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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072171
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】エアロゲル複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/40 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
C08J9/40 CER
C08J9/40 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182882
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】夛田 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】平田 敬之
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA16
4F074CD04
4F074CE04
4F074CE15
4F074CE37
4F074CE83
4F074CE98
4F074DA02
4F074DA07
4F074DA32
4F074DA35
(57)【要約】
【課題】 優れた性能を有するエアロゲル複合体を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は、多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルとを含み、水蒸気吸着法に基づくBET比表面積をSAとし、窒素ガス吸着法に基づくBET比表面積をSAとしたときに、[SA/SA]で示される疎水化度が10.0以上であることを特徴とする、エアロゲル複合体である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含み、
水蒸気吸着法に基づくBET比表面積をSAとし、窒素ガス吸着法に基づくBET比表面積をSAとしたときに、[SA/SA]で示される疎水化度が10.0以上であることを特徴とする、エアロゲル複合体。
【請求項2】
前記エアロゲルがシリカエアロゲルである、請求項1記載のエアロゲル複合体。
【請求項3】
熱伝導率が0.0160W/m・K未満である、請求項1又は2記載のエアロゲル複合体。
【請求項4】
前記多孔質基材が発泡体である、請求項1又は2記載のエアロゲル複合体。
【請求項5】
断熱材である、請求項1又は2記載のエアロゲル複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲル複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱材は熱エネルギーを有効利用し、省エネルギーを推進する上で不可欠な素材である。自動車、住宅用途を中心に、発泡系、繊維系断熱材や真空断熱材等の様々な断熱材料が使用されている。
【0003】
近年、断熱性に優れた材料として、エアロゲルが注目を集めている。エアロゲルとは、低密度で空隙率の高い乾燥ゲル体の総称で、湿潤ゲルを乾燥させて得られる多孔質体である。シリカエアロゲル等は極めて脆く、単体でのハンドリングが非常に困難な場合があることから、エアロゲルとその他の材料(例えば、発泡体)とを複合化させた材料が検討されてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-47710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
省エネ需要の高まりや電気製品の小型化によって、より高い性能を有するエアロゲル複合体が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、優れた性能を有するゲル複合体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある形態は、
多孔質基材と、前記多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含み、
水蒸気吸着法に基づくBET比表面積をSAとし、窒素ガス吸着法に基づくBET比表面積をSAとしたときに、[SA/SA]で示される疎水化度が10.0以上であることを特徴とする、エアロゲル複合体である。
【0008】
前記エアロゲルがシリカエアロゲルであることが好ましい。
前記エアロゲル複合体は、熱伝導率が0.0160W/m・K未満であることが好ましい。
前記多孔質基材は発泡体であることが好ましい。
エアロゲル複合体は、断熱材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた性能を有するゲル複合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0011】
以下において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0012】
以下において、単に「密度」とした場合、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に準拠して測定された見かけ密度を示すものとする。
【0013】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(23℃)として実施する。
【0014】
以下、エアロゲル複合体の、構造/成分、物性/性質、製造方法、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<<<構造/成分>>>
本開示に係るエアロゲル複合体は、多孔質基材と、多孔質基材の内部の空隙に充填されたエアロゲルと、を含む。
【0016】
<<多孔質基材>>
多孔質基材は、エアロゲルを保持可能な孔を多く有する材料である。
【0017】
多孔質基材中の孔の大きさは、特に限定されない。多孔質基材は、例えば、マイクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料等であってもよい。
【0018】
多孔質構造中の孔は、連通孔であることが好ましい。多孔質構造体が連通孔を有することで、エアロゲルを十分に充填させることが容易となる等の理由により、複合体の断熱性が優れたものとなりやすい。
【0019】
多孔質基材としては、具体的には、発泡体、繊維によって形成された繊維基材(例えば、織布や不織布)、3次元で複雑な骨格を形成している基材(例えば、多孔質セラミック基材)等が挙げられる。多孔質基材は、エアロゲル複合体の断熱性、加工性、製造容易性等をバランスよく高めるという観点から、発泡体又は不織布であることが好ましく、更にエアロゲルの保持性を高めるという観点から、発泡体であることが特に好ましい。
【0020】
繊維基材を構成する繊維としては、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属で構成された金属繊維、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース等の有機物で構成された有機繊維、ガラス、炭素、シリカ、ロックウール、セラミック等の無機物で構成された無機繊維等を用いることができる。
【0021】
発泡体としては、オレフィン樹脂発泡体、アクリル樹脂発泡体、ウレタン樹脂発泡体、酢酸ビニル樹脂発泡体、塩化ビニル樹脂発泡体、エポキシ樹脂発泡体、ゴム発泡体、シリコーン樹脂発泡体、メラミン樹脂発泡体、ポリイミド樹脂発泡体等の公知の発泡体が挙げられる。
【0022】
発泡体は、熱圧縮されたものであってもよい。発泡体を熱圧縮することで、発泡基材の密度、厚み、通気度等を所望の範囲としやすくなり、得られるエアロゲル複合体の断熱性、製造容易性等を高めることができる。
【0023】
また、発泡体は、表皮層を有するものであってもよい。表皮層は、一般的に、発泡体の中心部よりも高い密度を有する(気泡が少ない)領域である。発泡体が表皮層を有することで、エアロゲル複合体を使用する際のエアロゲルの脱離(粉落ち)を防止しやすい。
【0024】
発泡体を熱圧縮する方法や、発泡体に表皮層を形成する方法については、特開2022-011146号公報等に開示された方法を用いることができる。
【0025】
多孔質基材の密度は、0.01g/cm以上、0.02kg/m以上、0.05kg/m以上、0.08g/cm以上、又は、0.10g/cm以上であることが好ましく、また、2.0g/cm以下、1.0g/cm以下、0.80g/cm以下、0.60kg/m以下、0.40g/cm以下、又は、0.25g/cm以下であることが好ましい。多孔質基材の密度がこのような範囲であると、優れた断熱性を得やすい。
【0026】
多孔質基材の厚み(或いはエアロゲル複合体の厚み)は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。エアロゲル複合体の断熱性、加工性、製造容易性等をバランスよく高めるという観点から、多孔質基材の厚み(或いはエアロゲル複合体の厚み)は、0.1mm以上、0.2mm以上、0.5mm以上、又は、1.0mm以上であることが好ましく、また、100.0mm以上、50.0mm以上、20.0mm以上、10.0mm以下、又は、5.0mm以下であることが好ましい。
【0027】
多孔質基材の形状(或いはエアロゲル複合体の形状)は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
【0028】
<<エアロゲル>>
エアロゲルとしては、特に限定されず、シリカエアロゲル及びアルミナエアロゲル等の無機エアロゲル、レゾルシノール・ホルムアルデヒド・エアロゲル(RFエアロゲル)、セルロースナノファイバー・エアロゲル(CNFエアロゲル)等の有機エアロゲル、炭素エアロゲル、並びに、これらの混合物等が挙げられる。エアロゲルは、シリカエアロゲルであることが好ましい。
【0029】
エアロゲルの密度は、0.001g/cm以上、0.01kg/m以上、0.05kg/m以上、0.08g/cm以上、又は、0.10g/cm以上であることが好ましく、また、2.0g/cm以下、1.0g/cm以下、0.80g/cm以下、0.60kg/m以下、0.40g/cm以下、0.25g/cm、又は、0.20g/cm以下であることが好ましい。エアロゲルの密度がこのような範囲であると、優れた断熱性を得やすい。
【0030】
<<<物性/性質>>>
<<疎水化度>>
エアロゲル複合体は、水蒸気吸着法に基づくBET比表面積をSAとし、窒素ガス吸着法に基づくBET比表面積をSAとしたときに、[SA/SA]で示される疎水化度が、10.0以上、12.0以上、又は、14.0以上であることが好ましい。疎水化度の上限値は特に限定されないが、例えば、50.0以下、40.0以下、又は、30.0以下である。疎水化度がこのような範囲内であるエアロゲル複合体は、エアロゲル表面の水酸基の疎水基への置換率が高く、経時でのゲルの収縮を抑制できるため、優れた断熱性が奏されるものと考えられる。
【0031】
水蒸気吸着法に基づくBET比表面積及び窒素ガス吸着法に基づくBET比表面積は、JIS Z 8831-2「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性 第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」に準拠して、細孔分布測定装置を用いて測定された数値とする。
【0032】
<<密度>>
エアロゲル複合体の密度は、0.01g/cm以上、0.02kg/m以上、0.05kg/m以上、0.10g/cm以上、又は、0.20g/cm以上であることが好ましく、また、2.0g/cm以下、1.0g/cm以下、0.80g/cm以下、0.60kg/m以下、0.40g/cm以下、又は、0.30g/cm以下であることが好ましい。エアロゲル複合体の密度がこのような範囲であると、優れた断熱性を得やすい。
【0033】
<<熱伝導率>>
エアロゲル複合体の熱伝導率は、0.0160W/m・K未満、0.0157W/m・K以下、又は、0.0155W/m・K以下であることが好ましい。エアロゲル複合体の熱伝導率がこのような範囲であると、断熱材として十分な性能が奏され、種々の用途に適用することができる。
【0034】
熱伝導率は、JIS A1412-2:1999「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に従って、熱伝導率測定装置(英弘精機社製:HC-72)を用いて測定されたものとする。
【0035】
<<<製造方法>>>
本開示に係るエアロゲル複合体は、例えば、以下の工程を実施することで製造することができる。
(1)ゾル溶液を調製するゾル調製工程
(2)多孔質基材中にゾル溶液を充填する充填工程
(3)多孔質基材中のゾル溶液をゲル化して湿潤ゲルを調製するゲル調製工程
(4)多孔質基材中の湿潤ゲルの水分を非水溶媒に置換する溶媒置換工程
(5)多孔質基材中の湿潤ゲルの表面を疎水化させる疎水化工程
(6)多孔質基材中の湿潤ゲルを乾燥させエアロゲルを調整する乾燥工程
【0036】
本開示に係るエアロゲル複合体の製造方法は、得られたシリカエアロゲル複合体の形状を別の形状に加工する加工工程を含んでいてもよい。
【0037】
これらの工程は、連続的に或いは断続的に実施されてもよいし、複数の工程が同時に実施されてもよい。
【0038】
以下、各工程を順に説明する。なお、以下においては、シリカエアロゲル複合体に係る製造方法について詳述するが、シリカエアロゲル以外のエアロゲルを含む複合体についても、原料を変更する以外は同様の方法を適用して製造することができる。
【0039】
<<ゾル調製工程>>
ゾル調製工程は、所定の溶媒中に主剤(シリカ原料)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合することにより、ゾル溶液を調製する工程である。
【0040】
<主剤>
主剤は、シリカエアロゲルの原料となる成分であれば特に限定されず、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩やアルコキシシランを挙げることができる。
【0041】
ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。例えば、ケイ酸ナトリウムは、NaO・nSiO・mHOの分子式で表される。係数nはSiO・NaOのモル比であり、係数mはNaOに対するHOのモル比であり、SiO及びNaO成分の質量比とモル比の関係は次の式1で示される。
(式1) モル比=(a/b)×1.032
式1において、aは、SiOの質量、bは、NaOの質量である。また、定数である1.032は、SiOの分子量とNaOとの分子量の比である。一般に、製造されているケイ酸ナトリウムのモル比(n値)は、0.5~5.0である。ケイ酸ナトリウムは、NaO・nSiOで示される構造であればよく、n値は、特に限定されない。ケイ酸ナトリウムのn値は、入手が容易であるため0.5~5.0が好ましいが、一般に製造されていない0.5~5.0の範囲外のものでもよい。ケイ酸ナトリウムは、例えば、他の原料と混合する前に水に溶解させ、ケイ酸ナトリウム水溶液として用いることができる。その場合に、n値が、1未満の場合には結晶性であり、水への溶解性が容易ではないため、水への溶解が容易である1.0~5.0がより好ましい。
【0042】
アルコキシシランとしては、特に限定されるものではなく、2官能、3官能又は4官能のアルコキシシランを単独で又は複数種を混合して用いることができる。2官能アルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン等が挙げられる。3官能アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。4官能アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。また、アルコキシシランとして、ビストリメチルシリルメタン、ビストリメチルシリルエタン、ビストリメチルシリルヘキサン、ビニルトリメトキシシラン等を用いることもできる。また、アルコキシシランの部分加水分解物を原料として用いてもよい。
【0043】
<溶媒>
溶媒としては、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール等)、非プロトン性極性有機溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭化水素(n-ヘキサン、ヘプタン等)、含フッ素溶媒(2H,3H-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン等)及びこれらの混合物等が挙げられる。ここで、主剤としてアルコキシシランを用いる場合、アルコキシシランの加水分解と縮重合は、水の存在下で行うことが好ましく、更に水との相溶性を有し、且つアルコキシシランを溶解する有機溶媒と水との混合液を用いて行うことが好ましい(加水分解工程と縮重合工程を連続して行うことが可能となる)。ここで、水との相溶性を有し且つアルコキシシランを溶解する溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコールや、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0044】
<界面活性剤>
主剤以外の各種原料として、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、後述するゲル調製工程において、エアロゲルを構成するバルク部と気孔部とを形成することに寄与する。ここで、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤(例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤)等を例示することができる。
【0045】
<<充填工程>>
充填工程は、ゾル溶液を多孔質基材中に充填する工程である。
【0046】
充填工程は、例えば、ゾル溶液に多孔質基材を含侵させることで実施できる。この場合、含侵時間等は、多孔質基材中にゾル溶液が十分に充填される時間となるように適宜調整すればよい。また、多孔質基材中へのゾル溶液の充填を促進させるためにゾル溶液に振動を与えてもよい。
【0047】
<<ゲル調製工程>>
ゲル調製工程は、多孔質基材中に充填されたゾル溶液をゲル化する工程、即ち、湿潤ゲルが多孔質基材中に充填されたゲル複合体を得る工程である。
【0048】
ゲル調製工程は、例えば、ゾル調製工程において得られたゾル溶液に触媒を添加することで実施できる。
【0049】
触媒の内、塩基性触媒の具体例としては、アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化テトラアルキルアンモニウム類;トリメチルアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ類;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;及びアルカリ金属ケイ酸塩、等が挙げられる。また、酸性触媒としては、例えば、塩酸、クエン酸、硝酸、硫酸、フッ化アンモニウム等が挙げられる。これらの内、金属元素の混入がなく、水洗操作が不要である点で、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウム類、又はアミン類を用いることが好ましく、特にアンモニアが好ましい。
【0050】
触媒の量は、ゾル溶液を十分にゲル化できる量であればよく、特に限定されない。
【0051】
ここで、ゾル調製工程或いは充填工程において、ゾル溶液に予め触媒が添加されていてもよい。この場合、例えば、ゾル溶液がゲル化するまでの間に充填工程を完了させる、或いは、失活した触媒をゾル溶液に含有させ、充填工程が完了した後に触媒を活性化させる等の手法によって、湿潤ゲルが多孔質基材中に充填されたゲル複合体を得ることができる。
【0052】
ゲル調製工程は、ゾル溶液に触媒を添加する方法に限定されない。例えば、ゲル調製工程は、ゾル溶液を高温に加熱して、加水分解や縮重合を実施する工程等であってもよい。
【0053】
ゲル調製工程は、球状のエアロゲルを調製すべく、W/O型エマルションを形成させる工程を含んでいてもよい。具体的には、該工程は、水性ゾル溶液を疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成する工程である。換言すれば、水性ゾル溶液を分散質とし疎水性溶媒を分散媒として、エマルションを形成させる工程である。
【0054】
このようなW/Oエマルションを形成することにより、分散質であるゾル溶液は、表面張力等により球状になる。この状態で、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているゾル溶液をゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。ここで、W/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。
【0055】
<<溶媒置換工程>>
溶媒置換工程は、乾燥工程におけるゲル(湿潤ゲル)の収縮を抑えるため、ゲルの表面及び内部の水(又は水と有機溶剤)を非水溶媒と置換する工程である。
【0056】
非水溶媒は、水以外の溶媒であり、例えば、好ましくは極性溶媒であり、更に好ましくは水と相溶性を示す溶媒である。具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、メチルノナフルオロブチルエーテル等のフッ素系溶媒等を挙げることができる。非水溶媒としては、単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0057】
溶媒置換工程の実施回数は、一回でも複数回でもよい。環境負荷や作業性、コスト削減等の観点から、溶媒置換回数は一回が好適である。尚、溶媒置換を複数回実施する場合、ある回での溶媒と別の回での溶媒とで異なったものを用いてもよい。例えば、乾燥工程直前に用いる溶媒として、20℃における表面張力(以下、STとする。)が45mN/m以下の有機溶剤を用いてもよい。例えば、このような有機溶剤として、ジメチルスルホキシド(ST:43.5mN/m)、シクロヘキサン(ST:25.2mN/m)、イソプロパノール(ST:21mN/m)、ヘプタン(ST:20.2mN/m)、ペンタン(ST:15.5mN/m)、エタノール(ST:22.4mN/m)、メタノール(ST:22.6mN/m)、パーフルオロヘキサン(ST:12mN/m)、パーフルオロオクタン(ST:15mN/m)、メチルノナフルオロブチルエーテル(ST:13.6mN/m)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0058】
一回当たりの溶媒置換工程に使用される溶媒の量は、例えば、ゲル複合体の容量に対し、例えば、2倍以上1000倍以下の量である。溶媒置換の方法としては、全置換、部分置換、循環置換のいずれの方法であってもよい。
【0059】
本開示に係るエアロゲル複合体の製造方法においては、前記一回又は複数回のいずれか若しくはすべてにおいて、脱水剤を使用する。即ち、非水溶媒中に脱水剤が含まれる状況にて、溶媒置換を実施する。
【0060】
脱水剤は、溶媒から水を脱水可能である限り特に限定されない。脱水剤の吸水量は、例えば、脱水剤の乾燥質量1g当たり、0.01g以上、0.05g以上、0.10g以上、0.15g以上、0.20g以上の水を吸水可能な成分である。脱水剤の吸水量の上限値は、何ら限定されず、脱水剤の乾燥質量1g当たり、1000g以下、100g以下、50g以下、10g以下、5g以下、2g以下、1g以下とすることができる。
【0061】
脱水剤としては、湿潤ゲルに含まれる水分を化学的又は物理的に脱水可能な物質、より具体的な例としては、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、ゲルの物性に影響し難い、脱水完了後、系中より分離しやすく再利用しやすい等の理由から、ゼオライトが特に好適である。
【0062】
ここで、有効直径が1nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが好適であり、有効直径が0.5nm未満の分子を吸着可能なゼオライトがより好適であり、有効直径が0.4nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが更に好適であり、有効直径が0.3nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが最も好適である。
【0063】
脱水剤の形状は、特に限定されず、例えば、パウダー状、ペレット状、球状、カートリッジ状を挙げることができる。
【0064】
脱水剤の使用量(乾燥質量)は、ゲル又はゲル複合体中に含まれている水分量(質量)を基準として、2.5倍以上、5.0倍以上、7.5倍以上、10.0倍以上、12.5倍以上、15.0倍以上、17.5倍以上、20.0倍以上、22.5倍以上、25.0倍以上、27.5倍以上、30.0倍以上、32.5倍以上、35.0倍以上、37.5倍以上、40.0倍以上、42.5倍以上、45.0倍以上、47.5倍以上、50.0倍以上であることが好適である。尚、脱水剤の使用量(乾燥質量)の上限は、特に限定されず、例えば、1000.0倍以下、500.0倍以下、100.0倍以下、50.0倍以下、40.0倍以下、30.0倍以下、25.0倍以下、20.0倍以下、15.0倍以下、10.0倍以下等である。
【0065】
このように、脱水剤を用いた溶媒置換工程を実施することで、脱水剤を用いない通常の溶媒置換工程よりも多孔質基材内部の水分が除去されやすくなる。その結果、後述する疎水化工程が水分によって阻害され難くなり、疎水化度の高いシリカエアロゲル複合体を得ることができる。
【0066】
溶媒置換工程における脱水剤の種類を変更する他、脱水剤の使用量を増やす、脱水剤の適用時間(或いは溶媒置換工程の実施回数)を増やす等により、シリカエアロゲル複合体の疎水化度を高めることができる。
【0067】
尚、溶媒置換工程にて使用された脱水剤の内、加熱等で乾燥させることで再生するものもある。このような脱水剤については、再生後に再利用することが好適である。同様に、溶媒置換工程にて使用された非水溶媒も再利用することが好適である。
【0068】
<<疎水化工程>>
疎水化工程は、ゲルの内壁に存在する水酸基同士が乾燥時に脱水縮合し、収縮するのを防ぐためにエアロゲルの表面を疎水化剤(例えば、シリル化剤や機能性シラン)で疎水化させる工程である。
【0069】
機能性シランとしては、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザンで構成される一群のケイ素化合物を挙げることができる。
【0070】
脱水工程において脱水剤を用いた溶媒置換を行った場合、疎水化剤の作用が阻害されず、疎水化度の高いエアロゲルが形成される。さらに、このように疎水化度の高いエアロゲルは、断熱性に優れるものとなる。
【0071】
<<乾燥工程>>
乾燥工程は、ゲルを乾燥させてシリカエアロゲルを得る工程である。ここで、乾燥の手法としては特に制限されず、超臨界乾燥法、常圧乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。これらの内、本形態に係る製造方法は、超臨界乾燥法を用いる場合に特に適している。
【0072】
<<<用途>>>
本開示に係るエアロゲル複合体は、既存のエアロゲル複合体と比較して、断熱性能、遮熱性能等に優れる。そのため、厚みを薄くすることができ、狭い空間に配した場合等でも、空間を圧迫することなく、十分な断熱性能、遮熱性能を発揮することができる。そのため、本開示に係るエアロゲル複合体は、断熱材として好ましく用いることができ、更に、建築部材、産業機器、電気製品等の種々の分野に用いることができる。
【0073】
本開示に係るエアロゲル複合体の具体的な用途としては、例えば、建築物の壁材、床材或いは天井材、プラント配管に巻きつけて使用される断熱材、熱電素子に貼り付けて熱の拡散を防ぐ/発電効果を向上させるため使用される断熱材、各種電池の筐体等に組付けられ電池性能を安定化させるために使用される断熱材、食品や医療・医薬品等を保冷、保温するための保冷温ボックスの断熱材、冷凍庫や冷蔵庫等に用いられる断熱材、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等の乗り物の内装材(例えば、屋根の内部に設けられる天井材)等が挙げられる。
【実施例0074】
以下、実施例によって本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらには何ら限定されない。
【0075】
<<実施例1に係るエアロゲル複合体の調製>>
<ゾル調整工程>
テトラメトキシシラン(信越化学工業社製)を主剤として使用し、主剤1モルに対し、45モルのメタノール(和光純薬工業社製)、25モルのイオン交換水(電気抵抗率1×1010Ω・cm以上)及び0.01モルの触媒{25%アンモニア水(和光純薬工業社製)}を混合し、ゾル溶液を調製した。
【0076】
<充填工程/ゲル調整工程>
表1に示す基材(発泡体)を300mm幅、長さ10mに裁断し、セパラブルフラスコへ収納した後、ゾル溶液を基材が完全に浸漬するまで加え、常圧下で3時間静置し、湿潤ゲルが充填された発泡基材を得た。
【0077】
<溶媒置換工程>
湿潤ゲルが充填されたポリオレフィン発泡体と、脱水剤(ゼオライト:モレキュラーシーブ3A)をメタノールに浸漬し、撹拌しながら溶媒置換を24時間行った。JIS K 0068:2001「化学製品の水分測定方法」に従い、平沼微量水分測定装置(HIRANUMA社製:AQ-2200A)で測定した工程終了時のメタノール中の水分濃度は0.07%であった。
【0078】
<疎水化工程>
溶媒置換後の発泡基材内におけるゲル表面を疎水化するため、ヘキサメチルジシラザンのメタノール溶液(濃度20質量%)中に浸漬し、撹拌しながら疎水化処理を24時間行った。
【0079】
<乾燥工程>
ゲル表面が疎水化された基材を、80℃、20MPaの二酸化炭素中に含浸させ、超臨界乾燥を12時間行い、実施例1のエアロゲル複合体を得た。
【0080】
<<実施例2-4に係るエアロゲル複合体の調製>>
使用する基材を表1に示したものとした以外は実施例1と同様にエアロゲル複合体を製造し、実施例2-4に係るエアロゲル複合体を得た。
【0081】
<<比較例1に係るエアロゲル複合体の調製>>
疎水化工程において脱水剤を用いず、溶媒置換を4回実施した以外は実施例1と同様にエアロゲル複合体を製造し、比較例1に係るエアロゲル複合体を得た。
【0082】
<<比較例2に係るエアロゲル複合体の調製>>
使用する基材を表2に示したものとした以外は比較例1と同様にエアロゲル複合体を製造し、比較例2に係るエアロゲル複合体を得た。
【0083】
<<測定/評価>>
各実施例及び各比較例のエアロゲル複合体について、密度、疎水化度、熱伝導率を測定した。測定結果を表1、表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】