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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072199
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】水電解セル、及び水電解セルスタック
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20240520BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240520BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240520BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240520BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B11/052
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182922
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011AA11
4K011AA30
4K011AA69
4K011BA07
4K011CA04
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】高い触媒活性を示しかつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層の提供。
【解決手段】Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオンとを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒と、アイオノマーと、を含むアノード触媒層。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒と、
アイオノマーと、
を含むアノード触媒層。
【請求項2】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.860~0.060である、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項3】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.620~-0.090である、請求項2に記載のアノード触媒層。
【請求項4】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.500~-0.180である、請求項3に記載のアノード触媒層。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属イオンとして、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記金属イオンとして、チタンイオン、ジルコニウムイオン、及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記Bサイトイオンにおける前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計モル濃度が5mol%以上67mol%以下である、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとして、チタンイオンを含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項7】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとしてジルコニウムイオンを含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項8】
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸基を含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項9】
アノードガス拡散層と、請求項1に記載のアノード触媒層と、電解質膜と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層と、セパレータと、を備える水電解セル。
【請求項10】
請求項9に記載の水電解セルが積層された水電解セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アノード触媒層、水電解セル、及び水電解セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(以下、「水電解」という場合がある。)は、電気分解によって水から水素及び酸素を生成する方法である。例えば、エネルギー源として水素を利用する技術において、水電解は、持続可能な水素生成のための有望な技術である。
【0003】
水電解に用いる水電解セルは、アノードセパレータ、アノードガス拡散層、アノード触媒、電解質膜、カソード触媒、カソードガス拡散層、カソードセパレータ等を備えている。アノード触媒及びカソード触媒については、水電解に適した触媒が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ナノ構造化ウィスカーの上に、少なくとも1つの層を含む酸素発生反応電解触媒を有し、前記酸素発生反応電解触媒のいずれの層も、各層のカチオン及び元素金属の総計含有量に対して、少なくとも95原子パーセントのIr及び5原子パーセント以下のPtを全体で含む、ナノ構造化ウィスカーを含む酸素発生反応電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-519420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イリジウム、ルテニウム等のアノード活性を有する元素を含むアノード触媒は高い触媒活性を有する。しかし、アノード触媒は水電解中に強酸化雰囲気に晒されるため、例えば、ルテニウム、イリジウム等の元素は溶解しやすく、当該元素を含むアノード触媒は不安定化しやすい。
【0007】
例えば、特許文献1のようなイリジウムを含む触媒ではイリジウムが溶解しやすく、当該触媒は不安定化するおそれがある。
【0008】
本開示の目的は、高い触媒活性を示し、かつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層、並びに、このアノード触媒層を含む水電解セル及び水電解セルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を含む。
<1>
トイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒と、
アイオノマーと、
を含むアノード触媒層。
<2>
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.860~0.060である、<1>に記載のアノード触媒層。
<3>
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.620~-0.090である、<2>に記載のアノード触媒層。
<4>
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.500~-0.180である、<3>に記載のアノード触媒層。
<5>
前記アルカリ土類金属イオンとして、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記金属イオンとして、チタンイオン、ジルコニウムイオン、及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記Bサイトイオンにおける前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計モル濃度が5mol%以上67mol%以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のアノード触媒層。
<6>
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとして、チタンイオンを含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のアノード触媒層。
<7>
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとしてジルコニウムイオンを含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のアノード触媒層。
<8>
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸基を含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載のアノード触媒層。
<9>
アノードガス拡散層と、<1>~<8>のいずれか1項に記載のアノード触媒層と、電解質膜と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層と、セパレータと、を備える水電解セル。
<10>
<9>に記載の水電解セルが積層された水電解セルスタック。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高い触媒活性を示し、かつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層、並びに、このアノード触媒層を含む水電解セル及び水電解セルスタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】水電解セルの概略断面図である。
図2】log(X/Y)と、log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
<アノード触媒層>
本開示のアノード触媒層は、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒を含む。また、本開示のアノード触媒層は、アイオノマーを含む。
【0017】
本開示によれば、高い触媒活性を示しかつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層が得られる。この効果が奏される理由は、必ずしも明確ではないものの、以下のように推察される。
本開示のアノード触媒層は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒を含むことで安定した触媒活性を持続することができる。さらに、ペロブスカイト型構造のBサイトイオンとしてイリジウムイオン及びルテニウムイオンの少なくとも一方を含み、Aサイトイオン及びBサイトイオンが上記のイオンであることで、当該アノード触媒層を備える水電解セルの電流密度を高めることが可能となり、高い触媒活性を示す。また、アイオノマーを含むことで優れたイオン伝導性が得られ、高い触媒活性を示す。
以上により、高い触媒活性を示しかつ安定した触媒活性を持続できるものと推察される。
【0018】
(酸化物触媒)
まず、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオンとを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒について説明する。
酸化物触媒は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、従来公知の固相法、液相法等により当該ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒を作製可能である。固相法としては、固体原料の直接反応による方法が挙げられ、液相法としては、ペッチーニ法、錯体重合法、水熱合成法等が挙げられる。
【0019】
ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒は、一般的にABOの化学式で表される。ペロブスカイト型構造の酸化物触媒は酸素不定性を有するものもある。酸素量が3より欠損、あるいは過剰となっていてもよい。また、AサイトイオンとBサイトイオンは、それぞれ別の元素に部分的に置換されていてもよい。
【0020】
・アルカリ土類金属イオン(Aサイトイオン)
ペロブスカイト型構造のAサイトイオンは、アルカリ土類金属イオンを含む。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ストロンチウムイオンを含むことがより好ましい。Aサイトイオンは、1種のアルカリ土類金属イオンであってもよく、2種以上のアルカリ土類金属イオンであってもよい。
【0021】
・イリジウムイオン及びルテニウムイオン(Bサイトイオン)
ペロブスカイト型構造のBサイトイオンは、イリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。イリジウムイオン及びルテニウムイオンは、いずれか一方のみを含んでも、両方を含んでもよい。なお、イリジウムイオンを含むことが好ましい。
【0022】
アイオノマーの含有量(X)と、Bサイトイオンに含まれるイリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が、安定した触媒活性を持続できる観点から、-0.860~0.060であることが好ましく、-0.620~-0.090であることがより好ましく、-0.500~-0.180であることがさらに好ましい。
ここで、セルの内部抵抗を低減して水電解反応の効率を高める観点から、アノード触媒層において、触媒粒子を高分散して反応面積を高める一方、イオン伝導を担うアイオノマーの量を適量に調整することが好ましい。イリジウムイオン及びルテニウムイオンに対するアイオノマーの比率を少な過ぎない範囲とすることで、イオン伝導パスが十分に得られセルの内部抵抗が低減され、水電解反応の効率を高められる。一方、イリジウムイオン及びルテニウムイオンに対するアイオノマーの比率を多過ぎない範囲とすることで、アイオノマーが触媒表面を覆って反応面積が少なくなることが抑制され、セルの内部抵抗が低減され、水電解反応の効率を高められる。
【0023】
本開示のアノード触媒層における、Bサイトイオンとしてのイリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計モル濃度は、安定した触媒活性を持続できる観点から、5mol%以上67mol%以下であることが好ましく、7mol%以上60mol%以下であることがより好ましく、10mol%以上50mol%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
・金属イオン(Bサイトイオン)
ペロブスカイト型構造のBサイトイオンは、金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)を含む。金属イオンとしては、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)等の金属のイオンが挙げられる。中でも、金属イオンは、安定な元素でありアノード触媒層の安定した触媒活性を持続できる観点から、チタンイオン、ジルコニウムイオン、及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、チタンイオン、及びジルコニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。Bサイトイオンにおける前記金属イオンは、1種の金属イオンのみであってもよく、2種以上の金属イオンであってもよい。
【0025】
Aサイトイオンにおけるアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンにおける金属イオンと、の組み合わせについて説明する。アルカリ土類金属イオンと金属イオンとの組み合わせは、特に限定されるものではないが、アノード触媒層の安定した触媒活性を持続できる観点から、アルカリ土類金属イオンとしてストロンチウムイオンを含み、金属イオンとしてチタンイオンを含むことが好ましい。また、アノード触媒層の安定した触媒活性を持続できる観点から、アルカリ土類金属イオンとしてストロンチウムイオンを含み、金属イオンとしてジルコニウムイオンを含むことが好ましい。
【0026】
Aサイトイオンに含まれる金属イオンのモル濃度、Bサイトイオンに含まれる金属イオンのモル濃度、及びBサイトイオンに含まれるイリジウムイオンおよびルテニウムイオンのモル濃度は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)によりアノード触媒を分析することで求めることができる。
【0027】
本開示のアノード触媒層における、上記酸化物触媒(ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒)の含有率は、特に限定されず、アノード触媒層の全量に対して、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0028】
(アイオノマー)
次いで、アイオノマーについて説明する。
アイオノマーとは、例えばイオン架橋されたエチレン骨格を基本構造にもつ樹脂である。アイオノマーとしては、優れたイオン伝導を得る観点から、パーフルオロスルホン酸基を骨格中に含むことが好ましい。
【0029】
パーフルオロスルホン酸基を含むアイオノマーとしては、代表例として下記式(1)で示されるアイオノマーが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
(式(1)中、mは0~10を、nは1~10を、xは1~20を、yは100以上を表す。)
【0032】
例えば、ナフィオン(登録商標)117は、式(1)において(m≧1、n=2、x=5~13.5、y=1000)の構造を有する。アイオノマーの化学構造は、触媒からアノード触媒層をはく離させ、固体NMR(核磁気共鳴)測定とCHN分析(炭素C、水素H、窒素N原子分析)を併用することで評価することができる。さらに、触媒とアイオノマーの比率は、ICP(誘導結合プラズマ)分析により評価することができる。
【0033】
本開示のアノード触媒層は、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒、及びアイオノマー以外の成分を含んでいてもよい。例えば、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒以外の触媒活性を有する成分、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒の生成に用いた原料の未反応成分、副反応成分、担体等が挙げられる。担体には、水電解条件で安定な酸化チタンや酸化スズ等が挙げられる。
【0034】
<水電解セル>
本開示の水電解セルは、アノードガス拡散層と、前述の本開示のアノード触媒層と、電解質膜と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層と、セパレータと、を備える。
【0035】
アノードガス拡散層、電解質膜、カソード触媒層、カソードガス拡散層及びセパレータとしては、従来公知の水電解セルにて使用される部材を適用してもよい。
【0036】
水電解セルは、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解セルの構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、ガスケット、シール材等が挙げられる。
【0037】
例えば、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層としては、それぞれ独立に、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルトなどの、層内を流体が流通可能とする物質を用いることができる。
【0038】
アノードガス拡散層は、酸化による高抵抗化を抑制する観点から、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0039】
電解質膜は、水電解に使用される公知の電解質膜(イオン交換膜であってもよい)から選択されてもよい。電解質膜は、プロトン(H)を選択的に透過する性質を有することが好ましい。電解質膜としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜等が挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜としては、例えば、ナフィオン膜が挙げられる。
【0040】
電解質膜は、イオン性基を有することによりプロトン伝導性を有するポリマーであり、例えば、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質のいずれであってもよい。
【0041】
ここで、フッ素系高分子電解質とは、ポリマー中のアルキル基及び/又はアルキレン基における水素の大部分又は全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基を有するフッ素系高分子電解質の代表例としては、“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)、“アクイビオン”(登録商標)(ソルベイ社製)、“フレミオン”(登録商標)(AGC(株)製)及び“アシプレックス”(登録商標)(旭化成(株)製)などの市販品が挙げられる。
【0042】
炭化水素系電解質としては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン骨格等の炭素原子と水素原子のみからなる炭化水素系芳香環だけでなく、ピリジン環、イミダゾール環、チオール環等のヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0043】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合等を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。芳香族炭化水素系ポリマーは、これらの構造を複数有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが好ましい。
【0044】
電解質膜は、補強材と組み合わせてもよい。補強材を用いることで、例えば、ホットプレス法により電解質膜と電極を接合する際に膜が破損することによるガスのリーク、電極内の短絡等が生じにくくなる。
【0045】
補強材の具体例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系高分子又はPE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン)等の熱可塑性樹脂、PI(ポリイミド)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPSS(ポリフェニレンスルフィドスルホン)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PEK(ポリエーテルケトン)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPP(ポリパラフェニレン)、PPQ(ポリフェニルキノキサリン)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)等のエンジニアリングプラスチックなどからなる均質な多孔質膜が挙げられる。
【0046】
カソード触媒は、水電解に使用される公知の触媒から選択されてもよい。触媒の成分としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム及びこれらの合金、これらの酸化物等が挙げられる。触媒の形態は、粒子であってもよい。カソード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0047】
水電解セルは、酸化物触媒(アノード触媒、好ましくは酸化物触媒粒子)及びアイオノマーを含む本開示に係るアノード触媒層を備える。また、カソード触媒(好ましくはカソード触媒粒子)及びアイオノマーを含むカソード触媒層を備えていてもよい。これにより、触媒層内での触媒とアイオノマーとの接触面積が増えるため、反応が促進される傾向にある。
【0048】
酸化物触媒(アノード触媒)の一次粒子径は1nm~10μmであることが好ましく、2nm~1μmであることがより好ましく、5nm~100nmであることがさらに好ましい。酸化物触媒(アノード触媒)の一次粒子径が1nm以上であることにより、接触面積を増加させるために必要なアイオノマーの混合比が大きくなりすぎず、アノード触媒層内部での電子伝導パスを多く確保できるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。アノード触媒の一次粒子径が10μm以下であることにより、アイオノマーとの接触面積の低下が抑制されるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。触媒の粒子径は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡により評価できる。
【0049】
セパレータとしては、アノードガス拡散層側に配置されるアノードセパレータ、及びカソードガス拡散層側に配置されるカソードセパレータが挙げられる。セパレータの材質としては、例えば、チタン、ステンレス、カーボン等が挙げられる。アノード側に発生する酸素による酸化抑制の観点から、アノードセパレータは、チタンを含むことが好ましい。
【0050】
アノードセパレータは、酸化による高抵抗化を抑制するため、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0051】
水電解セルにおける各構成要素の配置は、公知の水電解セルを参考に決定されてもよい。水電解セルにおいて、電解質膜は、アノード触媒層とカソード触媒層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜並びにアノード触媒層及びカソード触媒層は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜、アノード触媒層及びカソード触媒層並びにアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層は、2つのセパレータの間に位置することが好ましい。
【0052】
水電解セルの一例を図1に示す。図1は、水電解セルの概略断面図である。図1に示すように、水電解セル100は、図1の上側から順にアノードセパレータ60と、アノードガス拡散層20と、アノード触媒層12と、電解質膜11と、カソード触媒層13と、カソードガス拡散層30と、カソードセパレータ70と、を備える。さらに、アノードセパレータ60と電解質膜11との間にガスケット40が配置されており、カソードセパレータ70と電解質膜11との間にガスケット50が配置されている。
【0053】
<水電解装置>
本開示の水電解装置は、前述の本開示の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタックであってもよく、当該水電解セルスタック又は本開示の水電解セルと他の構成要素とを備える装置であってもよい。
【0054】
他の構成要素は、公知の水電解装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、パワーコンディショナー、水ポンプ、イオン交換樹脂、熱交換器及び除湿器などの補機類が挙げられる。
【実施例0055】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0056】
<実施例1>
ペッチーニ法により、イリジウムイオンをチタン酸ストロンチウム(SrTiO)のBサイトに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、チタンテトラブトキシド(C1636Ti)及びヘキサクロロイリジウム酸カリウム(KIrCl)とした。Sr(NOを30.2g、KIrClを5.7g、クエン酸一水和物(C・HO)を20.1g、それぞれ秤量し、750mLの純水に投入して混合し、室温で1時間以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C1636Tiを8.1g秤量して、300mLのエチレングリコール(C)とともに混合し、1時間以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。溶液Aを溶液Bに投入した後、ホットスターラーを使用し、70℃で3時間以上攪拌混合した。その後、混合溶液をジルコニア製るつぼに移し、180℃で12時間、200℃で6時間、300℃で6時間、500℃で3時間、600℃で6時間熱処理した。熱処理後の粉末を回収し、濃度1Mの塩酸水溶液500mLとともにビーカーに投入して6時間以上攪拌し、未反応成分を取り除いた。得られた混合溶液は、吸引ろ過器を使用して水洗し、オーブンにて60℃で乾燥した後、触媒粉末を得た。合成した触媒粉末に対して、X線回折測定を実施したところ、ペロブスカイト型構造に由来する回折パターンが得られた。得られた粉末を王水に溶解し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)により分析したところ、Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は67mol%であった。
【0057】
合成した触媒粉末を用いて、電流密度測定用の試験用アノード触媒層を作製した。得られた触媒粉末を10g、アイオノマーに相当する5質量%ナフィオン分散溶液(Sigma-Aldrich社製、70160)を、log(X/Y)(アイオノマーの含有量(X)と、Bサイトイオンに含まれるイリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値)が-0.662となるよう秤量し、2-プロパノール、及び純水とともにガラス容器に移し、ホモジェナイザーにより30分以上混合してアノードスラリーを得た。
カソード触媒には市販のPt/C(白金/カーボン)を用い、アイオノマーと混合してカソードスラリーを得た。
アノードスラリーとカソードスラリーをそれぞれ縦と横の長さがいずれも5cmであるポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))シート上に噴霧し、ホットプレスを用いて電解質膜上に転写することで触媒層付き電解質膜を作製した。テフロンシートへの塗布前後の質量差からアノード触媒量を決定し、触媒の金属元素の比率からイリジウム塗布量を計算した。転写前後のテフロンシートの質量を比較したところ、アノード触媒層の転写率は100%であった。
【0058】
作製した触媒層付き電解質膜を2cm角に切り取り、アノード触媒をヘラではがして掻き取り、王水中に溶解してICP(株式会社日立ハイテクサイエンス製、PS3520VDDII)分析することで、触媒の組成と塗布量を分析したところ、触媒の仕込みの組成および塗布量と一致していた。また、固体19F-NMR分析(Bruker社製・AVANCE NEO400)を実施した。試験は、シングルパルス法、スペクトル幅200kHz、パルス幅2.4μsec、試料回転数20kHzで実施してスペクトルを得た。さらに、イオンクロマトグラフィーによりフッ素と硫黄成分を分析し、アイオノマーの構造を推定したところ、仕込みのアイオノマーの組成と一致していた。推定されたアイオノマーの構造と、イオンクロマトグラフィーによる元素分析の結果から、触媒層に含まれるアイオノマーの質量を推定し、単位面積あたりのアイオノマー塗布量を計算したところ、仕込みの塗布量と一致していた。
【0059】
触媒層付き電解質膜と、アノードガス拡散層と、アノード側のセパレータと、カソードガス拡散層と、カソード側のセパレータと、アノード側のエンドプレートと、アノード側の集電板と、アノード側のエンドプレートと集電板の間に配置する絶縁シートと、カソード側のエンドプレートと、カソード側の集電板と、カソード側のエンドプレートと集電板の間に配置する絶縁シートと、を備える水電解セルを作製した。アノード側のセパレータは、電極設置部の縦と横の長さがそれぞれ5cmであり、一辺5cmの範囲で溝と山の幅がそれぞれ1mm、深さが2mmである流路が26本並列で配置された、Ptめっき処理したチタン製のものを使用した。カソード側のセパレータは、電極設置部の縦と横の長さがそれぞれ5cmであり、一辺5cmの範囲で溝と山の幅がそれぞれ1mm、深さが2mmである流路が26本並列で配置されたカーボン製のものを使用した。アノードガス拡散層は、Ptめっき処理したチタン繊維焼結体を使用した。カソードガス拡散層は、カーボン材(SGLカーボンジャパン株式会社製)のものを使用し、縦と横の長さがそれぞれ5cmとなるよう切り取った。アノードとカソードのガスケットはそれぞれ、電極設置部を切り取ったポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))のシートを使用した。ガスケットの電極設置部を切り取った部分に電極層が配置され、さらに電極設置部と、アノードとカソードの流路部分が重なるよう、アノード側のセパレータと、アノードガス拡散層と、触媒層付き電解質膜と、カソードガス拡散層と、カソード側のセパレータとを積層した。アノード側とカソード側のそれぞれのセパレータを、集電板と絶縁シートとエンドプレートの順に積層し、ボルトで締結することで水電解セルを作製した。アノード側のセパレータには水の入口と、発生した酸素と未反応の水が排出される配管を、カソード側のセパレータには発生した水素が排出される配管をそれぞれ設置した。アノード側とカソード側の集電板をそれぞれ外部電源(菊水電子工業株式会社製、PWR1201L)に接続した。
水電解セルに外部電源を接続後、水電解セルの温度を60℃に昇温し、流量100ml/minで水を水電解セルに供給した。1.50Vから1.90Vまで、定電圧制御で0.1V刻みで2分ずつ保持し、1.90Vに到達後は、1.50Vまで0.1V刻みで2分ずつ保持した。これを1サイクルとし、合計10サイクルのコンディショニングを実施した。次いで、水電解セルの電圧を、定電圧制御で2.3Vで100時間保持し、その後、電圧1.8Vでの電流値を計測することで、log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}を計算したところ、0.891であった。
【0060】
<実施例2>
出発原料として、Sr(NOを62.4g、KIrClを11.9g、C1636Tiを4.2g、C・HOを41.6g、純水を1500mL、Cを600mLとした以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を作製した。Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は33mol%であった。
さらに、log(X/Y)が-0.438となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、1.073であった。
【0061】
<実施例3>
log(X/Y)が-0.137となるよう調整した以外は、実施例2と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を得た。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.843であった。
【0062】
<実施例4>
log(X/Y)が0.039となるよう調整した以外は、実施例2と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.808であった。
【0063】
<実施例5>
出発原料に、Ba(NO、KIrClおよびC1636Tiを用い、Ba(NOを58.7g、KIrClを5.5g、C1636Tiを4.8g、C・HOを19.3g、純水を700mL、Cを300mLとした以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を作製した。Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は45mol%であった。
さらに、log(X/Y)が-0.463となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、1.037であった。
【0064】
<実施例6>
出発原料を、Sr(NO、KIrClおよびオキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl・8HO)とした。Sr(NOを86.8g、KIrClを14.1g、ZrOCl・8HOを14.4g、C・HOを345g、それぞれ秤量し、600mLのCとともに1500mLの純水に投入して混合し、室温で1時間以上攪拌した。その後、ホットスターラーを使用し、75℃で3時間以上攪拌混合した。その後、混合溶液をジルコニア製るつぼに移し、180℃で12時間、200℃で6時間、300℃で6時間、500℃で3時間、600℃で6時間、700℃で6時間熱処理した。熱処理後の粉末の回収し、それ以降の操作は実施例1と同様にして、触媒粉末を作製した。Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は40mol%であった。
さらに、log(X/Y)が-0.459となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、1.049であった。
【0065】
<実施例7>
log(X/Y)が-0.158となるよう調整した以外は、実施例6と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.792であった。
【0066】
<実施例8>
log(X/Y)が0.018となるよう調整した以外は、実施例6と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.732であった。
【0067】
<実施例9>
出発原料に、Ba(NO、KIrClおよびZrOCl・8HOを用い、Ba(NOを97.6g、KIrClを12.8g、ZrOCl・8HOを8.5g、C・HOを315g、それぞれ秤量し、550mLのCとともに1400mLの純水に投入し、実施例6と同様にして触媒粉末を合成した。Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は50mol%であった。
さらに、log(X/Y)が-0.468となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、1.041であった。
【0068】
<実施例10>
出発原料に、炭酸カルシウム(CaCO)、KIrClおよびZrOCl・8HOを用い、CaCOを52.0g、KIrClを16.0g、ZrOCl・8HOを25.0g、C・HOを400g、それぞれ秤量し、70mLの硝酸および700mLのCとともに1700mLの純水に投入し、実施例6と同様にして触媒粉末を合成した。Bサイトのイリジウムイオンのモル濃度は50mol%であった。
さらに、log(X/Y)が-0.440となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、1.009であった。
【0069】
<実施例11>
log(X/Y)が0.261となるよう調整した以外は、実施例2と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、-0.398であった。
【0070】
<実施例12>
log(X/Y)が-1.137となるよう調整した以外は、実施例2と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.146であった。
【0071】
<実施例13>
log(X/Y)が-1.158となるよう調整した以外は、実施例6と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、0.079であった。
【0072】
<実施例14>
log(X/Y)が0.240となるよう調整した以外は、実施例6と同様にしてアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を作製した。log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、-0.523であった。
【0073】
<比較例1>
アノード触媒に、市販のRuOを使用した。さらに、log(X/Y)が-1.000となるよう、ナフィオン分散溶液を混合しアノードスラリーを得た。その後、実施例1と同様にして、触媒層付き電解質膜を得た。log{1.8Vでのルテニウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ru)}は、-0.843であった。
【0074】
<比較例2>
実施例2と同様にして、ペロブスカイト型構造を有する酸化物(SrTi0.67Ir0.33)を含む触媒粉末を作製した。次いで、アノードスラリーを得るにあたって、バインダーとしてN-メチルピロリドン(NMP)へ溶解させたポリフッ化ビニリデン(PVdF)(株式会社クレハ、L#1120)を使用した。触媒粉末とPVdFが固形分の質量比率で95:5となるよう秤量し、NMPを添加してスラリーの粘度を調整し、アノードスラリーを得た。アノードスラリーを、触媒粉末とバインダーの合計質量で1.0mg/cmとなるよう、テフロンシート上にバーコーターで塗布した以外は、実施例1に記載の方法で触媒層付き電解質膜を得た。
log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}は、-0.907であった。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1~14はいずれも、比較例1のlog{1.8Vでのルテニウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ru)の値と比較して、log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}の値が大きかった。RuOは、高電位では溶出が進行することが知られている。このことから、2.3Vでの定電圧運転中に触媒が溶出して失活したことを示している。試験後に水電解セルを解体し、触媒層付き電解質膜の断面に対し走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法を併用して微細構造と元素分析を実施したところ、アノード触媒層近傍の電解質内に、Ruを含む酸化物の析出物が存在することを確認した。これに対し、実施例1~14のなかで、log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}がもっとも大きかった実施例2では、比較例1で見られたような触媒の構成元素の電解質膜への溶出が見られていなかった。このことは、ペロブスカイト型構造を有する触媒は、高電位でも安定であることを示している。
【0077】
実施例1~14はいずれも、比較例2と比較してlog{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}が大きかった。実施例1~14では、触媒層にプロトンが移動することができ、水電解反応の活性サイトの形成に必要なアイオノマーを含んでいるのに対し、比較例2では、触媒層にプロトンの移動や、水電解反応の活性サイト形成に寄与しないPVdFをバインダーとして含んでいる。このことから、比較例2では、アノード触媒層内部にプロトンのパスや反応の活性サイトが形成されておらず、触媒の性能が引き出せなかったことが要因として考えられる。
【0078】
実施例1~14では、log(X/Y)が-0.3より小さい範囲では、log(X/Y)が大きくなるにしたがってlog{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}が大きくなる傾向を示した。このことは、イリジウム質量あたりのアイオノマーの質量を大きくすることで、アノード触媒層内部にプロトンのパスが効率的に形成され、性能が良くなったことが考えられる。また、log(X/Y)が-0.3より大きい範囲では、log(X/Y)が小さくなるにしたがってlog{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}が大きくなる傾向を示した。イリジウム質量あたりのアイオノマーの量が多くなると、触媒表面をアイオノマーが覆い、その結果として水電解反応の活性サイトの量が少なくなることが考えられるが、この範囲では、log(X/Y)が小さくなるにしたがって過剰なアイオノマーが少なくなり、水電解反応の活性サイトがアノード触媒層内部に効率良く導入されて性能が良くなったと考えられる。
【0079】
また、図2に示すように、ペロブスカイト型構造を有するアノード触媒とアイオノマーとを含むアノード触媒層を備える水電解セルでは、log(X/Y)をPとし、log{1.8Vでのイリジウム質量あたりの電流密度(A/mg-Ir)}をQとすると、PとQの関係は、アノード触媒の構成元素や、Bサイトに含まれるイリジウムイオンの濃度に依らず、
Q=-2.1232P-5.2892P-2.7969P+0.6662
で表されることが分かった。このことから、Pが-0.860以上0.060以下では、Qが0.5以上となり高性能な水電解セルであることがわかった。Pが-0.620以上-0.090以下では、Qが0.86以上となり、より高性能な水電解セルであることがわかった。さらに、Pが-0.500以上-0.180以下では、Qが1以上となり、より高性能な水電解セルであることがわかった。
【符号の説明】
【0080】
11:電解質膜
12:アノード触媒層
13:カソード触媒層
20:アノードガス拡散層
30:カソードガス拡散層
40:ガスケット
50:ガスケット
60:アノードセパレータ
70:カソードセパレータ
100:水電解セル
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒と、
アイオノマーと、
を含み、
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.860~0.060である、アノード触媒層。
【請求項2】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.620~-0.090である、請求項に記載のアノード触媒層。
【請求項3】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.500~-0.180である、請求項に記載のアノード触媒層。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属イオンとして、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記金属イオンとして、チタンイオン、ジルコニウムイオン、及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記Bサイトイオンにおける前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計モル濃度が5mol%以上67mol%以下である、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとして、チタンイオンを含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとしてジルコニウムイオンを含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項7】
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸基を含む、請求項1に記載のアノード触媒層。
【請求項8】
アノードガス拡散層と、請求項1に記載のアノード触媒層と、電解質膜と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層と、セパレータと、を備える水電解セル。
【請求項9】
請求項に記載の水電解セルが積層された水電解セルスタック。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。なお、実施例11~実施例14は、本開示の参考例として示すものである。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス拡散層と、アノード触媒層と、電解質膜と、カソード触媒層と、カソードガス拡散層と、セパレータと、水電解に用いられる水と、を備える水電解セルであって、
前記アノード触媒層は、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンにイリジウムイオン及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種と金属イオン(但し、イリジウムイオン及びルテニウムイオンを除く)とを含む、ペロブスカイト型構造を有する酸化物触媒と、
アイオノマーと、
を含み、
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.860~0.060である、水電解セル
【請求項2】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.620~-0.090である、請求項1に記載の水電解セル
【請求項3】
前記アイオノマーの含有量(X)と、前記Bサイトイオンに含まれる前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計含有量(Y)と、の質量比の対数値(log(X/Y))が-0.500~-0.180である、請求項2に記載の水電解セル
【請求項4】
前記アルカリ土類金属イオンとして、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記金属イオンとして、チタンイオン、ジルコニウムイオン、及びスズイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記Bサイトイオンにおける前記イリジウムイオン及びルテニウムイオンの合計モル濃度が5mol%以上67mol%以下である、請求項1に記載の水電解セル
【請求項5】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとして、チタンイオンを含む、請求項1に記載の水電解セル
【請求項6】
前記アルカリ土類金属イオンとして、ストロンチウムイオンを含み、前記金属イオンとしてジルコニウムイオンを含む、請求項1に記載の水電解セル
【請求項7】
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸基を含む、請求項1に記載の水電解セル
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水電解セルが積層された水電解セルスタック。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、水電解セル、及び水電解セルスタックに関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本開示の目的は、高い触媒活性を示し、かつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層を含む水電解セル及び水電解セルスタックを提供することである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本開示によれば、高い触媒活性を示し、かつ安定した触媒活性を持続できるアノード触媒層を含む水電解セル及び水電解セルスタックが提供される。