(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072100
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】プレキャスト床版継手構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240520BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182752
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 貴大
(72)【発明者】
【氏名】吉武 謙二
(72)【発明者】
【氏名】小野 秀平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 英一
(72)【発明者】
【氏名】太田 智久
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
(72)【発明者】
【氏名】安田 篤司
(72)【発明者】
【氏名】尾田 健太郎
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】エンドバンド継手を用いたプレキャスト床版における橋軸方向に延びる鉄筋の端部に定着部を設ける場合であっても鉄筋かぶりを確保することができるプレキャスト床版継手構造を提供する。
【解決手段】プレキャスト床版1を互いに接合する接合部においてプレキャスト床版1から橋軸方向(±X方向)に延びる鉄筋継手の端部に配置される定着版21,22は、橋軸方向に直交する方向であって、プレキャスト床版1の上下の版面S1,S2のうちの近い版面S1,S2の平面に平行であり該近い版面S1,S2側における定着版21,22の接面S11,S12から、他の版面S2,S1の平面側に膨らみを持たせ、鉄筋のかぶり厚さd1,d2を確保する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト床版を互いに接合する接合部において前記プレキャスト床版から橋軸方向に延びる鉄筋継手の端部に配置される定着版は、前記橋軸方向に直交する方向であって、前記プレキャスト床版の上下の版面のうちの近い版面の平面に平行であり該近い版面側における前記定着版の接面から、他の版面の平面側に膨らみを持たせたことを特徴とするプレキャスト床版継手構造。
【請求項2】
プレキャスト床版を互いに接合する接合部において前記プレキャスト床版から橋軸方向に延び、高さ方向に間隔をおいて配置される複数の鉄筋継手である上部鉄筋継手及び下部鉄筋継手の先端部に配置される定着版は、前記橋軸方向に直交する方向であって、前記プレキャスト床版の上下の版面のうちの近い版面の平面に平行であり該近い版面側における前記定着版の接面から、他の版面の平面側に膨らみを持たせ、
前記上部鉄筋継手及び前記下部鉄筋継手の間に配置され、橋軸直交方向に延びて前記上部鉄筋継手及び前記下部鉄筋継手に結束される複数の橋軸直交補強鉄筋を備えることを特徴とするプレキャスト床版継手構造。
【請求項3】
前記定着版の断面の周縁形状は、楕円であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト床版継手構造。
【請求項4】
前記定着版の最大拡がり幅は、前記鉄筋継手の径の1.2倍以上であることを特徴とする請求項3に記載のプレキャスト床版継手構造。
【請求項5】
前記定着版は、前記近い版面側における前記定着版の接面から他の版面の平面側にオフセットして配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト床版継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドバンド継手を用いたプレキャスト床版における橋軸方向に延びる鉄筋の端部に定着部を設ける場合であっても鉄筋かぶりを確保することができるプレキャスト床版継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の床版取付施工では、隣接するプレキャスト床版を接合するため軸方向端部に継手が設けられ、この継手の配筋の特徴から、施工に多くの時間を要したり、複数の技能工を必要としていた。
【0003】
プレキャスト床版の継手の代表的なものにループ継手がある。ループ継手は、橋軸方向鉄筋の先端側を半円形に曲げて折り返したものであり、必要曲げ半径の規定により床版厚さが決定され、床版厚さを薄くすることができない。
【0004】
そこで、床版厚さを薄くしてコストダウンを図るため、エンドバンド継手を用いたSLJスラブが開発され現場において適用されている(特許文献1参照)。SLJスラブは,橋軸方向鉄筋の付着力と先端のエンドバンドの支圧抵抗力との複合作用により,接合部の後打ちコンクリート内で,それぞれの鉄筋を定着することで耐荷機構を発揮することができる。このSLJスラブ工法では、接合部内の横方向(橋軸直交方向)の補強鉄筋は、橋の側方である横から差し込む必要がないため施工性が改善される。なお、エンドバンド継手は,例えば鉄筋の端部に鋼管を圧着した重ね継手である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のエンドバンド継手は、横方向の補強鉄筋の施工性が改善されるが、機械的定着などによるエンドバンドは、プレキャスト床版の上下の版面方向にも張り出して形成される。この結果、規定の鉄筋継手のかぶり厚さ(最小厚さ)を確保するには、エンドバンド(定着版)の張り出した分を補うため、鉄筋継手のうち、上側鉄筋は下側にずらし、下側鉄筋は上側にずらす必要がる。これにより、鉄筋の有効高さが減少するため、プレキャスト床版の曲げ耐力が減少することになる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、エンドバンド継手を用いたプレキャスト床版における橋軸方向に延びる鉄筋の端部に定着部を設ける場合であっても鉄筋かぶりを確保することができるプレキャスト床版継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、プレキャスト床版を互いに接合する接合部において前記プレキャスト床版から橋軸方向に延びる鉄筋継手の端部に配置される定着版は、前記橋軸方向に直交する方向であって、前記プレキャスト床版の上下の版面のうちの近い版面の平面に平行であり該近い版面側における前記定着版の接面から、他の版面の平面側に膨らみを持たせたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、プレキャスト床版を互いに接合する接合部において前記プレキャスト床版から橋軸方向に延び、高さ方向に間隔をおいて配置される複数の鉄筋継手である上部鉄筋継手及び下部鉄筋継手の先端部に配置される定着版は、前記橋軸方向に直交する方向であって、前記プレキャスト床版の上下の版面のうちの近い版面の平面に平行であり該近い版面側における前記定着版の接面から、他の版面の平面側に膨らみを持たせ、前記上部鉄筋継手及び前記下部鉄筋継手の間に配置され、橋軸直交方向に延びて前記上部鉄筋継手及び前記下部鉄筋継手に結束される複数の橋軸直交補強鉄筋を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記定着版の断面の周縁形状は、楕円であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記定着版の最大拡がり幅は、前記鉄筋継手の径の1.2倍以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記定着版は、前記近い版面側における前記定着版の接面から他の版面の平面側にオフセットして配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンドバンド継手を用いたプレキャスト床版における橋軸方向に延びる鉄筋の端部に定着部を設ける場合であっても鉄筋かぶりを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施の形態であるプレキャスト床版継手構造が適用されるプレキャスト床版を用いた橋梁の床版取付施工時の状態を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態であるプレキャスト床版継手構造を側面(+Y方向)からみた側面図である。
【
図4】
図4は、組付けが完成状態のプレキャスト床版継手構造を側面(+Y方向)からみた側面図である。
【
図5】
図5は、変形例1のプレキャスト床版継手構造を橋軸方向からみた図である。
【
図6】
図6は、変形例2のプレキャスト床版継手構造を橋軸方向からみた図である。
【
図7】
図7は、変形例3のプレキャスト床版継手構造を橋軸方向からみた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本実施の形態であるプレキャスト床版継手構造が適用されるプレキャストPC床版などのプレキャスト床版1を用いた橋梁の床版取付施工時の状態を示す図である。
図1に示すように、床版取付施工では、下部構造100上の主桁101上に複数のプレキャスト床版1が橋軸方向の一方から順次取り付けられる。このプレキャスト床版1を主桁101上に取り付ける際、プレキャスト床版1に設けられたズレ止め用孔103に、主桁101の上端に設けられたズレ止め102が挿入されることにより、プレキャスト床版1の位置決めがなされる。なお、
図1において、±X方向を橋軸方向、±Y方向を橋軸直交方向、±Z方向を高さ方向として説明する。
【0016】
隣接するプレキャスト床版1の間には接合部2が形成され、この接合部2において各プレキャスト床版1の鉄筋継手3を含む鉄筋継手が組付けられた後、接合部2を埋め込むようにモルタルやコンクリートなどが打設硬化されることにより、各プレキャスト床版1が接合される。
【0017】
図2は、本実施の形態であるプレキャスト床版継手構造を側面(+Y方向)からみた側面図である。また、
図3は、
図2のA-A線断面図である。なお、本実施の形態は、プレキャスト床版継手をエンドバンド継手としている。
【0018】
図2及び
図3に示すように、接合部2においてプレキャスト床版1から橋軸方向に延びる鉄筋継手である上部鉄筋継手11及び下部鉄筋継手12を有する。上部鉄筋継手11及び下部鉄筋継手12の各端部には、エンドバンドである定着版21,22がそれぞれ設けられている。
【0019】
そして、
図3に示すように、定着版21は、橋軸方向に直交する方向であって、プレキャスト床版1の上下の版面S1,S2のうちの近い版面S1の平面に平行であり該近い版面S1側における定着版21の接面S11から、他の版面S2の平面側に膨らみを持たせている。また、定着版22は、橋軸方向に直交する方向であって、プレキャスト床版1の上下の版面S1,S2のうちの近い版面S2の平面に平行であり該近い版面S2側における定着版22の接面S12から、他の版面S1の平面側に膨らみを持たせている。
【0020】
具体的には、定着版21,22の断面の周縁形状は、長軸を橋軸直交方向(±Y方向)として橋軸直交方向に膨らみを持たせている。この楕円の長軸の長さである最大拡がり幅D1は、上部鉄筋継手11及び下部鉄筋継手12の鉄筋の径Dの1.2倍としている。なお、最大拡がり幅D1は、径Dを超える値であればよい。
【0021】
これにより、定着版21は、上の版面S1側に張り出さず、上部鉄筋継手11を下の版面S2側にずらさなくても、規定のかぶり厚さd1を確保することができる。また、定着版22は、下の版面S2側に張り出さず、下部鉄筋継手12を上の版面S1側にずらさなくても、規定のかぶり厚さd2を確保することができる。したがって、定着版21,22を設けたことによる上部鉄筋継手11及び下部鉄筋継手12のずらしによるプレキャスト床版1の曲げ耐力の減少を抑えることができる。
【0022】
図4は、組付けが完成状態のプレキャスト床版継手構造を側面(+Y方向)からみた側面図である。なお、
図4では、プレキャスト床版1に対応するプレキャスト床版1a,1bが接合部2において対向した状態を示している。上部鉄筋継手11a及び下部鉄筋継手12aの各端部に定着版21a,22aが設けられ、上部鉄筋継手11b及び下部鉄筋継手12bの各端部に定着版21b,22bが設けられている。
【0023】
この上部鉄筋継手11a,11bと下部鉄筋継手12a,12bとの間には、複数の橋軸直交補強鉄筋13が配置される。橋軸直交補強鉄筋13は、橋軸直交方向に延びて上部鉄筋継手11a,11b及び下部鉄筋継手12a,12bに結束される。ここで、橋軸直交補強鉄筋13は、橋軸方向から差し込まれ、ループ継手のように、橋の外側から、上部鉄筋継手11a,11bと下部鉄筋継手12a,12bとの間に差し込む必要がないため、施工性が向上する。
【0024】
本実施の形態では、定着版21,22が高さ方向に突出しないため、上部鉄筋継手11及び下部鉄筋継手12の鉄筋位置を内側(版面S1,S2との間の中心側)に移動しなくても、規定の鉄筋かぶりを確保することができるとともに、鉄筋の付着量に加え、定着版21,22の膨らんだ突出部分の支圧抵抗力との複合作用によりエンドバンドと同等の強固な定着機能をもたせることができる。
【0025】
<変形例1>
上記の実施の形態では、
図3に示すように、定着版21,22が橋軸直交方向(±Y方向)に膨らんだ楕円形状としていたが、
図5に示すように、本変形例1では、定着版21,22に対応する定着版31を内側にも膨らませて突出するようにしている。これにより鉄筋位置をすらすことなく、さらに定着版31の支圧抵抗力を増すことができる。
【0026】
<変形例2>
図6に示すように、本変形例2では、定着版21,22に対応する定着版32が、近い版面S1側における接面S11から他の版面S2の平面側に高さΔd分、オフセットして配置している。このオフセットにより、製造上のガタやすき間を考慮した定着版32が得られ、定着版32が近い版面S1側に確実に突出しないようにすることができる。
【0027】
<変形例3>
図3に示すように、本変形例3では、定着版21,22に対応する定着版33の断面の周縁形状を半円に近い弧状にし、近い版面S1側以外にまんべんなく膨らんで突出するようにしている。これにより、定着版33の支圧抵抗力を増すことができる。
【0028】
なお、上記の実施の形態及び変形例は、エンドギャップ継手を用いているので、ループ継手のように、橋軸方向鉄筋の曲げ半径によりプレキャスト床版1の床版厚さが決定されないため、床版厚さを薄くすることができ、低コスト化を図ることができる。
【0029】
また、上記の実施の形態及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置及び構成要素の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【符号の説明】
【0030】
1,1a,1b プレキャスト床版
2 接合部
3 鉄筋継手
11,11a,11b 上部鉄筋継手
12,12a,12b 下部鉄筋継手
13 橋軸直交補強鉄筋
21,21a,21b,22,22a,22b,31,32,33 定着版
100 下部構造
101 主桁
103 ズレ止め用孔
D 径
D1 最大拡がり幅
d1,d2 かぶり厚さ
S1,S2 版面
Δd 高さ