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<図1>
  • 特開-ウインチ、及びウインチ付車両 図1
  • 特開-ウインチ、及びウインチ付車両 図2
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  • 特開-ウインチ、及びウインチ付車両 図4
  • 特開-ウインチ、及びウインチ付車両 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072036
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】ウインチ、及びウインチ付車両
(51)【国際特許分類】
   B66D 1/46 20060101AFI20240520BHJP
   B66D 1/54 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B66D1/46 G
B66D1/46 E
B66D1/54 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182622
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】509080587
【氏名又は名称】株式会社モリタ
(71)【出願人】
【識別番号】522447118
【氏名又は名称】株式会社モリタテクノス
(71)【出願人】
【識別番号】522447129
【氏名又は名称】大橋機産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】杉本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】元野 等
(72)【発明者】
【氏名】森田 光一
(72)【発明者】
【氏名】増子 勝郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘弥
(57)【要約】
【課題】ウインチ操作に携わる作業者が操作中に残能力を容易に把握できるウインチ、及び当該ウインチを備えた車両を提供する。
【解決手段】ワイヤーロープ10と、巻取ドラム20と、操作手段100と、巻取ドラム20の駆動装置30と、ワイヤーロープ10に生じている張力を導出するための情報を取得する張力情報取得手段70と、巻取ドラム20の所定状態からの回転回数を導出するための情報を取得する回転情報取得手段40と、張力情報取得手段70により取得される情報に基づいて張力を導出すると共に、回転情報取得手段40により取得される情報と巻取ドラム20の回転方向とに基づいて回転回数を導出し、導出した回転回数に基づいて巻取ドラム20の巻層数を導出し、導出した巻層数における許容能力及び残能力を導出する導出手段50と、操作手段100の近傍に設けられ、残能力又は少なくとも張力及び許容能力をリアルタイムに表示する表示器60を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープと、
前記ワイヤーロープが巻き回される巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの操作に用いる操作手段と、
前記巻取ドラムを軸回りに回転駆動させる駆動装置と、
前記ワイヤーロープに生じている張力を導出するための情報を取得する張力情報取得手段と、
前記巻取ドラムの所定状態からの回転回数を導出するための情報を取得する回転情報取得手段と、
前記張力情報取得手段により取得される情報に基づいて前記張力を導出すると共に、前記回転情報取得手段により取得される情報と前記巻取ドラムの回転方向とに基づいて前記回転回数を導出し、導出した前記回転回数に基づいて前記巻取ドラムの巻層数を導出し、導出した前記巻層数において許容される牽引力を示す許容能力、及び前記張力から前記許容能力までの余力を示す残能力を導出する導出手段と、
前記操作手段又は前記操作手段の近傍に設けられ、前記残能力又は少なくとも前記張力及び前記許容能力をリアルタイムに表示する表示器を備えることを特徴とするウインチ。
【請求項2】
前記回転情報取得手段は、前記巻取ドラムの側面に設けられ前記巻取ドラムの回転に伴い位置が周方向に変わる検出部と、前記検出部の変位軌道の近傍に設けられ前記検出部の近接を検知する近接センサを有し、
前記導出手段は、前記近接センサの検知回数を前記巻取ドラムの回転回数の導出に用いることを特徴とする請求項1に記載のウインチ。
【請求項3】
前記検出部は、前記巻取ドラムの側面に形成した凹部であることを特徴とする請求項2に記載のウインチ。
【請求項4】
前記駆動装置の動力を前記巻取ドラムに伝達するクラッチを備え、
前記近接センサが複数設けられており、
前記導出手段は、すべての前記近接センサにおいて近接検知が所定順になされたことを一つのセットとし、同じ前記近接センサが連続して近接検知した場合は同じ前記近接センサにおける連続した近接検知のうち二回目以降はエラーとして除外し、前記セットの数が前記検出部の数と同数になったことをもって前記巻取ドラムが一回転したと判断することを特徴する請求項2に記載のウインチ。
【請求項5】
前記導出手段は、前記巻取ドラムの回転方向を、前記操作手段で巻取操作が選択されている場合は巻取方向と判断し、前記操作手段で引出操作が選択されているか、又は前記クラッチが切り離されている場合は引出方向と判断することを特徴とする請求項4に記載のウインチ。
【請求項6】
前記検出部が同一円周上に複数設けられており、複数の前記近接センサは、二つ以上で同時に前記検出部が近接検知されない間隔で配置されていることを特徴とする請求項4に記載のウインチ。
【請求項7】
前記検出部が90度間隔で四つ設けられ、前記近接センサが二つ設けられていることを特徴とする請求項6に記載のウインチ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のウインチを備えたことを特徴とするウインチ付車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物の引っ張り等に用いるウインチ、及び当該ウインチを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物の引っ張り等に用いるウインチを搭載した救助工作車等が火災現場等において活躍している。当該ウインチには、張力計を備え、牽引作業中にワイヤーロープにかかる張力をリアルタイムに表示するものもある。
ウインチは、その構造上、巻取ドラムに巻き取られたワイヤーロープの巻層数によって許容能力(牽引能力)が変動する。許容能力は、一般的には巻取ドラムの巻層数が多い場合よりも少ない場合の方が大きい。この特性により、巻取り作業中のウインチでは巻取りが進むにつれて許容能力が小さくなるため、要する牽引力が一定の場合、当該ウインチで牽引可能な余力は徐々に小さくなっていく。
【0003】
ここで、特許文献1には、ワイヤと、ワイヤが巻き回されるドラムと、ドラムを回転駆動させるモータと、ドラムに巻かれたワイヤの巻層数を検知する巻層数検知手段と、巻層数検知手段の検知結果に基づいてモータの出力を制御する出力制御手段を備えるウインチ装置が開示されている。
また、特許文献2には、巻胴の半径方向外方に、巻胴の回転軸と平行な支軸の回りに揺動可能に軸支された揺動アームと、揺動アームの一端に巻胴の回転軸と平行に軸支され、巻胴の最外周巻層のロープに当接しながら回転自在な回転ローラと、回転ローラをロープの巻層変化に追従して常時最外周巻層のロープに当接させる付勢手段と、回転ローラの位置検出センサと、位置検出センサからの信号により巻胴の最外周巻層数を算出するコントローラとよりなるロープ巻取り、繰出し検出装置が開示されている。
また、特許文献3には、油圧ウインチのドラム表面に対向しワイヤーロープの巻層数を検出する巻層数検出器と、油圧源とウインチドラム駆動用油圧モータとの油路に介装の減圧弁に付設された巻層数検出器の出力によりスプリング力が調節される減圧弁セットスプリングとを具えた油圧ウインチのトルク調整装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-178491号公報
【特許文献2】特開平07-206385号公報
【特許文献3】実願昭61-70712号(実開昭62-183700号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウインチは、上記した特性から、巻層数が少ない巻取り作業初期では牽引できていても、巻取り作業終期では巻層数が増えて牽引力が不足し牽引できなくなる場合がある。一方、作業中にその時点での許容能力と張力が分かれば、残能力(牽引余力)を算出でき、牽引力が不足しないように作業の途中で牽引負荷を下げる等の対処が可能である。しかしながら現在は、ウインチ操作に携わる作業者が、ワイヤーロープが何層目にあるのかを目視して巻層数を確認し、対応表等に基づいて巻層数から許容能力へ逐次換算しながら作業しているため、作業者の効率性向上や負担軽減に改善の余地がある。
ここで、特許文献1記載の技術は、巻層数を検知してモータの出力を制御するものであるが、ウインチ操作に携わる作業者が、残能力を容易に把握できるものではない。
また、特許文献2記載の技術は、ロープの巻層数を逐次演算し、ロープの巻取り又は繰出し速度、ロープ長、及びロープ張力を算出して巻胴の回転速度や停止を自動制御するものであるが、ウインチ操作に携わる作業者が、残能力を容易に把握できるものではない。
また、特許文献3記載の技術は、ワイヤーロープの巻層数の変動に応じて駆動トルクを変動させてワイヤーロープの張力を一定に保持することにより、ワイヤーロープの径を最適値に選定し、ワイヤーロープ重量を軽減するとともに牽引長さを確保しようとするものであるが、ウインチ操作に携わる作業者が、残能力を容易に把握できるものではない。
そこで本発明は、ウインチ操作に携わる作業者が操作中に残能力を容易に把握できるウインチ、及び当該ウインチを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明のウインチは、ワイヤーロープ10と、ワイヤーロープ10が巻き回される巻取ドラム20と、巻取ドラム20の操作に用いる操作手段100と、巻取ドラム20を軸回りに回転駆動させる駆動装置30と、ワイヤーロープ10に生じている張力を導出するための情報を取得する張力情報取得手段70と、巻取ドラム20の所定状態からの回転回数を導出するための情報を取得する回転情報取得手段40と、張力情報取得手段70により取得される情報に基づいて張力を導出すると共に、回転情報取得手段40により取得される情報と巻取ドラム20の回転方向とに基づいて回転回数を導出し、導出した回転回数に基づいて巻取ドラム20の巻層数を導出し、導出した巻層数において許容される牽引力を示す許容能力、及び張力から許容能力までの余力を示す残能力を導出する導出手段50と、操作手段100又は操作手段100の近傍に設けられ、残能力又は少なくとも張力及び許容能力をリアルタイムに表示する表示器60を備えることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のウインチにおいて、回転情報取得手段40は、巻取ドラム20の側面に設けられ巻取ドラム20の回転に伴い位置が周方向に変わる検出部41と、検出部41の変位軌道の近傍に設けられ検出部41の近接を検知する近接センサ42を有し、導出手段50は、近接センサ42の検知回数を巻取ドラム20の回転回数の導出に用いることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載のウインチにおいて、検出部41は、巻取ドラム20の側面に形成した凹部であることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項2に記載のウインチにおいて、駆動装置30の動力を巻取ドラム20に伝達するクラッチ80を備え、近接センサ42が複数設けられており、導出手段50は、すべての近接センサ42において近接検知が所定順になされたことを一つのセットとし、同じ近接センサ42が連続して近接検知した場合は同じ近接センサ42における連続した近接検知のうち二回目以降はエラーとして除外し、セットの数が検出部41の数と同数になったことをもって巻取ドラム20が一回転したと判断することを特徴する。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載のウインチにおいて、導出手段50は、巻取ドラム20の回転方向を、操作手段100で巻取操作が選択されている場合は巻取方向と判断し、操作手段100で引出操作が選択されているか、又はクラッチ80が切り離されている場合は引出方向と判断することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項4に記載のウインチにおいて、検出部41が同一円周上に複数設けられており、複数の近接センサは、二つ以上で同時に検出部41が近接検知されない間隔で配置されていることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載のウインチにおいて、検出部41が90度間隔で四つ設けられ、近接センサ42が二つ設けられていることを特徴とする。
請求項8記載の本発明のウインチ付車両は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のウインチを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ウインチ操作に携わる作業者が操作中に残能力を容易に把握できるウインチ、及び当該ウインチを備えた車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例によるウインチの概略構成を示す図
図2】同ウインチの外観図
図3】同回転情報取得部を示す概略図
図4】同リモコンに設けた表示器の例を示す図
図5】同ウインチを搭載した車両の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態によるウインチは、ワイヤーロープと、ワイヤーロープが巻き回される巻取ドラムと、巻取ドラムの操作に用いる操作手段と、巻取ドラムを軸回りに回転駆動させる駆動装置と、ワイヤーロープに生じている張力を導出するための情報を取得する張力情報取得手段と、巻取ドラムの所定状態からの回転回数を導出するための情報を取得する回転情報取得手段と、張力情報取得手段により取得される情報に基づいて張力を導出すると共に、回転情報取得手段により取得される情報と巻取ドラムの回転方向とに基づいて回転回数を導出し、導出した回転回数に基づいて巻取ドラムの巻層数を導出し、導出した巻層数において許容される牽引力を示す許容能力、及び張力から許容能力までの余力を示す残能力を導出する導出手段と、操作手段又は操作手段の近傍に設けられ、残能力又は少なくとも張力及び許容能力をリアルタイムに表示する表示器を備えるものである。
本実施の形態によれば、ウインチ操作に携わる作業者は、操作中に残能力を容易に把握して円滑かつ安全に作業を進行することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態によるウインチにおいて、回転情報取得手段は、巻取ドラムの側面に設けられ巻取ドラムの回転に伴い位置が周方向に変わる検出部と、検出部の変位軌道の近傍に設けられ検出部の近接を検知する近接センサを有し、導出手段は、近接センサの検知回数を巻取ドラムの回転回数の導出に用いることとしたものである。
本実施の形態によれば、巻取ドラムの回転回数を導出するための情報を、簡素な構成で精度よく取得することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態によるウインチにおいて、検出部は、巻取ドラムの側面に形成した凹部としたものである。
本実施の形態によれば、検出部を巻取ドラムの側面から突出した凸部とする場合よりも寸法増加を抑制でき、また検出部が他部材等と接触して損傷する可能性を低減できる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第2の実施の形態によるウインチにおいて、駆動装置の動力を巻取ドラムに伝達するクラッチを備え、近接センサが複数設けられており、導出手段は、すべての近接センサにおいて近接検知が所定順になされたことを一つのセットとし、同じ近接センサが連続して近接検知した場合は同じ近接センサにおける連続した近接検知のうち二回目以降はエラーとして除外し、セットの数が検出部の数と同数になったことをもって巻取ドラムが一回転したと判断することとしたものである。
本実施の形態によれば、クラッチのバックラッシュの影響を除去して巻取ドラムの回転回数を精度よく導出することができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態によるウインチにおいて、導出手段は、巻取ドラムの回転方向を、操作手段で巻取操作が選択されている場合は巻取方向と判断し、操作手段で引出操作が選択されているか、又はクラッチが切り離されている場合は引出方向と判断することとしたものである。
本実施の形態によれば、巻取ドラムの回転方向を正確に判断することができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第4の実施の形態によるウインチにおいて、検出部が同一円周上に複数設けられており、複数の近接センサは、二つ以上で同時に検出部が近接検知されない間隔で配置されているものである。
本実施の形態によれば、導出手段による巻取ドラムの回転回数の導出精度を高めることができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態によるウインチにおいて、検出部が90度間隔で四つ設けられ、近接センサが二つ設けられているものである。
本実施の形態によれば、導出手段において、さほど複雑な計算を必要とすることなく、精度よく巻取ドラムの回転回数を導出することができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態によるウインチ付車両は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のウインチを備えたものである。
本実施の形態によれば、車両に搭載されているウインチの操作中に残能力を容易に把握して円滑かつ安全に作業を進めることができる。
【実施例0017】
以下、本発明の一実施例によるウインチ、及びウインチ付車両について説明する。
図1は本実施例によるウインチの概略構成を示す図である。図2はウインチの外観図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は右側面図である。図3は回転情報取得部を示す概略図である。
本実施例のウインチは油圧式であり、ワイヤーロープ10と、ワイヤーロープ10が巻き回される巻取ドラム20と、巻取ドラム20を軸回りに回転駆動させる駆動装置としての油圧モータ30と、巻取ドラム20の所定状態からの回転回数を導出するための情報を取得する回転情報取得手段40と、牽引力に関する情報を導出する導出手段50と、導出手段50が導出した情報を表示する表示器60と、ワイヤーロープ10に生じている張力を導出するための情報を取得する張力情報取得手段70と、巻取ドラム20と駆動装置30を連結するクラッチ80と、巻取ドラム20の回転等を制御するコントローラ(制御器)90と、巻取ドラム20等の操作に用いる操作手段100と、コントローラ90への給電を行う電源ユニット110を備える。
操作手段100は、巻取ドラム20から離れた位置での操作に用いる有線又は無線のリモコン101と、巻取ドラム20の近傍での操作に用いる本体操作部102がある。
導出手段50は、コントローラ90の機能の一部として設けられ、表示器60は、リモコン101と本体操作部102にそれぞれ設けられている。
【0018】
本実施例では、張力情報取得手段70をひずみゲージとし、図2に示すように、巻取ドラム20を固定している架台の上フレーム21の二箇所に設けている。
巻取ドラム20の回転中において、二つのひずみゲージそれぞれの計測値は、コントローラ90の導出手段50に送信される。
【0019】
図3においては巻取ドラム20を側方から見ている。回転情報取得手段40は、巻取ドラム20の側面に設けられ巻取ドラム20の回転に伴い位置が周方向に変わる検出部41と、検出部41の変位軌道の近傍に設けられ検出部41の近接を検知する近接センサ42を有する。
本実施例では、巻取ドラム20の側面に四つの検出部41を同一円周上に90度間隔で設け、近接センサ42を巻取ドラム20の側面から僅かに離れた位置において二箇所に設けている。
検出部41は、巻取ドラム20の側面に形成した凹部としている。検出部(凹部)41同士のサイズに違いはなく、各検出部41のサイズは、例えば、縦×横×深さ=20mm×20mm×5mmである。なお、検出部41は、巻取ドラム20の側面から突出した凸部とすることもできるが、凹部とすることで、寸法増加を抑制でき、また検出部41が他部材等と接触して損傷する可能性を低減できる。
近接センサ42は、周方向に回転する検出部41が近接するとONとなり、離れるとOFFとなる。巻取ドラム20の回転中において、二つの近接センサ42それぞれの反応は、コントローラ90の導出手段50に送信される。
【0020】
導出手段50は、ウインチの使用中に、その時点での巻層数において許容される牽引力を示す許容能力(牽引能力)と、その時点での張力から許容能力までの余力を示す残能力(牽引余力)を導出する。導出手順の例を以下に示す。
[ステップ1]張力情報取得手段(ひずみゲージ)70から送信される計測値に基づいて、その時点でのワイヤーロープ10にかかっている張力(テンション)を導出する。
[ステップ2]近接センサ42の反応(近接検知)回数と巻取ドラム20の回転方向に基づいて、巻取ドラム20の所定状態からの回転回数を導出する。巻取ドラム20の所定状態とは、例えば、ワイヤーロープ10を引出す前の状態である。なお、回転回数の導出の詳細については後述する。
[ステップ3]導出した回転回数に基づいて、その時点での巻取ドラム20の巻層数を導出する。巻層数は、例えば、一層当たりのワイヤーロープ10の巻数に関する情報をワイヤーロープ10の径や巻取ドラム20の寸法等から予め算出してコントローラ90内の記憶装置に保存しておくことで、その記憶されている情報と導出した回転回数とに基づいて導出できる。
[ステップ4]巻層数と許容能力との関係に基づき、ステップ3で導出した巻層数における許容能力を導出する。
[ステップ5]ステップ4で導出した許容能力とステップ1で導出した張力との差を求めることにより残能力を導出する。
これにより、ウインチ操作に携わる作業者は、操作中に残能力を容易に把握できるため、巻層数を把握するためにワイヤーロープ10が巻取ドラム20の何層目にあるかを確認したり、対応表に基づいて許容能力を求めたりする必要が無くなり、円滑かつ安全に作業を進行することができる。
【0021】
上記ステップ2における回転回数の導出について詳細に説明する。
検出部41は、巻取ドラム20の側面に等間隔で設けられており、巻取ドラム20が一回転する毎に位置が一周する。そのため、近接センサ42が反応した回数、すなわち検出部41が近接センサ42の前を通過した回数が、基本的には巻取ドラム20の回転回数となる。
但し、クラッチ80を繋げたときに嵌合する油圧モータ30側の歯と巻取ドラム20側の歯との噛み合わせには多少の遊び(隙間)が設けられているため、バックラッシュ(バックラッシ)により、変速時等に巻取ドラム20が回転指示方向とは逆方向に多少揺動する場合がある。近接センサ42の前を検出部41が通過した直後にこの揺動が生じると、一つの検出部41が近接センサ42の前を往復することになり、近接センサ42の反応回数が巻取ドラム20の本来の回転回数よりも増えてしまう。近接センサ42の設置数が一つだけの場合はそのようなイレギュラーな反応を除外することが難しく、導出手段50による巻取ドラム20の回転回数の導出精度が低下する可能性がある。
そこで本実施例では、近接センサ42として第一の近接センサと第二の近接センサの二つを設け、導出手段50は二つの近接センサ42の反応状況を統合して以下のルールに基づいて巻取ドラム20の所定状態からの回転回数を導出するようにしている。
[ルール1]一方の近接センサ42による反応(ON→OFF)一回と、それに続いての他方の近接センサ42の反応(ON→OFF)一回を一セットとし、その四セットで巻取ドラム20の一回転と判断する。なお、四セットとするのは、セット数は検出部41の数と同数とすることに拠る。
[ルール2]一方の近接センサ42が反応した後に、他方の近接センサ42が反応することなく一方の近接センサ42が再度反応するなど、同じ近接センサ42が連続して反応した場合は、同じ近接センサ42における連続した反応のうち二回目以降の反応はエラーとして除外する。
[ルール3]巻取ドラム20の回転回数は、引出方向への回転をプラス、巻取方向への回転をマイナスとしてカウントする。
なお、巻取ドラム20の回転方向は、例えば、操作手段100において巻取操作が選択されていれば巻取方向と判断し、操作手段100において引出操作が選択されているか、又はクラッチ80が切り離された状態であれば引出方向と判断する。これにより、巻取ドラム20の回転方向を正確に判断することができる。
このように、近接センサ42を複数設け、導出手段50は、巻取ドラム20の回転方向が巻取方向か引出方向かを判断すると共に、すべての近接センサ42において近接検知が所定順になされたことを一つのセットとし、同じ近接センサ42が連続して近接検知した場合は同じ近接センサ42における連続した近接検知のうち二回目以降はエラーとして除外し、セットの数が検出部41の数と同数になったことをもって巻取ドラム20が一回転したと判断することにより、クラッチ80のバックラッシュの影響を除去して巻取ドラム20の回転回数を精度よく導出することができる。
【0022】
検出部41は、単数であっても良いが、複数設けることが好ましい。これにより、導出手段50による巻取ドラム20の回転回数の導出精度を高めることができる。また、近接センサ42は、三つ以上設けても良いが、数が増えるとコストが増加すると共に導出手段50での計算が複雑になりやすい。そこで本実施例では、検出部41を四つ、近接センサ42を二つとしている。これにより、コストを抑制しつつ、さほど複雑な計算を必要とすることなく、精度よく巻取ドラム20の回転回数を導出することができる。
検出部41を複数設ける場合は、複数の検出部41を同一円周上に配置し、複数の近接センサ42は、二つ以上で同時に検出部41が近接検知されない間隔で配置する。これは、或る近接センサ42に或る検出部41が近接したときに、他の近接センサ42にも他の検出部41が近接することにより、二つの近接センサ42が同時に反応すると、導出手段50が巻取ドラム20の回転回数を正しく導出できない可能性が高いためである。よって、例えば、本実施例のように四つの検出部41を等しく90度間隔で配置し、近接センサ42を二つ設ける場合は、一方の近接センサ42と他方の近接センサ42との周方向間隔を、少なくとも検出部41同士の周方向間隔の整数倍(1~4倍)と等しくないようにし、さらに検出部41の大きさも考慮して、二つの近接センサ42で同時に検出部41が近接検知されないようにする。
また、回転情報取得手段40は、クラッチ80が切り離された状態で巻取ドラム20が回転しているときも巻取ドラム20の回転回数を導出するための情報を取得できる構成であれば、エンコーダや光電センサなど、近接センサ42以外を用いる方式を採用してもよい。但し、近接センサ42は、巻取ドラム20の回転回数を導出するための情報を精度よく取得しやすく、また構成が簡素で耐環境性も高いなど、他方式に比べてメリットが大きい。
【0023】
図4はリモコンに設けた表示器の例を示す図である。
リモコン101には、表示器60の他に、ウインチ速度の設定に用いる速度設定ダイヤル101Aと、ウインチの動作と非動作の切替えに用いるウインチ動作ボタン101Bと、ワイヤーロープ10の繰出操作と巻取操作の切替えに用いる回転方向切替ボタン101Cが設けられている。
表示器60は、表示切替部61と、項目表示部62と、数値表示部63を有する。表示切替部61を押すごとに、数値表示部63に表示される数値が、張力(テンション)、許容能力、及び残能力に順に切替わると共に、項目表示部62においては数値表示部63に表示されている数値に対応する項目のランプが点灯する。
このように、表示器60に残能力が表示されることで、ウインチ操作に携わる作業者は、操作中に残能力を容易に把握できるため、作業の途中で牽引力が不足して牽引作業を続けることが不能となるような状況を確実に事前回避することができる。
また、表示器60には許容能力もリアルタイムに表示可能であるため、ウインチ操作に携わる作業者は、その時点での巻層数においての最大の牽引力を容易に把握することができる。
なお、表示器60が複数の数値を表示可能な仕様である場合は、張力と許容能力を表示すれば残能力はそれらの値から容易に算出できるため、残能力は必ずしも表示可能でなくともよい。
【0024】
図5はウインチを搭載した車両の例を示す図であり、図5(a)は上面図、図5(b)は左側面図である。
車両は例えば救助工作車である。ウインチは車両のフロントバンパー1の略中央部に設けられており、表示器60を備える本体操作部102が左側面に設けられている。
火災現場等でのウインチを使用した作業において、本体操作部102とリモコン101のそれぞれに設けられている表示器60に、残能力、又は少なくとも張力と許容能力がリアルタイムに表示されることで、ウインチ操作に携わる作業者はその時点での巻層数においての残能力を容易に把握して円滑かつ安全に作業を進めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、油圧式ウインチの他、電動式ウインチやエンジン式ウインチ等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 ワイヤーロープ
20 巻取ドラム
30 駆動装置(油圧モータ)
40 回転情報取得手段
41 検出部
42 近接センサ
50 導出手段
60 表示器
70 張力情報取得手段
80 クラッチ
100 操作手段
図1
図2
図3
図4
図5