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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072143
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】水蒸気改質触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20240520BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20240520BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
B01J23/63 M
C01B3/40
B01J23/89 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182832
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】加納 伸行
(72)【発明者】
【氏名】青木 美早紀
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EC02
4G140EC03
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CB81
4G169CC17
4G169DA06
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】硫黄化合物による被毒や酸化によって触媒性能が劣化しにくく、かつ、触媒性能を維持しながらも触媒成分中のルテニウム等の貴金属触媒の使用量も低減できる水蒸気改質触媒を提供する。
【解決手段】炭化水素類を含む燃料ガスを、水素を含む合成ガスに改質するための改質触媒であって、触媒成分と前記触媒成分が担持された無機酸化物担体とを備え、前記触媒成分が、ルテニウムと、セリウムおよび/またはコバルトとを含み、前記触媒成分中に、ルテニウムが0.1質量%以上1.5質量%以下含まれ、セリウムおよび/またはコバルトが酸化物換算において0.1質量%以上2.0質量%以下含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素類を含む燃料ガスを、水素を含む合成ガスに改質するための水蒸気改質触媒であって、
触媒成分と前記触媒成分が担持された無機酸化物担体とを備え、
前記触媒成分が、ルテニウムと、セリウムおよび/またはコバルトとを含み、
前記触媒成分中に、ルテニウムが0.1質量%以上1.5質量%以下含まれ、セリウムおよび/またはコバルトが酸化物換算において0.1質量%以上2.0質量%以下含まれる、水蒸気改質触媒。
【請求項2】
ルテニウムに対するセリウムおよび/またはコバルトのモル比が0.2~2.0である、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項3】
ルテニウムに対するセリウムおよび/またはコバルトのモル比が0.2~1.0である、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項4】
無機酸化物担体がアルミナである、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項5】
前記燃料ガスが硫黄化合物を含む、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項6】
前記燃料ガスが、都市ガスまたはLPガスである、請求項1に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水蒸気改質触媒を用いて、炭化水素類を含む燃料ガスを、水蒸気の存在下で、水素を含む合成ガスに改質する、合成ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気改質触媒に関し、より詳細には、炭化水素類を含む燃料ガスに水蒸気を添加し、水蒸気の存在下で燃料ガスから水素ガスを生成する改質反応を行う水蒸気改質触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の少ない水素を利用するエネルギ技術の一つとして、水素と酸素を反応させて電気エネルギを発生する燃料電池が注目されている。燃料電池の水素源として、天然ガスや石油系炭化水素等の種々の炭化水素系の原料が利用可能であり、特に、供給インフラの整備された都市ガス、LPガス、ナフサ、ガソリン、灯油等の炭化水素類が好適に利用可能である。現在、実用化されている主たる技術として、得られる合成ガス中の水素/一酸化炭素比が高い水蒸気改質法が注目されている。水蒸気改質法は、上記した炭化水素類を含む燃料ガスを、水蒸気改質触媒の存在下において、水蒸気との改質反応により一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成し、合成ガス中の一酸化炭素を変成反応処理や選択酸化処理等により除去することで水素ガスを製造する方法である。
【0003】
上記した水蒸気改質法に使用される触媒として貴金属触媒やニッケル系触媒が知られているが、ニッケル系触媒は炭素析出を起こしやすく、活性が短時間で低下するという欠点を有していることから、種々の貴金属触媒が検討されている。例えば、特許文献1には、触媒成分としてルテニウムをアルミナ等に担持させた触媒を用いることが開示されている。また、特許文献2には、触媒成分としてルテニウムとロジウムとを担体に担持した触媒を用いることが開示されている。
【0004】
ところで、都市ガスやLPガスには、一般にメタンチオールや硫化カルボニル、ジメチルジスルフィド等に加えて、付臭剤として、メルカプタン類、ジメチルスルフィド、2-メチル-2-プロパンチオール、メチルエチルスルフィド等の硫黄化合物が添加されている。上記した貴金属触媒においても、硫黄化合物によって被毒されて触媒性能が低下する。そのため、例えば特許文献3にも記載のように、白金およびイリジウムを主成分とする触媒金属成分と、ルテニウム、ロジウム、パラジウムから選ばれる少なくとも一種の貴金属成分とを担体に担持した耐硫黄水蒸気改質触媒を用いたり、硫黄化合物を含有する燃料ガスから硫黄化合物を除去する水添脱硫剤とを順に通過させて、燃料ガス中の硫黄成分を貴金属触媒接触前に除去することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-45049号公報
【特許文献2】特開2015-74586号公報
【特許文献3】特開2017-159290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫黄化合物が含まれる燃料ガスを使用して水蒸気改質を行う場合、上記のように脱硫層を介しても硫黄化合物を完全に除去することは困難であり、数ppb程度の硫黄化合物が残存するため、数年から数十年の長期間にわたって水蒸気改質装置の運転を行うと、硫黄被毒による触媒性能の劣化が避けられない。また、水蒸気改質装置のシャットダウン時など、触媒が高温の状態で外部から空気が系内に逆流する場合があり、酸素により触媒成分であるルテニウムが酸化されて、触媒活性が低下することも懸念される。さらに、ルテニウム、白金、イリジウムといった貴金属触媒は高価なレアメタルであり、希少な資源であることから、その使用量を減らしつつ同等の触媒活性をもたせることが要望されている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、硫黄化合物による被毒や酸化によって触媒性能が劣化しにくく、かつ、触媒性能を維持しながらも触媒成分中のルテニウム等の貴金属触媒の使用量も低減でき、低温での反応性にも優れる水蒸気改質触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した特許文献2、3等にも記載されているように、セリウムやコバルトは硫黄吸着剤として作用する材料であるところ、本発明者らは、触媒成分としてルテニウムとセリウムまたはコバルトとを所定の割合で併用することで、硫黄化合物による被毒や酸化によるルテニウムの触媒劣化を抑制できるとともに、触媒成分中のルテニウムの含有量を低減できる、との知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1] 炭化水素類を含む燃料ガスを、水素を含む合成ガスに改質するための水蒸気改質触媒であって、
触媒成分と前記触媒成分が担持された無機酸化物担体とを備え、
前記触媒成分が、ルテニウムと、セリウムおよび/またはコバルトとを含み、
前記触媒成分中に、ルテニウムが0.1質量%以上1.5質量%以下含まれ、セリウムおよび/またはコバルトが酸化物換算において0.1質量%以上2.0質量%以下含まれる、水蒸気改質触媒。
[2] ルテニウムに対するセリウムおよび/またはコバルトのモル比が0.2~2.0である、[1]に記載の水蒸気改質触媒。
[3] ルテニウムに対するセリウムおよび/またはコバルトのモル比が0.2~1.0である、[1]に記載の水蒸気改質触媒。
[4] 無機酸化物担体がアルミナである、[1]に記載の水蒸気改質触媒。
[5] 前記燃料ガスが硫黄化合物を含む、[1]に記載の水蒸気改質触媒。
[6] 前記燃料ガスが、都市ガスまたはLPガスである、[1]に記載の水蒸気改質触媒。
[7] [1]~[6]のいずれか一項に記載の水蒸気改質触媒を用いて、炭化水素類を含む燃料ガスを、水蒸気の存在下で、水素を含む合成ガスに改質する、合成ガスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒成分としてルテニウムとセリウムまたはコバルトとを所定の割合で併用した水蒸気改質触媒とすることで、硫黄化合物による被毒や酸化によるルテニウムの触媒劣化を抑制できるとともに、触媒成分中のルテニウムの含有量を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値または物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」および下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0012】
本発明による水蒸気改質触媒は、触媒成分と前記触媒成分が担持された無機酸化物担体とを備えている。以下、各構成要素について詳述する。
【0013】
[触媒成分]
本発明による水蒸気改質触媒は、触媒成分として、ルテニウムと、セリウムおよび/またはコバルトとを含む。上記したように、都市ガスやLPガスといった硫黄化合物を含む燃料ガスを水蒸気改質する際に、セリウムやコバルトは硫黄吸着剤として作用する材料であることが知られている。しかし、本発明者らは、予想外にも、触媒成分であるルテニウムに、セリウムまたはコバルトを併用することで、従来のルテニウム触媒よりも改質反応後の残留炭素や残留硫黄量が減少することを見出した。これは、結果として触媒に付着する被毒成分量が低減されたため、硫黄化合物による被毒や酸化によるルテニウムの触媒劣化を抑制できたと考えられる。本発明によれば、白金やイリジウムといった高価な希少金属を使用せずとも、比較的安価なセリウムやコバルトを併用することによって、耐硫黄被毒性や耐酸化性に優れた水蒸気改質触媒を得ることができる。この理由は定かではないが以下のように推察できる。
【0014】
すなわち、無機酸化物担体上で、ルテニウムとセリウムおよび/またはコバルトとが併存していることで、硫黄成分の吸着量が減少する。すなわち、改質反応に寄与しない触媒活性点をセリウムやコバルトが事前に封鎖することで、触媒活性種であるルテニウムに硫黄が吸着することを抑制できたものと考えられる。また、セリウムおよび/またはコバルトが助触媒として作用することで、触媒性能が向上ないし維持されたものと考えられる。さらに、ルテニウムと併存するセリウムは、改質反応時にCeO2-x(x=0~2)の形態で存在しているものと予想され、水蒸気改質装置内に空気が逆流した際にも、酸素をトラップし、ルテニウムの酸化劣化を抑制できたものと推測される。
【0015】
触媒成分中のルテニウムの量は、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以上1.0質量%以下である。触媒成分中のルテニウムの量が0.1質量%未満であると、触媒性能が発揮されず、水蒸気改質の効率が悪化する。一方、触媒成分中のルテニウムの量が1.5質量%を超えると、無機酸化物担体表面でルテニウム粒子が凝集する傾向にあり触媒量あたりの触媒性能が低下するとともに、ルテニウムの含有割合が多くなり経済的にも不利である。
【0016】
また、触媒成分中のセリウムおよび/またはコバルトの量は、酸化物換算において0.1質量%以上2.0質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下である。触媒成分中のセリウムおよび/またはコバルトの量が0.1質量%を以下では、耐硫黄被毒性能を十分に発揮することができず、一方、触媒成分中のセリウムおよび/またはコバルトの量が2.0質量%を超えると、相対的にルテニウムの配合割合が少なくなるため触媒性能が低下するとともに、上記と同様に無機酸化物担体表面において凝集が生じる傾向にある。
【0017】
ルテニウムに対するセリウムおよび/またはコバルトのモル比は、0.2~2.0の範囲であることが好ましく、0.2~1.0であることがより好ましい。ルテニウムとセリウムおよび/またはコバルトとを、上記した割合で併存させることにより、より一層、耐硫黄被毒性が改善されるとともに、耐酸化性も向上し、結果として触媒性能を長期にわたって維持することができる。
【0018】
触媒成分であるルテニウムと、セリウムやコバルトとは、それぞれの成分が個別に金属結晶を形成していてもよく、ルテニウム-コバルト合金やルテニウム-セリウム合金として無機酸化物担体上に担持されていてもよい。また、耐硫黄非毒性と耐酸化性の観点から、両者は個別に金属結晶を形成していることが好ましい。
【0019】
触媒成分には、ルテニウム、セリウムおよび/またはコバルト以外の成分が含まれていてもよく、改質反応における触媒活性や被毒耐性の観点から、ロジウムや白金等の貴金属元素や、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅といった遷移金属元素が含まれていてもよい。これらのその他の成分は、元素単独で使用されてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの他の成分も、後述するように、ルテニウム、セリウムおよび/またはコバルトと同様に無機酸化物担体に担持されていてもよい。
【0020】
また、本発明の水蒸気改質触媒は、助触媒成分として、ネオジム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等の希土類元素や、バリウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属等を含んでいてもよい。これらは元素単独で使用されてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、助触媒を含む場合も、上記の同様に、無機酸化物担体に担持されていてもよい。
【0021】
触媒活性種(触媒成分および助触媒成分)の担持量は特に制限されず、目的とする設計条件やコスト要求等に応じて適宜必要量担持させればよいが、金属換算で担体100質量部に対して0.05質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。触媒活性種の担持量が少ないと炭化水素類からなる燃料の水蒸気改質反応において十分な触媒活性が得られない傾向にある。一方、担持量が多すぎると、金属元素が粗大粒子化し、触媒活性種の単位量あたりの触媒活性が向上しない傾向にある。触媒性能とコストとの両立を考慮すると、触媒活性種の担持量は、担体100質量部に対して0.4質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。
【0022】
担体に担持される触媒活性種(触媒成分および助触媒成分)は粒子状の形態で担持されていることが好ましい。この場合の触媒活性種の粒子径は、触媒活性の観点からは、1nm~100nmであることが好ましく、より好ましくは2nm~50nmである。触媒活性種の粒子径が小さすぎると触媒活性を示さない酸化物状態になりやすい傾向にある。一方、粒子径が大きすぎると、活性サイトの量が減少し、触媒活性種の単位量あたり触媒活性が低下する傾向にある。
【0023】
触媒活性種を上記したような所定の粒子径となるようにするには、例えば、触媒成分の供給源(一例として、上記した元素の硝酸塩または酢酸塩)および助触媒成分の供給源(一例として、上記した元素の硝酸塩または酢酸塩)を含有する溶液に、担体を浸漬して所定量の溶液を担体に含浸させた後、これを焼成することによって担体に触媒を担持する方法を用い、当該溶液濃度(触媒活性種の濃度)や当該溶液の含浸量、焼成条件(温度および時間)を制御することにより、触媒粒子の粒子径を調整することができる。
【0024】
本発明の水蒸気改質触媒は、上記した触媒成分(助触媒を含む)が担体に担持されたものであるが、触媒成分以外の他の成分を含有していてもよい。但し、無機酸化物担体を除く水蒸気改質触媒のうち、上記した触媒成分の割合が70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、特に95質量%以上(100質量%含む)であることが好ましい。
【0025】
[無機酸化物担体]
水蒸気改質触媒を構成する無機酸化物担体は、水蒸気改質触媒に使用される従来公知の無機酸化物担体を使用することができ、例えば、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)、ジルコニア(Zr)等を好適に使用することができる。これら無機酸化物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのなかでも、アルミナが好ましく、耐熱性が高いという観点から無機酸化物担体は、α-アルミナであることがより好ましい。
【0026】
無機酸化物担体の比表面積は、0.3m/g以上、30m/g以下であることが好ましい。上記のような比表面積を有する無機酸化物担体を使用することにより、水蒸気改質反応中に無機酸化物担体がシンタリングすることを防止することができ、触媒活性を好適に維持することができる。なお、比表面積は、窒素ガス吸着法(または水銀圧入法)によって測定することができる。
【0027】
無機酸化物担体は、通常知られた各種の形状のものを用いることができ、粉末状のものを好適に用いることができる。担体は、細孔を有するものでもよく、細孔を有さないものでもよい。粉末状の無機酸化物担体は、粉末状のものをそのままを使用してもよいが、成型した形状がより好ましい。例えば、球状やペレット状、ハニカム状のものも使用可能であり、球状の成形体である場合、球状の成形体における直径の平均値は0.5~30mmであることが好ましい。
【0028】
[水蒸気改質触媒の製造方法]
本発明の水蒸気改質触媒は、上記した触媒成分を、無機酸化物担体に担持することによって得ることができる。担持方法は特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用することができる。例えば、触媒成分の供給源(一例として、元素の硝酸塩または酢酸塩)、および必要に応じて助触媒成分の供給源(一例として、元素の硝酸塩または酢酸塩)を含む混合触媒溶液を担体に含浸させた後、還元や焼成を行うことで、無機酸化物担体上に触媒活成分を粒子状に析出させることができる。その後必要に応じて、洗浄、焼成、水素還元等の処理を行うことで、水蒸気改質触媒を製造することができる。
【0029】
触媒成分の供給源としては、上記した元素の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等またはそれらの錯体が挙げられる。例えば、ルテニウム、セリウム、コバルトの酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアミン塩等またはそれらの錯体の溶液が挙げられ、それらのなかでも硝酸塩が好ましい。
【0030】
[水蒸気改質触媒を用いた水素を含む合成ガスの製造方法]
水蒸気改質反応は、水蒸気改質触媒を固定床反応器に充填した状態にて、本発明の水蒸気改質触媒に炭化水素を含む燃料ガスと水蒸気とを流通させることにより行われる。水蒸気改質触媒は1種類、もしくは2種類以上を固定床反応器に充填することがきる。なお、本明細書中において、特に説明がない限り、混合ガスとは、炭化水素含有ガスと水蒸気とを混合した混合ガスのことを意味するものとする。
【0031】
水蒸気改質反応において、反応温度は通常1000℃以下であり、好ましくは300~1000℃、より好ましくは400~800℃である。反応温度を200~1000℃の範囲内にすることにより、水蒸気改質反応の効率が低下することを防止することができ、無機酸化物担体に担持されている触媒成分の凝集、無機酸化物担体のシンタリング、および水蒸気改質触媒を収容している反応容器に使用されている基材の熱劣化を防止することができる。なお、水蒸気改質反応において、水蒸気改質触媒に供給される混合ガスの圧力は、常圧(大気圧)であることが好ましい。
【0032】
また、水蒸気改質反応において、混合ガスに含まれる炭化水素含有ガス中の炭素原子のモル数を炭素と表したとき、水(水蒸気)/炭素(モル比)は、水蒸気改質反応に用いられる炭化水素含有ガスの種類により適宜調整することができるが、1~10の範囲内、より好ましくは2~5の範囲内であってよい。また、水蒸気改質反応において、水蒸気改質触媒に供給される混合ガスのSV(空間速度)は、100~50000h-1の範囲内であり、より好ましくは200~30000h-1の範囲内であってよい。
【0033】
水蒸気改質反応に供される炭化水素類を含む燃料ガスについて説明する。炭化水素類としては、炭素数1~40、より好ましくは炭素数1~30の飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素であり、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素については、鎖状、環状を問わず使用できる。具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどの不飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンなど環状炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。また、これらの混合物も好適に使用でき、例えば、天然ガス、都市ガス、LPガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油など工業的に安価に入手できる材料をも例示することができる。
【0034】
また、燃料ガスには、水蒸気改質反応に影響を与えない範囲内で、水素、水、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素などが含まれていてもよい。
【0035】
また、燃料ガスには、メタンチオール、硫化カルボニル、ジメチルジスルフィド等や、付臭剤として、メルカプタン類、ジメチルスルフィド、2-メチル-2-プロパンチオール、メチルエチルスルフィド等の硫黄化合物が添加されていてもよい。本発明の水蒸気改質触媒によれば、このような硫黄化合物を含む燃料ガスを水蒸気改質した場合であっても、触媒性能の劣化を抑制することができる。
【実施例0036】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。
【0037】
[製造例1]
アルミナ粒子100gに、塩化ルテニウムと硝酸セリウムを純水に溶解させた混合水溶液35mLを全量含浸し、次いで、炭酸ナトリウム水溶液46mL(ルテニウムとセリウムの元素換算の和に対して6モル当量)で一晩浸漬処理を行った。その後、ヒドラジン水溶液(ルテニウムとセリウムの元素換算の和に対して5モル当量)で液相還元処理を行い、純水で洗浄処理した後、熱風乾燥して、アルミナにルテニウム0.63質量%、セリウムを酸化物換算で1.0質量%担持させた水蒸気改質触媒を得た。
【0038】
[製造例2]
硝酸セリウム濃度を変更した以外は、製造例1と同様にして、アルミナにルテニウム0.8質量%、セリウムを酸化物換算で0.55質量%担持させた水蒸気改質触媒を得た。
【0039】
[製造例3]
硝酸セリウムを加えなかった以外は、実施例1と同様にして、アルミナにルテニウム0.83質量%が担持させた水蒸気改質触媒を得た。
【0040】
[製造例4]
硝酸セリウムを、硝酸コバルトに変更した以外は、実施例1と同様にして、アルミナにルテニウム0.65質量%、Coを酸化物換算で0.35質量%担持させた水蒸気改質触媒を得た。
【0041】
[触媒性能評価試験]
(1)LPガスを用いた水蒸気改質
製造例1~3にて調製した水蒸気改質触媒を用いて、以下の条件により市販メタンガス(付臭剤未添加)の水蒸気改質試験を行い、ガス導入1時間後の触媒出口ガス中のメタンガス濃度を測定した。その結果、製造例1~3の改質触媒のメタン改質率は100%であった。
<試験条件>
触媒温度:600℃
触媒量:10g
原料ガス組成:メタン99%以上(付臭剤未添加)
水蒸気量:Steam/Carbon=2.50
SV:1000/hr
【0042】
(2)硫黄化合物含有燃料ガスを用いた水蒸気改質
製造例1、3および4にて調製した水蒸気改質触媒を用いて、以下の条件により市販LPガスボンベ(付臭剤としてメルカプタン類1ppm含有)の水蒸気改質試験を行い、プロパン転化率がゼロになるまでの耐久試験を行った。反応開始からプロパン転化率がゼロになるまでの時間を失活までの時間とし、また失活後の触媒について、元素分析によって触媒中残留炭素量を、イオンクロマト分析によって触媒中残留硫黄量を評価した。その結果を表1に示す。
<試験条件>
触媒温度:600℃
触媒量:8g
原料ガス組成:市販LPG(メルカプタン類1ppm)
水蒸気量:Steam/Carbon=2.50
SV:1000/hr
【0043】
【表1】
【0044】
表1の評価結果からも明らかなように、ルテニウムのみを触媒成分とする水蒸気改質触媒(比較例1)に比べて、コバルトを併用した水蒸気改質触媒(実施例2)や、セリウムを併用した水蒸気改質触媒(実施例1)は耐硫黄被毒性に優れ、触媒失活するまでの時間が長いことがわかる。特にルテニウムとセリウムとを併用した水蒸気改質触媒(実施例1)は優れた耐硫黄被毒性を備えていることがわかる。
【0045】
(3)酸素耐性試験
製造例1および4にて調製した水蒸気改質触媒を用いて、電気炉中にて400℃、酸素5%/窒素95%の混合ガス雰囲気下にて10時間の酸化処理を行い、触媒温度400℃、600℃とした以外は実施例1と同様の水蒸気改質試験を行った。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の評価結果からも明らかなように、酸化処理後のルテニウムのみを触媒成分とする水蒸気改質触媒(比較例2)では、低温(400℃)でのメタン改質率が低いが、ルテニウムとセリウムとを併用した水蒸気改質触媒(実施例3)では、400℃でも優れたメタン改質率を有していることがわかる。
【0048】
(4)都市ガスを用いた水蒸気改質
製造例1、2および4にて調製した水蒸気改質触媒を用いて、以下の条件により都市ガスの水蒸気改質を実施し耐久性の評価試験を行った。耐久性の評価試験は、反応開始から炭化水素転化率が0.01%未満になるまでの時間を失活までの時間として評価した。その結果を表3に示す。
<試験条件>
触媒温度:600℃
触媒量:5cc
原料ガス組成:未脱硫都市ガス(1m(0℃、101.325kPaの標準状態における体積)あたり7mgのジメチルスルフィドおよび7mgの2-メチル-2-プロパンチオールを含む)
水蒸気量:Steam/Carbon=2.5
SV:3000/hr
【0049】
【表3】
【0050】
表3の評価結果からも明らかなように、ルテニウムのみを触媒成分とする水蒸気改質触媒(比較例3)に比べて、ルテニウムとセリウムとを併用した水蒸気改質触媒(実施例4、5)は耐硫黄被毒性に優れ、触媒失活するまでの時間が長いことがわかる。特に、ルテニウムに対するセリウムのモル比が0.2~1.0の範囲にある場合(実施例5)は、触媒失活するまでの時間が長く、耐硫黄被毒性がより優れていることがわかる。