(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072028
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】データ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラム、およびデータ処理システム
(51)【国際特許分類】
A61C 19/04 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
A61C19/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182608
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】西村 巳貴則
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052LL07
4C052NN04
4C052NN05
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】口腔内の軟組織を時系列で比較することができる技術を提供する。
【解決手段】データ処理装置1は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データが入力される入力インターフェース14と、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較し、比較結果に関する比較情報を出力する演算装置11とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理装置であって、
同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された前記物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データが入力される入力部と、
前記物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、前記第1三次元データと前記第2三次元データとで前記少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較し、比較結果に関する比較情報を出力する演算部とを備える、データ処理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記少なくとも1つの歯牙における前記歯冠部の全体または所定範囲内の形状を基準にして、前記少なくとも1つの歯牙の前記軟組織を比較する、請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記演算部は、ユーザが指定した歯牙、または、所定の順番で選択した歯牙に基づき、前記少なくとも1つの歯牙を抽出する、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記演算部は、歯列弓の歯列方向と略直交する方向に歯列を分割するように前記少なくとも1つの歯牙を抽出する、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記第1三次元データおよび前記第2三次元データに基づき前記少なくとも1つの歯牙の咬合面を含む二次元画像を生成し、前記二次元画像を用いて前記歯冠部の形状を基準にして、前記軟組織を比較する、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記比較結果は、前記軟組織の形状または色の比較結果を含む、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
前記比較情報は、前記比較結果に対応する画像データ、前記比較結果に対応する数値、前記比較結果に関するコメント、および前記比較結果に基づく前記軟組織の変化予測に関する情報のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項8】
前記軟組織は、少なくとも歯肉を含む、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項9】
前記第1三次元データおよび前記第2三次元データは、前記物体の表面を示す点群の各々の位置情報を含むIOS(Intra Oral Scanner)データ、および、前記物体の光干渉断層情報を含むOCT(Optical Coherence Tomography)データのうちの少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項10】
前記入力部は、互いに異なるタイミングで前記物体に励起光が照射されたときに前記物体が発する蛍光色の情報を含む第1蛍光色データおよび第2蛍光色データがさらに入力され、
前記演算部は、前記第1蛍光色データと前記第2蛍光色データとを比較し、比較結果を前記比較情報として出力する、請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。
【請求項11】
口腔内の物体の三次元データをコンピュータによって処理するデータ処理方法であって、
前記データ処理方法は、前記コンピュータが実行する処理として、
同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された前記物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データを取得するステップと、
前記物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、前記第1三次元データと前記第2三次元データとで前記少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較するステップと、
比較結果に関する比較情報を出力するステップとを含む、データ処理方法。
【請求項12】
口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理プログラムであって、
コンピュータに、
同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された前記物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データを取得するステップと、
前記物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、前記第1三次元データと前記第2三次元データとで前記少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較するステップと、
比較結果に関する比較情報を出力するステップとを実行させる、データ処理プログラム。
【請求項13】
口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理システムであって、
前記物体の三次元データを取得する三次元スキャナと、
前記三次元スキャナによって取得される三次元データを処理するデータ処理装置とを備え、
前記データ処理装置は、
同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された前記物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データが入力される入力部と、
前記物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、前記第1三次元データと前記第2三次元データとで前記少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較し、比較結果に関する比較情報を出力する演算部とを備える、データ処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理装置、データ処理方法、データ処理プログラム、およびデータ処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯を健康な状態に保つことは、健康寿命を延ばすことに役立つことが知られている。そこで、全ての国民に毎年の歯科検診を義務づける、いわゆる国民皆歯科健診の導入が検討されている。歯科医師などの術者は、歯科検診において、歯の健康状態に加えて歯肉の健康状態も診る。術者は、歯肉の状態を診ることによって、歯肉炎、虫歯、または歯周病などの疾患を発見して治療することができ、また、これらの疾患の発症を予防することができる。
【0003】
特許文献1には、診断対象である対象者の口腔内を撮影することによって得られた撮像画像を用いて、対象者の歯肉炎の状態を判定することができる歯肉炎検査システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたシステムによれば、口腔内の撮像画像によって示された歯肉の色と、複数人の歯肉の色から作成された歯肉の色票とを比較することによって、歯肉炎の状態を判定することができる。しかしながら、歯肉などの軟組織の色は個人差があるため、軟組織の色と予め定められた色票の比較によっては、対象者の軟組織が健康な状態であるか否かについて正確に知ることができず、同一対象者における過去の軟組織の色と現在の軟組織の色とを比較しなければ、対象者の軟組織が健康な状態であるか否かについて正確に知ることができない。また、国民皆歯科健診の導入によって歯科検診を毎年実施することになれば、口腔内の軟組織の毎年の状態変化を知ることも重要である。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、口腔内の軟組織を時系列で比較することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例に従えば、口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理装置が提供される。データ処理装置は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データが入力される入力部と、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較し、比較結果に関する比較情報を出力する演算部とを備える。
【0008】
本開示の一例に従えば、口腔内の物体の三次元データをコンピュータによって処理するデータ処理方法が提供される。データ処理方法は、コンピュータが実行する処理として、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データを取得するステップと、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較するステップと、比較結果に関する比較情報を出力するステップとを含む。
【0009】
本開示の一例に従えば、口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理プログラムが提供される。データ処理プログラムは、コンピュータに、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データを取得するステップと、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較するステップと、比較結果に関する比較情報を出力するステップとを実行させる。
【0010】
本開示の一例に従えば、口腔内の物体の三次元データを処理するデータ処理システムが提供される。データ処理システムは、物体の三次元データを取得する三次元スキャナと、三次元スキャナによって取得される三次元データを処理するデータ処理装置とを備える。データ処理装置は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データが入力される入力部と、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の軟組織を比較し、比較結果に関する比較情報を出力する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ユーザは、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得した口腔内の物体を示す第1三次元データおよび第2三次元データを用いて、口腔内の軟組織を時系列で比較することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係るデータ処理システムおよびデータ処理装置の適用例を示す図である。
【
図2】三次元スキャナによる口腔内のスキャン方法を説明するための図である。
【
図3】口腔内の歯牙および軟組織の形状を示す三次元データの生成を説明するための図である。
【
図4】実施の形態1に係るデータ処理システムおよびデータ処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態1に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
【
図6】実施の形態1に係るデータ処理装置が実行する軟組織の比較の一例を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1に係るデータ処理装置が実行する軟組織の比較結果の表示の一例を説明するための図である。
【
図8】実施の形態1に係るデータ処理装置が実行する軟組織の比較処理のフローチャートである。
【
図9】実施の形態2に係るデータ処理装置が実行する軟組織の比較の一例を説明するための図である。
【
図10】実施の形態3に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
【
図11】実施の形態4に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
【
図12】実施の形態5に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
【
図13】実施の形態5に係るデータ処理装置が実行する軟組織の比較処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[適用例]
図1~
図3を参照しながら、実施の形態1に係るデータ処理システム10およびデータ処理装置1の適用例を説明する。
図1は、実施の形態1に係るデータ処理システム10およびデータ処理装置1の適用例を示す図である。
【0015】
図1に示すように、実施の形態1に係るデータ処理システム10は、データ処理装置1と、三次元スキャナ2とを備える。ユーザは、三次元スキャナ2を用いて対象者の口腔内をスキャンすることによって、口腔内の複数の物体の形状を示す三次元データを取得することができる。データ処理装置1は、三次元スキャナ2と通信可能に接続されており、三次元スキャナ2によって取得された三次元データを処理する。
【0016】
「ユーザ」は、歯科医師などの術者、歯科助手、歯科大学の先生または生徒、歯科技工士、メーカの技術者、製造工場の作業者など、三次元スキャナ2を用いて歯牙および軟組織などの物体の三次元データを取得する者であればいずれであってもよい。「対象者」は、歯科医院の患者、歯科大学における被験者など、三次元スキャナ2のスキャン対象となり得る者であればいずれであってもよい。
【0017】
スキャン対象である「物体」は、口腔内にある上顎および下顎の歯列など、三次元スキャナ2のスキャン対象となり得るものであればいずれであってもよい。「歯列」は、歯牙および当該歯牙の周辺にある軟組織を含む。「歯牙」は、自然の歯牙および人工の歯牙(補綴物、インプラントなど)を含む。「軟組織」は、少なくとも歯肉を含む。なお、「軟組織」は、頬粘膜を含んでいてもよい。頬粘膜は、口内炎または悪性腫瘍などによって生じる粘膜上の腫れ物を含んでいてもよい。
【0018】
三次元スキャナ2は、共焦点法または三角測量法などによって対象者の口腔内を光学的に撮像可能ないわゆる口腔内スキャナ(IOS:Intra Oral Scanner)である。具体的には、三次元スキャナ2は、口腔内の物体をスキャンすることによって、三次元データとして、スキャン対象(物体)の表面形状を示す点群(複数の点)の各々の位置情報(縦方向,横方向,高さ方向の各軸の座標)を、光学センサなどを用いて取得する。すなわち、三次元データは、ある座標空間上に置かれた物体の表面を構成する点群の各々の位置情報を含む位置データ(IOSデータ)である。また、三次元スキャナ2は、口腔内の物体をスキャンすることによって、三次元データとして、スキャン対象(物体)の形状を示す点群(複数の点)の各々の色を示す色情報を取得する。すなわち、三次元データは、物体の表面を構成する点群の各々の位置情報に対応付けるように、当該点群の各々の色情報を含む。なお、以下では、スキャン対象(物体)の表面を構成する点群の各々の位置情報を、単に「三次元データ」とも称する。
【0019】
データ処理装置1は、三次元スキャナ2によって取得された物体の三次元データに基づき、任意の視点から見た二次元の物体を示す二次元画像を生成する。このような二次元画像は、三次元データに対して処理または編集を施すことによって生成された画像であり、「レンダリング画像」とも称する。データ処理装置1は、生成したレンダリング画像をディスプレイ3に表示させることで、任意の視点から見た口腔内の物体の表面をユーザに見せることができる。
【0020】
上述したようなデータ処理システム10によれば、たとえば、ユーザは、三次元スキャナ2を用いて口腔内の上顎および下顎の歯列をスキャンすることで、任意の視点から見た二次元の上顎および下顎の歯列を示すレンダリング画像をディスプレイ3に表示させることができる。
【0021】
図2を参照しながら、三次元スキャナ2による口腔内のスキャン方法について説明する。
図2は、三次元スキャナ2による口腔内のスキャン方法を説明するための図である。三次元スキャナ2のスキャン範囲は、口腔内に挿入可能なプローブ22の大きさによって制限される。このため、ユーザは、三次元スキャナ2のプローブ22を口腔内に挿入し、プローブ22を歯列に沿って口腔内を移動させるように走査して複数回に分けて口腔内をスキャンする。
【0022】
たとえば、
図2に示すように、ユーザは、口腔内でプローブ22を動かすことによって、スキャン範囲をR1,R2,R3,・・・Rnといったように順番に切り替えて、口腔内の物体の三次元データを取得する。より具体的には、ユーザは、歯牙の唇側面から咬合面を経由して歯牙の舌側面へとプローブ22を動かすことによって一部の歯牙および当該歯牙に対応する軟組織(たとえば、一部の歯牙の周辺の歯肉など)をスキャンし、このようなスキャンを一方の奥歯側から前歯を経由して他方の奥歯側へとプローブ22を動かすことによって複数の歯牙および当該歯牙に対応する軟組織を順番にスキャンする。なお、口腔内におけるプローブ22の動かし方は、ユーザごとまたは歯科診療ごとに異なるため、三次元データが取得される口腔内の物体および取得順は変化し得る。
【0023】
図3を参照しながら、三次元データの生成について説明する。
図3は、口腔内の歯牙および軟組織の形状を示す三次元データの生成を説明するための図である。
図3(A)、
図3(B)、
図3(C)、および
図3(D)に示すように、データ処理装置1は、三次元スキャナ2によって取得された三次元データを繋ぎ合わせることによって、複数の歯牙および歯肉を含む歯列全体の三次元データを生成する。
【0024】
上述のように生成される三次元データは、歯列全体に対応する軟組織の形状を示すことができる。このため、データ処理装置1は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された口腔内の物体を示す第1三次元データと第2三次元データとを比較することができれば、軟組織の状態の変化を検出することができる。たとえば、データ処理装置1は、1年前に取得された対象者の口腔内の物体を示す第1三次元データと、今年に取得された同じ対象者の口腔内の物体を示す第2三次元データとを比較することで、1年間における軟組織の状態の変化を検出することができる。「軟組織の状態」は、軟組織の形状および軟組織の色の少なくとも1つを含む。
【0025】
ここで、ユーザは、
図2に示すように、歯列の一方側の端から他方側の端に向かって、複数段階に分けて口腔内の物体をスキャンした後、
図3(A)~
図3(D)に示すように、口腔内の各部分の三次元データを繋ぎ合わせるが、当該繋ぎ合わせによって生成された三次元データで示される歯列全体の形状は、実際の歯列全体の形状と異なる場合がある。その理由は、口腔内の各部分の三次元データを繋ぎ合わせる際に、実物との間で誤差が生じるためである。また、繋ぎ合わせる回数が多ければ多いほど、このような誤差が大きくなる。
【0026】
より具体的には、
図3(A)~
図3(D)に示すようにして繋ぎ合わされた三次元データにおいて、最初の方で繋ぎ合わされた三次元データで示される第1歯牙の形状と実際の第1歯牙の形状との間の差は小さい一方で、最後の方で繋ぎ合わされた三次元データで示される第2歯牙の形状と実際の第2歯牙の形状との間の差は大きくなり易い。
【0027】
たとえば、
図3(D)および
図3(E)に示すように、最初に繋ぎ合わされた三次元データで示される第1歯牙T1の高さは、実際の第1歯牙T1の高さと概ね一致する傾向にあるのに対して、最後に繋ぎ合わされた三次元データで示される歯牙T2の高さは、実際の第2歯牙T2の高さと大きく異なる傾向にある。
図3(E)の例では、三次元データで示される歯牙T2(実線で示される歯牙)の高さは、実際の第2歯牙T2(破線で示される歯牙)の高さよりも、数ミリの誤差Lの分だけ低く(あるいは高く)なる可能性がある。歯列方向に沿ってスキャンした場合、当該歯列方向において最初にスキャンされた歯牙から遠い位置にある歯牙ほど、このような誤差Lが大きくなり得る。さらに、このような誤差Lは、口腔内の各部分の三次元データを繋ぎ合わせる際に生じるため、毎回同じような値になるとも限らない。すなわち、1年前に取得された対象者の口腔内の物体を示す第1三次元データと、今年に取得された同じ対象者の口腔内の物体を示す第2三次元データとでは、上述したような誤差Lが同じになるとは限らない。
【0028】
したがって、1年間における歯肉などの軟組織の状態変化を検出するために、1年前に取得された対象者の口腔内の物体を示す第1三次元データと、今年に取得された同じ対象者の口腔内の物体を示す第2三次元データとを比較する際に、両者を歯列全体で単純に比較した場合、誤差Lが一定でないことに起因して、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができないおそれがある。
【0029】
そこで、実施の形態1に係るデータ処理装置1は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された口腔内の物体を示す第1三次元データと第2三次元データとを、口腔内の物体全体で比較するのではなく、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで当該少なくとも1つの歯牙の周辺の軟組織(歯牙と接する軟組織の所定範囲)を比較するように構成されている。以下、データ処理装置1が実行する軟組織の比較処理について具体的に説明する。
【0030】
[データ処理装置のハードウェア構成]
図4を参照しながら、実施の形態1に係るデータ処理システム10およびデータ処理装置1のハードウェア構成を説明する。
図4は、実施の形態に係るデータ処理システム10およびデータ処理装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。データ処理装置1は、たとえば、汎用コンピュータで実現されてもよいし、データ処理システム10専用のコンピュータで実現されてもよい。
【0031】
図4に示すように、データ処理装置1は、主なハードウェア要素として、演算装置11と、メモリ12と、記憶装置13と、スキャナインターフェース14と、ディスプレイインターフェース15と、周辺機器インターフェース16と、メディア読取装置17と、通信装置18とを備える。
【0032】
演算装置11は、「演算部」の機能を有し、プロセッサなどのコンピュータで構成される。プロセッサは、たとえば、マイクロコントローラ(microcontroller)、CPU(central processing unit)、またはMPU(Micro-processing unit)などで構成される。なお、プロセッサは、プログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有するが、これらの機能の一部または全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェア回路を用いて実装してもよい。「プロセッサ」は、CPUまたはMPUのようにストアードプログラム方式で処理を実行する狭義のプロセッサに限らず、ASICまたはFPGAなどのハードワイヤード回路を含み得る。このため、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能なコードおよび/またはハードワイヤード回路によって予め処理が定義されている、処理回路(processing circuitry)と読み替えることもできる。なお、プロセッサは、1つのチップで構成されてもよいし、複数のチップで構成されてもよい。さらに、プロセッサおよび関連する処理回路は、ローカルエリアネットワークまたは無線ネットワークなどを介して、有線または無線で相互接続された複数のコンピュータで構成されてもよい。プロセッサおよび関連する処理回路は、入力データに基づきリモートで演算し、その演算結果を離れた位置にある他のデバイスへと出力するような、クラウドコンピュータで構成されてもよい。
【0033】
メモリ12は、演算装置11のプロセッサが各種のプログラムを実行するにあたって、プログラムコードまたはワークメモリなどを格納するための記憶領域を提供する。メモリ12は、1または複数の非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)であってもよい。メモリ12の一例としては、DRAM(dynamic random access memory)およびSRAM(static random access memory)などの揮発性メモリ、または、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリが挙げられる。
【0034】
記憶装置13は、演算装置11のプロセッサが読み取って実行可能な各種のプログラム、および各種のデータを格納するための記憶領域を提供する。記憶装置13は、1または複数のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(computer readable storage medium)であってもよい。記憶装置13の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などの記憶装置が挙げられる。
【0035】
記憶装置13は、データ処理プログラム100を記憶する。データ処理プログラム100は、三次元スキャナ2によって取得された口腔内の物体の三次元データに基づき、軟組織を比較するための比較処理の内容が記述されたプログラムであり、演算装置11が読み取って実行可能である。データ処理プログラム100は、ユーザによってキーボード4およびマウス5を用いて入力し、実行されてもよいし、メディア読取装置17によって記録媒体20から読み取られてもよいし、通信装置18によってサーバなどの他の装置からネットワークを介して取得されてもよい。
【0036】
スキャナインターフェース14は、「入力部」の機能を有し、三次元スキャナ2を接続するためのインターフェースである。スキャナインターフェース14は、入力回路(input circuitry)で構成されてもよい。スキャナインターフェース14は、データ処理装置1と三次元スキャナ2との間のデータの入出力を実現する。データ処理装置1と三次元スキャナ2とは、ケーブルを用いた有線、または無線(WiFi,BlueTooth(登録商標)など)を介して接続される。
【0037】
ディスプレイインターフェース15は、ディスプレイ3を接続するためのインターフェースであり、データ処理装置1とディスプレイ3との間のデータの入出力を実現する。
【0038】
周辺機器インターフェース16は、キーボード4およびマウス5などの周辺機器を接続するためのインターフェースであり、データ処理装置1と周辺機器との間のデータの入出力を実現する。
【0039】
メディア読取装置17は、記録媒体20に格納されているデータを読み出したり、記録媒体20にデータを書き出したりする。記録媒体20は、非一過性かつ有形のコンピュータ可読記憶媒体(non-transitory and tangible computer readable storage medium)であり、たとえば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、またはUSB(Universal Serial Bus)メモリなど、各種のデータを記録することができるものであればどのような形態であってもよい。実施の形態においては、記録媒体20は、データ処理プログラム100を記憶可能であり、演算装置11は記録媒体20から読み出したデータ処理プログラム100を実行可能である。
【0040】
通信装置18は、有線通信または無線通信を介して、外部装置との間でデータを送受信する。たとえば、通信装置18は、ケーブルを用いた有線、または無線(WiFi,BlueTooth(登録商標)など)を介して、院内サーバまたは院外サーバ(たとえば、クラウドサーバ)と通信可能に接続されることで、軟組織の比較結果に対応する比較情報をサーバ装置に送信することができる。
【0041】
[比較処理の対象である三次元データの抽出]
図5を参照しながら、データ処理装置1が実行する比較処理の対象である三次元データの抽出について説明する。
図5は、実施の形態1に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
【0042】
図5に示すように、データ処理装置1は、比較処理の比較対象として、生成した歯列全体を示す三次元データから、少なくとも1つの歯牙および当該少なくとも1つの歯牙に対応する軟組織(たとえば、少なくとも1つの歯牙の周辺の歯肉など)を示す三次元データを抽出する。すなわち、データ処理装置1は、歯列全体を示す三次元データを分割することによって、少なくとも1つの歯牙および当該少なくとも1つの歯牙に対応する軟組織を示す三次元データを抽出する。
【0043】
具体的には、
図5(A)に示すように、データ処理装置1は、口腔内の物体のうち、三次元データの抽出対象となる部分を指定ポイントPで指定し、当該指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出する。そして、
図5(B)に示すように、データ処理装置1は、指定ポイントPの位置を歯列に沿って移動させることによって、三次元データの抽出対象となる部分を切り替えながら、各部分の三次元データを抽出する。
【0044】
たとえば、
図5の例では、データ処理装置1は、生成した歯列全体に含まれる複数の歯牙のうち、1つの歯牙を指定ポイントPで指定する。より具体的には、データ処理装置1は、1つの歯牙の中心(たとえば、歯冠部の中心)を指定ポイントPで指定する。データ処理装置1は、指定した指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出する。そして、データ処理装置1は、指定ポイントPの位置を歯列に沿って移動させて隣接する次の歯牙を指定ポイントPで指定し、当該指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出する。このとき、データ処理装置1は、歯列弓の歯列方向と略直交する方向に歯列を分割するように、指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出する。このようにして、データ処理装置1は、三次元データの抽出対象となる部分を切り替えながら、各部分の三次元データを抽出する。このようにして抽出された三次元データは、各歯牙および当該各歯牙に対応する軟組織(たとえば、少なくとも1つの歯牙の周辺の歯肉など)を示す三次元データを含む。
【0045】
なお、データ処理装置1は、ユーザの指定に従って三次元データの抽出対象となる部分を決定してもよい。たとえば、ユーザは、軟組織の状態変化を検出したい部分を指定ポイントPで設定してもよい。データ処理装置1は、ユーザによって設定された指定ポイントPに基づき、当該指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出してもよい。
【0046】
データ処理装置1は、ユーザによって予め設定された所定の順番に従って三次元データの抽出対象となる部分を決定してもよい。たとえば、ユーザは、三次元データを抽出したい歯牙を所定の順番で指定ポイントPで指定するように設定してもよい。データ処理装置1は、ユーザによって設定された所定の順番で指定ポイントPを設定して、当該指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分の三次元データを所定の順番で抽出してもよい。
【0047】
データ処理装置1は、抽出する三次元データのデータ量に従って三次元データの抽出対象となる部分を決定してもよい。たとえば、データ処理装置1は、第1部分(たとえば、第1の歯牙)の三次元データを抽出し、抽出した三次元データのデータ量が所定量を超えた場合に、次の第2部分(たとえば、第1の歯牙に隣接する第2の歯牙)の三次元データを抽出してもよい。このように、データ処理装置1は、所定のデータ量ごとに三次元データを抽出してもよい。
【0048】
データ処理装置1は、物体の色に基づき三次元データの抽出対象となる部分を決定してもよい。たとえば、データ処理装置1は、同一または略同一の色である物体ごとに指定ポイントPを設定して、当該指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出してもよい。なお、データ処理装置1は、三次元データに含まれるスキャン対象となる物体の色情報に基づき、各三次元データに対応する部分の色を判断すればよい。
【0049】
データ処理装置1は、歯牙と歯肉および隣接歯との境界部分に対して、エッジ抽出処理を実行することで、歯牙ごとに三次元データを分割してもよい。
【0050】
データ処理装置1は、AI(artificial intelligence)を用いて、生成した歯列全体を、歯牙ごとに分割してもよい。そして、データ処理装置1は、分割した歯牙ごとに指定ポイントPを設定して、当該指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出してもよい。AIは、歯列に対応する三次元データに基づき、当該歯列に含まれる複数の歯牙の各々を識別するように機械学習で訓練された推定モデルによって構成されている。推定モデルは、たとえば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolution Neural Network)、敵対的生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Network)、リカレントニューラルネットワーク(再帰型ニューラルネットワーク)(RNN:Recurrent Neural Network)、またはLSTMネットワーク(Long Short Term Memory Network)など、ディープラーニングによる認識処理で用いられる公知のニューラルネットワーク、および当該ニューラルネットワークに関するパラメータを含む。推定モデルの訓練については、特許第6650996号公報を参照されたし。
【0051】
データ処理装置1は、ユーザの指定に従って範囲Qを決定してもよい。たとえば、ユーザは、軟組織の状態変化を検出したい範囲を指定するための範囲データをデータ処理装置1に入力してもよい。データ処理装置1は、ユーザによって入力された範囲データに基づき範囲Qを設定して、指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出してもよい。たとえば、範囲Qは、指定ポイントPを中心とした360度の範囲であってもよい。
【0052】
[軟組織の比較の一例]
図6を参照しながら、データ処理装置1が実行する比較処理における軟組織の比較について説明する。
図6は、実施の形態1に係るデータ処理装置1が実行する軟組織の比較の一例を説明するための図である。
【0053】
図6に示すように、データ処理装置1は、同一人物に対して互いに異なるタイミングで取得された口腔内の物体を示す第1三次元データと第2三次元データとを用いて、物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで当該少なくとも1つの歯牙の周辺の軟組織(歯牙と接する軟組織の所定範囲)を比較する。
【0054】
具体的には、データ処理装置1は、
図5で示す方法によって、第1タイミングで取得した三次元データから、1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出する。
図6(A)に示すように、抽出された第1タイミングの三次元データを、第1三次元データとも称する。さらに、データ処理装置1は、
図5で示す方法によって、第1タイミングの後の第2タイミング(たとえば、第1タイミングから1年後のタイミング)で取得した三次元データから、第1タイミングと同じ1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出する。
図6(B)に示すように、抽出された第2タイミングの三次元データを、第2三次元データとも称する。データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データの各々に基づき、1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織を示すレンダリング画像を生成することができる。なお、データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データに基づき、軟組織の形状に加えて、軟組織の色もレンダリング画像で示すことができる。
【0055】
データ処理装置1は、第1三次元データによって示される歯牙の歯冠部において、所定の位置を中心位置C1として設定し、当該中心位置C1から所定の範囲F1で囲まれた歯冠部の形状を特定する。さらに、データ処理装置1は、第2三次元データによって示される歯牙の歯冠部において、所定の位置を中心位置C2として設定し、当該中心位置C2から所定の範囲F2で囲まれた歯冠部の形状を特定する。中心位置C1,C2は、予め定められており、たとえば、歯牙の歯冠部の中心位置である。また、範囲F1,F2は、予め定められており、たとえば、歯冠部を平面視した場合に示される咬合面の60%の領域である。なお、範囲F1,F2は、歯冠部を平面視した場合に示される咬合面の全体の領域であってもよい。
【0056】
図6(C)に示すように、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される1つの歯牙および軟組織と、第2三次元データによって示される当該1つの歯牙および軟組織とを重ね合わせて、両者を比較する。このとき、データ処理装置1は、第1三次元データにおいて特定した範囲F1で囲まれた歯冠部と、第2三次元データにおいて特定した範囲F2で囲まれた歯冠部とを一致させながら、第1三次元データによって示される1つの歯牙および軟組織と、第2三次元データによって示される当該1つの歯牙および軟組織とを重ね合わせる。歯冠部は、硬組織であるため、歯肉などの軟組織と異なり、時系列において形状が変化し難い。このため、データ処理装置1は、硬組織である歯冠部を基準として、第1三次元データによって示される1つの歯牙と、第2三次元データによって示される当該1つの歯牙とでパターンマッチングを行う。より具体的には、データ処理装置1は、パターンマッチングを行う対象を、硬組織である歯冠部、すなわち、第1三次元データにおいて特定した範囲F1で囲まれた歯冠部と、第2三次元データにおいて特定した範囲F2で囲まれた歯冠部とに限定する。このようなパターンマッチングによって範囲F1で囲まれた歯冠部と範囲F2で囲まれた歯冠部とが一致した場合、データ処理装置1は、軟組織の形状が一致しているか否かに関わらず、第1三次元データによって示される軟組織の形状と第2三次元データによって示される軟組織の形状とを比較する。
【0057】
データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織を構成する点群の各々と、第2三次元データによって示される軟組織を構成する点群の各々とを比較することによって、各点について差分を抽出する。具体的には、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織を構成する各点について、当該各点を中心として所定の範囲Rを設定する。そして、データ処理装置1は、第2三次元データの中から、第1三次元データの1つの点の範囲Rに含まれる点のうち、第1三次元データの1つの点と最も近い1つの点を特定し、特定した第2三次元データにおける1つの点と第1三次元データにおける1つの点との間の差分値(2点間の距離)を算出する。データ処理装置1は、算出した形状の差分値を、第2三次元データにおいて比較対象となった1つの点の三次元データに対応付けて、メモリ12または記憶装置13に記憶する。データ処理装置1は、このような比較を、第1三次元データおよび第2三次元データの各々によって示される軟組織を構成する各点について行い、各点における形状の差分値を記憶する。なお、データ処理装置1は、三次元データがメッシュデータの場合、各メッシュ頂点の間の差分値(2点間の距離)を算出してもよいし、メッシュ頂点とメッシュ平面の中央との間の差分値(点と平面の距離)を算出してもよいし、各メッシュ平面の中央間の差分値(2平面間の距離)を算出してもよい。
【0058】
また、データ処理装置1は、軟組織の形状に加えて、軟組織の色の変化も検出することができる。たとえば、データ処理装置1は、第2三次元データの中から、第1三次元データの1つの点の範囲Rに含まれる点のうち、第1三次元データの1つの点と最も近い1つの点を特定し、特定した第2三次元データにおける1つの点と第1三次元データにおける1つの点とで、色の差(色相、彩度、または明度の差)を算出する。データ処理装置1は、算出した色の差分値を、第2三次元データにおいて比較対象となった1つの点の三次元データに対応付けて、メモリ12または記憶装置13に記憶する。データ処理装置1は、このような比較を、第1三次元データおよび第2三次元データの各々によって示される軟組織を構成する各点について行い、各点における色の差分値を記憶する。
【0059】
データ処理装置1は、
図6で示すような比較を、歯列に含まれる複数の歯牙の各々に対して行うことで、第1タイミングと第2タイミングとで、歯列全体における軟組織の変化を検出することができる。たとえば、
図6(C)に示すように、データ処理装置1は、第2三次元データによって示される軟組織を構成する各点が、第1三次元データによって示される軟組織を構成する各点よりも、口腔の外側に位置する場合は、第1タイミングから第2タイミングに至るまでの期間において、軟組織が腫れたことを検出することができる。一方、データ処理装置1は、第2三次元データによって示される軟組織を構成する各点が、第1三次元データによって示される軟組織を構成する各点よりも、口腔の内側に位置する場合は、第1タイミングから第2タイミングに至るまでの期間において、軟組織が退縮したことを検出することができる。
【0060】
また、データ処理装置1は、第2三次元データによって示される軟組織を構成する各点が、第1三次元データによって示される軟組織を構成する各点よりも、赤みがかっている場合は、第1タイミングから第2タイミングに至るまでの期間において、軟組織が腫れたことを検出することができる。
【0061】
データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との比較によって算出した差分値に基づき、第2タイミングよりも後の未来の軟組織の変化を予測してもよい。たとえば、データ処理装置1は、算出した差分値に基づき、統計処理を用いて未来の軟組織の形状または色を予測して、予測結果を記憶してもよい。あるいは、データ処理装置1は、算出した差分値に基づき、AI(訓練済みの推定モデル)を用いて未来の軟組織の形状または色を予測して、予測結果を記憶してもよい。
【0062】
このように、データ処理装置1は、1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データによって示される当該歯牙に対応する軟組織と、第2三次元データによって示される当該歯牙に対応する軟組織とを比較することができる。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織とを、1つの歯牙に対応する軟組織に限定して比較することで、歯列全体で単純に比較するよりも、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。さらに、データ処理装置1は、時系列で形状が変化し難い硬組織である歯冠部を基準にして、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織とを比較することで、軟組織のみの変化を純粋に比較することができるため、1つの歯牙および当該歯牙に対応する軟組織の全体を基準にするよりも、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。
【0063】
[比較結果の表示の一例]
図7を参照しながら、データ処理装置1が実行する比較処理における比較結果の表示について説明する。
図7は、実施の形態1に係るデータ処理装置1が実行する軟組織の比較結果の表示の一例を説明するための図である。
【0064】
図7に示すように、データ処理装置1は、比較処理によって算出した第1三次元データと第2三次元データとにおける軟組織の比較結果に関する比較情報を、ディスプレイ3に表示する。たとえば、データ処理装置1は、第1三次元データに基づき、第1タイミングにおける1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織を示すレンダリング画像を生成するとともに、第2三次元データに基づき、第2タイミングにおける1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織を示すレンダリング画像を生成する。データ処理装置1は、生成した2つのレンダリング画像を重ね合わせるようにして、ディスプレイ3に表示する。このとき、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される歯冠部と、第2三次元データによって示される歯冠部とを一致させながら、2つのレンダリング画像を重ね合わせる。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データと、第2三次元データとで、軟組織の形状および色の変化具合を、ディスプレイ3に表示することができる。
【0065】
さらに、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織と、第2三次元データによって示される当該歯牙と当該歯牙に対応する軟組織とを、互いに異なる色で示してもよい。たとえば、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織を青色で示し、第3三次元データによって示される1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織を赤色で示してもよい。
【0066】
データ処理装置1は、ユーザがマウス5を用いてディスプレイ3の画面上でカーソルを動かして指した部分について、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との比較結果に対応する数値をディスプレイ3に表示してもよい。たとえば、
図7の例では、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との間の形状の差分値として、「差分:1.5mm」または「差分:3.0mm」など、軟組織の部分に応じた差分値をディスプレイ3に表示する。
【0067】
データ処理装置1は、差分値が所定値以上である部分を強調して表示してもよい。たとえば、データ処理装置1は、差分値が所定値以上である部分を、色、点滅、記号(たとえば、旗マーク)などを用いて強調して表示してもよい。
【0068】
データ処理装置1は、差分値が所定値以上である部分を、差分値に応じた色などを用いて強調して表示してもよい。たとえば、データ処理装置1は、第1タイミングから第2タイミングに至るまでの期間において、腫れた軟組織の部分と、退縮した軟組織の部分とを、互いに異なる色で示してもよい。さらに、データ処理装置1は、腫れた軟組織の部分を、軟組織の腫れ度合いに応じて異なる色で示してもよい。また、データ処理装置1は、退縮した軟組織の部分を、軟組織の退縮度合いに応じて異なる色で示してもよい。
【0069】
データ処理装置1は、ユーザがマウス5を用いてディスプレイ3の画面上でカーソルを動かして指した部分について、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との形状の比較結果(変化)に関するコメントをディスプレイ3に表示してもよい。たとえば、
図7の例では、データ処理装置1は、「前回よりも腫れています。」というコメントをディスプレイ3に表示している。
【0070】
データ処理装置1は、ユーザがマウス5を用いてディスプレイ3の画面上でカーソルを動かして指した部分について、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との間の色の比較結果(変化)に関するコメントをディスプレイ3に表示してもよい。たとえば、
図7の例では、データ処理装置1は、「前回よりも色が赤みがかっています。」というコメントをディスプレイ3に表示している。
【0071】
データ処理装置1は、統計処理およびAIを用いて、第1三次元データによって示される軟組織と、第2三次元データによって示される軟組織との比較によって算出した差分値に基づき、第2タイミングよりも後の未来の軟組織の形状または色を予測して、予測結果をディスプレイ3に表示してもよい。
【0072】
なお、データ処理装置1は、
図7を用いて説明した上述した比較情報の表示のうち、全てを行ってもよいし、いずれか1つを行ってもよい。データ処理装置1は、上述した比較情報の表示の少なくとも1つを行えばよい。また、データ処理装置1は、ユーザがマウス5を用いなくとも、差分値の大きな部分については
図7の例のようなコメントをディスプレイ3に表示してもよい。
【0073】
このように、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織との形状または色の比較結果を、ユーザに分かり易く伝えることができる。さらに、データ処理装置1は、形状の比較結果に対応する数値のみではなく、比較結果に関するコメント、比較結果に応じた強調表示、比較結果に基づく軟組織の変化予測などをディスプレイ3に表示するため、比較結果をユーザにより分かり易く伝えることができ、たとえば、歯肉の腫れまたは退縮に関して注意喚起を行うとともに、予防を促すことができる。
【0074】
[比較処理のフロー]
図8を参照しながら、データ処理装置1が実行する軟組織の比較処理のフローを説明する。
図8は、実施の形態1に係るデータ処理装置1が実行する軟組織の比較処理のフローチャートである。データ処理装置1(演算装置11)は、データ処理プログラム100を実行することで、
図8に示す比較処理を実行可能である。なお、
図8において、「S」は「STEP」の略称として用いられる。
【0075】
図8に示すように、データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データを取得する(S1)。たとえば、データ処理装置1は、第1タイミングで取得した第1三次元データをメモリ12または記憶装置13に記憶し、第2タイミングで取得した第2三次元データをメモリ12または記憶装置13に記憶しておき、S1においては、記憶済みの第1三次元データおよび第2三次元データをメモリ12または記憶装置13から取得する。
【0076】
データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データの各々によって示される歯列の中から、1つの歯牙を指定する(S2)。たとえば、データ処理装置1は、
図5(A)に示すように、歯列に含まれる複数の歯牙の中から、ユーザの指定に従って、1つの歯牙に対して指定ポイントPを設定する。
【0077】
データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データの各々から、S2で指定した歯牙に対応する部分の三次元データを抽出する(S3)。たとえば、データ処理装置1は、
図5(A)に示すように、1つの歯牙に対して設定した指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた部分の三次元データを抽出する。これにより、データ処理装置1は、ユーザによって指定された1つの歯牙と当該歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出することができる。
【0078】
データ処理装置1は、
図6に示すように、指定した1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして位置合わせを行い、第1三次元データと第2三次元データとで当該歯牙の周辺の軟組織(歯牙と接する軟組織の所定範囲)を比較する(S4)。このとき、データ処理装置1は、歯科治療または欠損などによって、指定した1つの歯牙の歯冠部の形状を特定することができないために、第1三次元データによって示される歯牙の歯冠部と第2三次元データによって示される歯牙の歯冠部とを一致させることができない場合、ディスプレイ3にエラー画面を表示してもよい。あるいは、データ処理装置1は、S2の処理に移行して次に基準とする歯牙を指定してもよい。
【0079】
データ処理装置1は、S4の比較結果をメモリ12または記憶装置13に記憶する(S5)。データ処理装置1は、S4の比較結果に対応する比較情報を出力する(S6)。たとえば、データ処理装置1は、
図7に示すように、比較情報として、比較結果に対応する画像、比較結果に対応する数値、比較結果に関するコメント、および比較結果に基づく軟組織の変化予測に関する情報などを、ディスプレイ3に表示する。なお、データ処理装置1は、比較結果に対応する比較情報を、通信装置18を介して院内サーバまたは院外サーバ(たとえば、クラウドサーバ)に送信してもよい。その後、データ処理装置1は、本処理フローを終了する。
【0080】
このように、データ処理装置1は、指定した歯牙に対応する軟組織に限定して、異なるタイミングで取得した第1三次元データと第2三次元データとで軟組織を比較し、比較結果を出力することができる。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織とを、指定した歯牙に対応する軟組織に限定して比較することで、歯列全体で単純に比較するよりも、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。
【0081】
なお、データ処理装置1は、ユーザによって予め設定された所定の順番に従ってS2で歯牙を指定してS3~S6の処理を実行してもよく、歯列に含まれる全ての歯牙が指定されて当該全ての歯牙について比較情報を出力するまで、S2~S6の処理を繰り返し実行してもよい。データ処理装置1は、
図8に示す比較処理を、全ての歯牙について実行することで、歯列全体の歯牙について、軟組織の時系列における変化を検出することができる。
【0082】
<実施の形態2>
本開示の実施の形態2に係るデータ処理装置1について、
図9を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態2に係るデータ処理装置1においては、実施の形態1に係るデータ処理装置1と異なる部分のみを説明し、実施の形態1に係るデータ処理装置1と同じ部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0083】
図9は、実施の形態2に係るデータ処理装置1が実行する軟組織の比較の一例を説明するための図である。
図9に示すように、データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データに基づき少なくとも1つの歯牙の咬合面を含む二次元画像を生成し、当該二次元画像を用いて歯冠部の形状を基準にして、軟組織を比較してもよい。
【0084】
たとえば、データ処理装置1は、第1三次元データに基づき、当該第1三次元データによって示される1つの歯牙の歯冠部を咬合面方向から見た場合の当該歯冠部の二次元画像を生成する。同様に、データ処理装置1は、第2三次元データに基づき、当該第2三次元データによって示される1つの歯牙の歯冠部を咬合面方向から見た場合の当該歯冠部の二次元画像を生成する。データ処理装置1は、第1三次元データに基づき生成した二次元画像によって示される歯冠部と、第2三次元データに基づき生成した二次元画像によって示される歯冠部とを一致させるようにして、第1三次元データによって示される1つの歯牙および軟組織と、第2三次元データによって示される当該歯牙および軟組織とを重ね合わせる。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される歯冠部と第2三次元データによって示される歯冠部とを基準にして、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織とを純粋に比較することができる。
【0085】
これにより、データ処理装置1は、時系列で変化し難い歯冠部の形状を明確にした上で、当該歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで軟組織を比較することができるため、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。
【0086】
<実施の形態3>
本開示の実施の形態3に係るデータ処理装置1について、
図10を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態3に係るデータ処理装置1においては、実施の形態1に係るデータ処理装置1と異なる部分のみを説明し、実施の形態1に係るデータ処理装置1と同じ部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0087】
図10は、実施の形態3に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
図5に示すように、実施の形態1に係るデータ処理装置1は、三次元データによって示される歯列に含まれる複数の歯牙の中から1つの歯牙を特定し、当該歯牙および当該歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出するように構成されていた。これに対して、
図10に示すように、実施の形態3に係るデータ処理装置1は、三次元データによって示される歯列に含まれる複数の歯牙の中から隣接する2つの歯牙を特定し、当該2つの歯牙および当該2つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出するように構成されている。
【0088】
具体的には、
図10(A)に示すように、データ処理装置1は、歯列に含まれる複数の歯牙のうち、三次元データの抽出対象となる隣接する2つの歯牙の境界部分を指定ポイントPで指定する。そして、
図10(B)に示すように、データ処理装置1は、指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた2つの歯牙および当該2つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出する。そして、
図10(C)に示すように、データ処理装置1は、指定ポイントPの位置を歯列に沿って移動させることによって、三次元データの抽出対象となる部分を切り替えながら、隣接する2つの歯牙ごとに三次元データを抽出する。
【0089】
このように、データ処理装置1は、第1の歯牙と当該第1の歯牙に隣接する第2の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙と第2の歯牙とをセットにして三次元データを抽出し、その後、第2の歯牙に隣接する第3の歯牙と当該第3の歯牙に隣接する第4の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第3の歯牙と第4の歯牙とをセットにして三次元データを抽出するといったように、隣接する2つの歯牙ごとに三次元データを抽出するように構成されている。
【0090】
なお、データ処理装置1は、第1の歯牙と当該第1の歯牙に隣接する第2の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙と第2の歯牙とをセットにして三次元データを抽出し、その後、第2の歯牙と当該第2の歯牙に隣接する第3の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第2の歯牙と第3の歯牙とをセットにして三次元データを抽出するといったように、隣接する2つの歯牙ごとに三次元データを抽出するとともに、2つの歯牙のうちのいずれかについては重複して三次元データを抽出するように構成されていてもよい。すなわち、データ処理装置1は、指定ポイントPで指定する歯牙を歯列方向に沿って順番に切り替えながら、隣接する2つの歯牙ごとに三次元データを抽出してもよい。
【0091】
データ処理装置1は、上述のように抽出した隣接する2つの歯牙の三次元データを用いて、隣接する2つの歯牙の歯冠部を基準に、当該隣接する2つの歯牙に対応する軟組織の時系列における変化を検出してもよい。なお、データ処理装置1は、隣接する2つの歯牙の全ての歯冠部のセットを基準として、当該隣接する2つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよいし、隣接する2つの歯牙の各々の歯冠部を基準として、当該隣接する2つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよいし、隣接する2つの歯牙のいずれかの歯冠部を基準として、当該隣接する2つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよい。
【0092】
これにより、実施の形態3に係るデータ処理装置1は、隣接する2つの歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出することができるため、1つの歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出するよりも、比較処理に掛かる時間を短縮することができる。また、データ処理装置1は、1つの歯牙ごとの軟組織の変化よりも、2つの歯牙の隣接部付近の軟組織など、より広範囲の変化を検出することができる。
【0093】
<実施の形態4>
本開示の実施の形態4に係るデータ処理装置1について、
図11を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態4に係るデータ処理装置1においては、実施の形態1に係るデータ処理装置1と異なる部分のみを説明し、実施の形態1に係るデータ処理装置1と同じ部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0094】
図11は、実施の形態4に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
図11に示すように、実施の形態4に係るデータ処理装置1は、三次元データによって示される歯列に含まれる複数の歯牙の中から隣接する3つの歯牙を特定し、当該3つの歯牙および当該3つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出するように構成されている。
【0095】
具体的には、
図11(A)に示すように、データ処理装置1は、歯列に含まれる複数の歯牙のうち、三次元データの抽出対象となる隣接する3つの歯牙のうちの真ん中の歯牙を指定ポイントPで指定する。そして、
図11(B)に示すように、データ処理装置1は、指定ポイントPを含む所定の範囲Qで囲まれた3つの歯牙および当該3つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出する。そして、
図11(C)に示すように、データ処理装置1は、指定ポイントPの位置を歯列に沿って移動させることによって、三次元データの抽出対象となる部分を切り替えながら、隣接する3つの歯牙ごとに三次元データを抽出する。
【0096】
このように、データ処理装置1は、第1の歯牙、当該第1の歯牙に隣接する第2の歯牙、および当該第2の歯牙に隣接する第3の歯牙のうち、第2の歯牙に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙と第2の歯牙と第3の歯牙とをセットにして三次元データを抽出し、その後、第3の歯牙に隣接する第4の歯牙、当該第4の歯牙に隣接する第5の歯牙、および当該第5の歯牙に隣接する第6の歯牙のうち、第5の歯牙に指定ポイントPを設定して、第4の歯牙と第5の歯牙と第6の歯牙とをセットにして三次元データを抽出するといったように、隣接する3つの歯牙ごとに三次元データを抽出するように構成されている。
【0097】
なお、データ処理装置1は、第1の歯牙、当該第1の歯牙に隣接する第2の歯牙、および当該第2の歯牙に隣接する第3の歯牙のうち、第2の歯牙に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙と第2の歯牙と第3の歯牙とをセットにして三次元データを抽出し、その後、第2の歯牙、第3の歯牙、および当該第3の歯牙に隣接する第4の歯牙のうち、第3の歯牙に指定ポイントPを設定して、第2の歯牙と第3の歯牙と第4の歯牙とをセットにして三次元データを抽出するといったように、隣接する3つの歯牙ごとに三次元データを抽出するとともに、3つの歯牙のうちのいずれかについては重複して三次元データを抽出するように構成されていてもよい。すなわち、データ処理装置1は、指定ポイントPで指定する歯牙を歯列方向に沿って順番に切り替えながら、隣接する3つの歯牙ごとに三次元データを抽出してもよい。
【0098】
データ処理装置1は、上述のように抽出した隣接する3つの歯牙の三次元データを用いて、隣接する3つの歯牙の歯冠部を基準に、当該隣接する3つの歯牙に対応する軟組織の時系列における変化を検出してもよい。なお、データ処理装置1は、隣接する3つの歯牙の全ての歯冠部のセットを基準として、当該隣接する3つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよいし、隣接する3つの歯牙の各々の歯冠部を基準として、当該隣接する3つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよいし、隣接する3つの歯牙のいずれかの歯冠部を基準として、当該隣接する3つの歯牙に対応する軟組織を第1タイミングと第2タイミングとで比較してもよい。
【0099】
これにより、実施の形態4に係るデータ処理装置1は、隣接する3つの歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出することができるため、1つの歯牙ごとまたは2つの歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出するよりも、比較処理に掛かる時間を短縮することができる。また、データ処理装置1は、1つの歯牙ごとまたは2つの歯牙ごとの軟組織の変化よりも、より広範囲の変化を検出することができる。
【0100】
なお、データ処理装置1は、隣接する4つ以上の歯牙ごとに三次元データを抽出し、隣接する4つの以上の歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出してもよい。また、データ処理装置1は、1つ半の歯牙ごとに三次元データを抽出し、1つ半の歯牙ごとに時系列における軟組織の変化を検出してもよい。たとえば、データ処理装置1は、第1の歯牙と当該第1の歯牙に隣接する第2の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙と当該第1の歯牙に近い方の第2の歯牙の半分とをセットにして三次元データを抽出し、その後、第2の歯牙と当該第2の歯牙に隣接する第3の歯牙との間に指定ポイントPを設定して、第1の歯牙から遠い方の第2の歯牙の残りの半分と第3の歯牙とをセットにして三次元データを抽出するといったように、1つ半の歯牙ごとに三次元データを抽出してもよい。
【0101】
<実施の形態5>
本開示の実施の形態5に係るデータ処理装置1について、
図12および
図13を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態5に係るデータ処理装置1においては、実施の形態1に係るデータ処理装置1と異なる部分のみを説明し、実施の形態1に係るデータ処理装置1と同じ部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0102】
図12は、実施の形態5に係る比較処理の対象である三次元データの抽出を説明するための図である。
図5、
図10、および
図11に示すように、実施の形態1~4に係るデータ処理装置1は、三次元データによって示される歯列を、少なくとも1つの歯牙ごとに分割して切り出すことによって、当該少なくとも1つの歯牙および当該少なくとも1つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出するように構成されていた。これに対して、
図12に示すように、実施の形態5に係るデータ処理装置1は、三次元データによって示される歯列を分割して切り出すことなく、歯列の形状を維持した状態で、少なくとも1つの歯牙および当該少なくとも1つの歯牙に対応する軟組織の三次元データを抽出するように構成されている。
【0103】
具体的には、
図12(A)に示すように、データ処理装置1は、第1タイミングで取得した第1三次元データによって示される複数の歯牙のうち、1つの歯牙を指定ポイントPで指定する。
図12(B)に示すように、データ処理装置1は、第2タイミングで取得した第2三次元データによって示される複数の歯牙のうち、1つの歯牙を指定ポイントPで指定する。第1三次元データと第2三次元データとで、指定された歯牙は同じ歯牙である。
【0104】
データ処理装置1は、第1三次元データにおいて指定した歯牙の歯冠部と、第2三次元データにおいて指定した歯牙の歯冠部とを基準にして、第1三次元データによって示される当該歯牙に対応する軟組織と、第2三次元データによって示される当該歯牙に対応する軟組織とを比較する。具体的には、
図12(C)に示すように、データ処理装置1は、第1三次元データにおいて指定した歯牙の歯冠部と、第2三次元データにおいて指定した歯牙の歯冠部とを一致させながら、第1三次元データによって示される歯列全体と、第2三次元データによって示される歯列全体とを重ね合わせる。そして、データ処理装置1は、指定ポイントPを含む範囲Qで囲まれた部分において、第1三次元データと第2三次元データとで軟組織を比較する。このように、実施の形態5に係るデータ処理装置1は、実施の形態1~4に係るデータ処理装置1のように三次元データによって示される歯列を少なくとも1つの歯牙ごとに分割して切り出すのではなく、第1三次元データによって示される歯列全体と、第2三次元データによって示される歯列全体とを重ね合わせて、指定ポイントPで指定された歯牙および当該歯牙に対応する軟組織について、第1三次元データと第2三次元データとを比較するように構成されている。
【0105】
上述したように、データ処理装置1は、指定した1つの歯牙を基準にして、第1三次元データによって示される当該1つの歯牙に対応する軟組織と、第2三次元データによって示される当該1つの歯牙に対応する軟組織とを比較して比較結果を記録などした後、当該1つの歯牙に隣接する1つの歯牙を指定ポイントPで指定することで、比較処理の基準となる歯牙を切り替える。このように、データ処理装置1は、指定ポイントPで指定する歯牙を歯列に沿って切り替えることによって、歯列に含まれる複数の歯牙の各々を基準として、各歯牙に対応する軟組織について比較処理を実行することができる。なお、データ処理装置1は、比較対象となる歯牙と、当該比較対象となる歯牙の位置から歯列方向において遠い位置の歯牙(たとえば、比較対象となる歯牙から5本以上離れた歯牙)とに対して、同時に比較処理を実行しない。この理由は、歯列方向において距離が離れれば離れるほど、三次元データで示される歯牙の位置と実際の歯牙の位置との間の誤差が発生する可能性があるためである。
【0106】
なお、データ処理装置1は、ユーザの指定に従って、基準となる歯牙を指定ポイントPで指定してもよい。データ処理装置1は、ユーザによって予め設定された所定の順番に従って、基準となる歯牙を指定ポイントPで指定してもよい。データ処理装置1は、所定時間が経過するごとに、指定ポイントPで指定する歯牙を自動的に切り替えてもよい。データ処理装置1は、歯列に沿って順番に基準となる歯牙を指定ポイントPで指定することに限らず、ランダムに基準となる歯牙を指定ポイントPで指定してもよい。
【0107】
このように、データ処理装置1は、指定した歯牙を基準に、第1三次元データによって示される歯列全体と、第2三次元データによって示される歯列全体とを重ね合わせる一方で、比較対象となる軟組織を、当該指定した歯牙に対応する軟組織(指定した歯牙周辺の軟組織)に限定する。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データと第2三次元データとを、歯列全体で単純に比較するよりも、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。
【0108】
図13は、実施の形態5に係るデータ処理装置1が実行する軟組織の比較処理のフローチャートである。データ処理装置1(演算装置11)は、データ処理プログラム100を実行することで、
図13に示す比較処理を実行可能である。なお、
図13において、「S」は「STEP」の略称として用いられる。
【0109】
図13に示すように、データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データを取得する(S11)。たとえば、データ処理装置1は、第1タイミングで取得した第1三次元データをメモリ12または記憶装置13に記憶し、第2タイミングで取得した第2三次元データをメモリ12または記憶装置13に記憶しておき、S11においては、記憶済みの第1三次元データおよび第2三次元データをメモリ12または記憶装置13から取得する。
【0110】
データ処理装置1は、第1三次元データおよび第2三次元データの各々によって示される歯列の中から、1つの歯牙を指定する(S12)。たとえば、データ処理装置1は、
図12(A),(B)に示すように、歯列に含まれる複数の歯牙の中から、ユーザの指定に従って、1つの歯牙に対して指定ポイントPを設定する。
【0111】
データ処理装置1は、
図12(C)に示すように、指定した1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして位置合わせを行い、第1三次元データによって示される歯列全体と、第2三次元データによって示される歯列全体とを重ね合わせ、第1三次元データと第2三次元データとで当該指定した1つの歯牙の周辺の軟組織(歯牙と接する軟組織の所定範囲)を比較する(S13)。このとき、データ処理装置1は、歯科治療または欠損などによって、指定した1つの歯牙の歯冠部の形状を特定することができないために、第1三次元データによって示される歯牙の歯冠部と第2三次元データによって示される歯牙の歯冠部とを一致させることができない場合、ディスプレイ3にエラー画面を表示してもよい。あるいは、データ処理装置1は、S12の処理に移行して次に基準とする歯牙を指定してもよい。
【0112】
データ処理装置1は、S13の比較結果をメモリ12または記憶装置13に記憶する(S14)。データ処理装置1は、S14の比較結果に対応する比較情報を出力する(S15)。データ処理装置1は、歯列に含まれる全ての歯牙を指定したか否かを判定する(S16)。データ処理装置1は、全ての歯牙を指定していない場合(S16でNO)、S12の処理に移行し、次の歯牙を指定する。一方、データ処理装置1は、全ての歯牙を指定した場合(S16でYES)、本処理フローを終了する。
【0113】
このように、データ処理装置1は、指定した歯牙に対応する軟組織に限定して、異なるタイミングで取得した第1三次元データと第2三次元データとで軟組織を比較し、比較結果を出力することができる。これにより、データ処理装置1は、第1三次元データによって示される軟組織と第2三次元データによって示される軟組織とを、指定した歯牙に対応する軟組織に限定して比較することで、歯列全体で単純に比較するよりも、軟組織の状態の変化を精度高く検出することができる。
【0114】
なお、データ処理装置1は、ユーザの指定に従って基準となる歯牙を指定ポイントPで指定する場合、S16の処理において、アイコン表示などを用いて、歯牙を指定するか否かをユーザに問い合わせてもよい。この場合、ユーザが次に基準とする歯牙を指定した場合はS12に処理を移行し、ユーザが次に基準とする歯牙を指定しなかった場合は本処理フローを終了してもよい。
【0115】
<変形例>
本開示は、上記の実施例に限られず、さらに種々の変形、応用が可能である。以下、本開示に適用可能な変形例について説明する。
【0116】
上述した実施の形態に係るデータ処理装置1は、第1タイミングと第2タイミングといったように、互いに異なる2つのタイミングにおける軟組織の変化を検出するように構成されていた。これに対して、変形例に係るデータ処理装置1は、互いに異なる2つのタイミングに限らず、互いに異なる3つ以上のタイミングにおける軟組織の変化を検出するように構成されてもよい。たとえば、データ処理装置1は、第1タイミングで取得した第1三次元データと、当該第1タイミングの後の第2タイミングで取得した第2三次元データとで、軟組織を比較して、比較結果を記憶した後、第2タイミングで取得した第2三次元データと、当該第2タイミングの後の第3タイミングで取得した第3三次元データとで、軟組織を比較して、比較結果を記憶してもよい。このように、データ処理装置1は、互いに異なる3つ以上のタイミングにおいて軟組織を比較し、3つ以上のタイミングにおける軟組織の変化をディスプレイ3などに表示してもよい。これにより、たとえば、ユーザは、時系列における軟組織の変化を、過去の複数年に遡って記録および閲覧することができる。
【0117】
上述した実施の形態に係るデータ処理装置1は、口腔内の物体の表面を示す点群の各々の位置情報を含むIOSデータを用いて、軟組織の変化を検出するように構成されていた。これに対して、変形例に係るデータ処理装置1は、口腔内の物体の光干渉断層情報を含むOCT(Optical Coherence Tomography)データを用いて、軟組織の変化を検出するように構成されてもよい。OCTデータの詳細については、特許第5642114号公報を参照されたし。データ処理装置1は、TD-OCT(タイムドメインOCT)、SD-OCT(スペクトラルドメインOCT)、SS-OCT(スウェプトソースOCT)などのOCT装置から、第1三次元データおよび第2三次元データとして、口腔内の物体の光干渉断層情報を含むOCTデータを取得する。データ処理装置1は、OCTデータによって示される物体に含まれる少なくとも1つの歯牙の歯冠部の形状を基準にして、第1三次元データと第2三次元データとで少なくとも1つの歯牙の周辺の軟組織(歯牙と接する軟組織の所定範囲)を比較してもよい。
【0118】
変形例に係るデータ処理装置1は、物体に励起光が照射されたときに物体が発する蛍光色の情報を含む蛍光色データが入力される入力インターフェースをさらに備えてもよい。歯科分野においては、口腔内の歯牙(歯冠部)または軟組織にLED(Light Emitting Diode)などを用いて励起光を照射した場合に、照射部分が発する蛍光色に基づきう蝕または悪性腫瘍などの疾患を発見可能であることが知られている。そこで、データ処理装置1は、第1タイミングで口腔内の物体に励起光が照射されたときに物体が発する蛍光色の情報を含む第1蛍光色データと、第1タイミングの後の第2タイミングで口腔内の物体に励起光が照射されたときに物体が発する蛍光色の情報を含む第2蛍光色データとを取得し、第1蛍光色データと第2蛍光色データとを比較することで、口腔内の物体における疾患の有無を判定することができる。データ処理装置1は、第1蛍光色データと第2蛍光色データとの比較結果を示す比較情報をディスプレイ3またはサーバ装置などに出力してもよい。
【0119】
データ処理装置1は、クラウド型のサーバ装置であってもよい。すなわち、演算装置11(演算部)は、クラウド型のサーバ装置におけるコンピュータ(プロセッサ、処理回路)としての機能を有していてもよい。たとえば、データ処理装置1は、ユーザまたは対象者が有するスマートフォンなどのユーザ端末と通信可能に構成されてもよい。データ処理装置1は、三次元スキャナ2によって取得された三次元データを取得し、当該三次元データに基づき検出した比較情報を含む出力データを、ユーザ端末に出力してもよい。ユーザ端末は、予めダウンロードしていたアプリケーションを起動することによって、データ処理装置1と通信可能になり、当該データ処理装置1から受信した出力データに基づき、比較情報を取得してディスプレイに表示してもよい。また、データ処理装置1自体が上述したスマートフォンなどのユーザ端末であってもよい。
【0120】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。なお、本実施の形態で例示された構成および変形例で例示された構成は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0121】
1 データ処理装置、2 三次元スキャナ、3 ディスプレイ、4 キーボード、5 マウス、10 データ処理システム、11 演算装置、12 メモリ、13 記憶装置、14 スキャナインターフェース、15 ディスプレイインターフェース、16 周辺機器インターフェース、17 メディア読取装置、18 通信装置、20 記録媒体、22 プローブ、100 データ処理プログラム。