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特開2024-72029検出装置、検出方法、検出プログラム、および検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072029
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】検出装置、検出方法、検出プログラム、および検出システム
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/05 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
A61C19/05
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182611
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】西村 巳貴則
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052JJ10
4C052LL07
4C052NN03
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】早期接触位置を精度高く検出することができる技術を提供する。
【解決手段】検出装置1は、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナ2によって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナ2によって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナ2によって取得される上下歯列の三次元の形状を示す咬合データが入力される入力インターフェース14と、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新することで、早期接触位置を検出する演算装置11とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出する検出装置であって、
前記上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、前記上下歯列が前記開口状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および前記上下歯列が咬合状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記上下歯列の三次元の形状を示す咬合データが入力される入力部と、
前記咬合データを基準にして前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データを合わせることで、前記咬合状態における前記上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、前記合成データに含まれる前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、前記上下歯列が前記咬合状態から前記開口状態へと変位するように更新することで、前記早期接触位置を検出する演算部とを備える、検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記少なくとも1つの歯列データを更新した場合に、前記上顎の歯列と前記下顎の歯列とが最後まで接触している前記上下歯列の部分を、前記早期接触位置として検出する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記咬合状態から推測された顎運動データ、前記上顎および前記下顎について測定された顎運動データ、および所定の平均的な顎運動データのうち、少なくとも1つの顎運動データに基づき、前記少なくとも1つの歯列データを更新する、請求項1または請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、咬合紙を用いた前記上下歯列における噛み合わせのチェック結果に基づき、前記少なくとも1つの顎運動データを補正する、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記少なくとも1つの歯列データを更新する間に、所定期間ごとに、前記上顎の歯列と前記下顎の歯列とにおける接触面積の偏りを検出する、請求項1または請求項2に記載の検出装置。
【請求項6】
上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置をコンピュータによって検出する検出方法であって、
前記検出方法は、前記コンピュータが実行する処理として、
前記上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、前記上下歯列が前記開口状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および前記上下歯列が咬合状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記上下歯列の三次元の形状を示す咬合データを取得するステップと、
前記咬合データを基準にして前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データを合わせることで、前記咬合状態における前記上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、前記合成データに含まれる前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、前記上下歯列が前記咬合状態から前記開口状態へと変位するように更新することで、前記早期接触位置を検出するステップとを含む、検出方法。
【請求項7】
上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出するための検出プログラムであって、
コンピュータに、
前記上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、前記上下歯列が前記開口状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および前記上下歯列が咬合状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記上下歯列の三次元の形状を示す咬合データを取得するステップと、
前記咬合データを基準にして前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データを合わせることで、前記咬合状態における前記上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、前記合成データに含まれる前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、前記上下歯列が前記咬合状態から前記開口状態へと変位するように更新することで、前記早期接触位置を検出するステップとを実行させる、検出プログラム。
【請求項8】
上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出する検出システムであって、
上顎の歯列および下顎の歯列の各々の三次元の形状を示す三次元データを取得する三次元スキャナと、
前記三次元スキャナによって取得される三次元データに基づき、前記早期接触位置を検出する検出装置とを備え、
前記検出装置は、
前記上下歯列が開口状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、前記上下歯列が前記開口状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および前記上下歯列が咬合状態であるときに前記三次元スキャナによって取得される前記上下歯列の三次元の形状を示す咬合データが入力される入力部と、
前記咬合データを基準にして前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データを合わせることで、前記咬合状態における前記上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、前記合成データに含まれる前記上顎歯列データおよび前記下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、前記上下歯列が前記咬合状態から前記開口状態へと変位するように更新することで、前記早期接触位置を検出する演算部とを備える、検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出する検出装置、検出方法、検出プログラム、および検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科の臨床上、上下歯列が咬合するときの早期接触位置を知ることは重要である。早期接触位置とは、上下歯列が咬合するときに上顎の歯列と下顎の歯列とが最初に接触する位置である。上下歯列において早期接触する位置に偏りが存在する場合、早期接触位置で咀嚼する頻度が高くなるため、顎が歪んだり身体のバランスが崩れたりして、健康に悪影響が生じる可能性がある。従来、歯科分野においては、上顎の歯列全体と下顎の歯列全体とをバランスよく同時に接触させるために、早期接触位置を削るなどの治療が行われている。
【0003】
早期接触位置を検出する技術として、特許文献1には、印記材料が塗着されかつ対象者によって咬合されるセンサシートと、咬合時におけるセンサシートの圧力検出点を示すデータを処理するコンピュータとを備える歯科用咬合圧測定装置が開示されている。歯科用咬合圧測定装置は、センサシートを用いて歯牙の接触位置および咬合圧を検出することによって、早期接触位置を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-279094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された歯科用咬合圧測定装置によれば、センサシートを用いて早期接触位置を検出することができる。しかしながら、早期接触位置を検出する際に対象者がセンサシートを咬合しなければならないため、対象者によるセンサシートの咬合度合に応じて、歯牙の接触位置および咬合圧が変動する可能性があり、早期接触位置を精度高く検出することができないおそれがある。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、早期接触位置を精度高く検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例に従えば、上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出する検出装置が提供される。検出装置は、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナによって取得される上下歯列の三次元の形状を示す咬合データが入力される入力部と、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新することで、早期接触位置を検出する演算部とを備える。
【0008】
本開示の一例に従えば、上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置をコンピュータによって検出する検出方法が提供される。検出方法は、コンピュータが実行する処理として、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナによって取得される上下歯列の三次元の形状を示す咬合データを取得するステップと、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新することで、早期接触位置を検出するステップとを含む。
【0009】
本開示の一例に従えば、上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出するための検出プログラムが提供される。検出プログラムは、コンピュータに、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナによって取得される上下歯列の三次元の形状を示す咬合データを取得するステップと、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新することで、早期接触位置を検出するステップとを実行させる。
【0010】
本開示の一例に従えば、上下歯列が咬合するときに早期接触する早期接触位置を検出する検出システムが提供される。検出システムは、上顎の歯列および下顎の歯列の各々の三次元の形状を示す三次元データを取得する三次元スキャナと、三次元スキャナによって取得される三次元データに基づき、早期接触位置を検出する検出装置とを備える。検出装置は、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データ、上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナによって取得される下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データ、および上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナによって取得される上下歯列の三次元の形状を示す咬合データが入力される入力部と、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成し、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新することで、早期接触位置を検出する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ユーザは、三次元スキャナを用いて上下歯列の三次元の形状を測定することによって、早期接触位置を精度高く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る検出システムおよび検出装置の適用例を示す図である。
図2】実施の形態に係る検出システムおよび検出装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る検出装置が実行する早期接触位置の検出処理の概要を示す図である。
図4】合成データについて説明するための図である。
図5】実施の形態に係る検出装置が実行する早期接触位置の検出処理の概要を示す図である。
図6】実施の形態に係る検出装置が実行する検出処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図7】変形例に係る検出装置が用いる偏在率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態>
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[適用例]
図1を参照しながら、実施の形態に係る検出システム10および検出装置1の適用例を説明する。図1は、実施の形態に係る検出システム10および検出装置1の適用例を示す図である。
【0015】
図1に示すように、実施の形態に係る検出システム10は、検出装置1と、三次元スキャナ2とを備える。ユーザは、三次元スキャナ2を用いて対象者の口腔内をスキャンすることによって、口腔内の複数の物体の形状を示す三次元データを取得することができる。検出装置1は、三次元スキャナ2と通信可能に接続されており、三次元スキャナ2によって取得された三次元データを処理する。
【0016】
「ユーザ」は、歯科医師などの術者、歯科助手、歯科大学の先生または生徒、歯科技工士、メーカの技術者、製造工場の作業者など、三次元スキャナ2を用いて歯牙などの物体の三次元データを取得する者であればいずれであってもよい。「対象者」は、歯科医院の患者、歯科大学における被験者など、三次元スキャナ2のスキャン対象となり得る者であればいずれであってもよい。
【0017】
スキャン対象である「物体」は、口腔内にある上下歯列および歯肉など、三次元スキャナ2のスキャン対象となり得るものであればいずれであってもよい。「上下歯列」は、上顎の歯列と下顎の歯列とを含む。開口状態であるときの上下歯列は、上顎の歯列と下顎の歯列とが離れた状態になる。咬合状態であるときの上下歯列は、上顎の歯列と下顎の歯列とが接触した状態になる。
【0018】
三次元スキャナ2は、共焦点法または三角測量法などによって対象者の口腔内を光学的に撮像可能ないわゆる口腔内スキャナ(IOS:Intra Oral Scanner)である。具体的には、三次元スキャナ2は、口腔内の物体をスキャンすることによって、三次元データとして、スキャン対象(物体)の表面形状を示す点群(複数の点)の各々の位置情報(縦方向,横方向,高さ方向の各軸の座標)を、光学センサなどを用いて取得する。すなわち、三次元データは、ある座標空間上に置かれた物体の表面を構成する点群の各々の位置情報を含む位置データ(IOSデータ)である。
【0019】
上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナ2が上顎の歯列をスキャンすることで取得可能な三次元データは、上顎の歯列に含まれる少なくとも1つの歯牙、および当該少なくとも1つの歯牙を支持する歯肉の表面を構成する点群の各々の位置情報を含む。このような開口状態における上顎の歯列の三次元の形状を示す三次元データを、「上顎歯列データ」とも称する。
【0020】
上下歯列が開口状態であるときに三次元スキャナ2が下顎の歯列をスキャンすることで取得可能な三次元データは、下顎の歯列に含まれる少なくとも1つの歯牙、および当該少なくとも1つの歯牙を支持する歯肉の表面を構成する点群の各々の位置情報を含む。このような開口状態における下顎の歯列の三次元の形状を示す三次元データを、「下顎歯列データ」とも称する。
【0021】
上下歯列が咬合状態であるときに三次元スキャナ2が上顎の歯列および下顎の歯列をスキャンすることで取得可能な三次元データは、上顎の歯列に含まれる少なくとも1つの歯牙、上顎の当該少なくとも1つの歯牙を支持する歯肉、下顎の歯列に含まれる少なくとも1つの歯牙、および下顎の当該少なくとも1つの歯牙を支持する歯肉の表面を構成する点群の各々の位置情報を含む。このような咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す三次元データを、「咬合データ」とも称する。
【0022】
検出装置1は、三次元スキャナ2によって取得された物体の三次元データに基づき、任意の視点から見た二次元の物体を示す二次元画像を生成する。このような二次元画像は、三次元データに対して処理または編集を施すことによって生成された画像であり、「レンダリング画像」とも称する。検出装置1は、生成したレンダリング画像をディスプレイ3に表示させることで、任意の視点から見た口腔内の物体の表面をユーザに見せることができる。
【0023】
上述したような検出システム10によれば、たとえば、ユーザは、三次元スキャナ2を用いて口腔内の上下歯列をスキャンすることで、任意の視点から見た二次元の上下歯列を示すレンダリング画像をディスプレイ3に表示させることができる。
【0024】
ここで、従来では、上下歯列が咬合するときの早期接触位置を検出する手法として、咬合紙が用いられている。咬合紙とは、表面に赤色または青色などの塗料が転写されたシート状の紙である。対象者が上顎の歯列と下顎の歯列との間に咬合紙を挟んで噛むと、咬合に応じて咬合面の一部が着色される。このような咬合面における着色態様を確認することで、歯科医師などは早期接触位置を検出することができる。たとえば、咬合面において着色が濃い部分は、着色が薄い部分よりも、上顎の歯牙と下顎の歯牙とが早期接触している可能性が高いと言える。
【0025】
歯科医師などは、上述した咬合紙を用いれば、早期接触位置をある程度検出することができる。しかしながら、早期接触位置を検出する際に対象者が咬合紙を咬合しなければならないため、対象者による咬合紙の咬合度合に応じて、歯牙の接触位置および咬合圧が変動する可能性があり、早期接触位置を精度高く検出することができないおそれがある。
【0026】
そこで、実施の形態に係る検出システム10においては、検出装置1が、三次元スキャナ2によって取得された口腔内の物体の三次元データに基づき、早期接触位置を検出するように構成されている。以下、検出装置1が実行する早期接触位置の検出処理について具体的に説明する。
【0027】
[検出装置のハードウェア構成]
図2を参照しながら、実施の形態に係る検出システム10および検出装置1のハードウェア構成を説明する。図2は、実施の形態に係る検出システム10および検出装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。検出装置1は、たとえば、汎用コンピュータで実現されてもよいし、検出システム10専用のコンピュータで実現されてもよい。
【0028】
図2に示すように、検出装置1は、主なハードウェア要素として、演算装置11と、メモリ12と、記憶装置13と、スキャナインターフェース14と、ディスプレイインターフェース15と、周辺機器インターフェース16と、メディア読取装置17と、通信装置18とを備える。
【0029】
演算装置11は、「演算部」の機能を有し、プロセッサなどのコンピュータで構成される。プロセッサは、たとえば、マイクロコントローラ(microcontroller)、CPU(central processing unit)、またはMPU(Micro-processing unit)などで構成される。なお、プロセッサは、プログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有するが、これらの機能の一部または全部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの専用のハードウェア回路を用いて実装してもよい。「プロセッサ」は、CPUまたはMPUのようにストアードプログラム方式で処理を実行する狭義のプロセッサに限らず、ASICまたはFPGAなどのハードワイヤード回路を含み得る。このため、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能なコードおよび/またはハードワイヤード回路によって予め処理が定義されている、処理回路(processing circuitry)と読み替えることもできる。なお、プロセッサは、1つのチップで構成されてもよいし、複数のチップで構成されてもよい。さらに、プロセッサおよび関連する処理回路は、ローカルエリアネットワークまたは無線ネットワークなどを介して、有線または無線で相互接続された複数のコンピュータで構成されてもよい。プロセッサおよび関連する処理回路は、入力データに基づきリモートで演算し、その演算結果を離れた位置にある他のデバイスへと出力するような、クラウドコンピュータで構成されてもよい。
【0030】
メモリ12は、演算装置11のプロセッサが各種のプログラムを実行するにあたって、プログラムコードまたはワークメモリなどを格納するための記憶領域を提供する。メモリ12は、1または複数の非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)であってもよい。メモリ12の一例としては、DRAM(dynamic random access memory)およびSRAM(static random access memory)などの揮発性メモリ、または、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリが挙げられる。
【0031】
記憶装置13は、演算装置11のプロセッサが読み取って実行可能な各種のプログラム、および各種のデータを格納するための記憶領域を提供する。記憶装置13は、1または複数のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(computer readable storage medium)であってもよい。記憶装置13の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などの記憶装置が挙げられる。
【0032】
記憶装置13は、検出プログラム100を記憶する。検出プログラム100は、三次元スキャナ2によって取得された口腔内の物体の三次元データに基づき、早期接触位置を検出するための検出処理の内容が記述されたプログラムであり、演算装置11が読み取って実行可能である。検出プログラム100は、ユーザによってキーボード4およびマウス5を用いて入力し、実行されてもよいし、メディア読取装置17によって記録媒体20から読み取られてもよいし、通信装置18によってサーバなどの他の装置からネットワークを介して取得されてもよい。
【0033】
スキャナインターフェース14は、「入力部」の機能を有し、三次元スキャナ2を接続するためのインターフェースである。スキャナインターフェース14は、入力回路(input circuitry)で構成されてもよい。スキャナインターフェース14は、検出装置1と三次元スキャナ2との間のデータの入出力を実現する。検出装置1と三次元スキャナ2とは、ケーブルを用いた有線、または無線(WiFi,BlueTooth(登録商標)など)を介して接続される。
【0034】
ディスプレイインターフェース15は、ディスプレイ3を接続するためのインターフェースであり、検出装置1とディスプレイ3との間のデータの入出力を実現する。
【0035】
周辺機器インターフェース16は、キーボード4およびマウス5などの周辺機器を接続するためのインターフェースであり、検出装置1と周辺機器との間のデータの入出力を実現する。
【0036】
メディア読取装置17は、記録媒体20に格納されているデータを読み出したり、記録媒体20にデータを書き出したりする。記録媒体20は、非一過性かつ有形のコンピュータ可読記憶媒体(non-transitory and tangible computer readable storage medium)であり、たとえば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、またはUSB(Universal Serial Bus)メモリなど、各種のデータを記録することができるものであればどのような形態であってもよい。実施の形態においては、記録媒体20は、検出プログラム100を記憶可能であり、演算装置11は記録媒体20から読み出した検出プログラム100を実行可能である。
【0037】
通信装置18は、有線通信または無線通信を介して、外部装置との間でデータを送受信する。たとえば、通信装置18は、ケーブルを用いた有線、または無線(WiFi,BlueTooth(登録商標)など)を介して、院内サーバまたは院外サーバ(たとえば、クラウドサーバ)と通信可能に接続されることで、早期接触位置の検出結果を示すデータをサーバ装置に送信することができる。
【0038】
[検出処理]
図3図5を参照しながら、実施の形態に係る検出装置1が実行する早期接触位置の検出処理の概要を説明する。
【0039】
図3は、実施の形態に係る検出装置1が実行する早期接触位置の検出処理の概要を示す図である。図3に示すように、STEP1において、ユーザは、対象者の上下歯列の三次元データを取得する。具体的には、ユーザは、対象者の上下歯列を開口状態にして、三次元スキャナ2を用いて上顎の歯列の主に咬合面および側面をスキャンする。これにより、三次元スキャナ2は、上顎の歯列の三次元の形状を示す上顎歯列データを取得することができる。上顎歯列データは、スキャナインターフェース14を介して検出装置1に出力される。検出装置1は、取得した上顎歯列データに基づき、任意の視点から見た二次元の上顎の歯列を示すレンダリング画像を生成することができる。
【0040】
また、ユーザは、対象者の上下歯列を開口状態にして、三次元スキャナ2を用いて下顎の歯列の主に咬合面および側面(頬側面および舌側面)を手で走査してスキャンする。これにより、三次元スキャナ2は、下顎の歯列の三次元の形状を示す下顎歯列データを取得することができる。下顎歯列データは、スキャナインターフェース14を介して検出装置1に出力される。検出装置1は、取得した下顎歯列データに基づき、任意の視点から見た二次元の下顎の歯列を示すレンダリング画像を生成することができる。
【0041】
さらに、ユーザは、対象者の上下歯列を咬合状態にして、咬合状態である上下歯列の主に側面(頬側面)を手で走査してスキャンする。これにより、三次元スキャナ2は、上下歯列の三次元の形状を示す咬合データを取得することができる。咬合データは、スキャナインターフェース14を介して検出装置1に出力される。検出装置1は、取得した咬合データに基づき、任意の視点から見た二次元の咬合状態における上下歯列を示すレンダリング画像を生成することができる。
【0042】
上述のように、上顎歯列データおよび下顎歯列データは、個別に取得されるため、上顎歯列データに基づくレンダリング画像と下顎歯列データに基づくレンダリング画像とを自由自在に開口状態または咬合状態にするためには、咬合状態の上下歯列に合わせて上顎歯列データと下顎歯列データとを組み合わせる必要がある。そこで、STEP2において、検出装置1は、咬合データを基準にして上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成する。
【0043】
具体的には、検出装置1は、各々が個別に取得された、上顎歯列データ、下顎歯列データ、および咬合データを、共通の座標系の三次元データに変換する。たとえば、検出装置1は、上顎歯列データおよび下顎歯列データの各々の座標系を、咬合データの座標系に合わせて変換する。あるいは、検出装置1は、上顎歯列データ、下顎歯列データ、および咬合データの各々の座標系を、予め定められた共通の座標系に合わせて変換する。
【0044】
そして、検出装置1は、共通座標系にある咬合データのうちの上顎の歯列に対応する部分に対して、同じく共通座標系にある上顎歯列データを合わせる。より具体的には、検出装置1は、咬合データのうちの周辺歯肉を含む上顎の歯列に対応する点群の三次元データに、周辺歯肉を含む上顎歯列データに対応する点群の三次元データを位置合わせする。このとき、検出装置1は、上顎歯列データの上下方向の中央付近、たとえば、歯牙と歯肉との境界部分である歯肉縁(図3に示す境界部分U)を目印にして、周辺歯肉を含む咬合データの各点に対し、周辺歯肉を含む上顎歯列データの各点の三次元データ位置を決定する。なお、検出装置1は、歯牙と歯肉との境界部分Uに限らず、上顎の歯列において凹凸の変化が大きい特徴的な形状を有する部分を目印にして、周辺歯肉を含む咬合データの各点との間の誤差が最小になるように上顎歯列データの各点の三次元データ位置を決定すればよい。
【0045】
また、検出装置1は、共通座標系にある咬合データのうちの下顎の歯列に対応する部分に対して、同じく共通座標系にある下顎歯列データを合わせる。より具体的には、検出装置1は、咬合データのうちの周辺歯肉を含む下顎の歯列に対応する点群の三次元データに、周辺歯肉を含む下顎歯列データに対応する点群の三次元データを位置合わせする。このとき、検出装置1は、下顎歯列データの上下方向の中央付近、たとえば、歯牙と歯肉との境界部分である歯肉縁(図3に示す境界部分L)を目印にして、周辺歯肉を含む咬合データの各点に対し、周辺歯肉を含む下顎歯列データの各点の三次元データ位置を決定する。なお、検出装置1は、歯牙と歯肉との境界部分Lに限らず、下顎の歯列において凹凸の変化が大きい特徴的な形状を有する部分を目印にして、周辺歯肉を含む咬合データの各点との間の誤差が最小になるように下顎歯列データの各点の三次元データ位置を決定すればよい。
【0046】
STEP2において生成された合成データは、各々が個別に取得された上顎歯列データおよび下顎歯列データを用いて、咬合状態における上下歯列の三次元データを構成している。このため、検出装置1は、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように、上顎歯列データを更新することが可能である。たとえば、検出装置1は、上顎歯列データに含まれる任意の点について、高さ方向の座標を上顎側へと更新することで、当該任意の点を下顎歯列データに含まれる点から離すことができる。また、検出装置1は、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように、下顎歯列データを更新することも可能である。たとえば、検出装置1は、下顎歯列データに含まれる任意の点について、高さ方向の座標を下顎側へと更新することで、当該任意の点を上顎歯列データに含まれる点から離すことができる。検出装置1は、このようなデータの更新が行われる各タイミングにおいて、任意の視点から見た二次元の上下歯列を示すレンダリング画像を生成してディスプレイ3に表示させることで、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位する様子をユーザに見せることができる。
【0047】
STEP1で説明したように、周辺歯肉を含む上顎歯列データおよび周辺歯肉を含む下顎歯列データは、周辺歯肉を含む咬合データに対して、各点間の誤差が最小になるように位置合わせされる。しかしながら、上顎歯列データおよび下顎歯列データは、開口状態における歯列の三次元データであるのに対して、咬合データは、咬合状態における歯列の三次元データである。そして、咬合状態においては、上顎の歯列と上顎の歯列とが咬合面で接触するため、上顎の歯列および上顎の歯列が互いに荷重を掛け合う状態になるのに対して、開口状態においては、上顎の歯列と上顎の歯列とが接触しないため、上顎の歯列および上顎の歯列が互いに荷重を掛け合うことはない。
【0048】
具体的には、上顎の歯列に対しては下顎の歯列からの荷重が掛かるため、上顎の歯牙の歯根が歯根膜に圧力を掛けた状態になる。このため、上顎歯列データと咬合データとでは、歯肉縁(図3に示す境界部分U)と上顎の歯牙の先端との間の距離が異なる。具体的には、上顎歯列データは、咬合データよりも、歯肉縁と上顎の歯牙の先端との間の距離が長い。言い換えると、咬合状態で取得された咬合データのうちの上顎の歯列に対応する任意の点は、開口状態で取得された上顎歯列データのうちの当該任意の点に対応する点よりも、上顎の歯肉が位置する方向に移動している。
【0049】
また、下顎の歯列に対しては上顎の歯列からの荷重が掛かるため、下顎の歯牙の歯根が歯根膜に圧力を掛けた状態になる。このため、下顎歯列データと咬合データとでは、歯肉縁(図3に示す境界部分L)と下顎の歯牙の先端との間の距離が異なる。具体的には、下顎歯列データは、咬合データよりも、歯肉縁と下顎の歯牙の先端との間の距離が長い。言い換えると、咬合状態で取得された咬合データのうちの下顎の歯列に対応する任意の点は、開口状態で取得された下顎歯列データのうちの当該任意の点に対応する点よりも、下顎の歯肉が位置する方向に移動している。これにより、咬合データを基準として位置合わせした後の上顎歯列データおよび下顎歯列データにおいては、上顎の歯牙の先端と下顎の歯牙の先端とが交差し得る。
【0050】
このように、咬合状態において取得された咬合データに対応する各点と、開口状態において取得された上顎歯列データおよび下顎歯列データに対応する各点とでは、同じ点に着目した場合に多少の位置ずれが生じ得る。実際の上下歯列では物理的に上顎の歯列が下顎の歯列よりも下顎側に位置することはあり得ないが、STEP3で生成された合成データにおいては、上顎の歯牙の先端と下顎の歯牙の先端とが交差し得るため、上顎歯列データに対応する点が下顎歯列データに対応する点よりも下顎側に位置する場合がある。
【0051】
図4を参照しながら、合成データについて具体的に説明する。図4は、合成データについて説明するための図である。図4(A)には、合成データに基づき生成された上下歯列の側面側を示すレンダリング画像が示されている。図4(A)に示すように、合成データのレンダリング画像において、上下方向で歯列を切断した場合を想定する。そして、上下歯列の断面において、上顎歯列データに対応する上顎の歯列と、下顎歯列データに対応する下顎の歯列とが重なる部分を領域Sで示す。
【0052】
図4(B)には、合成データのレンダリング画像において、領域Sを含む部分の拡大図が示されている。図4(B)の領域Sに示すように、実際の上下歯列においては物理的にあり得ないが、データ上では、上顎歯列データに対応する点が下顎歯列データに対応する点よりも下顎側に位置する場合がある。
【0053】
図4(C)には、合成データのレンダリング画像において、上下歯列を底面側(下顎側)から見た場合の図が示されている。図4(C)に示すように、領域Sにおいては、上顎歯列データに対応する点が下顎歯列データに対応する点よりも下顎側に位置することで、上顎の歯列に含まれる歯牙が下顎の歯列を突出するような見え方になっている。以下では、このような突出部を突出部Pとも称する。
【0054】
検出装置1は、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新するとともに、当該更新時において図4(C)に示すような突出部Pが存在するか否かに応じて早期接触位置を検出する。
【0055】
たとえば、図5は、実施の形態に係る検出装置1が実行する早期接触位置の検出処理の概要を示す図である。図5に示すように、図3のSTEP2に続くSTEP3において、検出装置1は、合成データを更新することによって、早期接触位置を検出する。具体的には、合成データの更新前においては、上顎歯列データに対応するいくつかの点が下顎歯列データに対応する点よりも下顎側に位置している。このため、上下歯列を底面側(下歯列の歯牙の表面とは逆側、下顎側)から見た場合のレンダリング画像においては、上顎の歯列に含まれる歯牙が下顎の歯列を突出するような複数の突出部P1~P3が示される。
【0056】
検出装置1が上下歯列を咬合状態から開口状態へと変位させるように合成データを更新すると、上顎歯列データに対応する各点と下顎歯列データに対応する各点とが離れる。たとえば、1回目更新後における上下歯列を底面側から見た場合のレンダリング画像においては、更新前の突出部P1~P3のうちの突出部P1,P2のみが残る。さらに、1回目更新後の突出部P1,P2は、更新前の突出部P1,P2よりも、突出している面積が小さくなっている。これにより、検出装置1は、合成データを更新することによって、突出部P3,P4の各々に対応する上顎歯列データに対応する点が、下顎歯列データに対応する点と接触しなくなったことを検出することができる。また、検出装置1は、合成データを更新することによって、突出部P1,P2の各々に対応する上顎歯列データに対応する点と下顎歯列データに対応する点とが接触する面積が小さくなったことを検出することができる。
【0057】
検出装置1が上下歯列を咬合状態から開口状態へと変位させるように合成データをさらに更新すると、上顎歯列データに対応する各点と下顎歯列データに対応する各点とがさらに離れる。たとえば、2回目更新後における上下歯列を底面側から見た場合のレンダリング画像においては、1回目更新後の突出部P1,P2のうちの突出部P1のみが残る。さらに、2回目更新後の突出部P1は、更新前の突出部P1よりも、突出している面積が小さくなっている。これにより、検出装置1は、合成データを更新することによって、突出部P1に対応する上顎歯列データに対応する点が、下顎歯列データに対応する点と接触しなくなったことを検出することができる。また、検出装置1は、合成データを更新することによって、突出部P2に対応する上顎歯列データに対応する点と下顎歯列データに対応する点とが接触する面積が小さくなったことを検出することができる。
【0058】
このように、検出装置1は、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように合成データを更新した場合に、上顎の歯列と下顎の歯列とが最後まで接触している上下歯列の部分(図5の例では突出部P2)を、早期接触位置として検出することができる。
【0059】
また、検出装置1は、合成データの更新量、すなわち、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データの更新量に基づき、早期接触位置に対応する点が他の点よりも突出している量を算出することも可能である。たとえば、図5の例において、更新データを3回目更新した場合に突出部P2が消えたと仮定すると、検出装置1は、1回目の更新量と2回目の更新量と3回目の更新量とを加算した分だけ突出部P2が突出部P3および突出部P4よりも突出していると予想することができ、さらに、2回目の更新量と3回目の更新量とを加算した分だけ突出部P2が突出部P1よりも突出していると予想することができる。なお、1回の更新量は、ユーザによって任意に設定可能であるが、たとえば、0.1mm~0.3mmである。
【0060】
上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データに対応する点の移動方向について、検出装置1は、上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位する方向であれば、いずれの方向に当該少なくとも1つの歯列データに対応する点を移動させてもよい。
【0061】
たとえば、検出装置1は、上顎歯列データに対応する点における高さ方向の座標を上顎側へと更新することで、レンダリング画像において上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように見せてもよい。また、検出装置1は、下顎歯列データに対応する点における高さ方向の座標を下顎側へと更新することで、レンダリング画像において上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように見せてもよい。
【0062】
あるいは、検出装置1は、咬合状態である上下歯列の位置に基づき推測された顎運動データに基づき、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新してもよい。具体的には、検出装置1は、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データに基づき上顎および下顎の運動を予測してもよい。そして、検出装置1は、顎運動の予測結果に基づき上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新することで、レンダリング画像において上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように見せてもよい。
【0063】
また、検出装置1は、上顎および下顎について測定された顎運動データに基づき、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新してもよい。具体的には、検出装置1は、予め対象者が治具などを装着して測定された当該対象者の顎運動データを取得してもよい。そして、検出装置1は、取得していた顎運動データに基づき上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新することで、レンダリング画像において上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように見せてもよい。
【0064】
また、検出装置1は、所定の平均的な顎運動データに基づき、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新してもよい。具体的には、検出装置1は、予め複数人の顎運動データの平均値を取得してもよい。このような顎運動データの平均値は、性別または年齢などに応じて区別されてもよい。そして、検出装置1は、取得していた顎運動データの平均値に基づき上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新することで、レンダリング画像において上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように見せてもよい。
【0065】
さらに、検出装置1は、咬合紙を用いた上下歯列における噛み合わせのチェック結果に基づき上述したような各種の顎運動データを補正し、補正後の顎運動データに基づき上歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新してもよい。たとえば、検出装置1は、対象者が上顎の歯列と下顎の歯列との間に咬合紙を挟んで噛んだときに現れる咬合面における着色態様(噛む力に応じて変化する色)に基づき、上顎の歯牙と下顎の歯牙とが早期接触している可能性が高い部分(たとえば、着色が濃い部分)において上顎の歯列と下顎の歯列とが離れるように、顎運動データを補正してもよい。
【0066】
このように、検出装置1は、咬合紙を用いた上下歯列における噛み合わせのチェック結果に基づき顎運動データを補正することで、より対象者の顎運動に近づけて上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新することができる。
【0067】
[検出装置の処理フロー]
図6を参照しながら、検出装置1が実行する早期接触位置の検出処理のフローを説明する。図6は、実施の形態に係る検出装置1が実行する検出処理の一例を説明するためのフローチャートである。検出装置1(演算装置11)は、検出プログラム100を実行することで、図6に示す検出処理を実行可能である。なお、図6において、「S」は「STEP」の略称として用いられる。
【0068】
図6に示すように、検出装置1は、三次元スキャナ2によって各々が個別に取得された上顎歯列データ、下顎歯列データ、および咬合データを取得する(S1)。検出装置1は、咬合データに対して上顎歯列データおよび下顎歯列データを合わせることで、咬合状態における上下歯列の三次元の形状を示す合成データを生成する(S2)。このようにして生成された合成データに基づきレンダリング画像を生成すると、図4に示すように、上顎の歯列に含まれる歯牙が下顎の歯列を突出するような見え方になる場合がある。このような場合は早期接触位置が存在する可能性がある。なお、検出装置1は、他の装置から合成データを取得してもよい。他の装置は、他の検出装置1であってもよく、検出装置1は、他の検出装置1によって生成された合成データを当該他の検出装置1から取得してもよい。また、他の装置は、少なくとも1つの他の検出装置1から収集した合成データを蓄積して記憶するサーバ装置(クラウド型のサーバ装置)であってもよく、検出装置1は、サーバ装置によって収集された合成データを当該サーバ装置から取得してもよい。
【0069】
検出装置1は、合成データに含まれる上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように更新する(S3)。この場合の1回の更新量は、ユーザによって任意に設定可能であるが、たとえば、0.1mm~0.3mmである。これにより、合成データに基づくレンダリング画像において、上顎の歯列と下顎の歯列とが更新ごとに0.1mm~0.3mmずつ離れる。
【0070】
検出装置1は、更新後の合成データにおいて、上顎の歯列と下顎の歯列とが接触するか否かを判定する(S4)。検出装置1は、上顎の歯列と下顎の歯列とが接触する場合(S4でYES)、S3の処理を再び実行して、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように再び更新する。これにより、合成データに基づくレンダリング画像において、上顎の歯列と下顎の歯列とが0.1mm~0.3mmさらに離れる。その後、検出装置1は、S4の処理を再び実行して、更新後の合成データにおいて、上顎の歯列と下顎の歯列とが接触するか否かを再び判定する。
【0071】
検出装置1は、上顎の歯列と下顎の歯列とが接触しない場合(S4でNO)、最後(更新直前)まで接触していた上顎の歯列と下顎の歯列との接触位置を、早期接触位置として特定する(S5)。検出装置1は、特定した早期接触位置に対応する少なくとも1つの点の三次元データを、メモリ12または記憶装置13に記憶し(S6)、本処理を終了する。
【0072】
以上のように、検出装置1は、三次元スキャナ2によって取得された上顎歯列データ、下顎歯列データ、および咬合データを用いて、早期接触位置を検出することができる。これにより、対象者が咬合紙を咬合する必要がないため、対象者による咬合度合に応じて歯牙の接触位置および咬合圧が変動することもなく、ユーザは、検出装置1を用いて、早期接触位置を精度高く検出することができる。
【0073】
<変形例>
本開示は、上記の実施例に限られず、さらに種々の変形、応用が可能である。以下、本開示に適用可能な変形例について説明する。
【0074】
図7は、変形例に係る検出装置1が用いる偏在率を説明するための図である。図7(A1)~(D1)には、上顎の歯列と下顎の歯列とにおける接触位置の偏りが正常である場合の合成データに基づくレンダリング画像が示されている。図7(A2)~(D2)には、上顎の歯列と下顎の歯列とにおける接触位置の偏りが異常である場合の合成データに基づくレンダリング画像が示されている。
【0075】
図7(A1)~(D1)および図7(A2)~(D2)に示すように、検出装置1は、レンダリング画像における上下歯列が咬合状態から開口状態へと変位するように、所定期間ごとに時系列で、上顎歯列データおよび下顎歯列データのうちの少なくとも1つの歯列データを更新する。検出装置1は、少なくとも1つの歯列データを更新する間に、所定期間ごとに、上顎の歯列と下顎の歯列とにおける接触面積の偏りを検出する。以下では、接触面積の偏りを「偏在率」とも称する。すなわち、検出装置1は、合成データを更新するタイミングである所定期間ごとに、偏在率を算出する。
【0076】
検出装置1は、所定期間ごとに算出した偏在率が予め設定されている閾値以上であるか否かを判定する。検出装置1は、所定期間ごとに算出した偏在率が閾値以上である場合は、上顎の歯列と下顎の歯列とにおいて接触面積の偏りがあると判断して、異常処理を実行する。たとえば、検出装置1は、異常処理として、上顎の歯列と下顎の歯列とにおいて接触面積の偏りが異常である旨をディスプレイ3などを用いてユーザに報知してもよいし、偏在率の数値をディスプレイ3などを用いてユーザに報知してもよいし、偏在率の数値に対応するレベル(たとえば、5段階に分けられたレベル)をディスプレイ3などを用いてユーザに報知してもよい。
【0077】
図7(A1)~(D1)の例の場合、検出装置1は、所定期間ごとに算出した偏在率が予め設定されている閾値未満であると判断し、上顎の歯列と下顎の歯列とにおいて接触面積の偏りが正常である旨をディスプレイ3などを用いてユーザに報知する。一方、図7(A2)~(D2)の例の場合、検出装置1は、所定期間ごとに算出した偏在率が予め設定されている閾値以上であると判断し、上述した異常処理を実行する。
【0078】
このように、変形例に係る検出装置1は、上顎の歯列と下顎の歯列とにおける接触面積の偏りを検出した結果を、ユーザに通知することができる。これにより、ユーザは、検出装置1を用いて、早期接触位置だけではなく、上顎の歯列と下顎の歯列とにおける接触面積の偏りについても調べることができる。
【0079】
検出装置1は、クラウド型のサーバ装置であってもよい。すなわち、演算装置11(演算部)は、クラウド型のサーバ装置におけるコンピュータ(プロセッサ、処理回路)としての機能を有していてもよい。たとえば、検出装置1は、ユーザまたは対象者が有するスマートフォンなどのユーザ端末と通信可能に構成されてもよい。検出装置1は、三次元スキャナ2によって取得された三次元データを取得し、当該三次元データに基づき検出した早期接触位置に関する情報を含む出力データを、ユーザ端末に出力してもよい。ユーザ端末は、予めダウンロードしていたアプリケーションを起動することによって、検出装置1と通信可能になり、当該検出装置1から受信した出力データに基づき、早期接触位置に関する情報を取得してディスプレイに表示してもよい。また、検出装置1自体が上述したスマートフォンなどのユーザ端末であってもよい。
【0080】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。なお、本実施の形態で例示された構成および変形例で例示された構成は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 検出装置、2 三次元スキャナ、3 ディスプレイ、4 キーボード、5 マウス、10 検出システム、11 演算装置、12 メモリ、13 記憶装置、14 スキャナインターフェース、15 ディスプレイインターフェース、16 周辺機器インターフェース、17 メディア読取装置、18 通信装置、20 記録媒体、100 検出プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7