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  • 特開-カスケード形PID制御系の設計法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072107
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】カスケード形PID制御系の設計法
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/32 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
G05B11/32 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182767
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 進
(72)【発明者】
【氏名】楠美 三郎
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA30
5H004HA07
5H004HA08
5H004HB07
5H004HB08
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB39
5H004LA12
(57)【要約】
【課題】カスケード形PID制御系の設計法を提供する。
【解決手段】
特許文献1のPID設計法は、制御対象であるモータの粘性摩擦が0のとき、積分ゲインが0に設計されるのでPD制御となる。この場合でも制御対象がもつ積分器により定常偏差は生じないが、積分制御を残しておきたいケースも多い。そこで本発明では、モータの粘性摩擦が0の場合でも積分ゲインが0にならないように特許文献1の方法を拡張する。またこの拡張した方法の類似手法として、極配置設計によるワンパラメータチューニング法も示す。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特許文献1の方式のように閉ループ伝達関数の分母多項式を分子多項式で完全に割りきるのではなく、割り切る状態に近い状態にすることによって、積分ゲインが零値にならないように特許文献1の方式を拡張した設計法
【請求項2】
請求項1の方式の分母多項式のみに注目した極配置設計による、カスケード形PID制御系のワンパラメータチューニング法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御系の設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの位置決め等では、速度制御系の外側に位置制御のフィードバックを追加した制御系を用いることも多い。(これはモータ制御が速度制御から始まったことに由来する。)その基本的なブロック線図を図1に示す。ここでθ,ωはモータ角とモータ角速度である。rとrvは位置目標値と速度目標値、uは制御入力である。kpとkiは速度コントローラの比例ゲインと積分ゲイン、kposは位置コントローラの比例ゲインである。J,Dは制御対象とするモータの慣性モーメントと粘性摩擦係数である。sはラプラス演算子であり、sは微分、1/sは積分を表す。このように外側の制御ループの制御入力(コントローラ出力rv)を内側の制御ループの目標値とする構成をカスケード制御という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】速度フィードフォワードを加えたカスケード型モータ位置決め制御系の簡易設計法(特許第6149291号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、図1のPIDパラメータの計算式(kpのみを調節するワンパラメータチューニング法)として次式を示した。
【数1】
【数2】
図1の速度制御と位置制御の閉ループ伝達関数は数3と数4で表されるが、数3(および数4)において分子多項式が分母多項式を割り切るための条件が数1である。その結果として、数3は1次系、数4は2次系に低次元化される。さらに数2を用いると、数4は数5の2次遅れ系の特性になる。
【数3】
【数4】
【数5】
【0005】
特にD = 0の場合、特許文献1の方式は、数1の積分ゲインが0になるのでPD制御となる。この場合でも制御対象がもつ積分器(図1の符号4)によって定常偏差は生じないが、積分制御を残しておきたいケースも多くある。そこで本発明ではD = 0でも積分ゲインが0にならないように特許文献1の方法を拡張する(本発明の方式1)。また方式1の分母多項式のみに注目した極配置設計によるワンパラメータチューニング法も示す(本発明の方式2)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方式1では、数4が数6の特性に一致するようにPIDパラメータを設計する。
【数6】
Δは設計パラメータとし、小さな値とする。αは計算により求まる正数とする。Δが小さくαが大きいほど、数6は2次遅れ系に近づく。Δ = 0のとき数6は2次遅れ系に等しい。特許文献1では数4を2次遅れ系に低次元化したが、本発明では数4を3次系のまま2次遅れ系に近い特性にする。数6は零点をもつ2次遅れ系にローパスフィルタを追加したもの(数7)とみなせる。
【数7】
【0007】
kiとkposの計算式の導出を以下に示す。まず数6を単に展開すると数8となる。
【数8】
数8と数4の係数比較より、数9を得る。
【数9】
数9の第1式より、数10を得る。
【数10】
数9の第4式に数10を代入すると数11を得る。
【数11】
数9の第3式に第4式と数10を代入すると数12を得る。
【数12】
【0008】
次にαの計算法を示す。まず数9の第2式に数11,12,10を代入すると数13となる。
【数13】
上式を整理すると数14となり、これはαについて解けて数15を得る。
【数14】
【数15】
ここで大きい方の解である数16を選ぶ。(αが大きいほど数7は2次遅れ系に近づく。)
【数16】
ただし数16のαをつねに正の実数にするため、Δは非負の値を選ぶこととする。
【数17】
【0009】
D = 0の場合でも数16のαは0にならないので、数11の積分ゲインも0にならない。なお数16,11,12でΔ = 0とすると数19,20が得られ、特許文献1と同じ結果(数1,2)となる。
【数18】
【数19】
【数20】
【0010】
パラメータΔの値の影響について述べる。数11のなかでΔに依存する部分は数21であり、これをΔで偏微分すると数22となる。
【数21】
【数22】
ただし
【数23】
数22をΔとD/kpの関数としてプロットしたものを図2に示す。図2は数24の範囲でプロットした。この理由は、ワンパラメータチューングが進むにつれてkpは増加しD/kpは減少すること、およびΔは小さな正数と仮定したためである。なおζは2の平方根の逆数とした。
【数24】
図2より、数22は正値をとるので、数11の積分ゲインはΔの単調増加関数である。よってΔが大きいほど積分ゲインが大きくなることが分かる。
【0011】
数12のkposも同様に考えると、Δに依存する部分の偏微分は数25となる。
【数25】
ただし
【数26】
数25のプロットを図3に示す。黒塗部分は数25が0以上の領域である。よってワンパラメータチューニングでkpの値を徐々に増加させるとき、kpがまだ小さくD/kpが大きいときは黒塗領域に入るので、Δの値はkposに影響しない(偏微分0)またはΔを大きくするとkposは大きくなる。一方、kpを増やしてD/kpがほぼ1より小さくなった状態では偏微分は負なので、Δが大きいほどkposは小さくなることが分かる。
【0012】
次に本発明の方式2を示す。これは方式1の数6の分母多項式のみに注目する極配置法である。すなわち数4を数27に一致させる方法である。
【数27】
α’は次のように求める。まず数27を展開すると数28となる。
【数28】
数28と数4の係数比較より、数29を得る。
【数29】
なお数29の第3式を用いるとき、数27は数30の形になる。
【数30】
数29の第2式と第3式を数31のようにおくと、kiとkposは数32の解xとして求まる。
【数31】
【数32】
上式の判別式に数31と数29第1式を代入すると数33を得る。
【数33】
よって数34を満たせば数33は非負なので解xは虚数にはならない。
【数34】
数34の等号は数35のとき成り立つので、ζ < 1の場合に対しては数34から数36を得る。
【数35】
【数36】
数30のローパスフィルタ部分の影響をできるだけ小さくして2次遅れ系に近づけるため、α’には最も大きい値を選び、数37とする。
【数37】
【0013】
次にkiとkposの計算式を導出する。まず数32に数31,33を代入し、さらに数29の第1式を用いてωnを消去すると数38となる。なお2重下線部は数37のとき0である。
【数38】
上式の下線部は同じ値になるので(数39参照)、最終的に数40を得る。
【数39】
【数40】
ここでは解xの大きい方をkpos, 小さい方をki に選ぶこととする。なおD = 0の場合はxは重複解になるので、kpos = kiとなる。以上により、kpを調節すればkiとkposが定まるワンパラメータチューニングを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1のカスケード制御系で数41の場合の応答例を示す。
【数41】
図4はΔを変えたときのki,kposの変化であり、kiはΔの単調増加関数、kposはΔの単調減少関数である。ただしkp = 2とした。図5は本発明の方式1(数11,12,16)でΔ = 0.1として、kpを0.3,0.6.3.0と増加させた場合である。図6は本発明の方式2(数40)でkpを増加させた場合である。ともにkpを増加させると応答が速まるワンパラメータチューニングとなっていることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】カスケード形PID制御系
図2】数22(Δに依存するkiの部分)のプロット
図3】数25(Δに依存するkposの部分)のプロット
図4】Δがki,kposに与える影響
図5】本発明の方式1の応答例
図6】本発明の方式2の応答例
【符号の説明】
【0016】
1 位置コントローラ(比例制御)
2 速度コントローラ(比例積分制御)
3 モータ速度モデル
4 モータモデルの積分器

図1
図2
図3
図4
図5
図6