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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072081
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】インクジェットシステム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240520BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20240520BHJP
   G16Y 40/35 20200101ALI20240520BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J29/38 301
G16Y40/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182699
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智良
(72)【発明者】
【氏名】村山 寿郎
(72)【発明者】
【氏名】宮岸 暁良
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸朗
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
【Fターム(参考)】
2C056EB08
2C056EB38
2C056EB39
2C056EB40
2C056EC07
2C056EC23
2C056EC41
2C056EC54
2C056EC57
2C056EC79
2C056ED01
2C056FA04
2C056JC21
2C056JC23
2C061AQ05
2C061HJ01
2C061HK23
2C061HN05
2C061HN15
2C061HP00
2C061HQ01
2C061HV01
2C061HV60
(57)【要約】
【課題】補正処理を実行しつつ、処理装置及び記録装置にかかる負荷を低減させること。
【解決手段】インクを吐出するヘッドユニットが装着され、記録媒体に対して記録する記録処理を実行する記録装置と、前記記録装置と接続し、前記記録装置に前記記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置と、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと接続可能なサーバーと、を有するインクジェットシステムであって、前記ヘッドユニットの吐出不良が、所定の回復処理を実行することによって解消される第1吐出不良である場合、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかが第1補正処理を実行し、前記ヘッドユニットの吐出不良が、前記所定の回復処理を実行することによっても解消されない第2吐出不良である場合、前記サーバーが第2補正処理を実行する。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するヘッドユニットが装着され、記録媒体に対して記録する記録処理を実行する記録装置と、
前記記録装置と接続し、前記記録装置に前記記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置と、
前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと接続可能なサーバーと、を有するインクジェットシステムであって、
前記ヘッドユニットの吐出不良が、所定の回復処理を実行することによって解消される第1吐出不良である場合、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかが第1補正処理を実行し、
前記ヘッドユニットの吐出不良が、前記所定の回復処理を実行することによっても解消されない第2吐出不良である場合、前記サーバーが第2補正処理を実行する、
ことを特徴とするインクジェットシステム。
【請求項2】
前記第1補正処理が実行される頻度は、前記第2補正処理が実行される頻度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項3】
前記記録媒体は、複数枚の印刷用紙であって、
前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかは、前記記録装置によって前記複数枚の印刷用紙のうちいずれか一枚の印刷用紙に対して記録処理が実行されている間に、前記ヘッドユニットの吐出不良を検出する処理と前記第1補正処理とを実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項4】
前記記録装置は、ユーザーの指示による記録ジョブに基づいて前記記録処理を複数回実行し、
前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかは、前記記録処理が複数回実行されている間に、前記ヘッドユニットの吐出不良を検出する処理と前記第1補正処理とを実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項5】
前記サーバーは、所定の経過期間が経過するごとに前記第2補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項6】
前記サーバーは、前記記録装置が前記記録処理を即時実行可能でない状態であるときに前記第2補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項7】
前記ヘッドユニットの吐出不良が前記第2吐出不良であり、前記記録装置及び前記処理装置のいずれとも前記サーバーとの接続が遮断されている場合、前記記録装置及び前記処理装置のいずれかが前記第1補正処理を実行し、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと前記サーバーとの接続が確立された後に、前記第1補正処理を前記第2補正処理に切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項8】
前記ヘッドユニットは、インクを吐出する複数のノズルを有し、
前記第1補正処理及び前記第2補正処理は、前記複数のノズルのうち吐出不良が生じたノズルと異なるノズルであり、且つ、当該吐出不良の補正を行うノズルを決定する処理である、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項9】
前記ヘッドユニットは、インクを吐出するノズルと、駆動信号に基づいて駆動することで前記ノズルからインクを吐出させる駆動素子とを有する複数の吐出部を有し、
前記第1補正処理は、前記複数の吐出部のそれぞれのノズルのうち、吐出不良が生じたノズルと異なるノズルであり、且つ、当該吐出不良の補正を行うノズルを決定する処理であり、
前記第2補正処理は、前記吐出不良が生じたノズルからインクを吐出させる駆動素子に印加する駆動信号の波形を決定する処理である、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットシステム。
【請求項10】
インクを吐出するヘッドユニットが装着され、記録媒体に対して記録する記録処理を実行する記録装置と、
前記記録装置と接続し、前記記録装置に前記記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置と、
前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと接続可能なサーバーと、を有するインクジェットシステムであって、
前記ヘッドユニットの吐出不良が第1吐出不良である場合、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかが第1補正処理を実行し、
前記ヘッドユニットの吐出不良が第2吐出不良である場合、前記サーバーが第2補正処理を実行し、
前記第1補正処理が実行される頻度は、前記第2補正処理が実行される頻度よりも高い、
ことを特徴とするインクジェットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクを吐出するヘッドユニットが装着され、印刷用紙等の記録媒体に対して記録処理を実行するインクジェットプリンター等の記録装置が提供されている。例えば、特許文献1には、記録装置と、記録装置に記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置とを含むインクジェットシステムが開示されている。
【0003】
また、ヘッドユニットでは、インクの増粘等により、インクを正常に吐出できなくなる吐出不良が生じる場合がある。ヘッドユニットに吐出不良が生じると、記録媒体に形成されるドットを正確に形成できなくなり、記録媒体に形成される画像の質が低下する。ヘッドユニットの吐出不良に起因する画質の低下を抑制するために、例えば、特許文献1には、記録装置が、ヘッドユニットに吐出異常が生じた場合に吐出不良を補正するための補正処理を実行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-157426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術に対して、処理装置及び記録装置にかかる負荷を低減させるため、処理装置及び記録装置のいずれかとサーバーとを接続し、サーバーが補正処理を実行することが考えられる。しかしながら、サーバーが常に補正処理を実行すると、サーバーからの応答を待つことにより記録媒体に記録することに要する期間が延びる。従って、補正処理を実行しつつ、処理装置及び記録装置にかかる負荷を低減させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明に係るインクジェットシステムは、インクを吐出するヘッドユニットが装着され、記録媒体に対して記録する記録処理を実行する記録装置と、前記記録装置と接続し、前記記録装置に前記記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置と、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと接続可能なサーバーと、を有するインクジェットシステムであって、前記ヘッドユニットの吐出不良が、所定の回復処理を実行することによって解消される第1吐出不良である場合、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかが第1補正処理を実行し、前記ヘッドユニットの吐出不良が、前記所定の回復処理を実行することによっても解消されない第2吐出不良である場合、前記サーバーが第2補正処理を実行する、ことを特徴とする。
【0007】
また、以上の課題を解決するために、本発明に係るインクジェットシステムは、インクを吐出するヘッドユニットが装着され、記録媒体に対して記録する記録処理を実行する記録装置と、前記記録装置と接続し、前記記録装置に前記記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置と、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかと接続可能なサーバーと、を有するインクジェットシステムであって、前記ヘッドユニットの吐出不良が第1吐出不良である場合、前記記録装置及び前記処理装置のうちいずれかが第1補正処理を実行し、前記ヘッドユニットの吐出不良が第2吐出不良である場合、前記サーバーが第2補正処理を実行し、前記第1補正処理が実行される頻度は、前記第2補正処理が実行される頻度よりも高い、ことを特徴としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るインクジェットシステム10の構成例を示す概略図。
図2】サーバー300の構成の一例を示す図。
図3】処理装置200の構成を示す図。
図4】インクジェットプリンター100の構成の一例を例示する模式図。
図5】インクジェットプリンター100の構成例を示すブロック図。
図6】ヘッドチップ111及びノズルNの配置を説明するための図。
図7図6におけるVII-VII線の断面図。
図8】圧電素子111fの近傍を拡大した断面図。
図9】ヘッドユニットHUの構成の一例を示すブロック図。
図10】インクジェットプリンター100の記録期間Tuにおける動作を説明するためのタイミングチャートを示す図。
図11】接続状態指定信号SLa[n1m1]、SLb[n1m1]、及び、SLs[n1m1]の生成を説明するための説明図。
図12】インクジェットシステム10の機能を示す図。
図13】吐出不良ノズルテーブルTNIの内容の一例を示す図。
図14】インクジェットシステム10の動作を示すシーケンス図。
図15】記録処理制御処理の一例を示すフローチャートを示す図。
図16】記録中吐出不良対処処理の一例を示すフローチャートを示す図。
図17】記録中吐出不良対処処理内における補完先ノズル決定処理の一例を説明する図。
図18】記録間吐出不良対処処理の一例を示すフローチャートを示す図。
図19】記録間吐出不良対処処理の一例を示すフローチャートを示す図。
図20】クラウドサーバーCSが実行する補完先ノズル決定処理の一例を説明する図。
図21】2回目の記録指示PIにおける補完先ノズル決定処理の一例を説明する図。
図22】波形決定処理の一例を説明する図。
図23】第2変形例に係る記録間吐出不良対処処理を示すフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法および縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
1.第1実施形態
1-1.インクジェットシステム10の概要
図1は、第1実施形態に係るインクジェットシステム10の構成例を示す概略図である。インクジェットシステム10は、インクジェット方式により、後述する記録媒体PPに対して記録を行うシステムである。図1に示す例では、インクジェットシステム10は、インクジェットプリンター100_1~100_3と処理装置200_1~200_3とサーバー300とを有する。
【0011】
ここで、インクジェットプリンター100_1~100_3は、インクジェットプリンター100_1~100_3のメーカーが提供する装置である。以下の記載では、インクジェットプリンター100_1~100_3のそれぞれを区別せずに、インクジェットプリンター100と総称することがある。インクジェットプリンター100は、液体の一例であるインクを吐出する液体吐出装置である。インクジェットプリンター100のメーカーは、インクジェットプリンター100を製造する業者である。インクジェットプリンター100のメーカーを、「プリンターメーカー」と記載することがある。インクジェットプリンター100_1~100_3のそれぞれは、同一のプリンターメーカーによって提供されてもよいし、異なるプリンターメーカーによって提供されてもよい。但し、インクジェットプリンター100_1~100_3に組み込まれるヘッドユニットHUは、ヘッドユニットHUのメーカーが提供する。ヘッドユニットHUのメーカーは、ヘッドユニットHUを製造する業者である。以下、ヘッドユニットHUのメーカーを、「ヘッドメーカー」と記載することがある。プリンターメーカーは、ヘッドメーカーからヘッドユニットHUの提供を受け、提供されたヘッドユニットHUをインクジェットプリンター100に組み込むことにより、インクジェットプリンター100を製造する。なお、インクジェットプリンター100は、「記録装置」の一例である。
【0012】
図1には、インクジェットプリンター100_1を使用するユーザーU_1と、インクジェットプリンター100_2を使用するユーザーU_2と、インクジェットプリンター100_3を使用するユーザーU_3と、を示してある。以下の記載では、ユーザーU_1~U_3のそれぞれを区別せずにユーザーUと総称することがある。ユーザーUは、例えば、プリンターメーカーに属する作業者がインクジェットプリンター100を使用する場合、この作業者がユーザーUである。また、例えば、プリンターメーカーからインクジェットプリンター100の提供を受けた第三者がインクジェットプリンター100を使用する場合、この第三者がユーザーUである。以下の記載では、プリンターメーカーからインクジェットプリンター100の提供を受けた第三者を、「エンドユーザー」と記載することがある。1から3までのそれぞれの整数iについて、ユーザーU_iは、インクジェットプリンター100_iに加えて、処理装置200_iを使用する。
【0013】
インクジェットプリンター100_1は、処理装置200_1に通信可能に接続される。インクジェットプリンター100_2は、処理装置200_2に通信可能に接続される。インクジェットプリンター100_3は、処理装置200_3に通信可能に接続される。このように、インクジェットプリンター100_1~100_3は、処理装置200_1~200_3にそれぞれ対応しており、処理装置200_1~200_3に通信可能に接続される。以下の記載では、処理装置200_1~200_3のそれぞれを区別せずに、処理装置200と総称することがある。
【0014】
また、以下では、1から3までのそれぞれの整数iについて、記録システム20_iを記載することがある。記録システム20_iは、インクジェットプリンター100_iと処理装置200_iとを含む。以下の記載では、記録システム20_1~20_3のそれぞれを区別せずに、記録システム20と総称することがある。インクジェットシステム10は、記録システム20_1~20_3と、サーバー300とを有するとも言える。
【0015】
なお、図1に示す例では、インクジェットシステム10が有するインクジェットプリンター100及び処理装置200のそれぞれの数が3個であるが、当該数は、これに限定されず、1個、2個または4個以上でもよい。すなわち、インクジェットプリンター100及び処理装置200の組は、3組に限定されず、1組、2組または4組以上でもよい。
【0016】
インクジェットプリンター100は、インクジェット方式により、即ち、インクを記録媒体PPに吐出することにより、記録媒体PPに対して記録を行う。記録媒体PPに対して記録を行うことにより、記録媒体PPには、画像が形成される。以下、インクを記録媒体PPに吐出することにより記録媒体PPに画像が形成される処理を、「記録処理」と記載する。インクジェットプリンター100は、処理装置200から、記録処理を実行させる記録ジョブJBを受け付ける。記録ジョブJBは、当該記録ジョブJBを一意に識別する不図示の識別情報と、記録媒体PPに形成される画像を示す記録データDPとを含む。更に、記録ジョブJBは、記録媒体PPに形成される画像の印刷部数を示す情報を含んでもよい。記録ジョブJBは、ユーザーUの操作によって記録指示PIが処理装置200に通知された場合に、処理装置200によって生成される。記録指示PIは、記録データDPの元となる画像データを識別する情報を含む。画像データは、PostScript、PDF、XPS等のファイル形式のデータである。PDFは、Portable Document Formatの略称である。XPSは、XML Paper Specificationの略称である。画像データを識別する情報は、例えば、処理装置200内に記憶された画像データのファイルパスである。インクジェットプリンター100は、記録データDPに基づく画像を、記録媒体PPに形成する。
【0017】
記録媒体PPは、インクジェットプリンター100が印刷可能な媒体であれば特に限定されず、例えば、各種紙、各種布又は各種フィルム等である。また、記録媒体PPが紙である場合に、記録媒体PPは、長尺のロール紙でもよいし、A判等の1枚又は複数枚の印刷用紙でもよい。以下の記載では、記録媒体PPは、複数枚の印刷用紙であるとして説明する。
【0018】
インクジェットプリンター100は、2個のヘッドユニットHUとして、ヘッドユニットHU-1とヘッドユニットHU-2を有する。以下の記載において、ヘッドユニットHU-1とヘッドユニットHU-2とを、「ヘッドユニットHU」と総称することがある。ヘッドユニットHUは、ヘッドユニットHUに設けられたノズルNからインクを吐出する。以下では、インクジェットプリンター100を構成する要素のうちヘッドユニットHUを除く要素を「プリンター本体」という場合がある。
【0019】
なお、図1に示す例では、インクジェットプリンター100は2個のヘッドユニットHUを有するが、ヘッドユニットHUの個数は2個に限定されず、1個でもよいし、3個以上でもよい。
【0020】
処理装置200は、デスクトップ型またはノート型等のコンピューターである。処理装置200は、記録データDPを生成するデータ処理と、インクジェットプリンター100による記録処理を制御する記録処理制御処理と、を実行する。データ処理は、RIP処理または色変換処理等の各種処理である。RIPは、Raster Image Processorの略称である。処理装置200は、記録指示PIによって識別される画像データに対して、データ処理を実行することにより、記録データDPを生成する。
【0021】
処理装置200は、LAN、WAN、及び、インターネット等のネットワークNWを介してサーバー300に通信可能に接続される。LANは、Local Area Networkの略称である。WANは、Wide Area Networkの略称である。
【0022】
サーバー300は、後述するクラウドサーバーCSとして機能するコンピューターである。サーバー300は、例えば、ヘッドメーカー、プリンターメーカー、及び、エンドユーザーとは異なる事業者によって管理される。以下、サーバー300を管理する事業者を、「サーバー事業者」と記載することがある。ヘッドメーカーは、サーバー300の一部を利用する。
【0023】
1-2.サーバー300の構成
図2は、サーバー300の構成の一例を示す図である。サーバー300は、制御回路310と、記憶回路320と、通信装置380とを有する。制御回路310と、記憶回路320と、通信装置380とは、情報を通信するためのバス390により相互に接続される。
【0024】
制御回路310は、例えば、1個以上のCPU等のプロセッサーを含む。CPUは、Central Processing Unitの略称である。なお、制御回路310は、CPUに代えて、又は、CPUに加えて、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。FPGAは、Field Programmable Gate Arrayの略称である。
【0025】
記憶回路320は、磁気記憶装置又はフラッシュROM等で構成される。記憶回路320は、制御回路310が読取可能な記録媒体であり、制御回路310が実行する仮想化プログラムVM及び制御プログラムPM1を含む複数のプログラム、及び、制御回路310が使用する各種の情報などを記憶する。仮想化プログラムVMは、サーバー300の制御回路310及び記憶回路320といったリソースを複数に分割し、分割したリソースのそれぞれをクラウドサーバーCSとして動作させる。ヘッドメーカーは、サーバー300の一部として、複数のクラウドサーバーCSのうち一部のクラウドサーバーCSを利用する。制御プログラムPM1は、ヘッドメーカーによって開発される。
【0026】
但し、記憶回路320が仮想化プログラムVMを有さなくてもよく、処理装置200は、クラウドサーバーCSの替わりにサーバー300にアクセスしてもよい。
【0027】
記憶回路320は、例えば、RAM等の揮発性の1又は複数のメモリーとROM、EEPROM又はPROM等の1又は複数の不揮発性メモリーとの一方又は両方の半導体メモリーを含む。RAMは、Random Access Memoryの略称である。ROMは、Read Only Memoryの略称である。EEPROMは、Electrically Erasable Programmable Read-Only Memoryの略称である。PROMは、Programmable ROMの略称である。
【0028】
通信装置380は、ネットワークNWを介して処理装置200と通信を行うための通信回路を有するハードウェアである。通信装置380は、例えば、ネットワークデバイス、ネットワークコントローラー、ネットワークカード又は通信モジュールとも表記される。
【0029】
1-3.処理装置200の構成
図3は、処理装置200の構成を示す図である。処理装置200は、制御回路210と、記憶回路220と、通信装置230と、入力装置260と、表示装置270とを有する。制御回路210と、記憶回路220と、通信装置230と、入力装置260と、表示装置270とは、情報を通信するためのバス290により相互に接続される。
【0030】
制御回路210は、例えば、1個以上のCPU等のプロセッサーを含む。なお、制御回路210は、CPUに代えて、又は、CPUに加えて、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。
【0031】
記憶回路220は、磁気記憶装置又はフラッシュROM等で構成される。記憶回路220は、制御回路210が読取可能な記録媒体であり、制御回路210が実行するインクジェットプログラムPM2を含む複数のプログラム、及び、制御回路210が使用する各種の情報などを記憶する。記憶回路220は、例えば、RAM等の揮発性の1又は複数のメモリーとROM、EEPROM又はPROM等の1又は複数の不揮発性メモリーとの一方又は両方の半導体メモリーを含む。インクジェットプログラムPM2は、例えば、処理装置200がインクジェットプリンター100に接続した場合に、サーバー300上で動作するクラウドサーバーCSからダウンロードされ、処理装置200にインストールされる。
【0032】
通信装置230は、ネットワークNWを介して処理装置200と通信を行うための通信回路を有するハードウェアである。通信装置230は、例えば、ネットワークデバイス、ネットワークコントローラー、ネットワークカード又は通信モジュールとも表記される。
【0033】
通信装置240は、インクジェットプリンター100と通信可能な回路である。例えば、通信装置240は、USB、又はBluetooth等のネットワークカードである。USBは、Universal Serial Busの略称である。USB及びBluetoothは、登録商標である。一般的に、処理装置200とサーバー300との通信速度は、処理装置200とインクジェットプリンター100との通信速度よりも遅い。
【0034】
入力装置260は、ユーザーUの操作に応じた操作情報を出力するデバイスである。入力装置260は、例えば、マウス及びキーボードである。
【0035】
表示装置270は、何らかの情報を示す画像をユーザーUに表示する。表示装置270は、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、及び、LCDである。ELは、Electro-Luminescenceの略称である。LEDは、Light Emitting Diodeの略称である。LCDは、Liquid Crystal Displayの略称である。また、入力装置260及び表示装置270が一体である構成でもよい。入力装置260及び表示装置270が一体である構成は、例えば、タッチパネルである。
【0036】
図1から図3までに示したように、ヘッドメーカーがプリンターメーカーにヘッドユニットHUを提供し、プリンターメーカーは、プリンター本体にヘッドユニットHUを組み込むことにより、インクジェットプリンター100を製造するというビジネスモデルが存在する。このビジネスモデルにおいて、プリンターメーカーは、ヘッドユニットHU以外を設計及び製造することが一般的である。一方で、本実施形態では、ヘッドメーカーがクラウドサーバーCSと、処理装置200で動作するインクジェットプログラムPM2とを用意し、ユーザーUは、処理装置200をクラウドサーバーCSに接続し、処理装置200にインクジェットプログラムPM2を動作させる。以上により、本実施形態では、プリンターメーカーがインクジェットプログラムPM2を用意しなくてよい分、プリンターメーカーの設計及び製造の負荷を低減できる。
【0037】
1-4.インクジェットプリンター100の構成
図4は、インクジェットプリンター100の構成の一例を例示する模式図である。図5は、インクジェットプリンター100の構成例を示すブロック図である。以下の説明では、相互に直交するX軸とY軸とZ軸とを想定する。任意の地点からみてX軸に沿う一方向をX1方向と表記し、X1方向の反対の方向をX2方向と表記する。同様に、任意の地点からY軸に沿って相互に反対の方向をY1方向及びY2方向と表記し、任意の地点からZ軸に沿って相互に反対の方向をZ1方向及びZ2方向と表記する。X軸とY軸とを含むX-Y平面は水平面に相当する。Z軸は鉛直方向に沿う軸線であり、Z2方向は鉛直方向の下方に相当する。
【0038】
第1実施形態に係るインクジェットプリンター100は、ヘッドユニットHUをX軸に沿って往復動させるシリアル方式の液体吐出装置である。具体的には、図4に示すように、インクジェットプリンター100は、副走査方向であるY1方向に記録媒体PPを搬送し主走査方向であるX1方向及びX2方向にヘッドユニットHUを移動させつつ、ノズルNからインクを吐出することで、記録媒体PPに画像を形成する記録処理を実行する。以下の記載において、ヘッドユニットHUを主走査方向に1回移動させることを、1つのパスと記載する。インクジェットプリンター100は、1つのパスの間にヘッドユニットHUを移動させて1回のパスに対応する部分画像を記録媒体PPに形成する処理と、記録媒体PPを1つのパスに対応する分搬送する処理とを繰り返すことにより、記録媒体PPに画像を形成する。
【0039】
図4及び図5に示すように、インクジェットプリンター100は、ヘッドユニットHUと、液体容器120と、移動機構130と、搬送機構140と、メンテナンス機構145と、通信装置150と、記憶回路160と、制御回路170と、吐出状態判定回路190とを有する。
【0040】
ヘッドユニットHUは、ヘッドチップ111と駆動回路112と電源回路183と駆動信号生成回路184とを有するアセンブリーである。
【0041】
図5に示す例では、ヘッドユニットHUは、ヘッドチップ111及び駆動回路112を有する。なお、ヘッドユニットHUに制御モジュール180の一部または全部が組み込まれてもよい。制御モジュール180は、電源回路183及び駆動信号生成回路184を含む。
【0042】
ヘッドチップ111は、インクを記録媒体PPに向けて吐出する。図5では、ヘッドチップ111の構成要素の一部である2M個の吐出部Dのいくつかの吐出部Dが代表的に図示される。本実施形態において、Mは、2以上の偶数である。但し、Mは、1であってもよい。1つの吐出部Dには1つのノズルNが含まれる。なお、ヘッドチップ111の詳細の一例については、後に図7に基づいて説明する。
【0043】
図5に示す例では、ヘッドユニットHUが有するヘッドチップ111の数が2個であるが、ヘッドチップ111の数は、1個でもよいし、3個以上でもよい。記録媒体PPの幅方向であるX軸の一部にわたり複数のノズルNが分布するように、1個以上のヘッドチップ111が配置される。1つのヘッドユニットHUは、ヘッドチップ111-1と、ヘッドチップ111-2とを有する。以下では、ヘッドチップ111-1とヘッドチップ111-2とを、ヘッドチップ111と総称することがある。
【0044】
図6は、ヘッドチップ111及びノズルNの配置を説明するための図である。図6では、Z1方向からZ2方向に、2個のヘッドユニットHUを見た図である。但し、図6では、ノズルNの配置を示すために、ノズルNとヘッドチップ111の輪郭を破線で示してある。
【0045】
図6に示すように、ヘッドユニットHU-1及びヘッドユニットHU-2は、X軸に沿って配置される。更に、ヘッドユニットHU-1が有する2個のヘッドチップ111、及び、ヘッドユニットHU-2が有する2個のヘッドチップ111は、X軸に沿って配置される。図6に示すように、ヘッドユニットHU-1及びヘッドユニットHU-2が有するヘッドチップ111は、Y軸に沿う方向に配列される2M個のノズルNを有する。当該2M個のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ2列に区分される。以下、ある1つの直線状に配置されるノズルNの集合を、「ノズル列Ln」と記載することがある。1個のヘッドチップ111が有する2M個のノズルNのうち,M個のノズルNが2つのノズル列Lnのうち一方のノズル列Lnに区分され、残余のM個のノズルNが他方のノズル列Lnに区分される。
【0046】
以下では、ヘッドユニットHU-1の2個のヘッドチップ111のうち、X2方向に配置されたヘッドチップ111-1のX2方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列La」と記載することがあり、X1方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Lb」と記載することがある。更に、ヘッドユニットHU-1の2個のヘッドチップ111のうち、X1方向に配置されたヘッドチップ111-2のX2方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Lc」と記載することがあり、X1方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Ld」と記載することがある。ヘッドユニットHU-2の2個のヘッドチップ111のうち、X2方向に配置されたヘッドチップ111-1のX2方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Le」と記載することがあり、X1方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Lf」と記載することがある。更に、ヘッドユニットHU-2の2個のヘッドチップ111のうち、X1方向に配置されたヘッドチップ111-2のX2方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Lg」と記載することがあり、X1方向に位置するノズル列Lnを「ノズル列Lh」と記載することがある。
【0047】
以下では、ある1つのヘッドチップ111に設けられた2M個の吐出部Dの各々を区別するために、順番に、1段、2段、…、2M段と称することがある。更に、ノズル列Lnに区分され、且つ、m段に対応する吐出部Dを、吐出部D[nm]と記載することがある。nは、a,b,c,d,e,f,g,hのいずれか1つを示す文字である。mは、1以上M以下を満たす整数である。また、ヘッドユニットHUの構成要素や信号等が、吐出部D[nm]のノズル列Ln及び段数mに対応するものである場合には、当該構成要素や信号等を表すための符号に、ノズル列Ln及び段数mに対応していることを示す添え字[nm]を付して表現することがある。また、記載を簡略化するため、[n1m1]~[n2m2]と記載することがある。n1及びn2は、a,b,c,d,e,f,g,hのいずれか1つを示す文字である。m1及びm2は、1以上M以下を満たす整数である。例えば、吐出部D[a1]~D[bM]は、吐出部D[a1]から吐出部D[aM]までのM個の吐出部Dと、吐出部D[b1]から吐出部D[bM]までのM個の吐出部Dとを意味する。
【0048】
本実施形態では、1つのノズル列Lnに区分されるM個のノズルNのうち、最もY2方向に配置されたノズルNを、ノズルN[n1]と表記し、最もY1方向に配置されたノズルNを、ノズルN[nM]と記載してある。より具体的には、ノズル列Laに区分されるM個のノズルNのうち、最もY2方向に配置されたノズルNを、ノズルN[a1]と表記し、最もY1方向に配置されたノズルNを、ノズルN[aM]と表記してある。また、ノズル列Lbに区分されるM個のノズルNのうち、最もY2方向に配置されたノズルNを、ノズルN[b1]と表記し、最もY1方向に配置されたノズルNを、ノズルN[bM]と表記してある。
【0049】
図6から理解されるように、1個のヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnの一方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNと他方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNとのY軸に沿う方向での位置は、互いに異なる。以下の記載では、あるノズルNに対して、Y軸における位置が同一のノズルNを「同一位置ノズルN」と記載することがあり、Y軸における位置が異なるが最も近いノズルNを「隣接位置ノズルN」と記載することがある。例えば、第1種類のインクを吐出するノズルNのうち、ノズルN[b4]の同一位置ノズルNはノズルN[d4]であり、ノズルN[b4]の隣接位置ノズルNはノズルN[a4]、ノズルN[a5]、ノズルN[c4]、及び、ノズルN[c5]である。但し、一方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNと他方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致してもよい。
【0050】
説明を図4及び図5に戻す。ヘッドユニットHUは、ヘッドチップ111と同数の駆動回路112を有する。図5の例では、ヘッドユニットHUは、2個のヘッドチップ111を有するため、ヘッドチップ111-1に接続する駆動回路112-1と、ヘッドチップ111-2に接続する駆動回路112-2という、2個の駆動回路112を有する。以下では、駆動回路112-1と駆動回路112-2とを、駆動回路112と総称することがある。
【0051】
駆動回路112は、切替回路115と、検出回路117とを含む。切替回路115は、制御回路170による制御のもと、駆動回路112に接続するヘッドチップ111が有する2M個の吐出部Dのそれぞれについて、駆動信号生成回路184から出力される駆動信号Comを供給するか否かを切り替える。また、切替回路115は、各吐出部Dと検出回路117とを電気的に接続するか否かを切り替える。本実施形態では、駆動信号Comが、駆動信号Com-Aと駆動信号Com-Bとを含む場合を想定する。更に、駆動信号Com-A及びCom-Bのうち、吐出部D[nm]に実際に供給される信号を、供給駆動信号Vin[nm]と称する場合がある。切替回路115は、例えば、当該切り替えのためのトランスミッションゲート等のスイッチ群を含む。切替回路115の詳細については、図7を用いて後述する。検出回路117は、吐出部Dが駆動された後に、吐出部Dにおいて残留している振動を示す残留振動信号NESを吐出状態判定回路190に出力する。より具体的には、検出回路117は、駆動信号Comにより駆動された吐出部D[nm]から検出した検出信号Vout[nm]に基づいて残留振動信号NES[nm]を生成する。以下、吐出部Dにおいて残留している振動を、「残留振動」と記載する。
【0052】
電源回路183は、図示しない商用電源から電力の供給を受け、所定の各種電位を生成する。生成した各種電位は、インクジェットプリンター100の各部に適宜に供給される。図5に示す例では、電源回路183は、電源電位VHVとオフセット電位VBSとを生成する。オフセット電位VBSは、ヘッドチップ111等に供給される。また、電源電位VHVは、駆動信号生成回路184等に供給される。
【0053】
駆動信号生成回路184は、ヘッドチップ111が有する各吐出部Dを駆動するための駆動信号Comを生成する回路である。具体的には、駆動信号生成回路184は、例えば、DA変換回路と増幅回路とを有する。駆動信号生成回路184では、当該DA変換回路が制御回路170からの後述の波形指定信号dComをデジタル信号からアナログ信号に変換し、当該増幅回路が電源回路183からの電源電位VHVを用いて当該アナログ信号を増幅することにより駆動信号Comを生成する。
【0054】
図4に例示される通り、インクジェットプリンター100には、インクを貯留する液体容器120が設置される。例えばインクジェットプリンター100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、又は、インクを補充可能なインクタンクが、液体容器120として利用される。本実施形態では、液体容器120は、2種類のインクを貯留することを前提として説明する。液体容器120は、第1種類のインクを貯留する液体容器121と、第2種類のインクを貯留する液体容器122とを有する。第1種類のインクと第2種類のインクとは、例えば、互いに異なる色材を有するインクである。第1種類のインクと第2種類のインクとは、互いに同系色のインクでもよい。同系色とは、色相が同一又は類似する色である。同系色のインクの一例は、シアンインクとライトシアンインクとである。また、液体容器120が有するインクの種類は、2種類に限らず、1種類でもよいし、3種類以上でもよい。例えば、液体容器120は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及び、ブラックインクという4種類のインクを貯留してもよい。
【0055】
移動機構130及び搬送機構140は、制御回路170の制御のもと、記録媒体PPとヘッドユニットHUとの相対的な位置を移動させる。相対的な位置を移動とは、記録媒体PPの位置を固定したままヘッドユニットHUを移動させてもよいし、ヘッドユニットHUの位置を固定したまま記録媒体PPを移動させてもよい。本実施形態では、主走査方向であるX軸に沿う方向に対しては、記録媒体PPのX軸における位置を固定したままヘッドユニットHUをX軸に沿う方向に移動させ、副走査方向であるY1方向に対しては、ヘッドユニットHUのY軸に沿う方向の位置を固定したまま記録媒体PPをY1方向に移動させる。
【0056】
移動機構130は、制御回路170の制御のもと、ヘッドユニットHUをX軸に沿って往復させる。図4に示すように、移動機構130は、ヘッドユニットHUを収容する略箱型のキャリッジ131と、キャリッジ131が固定された無端ベルト132とを具備する。なお、液体容器120をヘッドユニットHUとともにキャリッジ131に搭載した構成も採用され得る。
【0057】
搬送機構140は、制御回路170の制御のもと、記録媒体PPをY1方向に搬送する。具体的には、搬送機構140は、回転軸がX軸に平行な不図示の搬送ローラーと、搬送ローラーを制御回路170による制御のもとで回転させる不図示のモーターとを具備する。
【0058】
通信装置150は、処理装置200と通信可能な回路である。例えば、通信装置150は、USB、またはBluetooth等のネットワークカードである。また、通信装置150は、制御回路170と一体でもよい。
【0059】
記憶回路160は、制御回路170が実行する各種プログラムと、制御回路170が処理する記録ジョブJB等の各種データと、を記憶する。記憶回路160は、例えば、RAM等の揮発性の1または複数のメモリーとROM、EEPROMまたはPROM等の1または複数の不揮発性メモリーとの一方または両方の半導体メモリーを含む。なお、記憶回路160は、制御回路170の一部として構成されてもよい。
【0060】
制御回路170は、インクジェットプリンター100の各部の動作を制御する機能と、各種データを処理する機能と、を有する。制御回路170は、例えば、1個以上のCPU等のプロセッサーを含む。なお、制御回路170は、CPUに代えて、又は、CPUに加えて、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。
【0061】
制御回路170は、記憶回路160に記憶されるプログラムを実行することにより、インクジェットプリンター100の各部の動作を制御する。ここで、制御回路170は、インクジェットプリンター100の各部の動作を制御するための信号として、制御信号Sk1、制御信号Sk2、制御信号Sk3、印刷信号SI及び波形指定信号dCom等の信号を生成する。
【0062】
制御信号Sk1は、移動機構130の駆動を制御するための信号である。制御信号Sk2は、搬送機構140の駆動を制御するための信号である。制御信号Sk3は、メンテナンス機構145を制御するための信号である。印刷信号SIは、駆動回路112の駆動を制御するための信号である。具体的には、印刷信号SIは、駆動回路112が駆動信号生成回路184からの駆動信号Comを吐出部Dに対して供給するか否かと、吐出部Dが駆動された後に、後述する吐出部Dにおいて残留している振動を示す残留振動信号NESを出力するか否かとを、所定の単位期間ごとに指定する。この指定により、ヘッドチップ111から吐出されるインク量等が指定される。波形指定信号dComは、駆動信号生成回路184で生成される駆動信号Comの波形を規定するためのデジタル信号である。
【0063】
記録処理が実行される場合、制御回路170は、まず、処理装置200から供給される記録ジョブJBを、記憶回路160に記憶させる。次に、制御回路170は、記憶回路160に記憶されている記録ジョブJBに含まれる記録データDP等の各種データに基づいて、印刷信号SI、波形指定信号dCom、制御信号Sk1、及び、制御信号Sk2等の各種制御信号を生成する。そして、制御回路170は、各種制御信号と、記憶回路160に記憶されている各種データに基づいて、ヘッドユニットHUに対する記録媒体PPの相対位置を変化させるように搬送機構140及び移動機構130を制御しつつ、吐出部Dが駆動されるようにヘッドユニットHUを制御する。これにより、制御回路170は、吐出部Dからのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整し、記録データDPに基づく画像を記録媒体PPに形成する記録処理の実行を制御する。
【0064】
更に、本実施形態に係るインクジェットプリンター100は、処理装置200から吐出状態判定指示を受け付けた場合、各吐出部Dからのインクの吐出状態が正常であるか不良であるかを判定する吐出状態判定処理を実行する。以下、吐出部Dに含まれるノズルNの吐出不良を、吐出部Dの吐出不良と記載することがある。更に、ヘッドユニットHUに含まれる吐出部Dに吐出不良が生じた場合、ヘッドユニットHUの吐出不良と記載することがある。また、吐出不良が生じたノズルNを「吐出不良ノズルN-T」と記載することがある。一方、吐出不良が生じていないノズルNを、「吐出正常ノズルN-S」と記載することがある。ここで、吐出不良とは、駆動信号Comにより吐出部Dを駆動して吐出部Dからインクを吐出させようとしても、駆動信号Comが規定する態様によりインクを吐出できない状態である。ここで、駆動信号Comが規定するインクの吐出態様とは、吐出部Dが駆動信号Comの波形により規定される量のインクを吐出し、吐出部Dが駆動信号Comの波形により規定される吐出速度でインクを吐出することである。すなわち、駆動信号Comが規定するインクの吐出態様によりインクを吐出できない状態とは、吐出部Dからインクを吐出できない状態の他に、駆動信号Comにより規定されるインクの吐出量よりも少ない量のインクが吐出部Dから吐出される状態、駆動信号Comにより規定されるインクの吐出量よりも多くの量のインクが吐出部Dから吐出される状態、又は、駆動信号Comにより規定されるインクの吐出速度と異なる速度でインクが吐出されるために記録媒体PP上の所望の着弾位置にインクを着弾させることができない状態、等を含む。なお、以下では、吐出状態の判定の対象となる吐出部Dを、判定対象吐出部D-Hと称する場合がある。
【0065】
吐出状態判定処理において、インクジェットプリンター100は、第1に、制御回路170により、2M×4個の吐出部Dの中から判定対象吐出部D-Hを選択し、第2に、制御回路170による制御の下で、判定対象吐出部D-Hを駆動させることで、判定対象吐出部D-Hに残留振動を生じさせ、第3に、検出回路117により、判定対象吐出部D-Hから検出された検出信号Voutに基づいて残留振動信号NESを生成し、第4に、吐出状態判定回路190により、残留振動信号NESに基づいて、吐出状態の判定結果を示す判定情報SSTを生成する、という一連の処理を実行する。
【0066】
更に実施形態に係るインクジェットプリンター100は、吐出部Dに吐出不良が生じた場合に、吐出不良を補完するための様々な補完処理を実行する場合がある。補完処理は、記録データDPに基づき決定される供給駆動信号Vinを吐出部Dに印加しても、吐出不良が発生する状態である場合に実行される。
【0067】
更に本実施形態に係るインクジェットプリンター100は、メンテナンス機構145によって、吐出不良を有する吐出部Dの吐出不良を回復させるためのメンテナンス処理を実行する。メンテナンス処理には、吐出部Dからインクを排出させるフラッシング処理と、吐出部DのノズルN近傍に付着した紙粉等の異物をワイパー147により拭き取るワイピング処理と、吐出部D内のインクや気泡等をチューブポンプにより吸引するポンピング処理とがある。フラッシング処理は、フラッシング処理用の駆動信号Comにより吐出部Dを繰り返し駆動させることにより、増粘したインク、及び、インクに混入した気泡を強制的に除去する処理である。メンテナンス機構145は、ノズルNが封止されるようにヘッドユニットHUを覆うためのキャップ146と、ワイパー147と、インクや気泡等を吸引するための不図示のチューブポンプと、インクを排出する場合に排出されたインクを受けるための不図示の排出インク受領部と、を備える。メンテナンス機構145は、Z軸方向に見たとき、記録媒体PPと重ならない領域に設けられる。
【0068】
フラッシング処理、ワイピング処理と、ポンピング処理とは、所定の回復処理の一例である。但し、本実施形態において、インクジェットプリンター100は、フラッシング処理、ワイピング処理、ポンピング処理のうち1つの処理を動作可能でもよいし、複数の処理を動作可能でもよい。
【0069】
図1から図6までから理解されるように、サーバー300は、処理装置200と接続可能であるが、インクジェットプリンター100と接続可能でもよいし、処理装置200及びインクジェットプリンター100の両方と接続可能であってもよい。
【0070】
図7は、図6におけるVII-VII線の断面図である。但し、図7では、ヘッドチップ111に加えて駆動回路112も図示してある。
【0071】
ヘッドチップ111は、X軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。ただし、上述したように、1個のヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnの一方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNと他方のノズル列Lnに区分されるM個のノズルNとのY軸に沿う方向での位置は、互いに異なる。
【0072】
図7に示すように、ヘッドチップ111は、流路基板111aと圧力室基板111bとノズル板111cと吸振体111dと振動板111eと2M個の圧電素子111fと保護板111gとケース111hと配線基板111iとを有する。
【0073】
流路基板111a及び圧力室基板111bは、この順でZ1方向に積層されており、2M個のノズルNにインクを供給するための流路を形成する。流路基板111a及び圧力室基板111bからなる積層体よりもZ1方向に位置する領域には、振動板111eと2M個の圧電素子111fと保護板111gとケース111hと配線基板111iとが設置される。他方、当該積層体よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板111cと吸振体111dとが設置される。ヘッドチップ111の各要素は、概略的にはY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。以下、ヘッドチップ111の各要素を順に説明する。
【0074】
ノズル板111cは、第1ノズル列Ln1及び第2ノズル列Ln2のそれぞれに対してM個のノズルNが設けられた板状部材である。2M個のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる貫通孔である。ここで、ノズル板111cのZ2方向を向く面がノズル面FNである。ノズル板111cは、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板111cの製造には、他の公知の方法及び材料が適宜に用いられてもよい。また、ノズルNの断面形状は、典型的には円形状であるが、これに限定されず、例えば、多角形または楕円形等の非円形状であってもよい。
【0075】
流路基板111aには、ヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnのそれぞれについて、空間R1と2M個の供給流路Raと2M個の連通流路Naとが設けられる。空間R1は、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。供給流路Ra及び連通流路Naのそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。各供給流路Raは、空間R1に連通する。
【0076】
圧力室基板111bは、ヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnのそれぞれについて、キャビティと称される2M個の圧力室CVが設けられた板状部材である。2M個の圧力室CVは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室CVは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板111a及び圧力室基板111bそれぞれは、前述のノズル板111cと同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板111a及び圧力室基板111bのそれぞれの製造には、他の公知の方法及び材料が適宜に用いられてもよい。
【0077】
圧力室CVは、流路基板111aと振動板111eとの間に位置する空間である。ヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnのそれぞれについて、2M個の圧力室CVがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室CVは、連通流路Na及び供給流路Raのそれぞれに連通する。従って、圧力室CVは、連通流路Naを介してノズルNに連通し、かつ、供給流路Raを介して空間R1に連通する。
【0078】
圧力室基板111bのZ1方向を向く面には、振動板111eが配置される。振動板111eは、弾性的に振動可能な板状部材である。振動板111eは、例えば、第1層と第2層とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1層は、例えば、酸化シリコンで構成される弾性膜である。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。第2層は、例えば、酸化ジルコニウムで構成される絶縁膜である。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。なお、振動板111eは、前述の第1層及び第2層の積層による構成に限定されず、例えば、単層で構成されてもよいし、3層以上で構成されてもよい。
【0079】
振動板111eのZ1方向を向く面には、ヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnのそれぞれについて、互いにノズルNに対応する2M個の圧電素子111fが配置される。各圧電素子111fは、駆動信号Comの供給により変形する受動素子である。各圧電素子111fは、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。2M個の圧電素子111fは、2M個の圧力室CVに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子111fは、平面視で圧力室CVに重なる。圧電素子111fは、「駆動素子」の一例である。
【0080】
図8は、圧電素子111fの近傍を拡大した断面図である。但し、図8では、図面の煩雑化を防ぐため、保護板111gの図示を省略してある。
【0081】
図8に例示される通り、圧電素子111fは、オフセット電位VBSが供給される上部電極Zuと、駆動信号Comが供給される下部電極Zdとの間に、圧電体Zmを介在させた積層体である。圧電素子111fは、例えば、Z1方向から見たときに、下部電極Zdと上部電極Zuと圧電体Zmとが重なる部分である。また、圧電素子111fのZ2方向には、圧力室CVが設けられる。なお、第1実施形態では、上部電極Zuにオフセット電位VBSが供給され、下部電極Zdに駆動信号Comが供給される態様であるが、上部電極Zuに駆動信号Comが供給され、下部電極Zdにオフセット電位VBSが供給される態様でもよい。
【0082】
説明を図7に戻す。保護板111gは、振動板111eのZ1方向を向く面に設置される板状部材であり、複数の圧電素子111fを保護するとともに振動板111eの機械的な強度を補強する。ここで、保護板111gと振動板111eとの間には、複数の圧電素子111fが収容される。保護板111gは、例えば、樹脂材料で構成される。
【0083】
ケース111hは、複数の圧力室CVに供給されるインクを貯留するための部材である。ケース111hは、例えば、樹脂材料で構成される。ケース111hには、ヘッドチップ111に設けられた2つのノズル列Lnのそれぞれについて、空間R2が設けられる。空間R2は、前述の空間R1に連通する空間であり、空間R1とともに、複数の圧力室CVに供給されるインクを貯留するリザーバーRとして機能する。ケース111hには、各リザーバーRにインクを供給するための導入口IHが設けられる。各リザーバーR内のインクは、各供給流路Raを介して圧力室CVに供給される。
【0084】
配線基板111iは、振動板111eのZ1方向を向く面に実装されており、ヘッドチップ111と駆動回路112及び制御モジュール180等とを電気的に接続するための実装部品である。配線基板111iは、例えば、COF、FPCまたはFFC等の可撓性の配線基板である。本実施形態の配線基板111iには、前述の駆動回路112が実装される。COFは、Chip On Filmの略称である。FPCは、Flexible Printed Circuitの略称である。FFCは、Flexible Flat Cableの略称である。
【0085】
図7に例示される通り、1つの吐出部Dは、1つの圧電素子111fと、1つの圧力室CVと、1つのノズルNとを含む。すなわち、2M個の圧電素子111fは、2M個の圧力室CVに1対1に対応する。圧力室CVに対応する圧電素子111fとは、図7等から理解されるように、Z2方向への平面視において、圧力室CVの一部又は全部に重なる圧電素子111fを意味する。吐出部Dは、印刷信号SIに基づき圧電素子111fに駆動信号Comが供給される場合、当該圧電素子111fが駆動信号Comにより駆動されることにより、圧力室CV内のインクをノズルNから吐出させる。
【0086】
1-5.ヘッドユニットHUの構成
以下、図9を参照しつつ、ヘッドユニットHUの構成について説明する。
【0087】
図9は、ヘッドユニットHUの構成の一例を示すブロック図である。図9では、ヘッドユニットHU-1に設けられたヘッドチップ111-1と駆動回路112-1とを示してある。ヘッドチップ111-2と駆動回路112-2との構成は、ヘッドチップ111-1と駆動回路112-1との構成と同一であるため、図示及び説明を省略する。
【0088】
ヘッドユニットHU-1は、ヘッドチップ111-1と駆動回路112-1とに加えて、駆動信号生成回路184から駆動信号Com-Aが供給される内部配線LHaと、駆動信号生成回路184から駆動信号Com-Bが供給される内部配線LHbと、圧電素子111fから検出される検出信号Voutを検出回路117に供給するための内部配線LHsと、オフセット電位VBSが供給される内部配線LHdとを備える。
【0089】
図9に示すように、切替回路115は、2M個のスイッチSWa[a1]~SWa[bM]と、2M個のスイッチSWb[a1]~SWb[bM]と、2M個のスイッチSWs[a1]~SWs[bM]と、各スイッチの接続状態を指定する接続状態指定回路116と、を備える。なお、各スイッチとしては、例えば、トランスミッションゲートを採用することができる。
接続状態指定回路116は、制御回路170から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び、期間指定信号Tsigの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[a1]~SWa[bM]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLa[a1]~SLa[bM]と、スイッチSWb[a1]~SWb[bM]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLb[a1]~SLb[bM]と、スイッチSWs[a1]~SWs[bM]のオンオフを指定する接続状態指定信号SLs[a1]~SLs[bM]と、を生成する。
n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、スイッチSWa[n1m1]は、接続状態指定信号SLa[n1m1]に応じて、内部配線LHaと、圧電素子111f[n1m1]の下部電極Zd[n1m1]と、の導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWa[n1m1]は、接続状態指定信号SLa[n1m1]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、スイッチSWb[n1m1]は、接続状態指定信号SLb[n1m1]に応じて、内部配線LHbと、吐出部D[n1m1]に設けられた圧電素子111f[n1m1]の下部電極Zd[n1m1]との、導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWb[n1m1]は、接続状態指定信号SLb[n1m1]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、スイッチSWs[n1m1]は、接続状態指定信号SLs[n1m1]に応じて、内部配線LHsと、圧電素子111f[n1m1]の下部電極Zd[n1m1]と、の導通及び非導通を切り替える。例えば、スイッチSWs[n1m1]は、接続状態指定信号SLs[n1m1]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
【0090】
検出回路117には、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、圧電素子111f[n1m1]から出力される検出信号Vout[n1m1]が、内部配線LHsを介して供給される。そして、検出回路117は、当該検出信号Vout[n1m1]に基づいて残留振動信号NESを生成する。
【0091】
1-6.ヘッドユニットHUの動作
以下、図10及び図11を参照しつつ、ヘッドユニットHUの動作について説明する。図10及び図11では、図9と同様に、ヘッドユニットHU-1に設けられたヘッドチップ111-1と駆動回路112-1との動作について説明する。ヘッドチップ111-2と駆動回路112-2との動作は、ヘッドチップ111-1と駆動回路112-1との動作と同一であるため、図示及び説明を省略する。
【0092】
本実施形態において、インクジェットプリンター100の動作期間は、1又は複数の記録期間Tuを含む。本実施形態に係るインクジェットプリンター100は、各記録期間Tuにおいて、記録処理における各吐出部Dの駆動と、吐出状態判定処理の準備処理における判定対象吐出部D-Hの駆動及び残留振動の検出と、の一方を実行する場合を想定する。但し、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、各記録期間Tuにおいて、記録処理における各吐出部Dの駆動と、吐出状態判定処理の準備処理における判定対象吐出部D-Hの駆動及び残留振動の検出と、の両方を実行可能であってもよい。
なお、一般的に、インクジェットプリンター100は、連続的又は間欠的な複数の記録期間Tuに亘り各吐出部Dから1又は複数回ずつインクを吐出させることで、記録データDPに基づく画像を形成する。また、本実施形態に係るインクジェットプリンター100は、連続的又は間欠的に設けられた2M個の記録期間Tuにおいて、2M回の吐出状態判定処理の準備処理を実行することで、2M個の吐出部D[a1]~D[bM]の各々を判定対象吐出部D-Hとした吐出状態判定処理を実行する。
【0093】
図10は、インクジェットプリンター100の記録期間Tuにおける動作を説明するためのタイミングチャートである。図10に示すように、制御回路170は、パルスPlsLを有するラッチ信号LATと、パルスPlsCを有するチェンジ信号CHと、を出力する。これにより、制御回路170は、パルスPlsLの立ち上がりから次のパルスPlsLの立ち上がりまでの期間として、記録期間Tuを規定する。また、制御回路170は、パルスPlsCにより、記録期間Tuを2つの制御期間Tu1及びTu2に区分する。
【0094】
印刷信号SIは、各記録期間Tuにおける吐出部D[a1]~D[bM]の駆動の態様を指定する個別指定信号Sd[a1]~Sd[bM]を含む。そして、制御回路170は、記録期間Tuにおいて記録処理及び吐出状態判定処理の少なくとも一方が実行される場合、図10に示すように、当該記録期間Tuの開始に先立って、個別指定信号Sd[a1]~Sd[bM]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路116に供給する。この場合、接続状態指定回路116は、n1がa又はbであり、m1が1からMまでの任意の整数である場合、当該記録期間Tuにおいて、個別指定信号Sd[n1m1]に基づいて、接続状態指定信号SLa[n1m1]、SLb[n1m1]、SLs[n1m1]を生成する。
【0095】
なお、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、本実施形態に係る個別指定信号Sd[n1m1]は、各記録期間Tuにおいて、吐出部D[n1m1]に対して、大ドットに相当する量のインクの吐出、中ドットに相当する量のインクの吐出、小ドットに相当する量のインクの吐出、インクの非吐出、及び、吐出状態判定処理における判定対象としての駆動、の5つの駆動態様のうち、いずれか一つの駆動態様を指定する信号である。以下の記載では、大ドットに相当する量を、「大程度の量」と称することがあり、大ドットに相当する量のインクの吐出を、「大ドットの形成」と称することがある。同様に、中ドットに相当する量を、「中程度の量」と称することがあり、中ドットに相当する量のインクの吐出を、「中ドットの形成」と称することがある。小ドットに相当する量を、「小程度の量」と称することがあり、小ドットに相当する量のインクの吐出を、「小ドットの形成」と称することがある。吐出状態判定処理における推定対象としての駆動を、「判定対象吐出部D-Hとしての駆動」と称する場合がある。本実施形態では、一例として、個別指定信号Sd[n1m1]が、図11に例示するように、3ビットのデジタル信号である場合を想定する。
【0096】
図10に示すように、駆動信号生成回路184は、制御期間Tu1に設けられた中ドット波形PXと、制御期間Tu2に設けられた小ドット波形PYと、を有する駆動信号Com-Aを出力する。本実施形態では、中ドット波形PXの最高電位VHXと最低電位VLXとの電位差が、小ドット波形PYの最高電位VHYと最低電位VLYとの電位差よりも大きくなるように、中ドット波形PX及び小ドット波形PYを定める。具体的には、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である場合、中ドット波形PXを有する駆動信号Com-Aにより吐出部D[n1m1]を駆動する場合、吐出部D[n1m1]から中程度の量のインクが吐出されるように、中ドット波形PXを定める。また、小ドット波形PYを有する駆動信号Com-Aにより吐出部D[n1m1]を駆動する場合、吐出部D[n1m1]から小程度の量のインクが吐出されるように、小ドット波形PYを定める。なお、中ドット波形PX及び小ドット波形PYは、開始時及び終了時の電位が基準電位V0に設定されている。
【0097】
そして、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である前提において、個別指定信号Sd[n1m1]が吐出部D[n1m1]に対して、大ドットの形成を指定する場合、接続状態指定回路116は、接続状態指定信号SLa[n1m1]を、制御期間Tu1及びTu2においてハイレベルに設定し、接続状態指定信号SLb[n1m1]及びSLs[n1m1]を、記録期間Tuにおいてローレベルに設定する。この場合、吐出部D[n1m1]は、制御期間Tu1において中ドット波形PXの駆動信号Com-Aにより駆動されて中程度の量のインクを吐出し、また、制御期間Tu2において小ドット波形PYの駆動信号Com-Aにより駆動されて小程度の量のインクを吐出する。これにより、吐出部D[n1m1]は、記録期間Tuにおいて、合計で大程度の量のインクを吐出し、記録媒体PPには大ドットが形成される。
また、個別指定信号Sd[n1m1]が吐出部D[n1m1]に対して、中ドットの形成を指定する場合、接続状態指定回路116は、接続状態指定信号SLa[n1m1]を、制御期間Tu1においてハイレベルに、制御期間Tu2においてローレベルに、それぞれ設定し、接続状態指定信号SLb[n1m1]及びSLs[n1m1]を、記録期間Tuにおいてローレベルに設定する。この場合、吐出部D[n1m1]は、記録期間Tuにおいて中程度の量のインクを吐出し、記録媒体PPには中ドットが形成される。
また、個別指定信号Sd[n1m1]が吐出部D[n1m1]に対して、小ドットの形成を指定する場合、接続状態指定回路116は、接続状態指定信号SLa[n1m1]を、制御期間Tu1においてローレベルに、制御期間Tu2においてハイレベルに、それぞれ設定し、接続状態指定信号SLb[n1m1]及びSLs[n1m1]を、記録期間Tuにおいてローレベルに設定する。この場合、吐出部D[n1m1]は、記録期間Tuにおいて小程度の量のインクを吐出し、記録媒体PPには小ドットが形成される。
また、個別指定信号Sd[n1m1]が吐出部D[n1m1]に対して、インクの非吐出を指定する場合、接続状態指定回路116は、接続状態指定信号SLa[n1m1]とSLb[n1m1]とSLs[n1m1]とを、記録期間Tuにおいてローレベルに設定する。この場合、吐出部D[n1m1]は、記録期間Tuにおいて、インクを吐出せず、記録媒体PPにドットを形成しない。
【0098】
図10に示すように、駆動信号生成回路184は、記録期間Tuに設けられた検査波形PSを有する駆動信号Com-Bを出力する。本実施形態では、検査波形PSの最高電位VHSと最低電位VLSとの電位差が、小ドット波形PYの最高電位VHYと最低電位VLYとの電位差よりも小さくなるように、検査波形PSを定める。具体的には、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である前提において、検査波形PSを有する駆動信号Com-Bを吐出部D[n1m1]に供給する場合、吐出部D[n1m1]からインクが吐出されない程度に吐出部D[n1m1]が駆動されるように、検査波形PSを定める。なお、検査波形PSは、開始時及び終了時の電位が基準電位V0に設定されている。
また、制御回路170は、パルスPlsT1及びパルスPlsT2を有する期間指定信号Tsigを出力する。これにより、制御回路170は、記録期間Tuを、パルスPlsLの開始からパルスPlsT1の開始までの制御期間TSS1と、パルスPlsT1の開始からパルスPlsT2の開始までの制御期間TSS2と、パルスPlsT2の開始から次のパルスPlsLの開始までの制御期間TSS3と、に区分する。
【0099】
そして、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である前提において、個別指定信号Sd[n1m1]が吐出部D[n1m1]を、判定対象吐出部D-Hとして指定する場合、接続状態指定回路116は、接続状態指定信号SLa[n1m1]を、記録期間Tuにおいてローレベルに設定し、接続状態指定信号SLb[n1m1]を、制御期間TSS1及びTSS3においてハイレベルに、制御期間TSS2においてローレベルに、それぞれ設定し、接続状態指定信号SLs[n1m1]を、制御期間TSS1及びTSS3においてローレベルに、制御期間TSS2においてハイレベルに、それぞれ設定する。
この場合、判定対象吐出部D-Hは、制御期間TSS1において検査波形PSの駆動信号Com-Bにより駆動される。具体的には、判定対象吐出部D-Hが有する圧電素子111fは、制御期間TSS1において検査波形PSの駆動信号Com-Bにより変位させられる。その結果、判定対象吐出部D-Hにおいて振動が生じ、この振動は、制御期間TSS2においても残留する。そして、制御期間TSS2において、判定対象吐出部D-Hの圧電素子111fが有する下部電極Zdは、判定対象吐出部D-Hにおいて生じている残留振動に応じて電位を変化させる。換言すれば、制御期間TSS2において、判定対象吐出部D-Hの圧電素子111fが有する下部電極Zdは、判定対象吐出部D-Hにおいて生じている残留振動に起因する圧電素子111fの起電力に応じた電位を示す。そして、当該下部電極Zdの電位は、制御期間TSS2において、検出信号Voutとして検出することができる。
【0100】
図11は、n1がa又はbであり、且つ、m1が1からMまでの任意の整数である前提において、接続状態指定信号SLa[n1m1]、SLb[n1m1]、及び、SLs[n1m1]の生成を説明するための説明図である。接続状態指定回路116は、図11に従って、個別指定信号Sd[n1m1]をデコードし、接続状態指定信号SLa[n1m1]、SLb[n1m1]、及び、SLs[n1m1]を生成する。
【0101】
図11に示すように、本実施形態に係る個別指定信号Sd[n1m1]は、大ドットの形成を指定する値(1,1,0)、中ドットの形成を指定する値(1,0,0)、小ドットの形成を指定する値(0,1,0)、インクの非吐出を指定する値(0,0,0)、又は、判定対象吐出部D-Hとしての駆動を指定する値(1,1,1)のいずれかの値を示す。そして、接続状態指定回路116は、個別指定信号Sd[n1m1]が(1,1,0)を示す場合、制御期間Tu1及びTu2において接続状態指定信号SLa[n1m1]をハイレベルとし、個別指定信号Sd[n1m1]が(1,0,0)を示す場合、制御期間Tu1において接続状態指定信号SLa[n1m1]をハイレベルとし、個別指定信号Sd[n1m1]が(0,1,0)を示す場合、制御期間Tu2において接続状態指定信号SLa[n1m1]をハイレベルとし、個別指定信号Sd[n1m1]が(1,1,1)を示す場合、制御期間TSS1及びTSS3において接続状態指定信号SLb[n1m1]をハイレベルとするとともに、制御期間TSS2において接続状態指定信号SLs[n1m1]をハイレベルとし、以上に該当しない場合において各信号をローレベルとする。
【0102】
検出回路117は、上述のとおり、検出信号Voutに基づいて残留振動信号NESを生成する。残留振動信号NESとは、検出信号Voutの振幅を増幅し、また、検出信号Voutからノイズ成分を除去する等することで、検出信号Voutを吐出状態判定回路190における処理に適した波形に整形した信号である。残留振動信号NESは、アナログの信号である。
検出回路117は、例えば、検出信号Voutを増幅させるための負帰還型のアンプと、検出信号Voutの高域周波数成分を減衰させるためのローパスフィルターと、インピーダンスを変換してローインピーダンスの残留振動信号NESを出力するボルテージフォロアと、を含む構成等であってもよい。
【0103】
1-7.吐出状態判定回路190
説明を図5に戻して、吐出状態判定回路190について説明する。第1実施形態では、図5に示すように、インクジェットプリンター100が、合計4個のヘッドチップ111と1対1に対応する4個の吐出状態判定回路190を備える態様を想定する。
【0104】
一般的に、吐出部Dに生じる残留振動は、ノズルNの形状、圧力室CVに充填されたインクの重量、及び、圧力室CVに充填されたインクの粘度、等により決定される固有振動周波数を有する。吐出不良が生じている場合、吐出不良が生じていない場合と比較して、残留振動の周波数が高くなる場合もあるし、低くなる場合もある。また、吐出不良が生じている場合、吐出不良が生じていない場合と比較して、残留振動の振幅が小さくなることがある。吐出状態判定回路190は、残留振動信号NESに基づいて、残留振動の周波数及び残留振動の振幅の一方又は両方を特定し、残留振動の周波数及び残留振動の振幅の一方又は両方に基づいて、吐出部Dに吐出不良が生じているか否かを示す判定情報SSTを出力する。
【0105】
1-8.補完処理について
上述したように、インクジェットプリンター100に装着されたヘッドユニットHUには、様々な吐出不良が発生する。ヘッドユニットHUの吐出不良を補完するための補完処理を実行することにより、画質の低下を抑制できる。補完処理は、例えば、以下に示す2つの態様が考えられる。第1態様の補完処理は、記録処理で使用される駆動信号Comを補正する駆動信号補正処理である。第2態様の補完処理は、吐出不良が生じたノズルNとは異なるノズルNからインクを吐出する処理である。本実施形態では、第2態様の補完処理を実行する例を用いて説明する。
【0106】
第2態様の補完処理は、吐出不良が生じたノズルNと異なり、且つ、吐出不良の補正を行うノズルNを決定する補完先ノズル決定処理と、補完先ノズル決定処理が決定したノズルNからインクを吐出する処理とに分解できる。以下の記載において、補完先ノズル決定処理によって決定されるノズルNを、「補完先ノズルN-H」と記載することがある。処理装置200は、データ処理において、補完先ノズルN-Hがインクを吐出するような記録データDPを生成する。インクジェットプリンター100は、記録処理において、記録データDPに従って、補完先ノズルN-Hからインクを吐出する。
【0107】
第2態様の補完処理において、吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきパスと同一のパスで補完先ノズルN-Hからインクを吐出してもよいし、吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきパスとは異なるパスで補完先ノズルN-Hからインクを吐出してもよい。以下では、説明の簡略化のため、吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきパスと同一のパスで補完先ノズルN-Hからインクを吐出する例を用いて説明する。
【0108】
記録システム20が常に補完処理を行うと、補完処理に対して記録システム20の計算資源を割り当てることになり、記録処理、データ処理、及び、その他の処理に、記録システム20の計算資源を十分に割り当てることができないという問題があった。その他の処理は、例えば、インクジェットプログラムPM2の更新の有無をクラウドサーバーCSに問い合わせる処理である。記録システム20の計算資源とは、例えば、制御回路210を使用する期間と、記憶回路220の記憶容量と、制御回路170を使用する期間と、記憶回路160の記憶容量とである。例えば、記録処理及びデータ処理に計算資源を十分に割り当てることができない結果、記録処理及びデータ処理が完了することに要する期間が延びることがある。
【0109】
ここで、本実施形態のように、クラウドサーバーCSに接続可能な態様では、クラウドサーバーCSが第2態様の補完処理の一部を実行することが考えられる。第2態様の補完処理のうち補完先ノズル決定処理は、クラウドサーバーCSで実行可能である。しかしながら、吐出不良は、記録処理及びデータ処理を実行している間にも発生し得るため、クラウドサーバーCSが常に補完先ノズル決定処理を実行すると、記録システム20がクラウドサーバーCSに常時接続可能である必要がある上に、記録システム20とクラウドサーバーCSとの通信によるタイムラグによって補正処理が完了することに要する期間が延びることになる。従って、様々な吐出不良のそれぞれに対して、記録システム20とクラウドサーバーCSとのいずれが補完先ノズル決定処理を行うかを決定する必要がある。
【0110】
ここで、発明者らは、吐出不良が所定の回復処理を実行することによって解消するか否かに着目した。吐出不良には、インクの増粘等、所定の回復処理を実行することによって解消する吐出不良と、圧電素子111fの劣化等、所定の回復処理を行っても解消しない吐出不良とに大別できる。所定の回復処理を実行することによって解消する吐出不良は、記録処理の途中で第2態様の補完処理をリアルタイムに行うことで解消できるので、記録システム20が補正処理を実行することが好ましい。
【0111】
一方、所定の回復処理を実行しても解消しない吐出不良は、一度発生した場合、継続的に発生し続ける。従って、所定の回復処理を実行しても解消しない吐出不良に対しては、一度補完先ノズル決定処理を行った場合、暫く補完先ノズル決定処理の結果を使用し続ける。このような補完先ノズル決定処理を記録システム20がリアルタイムに実行する必要性は乏しく、クラウドサーバーCSが所定のタイミングで補完先ノズル決定処理を実行すればよい。
【0112】
以下の記載では、所定の回復処理を実行することによって解消する吐出不良を、「回復可能吐出不良」と記載することがあり、所定の回復処理を実行しても解消しない吐出不良を、「回復不可能吐出不良」と記載することがある。また、回復可能吐出不良が生じたノズルNを「回復可能ノズルN-R1」と記載することがあり、回復不可能吐出不良が生じたノズルNを「回復不可能ノズルN-R2」と記載することがある。吐出不良が回復可能吐出不良か回復不可能吐出不良かを、所定の回復処理を実際に実行することにより判定してもよいし、所定の回復処理を実行せずに、ノズルNが吐出した回数に基づいて判定してもよい。例えば、ノズルNが吐出した回数が所定値以上である場合、記録システム20は、圧電素子111fが劣化したと看做して、回復不可能吐出不良であると判定してもよい。ヘッドメーカーは、例えば、実験又は経験によって所定値を設定する。
【0113】
本実施形態では、吐出不良が回復可能吐出不良か回復不可能吐出不良かを、所定の回復処理を実際に実行することにより判定する。また、本実施形態では、吐出不良が回復可能吐出不良か回復不可能吐出不良かを未判定である場合、一旦回復可能吐出不良として設定する。なお、回復可能吐出不良が「第1吐出不良」の一例であり、回復不可能吐出不良が「第2吐出不良」の一例である。
【0114】
以上のように、本実施形態では、記録システム20とクラウドサーバーCSとのそれぞれが実行すべき補完先ノズル決定処理の対象となる吐出不良ノズルN-Tを明確にしている。具体的には、記録システム20が、回復可能ノズルN-R1に対して補完先ノズル決定処理を実行し、クラウドサーバーCSが、回復不可能ノズルN-R2に対して補完先ノズル決定処理を実行する。これにより、記録システム20が全ての吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズル決定処理を実行する態様と比較して、記録システム20の計算資源を記録処理及びデータ処理に多く割り当てることができるので、記録処理及びデータ処理が完了することに要する期間が延びることを抑制できる。更に、クラウドサーバーCSが全ての吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズル決定処理を実行する態様と比較して、記録システム20とクラウドサーバーCSとの通信によるタイムラグによって第2態様の補完処理が完了することに要する期間が延びることを低減できる。第1実施形態では、補完先ノズル決定処理が「第1補正処理」及び「第2補正処理」の一例である。以下の記載において、記録システム20が実行する補完先ノズル決定処理を第1補正処理と記載することがあり、クラウドサーバーCSが実行する補完先ノズル決定処理を第2補正処理と記載することがある。本実施形態では、記録システム20に含まれる処理装置200が第1補正処理を実行するが、インクジェットプリンター100が第1補正処理を実行してもよいし、処理装置200とインクジェットプリンター100とが第1補正処理を協同して実行してもよい。
【0115】
1-9.インクジェットシステム10の機能及び動作
図12から図21を用いて、インクジェットシステム10の機能及び動作を説明する。
【0116】
図12は、インクジェットシステム10の機能を示す図である。制御回路210は、インクジェットプログラムPM2を読み出して、読み出したインクジェットプログラムPM2を実行することにより、吐出不良ノズル検出部211と、第1補正処理実行部213と、データ処理実行部215として機能する。サーバー300は、仮想化プログラムVMを読み出し、読み出した仮想化プログラムVMを実行することにより、クラウドサーバーCSとして機能する。クラウドサーバーCSによって、制御プログラムPM1が読み出され、制御プログラムPM1を実行することにより、クラウドサーバーCSは、第2補正処理実行部301として機能する。インクジェットプリンター100は、インクジェットプリンター100の各部の要素によって、回復処理実行部101と、吐出状態判定部103と、記録処理実行部105として機能する。
【0117】
制御回路210がインクジェットプログラムPM2を実行することにより、記憶回路220には、吐出不良ノズルテーブルTNIが記憶される。吐出不良ノズルテーブルTNIの内容について図13を用いて説明する。
【0118】
図13は、吐出不良ノズルテーブルTNIの内容の一例を示す図である。吐出不良ノズルテーブルTNIは、吐出不良ノズルN-Tを示す吐出不良ノズル情報ごとに、回復可能吐出不良か回復不可能吐出不良かのいずれか一方を示す吐出不良種別情報と、補完先ノズルN-Hを示す補完先ノズル情報とを記憶する。吐出不良ノズルテーブルTNIは、1つのノズルNに対して1つのレコードを有する。
【0119】
図13に示す吐出不良ノズルテーブルTNIは、3つのレコードRC-1~RC-3を有する。レコードRC-1は、ノズルN[a1]の吐出不良が回復不可能吐出不良であり、且つ、ノズルN[a1]の補完先ノズルN-HがノズルN[c1]であることを示す。レコードRC-2は、ノズルN[b4]の吐出不良が回復不可能吐出不良であり、且つ、ノズルN[b4]の補完先ノズルN-HがノズルN[a4]であることを示す。レコードRC-3は、ノズルN[d4]の吐出不良が回復不可能吐出不良であり、且つ、ノズルN[b4]の補完先ノズルN-Hが未定であることを示す。
【0120】
図13の例では、吐出不良ノズルテーブルTNIに登録されていないノズルNは、吐出正常ノズルN-Sであることを示す。吐出不良ノズルテーブルTNIの態様は、図13の例に限らない。例えば、吐出不良ノズルテーブルTNIの吐出不良種別情報は、インクジェットプリンター100に設けられた全てのノズルNに対して、吐出正常、回復可能吐出不良、及び、回復不可能吐出不良のうちいずれか1つを示す情報を記憶してもよい。
【0121】
図14は、インクジェットシステム10の動作を示すシーケンス図である。図14に示すように、時刻Ts1にユーザーUから1回目の記録指示PIを受け付けると、制御回路210は、記録処理制御処理を実行する。記録処理制御処理は、記録指示PIを受け付けた場合に実行され、記録処理を制御する処理であり、データ処理と、記録中吐出不良対処処理とを含む。記録中吐出不良対処処理は、記録処理制御処理から呼び出される処理であり、記録処理中に発生したノズルNの吐出不良を対処する処理であり、第1補正処理を含む。
【0122】
図14における記録処理制御処理の右方向に配置した矩形TH1の横方向の長さは、制御回路210が記録処理制御処理を実行する期間を示す。同様に、図14における記録中吐出不良対処処理の右方向に配置した矩形TH2の横方向の長さは、制御回路210が記録中吐出不良対処処理を実行する期間を示す。但し、矩形TH1内の網掛けを付与した箇所は、記録中吐出不良対処処理の実行完了を待ち受けている状態を示す。
【0123】
また、図14におけるインクジェットプリンター100の右方向に配置した矩形TH3の横方向の長さは、インクジェットプリンター100が記録処理を即時実行可能な期間を示す。以下の記載において、記録処理を即時実行可能な状態を、「実行可能状態」と記載することがあり、記録処理を即時実行可能でない状態を、以下、「スタンバイ状態」と記載する。スタンバイ状態とは、インクジェットプリンター100の各構成要素のうち、処理装置200からの信号に応答可能にする等の必要な構成要素へのみ電力を供給し、記録処理に関する構成要素への電力の供給を停止させた状態である。記録処理に関する構成要素とは、例えば、2個のヘッドユニットHU、移動機構130、搬送機構140、及び、メンテナンス機構145である。
【0124】
更に、図14に示すように、制御回路210は、記録指示PIに指定された画像の記録が終了した後から、次に記録指示PIが発行されるまでの間に、記録間吐出不良対処処理を実行する。図14における記録間吐出不良対処処理の右方向に配置した矩形TH4の横方向の長さは、制御回路210が記録間吐出不良対処処理を実行する期間を示す。記録間吐出不良対処処理は、ノズルNの吐出不良を対処する処理であり、クラウドサーバーCSに第2補正処理を実行させる。
【0125】
第1補正処理は、1回の記録指示PIにおいて複数回実行され、第2補正処理は、2回の記録指示PIの間に1回実行される。従って、第1補正処理が実行される頻度は、第2補正処理が実行される頻度より高い。
【0126】
第2補正処理を実行するタイミングは、例えば、ユーザーUによって指定された所定の期間が経過するごとでもよい。所定の期間は、どのような期間でもよいが、第1補正処理が実行される期間より長いことが好ましい。所定の期間は、例えば、数日間、及び、数時間等である。例えば、制御回路210は、表示装置270に「クラウドサーバーに補完先ノズル決定処理を実行させる期間を入力して下さい」と表示させる。ユーザーUは、入力装置260を操作して、所定の期間を入力する。なお、所定の期間が、「所定の経過期間」の一例である。
【0127】
図15は、記録処理制御処理の一例を示すフローチャートである。ステップS2において、制御回路210は、ユーザーUの入力装置260の操作によって、記録指示PIを受け付ける。記録指示PIを受け付けた場合、制御回路210は、ステップS4において、インクジェットプリンター100の実行可能状態への遷移を指示する。インクジェットプリンター100は、実行可能状態への遷移の指示を受け付けた場合、スタンバイ状態から実行可能状態に遷移する。
【0128】
記録指示PIを受け付けた場合、データ処理実行部215として機能する制御回路210は、ステップS6において、吐出不良ノズルテーブルTNI内の補完先ノズル情報に基づいて、特定範囲内の画像のデータ処理を実行し、特定範囲内の画像を示す記録データDPを生成する。なお、図14では、ステップS6の処理は、ステップS4の処理の後に記載しているが、制御回路210は、ステップS6の後にステップS4の処理を実行してもよいし、ステップS4の処理とステップS6の処理とを並列に実行してもよい。
【0129】
特定範囲内の画像は、例えば、以下に示す3つの態様がある。第1の態様における特定範囲内の画像は、所定の枚数の用紙に対する画像である。所定の枚数は、どのような枚数でもよく、例えば、1枚である。第2の態様における特定範囲内の画像は、所定の回数のパスに対する画像である。所定の回数は、どのような値でもよい。第3の態様における特定範囲内の画像は、所定期間内に形成可能な画像である。所定期間は、例えば、図10に例示した駆動信号Comの1周期分である記録期間Tuの整数倍の期間である。上述した所定の枚数、所定の回数、及び、所定期間は、ヘッドメーカー、プリンターメーカー、ユーザーUのいずれかによって決定される。所定の枚数及び所定の回数を少なくする程、所定期間を短くする程、ノズルNに吐出不良が発生してから第1補正処理が実行されるまでの期間を短くできるため、記録媒体PPに形成される画像の質を向上できる。一方で、所定の枚数及び所定の回数を少なくする程、所定期間を短くする程、吐出状態判定処理を実行する回数が増えるため、記録指示PIによって指示された画像の形成の完了までに要する期間が長くなる。
【0130】
例えば、所定の回数を、1枚の記録媒体PPにおけるパスの回数未満に設定する、又は、所定期間を、吐出状態判定処理を一切実行しない場合に1枚の記録媒体PPに画像を形成することに要する期間未満に設定することにより、1枚の記録媒体PPの記録中に、吐出状態判定処理を実行して吐出不良ノズルN-Tを検出する処理と第1補正処理とを実行できる。
【0131】
ステップS6の処理終了後、制御回路210は、ステップS8において、通信装置240を介して、特定範囲の画像を示す記録データDPを含む記録ジョブJBをインクジェットプリンター100に送信する。ステップS8の処理終了後、制御回路210は、ステップS10において、記録指示PIに指定された画像の記録が終了したか否かを判定する。ステップS10の判定結果が否定である場合、ステップS12において、制御回路210は、記録中吐出不良対処処理を実行し、ステップS12の処理終了後、処理をステップS6に戻す。
【0132】
図14に示すシーケンス図では、制御回路210は、時刻Ts1から時刻Ts2までの期間T1において、ステップS2からステップS10までの1回目の処理を実行し、時刻Ts2から時刻Ts3までの期間T2において、1回目の記録中吐出不良対処処理を実行し、時刻Ts3以降において、ステップS2からステップS10までの2回目の処理を実行する。
【0133】
ステップS10の判定結果が肯定である場合、制御回路210は、図15に示す一連の処理を終了する。
【0134】
図16は、記録中吐出不良対処処理の一例を示すフローチャートである。ステップS22において、吐出不良ノズル検出部211として機能する制御回路210は、インクジェットプリンター100に、全てのノズルNに対する吐出状態判定指示を通知する。全てのノズルNに対する吐出状態判定指示を受信した場合、インクジェットプリンター100は、吐出状態判定部103として機能して、全てのノズルNに対する判定情報SSTを処理装置200に送信する。
【0135】
吐出不良ノズル検出部211として機能する制御回路210は、ステップS24において、全てのノズルNに対する判定情報SSTを取得する。制御回路210は、全てのノズルNに対する判定情報SSTに基づいて、吐出不良ノズルテーブルTNIを更新する。具体的には、n1がa,b,c,d,e,f,g,hのいずれか1つを示す文字であり、m1が1以上M以下のいずれかの整数である前提において、吐出不良を示す判定情報SST[n1m1]であり、且つ、ノズルN[n1m1]が吐出不良ノズルテーブルTNIに登録されていないとする。この場合、制御回路210は、ノズルN[n1m1]を示す吐出不良ノズル情報と、回復可能吐出不良を示す吐出不良種別情報と、補完先ノズルN-Hが未定であることを示す補完先ノズル情報と、を関連付けたレコードを吐出不良ノズルテーブルTNIに追加する。
【0136】
ステップS24の処理終了後、吐出不良ノズル検出部211として機能する制御回路210は、ステップS26において、全ての吐出部Dに対する判定情報SSTを参照して、吐出不良ノズルN-Tがあるか判定する。なお、ステップS22、ステップS24、及び、ステップS26の一連の処理が、「吐出不良を検出する処理」に相当する。
【0137】
ステップS26の判定結果が肯定である場合、即ち、吐出不良ノズルN-Tを検出した場合、制御回路210は、ステップS28において、吐出不良ノズルテーブルTNIに基づいて、吐出不良ノズルN-Tの全てが回復不可能吐出不良か否かを判定する。全ての吐出部Dに対する判定情報SSTのうち、吐出不良ノズルN-Tであると示されるノズルNの全てが、吐出不良ノズルテーブルTNIにおいて回復不可能吐出不良であると示される場合、制御回路210は、ステップS28の判定結果を肯定であると判定する。一方、全ての吐出部Dに対する判定情報SSTのうち吐出不良ノズルN-Tであると示されるノズルNの中で、吐出不良ノズルテーブルTNIに回復可能吐出不良であると示されるノズルNがある場合、制御回路210は、ステップS28の判定結果を否定であると判定する。
【0138】
ステップS28の判定結果が否定である場合、第1補正処理実行部213として機能する制御回路210は、ステップS30において、回復可能ノズルN-R1に対して第1補正処理である補完先ノズル決定処理を実行し、決定した補完先ノズルN-Hを示す情報を、吐出不良ノズルテーブルTNIの補完先ノズル情報に書き込む。なお、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hは、後述する記録間吐出不良対処処理によって決定済である。補完先ノズル決定処理の一例について、図17を用いて説明する。
【0139】
図17は、記録中吐出不良対処処理内における補完先ノズル決定処理の一例を説明する図である。図17の上部では、吐出不良ノズルN-Tと補完先ノズルN-Hとの関係を、吐出不良ノズルN-Tから補完先ノズルN-Hを示す矢印により示しており、図17の下部では、図17の上部に示す状態を示す吐出不良ノズルテーブルTNIを示してある。図17の上部では、吐出不良ノズルN-Tのうち回復可能ノズルN-R1を、ノズルNに斜線を重畳させることによって表してある。
【0140】
補完先ノズル決定処理において、第1実施形態では、制御回路210は、吐出正常ノズルN-Sから、吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-HとするノズルNを、以下の4つの優先順位に従って探索する。制御回路210は、ある優先順位に従ったノズルNが吐出不良ノズルN-Tでない場合、ある優先順位に従ったノズルNを補完先ノズルN-Hに決定し、ある優先順位に従ったノズルNが吐出不良ノズルN-Tである場合、次の優先順位に従ったノズルnを補完先ノズルN-Hに決定できるかを判定することを繰り返す。
【0141】
第1優先順位のノズルNは、吐出不良ノズルN-Tが吐出するインクと同一種類のインクを吐出し、且つ、吐出不良ノズルN-Tの同一位置ノズルNである。第2優先順位のノズルNは、吐出不良ノズルN-Tが吐出するインクと同一種類のインクを吐出し、且つ、吐出不良ノズルN-Tの隣接位置ノズルNである。第3優先順位のノズルNは、吐出不良ノズルN-Tと異なる種類のインクを吐出し、且つ、吐出不良ノズルN-Tの同一位置ノズルNである。第4優先順位のノズルNは、吐出不良ノズルN-Tと異なる種類のインクを吐出し、且つ、吐出不良ノズルN-Tの隣接位置ノズルNである。
【0142】
補完先ノズルN-Hが吐出するインクと吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきインクとが同一の種類であることは、補完先ノズルN-Hが吐出するインクと吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきインクとが互いに異なる種類であることと比較して記録媒体PPに形成される画像の質を高くできる。更に、補完先ノズルN-Hが吐出するインクが着弾する記録媒体PP上の位置が、吐出不良ノズルN-Tが吐出すべきインクが着弾すべき記録媒体PP上の位置に近づくことに応じて、記録媒体PPに形成される画像の質を向上できる。以上により、第1優先順位のノズルNから第4優先順位のノズルNまでのうち、第1優先順位のノズルNが吐出することにより、記録媒体PPに形成される画像の質を最も高くできる。
【0143】
制御回路210は、補完先ノズル決定処理において、吐出不良ノズルテーブルTNIを参照して、補完先ノズルN-Hが未定である吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-Hを、前述した4つの優先順位に従って決定する。なお、前述した4つの優先順位に従って補完先ノズルN-Hを決定するために、記憶回路220は、インクジェットプリンター100が有する全てのノズルNの位置を示す情報と、インクジェットプリンター100が有する全てのノズルNが吐出するインクの種類を示す情報とを記憶する。
【0144】
図17の例では、図14に示した期間T2における補完先ノズル決定処理の一例を示している。図17では、吐出不良ノズルN-TであるノズルN[a1]、ノズルN[b4]及び、ノズルN[d4]の補完先ノズルN-Hが未定である状態を示してある。制御回路210は、補完先ノズル決定処理において、ノズルN[a1]の補完先ノズルN-Hを、第1優先順位であるノズルN[c1]に決定する。また、制御回路210は、ノズルN[b4]の補完先ノズルN-Hを、第1優先順位であるノズルN[d4]に決定しようとするが、ノズルN[d4]も吐出不良ノズルN-Tであるため、第2優先順位であるノズルN[a4]に決定する。同様に、制御回路210は、ノズルN[d4]の補完先ノズルN-Hを、第2優先順位であるノズルN[c4]に決定する。
【0145】
説明を図16に戻す。ステップS30の処理終了後、制御回路210は、図16に示す一連の処理を終了し、ステップS6の処理を実行する。ステップS28の判定結果が否定である場合、又は、ステップS30の判定結果が肯定である場合も、制御回路210は、図16に示す一連の処理を終了し、ステップS6の処理を実行する。
【0146】
説明を図14に戻す。時刻Ts3の後の時刻Ts10において、制御回路210は、記録処理制御処理を終了する。時刻Ts10の後の時刻Ts11から時刻Ts12までの期間T4において、制御回路210は、記録間吐出不良対処処理を実行する。時刻Ts11は、時刻Ts10の直後でもよいし、時刻Ts10から所定の期間経過後でもよい。この所定の期間は、ヘッドメーカー、プリンターメーカー、ユーザーUのいずれかによって決定される。また、図14では、インクジェットプリンター100は、制御回路210が記録処理制御処理の終了時点から記録間吐出不良対処処理の開始時点まで実行可能状態を維持しているが、一旦スタンバイ状態に遷移してもよい。図18及び図19を用いて、記録間吐出不良対処処理を説明する。
【0147】
図18及び図19は、記録間吐出不良対処処理の一例を示すフローチャートである。制御回路210は、ステップS42において、吐出不良ノズルテーブルTNIから、回復可能ノズルN-R1を示す情報を読み出す。次に、制御回路210は、ステップS44において、インクジェットプリンター100に対して、回復可能ノズルN-R1に対して所定の回復処理を実行させる。インクジェットプリンター100は、回復処理実行部101として機能して、回復可能ノズルN-R1に対して所定の回復処理を実行する。
【0148】
インクジェットプリンター100が所定の回復処理の実行を終了した後、吐出不良ノズル検出部211として機能する制御回路210は、ステップS46において、インクジェットプリンター100に、回復可能ノズルN-R1に対する吐出状態判定指示を通知させる。回復可能ノズルN-R1に対する吐出状態判定指示を受信した場合、インクジェットプリンター100は、吐出状態判定部103として機能して、回復可能ノズルN-R1に対する吐出状態判定処理を実行し、回復可能ノズルN-R1に対する判定情報SSTを処理装置200に送信する。
【0149】
吐出不良ノズル検出部211として機能する制御回路210は、ステップS48において、回復可能ノズルN-R1に対する判定情報SSTを取得する。ステップS48の処理終了後、制御回路210は、ステップS50において、インクジェットプリンター100をスタンバイ状態に遷移することを指示する。なお、制御回路210は、ステップS50の処理を実行しなくてもよい。
【0150】
ステップS50の処理終了後、制御回路210は、ステップS52において、吐出不良ノズルテーブルTNI及び回復可能ノズルN-R1に対する判定情報SSTに基づいて、所定の回復処理を実行したことにより回復可能ノズルN-R1から吐出正常ノズルN-Sに遷移したノズルNがあるか否か判定する。具体的には、制御回路210は、吐出不良ノズルテーブルTNIのうち回復可能ノズルN-R1のうち、判定情報SSTにおいて吐出正常を示すノズルNがあるか判定する。
【0151】
ステップS52の判定結果が肯定である場合、制御回路210は、ステップS54において、吐出不良ノズルテーブルTNIに関して、吐出不良ノズルN-Tを吐出正常ノズルN-Sに書き換える。具体的には、制御回路210は、吐出不良ノズルテーブルTNIから、回復可能ノズルN-R1から吐出正常ノズルN-Sに遷移したノズルNに対するレコードを削除する。
【0152】
ステップS52の判定結果が否定である場合、又は、ステップS54の処理終了後、制御回路210は、ステップS58において、所定の回復処理を実行しても回復可能ノズルN-R1のままのノズルNがあるか否かを判定する。具体的には、制御回路210は、吐出不良ノズルテーブルTNIのうち、回復可能ノズルN-R1であるレコードがある場合、ステップS58の判定結果が肯定であると判定する。
【0153】
ステップS58の判定結果が肯定である場合、制御回路210は、ステップS60において、回復可能ノズルN-R1を回復不可能ノズルN-R2に書き換える。具体的には、制御回路210は、吐出不良ノズルテーブルTNIのうち、回復可能ノズルN-R1の吐出不良種別情報を、「回復不可能吐出不良」に書き換える。なお、ステップS60の実行が終了した段階では、吐出不良ノズルテーブルTNIに回復可能ノズルN-R1が含まれていない。
【0154】
ステップS60の処理終了後、制御回路210は、ステップS62において、通信装置230を介して、回復不可能ノズルN-R2に対する補完先ノズル決定処理の実行指示をクラウドサーバーCSに送信する。この実行指示には、吐出不良ノズルテーブルTNIが含まれる。補完先ノズル決定処理の実行指示を受信した場合、第2補正処理実行部301として機能するクラウドサーバーCSは、回復不可能ノズルN-R2に対して第2補正処理である補完先ノズル決定処理を実行する。そして、クラウドサーバーCSは、決定した補完先ノズルN-Hによって吐出不良ノズルテーブルTNIを更新し、更新した吐出不良ノズルテーブルTNIを、処理装置200に送信する。
【0155】
図14図18、及び、図19から理解されるように、第1実施形態において、クラウドサーバーCSは、インクジェットプリンター100がスタンバイ状態であるときに補完先ノズル決定処理を実行する。但し、クラウドサーバーCSは、インクジェットプリンター100が実行可能状態であるときに補完先ノズル決定処理を実行してもよい。
【0156】
クラウドサーバーCSが実行する補完先ノズル決定処理の一例について、図20を用いて説明する。
【0157】
図20は、クラウドサーバーCSが実行する補完先ノズル決定処理の一例を説明する図である。図20の上部では、図17と同様に、吐出不良ノズルN-Tと補完先ノズルN-Hとの関係を、吐出不良ノズルN-Tから補完先ノズルN-Hを示す矢印により示しており、図20の下部では、図20の上部に示す状態を示す吐出不良ノズルテーブルTNIを示してある。図20の上部では、吐出不良ノズルN-Tのうち回復不可能ノズルN-R2を、ノズルNに斜め十字を重畳させることによって表してある。
【0158】
クラウドサーバーCSは、補完先ノズル決定処理において、受信した吐出不良ノズルテーブルTNIを参照して、吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-Hを、前述した4つの優先順位に従って決定する。本実施形態では、制御回路210による記録中吐出不良対処処理内で実行される補完先ノズル決定処理において、吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-Hが既に決定されているが、クラウドサーバーCSは、記録媒体PPに形成される画像の質をより向上させるため、再度、吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-Hを決定する。例えば、クラウドサーバーCSは、第1の処理として、4つの優先順位に従って決定した補完先ノズルN-Hの候補で構成される組を複数生成し、第2の処理として、複数の組のそれぞれの評価値を算出し、第3の処理として、評価値が最も高い組が構成する補完先ノズルN-Hの候補を、補完先ノズルN-Hとして決定する。
以下、具体例を用いて説明する。例えば、2つの吐出不良ノズルN-Tとして、ノズルN[a1]とノズルN[b2]とがあり、クラウドサーバーCSは、ノズルN[n1m1]とノズルN[n2m2]とで構成される第1の組と、ノズルN[n3m3]とノズルN[n4m4]とで構成される第2の組とを生成する。n1、n2、n3、及び、n4は、a,b,c,d,e,f,g,hのいずれか1つを示す文字である。m1、m2、m3、m4は、1以上M以下を満たす整数である。ノズルN[n1m1]及びノズルN[n3m3]は、ノズルN[a1]の補完先ノズルN-Hの候補であり、ノズルN[n2m2]及びノズルN[n4m4]は、ノズルN[ab]の補完先ノズルN-Hの候補である。クラウドサーバーCSは、第2の処理として、第1の組の評価値と、第2の組の評価値とを算出する。組の評価値は、記録媒体PPに形成される画像の質が高い程高い値となればよい。クラウドサーバーCSは、例えば、組の候補に含まれる複数のノズルNのそれぞれの評価値を、第1優先順位のノズルN、第2優先順位のノズルN、第3優先順位のノズルN、第4優先順位のノズルNの順に低い値とし、複数のノズルNの評価値の合計を、組の評価値として算出する。例えば、クラウドサーバーCSは、ノズルN[n1m1]の評価値と、ノズルN[n2m2]の評価値との合計を、第1の組の評価値として算出する。クラウドサーバーCSは、第3の処理として、第1の組の評価値と第2の組の評価値とのうち高い評価値の組が構成する補完先ノズルN-Hの候補を、補完先ノズルN-Hとして決定する。
【0159】
なお、前述した4つの優先順位に従って補完先ノズルN-Hを決定するために、クラウドサーバーCSは、記憶回路220と同様に、インクジェットプリンター100が有する全てのノズルNの位置を示す情報と、インクジェットプリンター100が有する全てのノズルNが吐出するインクの種類を示す情報とを記憶する。
【0160】
図20では、10個の回復不可能ノズルN-R2が生じた例を示してある。従って、吐出不良ノズルテーブルTNIには、レコードRC-1~RC-10という10個のレコードが登録されている。例えば、レコードRC-3において、クラウドサーバーCSは、吐出正常ノズルN-Sから、前述した4つの優先順位に従ってノズルN[b4]の補完先ノズルN-Hを決定する。図20の例では、ノズルN[b4]に対する第1優先順位のノズルNはノズルN[d4]であり、回復不可能ノズルN-R2である。また、ノズルN[b4]に対する第2優先順位のノズルNは、ノズルN[a4]、ノズルN[a5]、ノズルN[c4]、及び、ノズルN[c5]であり、全て回復不可能ノズルN-R2である。従って、クラウドサーバーCSは、ノズルN[b4]に対する第3優先順位のノズルNであるノズルN[f4]を、補完先ノズルN-Hに決定する。
【0161】
説明を図18及び図19に戻す。ステップS64において、制御回路210は、通信装置230を介して、クラウドサーバーCSから、更新した吐出不良ノズルテーブルTNIを受信する。ステップS64の処理終了後、制御回路210は、ステップS66において、受信した吐出不良ノズルテーブルTNIによって、記憶回路220の吐出不良ノズルテーブルTNIを上書きする。ステップS66の処理終了後、制御回路210は、図18及び図19に示す一連の処理を終了する。ステップS58の判定結果が否定である場合も、制御回路210は、図18及び図19に示す一連の処理を終了する。
【0162】
説明を図14に戻す。時刻Ts12の後の時刻Ts21にユーザーUから2回目の記録指示PIを受け付けると、制御回路210は、記録処理制御処理を再び実行する。2回目の記録処理制御処理内において、記録中吐出不良対処処理を実行し、ステップS28の判定結果が否定である場合の例について、図21を用いて説明する。
【0163】
図21は、2回目の記録指示PIにおける補完先ノズル決定処理の一例を説明する図である。図21の上部では、図17と同様に、吐出不良ノズルN-Tと補完先ノズルN-Hとの関係を、吐出不良ノズルN-Tから補完先ノズルN-Hを示す矢印により示しており、図21の下部では、図21の上部に示す状態を示す吐出不良ノズルテーブルTNIを示してある。図21の上部では、吐出不良ノズルN-Tのうち回復可能ノズルN-R1を、ノズルNに斜線を重畳させることによって表してあり、回復不可能ノズルN-R2を、ノズルNに斜め十字を重畳させることによって表してある。
【0164】
制御回路210は、補完先ノズル決定処理において、吐出不良ノズルテーブルTNIを参照して、補完先ノズルN-Hが未定である吐出不良ノズルN-Tに対する補完先ノズルN-Hを、前述した4つの優先順位に従って決定する。
【0165】
図21の例では、10個の回復不可能ノズルN-R2に加えて、ノズルN[d2]とノズルN[f6]という2個の回復可能ノズルN-R1が検出された例を示す。従って、図21に示す吐出不良ノズルテーブルTNIには、レコードRC-11及びレコードRC-12という2個のレコードが追加されている。制御回路210は、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hが回復可能ノズルN-R1でないことを確認する確認処理と、回復可能ノズルN-R1の補完先ノズルN-Hを決定する処理とを実行する。確認処理において、制御回路210は、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hが回復可能ノズルN-R1である場合、吐出正常ノズルN-Sから、前述した4つの優先順位に従って回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hを再度決定する。
【0166】
図21の例では、吐出正常ノズルN-Sから、前述した4つの優先順位に従ってノズルN[d2]の補完先ノズルN-HとノズルN[f6]の補完先ノズルN-Hとを決定する。
【0167】
図21から理解されるように、制御回路210は、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hが回復可能ノズルN-R1でないことを確認した場合には、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hを決定する処理を実行しなくてよい。従って、第1実施形態に係る制御回路210は、回復不可能ノズルN-R2の補完先ノズルN-Hを決定する処理を実行する態様と比較して、記録指示PIによる画像形成中における制御回路210の負荷を低減できる。
【0168】
1-10.第1実施形態のまとめ
以上説明したように、インクジェットシステム10は、インクを吐出するヘッドユニットHUが装着され、記録媒体PPに対して記録する記録処理を実行するインクジェットプリンター100と、インクジェットプリンター100と接続し、インクジェットプリンター100に記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置200と、処理装置200と接続可能なクラウドサーバーCSを動作させるサーバー300と、を有するインクジェットシステムであって、ヘッドユニットHUの吐出不良が、所定の回復処理を実行することによって解消される回復可能吐出不良である場合、インクジェットプリンター100及び処理装置200のいずれかが第1補正処理を実行し、ヘッドユニットHUの吐出不良が、所定の回復処理を実行することによっても解消されない回復不可能吐出不良である場合、クラウドサーバーCSが第2補正処理を実行する。
図20及び図21から理解されるように、回復不可能ノズルN-R2に対しては、クラウドサーバーCSが第2補正処理を実行するため、処理装置200は、回復可能ノズルN-R1に対してのみ第1補正処理を実行すればよい。従って、第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、処理装置200が全ての補正処理を実行する態様と比較して、記録システム20の計算資源を記録処理及びデータ処理に多く割り当てることができるので、記録処理及びデータ処理が完了することに要する期間が延びることを抑制できる。以上により、クラウドサーバーCSが第2補正処理を実行して、処理装置200及びインクジェットプリンター100にかかる負荷を低減できる。
【0169】
また、第1補正処理が実行される頻度は、第2補正処理が実行される頻度よりも高い。
第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、第2補正処理が実行される頻度が第1補正処理が実行される頻度よりも低い態様と比較して、記録処理中に発生した吐出不良に対してより早く対処できる。また、上述したように、一般的には、処理装置200とサーバー300との通信速度は、処理装置200とインクジェットプリンター100との通信速度よりも遅い。従って、通信速度が遅い通信経路を介する第2補正処理が実行される頻度を、第1補正処理が実行される頻度よりも低くすることにより、通信速度の遅さによるタイムラグを低減できる。
【0170】
また、記録媒体PPは、複数枚の印刷用紙であって、インクジェットプリンター100及び処理装置200のうちいずれかは、インクジェットプリンター100によって複数枚の印刷用紙のうちいずれか一枚の印刷用紙に対して記録処理が実行されている間に、ヘッドユニットHUの吐出不良を検出する処理と第1補正処理とを実行してもよい。
第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、1枚の記録媒体PPの記録中に、吐出不良ノズルN-Tを検出する処理と第1補正処理とを実行できる。1枚目の記録媒体PPの記録中に、吐出不良ノズルN-Tの対処が終了しているため、複数枚の印刷用紙に対して記録処理が実行されている間にヘッドユニットHUの吐出不良を検出する処理と第1補正処理とを実行する態様と比較して、2枚目の記録媒体PPに形成される画像の質を向上できる。
【0171】
インクジェットプリンター100は、ユーザーUの指示による記録ジョブJBに基づいて記録処理を複数回実行し、インクジェットプリンター100及び処理装置200のうちいずれかは、記録処理が複数回実行されている間に、ヘッドユニットHUの吐出不良を検出する処理と第1補正処理とを実行してもよい。
第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、1回の記録ジョブJBに対する複数回の記録処理中に、吐出不良ノズルN-Tを検出する処理と第1補正処理とを実行できる。1回の記録ジョブJBの間に吐出不良ノズルN-Tの対処が終了しているため、第1補正処理を実行しない態様と比較して、2回目の記録ジョブJBによって形成される画像の質を向上できる。
【0172】
クラウドサーバーCSは、ユーザーUによって指定された所定の期間が経過するごとに第2補正処理を実行してもよい。
クラウドサーバーCSに第2補正処理を頻繁に実行させると、記録システム20とクラウドサーバーCSとの通信によるタイムラグの影響が大きくなる。ユーザーUが適切な期間を設定することにより、記録システム20とクラウドサーバーCSとの通信によるタイムラグの影響を低下できる。
【0173】
また、クラウドサーバーCSは、インクジェットプリンター100がスタンバイ状態であるときに第2補正処理を実行する。
即ち、クラウドサーバーCSは、インクジェットプリンター100と通信せずに第2補正処理を実行できる。従って、ユーザーUは、クラウドサーバーCSに第2補正処理を実行させるためにインクジェットプリンター100をスタンバイ状態から実行可能状態に遷移させる必要がない。
【0174】
また、ヘッドユニットHUは、インクを吐出する複数のノズルNを有し、第1補正処理及び第2補正処理は、ヘッドユニットHUが有する複数のノズルNのうち吐出不良が生じたノズルNと異なるノズルNであり、且つ、当該吐出不良の補正を行うノズルNを決定する補完先ノズル決定処理である。
第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、第2態様の補正処理の一部である補完先ノズル決定処理をクラウドサーバーCSに実行させて、記録システム20の負荷を軽減できる。
【0175】
2.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0176】
2-1.第1変形例
第1実施形態では、第1補正処理と第2補正処理とが共に、補完先ノズル決定処理であったが、これに限らない。上述したように、補完処理には、第1態様の補完処理と第2態様の補完処理とがある。記録システム20によって補完処理を実行する場合には、第2態様の補完処理を実行し、クラウドサーバーCSによって補完処理の一部を実行する場合には、第1態様の補完処理を実行してもよい。第1態様の補完処理である駆動信号補正処理は、駆動信号Comの波形を決定する波形決定処理と、決定した波形を有する駆動信号Comを圧電素子111fに印加する処理とに分解できる。第1変形例では、クラウドサーバーCSが波形決定処理を実行する場合について説明する。
【0177】
図22は、波形決定処理の一例を説明する図である。図22の左側には補正前の駆動信号Com-Aの中ドット波形PX1を表示してあり、図22の右側には補正後の駆動信号Com-Aの中ドット波形PX2を表示してある。以下の記載において、中ドット波形PXは、中ドット波形PX1と中ドット波形PX2との総称である。
【0178】
駆動信号補正処理は、吐出不良ノズルN-Tの吐出量を増やすことにより吐出不良を解消する。波形決定処理において、クラウドサーバーCSは、補正後の中ドット波形PX2による吐出量が多くなるように、駆動信号Comの中ドット波形PX2を決定する。図22から理解されるように、中ドット波形PX2の最低電位VLX2と最高電位VHX2との電位差ΔVh2は、中ドット波形PX1の最低電位VLX1と最高電位VHX1との電位差ΔVh1よりも大きい。電位差ΔVh2が電位差ΔVh1よりも大きいことにより、吐出量を多くできる。
【0179】
クラウドサーバーCSは、波形決定処理を実行した後、補正後の中ドット波形PX2を示す情報を、処理装置200に送信する。処理装置200は、中ドット波形PX2を示す情報を記憶回路220に記憶させる。処理装置200は、ユーザーUから記録指示PIを受け付けた場合、中ドット波形PX2を示す情報をインクジェットプリンター100に送信する。インクジェットプリンター100は、記録処理において、記録データDPに従って、補正後の中ドット波形PX2を有する駆動信号Comを圧電素子111fに印加し、ノズルNは、補正後の中ドット波形PX2に応じたインクの量を吐出する。
【0180】
以上、第1変形例によれば、ヘッドユニットHUは、インクを吐出するノズルNと、駆動信号Comに基づいて駆動することでノズルNからインクを吐出させる圧電素子111fとを有する複数の吐出部Dを有し、第1補正処理は、複数の吐出部DのそれぞれのノズルNのうち、吐出不良が生じた吐出不良ノズルN-Tと異なるノズルNであり、且つ、当該吐出不良の補正を行うノズルNを決定する補完先ノズル決定処理であり、第2補正処理は、吐出不良ノズルN-Tからインクを吐出させる圧電素子111fに印加する駆動信号Comの波形を決定する波形決定処理である。
第1実施形態と第1変形例とを比較すると、波形決定処理により決定された波形を有する駆動信号Comによってインクを吐出することにより、記録媒体PP上の吐出すべき位置にインクを吐出できるため、吐出不良が生じたノズルNとは異なるノズルNからインクを吐出する処理と比較して、記録媒体PPに形成される画像の質を向上できる。
一方、第1変形例では、1つのヘッドチップ111に含まれる2M個の圧電素子111fの全てに、波形決定処理により決定された波形を有する駆動信号Comが供給されるため、2M個のノズルNの吐出異常を個別に補正することが困難である。従って、第1実施形態に係るインクジェットシステム10は、第1変形例に係るインクジェットシステム10と比較して、2M個のノズルNの吐出異常を個別に補正することが容易になる。
【0181】
2-2.第2変形例
第1実施形態及び第1変形例の記録間吐出不良対処処理では、処理装置200がクラウドサーバーCSに必ず接続できることが前提であったが、クラウドサーバーCSとの接続が遮断されている場合もある。以下、クラウドサーバーCSとの接続が遮断されている場合を考慮した態様を第2変形例として説明する。
【0182】
図23は、第2変形例に係る記録間吐出不良対処処理を示すフローチャートである。但し、第2変形例に係る記録間吐出不良対処処理は、第1実施形態に係る記録間吐出不良対処処理と比較して、図18に示した各ステップに相違点はなく、図19に示したステップS60の処理とステップS62の処理との間に、新たな処理が追加される点で相違する。従って、図23では、第2変形例に係る記録間吐出不良対処処理のうち、図19に示した各ステップからの相違点のみを表示してある。
【0183】
ステップS60の処理終了後、制御回路210は、ステップS70において、クラウドサーバーCSとの接続が確立されているか否かを判定する。例えば、制御回路210は、通信装置230を介して、TCPコネクションが確立した場合、クラウドサーバーCSとの接続が確立されていると判定し、TCPコネクションに失敗した場合、クラウドサーバーCSとの接続が遮断されていると判定する。TCPは、Transmission Control Protocolの略称である。
【0184】
ステップS70の判定結果が否定である場合、制御回路210は、ステップS72において、回復不可能ノズルN-R2に対して第1補正処理である補完先ノズル決定処理を実行し、決定した補完先ノズルN-Hを示す情報を、記憶回路220内の吐出不良ノズルテーブルTNIの補完先ノズル情報に書き込む。ステップS72の処理終了後、制御回路210は、図23に示す一連の処理を終了する。ステップS70の判定結果が肯定である場合、制御回路210は、ステップS62の処理を実行する。
【0185】
例えば、処理装置200とクラウドサーバーCSとの接続が一時的に遮断した場合、接続の遮断中には、制御回路210は、ステップS70が否定であると判定し、第1補正処理である補完先ノズル決定処理を実行する。処理装置200とクラウドサーバーCSとの接続が確立された後に、インクジェットシステム10は、第1補正処理を第2補正処理に切り替える、具体的には、制御回路210は、クラウドサーバーCSに第2補正処理である補完先ノズル決定処理を実行させる。処理装置200とクラウドサーバーCSとの接続が一時的に遮断する例としては、ネットワークNWの一時的な輻輳、及び、サーバー事業者によるサーバー300のメンテナンスによって仮想化プログラムVMが実行されていない状態等がある。
【0186】
以上、第2変形例に係るインクジェットシステム10は、ヘッドユニットHUの吐出不良が回復不可能吐出不良であり、インクジェットプリンター100及び処理装置200のいずれともクラウドサーバーCSとの接続が遮断されている場合、インクジェットプリンター100及び処理装置200のいずれかが第1補正処理を実行し、インクジェットプリンター100及び処理装置200のうちいずれかとクラウドサーバーCSとの接続が確立された後に、第1補正処理を第2補正処理に切り替える。
クラウドサーバーCSは、サーバー事業者が管理するサーバー300上で動作しているため、ヘッドメーカーが意図しないタイミングでクラウドサーバーCSを使用できない場合がある。第2変形例に係るインクジェットシステム10は、クラウドサーバーCSとの接続が遮断されていたとしても、インクジェットプリンター100及び処理装置200のいずれかが回復不可能吐出不良に対する第1補正処理を実行することにより、記録指示PIによる画像形成中における制御回路210の負荷を低減できる。
【0187】
なお、第2変形例では、第2補正処理が補完先ノズル決定処理である場合を用いて説明したが、第1変形例と同様に、第2補正処理が波形決定処理であっても適用できる。
【0188】
2-3.第3変形例
上述の各態様において、インクジェットプリンター100が第1補正処理を実行する場合、制御回路170が第1補正処理を実行するが、これに限らない。例えば、ヘッドユニットHUが、CPU等の制御回路を有する場合、この制御回路が、第1補正処理を実行してもよいし、この制御回路と制御回路170とが協同して第1補正処理を実行してもよい。
【0189】
2-4.第4変形例
上述の各態様において、インクジェットプリンター100がサーバー300と接続可能である場合、通信装置150がサーバー300と接続するが、これに限らない。例えば、ヘッドユニットHUが通信装置を有する場合、この通信装置が、サーバー300と通信してもよい。
【0190】
2-5.第5変形例
上述の各態様において、ヘッドユニットHUの吐出不良を検出する処理として、残留振動信号NESに基づき吐出不良が生じているか否かを判定したが、これに限らない。例えば、ヘッドユニットHUの吐出不良を検出する処理は、ノズルNや圧力室CV近傍のインクの温度を測定しその測定結果から増粘の程度を推測して吐出不良か否かを判定する処理でもよいし、インクの飛翔速度に基づいて吐出不良か否かを判定する処理でもよいし、テストパターンの着弾位置のずれ量に基づいて吐出不良か否かを判定する処理でもよい。
【0191】
2-6.第6変形例
上述の各態様のうち、第1変形例及び第1変形例に基づく変形例を除く態様において、圧電素子111fの替わりに、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、加熱により圧力室CVの内部に気泡を発生させて、圧力室CVの内部の圧力を変動させる発熱素子を採用してもよい。第6変形例において、「発熱素子」が、「駆動素子」の一例である。発熱素子は、例えば、駆動信号Comの供給により発熱体が発熱する素子であってもよい。第6変形例においても、クラウドサーバーCSが補完先ノズル決定処理を実行することにより、記録処理及びデータ処理が完了することに要する期間が延びることを抑制できる。
【0192】
2-7.第7変形例
上述の各態様では、ヘッドユニットHUを、X軸に沿う方向に往復同させるシリアル方式のインクジェットプリンター100を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。インクジェットプリンター100は、複数のノズルNが、記録媒体PPの全幅に亘り分布する、ライン方式の液体吐出装置であってもよい。
【0193】
2-8.第8変形例
また、上述の各態様において、インクジェットシステム10は、インクを吐出するヘッドユニットHUが装着され、記録媒体PPに対して記録する記録動作を実行するインクジェットプリンター100と、インクジェットプリンター100と接続し、インクジェットプリンター100に記録処理を実行させるためのデータ処理を実行する処理装置200と、インクジェットプリンター100及び処理装置200のうちいずれかと接続可能なサーバー300と、を有するインクジェットシステムであって、ヘッドユニットHUの吐出不良が第1吐出不良である場合、インクジェットプリンター100及び処理装置200のうちいずれかが第1補正処理を実行し、ヘッドユニットHUの吐出不良が第2吐出不良である場合、サーバー300が第2補正処理を実行し、第1補正処理が実行される頻度は、第2補正処理が実行される頻度よりも高い、とも規定できる。
【0194】
第8変形例に係る第1吐出不良は、例えば、増粘による吐出不良、紙粉等の付着による吐出不良、気泡の混入による吐出不良のうち1つ又は複数である。第8変形例に係る第2吐出不良は、第8変形例に係る第1吐出不良とは異なる吐出不良であり、例えば、駆動素子の劣化による吐出不良である。
【0195】
2-9.その他の変形例
上述のインクジェットプリンター100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置及びコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の記録装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する記録装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する記録装置は、配線基板の配線及び電極を形成する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0196】
10…インクジェットシステム、20…記録システム、100…インクジェットプリンター、101…回復処理実行部、103…吐出状態判定部、105…記録処理実行部、111…ヘッドチップ、111a…流路基板、111b…圧力室基板、111c…ノズル板、111d…吸振体、111e…振動板、111f…圧電素子、111g…保護板、111h…ケース、111i…配線基板、112,112-1,112-2…駆動回路、115…切替回路、116…接続状態指定回路、117…検出回路、120,121,122…液体容器、130…移動機構、131…キャリッジ、132…無端ベルト、140…搬送機構、145…メンテナンス機構、146…キャップ、147…ワイパー、150…通信装置、160…記憶回路、170…制御回路、180…制御モジュール、183…電源回路、184…駆動信号生成回路、190…吐出状態判定回路、200,200_1,200_2,200_3,200_i…処理装置、210…制御回路、211…吐出不良ノズル検出部、213…第1補正処理実行部、215…データ処理実行部、220…記憶回路、230,240…通信装置、260…入力装置、270…表示装置、290…バス、300…サーバー、301…第2補正処理実行部、310…制御回路、320…記憶回路、380…通信装置、390…バス、CH…チェンジ信号、CL…クロック信号、CS…クラウドサーバー、CV…圧力室、Com,Com-A,Com-B…駆動信号、D…吐出部、D-H…判定対象吐出部、DP…記録データ、FN…ノズル面、HU,HU-1,HU-2…ヘッドユニット、IH…導入口、JB…記録ジョブ、LAT…ラッチ信号、LHa,LHb,LHd,LHs…内部配線、La,Lb,Lc,Ld,Le,Lf,Lg,Lh,Ln…ノズル列、Ln1…第1ノズル列、Ln2…第2ノズル列、N…ノズル、NES…残留振動信号、NW…ネットワーク、Na…連通流路、PI…記録指示、PM1…制御プログラム、PM2…インクジェットプログラム、PP…記録媒体、PS…検査波形、PX,PX1,PX2…中ドット波形、PY…小ドット波形、PlsC,PlsL,PlsT1,PlsT2…パルス、R…リザーバー、R1,R2…空間、RC-1,RC-11,RC-12,RC-2,RC-3…レコード、Ra…供給流路、SI…印刷信号、SLa,SLb,SLs…接続状態指定信号、SST…判定情報、SWa,SWb,SWs…スイッチ、Sd…個別指定信号、Sk1,Sk2,Sk3…制御信号、T1,T2,T4…期間、TH1,TH2,TH3,TH4…矩形、TNI…吐出不良ノズルテーブル、TSS1,TSS2,TSS3…制御期間、Tsig…期間指定信号、Tu…記録期間、Tu1,Tu2…制御期間、U…ユーザー、V0…基準電位、VBS…オフセット電位、VHS…最高電位、VHV…電源電位、VHX,VHX1,VHX2,VHY…最高電位、VLS,VLX,VLX1,VLX2,VLY…最低電位、VM…仮想化プログラム、Vin…供給駆動信号、Vout…検出信号、Zd…下部電極、Zm…圧電体、Zu…上部電極、dCom…波形指定信号、ΔVh1,ΔVh2…電位差。
図1
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