(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072004
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】タレット装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 16/02 20060101AFI20240520BHJP
B23B 29/32 20060101ALI20240520BHJP
B23B 21/00 20060101ALI20240520BHJP
B23Q 16/10 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
B23Q16/02 E
B23B29/32
B23B21/00 C
B23Q16/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182570
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】井納 繁幸
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045GA02
3C045GA04
3C046NN15
3C046NN21
(57)【要約】
【課題】停留範囲を備えるデュエル方式のローラギヤカムにおいて、刃物台の旋回方向における工具の割り出し位置を補正できるタレット装置を提供すること。
【解決手段】本開示のタレット装置は、駆動源と、ローラギヤカムを有する入力軸と、ローラギヤカムのカム溝と噛み合うカムフォロアを複数有する割出部材が設けられた出力軸と、刃物台と、制御装置と、を備える。ローラギヤカムのカム溝は、溝の全範囲のうち、カムフォロアを入力軸の軸方向の両側から挟む一対の停留壁が設けられた停留範囲を、少なくとも1つ有する。一対の停留壁の内壁は、互いに平行で、且つ、入力軸の回転方向に対して所定の角度をなす方向に形成される。制御装置は、駆動源を制御し、割出位置に割り出す工具に応じて、停留範囲内においてカムフォロアを停止させる位置を変更する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
ローラギヤカムを有し、前記駆動源の駆動に基づいて前記ローラギヤカムを回転させる入力軸と、
前記ローラギヤカムのカム溝と噛み合うカムフォロアを複数有する割出部材が設けられた出力軸と、
複数の工具を取り付け可能であり、前記出力軸の回転にともなって回転する刃物台と、
前記駆動源を制御し、前記刃物台の前記工具を所定の割出位置に割り出す制御装置と、
を備え、
前記ローラギヤカムの前記カム溝は、
溝の全範囲のうち、前記カムフォロアを前記入力軸の軸方向の両側から挟む一対の停留壁が設けられた停留範囲を、少なくとも1つ有し、
一対の前記停留壁の内壁は、
互いに平行で、且つ、前記入力軸の回転方向に対して所定の角度をなす方向に形成され、
前記制御装置は、
前記駆動源を制御し、前記割出位置に割り出す前記工具に応じて、前記停留範囲内において前記カムフォロアを停止させる位置を変更する、タレット装置。
【請求項2】
一対の前記停留壁の内壁は、
前記入力軸の回転方向の一方側から他方側に向かって、一定の傾斜角度で傾斜して形成される、請求項1に記載のタレット装置。
【請求項3】
前記ローラギヤカムの前記カム溝は、
溝の全範囲のうち、前記停留範囲以外の範囲に、前記入力軸の軸方向の一方側からのみ前記カムフォロアに接触する割出範囲を有する、請求項1又は請求項2に記載のタレット装置。
【請求項4】
一対の前記停留壁の内壁が前記入力軸の回転方向に対してなす角度は、
前記割出範囲における前記カム溝を形成する内壁が前記入力軸の回転方向に対してなす角度に比べて小さい、請求項3に記載のタレット装置。
【請求項5】
前記刃物台は、
前記工具を取り付けるホルダを周方向に複数備え、
前記制御装置は、
複数の前記ホルダの各々について、前記停留範囲内において前記カムフォロアを停止させる位置を示す値を受け付ける、請求項1又は請求項2に記載のタレット装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記カム溝に沿った方向における前記停留範囲の中心を基準として、一方側をプラス側、他方側をマイナス側として設定し、前記停留範囲内において前記カムフォロアを停止させる位置を示す値として、前記プラス側及び前記マイナス側に応じた値で受け付ける、請求項5に記載のタレット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タレット装置の刃物台に取り付けられた工具を割り出す技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ターニングセンタのタレット装置について記載されている。特許文献1のタレット装置は、環状の割出部材を備えている。割出部材の外周面には、等間隔にカムフォロアが回転可能に取り付けられている。割出部材は、ローラギヤカムのカム溝とカムフォロアとが噛み合っており、ローラギヤカムの回転により旋回する。また、割出部材は、刃物台の旋回支軸と、クランプ歯を介して噛み合っている。タレット装置は、駆動モータによりローラギヤカムを回転させることで割出部材及び刃物台を任意の角度位置に割り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-086302号公報(
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1のギア機構は、所謂、ローラドライブであり、スクリュー形状をした入力軸(ローラギヤカム)と、出力軸の複数のカムフォロアが噛み合う構成となっており、入力軸の軸方向において隣り合う複数のカムフォロアをローラギヤカムで挟んでいる。このため、入力軸の回転によってカムフォロアの切り替え、即ち、刃物台の工具の連続した切り替えが可能であるが、構造が複雑となり製造コストが増加する虞がある。また、複数のカムフォロアをバックラッシ(ガタツキ)なくスクリュー形状の溝に嵌め込むため、入力軸を回転させるのに必要なトルクが増加する。結果として、工具の割り出し速度が遅くなる虞がある。
【0005】
これに対し、ローラギヤカムのカム溝の全範囲でカムフォロアを挟まずに、所定の停留範囲でカムフォロアを挟み、割り出しを行なう方式(以下、デュエル方式という)がある。このデュエル方式であれば、ローラドライブ方式に比べて割り出し速度の向上や製造コストの低減を図ることができる。しかしながら、従来のデュエル方式では、刃物台の旋回方向(所謂、Y軸方向)における工具の位置補正が困難であった。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、停留範囲を備えるデュエル方式のローラギヤカムにおいて、刃物台の旋回方向における工具の割り出し位置を補正できるタレット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本明細書は、駆動源と、ローラギヤカムを有し、前記駆動源の駆動に基づいて前記ローラギヤカムを回転させる入力軸と、前記ローラギヤカムのカム溝と噛み合うカムフォロアを複数有する割出部材が設けられた出力軸と、複数の工具を取り付け可能であり、前記出力軸の回転にともなって回転する刃物台と、前記駆動源を制御し、前記刃物台の前記工具を所定の割出位置に割り出す制御装置と、を備え、前記ローラギヤカムの前記カム溝は、溝の全範囲のうち、前記カムフォロアを前記入力軸の軸方向の両側から挟む一対の停留壁が設けられた停留範囲を、少なくとも1つ有し、一対の前記停留壁の内壁は、互いに平行で、且つ、前記入力軸の回転方向に対して所定の角度をなす
方向に形成され、前記制御装置は、前記駆動源を制御し、前記割出位置に割り出す前記工具に応じて、前記停留範囲内において前記カムフォロアを停止させる位置を変更する、タレット装置を開示する。
【発明の効果】
【0008】
本開示のタレット装置によれば、工具を割り出す際に、所定のカムフォロアが、停留範囲内に停止する。この停留範囲に設けられた一対の停留壁は、互いに平行で、且つ、入力軸の回転方向に対して所定の角度をなす方向に形成されている。制御装置は、割り出す工具に応じて、停留範囲内においてカムフォロアを停止させる位置を変更する。これにより、カムフォロアは、停止する位置に応じて入力軸と平行な方向へ移動する。出力軸は、カムフォロアの位置を変更されることで回転し、刃物台を回転させる。刃物台は、旋回方向における工具の位置、即ち、割り出す工具の所謂、Y軸方向における位置を変更する。これにより、デュエル方式による製造コストの低減や割りだし速度の向上を図りつつ、旋回方向における割り出す工具の位置も補正可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】第1加工装置、第2加工装置、ベッドの斜視図。
【
図5】Y軸駆動装置の側面図であり、一部断面及び内部構造を示す図。
【
図8】割り出し中のローラギヤカムと割出部材を示す模式図。
【
図9】割り出し後のローラギヤカムと割出部材を示す模式図。
【
図10】入力軸の回転角度と、出力軸の回転角度の関係を示す図。
【
図11】比較例のカム溝を平面に展開した状態を示す平面図。
【
図12】ホルダごとの芯高さの補正値を受け付ける画面を示す図。
【
図13】別実施例のカム溝を平面に展開した状態を示す平面図。
【
図14】別実施例のカム溝を平面に展開した状態を示す平面図。
【
図15】別実施例の入力軸の回転角度と、出力軸の回転角度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示のタレット装置を具体化した一実施例である工作機械10について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施例の工作機械10の正面図を示している。
図2は、工作機械10のブロック図を示している。
図3は、工作機械10が備える第1加工装置11、第2加工装置12、ベッド18の斜視図を示している。以下の説明では、
図1に示すように、工作機械10を正面から見た方向を基準とし、工作機械10の機械幅方向を左右方向、工作機械10の設置面71に平行で左右方向に垂直な方向を前後方向、左右方向及び前後方向に垂直な方向を上下方向と称して説明する。
【0011】
図1~
図3に示すように、工作機械10は、第1加工装置11、第2加工装置12、ローダ13、操作盤15、制御装置17、ベッド18等を備えている。第1及び第2加工装置11,12は、ワーク(図示略)に対する加工を実行する装置である。ユーザは、工作機械10の装置カバー19の正面に設けられた正面扉19Aを開けることで、第1及び第2加工装置11,12の加工スペースにアクセスでき、ワークの加工状態の確認、切削工具の交換などを実行する。第1及び第2加工装置11,12の詳細については後述する。
【0012】
ローダ13は、例えば、ガントリ式のワーク搬送装置であり、工作機械10の上部に設けられている。ローダ13は、装置カバー19内に設けられたフレーム部材(図示略)の
上部に固定されたレール台13Aと、レール台13Aに取り付けられた昇降装置13Bと、ワークを把持するヘッド(図示略)等を有する。ローダ13は、レール台13Aや昇降装置13Bによりヘッドを左右方向、上下方向、前後方向へスライド移動させる。ローダ13は、左右方向等におけるヘッドの位置を変更し、第1及び第2加工装置11,12などとの間でワークの受け渡しを実行する。
【0013】
操作盤15は、ユーザインタフェースであり、タッチパネル15Aや操作スイッチ15B等を備えている。操作盤15は、タッチパネル15Aや操作スイッチ15Bを介してユーザから操作入力を受け付け、受け付けた操作入力に応じた信号を制御装置17に出力する。また、操作盤15は、制御装置17の制御に基づいて、タッチパネル15Aの表示内容等を変更する。制御装置17は、後述するように、停留範囲113Bでカムフォロア115Aを停止させる位置を示す値(補正値など)を操作盤15で受け付けることが可能となっている。尚、停留範囲113Bでカムフォロア115Aを停止させる位置を示す値を受け付ける装置の構成は、上記した操作盤15の構成に限らない。例えば、停止させる位置を示す値を受け付ける装置は、液晶パネルと操作スイッチを備え、液晶パネルに表示された項目から後述する補正値等を受け付ける構成でも良い。即ち、操作盤15は、タッチパネル15Aを備えなくとも良い。
【0014】
(第1及び第2加工装置11,12について)
図2及び
図3に示すように、第1及び第2加工装置11,12は、ベッド18の上に載置され、左右方向に並んで配置されている。ベッド18は、例えば、鋳鉄製の構造物であり、第1ベッド41と、第2ベッド43とを有している。第1加工装置11は、第1ベッド41の上に載置されている。第2加工装置12は、第2ベッド43の上に載置されている。第1加工装置11及び第1ベッド41は、例えば、正面からベッド18を見た場合に、左右方向におけるベッド18の中央を通り上下方向に沿った直線に対して第2加工装置12及び第2ベッド43と線対称な構造をなしている。即ち、工作機械10は、対称な構造で左右方向に並ぶ一対の第1及び第2加工装置11,12と、対称な構造で左右方向に並ぶ一対の第1及び第2ベッド41,43を備えている。このため、以下の説明では、第1ベッド41及び第1加工装置11について主に説明し、第2ベッド43及び第2加工装置12についての説明を適宜省略する。
【0015】
第1及び第2加工装置11,12は、前後方向を主軸方向(Z軸方向)とする所謂、平行2軸型の旋盤である。第1加工装置11は、第1主軸装置21と、第1タレット装置22、第1X軸スライド装置24、及び第1Z軸スライド装置25を備えている。同様に、第2加工装置12は、第2主軸装置31と、第2タレット装置32、第2X軸スライド装置34、及び第2Z軸スライド装置35を備えている。また、第1ベッド41は、第1ベース51、第1タレット載置部52、第1主軸載置部53を備えている。同様に、第2ベッド43は、第2ベース61、第2タレット載置部62、第2主軸載置部63を備えている。
【0016】
第1ベッド41の第1ベース51は、例えば、前後方向に長く、上下方向に所定の厚みを有する略直方体形状をなし、工作機械10を設置する設置面71(
図1参照)の上に脚部45を介して配置されている。第1ベース51は、4つの脚部45の高さを補正することで、第1加工装置11の水平や上下の位置を補正可能となっている。第1タレット載置部52は、第1ベース51の上に載置され、第1ベース51に対して固定されている。
【0017】
第1タレット装置22、第1X軸スライド装置24、及び第1Z軸スライド装置25は、第1タレット載置部52の上に載置されている。第1X軸スライド装置24は、第1タレット装置22を左右方向と平行な方向(X軸方向という場合がある)へ移動させる装置である。第1Z軸スライド装置25は、第1タレット装置22を前後方向と平行な方向(
Z軸方向という場合がある)へ移動させる装置である。第1Z軸スライド装置25は、例えば、第1Z軸用モータ25A(
図2参照)と、第1タレット載置部52の上に配置されたZ軸案内レール25Bと、Z軸案内レール25Bに対してスライド移動可能なZ軸スライド25Cを備えている。Z軸案内レール25Bは、Z軸方向と平行な方向に配設され、Z軸スライド25CをZ軸方向へスライド移動可能に保持する。第1Z軸スライド装置25は、第1Z軸用モータ25Aの回転出力を、伝達機構(例えば、ボールネジ機構など)を介してZ軸スライド25Cに伝達し、Z軸スライド25CをZ軸方向に移動させる。第1Z軸用モータ25Aは、例えば、サーボモータである。
【0018】
制御装置17(
図2参照)は、駆動回路20を介して第1Z軸用モータ25Aに接続されている。駆動回路20は、例えば、第1Z軸用モータ25A等の各モータへ供給する電力を制御するアンプ回路を備えている。また、第1Z軸スライド装置25は、第1Z軸用モータ25Aの回転位置等のエンコーダ情報を出力するZ軸エンコーダ(図示略)を備えている。制御装置17は、Z軸エンコーダのエンコーダ情報(回転位置情報など)に基づいて、駆動回路20を介して第1Z軸用モータ25Aの回転速度等を制御するフィードバック制御を実行する。制御装置17は、第1Z軸用モータ25Aを制御し、Z軸スライド25CをZ軸方向における任意の位置へ移動させる。
【0019】
また、第1X軸スライド装置24は、例えば、第1X軸用モータ24A(
図2参照)、Z軸スライド25Cの上に設けられたX軸案内レール24Bを備えている。尚、以下の第1X軸スライド装置24の説明において、上記した第1Z軸スライド装置25と同様の構成についてはその説明を適宜省略する。X軸案内レール24Bは、X軸方向と平行な方向に配設され、第1タレット装置22をX軸方向へスライド移動可能に保持する。第1X軸スライド装置24は、第1X軸用モータ24Aの駆動に応じて第1タレット装置22をX軸方向へ移動させる。制御装置17は、第1X軸スライド装置24のX軸エンコーダ(図示略)のエンコーダ情報に基づいて、駆動回路20を介して第1X軸用モータ24Aを制御し、第1タレット装置22をX軸方向における任意の位置へ移動させる。従って、制御装置17は、第1X軸スライド装置24及び第1Z軸スライド装置25を制御することで、第1タレット装置22(切削工具)を前後方向及び左右方向の任意の位置に移動させることができる。第2加工装置12は、第1加工装置11と同様に、第2X軸スライド装置34の第2X軸用モータ34A(
図2参照)及び第2Z軸スライド装置35の第2Z軸用モータ35A(
図2参照)を制御することで、第2タレット装置32を前後方向及び左右方向の任意の位置に移動させる。
【0020】
第1タレット装置22は、第1タレット用モータ22A(
図2参照)と、複数の切削工具73を取り付け可能な第1刃物台22Bと、第1タレット用モータ22Aの回転位置等のエンコーダ情報を出力するY軸エンコーダ22C(
図2参照)を備えている。第1タレット用モータ22Aは、例えば、サーボモータである。尚、第1タレット用モータ22Aの種類は、サーボモータに限らず、ステッピングモータ等の他の種類のモータでも良い。また、第1主軸用モータ21A、第1X軸用モータ24A、第1Z軸用モータ25A、第2加工装置12の各モータについても同様である。また、第1タレット用モータ22Aは、本開示の駆動源の一例である。本開示の駆動源は、モータに限らず、エアーシリンダ、油圧シリンダなどの流体圧シリンダでも良く、リニアモータのような電磁誘導を用いた駆動源でも良い。
【0021】
制御装置17は、Y軸エンコーダ22Cのエンコーダ情報(回転位置情報など)に基づいて、駆動回路20を介して第1タレット用モータ22Aの回転速度、回転方向、加速度等を制御するフィードバック制御を実行する。第1刃物台22Bは、第1タレット用モータ22Aの回転に基づいて、前後方向と平行な方向に沿った回転軸75を中心に旋回方向(以下、Y軸方向という場合がある)77へ回転する。第1タレット装置22は、制御装
置17の制御に基づいて第1タレット用モータ22Aを駆動し、第1刃物台22Bに取り付けられた複数の切削工具73の中から任意の切削工具73を割出位置79に割り出す。割出位置79は、ワークの加工に使用する切削工具73を割り出す旋回位置である。第1タレット装置22は、割出位置79に割り出した切削工具73により第1主軸装置21に保持されたワークに対する加工を実行する。第2タレット装置32は、第1タレット装置22と同様に、Y軸エンコーダ32C(
図2参照)のエンコーダ情報に基づいて第2タレット用モータ32A(
図2参照)を駆動し、第2刃物台32Bの切削工具73を割り出す。第2タレット装置32は、割り出した切削工具73により第2主軸装置31に保持されたワークに対する加工を実行する。尚、第1及び第2タレット装置22,32の各々は、第1及び第2タレット用モータ22A,32Aの各々を、第1及び第2刃物台22B,32Bに取り付けた回転工具(エンドミルなど)を回転させるための駆動源として用いても良い。
【0022】
第1刃物台22Bは、前後方向に所定の厚みを有し、例えば、正面視において略正10角形をなし、各辺となる面(位置)にホルダ81を合計10個有している。10個のホルダ81の各々には、雌ネジが形成されたネジ穴が形成されており、そのネジ穴にボルト等の締結部材(図示略)を螺合することで保持部材82が取り付けられる。保持部材82は、切削工具73を保持する部材である。切削工具73は、本開示の工具の一例であり、例えば、チップを刃先に備えるバイト73A、エンドミルやドリルなどの回転工具73Bである。従って、第1刃物台22Bは、10個の切削工具73を取り付け可能となっている。また、第2刃物台32Bは、第1刃物台22Bと同様に、10個の切削工具73を取り付け可能となっている。尚、
図3は、第1及び第2刃物台22B,32Bに取り付ける切削工具73の一部のみを図示している。また、第1及び第2刃物台22B,32Bに取り付け可能な切削工具73の数は、10個に限らず、他の複数個でも良い。また、本開示の工具は、切削工具73に限らず、第1及び第2主軸装置21,31に保持されたワークを押して着座の姿勢を調整するプッシャーなど、第1及び第2刃物台22B,32Bに取り付けて使用する他の工具でも良い。
【0023】
(第1及び第2主軸装置21,31)
ベッド18の第1主軸載置部53は、第1タレット載置部52の右側に取り付けられ、設置面71から所定の距離だけ上方に離間した位置に配置されている。同様に、第2ベッド43の第2主軸載置部63は、第2タレット載置部62の左側に取り付けられ、設置面71から離間した位置に配置されている。第1及び第2主軸載置部53,63は、左右方向において僅かな隙間を間に設けて近接して配置されている。
【0024】
第1主軸装置21は、第1主軸載置部53の上方に載置され、第1主軸載置部53に対して固定されている。第1主軸装置21は、第1主軸用モータ21A(
図2参照)を備え、制御装置17の制御に基づいて第1主軸用モータ21Aを駆動する。第1主軸装置21は、ワークを把持するチャック機構を前面に取り付けられる。チャック機構は、複数のチャック爪やコレットチャックなどのワークを保持可能な機構である。尚、
図3は、第1及び第2主軸装置21,31のチャック機構の図示を省略している。
【0025】
第1主軸装置21は、チャック機構によってワークを把持し、第1主軸用モータ21Aの駆動に基づいて、前後方向と平行な方向に沿った主軸85を中心にワークを回転させる。第2主軸装置31は、第1主軸装置21と同様に、第2主軸用モータ31A(
図2参照)の駆動に基づいて、前後方向と平行な方向に沿った主軸、即ち、第1主軸装置21の主軸85と平行で且つ同じ高さの主軸を中心にワークを回転させる。
【0026】
(制御装置17)
制御装置17は、CPU17Aを備えコンピュータを主体とする処理装置であり、数値
制御やシーケンス制御を実行し工作機械10の動作を統括的に制御する。制御装置17は、工作機械10の各装置(第1主軸用モータ21A、第1タレット用モータ22A、ローダ13、操作盤15等)と駆動回路20を介して接続され、各装置の動作を制御可能となっている。また、制御装置17は、記憶装置17Bを備えている。記憶装置17Bは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、ハードディスク等を備えている。尚、記憶装置17Bの構成は、上記した構成に限らず、ハードディスクに替えてSSDなどの他の記憶装置を採用しても良い。また、記憶装置17Bは、USB接続のハードディスク、DVDなどの外部記憶媒体でも良い。
【0027】
記憶装置17Bには、各種の制御データD1が記憶されている。制御データD1は、例えば、第1及び第2主軸装置21,31や第1及び第2タレット装置22,32の動作を制御するプログラム、生産するワークの種類、作業に使用する切削工具73の種類、作業時におけるワークに対する切削工具73の位置等のデータが設定されている。ここで言うプログラムとは、例えば、シーケンス制御のプログラム(ラダー回路)やNCプログラムなどである。また、制御データD1には、後述するY軸方向の補正値を操作盤15で受け付けるためのプログラムが記憶されている。制御装置17は、制御データD1のプログラムをCPU17Aで実行し、工作機械10の各装置の動作を制御する。尚、以下の説明では、制御装置17が制御データD1のプログラムを実行して各装置を制御することを、単に装置名で記載する場合がある。例えば、「制御装置17が第1タレット用モータ22Aを制御する」とは、「制御装置17が制御データD1のプログラムをCPU17Aで実行し、プログラムに基づいて第1タレット用モータ22Aを制御する」ことを意味している。
【0028】
(第1及び第2加工装置11,12の制御)
制御装置17は、上記した構成により各装置を制御してワークに対する加工を実行する。例えば、制御装置17は、前工程の装置からローダ13に受け取ったワークを、第1加工装置11の第1主軸装置21に受け渡す。また、第1加工装置11は、制御装置17の制御に基づいて第1主軸用モータ21Aを回転させ、把持したワークを回転させる。また、制御装置17は、第1タレット用モータ22Aを制御して第1刃物台22Bを回転させ、所望の切削工具73を割出位置79に適宜割り出す。また、制御装置17は、第1X軸用モータ24Aを制御して左右方向における第1刃物台22Bの位置を適宜変更する。また、制御装置17は、第1Z軸用モータ25Aを制御して前後方向における第1刃物台22Bの位置を適宜変更する。これにより、制御装置17は、割出位置79に割り出した切削工具73の左右方向や前後方向の位置を変更し、切削工具73によりワークを所望の形状に加工できる。また、制御装置17は、第2加工装置12に対しても同様に制御し、第1加工装置11で加工したワークや、ローダ13で搬入したワークに対する加工を実行する。
【0029】
(Y軸駆動装置)
上記したように、制御装置17は、第1タレット用モータ22Aを制御して切削工具73の割り出しを実行する。
図4は、第1タレット装置22が備えるY軸駆動装置91の正面図を示しており、
図5は、Y軸駆動装置91の側面図を示している。
図5は、例えば、
図4の状態を右側から見た側面図であり、一部の断面や内部構造を示している。尚、第2タレット装置32のY軸駆動装置は、同様の構成となっているため、その説明を省略する。
【0030】
Y軸駆動装置91は、第1刃物台22Bを旋回方向77に回転させる装置である。
図4及び
図5に示すように、Y軸駆動装置91は、上記した第1タレット用モータ22A、プーリ93、入力軸95、出力軸97を備え、これらの各機器が装置ケース99に取り付けられている。第1タレット用モータ22Aの出力軸であるモータ出力軸101と、プーリ
93は、ベルト103が掛け回されている。このため、プーリ93は、第1タレット用モータ22Aの回転に伴って回転する。プーリ93は、入力軸95の一端(
図5の左端部)に取り付けられている。従って、入力軸95は、第1タレット用モータ22Aの回転駆動力を、モータ出力軸101、ベルト103、プーリ93を介して伝達される。尚、第1タレット用モータ22Aの出力を、入力軸95に伝達する方法は、ベルト103を用いた方法に限らず、他の伝達機構、例えば、歯車を用いた方法でも良い。
【0031】
入力軸95は、複数の軸受部材105を介して装置ケース99に保持され、装置ケース99に対して回転可能に取り付けられている。軸受部材105は、例えば、ボールベアリングである。入力軸95には、ローラギヤカム107が取り付けられている。ローラギヤカム107は、例えば、略円筒形状の部材であり、入力軸95を挿入され、入力軸95の回転に伴って入力軸95と同軸で回転する。ローラギヤカム107の外周面107Aには、スクリュー形状(あるいは螺旋形状とも言い得る)のカムリブ111が形成されている。カムリブ111は、円筒形状のローラギヤカム107の外周面107Aから径方向(入力軸95の回転軸に直交する方向)の外側へ突出し所定の高さを有し、入力軸95の回転軸と平行な方向(
図5の左右方向)において所定の厚みを有する部材である。カムリブ111は、外周面107Aに沿って伸びる壁形状の部材であり、ローラギヤカム107の外周面107Aに巻き付くように形成され、1方向に延びるカム溝113を形成している。外周面107Aは、このカム溝113の底部を構成している。
【0032】
出力軸97は、軸受部材(図示略)を介して装置ケース99に保持され、装置ケース99に対して回転可能に取り付けられている。出力軸97には、割出部材115が取り付けられている。割出部材115は、出力軸97の回転に伴って出力軸97と同軸に回転する。割出部材115の外周面には、複数のカムフォロア115Aが設けられている。
図6は、ローラギヤカム107及び割出部材115の斜視図を示している。本実施例では、割出部材115には、例えば10個のカムフォロア115Aが設けられている。従って、複数のカムフォロア115Aは、第1刃物台22Bに取り付け可能な切削工具73の最大数(ホルダ81の数)と同数だけ設けられている。このため、10個のカムフォロア115Aの各々は、10個のホルダ81(切削工具73)の各々と一対一の関係で対応している。尚、カムフォロア115Aの数は、切削工具73(ホルダ81)の数よりも多くとも良く、少なくとも良い。割出部材115が備えるカムフォロア115Aの数は、割出部材115の外径、カム溝113の形状、第1刃物台22Bに取り付け可能な切削工具73の数などに応じて適宜変更される。また、
図6は、入力軸95の軸部分を取り除きローラギヤカム107のみを図示している。
【0033】
割出部材115は、例えば、出力軸97の軸方向から見た場合に略正十角形をなす厚い板形状をなしている。複数のカムフォロア115Aは、割出部材115の外周において、例えば、周方向に等間隔で設けられ、放射状に径方向の外側に向かって突出している。10個のカムフォロア115Aは、例えば、周方向に36度間隔に設けられている。各カムフォロア115Aは、例えば、円柱形状をなしており、割出部材115の半径方向に沿った軸を中心に回転可能に取り付けられたローラカムである。尚、カムフォロア115Aは、回転できない構成でも良く、周方向に等間隔でない間隔で配置される構成でも良く、円柱形状以外の形状でも良い。
【0034】
ローラギヤカム107と割出部材115とは、カム溝113とカムフォロア115Aとが噛み合う位置に配置されている。ローラギヤカム107は、複数のカムフォロア115Aのうち、任意のカムフォロア115Aをカム溝113に噛み合わせ、カム溝113に沿ってカムフォロア115Aを案内する。割出部材115は、ローラギヤカム107の回転にともなって任意のカムフォロア115Aをカム溝113内に沿って移動させることで、ローラギヤカム107の回転に伴って回転する。出力軸97(割出部材115)の回転軸
は、入力軸95(ローラギヤカム107)の回転軸とは直交した関係となっている。尚、出力軸97(割出部材115)の回転軸と、入力軸95(ローラギヤカム107)の回転軸とが、90度以外の関係となる構成でも良い。
【0035】
出力軸97は、軸の一部を装置ケース99から外に突出させている(
図4参照)。出力軸97の突出させた軸には、第1刃物台22Bが連結されている。従って、第1刃物台22Bは、第1タレット用モータ22Aの回転に伴って、入力軸95及び出力軸97が回転することで、旋回方向77に回転する。これにより、制御装置17は、第1タレット用モータ22Aの回転を制御することで、切削工具73の割り出しを実行できる。
【0036】
図7は、カム溝113を平面に展開した状態を示す平面図である。また、
図8は、割り出し中のローラギヤカム107と割出部材115を示す模式図である。また、
図9は、割り出し後のローラギヤカム107と割出部材115を示す模式図である。ここでいう割り出し中とは、第1刃物台22Bを旋回させ、割出位置79に割り出す切削工具73を入れ替えている途中の状態である。割り出し後とは、割出位置79に所望の切削工具73を配置した後の状態である。
【0037】
図7に示すように、カム溝113は、溝の全範囲の中に、割出範囲113Aと、停留範囲113Bと、一対の挿入範囲113Cを有している。割出範囲113Aは、例えば、入力軸95の軸方向95Aの一方側からのみカムフォロア115Aに接触する範囲である。
図8に示すように、カムフォロア115Aは、割り出し中において、軸方向95Aの一方側からカムリブ111に押されることで軸方向95Aの一方側へと移動する。これにより、割出部材115を回転させ切削工具73の割り出し(入れ替え)が実行される。尚、構造によっては、軸方向95Aにおける停留範囲113Bや挿入範囲113Cの外側(
図7の左右方向の外側)も、入力軸95の軸方向95Aの一方側からのみカムフォロア115Aに接触し割出範囲113Aとして機能する場合がある。しかしながら、
図7では、図面が煩雑となるのを避けるため、各範囲の位置関係を回転方向95Bに並べて記載している。また、この軸方向95Aにおける停留範囲113Bや挿入範囲113Cの外側の範囲は、本開示の停留範囲113B以外の範囲となる。
【0038】
図10は、入力軸95及び出力軸97の回転角度の関係を示している。
図10の横軸は、入力軸95の回転角度を示し、縦軸は、出力軸97の回転角度を示している。割出部材115の外周に10個のカムフォロア115Aを等間隔に設けた場合、周方向で隣り合う2つのカムフォロア115Aは、36度だけ回転した位置に配置される。ローラギヤカム107は、例えば、周方向において、停留範囲113Bを1つだけ備えている。従って、ローラギヤカム107は、360度だけ回転することで、任意のカムフォロア115Aを停留範囲113Bに配置した状態から、周方向でそのカムフォロア115Aの隣に配置されるカムフォロア115Aを停留範囲113Bに配置する状態へと切り替わる。
図10に示すように、出力軸97(割出部材115)は、入力軸95(ローラギヤカム107)が360度だけ回転するごとに、36度だけ回転する。
【0039】
第1刃物台22Bは、割出部材115が36度だけ回転するごとに、任意の切削工具73を割出位置79に配置した状態から、周方向でその切削工具73の隣に配置された切削工具73を割出位置79に配置する状態へ切り替わる。例えば、
図3に示す10個の切削工具73を取り付ける第1刃物台22Bであれば、第1刃物台22Bは、割出部材115が36度だけ回転するごとに、36度だけ旋回方向77へ回転する。即ち、カムフォロア115Aとホルダ81(切削工具73)が一対一で対応しており、割出部材115が360度回転すると、第1刃物台22Bも360度回転する。尚、第1刃物台22Bを、例えば、複数のギアを備えるギア機構を介して出力軸97と連結させ、そのギア機構のギア比でカムフォロア115Aと第1刃物台22Bの回転角度の関係を変更しても良い。例えば
、カムフォロア115Aを36度だけ回転させた場合に、第1刃物台22Bを72度(2つのホルダ81分)だけ回転させるギア比に設定しても良い。
【0040】
図7に示すように、停留範囲113Bには、一対の停留壁111Aが設けられている。一対の停留壁111Aは、カムリブ111の一部であり、カムリブ111を軸方向95Aで互いに対向させた部分である。停留範囲113B(一対の停留壁111A)は、カムフォロア115Aの回転方向、即ち、入力軸95の回転方向95Bにおいて、所定の範囲に設けられている。カムフォロア115Aには、
図10に示すように、例えば、回転方向95Bの360度のうち、60度(0度から30度と、330度から360度)の範囲で停留範囲113Bが設けられている。一対の停留壁111Aの軸方向95Aで対向する内壁111Bは、互いに平行な方向に沿って形成されている。一対の内壁111Bの溝幅119は、カムフォロア115Aの太さ(外径)に合わせた幅となっている。
【0041】
図9に示すように、割り出した後の状態では、複数のカムフォロア115Aのうち、任意のカムフォロア115Aが、停留範囲113Bに配置され、一対の停留壁111Aの内壁111Bによって軸方向95Aの両側から挟まれた状態となる。割出部材115は、カムフォロア115Aを一対の停留壁111Aで挟まれることで回転を規制される。これにより、ワークの加工においてワークから切削工具73に荷重(反力)を付与された場合に、割出部材115の回転を一対の停留壁111Aで規制し、切削工具73の旋回方向77への位置ずれを抑制できる。即ち、加工精度を向上できる。
【0042】
また、
図7に示すように、一対の挿入範囲113Cは、カム溝113に沿った方向における停留範囲113Bの両端に設けられている。挿入範囲113Cは、カムフォロア115Aを停留範囲113Bに挿入する、又は停留範囲113Bから排出する部分である。挿入範囲113Cは、例えば、軸方向95Aで対向する一対の内壁111Bの溝幅119を、停留範囲113Bよりも広げて、カムフォロア115Aを挿入し易い形状となっている。尚、ローラギヤカム107は、挿入範囲113Cを備えない構成でも良い。
【0043】
本実施例のローラギヤカム107及びカムフォロア115Aは、所謂、デュエル方式であり、カム溝113の全範囲でカムフォロア115Aを挟まずに、停留範囲113Bでカムフォロア115Aを挟み、割り出しを行なう。カム溝113の全範囲で挟まないため、特許文献1のような所謂、ローラドライブに比べて、割り出し速度の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【0044】
図11は、比較例のカム溝113を平面に展開した状態を示す平面図である。
図11に示す比較例のように、一対の停留壁111Aの内壁(
図7の内壁111Bと区別するため、211Bと称する)を互いに平行にし、且つ、回転方向95Bと平行な方向に沿って形成する構造が、デュエル方式では一般的であった。このため、比較例の構成では、停留範囲113B内でカムフォロア115Aを移動させても、回転方向95Bに沿った一対の内壁211Bでカムフォロア115Aを挟んで保持するため、カムフォロア115Aが軸方向95Aへ移動せず、割出部材115は回転しない。即ち、割出位置79の切削工具73の旋回方向77(Y軸方向)における位置は変化しない。これは、従来のデュエル方式では、停留範囲113Bとして一定の長さの範囲をもたせておくことで、モータなどの駆動源の回転制御の精度がある程度低くとも、停留範囲113B内にカムフォロア115Aを停止させれば迅速な割り出しを可能にできるからである。換言すれば、従来のデュエル方式の技術思想では、駆動源の回転制御に精度を求めるのではなく、Y軸方向の位置が変わらない停留範囲113Bを長くしておくことで、割り出し速度の向上を図ることを目的としていた。
【0045】
一方で、タレット式の旋盤では、切削工具73の芯高さの補正が、加工前に実施される
。ここでいう芯高さの補正とは、旋回方向77(Y軸方向)における割出位置79の切削工具73の中心や刃先などの所定位置を、例えば、第1主軸装置21の主軸85の位置などの基準位置に合わせることである。この芯高さの補正では、第1刃物台22Bに設けられた全ての切削工具73の所定位置と基準位置とが割出位置79で一致することが好ましい。これは、所定位置と基準位置とを全て一致させることで、NCプログラムの内容や制御内容を簡素化でき、加工精度を向上できるためである。
【0046】
しかしながら、全ての切削工具73の芯高さを一度に補正することは難しく、この芯高さの補正方法としては、例えば、
図3の第1及び第2刃物台22B,32Bの各々に示す偏心ピン117を用いる方法が考えられる。この偏心ピン117は、例えば、ボルトやボルトに取り付けられた偏心カムなどを有し、第1及び第2刃物台22B,32Bの正面側から螺合されている。偏心ピン117は、第1及び第2刃物台22B,32Bに対して螺合される位置や向きを変更されることで偏心カムを回転させ、第1及び第2刃物台22B,32Bを旋回方向77へ回転させる。これにより、第1及び第2刃物台22B,32Bを回転させる軸に対する第1及び第2刃物台22B,32Bの相対的な旋回方向77の位置を補正できる。
【0047】
ユーザは、例えば、芯高さの補正を行う場合、1乃至複数の切削工具73について、各切削工具73を割出位置79に割り出して、偏心ピン117を回転させて芯高さを補正する。ユーザは、例えば、複数の切削工具73の中からピックアップした切削工具73について芯高さの補正を実施する。あるいは、ユーザは、例えば、最もズレの大きい切削工具73について偏心ピン117を回して芯高さの補正を実施する作業を繰り返し実施する。このような偏心ピン117を用いた補正では、補正を行うごとに既に補正済みの切削工具73の位置が旋回方向77へ再度ずれる虞もあり、作業負荷が大きくなる。これに対し、本実施例のY軸駆動装置91では、ローラギヤカム107の回転位置を変更することで、芯高さの補正が可能となっている。このため、工作機械10は、上記した偏心ピン117を備えない構成でも良い。
【0048】
詳述すると、
図7に示すように、本実施例の一対の内壁111Bは、互いに平行で且つ回転方向95Bと平行な方向に対して所定の角度θ1だけ傾斜した形状となっている。尚、
図7は、説明を分かり易くするため、
図11に示す比較例の内壁211Bを破線で示している。また、実際の内壁111Bの傾斜する角度θ1は微細な角度であるが、
図7は、傾斜した状態が分かり易くなるように内壁111Bを図示している。
【0049】
一対の内壁111Bは、回転方向95Bの一方側から他方側に向かって、即ち、一対の挿入範囲113Cうち、一方側の挿入範囲113Cから他方側の挿入範囲113Cに向かって一定の傾斜角度(角度θ1)で傾斜して形成されている。
図7に示す例では、一対の内壁111Bは、互いに平行で、且つ、
図7の上から下に向かうに従って左から右に傾いている。従って、停留範囲113B内にカムフォロア115Aを配置した状態でローラギヤカム107を回転させると、カムフォロア115Aは、内壁111Bの傾斜に沿って軸方向95Aへ移動する。その結果、第1刃物台22Bが回転し、割出位置79の切削工具73は、旋回方向77における位置が変更される。
【0050】
制御装置17は、切削工具73の割り出しを実行する場合に、第1タレット用モータ22Aを制御し、割出位置79に割り出す切削工具73(ホルダ81)に応じて、停留範囲113B内においてカムフォロア115Aを停止させる位置を変更する。例えば、一対の内壁111Bが、回転方向95Bに対してなす角度θ1は、回転方向95Bに60度ある停留範囲113B内でカムフォロア115Aを移動させた場合に、割出位置79の切削工具73が旋回方向77に沿って0.数度、又は0.0数度程度(旋回方向77に約0.1mm~0.5mm程度移動する)角度となっている。
【0051】
図10に示すように、出力軸の回転角度は、停留範囲113Bにおいても、入力軸95の回転角度を変化させることで変化する。これにより、制御装置17は、停留範囲113B内においてカムフォロア115Aを停止させる位置を変更することで、旋回方向77における切削工具73の位置、即ち、芯高さの補正を実行できる。制御装置17が切削工具73を割り出すごとに、割り出す切削工具73の誤差に応じてカムフォロア115Aを停止する位置を補正することで、例えば、全ての切削工具73の刃先と、第1主軸装置21の主軸85を一致させることができる。ユーザが、加工前に偏心ピン117を回しながら芯高さを補正する作業が不要となる。ユーザの作業負荷の軽減と、段取り替え時間の短縮を図ることができる。さらに、デュエル方式を用いることで、ローラドライブに比べて製造コストの低減と、割り出し時間の短縮も図ることができる。特に、サーボモータのように回転の停止位置の精度が高いモータを、第1主軸用モータ21Aとして採用することで、芯高さの補正を高精度に実施できる。
【0052】
また、カム溝113は、溝の全範囲のうち、停留範囲113B以外の範囲に、軸方向95Aの一方側からのみカムフォロア115Aに接触する割出範囲113Aを有する。これにより、切削工具73の割り出し中は、
図8に示すように、カムフォロア115Aの一方側にカムリブ111を当てて移動させることで、割り出し速度の向上を図ることが可能となる。
【0053】
また、
図7に示すように、一対の停留壁111Aの内壁111Bが回転方向95B(内壁211B)に対してなす角度θ1は、割出範囲113Aにおけるカム溝113を形成する内壁が回転方向95Bに対してなす角度θ2に比べて小さくなっている。
図10に示すように、入力軸95の回転角度に対する出力軸の回転角度の変化量は、停留範囲113Bに比べて割出範囲113Aで大きくなっている。これにより、変化量の大きい割出範囲113Aでカムフォロア115Aを迅速に移動させることで、切削工具73の割り出し速度の向上をより図ることができる。尚、割出範囲113Aの回転角度の変化量を、停留範囲113Bの変化量と同一、又は停留範囲113Bよりも小さくしても良い。
【0054】
また、制御装置17は、複数のホルダ81の各々について、停留範囲113B内においてカムフォロア115Aを停止させる位置を示す値を受け付ける。例えば、入力軸95を
図10の330度から30度まで(停留範囲113Bの一端から他端まで)回転させカムフォロア115Aを移動させた場合に、0.1度だけ切削工具73が旋回方向77に回転するものとする。この場合、制御装置17は、例えば、カム溝113の溝に沿った方向における中心121(
図7参照、入力軸95の回転角度が0度の位置)を基準として、一方側(0度から30度側)をプラス側、他方側(0度から330度側)をマイナス側として設定し、カムフォロア115Aを停止させる位置を示す値として、補正値を受け付ける。
【0055】
図12は、補正値を受け付ける受付画面123の一例を示している。例えば、制御装置17は、操作盤15に対する所定の操作入力を受け付けると、
図12に示す受付画面123をタッチパネル15Aに表示させる。第1刃物台22Bの各ホルダ81には、1番~10番のホルダ番号が設定されている。
図12に示すように、制御装置17は、このホルダ番号と、ホルダ番号の横に補正値を受け付ける入力部125を、ホルダ81ごとに表示する。補正値は、例えば、+0.03度などの回転角度の値であり、切削工具73を旋回方向77に沿ってずらす値(回転させる回転角度)である。例えば、制御装置17は、割出位置79の切削工具73を時計回り方向に移動させる方向をプラス方向、反時計回り方向に移動させる方向をマイナス方向とし、+0.1度~-0.1度の値までを補正値として受け付ける。制御装置17は、補正値を、入力部125に直接入力する形式で受け付けても良く、プルダウンメニューなどで選択式に受け付けても良い。尚、補正値は、旋回方向77に回転させる回転角度に限らない。例えば、制御装置17は、旋回方向77に沿った
円の接線方向や旋回方向77に沿った円の半径方向へ、切削工具73を移動させる距離を補正値として受け付けても良い。制御装置17は、この距離を、0.01mmなどのmm単位の値で受け付けも良い。
【0056】
制御装置17は、受付画面123に表示した決定ボタン127を操作されると、各ホルダ番号と、そのホルダ番号の横の補正値とを関連付けて制御データD1に記憶する。制御装置17は、切削工具73を割り出す場合に、割り出すホルダ番号に応じた補正値を制御データD1から検出し、検出した補正値に応じて第1主軸用モータ21Aを制御する。例えば、記憶装置17Bには、補正値と、第1主軸用モータ21Aの回転角度とを対応付けたデータが記憶されている。制御装置17は、受け付けた補正値と、記憶装置17Bのデータに基づいて第1主軸用モータ21Aの回転位置や回転方向等を決定して制御する。これにより、カムフォロア115Aを、停留範囲113B内において補正値に応じた位置に停止させることができる。また、制御装置17は、ホルダ81ごとに補正値を変更すること、各切削工具73を補正後の割出位置79に配置できる。ユーザは、各ホルダ81の補正値を受付画面123で変更することで、複数の切削工具73について芯高さの補正を個別に実施できる。芯高さの位置がずれている切削工具73のみを補正でき、且つ、偏心ピン117のような他の切削工具73の芯高さに影響を与えることなく補正できる。尚、制御装置17は、受付画面123に表示したキャンセルボタン129を操作された場合、受付画面123の表示を終了し、タイトル画面等をタッチパネル15Aに表示させる。
【0057】
さらに、制御装置17は、中心121を設定し、停留範囲113B内においてカムフォロア115Aを停止させる位置を、プラス側及びマイナス側に応じた値で受け付ける。これにより、停留範囲113Bの中心121、即ち、補正しない場合の基準位置(0度)を中心として、補正値を受け付けることができる。補正前の位置からどちらに補正すれば良いのかを、ユーザに分かり易くすることができる。また、補正前の状態に戻す作業が容易となる。
【0058】
尚、制御装置17は、操作盤15で補正値を受け付けなくとも良い。例えば、補正値は、NCプログラム等に予め設定され、NCプログラムを編集することで変更される値でも良い。また、制御装置17は、中心121(0度)をゼロとしてプラス側及びマイナス側の補正値を受け付けなくとも良い。例えば、制御装置17は、330度の位置を基準とし、0度~+0.2度の値の範囲で補正値を受け付けても良い。
【0059】
因みに、第1及び第2タレット装置22,32は、本開示のタレット装置の一例である。第1及び第2タレット用モータ22A,32Aは、駆動源の一例である。第1及び第2刃物台22B,32Bは、刃物台の一例である。切削工具73は、工具の一例である。
【0060】
以上、上記した本実施例によれば以下の効果を奏する。
本実施例の一態様であるローラギヤカム107のカム溝113は、溝の全範囲のうち、カムフォロア115Aを軸方向95Aの両側から挟む一対の停留壁111Aが設けられた停留範囲113Bを1つ有する。一対の停留壁111Aの内壁111Bは、互いに平行で、且つ、回転方向95Bに対して所定の角度θ1をなす方向に形成されている。そして、制御装置17は、第1タレット用モータ22Aを制御し、割出位置79に割り出す切削工具73に応じて、停留範囲113B内においてカムフォロア115Aを停止させる位置を変更する。
【0061】
これによれば、デュエル方式の停留範囲113Bにおいて、カムフォロア115Aを停止させる位置を変更することで、割出部材115を回転させることができる。これにより、第1及び第2刃物台22B,32Bの各々を旋回方向77へ回転させることができ、割出位置79の切削工具73について旋回方向77における位置(芯高さの位置)を微調整
できる。また、一対の内壁111Bを互いに平行な状態で傾斜させているため、カムフォロア115Aを軸方向95Aの両側から確実に保持(ロック)し、加工時に切削工具73に付与される荷重に対する切削工具73の位置ズレの発生を抑制できる。その結果、デュエル方式による製造コストの低減、割り出し速度の向上といった利点を引き継ぎつつ、芯高さの位置補正を実現できる。
【0062】
尚、本開示は上記の実施例に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例では、一対の停留壁111Aの内壁111Bは、回転方向95Bの一方側から他方側に向かって、一定の傾斜角度で傾斜して形成されていたが、これに限らない。
図13は、別例のカム溝113の構成を示している。以下の説明では、上記した上記実施例と同様の構成については、同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
図13に示すように、一対の内壁111Bは、例えば、カム溝113に沿った方向において中心121の両側で同じ方向に傾斜した構成でも良い。内壁111Bは、
図13の上側、及び下側の両方において、
図13の中心121から離れるに従って左から右へ傾斜している。従って、カムフォロア115Aは、中心121から停留範囲113Bの2つの出口(一対の挿入範囲113C)の何れの側に移動した場合にも、同じ方向へ移動する。
また、
図13の構成において、例えば、
図13の上側の一対の停留範囲113Bの角度θ1と、下側の一対の停留範囲113Bの角度θ1は異なる傾斜角度でも良い。この場合、カムフォロア115Aを中心121からどちらの出口側へ移動させるかに応じて、入力軸95の回転角度に対する出力軸の回転角度の変化量が異なる。従って、中心121からどちらにカムフォロア115Aを移動させるかによって、切削工具73の芯高さの補正量の変化量を変更できる。これによれば、補正量の変更パターンを増やし、より柔軟な補正を実施できる。
【0063】
また、上記実施形態では、ローラギヤカム107は、カム溝113に停留範囲113Bを1つ有する構成であったが、2つ以上の複数の停留範囲113Bを備える構成でも良い。
図14及び
図15は、一例として、2つの停留範囲113Bを有するローラギヤカム207の構成を示している。以下の説明では、上記した上記実施例と同様の構成については、同一符号を付し、その説明を適宜省略する。ローラギヤカム207は、例えば、回転方向95Bにおいて、180度だけ反対の位置に停留範囲113Bをそれぞれ備えている。2つの停留範囲113Bは、
図15に示すように、330度から30度の範囲と、150度から210度の範囲に設けられている。2つの停留範囲113Bには、一対の停留壁111Aがそれぞれ設けられている。各停留範囲113Bに設けられる一対の内壁111Bは、例えば、上記実施例と同様に、互いに平行で、且つ、回転方向95Bに対して所定の角度θ1で傾いている。
【0064】
このような構成のローラギヤカム207では、略180度だけ入力軸95を回転させることで、切削工具73の切り替え、及び芯高さの位置調整の両方を実施することができる。従って、上記実施例に比べて割り出し速度の向上を図ることができる。尚、一方の停留範囲113Bに設けられた一対の停留壁111Aの角度θ1と、もう一方の停留範囲113Bに設けられた一対の停留壁111Aの角度θ1を、異なる角度にしても良い。また、一方の停留範囲113Bに設けられた一対の停留壁111Aの形状と、もう一方の停留範囲113Bに設けられた一対の停留壁111Aの形状とを、異なる形状にしても良い。また、ローラギヤカム207は、3つ以上の停留範囲113B(3組以上の内壁111B)を備える構成でも良い。また、ローラギヤカム207は、複数の停留範囲113Bを備える場合に、少なくとも1つの停留範囲113Bが
図11に示す比較例の停留範囲113B(角度θ1が0度のもの)でも良い。
【0065】
また、上記実施例の第1及び第2加工装置11,12の構成は一例である。例えば、工
作機械10は、加工装置を1つだけ、即ち、タレット装置と主軸装置を1組だけ備える構成でも良い。また、第1加工装置11は、第2加工装置12と異なる構成でも良い。また、工作機械10が備える加工装置は、正面2軸の旋盤に限らず、横旋盤や立型旋盤でも良い。また、加工装置は、旋盤に限らず、マシニングセンタ、フライス盤、ボール盤など、他の種類の加工装置でも良い。また、工作機械10は、旋盤とマシニングなど、複数の種類の加工装置を備える複合形の加工装置でも良い。
【0066】
尚、本開示の範囲は、特許請求の範囲に記載された従属関係に限定されない。例えば、本明細書では、請求項5において「請求項1又は請求項2に記載のタレット装置」を「請求項1~4の何れか1項に記載のタレット装置」に変更した技術思想も開示されている。
【符号の説明】
【0067】
17 制御装置、22 第1タレット装置(タレット装置)、22A 第1タレット用モータ(駆動源)、22B 第1刃物台(刃物台)、32 第2タレット装置(タレット装置)、32A 第2タレット用モータ(駆動源)、32B 第2刃物台(刃物台)、73 切削工具(工具)、79 割出位置、81 ホルダ、95 入力軸、95A 軸方向、95B 回転方向、97 出力軸、107,207 ローラギヤカム、111A 停留壁、111B 内壁、113 カム溝、113A 割出範囲、113B 停留範囲、115 割出部材、115A カムフォロア、121 中心、θ1 角度。