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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072132
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】墨出し装置及び墨出しシステム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/18 20060101AFI20240520BHJP
   G01C 15/02 20060101ALI20240520BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240520BHJP
   B25H 7/04 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
E04G21/18 B ESW
G01C15/02
G05D1/02 H
B25H7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182818
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 浩之
(72)【発明者】
【氏名】南川 達浩
【テーマコード(参考)】
2E174
5H301
【Fターム(参考)】
2E174DA41
5H301AA02
5H301AA10
5H301BB03
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301FF10
5H301FF11
(57)【要約】
【課題】墨出し線をマーキングするために用いられ、従来よりも精度の高い走行制御を行うことが可能な墨出し装置を提供する。
【解決手段】墨出し装置1は、建物の施工現場内を走行し、墨出し線をマーキングする装置である。墨出し装置1は、装置本体部2と、装置本体部に設けられ、墨出し線をマーキングするマーキングユニット3と、装置本体部に設けられ、装置本体部を水平方向の全方向に走行させる走行部4とを備えている。走行部4は、墨出し装置1が設置される設置面に接触し、装置本体部2を水平方向の全方向に走行させる複数の車輪4aと、同じく設置面に接触し、装置本体部の走行を補助する補助車輪4dと、を有している。墨出し装置1は、施工現場内において複数の車輪4a及び補助車輪4dによって水平方向の全方向に走行しながら、マーキングユニット3によって墨出し線をマーキングする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の施工現場内を走行し、前記施工現場内において墨出し線をマーキングする墨出し装置であって、
前記墨出し装置の本体となる装置本体部と、
前記装置本体部に設けられ、墨出し線をマーキングするマーキング部と、
前記装置本体部に設けられ、前記装置本体部を水平方向の全方向に走行させる走行部と、を備え、
前記走行部は、
前記墨出し装置が設置される設置面に接触し、前記装置本体部を水平方向の全方向に走行させる複数の車輪と、
前記複数の車輪によって走行しているときに前記設置面に接触し、前記装置本体部の走行を補助する補助車輪と、を有し、
前記墨出し装置は、前記施工現場内において前記複数の車輪及び前記補助車輪によって水平方向の全方向に走行しながら、前記マーキング部によって墨出し線をマーキングすることを特徴とする墨出し装置。
【請求項2】
前記走行部は、
前記車輪の回転軸を構成する車輪軸と、
前記車輪及び前記車輪軸を回転させる駆動モータと、をさらに有し、
前記補助車輪は、前記車輪とともに前記車輪軸に回転可能となるように取り付けられ、前記車輪軸の軸方向において前記車輪よりも外側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の墨出し装置。
【請求項3】
前記車輪は、前記装置本体部を旋回させずに水平方向の全方向に走行させるメカナムホイール又はオムニホイールであって、
前記補助車輪は、前記車輪の外形に対応した円形状を有し、前記複数の車輪それぞれに対応する位置に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の墨出し装置。
【請求項4】
前記装置本体部に取り付けられ、該装置本体部に対して前記マーキング部を前記装置本体部の前後方向又は幅方向に可動させる可動部を備え、
前記可動部によって前記マーキング部が前記装置本体部の外側へ可動したときに、
前記マーキング部は、前記装置本体部の前後方向において、前記複数の車輪のうち、最も前方に位置する前方車輪よりも前方に突出する位置に配置され、または、
前記マーキング部は、前記装置本体部の幅方向において、前記複数の車輪のうち、最も側方に位置する側方車輪よりも側方に突出する位置に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の墨出し装置。
【請求項5】
前記装置本体部に設けられ、測量装置によって検出される複数の検出対象物を備え、
第1の検出対象物は、前記マーキング部又は前記マーキング部の周辺に取り付けられ、前記可動部によって前記マーキング部とともに可動し、
第2の検出対象物は、前記装置本体部のうち、前記可動部の可動方向において前記第1の検出対象物側とは反対側の端部に配置されることを特徴とする請求項4に記載の墨出し装置。
【請求項6】
請求項1に記載の墨出し装置と、前記施工現場内において所定位置に設置される測量装置と、を備えた墨出しシステムであって、
前記墨出し装置は、前記装置本体部に設けられ、前記測量装置によって検出される検出対象物をさらに備え、
前記測量装置は、前記墨出し装置に搭載された前記検出対象物を検出し、検出結果に基づいて前記墨出し装置の相対位置情報を測量し、
前記墨出しシステムは、
前記建物の設計情報を記憶し、
前記建物の設計情報と、前記墨出し装置の相対位置情報とに基づいて、前記施工現場内における前記墨出し装置の位置を推定し、
前記設計情報に基づいて墨出し線のマーキング位置を特定し、
前記墨出し装置の位置の情報と、前記マーキング位置の情報とに基づいて前記墨出し装置を走行させて墨出し線をマーキングさせることを特徴とする墨出しシステム。
【請求項7】
前記墨出し装置は、前記装置本体部に取り付けられ、該装置本体部に対して前記マーキング部を前記装置本体部の前後方向又は幅方向に可動させる可動部を備え、
前記墨出しシステムは、
前記墨出し装置の位置の情報と、前記マーキング位置の情報とに基づいて前記墨出し装置の墨出し開始位置を決定し、
決定した前記墨出し開始位置まで前記墨出し装置を移動させ、
前記墨出し装置が前記墨出し開始位置に到達したときに、前記建物の設計情報と、移動後の前記墨出し装置の相対位置情報とに基づいて、前記墨出し装置の位置を再度推定し、
決定した前記墨出し開始位置の情報と、移動後の前記墨出し装置の位置の情報とから位置誤差を算出し、
前記位置誤差が所定の閾値を超えている場合には、前記可動部によって又は前記可動部及び前記走行部によって前記マーキング部の位置を補正し、
前記マーキング部の位置補正後に、前記墨出し装置を走行させて墨出し線をマーキングさせることを特徴とする請求項6に記載の墨出しシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨出し装置及び墨出しシステムに係り、特に、建物の施工現場内において墨出し線をマーキングする墨出し装置及び墨出しシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の施工現場内を走行し、施工現場内において各種施工作業の基準位置を示す基準線(墨出し線)を床面または壁面等にマーキングする墨出し装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の墨出し装置は、予め設定された走行経路に沿って自動走行する墨出しロボットであって、装置本体部と、装置本体部にそれぞれ設けられ、墨出し線をマーキングするマーキング部と、装置本体部を水平方向の全方向に走行させる複数の車輪と、を備えている。複数の車輪は、例えば車輪本体に対して45度傾いた複数のローラを取り付けたメカナムホイール(登録商標、以下同じ。)を採用している。
上記構成により、墨出し装置は、予め定められた墨出し線のマーキング位置に墨出し線を連続してマーキングすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-139273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような墨出し装置では、水平方向の全方向に走行させる複数の車輪(メカナムホイール)を備えているため、自由度の高い走行を実現できる。一方で、従来の車輪と比較して車輪(メカナムホイール)の駆動に伴って振動が発生してしまい、墨出し装置の走行制御(位置制御)に影響を与える虞があった。
具体的には、メカナムホイールやオムニホイール(登録商標、以下同じ。)といった全方向に移動可能な車輪は、側面視において略円形状を有するものの、各ローラ間には溝があるため、車輪の表面が段差形状となっている。そのため、墨出し装置の設置面と、車輪の段差表面との関係で振動が発生し易くなっていた。
なお、墨出し作業は、建物の施工現場において各種施工作業の基準位置を示す基準線(墨出し線)をマーキングする作業であり、より正確な作業が求められていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、建物の施工現場内において墨出し線をマーキングするために用いられ、従来よりも精度の高い走行制御(位置制御)を行うことが可能な墨出し装置及び墨出しシステムを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、従来よりも走行中に発生する振動を抑制し、精度の高い走行制御を行うことが可能な墨出し装置及び墨出しシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の墨出し装置によれば、建物の施工現場内を走行し、前記施工現場内において墨出し線をマーキングする墨出し装置であって、前記墨出し装置の本体となる装置本体部と、前記装置本体部に設けられ、墨出し線をマーキングするマーキング部と、前記装置本体部に設けられ、前記装置本体部を水平方向の全方向に走行させる走行部と、を備え、前記走行部は、前記墨出し装置が設置される設置面に接触し、前記装置本体部を水平方向の全方向に走行させる複数の車輪と、前記複数の車輪によって走行しているときに前記設置面に接触し、前記装置本体部の走行を補助する補助車輪と、を有し、前記墨出し装置は、前記施工現場内において前記複数の車輪及び前記補助車輪によって水平方向の全方向に走行しながら、前記マーキング部によって墨出し線をマーキングすること、により解決される。
上記構成により、従来よりも精度の高い走行制御(位置制御)を行うことが可能な墨出し装置を実現できる。
詳しく述べると、走行部が、墨出し装置の設置面に接触し、装置本体部を水平方向の全方向に走行させる複数の車輪と、複数の車輪によって走行しているときに設置面に接触し、装置本体部の走行を補助する補助車輪とを有している。そのため、墨出し装置が従来よりも安定して走行することができる。また、補助車輪が、車輪の走行中に発生する振動を抑制することができる。
【0008】
このとき、前記走行部は、前記車輪の回転軸を構成する車輪軸と、前記車輪及び前記車輪軸を回転させる駆動モータと、をさらに有し、前記補助車輪は、前記車輪とともに前記車輪軸に回転可能となるように取り付けられ、前記車輪軸の軸方向において前記車輪よりも外側に配置されると良い。
上記のように、補助車輪が、車輪とともに車輪軸に回転可能となるように取り付けられ、車輪軸の軸方向において車輪よりも外側に配置されるため、補助車輪が車輪の走行(全方向の走行)を好適に補助することができる。また、補助車輪が、車輪によって走行しているときに設置面に接触しながら回転するため、補助車輪が、車輪の走行中に発生する振動を好適に抑制できる。
【0009】
このとき、前記車輪は、前記装置本体部を旋回させずに水平方向の全方向に走行させるメカナムホイール又はオムニホイールであって、前記補助車輪は、前記車輪の外形に対応した円形状を有し、前記複数の車輪それぞれに対応する位置に取り付けられていると良い。
一般にメカナムホイールやオムニホイールの表面は段差形状となっており、従来よりも走行中に発生する振動が大きいところ、上記構成であれば、走行中に発生する振動を抑制し、精度の高い走行制御を行うことができる。
【0010】
このとき、前記装置本体部に取り付けられ、該装置本体部に対して前記マーキング部を前記装置本体部の前後方向又は幅方向に可動させる可動部を備え、前記可動部によって前記マーキング部が前記装置本体部の外側へ可動したときに、前記マーキング部は、前記装置本体部の前後方向において、前記複数の車輪のうち、最も前方に位置する前方車輪よりも前方に突出する位置に配置され、または、前記マーキング部は、前記装置本体部の幅方向において、前記複数の車輪のうち、最も側方に位置する側方車輪よりも側方に突出する位置に配置されると良い。
上記のように可動部を備えていることで、マーキング部を前方車輪よりも前方に配置することができる。または、マーキング部を側方車輪よりも側方に配置することができる。そうすることで、墨出し装置が、建物の壁際に位置する箇所であっても好適に墨出し線をマーキングできる。つまりは、建物の壁に装置本体部や走行部が意図せず接触してしまい、墨出し線のマーキングに影響してしまうことを抑制できる。
【0011】
このとき、前記装置本体部に設けられ、測量装置によって検出される複数の検出対象物を備え、第1の検出対象物は、前記マーキング部又は前記マーキング部の周辺に取り付けられ、前記可動部によって前記マーキング部とともに可動し、第2の検出対象物は、前記装置本体部のうち、前記可動部の可動方向において前記第1の検出対象物側とは反対側の端部に配置されると良い。
上記のように複数の検出対象物を備えているため、測量装置を用いて墨出し装置の位置を推定し易くなる。また、第1の検出対象物はマーキング部(マーキング部の周辺)に取り付けられ、マーキング部とともに可動するため、墨出し装置のマーキング部の位置を精度よく推定することができる。
【0012】
また前記課題は、本発明の墨出しステムによれば、上記の墨出し装置と、前記施工現場内において所定位置に設置される測量装置と、を備えた墨出しシステムであって、前記墨出し装置は、前記装置本体部に設けられ、前記測量装置によって検出される検出対象物をさらに備え、前記測量装置は、前記墨出し装置に搭載された前記検出対象物を検出し、検出結果に基づいて前記墨出し装置の相対位置情報を測量し、前記墨出しシステムは、前記建物の設計情報を記憶し、前記建物の設計情報と、前記墨出し装置の相対位置情報とに基づいて、前記施工現場内における前記墨出し装置の位置を推定し、前記設計情報に基づいて墨出し線のマーキング位置を特定し、前記墨出し装置の位置の情報と、前記マーキング位置の情報とに基づいて前記墨出し装置を走行させて墨出し線をマーキングさせること、によっても解決される。
上記構成により、建物の設計情報と、測量装置によって測量された墨出し装置の相対位置情報とを用いて墨出し装置の位置を推定し、墨出し装置によって墨出し線をマーキングさせることができる。
【0013】
このとき、前記墨出し装置は、前記装置本体部に取り付けられ、該装置本体部に対して前記マーキング部を前記装置本体部の前後方向又は幅方向に可動させる可動部を備え、前記墨出しシステムは、前記墨出し装置の位置の情報と、前記マーキング位置の情報とに基づいて前記墨出し装置の墨出し開始位置を決定し、決定した前記墨出し開始位置まで前記墨出し装置を移動させ、前記墨出し装置が前記墨出し開始位置に到達したときに、前記建物の設計情報と、移動後の前記墨出し装置の相対位置情報とに基づいて、前記墨出し装置の位置を再度推定し、決定した前記墨出し開始位置の情報と、移動後の前記墨出し装置の位置の情報とから位置誤差を算出し、前記位置誤差が所定の閾値を超えている場合には、前記可動部によって又は前記可動部及び前記走行部によって前記マーキング部の位置を補正し、前記マーキング部の位置補正後に、前記墨出し装置を走行させて墨出し線をマーキングさせると良い。
上記のように、墨出しシステムは、決定した墨出し開始位置の情報と、移動後の墨出し装置の位置の情報とから位置誤差を算出し、位置誤差が所定の閾値を超えている場合には、マーキング部の位置を補正した上で、墨出し線のマーキングを行っている。そうすることで、墨出し装置(マーキング部)の位置を精度よく制御することができる。
特に、マーキング部の位置を補正するにあたっては、可動部を動作させることでマーキング部の位置を補正している。そうすることで、走行部(車輪)を動作させるよりも精度良くマーキング部の位置を補正することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の墨出し装置及び墨出しシステムによれば、建物の施工現場内において墨出し線をマーキングするにあたって、従来よりも精度の高い走行制御(位置制御)を行うことが可能となる。
また、従来よりも走行中に発生する振動を抑制し、精度の高い走行制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の墨出しシステムの構成図である。
図2】墨出し装置の平面図であり、墨出し装置のハードウェア構成を説明する図である。
図3】墨出し装置の側面図である。
図4】車輪、補助車輪の正面図である。
図5】走行ユニットによる走行機構を説明する図である。
図6】墨出し装置、測量装置、オペレータ端末の機能を説明する図である。
図7】本実施形態の墨出し方法を示す処理フロー図である。
図8】別実施形態の墨出し装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について図1図8を参照して説明する。
本実施形態は、建物の施工現場内を走行し、施工現場内において墨出し線をマーキングする墨出し装置であって、装置本体部と、墨出し線をマーキングするマーキング部と、装置本体部を水平方向の全方向に走行させる走行部とを備えており、従来よりも精度の高い走行制御(位置制御)を行うことを主な特徴とする「墨出し装置」に関するものである。
また、墨出し装置を備えた「墨出しシステム」に関するものである。
【0017】
本実施形態の墨出しシステムSは、図1に示すように、建物の所定空間における床を走行し、建物の墨出し処理を行う墨出し装置1と、建物内において所定の測量位置に設置され、墨出し装置1の相対位置情報を測量する測量装置100と、墨出し装置1及び測量装置100とネットワークを通じて接続され、測量装置100から相対位置情報を受信して墨出し装置1の位置情報(位置及び向き)を演算し、墨出し装置1へ位置情報や所定の墨出し作業を実行させるプログラムを送信するオペレータ端末200と、から主に構成されている。
「墨出し作業」とは、建物の施工現場等において、各種施工作業の基準位置を示す基準線(墨出し線)を床面、壁面または天井面等にマーキングする作業を意味する。具体的には、基礎墨出しや躯体墨出し、仕上げ墨出し等がある。墨出し線は、その後の建物の部材の取り付け作業や、空調・電気設備等の器具の取り付け作業を実施するために用いられる。
【0018】
<墨出しシステムのハードウェア構成>
墨出し装置1は、図1図3に示すように、建物内を自動走行し、墨出し処理を行うロボットであって、オペレータ端末200と情報データ通信を行い、オペレータ端末200に記憶されている最新のプログラムやデータを読み込んで記憶しておくことができる。
墨出し装置1は、具体的には、墨出し作業を行う小型の無人搬送車(AGV)であって、装置本体部2と、マーキングユニット3(マーキング部)と、走行ユニット4(走行部)と、プリズム5と、可動ユニット6と、制御コントローラ7(制御部)と、バッテリ8と、から主に構成されている。
【0019】
装置本体部2は、墨出し装置1の本体部である。装置本体部2は、墨出し装置1の幅方向における中央位置に重心が位置するように設計されている。
なお、装置本体部2は、墨出し装置1の前後方向及び幅方向における中央位置に重心が位置するように設計されていると好ましい。
【0020】
マーキングユニット3は、インクジェット方式によって墨出し線をマーキングするマーキング部である。例えば、マーキングユニット3は、不図示のインクカートリッジを有し、インクを下方に向かって噴霧することで床面に対し墨出し線を印字する。
マーキングユニット3(吐き出し口3a)は、装置本体部2の前方位置に配置され、かつ、装置本体部2の幅方向における中央位置に配置されている。
なお、マーキングユニット3は、インクジェット方式に特に限定されることなく、直接ペンの先端を床面に接触させて水平方向に走行することで床面に墨出し線をマーキングしても良い。あるいは、インクを滴下する方式で墨出し線をマーキングしても良い。
【0021】
走行ユニット4は、図2図5に示すように、装置本体部2を水平方向(2次元方向)の全方位に走行させるタイヤ式の走行部であって、装置本体部2の四隅にそれぞれ取り付けられている。
具体的には、走行ユニット4は、上面視において装置本体部2の四隅にそれぞれ配置され、装置本体部2を走行させるために回転する複数の車輪4aと、各車輪4aの回転軸を構成し、墨出し装置1の幅方向に延びている車輪軸4bと、各車輪4a及び車輪軸4bを回転させる駆動モータ4c(パルスモータ)と、を有している。
また、走行ユニット4は、複数の車輪によって走行しているときに床面に接触し、装置本体部2の走行を補助する複数の補助車輪4dを有している。
【0022】
車輪4aは、例えばメカナムホイールであって、車輪4aの表面が車輪軸4bに対して約45度傾けた複数のローラ(バレル)によって覆われている。なお、車輪4aは、メカナムホイールのほか、オムニホイールのような全方位に走行可能な車輪であると良い。
走行ユニット4は、4つの駆動モータ4cによって車輪4a(車輪軸4b)の回転方向と回転速度を制御することで、墨出し装置1を旋回させずに水平方向に自由に走行させることができる。
詳しく述べると、走行ユニット4は、図5に示すように、4つの車輪4aの回転方向及び回転速度を制御することで、墨出し装置1を前進、後進、左移動、右移動、左斜め前進、右斜め前進、左旋回及び右旋回させることができる。
【0023】
補助車輪4dは、図2図4に示すように、円盤状のホイールであって、車輪4aの外形に対応した円形状を有し、複数の車輪4aそれぞれに対応する位置に取り付けられている。
補助車輪4dは、車輪4aとともに車輪軸4bに回転可能となるように取り付けられ、車輪軸4bの軸方向において車輪4aよりも外側に配置される。
補助車輪4dは、複数の車輪4aによって走行しているときに床面に接触し、車輪4aの駆動に伴って発生する振動を抑制することができる。
【0024】
補助車輪4dの機能について詳しく説明する。
図4に示すように、メカナムホイールのような全方向に移動可能な車輪4aは、側面視において略円形状を有するものの、各ローラ間には溝4aaが形成されているため、車輪4aの表面が段差形状となっている。
そのため、墨出し装置1が走行しているときに(車輪4aが回転しているときに)、床面と車輪4aの段差表面との関係で床との接地面積が小さくなることがあり(床との摩擦力が小さくなることがあり)、一般的な車輪と比較すると振動が発生し易くなる。
そこで、墨出し装置1では、車輪4aの外形と同じ径(車輪4aの最外径と同じ径)を有する補助車輪4dをさらに追加することとしている。
補助車輪4dは、図4に示すように、車輪4aと同じ荷重を受けるように配置されており、車輪4aによって走行しているときに床面に常に接触しながら回転する。
そうすることで、走行中に発生する振動を好適に抑制し、精度の高い走行制御を行うことが可能な墨出し装置1を実現できる。
【0025】
なお、車輪4aは、複数のローラによって滑りながら回転して進む。そのため、補助車輪4dは、滑り性(摺動性)を有する材料から形成され、車輪4aと同様に滑りながら回転して進むように構成されると良い。
【0026】
プリズム5は、測量装置100の検出対象物となる反射プリズムであって、装置本体部2の前方部分(前端部)の上面と、後方部分(後端部)の上面とに取り付けられ、それぞれ異なる高さ位置に配置されている。
そのため、測量装置100が、建物内において複数のプリズム5のうち、少なくとも1カ所のプリズム5を検出することができる。
【0027】
第1プリズム5aは、装置本体部2の前方部分に配置され、マーキングユニット3の周辺に取り付けられている。
第2プリズム5bは、装置本体部2の後方部分に配置され、第1プリズム5aよりも上方位置に配置されている。
【0028】
可動ユニット6は、装置本体部2の前方部分に取り付けられ、装置本体部2に対してマーキングユニット3及び第1プリズム5aを前後方向に可動させる可動部である。
具体的には、可動ユニット6は、不図示の駆動モータと、左右のスライドレール6aと、スライダ6bと、支持ブラケット6cと、を有している。
【0029】
左右のスライドレール6aは、装置本体部2の上面に固定された組み付けブラケット2aを介して組み付けられ、装置本体部2の前方部分から前方に突出するように延びている。
スライダ6bは、左右のスライドレール6aに対して前後方向に移動可能となるように取り付けられている。
スライダ6bは、支持ブラケット6cを介してマーキングユニット3及び第1プリズム5aを保持している。具体的には、マーキングユニット3がスライダ6bよりも前方位置に配置され、第1プリズム5aがスライダ6bよりも後方位置に配置されている。
上記において、可動ユニット6は、スライダ6bを前後移動させることで、マーキングユニット3及び第1プリズム5aを前後移動させることができる、
【0030】
上記構成において、図2に示すように、装置本体部2の前端部の中央位置には、矩形状に切り欠き形成された逃げ部2bが形成されている。
そのため、可動ユニット6によってマーキングユニット3が前後移動するときに、装置本体部2とマーキングユニット3の干渉を避けることができる。
【0031】
また上記構成において、図2に示すように、可動ユニット6によってマーキングユニット3が前方位置に移動したときに、マーキングユニット3は、複数の車輪4aのうち、最も前方に位置する前方車輪4aよりも前方に突出する位置に配置される。
そうすることで、墨出し装置1が、建物の壁際に位置する箇所であっても好適に墨出し線をマーキングできる。つまりは、建物の壁に装置本体部2や走行ユニット4が意図せず接触し、墨出し線のマーキングに影響することを抑制できる。
なお、マーキングユニット3を装置本体部2よりも外側に移動させることで、マーキングユニット3の周辺に作業スペースを確保し易くなり、マーキングユニット3のメンテナンスを行い易くなる。
【0032】
制御コントローラ7は、データの演算・制御処理としてのCPU(プロセッサ)と、記憶装置としてのROM、RAM、及びHDD(SSD)と、ネットワークを通じて情報データの送受信を行う通信用インタフェースと、を有するコンピュータであって、装置本体部2の上面に取り付けられている。
制御コントローラ7は、CPUが生成する制御信号を、通信用インタフェースを介してマーキングユニット3、走行ユニット4、可動ユニット6に送信(無線送信)することにより、マーキングユニット3、走行ユニット4、可動ユニット6のそれぞれの動作を制御する。
言い換えれば、制御コントローラ7のROM、RAM、及びHDDには、図6に示すように、コンピュータとして必要な機能を果たすメインプログラムに加えて、墨出しプログラムが記憶されており、これらプログラムがCPUによって実行されることで、墨出し装置1の機能が発揮される。
なお、制御コントローラ7は、図2図3に示すように、立体形状の制御モジュール(制御ボックス)に格納され、装置本体部2の後方部分に取り付けられている。上記制御モジュールの上面には、支持ブラケット2cを介して第2プリズム5bが取り付けられる。
【0033】
バッテリ8は、マーキングユニット3、走行ユニット4、可動ユニット6及び制御コントローラ7と電気的に接続され、これら構成部品に電力を供給する板状の蓄電池であって、装置本体部2の上面に取り付けられている。
詳しく述べると、バッテリ8は、装置本体部2の前後方向及び幅方向における中央位置に配置されている。
【0034】
上記構成において、墨出し装置1は、走行ユニット4によって水平方向の全方向に走行しながら、マーキングユニット3によって墨出し線をマーキングすることで、予め定められた墨出し線のマーキング位置に墨出し線を連続してマーキングする。
このとき、走行ユニット4が複数の車輪4a及び補助車輪4dを兼ね備えているため、墨出し装置1は、従来よりも走行中に発生する振動を抑制し、精度の高い走行制御を行うことが可能となる。また、補助車輪4dを備えることで、墨出し装置1の走行速度を上げることができる。
【0035】
また上記構成において、図2図3に示すように、マーキングユニット3、プリズム5、可動ユニット6、制御コントローラ7及びバッテリ8が、装置本体部2の幅方向の中央位置に配置され、かつ、複数の車輪4a及び補助車輪4dによって間に挟まれた位置に配置されている。
そうすることで、墨出し装置1が、より安定した状態で墨出し線をマーキングすることができる。
【0036】
測量装置100は、図1に示すように、測量位置において墨出し装置1に搭載されたプリズム5を検出し、検出結果に基づいて墨出し装置1の相対位置情報を測量する自動追尾型のトータルステーションである。
測量装置100は、オペレータ端末200と情報データ通信を行い、オペレータ端末200に向けて墨出し装置1との相対位置情報を送信する。
【0037】
測量装置100は、照射方向を連続的に変化させてレーザー光を照射し、検出対象物からの反射光を受光することで、検出対象物との距離及び向きを測量する装置本体101と、装置本体101の内部に取り付けられる制御コントローラ102と、を備えている。
制御コントローラ102は、CPU(プロセッサ)と、記憶装置と、通信用インタフェースとを備えたコンピュータである。
【0038】
オペレータ端末200は、作業者によって操作されるコンピュータである。
オペレータ端末200は、建物内で操作されても良いし、建物の外部で操作されても良い。
【0039】
<墨出しシステムの機能>
墨出し装置1は、図6に示すように、機能面から説明すると、「設計データ」、「走行経路データ」のほか、各種プログラム及び各種データをオペレータ端末200から読み込んで一時的に記憶しておく記憶部10と、オペレータ端末200との間で各種データを送受信する通信部11と、建物内における現在位置の情報を取得する位置情報取得部12と、建物内において所定の走行経路に沿って走行させ、墨出し処理を実行させる墨出し制御部13と、を主な構成要素として備えている。
これらは、CPU、ROM、RAM、HDD、通信用インタフェース、及び各種プログラム等によって構成されている。
言い換えれば、制御コントローラ7(制御部)が、記憶部10と、通信部11と、位置情報取得部12と、墨出し制御部13との機能を実行する。
【0040】
記憶部10に記憶される「設計データ」とは、建物の3次元形状の設計情報であって、具体的には、建物のBIM(Building Information Modeling)データである。
「設計データ」は、3次元形状の設計図に関する情報を含むデータであって、建物の部屋毎に作成され、かつ、施工段階毎に作成される。
設計図に関する情報は、建物の所定の部屋において所定の施工段階における図面を示すものであって、当該設計図には墨出し線のマーキング位置情報も含まれている。
例えば、建物の情報と、建物の部屋の情報と、部屋の施工段階の情報とが対応付けられている。
本実施形態では、建物の3次元形状を示す設計データを想定しているが、特に限定されることなく、施工処理の内容によっては2次元形状の設計データであっても良い。
【0041】
「走行経路データ」とは、建物の部屋内において墨出し作業を行うための走行経路を示すデータである。「走行経路データ」は、例えば、建物の部屋毎に作成され、かつ、施工段階毎に作成されている。
【0042】
測量装置100は、各種プログラム及び各種データを記憶する記憶部110と、オペレータ端末200との間で各種データを送受信する通信部111と、測量位置に設置された状態で測量を実行する測量実行部112と、を主な構成要素として備えている。
これらは、CPU、ROM、RAM、HDD、通信用インタフェース、及び各種プログラム等によって構成されている。
【0043】
オペレータ端末200は、各種プログラム及び各種情報データを保持して格納しておく記憶部210と、墨出し装置1及び測量装置100との間で各種データを送受信する通信部211と、建物内における墨出し装置1の現在位置の情報を推定する位置推定部212と、を主な構成要素として備えている。
記憶部210は、「設計データ」及び「走行経路データ」を記憶している。
これらは、CPU、ROM、RAM、HDD、通信用インタフェース、及び各種プログラム等によって構成されている。
【0044】
<<墨出し装置の現在位置の推定>>
墨出しシステムSは、以下のように墨出し装置1の現在位置を推定する。
まず、測量装置100の測量実行部112は、図1に示す測量位置において墨出し装置1に搭載されたプリズム5を検出し、検出結果に基づいて墨出し装置1の相対位置情報を測量する。
そして、通信部111は、オペレータ端末200とデータ通信を行い、墨出し装置1の相対位置情報を送信する。
【0045】
オペレータ端末200の通信部211は、測量装置100から墨出し装置1の相対位置情報を受信する。
そして、位置推定部212は、「設計データ」に含まれる建物の部屋の設計情報と、測量装置100によって測量された墨出し装置1の相対位置情報とに基づいて、建物の部屋内における墨出し装置1の現在位置を推定する。
そして、通信部211は、墨出し装置1に向けて墨出し装置1の位置情報を送信する。
「位置情報」とは、2次元の位置情報であって、例えば所定の柱の中心位置を原点位置(X0,Y0)と設定したときの位置座標(X,Y)によって特定される。なお、「位置情報」は、位置座標(X,Y,Z)によって特定される3次元の位置情報であっても良い。
【0046】
墨出し装置1の通信部11は、オペレータ端末200から墨出し装置1の位置情報を受信する。
そして、位置情報取得部12は、墨出し装置1の現在位置の情報を取得する。
【0047】
<<墨出し作業の実行>>
墨出しシステムSは、以下のように墨出し作業を実行する。
墨出し装置1の墨出し制御部13は、「設計データ(設計情報)」に基づいて墨出し線のマーキング位置を特定する。そして、墨出し装置1の現在位置の情報と、特定したマーキング位置の情報に基づいて墨出し装置1の走行経路決定し、「走行経路データ」を取得する。
そして、墨出し制御部13は、「走行経路データ」に基づいて墨出し装置1の「墨出し開始位置」及び「墨出し開始向き」を決定し、決定した「墨出し開始位置」まで墨出し装置1を移動させる。
【0048】
墨出し装置1が「墨出し開始位置」に到達したときに、墨出し装置1(通信部11、位置情報取得部12)は、測量装置100及びオペレータ端末200とデータ通信を行い、移動後の墨出し装置1の「現在位置」の情報を取得する。
具体的には、測量装置100(測量実行部112)が、移動後の墨出し装置1の相対位置情報を測量する。そして、オペレータ端末200(位置推定部212)は、設計情報と、移動後の墨出し装置1の相対位置情報とから、移動後の墨出し装置1の「現在位置」を推定する。言い換えれば、オペレータ端末200は、墨出し装置1の「現在位置」を再び推定する。
【0049】
墨出し制御部13は、「墨出し開始位置」の情報と、移動後の墨出し装置1の「現在位置」の情報とから位置誤差を算出する。
一般に設計情報に基づく目標地点と、当該目標地点まで実際に走行したときの墨出し装置1の位置情報とでは位置ずれ(位置誤差)が発生する。位置ずれが所定の閾値を超えている場合には、墨出し装置1の走行制御に影響を与えることになる。
そこで、位置誤差が所定の閾値(例えば±1mm)を超えていると判定した場合には、墨出し制御部13は、可動ユニット6及び走行ユニット4によってマーキングユニット3の位置を補正する。マーキングユニット3の位置を補正することで、例えば「墨出し開始位置」とマーキングユニット3の現在位置とを一致させることができる。
なお、位置誤差の算出については、墨出し作業の開始前に行われるほか、作業中に繰り返し行われても良い。
【0050】
マーキングユニット3の位置を補正した後に、墨出し制御部13は、墨出し装置1を走行させて墨出し線をマーキングさせる。
上記により、墨出しシステムSは、より精度の高い走行制御(位置制御)を行い、墨出し作業を実行することができる。
なお、墨出し制御部13は、上記墨出し作業を行うにあたって、マーキング位置特定部13aと、移動実行部13bと、位置誤差算出部13cと、位置補正部13dと、を有していると言い換えることもできる。
【0051】
上記構成において、位置誤差が閾値を超えている場合には、墨出し制御部13は、可動ユニット6及び走行ユニット4によってマーキングユニット3の位置を補正する。
具体的には、前後方向(X軸方向)の位置誤差が閾値を超えている場合には、墨出し制御部13は、可動ユニット6の動作によってマーキングユニット3の位置を補正する。
一方で、幅方向(Y軸方向)の位置誤差が閾値を超えている場合には、墨出し制御部13は、走行ユニット4の動作によってマーキングユニット3の位置を補正する。
つまりは、走行ユニット4よりも可動ユニット6を優先させてマーキングユニット3の位置を補正することで、より精度の高い位置制御を行うことができる。
詳しく説明すると、一般に、水平方向の全方向に走行可能とするメカナムホイールやオムニホイールでは、これらホイールの形状(表面形状)に起因して、墨出し装置1を左移動又は右移動させるときに精度良く走行させることができる。
そのため、上記のように前後方向(X軸方向)の位置誤差がある場合には、可動ユニット6の動作によって位置誤差を補正することが好ましい。一方で、幅方向(Y軸方向)の位置誤差がある場合には、走行ユニット4の動作によって位置誤差を補正することが好ましくなる。
【0052】
なお、本実施形態では、オペレータ端末200が、墨出し装置1の位置情報を推定し、当該位置情情報を墨出し装置1に向けてデータ送信しているが、オペレータ端末200の代わりに墨出し装置1が、自己の位置情報を推定しても良い。
すなわち、墨出し装置1が、自律移動ロボットとして「位置推定部」を構成要素として備え、自身で墨出しプログラムを実行するようにしても良い。
その場合には、墨出し装置1が、測量装置100と直接データ通信を行い、相対位置情報を取得すると良い。
【0053】
また本実施形態では、墨出し装置1が、墨出し作業の制御を行っているが、墨出し装置1の代わりにオペレータ端末200が、墨出し装置1の墨出し作業の制御を行っても良い。
すなわち、オペレータ端末200が、「墨出し制御部」を構成要素として備え、墨出し装置1の動作を全般的に制御しても良い。
その場合には、オペレータ端末200が、墨出し装置1とリアルタイムでデータ通信を行い、墨出し装置1の動作を遠隔制御すると良い。
【0054】
また本実施形態では、墨出し装置1が、所定地点から墨出し開始位置まで自動走行することとしているが、作業者が、墨出し装置1を墨出し開始地点まで持ち運び、墨出し開始地点にセットする作業を行っても良い。
【0055】
<墨出し方法>
次に、墨出しシステムSで実行される墨出し方法(墨出しプログラム)の処理について、図7に基づいて説明する。
本実施形態に係る上記プログラムは、作業者からの操作指示を受け付けて実行される。
【0056】
図7に示す「墨出し方法」の処理フローでは、まず、オペレータ端末200(位置推定部212)が、墨出し装置1の現在位置の情報を推定するステップ1(S1)から始まる。
具体的には、位置推定部212が、「設計データ」に含まれる建物の設計情報と、測量装置100によって測量された墨出し装置1の相対位置情報とに基づいて、建物内における墨出し装置1の現在位置を推定する。
墨出し装置1(位置情報取得部12)は、オペレータ端末200から墨出し装置1の現在位置の情報を取得する。
【0057】
そして、ステップ2で、墨出し装置1(墨出し制御部13)が墨出し線のマーキング位置を特定する。
具体的には、墨出し制御部13は、オペレータ端末200から「設計データ」を取得し、「設計データ」に含まれる墨出し線のマーキング位置情報を参照して、マーキング位置を特定する。
【0058】
そして、ステップ3で、墨出し制御部13が走行経路を決定する。
具体的には、墨出し制御部13は、墨出し装置1の現在位置の情報と、特定したマーキング位置の情報とに基づいて墨出し装置1の走行経路を決定する。そして、「走行経路データ」を取得する。
より具体的には、墨出し制御部13は、「走行経路データ」に基づいて墨出し装置1の「墨出し開始位置」と、「墨出し開始向き」とを決定する。
そして、ステップ4で、墨出し制御部13は、決定した「墨出し開始位置」まで墨出し装置1を移動させる。
【0059】
そして、ステップ5で、オペレータ端末200(位置推定部212)が、墨出し装置1の現在位置の情報を再び推定する。
つまりは、墨出し装置1(位置情報取得部12)は、オペレータ端末200から、移動後の墨出し装置1の現在位置の情報を取得する。
【0060】
そして、ステップ6で、墨出し制御部13は、「墨出し開始位置」の情報と、移動後の墨出し装置1の「現在位置」の情報とから位置誤差(位置ずれ)を算出する。
そして、前後方向(X軸方向)の位置誤差が閾値を超えていると判定された場合には(ステップ7:Yes)、ステップ8に進み、墨出し制御部13が、可動ユニット6の前後動作によってマーキングユニット3の位置を補正する。
一方で、前後方向の位置誤差が閾値を超えていない場合には(ステップ7:Nо)、そのままステップ9に進む。
【0061】
そして、ステップ9で、幅方向(Y軸方向)の位置誤差が閾値を超えていると判定された場合には(ステップ9:Yes)、ステップ10に進み、墨出し制御部13が、走行ユニット4の左右動作によってマーキングユニット3の位置を補正する。そして、ステップ11に進む。
一方で、幅方向の位置誤差が閾値を超えていない場合には(ステップ9:Nо)、そのままステップ11に進む。
墨出し制御部13は、可動ユニット6及び走行ユニット4によってマーキングユニット3の位置を補正する。マーキングユニット3の位置を補正することで、例えば「墨出し開始位置」とマーキングユニット3の現在位置とを一致させることができる。
【0062】
そして、ステップ11で、墨出し装置1(墨出し制御部13)が墨出し作業を実行する。
具体的には、墨出し制御部13は、「墨出し開始位置」をスタート地点として、所定の走行経路に沿って墨出し装置1を走行させて墨出し線を連続してマーキングさせる。
【0063】
上記ステップを経て図7のプロセスを終了する。
上記の墨出しプログラムの処理フローにより、墨出し装置1の走行中に発生する振動を抑制し、墨出し装置1の走行制御を精度高く実行することができる。
【0064】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、図1に示すように、墨出し装置1が自動走行(自律走行)するものあったが、特に限定されなくても良い。
例えば、作業者が墨出し装置1を遠隔操作することで、墨出し装置1が全方向に走行し、所定のマーキング位置に墨出し線を連続してマーキングすることとしても良い。
【0065】
上記実施形態では、図1に示すように、墨出し装置1が墨出し作業を行うものであったが、墨出し作業以外の施工処理に応用させても良い。
つまりは、施工処理装置が水平方向において全方向に走行し、所定の施工処理を行うものとしても良い。
「施工処理」とは、例えば、建物の被施工体(柱や梁)に耐火被覆材を吹き付ける「吹き付け作業」や、床レベルを測定する「床レベル測定作業」等が挙げられる。
【0066】
上記実施形態では、図2図4に示すように、墨出し装置1が、複数の車輪4aと、各車輪4aに対応する位置に配置される複数の補助車輪4dと、を備えているが、補助車輪4dの個数、形状及び配置について特に限定されない。
例えば、図8に示すように、墨出し装置1が、装置本体部2の4隅に配置される複数の車輪4aと、装置本体部2の中央位置に配置される1つの補助車輪4dと、を備えていても良い。補助車輪4dは、自在に向きを変えて回転可能な球状キャスタである。補助車輪4dは、車輪4aによって走行しているときに床面に接触し、車輪4aの走行に伴って発生する振動を抑制できる。
このように、補助車輪4dの構成については任意である。つまりは、補助車輪4dは、複数の車輪4aによって走行しているときに床面に接触し、装置本体部2の走行を補助するものとなっていれば良い。
【0067】
上記実施形態では、図2に示すように、可動ユニット6が、装置本体部2に対してマーキングユニット3を前後方向に可動させるものであるが、特に限定されない。
例えば、可動ユニット6が、装置本体部2に対してマーキングユニット3を左右方向(幅方向)に可動させるものであっても良いし、平面視において装置本体部2に対してマーキングユニット3を斜め方向(前方斜め方向、後方斜め方向)に可動させるものであっても良い。
なお、可動ユニット6によってマーキングユニット3が左右方向の外側へ可動したときには、マーキングユニット3は、複数の車輪4aのうち、最も側方に位置する側方車輪4aよりも側方に突出する位置に配置されると良い。
【0068】
上記実施形態では、図2に示すように、プリズム5が、装置本体部2の前方部分、後方部分に取り付けられているが、プリズム5の個数、形状及び配置について特に限定されるものではない。
プリズム5が、装置本体部2の4隅に取り付けられても良いし、装置本体部2の左側部分、右側部分に取り付けられても良い。
なお、第1プリズム5aは、マーキングユニット3又はマーキングユニット3の周辺位置に取り付けられることが好ましい。
【0069】
上記実施形態では、オペレータ端末200(墨出し装置1)が読み取り可能な記録媒体に墨出しプログラムが記憶されており、オペレータ端末200(墨出し装置1)が当該プログラムを読み出して実行することによって処理が実行される。ここでオペレータ端末200が読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。
そのほか、オペレータ端末200を利用して専用ウェブアプリを起動させて、ウェブブラウザ上で墨出しプログラムが実行されることとしても良い。
【0070】
上記実施形態では、主として本発明に係る墨出し装置及び墨出しシステムに関して説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
S 墨出しシステム
1 墨出し装置
2 装置本体部
2a 組み付けブラケット
2b 逃げ部
2c 支持ブラケット
3 マーキングユニット(マーキング部)
3a 吐き出し口
4 走行ユニット(走行部)
4a 車輪(前方車輪、側方車輪)
4aa 溝
4b 車輪軸
4c 駆動モータ
4d 補助車輪
5 プリズム(検出対象物)
5a 第1プリズム
5b 第2プリズム
6 可動ユニット(可動部)
6a スライドレール
6b スライダ
6c 支持ブラケット
7 制御コントローラ(制御部)
8 バッテリ
10 記憶部
11 通信部
12 位置情報取得部
13 墨出し制御部
13a マーキング位置特定部
13b 移動実行部
13c 位置誤差算出部
13d 位置補正部
100 測量装置
101 装置本体
102 制御コントローラ
110 記憶部
111 通信部
112 測量実行部
200 オペレータ端末
210 記憶部
211 通信部
212 位置推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8