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  • 特開-撓み噛合い式歯車装置 図1
  • 特開-撓み噛合い式歯車装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072080
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240520BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182696
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真大
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA17
3J027FA37
3J027GB03
3J027GC08
3J027GC22
3J030BC01
3J030BC02
(57)【要約】
【課題】噛合歯車の低コスト化を図りつつ、噛合歯車の耐久性への影響を抑えることのできる撓み噛合い式歯車装置を提供する。
【解決手段】起振体12と、起振体12により撓み変形する撓み歯車14と、撓み歯車14と噛み合う噛合歯車16A、16Bと、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、噛合歯車16A、16Bは、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂により構成され、撓み歯車14は、第1樹脂よりも熱伝導率が高い第1高熱伝導材料により構成され、起振体12は、第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第2高熱伝導材料により構成される撓み噛合い式歯車装置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、
前記起振体により撓み変形する撓み歯車と、
前記撓み歯車と噛み合う噛合歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記噛合歯車は、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂により構成され、
前記撓み歯車は、前記第1樹脂よりも熱伝導率が高い第1高熱伝導材料により構成され、
前記起振体は、前記第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第2高熱伝導材料により構成される撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記起振体と前記撓み歯車との間に配置される起振体軸受を備え、
前記起振体軸受は、前記第1樹脂よりも熱伝導率が高い第3高熱伝導材料により構成され、
前記第2高熱伝導材料は、前記第3高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記噛合歯車に連結される被連結部材を備え、
前記被連結部材は、前記第1樹脂よりもガラス転移点の低い第2樹脂により構成される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記第1樹脂は、ガラス転移点が100℃以上である請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記第1高熱伝導材料は、前記第2高熱伝導材料よりもヤング率が大きい請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記撓み歯車の軸方向移動を規制する規制部材を備え、
前記規制部材は、前記第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第4高熱伝導率材料により構成される請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記第1高熱伝導材料は、鉄系材料とされ、
前記第2高熱伝導材料は、アルミニウム系材料とされる請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車装置の用途によっては歯車装置の軽量化を要請される場合がある。この要請に応えるため、特許文献1に開示の撓み噛み合い式歯車装置は、起振体により撓み変形する撓み歯車と、撓み歯車と噛み合う噛合歯車とを備え、樹脂により噛合歯車を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-155313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、撓み噛合い式歯車装置において、噛合歯車の低コスト化を図りつつ、噛合歯車の耐久性への影響を抑えるための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、噛合歯車の低コスト化を図りつつ、噛合歯車の耐久性への影響を抑えることのできる撓み噛合い式歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、前記起振体により撓み変形する撓み歯車と、前記撓み歯車と噛み合う噛合歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、前記噛合歯車は、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂により構成され、前記撓み歯車は、前記第1樹脂よりも熱伝導率が高い第1高熱伝導材料により構成され、前記起振体は、前記第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第2高熱伝導材料により構成される撓み噛合い式歯車装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、噛合歯車の低コスト化を図りつつ、噛合歯車の耐久性への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の歯車装置を示す側面断面図である。
図2図1の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
まず、本開示の歯車装置を想到するに至った背景から説明する。噛合歯車を樹脂により構成する場合、通常、歯車対(撓み歯車と噛合歯車)の噛み合いにより生じた熱が噛合歯車の耐久性に大きく影響を及ぼす。このため、熱の影響によらず十分な耐久性を得ることができるように、噛合歯車を構成する樹脂として、通常は耐熱性に非常に優れたPEEKが使用されている。また、噛合歯車をPEEKとした場合、通常は撓み歯車及び起振体を鋼により構成している。PEEKは、耐久性の観点からは最適である一方で、非常に高コストであるという問題がある。そこで、本願発明者は、噛合歯車の低コスト化を図りつつ、噛合歯車の耐久性への影響を抑えるためのアイデアを検討した。
【0011】
仮に、噛合歯車の低コスト化を図るために、PEEKよりも噛合歯車の耐熱性を単純に低くしてしまうと、歯車対の噛合部で生じた熱に起因して噛合歯車の耐久性を大きく損ない兼ねない。この対策として、本願発明者は、PEEKよりも噛合歯車の耐熱性を低くしつつ、撓み歯車よりも起振体の熱伝導率を高くすることが有効であるとの新たな発想を得た。これにより、起振体を撓み歯車と同じ熱伝導率にする場合と比べ、起振体を通して歯車対で生じた熱の熱伝導を促進することで、歯車対の熱を外部に逃がす抜熱性を高めることができるようになる。このように歯車対の抜熱性を高めることで、起振体を撓み歯車と同じ熱伝導率にする場合と比べ、歯車対の温度を低下させることができる。ひいては、噛合歯車の低コスト化のために噛合歯車の耐熱性を低くしたとしても、起振体を撓み歯車と同じ熱伝導率にする場合と比べ、熱に起因する噛合歯車の耐久性への影響を抑えることができるようになる。以下、このような新たな考えのもとで想到された実施形態の歯車装置の詳細を説明する。
【0012】
図1を参照する。撓み噛合い式歯車装置10(以下、単に歯車装置10ともいう)は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0013】
本実施形態では筒型の撓み噛合い式歯車装置10を説明する。この歯車装置10は、起振体12と、起振体12により撓み変形する撓み歯車14と、撓み歯車14と噛み合う噛合歯車16A、16Bと、起振体12と撓み歯車14との間に配置される起振体軸受18と、撓み歯車14の軸方向移動を規制する規制部材20と、を備える。この他に、歯車装置10は、ケーシング22と、起振体12を有する起振体軸24を支持する軸受26A、26Bと、軸受26A、26Bを支持する軸受ハウジング28A、28Bと、を備える。以下、起振体12の中心線C12に沿った方向を単に軸方向といい、その中心線C12を円中心とする半径方向及び円周方向を単に径方向及び周方向ともいう。また、説明の便宜から、軸方向一側(図1の紙面右側)を入力側といい、軸方向他側を反入力側という。
【0014】
歯車装置10は、外部の駆動源30(第1外部部材)から回転が入力される入力部材と、外部の被駆動部材32(第2外部部材)に回転を出力する出力部材と、外部の被固定部材34(第3外部部材)に固定される固定部材とを、備える。ここでは入力部材が起振体軸24(起振体12)、出力部材が軸受ハウジング28B、固定部材がケーシング22である例を説明する。駆動源30は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。被駆動部材32及び被固定部材34は、例えば、被駆動機械の一部となる。出力部材は、ボルト、リベット等の連結部材(不図示)を用いて被駆動部材32に連結される。固定部材は、ボルト、リベット等の連結部材を用いて被固定部材34に連結される。
【0015】
図2を参照する。起振体12は、起振体軸24の一部となる。起振体軸24は、起振体12の他に、起振体12の軸方向両側に設けられる軸部24aを備える。起振体軸24の中央部には軸方向に貫通するホロー部24bが形成される。起振体12の軸方向に直交する断面において、起振体12の撓み歯車14と径方向に対向する対向周部(ここでは外周部)の形状は楕円状をなし、軸部24aの対向周部の形状は円状をなす。ここでの「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0016】
撓み歯車14は、起振体12の回転に追従して撓み変形する可撓性を有する筒状部材である。撓み歯車14及び噛合歯車16A、16Bの一方は外歯歯車となり、他方は内歯歯車となる。ここでは撓み歯車14が外歯歯車であり、噛合歯車16A、16Bが内歯歯車となる例を説明する。
【0017】
噛合歯車16A、16Bは、起振体12の回転に追従して撓み変形しない程度の剛性を持つ。噛合歯車16A、16Bは、撓み歯車14の入力側部分の歯(外歯)と噛み合う第1噛合歯車16Aと、撓み歯車14の反入力側部分の歯(内歯)と噛み合う第2噛合歯車16Bとを含む。第1噛合歯車16Aは、撓み歯車14の歯数(例えば、100)とは異なる歯数(例えば、102)を持ち、第2噛合歯車16Bは、撓み歯車14の外歯数と同数の内歯数を持つ。
【0018】
起振体軸受18は、複数の転動体18aと、複数の転動体18aの位置を保持するリテーナ18bと、を備える。本実施形態の転動体18aはころである例を示すが、その具体例は特に限定されず、球体等の各種転動体を採用してもよい。本実施形態の起振体軸受18は、転動体18aが転動する専用の外輪18cを備える。この他にも、起振体軸受18は、専用の外輪18cを備えずに、転動体18aは、自身と径方向外側に対向する外側部材(ここでは撓み歯車14)の内周面を転動していてもよい。本実施形態の起振体軸受18は、転動体18aが転動する専用の内輪を備えておらず、転動体18aは、自身と径方向内側に対向する内側部材(ここでは起振体12)の外周面を転動する。この他にも、起振体軸受18は、転動体18aが転動する専用の内輪を備えていてもよい。本実施形態の起振体軸受18は、二列の外輪18c及び転動体18aを備える複列軸受である。
【0019】
本実施形態の規制部材20は、撓み歯車14の軸方向両側に個別に配置される。規制部材20は、撓み歯車14に対して軸方向から接触することで、その軸方向移動を規制する。本実施形態の規制部材20は、撓み歯車14に対して規制部材20とは軸方向反対側に配置される軸受26A、26Bと接触することで、その軸方向移動が規制される。
【0020】
本実施形態のケーシング22は、入力側ケーシング部材22aと反入力側ケーシング部材22bとを備える。入力側ケーシング部材22aと反入力側ケーシング部材22bとはボルト等の連結部材B1(図1参照)により連結される。入力側ケーシング部材22aは、第1噛合歯車16Aを兼ねており、被固定部材34に接触している。反入力側ケーシング部材22bは、第2噛合歯車16Bの径方向外側に配置される。ケーシング22と第2噛合歯車16Bとの間には主軸受36が配置される。主軸受36は玉軸受を示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等でもよい。
【0021】
軸受26A、26Bは、入力側に配置される第1軸受26Aと、反入力側に配置される第2軸受26Bとを備える。本実施形態の軸受26A、26Bは、複数の転動体26aと、複数の転動体26aが転動する専用の外輪26b及び内輪26cとを備える。軸受26A、26Bは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受等の各種軸受でもよい。
【0022】
軸受ハウジング28A,28Bは、第1軸受26Aを支持する第1軸受ハウジング28Aと、第2軸受26Bを支持する第2軸受ハウジング28Bとを含む。第1軸受ハウジング28Aは、撓み歯車14に対して軸方向入力側に配置され、撓み歯車14を入力側から覆っている。第1軸受ハウジング28Aは、ボルト等の連結部材B2により第1噛合歯車16Aと連結される。第2軸受ハウジング28Bは、撓み歯車14に対して軸方向反入力側に配置され、撓み歯車14を反入力側から覆っている。第2軸受ハウジング28Bは、ボルト等の連結部材B3(図1参照)により第2噛合歯車16Bと連結される。
【0023】
本実施形態の歯車装置10の動作を説明する。起振体12が回転すると、起振体12の形状に合わせた楕円状をなすように撓み歯車14が撓み変形する。このように撓み歯車14が撓み変形すると、撓み歯車14と噛合歯車16A、16Bの噛合位置が起振体12の回転方向に変化する。このとき、異なる歯数を持つ撓み歯車14と第1噛合歯車16Aの噛合位置が一周する毎に、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では撓み歯車14)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材により取り出される。本実施形態において、撓み歯車14と第2噛合歯車16Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、撓み歯車14の自転成分は、撓み歯車14と同期する第2噛合歯車16Bを通して、出力部材としての第2軸受ハウジング28Bにより取り出される。このとき、起振体12に入力された入力回転に対して、撓み歯車14と第1噛合歯車16Aの歯数差に応じた変速比で変速(ここでは減速)された出力回転が出力部材により取り出される。
【0024】
ここで、噛合歯車16A、16Bは第1樹脂により構成される。これにより、噛合歯車16A、16Bの軽量化を図ることができる。この条件を満たすうえで、本実施形態の噛合歯車16A、16Bはベース樹脂(第1樹脂)と他素材を用いた樹脂複合材料によって構成される。これにより、噛合歯車16A、16Bの高強度化を図ることができる。この他にも、噛合歯車16A、16Bは、第1樹脂のみを用いた樹脂単一材料によって構成されてもよい。本実施形態の噛合歯車16A、16Bは、樹脂複合材料として、ベース樹脂に強化繊維を含有させた繊維強化樹脂によって構成される。本実施形態において噛合歯車16A、16Bの強化繊維は熱伝導率に優れた炭素繊維を採用している。この他にも、噛合歯車16A、16Bの強化繊維は、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等の各種強化繊維を採用してもよい。
【0025】
樹脂の耐熱性の指標となる値としてガラス転移点(ガラス転移温度:Tg)が知られる。ここでのガラス転移点とは、樹脂のガラス状態とゴム状態との境界となる値をいう。このガラス転移点は、例えば、JIS K7121に準拠した示差走査熱量測定により測定される。
【0026】
PEEKのガラス転移点は、そのグレードにもよるが、143℃~160℃の範囲となる。噛合歯車16A、16Bは、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂により構成されることを条件としている。これは、噛合歯車16A、16Bが、PEEKよりも耐熱性の低い第1樹脂により構成されることを意味する。この140℃未満という条件は、PEEKのガラス転移点と比べて、少なくともある程度ガラス転移点が低くなることを、目安となる数値を用いて規定したものである。この条件を満たすうえで、噛合歯車16A、16Bが樹脂複合材料によって構成される場合、ベース樹脂(第1樹脂)のガラス転移点が140℃未満であればよい。また、噛合歯車16A、16Bが樹脂単一材料によって構成される場合、その噛合歯車16A、16Bを構成する単一の樹脂(第1樹脂)そのもののガラス転移点が140℃未満であればよい。この樹脂複合材料、樹脂単一材料に応じたガラス転移点の取り扱いは、後述する第2樹脂の場合も同様である。
【0027】
本実施形態ではガラス転移点が140℃未満となる第1樹脂として半芳香族ポリアミドを採用している。半芳香族ポリアミドを用いた場合、その組成にもよるが、ガラス転移点Tgを90℃~135℃の範囲にすることができる。例えば、ポリアミド6T/6-6(C6ジアミン/アジピン酸/テレフタル酸の共重合体、Tg:90℃~110℃)、ポリアミド6T/6I(C6ジアミン/イソフタル酸/テレフタル酸の共重合体、Tg:125℃程度)、ポリアミド6T/6I/6-6(C6ジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/テレフタル酸の共重合体、Tg:120℃程度)、ポリアミド6T/M-5T(C6ジアミン/メチルベンタン/ジアミン/テレフタル酸の共重合体、Tg:135℃程度)、ポリアミド9T(C9ジアミン/テレフタル酸の共重合体、Tg:125℃程度)等の半芳香族ポリアミドを採用してもよい。この他にも、ガラス転移点を140℃未満にするうえで、ポリアミド6(PA6、Tg:50℃程度)、ポリアミド66(PA66、Tg:50℃程度)、ポリエチレンテレフタレート(PET、Tg:70℃程度)、ポリ塩化ビニル(PVC、Tg:80℃程度)、ポリスチレン(PS、Tg:100℃程度)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、Tg:70℃程度)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Tg:88℃程度)等の樹脂を採用してもよい。ここで挙げた樹脂は第1樹脂の一例に過ぎず、ガラス転移点を140℃未満とすることができれば、これ以外の各種樹脂を第1樹脂として採用してもよい。
【0028】
第1樹脂のガラス転移点の下限値は特に限定されないものの、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは90℃以上であり、より一層好ましくは100℃以上である。本実施形態の歯車装置10において、ガラス転移点の下限値が80℃である場合、歯車対の温度上昇が低くなる用途であれば、熱に起因する耐久性への影響をPEEKを用いた場合と同程度に抑えることができる。ここでの温度上昇が低くなる用途とは、運転条件(連続運転時間等)、負荷の厳しくない用途をいう。ガラス転移点の下限値が90℃である場合、PEEKによって実現できる多くの用途で用いても、熱に起因する耐久性への影響をPEEKを用いた場合と同程度に抑えることができる。ガラス転移点の下限値が100℃以上である場合、PEEKによって実現できる大半の用途で用いても、熱に起因する耐久性への影響をPEEKを用いた場合と同程度に抑えることができる。
【0029】
撓み歯車14、起振体12及び起振体軸受18のそれぞれは、噛合歯車16A、16Bの第1樹脂よりも熱伝導率(W/(m・K))が高い高熱伝導材料により構成される。撓み歯車14は第1高熱伝導材料により構成され、起振体12は第2高熱伝導材料により構成され、起振体軸受18は第3高熱伝導材料により構成される。第2高熱伝導材料は、第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。第2高熱伝導材料は、第3高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。第1高熱伝導材料は、第2高熱伝導材料よりもヤング率(N/mm2)が大きくなる。第3高熱伝導材料は、第2高熱伝導材料よりもヤング率が大きくなる。
【0030】
このような条件を満たす素材として、例えば、第1高熱伝導材料は、ニッケルクロムモリブデン鋼、第2高熱伝導材料はアルミニウム合金、第3高熱伝導材料は高炭素クロム軸受鋼により構成される。つまり、第1、第3高熱伝導材料は鋳鉄、鋼等の鉄系材料により構成され、第2高熱伝導材料はアルミニウム系材料により構成される。ここでの鉄系材料、アルミニウム系材料は、言及している金属を主成分とする材料をいい、その金属のみからなる材料のほか、その金属を主成分とする合金を含む。
【0031】
ここで説明する熱伝導率の高低関係を満たしていれば、各高熱伝導材料の具体例は特に限定されない。例えば、第1、第3高熱伝導材料を鉄系材料、クロム等により構成し、第2高熱伝導材料を鉄系材料、アルミニウム系材料、銅、銀、金等により構成してもよい。このように高熱伝導材料を金属とした場合、各高熱伝導材料は、例えば、撓み歯車14の第1樹脂に対して10.0倍以上の熱伝導率となる。また、第1~第3高熱伝導材料のそれぞれを各種金属により構成してもよいし、いずれか一つ以上を樹脂、他を金属により構成してもよいし、全てを樹脂により構成してもよい。このように高熱伝導材料を金属(鉄系材料、アルミニウム系材料等含む)等の素材により構成するうえで、言及している素材により主素材が構成されていればよく、主素材(金属等)と他素材との複合材料(例えば、繊維強化金属)により構成してもよい。
【0032】
本実施形態では起振体12を含む起振体軸24の全体が第2高熱伝導材料により構成される。起振体軸受18を第3高熱伝導材料により構成するうえでは、起振体軸受18の構成部材のうち、起振体12及び撓み歯車14とは別体の構成部材(ここでは転動体18a、リテーナ18b,外輪18c)が第3高熱伝導材料により構成されていればよい。このとき、起振体軸受18の複数の構成部材は互いに異なる熱伝導率の第3高熱伝導材料により構成されていてもよい。この場合でも、異なる熱伝導率の第3高熱伝導材料のそれぞれより第2高熱伝導材料の熱伝導率が高くなっていればよい。また、歯車対の噛合部で生じた熱の伝達に寄与するのは、主として転動体18aおよび外輪18cであるから、リテーナ18bの素材は重要ではない。よって、起振体軸受18を第3高熱伝導材料により構成するうえでは、少なくとも転動体18a及び外輪18cを第3高熱伝導材料により構成し、リテーナ18bは、例えば、熱伝導率の低い樹脂により構成してもよい。
【0033】
以上の歯車装置10の効果を説明する。噛合歯車16A、16Bは、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂、つまり、ガラス転移点が143℃~160℃の範囲となるPEEKよりも耐熱性の低い第1樹脂により構成される。よって、PEEKを用いる場合と比べて、使用できる安価な素材の選択肢を広げることができ、安価な素材を選択することで噛合歯車16A、16Bの低コスト化を図ることができるようになる。なお、このような「低コスト化を図る」という課題を達成するうえでは、使用できる安価な素材の選択肢を広げることで、PEEKを用いる場合と比べて低コスト化の実現難易度を低くできれば足り、低コスト化の実現そのものは必須とはならない。
【0034】
また、起振体12は、撓み歯車14を構成する第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第2高熱伝導材料により構成される。これにより、起振体12を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合と比べ、起振体12を通して歯車対で生じた熱の熱伝導を促進でき、歯車対の熱を外部に逃がす抜熱性を高めることができる。このとき、歯車対で生じた熱は、例えば、撓み歯車14→起振体軸受18→起振体12の順に熱伝導したうえで、外部の駆動源30(第1外部部材)に熱伝導により逃がしたり、起振体12の周囲の外部空間への放熱により逃がすことができる。このように歯車対の抜熱性を高めることで、起振体12を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合と比べ、歯車対(つまり、噛合歯車16A、16B)の温度を低下させることができる。ひいては、噛合歯車16A、16Bの耐熱性を低くしたとしても、起振体12を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合と比べ、熱に起因する噛合歯車16A、16Bの耐久性への影響を抑えることができるようになる。この結果、噛合歯車16A、16Bの低コスト化を図りつつ、噛合歯車16A、16Bの耐久性への影響を抑えることができるようになる。以上のように、本実施形態の歯車装置10は、「噛合歯車16A、16Bを、ガラス転移点が140℃未満の第1樹脂により構成する」こと、「撓み歯車14を、噛合歯車16A、16Bの第1樹脂よりも熱伝導率が高い第1高熱伝導材料により構成する」こと、および「起振体12を、撓み歯車14を構成する第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高い第2高熱伝導材料により構成する」ことの全てを同時に一体不可分に備えることにより、上述した顕著な効果を実現したものである。
【0035】
なお、本明細書において、「AをBと同じ物性(熱伝導率、ヤング率等)にする場合と比べ」というとき、比較対象となる二つの場合(例えば、AをBよりも高い熱伝導率にする場合と、AをBと同じ熱伝導率にする場合)の間で、歯車装置10の各構成部材の物性は、A以外は同じとなる。例えば、前段落に記載の「起振体12を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合と比べ」というとき、起振体12を撓み歯車14よりも高い熱伝導率にする場合と、起振体12を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合とで、歯車装置10の各構成部材の熱伝導率は、起振体12以外は同じということである。
【0036】
起振体12を構成する第2高熱伝導材料は、起振体軸受18を構成する第3高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。よって、起振体12を起振体軸受18と同じ熱伝導率にする場合と比べ、起振体12を通して歯車対で生じた熱の熱伝導を更に促進でき、歯車対の熱を外部に逃がす抜熱性を更に高めることができる。ひいては、熱に起因する噛合歯車16A、16Bの耐久性への影響を更に抑えることができるようになる。
【0037】
撓み歯車14を構成する第1高熱伝導材料は、起振体12を構成する第2高熱伝導材料よりもヤング率が大きくなる。よって、第1高熱伝導材料を第2高熱伝導材料と同じヤング率にする場合と比べ、第1高熱伝導材料の強度を確保でき、撓み歯車14の耐久性を高めることができる。
【0038】
次に、実施形態の歯車装置10の他の特徴を説明する。歯車装置10は、連結部材B2、B3により噛合歯車16A、16Bに連結される被連結部材40A、40Bを備える。被連結部材40A、40Bは、第1連結部材B2により第1噛合歯車16Aに連結される第1被連結部材40Aと、第2連結部材B3により第2噛合歯車16Bに連結される第2被連結部材40Bとを含む。本実施形態の連結部材B2、B3はボルトであるが、その具体例は特に限定されず、リベット等でもよい。本実施形態の第1被連結部材40Aは第1軸受ハウジング28Aであり、第2被連結部材40Bは第2軸受ハウジング28Bである。被連結部材40A、40Bの具体例は特に限定されず、軸受26A、26Bを支持せずに撓み歯車14を覆うカバー等でもよい。
【0039】
第1被連結部材40Aは、第1噛合歯車16Aを構成する第1樹脂よりもガラス転移点の低い第2樹脂により構成される。第2被連結部材40Bは、第2噛合歯車16Bを構成する第1樹脂よりもガラス転移点の低い第2樹脂により構成される。これを実現するうえで、第1樹脂のガラス転移点を50℃以上とし、第2樹脂のガラス転移点を50℃未満としてもよい。このようなガラス転移点の条件を満たす第2樹脂として、前述した各種樹脂の他にも、ポリエチレン(PE、Tg:-125℃)、ポリプロピレン(PP、Tg:0℃)、ポリアセタール(POM、Tg:-50℃)等を採用してもよい。これにより、第2樹脂を第1樹脂と同じガラス転移点とする場合と比べて、使用できる安価な素材の選択肢を広げることができ、安価な素材を選択することで歯車装置10の低コスト化を図ることができる。
【0040】
なお、第1噛合歯車16A及び第2噛合歯車16Bのそれぞれを構成する第1樹脂は同じ樹脂により構成されてもよいし、異なる樹脂により構成されてもよい。同様に、第1被連結部材40A及び第2被連結部材40Bのそれぞれを構成する第2樹脂は同じ樹脂により構成されてもよいし、異なる樹脂により構成されてもよい。
【0041】
本実施形態において、規制部材20及び軸受26A、26Bのそれぞれも、噛合歯車16A、16Bの第1樹脂よりも熱伝導率が高い高熱伝導材料により構成される。規制部材20は第4高熱伝導材料により構成され、軸受26A、26Bは第5高熱伝導材料により構成される。
【0042】
第4高熱伝導材料は、撓み歯車14を構成する第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。また、第4高熱伝導材料は、起振体軸受18を構成する第3高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。また、起振体12を構成する第2高熱伝導材料は、第5高熱伝導材料よりも熱伝導率が高くなる。第1高熱伝導材料及び第3高熱伝導材料は、第4高熱伝導材料よりもヤング率が大きくなる。第5高熱伝導材料は、第2高熱伝導材料及び第4高熱伝導材料よりもヤング率が大きくなる。このような条件を満たす素材として、例えば、第4高熱伝導材料はアルミニウム系材料、第5高熱伝導材料は高炭素クロム軸受鋼等の鉄系材料により構成される。ここで説明する熱伝導率の高低関係を満たしていれば、前述と同様、各高熱伝導材料の具体例は特に限定されない。規制部材20を第4高熱伝導材料により構成するうえで、撓み歯車14との摺動箇所において規制部材20に耐摩耗コーティングが設けられていてもよい。この耐摩耗コーティングは、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト等を被膜とする。
【0043】
このように規制部材20を構成する第4高熱伝導材料は、撓み歯車14を構成する第1高熱伝動材料よりも熱伝導率が高くなる。よって、規制部材20を撓み歯車14と同じ熱伝導率にする場合と比べ、規制部材20を通して歯車対で生じた熱の熱伝導を促進でき、歯車対の熱を外部に逃がす抜熱性を更に高めることができる。ひいては、熱に起因する噛合歯車16A、16Bの耐久性への影響を更に抑えることができるようになる。このとき、歯車対で生じた熱は、例えば、撓み歯車14→規制部材20→軸受26A、26B→起振体軸24の順に熱伝導したうえで、前述と同様に外部に逃がすことができる。
【0044】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0045】
撓み噛合い式歯車装置10の具体的な種類は特に限定されず、筒型の他、カップ型、シルクハット型でもよい。外歯歯車に替えて内歯歯車を撓み歯車14とし、内歯歯車に替えて外歯歯車を噛合歯車16A、16Bとしてもよい。軸受ハウジング28A、28Bに替えてケーシング22を出力部材とし、ケーシング22に替えて軸受ハウジング28A、28Bを固定部材としてもよい。歯車装置10は減速装置として機能する例を説明した。この場合、起振体12が入力部材、軸受ハウジング28A、28B又はケーシング22が出力部材となってもよい。この他にも、歯車装置10は増速装置として機能してもよい。この場合、起振体12が出力部材、軸受ハウジング28A、28B又はケーシング22が入力部材となってもよい。
【0046】
撓み歯車14の第1高熱伝導材料よりも起振体12の第2高熱伝導材料の熱伝導率が高いという条件を満たしていれば、他の各高熱伝導材料の熱伝導率の高低関係は特に限定されない。例えば、起振体12の第2高熱伝導材料は、起振体軸受18の第3高熱伝導材料よりも熱伝導率が低くともよい。また、規制部材20の第4高熱伝導材料は、第1高熱伝導材料よりも熱伝導率が低くともよい。
【0047】
同様に、各高熱伝導材料のヤング率の高低関係も特に限定されない。例えば、第1、第3高熱伝導材料は、第2高熱伝導材料よりもヤング率が小さくともよい。
【0048】
被連結部材40A、40Bを構成する第2樹脂のガラス転移点は特に限定されず、第1樹脂よりも高いガラス転移点であってもよい。
【0049】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。
【符号の説明】
【0050】
10…撓み噛合い式歯車装置、12…起振体、14…撓み歯車、16A、16B…噛合歯車、18…起振体軸受、20…規制部材、24…起振体軸。
図1
図2