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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072136
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】保持治具及び光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 13/02 20060101AFI20240520BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20240520BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240520BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240520BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20240520BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20240520BHJP
   B05C 9/14 20060101ALN20240520BHJP
   B05C 3/09 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
B05C13/02
G02B1/10
B05D3/00 G
B05D7/00 K
B05D3/02 Z
B05D1/18
B05C9/14
B05C3/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182823
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】安中 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光英
【テーマコード(参考)】
2K009
4D075
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
2K009DD02
2K009DD09
4D075AA01
4D075AB01
4D075AB44
4D075AC64
4D075AE01
4D075BB02X
4D075BB08X
4D075BB26Z
4D075BB42Z
4D075BB65X
4D075BB85Z
4D075CA02
4D075CA36
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB02
4D075DA23
4D075DB31
4D075DC24
4D075EA05
4D075EA41
4D075EC07
4F040AA14
4F040AB04
4F040BA42
4F040CC16
4F040CC20
4F040DA14
4F040DA17
4F040DB12
4F042AA10
4F042BA06
4F042BA08
4F042DB17
4F042DF07
4F042DF12
4F042DF29
4F042DF34
(57)【要約】
【課題】成膜処理の作業効率を向上させる技術を提供する。
【解決手段】光学素子を保持する保持治具1であって、基部と、光学素子の周縁部を保持する複数の保持機構と、複数の保持機構のうち第1の保持機構15が、保持予定である光学素子の側面に向けて回動するように、第1の保持機構15を付勢する付勢部材と、第1の保持機構15の回動方向を含む面に対する平行面内の方向に回動操作可能なレバー90と、を備え、 レバー90を回動させて第1の保持機構15を固定することにより、付勢部材による光学素子に対する付勢力を減少させる、保持治具1及びその関連技術を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を保持する保持治具であって、
基部と、
前記光学素子の周縁部を保持する複数の保持機構と、
前記複数の保持機構のうち第1の保持機構が、保持予定である前記光学素子の側面に向けて回動するように、前記第1の保持機構を付勢する付勢部材と、
前記第1の保持機構の回動方向を含む面に対する平行面内の方向に回動操作可能なレバーと、
を備え、
前記レバーを回動させて前記第1の保持機構を固定することにより、前記付勢部材による前記光学素子に対する付勢力を減少させる、保持治具。
【請求項2】
少なくとも前記基部、前記第1の保持機構及び前記レバーを貫き、且つ、少なくとも前記レバー、前記基部、及び前記第1の保持機構のいずれかと螺合する螺合部材を更に備え、
前記レバーを回動させることにより、前記回動の軸方向において、前記第1の保持機構が前記螺合部材に対していずれかの方向に相対移動し、前記保持機構に隣接する部材に押し付けられて固定される、請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
少なくとも前記第1の保持機構、前記付勢部材、前記レバー及び前記螺合部材を1セットとしたとき、前記回動の軸方向に並んだ複数の前記セットを備える、請求項2に記載の保持治具。
【請求項4】
前記複数の保持機構は、
保持予定である前記光学素子を挟んで前記第1の保持機構と対向して配置される第2の保持機構と、
保持予定である前記光学素子を下方から支える第3の保持機構と、
を有する、請求項1に記載の保持治具。
【請求項5】
前記第2の保持機構は前記基部に固定される、請求項4に記載の保持治具。
【請求項6】
前記第3の保持機構は、前記基部に固定され、且つ、前記回動の軸方向に長尺な部材であって、保持予定である前記光学素子を前記回動の軸方向に挟み込む溝が複数設けられた長尺部材である、請求項4に記載の保持治具。
【請求項7】
前記第3の保持機構は、前記回動方向を含む面内における水平方向に並べた複数の前記長尺部材であり、且つ、各長尺部材において前記回動の軸方向での前記溝の中心位置は同じである、請求項6に記載の保持治具。
【請求項8】
前記長尺部材は、前記回動方向を含む面内における水平方向から見たときの形状が屈曲線及び曲線の少なくともいずれかである板状部材である、請求項6に記載の保持治具。
【請求項9】
前記螺合部材の頭と前記レバーとは、前記第1の保持機構を挟んだ位置にあり、
前記レバーを回動させることにより、前記回動の軸方向において、前記第1の保持機構が前記螺合部材に対していずれかの方向に相対移動し、
前記第1の保持機構が押し付けられる際の押し付け先は、前記螺合部材の頭、又は、前記螺合部材に貫かれ且つ前記第1の保持機構のいずれかの側に間に配置された部材である、請求項2に記載の保持治具。
【請求項10】
前記付勢部材はコイルばねであり、
前記螺合部材は、前記付勢部材を更に貫き、
前記回動の軸方向において、前記螺合部材の頭、前記第1の保持機構、前記付勢部材、前記基部、前記レバーの順に並んだ、請求項9に記載の保持治具。
【請求項11】
前記第1の保持機構と前記基部との間にスペーサを更に備え、且つ、前記スペーサは前記コイルばねの螺旋部に収容可能な大きさであり、且つ、前記スペーサは前記レバーを回動させたときに前記第1の保持機構と直接接触して、前記第1の保持機構を固定する、請求項10に記載の保持治具。
【請求項12】
前記第1の保持機構が前記光学素子の側面に向けて回動する方向と同方向に前記レバーを回動させることにより前記第1の保持機構を固定し、
前記第1の保持機構が前記光学素子の側面に向けて回動する方向と逆方向に前記レバーを回動させることにより、前記第1の保持機構を前記逆方向に回動させた状態で前記第1の保持機構を固定する、請求項2に記載の保持治具。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一つに記載の保持治具により光学素子を保持しつつ前記光学素子に成膜する光学素子の製造方法であって、
前記光学素子を前記保持治具内に配置し、前記第1の保持機構を前記光学素子の側面に向けて回動するように付勢しつつ前記光学素子の周縁部を前記複数の保持機構により保持する光学素子保持工程と、
前記光学素子保持工程の後、前記レバーを回動させることにより前記第1の保持機構を固定する第1の保持機構固定工程と、
前記第1の保持機構固定工程の後、前記光学素子を前記保持治具ごと塗布液中に浸漬する浸漬工程と、
前記塗布液から前記保持治具ごと前記光学素子を引き上げる引き上げ工程と、
前記光学素子に塗布した塗布液を加熱硬化する硬化工程と、
を有する、光学素子の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持治具及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの基材にハードコート膜や反射防止膜などを成膜する方法として、成膜用の塗布液にレンズ基材Lを浸漬し、レンズ基材Lの表面に塗布された塗布液を乾燥することにより成膜する方法が広く用いられている。このような塗布液に浸漬する際には、レンズ保持具によりレンズ基材Lの外縁部を保持した状態で、レンズ基材Lを塗布液に浸漬する。そして、レンズ基材Lを塗布液から引き上げた後、レンズ保持具によりレンズ基材Lを保持したまま、加熱処理を施し、塗布液の乾燥、或いは塗膜のアニール処理を行う。
【0003】
レンズ基材Lを保持するためのレンズ保持具として、例えば、特許文献1には、光学素子を保持する保持治具であって、基部と、光学素子の周縁部を保持する少なくとも3つの保持部と、少なくとも3つの保持部のうちの第1の保持部が取り付けられ、基部に軸周りに回動可能に設けられた第1のアームと、第1の保持部が光学素子に向かうように、第1の回動方向に第1のアームを付勢する付勢部材と、第1のアームの回動を固定するように構成された固定機構とを備えることを特徴とする保持治具が記載されている。本明細書にて特記が無い内容は、特許文献1に記載の内容を援用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-141091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、第1のアームの回動を固定するように構成された固定機構として蝶ボルトが例示されている。蝶ボルトは、外周面に螺条が形成された円柱状の螺条部と、螺条部に接続された一対の操作羽とを備えることが記載されている。この点、以下の知見が本発明者らにより得られた。
【0006】
特許文献1に記載の保持治具に光学素子を保持させた状態で浸漬含む成膜処理を行う。その際、該保持治具一つだけに対して浸漬含む成膜処理を行うのは作業効率が悪い。光学素子を保持させた状態の複数の保持治具をまとめて成膜処理するのが効率的である。
【0007】
その一方、特許文献1に記載の保持治具を、吊下部材に吊り下げて、特許文献1の図3の紙面左右方向に複数並べた時、蝶ボルトの操作羽を操作者が掴もうとしても、隣接する保持治具に手が当たってしまい、操作用のスペースが無い。操作用のスペースを確保するためには、保持治具同士の間のスペースを広く確保する必要がある。そうなると、まとめて成膜処理可能な保持治具の数が減り、作業効率が悪くなる。
【0008】
また、仮に、特許文献1に記載の保持治具を1つのみ使用した場合であっても、蝶ボルトの操作羽を操作者が掴むという作業が必要である。この作業を容易化できれば、第1のアームの回動を固定する作業の効率化につながり、ひいては成膜処理の作業効率も向上する。
【0009】
本発明の一実施例では、成膜処理の作業効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、
光学素子を保持する保持治具であって、
基部と、
前記光学素子の周縁部を保持する複数の保持機構と、
前記複数の保持機構のうち第1の保持機構が、保持予定である前記光学素子の側面に向けて回動するように、前記第1の保持機構を付勢する付勢部材と、
前記第1の保持機構の回動方向を含む面に対する平行面内の方向に回動操作可能なレバーと、
を備え、
前記レバーを回動させて前記第1の保持機構を固定することにより、前記付勢部材による前記光学素子に対する付勢力を減少させる、保持治具。
【0011】
本発明の第2の態様は、
少なくとも前記基部、前記第1の保持機構及び前記レバーを貫き、且つ、少なくとも前記レバー、前記基部、及び前記第1の保持機構のいずれかと螺合する螺合部材を更に備え、
前記レバーを回動させることにより、前記回動の軸方向において、前記第1の保持機構が前記螺合部材に対していずれかの方向に相対移動し、前記保持機構に隣接する部材に押し付けられて固定される、第1の態様に記載の保持治具である。
【0012】
本発明の第3の態様は、
少なくとも前記第1の保持機構、前記付勢部材、前記レバー及び前記螺合部材を1セットとしたとき、前記回動の軸方向に並んだ複数の前記セットを備える、第2の態様に記載の保持治具である。
【0013】
本発明の第4の態様は、
前記複数の保持機構は、
保持予定である前記光学素子を挟んで前記第1の保持機構と対向して配置される第2の保持機構と、
保持予定である前記光学素子を下方から支える第3の保持機構と、
を有する、第1の態様に記載の保持治具である。
【0014】
本発明の第5の態様は、
前記第2の保持機構は前記基部に固定される、第4の態様に記載の保持治具である。
【0015】
本発明の第6の態様は、
前記第3の保持機構は、前記基部に固定され、且つ、前記回動の軸方向に長尺な部材であって、保持予定である前記光学素子を前記回動の軸方向に挟み込む溝が複数設けられた長尺部材である、第4の態様に記載の保持治具である。
【0016】
本発明の第7の態様は、
前記第3の保持機構は、前記回動方向を含む面内における水平方向に並べた複数の前記長尺部材であり、且つ、各長尺部材において前記回動の軸方向での前記溝の中心位置は同じである、第6の態様に記載の保持治具である。
【0017】
本発明の第8の態様は、
前記長尺部材は、前記回動方向を含む面内における水平方向から見たときの形状が屈曲線及び曲線の少なくともいずれかである板状部材である、第6の態様に記載の保持治具である。
【0018】
本発明の第9の態様は、
前記螺合部材の頭と前記レバーとは、前記第1の保持機構を挟んだ位置にあり、
前記レバーを回動させることにより、前記回動の軸方向において、前記第1の保持機構が前記螺合部材に対していずれかの方向に相対移動し、
前記第1の保持機構が押し付けられる際の押し付け先は、前記螺合部材の頭、又は、前記螺合部材に貫かれ且つ前記第1の保持機構のいずれかの側に配置された部材である、第2の態様に記載の保持治具である。
【0019】
本発明の第10の態様は、
前記付勢部材はコイルばねであり、
前記螺合部材は、前記付勢部材を更に貫き、
前記回動の軸方向において、前記螺合部材の頭、前記第1の保持機構、前記付勢部材、前記基部、前記レバーの順に並んだ、第9の態様に記載の保持治具である。
【0020】
本発明の第11の態様は、
前記第1の保持機構と前記基部との間にスペーサを更に備え、且つ、前記スペーサは前記コイルばねの螺旋部に収容可能な大きさであり、且つ、前記スペーサは前記レバーを回動させたときに前記第1の保持機構と直接接触して、前記第1の保持機構を固定する、第10の態様に記載の保持治具である。
【0021】
本発明の第12の態様は、
前記第1の保持機構が前記光学素子の側面に向けて回動する方向と同方向に前記レバーを回動させることにより前記第1の保持機構を固定し、
前記第1の保持機構が前記光学素子の側面に向けて回動する方向と逆方向に前記レバーを回動させることにより、前記第1の保持機構を前記逆方向に回動させた状態で前記第1の保持機構を固定する、第2の態様に記載の保持治具である。
【0022】
本発明の第13の態様は、
第1~第12のいずれか一つの態様に記載の保持治具により光学素子を保持しつつ前記光学素子に成膜する光学素子の製造方法であって、
前記光学素子を前記保持治具内に配置し、前記第1の保持機構を前記光学素子の側面に向けて回動するように付勢しつつ前記光学素子の周縁部を前記複数の保持機構により保持する光学素子保持工程と、
前記光学素子保持工程の後、前記レバーを回動させることにより前記第1の保持機構を固定する第1の保持機構固定工程と、
前記第1の保持機構固定工程の後、前記光学素子を前記保持治具ごと塗布液中に浸漬する浸漬工程と、
前記塗布液から前記保持治具ごと前記光学素子を引き上げる引き上げ工程と、
前記光学素子に塗布した塗布液を加熱硬化する硬化工程と、
を有する、光学素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施例では、成膜処理の作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一態様に係る保持治具を-Z方向から+Z方向に見たときの概略正面図である。
図2図2は、本発明の一態様に係る保持治具の螺合部材を貫通した各部材を、+X方向から-X方向に見たときの概略分解側面図である。
図3図3は、図2において一つの連結部材(基部の一部)に、2セットの保持治具部品を配置した状態を、+X方向から-X方向に見たときの概略側面図である。
図4図4は、本発明の一態様に係る保持治具のレバーの回動の様子を、-Z方向から+Z方向に見たときの概略部分側面図である。屈曲爪(その2)は、屈曲爪(その1)の紙面奥側に隠れている。
図5図5は、本発明の一態様に係る保持治具を使用した、眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一態様について述べる。以下における図面に基づく説明は例示であって、本発明は例示された態様に限定されるものではない。
【0026】
本明細書では、複数の保持機構のうち第1の保持機構15が光学素子の側面に向かって回動する際の回動の軸方向をZ方向とする。図1の二点鎖線が第1のアーム10の回動の軌道を示す。
第1のアーム10の回動方向を含む平面をXY平面とし、水平方向をX方向、鉛直方向(天地方向)をY方向とする。
水平方向のうち、配置された光学素子から見て第2のアーム20から離れる方向を+X方向、第2のアーム20に近づく方向を-X方向とする。
上方向を+Y方向、下方向を-Y方向とする。
Z方向のうちレバー90に近い方向を+Z方向、螺合部材(例:ボルト42)の頭42Bに近い方向を-Z方向とする。図1で言うと、紙面から紙面の奥側に向かう方向が+Z方向、紙面から紙面の手前側に向かう方向が-Z方向である。
【0027】
本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0028】
<光学素子>
本発明の一態様に係る保持治具1は、後述するように光学素子を処理液に浸漬処理することにより、光学素子の表面に機能性膜をコーティング処理により形成する際に、光学素子を保持するためのものである。光学素子としては、例えば、眼鏡レンズに用いられるレンズ基材Lなどがあげられる。本発明の一態様では、光学素子がレンズ基材Lである場合を例示する。但し、光学素子としてはレンズ基材L以外にも、カメラ等の撮像機器内に配置されるレンズであってもよい。
【0029】
<保持治具1>
図1は、本発明の一態様に係る保持治具1を-Z方向から+Z方向に見たときの概略正面図である。
図2は、本発明の一態様に係る保持治具1の螺合部材を貫通した各部材を、+X方向から-X方向に見たときの概略分解側面図である。
図3は、図2において一つの連結部材51(基部50の一部)に、2セットの保持治具部品1Aを配置した状態を、+X方向から-X方向に見たときの概略側面図である。
図4は、本発明の一態様に係る保持治具1のレバー90の回動の様子を、-Z方向から+Z方向に見たときの概略部分側面図である。屈曲爪(その2)32Bは、屈曲爪(その1)32Aの紙面奥側に隠れている。
図5は、本発明の一態様に係る保持治具1を使用した、眼鏡レンズの製造方法を示すフローチャートである。
【0030】
本発明の一態様に係る保持治具1の構成は以下の通りである。
「光学素子を保持する保持治具1であって、
基部と、
光学素子の周縁部を保持する複数の保持機構と、
複数の保持機構のうち第1の保持機構15が、保持予定である光学素子の側面に向けて回動するように、第1の保持機構15を付勢する付勢部材と、
第1の保持機構15の回動方向を含む面に対する平行面内の方向に回動操作可能なレバー90と、
を備え、
レバー90を回動させて第1の保持機構15を固定することにより、付勢部材による光学素子に対する付勢力を減少させる、保持治具1。」
【0031】
図3において、第1の保持機構15(具体的には第1のアーム10)の回動方向を含む面は符号XY1(点線)であり、第1の保持機構15の回動方向を含む面に対する平行面であってレバー90の回動方向を含む面は符号XY2(一点鎖線)であり、本発明の一態様ではいずれの面もXY平面である。
【0032】
蝶ボルトを採用する特許文献1に記載の保持治具1では、保持治具1のZ方向に操作用のスペースが必要になる。その一方、本発明の一態様に係る保持治具1では第1の保持機構15の固定機構としてレバー90を採用している。第1の保持機構15の回動方向を含む面に対する平行面内の方向に回動操作可能なレバー90ならば、保持治具1の+X方向(或いはXY平面内、以降同様)から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済む。しかもその操作も、操作者が手全体をレバー90に向けずとも、指先一つでレバー90を操作すれば済み、作業効率が向上する。
【0033】
その結果、蝶ボルトを採用する場合のように保持治具1同士の間のスペースを広く確保する必要が無くなり、まとめて成膜処理可能な保持治具1の数を減らす必要も無くなり、作業効率が向上する。
【0034】
そして、レンズ基材Lを取り付けた後のレバー90の回動操作によって、第1の保持機構が螺合部材に対して相対移動し、隣接する部材に接触し(押しつけられ)てその位置に拘束される。このため、第1の保持機構に対して与えられていたばねによる付勢力が減少し、あるいは消失し、レンズ基材Lに実質的に与える付勢力或いは押圧力が実質的にゼロとなる。具体的には、レンズ基材Lに対して実質的に付勢力が作用しない状態で、レンズ基材Lが保持される。「実質的に」については後で詳述する。
【0035】
以下、本発明の一態様に係る保持治具1の構成の詳細(好適例又は変形例)について述べる。
【0036】
本発明の一態様による保持治具1は、主に、以下の構成を備える。
・基部50(連結部材51含む)
・第1の保持機構15を構成する、第1のアーム10、及び、光学要素と当接する第1の保持部である第1の爪12
・第2の保持機構25を構成する、第2のアーム20、及び、光学要素と当接する第2の保持部である第2の爪22
・第3の保持機構35を構成する第3の保持部である2列の屈曲爪32A,32B(第3の爪(その1、その2))
・付勢部材であるコイルばね60
・レバー90
・少なくとも基部50、第1の保持機構15及びレバー90を貫き、且つ、少なくともレバー90、基部50、及び第1の保持機構15のいずれかと螺合するボルト42(又はネジ、ビス、広義には螺合部材)
【0037】
保持治具1を構成する各部材は、特に断りのない限り、例えば、ステンレスなどの耐熱性を有する金属により構成される。
【0038】
基部50は、第1のアーム10、第2のアーム20、2列の屈曲爪32A,32Bを保持する部分であって、保持治具1を床の上に据え置き可能とする部分である。基部の一部が連結部材51である。連結部材51は、少なくとも第1の保持機構15、付勢部材であるコイルばね60、レバー90及び螺合部材であるボルト42を1セットの保持治具部品1Aとしたとき、Z方向に並んだ2つのセットの保持治具部品1Aを同時に連結部材51と連結するための部材である。基部50のうち連結部材51以外の部分は基部本体53とも言う。
【0039】
連結部材51は、YZ平面に平行な面の上方を+X方向に傾けた面であり且つZ方向に長尺な基部本体連結用平板51Aと、該平板の+Z方向側の端に設けられた平板であってXY平面に平行な嵌合用平板51Bとを有する。
【0040】
基部本体連結用平板51Aには、Z方向に並んで2か所の螺合穴51A1,51A2が設けられる。基部本体連結用平板51Aと同様に、基部本体53において+X方向に傾いた面にも螺合穴を設け、これらの螺合穴に連結ネジを貫通させて螺合させる。それにより、連結部材51を基部本体53に固定し、ひいては、連結部材51により取り付けられた保持治具部品1Aが、基部本体53に取り付けられる。この取り付けの態様には限定は無い。例えば図1に示すように、角型棒54を介して基部本体53と基部本体連結用平板51Aとをボルト55により連結してもよい。
【0041】
嵌合用平板51Bは基部本体連結用平板51Aの-Z方向側の端にも設けてもよい。そして、別の上記1セットの保持治具部品1Aのコピー品を、保持治具部品1A内の各部の配置関係を維持したまま、-Z方向側の端の嵌合用平板51Bに取り付けてもよい。これにより、保持治具部品1A同士の間のスペースを狭くできる。その分、保持治具1に取り付け可能な保持治具部品1Aの数を多くでき、その結果、作業効率が更に向上する。
【0042】
嵌合用平板51Bには、表裏面の間で貫通する貫通孔52が形成されている。
【0043】
貫通孔52は円形である。該円形は、アーム固定機構の一部であるボルト42の螺条部42Aが挿通可能な直径を有する。この貫通孔52には螺条は設けず、単なる貫通孔としてもよい。貫通孔52に対してボルト42を挿入する。ボルト42の頭42Bは-Z方向側に配置する。
【0044】
本発明の一態様では、螺合部材であるところのボルト42の螺条部42Aは、少なくとも基部50(具体的には嵌合用平板51B)、第1の保持機構15及びレバー90を貫く。そして、ボルト42の螺条部42Aは、少なくとも基部50、第1の保持機構15及びレバー90を貫き、且つ、少なくともレバー90、基部50、及び第1の保持機構15のいずれかと螺合する。該螺条部42Aは、更に付勢部材であるコイルばね60を貫通してもよい。
【0045】
本発明の一態様では第1の保持機構15がボルト42の螺条部42Aと螺合し、レバー90、基部50とはボルト42が単に貫通する場合を例示する。第1のアーム10の回動を固定するアーム固定機構は、紙面右から順に(-Z方向から+Z方向の順に)、頭42Bは-Z方向に配置された螺合部材としてのボルト42と、スペーサとしての軸部材44と、基部50の一部である連結部材51と、二重ナットとしての一対のナット46A,46Bと、レバー90と、末端ナット46Cを備える。
【0046】
ボルト42は、外周面に螺条が形成された円柱状の螺条部42Aと頭42Bとを備える。一対のナット46A,46Bと、末端ナット46Cは、螺条部42Aと螺合する。ナット46Bは、レバー90の貫通孔90A内に配置される。
【0047】
そして、螺合部材であるところのボルト42の頭42Bが-Z方向に配置される。つまり、本発明の一態様では、螺合部材の頭42Bとレバー90とは、第1の保持機構15(具体的には第1のアーム10)を挟んた位置にある。そして、本発明の一態様では、第1の保持機構15は、ボルトの頭42Bと軸部材44に隣接し、挟まれている。
【0048】
仮に、該螺条部42Aが右ネジである状態でレバー90を下方に回動させると、レバー90と共に、末端ナット46C及び貫通孔90A内のナット46Bも回動し、それに合わせてナット46A、及び両ナット46A,46Bも回動する。そうなると、ボルト42も回転するので、第1の保持機構15(具体的には第1のアーム10)がボルト42に対して+Z方向に移動して、軸部材44に向かって押し付けられて固定される。
【0049】
なお、レバー90を上方に回動させると、第1の保持機構15は、ボルト42に対して-Z方向に移動し、ボルトの頭42B(又は、ボルトの頭42Bと第1のアーム10の間に配置された部材がある場合には、その隣接部材)に押し付けられて、第1の保持機構15が固定される。
一方、該螺条部42Aが左ネジである場合、レバー90を下方に回動させることにより、第1の保持機構15がボルトの頭42B(又は上記隣接部材)に押し付けられて、第1の保持機構15が固定される。また、レバー90を上方に回動させることにより、第1の保持機構15が隣接する軸部材44に押し付けられて、第1の保持機構15が固定される。
【0050】
上記隣接部材には限定は無く、例えば螺合部材の頭42Bに隣接して設けられたナット又はスペーサであってもよい。
【0051】
第1のアーム10は、横方向に延びる基端部10Aと、基端部10Aの先端から斜め下方に延びる先端部10Bとを有する。
【0052】
基端部10Aは、ねじり部10A1よりも+X方向側では、XY平面に平行な板材からなり、ねじり部10A1よりもわずかに+X方向側の位置にはボルト42の螺条部42Aと螺合可能な直径の円形状のネジ穴10Cが形成されている。XY平面に平行な板材である基端部10Aは、ねじり部10A1において90度捩じられる。その結果、基端部10Aは、ねじり部10A1よりも-X方向側では、YZ平面に平行な板材からなる。ねじり部10A1よりもわずかに-X方向側の位置にて基端部10Aを+Y方向に向けて屈曲させる。
【0053】
この構成だと、+Y方向に向けて延伸し且つYZ平面に平行な板材を+X方向から-X方向に向けて押せば、第1のアーム10をレンズ基材Lから離間させられる。これは、レバー90と同様、Z方向の作業スペースは不要となることを意味する。つまり、レンズ基材Lの保持、レバー90の回動による付勢力の減少、第1のアーム10をレンズ基材Lから離間させ(レンズ基材Lの保持前の初期位置に戻し)て浸漬処理後のレンズ基材Lを保持治具1から取り外す作業は、XY平面内において行えば済み、Z方向の作業スペースは不要となる。
【0054】
先端部10Bの先端には、レンズ基材Lを保持するための第1の保持部(第1の爪12)が設けられている。
【0055】
第1の爪12は、基端部12Aが第1のアーム10の先端部10Bの表面に沿うように取り付けられており、先端部12Bは基端部12Aに対してレンズ基材L側に向かって折り曲げられている。先端部12Bの縁は、レンズ基材Lと当接する縁がV字型の凹状に形成されている。
【0056】
第2のアーム20は棒状の部材であり、基部50に取り付けられた基端部20Aと、基端部20Aから下方に延びる先端部20Bとを備える。
【0057】
第2のアーム20は、基端部20Aの上端部が基部本体53にボルト23で接続されて取り付けられている。
【0058】
先端部20Bは基端部20Aに対して、レンズ基材L側に傾斜している。
先端部20Bの先端には、レンズ基材Lを保持するための第2の保持部(第2の爪22)22が設けられている。
【0059】
第2の爪22は、保持予定であるレンズ基材Lを挟んで第1の保持機構15(具体的には第1の爪12)と対向して配置される。
【0060】
第2の爪22は、基端部22Aが第2のアーム20の先端部20Bの表面に沿うように取り付けられており、先端部22Bは基端部22Aに対してレンズ基材L側に向かって折り曲げられている。先端部22Bの先端の縁は、レンズ基材Lと当接する縁がV字型の凹状に形成されている。
【0061】
第3の保持機構35は、保持予定であるレンズ基材Lを下方から支える屈曲爪32A,32Bである。本発明の一態様では、この屈曲爪は、基部本体53に固定され、且つ、Z方向に長尺な部材であって、保持予定であるレンズ基材LをZ方向に挟み込む溝が複数(好適には3つ以上)設けられた長尺部材である。詳しく言うと、第3の保持機構35は、レンズ基材Lを挟み込む各溝(例えば屈曲爪32Aの溝33A)を指す。
【0062】
少なくとも第1の保持機構15、付勢部材(コイルばね60)、レバー90及び螺合部材(ボルト42)を1セットの保持治具部品1Aとしたとき、回動の軸方向に並んだ複数(好適には3つ以上)のセットの保持治具部品1Aを備える。つまり、各セットにレンズ基材Lを配置したとき、各レンズ基材Lが屈曲爪の各溝へと嵌る。
【0063】
先に述べたように、本発明の一態様に係る保持治具1では第1の保持機構15の固定機構としてレバー90を採用している。そのため、保持治具1の+X方向から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済む。特に、上記セットが3つ以上備わるとき、真ん中のセットの操作は、隣接するセットのせいでZ方向からは行えない。その一方、本発明の一態様を採用すれば、保持治具1の+X方向から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済み、真ん中のセットの操作も可能となる。屈曲爪は、このように上記セットが複数備わることも考慮に入れて設けられている。
【0064】
なお、本発明の一態様では、この屈曲爪は、Y方向に並んで2列に設けられる。その理由は以下の通りである。
【0065】
本発明の一態様に係る保持治具1が保持するレンズ基材Lの形状は、平面視(Z方向視)円形であってもよいし、平面視楕円形であってもよいし、それ以外の特殊な形状であってもよい。
【0066】
上記の通り、複数(好適には3つ以上)のセットの保持治具部品1Aを備えた保持治具1を用いる場合、全て同形状且つ同サイズのレンズ基材Lでなければ適用不可能であるよりも、形状及び/又はサイズが種々のレンズ基材L,L´を各セットの保持治具部品1Aに配置したうえで保持治具1全体に対して浸漬処理を行える方が、作業効率が良い。
【0067】
その一方、形状及び/又はサイズが種々のレンズ基材Lを各セットの保持治具部品1Aに配置すると、配置されたレンズ基材Lの重心のX方向位置が、各レンズ基材Lによって異なる。
【0068】
例えば、平面視円形のレンズ基材Lの重心の直下に溝33Aが配置されるように屈曲爪(その1)32Aを設けても、長軸がY方向である平面視楕円形状のレンズ基材L´だと、該レンズ基材Lの重心は、該屈曲爪(その1)32Aの溝33Aよりも-X方向の位置に存在することになる。
【0069】
そうなると、楕円形状のレンズ基材L´を該屈曲爪32Aにより安定して保持できない。そこで、楕円形状のレンズ基材Lの重心の直下に溝が配置されるように別の屈曲爪(その2)32Bを設けるのが好ましい。
【0070】
但し、その際の屈曲爪(その1)の溝33Aの中心位置と、屈曲爪(その2)の溝(不図示)の中心位置とは、Z方向において等価(例えば誤差3mm或いは1mm)とするのが好ましい。この構成により、どのセットの保持治具部品1Aにどの形状及び/サイズのレンズ基材L,L´が配置されても、屈曲爪(その1)32Aか屈曲爪(その2)32Bかで保持できればよく、X方向における重心の位置が互いに異なるレンズ基材L,L´が混在しても一つの保持治具1にて保持可能となる。
【0071】
上記の内容をまとめると、第3の保持機構35は、回動方向を含む面内における水平方向に並べた複数の長尺部材であり、且つ、各長尺部材において回動の軸方向での溝の中心位置は同じであるのが好ましい。
【0072】
上記の通り、本明細書では、レンズ基材Lが円形である場合について主に説明しているが、本発明の適用範囲はこれに限られない。本発明の一態様に係る保持治具1ならば、異形のレンズ基材L´(楕円形或いは他の形状)も同様に且つ同時に保持治具1により保持できる。円形以外のレンズ基材Lを保持する場合には、長径方向(レンズの最大寸法となる方向)が鉛直になるように保持するとよい。コバ厚が比較的小さい、プラス処方のレンズは、保持される外周付近が変形や損傷を受けやすいため、本発明の効果が顕著に得られる。
【0073】
本発明の一態様に係る保持治具1にて保持する光学素子がレンズ基材Lである場合、マイナス度数のレンズ(マイナスレンズ)より、プラス度数のレンズ(プラスレンズ)において、特に、上段落に記載の構成を採用することの効果が大きい。
【0074】
プラスレンズにおいては、レンズ端部(コバ)の厚みが小さくなりやすく、熱による変形が生じやすい。また、プラスレンズにおいては、異形レンズ(所定の設計値を得るためにレンズ面を研磨することによって、円形のアンカットレンズの端部が欠損し、本願のハードコート膜形成時には、楕円など不定形となっているもの)が混在し、落下しやすい。
【0075】
その一方、本発明の一態様に係る保持治具1を用いれば、レンズの熱変形や落下が確実に防止でき、生産性、歩留りが共に高く維持できる。
【0076】
第3の保持機構35は屈曲爪に限定されない。第3の保持機構35は、基部に固定され、且つ、回動の軸方向に長尺な部材であって、保持予定であるレンズ基材Lを回動の軸方向に挟み込む溝が複数設けられた長尺部材であってもよい。そして、長尺部材は、+X方向から-X方向に見たときの形状が屈曲線及び曲線の少なくともいずれかである板状部材であってもよい。
【0077】
本明細書にて図示するのは、+X方向から-X方向に見たときにジグザグ形状の屈曲線である、Z方向に長尺の板状部材である。本発明の一態様に係る保持治具1では、ジグザグの谷の部分でレンズ基材Lを保持する。この構成だと、レンズ基材Lを塗布液から引き上げたとき、余剰の塗布液が滴下する起点を多く作れる。その結果、塗布液の滴下を促進でき、ひいてはレンズ基材Lから流れ落ちる余剰の塗布液の回収を促進できる。ハードコートの塗布液は、粘性が高く、且つ高価である。そのため、速やかに浸漬槽に戻すのが好ましい。本発明の一態様に係る第3の保持機構35ならば、この効果を実現でき、作業効率が更に向上する。
【0078】
本発明の一態様に係る保持治具1は、第1の保持機構15と基部との間にスペーサとしての軸部材44を更に備える。
【0079】
スペーサとしての軸部材44は、円筒状のプラスチックなどの樹脂部材からなる。軸部材44を構成する材料としては、第1のアーム10からの押圧を受けた際に、第1のアーム10との摩擦抵抗が大きくなる材料が好ましい。
【0080】
軸部材44には貫通する貫通孔44Aが形成されている。軸部材44の外径は、コイルばね60の内径よりもわずかに小さくなっている。つまり、軸部材44はコイルばね60の螺旋部62に収容可能な大きさである。
【0081】
まとめると、本発明の一態様に係るアーム固定機構では、第1のアーム10のネジ穴10C、軸部材44の貫通孔44A、コイルばね60の螺旋部62、基部50の一部である連結部材51を構成する嵌合用平板51Bの貫通孔52、一対のナット46A,46B、レバー90の貫通孔90Aの順序で、ボルト42の螺条部42Aを挿通させる。そして、螺条部42Aの先端に対して+Z方向から末端ナットが締め付けられる。
【0082】
このような構成により、螺条部42Aが右ネジである本発明の一態様においては、レバー90の回動前だと、第1のアーム10はボルト42の螺条部42Aを中心として、基部50に対して回動可能となる。そして、レバー90を回動させてナット46A,46Bも回動させることにより、第1のアーム10が、ボルト42に対して+Z方向にわずかに移動する。そして、第1のアーム10が軸部材44に押し付けられる。その結果、第1のアーム10と軸部材44の間の摩擦力が大きくなる。最終的に、第1のアーム10の回動が拘束され、基部50に対して第1のアーム10を固定できる。
【0083】
つまり、スペーサとしての軸部材44は、レバー90を回動させたときに第1の保持機構15(具体的には第1のアーム10)と直接接触して押し付け先部材としての役割を果たす。
【0084】
コイルばね60は、螺旋状に形成された螺旋部62と、螺旋部62の端部から延びる第1の端部64及び第2の端部66とを備える。コイルばね60は、軸部材44を螺旋部62の内側に挿通させることにより、軸部材44の周りに取り付けられている。第1の端部64の先端部は螺旋部62から離間する方向に折り曲げられており、第2の端部66の先端部は螺旋部62から離間する方向に折り曲げられている。
【0085】
コイルばね60の第1の端部64の先端部は、基部本体連結用平板51Aに引掛けられており、第2の端部66の先端は第1のアーム10の上縁に引掛けられている。コイルばね60には、第1の端部64と第2の端部66との間に予めひねりが加えられた状態で取り付けられている。これにより、コイルばね60は、第1の爪12が第2のアーム20に向かって回動するように第1のアーム10が付勢されている。
【0086】
保持治具1によりレンズ基材Lを保持するには、例えば以下の作業を行う。
【0087】
まず、第1のアーム10を側方に手で引っ張り、第2のアーム20から離間するように回動させる。そして、この状態で、第1の爪12、第2の爪22、及び第3の爪32A,32Bで包囲される空間にレンズ基材Lを配置する。そして、第1のアーム10から手を放し、第1のアーム10の引っ張りを解除する。
【0088】
これにより、第1の爪12のうち第1の爪12、第2の爪22のうち第2の爪22、及び第3の爪32A,32B(複数の屈曲爪のうち一つの屈曲爪における溝)がそれぞれレンズ基材Lの側部に当接し、レンズ基材Lが3点で保持される。
【0089】
次に、アーム固定機構のレバー90を回動させる。これにより、第1のアーム10の回動が固定され、第1の爪12、第2の爪22、及び第3の爪32A,32Bがレンズ基材Lの側部に当接した状態で、実質的にレンズ基材Lに付勢力が作用しない状態で、レンズ基材Lが保持される。
【0090】
この際、第1の爪12及び第2の爪22がレンズ基材Lを保持する位置は、レンズ基材Lの重心からの高さ方向の距離が、レンズ基材Lの直径(レンズ基材Lが楕円形の場合は長径)の0.3倍以下となることが好ましい。
また、第3の爪32A,32Bがレンズ基材Lを保持する位置は、レンズ基材Lの重心からの水平方向の距離が、水平方向にレンズ基材Lの直径又は長径Rの0.15倍以下となることが好ましい。
【0091】
レンズ基材Lの保持位置を上段落のようにすることにより、安定してレンズ基材Lが保持される。更に、後述の工程においてレンズ基材Lを塗布液から引き上げる際に、レンズ保持機構に残留した余剰の塗布液が重力によってレンズ基材Lの光学面を横切ることによる膜厚不均一を抑止することができる。
【0092】
なお、第1のアーム10に対するコイルばね60の付勢力についてであるが、レンズ基材Lの大きさ及び形状に応じて、レンズ基材Lを取り付けた際に、第1の爪12がレンズ基材Lを押圧する力が0.1~1N程度になるように調整しておくことが好ましい。押圧力が1N以下であれば、レンズ基材Lの取付けに大きな力を要せず好ましい。押圧力が0.1N以上であれば、取り付け作業の安定性が向上する。いずれも、作業性にプラスとなる。
【0093】
そして、レンズ基材Lを取り付けた後のレバーの回動操作によって、ばねによる付勢力が規制される。この規制により、レンズ基材Lに実質的に与える付勢力或いは押圧力を減少させ、実質的にゼロとする。「実質的にゼロ」とは、0.5N未満を指し、好ましくは0.1N未満を指す。付勢力或いは押圧力を測定する際の定量下限未満の値の場合、実質的にゼロとみなしてもよい。
【0094】
レバー90の回動の可動域には限定は無いが、操作者の指先一つで第1のアーム10を固定しやすくすべく、可動域を設定するのが好ましい。具体的には、指先を上から下に移動させるだけでレバー90を操作できるようにすべく、XY平面において+Y方向を回転角0度、+X方向を回転角90度としたとき、可動域は、少なくとも回転角0~160度としてもよい。そして、第1のアーム10の固定前のレバー90の初期位置θ1(図4)は30~90度の範囲内の位置としてもよい。
【0095】
その際、第1のアーム10の回動方向と同方向(下方向)にレバー90を回動させることにより第1の保持機構15を固定する一方、その逆方向(上方向)に(例えば回転角0度へと)レバー90を回動させてもよい。具体的には、以下の動作を行ってもよい。レバー90の初期位置である回転角60度(θ1)から回転角160度(θ2)へとレバー90を回動させて第1の保持機構15を固定する。その一方、第1のアーム10を水平に近くなるまで持ち上げた状態で、レバー90を回転角0度(上方、逆方向)へと回動させることにより、その状態で第1の保持機構15を固定できるように保持治具1を構成してもよい。
【0096】
<眼鏡レンズの製造方法等>
以下、上記の保持治具1を用いたレンズ基材Lの成膜方法、及び、眼鏡レンズの製造方法について説明する。
【0097】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法の概要は以下の通りである。
「本発明の一態様に係る保持治具1により光学素子(レンズ基材L)を保持しつつ光学素子に成膜する光学素子の製造方法であって、
光学素子を保持治具1内に配置し、第1の保持機構15を光学素子の側面に向けて回動するように付勢しつつ光学素子の周縁部を複数の保持機構により保持する光学素子保持工程と、
光学素子保持工程の後、レバー90を回動させることにより第1の保持機構15を固定する第1の保持機構固定工程と、
第1の保持機構固定工程の後、光学素子を保持治具1ごと塗布液中に浸漬する浸漬工程と、
塗布液から保持治具1ごと光学素子を引き上げる引き上げ工程と、
光学素子に塗布した塗布液を加熱硬化する硬化工程と、
を有する、光学素子の製造方法。」
【0098】
製造する眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材Lの両面の面形状により決定される。また、レンズ基材L表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材L及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0099】
レンズ基材Lとしては、プラスチックレンズ基材Lであることが好ましい。プラスチックレンズ基材Lに用いられる樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。
【0100】
また、レンズ基材Lの屈折率が、例えば、1.48~1.75程度のものに適用することができる。
【0101】
以下、レンズ基材Lに対するハードコート膜の成膜を例として、図5を用いて説明する。
【0102】
眼鏡用光学レンズの材料となるレンズ基材Lには、予め、使用者に対する処方に対応した形状とするため、半完成レンズに対して、切削、研磨、洗浄が行われている。本発明を適用するレンズ基材Lは、半完成レンズでもよい。又は、使用者に対する処方に基づき、眼球側、及び物体側の光学面が形成されたレンズ基材Lでも良い。
【0103】
まず、図5に示すように、レンズ基材Lを保持治具1に取り付ける(S20)。レンズ基材Lの保持治具1への取り付けは以下のようにして行う。
【0104】
まず、第1のアーム10を引っ張り、第1のアーム10を第2のアーム20から離間する方向に回動させて、第1の爪12と、第2の爪22及び第3の爪である屈曲爪32A,32Bとの間に空間を設ける(S21)。
【0105】
次に、このように第1のアーム10を、第2のアーム20及び第3の爪である屈曲爪32A,32Bから離間させた状態で、第1の爪12、第2の爪22、及び屈曲爪32A,32Bにより包囲されるように、レンズ基材Lを配置する(S22)。なお、第1のアーム10が、保持されるレンズ基材Lの端部に向けて付勢されている場合には、その付勢力に抗して、第1のアーム10を第2のアーム及び第3のアームから離間させるべく、上記のように第1のアーム10を引っ張る。
【0106】
次に、第1のアーム10への引っ張りを解除する。これにより、コイルばね60の付勢力により第1のアーム10が第2のアーム20及び2列の屈曲爪32A,32Bに近接する方向に回動し、第1の爪12がレンズ基材Lを押圧し、第1の爪12、第2の爪22及び第3の爪である屈曲爪32A又は32Bがレンズ基材Lの周縁部に当接する(S23)(光学素子保持工程)。
【0107】
レンズ基材Lの周縁部とは、レンズ基材Lの平面視の端部であって主に側面LSを指す。本発明の一態様に記載の各爪ならば、レンズ基材Lの側面LSと2つの主面との間の角の部分と当接する。但し、レンズ基材Lにおいて該角の部分が面取りされている場合は、2つの主面ともごく一部接触することがある。その一方、上記ごく一部の接触ならば、レンズ基材Lに外力を実質的に作用させず、レンズ基材Lの変形や損傷を防止できる。上記ごく一部の一例としては、レンズ基材Lの平面視の端部から内側に1mmの範囲内、より好ましくは0.5mmの範囲内を指す。
【0108】
そして、アーム固定機構のレバー90を下方に回動させる。これにより、ボルト42に対して第1のアーム10が+Z方向にわずかに移動し、それに伴い、第1のアーム10が、軸部材44に押し付けられ、第1のアーム10の回動が、押し付けに伴う摩擦により固定される(S24)(第1の保持機構固定工程)。これらS21~S24により、レンズ基材Lを保持治具1により保持することができる。この状態でレンズ基材Lは、その光学面が略鉛直に延びるように安定に保持され、その周縁部には、実質的にコイルばね60による付勢力が作用していない。即ち、保持された状態のレンズ基材Lの端部に、第1~第3の保持機構35が当接した位置において、第1の保持機構15が固定され、レンズ基材Lを押圧していた付勢力を実質的に解消する。
【0109】
次に、レンズ基材Lに対してハードコート膜を成膜する(S30)。レンズ基材Lに対するハードコート膜の成膜は以下のようにして行う。
【0110】
まず、保持治具1を下降させて、ハードコート膜を形成するシリコーン化合物を主成分とする塗布液にレンズ基材Lを保持治具1ごと浸漬する(S31)(浸漬工程)。
【0111】
次に、レンズ基材Lを保持治具1ごと上昇させて、塗布液からレンズ基材Lを引き上げる(S32)(引き上げ工程)。このようにレンズ基材Lを塗布液から引き上げることにより、余剰の塗布液が重力によりレンズ基材Lの光学面から除去される。
【0112】
次に、保持治具1に対して80~120℃で加熱処理を行う。保持治具1に対して加熱処理を行うことにより、レンズ基材Lの表面に塗布された塗布液が加熱硬化される(S33)(硬化工程)。この際、本発明の一態様の保持治具1によれば、レンズ基材Lに外力(レンズ保持のための付勢力)が実質的に作用していないため、レンズ基材Lの変形や損傷を防止できる。
【0113】
そして、レンズ基材Lの光学面に所定の厚さまでハードコート膜が形成されるまで、塗布液への浸漬(S31)、塗布液からの引き上げ(S32)、及び、加熱硬化(S33)を繰り返す。これらS31~S33を繰り返すことにより、ハードコート膜を成膜することができる。なお、所定の厚さのハードコート膜が形成されるために、S31~S33は、必要に応じて繰り返して行ってもよい。
【0114】
尚、レンズ基材Lに対してハードコート膜を成膜する(S30)にあたり、まずレンズ基材L表面にプライマー層を形成してから行ってもよい。プライマー層は、レンズ基材Lにおける耐衝撃性を確保するとともに、ハードコート膜とレンズ基材Lとの間の密着性を確保するためのものである。プライマー層は、レンズ基材Lを比較的高屈折率材料より構成する場合は、光学特性に影響を及ぼさない材料で構成されれば良い。このようなプライマー層の形成方法としては、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法等により塗布した後、加熱や光線照射等により硬化して形成することができる。
【0115】
以上の工程により、レンズ基材Lに対してハードコート膜を成膜できる。本発明の一態様に係る保持治具1の使用はここまでにしてもよい。ハードコート膜の成膜以降の工程には限定は無い。例えば、保持治具1から取り外した後のレンズ基材Lのハードコート膜の表面に反射防止膜を形成してもよい(S40)。反射防止膜は、例えば、真空蒸着法や、ディッピング法、スピンコーティング法などにより形成することができる
以上の工程により、眼鏡レンズを製造することができる。
【0116】
<本発明の一態様がもたらす効果>
本発明の一態様によれば、以下の効果が奏される。
【0117】
本発明の一態様に係る保持治具1では第1の保持機構15の固定機構としてレバー90を採用している。そのため、保持治具1の+X方向から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済む。しかもその操作も、操作者が手全体をレバー90に向けずとも、指先一つでレバー90を操作すれば済み、作業効率が向上する。
【0118】
その結果、蝶ボルトを採用する場合のように保持治具1同士の間のスペースを広く確保する必要が無くなり、まとめて成膜処理可能な保持治具1の数を減らす必要も無くなり、作業効率が向上する。
【0119】
本発明の一態様に係る保持治具1では第1の保持機構15の固定機構としてレバー90を採用している。そのため、保持治具1の+X方向から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済む。特に、上記セットが3つ以上備わるとき、真ん中のセットの操作は、隣接するセットのせいでZ方向からは行えない。その一方、本発明の一態様を採用すれば、保持治具1の+X方向から操作者が手を伸ばしてレバー90を操作すれば済み、真ん中のセットの操作も可能となる。
【0120】
複数(好適には3つ以上)のセットの保持治具部品1Aを備えた保持治具1を用いる場合、形状及び/又はサイズが種々のレンズ基材Lを各セットの保持治具部品1Aに配置したうえで保持治具1全体に対して浸漬処理を行える方が、作業効率が良い。そこで、楕円形状のレンズ基材Lの重心の直下に溝が配置されるように別の屈曲爪(その2)を設けるのが好ましい。
【0121】
その際の屈曲爪(その1)の溝33Aの中心位置と、屈曲爪(その2)の溝(不図示)の中心位置とは、Z方向において同じとするのが好ましい。この構成により、どのセットの保持治具部品1Aにどの形状及び/サイズのレンズ基材Lが配置されても、屈曲爪(その1)か屈曲爪(その2)かで保持できればよく、フォローできるレンズ基材Lの種類を増やせる。
【0122】
それに加え、本発明の一態様によれば、基部に回動可能に設けられた第1のアーム10に第1の爪12が取り付けられているため、第1のアーム10を回動させることにより、サイズや形状が異なるレンズ基材Lであっても、保持することができる。また、レンズ基材Lを第1~第3の保持機構35によって定位置に配置した後は、アーム固定機構を構成するボルト42をナット46A,46Bに締め付けることにより、第1のアーム10の回動が固定され、レンズ基材Lには、外力が加わらない状態で安定に保持される。従って、レンズ基材Lに対して塗膜材料の加熱硬化などの熱処理を行う際にも、レンズ基材Lが外力によって変形、損傷するのを防止できる。
【0123】
また、本発明の一態様によれば、アーム固定機構は、ボルト42をナット46A,46B締め付け、ボルト42とナット46A,46Bにより軸部材44を介して第1のアーム10を配置することにより、第1のアーム10をそれに隣接するいずれかの部材に押し付けることで固定している。これにより、レンズ基材Lの成膜処理を行う操作者は、容易に時間をかけることなく、第1のアーム10の固定及び固定の解除を行うことができる。
【0124】
また、本発明の一態様では、第2の爪22は、第2のアーム20に取り付けられている。これにより、第2の爪22を柔軟に保持し、レンズ基材Lに作用する力を低減することができる。
【0125】
<その他>
本発明の技術的範囲は本発明の一態様に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0126】
本発明の一態様では、レンズ基材Lの表面にハードコート膜を形成する場合について説明したが、これに限らず、青色領域(380~500nmの波長域)の光線をカットすることにより、眩しさを低減し、視認性及びコントラストを向上する青色光カット膜や、例えば、酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、又は酸化タンタル等を含む反射防止膜や、フッ素原子を有する有機ケイ素化合物を用い、撥水性を向上する撥水膜などを形成してもよい。また、本発明の一態様の保持治具1によれば、レンズ基材Lに対してアニール処理を行う際にも、レンズ基材Lの変形、損傷を防止できる。
【0127】
本発明の一態様では、第1の爪12、第2の爪22、及び第3の爪である屈曲爪32A又は32Bによりレンズ基材Lを保持する構成としたが、4つ以上の爪によりレンズ基材Lを保持してもよい。更に、本発明の一態様では、第2の爪22及び第3の爪である屈曲爪32A又は32Bが固定された状態となっているが、これらについても移動可能にしてもよい。
【0128】
逆に、2つの爪(2つの保持機構)によりレンズ基材Lを保持してもよい。例えば、第1の保持機構15は上記の通りとしつつ、第2の保持機構25(第2の爪22)と第3の保持機構35(第3の爪である屈曲爪32A,32B)とを一体化してもよい。例えば、第3の保持機構35である屈曲爪から鍵括弧“」”の形状に金属棒を延伸させて基部本体53と連結させ、この鍵括弧部分に第2の爪22を設けても構わない。ただ、光学素子の3点保持は保持の安定をもたらすため、光学素子と当接する部分(例えば爪)は、本発明の一態様に示すように、少なくとも3箇所設けるのが好ましい。
【0129】
本発明の一態様ではボルト42がコイルばね60の螺旋部62を貫いた場合を例示したが、付勢部材としてコイルばね60以外のものを採用する場合、ボルト42が付勢部材を貫く必要が無い。
【0130】
レバー90の貫通孔90Aがボルト42の螺条部42Aと螺合してもよい。その場合でも、本発明の一態様では、レバー90を下方に回動させるとレバー90自体がボルト42に対して+Z方向にわずかに移動する。その結果、第1の保持機構15は、軸部材44に押し付けられて、第1の保持機構15が固定される。
【0131】
本発明の一態様では、1つのセットの保持治具部品1Aに1つのレバー90が備わる場合を例示したが、本発明はこの態様に限定されない。例えば、共通するレバー90を、保持治具1においてただ一つ設けても構わない。この構成により、各保持治具部品1Aのレバー90をいちいち操作せずとも、一つのレバー90のみの操作により、各保持治具部品1Aの第1の保持機構15を一斉に固定できる。また、1つのセットの保持治具部品1Aに1つのレバー90を備える一方で、各レバー90を同時に操作できる機構を保持治具1に設けても構わない。
【0132】
本発明の一態様では、据え置き型の保持治具1を採用している。その一方、特許文献1に記載のように、吊下を可能とする保持治具1であっても本発明は適用可能である。
【0133】
本発明の一態様に係る保持治具1は、保持治具部品1Aのセットを複数配置するものに限定されない。確かに、保持治具部品1Aのセットが複数備わることで生じる、隣接する保持治具部品1A同士のスペースの狭さに伴う、作業効率の悪化を防止するという効果が、本発明の一態様に係る保持治具1にはある。その一方、保持治具部品1Aが1つのみの保持治具1においても、指先一つで第1のアーム10の回動を固定できる点を鑑みると、成膜処理の作業効率が向上することに変わりはない。
【符号の説明】
【0134】
1 :保持治具
1A :保持治具部品(セット)
10 :第1のアーム
10A :基端部
10A1:ねじり部
10B :先端部
10C :ネジ穴
12 :第1の爪
12A :基端部
12B :先端部
15 :第1の保持機構
20 :第2のアーム
20A :基端部
20B :先端部
22 :第2の爪
22A :基端部
22B :先端部
23 :ボルト
25 :第2の保持機構
32A :屈曲爪(その1)
32B :屈曲爪(その2)
33A :屈曲爪(その1)の溝
35 :第3の保持機構
42 :ボルト
42A :螺条部
42B :頭
44 :軸部材
44A :貫通孔
46A :二重ナット(その1)
46B :二重ナット(その2)
46C :末端ナット
50 :基部
51 :連結部材
51A :基部本体連結用平板
51A1:螺合穴
51A2:螺合穴
51B :嵌合用平板
52 :貫通孔
53 :基部本体
54 :角型棒
55 :ボルト
60 :コイルばね
62 :螺旋部
64 :第1の端部
66 :第2の端部
90 :レバー
90A :貫通孔
XY1 :第1のアームの回動方向を含む面(XY平面)
XY2 :第1のアームの回動方向を含む面に対する平行面(XY平面)
図1
図2
図3
図4
図5