(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072111
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】レーダアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/20 20060101AFI20240520BHJP
H01Q 15/08 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
H01Q13/20
H01Q15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182772
(22)【出願日】2022-11-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】尚 尓昊
(72)【発明者】
【氏名】板垣 賢二
(72)【発明者】
【氏名】野呂 崇徳
【テーマコード(参考)】
5J020
5J045
【Fターム(参考)】
5J020AA02
5J020BB01
5J020BC12
5J020CA05
5J020DA03
5J020DA04
5J045AA21
5J045AB06
5J045CA02
5J045DA04
5J045HA01
5J045JA03
5J045LA01
5J045NA07
(57)【要約】
【課題】必要な特性・性能が得られ、かつ、製造コストを低く抑えることが可能なレーダアンテナを提供する。
【解決手段】板状で横長の筐体2の前面側に形成され、筐体2の長手方向に対して略垂直に延びる溝状で、筐体2の長手方向に沿って平行に配置された複数の放射スタブ21と、筐体2内に形成され、筐体2の長手方向に沿って延びるとともに、各放射スタブ21と連通する導波管部と、各放射スタブ21内に設けられ、放射スタブ21の長手方向において中心部が薄く両端部が厚く形成された第1の誘電体3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状で横長の筐体の前面側に形成され、前記筐体の長手方向に対して略垂直に延びる溝状で、前記筐体の長手方向に沿って平行に配置された複数の放射スタブと、
前記筐体内に形成され、前記筐体の長手方向に沿って延びるとともに、前記各放射スタブと連通する導波管部と、
前記各放射スタブ内に設けられ、前記放射スタブの長手方向において中心部が薄く両端部が厚く形成された第1の誘電体と、
を備えることを特徴とするレーダアンテナ。
【請求項2】
前記導波管部内に、前記第1の誘電体の誘電率よりも誘電率が小さい第2の誘電体が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナとして、導波管の前面に複数のスロット(長孔)を形成し、各スロットの傾斜角度、幅、切込み深さ、配置などを調整することで、所定の指向性特性あるいは周波数特性を得るようにした放射導波管を備えたレーダアンテナが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
このようなレーダアンテナでは、垂直面指向性として、ターゲットの不感地帯を減らすためにヌルフィル(すべての方向で利得がヌルにならないこと)が要求され、限られたアンテナ高さで実現するには、ホーンタイプを選択せざるを得ない状況であった。すなわち、複数のスロットが形成された導波管を挟むように、上フレアと下フレアで構成されるホーン状のフレアが配設され、複数の導波管押え金具によって導波管とフレアとが組み付けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のレーダアンテナは、フレアを要するため、コストの上昇を招いていた。また、
図7に示すように、導波管101に上フレア102と下フレア103を組み付けるため、組み付け誤差によって、例えば、導波管101と上フレア102との間に隙間Gが生じるおそれがあり、サイドローブ特性の劣化を招いていた。
【0006】
さらに、従来のレーダアンテナは、交差偏波対策として、上フレア102と下フレア103とを連結するように板状のサプレッサ104を配設するため、部品点数や組み付け工数が増加し、コストの上昇を招いていた。
【0007】
このような背景の下、必要な特性・性能が得られるばかりでなく、製造コストを抑えることが可能な新たな構造のレーダアンテナが求められていた。
【0008】
そこで本発明は、必要な特性・性能が得られ、製造コストを低く抑えることが可能なレーダアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、板状で横長の筐体の前面側に形成され、前記筐体の長手方向に対して略垂直に延びる溝状で、前記筐体の長手方向に沿って平行に配置された複数の放射スタブと、前記筐体内に形成され、前記筐体の長手方向に沿って延びるとともに、前記各放射スタブと連通する導波管部と、前記各放射スタブ内に設けられ、前記放射スタブの長手方向において中心部が薄く両端部が厚く形成された第1の誘電体と、を備えることを特徴とするレーダアンテナである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーダアンテナにおいて、前記導波管部内に、前記第1の誘電体の誘電率よりも誘電率が小さい第2の誘電体が設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、各放射スタブ内に設けられた第1の誘電体が、放射スタブの長手方向における中心部が薄く両端部が厚く形成されているため、放射スタブから放射される電波の位相が制御され、垂直面指向性(垂直面ビーム幅)を制御することが可能となる。このため、従来のようなホーン状のフレアを配設する必要がなく、製造コストを低く抑えることが可能となるとともに、フレアの組み付け誤差によるサイドローブ特性の劣化を防止することが可能となる。
【0012】
また、複数の放射スタブが平行に配置されているため、交差偏波が発生せず、従来のようなサプレッサを配設する必要がない。このため、部品点数や組み付け工数が削減され、製造コストを低減することが可能となる。
【0013】
このように、必要な特性・性能(垂直面指向性や交差偏波抑制など)を確保した上で、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、導波管部内に第1の誘電体よりも誘電率が小さい第2の誘電体が設けられているため、導波管部における電波の伝搬波長が短くなり、アンテナを小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係るレーダアンテナを示す概略斜視図である。
【
図4】
図2のA-A断面における第1の誘電体と第2の誘電体を示す断面図である。
【
図5】
図1のレーダアンテナの各放射スタブに配設された第1の誘電体による、電波の伝搬状態を示す概念図である。
【
図6】
図1のレーダアンテナと従来のレーダアンテナの垂直面指向性特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係るレーダアンテナ1を示す概略斜視図であり、
図2は、このレーダアンテナ1の平面図である。このレーダアンテナ1は、陸上や船舶などで使用されるレーダアンテナであり、全体が横長の略平板状となっている。
【0018】
筐体2は、金属製で細長い略長方形(横長)の平板状で、その前面側(放射側)に複数の放射スタブ21が形成されている。この放射スタブ21は、筐体2の長手方向に対して略垂直に(筐体2の短尺方向に)延びる溝状で、筐体2の長手方向に沿って平行に複数配置されている。また、放射スタブ21の幅、長さ、溝深さ、配置間隔などは、後述する第1の誘電体3などが配設された状態で、所定のアンテナ特性(指向性特性や周波数特性など)が得られるように設定されている。ここで、
図1では、筐体2の放射スタブ21間の部分を除いて、放射スタブ21だけを図示している。また、筐体2の短尺方向の長さ(レーダアンテナ1の高さ)h1は、
図7に示す従来のレーダアンテナの高さh2と同程度に設定されている。
【0019】
さらに、筐体2内には、
図3に示すように、筐体2の長手方向に沿って延びるとともに、各放射スタブ21と連通する導波管部22が形成されている。すなわち、導波管部22は、管状で、筐体2の長手方向のほぼ全長にわたって延びるように形成され、各放射スタブ21と連通して(空間的に繋がって)いる。これにより、筐体2の背面側の中央部に設けられた電力供給ポート23からの電力が、導波管部22を介して各放射スタブ21に供給される。
【0020】
また、導波管部22の深さ(筐体2の厚み方向の高さ)は、筐体2の中央部から両端側に向かって徐々に小さくなるように形成され、これにより、電力供給ポート23からの電力が均等に各放射スタブ21に供給されるようになっている。さらに、導波管部22の中央部(電力供給ポート23に対向する部位)には、筐体2の背面側に窪んだ凹部22aが形成され、この凹部22aによってインピーダンスのマッチングが得られるようになっている。
【0021】
このような筐体2は、一体で構成されてもよいし、分割された複数のパーツで構成されてもよい。例えば、導波管部22を境にして前面側のパーツと背面側のパーツで構成してもよい。
【0022】
一方、各放射スタブ21内には第1の誘電体3が配設され、この第1の誘電体3は、放射スタブ21の長手方向において中心部が薄く両端部が厚く形成されている。すなわち、この実施の形態の第1の誘電体3は、
図4に示すように、筐体2の前面側が平面で筐体2の前面と略面一に形成され、中心部の厚みがほぼゼロで、両端部に向かって直線状に厚くなるように形成されている。ここで、
図3は、筐体2の幅方向(長手方向に垂直な方向)の中央部での断面図であるため、第1の誘電体3が図示されていない。
【0023】
このように、第1の誘電体3の中心部が薄く両端部が厚く形成されていることにより、放射スタブ21の中心側と両端側から放射される電波の位相が制御され、垂直面指向性(垂直面ビーム幅)が制御される。すなわち、
図5に示すように、筐体2の電力供給ポート23側(後述する第2の誘電体4側)は、放射スタブ21の全長にわたって位相が同じ等位相面となる。これに対して、筐体2の前面側つまり放射側では、第1の誘電体3が厚い放射スタブ21の両端側で位相が遅れ伝搬速度が遅くなるため、中心側から両端側に向かって位相・伝搬速度がテーパ状にずれ(遅れ)、この結果、垂直面指向性が制御される。
【0024】
そして、所望の垂直面指向性(垂直面ビーム幅)が得られるように、第1の誘電体3の厚みが設定されている。この実施の形態では、放射スタブ21内における中心部の厚みがほぼゼロで、両端側の厚みtが管内波長の1/4に設定されている。
【0025】
また、
図3、
図4に示すように、放射スタブ21内の一部と導波管部22内には、第1の誘電体3の誘電率よりも誘電率が小さい第2の誘電体4が配設されている。すなわち、第1の誘電体3は、上記のように、放射スタブ21内の前面側(反導波管部22側)に所定の厚みで配設されており、その下側(導波管部22側)の放射スタブ21内と導波管部22内にわたって、第2の誘電体4が配設されている。
【0026】
ここで、第1の誘電体3と第2の誘電体4の具体的な材質・材料は、どのようなものであってもよいが、例えば、第1の誘電体3として、低誘電率である低損失テフロン系誘電体が挙げられ、第2の誘電体4として、低誘電率である低損失発泡材が挙げられる。なお、この実施の形態では、電波の伝搬波長を短くしてレーダアンテナ1の小型化を図るために、第2の誘電体4を配設しているが、第2の誘電体4を配設せずに空間・空気のままであってもよい。
【0027】
このような構成のレーダアンテナ1によれば、各放射スタブ21内に設けられた第1の誘電体3が、放射スタブ21の長手方向における中心部が薄く両端部が厚く形成されているため、放射スタブ21から放射される電波の位相が制御され、垂直面指向性(垂直面ビーム幅)を制御することが可能となる。このため、従来のようなホーン状のフレアを配設する必要がなく、製造コストを低く抑えることが可能となるとともに、フレアの組み付け誤差によるサイドローブ特性の劣化を防止することが可能となる。例えば、
図6に示すように、従来のレーダアンテナに比べて本レーダアンテナ1では、サイドローブが抑制され垂直面指向性特性が良好となる。
【0028】
また、複数の放射スタブ21が平行に配置されているため、交差偏波が発生せず、従来のようなサプレッサを配設する必要がない。このため、部品点数や組み付け工数が削減され、製造コストを低減することが可能となる。
【0029】
さらに、放射スタブ21内の一部と導波管部22内に、第1の誘電体3よりも誘電率が小さい第2の誘電体4が設けられているため、導波管部22等における電波の伝搬波長が短くなり、レーダアンテナ1を小型化することが可能となる。
【0030】
このように、必要な特性・性能(垂直面指向性や交差偏波抑制など)を確保した上で、アンテナの大きさ、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0031】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、第1の誘電体3の中心部の厚みがほぼゼロで、両端側の厚みtが管内波長の1/4に設定されているが、所望の垂直面指向性(垂直面ビーム幅)が得られれば、この寸法に限らない。また、所定のアンテナ特性(指向性特性や周波数特性など)が得られれば、筐体2の前面側にカバーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 レーダアンテナ
2 筐体
21 放射スタブ
22 導波管部
3 第1の誘電体
4 第2の誘電体