(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072018
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】着脱型電動巻取ユニット
(51)【国際特許分類】
A43C 1/04 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
A43C1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182588
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】513014628
【氏名又は名称】株式会社ナチュラレーザ・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】野中 大旗
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050MA28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】気軽に清掃でき、かつ、小型の電動巻取ユニットを提供する。
【解決手段】靴紐巻取部と、巻取駆動部とで構成された着脱型電動巻取ユニットであって、靴紐巻取部は靴紐と、靴紐を巻き取るボビンと、巻取駆動部を着脱可能に係合する第1の係合部とを有し、巻取駆動部はモーターと、モーターを駆動制御する電気基板と電気基板に電力を供給する電源と、靴紐巻取部を着脱可能に係合する第2の係合部とを有し、第1、第2の係合部を用いて靴紐巻取部に巻取駆動部を着脱可能に係合させた。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴紐巻取部と、巻取駆動部とで構成された着脱型電動巻取ユニットであって、前記靴紐巻取部は靴紐と、靴紐を巻き取るボビンと、前記巻取駆動部を着脱可能に係合する第1の係合部とを有し、前記巻取駆動部はモーターと、前記モーターを駆動制御する電気基板と、前記電気基板に電力を供給する電源と、前記靴紐巻取部を着脱可能に係合する第2の係合部とを有し、前記第1、第2の係合部を用いて前記靴紐巻取部に前記巻取駆動部を着脱可能に係合させた事を特徴とする着脱型電動巻取ユニット。
【請求項2】
前記第1の係合部を形成する第1のカムと、前記第2の係合部を形成する第2のカムと、前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の少なくとも何れかに設けられ、前記第1、第2のカムを対向方向に付勢する第1の弾性手段とを有し、前記第1の弾性手段は前記第1、第2のカム斜面を用いて前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の係合力を発生させることを特徴とする請求項1記載の着脱型電動巻取ユニット。
【請求項3】
前記モーターの回転力を前記ボビンに伝達する伝達部を、前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の少なくとも何れかに設けたことを特徴とする請求項1記載の着脱型電動巻取ユニット。
【請求項4】
前記伝達部は、前記モーターの回転により前記モーターと前記ボビンの回転位相を調整する位相調整部を有することを特徴とする、請求項3記載の着脱型電動巻取ユニット。
【請求項5】
前記位相調整部は、前記靴紐巻取部に設けられた第3のカムと、前記第3のカムと対向し、前記巻取駆動部に設けられた第4のカムと、前記第3、第4のカムを前記第3、第4のカムの回転軸に略沿って対向方向に付勢する第2の弾性手段とで構成されることを特徴とする請求項4記載の着脱型電動巻取ユニット。
【請求項6】
前記伝達部は、第1の回転方向には前記モーターの駆動力を前記ボビンに伝達し、前記第1の回転方向とは異なる第2の回転方向では前記モーター駆動力を前記ボビンに伝達しないワンウェイクラッチ構造としたことを特徴とする請求項3記載の着脱型電動巻取ユニット。
【請求項7】
前記ワンウェイクラッチ構造は、前記第3のカムと、前記第1、第2の回転方向には規制され、前記第1、第2の回転方向とは直交する、前記第3のカムとの対向方向である回転軸方向には移動可能な前記第4のカムと、前記第3、第4のカムを前記回転軸方向に付勢する第2の弾性手段とで構成され、前記第1の回転方向における前記第3、第4のカムが当接する斜面の傾きと前記第2の回転方向における前記第3、第4のカムが当接する斜面の傾きを異ならせたことを特徴とする請求項6記載の着脱型電動巻取ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この本発明は、紐の巻き取りに関するもので、特に靴紐等を電動で巻き取る電動巻取ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
靴紐を巻き上げる技術も進化が進み、装着者が靴紐を自ら結ぶ方式や、ダイアルを回転させて靴紐を巻き取る方式に加え、近年では電動で靴紐を巻き取る商品も開発されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-115971号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電動で靴紐を巻き取る商品に搭載される電動巻取ユニットには、いくつかの問題が残されている。ひとつめは靴を清掃するときに電動巻取ユニットの耐水性が問題となり、洗濯機に靴を投入する様な十分な清掃ができないという問題である。ふたつめはモーターを逆回転させて靴紐を緩める方式では、巻き取り量が過剰になると靴紐が逆方向に巻き取り始める所謂逆巻きが起きてしまうという問題である。ふたつめの問題に関しては巻き取り量を検出してモーターを制御する手段を設ける、或はステップモーターなどを利用して回転ステップをカウントしながらモーターを制御すること、等で対策することは可能である。しかしながら、いずれも部品点数の増加による重量増加や、大型化、コストアップを招いてしまう。この発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、気軽に清掃でき、かつ、小型の電動巻取ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、靴紐巻取部と、巻取駆動部とで構成された着脱型電動巻取ユニットであって、前記靴紐巻取部は靴紐と、靴紐を巻き取るボビンと、前記巻取駆動部を着脱可能に係合する第1の係合部とを有し、前記巻取駆動部はモーターと、前記モーターを駆動制御する電気基板と、前記電気基板に電力を供給する電源と、前記靴紐巻取部を着脱可能に係合する第2の係合部とを有し、前記第1、第2の係合部を用いて前期靴紐巻取部に前記巻取駆動部を着脱可能に係合させた事を特徴とする。
【0006】
次に請求項2に記載の発明は、前記第1の係合部を形成する第1のカムと、前記第2の係合部を形成する第2のカムと、前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の少なくとも何れかに設けられ、前記第1、第2のカムを対向方向に付勢する第1の弾性手段とを有し、前記第1の弾性手段は前記第1、第2のカム斜面を用いて前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の係合力を発生させることを特徴とする。
【0007】
次に請求項3に記載の発明は、前記モーターの回転力を前記ボビンに伝達する伝達部を、前記靴紐巻取部と前記巻取駆動部の少なくとも何れかに設けたことを特徴とする。
【0008】
次に請求項4に記載の発明は、前記伝達部は、前記モーターの回転により前記モーターと前記ボビンの回転位相を調整する位相調整部を有することを特徴とする。
【0009】
次に請求項5に記載の発明は、前記位相調整部は、前記靴紐巻取部に設けられた第3のカムと、前記第3のカムと対向し、前記巻取駆動部に設けられた第4のカムと、前記第3、第4のカムを前記第3、第4のカムの回転軸に略沿って対向方向に付勢する第2の弾性手段とで構成されることを特徴とする。
【0010】
次に請求項6に記載の発明は、前記伝達部は、第1の回転方向には前記モーターの駆動力を前記ボビンに伝達し、前記第1の回転方向とは異なる第2の回転方向では前記モーター駆動力を前記ボビンに伝達しないワンウェイクラッチ構造としたことを特徴とする。
【0011】
次に請求項7に記載の発明は、前記ワンウェイクラッチ構造は、前記第3のカムと、前記第1、第2の回転方向には規制され、前記第1、第2の回転方向とは直交する、前記第3のカムとの対向方向である回転軸方向には移動可能な前記第4のカムと、前記第3、第4のカムを前記回転軸方向に付勢する第2の弾性手段とで構成され、前記第1の回転方向における前記第3、第4のカムが当接する斜面の傾きと前記第2の回転方向における前記第3、第4のカムが当接する斜面の傾きを異ならせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によれば、電動巻取ユニットを靴紐巻取部と巻取駆動部に分け、巻取駆動部を外した靴を清掃可能にした。また、靴紐巻取部にワンウェイクラッチ機構を内蔵することで逆巻きを防止した。これにより気軽に清掃でき、かつ、小型の電動巻取ユニットが実現された。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る着脱式電動巻取ユニットを靴に装着したときの(a)は、側面図、(b)は、断面拡大図である。
【
図2】本発明に係る着脱式電動巻取ユニットを靴に装着したときの平面図である。
【
図3】本発明に係る靴紐巻取部から巻取駆動部を取り外す工具である。
【
図4】本発明に係る着脱式電動巻取ユニットを別種の靴に装着したときの(a)は、側面図、(b)は、靴紐巻取部の斜視図である。
【
図7】本発明に係る靴紐巻取部における
図6のA-A線断面図である。
【
図9】本発明に係る巻取駆動部における
図8のA-A線断面図である。
【
図10】本発明に係る靴紐巻取部と巻取駆動部の結合前の斜視図である。
【
図11】本発明に係る靴紐巻取部と巻取駆動部の結合後の(a)は、位相調整前の断面図、(b)は位相調整後の断面図、(c)は(b)における部分拡大断面図である。
【
図12】本発明に係る伝達部ワンウェイクラッチ機構を説明する側面図である。
【
図13】本発明に係る伝達部ワンウェイクラッチ機構を説明する(a)、(b)は、斜視図である。
【
図16】本発明に係る巻取駆動部の電源供給を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の着脱型電動巻き取りユニットを添付図面に基づいて記述する。
【実施例0015】
始めに、本発明に係る着脱型電動巻取ユニットAの靴Dへの装着について説明する。
図1は靴Dの側面図であり、
図1(a)は全体図、
図1(b)は着脱型電動巻取ユニットAが設けられた領域の断面拡大図である。靴Dにおける靴紐11aはアッパー12側を始点にして紐通し13aを縫った後にベロ14の紐通し13b、腰部15の紐通し13cを通り、ネジ式クラスプ11cに接続される。靴紐11bはネジ式クラスプ11dを始点にして紐通し13dを通り靴Dの内部に入る。そしてミッドソール16に設けられたガイド13eで方向をかえられて靴紐巻取部2に設けられた後述するボビンに巻き取られる。
【0016】
ネジ式クラスプ11cと11dは螺合されており、外周のローレット部を回すことで分離できる。このようにネジにより靴紐11aと11bを分離して靴を脱ぐことも可能にしているのは靴紐のリリース(巻取解除)が電源消耗などで動かなくなった時に手動で靴を脱げるようにする為である。別の方法として、靴紐を電源状態とは無関係にリリースできるメカニカルな解除手段を設けてもよい。そして、その手段を操作することで靴を脱ぐ方式とした場合にはネジ式クラスプ11c、11dは不要となる。
【0017】
着脱型電動巻取ユニットAは靴紐巻取部2と巻取駆動部3で構成されており、靴Dにおける靴底アウトソール17上に設けられたミッドソール16内部の収納部16aに収められている。収納部16aの底面16bはミッドソール16で閉じられており、上面16cは後述する開閉部4により閉じられる。靴紐巻取部2に設けられた固定シャフト21a,21b,21c(21b,21cは
図2に図示)をミッドソール16に設けられたフック16d,16e,16f(16e、16fは
図2に図示)と係合することで靴紐巻取部2とミッドソール16が固定される。尚、フック16d,16e,16f(16e、16fは
図2に図示)はミッドソール16と一体で成形された変形可能な部材である。
【0018】
開閉部4は樹脂製のスリーブ41と蓋42とOリング43で構成されている。そしてスリーブ41の垂直壁41aが収納部16aの垂直壁と接着され、フランジ41bがミッドソール16の上面と接着されている。このとき垂直壁41aの先端にあるフック押さえ41cが各フック16d,16e,16fと収納部16aの垂直壁の間に挿入される。靴紐巻取部2をミッドソール16に固定するときには、各フック16d,16e,16fを変形して固定シャフト21a,21b,21cに係合させる。そして、その後にフック押さえ41cが差し込まれることで各フック16d,16e,16fは変形できなくなる。その為に靴を乱雑に取り扱っても靴紐巻取部2が収納部16aから外れることは無い。
【0019】
蓋部42の垂直壁42aにはOリング43が設けられており、Oリング43とスリーブ41の垂直壁41aが密着することで収納部16aの中はIPX6レベルの防水性能になる。但し、このレベルの防水性能では靴Dを長時間水没させる様な厳しい条件の時には収納部16aに水が侵入することになる。そのため水に濡らしたくない機構は洗濯時に取り外すことが望ましい。本発明で説明している着脱型電動巻取ユニットAは靴紐巻取部2と巻取駆動部3に分かれており、水に濡らしたくない巻取駆動部3のみ取り外す構造になっている。着脱型電動巻取ユニットAすべてを取り外す作業は靴紐が絡んでいるために手間が掛かるが、巻取駆動部3のみ取り外す作業は簡単にできる点に本発明は着目している。
【0020】
蓋42の上部にはインソール18が敷かれている。
図2は靴Dの平面図であり、インソール18を剥がし、且つ蓋42を取り外して着脱型電動巻取ユニットAが見える状態を図示している。
図2からわかるように各フック16d,16e,16fはスリーブ41のフック押さえ41cが隣接するために変形することは出来ない。
【0021】
蓋42のフランジ42bにおけるフランジ両端部42cは
図1(b)に示すようにテーパー状にカットされている。そして、
図3に示す取り外し工具5のフック51をフランジ両端部42cのいずれかに差し込んで引っ張ることで蓋42をスリーブ41から取り外すことができる。尚、取り外し工具5は後述するように靴紐巻取部2から巻取駆動部3を取り外す時にも用いられる。
【0022】
図4は本発明に係る着脱型電動巻取ユニットAの靴Dへの別の装着例を図示しており、
図4(a)は靴全体、
図4(b)は靴紐巻取部2の固定方法を図示している。
図4(a)においては靴紐巻取部2がインソール18側、巻取駆動部3がアウトソール17側に設けられている。ミッドソール16の収納部16aおよび開閉部4の構造は
図1と同じである。靴紐11aは腰部15側を始点にしてアッパー12側から靴内部に入る。そしてミッドソール16に設けられたガイド13eで方向をかえられて靴紐巻取部2に設けられた後述するボビンに巻き取られる。
【0023】
開閉部4の蓋42はアンダーカバー19によりおさえられている。ミッドソール16にはヘリサート(登録商標)等のネジ式インサート19bが埋め込まれており。アンダーカバー19はネジ19aとネジ式インサート19bの螺合により固定されている。ネジ19aはコインなどにより容易に緩めることができる様になっており、ユーザーはアンダーカバー19と蓋42を開けることで巻取駆動部3にアクセスできるようになっている。
【0024】
図4(b)に示すように靴紐巻取部2の3カ所の固定シャフト21a、21b、21cには固定ベルト16g、16h、16iが取り付けられている。固定ベルト16g、16h、16iを有する固定シート16jは
図4(a)に示すミッドソール16とインソール18の間に縫い付けられており、これにより靴紐巻取部2は靴Dに固定される。
【0025】
本発明のひとつめの課題である靴の清掃のための構造について、まず、靴紐巻取部2の構造から説明する。
図5は靴紐巻取部2の分解斜視図であり保持枠21の腕部21d、21e、21fには前述した3カ所の固定シャフト21a、21b、21cが設けられている。円形開口部22には回転軸22aを中心にして回転する第3のカム23および第3のカム23と一緒に回転軸22a周りを回転するボビン24が収納される。ボビン24におけるボビン内筒24bとボビンフランジ内壁24cの間には靴紐11b(
図4の例の場合は11a)が挟まっている。靴紐11bはボビン内靴紐通し溝24dからボビンフランジ外壁24eに巻付いた後に保持枠21に設けられた靴紐通し溝21gより靴の内部につながる。そして、ボビン24が回転することで靴紐11bが巻き取られる構造になっている。ボビン24の内径部に設けられたフック受け24aは保持枠21に設けられたボビンフック21hと係合することによりボビン24を回転軸22a周りには回転可能とし、回転軸22a方向には固定支持する。
【0026】
第3のカム23は回転円板23aに対して垂直な垂直面23bと回転円板23aに対してなだらかな傾斜面23cで構成されている。後述する第4のカムも同様に垂直面と傾斜面で構成されている。そして第3、第4のカムが噛み合った状態において互いの垂直面が当接する回転方向(第1の回転方向)では第4のカムの回転力を第3のカム23に伝えることができ、反対に互いの傾斜面が当接する回転方向(第2の回転方向)では第4のカムの回転力を第3のカム23に伝えることができない構造になっている。また、保持枠21には第1の係合部である第1のカム25が設けられており、同じく保持枠21に先端に設けられた開口部26と共に後述する巻取駆動部3を取り付ける為に用いられる。第3のカム23の裏面には4カ所のキー突起23e(
図5では1カ所のみ見える。)が設けられており、ボビン24のキー溝24fと嵌め合うことで回転軸22a周りにはボビン24と第3のカム23は一緒に回転する。
【0027】
図7は靴紐巻取部2の断面図であり、
図6における靴紐巻取部2の組立斜視図のA-A断面である。
図7において、前述したように保持枠21に設けられたボビンフック21hとボビン24の内径に設けられたフック受け24aによりボビン24は回転軸22a周りに回動可能に軸支されている。第3のカム23の回転円板23aは前述したようにキー突起23eとキー溝24fとの嵌め合いによりボビン24と一緒に回転する。また、保持枠21における円形開口部22の近傍には第1の係合部である第1のカム25が設けられている。
【0028】
次に巻取駆動部3の構造について説明する。
図8は巻取駆動部の分解斜視図であり、ケース31内にはモーターであるDC小型モーター32、DC小型モーター32の軸に設けられたウォーム32a、ウォーム32aと噛み合うウォームホイール33、後述する操作を受けてDC小型モーターを駆動制御する電気基板34、及びケース31と組み合わされる蓋35で構成される。電気基板34の裏面には電源34aが設けられている。また、電気基板34の表面には2次電池である電源34aを充電するための給電コネクタ34bが設けられている。ウォーム32aにおける溝の進み角は小さく設定し、ウォームホイール33側からの回転力がウォーム32aに伝わってもDC小型モーター32は回転しない非可逆構造にしている。これにより靴紐に開放方向のテンションが加わり、ウォームホイール33を回転させようとしても、ウォーム32aがウォームホイール33の回転を止めるので靴紐が緩むことは無い。
【0029】
図8において各突起31gは電気基板34の受け部であり、コネクタ窓31hは給電コネクタ34bをケース31から外部に露出させる窓である。第4のカム36はキー突起36fおよびキー溝36gを有しており、駆動部側に設けられた不図示のキー溝およびキー突起と嵌め合う。これによりウォームホイール33と第4のカム36は同一方向に同時に回転する。しかしキー溝とキー突起以外の拘束がないために第4のカム36はウォームホイール33に対して回転軸22a方向には移動可能である。第2の弾性手段であるコイルスプリング33cはウォームホイール33と第4のカム36の間に設けられており、第4のカム36をウォームホイール33から離れる方向に付勢している。
【0030】
図9は
図8における巻取駆動部3のA-A断面図であり、ウォームホイール33の上方に設けられたウォームホイール軸33eは蓋35に設けられた蓋軸受け部35aと嵌合し、ウォームホイール33の下方は後述する伝達スリーブ33bを介してケース31に設けられたウォームホイール部受け内周部31aに支えられている。尚、伝達スリーブ33bとウォームホイール受け内周部31aの間には軸Oリング31eが設けられており、さらに、ウォームホイール受け内周部31aの先端部31fはウォームホイール33内に入り込んだインロー構造として2重の防塵構造になっている。伝達スリーブ33bはウォームホイール33と螺合するスリーブとめネジ33aによりウォームホイール33に結合されており、ウォームホイールと同軸に回転する。第4のカム36は前述したキー溝とキー突起構造によりウォームホイール33と一緒に回転するが矢印36a方向には伝達スリーブ33b上を摺動可能となっている。第2の弾性手段であるコイルスプリング33cは第4のカム36を矢印36b方向に付勢している。抜け止めリング33dは第4のカム36がコイルスプリング33cにより伝達スリーブ33bより抜けるのを防止する抜け止めリングである。
【0031】
ケース31には第2の係合部である第2のカム37が設けられている。ケース31における固定壁31bと第2のカム37の間には第1の弾性手段であるコイルスプリング37aが設けられており、第2のカム37を矢印37b方向に付勢している。
【0032】
次に巻取駆動部3の靴紐巻取部2への取付について説明する。
図10は
図8で示した巻取駆動部3を裏側から見て靴紐巻取部2と並べた斜視図である。巻取駆動部3を靴紐巻取部2に取り付けるときには
図10において巻取駆動部3を表に返し、巻取駆動部3の先端部にある着脱フック31cを靴紐巻取部2に設けられた開口部26に差し込み、巻取駆動部3を靴紐巻取部2に重ねる。それにより巻取駆動部3に設けられた第2のカム37の山と靴紐巻取部2に設けられた第1のカム25の山が当接するので、その状態で巻取駆動部3を靴紐巻取部2に対して押し込む。第1のカム25および第2のカム37の山は同じ斜面で対向しているために上述した押し込む力と直交する分力により第2のカム37を付勢しているコイルスプリング37aが縮む。これにより第1のカム25に対して第2のカム37が退避して第1のカム25の山が第2のカム37の山を乗り越える。そして第1のカム25の山と第2のカム37の谷が噛み合い、靴紐巻取部2と巻取駆動部3は結合した状態になる。
【0033】
次に靴紐巻取部2に巻取駆動部3を取り付けた後の巻取駆動伝達について説明する。
図11は靴紐巻取部2と巻取駆動部3が結合した状態を示す断面図である。ここで、靴紐巻取部2におけるボビン24と第3のカム23及び巻取駆動部3における第4のカム36、コイルスプリング33cで伝達部は構成されている。
図11(a)における巻取駆動部3の第4のカム36と
図9における巻取駆動部3の第4のカム36は矢印36a方向の位置が異なっている。
図9における第4のカム36はコイルスプリング33cの付勢力により抜け止めリング33dに接触しているが、
図11においては第3のカム23のカムの山23dに第4のカム36のカムの山36eが乗り上げているのでコイルスプリング33cが縮み、第4のカム36は退避状態になっている。これは第3のカム23と第4のカム36の回転位相が合っていないことが原因である。
【0034】
しかしながらこのような状態においてもDC小型モーター32が駆動され第4のカム36が回転を始めると
図11(b)に示すように第4のカム36のカムの山36eは第3のカム23のカムの山23dを滑ったのちに互いのカムが山と谷の結合状態になり互いの回転位相が自動的に調整される。この時コイルスプリング33cと第4のカム36の質量で決まるバネ復帰時定数で求まる第3のカム23と第4のカム36が噛み合う迄の時間より遅い速度(例えばDC小型モーター32を1200rpmで回転)で互いのカムの山23d、36eを滑らせることが位相調整では重要になる。何故ならば速い速度(例えばDC小型モーター32を6400rpmで回転)で第4のカム36を回転させると、互いの位相が調整される(第3のカム23の山と第4のカム36の谷が嵌り合う)前に第3のカム23と第4のカム36が空回りを始めるためである。
【0035】
このように第3のカム23と第4のカム36のいずれかを対向方向に伸縮可能にし、且つコイルスプリング33cで互いを押し付ける方向に付勢する機構で位相調整部を構成する。そして、靴紐巻取の初期、或は巻取駆動部と靴紐巻取部を結合した初期にゆっくりした速度で第4のカム36を回転させることで位相調整を完了させる。第3のカム23と第4のカム36の回転位相をユーザーが調整しながら靴紐巻取部2と巻取駆動部3を結合するのは困難な作業である。しかしながら位相調整部を設けることで回転位相を合わせなくても靴紐巻取部と巻取駆動部を結合させると自動的に回転位相が調整できる点は本発明の特徴である。
【0036】
図11(c)は
図11(b)において円38で囲んだ領域であり、第1のカム25と第2のカム37の拡大図を示している。ここで第1のカムの斜面25eと第2のカム37の斜面37eは共に同じ角度θに設定されている。そして角度θと第1のカム25および第2のカム37の各面の摩擦係数、および靴を履いて運動するときに巻取駆動部3に加わる矢印38a方向の力F1により求まる矢印38b方向の分力F2に対してコイルスプリング37aの付勢力が十分大きく設定されている。そのために運動時に巻取駆動部3が靴紐巻取部2から外れることは無い。
【0037】
靴紐巻取部2から巻取駆動部3を取り外す時には
図3に示した取り外し工具5のフック51を
図11のケース31におけるケース角部31dに引っかけて強い力で引っ張ることで第1のカム25と第2のカム37の結合を外す。
【0038】
本発明のふたつめの課題である逆巻き防止について説明する。
図12は本発明における着脱式電動巻取ユニットAの巻取駆動部3からの駆動力を靴紐巻取部2に伝える伝達部の側面図である。前述したように、伝達部は靴紐巻取部2におけるボビン24と第3のカム23及び巻取駆動部3における第4のカム36、伝達スリーブ33b、コイルスプリング33cで構成されている。そして第4のカム36は伝達スリーブ33bに沿って矢印36a方向に摺動可能であり、第3のカム23方向にコイルスプリング33cにより付勢されている。そして第3のカム23におけるカムの山23dは回転円板23aに対して垂直な垂直面23bと回転円板23aに対してなだらかな傾斜面23cで構成され、同様に第4のカム36も垂直面36cと傾斜面36dで構成されている。(
図12においては垂直面23bと36cは当接しており、第3のカム23と第4のカム36は噛み合い状態である。)
【0039】
第3、第4のカム23,36が噛み合い状態では互いの垂直面23b、36cが当接しているので第4のカム36が第1の回転方向(矢印37c)に回転するときには第4のカム36の回転力を第3のカム23に伝えることができる。(
図13(a))反対に互いの傾斜面23c、36dが当接する矢印37dの第2の回転方向に第4のカム36が回転するときには互いのカム傾斜により第3のカム23に対して第4のカム36がコイルスプリング33cの付勢力に反して乗り上げてしまう。その為に第4のカム36の回転力を第3のカム23に伝えることができない。(
図13(b))このように伝達部は第1の回転方向にはDC小型モーター32の駆動力をボビン24に伝達し、第1の回転方向とは異なる第2の回転方向ではDC小型モーター32の駆動力をボビン24に伝達しないワンウェイクラッチ構造となっている。
【0040】
次に靴紐を締める動作について説明する。靴紐を締めるときには巻取駆動部3からの駆動力を第4のカム36の矢印37d方向の回転を介して第3のカム23に伝えることで、靴紐は巻き取られる。また、靴紐が緩もうとした場合はボビン24を介した第3のカム23の回転方向は矢印37cとなり、第4のカム36を介して回転力はウォームホイール33に伝わる。しかしながらウォームホイール33とウォーム32aは非可逆駆動伝達部である為に靴紐が緩まない構造が実現できている。
【0041】
次に靴紐を緩める動作について説明する。DC小型モーター32を靴紐を締める方向と逆回転させると第4のカム36の回転方向は矢印37cとなる。上述したようにこの方向では第3のカム23に対して第4のカム36は乗り上げる状態となる。この時コイルスプリング33cと第4のカム36の質量で決まるバネ復帰時定数で求められる第3のカム23と第4のカム36が噛み合う迄の時間より速く第4のカム36を回転させると、第3のカム23と第4のカム36は結合することなく空回りを始める。この空回り状態が続いているときは靴紐がロックされないために靴を脱ぐことができる。第3のカム23と第4のカム36は空回りをしているためにDC小型モーター23がこの方向に回転を継続しても靴紐の逆巻きが起きることは無い。
【0042】
次に靴紐を締める操作、靴紐調整操作、靴紐を緩める操作について説明する。
図8において巻取駆動部3に設けられた電気基板34にはブルートゥース(登録商標)等の通信手段が設けられており、靴使用者のスマートフォン等とリンクすることができる。
図14はスマートフォンBの画面61を図示しており、画面61には靴紐を締めるアイコン61a、靴紐を調整するアイコン61b、靴紐を緩めるアイコン61cが描かれている。
【0043】
そして靴紐を締めるアイコン61aをタップするとタップしている間だけDC小型モーター32が靴紐を締める方向に回転する。この時の回転速度は前述したようにゆっくりとした速度に設定してある。
【0044】
靴紐を調整するアイコン61bをタップするとタップしている間だけ靴紐を締める方向とは逆の方向にDC小型モーター32がゆっくり回転する。靴紐は緩まる方向に常にテンションがかかっているのでDC小型モーター32が回転している間だけは靴紐がゆっくり緩む。これにより締まり過ぎた靴紐を緩めることができる。
【0045】
靴紐を緩めるアイコン61cをタップするとタップしてから例えば10秒間DC小型モーター32は靴紐が締まる方向とは逆の方向に高速回転する。これにより第3のカム23と第4のカム36は空回りを始めるので靴紐のロックが外れ、その間に靴を脱ぐことができる。
【0046】
図15は上記動作のフローチャートであり、このフローはスマートフォンとのリンクが行われ、上述3つの操作のいずれかが行われたときにスタートする。そして、スマートフォンとのリンクが解除されるか、或は上述3つの操作のいずれも行われなくなり、所定秒(例えば10秒)経過するとこのフローは終了する。
【0047】
ステップS01では靴紐を緩める操作か否かを判定し、靴紐を緩める操作ではステップS02に進み、それ以外ではステップS03に進む。ステップS02ではDC小型モーター32を靴紐を緩める方向(逆転)に高速回転させてステップS04に進む。ステップS04ではDC小型モーター32の回転を継続させながら所定時間(例えば10秒)が経過するまでステップS02、S04を循環する。そして所定時間が経過するとステップS09に進み、DC小型モーター32を停止させてステップS01に戻る。
【0048】
ステップS03では靴紐を締める操作か調整する操作かを判定し、靴紐を締める操作ではステップS05に進み、調整する操作ではステップS06に進む。ステップS05ではDC小型モーター32を靴紐を締める方向(正転)にゆっくり回転させる。ステップS07では靴紐を締める操作が継続しているか否かを判定しており、靴紐を締める操作が継続されているときはステップS05、S07を循環して靴紐を締める動作を継続する。靴紐を締める操作が行われなくなった時にはステップS09に進み、DC小型モーター32を停止させてステップS01に戻る。
【0049】
ステップS06ではDC小型モーター32を靴紐を緩める方向(逆転)にゆっくり回転させる。ステップS08では靴紐を調整する操作が継続しているか否かを判定しており、靴紐を調整する操作が継続されているときはステップS06、S08を循環して靴紐を調整する動作を継続する。靴紐を調整する操作が行われなくなった時にはステップS09に進み、DC小型モーター32を停止させてステップS01に戻る。
【0050】
最後に巻取駆動部3に内蔵される2次電池である電源34aを供給する方法について説明する。
図8において電気基板34には給電コネクタ34bが設けられている。巻取駆動部3の電源34aが消耗してきたときには靴Dから巻取駆動部3を外し、給電コネクタ34bに既存の充電器を接続して電源34aを充電すればよい。別の方法として、巻取駆動部3の蓋35に受電用コイルを設け、
図16に示すように靴D内に送電用コイルを有する充電器Cを置くことで2次電池の充電を行っても良い。この場合には2次電池の充電の為に巻取駆動部3を取り外す作業を省くことができる。
【0051】
以上説明したように本発明においては巻取駆動部3と靴紐巻取部2を分離可能にしたので簡単な作業を行うだけで靴の洗濯を行えるようになった。また、伝達部をワンウェイクラッチ構造にしたためにモーターを逆回転させたときも巻き取り量が過剰になることで発生する所謂逆巻きの発生を防ぐことができた。
本発明では靴紐の電動巻取に沿って構造の説明を行ったが、巻取駆動部が簡単に分離できる構造は靴紐に限られず、例えば防寒手袋の手首紐やベルトなど清掃が必要になる衣類にも好適である。