(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072021
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】燃料電池スタックの含水状態判定装置および燃料電池車
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04492 20160101AFI20240520BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240520BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240520BHJP
H01M 8/04291 20160101ALI20240520BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240520BHJP
B60L 58/30 20190101ALI20240520BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240520BHJP
【FI】
H01M8/04492
H01M8/00 Z
H01M8/04537
H01M8/04291
H01M8/04 Z
B60L58/30
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182593
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福富 悠史
【テーマコード(参考)】
5H125
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC07
5H125AC12
5H125BD07
5H125EE35
5H125EE36
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB29
5H127AC10
5H127AC11
5H127AC13
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA57
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127BB40
5H127DB68
(57)【要約】
【課題】測定に用いられる交流信号のうち低周波数側も有効に活用して燃料電池の状態判定を行うことが可能な燃料電池の含水状態判定装置および燃料電池車を提供する。
【解決手段】本開示の一形態における燃料電池スタックの含水状態判定装置は、1又は複数のセルで構成された燃料電池スタックに測定用負荷波形を印加して得られるインピーダンス測定に基づいて前記燃料電池スタックの含水状態判定を行う制御装置を含み、前記制御装置は、前記インピーダンス測定に基づく前記セルの膜抵抗が第1閾値を超えるかで前記セルの乾燥状態を判定し、前記膜抵抗の値が前記第1閾値以下であり、且つ、前記インピーダンス測定における低周波側のばらつき度合いが前記第1閾値と異なる第2閾値を超える場合にはフラッディングと判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のセルで構成された燃料電池スタックに測定用負荷波形を印加して得られるインピーダンス測定に基づいて前記燃料電池スタックの含水状態判定を行う制御装置を含み、
前記制御装置は、
前記インピーダンス測定に基づく前記セルの膜抵抗が第1閾値を超えるかで前記セルの乾燥状態を判定し、
前記膜抵抗の値が前記第1閾値以下であり、且つ、前記インピーダンス測定における低周波側のばらつき度合いが前記第1閾値と異なる第2閾値を超える場合にはフラッディングと判定する、
燃料電池スタックの含水状態判定装置。
【請求項2】
前記低周波側のばらつき度合いは、
前記インピーダンス計測に用いられる交流信号に含まれる周波数と、前記セルへの印加電流と出力電圧の位相差と、に基づいて算出される、
請求項1に記載の燃料電池スタックの含水状態判定装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
Y軸を前記位相差としつつX軸を前記周波数としたXY座標面における、周波数に沿った複数の測定点で構成された多角形の面積総和から、前記ばらつき度合いを判定する、
請求項2に記載の燃料電池スタックの含水状態判定装置。
【請求項4】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの含水状態を判定する請求項1~3のいずれか一項に記載の含水状態判定装置と、
を含む燃料電池車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば燃料電池スタックの含水状態判定装置と、この含水状態判定装置を備えた燃料電池車に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において移動手段は不可欠であり、日常において自動車などの様々な車両が路上を移動している。その中でも、車両に駆動力を供給する新たな駆動源として、環境に対する負荷が相対的に小さい燃料電池が注目されている。
【0003】
かような燃料電池においては、一方の電極(燃料極)に対して燃料ガス(水素)を供給するとともに、他方の電極(空気極)に対して酸化剤ガス(酸素)を供給し、これらが化学反応することで電気エネルギーを得ている。従って、燃料電池から適切な電気エネルギー(発電電力)を継続して得るためには、車両に搭載された燃料電池の内部状態を適切に判定する必要がある。
【0004】
上記した内部状態の判定に関し、例えば特許文献1では、燃料電池の電解質膜における含水量に基づいて燃料電池の内部状態を判定する技術が提案されている。この特許文献1では、含水量の計測誤差はインピーダンス計測に用いられる交流信号に含まれる低周波数の位相差に依存することを示した上で、この計測誤差が大きい場合には燃料電池における含水量の算出値として採用しないようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した各特許文献に限らず現在の技術では未だ市場のニーズを満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。
すなわち燃料電池の内部状態を推定する手法として、例えば上記した特許文献にも示された交流インピーダンス法が一般的に用いられる。しかしながら上記した特許文献でも指摘されるとおり、測定に用いられる交流信号のうち低周波数側ではインピーダンス測定において測定精度が低く誤差が生じることがある。
【0007】
これに対して特許文献1で提案されるように、測定誤差が大きい場合には含水量の算出値として採用しないという処理も有効ではあるものの、かような測定誤差が発生しているときには燃料電池の含水量が測定できないといった不都合も同時に生じてしまう。
【0008】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、測定に用いられる交流信号のうち低周波数側も有効に活用して燃料電池の状態判定を行うことが可能な燃料電池の含水状態判定装置および燃料電池車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示のある観点によれば、1又は複数のセルで構成された燃料電池スタックに測定用負荷波形を印加して得られるインピーダンス測定に基づいて前記燃料電池スタックの含水状態判定を行う制御装置を含み、前記制御装置は、前記インピーダンス測定に基づく前記セルの膜抵抗が第1閾値を超えるかで前記セルの乾燥状態を判定し、前記膜抵抗の値が前記第1閾値以下であり、且つ、前記インピーダンス測定における低周波側のばらつき度合いが前記第1閾値と異なる第2閾値を超える場合にはフラッディングと判定する燃料電池スタックの状態判定装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、測定に用いられる交流信号のうち低周波数側も有効に活用することで演算負荷を抑制しつつ燃料電池の含水状態を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る燃料電池の状態判定装置を備えた燃料電池車の構成例を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る燃料電池車の各構成と機能を説明する模式図である。
【
図3】実施形態に係る制御装置とその周辺装置の構成例を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る燃料電池の含水状態判定方法を示すフローチャートである。
【
図5】燃料電池の含水状態判定方法における膜抵抗判定ステップを説明するための模式図である。
【
図6】含水状態判定方法における低周波数ばらつき判定ステップを説明するための模式図(その1)である。
【
図7】含水状態判定方法における低周波数ばらつき判定ステップを説明するための模式図(その2A)である。
【
図8】
図7における四角枠で囲った領域を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本開示の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、以下で詳述する以外の構成については、例えば公知の交流インピーダンス法の他に、公知の燃料電池システムや燃料電池車に関する要素技術や構成を適宜補完してもよい。
【0013】
<燃料電池車FCV>
図1及び
図2は、本実施形態に係る燃料電池スタックFCを備えた燃料電池車FCVの構成例と機能ブロックをそれぞれ示す模式図である。この燃料電池車FCVは、
図2に示すように、車両の駆動トルクを生成する駆動力源21から出力される駆動トルクを左前輪3LF、右前輪3RF、左後輪3LR及び右後輪3RR(以下、特に区別を要しない場合には「車輪3」と総称する)に伝達する四輪駆動車として構成されている。駆動力源21は、本実施形態では前輪側に配置された公知の電動モータが例示できる。
【0014】
なお、本実施形態の駆動力源21としての電動モータは、前輪側と後輪側でそれぞれ1つずつ配置されていてもよく、あるいは各車輪3にそれぞれ1つの電動モータが配置される形態であってもよい。また、駆動力源21は、上記した電動モータに加えて、さらにガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはガスタービンエンジン等の内燃機関を備えていてもよい。
【0015】
かような駆動力源21に所望の電力を供給する電源システムは、例えばPEFC(固体高分子形燃料電池)など公知の燃料電池セル(以下、単に「セル」とも称する)が複数積層されて構成された燃料電池スタックFCと、それぞれ公知の水素タンク23と配管を含む水素ガス供給部と、それぞれ公知のコンプレッサ31と配管を含む空気供給部と、リチウムイオン二次電池や鉛蓄電池などの公知の2次電池50と、公知のコンバータ22と、これらを制御する制御装置100と、を含んでいる。
【0016】
なお本実施形態における制御装置100は、燃料電池スタックFCにおける含水状態を判定する含水状態判定装置10としても機能する。また、この電源システムでは、燃料電池スタックFC及びおよび2次電池50の各々が上記した電動モータを含む負荷に対して電力を供給可能となっている。
【0017】
図2に示すように、この燃料電池スタックFCは、上記したコンバータ22及び駆動力源21(電動モータ)を含む負荷に接続されている。また
図2に示すように、燃料電池スタックFCにおける電流および電圧は、それぞれ公知の電流センサーSR
1と電圧センサーSR
2によって検出される。
【0018】
コンバータ22は、直流電流と交流電流との変換を行う公知のAC/DCコンバータや、直流電流の電圧を所望の電圧に調整する公知のDC/DCコンバータを含んで構成されている。一例として、本実施形態のコンバータ22は、制御装置100の制御信号を受けて、燃料電池スタックFCが発電して出力する出力電圧を設定する機能や、燃料電池スタックFCが発電した電力を負荷に供給する際に所望の電圧に昇圧する機能などを有している。
【0019】
また、本実施形態の燃料電池車FCVは、運転制御に用いられる装備として、上記した駆動力源21、電動ステアリング装置8及びブレーキ装置4LF、4RF、4LR、4RR(以下、特に区別を要しない場合には「ブレーキ装置4」と総称する)を備えている。
【0020】
駆動力源21は、図示しない変速機や前輪差動機構5F及び後輪差動機構5Rを介して前輪駆動軸2F及び後輪駆動軸2Rに伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源21や変速機の駆動は、一つ又は複数の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を含んで構成された公知の制御装置により制御される。
【0021】
前輪駆動軸2Fには電動ステアリング装置8が設けられている。電動ステアリング装置8は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、後述する車両駆動制御装置20により制御されることによって左前輪3LF及び右前輪3RFの操舵角を調節する。
【0022】
車両駆動制御装置20は、燃料電池車FCVの駆動トルクを出力する駆動力源21、ステアリングホイール9又は操舵輪の操舵角を制御する電動ステアリング装置8、燃料電池車FCVの制動力を制御するブレーキ装置4の駆動を制御する公知の一つ又は複数の電子制御装置(ECU)を含む。車両駆動制御装置20は、駆動力源21から出力された出力を変速して車輪3へ伝達する変速機の駆動を制御する機能を備えていてもよい。
【0023】
また、
図2に示すように、燃料電池スタックFCへ燃料(水素)ガスを供給するための水素ガス供給部においては、水素タンク23に貯蔵された水素ガスは、水素供給流路に設置された公知の構造を有する水素吸気バルブ32aなどを介して、上述した燃料電池スタックFCのアノード側流路に供給される。
【0024】
なお、燃料電池スタックFCから排出された水素ガスの一部は、循環流路および公知の循環ポンプ45によって水素供給流路に還流されてもよい。また、燃料電池スタックFCから排出された水素ガスの残部は、制御装置100による制御の下で、公知の水素排気バルブ32bの開閉動作を介して所定のタイミングで公知の希釈器41によって希釈された後で大気放出(排気)される。
【0025】
一方で
図2に示すように、燃料電池スタックFCへ酸素ガス(空気)を供給するための空気供給部は、上記したコンプレッサ31の他に、セルへの酸素(空気)供給量を調整する公知の酸素吸気弁32cおよび空気排出弁(背圧弁)32dなどを備えて構成されている。また、この空気供給部は、燃料電池スタックFCへと供給される空気の流量を計測可能な公知の流量センサ(不図示)をさらに備えていてもよい。
【0026】
そしてコンプレッサ31で取り込まれた空気は、酸素吸気弁32cおよび公知の加湿器(不図示)を経由して、燃料電池スタックFC内のカソード側流路に供給される。また、セルに供給された空気は、制御装置100による空気排出弁(背圧弁)32dの制御の下で、カソードオフガスとして上記した希釈器41へ供給される。
【0027】
制御装置100は、一つ又は複数のプロセッサ(CPU(Central Processing Unit))と、前記一つ又は複数のプロセッサに通信可能に接続される一つ又は複数の記憶装置(メモリ)と、を備えて構成されている。制御装置100は、一つ又は複数の電子制御装置(ECU)を含む集合体として構成されていてもよい。この制御装置100は、一例としてスマートフォンを利用する形態など公知の種々の通信装置CDを介してインターネットなどの公知の外部ネットワークNETと接続可能に構成されていてもよい。
【0028】
かような制御装置100には、直接的に又はCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Inter Net)等の通信手段を介して、コンプレッサ31、各バルブ32(水素吸気バルブ32a、水素排気バルブ32b、酸素吸気弁32c及び空気排出弁32d)、電流センサーSR1及び電圧センサーSR2などの公知のセンサー類SRなどが電気的に接続されている。
【0029】
本実施形態の燃料電池スタックFCは、例えばそれぞれが1V程度の起電力を有する公知のセルが直列接続して複数積層されたスタック構造を有している。一例として、本実施形態の燃料電池スタックFCとしては、燃料電池を両端で加圧して保持する一対の公知のエンドプレート内に、燃料電池車FCVが必要とするシステム電圧となるように複数のセルが直列接続された構造の固体高分子形燃料電池(PEFC)が例示できる。
【0030】
また、燃料電池スタックFCを構成する個々のセルは、それぞれ燃料極側と空気極側に設置される一対の公知のセパレータの間に、公知のMEA(膜電極接合体)が介在する構造を有している。このMEAは、公知のカソード触媒層と、このカソード触媒層と対向配置された公知のアノード触媒層と、これらカソード触媒層とアノード触媒層との間に配置される公知の高分子電解質膜を少なくとも含んで構成されている。なお、膜電極接合体は、それぞれ公知の、空気極側ガス拡散層と燃料極側ガス拡散層をさらに含んで構成されていてもよい。
【0031】
<含水状態判定装置10>
次に
図3を用いて、本実施形態における燃料電池スタックFCの含水状態判定を行う含水状態判定装置10について説明する。すなわち本実施形態の含水状態判定装置10は、1又は複数のセルで構成された燃料電池スタックFCに測定用負荷波形を印加して得られるインピーダンス測定に基づいて燃料電池スタックFCの含水状態判定を行う機能を有して構成されている。
【0032】
より具体的に本実施形態の含水状態判定装置10は、電流計測部10A、電圧計測部10B、インピーダンス計測部10C、膜抵抗算出部10Dおよび含水判定部10Eを含んで構成されている。上述したとおり、含水状態判定装置10は、本実施形態の制御装置100が実行する一つの機能として構成されている。
図3に示すように、制御装置100は、さらに提示制御部10Fを含んで構成されていてもよい。
【0033】
電流計測部10Aは、上記した燃料電池スタックFCの電流値を計測する機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の電流計測部10Aは、上記した電流センサーSR1を介して燃料電池スタックFCを流れる電流値を計測することができる。
【0034】
電圧計測部10Bは、上記した燃料電池スタックFCの電圧値を計測する機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の電圧計測部10Bは、上記した電圧センサーSR2を介して燃料電池スタックFCにかかる電圧値を計測することができる。
【0035】
インピーダンス計測部10Cは、前記した燃料電池スタックFCに測定用の交流信号を印加して燃料電池スタックFCの交流インピーダンスを計測する機能を有して構成されている。インピーダンス計測部10Cは、例えば公知の交流インピーダンス法に従って、駆動力源21(電動モータ)に印加される駆動電流に対して公知の測定用交流電流を印加することで燃料電池スタックFCの交流インピーダンスを計測できる。本実施形態のインピーダンス計測部10Cは、例えば燃料電池スタックFCを構成する特定のセルにおけるインピーダンスを計測してもよいし、燃料電池スタックFCを構成する各セルのインピーダンスをそれぞれ計測してもよい。
【0036】
膜抵抗算出部10Dは、上記したインピーダンス計測部10Cが計測したインピーダンスに基づいて、この測定時における燃料電池スタックFCを構成する燃料電池セル内の膜抵抗Rmemを算出する機能を有して構成されている。一例として、本実施形態の膜抵抗算出部10Dは、公知の手法に従って、上記したインピーダンス計測部10Cで得られたインピーダンスからコールコールプロットを生成し、このコールコールプロットに基づいて上記膜抵抗Rmemを算出することができる。
【0037】
含水判定部10Eは、上記した燃料電池スタックFCにおける1又は複数のセルの含水状態を判定する機能を有して構成されている。より具体的に
図3に示すように、含水判定部10Eは、上記したインピーダンス測定に基づくセルの膜抵抗Rmemが後述する第1閾値を超えるか否かを判定する膜抵抗閾値判定部10Eaと、このインピーダンス測定における低周波側のばらつき度合いが第2閾値を超えるか否かを判定する低周波数ばらつき判定部10Ebと、を含んで構成されている。
【0038】
これにより含水判定部10Eは、上記した膜抵抗閾値判定部10Eaを介して、前記したセルの膜抵抗が第1閾値を超えるかでセルの乾燥状態(例えばドライアウトしているか否か)を判定可能に構成される。かような第1閾値の具体値としては、燃料電池スタックFCのセル数や定格電圧や電流などの仕様値によって変わり得ることから、事前の実験又はシミュレーションによって決定することができる。なお非限定的な一例として、本実施形態では上記した第1閾値の値は35mΩと設定したが、第1閾値の具体値は上記のとおり車両や燃料電池の仕様などに応じて種々規定することができる。
【0039】
また、含水判定部10Eは、上記した低周波数ばらつき判定部10Ebを介して、この膜抵抗の値が前記第1閾値以下であり、且つ、インピーダンス測定における低周波側のばらつき度合いが第2閾値を超える場合にはフラッディング(過水状態)と判定可能に構成される。
【0040】
ここで「低周波側」とは、上記した特許文献1でも指摘されているとおり、セルの含水量測定において測定精度のばらつきが生じる周波数帯を指す。かような周波数帯としては、例えば低周波数が1~150Hzの帯域を言う。
また、「ばらつき度合い」とは、セルの含水状態が適正な状態(すなわち燃料電池の動作に支障が生じるドライやフラッディングではない状態)に対するばらつきの度合いを言う。かような「ばらつき度合い」を計測する手法としては、公知の種々の手法が適用できるが、一例として後述する低周波側における周波数に沿った複数の測定点で構成された多角形の面積総和(すなわち予め実験又はシミュレーションで算出したセルの含水状態が適正な場合におけるグラフからどの程度ばらついているかを面積で算出する手法)に基づいて決定してもよい。
【0041】
なおこの第2閾値は、後述するとおり、上記したインピーダンス計測に用いられる交流信号に含まれる周波数と、燃料電池スタックFCを構成するセルへの印加電流と出力電圧の位相差と、に基づいて算出される。また、この第2閾値は、上記した第1閾値とは異なる値となるが、その具体値としては第1閾値と同様に燃料電池スタックFCの仕様などに応じて実験又はシミュレーションによって決定することができる。
【0042】
このように本実施形態における含水判定部10Eは、燃料電池スタック内において水分量が適切であるかの含水状態の判定を実行し得る。含水判定部10Eは、例えば上記交流インピーダンスから得られたナイキスト線図(コールコールプロット)に基づいて、このナイキスト線図におけるセルの膜抵抗Rmemの値と、および、このナイキスト線図における低周波側のばらつき度合いと、を算出できる。
【0043】
なお、本実施形態の含水判定部10Eは、ナイキスト線図(コールコールプロット)に基づいて上記した判定を行っているが、本実施形態における含水状態の判定には必ずしもコールコールプロットの算出は必須ではない。すなわち、含水判定部10Eは、燃料電池スタックFCに印加した測定負荷波形に基づいて生成された測定周波数とインピーダンスとの関係における膜抵抗Rmemの値や低周波側の測定点を用いて、上記した含水状態の判定を実行してもよい。
【0044】
提示制御部40は、公知の車載スピーカSPやディスプレイDPを含む提示装置DDを介して、上記した燃料電池スタックFCの状態や電池劣化に関する注意喚起など各種情報を提示する処理を実行する。なお提示制御部40は、上記した各種情報を、車載された提示装置DDを介して乗員に提示してもよいし、乗員が所持するスマートフォンなどの外部端末にアクセスして提示する制御を行ってもよい。
【0045】
<燃料電池スタックの管理方法>
次に
図4~
図6も参照しつつ、本実施形態における含水状態判定装置10を含む制御装置100によって実行可能な、燃料電池スタックの含水状態判定方法について説明する。なお、当該管理方法は、コンピュータが読み取り可能なプログラムのアルゴリズムとして用いられてもよい。かようなアルゴリズムを有するプログラムは、例えば公知のネットワークを介して燃料電池車FCVにダウンロード可能に流通したり、記録媒体に格納された形で流通し得る。
以下では、例えばユーザが燃料電池車FCVのシステムを起動して走行を開始したときを例にして説明する。
【0046】
まずステップ1で、含水状態判定装置10は、燃料電池スタックFCの含水状態判定が必要か否かを判定する。かような含水状態判定を開始するタイミングとして、含水状態判定装置10は、例えば公知の温度センサー(不図示)に基づいて燃料電池スタックFCが適正温度となったとき、あるいは、燃料電池スタックFCが起動して所定時間が経過する毎などを基準にしてもよい。さらに含水状態判定装置10は、例えば燃料電池スタックFCの温度が適正となり、且つ、燃料電池車FCVが定速走行を行うなど燃料電池スタックFCにかかる負荷が相対的に小さいときなどを基準としてもよい。
【0047】
そしてステップ1で燃料電池スタックFCの含水状態判定が必要でないとき(ステップ1でNo)、次いでステップ8に移行してシステムがOFFとなったか否かが判定される。そしてステップ8でシステムがOFFとなっていない場合にはステップ1へ戻って上記した処理が繰り返される。
【0048】
他方、ステップ1で燃料電池スタックFCの含水状態判定が必要となった場合(ステップ1でYes)には、続くステップ2において、含水状態判定装置10(インピーダンス計測部10C)は、例えば燃料電池スタックFCに公知の測定用交流信号を印加して燃料電池スタックFCの交流インピーダンスを計測する。なおインピーダンス計測時に燃料電池スタックFCに印加する測定用交流信号としては、燃料電池スタックFCのインピーダンスを計測可能な限りにおいて特に制限はなく、上記した特許文献に開示された測定用波形など公知の交流インピーダンス法による種々の測定波形を適用してもよい。
【0049】
ステップ2で燃料電池スタックFCのインピーダンスを計測した後で、含水状態判定装置10は、続くステップ3において燃料電池スタックFCを構成するセルの膜抵抗Rmemを算出する。より具体的に含水状態判定装置10(膜抵抗算出部10D)は、
図5に示すように、上記したインピーダンス計測部10Cが計測したインピーダンスに基づいてコールコールプロットを生成し、このコールコールプロットに基づいて膜抵抗Rmemを算出することができる。なお本実施形態の含水状態判定装置10は、上記したコールコールプロットに基づいて膜抵抗Rmemを算出しているが、他の公知の手法に従って燃料電池スタックFCを構成するセルの膜抵抗Rmemを算出してもよい。
【0050】
ステップ3で燃料電池スタックFCを構成するセルの膜抵抗Rmemを算出した後は、含水状態判定装置10は、続くステップ4において、上記した膜抵抗Rmemの値が所定の閾値以下か否かの膜抵抗閾値判定処理を実行する。
<膜抵抗閾値判定処理>
より具体的に、
図5に示すように、膜抵抗閾値判定部10Eaは、ステップ3で算出した膜抵抗Rmemが上記した第1閾値TH
1以下であるか否かを判定する。なお
図5に示す例においては膜抵抗Rmemが上記した第1閾値TH
1以下であることから、制御装置100は、このときの燃料電池スタックFCを構成するセルはドライ(乾燥状態)ではないと判定することができる。上述したとおり、本実施形態では、一例として第1閾値TH
1は35mΩと設定されている。
【0051】
すなわちステップ4で膜抵抗Rmemが上記した第1閾値TH1を超える場合(ステップ4でNo)である場合には、制御装置100は、ステップ5Aに移行して燃料電池スタックFCを構成するセルはドライ(公知例に示されるごときセルが乾燥した状態)であると判定する。一方でステップ4において膜抵抗Rmemが上記した第1閾値TH1以下である場合(ステップ4でYes)である場合には、制御装置100は、ステップ5B及びステップ6に移行して後述する低周波数ばらつき判定処理を実行する。
【0052】
<低周波数ばらつき判定処理>
すなわち
図6に示すように、低周波数ばらつき判定部10Ebは、まずインピーダンス測定で得られたコールコールプロットにおける低周波側のばらつき度合いを算出する。なお本実施形態では、上記した「低周波側」の一例として、0.5Hz~40Hzの範囲を規定している。
また、上記したコールコールプロットにおける低周波側のばらつき度合いは、例えば燃料電池スタックFCの含水状態によって変化し得る。参考として、
図6(a)では上記した低周波側のばらつきが無い場合における燃料電池スタックFCのコールコールプロット(一例)を、
図6(b)では上記したばらつきが有る場合におけるコールコールプロット(一例)、
図6(c)では上記したばらつきが有る場合と無い場合を重ねたグラフをそれぞれ示した。
【0053】
本実施形態における「低周波側のばらつき度合い」は、一例として次のとおり判定される。すなわちステップ5Bにおいて、低周波数ばらつき判定部10Ebは、
図6に示されるように、燃料電池スタックFCを構成するセルへの印加電流と出力電圧の位相差をY軸とし、インピーダンス計測に用いられる交流信号に含まれる周波数をX軸としたXY座標面における、この周波数に沿った複数の測定点で構成された多角形(本例ではY軸に沿って隣り合う3点を結んで形成される三角形)の面積総和から、上記したばらつき度合いを判定する。なお、上記した多角形の面積総和は、例えば公知の算出式を用いて算出することができる。
【0054】
本実施形態では、一例として、上記した周波数に沿った複数の測定点で構成された多角形の面積総和の基準値として「100」を上記第2閾値として設定している。なお基準値として「100」は一例であって、車両や燃料電池の仕様などによって種々の数値を規定し得る。本実施形態の低周波数ばらつき判定部10Ebは、ステップ6において、ステップ5Bで算出された多角形の面積総和(ばらつき度合い)がこの第2閾値を超えるか否かを判定する。そしてステップ6において上記多角形の面積総和(ばらつき度合い)がこの第2閾値を超える場合、低周波数ばらつき判定部10Ebは、ステップ7Aに移行して「フラッディング(燃料電池の反応過程で生成された水が滞留することで発電反応を阻害している状態)」と判定することができる。
【0055】
一方でステップ6において上記多角形の面積総和(ばらつき度合い)がこの第2閾値を超えない場合、低周波数ばらつき判定部10Ebは、ステップ7Bに移行して燃料電池スタックFCは「最適状態(上記したドライでもフラッディングでもない状態)」と判定することができる。
なお本実施形態では上記した多角形の面積総和に基づいて低周波側のばらつき度合いを算出しているが、本開示はこの形態には限られない。すなわち
図6に示すグラフの測定点の推移からばらつき度合いを判定可能な公知の種々の手法を適用することで、上記低周波側のばらつき度合いを算出してもよい。
【0056】
なお、本実施形態の制御装置100によって燃料電池スタックFCの含水状態が「ドライ」又は「フラッディング」と判定された後は、公知の種々の手法によって燃料電池スタックFCの含水状態を最適化する処理を行ってもよい。
以上説明した本実施形態の含水状態判定装置10を含む制御装置100は、測定に用いられる交流信号のうち低周波数側においてばらつきが生じた場合でも、このばらつきを含水状態の判定に活用することで、演算負荷を抑制しつつ燃料電池の含水状態を精度良く測定できる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば低周波数ばらつき判定部10Ebは、「低周波側のばらつき度合い」を、
図6に示される上記位相差と周波数のグラフに基づいて算出した。しかしながら本実施形態は上記形態に限定されず、低周波数ばらつき判定部10Ebは、
図7及び
図8に例示するように、X軸と実軸としつつY軸を虚軸としたコールコールプロットにおける実軸に沿った複数の測定点で構成された推定値からの差から、上記したばらつき度合いを判定してもよい。なお各図では、(a)低周波側のばらつきが無い場合と(b)低周波側のばらつきが有る場合とを示し、さらに
図8では(c)として
図7の四角枠内をそれぞれ抽出したグラフを重ねて示している。
【0059】
このとき低周波数ばらつき判定部10Ebは、上記した実軸に対して周波数密度が高い第1の範囲と低い第2の範囲に測定領域を分割してそれぞれ解析を実行してもよい。すなわち低周波数ばらつき判定部10Ebは、上記第2の範囲については上記したばらつき度合いに対する寄与度が低くなるため、処理の負荷を抑制した測定および解析を実行してもよい。一方で低周波数ばらつき判定部10Ebは、上記第1の範囲については上記したばらつき度合いに対する寄与度が大きいため、第2の範囲に比して多数の測定点で測定および解析を実行してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 含水状態判定装置
10A 電流計測部
10B 電圧計測部
10C インピーダンス計測部
10E 含水状態判定部
10F 提示制御部
20 車両駆動制御装置
100 制御装置
FC 燃料電池スタック
FCV 燃料電池車