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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024071990
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240520BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240520BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240520BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/23
G06F30/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182551
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 孝人
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】 実際のタイヤの挙動を再現することが可能なシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】 第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤのシミュレーション方法である。この方法は、第1ゴム部材の形状をモデリングした第1ゴム部材モデルを含むタイヤモデルを入力する工程S1と、第1ゴム部材モデルにゴムの物性を定義する工程S2と、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程S3と、路面モデル上をタイヤモデルが転動する転動状態を計算する計算工程S4とを含む。物性を定義する工程S2は、第1ゴム部材モデルに第1の物性とは異なる第2の物性を定義し、第2の物性は、転動状態のタイヤモデルに生じる予め定められた周波数帯の振動を、第1の物性よりも低減するものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータに、前記第1ゴム部材の形状をモデリングした第1ゴム部材モデルを含むタイヤモデルを入力する工程と、
前記第1ゴム部材モデルにゴムの物性を定義する工程と、
前記コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記路面モデル上を前記タイヤモデルが転動する転動状態を計算する計算工程とを含み、
前記物性を定義する工程は、前記第1ゴム部材モデルに前記第1の物性とは異なる第2の物性を定義し、
前記第2の物性は、前記転動状態の前記タイヤモデルに生じる予め定められた周波数帯の振動を、前記第1の物性よりも低減するものである、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記周波数帯は、1000~10000Hzである、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第2の物性は、周波数と損失正接tanδとの関係を含む、請求項2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記物性を定義する工程は、前記路面を転動する前記タイヤに生じる振動を周波数分析して第1パワースペクトル密度を得る工程と、
前記路面モデル上を転動する前記タイヤモデルに生じる振動を周波数分析して第2パワースペクトル密度を得る工程と、
前記第1パワースペクトル密度と、前記第2パワースペクトル密度とを比較する工程と、
前記比較の結果に基づいて、前記第1の物性の損失正接tanδを調整する工程とを含む、請求項3に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記調整する工程は、前記第1パワースペクトル密度よりも、前記第2パワースペクトル密度が大きい場合、前記第1の物性の損失正接tanδを大きくする工程を含む、請求項4に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記調整する工程は、前記第1パワースペクトル密度よりも、前記第2パワースペクトル密度が小さい場合、前記第1の物性の損失正接tanδを小さくする工程を含む、請求項4に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記計算工程は、前記タイヤモデルの動摩擦係数μとスリップ率Sとの関係を示すμ-S特性、及び、コーナリングフォースの少なくとも一つを計算する、請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤのシミュレーション方法が記載されている。この方法では、タイヤモデルを路面モデルに接触させ、かつ、路面モデル上で相対的に転動する転動状態が計算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-195007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
路面モデルを転動するタイヤモデルには、実際に路面を転動するタイヤには生じない振動が計算される場合がある。このような振動は、シミュレーションに特有のものであり、実際のタイヤの挙動の再現性を低下させるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、実際のタイヤの挙動を再現することが可能なシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤのシミュレーション方法であって、コンピュータに、前記第1ゴム部材の形状をモデリングした第1ゴム部材モデルを含むタイヤモデルを入力する工程と、前記第1ゴム部材モデルにゴムの物性を定義する工程と、前記コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程と、前記コンピュータが、前記路面モデル上を前記タイヤモデルが転動する転動状態を計算する計算工程とを含み、前記物性を定義する工程は、前記第1ゴム部材モデルに前記第1の物性とは異なる第2の物性を定義し、前記第2の物性は、前記転動状態の前記タイヤモデルに生じる予め定められた周波数帯の振動を、前記第1の物性よりも低減するものである、タイヤのシミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、上記の工程を採用することで、実際のタイヤの挙動を再現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。
図2】本実施形態のタイヤを示す断面図である。
図3】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルを示す斜視図である。
図5図4のタイヤモデルの断面図である。
図6】周波数と損失正接tanδとの関係を示すグラフである。
図7】本実施形態の物性定義工程の処理手順を示すフローチャートである。
図8】上下力及び接地圧と、接地入からの距離との関係を示すグラフである。
図9】パワースペクトル密度と、周波数との関係を示すグラフである。
図10】(a)は比較例2及び実験例の振動を示すグラフ、(b)は実施例及び実験例の振動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、コンピュータを用いて、第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤの転動状態が計算される。
【0011】
[コンピュータ]
図1は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0012】
[タイヤ]
図2は、本実施形態のタイヤ2を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、例えば、乗用車用タイヤとして構成されている。なお、タイヤ2は、乗用車用タイヤに限定されるわけではない。タイヤ2は、例えば、トラックやバスなどの重荷重用や、二輪自動車用等として用いられるものでもよい。なお、タイヤ2は、実在するか否かについては問われない。
【0013】
本実施形態のタイヤ2は、カーカス6と、ベルト層7と、ゴム部材8とを含んで構成されている。
【0014】
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が設けられている。
【0015】
本実施形態のベルト層7は、2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、例えば、タイヤ周方向に対して10~35度の角度で配列されたベルトコード(図示省略)が、互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0016】
本実施形態のゴム部材8は、トレッドゴム8aと、サイドウォールゴム8bと、クリンチゴム8cと、ビードエーペックスゴム8dと、インナーライナーゴム8eとを含んで構成されている。なお、ゴム部材8は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、他のゴム部材等が含まれてもよい。
【0017】
トレッドゴム8aは、トレッド部2aにおいて、ベルト層7のタイヤ半径方向の外側に配されている。サイドウォールゴム8bは、トレッドゴム8aのタイヤ半径方向内側(本例では、サイドウォール部2bにおいて、カーカス6のタイヤ軸方向の外側)に配されている。
【0018】
クリンチゴム8cは、サイドウォールゴム8bのタイヤ半径方向内側(本例では、ビード部2c)に配されている。ビードエーペックスゴム8dは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびている。インナーライナーゴム8eは、カーカス6の内面に配置されている。
【0019】
本実施形態のゴム部材8(トレッドゴム8a~インナーライナーゴム8e)は、配合が互いに異なっている。このため、各ゴム部材8の物性も、互いに異なっている。
【0020】
ところで、上記の特許文献1を含むこれまでのシミュレーション方法では、タイヤ2をモデリングしたタイヤモデル(図示省略)の転動状態が計算されると、実際に路面を転動するタイヤ2には生じない振動が計算される場合がある。このような振動の発生原因の一つとして、実際にタイヤ2を転動させるときよりも短時間のうちに、所定の速度で転動するタイヤモデルを計算して、シミュレーションに要する計算コスト(計算時間)を低減していることが考えられる。このシミュレーションに特有の振動は、タイヤモデルのトレッド部の接地圧に影響することから、実際のタイヤ2の挙動(例えば、μ-S特性、及び、コーナリングフォース)の再現性を低下させるという問題がある。
【0021】
[タイヤのシミュレーション方法(第1実施形態)]
本実施形態のシミュレーション方法は、シミュレーションに特有の振動を低減して、実際のタイヤ2の挙動を再現することを可能としている。図3は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0022】
[タイヤモデルを入力]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1(図1に示す)に、タイヤ2をモデリングしたタイヤモデルが入力される(工程S1)。本実施形態の工程S1では、後述の第1ゴム部材の形状をモデリングした第1ゴム部材モデルを含むタイヤモデルが入力される。タイヤモデルは、タイヤ2の設計因子に基づいて設定される。図4は、本実施形態のタイヤモデル12及び路面モデル13を示す斜視図である。図5は、図4のタイヤモデル12の断面図である。なお、図4では、タイヤモデル12が簡略化して示されており、トレッドパターンや、図5に示した要素F(i)などが省略されている。
【0023】
第1ゴム部材モデル14としてモデリングされる第1ゴム部材は、図2に示したタイヤ2を構成する複数のゴム部材8(トレッドゴム8a~インナーライナーゴム8e)から適宜選択される。第1ゴム部材4には、振動の発生に大きく影響するゴム部材8が選択されるのが好ましい。本実施形態では、第1ゴム部材4として、サイドウォールゴム8bが選択される。したがって、第1ゴム部材4(本例では、サイドウォールゴム8b)の物性は、第1の物性として特定される。
【0024】
本実施形態の工程S1では、図5に示されるように、第1ゴム部材4を含むタイヤ2(図2に示す)が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化(モデリング)される。これにより、第1ゴム部材モデル14を含むタイヤモデル12が設定される。
【0025】
本実施形態では、図2に示したカーカスプライ6A、ベルトプライ7A、7B及びゴム部材8の各形状が、それぞれモデリングされる。これにより、タイヤモデル12には、カーカスプライモデル16A、ベルトプライモデル17A、17B及びゴム部材モデル18が設定される。
【0026】
本実施形態のゴム部材モデル18には、トレッドゴムモデル18a、サイドウォールゴムモデル18b、クリンチゴムモデル18c、ビードエーペックスゴムモデル18d、及び、インナーライナーゴムモデル18eが含まれる。
【0027】
トレッドゴムモデル18aは、トレッドゴム8a(図2に示す)の形状をモデリングしたものである。サイドウォールゴムモデル18bは、サイドウォールゴム8b(図2に示す)の形状をモデリングしたものである。クリンチゴムモデル18cは、クリンチゴム8c(図2に示す)の形状をモデリングしたものである。
【0028】
ビードエーペックスゴムモデル18dは、ビードエーペックスゴム8d(図2に示す)の形状をモデリングしたものである。インナーライナーゴムモデル18eは、インナーライナーゴム8e(図2に示す)をモデリングしたものである。本実施形態では、サイドウォールゴムモデル18bが、第1ゴム部材モデル14としてモデリングされる。
【0029】
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。要素F(i)には、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。
【0030】
各要素F(i)は、複数の節点25を含んで構成されている。各要素F(i)には、要素番号、節点25の番号、節点25の座標値、及び、材料特性(例えば、密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等を含む物性)などの数値データが定義される。各要素F(i)の材料特性(物性)は、例えば、図2に示したカーカスプライ6A、ベルトプライ7A、7B、及び、ゴム部材8の実際の材料特性(物性)に基づいて定義される。
【0031】
ゴム部材8の物性(材料特性)の一つに、粘弾性が含まれる。この粘弾性には、例えば、損失正接tanδや、複素弾性率E*等が含まれる。このような粘弾性の測定には、JIS-K6394の規定に準拠して、公知の粘弾性試験装置(図示省略)が用いられる。本実施形態の粘弾性試験装置には、例えば、ネッチガボ社製の動的粘弾性測定装置「イプレクサー4000N」が用いられる。粘弾性の測定条件の一例は、次のとおりである。
温度:30℃
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:0.01~100000Hz
変形モード:引張
【0032】
図6は、周波数と損失正接tanδとの関係を示すグラフである。図6には、図2に示した複数のゴム部材8のうち、第1ゴム部材4(本例では、サイドウォールゴム8b)の第1の物性(周波数と損失正接tanδとの関係)31が、代表して示されている。この第1の物性は、第1ゴム部材モデル14(本例では、サイドウォールゴムモデル18b)に定義される。タイヤモデル12(図4及び図5に示す)は、コンピュータ1(図1に示す)に入力される。
【0033】
[第1ゴム部材モデルの物性を定義(物性定義工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、第1ゴム部材モデル14に、ゴムの物性が定義される(物性定義工程S2)。本実施形態の物性定義工程S2において、第1ゴム部材モデル14へのゴムの物性の定義には、コンピュータ1(図1に示す)が用いられる。
【0034】
本実施形態の物性定義工程S2では、図5に示した第1ゴム部材モデル14(本例では、サイドウォールゴムモデル18b)に、図6に示した第1の物性(本例では、サイドウォールゴム8bの物性)31とは異なる第2の物性32が定義される。この第2の物性32は、転動状態のタイヤモデル12(図4に示す)に生じる予め定められた周波数帯Bの振動を、第1の物性31よりも低減するものである。
【0035】
振動が低減される周波数帯Bは、シミュレーションに特有の振動に基づいて、適宜設定されうる。シミュレーションに特有の振動は、1000~10000Hzで大きくなる傾向がある。このような観点より、本実施形態の周波数帯Bは、1000~10000Hzが設定される。なお、周波数帯Bは、1000~10000Hzよりも広く設定されてもよい。
【0036】
振動を低減(減衰)するには、第1ゴム部材モデル14(本例では、サイドウォールゴムモデル18b)に定義された第1の物性(粘弾性などを含む)のうち、図6に示した損失正接tanδを大きくすることが好ましい。このような観点から、本実施形態の物性定義工程S2では、第1の物性31の損失正接tanδを調整した第2の物性32が定義される。図7は、本実施形態の物性定義工程S2の処理手順を示すフローチャートである。
【0037】
[第1パワースペクトル密度を取得]
本実施形態の物性定義工程S2では、先ず、路面を転動するタイヤ2(図2に示す)に生じる振動を周波数分析して、第1パワースペクトル密度が得られる(工程S21)。
【0038】
本実施形態の工程S21では、先ず、路面を転動するタイヤ2(図2に示す)に生じる振動が取得される。タイヤ2の振動は、適宜取得されうる。本実施形態では、振動の取得に、図示されない公知の台上試験装置(ドラム試験装置)が用いられる。この台上試験装置には、タイヤ2が走行可能な路面(例えば、ドラム)が設けられている。
【0039】
本実施形態では、予め定められた条件(内圧条件、荷重条件及び速度条件などを含む)に基づいて、台上試験装置の路面(図示省略)に、図2に示したタイヤ2を転動させて、タイヤ2の回転軸に作用する上下力が測定される。上下力は、例えば、トレッド接地面2sの任意の位置において、路面との接地入から接地出までの間、予め定められた時間間隔で測定される。これにより、タイヤ2に生じる振動(上下力の時系列変化)19が取得されうる。図8は、上下力及び接地圧と、接地入からの距離との関係を示すグラフである。
【0040】
次に、本実施形態の工程S21では、タイヤ2に生じる振動19(図8に示す)が、周波数分析(FFT処理)される。FFT処理には、例えば、公知のFFTアナライザが用いられる。これにより、第1パワースペクトル密度21が得られる。図9は、パワースペクトル密度と、周波数との関係を示すグラフである。第1パワースペクトル密度21は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0041】
[第2パワースペクトル密度を取得]
次に、本実施形態の物性定義工程S2では、図4に示した路面モデル13上を転動するタイヤモデル12に生じる振動を周波数分析して、第2パワースペクトル密度が得られる(工程S22)。
【0042】
本実施形態の工程S22では、先ず、路面(例えば、台上試験装置の路面など)をモデリングした路面モデル13が入力される。本実施形態では、路面に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、路面モデル13が設定される。
【0043】
要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点26が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点26の座標値等の数値データが定義される。
【0044】
次に、本実施形態の工程S22では、路面モデル13上を転動するタイヤモデル12が計算される。
【0045】
本実施形態では、図5に示されるように、リム9(図2に示す)をモデリングしたリムモデル15によって、タイヤモデル12のビード部12c、12cが拘束される。そして、予め定められた内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル12の変形が計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル12が計算される。内圧条件は、例えば、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧が、内圧条件として設定されるのが望ましい。
【0046】
タイヤモデル12の変形計算(転動計算を含む)では、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1(図1に示す)が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに、タイヤモデル12の変形計算(転動状態を含む)を行う。
【0047】
タイヤモデル12の変形計算には、例えば、LSTC社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
【0048】
次に、本実施形態では、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル12が、路面モデル13に接触される。タイヤモデル12と路面モデル13との間には、従来のシミュレーションと同様に、すり抜けを防ぐ条件が予め定義される。次に、本実施形態では、予め定められた負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数に基づいて、タイヤモデル12の変形が計算される。これにより、路面モデル13に接地した荷重負荷後のタイヤモデル12が計算される。
【0049】
次に、本実施形態では、荷重負荷後のタイヤモデル12に、走行速度(転動速度)Vに対応する角速度V1が設定される。さらに、路面モデル13には、走行速度Vに対応する並進速度V2が設定される。これにより、路面モデル13の上を、走行速度Vで転動しているタイヤモデル12を計算することができる。内圧条件、負荷荷重条件L及び走行速度Vは、例えば、工程S21においてタイヤ2(図2に示す)を転動させた条件(内圧条件、荷重条件及び速度条件などを含む)に基づいて設定されるのが好ましい。
【0050】
本実施形態の工程S22では、路面モデル13上を転動中のタイヤモデル12に作用する接地圧が計算される。接地圧は、例えば、図5に示したタイヤモデル12のトレッド接地面12sの任意の節点25において、路面モデル13との接地入から接地出までの間、予め定められた時間間隔で測定される。これにより、図8に示されるように、タイヤモデル12に生じる振動(接地圧の時系列変化)20が計算される。図8では、上下力と接地圧とが対応づけられている。
【0051】
次に、本実施形態の工程S22では、タイヤモデル12に生じる振動20(図8に示す)が、周波数分析(FFT処理)される。これにより、図9に示されるように、第2パワースペクトル密度22が得られる。第2パワースペクトル密度22は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0052】
[パワースペクトル密度を比較]
次に、本実施形態の物性定義工程S2では、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22とが比較される(工程S23)。本実施形態の工程S23では、第1パワースペクトル密度21及び第2パワースペクトル密度22について、予め定められた周波数帯Bにおいて、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22とが比較される。周波数帯Bは、上述のとおりである。そして、周波数帯Bにおいて、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22との大小が比較される。そして、比較の結果に基づいて、第1の物性31の損失正接tanδ(図6に示す)を調整する工程S24及び工程S25が行われる。
【0053】
周波数帯Bにおいて、第1パワースペクトル密度21及び第2パワースペクトル密度22が一定でない場合には、これらのパワースペクトル密度の平均値がそれぞれ計算された後に、比較されてもよい。
【0054】
工程S23において、第1パワースペクトル密度21よりも、第2パワースペクトル密度22が大きい場合(工程S23で「<」)、第1の物性31の損失正接tanδ(図6に示す)を大きくする工程S24が実施される。一方、工程S23において、第1パワースペクトル密度21よりも、第2パワースペクトル密度22が小さい場合(工程S23で「>」)、第1の物性31の損失正接tanδ(図6に示す)を小さくする工程S24が実施される。
【0055】
また、工程S23において、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22とが同等である場合(工程S23で「=」)、第1の物性31の損失正接tanδ(図6に示す)が調整されない。そして、この第1の物性31が第2物性として定義され、物性定義工程S2の一連の処理が終了する。ここで、「同等」には、周波数帯Bにおいて、第1パワースペクトル密度21の平均値と、第2パワースペクトル密度22の平均値との差が同一の場合だけでなく、予め定められた閾値以下である場合が含まれる。
【0056】
[損失正接tanδを大きくする]
本実施形態の工程S24では、周波数帯Bにおいて、図6に示した第1の物性31の損失正接tanδを大きくした第2の物性32が設定される。このような第2の物性32により、周波数帯Bにおいて、図9に示した第2パワースペクトル密度22が小さくなり、ひいては、図8に示したタイヤモデルの振動20が小さくなる。これにより、タイヤモデルの振動20が、タイヤの振動19に近づき、実際のタイヤ2(図2に示す)の挙動を再現することが可能となる。
【0057】
工程S24では、図9に示した第2パワースペクトル密度22から第1パワースペクトル密度21を減じた値が大きいほど、図6に示した第1の物性31の損失正接tanδを大きくした第2の物性32の損失正接tanδが設定されるのが好ましい。これにより、図8に示したタイヤモデルの振動20を、タイヤの振動19により近づけることが可能となる。
【0058】
[損失正接tanδを小さくする]
本実施形態の工程S25では、周波数帯Bにおいて、図6に示した第1の物性31の損失正接tanδを小さくした第2の物性32が設定される。このような第2の物性32により、周波数帯Bにおいて、図9に示した第2パワースペクトル密度22が大きくなり、ひいては、図8に示したタイヤモデル12の振動が大きくなる。これにより、タイヤモデルの振動20を、タイヤの振動19に近づけることができ、実際のタイヤ2(図2に示す)の挙動を再現することが可能となる。
【0059】
工程S25では、図9に示した第1パワースペクトル密度21から第2パワースペクトル密度22を減じた値が大きいほど、図6に示した第1の物性31の損失正接tanδを小さくした第2の物性32の損失正接tanδが設定されるのが好ましい。これにより、図8に示したタイヤモデルの振動20を、タイヤの振動19により近づけることが可能となる。
【0060】
本実施形態の物性定義工程S2では、上述の第2の物性32の損失正接tanδが設定されることで、転動状態のタイヤモデル12に生じる予め定められた周波数帯Bの振動20(図8に示す)を、第1の物性31よりも低減可能な第2の物性32(図6に示す)を定義することができる。周波数と損失正接tanδとの関係を含む第2の物性32は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0061】
[第2の物性を定義]
次に、本実施形態の物性定義工程S2では、図5に示した第1ゴム部材モデル14に、第2の物性32(図6に示す)が定義され(工程S26)、工程S22~工程S23が再度実施される。本実施形態の工程S26では、第1ゴム部材モデル14を構成している各要素F(i)において、図6に示した第1の物性31に代えて、第2の物性32が定義される。第2の物性32が定義された第1ゴム部材モデル14を含むタイヤモデル12は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0062】
本実施形態の物性定義工程S2では、再度実施される工程S22において、第2の物性32が定義された第1ゴム部材モデル14を含むタイヤモデル12の第2パワースペクトル密度が取得される。そして、再度実施される工程S23では、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22とが比較される。このように、本実施形態の物性定義工程S2では、第1パワースペクトル密度21と、第2パワースペクトル密度22とが同等であると判断されるまで、第2の物性32が調整される。これにより、転動状態のタイヤモデル12に生じる予め定められた周波数帯Bの振動20(図8に示す)を、第1の物性31よりも低減可能な第2の物性32(図6に示す)が確実に定義されうる。
【0063】
[路面モデルを入力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)に、路面をモデリングした路面モデル13(図4に示す)が入力される(工程S3)。路面モデル13は、適宜入力することができ、例えば、第2パワースペクトル密度を取得する工程S22(図7に示す)で入力された路面モデル13が用いられてもよい。また、路面モデル13には、例えば、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられてもよい。路面モデル13は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0064】
[タイヤモデルの転動状態を計算(計算工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、路面モデル13上をタイヤモデル12が転動する転動状態を計算する(計算工程S4)。本実施形態の計算工程S4では、第2パワースペクトル密度を取得する工程S22(図7に示す)と同様の手順に基づいて、図4に示した路面モデル13上を転動するタイヤモデル12の転動状態が計算される。
【0065】
図5に示した第1ゴム部材モデル14には、図2に示した第1ゴム部材4の第1の物性31(図6に示す)とは異なり、予め定められた周波数帯Bの振動20(図8に示す)を低減させる第2の物性32(図6に示す)が定義されている。これにより、本実施形態の計算工程S4では、シミュレーションに特有の振動20が低減されるため、実際のタイヤ2(図2に示す)の挙動を再現することが可能となる。
【0066】
計算工程S4では、タイヤモデル12(図4及び図5に示す)の動摩擦係数μとスリップ率Sとの関係を示すμ-S特性、及び、コーナリングフォースの少なくとも一つが計算されてもよい。これらのμ-S特性及びコーナリングフォースは、従来のシミュレーション方法と同様の手順に基づいて計算されうる。
【0067】
μ-S特性の計算では、例えば、転動状態のタイヤモデル12に生じるスリップ率Sと、それに対応する動摩擦係数μとが計算される。これにより、μ-S特性が計算されうる。
【0068】
コーナリングフォースの計算では、先ず、転動中のタイヤモデル12に、予め定められたスリップ角(図示省略)が入力される。これにより、旋回中のタイヤモデル12が計算される。そして、旋回中のタイヤモデル12に作用する横力から、コーナリングフォースが計算される。
【0069】
これらのμ-S特性やコーナリングフォースは、シミュレーションに特有の振動20(図8に示す)の影響を受けた場合に、実際のタイヤ2(図2に示す)での実測値から乖離する傾向がある。本実施形態では、図5に示した第1ゴム部材モデル14に、シミュレーションに特有の振動20(図8に示す)を低減可能な第2の物性32(図6に示す)が定義されるため、μ-S特性やコーナリングフォースを精度よく計算しうる。
【0070】
[タイヤモデルの転動性能を評価]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル12の転動性能が、良好か否かが評価される(工程S5)。本実施形態の工程S5では、転動状態のタイヤモデル12から計算される物理量(例えば、μ-S特性や、コーナリングフォースなど)が、予め定められた基準を満たす場合に、転動性能が良好であると評価される。基準は、タイヤ2に求められる性能に応じて適宜設定される。
【0071】
工程S5において、転動性能が良好であると判断された場合(工程S5で「Yes」)、図2に示したタイヤ2の設計因子(例えば、各部材の構造や、ゴム部材8の配合等)に基づいて、タイヤ2が製造(生産)される(工程S6)。一方、工程S5において、転動性能が良好ではないと判断された場合(工程S5で「No」)、タイヤ2の設計因子が変更されて(工程S7)、工程S1~工程S5が再度実施される。
【0072】
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、転動性能が良好であると判断されるまで、タイヤ2(図2に示す)の設計因子が変更されるため、転動性能が良好なタイヤ2を、確実に設計及び製造することが可能となる。また、本実施形態のシミュレーション方法では、図3に示した計算工程S4において、実際のタイヤ2の挙動が再現されるため、タイヤモデル12(タイヤ2)の転動性能の適切な評価が可能となる。
【0073】
[タイヤのシミュレーション方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態では、図2に示されるように、第1ゴム部材4として、サイドウォールゴム8bが選択されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、第1ゴム部材4として、サイドウォールゴム8b以外のゴム部材8(例えば、インナーライナーゴム8e等)が選択されてもよい。
【0074】
この実施形態では、図5に示されるように、第1ゴム部材モデル14として、サイドウォールゴムモデル18b以外のモデル(例えば、インナーライナーゴムモデル18e等)がモデリングされる。そして、図7に示した物性定義工程S2の手順に基づいて、第1ゴム部材モデル14(インナーライナーゴムモデル18e等)に、図2に示した第1ゴム部材4(インナーライナーゴム8e等)の第1の物性31とは異なる第2の物性32(図示省略)が定義される。
【0075】
この実施形態のシミュレーション方法では、これまでの実施形態と同様に、シミュレーションに特有の振動20(図8に示す)が低減されるため、実際のタイヤ2(図2に示す)の挙動を再現することが可能となる。
【0076】
[タイヤのシミュレーション方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、図2に示されるように、第1ゴム部材4として、1つのゴム部材8(例えば、サイドウォールゴム8b)が選択されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、第1ゴム部材4として、複数のゴム部材8が選択されてもよいし、全てのゴム部材8(トレッドゴム8a~インナーライナーゴム8e)が選択されてもよい。
【0077】
この実施形態では、図5に示されるように、第1ゴム部材モデル14として、複数のゴム部材モデル18(トレッドゴムモデル18a~インナーライナーゴムモデル18e)がモデリングされる。そして、図7に示した物性定義工程S2の手順に基づいて、複数の第1ゴム部材モデル14のそれぞれに、各第1ゴム部材4の第1の物性31とは異なる第2の物性32(図6では、サイドウォールゴム8bの物性が代表して示される)が定義される。これにより、この実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーションに特有の振動20(図8に示す)がより確実に低減されるため、実際のタイヤ2(図2に示す)の挙動を精度良く再現することが可能となる。
【0078】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0079】
図3に示した手順に基づいて、第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤのシミュレーションが実施された(実施例)。実施例では、図7に示した手順に基づいて、タイヤモデルの第1ゴム部材モデルに、図6に示した第1の物性31とは異なる第2の物性32が定義された。そして、第2の物性32が定義されたタイヤモデルを路面モデル上で転動させて、タイヤモデルの接地入から接地出までの振動(接地圧)が計算された。
【0080】
比較のために、第1ゴム部材モデルに、図6に示した第1の物性31が定義されたタイヤモデル(比較例1)と、第1ゴム部材モデルが弾性体(粘弾性を含まない)として定義されたタイヤモデル(比較例2)とが設定された。そして、比較例1及び比較例2の各タイヤモデルを路面モデル上で転動させて、タイヤモデルの接地入から接地出までの振動(接地圧)が計算された。
【0081】
また、実際にタイヤを路面に転動させて、タイヤの接地入から接地出までの振動(上下力)が測定された(実験例)。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:205/55R17
内圧:250kPa
荷重:6.0kN
【0082】
図8は、比較例1及び実験例の振動を示すグラフである。図8において、符号19が実験例の振動を示しており、符号20が比較例1の振動を示している。図10(a)は、比較例2及び実験例の振動を示すグラフである。図10(b)は、実施例及び実験例の振動を示すグラフである。
【0083】
テストの結果、実施例は、比較例1及び比較例2に比べて、シミュレーションに特有の振動を低減でき、実験例の振動に近似させることができた。これにより、実施例は、比較例1及び比較例2に比べて、実際のタイヤの挙動を再現することができた。
【0084】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0085】
[本発明1]
第1の物性を有する第1ゴム部材を含むタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータに、前記第1ゴム部材の形状をモデリングした第1ゴム部材モデルを含むタイヤモデルを入力する工程と、
前記第1ゴム部材モデルにゴムの物性を定義する工程と、
前記コンピュータに、路面をモデリングした路面モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、前記路面モデル上を前記タイヤモデルが転動する転動状態を計算する計算工程とを含み、
前記物性を定義する工程は、前記第1ゴム部材モデルに前記第1の物性とは異なる第2の物性を定義し、
前記第2の物性は、前記転動状態の前記タイヤモデルに生じる予め定められた周波数帯の振動を、前記第1の物性よりも低減するものである、
タイヤのシミュレーション方法。
[本発明2]
前記周波数帯は、1000~10000Hzである、本発明1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明3]
前記第2の物性は、周波数と損失正接tanδとの関係を含む、本発明2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明4]
前記物性を定義する工程は、前記路面を転動する前記タイヤに生じる振動を周波数分析して第1パワースペクトル密度を得る工程と、
前記路面モデル上を転動する前記タイヤモデルに生じる振動を周波数分析して第2パワースペクトル密度を得る工程と、
前記第1パワースペクトル密度と、前記第2パワースペクトル密度とを比較する工程と、
前記比較の結果に基づいて、前記第1の物性の損失正接tanδを調整する工程とを含む、本発明3に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明5]
前記調整する工程は、前記第1パワースペクトル密度よりも、前記第2パワースペクトル密度が大きい場合、前記第1の物性の損失正接tanδを大きくする工程を含む、本発明4に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明6]
前記調整する工程は、前記第1パワースペクトル密度よりも、前記第2パワースペクトル密度が小さい場合、前記第1の物性の損失正接tanδを小さくする工程を含む、本発明4に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明7]
前記計算工程は、前記タイヤモデルの動摩擦係数μとスリップ率Sとの関係を示すμ-S特性、及び、コーナリングフォースの少なくとも一つを計算する、本発明1ないし6のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
【符号の説明】
【0086】
S1 タイヤモデルを入力する工程
S2 第1ゴム部材モデルに物性を定義する工程
S3 路面モデルを入力する工程
S4 タイヤモデルの転動状態を計算する計算工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10