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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071986
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】高機能性繊維及び繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
D01F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182547
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 美波
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康平
(72)【発明者】
【氏名】河角 慎也
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ03
4L035KK01
(57)【要約】
【課題】洗濯耐久性に優れた吸湿性及び蓄熱性を有する高機能性繊維を提供する。
【解決手段】比表面積が500m/g以上3000m/g以下である炭素粒子Aと、比表面積が500m/g未満である炭素粒子Bと、熱可塑性樹脂とを含有する繊維であり、前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であり、前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40である、繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が500m/g以上3000m/g以下である炭素粒子Aと、比表面積が500m/g未満である炭素粒子Bと、熱可塑性樹脂とを含有する繊維であり、前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であり、前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40である、繊維。
【請求項2】
前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bが植物由来の炭素粒子である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記炭素粒子Aの平均粒子径が0.1~15μmであり、前記炭素粒子Bの平均粒子径が0.2~10.0μmである、請求項1又は請求項2に記載の繊維。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂である、請求項1又は請求項2に記載の繊維。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の繊維を含む、繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性繊維及び繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、秋冬に使用する衣料品や寝装品においては、使用時に蒸れや汗冷えが生じて不快となる場合が多く、汗や汗に起因する水蒸気を素早く吸湿する繊維が求められている。また冬の寒さに対応するために、保温性に優れた繊維が求められている。
【0003】
繊維に添加する吸湿性を高める機能材料としては活性炭が知られており、例えば特許文献1には、活性炭を含有する繊維が開示されている。そのほかにも吸湿性を高める方法として、特許文献2には、繊維表面に吸湿性を有する高分子化合物を付着させた繊維構造物が提案されている。また、保温性を高めた繊維として、特許文献3には、赤外線吸収剤を含む樹脂層を布帛に積層した保温性布帛が提案されている。特許文献4には、木炭及び/又は竹炭等の炭素粉を含有する繊維も開示されている。さらに、特許文献5には、臭いやアレルゲン物質の除去などを目的として、活性炭粒子及び/又は非活性炭粒子を含有する繊維が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-38626号公報
【特許文献2】特開2002-212880号公報
【特許文献3】特開2003-96663号公報
【特許文献4】特開2002-249922号公報
【特許文献5】特開2001-146626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の活性炭を含有する繊維は、炭化物に比べると吸湿性が高いため水分を吸着しやすく、熱伝導の面で蓄熱性に劣るという問題があり、また繊維内に活性炭を均一に分散させることが困難であるため紡糸性が悪く、生産性に問題があるだけでなく強度が低く、加工性も悪いものであった。特許文献2及び3に記載の繊維は、機能を有した加工剤を後加工で付与しているため、洗濯処理によって脱落等が起き、洗濯後の性能が劣るという問題があった。特許文献4に記載の繊維は、木炭及び/又は竹炭を炭素紛として含むものの、活性炭に比べ比表面積が小さく吸湿性に劣るという問題があった。特許文献5に記載の繊維は、活性炭と炭化物の両方を含む態様の記載はなく、吸湿性及び蓄熱性の両立についても開示されていない。
【0006】
本発明の目的は、洗濯耐久性に優れ、かつ吸湿性及び蓄熱性を有する高機能性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]比表面積が500m/g以上3000m/g以下である炭素粒子Aと、比表面積が500m/g未満である炭素粒子Bと、熱可塑性樹脂とを含有する繊維であり、前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であり、前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40である、繊維。
[2]前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bが植物由来の炭素粒子である、前記[1]に記載の繊維。
[3]前記炭素粒子Aの平均粒子径が0.1~15μmであり、前記炭素粒子Bの平均粒子径が0.2~10.0μmである、前記[1]又は[2]に記載の繊維。

[4]前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の繊維。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の繊維を含む、繊維構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗濯耐久性に優れ、かつ吸湿性及び蓄熱性を有する高機能性繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。
【0010】
本発明の繊維は、比表面積が500m/g以上3000m/g以下である炭素粒子Aと、比表面積が500m/g未満である炭素粒子Bと、熱可塑性樹脂とを含有する繊維であり、前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であり、前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40である、繊維である。
【0011】
本発明に用いる炭素粒子Aは、500m/g以上3000m/g以下の比表面積を有している。炭素粒子Aは比表面積が前記の範囲内であればよく、その製法等は特に限定されないが、活性炭であってもよい。環境への配慮、カーボンニュートラルの観点から、炭素粒子Aは植物由来であることが好ましく、ヤシ殻由来であることがより好ましい。ヤシ殻由来の活性炭は竹や針葉樹由来の活性炭と比較して高い比表面積を有するため、比較的少量の活性炭を添加することで、繊維は高い吸湿性を達成することができる。また大量に入手可能であることから、原料植物としてヤシ殻を用いることは商業的にも有利である。
【0012】
本発明に用いる炭素粒子Aの比表面積は、500m/g以上3000m/g以下である。これは前記炭素粒子Aを含む繊維を作製する場合、比表面積が前記下限値未満の場合には、所望の吸湿性能を有さない場合がある。また比表面積が前記上限値を超える場合、その比表面積が高すぎるために、凝集により繊維の生産性が低下する場合がある。凝集の原因としては、比表面積の増加により表面エネルギーが増加し、凝集しやすくなるものと推察される。前記炭素粒子Aの比表面積の下限値は800m/g以上であることが好ましく、1000m/g以上であることがより好ましい。また、上限値は2500m/g以下であることが好ましく、2000m/g以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明でいうところの炭素粒子Aの比表面積は、窒素吸着法により求めることができるBET比表面積を指し、例えば実施例に記載の方法により算出することができる。前記炭素粒子Aの比表面積は、繊維を製造する際に原料として使用する炭素粒子Aを測定試料として測定してもよい。また、繊維から、繊維を構成する樹脂等を溶解除去することによって得た炭素粒子Aを測定試料として測定を行ってもよい。なお、後述する炭素粒子Bの比表面積についても同様に算出することができる。
【0014】
本発明に用いる炭素粒子Aの平均粒子径は、熱可塑性樹脂中での良好な分散性を確保する点から、0.1~15μmであることが好ましい。これは前記炭素粒子Aを含む繊維を作製する場合、紡糸安定性を確保した上で、十分な吸湿性を示すことができるよう、繊維樹脂中に十分に分散させることが好ましいためである。前記炭素粒子Aの平均粒子径が前記下限値よりも小さい場合は、繊維への添加時に飛散してしまうことや、紡糸時に溶融ポリマー中で凝集が発生する等、その取扱い性も困難となる場合がある。また、前記炭素粒子Aの平均粒子径が前記上限値よりも大きい場合は、単糸の直径が小さな(例えば、直径15μm程度)ハイカウントの糸を製造する場合に、粒子径が大きすぎて異物となり紡糸性に悪影響を及ぼす場合がある。前記炭素粒子Aの平均粒子径の下限値は0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましく、1.5μm以上であることが特に好ましい。また、上限値は10μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることがさらに好ましく、6μm以下であることが特に好ましい。上記平均粒子径の炭素粒子Aは後述の粉砕、分級にて得ることができる。ここでいう平均粒子径は後述する実施例に記載の方法によって測定される値である。また、炭素粒子Aは二種類以上使用してもよいが、その場合の平均粒子径は、測定する際に用いる試料をそれぞれの炭素粒子の含有比で混合したものを使用することで、測定することができる。なお、後述する炭素粒子Bの平均粒子径についても同様に測定することができる。
【0015】
本発明の高機能繊維は、炭素粒子Bを含有する。炭素粒子Bが所定の比表面積を有することにより、可視光波長域に加えて、赤外波長域まで効率的に吸収し、比較的少量の炭化物であっても高い蓄熱性を達成することができる。また、炭素粒子Aよりも比表面積が小さい炭素粒子Bを含有させることにより製造時における炭素粒子Aの凝集を抑制することができ、繊維を紡糸する際の断糸を低減するだけでなく、加工時に仮撚りベルトや編み針等に接触した際の繊維表面に露出する炭素粒子A及び炭素粒子Bの脱離や、製編織時にガイド摩耗等によって生じ得る糸切れや毛羽立ちを防止することができる。
【0016】
本発明に用いる炭素粒子Bは、その製法等は特に限定されないが、賦活化を行っていない炭化物であってもよい。環境への配慮、カーボンニュートラルの観点から、炭素粒子Bは植物由来であることが好ましく、植物由来の炭化物として木材由来の炭化物(木炭)、竹由来の炭化物(竹炭)、ヤシ殻由来の炭化物等が挙げられるが、その中でもヤシ殻由来の炭化物であることがより好ましい。ヤシ殻由来の炭化物は、例えばカーボンブラック等の石油由来の炭化物と比較して、植物特有の組織構造等に由来した非常に複雑な構造を有するものであると考えられる。
【0017】
また、非植物系の原料に由来する炭化物、例えば鉱物由来、石油由来、合成素材由来等の炭化物と比較して、植物由来の炭化物はカーボンニュートラルであるため、環境保護の観点及び商業的な観点等においても有利である。本発明において、繊維の蓄熱性及び生産性をより高めやすい観点から、炭素粒子Bとしてヤシ殻由来の炭化物を使用することができる。また大量に入手可能であることから、原料植物としてヤシ殻を用いることは商業的にも有利である。
【0018】
ヤシ殻の原料となるヤシとしては、特に限定されるものではなく、例えば、パームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク及びオオミヤシ等が挙げられる。これらのヤシから得られたヤシ殻は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用され、大量に発生するバイオマス廃棄物であるココヤシ由来又はパームヤシ由来のヤシ殻は、入手が容易であり、低価格であることから特に好ましい。
【0019】
本発明に用いる炭素粒子Bの比表面積は500m/g未満である。繊維の蓄熱性及び生産性を高めやすい観点から、上限値は400m/g以下であることが好ましく、350m/g以下であることがより好ましい。一方、前記炭素粒子Bの比表面積の下限値は200m/g以上であることが好ましく、220m/g以上であることがより好ましく、250m/g以上であることがさらに好ましい。前記炭素粒子Bの比表面積が前記下限値以上であると、炭素粒子B表面に形成される細孔の量が適切なものとなり、より蓄熱性が優れたものとなる。
【0020】
本発明に用いる炭素粒子Bの平均粒子径は、熱可塑性樹脂中での良好な分散性を確保する点から、0.2~10.0μmであることが好ましい。平均粒子径が前記下限値以上であると、繊維を製造する際の炭素粒子A及び炭素粒子Bの二次凝集を抑制しやすい。また平均粒子径が前記上限値を超える場合、紡糸安定性を確保した上で、十分な蓄熱性を示すことができるよう、繊維樹脂中に十分に分散させることが難しいためである。前記炭素粒子Bの平均粒子径の下限値は0.4μm以上であることが好ましく、0.6μm以上であることがより好ましい。また、上限値は5.0μm以下であることがより好ましく、4.0μm以下であることがさらに好ましく、3.0μm以下であることが特に好ましい。
【0021】
上記の範囲の比表面積を有する炭素粒子A及び炭素粒子Bの製造方法としては、上記に例示した植物を焼成する方法が挙げられる。ヤシ殻を焼成して炭素粒子Bを製造する方法は、特に限定されるものではなく、当該分野において既知の方法を用いて製造することができる。例えば、原料となるヤシ殻を不活性ガス雰囲気下、例えば300~900℃程度の温度で1~20時間程度加熱処理(炭化処理)することによって製造することができる。比表面積や平均粒子径等を所望の範囲に調整するために、上記の焼成工程によって得た炭素粒子Bを粉砕及び/又は分級してもよい。特に、ヤシ殻等の比較的硬度が高い植物を用いる場合、粉砕の際に粗粉が残りやすい傾向がある。そのため、粉砕及び/又は分級工程によって、粗粉を除去することが、熱可塑性樹脂からなる繊維の生産性を高めやすい観点で好ましい。また、炭素粒子Aの製造工程において、炭素粒子Aを用いて製造される電池材料や浄化材料の性能を高める目的で、後述する賦活処理を行う前に、中間生成物である炭素粒子Bの微粉を除去する工程が行われる場合もある。除去された微粉は通常は廃棄もしくは燃料として利用されるが、本発明によれば、廃棄物である微粉を機能性素材としてアップサイクルすることが可能となる。
【0022】
ヤシ殻等の原料を上記のような温度条件で焼成して得た炭素粒子Bは、炭素粒子Aの製造工程における中間生成物として使用してもよい。炭素粒子Aは、例えば上記のようにして得た炭素粒子Bを、さらに賦活処理する工程が行うことで製造することができる。賦活処理は、炭素粒子Bの表面に細孔を形成し多孔質の炭素質物質に変える処理であり、これにより大きな比表面積及び細孔容積を有する炭素粒子Aが製造される。賦活処理としては、例えばガス賦活処理、薬剤賦活処理等が行われている。本発明の繊維に含まれる炭素粒子Bは、500m/g未満の比表面積を有し、このような比表面積を有する炭素粒子Bとしては、未賦活の炭化物が挙げられる。この炭化物をさらに賦活処理することによって得られる活性炭は、通常、500m/g以上の比表面積を有し、これを本発明の繊維に含まれる炭素粒子Aとして使用することができる。比表面積や平均粒子径等を所望の範囲に調整するために、上記の焼成工程によって得た炭素粒子Aを粉砕及び/又は分級してもよい。特に、ヤシ殻等の比較的硬度が高い植物を用いる場合、粉砕の際に粗粉が残りやすい傾向がある。そのため、粉砕及び/又は分級工程によって、粗粉を除去することが、熱可塑性樹脂からなる繊維の生産性を高めやすい観点で好ましい。
【0023】
不活性ガスは、上記の焼成温度において炭素粒子A及び炭素粒子Bと反応しないガスであれば特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、又はそれらの混合ガスが挙げられ、好ましくは窒素である。また、不活性ガスに含まれる不純物ガス、特に酸素の濃度は低ければ低いほど好ましい。通常許容される酸素濃度としては、好ましくは0~2000ppm、より好ましくは0~1000ppmである。
【0024】
粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、例えばビーズミル、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、又はロッドミル等を単独又は組み合わせて使用することができる。所望の比表面積等を有する粉末を得やすいという点では、分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ボールミル、ハンマーミル、又はロッドミル等を用いる場合は、粉砕後に分級を行うことで、所望の比表面積や平均粒子径等に調整することができる。
【0025】
粉砕処理後に分級することにより、比表面積や平均粒子径等をより正確に調整することができる。また、粗粒を除くことで繊維の生産性を高めることができる。分級として、篩による分級、湿式分級、又は乾式分級が挙げられる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、又は遠心分級等の原理を利用した分級機が挙げられる。また、乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、又は遠心分級の原理を利用した分級機が挙げられる。
【0026】
粉砕工程を行う場合、粉砕と分級を1つの装置を用いて行うこともできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕と分級を行うことができる。さらに、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
【0027】
本発明の繊維に含まれる炭素粒子A及び炭素粒子Bが、賦活処理されたものであるか否かは、例えば窒素吸着による比表面積、ベンゼン吸着量、ヨウ素吸着測定等の吸着試験による吸着量によって確認することができる。
【0028】
本発明の繊維は、上記のような炭素粒子A及び炭素粒子Bを繊維内に含有する繊維である。ここで、炭素粒子A及び炭素粒子Bが繊維内に含有されるとは、炭素粒子A及び炭素粒子Bが繊維表面のみに付着しているのではなく、繊維の内部に一部又は全部が存在することを意味する。なお、本発明の効果を損なわない限り、炭素粒子A及び炭素粒子Bの一部が繊維表面に存在していてもよい。
【0029】
本発明の繊維は、炭素粒子A及び炭素粒子Bを繊維内部に含有させやすく、紡糸しやすい観点から、熱可塑性樹脂を含む。
【0030】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等が挙げられる。ビニル系樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらのうち、有害分解ガスが発生しないため、焼却処分や火災の際にも毒性が問題にならない点において、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアリレート系樹脂が好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂は、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とする繊維形成能を有する樹脂であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられる。また、これらポリエステルは第3成分として、ブタンジオールのようなアルコール成分又はイソフタル酸等のジカルボン酸を共重合させた共重合体でもよく、さらにこれら各種ポリエステルの混合体でもよい。
【0032】
ポリアミド系樹脂は、アミド結合で結びついた繰り返し構造単位を有するポリマーであり、ポリアミド系樹脂はナイロンとも称される。ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド1010、ポリアミド12、ポリアミド6-12等の脂肪族ポリアミド及びその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0033】
炭素粒子A及び炭素粒子Bを繊維内部に含有させやすく、消費性能及び紡糸性の観点から、熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂およびポリアミド系樹脂の少なくとも一つであることが好ましい。これらのうち、取扱性及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレート系重合体及びポリアミド6の少なくともひとつが好ましい。
【0034】
本発明の繊維は、炭素粒子Aと、炭素粒子Bと、熱可塑性樹脂とを含有する繊維であり、前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であり、前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40である。前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bとの含有比率が前記範囲内であると、前記炭素粒子Aによる高い吸湿性を十分に確保できるだけでなく、繊維化工程における凝集を抑制し、高速かつ高収率での製造が可能になる。前記炭素粒子Aの質量比が前記上限値より高いと、前記炭素粒子Bによる均一混練の効果が得られず紡糸時に断糸が多発するだけでなく、品位の良い繊維が得られない。前記炭素粒子Aの質量比が前記下限値よりも小さいと、炭素粒子Aによる吸湿性能が十分に得られない。前記炭素粒子Aと前記炭素粒子Bの含有比は、好ましくは92:8~75:25、より好ましくは90:10~70:30である。
【0035】
前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量は繊維100質量%に対して、0.2~9質量%の範囲である。前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が前記下限値以上であると、蓄熱性及び吸湿性に優れるものとなる。また、繊維における前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量が前記上限値以下であると、繊維を紡糸する際の断糸を抑制し、繊維の生産性を向上でき、十分な品質の繊維を得ることができる。前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bの合計含有量は、紡糸安定性を確保した上で、蓄熱性及び吸湿性を高めやすい観点から、繊維の質量に対して好ましくは0.25~8質量%、より好ましくは0.3~7質量%、さらに好ましくは0.4~6.5質量%、さらにより好ましくは0.5~6質量%、特に好ましくは1~5.5質量%、ことさらに好ましくは1.5~5質量%である。
【0036】
繊維の単糸繊度は、紡糸性と風合いの観点から、0.01~10dtexであることが好ましい。単糸繊度が前記下限値未満である場合、繊維を紡糸する際の断糸の発生が多くするために、好ましくない。また、単糸繊度が前記上限値を超える場合、該繊維を用いてニットや織物を製造した際に、仕上がりが硬くなり、良好な風合いが得られにくい。単糸繊度は、紡糸性を向上させ、かつ風合いの良い製品を作る観点から、好ましくは0.05~7dtex、より好ましくは0.1~4dtexである。
【0037】
これらの繊維は、長繊維のみならず短繊維、あるいはショートカットとしても用いることができる。短繊維の場合、カット長、捲縮数にも限定はない。
【0038】
繊維の総繊度は特に限定されず、使用される用途に応じて適宜設定してよいが、紡糸性と汎用性の観点から、総繊度は好ましくは15~300dtex、より好ましくは20~200dtexであり、また、フィラメント数は好ましくは2~200フィラメント、より好ましくは3~100フィラメントである。
【0039】
繊維の比表面積は、0.2m/g以上、3.0m/g以下であることが好ましい。繊維の比表面積が前記下限値以上であると、十分な吸湿性が発揮できる。また、繊維の比表面積が前記上限値を超える場合は、単糸繊度が小さくなるために紡糸する際に断糸しやすくなり、繊維の生産性が低下する場合がある。
【0040】
繊維のU%は、3.0未満であることが好ましい。繊維軸方向の太さ斑は繊度斑の指標であるU%の値で表すことができ、断面変化に比例する電気容量の変化から測定することができる。U%が上記範囲であることにより、繊維表面に露出する炭素粒子A及び炭素粒子Bが加工時に仮撚りベルトや編み針等に接触した際の脱離が起きにくくなり、編機の汚染等の問題が発生しにくくなる。
【0041】
繊維の強度は特に限定されず、使用される用途に応じて適宜設定してよいが、製編織時にガイド摩耗等によって生じ得る糸切れや毛羽立ちを防止しやすい観点からは、好ましくは1cN/dtex以上、より好ましくは1.5cN/dtex以上、さらに好ましくは2cN/dtex以上である。強度の上限値は特に制限されるものではないが、通常の溶融紡糸法で得られる強度としては、5.0cN/dtex程度である。
【0042】
繊維の伸度は特に限定されず、繊維が使用される用途に応じて適宜設定してよいが、糸加工性と製品形態での取り扱い性の観点からは、好ましくは10~150%、より好ましくは20~100%である。
【0043】
また、本発明の繊維は断面形状に関しても特に制限はなく、丸断面の他、十字断面、扁平断面、多葉断面、中空断面等の種々の断面形状の繊維が可能である。また、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維等であってもよい。
【0044】
本発明の繊維には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー、他の高分子化合物等が挙げられる。これらの1種類を使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0045】
本発明の繊維は、上記の繊維を構成する熱可塑性樹脂と、炭素粒子A及び炭素粒子Bと、必要に応じて他の成分、添加剤等を用い、従来公知の紡糸装置を用いて製造することが可能である。例えば溶融紡糸法により紡糸を行うことができ、具体的には、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸法、紡糸後に延伸と仮撚を同時に、又は続けて行なう方法等の任意の製造方法で製造することができる。
【0046】
具体的な製造方法の一例としては、繊維を構成する熱可塑性樹脂と、炭素粒子Aと炭素粒子Bと、任意に他の成分を含む組成物を、溶融押出し機で溶融し、溶融ポリマー流を紡糸頭に導き、ギヤポンプで計量し、所望の形状の紡糸ノズルから吐出させ、必要に応じて延伸処理等を行い、ついで巻き取ることにより、本発明の繊維を製造することができる。繊維を構成する熱可塑性樹脂と、炭素粒子Aと炭素粒子Bとの混合は、これらを直接混合することによって行ってもよいし、一部の成分と前記炭素粒子A及び前記炭素粒子Bとをあらかじめ混合してマスターバッチを得て、該マスターバッチを、繊維を構成する熱可塑性樹脂と混合することによって行ってもよい。紡糸時の溶融温度は、繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点等により適宜調整されるが、通常150~300℃程度が好ましい。紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか、必要に応じて延伸される。延伸操作は、通常、繊維を構成する成分のガラス転移点以上の温度において、破断伸度(HDmax)の0.55~0.9倍の延伸倍率で行われる。延伸倍率が破断伸度の0.55倍未満では十分な強度を有する繊維が安定して得られにくく、破断伸度の0.9倍を超えると延伸時に断糸しやすくなる。
【0047】
延伸は紡糸ノズルから吐出された後に、一旦巻き取ってから延伸する場合と、紡糸に引き続いて施される場合があるが、本発明においては、いずれでもよい。延伸操作は、通常、熱延伸によって行われ、熱風、熱板、熱ローラー、水浴等のいずれを用いて行ってもよい。また、引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、大凡500~6000m/分の範囲で引き取る。500m/分未満では、生産性が劣るし、6000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。また、本発明の繊維断面形状は特に限定されず、通常の溶融紡糸の手法を用いてノズルの形状により真円状にも中空にも異型断面にもできる。また、繊維を構成する熱可塑性樹脂と炭素粒子Aと炭素粒子Bとを含有する組成物から構成される芯部分又は鞘部分と、繊維を構成する熱可塑性樹脂を含有する鞘部分又は芯部分とから構成される芯鞘構造を有していてもよい。繊維化や製織化での工程通過性の点からは真円が好ましい。
【0048】
本発明の繊維は、各種の繊維構造体(繊維集合体)として用いることができ、本発明は、本発明の繊維を含む繊維構造体も提供する。ここで、「繊維構造体」とは、本発明の繊維のみからなるマルチフィラメント糸、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、紡績糸、織編物、不織布、紙、人工皮革、及び詰物材や、本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維、半合成繊維等他の繊維との交編織布、捲縮綿、混紡糸、混繊糸、合撚糸、交絡糸や縮糸等の加工糸として用いた織編物、混綿不織布、繊維積層体等であってもよい。
【0049】
本発明の繊維、及び本発明の繊維を含む繊維構造体は、洗濯耐久性に優れた吸湿性及び蓄熱性を有する。そのため、本発明の繊維及び繊維構造体は、例えばアウターウェアやスポーツウェア、シャツ、パンツ、コート、ユニフォーム、作業服、下着、パンスト、靴下、手袋、スポーツ衣料、ブラックフォーマル衣料等の衣料製品、カーテン、カーペット等のインテリアファブリック等として用いられ得る。
【0050】
本発明の蓄熱性は後述する方法で測定した。蓄熱性評価は、照射15分後において、対照サンプルに対して筒編地の温度差(ΔT)が2℃以上であることが好ましい。
【0051】
蓄熱性の洗濯耐久性についてはJIS L0217-1998、103法により10回の洗濯を行った後の筒編地の蓄熱性が照射15分後において、前記洗濯処理をする前の筒編地に対して両者の差が1℃未満であることが好ましい。
【0052】
本発明の吸湿性は後述する方法で測定した。吸湿性評価は、筒編地と対照サンプルの吸湿率比(対照サンプルの吸湿率/筒編地の吸湿率)が1.08以上であることが好ましい。
【0053】
吸湿性の洗濯耐久性についてはJIS L0217-1998、103法により10回の洗濯を行った後の筒編地の吸湿率を同様に測定し、洗濯10回処理後の対照サンプルの吸湿率との吸湿率比(10回洗濯後の対照サンプルの吸湿率/10回洗濯後の実施例、比較例筒編地の吸湿率)が1.08以上であることが好ましい。
【実施例0054】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、各物性値の測定方法を説明する。
【0055】
<平均粒子径>
本発明に用いられる炭素粒子A及び炭素粒子Bの平均粒子径(粒度分布)は、レーザー散乱法により以下の通りに測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業(株)製「ToritonX100」)が0.3質量%含まれた水溶液に適量投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定器(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒子径として用いた。
【0056】
<比表面積>
本発明に用いられる炭素粒子A及び炭素粒子Bの比表面積は、高精度表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP28SA」)を使用して測定した。測定試料を300℃で5時間真空脱気した後、77Kでの窒素吸着等温線を求めた。得られた吸着等温線を用いて、BET式により多点法解析を行い、得られた曲線の相対圧P/P=0.01~0.1の領域での直線から比表面積を算出した。
【0057】
<総繊度および単糸繊度>
本発明の繊維の総繊度は、枠周1.0mの検尺機を用いて100mのカセを作製し、温度20℃、湿度65%RHの環境下で単位長さ当たりの重量を測定し、下記式に従って測定した。これを10回繰り返して測定し、その単純平均値の小数点以下を四捨五入した値を総繊度とした。
総繊度(dtex)=100mのカセ重量(g)×100
また、単糸繊度は下記式に従って、総繊度の値をフィラメント数で除した値とした。
単糸繊度(dtex)=繊度(dtex)/フィラメント数(本)
【0058】
<糸の一定長さの平均偏差係数(U%)>
ツエルベーガー社製のウスター斑試験機を用いて、糸を電極間に一定速度で通し(糸速100m/分、レンジ±12.5%、チャート速度10cm/分)、断面変化に比例する電気容量の変化を測定長100mの条件で連続測定し、糸の一定長さの平均偏差係数「U%」を求めた。
【0059】
<強度、伸度>
強度および伸度は、実施例によって得られた繊維を試料とし、JIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、島津製作所製オートグラフAGS-Xを用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸度(%)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度及び伸度とした。
伸度(%)={(L1-L0)/L0}×100
【0060】
<紡糸性>
実施例及び比較例の条件で、12時間連続して繊維を製造した際に、断糸の発生回数を測定し、次の基準で評価した。
◎:12時間で断糸の発生回数が0回
○:12時間で断糸の発生回数が1回以上3回以下
△:12時間で断糸の発生回数が4回以上5回以下
×:12時間で断糸の発生回数が6回以上
【0061】
<加工性>
実施例及び比較例の繊維を用いて、12時間連続して繊維を仮撚り加工した際に、断糸の発生回数を測定し、次の基準で評価した。
◎:12時間で断糸の発生回数が0回
○:12時間で断糸の発生回数が1回以上3回以下
△:12時間で断糸の発生回数が4回以上5回以下
×:12時間で断糸の発生回数が6回以上
【0062】
<蓄熱性>
ボーケン規格BQE A 036を参考に、繊維の蓄熱性の評価を行った。まず、実施例、比較例で得られた繊維で筒編み機(釜径3.5インチ、針本数240本)を用いて筒編地を作製し、試料とした。また、各実施例、比較例で使用した樹脂で炭素粒子Aや炭素粒子Bを含めずに繊維化したものを対照として使用して、試料と同一組織、目付の筒編地を作製し、評価の対照に用いた。前記試料の間に熱電対を挿入して以下の条件にて、レフランプを15分間照射し、温度変化を経時的に測定した。測定は5回測定し、平均した値を用いて、ΔT((15分照射後の実施例又は比較例の筒編地の生地温度)-(15分照射後の対照サンプルの生地温度))を求めた。
使用ランプ:写真用レフランプPRF500WB/D(パナソニック製)
照射距離 :50cm
照射面 :表面
照射時間 :15分間
室温度 :20±2℃
【0063】
<吸湿性>
ボーケン規格BQE A 034を参考に吸湿性試験を行い、吸湿率を測定した。蓄熱性の評価で使用した10×10cmの筒編地を温度25℃、湿度40%RHに設定された初期条件ボックスにて調湿したサンプルの吸湿率と、温度25℃、湿度80%RHに設定にて調湿したサンプルの吸湿率を求め、吸湿率比((対照サンプルの吸湿率)/(実施例、比較例の筒編地の吸湿率))を算出した。
【0064】
<参考例1:ヤシ殻由来の炭素粒子Bの製造>
ヤシ殻チップを窒素ガス雰囲気下、500℃で焼成(炭化)後、洗浄・乾燥処理を行い、乾式粉砕後に分級し、微粉を回収した。この時の粒度はD50=1.5μmであった。その後、再度乾式粉砕を行い、分級し、ヤシ殻由来の炭素粒子Bを得た。ヤシ殻由来の炭素粒子Bの粒度(平均粒子径)はD50=0.7μmであり、比表面積は440m/gであった。
【0065】
<参考例2:ヤシ殻由来の炭素粒子Bの製造方法>
ヤシ殻チップを窒素ガス雰囲気下、400℃で焼成(炭化)後、洗浄・乾燥処理を行い、乾式粉砕後に分級し、微粉を回収した。この時の粒度はD50=10μmであった。その後、再度乾式粉砕を行い、分級し、ヤシ殻由来の炭素粒子Bを得た。ヤシ殻由来の炭素粒子Bの粒度(平均粒子径)はD50=9.6μmであり、比表面積は210m/gであった。
【0066】
<参考例3:ヤシ殻由来の炭素粒子Aの製造>
BET比表面積400m/gのヤシ殻由来の炭素粒子Bを、灯油燃焼ガス(HO、CO、CO、Nの混合ガス)にスチームを供給して水蒸気分圧35%に調整した賦活ガス中、900℃で90分間水蒸気賦活し、ヤシ殻由来の原料炭素粒子を調製した。ヤシ殻由来の原料炭素粒子を粉砕して平均粒子径850~2,360μmのヤシ殻由来の活性炭を得た。得られた活性炭をボールミルで平均粒子径8μmに粗粉砕した後、コンパクトジェットミル(コジェットシステムα-mkIII)で粉砕及び分級し、平均粒子径4μm、比表面積1,500m/gのヤシ殻由来の炭素粒子Aを得た。
【0067】
<参考例4:ヤシ殻由来の炭素粒子Aの製造>
BET比表面積400m/gのヤシ殻由来の炭素粒子Bを、灯油燃焼ガス(HO、CO、CO、Nの混合ガス)にスチームを供給して水蒸気分圧35%に調整した賦活ガス中、900℃で30分間水蒸気賦活し、ヤシ殻由来の原料炭素粒子を調製した。ヤシ殻由来の原料炭素粒子を粉砕して平均粒子径850~2,360μmのヤシ殻由来の活性炭を得た。得られた活性炭をボールミルで粉砕及び分級し、平均粒子径11μm、BET比表面積800m/gのヤシ殻由来の炭素粒子Aを得た。
【0068】
<参考例5:木炭微粉の製造>
ウバメガシの木を1200℃で焼成し、その後350℃に急冷することで製造された白炭(備長炭)を乾式粉砕し、木炭微粉を得た。得られた木炭微粉の粒度(平均粒子径)はD50=0.5μmであり、比表面積は240m/gであった。
【0069】
<実施例1>
参考例1、3で得たヤシ殻由来の炭素粒子Aとヤシ殻由来の炭素粒子Bをポリアミド6(宇部興産株式会社製ナイロン6 1011FK)に、繊維における含有量として炭素粒子Aが2.7質量%、炭素粒子Bが0.3質量%になるように添加し、二軸押出機を用いて280~300℃の温度条件で混錬し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、孔数36個で断面形状が丸状の口金を用い、紡糸温度250℃、吐出量29.4g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を1.0m/秒の速度で紡出糸条に吹付けた後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド径8mm、出口ガイド径10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温160℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して3500m/分の速度で捲取り、84dtex/36フィラメントの繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0070】
<実施例2~4>
繊維におけるヤシ殻由来の炭素粒子A及びヤシ殻由来の炭素粒子Bの含有比及び/又は合計含有量が表1に示す量になるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0071】
<実施例5>
孔数96個で断面形状が丸状の口金を用いて紡糸温度250℃、吐出量29.4g/分で紡出し、繊度を84dtex/96フィラメントに変更したこと以外は実施例2と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0072】
<実施例6>
参考例1及び3で得たヤシ殻由来の炭素粒子A及びヤシ殻由来の炭素粒子Bをポリエチレンテレフタレート(PET)に、繊維における含有量として炭素粒子Aが2.1質量%、炭素粒子Bが0.9質量%になるように添加し、二軸押出機を用いて280~300℃の温度条件で混錬し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、孔数36個で断面形状が丸状の口金を用い、紡糸温度280℃、吐出量29.4g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を1.0m/秒の速度で紡出糸条に吹付けた後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド径8mm、出口ガイド径10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して3500m/分の速度で捲取り、84dtex/36フィラメントの繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0073】
<実施例7>
参考例4で得たヤシ殻由来の炭素粒子Aを用いた以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0074】
<実施例8>
参考例2で得たヤシ殻由来の炭素粒子Bを用いた以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0075】
<比較例1>
ヤシ殻由来の炭素粒子Bのみを用いて合計含有量が表1に示す量になるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0076】
<比較例2>
ヤシ殻由来の炭素粒子Aのみを用いて合計含有量が表1に示す量になるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0077】
<比較例3~5>
ヤシ殻由来の炭素粒子A及びヤシ殻由来の炭素粒子Bの含有比と合計含有量を表1に示す量になるように変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0078】
<比較例6>
炭素粒子Bとして、参考例5で得た木炭微粉のみを用いて合計含有量を表1に示す量になるように変更したこと以外は比較例1と同様にして、木炭微粉含有繊維を得た。得られた繊維の物性および紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性の評価結果を表1に示す。
【0079】
<比較例7>
炭素粒子A及び炭素粒子Bを含有せず、6ナイロン100質量%の樹脂を用いた以外は比較例1と同様にして、熱可塑性樹脂からなる繊維を得た。得られた繊維を用いて筒編地を作製し、赤外線吸収剤を含有するウレタン樹脂を0.8g/m付与した後、紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性を評価した。得られた結果を表1中に示す。
【0080】
<比較例8>
炭素粒子A及び炭素粒子Bを含有せず、6ナイロン100質量%の樹脂を用いた以外は比較例1と同様にして、熱可塑性樹脂からなる繊維を得た。得られた繊維を用いて筒編地を作製し、ポリビニルアルコール系の吸湿加工剤を約1.5質量%付与した後、紡糸性、加工性、蓄熱性及び吸湿性を評価した。得られた結果を表1中に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1~8の繊維は、比表面積が500m/g以上3000m/g以下である炭素粒子Aと、比表面積が500m/g未満である炭素粒子Bの含有比が質量比で95:5~60:40であり、炭素粒子A及び炭素粒子Bの合計含有量が繊維全体の質量に対して0.2~9質量%であるため、紡糸性、加工性及び蓄熱性、吸湿性を有するものであり、さらに蓄熱性及び吸湿性は洗濯耐久性に優れることが確認された。
【0083】
これに対し、炭素粒子Bのみで炭素粒子Aを含有しない比較例1の場合には、十分な吸湿性が得られなかった。炭素粒子Aのみで炭素粒子Bを含有しない比較例2の場合には、繊維を製造する際に断糸が発生し、紡糸性が十分とは言えないだけでなく、繊維中に炭素粒子Aの凝集物が存在することで低強度かつU%が高くなり、加工性も悪いものであった。また、炭素粒子Aと炭素粒子Bの合計含有量が0.1質量%と少ない比較例3の場合には、十分な蓄熱性及び吸湿性が得られなかった。また、炭素粒子Aと炭素粒子Bの合計含有量が9質量%より高い比較例4の場合には、繊維を製造する際に断糸が発生し、紡糸性が十分とは言えないだけでなく、U%が高くなり、加工性も悪いものであった。炭素粒子Aと炭素粒子Bの含有比が質量比で40:60である比較例5の場合には、十分な吸湿性が得られなかった。木炭微粉を用いる比較例6の場合には、繊維を製造する際に断糸が発生し、紡糸性が十分とは言えないだけでなく、U%が高くなり、加工性も悪いものであった。赤外線吸収剤を後加工で付与した比較例7の場合には、蓄熱性に優れたものであったが、洗濯処理後は性能が著しく低下した。後加工剤を用いる比較例8の場合には、吸湿性能が初期性能は良好な吸湿性が得られたが、洗濯処理後は性能が低下した。