24のスライド移動力を受けて保持器5が鉛直軸回りに回転(微小回転)し、各突起24がポケット10の周方向一方側及び他方側の端部にそれぞれ当接すると、保持器5のポケット10の周方向中央部の周方向位置が内側継手部材3の中心軸Oiを含む鉛直平面Pと一致する。これにより、ポケット10の周方向中央部の周方向位置を鉛直平面Pと一致させる第1の位相合わせ作業が完了する。また、このとき、測定手段26によって一対の移動体23,23の離間距離が測定されることにより、突起24,24が挿入されたポケット10の周長が測定・算出される。そして、図示しない判定手段により、測定・算出されたポケット10の周長が長ポケットの周長であると判定されると、ポケット10の周方向中央部と内側トラック溝9の周方向中央部の周方向位置を一致させる第2の位相合わせ作業が実施される(詳細は後段で説明する)。
【0042】
一方、測定・算出されたポケット10の周長が短ポケットの周長であると判定されると、回転ヘッド31が支持部材21との間でカセット11の保持器5を挟持した状態で所定量(ここでは、ポケット10の1ピッチ分である45°)回転することにより、鉛直平面P上に、先に突起24,24が挿入されたポケット10に隣接するポケット10が配置されるように保持器5(及び内側継手部材3)が回転する。そして、上記同様にして第1の回転機構22が動作することにより、ポケット10の周方向中央部の周方向位置を鉛直平面Pに一致させる第1の位相合わせ作業が行われると共に、ポケット10の周長が測定(ポケット10が長ポケット又は短ポケットの何れであるかが判定)される。なお、長ポケットと短ポケットとが周方向で交互に設けられている本実施形態の保持器5の構成上、このポケット10は必然的に長ポケットとなる。
【0043】
第2の位相合わせ作業は、以下のようにして実施される。まず、回転ヘッド31及び/又は支持部材21を昇降移動させ、また、必要に応じて回転ヘッド31を回転させることにより、支持部材21と回転ヘッド31とでカセット11の保持器5を挟持せずに、回転ヘッド31に設けた係合ピン33を内側継手部材3のトラック溝9に挿入する(図8参照)。この状態、すなわち回転ヘッド31と保持器5の間に僅かな隙間を設け、回転ヘッド31と支持部材21とで保持器5を挟持しない状態で回転ヘッド31を回転駆動させると、係合ピン33と内側継手部材3とが回転ヘッド31の回転方向で係合する一方、保持器5には回転ヘッド31の回転力が伝達されないので、内側継手部材3のみが回転ヘッド31の回転力を受けて中心軸Oi回りに回転する。回転ヘッド31の回転量は、図6(b)に示すように、内側トラック溝9の周方向中央部が鉛直平面P上に位置するように制御される。これにより、ポケット10の周方向中央部と内側トラック溝9の周方向中央部の周方向位置を一致させる第2の位相合わせ作業、すなわち位相合わせ工程S2が完了する。
【0044】
以上のようにして位相合わせが完了すると、前述したとおり、第1の回転機構22に入れ替わるかたちでボール挿入機がカセット11の径方向外側に配置され、このボール挿入機により支持部材21に支持されたカセット11のポケット10に対し基準ボール4が挿入される。
【0045】
以上で説明した本実施形態の位相合わせ装置20によれば、ポケット10に挿入された一対の移動体23(の先端部に設けられた突起24)が、ポケット10の内壁面の周方向一方側及び他方側の端部にそれぞれ当接するまで鉛直平面Pを基準として互いに離反するように同期移動すると、ポケット10の周方向中央部を、鉛直平面P、すなわち一対の移動体23の移動基準に一致させることができる。そのため、内側トラック溝9の周方向中央部を上記鉛直平面Pと一致させれば、内側トラック溝9とポケット10の周方向位置を一致させる位相合わせを行うことができる。また、上記一対の移動体23,23によれば、その挿入対象であるポケット10の周長が変更されても、各移動体23の先端部に設けた突起24が挿入可能である限り、これを交換せずとも上記の位相合わせを精度良く実施することができる。
【0046】
また、位相合わせ装置20には、支持部材21で支持されたカセット11の内側継手部材3の中心軸Oi回りに回転することにより、カセット11を構成する内側継手部材3又は保持器5をその中心軸回りに回転させる回転機構(第2の回転機構30)として回転ヘッド31をさらに設けている。このように、上記一対の移動体23(第1の回転機構22)とは別の回転機構を設けておけば、カセット11を構成する内側継手部材3及び保持器5の何れか一方を他方から独立して回転させることができるので、内側継手部材3と保持器5の位相合わせ作業を精度良くかつ効率良く実施することができる。
【0047】
本実施形態の位相合わせ装置20には、移動体23の移動基準からのスライド移動量(鉛直平面Pに対して直交する水平方向におけるスライド移動量)を測定する測定手段26をさらに設けている。この場合、例えば上記の位相合わせが完了した時点で移動体23の移動量を測定手段26で測定すれば、一対の移動体23が挿入されたポケット10の周長を算出することができる。そのため、上記のように、周長が互いに異なる長ポケット及び短ポケットが設けられた保持器5を用いたカセット11の場合には、移動体23(に設けた突起24)が挿入されたポケット10が長ポケット又は短ポケットの何れであるか、ひいては、上記の位相合わせが完了したカセット11に対して次の作業工程(基準ボール挿入工程S3)を実施して良いか否かを正確に把握することが可能となる。
【0048】
以上を小括すると、本実施形態に係る位相合わせ装置20(位相合わせ方法)は、多額の投資を必要とすることなく、内側トラック溝9の周方向中央部とポケット10の周方向中央部の周方向位置が一致した位相合わせ済のカセット11を効率良く作製することができるので、カセット11(及び複数のボール4)が外側継手部材2の内周に組み込まれた等速自在継手1を効率良くかつ低コストに作製することができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0050】
例えば、以上では、本発明の実施形態に係る位相合わせ装置20を、周長が互いに異なる二種類のポケット(長ポケット及び短ポケット)を有する保持器5を構成部材とした等速自在継手1の組立時に使用する場合について説明したが、この位相合わせ装置20は、内側継手部材3に設けられた内側トラック溝9と保持器5に設けられたポケット10の周方向位置を一致させる位相合わせ作業を効率良く実施できるという特徴を具備することから、全てのポケットの周長が等しく形成された保持器5を構成部材とする等速自在継手1の組立時に使用することももちろん可能である。
【0051】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0052】
1 等速自在継手(固定式等速自在継手)
2 外輪継手部材
3 内側継手部材
4 ボール
5 保持器
7 外側トラック溝
9 内側トラック溝
10 ポケット
11 カセット
21 支持部材
22 第1の回転機構
23 移動体
24 突起
26 測定手段
30 第2の回転機構(回転機構)
31 回転ヘッド
32 位置決めピン
33 係合ピン
Oi 内側継手部材の中心軸
P 軸平行平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8