(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072202
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】正極材料、固体電池、正極材料の製造方法及び固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240520BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240520BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240520BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240520BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240520BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20240520BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/36 A
H01M4/1391
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182925
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正博
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 征基
(72)【発明者】
【氏名】矢部 裕城
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕介
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA01
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができる正極材料を提供する。
【解決手段】本開示の正極材料は、正極活物質複合体と、硫化物固体電解質と、を含有する。前記正極活物質複合体は、正極活物質と、前記正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤と、前記導電助剤の少なくとも一部を被覆した固体電解質と、を有する。前記固体電解質は、Li、Ti、X及びFを含む。前記Xは、Ca、Mg、Al、Y、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)と、を含有し、
前記正極活物質複合体(A)が、
正極活物質(a)と、
前記正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)と、
前記導電助剤(b)の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)と、
を有し、
前記固体電解質(c)が、Li、Ti、X及びFを含み、
前記Xが、Ca、Mg、Al、Y、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである、正極材料。
【請求項2】
前記Xが、Alを含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記導電助剤(b)が、前記正極活物質(a)の表面の全部を被覆しており、
前記固体電解質(c)が、前記導電助剤(b)の全部を被覆している、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記正極層が、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の正極材料を含む、固体電池。
【請求項5】
正極活物質(a)の表面の少なくとも一部に、導電助剤(b)を被覆することと、
前記導電助剤(b)の少なくとも一部に固体電解質(c)を被覆して、正極活物質複合体(A)を作製することと、
前記正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)とを混練することと、
を含み、
前記固体電解質(c)が、Li、Ti、X及びFを含み、
前記Xが、Ca、Mg、Al、Y及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである、正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記Xが、Alを含む、請求項5に記載の正極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の正極材料の製造方法により正極材料を作製する工程を含む、固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極材料、固体電池、正極材料の製造方法及び固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、安全性に優れるリチウムイオン二次電池として、固体電池が知られている。
特許文献1は、正極材料を開示している。特許文献1に具体的に開示された正極材料は、第1固体電解質材料(Li2.6Ti0.4Al0.6F6)によって表面が被覆された正極活物質(Li(Ni,Co,Mn)O2)と、第2電解質材料(Li2S-P2S5)と、からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に具体的に開示の正極材料を用いた固体電池では、初期抵抗が比較的高いおそれがある。また、抵抗を低減するために、特許文献1に具体的に開示の正極材料に導電助剤を添加した正極材料を用いた固体電池では、固体電池の充放電を繰り返すと、固体電池の抵抗が増加しやすくなるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができる正極材料及び正極材料の製造方法を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池及び固体電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)と、を含有し、
前記正極活物質複合体(A)が、
正極活物質(a)と、
前記正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)と、
前記導電助剤(b)の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)と、
を有し、
前記固体電解質(c)が、Li、Ti、X及びFを含み、
前記Xが、Ca、Mg、Al、Y、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである、正極材料。
<2>前記Xが、Alを含む、前記<1>に記載の正極材料。
<3>前記導電助剤(b)が、前記正極活物質(a)の表面の全部を被覆しており、
前記固体電解質(c)が、前記導電助剤(b)の全部を被覆している、前記<1>又は<2>に記載の正極材料。
<4>正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記正極層が、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の正極材料を含む、固体電池。
<5>正極活物質(a)の表面の少なくとも一部に、導電助剤(b)を被覆することと、
前記導電助剤(b)の少なくとも一部に固体電解質(c)を被覆して、正極活物質複合体(A)を作製することと、
前記正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)とを混練することと、
を含み、
前記固体電解質(c)が、Li、Ti、X及びFを含み、
前記Xが、Ca、Mg、Al、Y及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである、正極材料の製造方法。
<6>前記Xが、Alを含む、前記<5>に記載の正極材料の製造方法。
<7>前記<5>又は<6>に記載の正極材料の製造方法により正極材料を作製する工程を含む、固体電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができる正極材料及び正極材料の製造方法が提供される。
本開示によれば、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池及び固体電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、固体電池の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の導電助剤付き正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(撮影倍率:3万倍)である。
【
図3】
図3は、実施例1の正極活物質複合体のC分布、F分布及びNi分布を重ね合わせたSEM-エネルギー分散型X線分析装置(EDS)画像である。
【
図4】
図4は、実施例1の正極活物質複合体のC分布を示すSEM-EDS画像である。
【
図5】
図5は、実施例1の正極活物質複合体のF分布を示すSEM-EDS画像である。
【
図6】
図6は、実施例1の正極活物質複合体のNi分布を示すSEM-EDS画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0010】
(1)正極材料
本開示の正極材料は、正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)と、を含有する。前記正極活物質複合体(A)は、正極活物質(a)と、前記正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)と、前記導電助剤(b)の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)と、を有する。前記固体電解質(c)は、Li(リチウム)、Ti(チタン)、X及びF(フッ素)を含む。前記Xは、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Y(イットリウム)、及びZr(ジルコニウム)からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0011】
「正極活物質複合体(A)」とは、正極活物質(a)と導電助剤(b)と固体電解質(c)とを含有する正極活物質複合体の粒子を複数含む。「硫化物固体電解質(B)」とは、複数の硫化物固体電解質(B)粒子を含む。「正極活物質(a)」とは、複数の正極活物質(a)粒子を含む。「導電助剤(b)」とは、複数の導電助剤(b)粒子を含む。「固体電解質(c)」とは、複数の固体電解質(c)粒子を含む。「前記正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)と、前記導電助剤(b)の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)と、を有する」ことは、複数の正極活物質複合体(A)粒子の各々が、1つの正極活物質(a)粒子と、1つの正極活物質(a)粒子の表面の少なくとも一部を被覆した複数の導電助剤(b)粒子と、前記複数の導電助剤(b)粒子の少なくとも一部を被覆した複数の固体電解質(c)粒子と、を有する形態であってもよい。
【0012】
本開示の正極材料は、上記の構成を有するので、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
本開示では、正極活物質(a)の表面の少なくとも一部は導電助剤(b)で被覆されている。そのため、正極活物質(a)の表面に導電助剤(b)が被覆されていない場合よりも、本開示の正極材料を用いた固体電池の正極層全体の電子伝導性及び電気化学反応の均一性は確保されやすい。その結果、本開示の正極材料を用いた固体電池の初期抵抗は、抑制されると推測される。
導電助剤及び硫化物固体電解質を含む正極材料を用いた固体電池において、導電助剤の電位は、固体電池の充電時に高くなりやすい。高い電位の導電助剤と、硫化物固体電解質とが接触すると、硫化物固体電解質は分解されやすい。その結果、正極活物質と硫化物固体電解質との間に、界面抵抗となる酸化分解層が形成されるおそれがある。
一方で、本開示では、固体電解質(c)は、Li、Ti、X及びFを含む。換言すると、固体電解質(c)は、高電圧下でも分解されにくい高い酸化耐性を有する。更に、正極活物質(a)の表面の一部を被覆した導電助剤(b)の少なくとも一部は、固体電解質(c)で覆われている。つまり、正極活物質(a)に被覆された導電助剤(b)と硫化物固体電解質(B)との接触面積は、導電助剤(b)に固体電解質(c)が覆われていない場合よりも小さい。そのため、固体電池の充電時において、導電助剤(c)の電位が高くなっても、硫化物固体電解質(B)は分解されにくい。換言すると、正極活物質(a)と硫化物固体電解質(B)との間に、界面抵抗となる酸化分解層が形成されにくい。その結果、充放電が繰り返されても本開示の正極材料を用いた固体電池の抵抗は増加しにくいと推測される。
【0013】
正極材料の形態は、特に限定されず、粉末であってもよいし、スラリーであってもよい。
【0014】
(1.1)正極活物質複合体(A)
正極材料は、正極活物質複合体(A)を含有する。
【0015】
正極活物質複合体(A)は、正極活物質(a)と、前記正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)と、前記導電助剤(b)の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)と、を有する。前記固体電解質(c)は、Li、Ti、X及びFを含む。前記Xは、Ca、Mg、Al、Y、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0016】
導電助剤(b)の被覆率は、初期抵抗がより抑制された固体電池とする等の観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは100%である。導電助剤(b)の被覆率は、X線光電子分光法(XPS)測定により得られる面積比率から求めることができる。
正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b)の厚み(以下、「第1厚み」ともいう)は、特に限定されず、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm~100nmである。第1厚みが上記範囲内であれば、リチウムイオンの移動は阻害されにくい。第1厚みは、正極活物質(a)のメジアン径に対して、好ましくは1%以上である。これにより、正極材料は、初期抵抗がより抑制された固体電池とすることができる。正極活物質(a)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。第1厚みの測定方法は、正極活物質複合体(A)の断面のSEM観察を行い、任意の5点で第1厚みを測定して、平均厚みとする方法が挙げられる。
【0017】
固体電解質(c)の被覆率は、充放電が繰り返されても抵抗がより増加しにくい固体電池とする等の観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは100%である。固体電解質(c)の被覆率は、被覆率は、X線光電子分光法(XPS)測定により得られる面積比率から求めることができる。
正極活物質(a)の表面の少なくとも一部を被覆した導電助剤(b))の少なくとも一部を被覆した固体電解質(c)の厚み(以下、「第2厚み」ともいう)は、特に限定されず、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm~300nmである。第2厚みが上記範囲内であれば、リチウムイオンの移動は阻害されにくい。第2厚みは、正極活物質(a)のメジアン径に対して、好ましくは1%以上である。これにより、正極材料は、充放電が繰り返されても抵抗がより増加しにくい固体電池とすることができる。正極活物質(a)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。第2厚みの測定方法は、正極活物質複合体(A)の断面のSEM観察を行い、任意の5点で第1厚みを測定して、平均厚みとする方法が挙げられる。
【0018】
導電助剤(b)は、正極活物質(a)の表面の全部を被覆しており、固体電解質(c)は、導電助剤(b)の全部を被覆していることが好ましい。換言すると、複数の正極活物質複合体(A)粒子の各々において、複数の導電助剤(b)粒子は、1つの正極活物質(a)の表面の全部を被覆しており、複数の固体電解質(c)は、1つの正極活物質(a)の表面の全部を被覆する複数の導電助剤(b)粒子の全部を被覆していることが好ましい。これにより、正極材料は、初期抵抗がより抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗がより増加しにくい固体電池とすることができる。
【0019】
(1.1.1)正極活物質(a)
正極活物質(a)として、リチウム複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム複合酸化物は、F,Cl,N,S,Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、空間群R-3m、Immm、及びP63-mmc(P63mc、P6/mmcともいう。)より選ばれる少なくとも1つの空間群に属する結晶構造を有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、遷移金属、酸素、及びリチウムの主たる配列がO2型構造であってもよい。
【0020】
R-3mに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、LixMeyOαXβ(MeはMn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si及びPからなる群より選択される少なくとも一種を表し、Xは、F、Cl、N、S、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種を表し、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.0、1≦α<2、0<β≦1を満たす。)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
Immmに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Lix1M1A1
2(1.5≦x1≦2.3を満たし、M1はNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、A1は少なくとも酸素を含み、A1に占める酸素の比率は85原子%以上である。)で表される複合酸化物(具体的な例としてLi2NiO2)、Lix1M1A
1-x2M1B
x2O2-yA2
y(0≦x2≦0.5、0≦y≦0.3であり、x2及びyの少なくとも一方は0でなく、M1AはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、M1BはAl,Mg,Sc,Ti,Cr,V,Zn,Ga,Zr,Mo,Nb,Ta及びWよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、A2はF,Cl,Br,S及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられる。
【0022】
P63-mmcに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、M1xM2yO2(M1はアルカリ金属(Na及びKの少なくとも一種が好ましい)を表し、M2は遷移金属(Mn,Ni,Co及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい)を表し、x+yは0<x+y≦2を満たす。)で表される複合酸化物が挙げられる。
【0023】
O2型構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Lix[Liα(MnaCobMc)1-α]O2(0.5<x<1.1、0.1<α<0.33、0.17<a<0.93、0.03<b<0.50、0.04<c<0.33であり、MはNi、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W及びBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられ、具体的な例としてLi0.744[Li0.145Mn0.625Co0.115Ni0.115]O2等が挙げられる。
【0024】
正極活物質(a)粒子の形状は、特に限定されず、球状(例えば、真球状、楕円球状等)、繊維状等が挙げられる。本開示において、「球状」とは、アスペクト比が0.1~10の粒子を示し、「繊維状」とは、アスペクト比が10超の粒子を示す。正極活物質(a)粒子の形状が球状である場合、正極活物質(a)のメジアン径は、好ましくは0.05μm~50μm、より好ましくは0.1μm~20μmである。正極活物質(a)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。
【0025】
(1.1.2)導電助剤(b)
導電助剤(b)としては、例えば、炭素材料、金属材料、導電性高分子材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、繊維状炭素(例えば、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等)、黒鉛、フッ化カーボン等が挙げられる。金属材料としては、例えば、金属粉(例えば、アルミニウム粉等)、導電性ウィスカー(例えば、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等)、導電性金属酸化物(例えば、酸化チタン等)等が挙げられる。導電性高分子材料としては、ポリアニリン、ポリピロ―ル、ポリチオフェン等が挙げられる。導電助剤(b)は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
導電助剤(b)粒子の形状や大きさは特に限定されない。導電助剤(b)粒子の形状としては、例えば、球状(例えば、真球状、楕円球状等)、繊維状等が挙げられる。導電助剤(b)粒子の形状は、球状であることが好ましい。導電助剤(b)粒子の形状が粒子状であることで、1つの正極活物質(a)粒子の表面の全部が複数の導電助剤(b)粒子に被覆されやすい。
【0027】
導電助剤(b)粒子が球状である場合、導電助剤(b)のメジアン径は、正極活物質(a)のメジアン径よりも小さいことが好ましい。導電助剤(b)のメジアン径は、正極活物質(a)のメジアン径に対して、好ましくは0.1倍以下、より好ましくは0.02倍以下である。導電助剤(b)のメジアン径が正極活物質のメジアン径の0.1倍以下であれば、複数の導電助剤(b)粒子は、1つの正極活物質(a)粒子の表面の全部を覆いやすい。導電助剤(b)のメジアン径は、特に限定されず、好ましくは5nm~1000nm、より好ましくは15nm~100nmである。導電助剤(b)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。
【0028】
導電助剤(b)粒子が繊維状である場合、導電助剤(b)粒子の繊維径は5nm~1μmであってもよく、導電助剤(b)粒子のアスペクト比は20以上であってもよい。
【0029】
(1.1.3)固体電解質(c)
固体電解質(c)は、Li、Ti、X及びFを含む。前記Xは、Ca、Mg、Al、Y、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである。これにより、固体電解質(c)は、高いリチウムイオン電導度及び高い酸化耐性を有する。
【0030】
固体電解質(c)粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状(例えば、真円状、楕円状等)、繊維状等が挙げられる。
固体電解質(c)粒子が球状である場合、固体電解質(c)のメジアン径は、正極活物質(a)のメジアン径よりも小さいことが好ましい。固体電解質(c)のメジアン径は、正極活物質のメジアン径に対して、好ましくは0.1倍以下、より好ましくは0.02倍以下である。固体電解質(c)のメジアン径が正極活物質のメジアン径の0.1倍以下であれば、複数の固体電解質(c)粒子は、1つの正極活物質(a)粒子の表面を被覆した複数の導電助剤(b)粒子の全部を覆いやすい。固体電解質(c)のメジアン径は、好ましくは10nm~1000nm、より好ましくは10nm~200nmである。固体電解質(c)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。
【0031】
Xは、Alを含むことがより好ましく、Alであることがさらに好ましい。XがAlを含むことで、XがAlを含まない場合よりも固体電解質(c)のリチウム電導率は高くなる。その結果、正極材料は、抵抗がより低い固体電池とすることができる。
【0032】
XがAlを含む場合、Al及びTiの物質量の合計に対するLiの物質量の比は、1.7~4.2であってもよい。
【0033】
XがAlを含む場合、固体電解質(c)は、下記の組成式(1)により表される材料を含むことが好ましく、下記の組成式(1)により表される材料からなることがより好ましい。組成式(1)により表される材料は、結晶相であってもよい。
式(1):Li6-(4-x)b(Ti1-xMx)bF6
式(1)中、xは0<x<1、bは0<b≦1.5である。
固体電解質(c)が下記の組成式(1)により表される材料を含むことで、固体電解質(c)のリチウム電導率はより高くなる。その結果、固体電池の抵抗はより低くなる。
式(1)中、Xは、0.1≦x≦0.9であってもよい。bは、0.8≦b≦1.2であってもよい。
【0034】
固体電解質(c)の組成は、Li2.7Ti0.3AI0.7F6を含むことが好ましく、Li2.7Ti0.3AI0.7F6であることがより好ましい。固体電解質(c)の組成がLi2.7Ti0.3AI0.7F6を含むことにより、固体電解質(c)のリチウム電導率はさらに高くなる。その結果、固体電池の抵抗はさらに低くなる。
【0035】
(1.2)硫化物固体電解質(B)
正極材料は、硫化物固体電解質(B)を含有する。
【0036】
硫化物固体電解質(B)として、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有することが好ましく、更には例えばLi元素、A元素、及びS元素を含有することが好ましい。A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。硫化物固体電解質(B)は、O及びハロゲン元素の少なくとも一方を更に含有してもよい。ハロゲン元素(X)としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。硫化物固体電解質(B)の組成は、特に限定されず、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質(B)は、下記一般式(2)で表される組成を有してもよい。
式(2):Li4-xGe1-xPxS4 (0<x<1)
式(2)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
【0037】
硫化物固体電解質(B)粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状(例えば、真円状、楕円状等)、繊維状等が挙げられる。
硫化物固体電解質(B)粒子が球状である場合、硫化物固体電解質(B)のメジアン径は、正極活物質(a)のメジアン径よりも小さいことが好ましい。硫化物固体電解質(B)のメジアン径は、正極活物質のメジアン径に対して、0.1倍以下あることが好ましい。硫化物固体電解質(B)のメジアン径が正極活物質のメジアン径の0.1倍以下であれば、得られる固体電池の初期抵抗はより抑制される。硫化物固体電解質(B)のメジアン径は、好ましくは0.05μm~3.0μmである。硫化物固体電解質(B)のメジアン径の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。
【0038】
硫化物固体電解質(B)の配合割合は、特に限定されず、正極活物質複合体(A)の総量に対して、好ましくは5質量%~70質量%、より好ましくは10質量%~45質量%である。
【0039】
(1.3)バインダー(C)
正極材料は、バインダー(C)を含有してもよいし、バインダー(C)を含有しなくてもよい。バインダー(C)は、正極活物質複合体(A)及び硫化物固体電解質(B)の密着性を向上させる。
【0040】
バインダー(C)としては、例えば、ハロゲン化ビニル樹脂、ゴム類、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。ハロゲン化ビニル樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(PVdF-HFP)等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(イソブチレン-イソプレンゴム)等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。バインダー(C)は、主鎖に二重結合を含むジエン系ゴム、例えばブタジエンが全体の30モル%以上を占めるブタジエン系ゴムであってもよい。
【0041】
正極材料がバインダー(C)を含む場合、バインダー(C)の配合割合は、特に限定されず、正極活物質複合体(A)の総量に対して、好ましくは0.1質量%~20質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%、さらに好ましくは0.1質量%~5質量%である。
【0042】
(1.4)溶媒(D)
正極材料は、溶媒(D)を含有してもよいし、溶媒(D)を含有しなくてもよい。正極材料が溶媒(D)を含有することで、正極材料の形態はスラリーとなり得る。溶媒(D)は、固体電池の製造に用いられる公知の溶媒であればよい。
【0043】
(1.5)その他の成分(E)
正極材料は、その他の成分(E)を含有してもよいし、その他の成分(E)を含有しなくてもよい。その他の成分(E)としては、例えば、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0044】
正極材料は、正極活物質複合体(A)、及び硫化物固体電解質(B)からなってもよい。正極材料は、正極活物質複合体(A)、硫化物固体電解質(B)及びバインダー(C)からなってもよい。正極材料は、正極活物質複合体(A)、硫化物固体電解質(B)、バインダー(C)及び溶媒(D)からなってもよい。
【0045】
(2)固体電池
本開示の固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備える。前記正極層は、本開示の正極材料を含む。
【0046】
本開示の固体電池は、上記の構成を有するので、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい。この効果は、上述した本開示の正極材料の効果と同様の理由によると推測されるが、これに限定されない。
【0047】
(2.1)電池構造
固体電池は、電解質として無機系固体電解質を用いた、いわゆる全固体電池(電池内部の電解質を全て固体で構成)を含む。
本開示の固体電池の構造は、正極集電体と正極層と固体電解質層と負極層と負極集電体とをこの順に備えた構造であってもよく、例えば、
図1に示す構造であってもよい。
図1中の固体電解質層Bは2層構造でもよい。
図1は、固体電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示す固体電池は、負極集電体113及び負極層Aを含む負極と、固体電解質層Bと、正極集電体115及び正極層Cを含む正極と、を備えている。負極層Aは、負極活物質101、導電助剤105、バインダー109及び固体電解質102を含む。正極層Cは、正極活物質複合体103、バインダー111及び固体電解質102を含む。
【0048】
正極層、固体電解質層及び負極層のセットを発電単位とした場合、固体電池は、発電単位を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。固体電池が2つ以上の発電単位を有する場合、それらの発電単位は、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。
【0049】
固体電池は、正極層/固体電解質層/負極層の積層構造の積層端面(側面)を樹脂で封止して構成されていてもよい。電極の集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
固体電池の形状は、特に限定されず、例えば、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、又は積層型であってもよい。
【0050】
(2.2)固体電解質層
固体電池は、固体電解質層を備える。固体電解質層は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及びハロゲン化物固体電解質からなる群より選ばれる1つを含むことが好ましい。
【0051】
硫化物固体電解質としては、硫化物固体電解質(B)として例示したものと同様のものが挙げられる。固体電解質層に含まれる硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質(B)と同一であってもよいし、硫化物固体電解質(B)と異なっていてもよい。
【0052】
酸化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましく、例えば、Li、Q元素(Qは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W及びSの少なくとも一種を表す。)、及びOを含有してもよい。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(0≦x≦2)、Li5La3Nb2O12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO3、(Li、La)NbO3、(Li、Sr)(Ta、Zr)O3等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO4)3、Li(Al、Ga)(PO4)3等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、Li3PO4、LIPON(Li3PO4のOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、Li3BO3、Li3BO3のOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
【0053】
ハロゲン化物固体電解質として、Li、M及びXを含む固体電解質(MはTi、Al及びYの少なくとも1つを表し、XはF,Cl又はBrを表す。)が好適である。具体的には、Li6-3zYzX6(XはCl又はBrを表し、zは0<z<2を満たす。)、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)が好ましい。Li6-3zYzX6の中でも、リチウムイオン伝導度に優れる点で、Li3YX6(XはCl又はBr表す。)がより好ましく、更にはLi3YCl6が好ましい。また、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)は、例えば、硫化物固体電解質の酸化分解を抑える等の観点から、硫化物固体電解質等の固体電解質とともに含まれることが好ましい。
【0054】
固体電解質層は、単層構造でもよいし、2層以上の多層構造でもよい。
【0055】
固体電解質層は、バインダーを含んでもよいし、バインダーを含まなくてもよい。固体電解質層に含まれ得るバインダーとしては、バインダー(C)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0056】
(2.3)正極層
固体電池は、正極層を備える。正極層は、本開示の正極材料を含む。
【0057】
(2.4)正極集電体
固体電池は、正極集電体を更に備えていてもよい。正極集電体は、正極層の集電を行う。正極集電体は、正極層を基準にして、固体電解質層とは反対側の位置に配置される。
正極集電体は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられ、アルミニウム合金箔又はアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム合金箔及びアルミニウム箔は、粉末を用いて製造されてもよい。正極集電体の形状は、例えば、箔状、メッシュ状である。
正極集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
【0058】
(2.5)負極層
固体電池は、負極層を備える。負極層は、負極活物質を含有する。負極層は、必要に応じて、負極用固体電解質、導電助剤及びバインダーの少なくとも1つを含有してもよい。負極活物質としては、金属リチウム等のLi系活物質、グラファイト等の炭素系活物質、チタン酸リチウム等酸化物系活物質、Si単体等のSi系活物質が挙げられる。負極層に用いられる導電助剤、負極用固体電解質及びバインダーは、正極層に含まれる導電助剤、固体電解質層に含まれる固体電解質、及びバインダー(C)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
(2.6)負極集電体
固体電池は、負極集電体を更に備えていてもよい。負極集電体は、負極層の集電を行う。負極集電体は、負極層を基準にして、固体電解質層とは反対側の位置に配置される。
負極集電体は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられ、銅が好ましい。負極集電体の形状は、例えば、箔状、メッシュ状である。
負極集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
【0060】
(3)正極材料の製造方法
本開示の正極材料の製造方法は、導電助剤(b)を被覆すること(以下、「第1被覆工程」ともいう)と、正極活物質複合体(A)を作製すること(以下、「第2被覆工程」ともいう)と、正極活物質複合体(A)と硫化物固体電解質(B)とを混練すること(以下、「混練工程」ともいう)と、を含む。第1被覆工程、第2被覆工程及び混練工程は、この順で実行される。これにより、本開示の正極材料が得られる。
【0061】
(3.1)第1被覆工程
第1被覆工程では、正極活物質(a)の各々の表面の少なくとも一部に、導電助剤(b)を被覆する。これにより、導電助剤付き正極活物質が得られる。導電助剤付き正極活物質は、複数の導電助剤付き正極活物質粒子を含む。1つの導電助剤付き正極活物質粒子は、1つの正極活物質(a)粒子と、1つの正極活物質(a)粒子の表面の少なくとも一部を被覆した複数の導電助剤(b)粒子とを有する。
【0062】
第1被覆工程の正極活物質(a)としては、正極材料の正極活物質(a)として例示したものと同様のものが挙げられる。第1被覆工程の導電助剤(b)としては、正極材料の導電助剤(b)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0063】
正極活物質(a)の各々の表面の少なくとも一部に導電助剤(b)を被覆する方法(以下、「第1被覆方法」ともいう)は、特に限定されず、例えば、2種の材料を乳鉢で混合する方法、回転するブレードを利用して、2種の材料にせん断力を加える方法、ジェット気流により、2種の材料を衝突させる方法、物理蒸着法(例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等)、化学蒸着法(例えば、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマCVD、プラズマCVD等)、ゾルゲル法等が挙げられる。
【0064】
(3.2)第2被覆工程
第2被覆工程では、導電助剤付き正極活物質に含まれる導電助剤(b)の少なくとも一部に固体電解質(c)を被覆して、正極活物質複合体(A)を作製する。
【0065】
第2被覆工程の固体電解質(c)としては、正極材料の固体電解質(c)として例示したものと同様のものが挙げられる。つまり、第2被覆工程の固体電解質(c)は、Li、Ti、X及びFを含む。前記Xは、Ca、Mg、Al、Y及びZrからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0066】
Xは、Alを含むことがより好ましく、Alであることがさらに好ましい。XがAlを含むことで、XがAlを含まない場合よりも固体電解質(c)のリチウム電導率は高くなる。その結果、抵抗がより低い固体電池が得られる。
【0067】
導電助剤付き正極活物質に含まれる導電助剤(b)の少なくとも一部に固体電解質(c)を被覆する方法(以下、「第2被覆方法」ともいう)は、特に限定されず、第1被覆方法として例示した方法と同様の方法が挙げられる。第2被覆方法は、第1被覆方法と同一であってもよいし、第1被覆方法と異なっていてもよい。
【0068】
(3.3)混練工程
混練工程では、正極活物質複合体(A)と、硫化物固体電解質(B)とを混練する。これにより、正極材料が得られる。
【0069】
混練工程の硫化物固体電解質(B)としては、正極材料の硫化物固体電解質(B)として例示したものと同様のものが挙げられる。
正極活物質複合体(A)と硫化物固体電解質(B)とを混練する際、必要に応じて、上述したバインダー(C)、溶媒(D)及びその他の成分(E)を添加してもよい。
【0070】
正極活物質複合体(A)と硫化物固体電解質(B)とを混練する方法は、特に限定されず、混練装置を用いて混練する方法等が挙げられる。混練装置としては、超音波ホモジナイザー、振盪器、薄膜旋廻型ミキサー、ディゾルバー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、アトライター、ボールミル、バイブレーターミル、高速インペラーミルが挙げられる。
【0071】
(4)固体電池の製造方法
本開示の固体電池の製造方法は、本開示の正極材料の製造方法により正極材料を作製する工程(以下、「第1準備工程」ともいう)を含む。これにより、本開示の固体電池が得られる。
【0072】
本開示の固体電池の製造方法は、第1準備工程、負極層用材料を準備すること(以下、「第2準備工程」ともいう)と、固体電解質層用材料を準備すること(以下、「第3準備工程」ともいう)と、固体電池を作製すること(以下、「積層工程」ともいう)とを含んでもよい。第1準備工程、第2準備工程及び第3準備工程は、積層工程が実施される前に実施される。第1準備工程、第2準備工程及び第3準備工程の実施順は、特に限定されない。
【0073】
(4.1)第1準備工程
第1準備工程は、本開示の正極材料の製造方法により正極材料を作製する工程である。これにより、本開示の正極材料が得られる。
【0074】
(4.2)第2準備工程
第2準備工程では、負極層用材料を準備する。負極層用材料としては、固体電池の負極層の材料として例示したものが挙げられる。負極層用材料を準備する方法は、公知の方法であればよい。
【0075】
(4.3)第3準備工程
第3準備工程では、固体電解質層用材料を準備する。固体電解質層用材料としては、固体電池の固体電解質層の材料として例示したものが挙げられる。固体電解質層用材料を準備する方法は、公知の方法であればよい。
【0076】
(4.4)積層工程
積層工程では、正極層と、固体電解質層と、負極層とをこの順に有する固体電池を作製する。正極層は、本開示の正極材料を用いて形成される。固体電解質層は、固体電解質層用材料を用いて形成される。負極層は、負極層用材料を用いて形成される。
【0077】
固体電池を作製する方法としては、例えば、プレス法が挙げられる。正極層、固体電解質層及び負極層を形成する順番は、特に限定されない。例えば、プレスにより固体電解質層を形成し、その後、プレスにより、固体電解質層の一方の表面側に正極層を形成し、その後、プレスにより、固体電解質層の他方の表面側に負極層を形成してもよい。プレスにより、正極層、固体電解質層及び負極層の二層以上を同時に形成してもよい。正極層、固体電解質層及び負極層を形成する際に、スラリーを用いてもよい。プレスの手法としては、ロールプレス、冷間等方圧プレス(CIP)等が挙げられる。
【0078】
プレス時の圧力は、好ましく0.1t/cm2以上、より好ましくは0.5t/cm2以上、さらに好ましくは1t/cm2以上である。プレス時の圧力は、好ましくは10t/cm2以下、より好ましくは8t/cm2以下、さらに好ましくは6t/cm2以下である。
【実施例0079】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
[1]実施例1
[1.1]準備工程
下記の正極活物質(a1)、導電助剤(b1)、固体電解質(c1)(以下、「LTAF(c1)」ともいう)、硫化物固体電解質(B1)、及びバインダー(C1)を準備した。
【0081】
[1.1.1]正極活物質(a1)
正極活物質(a1)として、複数のコアシェル型複合粒子を含む粉末(メジアン径:5μm、密度:4.7g/cm3)を準備した。コアシェル型複合粒子は、Li(Ni、Co、Al)O2からなるコアと、LiNb03からなるシェルと、を有する。正極活物質(a1)のメジアン径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所、「SALD-2000」)を用いて測定した。詳しくは、正極活物質(a1)を分散媒に分散させ、粒子径分布測定装置を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた体積基準の積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径をメジアン径とした。
【0082】
[1.1.2]導電助剤(b1)
導電助剤(b1)として、複数のアセチレンブラック粒子からなる粉末(デンカ株式会社製の「Li-435」、平均粒径:23nm、密度:2.1g/cm3)を準備した。
【0083】
[1.1.3]固体電解質(c1)
アルゴンガスでパージされたグローブボックス内で、LiF、TiF4、及びAIF3をモル比(LiF:TiF4:AIF3)が2.7:0.3:0.7となるように容器に入れて、原料粉を得た。次に、遊星型ボールミルを用いて、12時間及び回転数500rpmの条件で、原料粉にミリング処理を施した。これにより、固体電解質(c1)として、複数の固体電解質粒子からなる粉末(メジアン径:10nm~100nm、密度:2.7g/cm3)を得た。固体電解質粒子の組成は、Li2.7Ti0.3AI0.7F6であった。固体電解質(c1)のメジアン径は、走査電子顕微鏡(SEM)画像を用いて、複数の固体電解質粒子の直径を測定して算出した。
【0084】
[1.1.4]硫化物固体電解質(B1)
硫化物固体電解質(B1)として、複数のLiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック粒子からなる粉末(メジアン径:1.0μm、密度:2.2g/cm3)を準備した。硫化物固体電解質(B1)のメジアン径は、SEM画像を用いて、複数のガラスセラミックス粒子の直径を測定して算出した。
【0085】
[1.1.5]バインダー(C1)
バインダー(C1)として、ブタジエンゴム系バインダー(密度:0.9g/cm3)を分散媒(D1)に溶かした溶液を準備した。ブタジエンゴム系バインダーの含有量は、溶液の総量に対して、5質量%であった。
【0086】
[1.2]第1被覆工程
正極活物質(a1):導電助剤(b1)=99.5:0.5の質量比となるように、正極活物質(a1)及び導電助剤(b1)をメノウ乳鉢に入れて混練した。これにより、導電助剤付き正極活物質として、複数の導電助剤付き正極活物質粒子からなる粉末を得た。
【0087】
[1.3]SEM分析
導電助剤付き正極活物質粒子のSEM画像(倍率:3万倍)を
図2に示す。SEM画像の撮影には、走査電子顕微鏡(SEM)(株式会社目立ハイテク製の「Regulus8230」)を用いた。加速電圧は、1kVであった。
SEM画像から、導電助剤(b1)は、正極活物質(a1)の表面の大部分を覆っていることを確認した。特に、
図2に示すように、正極活物質(a1)の表面の凹部内に、導電助剤(b1)が多く存在していることがわかった。
【0088】
[1.4]第2被覆工程
質量比(導電助剤付き正極活物質:LTAF(c1))が94:6となるように、導電助剤付き正極活物質及びLTAF(c1)を複数のジルコニアボール(直径:3mm)とともに容器に入れて、混合物を得た。次いで、自転公転ミキサー(株式会社シンキー、「ARE-310」)を用いて、6分間及び回転数1200rpmの条件で、混合物を混練した。これにより、正極活物質複合体(A1)として、複数の正極活物質複合体(A1)粒子からなる粉末を得た。
【0089】
[1.5]SEM-EDS表面元素分析
正極活物質複合体(A1)の同一箇所のSEM-EDS画像を
図3~
図6に示す。
図3は、C成分(導電助剤(b1)に対応)、F成分(LTAF(c1)に相当)及びNi成分(正極活物質(a1)に対応)を重ね合わせたマッピング結果を示す。
図4は、C成分(導電助剤(b1)に対応)のマッピング結果を示す。
図5は、F成分(LTAF(c1)に対応)のマッピング結果を示す。
図6は、Ni成分(正極活物質(a1)に対応)のマッピング結果を示す。なお、
図4~
図6中、色の明るい領域がC成分、F成分又はNi成分でそれぞれ被覆された部分を示している。
図3~
図6から、正極活物質(a1)の表面の全部に、導電助剤(b1)及び固体電解質(b1)が均一に存在していることがわかった。換言すると、1つの正極活物質複合体(A1)粒子は、1つの正極活物質(a1)粒子と、1つの正極活物質(a1)粒子の表面の大部分を被覆した複数の導電助剤(b1)粒子と、複数の導電助剤(b1)粒子のほぼ全体を被覆した複数のLTAF(c1)粒子と、を有することがわかった。
【0090】
[1.6]混練工程
質量比(正極活物質複合体(A1):硫化物固体電解質(B1):バインダー(C1))が83.8:15.8:0.4となるように、正極活物質複合体(A1)、硫化物固体電解質(B1)及びバインダー(C1)を秤量した。これらに分散媒(D1)を加えて混練した。これにより、正極材料として、正極合材スラリーを得た。
【0091】
[2]比較例1
[2.1]第1被覆工程
第1被覆工程を実施しなかった。
【0092】
[2.2]第2被覆工程
導電助剤付き正極活物質の代わりに正極活物質(a1)を用いたことの他は実施例1の第2被覆工程と同様にして、正極活物質複合体(X1)を得た。正極活物質複合体(X1)は、複数の正極活物質複合体(X1)粒子からなる。1つの正極活物質複合体(X1)粒子は、1つの正極活物質(a1)粒子と、1つの正極活物質(a1)粒子の表面のほぼ全体を被覆した複数のLTAF(c1)粒子とからなる。
【0093】
[2.3]混練工程
質量比(正極活物質複合体(X1):硫化物固体電解質(B1):バインダー(C1))が83.8:15.8:0.4となるように、正極活物質複合体(X1)、硫化物固体電解質(B1)及びバインダー(C1)を秤量した。これらに分散媒(D1)を加えて混練した。これにより、正極材料として、正極合材スラリーを得た。
【0094】
[3]比較例2
[3.1]第1被覆工程及び第2被覆工程
比較例1と同様にして、正極活物質複合体(X1)を得た。
【0095】
[3.2]混練工程
質量比(正極活物質複合体(X1):硫化物固体電解質(B1):バインダー(C1):導電助剤(b1))が83.4:15.8:0.4:0.4となるように、正極活物質複合体(X1)、硫化物固体電解質(B1)、バインダー(C1)及び導電助剤(b1)を秤量し、分散媒(D1)を加えて混練した。これにより、正極材料として正極合剤スラリーを得た。
【0096】
[4]比較例3
[4.1]第1被覆工程
実施例1の第1被覆工程と同様にして、第1粉末を得た。
【0097】
[4.2]第2被覆工程
質量比(導電助剤付き正極活物質:硫化物固体電解質(B1))が95:5となるように、導電助剤付き正極活物質及び硫化物固体電解質(B1)を複数のジルコニアボール(直径:3mm)とともに容器に入れたことの他は、実施例1の第2被覆工程と同様にして、正極活物質複合体(X2)を得た。正極活物質複合体(X2)は、複数の正極活物質複合体(X2)粒子からなる。1つの正極活物質複合体(X2)粒子は、1つの正極活物質(a1)粒子と、正極活物質(a1)粒子の表面の大部分を被覆した複数の導電助剤(b1)粒子と、複数の導電助剤(b1)粒子のほぼ全体を被覆した複数の硫化物固体電解質(B1)粒子と、からなる。
【0098】
[4.3]混練工程
質量比(正極活物質複合体(X2):硫化物固体電解質(B1):バインダー(C1))が83.7:15.9:0.4となるように、正極活物質複合体(X2)、硫化物固体電解質(B1)及びバインダー(C1)を秤量し、分散媒(D1)を加えて混練した。これにより、正極材料として正極合剤スラリーが得られた。
【0099】
[5]評価
実施例1及び比較例1~比較例3の正極材料を用いて、下記のようにして、評価用電池を作製し、初期抵抗及び抵抗増加率を評価した。評価結果を表1に示す。
【0100】
[5.1]評価用電池
[5.1.1]正極
正極合剤スラリー(正極材料)を集電箔の上に塗布し、100℃で乾燥して、正極を得た。正極は、集電箔と、集電箔上に形成された正極合剤層とからなる。正極合剤層の厚みは、後述する初期の電池容量の測定において、放電容量が2mAh/cm2となるように調整されていた。
【0101】
[5.1.2]負極
負極活物質として、複数のLi4Ti5012粒子からなる粉末(メジアン径:1.1μm、密度:3.5g/cm3)を準備した。負極活物質のメジアン径の測定方法は、正極活物質のメジアン径の測定方法と同様である。
バインダーとして、ブタジエンゴム系バインダーを予め分散媒に溶かした溶液を準備した。ブタジエンゴム系バインダーの含有量は、溶液の総量に対して、1.5質量%であった。
導電助剤として、炭素繊維(昭和電工株式会社製の「VGCF-H」、平均繊維直径:0.15μm、平均繊維長さ:6μm、密度:2.1g/cm3)を準備した。
【0102】
質量比(負極活物質:硫化物固体電解質:バインダー:導電助剤)が73.8:24.8:0.6:0.8の質量比となるように、負極活物質、硫化物固体電解質、バインダー及び導電助剤を秤量した。これらに分散媒(D1)を加えて混練した。これにより、負極合剤スラリーが得られた。
【0103】
負極合剤スラリーを集電箔の上に塗布して、100℃で乾燥して、負極を得た。負極は、集電箔と、集電箔上に形成された負極合剤層とからなる。負極合剤層の厚みは、負極の単位面積当たりの第1容量が、正極の単位面積当たりの第2容量の1.15倍となるように調整されていた。「負極の単位面積当たりの第1容量」は、負極活物質の比容量を175mAh/gとしたときの負極の単位面積当たりの容量を示す。「正極の単位面積当たりの第2容量」は、後述する初期の電池容量測定における初回の充電容量を示す。
【0104】
[5.1.3]固体電解質層
固体電解質として、LiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミック粒子(メジアン径:2.5μm、密度:2.2g/cm3)を準備した。メジアン径は、粒子の走査電子顕微鏡画像から固体電解質の直径を測定して算出した。固体電解質は、上記硫化物固体電解質(B1)とメジアン径が異なる。
バインダーとして、ブタジエンゴム系バインダーを準備した。バインダーは、予め分散媒に溶かし、5質量%の溶液として使用した。
【0105】
質量比(固体電解質:ブタジエンゴム系バインダー)が99.6:0.4となるように固体電解質及びブタジエンゴム系バインダーを秤量した。これらに分散媒(D1)を加えて混練した、これにより、固体電解質スラリーが得られた。
【0106】
[5.1.4]正極側積層体
正極合剤層の表面に固体電解質スラリーを塗工し、100℃で乾燥させた後、2ton/cm2でロールプレスを行って、正極側積層体を得た。正極側積層体は、正極と、正極の表面に形成された固体電解質層と、を備える。
【0107】
[5.1.5]負極側積層体
負極合剤層の表面に固体電解質スラリーを塗工し、100℃で乾燥させた後、2ton/cm2でロールプレスを行って、負極側積層体を得た。負極側積層体は、負極と、負極の表面に形成された固体電解質層と、を備える
【0108】
[5.1.6]組立
正極側積層体と負極側積層体とをそれぞれ打ち披き加工した。正極側積層体、未プレスの固体電解質層(前記固体電解賃層と同じもの)及び負極側積層体をこの順に重ね合わせて、積層体を得た。積層体において、未プレスの固体電解質層は、正極側積層体の固体電解質層と、負極側積層体の固体電解質層との間に介在していた。
130℃で、2ton/cm2で積層体をプレスして、発電要素を得た。発電要素は、正極と、正極上に形成された固体電解質層と、固体電解質層上に形成された負極と、を有する。得られた発電要素をラミネート封入し、0.5MPaで拘束した。これにより、評価用電池として、全固体電池が得られた。
【0109】
[5.2]初期抵抗の測定
電池を25℃の恒温槽内に配置した。次いで、電池の充電をし、次いで電池の放電をする操作(以下、「充放電サイクル」ともいう。)を2回行った。
電池の充電は、1/3Cレートの電流で電池の電圧が2.7Vに達するまで定電流充電した後、定電圧充電をし、充電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。充電レートは、電池の設計容量(正極の単位面積当たり容量が2mAh/cm2)から算出した。
電池の放電は、1/3Cレートの電流で電池の電圧が1.5Vに達するまで定電流放電した後、定電圧放電をし、放電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。
【0110】
電池を25℃の恒温槽に配置した。電池の電圧が2.2Vに達するまで充電をした後、電池の交流インピーダンス測定をし、放電した。
電池の充電は、1/3Cレートの電流で電池の電圧が2.7Vに達するまで定電流充電した後、定電圧充電をし、充電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。
交流インピーダンス測定は、10mVの交流振幅、1MHz~0.1Hzの周波数範囲で行った。交流インピーダンス測定で得られたナイキスト線図に表れる円弧部の波形を円フィッティングして曲線を得た。得られた曲線の高周波側と低周渡側のx軸切片の差を初期抵抗とした。
電池の放電は、1/3Cレートの電流で電池の電圧が1.5Vに達するまで定電流放電した後、定電圧放電をし、放置電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。
【0111】
[5.3]抵抗増加率の測定
電池を60℃の恒温槽に配置して、サイクル試験を行った。サイクル試験では、充放電サイクルを150回繰り返し実施した。
電池の充電は、5Cレートの電流で電池の電圧が2.7Vに達するまで定電流充電をした後、定電圧充電をし、充電電流が1/3C相当に到達した時点で終了した。
電流の放電は、1Cレートの電流で電池の電圧が1.8Vに達するまで定電流放電をした。
【0112】
電池を25℃の恒温槽に配置して、電池の電圧が2.2Vに達するまで充電をした後、電池の交流インピーダンス測定をした。
電池の充電は、1/3Cレートの電流で電池の電圧が2.7Vに達するまで定電流充電をした後、定電圧充電をし、充電電流が0.01C相当に到達した時点で終了した。
交流インピーダンス測定は、10mVの交流振幅、1MHz~0.1Hzの周波数範囲で行った。交流インピーダンス測定で得られたナイキスト線図に表れる円弧部の波形を円フィッティングして曲線を得た。得られた曲線の高周波側と低周波側のx軸切片の差をサイクル試験後の抵抗とした。
サイクル試験後の抵抗を初期抵抗で除した割合を抵抗増加率とした。
【0113】
【0114】
表1中、「a1/b1/LTAF(c1)」は、正極活物質(a1)と、正極活物質(a1)の表面の全部を被覆した導電助剤(b1)と、導電助剤(b1)の全部を被覆したLTAF(c1)と、を有する正極活物質複合体(A1)を示す。「LTAF(c1)」は、Li、Ti、Al及びFからなる固体電解質を示す。「a1/LTAF(c1)」は、正極活物質(a1)と、正極活物質(a1)の表面の全部を被覆したLTAF(c1)と、を有する正極活物質複合体(X1)を示す。「a1/b1/B1」は、正極活物質(a1)と、正極活物質(a1)の表面の全部を被覆した導電助剤(b1)と、導電助剤(b1)の全体を被覆した硫化物固体電解質(B1)と、を有する正極活物質複合体(X2)を示す。
【0115】
比較例1~比較例3の正極材料は、正極活物質複合体(A)を含有しなかった。そのため、比較例1では、初期抵抗の測定結果が実施例1より大きい。比較例2では、初期抵抗の測定結果が、実施例1より大きく、かつ抵抗増加率の測定結果も実施例1より大きい。比較例3では、抵抗増加率の測定結果が実施例1より大きい。つまり、比較例1~比較例3の評価用電池は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい電池ではないことがわかった。その結果、比較例1~比較例3の正極材料は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができないことがわかった。
【0116】
実施例1の正極材料は、正極活物質複合体(A1)と硫化物固体電解質(B1)と、を含有する。正極活物質複合体(A1)は、正極活物質(a1)と、正極活物質(a1)の表面の全部を被覆した導電助剤(b1)と、導電助剤(b1)の全部を被覆したLTAF(c)と、を有する。LTAF(c)は、Li、Ti、Al及びFを含む。そのため、実施例1の初期抵抗は5.0Ωであり、比較例1及び比較例2より小さい。更に、実施例1の抵抗増加率は0%であり、比較例2及び比較例3より小さい。つまり、実施例1の評価用電池は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい電池であることがわかった。その結果、実施例1の正極材料は、初期抵抗が抑制され、かつ充放電が繰り返されても抵抗が増加しにくい固体電池とすることができることがわかった。