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特開2024-72153作業機械、作業機械のコントローラ、および作業機械の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072153
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】作業機械、作業機械のコントローラ、および作業機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
E02F9/22 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182854
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡宗 悠紀
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA03
2D003AB01
2D003BA01
2D003BA02
2D003CA02
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB01
2D003DB03
2D003FA02
(57)【要約】
【課題】作業効率の低下を抑制する。
【解決手段】作業機械は、前輪と、前輪を回転駆動させる前輪駆動装置と、後輪と、後輪を回転駆動させる後輪駆動装置と、後輪の速度に対する前輪の速度の比である速度比を制御するコントローラとを備えている。コントローラは、前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定し、所定の変動が発生したと判定されると速度比を小さくすることにより所定の変動を解消させ、所定の変動が解消すると速度比を増加させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と、
前記前輪を回転駆動させる前輪駆動装置と、
後輪と、
前記後輪を回転駆動させる後輪駆動装置と、
前記後輪の速度に対する前記前輪の速度の比である速度比を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定し、前記所定の変動が発生したと判定されると前記速度比を小さくすることにより前記所定の変動を解消させ、前記所定の変動が解消すると前記速度比を増加させる、作業機械。
【請求項2】
前記コントローラは、前記所定の変動が解消すると、前記速度比を段階的に増加させる、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記コントローラは、オペレータの操作による前記速度比の指令値の入力を受け付け、前記所定の変動が解消すると、前記指令値を超えない範囲で前記速度比を増加させる、請求項1または請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記コントローラは、前記所定の変動が発生したと判定されたときの前記速度比が1よりも大きければ、前記速度比を1に減少させる、請求項1に記載の作業機械。
【請求項5】
前記コントローラは、前記所定の変動が発生したと判定されたときの前記速度比が1以下であれば、前記速度比を段階的に減少させる、請求項4に記載の作業機械。
【請求項6】
前記コントローラは、前記所定の変動が発生したと判定されたときの前記速度比が設定可能な最小値であれば、前記速度比を前記最小値に維持する、請求項5に記載の作業機械。
【請求項7】
作業機械の前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定し、
前記所定の変動が発生したと判定されると、前記作業機械の後輪の速度に対する前記前輪の速度の比である速度比を小さくすることにより、前記所定の変動を解消し、
前記所定の変動が解消すると、前記速度比を増加させる、作業機械のコントローラ。
【請求項8】
作業機械の前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定することと、
前記所定の変動が発生したと判定されると、前記作業機械の後輪の速度に対する前記前輪の速度の比である速度比を小さくすることにより、前記所定の変動を解消することと、
前記所定の変動が解消すると、前記速度比を増加させることと、を備える、作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械、作業機械のコントローラ、および作業機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータグレーダなどの作業機械に、前後輪の全てを駆動する全輪駆動装置を設けることがある。作業機械が全輪駆動で走行中に、前輪の目標速度を後輪の速度よりも高くして制御し前輪に付与する駆動力が大きくなると、前輪駆動力が前輪のスリップ限界を上回り、前輪のスリップが発生することがある。前輪のスリップが頻発することで、前輪が地面から離れたり接地したりを繰り返す振動現象(ホッピング)が発生することがある。米国特許第5474147号明細書(特許文献1)には、ホッピングの発生が検出されると前輪に付与される駆動力を減少させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5474147号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全輪駆動式の作業機械において、前輪駆動力を下げることによりホッピングの発生を抑制できるが、前輪駆動力がオペレータの操作による指令値よりも低いと作業効率が低下することがある。
【0005】
本開示では、作業効率の低下を抑制できる、作業機械、作業機械のコントローラ、および作業機械の制御方法が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うと、前輪と、前輪を回転駆動させる前輪駆動装置と、後輪と、後輪を回転駆動させる後輪駆動装置と、後輪の速度に対する前輪の速度の比である速度比を制御するコントローラとを備えている、作業機械が提案される。コントローラは、前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定し、所定の変動が発生したと判定されると速度比を小さくすることにより所定の変動を解消させ、所定の変動が解消すると速度比を増加させる。
【0007】
本開示のある局面に従うと、作業機械のコントローラが提案される。コントローラは、作業機械の前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定する。コントローラは、所定の変動が発生したと判定されると、作業機械の後輪の速度に対する前輪の速度の比である速度比を小さくすることにより、所定の変動を解消する。コントローラは、所定の変動が解消すると、速度比を増加させる。
【0008】
本開示のある局面に従うと、作業機械の制御方法が提案される。制御方法は、以下のステップを備えている。第1のステップは、作業機械の前輪に付与される駆動力に所定の変動が発生したか否かを判定することである。第2のステップは、所定の変動が発生したと判定されると、作業機械の後輪の速度に対する前輪の速度の比である速度比を小さくすることにより、所定の変動を解消することである。第3のステップは、所定の変動が解消すると、速度比を増加させることである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の作業機械、作業機械のコントローラ、および作業機械の制御方法によると、作業効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態におけるモータグレーダの構成を概略的に示す側面図である。
図2図1に示すモータグレーダの概略構成を示す構成図である。
図3】コントローラの機能構成を説明するブロック図である。
図4】実施形態におけるモータグレーダの走行制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図5】前進時にホッピングが発生した場合の作動油の圧力の波形の例を示すグラフである。
図6】ハンチング判定状態の遷移を示す図である。
図7】ホッピング抑制制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)と速度比との関係の一例を示す表である。
図9】前進駆動力復帰制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。実施形態から任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも、当初から予定されている。
【0012】
実施形態においては、作業機械の一例としてモータグレーダ1について説明する。図1は、実施形態におけるモータグレーダ1の構成を概略的に示す側面図である。
【0013】
図1に示されるように、実施形態のモータグレーダ1は、全6輪の車両である。モータグレーダ1は、左右一対の前輪と、片側2輪ずつの後輪とからなる走行輪を備えている。前輪は、左前輪2と、図1には図示しない右前輪とを有している。後輪は、左後前輪4と、左後後輪5と、図示しない右後前輪および右後後輪とを有している。前輪および後輪の数および配置は、図1に示される例に限られるものではない。
【0014】
モータグレーダ1は、ブレード50を含む作業機を備えている。ブレード50は、前輪と後輪との間に設けられている。モータグレーダ1は、ブレード50で、地面の整地作業、除雪作業、軽切削などの作業を行なうことができる。
【0015】
モータグレーダ1は、車体フレームを備えている。車体フレームは、フロントフレーム51と、リアフレーム52とを有している。フロントフレーム51は、リアフレーム52に、回動可能に連結されている。
【0016】
前輪は、ブレード50と共に、フロントフレーム51に設けられている。前輪は、フロントフレーム51の前端部に、回転可能に取り付けられている。後輪は、リアフレーム52に設けられている。後輪は、リアフレーム52に、後述するようにエンジンからの駆動力によって回転駆動可能に取り付けられている。
【0017】
図2は、図1に示すモータグレーダ1の概略構成を示す構成図である。上述した左右一対の前輪は、左前輪2と、右前輪3とを有している。モータグレーダ1は、エンジン6を備えている。エンジン6は、図1に示されるリアフレーム52に支持されている。エンジン6は、前輪および後輪を回転駆動させる駆動力を発生する駆動源であり、たとえばディーゼルエンジンである。
【0018】
エンジン6の出力側には、トルクコンバータ8、変速機9、終減速装置10およびタンデム装置11を介して、左後輪4,5と、左後輪4,5と一対の右後輪(図示は省略する)と、が接続されている。トルクコンバータ8は、オイルを媒体としてエンジン6からの駆動力を伝達する流体クラッチである。変速機9は、機械式変速機である。変速機9は、複数の速度段に対応した複数のクラッチを有している。各クラッチの連結状態および非連結状態を切り替えることにより、変速機9は速度段を複数段階に切り替える。エンジン6は、トルクコンバータ8、変速機9、終減速装置10およびタンデム装置11を介して、左後輪4,5と右後輪とを駆動する。
【0019】
トルクコンバータ8、変速機9、終減速装置10およびタンデム装置11は、エンジン6の発生する駆動力を後輪に伝達する、後輪動力伝達装置を構成している。終減速装置10は、後輪を回転駆動させる後輪駆動装置の一例に対応する。
【0020】
変速機9に、左右一対の油圧システム7L,7Rが接続されている。油圧システム7Lは、左前輪2を駆動する。油圧システム7Rは、右前輪3を駆動する。エンジン6は、トルクコンバータ8、変速機9、油圧システム7L,7Rを介して、左前輪2と右前輪3とを駆動する。油圧システム7L,7Rは、機械式の変速機9を介さずに、エンジン6の他方の出力側に接続されていてもよい。左右の油圧システム7L,7Rは、それぞれ、HST(Hydraulic Static Transmission)を構成している。
【0021】
モータグレーダ1は、前輪2,3と左後輪4,5および右後輪との全てを動力発生用および伝達用の各装置6~11で共に駆動することが可能な、全輪駆動車両である。当該装置6~11は、全輪駆動装置12を構成している。全輪駆動装置12のうち、エンジン6、油圧システム7L,7Rの一部、トルクコンバータ8、変速機9および終減速装置10は、リアフレーム52に支持されている。
【0022】
油圧システム7Lは、左油圧ポンプ15と、左油圧モータ16とを備えている。油圧システム7Rは、右油圧ポンプ17と、右油圧モータ18とを備えている。エンジン6の出力がPTO(Power Take-Off)14を介して左油圧ポンプ15および右油圧ポンプ17へ伝達されて、左油圧ポンプ15および右油圧ポンプ17が駆動される。左油圧モータ16は、左油圧ポンプ15から吐出する作動油で回転されて、左前輪2を駆動する。右油圧モータ18は、右油圧ポンプ17から吐出する作動油で回転されて、右前輪3を駆動する。
【0023】
油圧ポンプ15,17は、可変容量形油圧ポンプである。油圧ポンプ15,17は、可変斜板を有する斜板式油圧ポンプであってもよい。左油圧ポンプ15の可変斜板の角度は、後述するコントローラから出力される制御指令値に従って、斜板駆動部15Aにより無段階で連続的に制御される。右油圧ポンプ17の可変斜板の角度は、後述するコントローラから出力される制御指令値に従って、斜板駆動部17Aにより無段階で連続的に、左油圧ポンプ15の可変斜板とは独立して制御される。斜板駆動部15A,17Aは、たとえばソレノイドである。
【0024】
油圧モータ16,18は、可変容量形のモータであってもよい。油圧モータ16,18は、斜軸式アキシャル形のモータであってもよい。油圧モータ16,18の容量は、オペレータが選択した速度段によって、一定の値となる。油圧モータ16,18は、固定容量形のモータであってもよい。
【0025】
左油圧ポンプ15と、左油圧モータ16とは、左油圧回路21により接続されている。左油圧ポンプ15から吐出する作動油は、左油圧回路21を経由して、左油圧モータ16に供給される。左前輪2が駆動されるときの左前輪2の回転速度は、左油圧ポンプ15から吐出する作動油によって、制御されている。左油圧回路21には、左油圧回路21内の作動油の圧力を検出する圧力センサ27L,28Lが設けられている。圧力センサ27L,28Lは、左油圧回路21内の油圧を示す信号を出力する。
【0026】
右油圧ポンプ17と、右油圧モータ18とは、右油圧回路22により接続されている。右油圧ポンプ17から吐出する作動油は、右油圧回路22を経由して、右油圧モータ18に供給される。右前輪3が駆動されるときの右前輪3の回転速度は、右油圧ポンプ17から吐出する作動油によって、制御されている。右油圧回路22には、右油圧回路22内の作動油の圧力を検出する圧力センサ27R,28Rが設けられている。圧力センサ27R,28Rは、右油圧回路22内の油圧を示す信号を出力する。
【0027】
エンジン6からの駆動力を前輪2,3へ伝達するための動力伝達装置は、エンジン6で油圧ポンプ15,17を駆動することにより作動油に圧力を発生させ、油圧ポンプ15,17から吐出した圧油によって油圧モータ16,18が駆動されることで回転力が再び発生する。すなわち、前述した通り、左右の油圧システム7L,7Rは、それぞれ、HSTを構成している。
【0028】
圧力センサ27L,27Rは、モータグレーダ1の前進走行時に油圧ポンプから油圧モータへ作動油が流れる油路に設けられている。圧力センサ27L,27Rは、モータグレーダ1の前進走行時に油圧ポンプから吐出される高圧の作動油の圧力を検出する。圧力センサ28L,28Rは、モータグレーダ1の後進走行時に油圧ポンプから油圧モータへ作動油が流れる油路に設けられている。圧力センサ28L,28Rは、モータグレーダ1の後進走行時に油圧ポンプから吐出される高圧の作動油の圧力を検出する。
【0029】
左油圧式クラッチ機構23と左減速機25とが、左前輪2と左油圧モータ16との間に設けられている。右油圧式クラッチ機構24と右減速機26とが、右前輪3と右油圧モータ18との間に設けられている。左油圧式クラッチ機構23および右油圧式クラッチ機構24に油圧が供給されることにより、左前輪2と右前輪3とに動力が伝達されて、モータグレーダ1は全輪駆動となる。左油圧式クラッチ機構23および右油圧式クラッチ機構24への油圧の供給が遮断されると、モータグレーダ1は、全輪駆動が解除されて後輪駆動となる。
【0030】
トルクコンバータ8、変速機9、PTO14、油圧システム7L,7R、クラッチ機構23,24および減速機25,26は、エンジン6の発生する駆動力を前輪に伝達する、前輪動力伝達装置を構成している。油圧モータ16,18は、前輪を回転駆動させる前輪駆動装置の一例に対応する。油圧ポンプ15,17から油圧モータ16,18に供給される作動油の供給量(油圧ポンプの吐出量)を上げることで、前輪の回転速度を増加できる。油圧ポンプ15,17から油圧モータ16,18に供給される作動油の供給量を下げることで、前輪の回転速度を減少できる。
【0031】
速度センサ31は、変速機9の出力軸に設けられている。速度センサ31は、変速機9の出力軸の回転速度を測定することにより、モータグレーダ1の移動時(走行時)の後輪の回転速度を検出する。速度センサ31は、後輪の回転速度を示す信号を出力する。
【0032】
図3は、コントローラ60の機能構成を説明するブロック図である。モータグレーダ1は、コントローラ60を備えている。コントローラ60は、図示しないCPU(中央処理装置)により各種のプログラムを読み出して実行し、各種演算処理を行う。
【0033】
速度比調整ダイヤル40は、オペレータによって操作される。オペレータによる速度比調整ダイヤル40の操作量は、電気信号に変換されて、コントローラ60に入力される。速度比は、後輪の速度に対する前輪の速度の比である。オペレータが速度比調整ダイヤル40を操作することにより、速度比の手動設定値(以下、速度比調整ダイヤル指令値と称する)が、コントローラ60のダイヤル指令値入力部61に入力される。ダイヤル指令値入力部61は、オペレータの操作による速度比の指令値の入力を受け付ける。
【0034】
実施形態の速度比調整ダイヤル40は、たとえば、7段階に設定可能とされている。オペレータは、速度比調整ダイヤル40を操作することにより、速度比調整ダイヤル指令値を1以上7以下の整数のいずれか1つに選択的に設定し、後輪の速度に対する前輪の速度の比である速度比を7段階に切り替えることができる(図8参照)。
【0035】
図2に示される、左油圧回路21に設けられる圧力センサ27Lと、右油圧回路22に設けられる圧力センサ27Rとを、圧力センサ27と総称する。左油圧回路21に設けられる圧力センサ28Lと、右油圧回路22に設けられる圧力センサ28Rとを、圧力センサ28と総称する。圧力センサ27,28から、油圧回路内の作動油の圧力の検出結果が、コントローラ60の圧力検出値入力部63に入力される。速度センサ31から、変速機9の出力軸の回転速度の検出結果が、コントローラ60のモータ回転数算出部70に出力される。
【0036】
コントローラ60は、メモリ72を有している。メモリ72には、モータグレーダ1の動作を制御するためのプログラム、およびそのプログラムの実行に必要な各種データが記憶されている。メモリ72にはまた、作業実行にともなって発生するワーキングデータが一時的に記憶される。コントローラ60は、タイマ73を有している。タイマ73は、時刻を計時する。
【0037】
図4は、実施形態におけるモータグレーダ1の走行制御の処理の流れを示すフローチャートである。以下、コントローラ60が速度比を自動制御する処理について、図3図4および後続の図を適宜参照して、説明する。
【0038】
図4に示されるように、ステップS1において、コントローラ60は、速度比調整ダイヤル40が更新されたか否かを判断する。ダイヤル指令値入力部61は、速度比調整ダイヤル40から、速度比調整ダイヤル指令値の入力を受ける。ダイヤル更新判定部62は、メモリ72から、記憶されている速度比調整ダイヤル指令値を読み出す。メモリ72には、後述する通り、速度比調整ダイヤル40が更新されたと前回判断したときの速度比調整ダイヤル指令値が記憶されている。
【0039】
ダイヤル更新判定部62は、メモリ72から読み出した速度比調整ダイヤル指令値と、現時点で速度比調整ダイヤル40から入力された速度比調整ダイヤル指令値と、を比較する。ダイヤル更新判定部62は、速度比調整ダイヤル指令値を比較した結果、メモリ72に記憶されている速度比調整ダイヤル指令値と現時点での速度比調整ダイヤル指令値とが異なっている場合、速度比調整ダイヤル40が更新されたと判断する。
【0040】
ステップS1で速度比調整ダイヤル40が更新されたと判断した場合には、ダイヤル指令値入力部61は、現時点の速度比調整ダイヤル指令値を、メモリ72に格納する。以上により、メモリ72には、常に、オペレータが手動で設定した最新の指令値である速度比調整ダイヤル指令値が記憶される。
【0041】
速度比調整ダイヤル40が更新されたと判断される(ステップS1においてYES)のは、オペレータによる速度比調整ダイヤル40の操作があり、手動で設定される速度比調整ダイヤル指令値が変化した場合である。ステップS1がYESの場合、ステップS2に移り、ダイヤル有効値設定部68は、現時点での速度比調整ダイヤル指令値を、速度比調整ダイヤル有効値として設定する。
【0042】
速度比調整ダイヤル有効値は、速度比を決定するために使用される、速度比調整ダイヤル40の制御上の設定値である。詳細は後述するが、速度比調整ダイヤル有効値は、条件によって、速度比調整ダイヤル指令値と同じである場合もあるが、速度比調整ダイヤル指令値よりも小さくなる場合もある。速度比調整ダイヤル40によって速度比調整ダイヤル指令値が7段階の速度比を設定可能であれば、速度比調整ダイヤル有効値もまた、7段階の中から選択的に設定される。
【0043】
図8は、速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)と速度比との関係の一例を示す表である。図8に示される例では、速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)が3のときの速度比が1.00である。速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)が3から1ずつ大きくなるにつれて、速度比は0.05ずつ増加する。速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)が7のときの速度比は1.20である。速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)が3から1ずつ小さくなるにつれて、速度比は0.05ずつ減少する。速度比調整ダイヤル有効値(速度比調整ダイヤル指令値)が1のときの速度比は0.90である。
【0044】
速度比は、後輪の速度に対する前輪の速度の比である。速度比が1よりも大きければ、後輪の速度よりも前輪の速度が大きい。速度比が1であれば、後輪の速度と前輪の速度とは同じである。速度比が1よりも小さければ、後輪の速度よりも前輪の速度が小さい。
【0045】
図4に戻り、速度比調整ダイヤル40が更新されていないと判断される(ステップS1においてNO)と、ステップS3に移り、ハンチング判定部64が、HST回路の圧力のハンチングが発生しているか否かを判定する。
【0046】
図5は、前進時にホッピングが発生した場合の作動油の圧力の波形の例を示すグラフである。図5に示されるグラフの横軸は、時間であり、縦軸のHST回路圧は、圧力センサ27,28によって検出され圧力検出値入力部63に入力される、油圧回路21,22内の作動油の圧力である。図5には、左油圧回路21と右油圧回路22とのいずれか一方の作動油の圧力の、時間に対する変動が描画されている。
【0047】
図5に示す通り、前輪2,3が路面にグリップしている状態にあるときに、前輪2,3が路面に対してスリップすると、HST回路圧が急減する。図5に示される例では、時刻tn-dtにおけるHST回路圧がPHST(tn-dt)であり、時刻tにおけるHST回路圧がPHST(tn)であり、時間dtの間にHST回路圧が急減している。本実施形態において、ハンチング判定部64は、圧力検出値入力部63に入力されるHST回路圧の変動により、前輪2,3のスリップを検出する。ハンチング判定部64は、一定時間内に所定回数以上の前輪2,3のスリップが繰り返されたことを検出したとき(HST回路圧のハンチング有り)に、前輪のホッピングが発生していると判定する。
【0048】
図6は、ハンチング判定状態の遷移を示す図である。図5および図6を参照して、作動油の圧力のハンチングの判定のさらなる詳細について説明する。
【0049】
ハンチング判定部64は、ハンチング判定を開始(図6の「START」)したときには「ハンチング無し」の状態とし、スリップカウント(後述)を0とする。「ハンチング無し」の状態で、条件B(後述)が成立し、かつ条件C(後述)が成立すると、ハンチング判定部64は、「ハンチング判定中」の状態であると判定する。条件Bは、「ハンチング無し」と判定された時刻からマスク時間tmが経過することである。条件Cは、所定時間dt内のHST回路圧の変化率が閾値よりも大きいことである。HST回路圧の変化率とは、具体的には、図5に示される前進時の場合にはHST回路圧の減少率であり、後進時の場合にはHST回路圧の増加率である。
【0050】
「ハンチング無し」の状態から「ハンチング判定中」の状態への遷移は、HST回路圧の変動がトリガーとなる。HST回路圧の急減、すなわち前輪2,3のスリップが一度検出されると、「ハンチング判定中」状態に遷移する。
【0051】
ハンチング判定部64は、「ハンチング判定中」の状態に遷移すると、時間のカウントを開始する。ハンチング判定部64は、タイマ73から現在時刻を読み出す。図5に示されるように、ハンチング判定部64は、条件Cの成立に関するHST回路圧の急減が検出された時刻tを起点として、時間のカウントを開始する。
【0052】
ハンチング判定部64はまた、「ハンチング判定中」の状態に遷移すると、HST回路圧が急減した回数をカウントし、これをスリップカウントとして記憶する。
【0053】
コントローラ60のメモリ72には、あらかじめ設定された所定のハンチング判定実施上限時間が記憶されている。ハンチング判定部64は、カウントしている時間がハンチング判定実施上限時間を超えないうちに、スリップカウントが所定の回数(本実施形態では3回)に到達した場合、「ハンチング判定中」の状態から「ハンチング有り」の状態に遷移させる。他方、ハンチング判定部64は、「ハンチング判定中」の状態のときに条件D(後述)が成立すると、「ハンチング無し」の状態に遷移させる。条件Dは、スリップ検出回数がハンチング判定回数に到達しないまま、ハンチング判定実施上限時間が経過することである。
【0054】
本実施形態においてはハンチング判定回数は3回と設定されており、図5に示される例ではハンチング判定実施上限時間が経過する前に3回目のHST回路圧の急減が検出されているので、ハンチング判定部64は、「ハンチング判定中」の状態から「ハンチング有り」の状態に遷移させる。
【0055】
図6に示す通り、コントローラ60は、「ハンチング有り」の状態に遷移すると、ホッピング抑制制御を実施するとともに、無条件で「ハンチング無し」へと、ハンチング判定の状態を遷移させる。
【0056】
「ハンチング判定中」の状態で条件Dが成立するか、または「ハンチング有り」と判定されることで、「ハンチング無し」の状態に遷移すると、スリップカウントがゼロにリセットされる。その後、条件Bが成立するまで、すなわちマスク時間tmが経過するまで、「ハンチング無し」の状態と継続して判定される。以下に説明するホッピング抑制制御の応答を考慮して、マスク時間tmが経過するまでは、前輪2,3のスリップ検出が実施されない。
【0057】
図4に戻って、ステップS3の判断において、ハンチング判定部64が「ハンチング判定中」と判定すると、ステップS4において、ダイヤル有効値設定部68は、前回の速度比調整ダイヤル有効値を維持する。
【0058】
ステップS3の判断において、ハンチング判定部64が「ハンチング有り」と判定すると、ステップS5において、コントローラ60は、ホッピング抑制制御を実行する。ハンチング判定部64が、左前輪2と右前輪3とのいずれかの「ハンチング有り」を判定すると、コントローラ60は、前輪2,3のスリップを抑制するための、前輪2,3の後輪に対する速度比を下げる処置として、速度比調整ダイヤル有効値を変更する。
【0059】
図7は、ホッピング抑制制御の処理の流れを示すフローチャートである。図7に示される例では、速度比調整ダイヤル有効値は、前述した速度比調整ダイヤル40により設定可能な速度比調整ダイヤル指令値と同じく、1以上7以下の整数のいずれか1つの中から選択的に(7段階に)設定可能とされている(図8参照)。
【0060】
ここで、本実施形態においては、速度比調整ダイヤル有効値が大きくなるにつれて速度比も大きくなり、速度比調整ダイヤル有効値が3の時に速度比が1(前輪と後輪の速度が同じ)となるように設定されている。
【0061】
図7に戻り、ステップS11において、ダイヤル有効値判定部67は、現在の速度比調整ダイヤル有効値を判定する。
【0062】
現在の速度比調整ダイヤル有効値が4以上7以下であれば、ステップS14において、ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル有効値を3に変更する。現在の速度比調整ダイヤル有効値が2または3であれば、ステップS13において、ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル有効値から1を減らす処理(デクリメント)をする。現在の速度比調整ダイヤル有効値が1であれば、ステップS12において、ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル有効値を1に維持する。このようにホッピング抑制制御が実行される(図7の「END」)。
【0063】
ダイヤル有効値設定部68は、「ハンチング有り」と判定されたときの速度比調整ダイヤル有効値が4以上であって、速度比が1よりも大きければ、速度比調整ダイヤル有効値を3に設定することで、速度比を1に減少させる。ダイヤル有効値設定部68は、「ハンチング有り」と判定されたときの速度比調整ダイヤル有効値が2または3であって、速度比が1以下であれば、速度比を1段ずつ段階的に減少させる。図8に示す通り、本実施形態においては、ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル有効値を1デクリメントすることで、速度比を0.05減少させる。ダイヤル有効値設定部68は、「ハンチング有り」と判定されたときの速度比調整ダイヤル有効値が1であって、速度比が設定可能な最小値であれば、速度比調整ダイヤル有効値を1に維持して、速度比を最小値に維持する。
【0064】
再び図4に戻って、ステップS3の判断において、ハンチング判定部64が「ハンチング無し」と判定すると、ステップS6において、コントローラ60は、前輪駆動力復帰制御を実行する。
【0065】
図9は、前進駆動力復帰制御の処理の流れを示すフローチャートである。ステップS21において、ダイヤル値比較部65は、速度比調整ダイヤル指令値をメモリ72から読み出す。ダイヤル有効値判定部67は、現在の速度比調整ダイヤル有効値を判定する。ダイヤル値比較部65は、メモリ72から読み出した速度比調整ダイヤル指令値と、現在の速度比調整ダイヤル有効値とを比較して、速度比調整ダイヤル指令値と速度比調整ダイヤル有効値とに乖離があるか否かを判断する。具体的に、ダイヤル値比較部65は、現在の速度比調整ダイヤル有効値が、速度比調整ダイヤル指令値よりも小さいか否かを判断する。
【0066】
速度比調整ダイヤル有効値が速度比調整ダイヤル指令値よりも小さい(ステップS21においてYES)と判断されれば、ステップS22において、時間判定部66は、タイマ73から現在時刻を読み出す。時間判定部66は、「ハンチング無し」と判定された時刻から、現在時刻までの、経過時間を算出する。時間判定部66は、「ハンチング無し」の状態が、所定時間tr継続しているか否か、を判断する。
【0067】
「ハンチング無し」の状態が時間tr継続している(ステップS22においてYES)と判断されると、ステップS23において、ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル有効値に1を加える処理(インクリメント)をする。この処理によって、図8に示されるように、速度比が0.05ずつ増加することになる。
【0068】
ステップS21の判断において、速度比調整ダイヤル有効値が速度比調整ダイヤル指令値以上である(ステップS21においてNO)と判断されるか、ステップS22の判断において、「ハンチング無し」の状態が時間tr継続していない(ステップS22においてNO)と判断されると、ステップS24において、ダイヤル有効値設定部68は、前回の速度比調整ダイヤル有効値を維持する。このように前輪駆動力復帰制御が実行される(図9の「END」)。
【0069】
ステップS22の判断における閾値である時間trは、図6に示されるハンチング判定の条件Bにおける閾値であるマスク時間tmよりも、長い時間に設定される。たとえば、時間trは、マスク時間tmの4倍の長さであってもよい。時間trは、ハンチング判定実施上限時間よりも長い時間に設定されてもよい。
【0070】
ダイヤル有効値設定部68が速度比調整ダイヤル有効値を1ずつインクリメントさせることにより、速度比調整ダイヤル有効値が速度比調整ダイヤル指令値にまで到達すると、ダイヤル値比較部65が、ステップS21の判断においてNOと判断し、その後は速度比調整ダイヤル有効値が維持される。ダイヤル有効値設定部68は、速度比調整ダイヤル指令値を超えない範囲で、速度比調整ダイヤル有効値を増加させている。
【0071】
再び図4に戻って、ステップS7において、速度比決定部69は、ステップS2、ステップS4、ステップS12~S14、またはステップS23,S24において設定された速度比調整ダイヤル有効値と、図8の表とを照合して、速度比を決定する。
【0072】
ステップS8において、油圧ポンプ15,17の制御が行われる。モータ回転数算出部70は、速度センサ31の検出値に基づいて、後輪の速度を算出する。モータ回転数算出部70は、後輪の速度に、速度比を乗じて、前輪2,3の速度の設定値を算出する。モータ回転数算出部70は、その速度で前輪2,3を回転駆動するために必要とされる油圧モータ16,18の目標回転数を算出する。
【0073】
ポンプ容量指令部71は、油圧モータ16,18を目標回転数で回転させるための、作動油の流量を算出する。ポンプ容量指令部71は、油圧ポンプ15,17から油圧モータ16,18へその流量の作動油が供給されるように、各油圧ポンプ15,17の斜板駆動部15A,17Aへ制御信号を送信する。エンジン6の回転数が同じでも、各油圧ポンプ15,17の斜板を制御することで、油圧ポンプ15,17から吐出される作動油の流量を変更できる。このように油圧ポンプ15,17の制御が行われる。
【0074】
速度比が1よりも大きい場合、後輪よりも速い速度で前輪を回転させるように、油圧ポンプ15,17が制御される。
【0075】
図4に示される一連の処理を終えると、処理はリターンされ(図4の「RETURN」)、モータグレーダ1の走行状態に対応して速度比調整ダイヤル有効値を設定する処理が繰り返される。オペレータが速度比調整ダイヤル40を操作していない場合(速度比調整ダイヤル指令値を更新していない場合)には、ハンチング判定が再び実行されて、「ハンチング有り」の状態と判断されると図7で示したホッピング抑制制御が実行され、「ハンチング無し」の状態と判断されると図9で示した前輪駆動力復帰制御が実行される。
【0076】
図6を参照して説明した通り、「ハンチング有り」の状態と判定された後には、ハンチング判定の状態は無条件で「ハンチング無し」へと遷移し、条件Bが成立する、すなわちマスク時間tmが経過するまでは、「ハンチング無し」の状態を維持する。そのため、図4のフローチャートでリターン後の次回のステップS3の判断では、「ハンチング無し」の状態となる。
【0077】
図9のステップS22の判断における時間trが、ハンチング判定の条件Bにおける閾値であるマスク時間tmよりも、長い時間に設定されている。これにより、速度比調整ダイヤル有効値の減少と増加とが頻繁に繰り返されることが回避され、安定した制御が実現されている。
【0078】
すなわち、マスク時間tmが経過するまでは、ステップS24で速度比調整ダイヤル有効値が維持される。ホッピング抑制制御(ステップS5、図7)で速度比調整ダイヤル有効値を減少させた後に、作動油の圧力のハンチングが依然として発生しているのであれば、マスク時間tm経過後、時間trに到達するまでに、作動油の圧力の急変動を検出することができる。「ハンチング無し」の状態から「ハンチング判定中」の状態へと遷移し、ステップS3の判断で「ハンチング判定中」と判断されて、ステップS4で速度比調整ダイヤル有効値が維持される。
【0079】
以上説明したように本実施形態においては、図4~6に示されるように、コントローラ60(ハンチング判定部64)は、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力にハンチングが発生したか否かを判定する。油圧モータ16,18は前輪2,3を回転駆動させる前輪駆動装置であり、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力は、前輪2,3に付与される駆動力の一例に対応する。
【0080】
図4,7に示されるように、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力にハンチングが発生したと判定されると、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、速度比調整ダイヤル有効値を小さくする。これにより、図8に示されるように、速度比が小さくなる。後輪の速度に対する前輪2,3の速度の比を小さくして、前輪2,3の駆動力を減少させることにより、前輪2,3のスリップが抑制される。これにより、前輪2,3のホッピングが抑制されるので、モータグレーダ1のフロントフレーム51の前端部が上下に振動するピッチング挙動の発生を抑制することができる。
【0081】
図4,9に示されるように、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力のハンチングが解消したと判定されると、オペレータが設定した速度比調整ダイヤル指令値の範囲内で、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、速度比調整ダイヤル有効値を大きくする。これにより、図8に示されるように、速度比が大きくなる。速度比調整ダイヤル有効値を、オペレータの操作による速度比調整ダイヤル指令値に近づけることで、前輪2,3の駆動力が増加し、オペレータの狙いの駆動力に近づく。これにより、モータグレーダ1の作業効率を向上することができる。
【0082】
図9に示されるように、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、速度比調整ダイヤル有効値を1ずつ増加させる。これにより、図8に示されるように、速度比は0.05ずつ増加する。油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力のハンチングが解消したと判定されたときに、速度比調整ダイヤル有効値を一気に速度比調整ダイヤル指令値に変更するのではなく、速度比調整ダイヤル有効値を段階的に速度比調整ダイヤル指令値に近づける制御がなされる。制御量を急に変化させないことで、ホッピングの再度の発生を防止でき、モータグレーダ1を安定して走行させることができる。
【0083】
図3に示されるように、コントローラ60(ダイヤル指令値入力部61)は、オペレータの操作による速度比調整ダイヤル指令値の入力を受け付ける。図9に示されるように、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、速度比調整ダイヤル指令値を超えない範囲で、速度比調整ダイヤル有効値を増加させる。速度比調整ダイヤル有効値を速度比調整ダイヤル指令値に収束させることで、前輪2,3の駆動力がオペレータの意図よりも大きくなることを、確実に回避することができる。
【0084】
図7,8に示されるように、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力にハンチングが発生したと判定されたとき、速度比調整ダイヤル有効値が4以上であり速度比が1よりも大きければ、速度比調整ダイヤル有効値を3に設定して、速度比を1に設定する。ハンチング発生と判定されたときの速度比調整ダイヤル有効値が5,6または7であるときに、間の有効値を抜かして速度比調整ダイヤル有効値を一気に3にまで変更する。これにより、前輪2,3のホッピングを短時間で解消することができる。
【0085】
図7,8に示されるように、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力にハンチングが発生したと判定されたとき、速度比調整ダイヤル有効値が2または3であり速度比が1以下であれば、速度比調整ダイヤル有効値を段階的に1ずつ減少させ、速度比を段階的に0.05ずつ減少させる。これにより、前輪2,3のホッピングの解消を促進することができる。
【0086】
図7,8に示されるように、コントローラ60(ダイヤル有効値設定部68)は、油圧モータ16,18に供給される作動油の圧力にハンチングが発生したと判定されたとき、速度比調整ダイヤル有効値が1であり速度比が設定可能な最小値であれば、速度比調整ダイヤル有効値を1に維持し、速度比を最小値に維持する。これにより、前輪2,3のホッピングをより確実に解消することができる。
【0087】
上記の実施形態で説明した、速度比を自動調整する制御は、変速機の全ての速度段で実行されなくてもよい。たとえば、低速段で走行中には速度比を自動調整し、高速段で走行中には速度比を自動調整しない制御としてもよい。
【0088】
上記の実施形態では、前輪2,3にはHSTによって動力が伝達され、一方、後輪には変速機9を経由して機械的な動力伝達が行われる。この例に限られず、後輪が後輪駆動装置によって回転駆動され、前輪が前輪駆動装置によって後輪とは独立して回転駆動されるのであれば、動力伝達装置は任意に選択され得る。たとえば、油圧システム7L,7Rとは別のHSTを介して、後輪に動力が伝達されてもよい。
【0089】
上記の実施形態で説明した、モータグレーダ1の前輪と後輪との速度比を設定するコントローラは、必ずしもモータグレーダ1に搭載されていなくてもよい。モータグレーダ1に搭載されたコントローラ60が、圧力センサ27,28の検出値を外部のコントローラへ送信する処理を行い、信号を受信した外部のコントローラが速度比を設定するシステムを構成してもよい。外部のコントローラは、モータグレーダ1の作業現場に配置されてもよく、モータグレーダ1の作業現場から離れた遠隔地に配置されてもよい。
【0090】
上記の実施形態では、作業機械の一例としてモータグレーダ1を挙げているが、モータグレーダ1に限らず、他の種類の作業機械にも適用可能である。
【0091】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
1 モータグレーダ、2 左前輪、3 右前輪、4 左後前輪、5 左後後輪、6 エンジン、7L,7R 油圧システム、8 トルクコンバータ、9 変速機、10 終減速装置、11 タンデム装置、12 全輪駆動装置、15 左油圧ポンプ、15A,17A 斜板駆動部、16 左油圧モータ、17 右油圧ポンプ、18 右油圧モータ、21 左油圧回路、22 右油圧回路、23 左油圧式クラッチ機構、24 右油圧式クラッチ機構、25 左減速機、26 右減速機、27 左圧力センサ、28 右圧力センサ、31 速度センサ、40 速度比調整ダイヤル、50 ブレード、51 フロントフレーム、52 リアフレーム、60 コントローラ、61 ダイヤル指令値入力部、62 ダイヤル更新判定部、63 圧力検出値入力部、64 ハンチング判定部、65 ダイヤル値比較部、66 時間判定部、67 ダイヤル有効値判定部、68 ダイヤル有効値設定部、69 速度比決定部、70 モータ回転数算出部、71 ポンプ容量指令部、72 メモリ、73 タイマ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9