(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007214
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/00 20060101AFI20240111BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20240111BHJP
B21B 1/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C21D8/00 A
C21D9/32 A
B21B1/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108534
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 美佳
(72)【発明者】
【氏名】豊田 宏章
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4E002AC12
4E002BC07
4E002BD07
4E002CB08
4K032BA00
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD01
4K032CD05
4K042AA18
4K042BA13
4K042CA15
4K042DA06
4K042DB01
4K042DC02
4K042DC05
4K042DD05
4K042DD06
4K042DE03
4K042DE04
4K042DE05
(57)【要約】
【課題】熱間加工後のワークの冷却時間を短縮する。
【解決手段】ワークWの加工方法は、オーステナイト組成の金属材を第1の温度領域で鍛造または圧延加工し、オーステナイトの結晶粒が小さくなるように再結晶化させて荒地形成する第1工程と、第1工程で再結晶化したオーステナイト組成の金属材を、第1の温度領域よりも低い第2の温度領域で鍛造または圧延加工し、オーステナイトの結晶を更に小さくなるように再結晶化させて成形する第2工程と、第2工程で成形されたオーステナイト組成の金属材を、炉内で、第2の温度領域よりも低い第3の温度領域で、組成がフェライトとパーライトとの混合状態になる冷却速度で冷却する第3工程と、第3工程で冷却されたオーステナイト組成の金属材を炉外に出し、外気で冷却する第4工程と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工方法であって、
オーステナイト組成の金属材を第1の温度領域で鍛造または圧延加工し、前記金属材のオーステナイトの結晶粒が小さくなるように再結晶化させて荒地形成する第1工程と、
前記第1工程で再結晶化した前記金属材を、前記第1の温度領域よりも低い第2の温度領域で鍛造または圧延加工し、前記金属材のオーステナイトの結晶粒を更に小さくなるように再結晶化させて成形する第2工程と、
前記第2工程で成形された前記金属材を、炉内で、前記第2の温度領域よりも低い第3の温度領域で、組成がフェライトとパーライトとの混合状態になる冷却速度で冷却する第3工程と、
前記第3工程で冷却された前記金属材を炉外に出し、外気で冷却する第4工程と、を有するワークの加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたワークの加工方法であって、
前記金属材は、機械用構造用鋼であるワークの加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたワークの加工方法であって、
前記第1の温度領域は、1100℃から1300℃の範囲であり、
前記第2の温度領域は、1000℃から1200℃の範囲であり、
前記第3の温度領域は、550℃から750℃の範囲であるワークの加工方法。
【請求項4】
請求項3に記載されたワークの加工方法であって、
前記機械用構造用鋼は、SCR420Hであって、
前記炉内での冷却速度は、約25℃/minであるワークの加工方法。
【請求項5】
請求項3に記載されたワークの加工方法であって、
前記機械用構造用鋼は、SCM420Hであって、
前記炉内での冷却速度は、約13℃/minであるワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、変態点以上の温度に加熱された高焼入性鋼鋼材(ばね材など)を冷却する冷却方法が開示されている。具体的には、特許文献1に記載された発明では、熱間圧延を終えた800℃の鋼材(1C-0.25Si-1.2Mn-0.35Cr-0.12Mo-0.45W)を冷却装置の冷却室に搬入し、冷却室に設けられた通気孔の開口度を調整して750~500℃の間を6.0℃/分の冷却速度で冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された冷却方法では、750~500℃の間を6.0℃/分の冷却速度で冷却しているため、少なくとも40分以上の冷却時間が必要になる。このため、加工時間短縮のため、冷却時間の短縮が求められていた。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、熱間加工後のワークの冷却時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、ワークの加工方法であって、オーステナイト組成の金属材を第1の温度領域で鍛造または圧延加工し、オーステナイトの結晶粒が小さくなるように再結晶化させて荒地形成する第1工程と、第1工程で再結晶化したオーステナイト組成の金属材を、第1の温度領域よりも低い第2の温度領域で鍛造または圧延加工し、オーステナイトの結晶を更に小さくなるように再結晶化させて成形する第2工程と、第2工程で成形されたオーステナイト組成の金属材を、炉内で、第2の温度領域よりも低い第3の温度領域で、組成がフェライトとパーライトとの混合状態になる冷却速度で冷却する第3工程と、第3工程で冷却されたオーステナイト組成の金属材を炉外に出し、外気で冷却する第4工程と、を有するワークの加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、熱間加工後のワークの冷却時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るワークの加工方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るワークの形状の変化を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るワークの加工方法における温度変化を説明するためのである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態におけるワークWは、例えば、車両に搭載される動力伝達機構を構成する歯車である。ワークWは、例えば、機械構造用合金鋼などの金属材、具体的には、クロム鋼鋼材(SCR)やクロムモリブデン鋼鋼材(SCM)などによって形成される。より具体的には、ワークWは、SCR420H、SCM420Hといった材料によって形成される。
【0011】
まず、
図1及び
図2を参照して、ワークWの加工方法について説明する。
図1は、本実施形態に係るワークWの加工方法の流れを示すフローチャートである。
図2は、本実施形態に係るワークWの形状の変化を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のワークWは、加熱工程(ステップS1)、熱間鍛造工程(ステップS2)、熱間圧延工程(ステップS3)、トリム工程(ステップS4)、制御冷却工程(ステップS5)、及び自然冷却工程(ステップS6)の順に加工される。なお、本実施形態では、ワークWは、以下で説明する、素材、予備成形品、及び成形品(
図2参照)の全ての形態を意味する。また、以下で述べる温度は、ワークWの温度である。本実施形態のワークWの温度は、肉厚がさほどないため、表面温度であってもよい。
【0013】
まず、ステップS1(加熱工程)において、所定の大きさに切断された機械構造用合金鋼からなる金属材S(素材)を加熱する。金属材S(素材)は、例えば、誘導加熱によって、第1の温度領域(1100℃~1300℃)まで加熱される。金属材Sの温度が、第1の温度領域(1100℃~1300℃)に達すると、ステップS2(熱間鍛造工程)に進む。
【0014】
ステップS2(熱間鍛造工程)では、複数回の工程に分けて(例えば、2~3回)鍛造を行い、荒地形成する(予備成形品(
図2参照)を加工する)。このとき、金属材Sが、第1の温度領域(1100℃~1300℃)まで加熱されているので、金属材Sのオーステナイトの結晶粒は、結晶粒の大きさが小さくなるように再結晶化される。なお、この熱間鍛造工程は、特許請求の範囲における「第1工程」に相当する。
【0015】
ステップS3(熱間圧延工程)では、ステップS2(熱間鍛造工程)で加工された金属材S(予備成形品)に対して、圧延加工を施す。ステップS3(熱間圧延工程)では、金属材Sの温度が、ステップS2(熱間鍛造工程)での温度よりも、低い値、具体的には、第1の温度領域(1100℃~1300℃)よりも低い第2の温度領域(1000℃~1200℃)内にある時に、圧延加工を行う。本実施形態のステップS3(熱間圧延工程)では、例えば、ローリングミルを使用して、金属材S(予備成形品)を拡径する(
図2の「成形品」参照)。なお、この熱間圧延工程は、特許請求の範囲における「第2工程」に相当する。
【0016】
また、このとき、金属材Sのオーステナイトの結晶粒は、結晶粒の大きさが、ステップS3(熱間圧延工程)での加工前に対し、さらに小さくなるように再結晶化される。なお、このような、第1の温度領域(1100℃~1300℃)より低い第2の温度領域(1000℃~1200℃)で、圧延加工を行うことにより、金属材S(成形品)に、ベイナイトが発生することを防止できる。
【0017】
ステップS4(トリム工程)では、ステップS3(熱間圧延工程)で加工された金属材Sのバリなどを削除する。バリなどが削除された金属材S(成形品)は、炉(図示せず)に送られる。
【0018】
ステップS5(制御冷却工程)では、所定の温度領域において、金属材S(成形品)の組成がフェライトとパーライトとの混合状態になる冷却速度で冷却する。具体的には、ステップS5(制御冷却工程)では、第2の温度領域(1000℃~1200℃)よりも低い第3の温度領域(550℃~750℃)において、金属材S(成形品)を所定の冷却速度で冷却する。冷却速度は、金属材Sの材質によって異なり、例えば、金属材SがSCR420Hで構成される場合には、約25℃/min程度、金属材SがSCM420Hで構成される場合には、約13℃/min程度に設定される。
【0019】
ステップS5(制御冷却工程)では、金属材S(成形品)は、炉内において冷却される。金属材S(成形品)の入炉温度、つまり、制御冷却工程が開始される時点での金属材S(成形品)の温度は、650℃~750℃程度である。また、金属材S(成形品)の出炉温度、つまり、制御冷却工程が終了する時点での金属材S(成形品)の温度は、550℃~650℃程度である。金属材S(成形品)は、制御冷却工程を経ることにより、フェライトとパーライトとの混合状態になる。
【0020】
ステップS6(自然冷却工程)では、炉外に出された金属材S(成形品)を自然冷却する。なお、このとき、ファンなどを用いて強制的に冷却してもよい。
【0021】
次に、本実施形態の加工方法におけるワークWの温度変化を、
図3に示す一例を参照しながら具体的に説明する。なお、
図3に示す各工程は、
図2に示す各工程に対応している。
【0022】
まず、所定の大きさ金属材S(素材)を加熱する。そして、金属材S(素材)の温度が約1250℃に達すると(時刻t1)、熱間鍛造加工を開始する。
【0023】
熱間鍛造加工が終了すると(時刻t2)、金属材S(予備成形品)の温度は、約1100℃程度まで低下している。この温度のまま、熱間圧延加工を開始する。なお、熱間鍛造工程では、金属材Sのオーステナイトの結晶粒は、結晶粒の大きさが小さくなるように再結晶化される。
【0024】
熱間圧延加工が終了すると(時刻t3)、トリム工程を開始する。なお、熱間圧延工程では、金属材S(成形品)のオーステナイトの結晶粒は、結晶粒の大きさが、熱間圧延加工前に比べて、さらに小さくなるように再結晶化される。
【0025】
トリム工程が終了し(時刻t4)、金属材S(成形品)の温度が700℃程度になると、金属材S(成形品)を炉内に入れ、制御冷却工程を開始する。
【0026】
上述のように、制御冷却工程では、所定の冷却速度で所定の温度(
図3では600℃)程度まで冷却する。金属材S(成形品)の温度が、所定の温度(
図3では600℃)まで低下すると、制御冷却工程を終了する(時刻t5)。
【0027】
制御冷却工程が終了すると(時刻t5)、金属材S(ワークW)を炉内から取り出し、外気で自然冷却する。
【0028】
このように、本実施形態のワークWの加工方法によれば、第1の温度領域(1100℃~1300℃)で熱間鍛造工程を行い、第1の温度領域(1100℃~1300℃)よりも低い第2の温度領域(1000℃~1200℃)で熱間圧延工程を行っている。これにより、金属材Sにおけるオーステナイトの結晶粒を小さくなるように再結晶化させることができる。そして、オーステナイトの結晶粒が小さくなっているので、制御冷却工程において、金属材Sを所定の冷却速度で冷却することで、短時間(最長で15分程度)でフェライトとパーライトとの混合状態にすることができる。つまり、本実施形態の加工方法によれば、熱間加工後のワークWの冷却時間を短縮することができる。
【0029】
また、本実施形態のワークWの加工方法によれば、ワークWの冷却時間が短くなるので、ワークWの冷却するための炉の滞在時間が短くなる。これにより、入炉させるワークWの数量を少なくできるので、炉を小型化することができるとともに、省エネ化が可能となる。
【0030】
さらに、本実施形態のワークWの加工方法によれば、ワークWの冷却時間が短くなることにより、入炉中に発生するワークWの表面に生じる酸化スケールの量が減少する。これにより、ワークWの酸化スケールを除去するためのショットブラスト工程が短縮できる。あるいは、ショットブラスト工程自体を廃止することができる。この結果、ワークWの加工にかかる作業時間を短縮することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、ステップS2で行われる加工として、熱間鍛造加工(熱間鍛造工程)を例に説明したが、これに換えて、ステップS2で行われる加工として、熱間圧延加工を行ってもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、ステップS3で行われる加工として、熱間圧延加工(熱間圧延工程)を例に説明したが、これに換えて、熱間鍛造加工を行ってもよい。
【0033】
上記実施形態における加工方法において、各工程に係る温度は、必ずしもワークW自体の温度を測定して行う必要はない。例えば、実験などにより、各温度に到達する時間をあらかじめ測定しておき、測定した時間に基づいて、各工程を行うようにしてもよい。
【0034】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0035】
(1)ワークWの加工方法は、オーステナイト組成の金属材Sを第1の温度領域で鍛造または圧延加工し、金属材Sのオーステナイトの結晶粒が小さくなるように再結晶化させて荒地形成する第1工程(熱間鍛造工程)と、第1工程(熱間鍛造工程)で再結晶化した金属材Sを、第1の温度領域よりも低い第2の温度領域で鍛造または圧延加工し、金属材Sのオーステナイトの結晶粒を更に小さくなるように再結晶化させて成形する第2工程(熱間圧延工程)と、第2工程(熱間圧延工程)で成形された金属材Sを、炉内で、第2の温度領域よりも低い第3の温度領域で、組成がフェライトとパーライトとの混合状態になる冷却速度で冷却する第3工程(制御冷却工程)と、第3工程(制御冷却工程)で冷却された金属材Sを炉外に出し、外気で冷却する第4工程(自然冷却工程)と、を有する。
【0036】
この構成では、第1の温度領域で第1工程(熱間鍛造工程)を行うとともに、第2の温度領域で第2工程(熱間圧延工程)を行うことにより、金属材Sにおけるオーステナイトの結晶粒が小さくなるように再結晶化される。これにより、第3工程(制御冷却工程)において、金属材Sを所定の冷却速度で冷却することで、短時間でフェライトとパーライトとの混合状態にすることができる。つまり、本実施形態の加工方法によれば、熱間加工後のワークWの冷却時間を短縮することができる。
【0037】
(2)ワークWの加工方法では、オーステナイト組成の金属材Sは、機械用構造用鋼である。
【0038】
金属材Sが、機械用構造用鋼である場合にも、上記加工方法を適用できる。
【0039】
(3)ワークWの加工方法では、第1の温度領域は、1100℃から1300℃の範囲であり、第2の温度領域は、1000℃から1200℃の範囲であり、第3の温度領域は、550℃から750℃の範囲である。
【0040】
このような温度範囲とすることにより、オーステナイトの結晶粒の大きさが、小さくなるように再結晶化されるとともに、ベイナイトの出現を防止できる。
【0041】
(4)ワークWの加工方法では、機械用構造用鋼は、SCR420Hであって、炉内での冷却速度は、約25℃/minである。
【0042】
ワークWが、SCR420Hで構成する場合には、冷却速度を約25℃/minとすることで、冷却時間を短縮することができる。
【0043】
(5)ワークWの加工方法では、機械用構造用鋼は、SCM420Hであって、炉内での冷却速度は、約13℃/minである。
【0044】
ワークWが、SCM420Hで構成する場合には、冷却速度を約13℃/minとすることで、冷却時間を短縮することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0046】
上記実施形態では、ワークWが車両に搭載される減速機の動力伝達を構成する歯車である場合を例に説明したが、これに限らず、上記実施形態の加工方法は、どのような用途の部品にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
W・・・ワーク
S・・・金属材