(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072068
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】プリント配線板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20240520BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
H05K3/28 A
H05K1/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182681
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小椋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 大地
【テーマコード(参考)】
5E314
5E338
【Fターム(参考)】
5E314AA02
5E314AA04
5E314BB02
5E314BB06
5E314CC01
5E314FF05
5E314GG26
5E338AA02
5E338AA03
5E338AA16
5E338AA18
5E338EE02
(57)【要約】
【課題】放熱性能に優れる新たなプリント配線板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、前記導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を形成する工程(II)と、を含み;前記導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;工程(II)が、前記金属酸化物膜を、前記導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成することを含む、プリント配線板の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、
前記導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を形成する工程(II)と、
を含み;
前記導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
工程(II)が、前記金属酸化物膜を、前記導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成することを含む、プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
工程(II)が、前記金属酸化物膜を面内方向に連続的に形成することを含む、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物膜を研磨する工程(III)を含む、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物膜が、アルミナを含む、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜の厚みが、100nm以上である、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
第一樹脂材料を含む第一絶縁層と、前記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、
前記第一導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって第一金属酸化物膜を形成する工程(II)と、
前記第一金属酸化物膜上に、第二樹脂材料を含む第二絶縁層を形成する工程(IV)と、
前記第二絶縁層上に、第二導体層を形成する工程(V)と、
前記第二導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって第二金属酸化物膜を形成する工程(VI)と、
を含み;
前記第一導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
工程(II)が、前記第一金属酸化物膜を、前記第一導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成することを含む、プリント配線板の製造方法。
【請求項7】
樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、前記導体層の表面に形成された金属酸化物膜と、を備え、
前記導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
前記金属酸化物膜が、前記導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成されている、プリント配線板。
【請求項8】
前記金属酸化物膜が、面内方向に連続的に形成されている、請求項7に記載のプリント配線板。
【請求項9】
前記金属酸化物膜の前記絶縁層とは反対側の表面が、平滑である、請求項7に記載のプリント配線板。
【請求項10】
前記金属酸化物膜が、アルミナを含む、請求項7に記載のプリント配線板。
【請求項11】
前記金属酸化物膜の厚みが、100nm以上である、請求項7に記載のプリント配線板。
【請求項12】
第一樹脂材料を含む第一絶縁層と、前記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、前記第一導体層の表面に形成された第一金属酸化物膜と、前記第一金属酸化物膜上に形成され、第二樹脂材料を含む第二絶縁層と、前記第二絶縁層上に形成された第二導体層と、前記第二導体層の表面に形成された第二金属酸化物膜と、を備え、
前記第一導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
前記第一金属酸化物膜が、前記第一導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填する、プリント配線板。
【請求項13】
請求項7又は12に記載のプリント配線板を備える、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、一般に、配線として機能する導体層を備える。また、プリント配線板は、通常、導体層同士を絶縁するために、絶縁層を備える。この絶縁層は、樹脂成分を含むことがある。
【0003】
一般に、プリント配線板には、電子部品が設けられる。この電子部品は発熱しうるので、プリント配線板には、放熱性を高めることが望まれることがある。放熱性を高めるための技術として、放熱性フィラーを含む絶縁樹脂層をプリント配線板に設けることが提案されている。例えば、特許文献1には、放熱性フィラーとしてのアルミナ粉末を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物によって、プリント配線板に、絶縁性の接着剤層を形成することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-77123号公報
【特許文献2】特開2016-130350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のような放熱性フィラーを用いた絶縁樹脂層では、放熱性フィラーが樹脂中に分散しているので、放熱性フィラーと樹脂との界面が多い。通常、熱は、放熱性フィラーの内部を効率良く伝わることができるが、樹脂中は効率良く伝わることができない。よって、放熱性フィラーと樹脂との界面が多い従来の絶縁樹脂層では、効率的な熱伝導パスの形成ができないので、絶縁樹脂層全体としての放熱性能が十分に高くなかった。そこで、プリント配線板の放熱性能を高められる新たな技術の開発が求められる。
【0007】
また、特許文献2には、セラミック素材で形成されたセラミック基材を、前記セラミック素材と同様のセラミック素材でコーティングする技術が記載されている。しかし、特許文献2には、絶縁層のように樹脂成分を含む対象にコーティングを行うことの記載は無く、また、放熱性能に関する記載も無い。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、放熱性能に優れる新たなプリント配線板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、樹脂材料を含む絶縁層と当該絶縁層上に形成された導体層とを備える基材上に、エアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を形成することを含む方法で製造されたプリント配線板が、前記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
[1] 樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、
前記導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を形成する工程(II)と、
を含み;
前記導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
工程(II)が、前記金属酸化物膜を、前記導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成することを含む、プリント配線板の製造方法。
[2] 工程(II)が、前記金属酸化物膜を面内方向に連続的に形成することを含む、[1]に記載のプリント配線板の製造方法。
[3] 金属酸化物膜を研磨する工程(III)を含む、[1]又は[2]に記載のプリント配線板の製造方法。
[4] 前記金属酸化物膜が、アルミナを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
[5] 前記金属酸化物膜の厚みが、100nm以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
[6] 第一樹脂材料を含む第一絶縁層と、前記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、
前記第一導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって第一金属酸化物膜を形成する工程(II)と、
前記第一金属酸化物膜上に、第二樹脂材料を含む第二絶縁層を形成する工程(IV)と、
前記第二絶縁層上に、第二導体層を形成する工程(V)と、
前記第二導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって第二金属酸化物膜を形成する工程(VI)と、
を含み;
前記第一導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
工程(II)が、前記第一金属酸化物膜を、前記第一導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成することを含む、プリント配線板の製造方法。
[7] 樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、前記導体層の表面に形成された金属酸化物膜と、を備え、
前記導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
前記金属酸化物膜が、前記導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填するように形成されている、プリント配線板。
[8] 前記金属酸化物膜が、面内方向に連続的に形成されている、[7]に記載のプリント配線板。
[9] 前記金属酸化物膜の前記絶縁層とは反対側の表面が、平滑である、[7]又は[8]に記載のプリント配線板。
[10] 前記金属酸化物膜が、アルミナを含む、[7]~[9]のいずれか一項に記載のプリント配線板。
[11] 前記金属酸化物膜の厚みが、100nm以上である、[7]~[10]のいずれか一項に記載のプリント配線板。
[12] 第一樹脂材料を含む第一絶縁層と、前記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、前記第一導体層の表面に形成された第一金属酸化物膜と、前記第一金属酸化物膜上に形成され、第二樹脂材料を含む第二絶縁層と、前記第二絶縁層上に形成された第二導体層と、前記第二導体層の表面に形成された第二金属酸化物膜と、を備え、
前記第一導体層は、面内方向に間隙部を空けて複数個所に形成されていて;
前記第一金属酸化物膜が、前記第一導体層同士の間の間隙部の少なくとも一部を充填する、プリント配線板。
[13] [7]~[12]のいずれか一項に記載のプリント配線板を備える、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放熱性能に優れる新たなプリント配線板及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法で用意される処理前基材を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、一例に係る金属酸化物膜の形成装置を模式的に示す概略図である。
【
図3】
図3は、形成装置が備えるエアロゾル発生器を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(III)を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(IV)を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(VII)を説明するための模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(V)を説明するための模式的な断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(VI)を説明するための模式的な断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、変更例に係るプリント配線板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態及び例示物を示して、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に挙げる実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
[プリント配線板の製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、樹脂材料を含む絶縁層と、前記絶縁層上に形成された導体層と、を備える基材を用意する工程(I)と、導体層の表面にエアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を形成する工程(II)と、を含む。以下、工程(I)で用意される基材を「処理前基材」ということがある。
【0015】
[工程(I):処理前基材の用意]
本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、処理前基材を用意する工程(I)を含む。
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法で用意される処理前基材100を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、処理前基材100は、絶縁層110と、この絶縁層110上に形成された導体層120と、を備える。処理前基材100は、絶縁層110及び導体層120以外に任意の部材を備えていてもよく、例えば、内層基板130を備えていてもよい。なお、
図1では、内層基板130の片側のみに絶縁層110及び導体層120が形成された例を示すが、内層基板130の両側に絶縁層110及び導体層120が形成されていてもよい。
【0016】
絶縁層110は、電気絶縁性を有する層であり、樹脂材料を含む。樹脂材料が有機化合物であるから、絶縁層は、通常、有機化合物を含む有機絶縁層でありうる。前記の樹脂材料は、一般に、不揮発性の有機化合物である。絶縁層110に含まれる不揮発成分のうち、後述する無機成分以外の成分が、通常、この樹脂材料に分類される。
【0017】
絶縁層110は、一般に、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含み、好ましくは前記硬化物のみを含む。硬化性樹脂は、重合又は架橋等の反応によって結合を生じて、樹脂組成物を硬化させることができる。よって、絶縁層110の樹脂材料は、前記の硬化性樹脂の重合体及び架橋体等の反応生成物を含みうる。また、絶縁層110の樹脂材料は、未硬化の硬化性樹脂を含んでいてもよい。
【0018】
前記の硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよい。よって、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物であってもよい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、活性エステル系樹脂、シアネートエステル系樹脂、フェノール系樹脂、カルボジイミド系樹脂、酸無水物系樹脂、アミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、チオール系樹脂などが挙げられる。
【0019】
前記の硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であってもよい。よって、樹脂組成物は、光硬化性樹脂組成物であってもよい。光硬化性樹脂としては、例えば、ラジカル重合性樹脂が挙げられる。ラジカル重合性樹脂は、エチレン性不飽和結合を含むラジカル重合性基を有しうる。ラジカル重合性基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、3-シクロヘキセニル基、3-シクロペンテニル基、2-ビニルフェニル基、3-ビニルフェニル基、4-ビニルフェニル基等の不飽和炭化水素基;アクリロイル基、メタクリロイル基、マレイミド基(2,5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-イル基)等のα,β-不飽和カルボニル基等が挙げられる。光硬化性樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル樹脂、スチリル樹脂、プロペニル樹脂、及び、マレイミド樹が挙げられる。用語「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂及びその組み合わせを包含する。
【0020】
硬化性樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、硬化性樹脂として、熱硬化性樹脂と光硬化性樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0021】
樹脂組成物は、上述した硬化性樹脂に組み合わせて、更に任意の樹脂成分を含んでいてもよい。よって、絶縁層110の樹脂成分は、任意の樹脂成分を含んでいてもよい。任意の樹脂成分としては、例えば、硬化性樹脂の硬化反応の触媒として機能できる硬化促進剤(例えば、リン系硬化促進剤、ウレア系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤等);フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;ゴム粒子等の有機充填材;過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾ系ラジカル重合開始剤などのラジカル重合開始剤;着色剤、重合禁止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、紫外線吸収剤、接着性向上剤、密着性付与剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、界面活性剤、難燃剤、分散剤、安定剤、などが挙げられる。任意の樹脂成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
絶縁層110に含まれる樹脂成分の量の範囲は、配線の高密度化に対応する観点から、絶縁層100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。上限は、特に制限はなく、100質量%以下でありうる。また、樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対する当該樹脂組成物中の樹脂成分の量の範囲は、絶縁層110に含まれる樹脂成分の量の前記範囲と同じでありうる。
【0023】
樹脂組成物は、上述した樹脂成分に組み合わせて、更に無機成分を含んでいてもよい。よって、絶縁層110は、上述した樹脂成分に組み合わせて、更に無機成分を含んでいてもよい。無機成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
無機成分としては、例えば、無機化合物の粒子としての無機充填材が挙げられる。無機充填材に含まれる無機化合物としては、例えば、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、及びリン酸タングステン酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でもシリカ、アルミナが好適であり、シリカが特に好適である。シリカとしては、例えば、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられる。また、シリカとしては球形シリカが好ましい。
【0025】
無機充填材は、耐湿性及び分散性を高める観点から、フッ素含有シランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルコキシシラン、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で処理されていてもよい。表面処理剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0026】
導体層同士の間の狭い間隙への樹脂組成物の充填を円滑にして配線の高密度化に対応する観点から、無機充填材の平均粒径は小さいことが好ましい。例えば、内層基板130がその表面に基材導体層(図示せず。)を備える場合、基材導体層同士の間隔幅以下の平均粒径を有する無機充填材は、前記の間隙に円滑に進入できる。よって、前記の間隙への樹脂組成物の充填を円滑に行うことができる。ここで、「基材導体層」とは、内層基板130が備える導体層を表す。具体的には、無機充填材の平均粒径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。下限は、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上、0.5μm以上などでありうる。
【0027】
無機充填材の平均粒径は、ミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒径分布測定装置により、無機充填材の粒径分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材100mg、メチルエチルケトン10gをバイアル瓶に秤取り、超音波にて10分間分散させたものを使用することができる。測定サンプルを、レーザー回折式粒径分布測定装置を使用して、使用光源波長を青色及び赤色とし、フローセル方式で無機充填材の体積基準の粒径分布を測定し、得られた粒径分布からメディアン径として平均粒径を算出しうる。レーザー回折式粒径分布測定装置としては、例えば堀場製作所社製「LA-960」等が挙げられる。
【0028】
絶縁層110に含まれる無機充填材の量の範囲は、配線の高密度化に対応する観点から、絶縁層100質量%に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。下限は、特に制限はなく、0質量%であってもよく、0質量%より多くてもよい。また、樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対する当該樹脂組成物中の無機充填剤の量の範囲は、絶縁層110に含まれる無機充填剤の量の前記範囲と同じでありうる。
【0029】
エアロゾルディポジション法によって絶縁層110の表面110Uから金属酸化物膜が成長することを可能にして、金属酸化物膜の効率的な形成を達成する観点から、導体層120を形成された絶縁層110の表面110Uは、高い硬度を有することが好ましい。具体的は、エアロゾルガスに含まれる金属酸化物粉末の粒子が絶縁層110に衝突することによって絶縁層110の表面110Uに金属酸化物膜が形成される程度に、表面110Uの硬度が高いことが好ましい。例えば、樹脂成分の種類を調整したり、無機充填剤の量を調整したりすることによって、絶縁層110の表面110Uの硬度を高くできる。
【0030】
絶縁層110の厚みは、特に制限はないが、プリント配線板の薄型化の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。下限は、例えば、5μm以上、10μm以上等でありうる。
【0031】
導体層120は、導体材料で形成されている。このように導体材料を含むので、導体層120は、導電性を有することができる。導体材料は、通常、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムからなる群から選択される1種以上の金属を含む。また、導体層120は、単金属層であってもよく、合金層であってもよい。合金層としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金及び銅・チタン合金)から形成された層が挙げられる。中でも、導体層120の形成の汎用性、コスト、及びパターニングの容易性の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金、銅・チタン合金の合金層が好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層がより好ましく、銅の単金属層が更に好ましい。
【0032】
導体層120は、単層構造を有していてもよく、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層を2層以上備える複層構造を有していてもよい。導体層120が複層構造を有する場合、絶縁層110と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層であることが好ましい。
【0033】
導体層120は、面内方向に間隙部120Gを空けて複数個所に形成されている。すなわち、導体層120は、絶縁層110の表面110Uの複数個所に形成されていて、面内方向において、それら導体層120同士の間には間隙部120Gが形成されている。「面内方向」とは、別に断らない限り、厚み方向に垂直な方向を表す。
【0034】
好ましくは、導体層120がプリント配線板の配線形状に応じたパターンを有することができるように、導体層120にはパターン加工が施されている。ここで、導体層120のパターンとは、厚み方向から見た導体層120の形状を表す。パターン加工を施された導体層120は、プリント配線板の配線として機能しうる。導体層120によって形成される配線の高密度化の観点から、導体層120同士の間の最小の間隔幅は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。下限は、例えば、0.5μm以上でありうる。また、同様の観点から、導体層120の最小ライン/スペース比は、小さいことが好ましい。「ライン」とは、導体層の配線幅を表し、「スペース」とは配線間の間隔幅を表す。前記のスペースは、導体層120の間隙部120Gの面内方向の寸法に相当する。最小ライン/スペース比の範囲は、好ましくは10μm/10μm以下(即ち、ピッチが20μm以下)、より好ましくは5μm/5μm以下である。下限は、例えば、0.5μm/0.5μm以上でありうる。ピッチは、導体層120の全体にわたって均一でもよく、不均一でもよい。
【0035】
導体層120の厚みは、プリント配線板のデザインによるが、通常は2μm~35μm、好ましくは5μm~30μmである。
【0036】
処理前基材100は、必要に応じて、内層基板130を備えうる。内層基板130は、通常、プリント配線板の支持基材として機能できる。内層基板130としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。
【0037】
内層基板130には、必要に応じて、基材導体層(図示せず)が設けられていてもよい。基材導体層は、内層基板130の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよく、内部に設けられていてもよい。また、基材導体層は、パターン加工を施されていてもよい。配線の高密度化の観点から、基材導体層の最小ライン/スペース比は小さいことが好ましい。具体的には、基材導体層の最小ライン/スペース比の範囲は、導体層120の最小ライン/スペース比の範囲と同じであることが好ましい。
【0038】
本実施形態において、プリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層及び/又は導体層が形成されるべき中間製造物も、前記の「内層基板」130に包含される。また、内層基板130は、電子部品(図示せず)を内蔵していてもよい。
【0039】
処理前基材100は、市場から購入して用意してもよい。また、処理前基材は、製造によって用意してもよい。処理前基材100は、例えば、
(I-1)樹脂組成物層(図示せず。)を形成する工程、
(I-2)樹脂組成物層を硬化して、絶縁層110を形成する工程、及び、
(I-3)導体層120を形成する工程
を含む製造方法によって製造してもよい。工程(I-1)~工程(I-3)は、工程(I-1)、工程(I-2)及び工程(I-3)の順に行いうる。
【0040】
工程(I-1)において樹脂組成物層を形成する方法に制限はない。通常、工程(I-1)では、絶縁層110と同じ厚みの樹脂組成物層を形成する。
【0041】
例えば、樹脂組成物を内層基板130に塗布することにより、内層基板130上に樹脂組成物層を形成してもよい。具体例を挙げると、液状の樹脂組成物を、ディスペンサ、ダイコーター等の塗布装置を用いて内層基板130に塗布して、樹脂組成物層を形成してもよい。また、上述した樹脂組成物と、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテルエステル系溶剤、エステルアルコール系溶剤、エーテルアルコール系溶剤、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、ニトリル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等の有機溶剤とを混合して液状の樹脂組成物としての樹脂ワニスを調製し、その樹脂ワニスを内層基板130に塗布してもよい。溶剤を使用する場合、塗布の後に、必要に応じて乾燥を行ってもよい。
【0042】
また、例えば、樹脂シート(図示せず)を用いて樹脂組成物層を形成してもよい。通常、樹脂シートは、支持体と、該支持体上に設けられた樹脂組成物層と、を備える。樹脂組成物層は、樹脂組成物を含み、好ましくは樹脂組成物のみを含む。支持体は、例えば、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔が好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステルのフィルムが更に好ましい。支持体には、樹脂組成物層と接合する面に、マット処理、コロナ処理、帯電防止処理等の表面処理を施してあってもよい。また、支持体として、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。樹脂シートは、樹脂組成物層へのゴミの付着及びキズ付きを抑制する観点から、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)に、保護フィルムを備えていてもよい。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、樹脂シートは、通常、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。この樹脂シートは、例えば、液状の樹脂組成物をそのまま、或いは樹脂組成物と溶剤とを混合して液状の樹脂組成物を調製し、これを支持体上に塗布し、更に乾燥させて樹脂組成物層を形成させる方法により、製造できる。
【0043】
樹脂シートを用いる場合、例えば、内層基板130と樹脂シートとを積層することによって、内層基板130上に樹脂組成物層を形成してもよい。内層基板130と樹脂シートとの積層は、通常、内層基板130と樹脂シートの樹脂組成物層とが接合するように、行う。例えば、前記の積層は、支持体側から樹脂シートを内層基板130に加熱圧着することにより行ってもよい。樹脂シートを内層基板130に加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(SUS鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シートに直接プレスするのではなく、内層基板130の表面凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスすることが好ましい。
【0044】
内層基板130と樹脂シートとの積層は、真空ラミネート法により実施してもよい。真空ラミネート法において、加熱圧着温度は、好ましくは60℃~160℃、より好ましくは80℃~140℃の範囲であり、加熱圧着圧力は、好ましくは0.098MPa~1.77MPa、より好ましくは0.29MPa~1.47MPaの範囲であり、加熱圧着時間は、好ましくは20秒間~400秒間、より好ましくは30秒間~300秒間の範囲である。積層は、好ましくは圧力26.7hPa以下の減圧条件下で実施される。
【0045】
積層は、市販の真空ラミネーターによって行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアップリケーター、バッチ式真空加圧ラミネーター等が挙げられる。
【0046】
積層の後に、常圧下(大気圧下)、例えば、加熱圧着部材を支持体側からプレスすることにより、樹脂組成物層の平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理のプレス条件は、上記積層の加熱圧着の条件と同様の条件とすることができる。平滑化処理は、市販のラミネーターによって行うことができる。なお、積層と平滑化処理は、上記の市販の真空ラミネーターを用いて連続的に行ってもよい。
【0047】
樹脂シートの支持体は、工程(I-1)と工程(I-2)の間に除去してもよく、工程(I-2)の後に除去してもよい。
【0048】
工程(I-1)において樹脂組成物層を形成した後で、樹脂組成物層を硬化して、樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層110を形成する工程(I-2)を行う。樹脂組成物層の硬化は、熱硬化、光硬化などの、樹脂組成物に適した方法で行いうる。樹脂組成物層の具体的な硬化条件は、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して採用されうる条件を広く採用しうる。
【0049】
例えば、熱硬化性の樹脂組成物を用いる場合、樹脂組成物の硬化は、熱硬化として進行しうる。よってこの場合、工程(I-2)は、樹脂組成物層を熱硬化させることを含みうる。樹脂組成物層の熱硬化条件は、樹脂組成物の種類によっても異なりうる。例えば、硬化温度は、好ましくは120℃~240℃、より好ましくは150℃~220℃、さらに好ましくは170℃~210℃である。また、硬化時間は、好ましくは5分間~120分間、より好ましくは10分間~100分間、さらに好ましくは15分間~100分間である。
【0050】
樹脂組成物層を熱硬化させる場合、処理前基材100の製造方法は、樹脂組成物層の熱硬化の前に、樹脂組成物層を硬化温度よりも低い温度にて予備加熱することを含んでいてもよい。例えば、樹脂組成物層を熱硬化させるのに先立ち、通常50℃~150℃、好ましくは60℃~140℃、より好ましくは70℃~130℃の温度にて、樹脂組成物層を通常5分間以上、好ましくは5分間~150分間、より好ましくは15分間~120分間、さらに好ましくは15分間~100分間予備加熱してもよい。
【0051】
例えば、光硬化性の樹脂組成物を用いる場合、樹脂組成物の硬化は、光硬化として進行しうる。よってこの場合、工程(I-2)は、樹脂組成物層を光硬化させることを含みうる。樹脂組成物の光硬化条件は、樹脂組成物の種類によっても異なりうる。例えば、樹脂組成物層に活性光線を照射する露光処理によって、照射部の樹脂組成物層を光硬化させうる。活性光線としては、例えば、紫外線、可視光線、電子線、X線等が挙げられ、特に紫外線が好ましい。紫外線の照射量は、例えば、10mJ/cm2~1000mJ/cm2である。支持体を備える樹脂シートを用いた場合、支持体を通して露光を行ってもよく、支持体を剥離した後に露光を行ってもよい。
【0052】
露光処理では、パターンを形成されたマスクを通して樹脂組成物層に活性光線を照射してもよい。マスクを用いた露光方法には、マスクをワークに接触させて露光を行う接触露光法と、接触させずに平行光線を使用して露光を行う非接触露光法とがあり、どちらを用いてもよい。
【0053】
工程(I-2)は、露光処理の後に、現像処理を行うことを含んでいてもよい。現像処理によれば、樹脂組成物層の光硬化されていない部分(未露光部)を除去して、所望のパターンを有する絶縁層110を形成することができる。現像は、通常、ウェット現像により行う。ウェット現像において、現像液としては、例えば、アルカリ性水溶液、水系現像液、有機溶剤等の、安全かつ安定であり操作性が良好な現像液が用いられる。なかでも、アルカリ水溶液による現像工程が好ましい。現像方法としては、例えば、スプレー、揺動浸漬、ブラッシング、スクラッピング等の方法が採用されうる。
【0054】
樹脂組成物層を光硬化させる場合、光硬化及び現像の後で、必要に応じて、ポストベーク処理を行ってもよい。ポストベーク処理としては、例えば、高圧水銀ランプによる紫外線照射処理、クリーンオーブンを用いた加熱処理、などが挙げられる。紫外線照射処理は、例えば、0.05J/cm2~10J/cm2程度の照射量で行いうる。また、加熱処理は、例えば、好ましくは150℃~250℃で20分間~180分間の範囲、より好ましくは160℃~230℃で30分間~120分間の範囲で行いうる。通常、ポストベーク処理によれば、樹脂組成物の硬化を更に進行させることができる。
【0055】
処理前基材100の製造方法は、絶縁層110を形成する工程(I-2)の後で、その絶縁層110に穴あけする工程(I-4)を含んでいてもよい。工程(I-4)は、工程(I-3)より後に行ってもよいが、通常は工程(I-3)より前に行われる。工程(I-4)によれば、絶縁層110にビアホール、スルーホール等のホール(図示せず。)を形成することができる。ホールの形成は、絶縁層110の組成に応じて、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等を使用して実施してよい。ホールの寸法及び形状は、プリント配線板のデザインに応じて適宜決定してよい。
【0056】
処理前基材100の製造方法は、絶縁層110を形成する工程(I-2)の後で、その絶縁層110に粗化処理を施す工程(I-5)を含んでいてもよい。工程(I-5)は、通常、工程(I-3)より前に行われる。また、工程(I-5)は、通常、工程(I-4)より後に行われる。粗化処理によれば、絶縁層110の表面粗さを大きくすることができる。また、通常は、粗化処理によれば、工程(I-4)において生じうるスミア(樹脂残渣)の除去も行われる。
【0057】
粗化処理の手順、条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して使用されうる適切な手順、条件を採用することができる。例えば、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、及び、中和液による中和処理をこの順に実施して、絶縁層を粗化処理することができる。
【0058】
粗化処理に用いる膨潤液としては、例えば、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液である。該アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液がより好ましい。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン社製の「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」、「スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU」等が挙げられる。膨潤液による膨潤処理は、例えば、30℃~90℃の膨潤液に絶縁層を1分間~20分間浸漬することにより行うことができる。絶縁層の樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40℃~80℃の膨潤液に絶縁層を5分間~15分間浸漬させることが好ましい。
【0059】
粗化処理に用いる酸化剤としては、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。アルカリ性過マンガン酸溶液等の酸化剤による粗化処理は、60℃~100℃に加熱した酸化剤溶液に絶縁層を10分間~30分間浸漬させて行うことが好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は、5質量%~10質量%が好ましい。市販されている酸化剤としては、例えば、アトテックジャパン社製の「コンセントレート・コンパクトCP」、「ドージングソリューション・セキュリガンスP」等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
【0060】
粗化処理に用いる中和液としては、酸性の水溶液が好ましく、市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製の「リダクションソリューション・セキュリガントP」が挙げられる。中和液による処理は、酸化剤による粗化処理がなされた処理面を30℃~80℃の中和液に5分間~30分間浸漬させることにより行うことができる。作業性の観点から、酸化剤による粗化処理がなされた対象物を、40℃~70℃の中和液に5分間~20分間浸漬する方法が好ましい。
【0061】
工程(I-3)では、導体層120を形成する。導体層120の形成方法に特に制限はないが、めっき法が好ましい。めっき法を採用する場合、通常は、工程(I-2)において絶縁層110を形成した後で、その絶縁層110上に導体層120を形成する。
【0062】
めっき法を採用する場合、例えば、セミアディティブ法、フルアディティブ法等の公知の技術により絶縁層110の表面110Uにメッキして、所望の配線パターンを有する導体層120を形成することができる。製造の簡便性の観点から、セミアディティブ法が好ましい。以下、導体層120をセミアディティブ法により形成する例を示す。
【0063】
まず、絶縁層110の表面110Uに、無電解メッキによりメッキシード層を形成する。次いで、形成されたメッキシード層上に、所望の配線パターンに対応してメッキシード層の一部を露出させるマスクパターンを形成する。露出したメッキシード層上に、電解メッキによりメッキ導体層を形成した後、マスクパターンを除去する。その後、不要なメッキシード層をエッチング等の除去方法により除去して、所望の配線パターンを有する導体層120を形成することができる。
【0064】
[工程(II):金属酸化物膜の形成]
本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、工程(I)において処理前基材100を用意した後で、その処理前基材100の導体層120の表面120Uに金属酸化物膜を形成する工程(II)を含む。この工程(II)は、金属酸化物膜が導体層120同士の間の間隙部120Gの少なくとも一部を充填できるように、金属酸化物膜を形成することを含む。ここで、金属酸化物膜が間隙部120Gを「充填する」とは、間隙部120Gに特定範囲の被覆率で金属酸化物膜が形成されることをいう。具体的には、前記の被覆率の範囲は、面積基準で、通常50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上であり、特に好ましくは100%である。前記の被覆率は、間隙部120Gにある絶縁層110の表面110Uの面積100%に対する、その間隙部120Gに形成された金属酸化物膜の面積の割合を表す。被覆率は、超音波映像装置(日立パワーソリューションズ社製「FineSAT III」)による非破壊観察、もしくは、物理研磨後の表面観察により、測定できる。金属酸化物膜に充填された間隙部120Gにおいて、その金属酸化物膜は、間隙部120Gの厚み方向の一部に形成されていてもよいが、間隙部120Gの厚み方向の全体に形成されていることが好ましい。
【0065】
金属酸化物膜の形成は、エアロゾルディポジション法によって行う。エアロゾルディポジション法は、ガスによってエアロゾル化した原料粉末を対象部材に噴射して、対象部材の表面に被膜を形成する技術である。このエアロゾルディポジション法では、一般に、常温衝撃固化現象を利用して、対象部材の表面に被膜が形成される。詳細には、ガスにより加速された原料粉末の粒子の運動エネルギーが、対象部材の表面に衝突することにより局所的な熱エネルギーに変換され、部材-粒子間の結合、及び、粒子同士間の結合が形成されるので、被膜の形成が達成されると考えられる。ただし、前記のエアロゾルディポジション法の仕組みは、本発明の技術的範囲を制限するものでは無い。
【0066】
本実施形態では、原料粉末として金属酸化物粉末を用いてエアロゾルディポジション法を行うことにより、導体層120の表面120Uに金属酸化物膜を形成する。以下、エアロゾルディポジション法による金属酸化物膜の形成方法の例を、図面を示して説明する。
【0067】
図2は、一例に係る金属酸化物膜の形成装置10を模式的に示す概略図である。また、
図3は、形成装置10が備えるエアロゾル発生器40を拡大して模式的に示す断面図である。
図2に示すように、一例に係る金属酸化物膜の形成装置10は、処理前基材100を収納できるチャンバ20と、チャンバ20内を排気できる排気ポンプ30と、チャンバ20の外部に設けられたエアロゾル発生器40と、巻き上げガス及び搬送ガスの供給源としてのガスボンベ50と、を備える。
【0068】
チャンバ20内には、処理前基材100を設置できるステージ21と、ステージ21に設置された処理前基材100にエアロゾルガスを噴射できるノズル22と、が設けられている。ステージ21は、通常、当該ステージ21に設置された処理前基材100とノズル22との相対的な位置関係を調整できるように、位置調整可能に設けられる。また、ノズル22は、エアロゾル発生器40からエアロゾルガスを供給されることができるように、搬送管51によってエアロゾル発生器40に接続されている。通常、ノズル22は、ステージ21に対向するように設けられる。一例において、ノズル22の口径は、横幅1.0mm~200mm及び縦幅0.1mm~2.0mmが好ましく、横幅50mm~100mm及び縦幅0.1mm~0.5mmがより好ましい。必要に応じて、ステージ21とノズル22との間には、マスク(図示せず)が設けられていてもよい。マスクを介してノズル22からステージ21上の処理前基材100にエアロゾルガスを噴射する場合、マスクの形状に応じた処理前部材100上のエリアへ選択的にエアロゾルを噴射することが可能である。
【0069】
図3に示すように、エアロゾル発生器40内には、原料粉末としての金属酸化物粉末41が収納されている。また、エアロゾル発生器40には、ガスボンベ50からエアロゾル発生器40内に巻き上げガスを導入できる搬送管52、及び、ガスボンベ50からエアロゾル発生器40内に搬送ガスを導入できる搬送管53が接続されている。
【0070】
搬送管52は、当該搬送管52を通じてエアロゾル発生器40に導入された巻き上げガスによって金属酸化物粉末41を巻き上げることができるように、エアロゾル発生器40内に堆積した金属酸化物粉末41内に挿入されている。本実施形態では、搬送管52の先端に、搬送管52を通して導入される巻き上げガスを拡散できる拡散部材54が取り付けられた例を示して説明する。エアロゾル発生器40は、巻き上げガスにより金属酸化物粉末41を巻き上げてエアロゾルガスを生成できるように設けられている。
【0071】
搬送管53は、当該搬送管53を通じてエアロゾル発生器40内に導入された搬送ガスによってエアロゾルガスを搬送できるように、エアロゾル発生器40内に堆積した金属酸化物粉末41の上部に接続されている。本実施形態では、エアロゾル発生器40の上面に搬送管53が接続された例を示して説明する。
【0072】
エアロゾル発生器40には、ノズル22に接続された前記の搬送管51が接続されている。搬送管51は、エアロゾル発生器40内で生成したエアロゾルガスを導出できるように、エアロゾル発生器40内に堆積した金属酸化物粉末41の上部に接続されている。搬送管51を通じて導出されるエアロゾルガスの流量は、一般に、巻き上げガス流量及び搬送ガス流量の二系統により制御される。この際、搬送管51、52及び53は、それぞれ、エアロゾルガスの流速をできるだけ妨げない位置関係でエアロゾル発生器40に配置することが好ましい。具体的には、ノズル22に接続された搬送管51に対して、生成したエアロゾルガスの流速を妨げないように、巻き上げガスの搬送管52及び搬送ガスの搬送管53を離して設置することが好ましい。
【0073】
金属酸化物粉末41としては、導体層120の表面120Uに形成する金属酸化物膜が含むべき金属酸化物の粒子を用いうる。金属酸化物としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、酸化セリウム、酸化クロム;チタン酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス等のチタン酸塩;ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウム等のジルコン酸塩;Mg-Znフェライト、Mn-Znフェライト、Mn-Mgフェライト、Cu-Znフェライト、Mg-Mn-Srフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト、Ni-Cu-Zn-Mgフェライト、Baフェライト等のフェライト;などが挙げられる。金属酸化物は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0074】
上述したものの中でも、金属酸化物としては、高絶縁性酸化物が好ましい。高絶縁性酸化物とは、体積電気抵抗率が常温で1.0×108Ω・m~1.0×1017Ω・mの範囲にある酸化物をいう。高絶縁性酸化物としては、例えば、アルミナ、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、などが挙げられる。
【0075】
その中でも、金属酸化物としては、高い熱伝導率を有するものが好ましい。金属酸化物の具体的な熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上、より好ましくは15W/mK以上、更に好ましくは20W/mK以上である。このように高い熱伝導率を有することから、金属酸化物としては、アルミナが特に好ましい。よって、金属酸化物粉末41としては、アルミナの粒子を含む粉末を用いることが好ましい。
【0076】
金属酸化物粉末41の粒子の平均粒径の範囲は、好ましくは0.50μmより大きく、好ましくは1.5μmより小さい。金属酸化物粉末41が前記範囲の平均粒径を有する場合、体積電気低効率に優れる金属酸化物膜を形成できる。ここで、金属酸化物粉末41の粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径を表す。
【0077】
金属酸化物粉末41の粒子の形状は、特に制限はないが、扁平形状が好ましい。金属酸化物粉末41の粒子が扁平形状を有する場合、エアロゾル化した金属酸化物粉末41の粒子が導体層120の表面に堆積し易く、よって金属酸化物膜の形成速度を速くできる。具体的には、金属酸化物粉末41の粒子が、1.3より大きく100未満のアスペクト比を有する扁平形状を有することが好ましい。金属酸化物粉末41の粒子のアスペクト比は、粒子の厚さtと粒子の平均粒径D50とを用いて「D50/t」で表される。金属酸化物粉末41の粒子のアスペクト比は、実施例で説明する方法により測定できる。
【0078】
形成装置10を用いた金属酸化物膜の形成方法では、ガスボンベ50から供給される巻き上げガス及び搬送ガスをエアロゾル発生器40に導入してエアロゾルガスを生成し、そのエアロゾルガスをノズル22から処理前基材100に噴射して、金属酸化物膜を形成する。
【0079】
詳細には、
図2に示すように、チャンバ20内のステージ21に処理前基材100を設置する。この際、処理前基材100は、導体層120にエアロゾルガスを噴射できるようにするために、導体層120がノズル22と対向するように設定する。そして、必要に応じて排気ポンプ30によってチャンバ20内を排気して、チャンバ20内の圧力を調整する。チャンバ20内の圧力は、金属酸化物膜の形成ができる範囲で適切に設定してもよく、例えば、0.01kPa~10kPaでありうる。
【0080】
その後、ガスボンベ50から搬送管52を通してエアロゾル発生器40に巻き上げガスを導入する。巻き上げガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが挙げられる。巻き上げガスにより、金属酸化物粉末41が巻き上げられて、エアロゾル発生器40内でエアロゾルガスが生成される。巻き上げガスの流量は、金属酸化物膜の形成ができる範囲で適切に設定してもよく、好ましくは20SLM~120SLM、より好ましくは40SLM~60SLMである。「SLM」とは、別途断らない限り、「Standard Litter per Minutes」を意味し、1atm、0℃における流量(リットル)を表す。
【0081】
また、必要に応じて、ガスボンベ50から搬送管53を通してエアロゾル発生器40に搬送ガスを導入する。搬送ガスとしては、通常、巻き上げガスと同じものを用いうる。巻き上げガス及び搬送ガスにより、エアロゾル発生器40内で生成したエアロゾルガスが搬送管51を通じてノズル22へと送出される。搬送ガスの流量は、金属酸化物膜の形成ができる範囲で適切に設定してもよく、好ましくは0SLM~30SLMであり、より好ましくは20SLM~30SLMである。また、搬送ガス流量と巻き上げガス流量との比率(搬送ガス流量:巻き上げガス流量)は、好ましくは1:1.5~1:7であり、より好ましくは1:1.5~1:5.5である。
【0082】
搬送管51を通じてノズル22へと送られたエアロゾルガスは、ノズル22からステージ21上の処理前基材100へと噴射される。噴射されたエアロゾルガスに含まれる金属酸化物粉末が処理前基材100の導体層120の表面120Uに衝突して、金属酸化物膜(
図4の符号140参照)が形成される。形成される金属酸化物膜は、金属酸化物粉末41の粒子が結合した緻密な被膜でありうる。
【0083】
エアロゾルディポジション法では、原料粉末の粒子の運動エネルギーが衝突によって熱エネルギーに変換されることが求められるので、硬い面には被膜が形成されやすい一方、柔軟な面には被膜が形成され難い。一般に、導体材料が高い硬度を有するので、その導体材料で形成された導体層120の表面120Uは硬い。よって、導体層120の表面120Uには、エアロゾルディポジション法によって金属酸化物膜を容易に形成できる。詳細には、導体層120の表面120Uを起点として成長するように金属酸化物膜を形成することが可能である。また、絶縁層110の表面110Uが十分に高い硬度を有する場合、エアロゾルディポジション法によれば、導体層120の表面120Uだけでなく絶縁層110の表面110Uも起点として成長するように、金属酸化物膜を形成することができる。
【0084】
工程(II)は、前記の金属酸化物膜を、導体層120同士の間の間隙部120Gの少なくとも一部、好ましくは全体を充填するように形成することを含む。前記のように、金属酸化物膜は導体層120の表面120U又は絶縁層110の表面110Uを起点として成長するように形成されるから、処理前基材100へのエアロゾルガスの噴射量又は噴射時間を十分に多くして金属酸化物膜を十分に成長させることにより、導体層120同士の間の間隙部120Gを充填できる金属酸化物膜を形成できる。
【0085】
工程(II)は、金属酸化物膜を面内方向に連続的に形成することを含むことが好ましい。よって、金属酸化物膜は、面内方向において、断続的に形成されてもよいが、連続的に形成されることが好ましい。例えば、複数箇所の間隙部120Gを充填するように金属酸化物膜が形成されている場合、それらの間隙部120Gを充填する金属酸化物膜が繋がることで、金属酸化物膜が面内方向に連続的に形成されることが好ましい。また、例えば、複数箇所の導体層120を覆うように金属酸化物膜が形成されている場合、それらの導体層120を覆う金属酸化物膜が繋がることで、金属酸化物膜が面内方向に連続的に形成されることが好ましい。なかでも、処理前基板100の主面(絶縁層110の表面110U及び導体層120の表面120U)の全部又は大部分を覆うように、金属酸化物膜が面内方向に連続的に形成されていることが特に好ましい。
【0086】
エアロゾルガスの噴射は、ノズル22が処理前基材100を走査するように行ってもよい。例えば、ノズル22を固定してステージ21を移動させることによって、処理前基材100に対してノズル22を相対的に移動させて、ノズル22に処理前基材100を走査させてもよい。また、例えば、ステージ21を固定した状態でノズル22を移動させて、ノズル22に処理前基材100を走査させてもよい。この際、ノズル22の走査速度は、好ましくは200mm/min~400mm/min、より好ましくは250mm/min~350mm/minである。また、ノズル22の走査は、1回のみ行ってもよく、2回以上行ってもよい。
【0087】
図4は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板200を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、上述した工程(II)で金属酸化物膜140を形成することで、プリント配線板200が得られる。プリント配線板200は、絶縁層110、導体層120、及び、その導体層120の表面120Uに形成された金属酸化物膜140を備える。また、プリント配線板200は、内層基板130等の任意の部材を備えていてもよい。絶縁層110、導体層120及び任意の部材は、処理前基材100の説明で述べたものと同じでありうる。
【0088】
金属酸化物膜140は、上述した金属酸化物を含み、好ましくは金属酸化物のみを含む。また、金属酸化物膜140は、導体層120同士の間の間隙部120G(
図1参照)の少なくとも一部を充填するように形成されている。好ましくは、金属酸化物膜140は、面内方向に連続的に形成されている。
図4では、金属酸化物膜140が処理前基板100の主面の全体に形成された例を示すが、金属酸化物膜140は処理前基板100の主面の一部に形成されてもよい。従来のような絶縁樹脂層において放熱性フィラーが樹脂によって分断された不連続相を形成したことに対し、前記の金属酸化物膜140は連続相を形成できる。よって、相界面によって伝熱が遮られないので、金属酸化物膜140はその高い熱伝導率を活用して効率的な伝熱を達成でき、よって優れた放熱性能を達成できる。
【0089】
金属酸化物膜140の表面140Uは、平滑な平面であってもよく、凹凸のある凹凸面であってもよい。通常、金属酸化物膜140が導体層120の表面120Uを起点として成長し、更に絶縁層110の表面110Uを起点として成長しうるので、金属酸化物膜140の表面140Uは、それら表面120U及び110Uの面形状を反映した面形状を有しうる。よって、工程(II)で形成された金属酸化物膜140の表面140Uは、通常、凹凸のある凹凸面でありうる。
【0090】
金属酸化物膜140は、被膜の厚みを容易に大きくできるというエアロゾルディポジション法の利点を活用する観点から、厚いことが好ましい。金属酸化物膜140の具体的な厚みは、好ましくは100nm以上、より好ましくは500nm以上、更に好ましくは1μm以上、更に好ましくは3μm以上である。このように金属酸化物膜140が厚い場合、金属酸化物膜140の伝熱性を高められるので、プリント配線板の放熱性能を向上させることができる。厚みの上限は、特段の制限はなく、例えば、10μm以下などでありうる。
【0091】
[工程(III):研磨]
上述したように、工程(II)で形成される金属酸化物膜140の表面140Uは、通常、凹凸のある面形状を有する。そこで、本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、工程(II)において金属酸化物膜140を形成した後で、必要に応じて、金属酸化物膜140を研磨する工程(III)を含んでいてもよい。
図5は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(III)を説明するための模式的な断面図である。
図5に示すように、研磨によって金属酸化物膜140の表面140Uを平滑にできる。
【0092】
金属酸化物膜140の研磨方法としては、金属酸化物膜140を研磨することができる方法を用いることができる。このような研磨方法としては、例えば、CMP(化学的機械研磨)、バフ研磨、ベルト研磨等が挙げられる。中でも、CMPが好ましい。
【0093】
CMPでは、例えば、可撓性の研磨パッドと金属酸化物膜140の表面140Uとの間に研磨液を供給しながら、前記の研磨パッドを金属酸化物膜140に対して相対的に摺動させながら回転させて、研磨加工を行う。研磨液としては、好ましくは、アルカリ性のスラリーを用いる。スラリーのpHは、好ましくは、8以上10以下である。また、スラリーが含む粒子としては、例えば、アルミナ、コロイダルシリカ、セリア、ジルコニア等が挙げられる。スラリー中の粒子の平均粒径(一次平均粒子径)は、好ましくは0.1μm以下である。CMPによる研磨の際、均一な研磨を行う観点から、金属酸化物膜140の表面140Uに3kPa~20kPaの圧力を加えることが好ましい。
【0094】
研磨は、導体層120が露出するように行ってもよく、導体層120が露出しないように行ってもよい。導体層120が露出するように研磨を行った場合、
図5に示すように、金属酸化物膜140の表面140Uと導体層120の表面120Uとが面一な平面としてプリント配線板200の主面を形成しうる。複数の面が「面一」とは、別に断らない限り、それらの面が単一の平面を形成することをいう。このように導体層120が露出するように研磨を行った場合、この後の工程において導体層120と別の導体層(例えば、
図8に記載の第二導体層220)との層間接続を容易に実現できる。なお、導体層120が露出しないように研磨を行った場合、導体層120の絶縁層110に対して反対側の部分全体が金属酸化物膜140に覆われて絶縁されうるが、この場合でも、後述する穴あけ(工程(VII)参照)の際に金属酸化物膜140を除去できるので、層間接続は可能である。
【0095】
前記のように、研磨を行った場合、金属酸化物膜140の絶縁層110とは反対側の表面140Uは、平滑になることができる。よって、その金属酸化物膜140の表面140Uは、小さい表面粗さを有することができる。金属酸化物膜140の表面140Uの表面粗さは、例えば、算術平均粗さ(Ra)で150Å未満でありえ、最大高さで(Ry)で500Å未満でありえる。金属酸化物膜140の表面140Uの表面粗さは、原子間力顕微鏡によって測定しうる。
【0096】
研磨によれば、金属酸化物膜140の厚みは減少しうる。このように厚みが減少した後であっても、金属酸化物膜140は、上述した範囲の厚み(例えば、100nm以上)を有することが好ましい。
【0097】
[工程(IV):第二絶縁層の形成]
本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、更に絶縁層を形成する工程を含んでいてもよい。例えば、プリント配線板の製造方法は、金属酸化物膜140を形成した後に更に絶縁層を形成する工程を含んでいてもよい。以下、区別のため、上述した金属酸化物膜140を「第一金属酸化物膜」と呼ぶことがあり、また、その第一金属酸化物膜140の形成前に形成された絶縁層110及び導体層120をそれぞれ「第一絶縁層」及び「第一導体層」と呼ぶことがある。さらに、工程(III)で形成される絶縁層を「第二絶縁層」と呼ぶことがある。
【0098】
図6は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(IV)を説明するための模式的な断面図である。
図6に示すように、本実施形態に係る製造方法は、工程(II)において第一金属酸化物膜140を形成した後で、その第一金属酸化物膜140上に第二絶縁層210を形成する工程を含んでいてもよい。プリント配線板の製造方法が第一金属酸化物膜140を研磨する工程(III)を含む場合、工程(IV)は、通常、工程(III)の後で行われる。第二絶縁層210によれば、第一導体層120と後述する第二導体層(
図8参照)との間を厚み方向において絶縁できる。
【0099】
第二絶縁層210は、樹脂材料を含む。以下、第一絶縁層110が含む樹脂材料を「第一樹脂材料」ということがあり、第二絶縁層210が含む樹脂材料を「第二樹脂材料」ということがある。第一樹脂材料と第二樹脂材料とは、同一でもよく、異なっていてもよい。また、第二絶縁層210の材料としては、第一絶縁層110の材料として説明した範囲のものを用いてもよい。このとき、第一絶縁層110の材料と第二絶縁層210の材料とは、同一でもよく、異なっていてもよい。よって、第二絶縁層210は、硬化性樹脂を含む樹脂組成物の硬化物を含んでいてもよく、前記硬化物のみを含むことが好ましい。また、第二絶縁層210の表面210Uは、第一絶縁層110の表面110Uと同じく、硬度が高いことが好ましい。このような第二絶縁層210によれば、第一絶縁層110と同じ利点を得ることができる。第二絶縁層210の厚みの範囲は、第一絶縁層110の厚みの範囲と同じでありうる。
【0100】
第二絶縁層210は、例えば、第一絶縁層110と同じ方法によって形成できる。具体的には、第二絶縁層210は、
(IV-1)第一金属酸化物膜140上に樹脂組成物層(図示せず。)を形成する工程、及び、
(IV-2)樹脂組成物層を硬化して第二絶縁層210を形成する工程、
を含む方法によって形成してもよい。
【0101】
工程(IV-1)において樹脂組成物層を形成する方法に制限はなく、工程(I-1)と同じ方法によって樹脂組成物層を形成してもよい。よって、例えば、樹脂組成物を塗布することにより、第一金属酸化膜140上に樹脂組成物層を形成してもよい。また、例えば、樹脂シート(図示せず)を用いて樹脂組成物層を形成してもよい。具体例を挙げると、第一金属酸化物膜140と樹脂シートの樹脂組成物層とが接合するように、第一金属酸化物膜140と樹脂シートとを積層してもよい。また、積層の後に、樹脂組成物層の平滑化処理を行ってもよい。
【0102】
工程(IV-1)において樹脂組成物層を形成した後で、樹脂組成物層を硬化して、第二絶縁層210を形成する工程(IV-2)を行いうる。工程(IV-2)における樹脂組成物層の硬化は、第一絶縁層110を形成する工程(I-2)における樹脂組成物層の硬化と同じ方法によって行いうる。
【0103】
[工程(VII):穴あけ]
図7は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(VII)を説明するための模式的な断面図である。
図7に示すように、本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、第二絶縁層210を形成した後に、その第二絶縁層210に穴あけする工程(VII)を含んでいてもよい。工程(VII)によれば、第二絶縁層210にビアホール、スルーホール等のホール210Hを形成することができる。
図7では、ホール210Hとしてビアホールを形成した例を示す。ホール210Hの形成は、第一絶縁層110へのホールの形成方法と同じ方法を採用でき、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等を使用しうる。このようにホール210Hを形成した場合、当該ホール210Hの底部において、第一金属層120がホール210H内に露出できる。
【0104】
[工程(VIII):粗化処理]
本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、第二絶縁層210を形成した後に、その第二絶縁層210に粗化処理を施す工程(VIII)を含んでいてもよい。工程(VIII)は、通常、工程(VII)より後に行われる。工程(VIII)における粗化処理は、第一絶縁層110への粗化処理と同じ方法を採用しうる。
【0105】
[工程(V):第二導体層の形成]
図8は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(V)を説明するための模式的な断面図である。
図8に示すように、本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、第二絶縁層210上に導体層220を形成する工程(V)を含んでいてもよい。以下、工程(V)で形成される導体層220を「第二導体層」と呼ぶことがある。
【0106】
第二導体層220は、導体材料で形成される。第二導体層220の導体材料としては、第一導体層120の導体材料として説明した範囲のものを用いてもよい。このとき、第一導体層120の導体材料と第二導体層220の導体材料とは、同一でもよく、異なっていてもよい。また、第二導体層220は、第一導体層120と同じく、単層構造を有していてもよく、複層構造を有していてもよい。
【0107】
第二導体層220は、第二絶縁層210の表面210Uの全体に形成されていてもよいが、通常は絶縁層210の表面210Uの一部に形成されている。好ましくは、第二導体層220は、面内方向に間隙部220Gを空けて複数個所に形成されている。更に好ましくは、第二導体層220がプリント配線板の配線形状に応じたパターンを有することができるように、第二導体層220にはパターン加工が施されている。第二導体層220同士の間の最小の間隔幅の範囲は、好ましくは、第一導体層120同士の間の最小の間隔幅の範囲と同じである。また、第二導体層220の最小ライン/スペース比の範囲は、好ましくは、第一導体層120の最小ライン/スペース比の範囲と同じである。
【0108】
第二導体層220は、第二絶縁層210のホール210H内に形成されていてもよい。第二絶縁層210のホール210H内に第二導体層220が形成されている場合、第一導体層120と第二導体層220とが電気的に接続されうる。第二導体層220の厚みの範囲は、第一導体層120の厚みの範囲と同じでありうる。
【0109】
第二導体層220は、例えば、第一導体層120と同じ方法によって形成でき、メッキ法によって形成してもよい。第二導体層220を形成する場合、複数層の導体層120及び220を備える多層プリント配線板を得ることができる。
【0110】
[工程(VI):第二金属酸化物膜の形成]
図9は、本発明の一実施形態に係る製造方法における工程(VI)を説明するための模式的な断面図である。
図9に示すように、本発明の一実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、第二導体層220の表面220Uに金属酸化物膜240を形成する工程(VI)を含んでいてもよい。以下、工程(VI)で形成される金属酸化物膜240を「第二金属酸化物膜」と呼ぶことがある。
【0111】
工程(VI)は、好ましくは、第二金属酸化物膜240が第二導体層220同士の間の間隙部220Gの少なくとも一部を充填できるように、第二金属酸化物膜240を形成することを含む。具体的には、第一金属酸化物膜140が第一導体層120同士の間の間隙部120Gの少なくとも一部を充填するのと同様に、第二金属酸化物膜240が第二導体層220同士の間の間隙部220Gの少なくとも一部を充填することが好ましい。さらには、工程(VI)は、第二金属酸化物膜240を面内方向に連続的に形成することを含むことがより好ましく、プリント配線板200の主面(第二絶縁層210の表面210U及び第二導体層220の表面220U)の全部又は大部分を覆うように第二金属酸化物膜240を面内方向に連続的に形成することを含むことが特に好ましい。
【0112】
第二金属酸化物膜240の形成は、エアロゾルディポジション法によって行う。第二金属酸化物膜240の具体的な形成方法は、第一金属酸化物膜140の形成方法と同じ方法を採用してもよい。第一金属酸化物膜140の形成方法と同じ方法を採用する場合、第一金属酸化物膜140と同じ組成及び物性を有する第二金属酸化物膜240を形成できる。また、第二金属酸化物膜240の厚みの範囲は、第一金属酸化物膜140の厚みの範囲と同じでありうる。
【0113】
前記のように第二金属酸化物膜240を形成することにより、第一絶縁層110、第一導体層120、第一金属酸化物膜140、第二絶縁層210、第二導体層220及び第二金属酸化物膜240を備えるプリント配線板200が得られる。プリント配線板200は、内層基板130等の任意の部材を備えていてもよい。
【0114】
第二金属酸化物膜240の表面240Uは、平滑な平面であってもよく、凹凸のある凹凸面であってもよい。第一金属酸化物膜140の表面140Uと同じく、工程(VI)で形成された第二金属酸化物膜240の表面240Uは、通常、凹凸のある凹凸面でありうる。そこで、本発明の一実施形態に係る製造方法は、例えば、第二金属酸化物膜240を研磨する工程を含んでいてもよい。
図10は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板200を模式的に示す断面図である。研磨により、
図10に示すように、第二金属酸化物膜240の表面240Uを平滑にできる。第二金属酸化物膜240の研磨は、第一金属酸化物膜140の研磨と同様に行いうる。
【0115】
[任意の工程]
本発明の一実施形態に係る製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
【0116】
図11は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板200を模式的に示す断面図である。本発明の一実施形態に係る製造方法は、例えば、第二金属酸化物膜240上に第三絶縁層310を形成する工程を含んでいてもよい。第三絶縁層310は、封止層又はソルダーレジスト層として機能して、第二導体層220及び第二金属酸化物膜240を保護できる。第三絶縁層310は、例えば、第一絶縁層110及び第二絶縁層210と同様に形成できる。
【0117】
図12は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されるプリント配線板200を模式的に示す断面図である。本発明の一実施形態に係る製造方法は、例えば、放熱用の経路としての孔200Hを形成する工程を含んでいてもよい。本実施形態では、第一絶縁層110から第三絶縁層310までを貫通するサーマルビアを孔200Hの例に挙げて説明する。このような孔200Hによれば、プリント配線板200の放熱性能を更に高めることができる。また、孔200Hには、金属等の伝熱材料(図示せず)を充填してもよい。
【0118】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、例えば、上述した工程(III)、工程(IV)、工程(V)、工程(VI)、工程(VII)及び工程(VIII)を複数回繰り返し行うことを含んでいてもよい。これらの工程を複数回繰り返すことにより、3層以上の導体層を備える高度な多層構造を得ることができる。
【0119】
[変更例]
プリント配線板及びその製造方法は、上述した実施形態に示した例に限定されず、変更して実施してもよい。例えば、上述した実施形態では、第一導電層120及び第二導電層220が露出するように第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240を研磨した例を示したが、第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240の研磨は、第一導電層120及び第二導電層220が露出しないように行ってもよい。
【0120】
図13は、変更例に係るプリント配線板300を模式的に示す断面図である。
図13においては、
図1~
図12に示したものと同様の部位には、
図1~
図12と同様の符号を付して示す。
図13に示すように、第一導電層120及び第二導電層220が露出しないように第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240の研磨を行った場合、第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240は大きい厚みを有することができる。よって、第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240の伝熱性を向上させることができるので、プリント配線板300の放熱性能を高めることができる。
【0121】
[本実施形態に係る主な利点]
本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、導体層(第一導体層120及び第二導体層220等)上に金属酸化物膜(第一金属酸化物膜140及び第二金属酸化物膜240等)を備えたプリント配線板200及び300を製造できる。このプリント配線板200及び300によれば、従来のプリント配線板における有機絶縁層の一部を、樹脂材料よりも高い伝熱性を有する金属酸化物を含む金属酸化物膜140及び240で置き換えることができる。金属酸化物は、一般に、有機絶縁層に含まれる樹脂材料の数倍以上の熱伝導率を有することができる。したがって、金属酸化物膜140及び240によれば、厚み方向及び面内方向への伝熱性を高めることができるので、優れた放熱性能を有するプリント配線板200及び300を得ることができる。特に、上述した実施形態で説明した通り、金属酸化物膜140及び240が面内方向で連続的に形成されている場合、当該金属酸化物膜140及び240内を熱が効率良く伝わることができるので、特に優れた放熱性能を達成できる。
【0122】
単に放熱性能の向上のみの目的であれば、熱伝導率が特に高い金属粒子と樹脂材料とを含む接着剤層を形成することも考えられる。しかし、そのような接着剤層は絶縁性に劣るので、導電層120及び220上に設けることには適さない。これに対し、金属酸化物膜140及び240は、金属酸化物で形成されているので、高い電気絶縁性を有することができる。したがって、導電層120及び220に接するように金属酸化物膜140及び240が形成されていても、導電層120及び220の短絡は抑制される。また、一般に、有機絶縁層と導体層とが接している場合には導体層から金属原子が有機絶縁層に拡散して短絡を生じる可能性がありうるが、金属酸化物膜140及び240では、そのような金属原子の拡散は生じない。よって、金属酸化物膜140及び240によれば、通常、導電層120及び220間の絶縁信頼性を高めることが可能である。
【0123】
さらに、金属酸化物膜140及び240は、一般に、高い剛性を有することができる。したがって、金属酸化物膜140及び240によれば、プリント配線板200及び300の剛性を高めることができるので、通常は、プリント配線板200及び300の反りを抑制することができる。近年のプリント配線板は構造の複雑化、多機能化及び大型化が進行しており、反りの課題が顕著となっているので、プリント配線板の反りを抑制できることは有用であり、複数層の導電層を有する多層プリント配線板において特に有用である。例えば、電子部品と基板とを繋ぐためのオーガニックインターポーザでは、反りの影響を強く受ける傾向があるので、微細な配線形成が難しい傾向がある。この点、例えば、オーガニックインターポーザにプリプレグを設けて反りに対する耐性を高めることも考えうる。しかし、一般に、プリプレグは、ガラスクロスの方向によって電気特性及び物性に異方性を有するので、信号伝達の能力を低下させる懸念がある。これに対し、金属酸化物膜140及び240は、前記の懸念を避けながら反りを抑制することができる。したがって、上述した実施形態に係るプリント配線板200及び300をインターポーザ用途に適用した場合、反りを抑制して配線形成性及びハンドリング性を顕著に向上させられ、特に有用である。
【0124】
また、エアロゾルディポジション法によれば、金属酸化物膜140及び240を高速で形成できる。よって、金属酸化物膜140及び240は、容易に厚く形成することができる。例えば、一部のCVD(Chemical Vapor Deposition)法によれば、金属酸化物によって被膜を形成すること自体は可能である。しかし、CVD法は、一般に被膜形成速度が遅い。よって、工業生産の観点では、CVD法で形成できる被膜の厚みは一般には30nm以下であり、導体層120及び220の間隙部120G及び220Gを充填する金属酸化物膜を形成することは現実的でなかった。これに対し、上述した実施形態に係る製造方法によれば、厚い金属酸化物膜140及び240を速やかに形成できるから、放熱性能に優れたプリント配線板200及び300を短時間で製造することができる。
【0125】
さらに、エアロゾルディポジション法によれば、高温環境が不要であり、常温環境ないし低温環境によって金属酸化物膜140及び240を形成できる。よって、絶縁層110、210及び310に含まれる樹脂成分の熱劣化を抑制できる。また、処理前基材100の加熱によるクラックの発生を抑制できる。具体例を挙げると、第一絶縁層110、第一導体層120及び内層基板130は、一般に、異なる線熱膨張率を有しうる。このように異なる線熱膨張率を有する部材は、加熱時に異なる程度の熱膨張を生じ、その結果、クラックを発生しうる。しかし、高温環境が不要なエアロゾルディポジション法によれば、加熱自体が不要であるから、クラックの抑制が可能である。そして、前記のように樹脂成分の熱劣化及びクラックの発生を抑制できるから、上述した実施形態に係る製造方法によれば、プリント配線板の歩留まりの向上が可能である。この利点は、一般に300℃程度の高温環境が求められるCVD法と対比すると、明確に理解できる。
【0126】
また、エアロゾルディポジション法は、金属酸化物粉末を含むエアロゾルガスを噴射するというシンプルな方法によって金属酸化物膜140及び240を形成でき、更に、高度な真空環境は不要である。よって、シンプルな方法での金属酸化物膜140及び240の形成ができるから、プリント配線板200及び300の簡単な製造が可能である。
【0127】
[半導体装置]
上述したプリント配線板を用いて、半導体装置を製造できる。例えば、上述したプリント配線板の製造方法を含む方法により、半導体装置を製造できる。得られる半導体装置は、上述したプリント配線板を備える。半導体装置としては、例えば、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、スマートフォン、タブレット型デバイス、ウェラブルデバイス、デジタルカメラ、医療機器、及びテレビ等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられる。
【実施例0128】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、量を表す「部」及び「%」は、別途明示のない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。また、以下に説明する操作は、別途明示の無い限り、常温常圧(25℃1気圧)大気中で行う。また、以下の説明において、「L/S」は、別に断らない限り、ライン/スペース比を表す。
【0129】
[実施例1]
(1)基板の用意:
基板として、片面に銅層を積層したシリコンウェハ(銅箔の厚み1μm、基板厚み0.8mm、8インチサイズ)を用意する。この基板を130℃のオーブンに投入し、30分間乾燥する。
【0130】
(2)樹脂シートのラミネート:
フィルム状の支持体と、熱硬化性の樹脂組成物を含む樹脂組成物層と、保護フィルムと、をこの順に備える樹脂シートを用意する。樹脂シートから保護フィルムを剥がす。バッチ式真空加圧ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ社製の2ステージビルドアップラミネーター「CVP700」)を用いて、樹脂組成物層が基板と接するように、樹脂シートを基板の片面にラミネートする。ラミネートは、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とし、130℃、圧力0.74MPaにて45秒間圧着させることにより実施する。次いで、120℃、圧力0.5MPaにて75秒間熱プレスを行って、樹脂組成物層を平滑化する。以上の操作により、基板/樹脂組成物層/支持体の層構成を有する中間積層体Aを得る。
【0131】
(3)樹脂組成物層の熱硬化:
中間積層体Aを、100℃のオーブンに投入して30分間加熱し、次いで、180℃のオーブンに移し替えて30分間加熱して、樹脂組成物層を熱硬化させて第一絶縁層(厚み20μm)を形成する。その後、支持体を剥離して、基板/第一絶縁層の層構成を有する中間積層体Bを得る。
【0132】
(4)第一絶縁層の表面粗化:
中間積層体Bを、膨潤液(アトテックジャパン社のジエチレングリコールモノブチルエーテル含有のスウェリング・ディップ・セキュリガントP;グリコールエーテル類、水酸化ナトリウムの水溶液)に、60℃で5分間浸漬する。次に、中間積層体Bを、粗化液(アトテックジャパン社のコンセントレート・コンパクトP;KMnO4を60g/L、NaOHを40g/Lで含む水溶液)に、80℃で15分間浸漬する。その後、中間積層体Bを、中和液(アトテックジャパン社のリダクションショリューシン・セキュリガントP;硫酸の水溶液)に40℃で5分間浸漬する。さらに、80℃で30分乾燥する。以上の操作により、第一絶縁層の表面が粗化され、当該表面の表面粗さが向上する。
【0133】
(5)第一導体層の形成:
セミアディティブ法に従って、中間積層体Bの第一絶縁層の露出表面に第一導体層を形成する。具体的には、下記の操作を行う。
中間積層体Bの第一絶縁層の露出表面に、無電解メッキにより、メッキシード層を形成する。その後、中間積層体Bに、150℃にて30分間加熱するアニール処理を行う。次いで、メッキシード層上にレジスト層を形成し、露光及び現像によりレジスト層の一部を除去して、メッキシード層が露出した櫛刃パターン(L/S=1/1μm、線幅1mm)を形成する。さらに、硫酸銅電解メッキを行って、メッキシード層上に厚み2μmのメッキ導体層を形成する。その後、レジスト層を除去し、更に櫛刃パターン以外の部分のメッキシード層をエッチングにより除去し、200℃にて60分間加熱してアニール処理を行う。メッキシード層及びメッキ導体層の組み合わせによって第一導体層が形成されるので、基板/第一絶縁層/第一導体層の層構成を有する処理前基材が得られる。
【0134】
(6)エアロゾルディポジション法によるアルミナ被膜の形成:
処理前基材の第一導体層の表面に、特開2016-130350号公報の実施例2に従って、金属酸化物膜としてのアルミナ被膜を形成する。具体的には、下記の操作を行う。
【0135】
金属酸化物膜の材料として、Al2O3粉末を用意する。このAl2O3粉末は、粉砕法により平均粒径D50を調整した扁平状粉末であり、粉末粒子の平均粒径D50は0.52μm、アスペクト比D50/tは0.52μm/0.079μmである。粉末粒子の平均粒径は、粒径分布測定装置(Disperion Technology社製「DT1200」)を用いて体積基準の粒径分布を測定し、その粒径分布からメディアン径として平均粒径を測定する。また、粉末粒子の厚みtは、アクリル樹脂中に粉末を埋め込んだ後に研磨した試料を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、撮影した粉末粒子断面画像を解析することにより測定する。アスペクト比は、ランダムに選出した粉末粒子30個を測定し、その平均値から計算する。
【0136】
残留水分及び不純物を除去するために、Al2O3粉末に、300℃24時間の熱処理を施す。その後、エアロゾル発生器へAl2O3粉末を投入する。搬送ガスとしてN2ガス(流量:20SLM)、巻上げガスとしてN2ガス(流量:40SLM)を用いて、ノズルの走査速度:300mm/min、真空チャンバ圧力:1.0×10-2Pa、ノズル口径:100mm×0.3mmの条件の下で、処理前基材の第一導体層の表面へ、Al2O3粉末を含むエアロゾルガスの噴射を50回繰り返す。エアロゾルガスの噴射により、第一導体層の表面に、成膜速度0.23μm/分で金属酸化物膜としてのアルミナ被膜(厚み7.5μm)が形成される。アルミナ被膜の形成により、第一絶縁層及び第一導体層を覆うアルミナ被膜を備えたプリント配線板としての配線板Aを得られる。アルミナ被膜は、プリント配線板の面内方向の全体に連続的に形成され、第一導体層同士の間の間隙部を全て充填するとともに、第一導体層の上部にも形成される。
【0137】
形成されたアルミナ被膜の膜密度(相対密度)は3.3g/cm3である。アルミナ被膜の膜密度は、粉末の投入量、及び、アルミナ被膜の形成によるワークの重量変化(即ち、アルミナ被膜の形成前の処理前基材と、アルミナ被膜の形成後の配線板Aとの重量差)から計算する。
【0138】
形成されたアルミナ被膜の体積電気抵抗率は、2.78×1010Ω・cmである。アルミナ被膜の体積電気低効率は、別途Siウエハ上に同条件のもとでアルミナ被膜を形成し、その後、厚み約200nmのAg-対向電極(φ=2.0mm)をスパッタ法により形成し、その円形電極部分を利用して測定する。体積電気抵抗率は、Hewlett Packard社製High Resistance Meter(4339B)により、印加電圧100mV~10Vで測定する。
【0139】
(7)アルミナ被膜の研磨工程:
アルミナ被膜の表面をケミカルメカニカルポリッシング(CMP)によって研磨する。研磨は、第一導体層が露出する程度に行う。研磨により、第一導体層の露出面とアルミナ被膜の研磨面とを含む平滑な平面が形成される。
【0140】
(8)樹脂シートのラミネート:
前記の工程(2)と同じ樹脂シートを、工程(2)と同じ条件で、当該樹脂シートの樹脂組成物層がアルミナ被膜の研磨面と接するように、配線板Aの片面にラミネートする。次いで、前記の工程(2)と同じ条件で熱プレスを行って、樹脂組成物層を平滑化する。その後、前記の工程(3)と同じ条件で樹脂組成物層を熱硬化させて第二絶縁層(厚み20μm)を形成し、支持体を剥離して、基板/第一絶縁層/第一導体層/アルミナ被膜/第二絶縁層の層構成を有する配線板Bを得る。
【0141】
(9)開口の形成:
第二絶縁層にUVレーザー光を照射して、開口としてのビアホールを形成する。ビアホールの形成は、ビアメカニクス製「ND-1S211」を使用し、Tophat 1.10W、Mask径2.5mm、バーストサイクルモードで実施する。ビアホールは、第一導体層に連通する。このビアホールには、第二導体層を形成してもよい。また、このビアホールは、放熱のための孔(サーマルビア)として用いてもよい。
【0142】
前記の配線板Bは、樹脂材料よりも熱伝導率に優れるアルミナ被膜を有するので、優れた放熱性能を有することができる。また、アルミナ被膜が高い剛性を有するので、配線板Bは、反りを抑制することができる。