(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072124
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】機種、部品型番、及び異常を推定するシステム並びに方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240520BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182802
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】桐畑 洸
(72)【発明者】
【氏名】野口 朝晴
(72)【発明者】
【氏名】平城 恵介
(72)【発明者】
【氏名】村木 良民
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】機種型番推定及び異常推定システムを構築する。
【解決手段】学習済みの機種推定のための機械学習モデルに、或る機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じたFFTデータを入力し、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力し、加えて、学習済みの型番推定のための機械学習モデルに、或る型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じたFFTデータを入力し、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる或る型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機種型番推定及び異常推定システムであって、
前記機種型番推定及び異常推定システムは、コンピュータ装置を有し、当該コンピュータ装置は、インタフェース装置と、記憶装置と、処理回路とを含み、
前記コンピュータ装置には、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る機種であるか否かの分類を目的変数とする機種推定のための機械学習モデルと、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか否かの分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルとが、構築されており、
前記コンピュータ装置は、
前記記憶装置に格納された、前記或る機種の回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種の回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る機種では無い回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種では無い回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記機種推定のための機械学習モデルを学習し、
加えて、前記記憶装置に格納された、前記或る型番の部品を含む回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含む回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る型番の部品を含まない回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含まない回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記型番推定のための機械学習モデルを学習し、
更に、前記コンピュータ装置の前記処理回路は、
学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルに、前記或る機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力し、
更に学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルに、前記或る型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる前記或る型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する、
機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項2】
前記機種推定のための機械学習モデル及び前記型番推定のための機械学習モデルが、ディープラーニングモデルである、
請求項1に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項3】
前記機種推定のための機械学習モデルであるディープラーニングモデルの出力層手前の3ノードからの出力値により形成される3Dプロットグラフでの、個別の出力値の位置により、当該個別の出力値のための入力であるFFTデータを生じた回転機械の、異常の有無及び程度が推定される、
請求項2に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項4】
前記コンピュータ装置には、前記型番推定のための機械学習モデルが、第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルとして、複数種類、構築されており、ここで夫々の型番は異なるものであり、当該第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルは夫々の型番毎に学習済みとなっており、
前記コンピュータ装置の前記処理回路は、学習済みの第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルの夫々に、前記複数種類の型番の夫々と同型番の複数種類の部品を利用しており且つ異常を示す回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルの夫々から、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる前記複数種類の型番の部品の夫々における異常の有無及び程度を推定する第1の推定値~第nの推定値を出力する、
請求項1に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項5】
機種型番推定及び異常推定システムであって、
前記機種型番推定及び異常推定システムは、コンピュータ装置を有し、当該コンピュータ装置は、インタフェース装置と、記憶装置と、処理回路とを含み、
前記コンピュータ装置には、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし、当該回転機械が複数の特定の機種の内どの機種であり得るか、の分類を目的変数とする、複数種類の機種推定のための機械学習モデルが、構築されており、
前記コンピュータ装置は、
前記記憶装置に格納された、前記複数の特定の機種の内の或る機種の回転機械からのFFTデータと、
そのFFTデータを生じた回転機械の機種に対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが前記或る機種の回転機械からのものであることを分類する、ラベルデータと、
前記複数の特定の機種の内の、そのFFTデータを生じた回転機械の機種以外の機種に、対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが前記或る機種では無い機種の回転機械からのもので無いことを分類する、ラベルデータとの、
組み合わせを、前記複数の特定の機種の全体に関して教師データとして、前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルを学習し、
更に、前記コンピュータ装置の前記処理回路は、
学習済みの前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルに、当該複数種類の機種の内の或る機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を、多クラスを示す複数ノードにより、出力する、
機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項6】
前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルが、ディープラーニングモデルである、
請求項5に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項7】
前記ディープラーニングモデルの出力層手前の中間層における、出力層の各クラスに関する個別のノードに接続する3ノードからの、出力値により形成される3次元プロットグラフでの、個別の出力値の位置により、当該個別の出力値のための入力であるFFTデータを生じた回転機械の、異常の有無及び程度が推定される、
請求項6に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項8】
前記3次元プロットグラフが示される3次元空間において機種毎に形成される、クラスタにおける中心点から離隔する距離により、個別の出力値に関して、当該個別の出力値のための入力であるFFTデータを生じた回転機械の、異常の有無及び程度が示される、請求項7に記載の機種型番推定及び異常推定システム。
【請求項9】
コンピュータ装置により、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る機種であるか否かの分類を目的変数とする機種推定のための機械学習モデルと、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか否かの分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルを、構築するステップと、
前記コンピュータ装置により、記憶装置に格納された、前記或る機種の回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種の回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る機種では無い回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種では無い回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記機種推定のための機械学習モデルを学習するステップと、
前記コンピュータ装置により、前記記憶装置に格納された、前記或る型番の部品を含む回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含む回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る型番の部品を含まない回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含まない回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記型番推定のための機械学習モデルを学習するステップと、
前記コンピュータ装置の処理回路により、学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルに、前記或る機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、インタフェース装置を介して入力して、学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力するステップと、
前記コンピュータ装置の処理回路により、学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルに、前記或る型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる前記或る型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力するステップと
を含む、異常を推定する方法。
【請求項10】
コンピュータ装置により、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし、当該回転機械が複数の特定の機種の内どの機種であり得るか、の分類を目的変数とする、複数種類の機種推定のための機械学習モデルを、構築するステップと、
前記コンピュータ装置により、
記憶装置に格納された、前記複数の特定の機種の内の或る機種の回転機械からのFFTデータと、
そのFFTデータを生じた回転機械の機種に対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが前記或る機種の回転機械からのものであることを分類する、ラベルデータと、
前記複数の特定の機種の内の、そのFFTデータを生じた回転機械の機種以外の機種に、対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが前記或る機種では無い機種の回転機械からのもので無いことを分類する、ラベルデータと
の組み合わせを、前記複数の特定の機種の全体に関して教師データとして、前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルを学習するステップと、
前記コンピュータ装置の処理回路により、
学習済みの前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルに、当該複数種類の機種の内の或る機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記複数種類の機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を、多クラスを示す複数ノードにより、出力するステップと
を含む、異常を推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポンプ等の回転機械における機種や部品型番を機械学習モデルにより推定するシステム及び方法に関する。更に、本開示は、ポンプ等の回転機械において発生し得る異常や故障を同じく機械学習モデルにより推定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ等の回転機械は、長期に渡って使用される。これらポンプ等の回転機械は、長期間出来るだけ安定して稼働することが要求されており、そのため、故障の兆候、即ち、異常が生じているような場合には、速やかに操作者により把握されることが求められている。
【0003】
回転機械の異常を把握する方策として、例えば、回転機械の振動データを採取して解析することが取り挙げられ得る。
【0004】
従来、回転機械における、ギア異常やアンバランス、ミスアライメントなどについては、振動データの速度域における特徴的な周波数成分を見ることにより推定され得るものとされてきた。しかしながら、例えば、回転機械における初期の軸受故障や潤滑不良等の異常に関しては、振動データの速度域における特徴的な周波数成分が特定されていない。即ち、従来、振動データにより回転機械における異常の一部は把握可能であったが、十全には異常は把握され得なかった。つまり、回転機械の振動データに基づく故障発生や故障個所の推定は必ずしも容易なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、まず、振動データを入力としてポンプ等の回転機械における機種や部品型番を推定するシステム、及び方法を提供することを目的とする。加えて、本開示は、振動データを入力としてポンプ等の回転機械にて発生している異常及び故障、並びに異常及び故障を発生している部品を推定するシステム、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の機種型番推定及び異常推定システムは、コンピュータ装置を有し、当該コンピュータ装置は、インタフェース装置と、記憶装置と、処理回路とを含む。
前記コンピュータ装置には、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る機種であるか否かの分類を目的変数とする機種推定のための機械学習モデルと、
回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか否かの分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルとが、構築されている。
前記コンピュータ装置は、
前記記憶装置に格納された、前記或る機種の回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種の回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る機種では無い回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る機種では無い回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記機種推定のための機械学習モデルを学習し、
更に前記記憶装置に格納された、前記或る型番の部品を含む回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含む回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、前記或る型番の部品を含まない回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが前記或る型番の部品を含まない回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、前記型番推定のための機械学習モデルを学習する。
更に、前記コンピュータ装置の前記処理回路は、
学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルに、前記或る機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力し、
加えて、学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルに、前記或る型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、前記記憶装置に格納されたFFTデータを、前記インタフェース装置を介して入力し、学習済みの前記型番推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる前記或る型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るシステム及び方法を利用することにより、振動データに基づいて回転機械の機種や該回転機械で用いられている部品の型番を推定することができる。更に、本開示に係るシステム及び方法を利用することにより、振動データに基づいて回転機械にて発生している異常や故障、更には異常や故障を生じている部品を推定することが実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システムのシステム構成図である。
【
図2】
図2は、ポンプ及びモータへの振動センサの配置例を示す図である。
【
図3】
図3は、振動センサが出力する、回転機械の振動に関する加速度FFTと速度FFTの例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システムにて構築されている、ディープラーニングモデルの概略の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、機種推定のための機械学習モデルにおける、(1)学習フェーズの概略のフローチャートと、(2)異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【
図6】
図6は、型番推定のための機械学習モデルにおける、(1)学習フェーズの概略のフローチャートと、(2)異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【
図7】
図7は、機種推定のための機械学習モデルにおける、入力データであるテストデータの例であって、(1)特定の機種であると推定できた加速度FFTデータの例と、(2)特定の機種であると推定できない加速度FFTデータデータの例を、示す図である。
【
図8A】
図8Aは、機種推定のための機械学習モデルに対する、実際の入力側の試験データのトレンドを示す図である。
【
図8B】
図8Bは、機種推定のための機械学習モデルにおける、実際の出力側の試験データである、異常度の変化を示す図である。
【
図9】
図9は、機種推定のための機械学習モデルの出力に拠る3Dプロットグラフを示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システムにて構築されているディープラーニングモデルにおける、3Dプロットグラフのための中間層の構成を示す図である。
【
図11】
図11は、型番推定のための機械学習モデルにおける、入力データの例であって、(1)特定の型番の部品を利用すると推定できた加速度FFTデータの例と、(2)異常により特定の型番の部品を利用すると推定できない加速度FFTデータの例を、示す図である。
【
図12】
図12は、複数種類の型番推定のための機械学習モデルによる、異常部品検出のフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システムにて構築されている、ディープラーニングモデルの概略の構成例を示す図である。
【
図14】
図14は、機種推定のための、多クラス分類モデルである、機械学習モデルにおける、(1)学習フェーズの概略のフローチャートと、(2)異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【
図15】
図15は、出力層における各ノードの手前の3次元ノードでの出力値のプロットグラフである。
【
図16】
図16は、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システムにて構築されているディープラーニングモデルの出力層における、所定の機種についてのノードの手前の3次元ノードでの出力値のプロットグラフを用いて、当該所定の機種の回転機械における異常検知を行った様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0011】
なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0012】
1.[本開示に至る経緯]
ポンプ等の回転機械は、連続的に若しくは断続的に長期間に渡って使用される。これらの回転機械は、長期間、故障すること無く出来るだけ安定して稼働することが通常求められる。そのため、回転機械における故障の兆候が窺えるような場合、例えば、回転機械の停止に繋がり得るような異常が生じつつある場合には、速やかに回転機械の操作者により異常現象が把握されることが求められる。
【0013】
回転機械の異常を把握する方策には様々なものが在るが、実効的なものとして、回転機械の振動データを採取して分析することが挙げられる。
【0014】
従来、回転機械における、ギア異常やアンバランス、ミスアライメントなどについては、振動データの速度域における特徴的な周波数成分に着目することにより推定され得るとされてきた。しかしながら、例えば、回転機械における初期の軸受故障や潤滑不良等の異常に関しては、振動データの速度域における特徴的な周波数成分が特定されていない。
【0015】
また、潤滑不良や金属接触などの現象が起きたときに発生する特徴周波数は、軸受の大きさや種類によって異なり、よってその特徴は複雑なものである。更に、機械の設置環境によるノイズの影響も受けることから、潤滑不良や金属接触などの現象を振動データから発見することは困難であった。同様に、負荷が変動する回転機械においては、振動の変化が負荷変動の影響によるのか機械の異常によるのか、の識別が困難であった。
【0016】
更に、振動計を設置することが殆ど無い回転機械等の、データとしての振動データの蓄積が少ないような機械に関しては、そもそも正常な振動データが十分に蓄積されていないため、過去の蓄積データに照らして振動異常の検知精度を上げる、ということも困難であった。
【0017】
このように、回転機械の振動データに基づく異常発生や故障個所の推定は十全では無く、必ずしも容易なものではなかった。
【0018】
一方で、振動データは、Bluetooth(登録商標)等の無線通信を使用すればリモートで常時採取し得るデータであり、且つ、機械のリアルタイムの状況の一面を示す最もセンシティブなデータであるため、有効活用に対する要請は高い。
【0019】
そこで、本開示に係るシステムは、回転機械に直接設置される振動センサにより採取される振動データに基づいて、回転機械の機種や当該回転機械で用いられる部品の型番を学習済み機械学習モデルにより推定することを実現する。のみならず、本開示に係るシステムは、回転機械に直接設置される振動センサにより採取される振動データに基づいて、回転機械にて発生している異常及び故障、並びに異常及び故障を発生している部品を、同じく学習済みの機械学習モデルにより、推定することを実現する。
【0020】
ここで、本開示における、回転機械に関する、機種、形式、(部品)型番の意味を記す。
・機種とは、1種類の構造を示すものである。
・形式とは、1種類の構造に含まれる、複数の寸法が異なる組立品である。
・型番とは、1つの組立品を構成する複数の部品の、個々の呼び番号である。
本開示の機種型番推定及び異常推定システムは、特に、回転機械における「機種」及び「型番」を取り扱うものであるが、他の構成や構造を取り扱うように構成することもできる。また、回転機械以外の機械に関する、構成、構造、部品等を取り扱うように構成することも可能である。
【0021】
2.[実施の形態1]
以下、添付の図面を参照して、本開示の好ましい実施の形態1を説明する。
【0022】
2.1.[システムの構成]
実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム及び方法は、回転機械の振動データから、回転機械の機種や当該回転機械で用いられる部品の型番を学習済み機械学習モデルにより推定し、更に、回転機械にて発生している異常や故障を同じく学習済みの機械学習モデルにより推定するための、システム及び方法である。
図1は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2のシステム構成図である。
【0023】
機種型番推定及び異常推定システム2は、コンピュータ装置4及び記憶装置12を有する。コンピュータ装置4及び記憶装置12は有線または無線の通信回線で接続されており、互いにデータを送受信可能である。機種型番推定及び異常推定システム2はさらに外部ネットワーク18に接続されており、外部ネットワーク18に接続された他のコンピュータシステムとの間でデータを授受する。また、機種型番推定及び異常推定システム2は、外部端末16と接続する。更に、機種型番推定及び異常推定システム2は、学習サーバ14と接続するのが望ましい。
【0024】
コンピュータ装置4は、一つ以上のプロセッサを搭載するサーバ機、ワークステーションコンピュータ、若しくはパーソナルコンピュータ等である。
【0025】
記憶装置12は、ディスクドライブやフラッシュメモリ等の、コンピュータ装置4の外部に設けられる記憶装置であり、コンピュータ装置4で用いられる各種データベース、各種データセット、及び、各種コンピュータプログラムを記憶する。記憶装置12には、例えば、後で説明する、外部端末16から送信される振動データが記録される。
【0026】
外部端末16は、パーソナルコンピュータやタブレット端末やスマートホン等であり、Bluetooth等の無線を介して、後で説明する振動センサ20と接続する。外部端末16は、一つ以上の振動センサ20から取得する振動データを、コンピュータ装置4や学習サーバ14と送受信する。
【0027】
学習サーバ14は、記憶装置12に記録される振動データ等を用いて、後で説明する機械学習モデルの学習を行う。なお、機械学習モデルの学習はコンピュータ装置4で行われてもよい。
【0028】
外部ネットワーク18は、例えば、インターネットであり、ネットワーク端子等のインタフェース装置6を介して、コンピュータ装置4と接続する。
【0029】
更にコンピュータ装置4は、インタフェース装置6、処理回路8、及びメモリ10を含む。
【0030】
インタフェース装置6は、ネットワーク端子、映像入力端子、USB端子、キーボード、マウス等を含む、外部とデータを遣り取り可能であるインタフェースユニットである。ここでのデータは、例えば、後で説明する、振動センサ20により採取される回転機械の振動データである。取得後、これらのデータは、記憶装置12に記録され得る。記憶装置12に記録されるデータは適宜、インタフェース装置6を介して、コンピュータ装置4内に取得され得る。
【0031】
処理回路8は、プロセッサにより構成される。ここでのプロセッサは、CPU(Central Processing Unit;中央処理ユニット)やGPU(Graphics Processing Unit;画像処理ユニット)を包括するものである。実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2の各種処理は、各種プログラムを処理回路8が実行することによって実現される。なお、当該各種処理は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などによって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0032】
本開示における処理回路8は、複数台の信号処理回路から構成されてもよい。各信号処理回路は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)であり、「プロセッサ」と呼ばれ得る。本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2における様々な処理の一部をあるプロセッサ(例えば、或るGPU)が実行し、他の一部の処理を他のプロセッサ(例えば、或るCPU)が実行してもよい。
【0033】
メモリ10は、コンピュータ装置4内部のデータ書き換えが可能な記憶部であり、例えば、多数の半導体記憶素子を含むRAM(Random Access Memory)により構成される。メモリ10は、処理回路8が様々な処理を実行する際の、具体的なコンピュータプログラムや、変数値や、パラメータ値等を一時的に格納する。なおメモリ10は、いわゆるROM(Read Only Memory)を含んでもよい。ROMには、例えば、以下で説明する機種型番推定及び異常推定システム2の処理を実現するコンピュータプログラムが予め格納されている。処理回路8がROMからコンピュータプログラムを読み出し、RAMに展開することにより、処理回路8が当該コンピュータプログラムを実行可能になる。
【0034】
実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4の各種処理プログラムは、Python等のコンピュータ言語を用いて構築される。本開示に係る機種型番推定及び異常推定システム2の構築のために用いられ得るコンピュータ言語はこれに限定されるものでは無く、勿論、他のコンピュータ言語が用いられてもよい。
【0035】
更に、本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4においては、学習済みの機械学習モデルが複数、構築される。本実施の形態に係る機械学習モデルは、後でも説明するように、例えば、ディープラーニングモデル等のネットワーク構造を用いて構築される。
【0036】
2.1.1.[振動センサの配置及び構成]
図2は、回転機械である、ポンプ22及びモータ26への、振動センサ20の配置例を示す図である。
図2において、ポンプ22及びモータ26は結合されてベースプレート24上に設置されており、更に、複数の振動センサ20が、ポンプ22及びモータ26に直接的に配置されている。
【0037】
振動センサ20は、例えば、1方向の振動測定をするものであり、アドバタイズ間隔が1秒であり、20分毎にデータ更新をするものである。更に、
図2に示す振動センサ20は、10000Hzまでの振動を採取してデータとして出力する(
図3参照)。振動センサ20は、振動検知だけでなく所定量のデータの記憶及び所定の演算を行うことができるものであり、よって、検知した振動をFFT(高速フーリエ変換)の形式の振動データで出力できるように構成されている。振動センサ20により出力されるFFTの振動データは、Bluetooth等の無線を介して、外部端末16により取得される。
【0038】
図3は、振動センサ20が出力する、回転機械の振動に関する加速度FFTと速度FFTの例を示す図である。
図3(1)が加速度FFTの例であり、
図3(2)が、速度FFTの例である。なお、振動センサ20は加速度を計測しており、速度データは加速度データより演算されている。
図3(1)及び
図3(2)に示すように本開示で示す振動センサ20は、1~10000Hzの振動を検知し得ることを想定している。
【0039】
2.1.2.[機械学習モデルの構成]
実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において複数構築される機械学習モデルは、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る機種であるか(即ち、例えば“1”か)否か(即ち、例えば“0”か)の分類を目的変数とする機種推定のための機械学習モデルと、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか(即ち、例えば“1”か)否か(即ち、例えば“0”か)の分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルとを含む。機種推定のための機械学習モデルは複数(即ち、複数の機種の分)構築され得、型番推定のための機械学習モデルも複数(即ち、複数の型番の分)構築され得る。
【0040】
実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において構築される機械学習モデルは特定のモデルに限定されるものではないが、例えば、ディープラーニングモデルであることが好ましい。
図4は、本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2にて構築されている、ディープラーニングモデルの概略の構成例を示す図である。
図4に示すディープラーニングモデルの例は、概略、入力層、中間層(若しくは、隠れ層)、及び出力層により構成されている。
【0041】
更に、後で説明するように、本開示におけるディープラーニングモデルにおいて、出力層手前付近の中間層にて、3D(3次元)プロットグラフ(
図9参照)に繋がる3ノード(即ち、3つのニューロン)の層が配置されていることが好ましい(
図10参照)。
【0042】
従って、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において構築されるのが好ましいディープラーニングモデルは、機種推定のためのディープラーニングモデルと、型番推定のためのディープラーニングモデルとを含む。機種推定のためのディープラーニングモデルは複数(即ち、複数の機種の分)構築され得、型番推定のためのディープラーニングモデルも複数(即ち、複数の型番の分)構築され得る。
【0043】
2.2.[システムの動作]
上述のように、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2においては、機種推定のための機械学習モデル(例えば、ディープラーニングモデル)と、型番推定のための機械学習モデル(例えば、ディープラーニングモデル)とが、夫々複数種類、構築されている。
【0044】
2.2.1.[機種推定のための機械学習モデル]
図5(1)は、機種推定のための機械学習モデルにおける学習フェーズの概略のフローチャートである。まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、回転機械の或る特定の機種に関して学習データを記憶装置12に格納して用意する(ステップS04)。学習データの一つが特定の機種の回転機械からのFFTデータであるならば、その学習データの正解値には分類のための「1」のラベルが付されて組み合わされて、教師データとされる。学習データの一つが特定の機種では無い回転機械からのFFTデータであるならば、その学習データの正解値には分類のための「0」のラベルが付されて組み合わされて、教師データとされる。
【0045】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して学習のための訓練データを分けて取得する(ステップS06)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得された訓練データにより、機種推定のための機械学習モデルを学習する(ステップS08)。
【0046】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して評価のためのテストデータを分けて取得する(ステップS10)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得されたテストデータにより、学習させた機種推定のための機械学習モデルの推定精度を評価する(ステップS12)。即ち、コンピュータ装置4の処理回路8は、テストデータを、学習させた機種推定のための機械学習モデルに入力し、そのテストデータに対して、ステップS04より付されていた正解値と共に、学習させた機種推定のための機械学習モデルからの出力値を付して、インタフェース装置6を介して記憶装置12に格納する。テストデータにおける(正解値、出力値)の組み合わせに関して、テストデータ全体に基づいて、例えば、評価のための混同行列を作成する。
【0047】
発明者は、特定の機種(機種:CA)についての機種推定のための機械学習モデル(ここでは、ディープラーニングモデル)の評価において、正解率が約80%である、という学習済みの機械学習モデルを作成した。この学習済み機械学習モデルでは、特に、機種CAの回転機械からのFFTデータを、機種CAの回転機械からのものであると予測した時の正答率が、約90%であると評価された。
【0048】
なお、
図7は、特定の機種(機種:CA)についての機種推定のための機械学習モデルにおける、入力データであるテストデータの例であって、(1)特定の機種であると推定できた加速度FFTデータの例と、(2)特定の機種であると推定できない加速度FFTデータデータの例を、示す図である。
図7(1)のFFTデータの入力により、特定の機種(機種:CA)である推定確率が「90%」である、出力値が得られている。一方、
図7(2)のFFTデータの入力により、特定の機種(機種:CA)である推定確率が「50%」でしか無い出力値が得られている。
【0049】
図5(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの機種推定のための機械学習モデルに対して、振動の発生源であるが、機種が未知である回転機械が生じさせる振動データ(特に、FFTデータ)を入力すれば、出力値により、機種が特定の機種「CA」であるか否かが推定されることになる。即ち、出力値が「1」に近ければ機種が「CA」である確率が高いことになり、出力値が「0」に近ければ機種が「CA」である確率が低いことになる。
【0050】
更に、
図5(2)は、機種推定のための機械学習モデルにおける、異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【0051】
なお、
図8A、
図8B、
図9を用いて後でも説明するが、
図5(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの機種推定のための機械学習モデルを用いれば、特定の機種であることは明らかであるが異常の有無が未知(不明)である回転機械が、生じさせる振動データ(FFTデータ)により、異常の有無の度合い、即ち、「異常度」が推定され得る、という新規の知見を、本願の発明者は獲得している。つまり、出力値が「1」に近ければ当該機種の回転機械における「異常度」が低いと推定され、出力値が「0」に近ければ当該機種の回転機械における「異常度」が高いと推定される、という知見である。このとき、機種推定のための機械学習モデルのための学習データは、異常を含む回転機械からのFFTデータ、即ち、異常なFFTデータを含まなくてもよい。また上述のように、本開示では、出力層における出力値の逆数(若しくは補数)を異常度として定義している(
図9参照。以下も同じである。)。
【0052】
図5(2)に示すフローチャートにて、まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、学習済みの機種推定のための機械学習モデルが対象とする特定の機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が、生じさせるFFTデータを、記憶装置12に格納して用意する(ステップS24)。
【0053】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの、特定の機種に関する機種推定のための機械学習モデルに、特定の機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12にて用意されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して、入力する(ステップS26)。
【0054】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの特定の機種に関する機種推定のための機械学習モデルから、入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する(ステップS28)。
【0055】
図8Aは、或る機種推定のための機械学習モデルに対する、実際の入力の振動データ(FFTデータ)のトレンドを示す図であり、
図8Bは、同じ機種推定のための機械学習モデルにおける、実際の出力値(異常度)の時間変化を示す図である。
図8Aにおいて、実線は、「駆動側-垂直(Drive End-Vertical)」、即ち、回転機械における駆動側の垂直方向の位置に設置した振動センサからの、加速度FFTのRMS(二乗平均平方根)である。一点鎖線は、「非駆動側-水平近傍(Non Drive End-Hrizontal,near」、即ち、回転機械における非駆動側の水平方向に近い位置に設置した振動センサからの、加速度FFTのRMS(二乗平均平方根)である。(太い)破線は、温度である。データは、2月4日から4月26日頃まで採取されているが、2月4日頃から、実線、一点鎖線、及び破線の何れも大きく変動し始めていることが分かる。
図8Bにて、略同時期における、機種推定のための機械学習モデルの出力値、即ち、異常度の変化を確認すると、2月4日以降は「異常」を示しており、更に、出力値が低くなり続けているため「異常度」も益々高くなっていることがわかる。即ち、回転機械において異常若しくは故障が進行していることが推定される。
【0056】
図9は、
図8A及び
図8Bに係るものと同じ機種推定のための機械学習モデルの、出力に拠る3D(3次元)プロットグラフを示す図である。ここで、
図10は、同じ機種推定のための機械学習モデル(ディープラーニングモデル)における、
図9に係る3Dプロットのための中間層の構成を示す図である。まず、
図10に示すように、出力層手前に3ノード(3つのニューロン)の層が配置されている。この3ノード(3つのニューロン)の層からの出力値を、(z1、z2、z3)として3次元空間に配置したものが、
図9に示す3Dプロットグラフである。
【0057】
図9に示す、機種推定のための機械学習モデル(ディープラーニングモデル)における出力層手前の3ノードからの複数の出力値により形成される3Dプロットグラフでは、個別の出力値(z1、z2、z3)に関しては、その位置により、異常の有無及び程度が推定される。
図9では、3ノード(3つのニューロン)の値(z1、z2、z3)は、概略、右下→左下→左上、の曲線を描出しているが、異常度が高くなるに連れ(即ち、出力値が小さくなるにつれ)、3Dプロットグラフも、右下→左下→左上の曲線を辿ることが分かる。更に、
図8Bに示される「2月4日」における3ノードによる3次元データ、及び、「4月5日」における3ノードによる3次元データを
図9にプロットすると、相当に異常度が高い(進んでいる)ことが、
図9より理解され得る。
【0058】
2.2.2.[型番推定のための機械学習モデル]
続いて、
図6(1)は、型番推定のための機械学習モデルにおける学習フェーズの概略のフローチャートである。まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、回転機械が利用する或る特定の型番の部品に関して学習データを記憶装置12に格納して用意する(ステップS44)。学習データの一つが特定の型番の部品を利用する回転機械からのFFTデータであるならば、その学習データの正解値には分類のための「1」のラベルが付されて組み合わされて教師データとされる。学習データの一つが特定の型番の部品を利用し無い回転機械からのFFTデータであるならば、その学習データの正解値には分類のための「0」のラベルが付されて組み合わされて教師データとされる。
【0059】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して学習のための訓練データを分けて取得する(ステップS46)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得された訓練データにより、型番推定のための機械学習モデルを学習する(ステップS48)。
【0060】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して評価のためのテストデータを分けて取得する(ステップS50)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得されたテストデータにより、学習させた型番推定のための機械学習モデルの推定精度を評価する(ステップS52)。即ち、コンピュータ装置4の処理回路8は、テストデータを、学習させた型番推定のための機械学習モデルに入力し、そのテストデータに対して、ステップS44より付されていた正解値と共に、学習させた型番推定のための機械学習モデルからの出力値を付して、インタフェース装置6を介して記憶装置12に格納する。テストデータにおける(正解値、出力値)の組み合わせに関して、テストデータ全体に基づいて、例えば、評価のための混同行列を作成する。
【0061】
発明者は、特定の型番の部品(軸受型番:6313)についての、型番推定のための機械学習モデル(ここでは、ディープラーニングモデル)の評価において、正解率が約95%である、という学習済みの機械学習モデルを作成した。この学習済み機械学習モデルでは、特に、軸受型番6313の部品を含む回転機械からのFFTデータを、軸受型番6313の部品を含む回転機械からのものであると予測した時の正答率が、約90.4%であると評価された。
【0062】
図6(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの型番推定のための機械学習モデルに対して、振動の発生源であるが、利用する部品が未知である回転機械が生じさせる振動データ(特に、FFTデータ)を入力すれば、出力値により、利用する部品が特定の型番の部品であるか否かが推定されることになる。即ち、出力値が「1」に近ければ利用する部品が特定の型番(例えば、「6313」)である確率が高いことになり、出力値が「0」に近ければ利用する部品が特定の型番(例えば、「6313」)である確率が低いことになる。
【0063】
更に、
図6(2)は、型番推定のための機械学習モデルにおける、異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【0064】
なお、
図11を用いて後でも説明するが、
図6(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの型番推定のための機械学習モデルを用いれば、学習済みの機種推定のための機械学習モデル(
図5(1)参照)の場合と同様に、特定の型番の部品を利用することは明らかであるが異常の有無が未知(不明)である回転機械が、生じさせる振動データ(FFTデータ)により、異常の有無の度合い、即ち、「異常度」が推定され得る、という新規の知見を本願の発明者は獲得している。つまり、出力値が「1」に近ければ回転機械に含まれる(利用される)当該型番の部品における「異常度」が低いと推定され、出力値が「0」に近ければ回転機械に含まれる(利用される)当該機種の部品における「異常度」が高いと推定される、という知見である。このときも、型番推定のための機械学習モデルのための学習データは、異常を含む回転機械からのFFTデータ、即ち、異常なFFTデータを含まなくてもよい。
【0065】
図6(2)に示すフローチャートにて、まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、学習済みの型番推定のための機械学習モデルが対象とする特定の型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が、生じさせるFFTデータを、記憶装置12に格納して用意する(ステップS64)。
【0066】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの、特定の型番に関する型番推定のための機械学習モデルに、特定の型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12にて用意されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して、入力する(ステップS66)。
【0067】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの特定の型番の部品に関する型番推定のための機械学習モデルから、入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる(利用される)特定の型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する(ステップS68)。
【0068】
図11は、特定の型番(軸受型番:6313)に関する型番推定のための機械学習モデルにおける、入力データの例であって、(1)特定の型番の部品を利用すると推定できた加速度FFTデータの例と、(2)特定の型番の部品を利用すると推定できなかった加速度FFTデータデータの例とを、示す図である。
図11(1)のFFTデータの入力により、特定の型番(軸受型番:6313)の部品を利用する回転機械である推定確率が「99%」である、出力値が得られている。
【0069】
一方、
図11(2)のFFTデータの入力により、特定の型番(軸受型番:6313)である推定確率が「1%」でしか無い出力値が得られている。このような波形の場合、本願の発明者の観点からは、破線部分のFFT波形に基づいて、故障の一種であるクリープの発生が経験的に推定されている。
【0070】
2.3.[実施の形態1のまとめ]
実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、コンピュータ装置4を有する。コンピュータ装置4は、インタフェース装置6と、記憶装置12と、処理回路8とを含む。コンピュータ装置4には、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る機種であるか否かの分類を目的変数とする機種推定のための機械学習モデルと、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか否かの分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルとが、構築されている。コンピュータ装置4は、記憶装置12に格納された、或る機種の回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが或る機種の回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、或る機種では無い回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが或る機種では無い回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、機種推定のための機械学習モデルを学習する。加えて、コンピュータ装置4は、記憶装置12に格納された、或る型番の部品を含む回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが或る型番の部品を含む回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせ、並びに、或る型番の部品を含まない回転機械からのFFTデータとそのFFTデータが或る型番の部品を含まない回転機械からのものであることを分類するラベルデータとの組み合わせを教師データとして、型番推定のための機械学習モデルを学習する。更に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの機種推定のための機械学習モデルに、或る機種と同機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12に格納されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力し、学習済みの機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する。加えて、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの型番推定のための機械学習モデルに、或る型番と同型番の部品を利用しているが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12に格納されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力し、学習済みの型番推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる或る型番の部品における異常の有無及び程度を推定する推定値を出力する。
【0071】
本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2を利用することにより、振動データであるFFTデータを入力としてポンプ等の回転機械にて発生している異常及び故障、並びに異常及び故障を発生している部品を推定することができる。
【0072】
3.[実施の形態2]
実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2と、略同様の構成を備える。また、実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2と基本的に同様の動作を行う。以下では、実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2について、実施の形態1との差異を中心に説明する。
【0073】
3.1.[システムの構成]
【0074】
実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4においても、学習済みの機械学習モデルが複数、構築される。実施の形態2に係る機械学習モデルも、例えば、ディープラーニングモデル等のネットワーク構造を用いて構築される。
【0075】
3.1.1.[機械学習モデルの構成]
実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において複数構築される機械学習モデルは、回転機械からのFFTデータを説明変数とし当該回転機械が或る型番の部品を含むか(即ち、例えば“1”か)否か(即ち、例えば“0”か)の分類を目的変数とする型番推定のための機械学習モデルを含む。この型番推定のための機械学習モデルが、複数種類の、夫々異なる、型番の部品について構築される。実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において構築される機械学習モデルも、ディープラーニングモデルであることが好ましい(
図4、
図10参照)。
【0076】
ここで、複数種類の型番の部品とは、例えば、或る軸受型番が付された軸受、或るシャフト型番が付されたシャフト、或るカップリング型番が付されたカップリング、等である。
【0077】
3.2.[システムの動作]
実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、複数種類の型番の部品について構築されている、学習済みの、型番推定のための機械学習モデル(例えば、ディープラーニングモデル)を利用して、当該複数種類の型番の部品を含む(利用する)、一つの回転機械からのFFTデータを入力することで、当該回転機械にてどの部品が異常を生じているかの検出を行う。
【0078】
3.2.1.[複数種類の型番推定のための機械学習モデル]
図12は、複数種類の型番推定のための機械学習モデルによる、異常部品検出のフローチャートである。
【0079】
なお、以下では、或る型番が付された第1の部品(例えば、軸受)に関する型番推定のための機械学習モデルを、第1の機械学習モデルと称し、別の或る型番が付された第2の部品(例えば、シャフト)に関する型番推定のための機械学習モデルを、第2の機械学習モデルと称し、・・・・・・、更に別の或る型番が付された第n(nは3以上の自然数)の部品(例えば、カップリング)に関する型番推定のための機械学習モデルを、第nの機械学習モデルと称している。
【0080】
本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2にて利用される、複数種類の型番推定のための機械学習モデル、即ち、第1~第nの機械学習モデルは、
図6(1)に示す学習フェーズのフローチャートに従って、夫々の型番毎に、学習済みとなっている。
【0081】
図12に示すフローチャートにて、まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、学習済みの第1の機械学習モデル~学習済みの第nの機械学習モデルの夫々が対象とする、複数種類の特定の型番と同型番の複数種類の部品を利用しており且つ何らかの異常を示す回転機械が、生じるFFTデータを記憶装置12に格納して用意する(ステップS84)。
【0082】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの第1の機械学習モデルに、ステップS84にて記憶装置12に用意された、何らかの異常を示す回転機械が生じるFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力して、出力値、即ち、第1の推定値を取得する(ステップS86-(1))。
【0083】
図6(2)及び
図11を用いて前に説明したように、この第1の推定値を評価することにより、入力されるFFTデータを生じた回転機械に含まれる第1の部品に関して、異常の有無の度合い、即ち、「異常度」が推定され得る。つまり、第1の推定値が「1」に近ければ第1の部品に係る「異常度」が低く、第1の推定値が「0」に近ければ第1の部品に係る「異常度」が高い、ということになる。
【0084】
ステップS86-(1)と同様に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの第2の機械学習モデルに、ステップS84にて記憶装置12に用意された、何らかの異常を示す回転機械が生じるFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力して、出力値、即ち、第2の推定値を取得する(ステップS86-(2))。
【0085】
構築された機械学習モデルの(複数の)種類に関して、ステップS86-(1)、ステップS86-(2)、・・・・が行われる。終には、学習済みの第nの機械学習モデルに対してまで、コンピュータ装置4の処理回路8は、ステップS84にて記憶装置12に用意された、何らかの異常を示す回転機械が生じるFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力して、出力値、即ち、第nの推定値を取得する(ステップS86-(n))。
【0086】
最後に纏めて、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの第1の機械学習モデル~学習済みの第nの機械学習モデルの夫々から出力された、第1の推定値~第nの推定値を対比・評価して、異常、若しくは故障を生じている部品を推定する(ステップS88)。
【0087】
例えば、第1の推定値~第nの推定値が、以下のような値であったとする。
【表1】
この場合、第2の推定値が低く、よって異常度が高い。第2の推定値を出力する第2の機械学習モデルが、例えば、シャフトに関する或る型番推定のための機械学習モデルであるとするならば、入力データであるFFTデータを生じた回転機械において、シャフトに異常(故障)が生じていることが推定され得る。
【0088】
このように、実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、FFTデータから回転機械における異常(故障)の原因を即時に推定し得る。
【0089】
3.3.[実施の形態2のまとめ]
実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2と同様の構成を備える。更に実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2において、コンピュータ装置4には、型番推定のための機械学習モデルが、第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルとして、複数種類、構築されている。ここで夫々の型番は異なるものであり、当該第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルは夫々の型番毎に学習済みとなっている。コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルの夫々に、複数種類の型番の夫々と同型番の複数種類の部品を利用しており且つ異常を示す回転機械が生じさせる、記憶装置12に格納されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力し、学習済みの第1の機械学習モデル~第nの機械学習モデルの夫々から、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械に含まれる複数種類の型番の部品の夫々における異常の有無及び程度を推定する第1の推定値~第nの推定値を出力する。
【0090】
本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2を利用することにより、振動データであるFFTデータを入力して、ポンプ等の回転機械にて発生している異常及び故障がどの部品に由来するものであるか、を推定することができる。
【0091】
4.[実施の形態3]
実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2も、実施の形態1及び実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2と、略同様の構成を備える。更に、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2も、実施の形態1及び実施の形態2に係る機種型番推定及び異常推定システム2と、基本的に同様の動作を行う。以下では、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2について、実施の形態1との差異を中心に説明する。
【0092】
4.1.[システムの構成]
【0093】
実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4においては、基本的に学習済みの機械学習モデルが一つ構築される。実施の形態3に係る機械学習モデルも、例えば、ディープラーニングモデル等のネットワーク構造を用いて構築される。ここで、実施の形態1及び2に係る機械学習モデルが、二値分類モデルであるのに対して、実施の形態3に係る機械学習モデルは、多クラス分類モデルである。
【0094】
4.1.1.[機械学習モデルの構成]
実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において、一つ構築される機械学習モデルは、回転機械からのFFTデータを説明変数とし、そのFFTデータを発生した当該回転機械が複数の機種の内どの機種であり得るか、の分類を目的変数とする、機種推定のための機械学習モデルを含む。この機種推定のための機械学習モデルは、出力層において、複数種類の、夫々異なる、機種についてのノード(ニューロン)が設けられている。つまり、当該機種推定のための機械学習モデルは、複数種類の機種についての多クラス分類モデルとして構築される。機種についてのノード(ニューロン)の出力値は、FFTデータを出力する回転機械がそのノードの機種である可能性が高ければ“1”に近くなり、FFTデータを出力する回転機械がそのノードの機種である可能性が低ければ“0”に近くなる。
【0095】
実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2におけるコンピュータ装置4において構築される、上述の機械学習モデルも、ディープラーニングモデルであることが好ましい(
図13参照)。
【0096】
図13は、本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2にて構築されている、ディープラーニングモデルの概略の構成例を示す図である。
図13に示すディープラーニングモデルの例も、概略、入力層、中間層(若しくは、隠れ層)、及び出力層により構成されている。
【0097】
更に、後で説明するように、
図13に示すように、本実施の形態に係るディープラーニングモデルにおいて、出力層手前の中間層にて、出力層の各クラスに関する個別のノード(ニューロン)に接続し、且つ、出力値が3D(3次元)プロットグラフ(
図15、
図16参照)を示し得る、3ノード(即ち、3つのニューロン)の組み合わせが、クラスの数だけ、設定されていることが好ましい。
【0098】
4.2.[システムの動作]
上述のように、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2においては、複数種類の機種推定のための、即ち、複数種類の機種について推定により分類するための、機械学習モデル(例えば、ディープラーニングモデル)が、基本的に一つ構築されている。なお、本実施の形態において機械学習モデルが複数構築されてもよい。
【0099】
4.2.1.[機種推定のための機械学習モデル]
図14(1)は、複数種類の、機種推定のための機械学習モデルにおける学習フェーズの概略のフローチャートである。まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、回転機械の、複数の特定の機種(即ち、多クラス)に関して学習データを記憶装置12に格納して用意する(ステップS104)。学習データの一つが、或る特定の機種の回転機械からのFFTデータであるならば、その学習データの正解値には分類のための「1」のラベルが付されて組み合わされて、教師データとされる。即ち、出力層における、当該機種に対応する出力たるノード(ニューロン)を示す変数に、或る特定の機種の回転機械からのものであることを分類するラベルデータ「1」が付されるべきものとされ、それ以外の機種に対応する出力たるノード(ニューロン)を示す変数全てに、或る特定の機種では無い回転機械からのもので無いことを分類するラベルデータ「0」が付されるべきものとされて、教師データとされる。ここでの教師データは、前述の複数の特定の機種の、全体に関して用意される。
【0100】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して学習のための訓練データを分けて取得する(ステップS106)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得された訓練データにより、複数種類の機種推定(即ち、多クラス分類)のための機械学習モデルを学習する(ステップS108)。
【0101】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、記憶装置12にて用意された学習データ、即ち、教師データから、インタフェース装置6を介して評価のためのテストデータを分けて取得する(ステップS110)。コンピュータ装置4の処理回路8は、取得されたテストデータにより、学習させた、複数種類の機種推定(多クラス分類)のための機械学習モデルの推定精度を評価する(ステップS112)。即ち、コンピュータ装置4の処理回路8は、テストデータを、学習させた、複数種類の機種推定(多クラス分類)のための機械学習モデルに入力し、そのテストデータに対して、ステップS104より付されていた正解値と共に、学習させた、複数種類の機種推定(多クラス分類)のための機械学習モデルからの出力値を付して、インタフェース装置6を介して記憶装置12に格納する。テストデータにおける(正解値、出力値)の組み合わせに関して、テストデータ全体に基づいて、例えば、評価のための混同行列を作成する。
【0102】
図14(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの、複数種類の機種推定(多クラス分類)のための機械学習モデルに対して、振動の発生源であるが、機種が未知である回転機械が生じさせる振動データ(特に、FFTデータ)を入力すれば、出力値により、機種が複数の機種のうちのどれであり得るのか推定されることになる。即ち、或るノード(ニューロン)を示す変数が「1」に近く、その他のノード(ニューロン)を示す変数が「0」に近ければ、その未知の機種は、その或るノード(ニューロン)に対応する機種である確率が高いことになる。
【0103】
更に、
図14(2)は、複数種類の、機種推定のための機械学習モデルにおける、異常推定フェーズの概略のフローチャートである。
【0104】
図15、
図16を用いて後でも説明するが、
図14(1)に示すフローチャートにより構築される、学習済みの、複数種類の機種推定のための機械学習モデルを用いれば、当該複数の機種のうちの、特定の機種であることは明らかであるが、異常の有無が未知(不明)である回転機械が、生じさせる振動データ(FFTデータ)により、異常の有無の度合い、即ち、「異常度」が推定され得る、という新規の知見を、本願の発明者は獲得している。つまり、出力層における、特定の機種に対応するノード(ニューロン)を示す変数の出力値が「1」に近ければ当該機種の回転機械における「異常度」が低いと推定され、同出力値が「0」に近ければ当該機種の回転機械における「異常度」が高いと推定される、という知見である。このときも、複数種類の型番推定のための機械学習モデルのための学習データは、異常を含む回転機械からのFFTデータ、即ち、異常なFFTデータを含まなくてもよい。
【0105】
図14(2)に示すフローチャートにて、まず、機種型番推定及び異常推定システム2のコンピュータ装置4は、学習済みの、複数種類の機種推定のための機械学習モデルが対象とする複数種類の機種の内の或る機種であるが、異常の有無及び程度が未知である回転機械が、生じさせるFFTデータを、記憶装置12に格納して用意する(ステップS124)。
【0106】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの、複数種類の特定の機種に関する機種推定のための機械学習モデルに、当該複数種類の機種の内の或る機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12にて用意されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して、入力する(ステップS126)。
【0107】
次に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの、複数種類の特定の機種に関する機種推定のための機械学習モデルから、入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を、多クラスを示す複数のノード(ニューロン)により、出力する(ステップS128)。
【0108】
まず、入力されたFFTデータを生じた回転機械の機種に対応するノード(ニューロン)を示す変数の出力値が「1」に近ければ、当該回転機械における「異常度」が低いと推定され、同変数の出力値が「0」に近ければ、当該回転機械における「異常度」が高いと推定される。
【0109】
更に、本実施の形態においても、入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を評価するに当たっては、複数種類の機種推定のための機械学習モデルの出力に拠る、3D(3次元)プロットグラフを用いることができる。ここで、
図13は、本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2にて構築されている、ディープラーニングモデルの概略の構成例を示す図であり、特に、3Dプロットのための中間層の構成を示す図である。
図13に示すように、出力層手前の中間層にて、出力層の各クラスに関する個別のノード(ニューロン)に接続し、且つ、出力値が3D(3次元)プロットグラフを示し得る、3ノード(3ニューロン)の組み合わせ(z1、z2、z3)が、各クラスに対応してクラスの数だけ、設定されている。
【0110】
図15は、出力層における各ノード(ニューロン)の手前の、3次元ノード(z1、z2、z3)での出力値の、プロットグラフである。「〇」、「×」、「△」は、夫々、一つの機種に関するグラフ(データ)である。3次元出力結果は機種ごとにクラスタリング可能なものとなっている。例えば、「〇」は機種CAに関するものであるが、主として、破線の円で示される領域内にクラスタリングされることが分かる。
【0111】
複数種類の機種推定のための機械学習モデル(ディープラーニングモデル)における出力層手前の中間層における、出力層の各クラスに関する個別のノードに接続する3ノードからの、複数の出力値により形成される3次元プロットグラフ(
図15、
図16参照。)においても、個別の出力値(z1、z2、z3)に関しては、その位置により、異常の有無及び程度が推定される。
【0112】
図16は、実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2にて構築されている、複数種類の機種推定のための機械学習モデルである、ディープラーニングモデルの出力層における、所定の機種(ここでは、機種CA)についてのノードの手前の、3次元ノード(z1、z2、z3)での出力値のプロットグラフを用いて、当該所定の機種の回転機械における異常検知を行った様子を示す図である。機種CAを含む、複数種類の機種推定のための機械学習モデルの、3次元出力グラフである
図16において、所定の機種のクラスタの中心点からの距離に応じて、異常度の増大が示されている。例えば、機種CAのクラスタの中心点から最も遠い距離に在る点についての、FFTデータを出力した回転機械にて、異常が有りベアリングを交換すべき直前タイミングであったことが確認されている。つまり、回転機械からの出力データであるFFTデータに基づく、本実施の形態に係る機械学習モデルの出力層の所定のノードの手前の、3ノードの出力値による3次元プロットグラフの各々は、同じ3次元空間における、回転機械の当該機種のクラスタの中心点から離隔する距離により、異常の有無及び程度を示し得ることが、確認されている。即ち、離隔する距離が大きければ、異常の程度も大きくなっている。
【0113】
4.3.[実施の形態3のまとめ]
実施の形3に係る機種型番推定及び異常推定システム2は、実施の形態1に係る機種型番推定及び異常推定システム2と同様の構成を備える。更に実施の形態3に係る機種型番推定及び異常推定システム2において、コンピュータ装置4には、回転機械からのFFTデータを説明変数とし、当該回転機械が複数の特定の機種の内どの機種であり得るか、の分類を目的変数とする、複数種類の機種推定のための機械学習モデルが、構築されている。コンピュータ装置4は、記憶装置12に格納された、複数の特定の機種の内の或る機種の回転機械からのFFTデータと、そのFFTデータを生じた回転機械の機種に対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが或る機種の回転機械からのものであることを分類する、ラベルデータと、複数の特定の機種の内の、そのFFTデータを生じた回転機械の機種以外の機種に、対応する出力を示す変数に付すべき、そのFFTデータが或る機種では無い機種の回転機械からのもので無いことを分類する、ラベルデータとの、組み合わせを、複数の特定の機種の全体に関して教師データとして、複数種類の機種推定のための機械学習モデルを学習する。更に、コンピュータ装置4の処理回路8は、学習済みの複数種類の機種推定のための機械学習モデルに、当該複数種類の機種の内の或る機種であるが異常の有無及び程度が未知である回転機械が生じさせる、記憶装置12に格納されたFFTデータを、インタフェース装置6を介して入力し、学習済みの複数種類の機種推定のための機械学習モデルから、当該入力されたFFTデータを生じた回転機械における異常の有無及び程度を推定する推定値を、多クラスを示す複数ノードにより、出力する。
【0114】
本実施の形態に係る機種型番推定及び異常推定システム2を利用することにより、振動データであるFFTデータを入力として、複数の特定の機種の内どの機種の回転機械にて異常が発生しているのか、及び、異常がどの程度のものか、を推定することができる。
【0115】
5.[他の実施の形態]
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【0116】
機械学習モデルであるディープラーニングモデルを型番推定多クラス分類モデルとして構築することもできる。このモデルを一つ利用するだけでFFTデータを入力して複数の型番に関する出力を行うことができる。
【0117】
また、実施の形態を説明するために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0118】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0119】
2・・・機種型番推定及び異常推定システム、4・・・コンピュータ装置、6・・・インタフェース装置、8・・・処理回路、10・・・メモリ、12・・・記憶装置、14・・・学習サーバ、16・・・外部端末、18・・・外部ネットワーク、20・・・振動センサ、22・・・ポンプ、24・・・ベースプレート、26・・・モータ。