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特開2024-7217測位装置、学習装置、測位方法、学習方法、および測位プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007217
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】測位装置、学習装置、測位方法、学習方法、および測位プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20240111BHJP
【FI】
G01S5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108545
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】新井 イスマイル
(72)【発明者】
【氏名】垣内 正年
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 新
(72)【発明者】
【氏名】藤川 和利
(72)【発明者】
【氏名】新 佑太郎
(72)【発明者】
【氏名】川端 馨
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA08
5J062BB05
5J062CC18
5J062FF06
(57)【要約】
【課題】安定した測位結果を得る。
【解決手段】測位装置(1)は、建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定部(103)と、推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定部(105)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定部と、
推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定部と、を備える測位装置。
【請求項2】
前記エリア推定部は、前記測定地点が存在する可能性のある複数のエリアのそれぞれについて、当該エリアに前記測定地点が存在する確率を推定し、
前記位置推定部は、推定された前記確率が上位の所定数の前記エリアを統合した統合エリアにおける前記測定地点の位置を推定する、請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記建屋は、吹き抜けのエリアと、吹き抜けではないエリアとを含む複数階層の建屋であり、
前記測位用のデータには、前記測定地点で測定された気圧を示すデータが含まれており、
前記エリア推定部は、前記測定地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に基づいて、前記測定地点の階層、および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定する、請求項1または2に記載の測位装置。
【請求項4】
前記測位用のデータには、前記測定地点で測定されたLPWA(Low Power Wide Area-network)の受信信号強度を示すデータが含まれており、
前記エリア推定部は、前記受信信号強度に基づいて、前記測定地点が存在するエリアを推定する、請求項1または2に記載の測位装置。
【請求項5】
建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得部と、
前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習部と、を備える学習装置。
【請求項6】
前記教師データには、前記建屋内の各地点で測定されたLPWAの受信信号強度を示すデータが含まれており、
LPWAの受信信号強度を示す前記データにノイズ成分を付与したデータを用いて教師データを生成する教師データ生成部を備える、請求項5に記載の学習装置。
【請求項7】
1または複数の情報処理装置により実行される測位方法であって、
建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定ステップと、
推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定ステップと、を含む測位方法。
【請求項8】
1または複数の情報処理装置により実行される学習方法であって、
建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得ステップと、
前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習ステップと、を含む学習方法。
【請求項9】
請求項1に記載の測位装置としてコンピュータを機能させるための測位プログラムであって、前記エリア推定部および前記位置推定部としてコンピュータを機能させるための測位プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内における測位を行う測位装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内における測位技術について、従来から様々な研究が進められている。例えば、下記の非特許文献1には、BLE(Bluetooth Low Energy、Bluetoothは登録商標)信号がアトリウムを有する建屋における何れのフロアで計測されたものであるかを推定する技術が開示されている。なお、アトリウムとは、屋内に設けた大規模な中庭状の天井の高い空間である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hongxia Qi etc.、"BLE-based floor positioning method for multi-level atrium spatial environments"、Acta Geodaetica et Geophysica、2021年、56:p.471-p.499
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術には、無線アクセスポイントを建屋内に多数設ける必要があって、導入コストが嵩むという問題がある。また、建屋の構造や無線アクセスポイントの配置等によっては測位精度が低下することも想定される。また、屋内での他の測位技術として、磁気を利用するものや、デッドレコニング等の手法も知られているが、これらの手法では測位対象の空間が広い場合に測位精度が低下することがある。つまり、これらの手法には測位対象の空間が広いか狭いかによって測位結果が安定しないという問題がある。本発明の一態様は、安定した測位結果を得ることが可能な測位装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る測位装置は、建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定部と、推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定部と、を備える。
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習装置は、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得部と、前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習部と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る測位方法は、1または複数の情報処理装置により実行される測位方法であって、建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定ステップと、推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を、当該測定地点で測定された磁気に基づいて推定する位置推定ステップと、を含む。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習方法は、1または複数の情報処理装置により実行される学習方法であって、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得ステップと、前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、安定した測位結果を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る測位装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る学習装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図3】前記測位装置と前記学習装置を含む測位システムの概要を示す図である。
図4】同じ階層に位置する複数の部屋のそれぞれにおける気圧差のヒストグラムである。
図5】前記測位装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図6】前記学習装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔システム構成〕
本実施形態に係る測位システム5について図3に基づいて説明する。図3は、測位システム5の概要を示す図である。図示のように、測位システム5は、測位装置1と学習装置2と測定機器3とを含む。また、図3には、測位システム5による測位の対象となる建屋Aの構成についても併せて示している。
【0012】
建屋Aは、吹き抜けのエリアを含む複数階層の建造物である。具体的には、建屋Aは第1~第3階層までの3階建ての建造物であり、建屋A内にはA1~A6の部屋が設けられている。このうち、部屋A1は第1~第3階層の3つの階層にまたがる吹き抜けの部屋となっている。他の部屋A2~A6のうちA2とA3は第1階層に、A4は第2階層に、A5とA6は第3階層に位置している。また、他の部屋A2~A6には、部屋A1に隣接しているもの(A2、A3、A5、A6)と隣接していないもの(A4)がある。また、部屋A3の上部は、部屋A1の一部となっており、これにより部屋A1における第2階層の部分は、第1階層および第3階層の部分より広くなっている。また、図示は省略しているが、部屋A1内には階段が設けられており、部屋A1内で第1階層から第3階層まで移動できるようになっている。
【0013】
建屋Aの中(より詳細には部屋A1の中)には人物Bが居る。図示のように、人物Bは、測位用のデータを測定する測定機器3を所持している。測位装置1は、測定機器3で測定された測位用のデータを取得し、それらのデータを用いて、測位用のデータの測定地点すなわち建屋A内における人物Bの位置を測位する。詳細は後述するが、測位には複数種類のデータが用いられる。各種類のデータはそれぞれ別の測定機器で測定するようにしてもよい。また、測定機器3は、測定を主たる機能とするものであってもよいし、他の機能を主たる機能とするものであってもよい。例えば、各種センサを備えたスマートフォン等を測定機器3として用いることもできる。
【0014】
また、詳細は後述するが、測位装置1は、上記の測位を行う際に、まず人物Bが居るエリアを推定し、その後、推定したエリアにおける人物Bの位置を推定する。例えば、図3の例であれば、測位装置1は、人物Bが居るエリアが、部屋A内の第1階層部分であると推定した後、部屋A内の第1階層部分における人物Bの位置を推定する。
【0015】
これにより、例えば磁気を利用した測位手法のように、測位対象の空間が広い場合に測位精度が低下する測位手法を用いる場合であっても、安定した測位結果を得ることが可能になる。このエリア推定には、予め機械学習された推定モデルが用いられるが、この推定モデルは学習装置2により生成される。
【0016】
測位システム5は、廃棄物の焼却施設等の各種施設や各種工場等における作業員の安全管理に利用することもできる。例えば、廃棄物の焼却施設等では、焼却炉が配置される炉室が吹き抜けとなっており、その周囲に通風機室や高圧電気室等の炉室と比べて小さな部屋が複数設けられていて、建屋Aと類似した構成となっている。炉室は一般的な居住スペースとしての部屋と比べて広く、その内部にはグレーチングと呼ばれる格子状の金属構造材が配置されて、各種機材の設置場所およびそれら機材のメンテナンス用通路が形成されている。炉室内にはメンテナンス等のために作業員が立ち入ることがあるが、広大かつ見通しの悪い炉室内で作業員が万一事故にあったり怪我をしたりして動けなくなった場合、その発見に時間を要することが想定される。この点、作業員に測定機器3を所持させておけば、測位システム5により作業員の位置を推定して動けなくなった作業者を検出したり、検出した作業者を速やかに救護したりすることが可能になる。
【0017】
〔測位装置の構成〕
図1に基づいて測位装置1の構成を説明する。図1は、測位装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、測位装置1は、測位装置1の各部を統括して制御する制御部10と、測位装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、測位装置1は、測位装置1が他の装置と通信するための通信部12、測位装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および測位装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、データ取得部101、前処理部102、エリア推定部103、エリア統合部104、および位置推定部105が含まれている。そして、記憶部11には、測位用のデータ111、推定モデル112、および照合用磁気データ113が記憶されている。
【0018】
データ取得部101は、測位用のデータ111を取得する。取得された測位用のデータ111は記憶部11に記憶される。測位用のデータ111には、エリア推定部103によるエリア推定に使用される各種データと、位置推定部105による測位に使用される各種データとが含まれている。これらのデータの詳細は後述する。
【0019】
前処理部102は、測位用のデータ111に前処理を施し、推定モデル112に入力可能なデータとする。前処理の詳細は後述する。なお、データ取得部101は、前処理済みのデータを取得してもよく、この場合、前処理部102は省略される。
【0020】
エリア推定部103は、測位の対象となる建屋内において測位用のデータ111を測定した測定地点が存在するエリアを、測位用のデータ111を用いて推定する。より詳細には、エリア推定部103は、前処理部102による前処理後の測位用のデータ111を推定モデル112に入力することにより得られる出力値に基づいて測定地点が存在するエリアを推定する。推定モデル112の詳細は後述する。
【0021】
また、エリア推定部103は、測定地点が存在する可能性のある複数のエリアのそれぞれについて、当該エリアに測定地点が存在する確率を推定してもよい。例えば、エリア推定部103は、当該確率を出力する推定モデル112を用いることにより、当該推定を行うことができる。
【0022】
エリア統合部104は、エリア推定部103により推定された確率が上位の所定数のエリアを統合して統合エリアとする。例えば、図3の建屋Aにおいて、測定地点が部屋A1の第1階層部分にある確率が80%、第1階層の部屋A1外(つまり部屋A2内)にある確率が15%、第2階層の部屋A1外(つまり部屋A4内)にある確率が5%と推定されたとする。この場合、上記の所定数が2であれば、エリア統合部104は、部屋A1の第1階層部分と、部屋A2とを統合したエリア、つまり第1階層の全体を統合エリアとする。
【0023】
位置推定部105は、エリア推定部103により推定されたエリアにおける測定地点の位置を推定する。また、エリア統合部104が統合エリアを生成している場合、位置推定部105は、統合エリアにおける測定地点の位置を推定する。詳細は後述するが、例えば、位置推定部105は、照合用磁気データ113を用いて上記の推定を行ってもよい。
【0024】
以上のように、測位装置1は、建屋内において測位用のデータ111を測定した測定地点が存在するエリアを、測位用のデータ111を用いて推定するエリア推定部103と、エリア推定部103により推定されたエリアにおける測定地点の位置を推定する位置推定部105と、を備える。
【0025】
上記の構成によれば、建屋内において測定地点が存在するエリアを推定した上で、推定されたエリアにおける測定地点の位置を推定する。これにより、測位対象エリアを絞り込んだ上で測位することができるため、安定した精度で測位を行うことができる。
【0026】
また、上記の構成によれば、実際の測定地点からかけ離れた位置を推定してしまう可能性が低い。このため、測位装置1は、各種施設における作業者の測位にも好適に適用できる。例えば、施設内で不慮の事故等が発生し、作業者の位置を特定して救護する必要が生じ、測位装置1により作業者の位置を測位したとする。この場合に、仮に磁気に基づく位置推定の精度が十分ではなかったとしても、エリアが正しく推定されていれば、推定された位置に対応するエリア内を探索して、作業者を速やかに救護することができる。
【0027】
また、上述のように、エリア推定部103は、測定地点が存在する可能性のある複数のエリアのそれぞれについて、当該エリアに測定地点が存在する確率を推定してもよい。この場合、位置推定部105は、推定された確率が上位の所定数のエリアを統合した統合エリアにおける測定地点の位置を推定してもよい。
【0028】
測位装置1では、位置推定の前段で行われるエリア推定の結果が誤りであれば、測位結果が実際の測定地点からかけ離れた位置を示すものとなってしまう可能性がある。この点、上記の構成によれば、確率が上位の所定数のエリアを統合した統合エリア内を対象として測位を行うから、測位結果が実際の測定地点からかけ離れた位置を示すものとなる可能性を低減することができる。
【0029】
〔学習装置の構成〕
図2に基づいて学習装置2の構成を説明する。図2は、学習装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、学習装置2は、学習装置2の各部を統括して制御する制御部20と、学習装置2が使用する各種データを記憶する記憶部21を備えている。また、学習装置2は、学習装置2が他の装置と通信するための通信部22、学習装置2に対する各種データの入力を受け付ける入力部23、および学習装置2が各種データを出力するための出力部24を備えている。また、制御部20には、データ取得部201、教師データ生成部202、教師データ取得部203、および学習部204が含まれている。そして、記憶部21には、学習用のデータ211、教師データ212、および推定モデル112が記憶されている。
【0030】
データ取得部201は、学習部204の学習に用いられる各種データを取得する。取得されたデータは、学習用のデータ211として記憶部21に記憶される。学習用のデータ211は、教師データ212の元になるデータである。
【0031】
教師データ生成部202は、学習用のデータ211を用いて教師データ212を生成する。生成された教師データ212は記憶部21に記憶される。なお、教師データ212の具体的な生成方法については後述する。
【0032】
教師データ取得部203は、学習部204が学習に使用する教師データ212を取得する。学習装置2は上述のように教師データ生成部202を備えており、教師データ生成部202が生成する教師データ212が記憶部21に記憶されるから、教師データ取得部203は、記憶部21から教師データ212を取得すればよい。学習装置2が教師データ生成部202を備えていない場合には、教師データ取得部203は、他の装置で生成された教師データ212を当該他の装置から取得してもよいし、学習装置2のユーザが入力部23等を介して入力する教師データ212を取得してもよい。
【0033】
学習部204は、教師データ212を用いた学習により推定モデル112を生成する。なお、学習の詳細については後述する。生成された推定モデル112は記憶部21に記憶される。また、生成された推定モデル112は、測位装置1に提供される。推定モデル112の測位装置1への提供は、例えば通信部22を介した通信により行われてもよいし、ユーザが手動で行ってもよい。
【0034】
〔気圧差に基づくエリア推定〕
気圧は高さに応じて変動する特性を有しているから、測定した気圧は階層の推定に利用することができる。ただし、気圧は天候等の種々の要因により変動する。このため、エリア推定においては、測定した気圧をそのまま用いるのではなく、測定した気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差、すなわち気圧差を用いることが好ましい。具体的には、推定モデル112の説明変数の1つに気圧差を含めればよい。
【0035】
また、本願の発明者らの実験の結果、同じ階層に位置する複数の部屋を気圧差によって識別できる可能性があることが分かった。これについて図4に基づいて説明する。図4は、同じ階層に位置する複数の部屋のそれぞれにおける気圧差のヒストグラムである。より詳細には、図4には、廃棄物焼却施設における炉室のある階層内をそれぞれ異なる経路に沿って移動しながら測定した気圧から算出された気圧差の度数分布を示すヒストグラムD1およびD2を示している。また、図4には、上記階層における炉室以外の1つの部屋内を移動しながら測定した気圧から算出された気圧差の度数分布を示すヒストグラムD3を示している。
【0036】
ヒストグラムD1およびD2の分布が概ね重なっていることから、炉室内における移動経路にかかわらず、気圧差は同様の分布となることが分かる。一方、ヒストグラムD3に示される分布と、ヒストグラムD1およびD2に示される分布との間にはずれが生じている。
【0037】
ヒストグラムD1~D3は、何れも同じ階層で測定された気圧から算出された気圧差の分布を示しているから、上記のずれは階層以外の要因に起因していると考えられる。つまり、図4のヒストグラムD1~D3は、気圧差によって同じ階層に位置する炉室(吹き抜けのエリア)と炉室以外の部屋(吹き抜けではないエリア)とを識別できる可能性があり、また、気圧差によって同じ階層に位置する複数の部屋を識別できる可能性があることを示している。
【0038】
以上のように、測位対象の建屋は、吹き抜けのエリアと、吹き抜けではないエリアとを含む複数階層の建屋であってもよい。この場合、測位用のデータ111には、測定地点で測定された気圧を示すデータが含まれていてもよい。そして、エリア推定部103は、測定地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に基づいて、測定地点の階層、および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定してもよい。
【0039】
上記の構成によれば、測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かについて妥当な推定結果が得られることが期待できる。また、上記の構成によれば、測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に基づいて推定を行っているから、天候等に起因する気圧の変化にかかわらず、安定してエリア推定を行うことができる。
【0040】
また、教師データ取得部203が取得する教師データ212は、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられたものであってもよい。
【0041】
この場合、学習部204は、教師データ212を用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデル112を生成することができる。
【0042】
〔受信信号強度(RSSI:Received signal strength indication)に基づくエリア推定〕
屋内での測位には、Wi-Fi(登録商標。以下同様)やBLEのアクセスポイントなどの無線設備が利用されることがある。このような測位手法は、無線設備を用いた無線通信においては、基地局と端末との距離が離れるにつれ、端末における受信信号強度が減衰する特性があることを利用したものである。当該測位手法においては、端末で測定した、特定のアクセスポイントからの受信信号強度をその端末が存在する地点を示す特徴として用いることにより測位を行う。測位装置1によるエリア推定にもWi-FiやBLEの受信信号強度を利用することができる。
【0043】
また、例えば、廃棄物の焼却施設のような広大な室内空間を有する建屋内でエリア推定を行う場合、測位装置1は、LPWA(Low Power Wide Area-network)の受信信号強度を利用してエリア推定を行ってもよい。具体的には、推定モデル112の説明変数の1つにLPWAの受信信号強度を含めればよい。
【0044】
LPWAは、Wi-FiやBLEよりも長距離の通信で利用される無線通信規格である。Wi-FiやBLEが5GHz帯や2.4GHz帯の周波数帯域を利用するのに対して、LPWAはより低い920MHz帯を利用する。一般に周波数が低いほど長距離の通信に適しているから、広大な室内空間を有する建屋内におけるエリア推定には、LPWAの適用が好適である。また、LPWAを適用する場合、Wi-FiやBLEを適用する場合と比べて建屋内に配置する基地局の数が少なく済むという利点もある。
【0045】
なお、従来、LPWAは主に屋外における測位での利用が検討されており、広大な室内空間を有する建屋内、特に廃棄物の焼却施設のように多数の機器が配置されている建屋内におけるエリア推定にLPWAを利用できるか否かは検証されていなかった。しかし、本発明の発明者らの実験により、LPWAの受信信号強度が廃棄物の焼却施設におけるエリア推定に利用できることが確認されている。
【0046】
以上より、測位用のデータ111には、測定地点で測定されたLPWAの受信信号強度が含まれていてもよい。この場合、エリア推定部103は、LPWAの受信信号強度に基づいて測定地点が存在するエリアを推定する。LPWAは、Wi-FiやBLE等と比べて長距離の通信を行うことを想定した規格であるから、LPWAの受信信号強度に基づいてエリア推定を行う上記の構成は、内部に広い空間を有する建屋内における測位に好適である。
【0047】
〔推定モデルについて〕
推定モデル112は、測位用のデータ111に応じたエリアを推定できるようなものであればよい。言い換えると、推定モデル112は、測位用のデータ111またはこれを用いて生成した特徴量を説明変数とし、測位用のデータ111の測定地点が存在するエリアを目的変数とするモデルであればよい。
【0048】
説明変数としては、例えば上述した気圧差や、Wi-Fi、BLE、またはLPWA等の任意の通信技術における受信信号強度等を適用すればよい。例えば、気圧差とLPWAの受信信号強度の両方を説明変数とすることにより、広大な内部空間を有する焼却施設等の建屋内におけるエリア推定を高精度に行うことが可能である。無論、説明変数は、エリアと関連性のあるものを用いればよく、上述の例に限られない。また、使用する説明変数の個数も特に限定されない。
【0049】
また、推定モデル112における推定のアルゴリズムは特に限定されないが、推定モデル112は高い推定精度が期待できる機械学習モデルとすることが好ましい。推定モデル112は、線形モデルであってもよいし、非線形モデルであってもよい。例えば、ランダムフォレスト等の決定木ベースの推定アルゴリズムを適用してもよいし、多層パーセプトロン等のニューラルネットワークを用いた推定アルゴリズムを適用してもよいし、ロジスティック回帰等の回帰ベースの推定アルゴリズムを適用してもよい。
【0050】
〔前処理〕
データ取得部101が取得する測位用のデータ111には、そのまま推定モデル112に入力できないデータが含まれる場合がある。前処理部102は、そのようなデータに前処理を施し、推定モデル112に入力可能なデータとする。例えば、前処理部102は、測位用のデータ111に対して補間処理を行ってもよい。
【0051】
補間処理は、推定モデル112の複数の説明変数のデータ数を合わせるために行われる。例えば、推定モデル112の説明変数に気圧差とLPWAの受信信号強度とが含まれているとする。気圧の測定と受信信号強度の測定はそれぞれ異なるセンサで行われるから、この場合、ある時刻において一方の測定値は存在するが他方の測定値は存在しないということが生じ得る。そして、一方の測定値が存在しなければ、その時刻における推定モデル112に対する入力データとしては不完全なものとなってしまう。そこで、前処理部102は、他方の測定値を補間して推定モデル112に入力可能なデータとする。例えば、前処理部102は、ある時刻の測定値が欠損値となっていた場合に、当該欠損値をその時刻の直近の測定値で補間してもよい。
【0052】
また、基地局からの電波を全く受信できない地点では受信信号強度が計測できず、測定値が欠損してしまう。前処理部102は、このような地点については、欠損値を十分に小さい受信信号強度で補間すればよい。例えば、前処理部102は、測位用のデータ111に含まれる受信信号強度の値において、計測不能により欠損値となっている部分について、当該欠損値を-100dbmの値で補間してもよい。
【0053】
また、気圧の測定に用いる気圧センサには、個体ごとに一定の絶対誤差が存在している。このため、前処理部102は、測位用のデータ111に気圧の値が含まれている場合、当該値から絶対誤差をオフセットとして差し引く処理を行ってもよい。所定の基準位置で測定された気圧についても同様である。そして、前処理部102は、測定地点で測定された気圧と、所定の基準位置で測定された気圧との差を算出する。
【0054】
また、前処理部102は、測位用のデータ111に対してスケーリングを行って推定モデル112に入力するデータを生成してもよい。例えば、前処理部102は、測位用のデータ111に対して、最小最大スケーリングを行ってもよいし、測位用のデータ111を正規化してもよい。なお、スケーリングおよび正規化の対象とするデータは上記の補間後のものであってもよい。
【0055】
同様に、データ取得部201が取得する学習用のデータ211にも、そのまま推定モデル112に入力できず、そのままでは教師データ212とすることができないデータが含まれる場合がある。この場合、教師データ生成部202は、前処理部102と同様の処理により、推定モデル112に入力可能なデータを生成する。
【0056】
また、教師データ生成部202は、受信信号強度のデータ数をかさ増しする処理を行ってもよい。例えば、教師データ生成部202は、学習用のデータ211に含まれる受信信号強度にノイズ成分を付与することにより新たな受信信号強度を生成してもよい。ノイズ成分は、例えば学習用のデータ211に含まれる各受信信号強度の平均値および標準偏差を元に生成したガウスノイズであってもよい。
【0057】
このように、建屋内の各地点で測定されたLPWAの受信信号強度が教師データ212に含まれている場合、教師データ生成部202は、LPWAの受信信号強度にノイズ成分を付与したデータを用いて教師データ212を生成してもよい。LPWAの受信信号強度については学習時に教師データ212の普遍性が不足する可能性があるが、上記の構成によれば教師データ212のバリエーションを増やして普遍性を補うことができる。
【0058】
また、受信信号強度は経時的に変動するものであるから、理想的には全ての測定点において長時間の測定を行うことが好ましい。この点、測定した受信信号強度にノイズ成分を付与する上記の構成によれば、受信信号強度の経時的な変動を擬似的に再現することができるため、長時間の測定を行わなくとも、受信信号強度の経時的な変動を加味した教師データ212を生成することができる。
【0059】
〔磁気による測位について〕
屋内においては、鉄製の構造物に残留磁気が保持されることにより、地点ごとに磁気の特徴が生まれる。位置推定部105は、この特徴を利用して測位を行ってもよい。この場合、データ取得部101は、測定地点で測定された磁気を示す磁気データを測位用のデータ111として取得する。例えば、データ取得部101は、互いに直交する3軸方向の磁気の強さを示すデータを取得してもよい。また、測位対象の建屋内の各地点において予め磁気を測定し、各地点で測定した磁気の強さを示すデータとその測定地点とを対応付けて、照合用磁気データ113として記憶部11に記憶しておく。照合用磁気データ113に示される磁気の特徴は、磁気フィンガープリントと表現することもできる。
【0060】
これにより、位置推定部105は、測位用のデータ111に含まれる磁気データと照合用磁気データ113とを照合することにより、測定地点を推定することが可能になる。なお、推定対象のエリアが広くなるほど、磁気フィンガープリントが複数の地点で一致してしまう可能性が高くなり、これにより誤った推定結果が出力される可能性も高くなる。このため、位置推定部105による推定精度を高めるためには、推定対象のエリアをできるだけ狭い範囲に絞り込むことが重要であり、上述のように測位装置1ではこの絞り込みをエリア推定部103が行う。
【0061】
〔PDR(Pedestrian Dead Reckoning)による測位について〕
位置推定部105の測位手法は磁気を用いるものに限られない。例えば、位置推定部105は、PDRにより測位を行うものであってもよい。PDRで測位する場合、測位の対象(例えば図3の人物B)に、PDRによる測位で必要となる各種データを測定するための測定装置を身に付けさせておけばよい。例えば、加速度センサやジャイロセンサを身に付けさせておいてもよい。そして、位置推定部105は、測定された時系列の加速度データ等を用いて上記対象の位置を順次更新していくことにより、上記対象の現在位置を推定する。PDRによる測位を行う場合も、位置推定部105による推定精度を高めるためには、推定対象のエリアをできるだけ狭い範囲に絞り込むことが重要である。
【0062】
〔処理の流れ〕
測位装置1が実行する処理(測位方法)の流れを図5に基づいて説明する。図5は、測位装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、図3に示した測定機器3により、気圧とLPWAの受信信号強度と磁気を測定し、これらの測定値から測定機器3を所持する人物Bの測位を行う例を説明する。
【0063】
S11では、データ取得部101が測位用のデータ111を取得する。測位用のデータ111には、測定機器3により測定された気圧、LPWAの受信信号強度、および磁気をそれぞれ示すデータが含まれている。また、測位用のデータ111には、所定の基準位置(例えば建屋Aの第1階層のエントランス)で定点観測された気圧を示すデータも含まれている。なお、所定の基準位置での気圧の測定は例えば所定時間おきに行い、新たに気圧が測定されたときに、その測定値を測定時刻と共に測位用のデータ111に追加するようにしてもよい。また、LPWAではなく、Wi-FiやBLEの受信信号強度を取得してもよい。
【0064】
S12では、前処理部102が、S11で取得された測位用のデータ111に対して前処理を行う。上述のように、前処理部102は、測位用のデータ111に示される気圧値から測定機器3の絶対誤差をオフセットとして差し引く処理、気圧差を算出する処理、LPWAの受信信号強度の欠損値を補間する処理、および気圧差と補間後のLPWAの受信信号強度をスケーリングする処理等を行う。なお、気圧差の算出について、基準位置の気圧の測定が所定時間おきに行われている場合、前処理部102は、測定機器3により気圧が測定された時刻と最も近い時刻に基準位置で測定された気圧との差を算出すればよい。
【0065】
S13(エリア推定ステップ)では、エリア推定部103が、建屋A内において測位用のデータ111を測定した測定地点が存在するエリア(つまり人物Bが居るエリア)を、測位用のデータ111を用いて推定する。
【0066】
具体的には、エリア推定部103は、S12で前処理したLPWAの受信信号強度と気圧差を推定モデル112に入力する。これにより、推定モデル112から、測定地点が存在する可能性のある複数のエリアのそれぞれについて、当該エリアに測定地点が存在する確率が出力される。
【0067】
例えば、図3の建屋Aについて、以下の6つのエリアを設定したとする。
【0068】
(1)第1階層の吹き抜けエリア(第1階層の部屋A1内)
(2)第1階層の吹き抜けではないエリア(部屋A2またはA3内)
(3)第2階層の吹き抜けエリア(第2階層の部屋A1内)
(4)第2階層の吹き抜けではないエリア(部屋A4内)
(5)第3階層の吹き抜けエリア(第3階層の部屋A1内)
(6)第3階層の吹き抜けではないエリア(部屋A5またはA6内)
この場合、各エリアで測定された気圧から算出した気圧差とLPWAの受信信号強度に対し、それらが測定されたエリアを正解データとしてラベル付けした教師データ212を用いた機械学習により生成された推定モデル112を用いればよい。このような推定モデル112に、S12で前処理されたLPWAの受信信号強度と気圧差を入力すれば、上述の6つのエリアのそれぞれについて、当該エリアに測定地点が存在する確率が出力される。
【0069】
S14では、エリア統合部104が、S13において推定された確率が上位の所定数のエリアを統合して統合エリアとする。S14では、推定された確率の合計が1またはそれに近い値となるように統合するエリアを選択することが好ましい。なお、S14の処理は省略してもよい。この場合、S13では、推定された確率が最も高かったエリアを推定結果とすればよい。
【0070】
S15(位置推定ステップ)では、位置推定部105が、統合エリアを対象とした測位を行う。具体的には、位置推定部105は、S11で取得された測位用のデータ111に示される測定地点の磁気と、照合用磁気データ113に示される磁気のうち統合エリア内で測定された磁気とを照合することにより測定地点の位置を推定する。なお、S14の処理が省略された場合には、S15ではS13で推定されたエリアにおける測定地点の位置を推定する。また、位置推定部105は、位置の推定結果を出力部14等に出力させてもよい。以上で図5の処理は終了となる。なお、図5の処理は、所定時間間隔で繰り返し行ってもよい。これにより、人物Bの時系列の測位結果を得ることができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る測位方法は、建屋内において測位用のデータ111を測定した測定地点が存在するエリアを、測位用のデータ111を用いて推定するエリア推定ステップ(S13)と、推定されたエリアにおける測定地点の位置を推定する位置推定ステップ(S15)と、を含む。これにより、測位対象エリアを絞り込んだ上で測位することができるため、安定した精度で測位を行うことができる。
【0072】
〔処理の流れ〕
学習装置2が実行する処理(学習方法)の流れを図6に基づいて説明する。図6は、学習装置2が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、図3に示した建屋Aにおいて、測定位置が上述の6エリアの何れに該当するかを気圧差とLPWAの受信信号強度から推定する推定モデル112を生成する例を説明する。
【0073】
S21では、データ取得部201が学習用のデータ211を取得する。学習用のデータ211には、上述の6つのエリアのそれぞれで測定された気圧およびLPWAの受信信号強度をそれぞれ示すデータが含まれている。また、学習用のデータ211には、所定の基準位置(例えば建屋Aの第1階層のエントランス)で定点観測された気圧を示すデータも含まれている。
【0074】
S22では、教師データ生成部202が、S21で取得された学習用のデータ211に対して前処理を行う。上述のように、教師データ生成部202は、学習用のデータ211に示される気圧値から気圧を測定したセンサの絶対誤差をオフセットとして差し引く処理、気圧差を算出する処理、LPWAの受信信号強度の欠損値を補間する処理、および気圧差と補間後のLPWAの受信信号強度をスケーリングする処理等を行う。
【0075】
S23では、教師データ生成部202は、前処理後の気圧差およびLPWAの受信信号強度に対して、当該受信信号強度および気圧が測定されたエリアを示すデータを正解ラベルとして対応付けて教師データ212を生成する。上述の6つのエリアの正解ラベルは、建屋A内における学習用のデータを測定した各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かを示すものであるといえる。また、教師データ生成部202は、LPWAの受信信号強度にノイズ成分を付与して教師データ212を生成してもよい。
【0076】
S24(教師データ取得ステップ)では、教師データ取得部203が、S23で生成された教師データ212を取得する。この例における教師データ212は、建屋A内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差および各地点で測定されたLPWAの受信信号強度に、各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられたものであるといえる。
【0077】
S25(学習ステップ)では、学習部204が、S24で取得された教師データ212を用いた学習により推定モデル112を生成する。上述のように、教師データ212は、気圧差およびLPWAの受信信号強度に各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられたものであるといえる。このため、教師データ212を用いた学習により生成される推定モデル112は、測定地点と基準地点との気圧差および同測定地点で計測されたLPWAの受信信号強度から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するためのモデルであるといえる。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る学習方法は、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差およびLPWAの受信信号強度に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データ212を取得する教師データ取得ステップ(S24)と、教師データ212を用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差および同測定地点で測定されたLPWAの受信信号強度から、当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデル112を生成する学習ステップ(S25)と、を含む。これにより、安定してエリア推定を行うことが可能な推定モデル112を生成することができる。なお、LPWAの受信信号強度を用いることは必須ではなく、気圧差のみからエリアを推定する推定モデル112を生成してもよい。
【0079】
〔変形例〕
上述したエリア設定は一例にすぎず、測位対象となる建屋内にどのようなエリアを設定するかは任意である。例えば、複数の階層を含む建屋において、1つの階層を1つのエリアに設定してもよい。また、測位装置1は、吹き抜けのない建屋における測位にも利用することができる。
【0080】
また、上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置(プロセッサということもできる)により、測位装置1の機能を代替することができる。例えば、図1に示す各ブロックを複数の情報処理装置に分散して設けることにより、測位装置1と同様の機能を有するシステムを構築することができる。よって、図5に示した測位方法の実行主体も、複数の情報処理装置とすることができる。学習装置2についても同様であり、相互に通信可能な複数の情報処理装置により、学習装置2の機能を代替することができ、図6に示した学習方法の実行主体も、複数の情報処理装置とすることができる。
【0081】
〔ソフトウェアによる実現例〕
測位装置1および学習装置2(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10および20に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(測位プログラム/学習プログラム)により実現することができる。
【0082】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0083】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0084】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0085】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る測位装置は、建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定部と、推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定部と、を備える。
【0086】
本発明の態様2に係る測位装置では、前記態様1において、前記エリア推定部は、前記測定地点が存在する可能性のある複数のエリアのそれぞれについて、当該エリアに前記測定地点が存在する確率を推定し、前記位置推定部は、推定された前記確率が上位の所定数の前記エリアを統合した統合エリアにおける前記測定地点の位置を推定する。
【0087】
本発明の態様3に係る測位装置では、前記態様1または2において、前記建屋は、吹き抜けのエリアと、吹き抜けではないエリアとを含む複数階層の建屋であり、前記測位用のデータには、前記測定地点で測定された気圧を示すデータが含まれており、前記エリア推定部は、前記測定地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に基づいて、前記測定地点の階層、および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定する。
【0088】
本発明の態様4に係る測位装置では、前記態様1から3の何れかにおいて、前記測位用のデータには、前記測定地点で測定されたLPWA(Low Power Wide Area-network)の受信信号強度を示すデータが含まれており、前記エリア推定部は、前記受信信号強度に基づいて、前記測定地点が存在するエリアを推定する。
【0089】
本発明の態様5に係る学習装置は、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得部と、前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習部と、を備える。
【0090】
本発明の態様6に係る学習装置では、前記態様5において、前記教師データには、前記建屋内の各地点で測定されたLPWAの受信信号強度を示すデータが含まれており、LPWAの受信信号強度を示す前記データにノイズ成分を付与したデータを用いて教師データを生成する教師データ生成部を備える。
【0091】
本発明の態様7に係る測位方法は、1または複数の情報処理装置により実行される測位方法であって、建屋内において測位用のデータを測定した測定地点が存在するエリアを、当該測位用のデータを用いて推定するエリア推定ステップと、推定された前記エリアにおける前記測定地点の位置を推定する位置推定ステップと、を含む。
【0092】
本発明の態様8に係る学習方法は、1または複数の情報処理装置により実行される学習方法であって、建屋内の各地点で測定された気圧と所定の基準地点で測定された気圧との差に、前記各地点の階層および当該地点が吹き抜けのエリアであるか否かが正解ラベルとして対応付けられた教師データを取得する教師データ取得ステップと、前記教師データを用いた学習により、測定地点と基準地点との気圧差から当該測定地点の階層および当該測定地点が吹き抜けのエリアであるか否かを推定するための推定モデルを生成する学習ステップと、を含む。
【0093】
本発明の態様9に係る測位プログラムは、態様1に記載の測位装置としてコンピュータを機能させるための測位プログラムであって、前記エリア推定部および前記位置推定部としてコンピュータを機能させる。
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 測位装置
103 エリア推定部
105 位置推定部
111 測位用のデータ
112 推定モデル
2 学習装置
202 教師データ生成部
203 教師データ取得部
204 学習部
212 教師データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6