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特開2024-72217調整装置、射出成形機およびプログラム
<図1>
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図1
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図2
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図3
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図4
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図5
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図6
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図7
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図8
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図9
  • 特開-調整装置、射出成形機およびプログラム 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072217
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】調整装置、射出成形機およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20240520BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182957
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】中園 真修
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM22
4F206AM23
4F206AP20
4F206AR20
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP17
4F206JP30
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】射出成形装置における成形条件の調整において、より利用効果の高い調整手法を適用したシステムを提供する。
【解決手段】成形条件に基づいて射出成形を行う射出成形機の成形条件を調整する調整装置であって、調整対象の成形条件である対象成形条件および調整対象の成形品質である対象成形品質に関するモデルおよびこのモデルに応じた係数を用い、目標とする成形品質である目標成形品質と対象成形品質とに基づき、対象成形条件に対する調整量を計算する調整量計算部130と、調整量計算部130により計算された調整量に基づいて対象成形条件を調整する成形条件調整部と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形条件に基づいて射出成形を行う射出成形機の成形条件を調整する調整装置であって、
調整対象の成形条件である対象成形条件および調整対象の成形品質である対象成形品質に関するモデルおよび当該モデルに応じた係数を用い、目標とする成形品質である目標成形品質と当該対象成形品質とに基づき、当該対象成形条件に対する調整量を計算する調整量計算部と、
前記調整量計算部により計算された前記調整量に基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整部と、
を備えることを特徴とする、調整装置。
【請求項2】
前記調整量計算部が前記調整量の計算に用いる前記モデルは、線形回帰モデルであり、
前記成形条件調整部が用いる前記係数は、前記線形回帰モデルの決定係数であることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項3】
前記調整量計算部が前記調整量の計算に用いる前記モデルは、線形回帰モデルであり、
前記成形条件調整部が用いる前記係数は、前記線形回帰モデルの平均平方根二乗誤差を用い、0以上1以下の何れかの値となるように変換された係数であることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項4】
前記成形条件調整部が用いる前記係数は、前記モデルに基づく成形条件の調整後に得られると予測される成形品質の予測分布に基づいて特定されることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項5】
前記成形条件調整部が用いる前記係数は、成形条件の調整後に得られると予測される成形品質の前記予測分布と、当該成形品質の種類に応じて特定される当該成形品質の信頼度を考慮して得られる当該成形品質の予測分布との比に基づいて特定されることを特徴とする、請求項4に記載の調整装置。
【請求項6】
前記成形品質の信頼度は、前記成形品質の取得手段の精度に基づいて特定されることを特徴とする、請求項5に記載の調整装置。
【請求項7】
前記調整量計算部が前記調整量の計算に用いる前記モデルは、確率モデルであり、
前記成形条件調整部は、前記予測分布として、事後予測分布を用いることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の調整装置。
【請求項8】
前記調整量計算部は、基準となる成形条件である基準成形条件と前記対象成形条件との差分と、基準となる成形品質である基準成形品質と調整対象の成形品質である対象成形品質との差分との関係を表すモデルを、当該対象成形品質と、目標とする成形品質である目標成形品質との差分に適用し、当該対象成形条件と前記目標成形条件との差分を計算することを特徴とする、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の調整装置。
【請求項9】
成形条件に基づいて射出成形を行う射出成形機の成形条件を調整する調整装置であって、
成形条件の調整量として、基準となる成形条件である基準成形条件と調整対象の成形条件である対象成形条件との差分と、基準となる成形品質である基準成形品質と対象成形条件により製造された成形品の品質情報である対象成形品質との差分と、の関係を表すモデルを、当該対象成形品質と、目標とする成形品質である目標成形品質との差分に適用し、当該対象成形条件と目標とする成形条件である目標成形条件との差分を計算する調整量計算部と、
前記調整量計算部により計算された前記調整量に基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整部と、
を備えることを特徴とする、調整装置。
【請求項10】
前記射出成形機を制御する制御装置から現在の成形条件である現成形条件を取得し、前記対象成形条件として当該現成形条件を用い、当該現成形条件と前記基準成形条件との差分を計算する成形条件差分計算部と、
前記射出成形機による成形品の製造工程で得られる、前記現成形条件に基づいて製造された当該成形品の品質情報である現成形品質を取得し、前記対象成形品質として当該現成形品質を用い、当該現成形品質と前記基準成形品質との差分を計算する成形品質差分計算部と、
前記現成形条件と前記基準成形条件との差分および前記現成形品質と前記基準成形品質との差分を用いて前記モデルを更新するモデル更新部と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載の調整装置。
【請求項11】
前記基準成形条件は、前記現成形条件に基づいて成形品を製造したショットよりも前のショットで用いられた成形条件であり、前記基準成形品質は、当該基準成形条件に基づいて製造された成形品の品質情報であることを特徴とする、請求項10に記載の調整装置。
【請求項12】
前記調整量計算部は、前記モデルに応じて値が特定される0以上1以下の何れかの値となる係数を前記対象成形条件と前記目標成形条件との差分に適用して、前記調整量を計算し、
前記成形条件調整部は、前記係数が適用された前記調整量に基づいて前記対象成形条件を調整することを特徴とする、請求項9乃至請求項11の何れかに記載の調整装置。
【請求項13】
前記係数は、前記目標成形条件の差分の計算に用いられるモデルに基づいて値が特定されることを特徴とする、請求項12に記載の調整装置。
【請求項14】
前記成形条件調整部は、前記対象成形品質と前記目標成形品質とが一致する場合に、成形条件の調整後に前記射出成形機による成形品の製造工程で得られる当該成形品の品質が、前記目標成形品質に対して認められた幅の範囲内に収まるように成形条件を調整することを特徴とする、請求項9に記載の調整装置。
【請求項15】
前記現成形条件、前記現成形品質、前記成形条件差分計算部により算出された差分および前記成形品質差分計算部により算出された差分の何れか一つ以上の値が、それまでのショットで取得された値または当該値の推移の傾向と異なる場合、前記モデル更新部は、前記モデルの更新を行わないことを特徴とする、請求項10に記載の調整装置。
【請求項16】
前記現成形条件、前記現成形品質、前記成形条件差分計算部により算出された差分および前記成形品質差分計算部により算出された差分の何れか一つ以上の値が、それまでのショットで取得された値または当該値の推移の傾向と異なる場合、前記成形条件調整部は、成形条件の調整を行わないことを特徴とする、請求項9に記載の調整装置。
【請求項17】
射出装置と、
型締装置と、
成形条件の自動調整機能を有し、前記射出装置および前記型締装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
調整対象の成形条件である対象成形条件および調整対象の成形品質である対象成形品質に関するモデルを用い、目標とする成形品質である目標成形品質と当該対象成形品質とに基づき、当該対象成形条件に対する調整量を計算する調整量計算部と、
前記調整量計算部による前記調整量の計算に用いられる前記モデルに応じた0以上1以下の何れかの値となる係数と前記調整量とに基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整部と、
を備えることを特徴とする、射出成形機。
【請求項18】
射出装置と、
型締装置と、
成形条件の自動調整機能を有し、前記射出装置および前記型締装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
成形条件の調整量として、基準となる成形条件である基準成形条件と調整対象の成形条件である対象成形条件との差分と、基準となる成形品質である基準成形品質と対象成形条件により製造された成形品の品質情報である対象成形品質との差分と、の関係を表すモデルを、当該対象成形品質と、目標とする成形品質である目標成形品質との差分に適用し、当該対象成形条件と目標とする成形条件である目標成形条件との差分を計算する調整量計算部と、
前記調整量計算部により計算された前記調整量に基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整部と、
を備えることを特徴とする、射出成形機。
【請求項19】
コンピュータを、
調整対象の成形条件である対象成形条件および調整対象の成形品質である対象成形品質に関するモデルを用い、目標とする成形品質である目標成形品質と当該対象成形品質とに基づき、当該対象成形条件に対する調整量を計算する調整量計算手段と、
前記調整量計算手段による前記調整量の計算に用いられる前記モデルに応じた0以上1以下の何れかの値となる係数と前記調整量とに基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整手段として、
機能させることを特徴とする、プログラム。
【請求項20】
コンピュータを、
成形条件の調整量として、基準となる成形条件である基準成形条件と調整対象の成形条件である対象成形条件との差分と、基準となる成形品質である基準成形品質と対象成形条件により製造された成形品の品質情報である対象成形品質との差分と、の関係を表すモデルを、当該対象成形品質と、目標とする成形品質である目標成形品質との差分に適用し、当該対象成形条件と目標とする成形条件である目標成形条件との差分を計算する調整量計算手段と、
前記調整量計算手段により計算された前記調整量に基づいて前記対象成形条件を調整する成形条件調整手段として、
機能させることを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整装置、射出成形機およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第一学習モデルを用いて、センサにより検出された成形時状態データと成形時状態データ目標値との差分に相当する値である成形時状態データ調整量を取得する成形時状態データ調整量取得部と、第二学習モデルを用いて、成形時状態データ調整量に対応する成形条件要素の調整量を取得する成形条件要素調整量取得部とを備え、取得した調整量に基づいて成形条件要素を調整する成形条件決定支援装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、データ処理部に、入力パラメータ及び出力パラメータに係わる成形データに対して、制約条件としての成形工程時の成形データ及び成形品質に係わる評価情報と、目的関数としてのニューラルネットワークの学習に基づく予測関数と、当該制約条件及び目的関数を満たす入力パラメータに係わる最適化した成形条件を求める最適化処理プログラムとを設定し、生産稼働時に、データ処理部により成形工程中の出力パラメータに係わる成形データを検出し、当該出力パラメータに係わる成形データに基づいて最適化処理プログラムにより最適化した成形条件を求め、求めた成形条件により既設の成形条件を変更する成形最適化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-49929号公報
【特許文献2】特開2017-119425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成形において、機械学習等によるモデルを用いて、多変量の入出力に対応して、成形品質の変動に基づき成形条件の調整量を算出することができる。しかしながら、機械学習等によるモデルを用いて算出される調整量に基づく成形条件の調整には、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、射出成形装置における成形条件の調整において、より利用効果の高い調整手法を適用したシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、成形条件に基づいて射出成形を行う射出成形機の成形条件を調整する調整装置であって、調整対象の成形条件である対象成形条件および調整対象の成形品質である対象成形品質に関するモデルおよびこのモデルに応じた係数を用い、目標とする成形品質である目標成形品質と対象成形品質とに基づき、対象成形条件に対する調整量を計算する調整量計算部と、調整量計算部により計算された調整量に基づいて対象成形条件を調整する成形条件調整部と、を備えることを特徴とする、調整装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、射出成形装置における成形条件の調整において、調整量の計算に要する負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。
図2】制御装置の構成を示す図である。
図3】データ処理装置の構成を示す図である。
図4】制御装置およびデータ処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図5】調整量計算部の機能構成を示す図である。
図6】調整量の補正を行う場合の調整量計算部の機能構成を示す図である。
図7】目標条件差分を用いて成形条件を調整する場合における信頼度を説明する図であり、図7(A)は目標条件差分の信頼度が高い場合の成形品質の予測分布を示す図、図7(B)は目標条件差分の信頼度が低い場合の成形品質の予測分布を示す図である。
図8】RMSEのモデル残差を緩和係数αに変換する関数の例を示す図である。
図9】確率分布β0と確率分布βとを示す図である。
図10】改善度γの変換に用いられる関数の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<装置構成>
図1は、本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。射出成形機10は、射出装置20と、型締装置30と、制御装置100と、データ処理装置200と、表示装置300とを備える。以下の説明では、射出装置20から型締装置30へ向かう方向を前方と呼ぶ場合がある。
【0011】
射出装置20は、成形材料を加熱するシリンダ、このシリンダ内で回転可能であると共に軸方向に進退可能に設けられているスクリュー、このスクリューを回転方向に駆動する回転モータ、このスクリューを軸方向に駆動するモータ等を備えて構成される。成形材料は、例えば、樹脂等である。射出装置20は、スクリューを回転させながら前方へ進出させることにより、シリンダ内で加熱されて液状となった成形材料を射出し、射出装置20の前方に配置された型締装置30の金型内へ充填する。射出装置20は、成形品の製造工程において、例えば、計量工程、充填工程、保圧工程などを行う。充填工程と保圧工程とをまとめて射出工程とも呼ぶ。
【0012】
型締装置30は、金型と、金型を締め付ける締め付け機構、この締め付け機構を駆動するモータ等を備えて構成される。型締装置30は、金型を閉じて射出装置20から射出された成形材料を金型内部へ受ける。このとき、型締装置30は、成形材料が充填されることによって金型が開かないように締め付け機構により金型を締め付ける(型締め)。金型に充填された成形材料が固化することにより成形品が生成される。この後、型締装置30は、金型を開いて、生成された成形品を送り出す。型締装置30は、成形品の製造工程において、例えば、型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、型開工程などを行う。
【0013】
制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する装置である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が動作するのに伴って得られるデータを処理する装置である。表示装置300は、制御装置100による射出装置20および型締装置30の制御に関する情報、データ処理装置200が取得したデータやデータ処理装置200の処理結果等を表示する。また、表示装置300は、制御装置100やデータ処理装置200に命令やデータを入力する操作を行うための操作画面を表示する。
【0014】
<制御装置100の構成>
図2は、制御装置100の構成を示す図である。制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する。制御装置100は、例えば、コンピュータにより実現される。制御装置100は、制御部110と、成形条件調整部120と、調整量計算部130と、記憶部140とを備える。制御装置100は、射出装置20および型締装置30を制御して、成形品の製造に係る工程を繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。成形品の製造に係る工程には、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、突き出し工程などが含まれる。以下、これらの製造に係る工程をまとめて「製造工程」と呼ぶことがある。また、成形品を得るための一連の動作、例えば、上記の製造工程における計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」、「成形サイクル」等と呼ぶ。なお、成形品を製造する上記の各工程は例示に過ぎない。例えば、1ショットで実行される工程として、上記に含まれない、他の工程を含んでも良い。
【0015】
制御部110は、制御情報に基づいて、射出装置20および型締装置30を制御する。制御情報は、ユーザが設定する条件であり、例えば、図示しない入力装置を用いてユーザが入力する。制御情報には、例えば、樹脂温度、金型温度(シリンダ温度)、射出保圧時間、計量値、V-P切り替え位置、保圧圧力、射出速度(充填速度)、スクリュー回転数、スクリュー背圧、型締力等の成形条件が含まれる。これらの成形条件は、成形品や金型に応じて複数の組み合わせが決められる。この成形条件の組み合わせデータを、以下、成形条件データセットとも呼ぶ。成形条件データセットは、成形品や金型の種類等に応じて用意され、記憶部140に格納されている。
【0016】
制御部110は、上記の成形条件データセットを用いて射出装置20および型締装置30を制御し、上記の各工程等を含む成形品の製造(ショット)に係る工程を実施する。制御部110は、成形品の製造開始時などに、製造しようとする成形品に対応する成形条件データセットを記憶部140から読み出す。そして、制御部110は、読み出した制御情報に基づいて射出装置20および型締装置30の動作を制御する。具体的には、制御部110は、製造工程において射出装置20および型締装置30から得られるデータが、成形条件データセットの設定値と一致するように、射出装置20および型締装置30を制御する。また、制御部110は、記憶部140から読み込んだ成形条件データセットを表示装置300に表示させても良い。ユーザは、表示装置300に表示された成形条件のデータを参照し、必要に応じて値の修正等の操作を行っても良い。
【0017】
成形条件調整部120は、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御において用いられる成形条件を調整する。成形品の製造工程が繰り返されると、射出装置20および型締装置30の状態が変化し、この装置20、30の状態変化が成形品の品質(以下、「成形品質」と呼ぶ)に影響する。そこで、成形品を量産する際の動作において成形品質を維持するため、成形条件調整部120が成形条件を自動調整する。
【0018】
成形条件調整部120は、調整量計算部130により算出される成形条件の調整量の情報に基づいて、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御に用いられる成形条件を調整する。成形条件調整部120による成形条件の調整は、毎ショット行っても良いし、数ショットおきに行っても良い。また、予め定められた一定時間が経過するごとに行っても良いし、成形品質が調整条件を満足した場合に行っても良い。成形品質は、データ処理装置200が射出装置20および型締装置30から取得する成形品の製造に関するデータのうち、成形品質を表すものとして特定されたデータ(品質情報)により示される。成形品質が調整条件を満足する場合とは、例えば、データ処理装置200が取得した成形品質を表すデータが予め定められた閾値を超えた場合等としても良い。
【0019】
調整量計算部130は、成形条件調整部120による成形条件の調整量を算出する。調整量の計算には、機械学習やその他の数理最適化手法が用いられる。ここで、調整量計算部130は、成形条件の調整量を得るためのモデルとして、成形条件および成形品質の値そのものではなく、成形条件の差分および成形品質の差分に基づくモデルを用いる。成形条件の差分とは、調整対象の成形条件(以下、「対象成形条件」と呼ぶ)と、基準となる成形条件(以下、「基準成形条件」と呼ぶ)との差分である。本実施形態においては、対象成形条件は、現在の成形品(言い換えれば、最後に製造された成形品)を製造するのに用いられた成形条件(以下、「現成形条件」と呼ぶ)をその一例とする。ここで、現成形条件としては、最後に品質情報を取得した成形品に対応する成形条件を用いても良いし、最後に成形品を成形した後に変更・調整がされている場合には変更・調整後の成形条件を用いるようにしても良い。成形品質の差分とは、基準となる成形品質の品質情報(以下、「基準成形品質」と呼ぶ)と、調整対象の成形品質との差分である。ここで、調整対象の成形品質は、調整対象の成形条件に基づいて製造された成形品質の品質情報であり、現在の成形品の成形品質の品質情報(以下、「現成形品質」と呼ぶ)として良い。なお、本実施形態において差分とは、四則演算の引き算により得られる数値間の開きだけでなく、二つの値の違いや隔たりを表すものであれば何でも良く、例えば、割り算や関数によって求まる値なども広く含むこととする。調整量計算部130による成形条件の調整量の計算方法の詳細については後述する。
【0020】
ここで、基準成形条件は、現成形条件に対する比較対象として特定された成形条件であり、具体的には、現成形条件が用いられたショット(最後に行われたショット)よりも前のショットで用いられた成形条件である。基準成形条件として何れのショットで用いられた成形条件を用いるかは、実際の装置において個別に設定すればよく、特に限定しない。例えば、現成形条件が用いられたショットの直前のショットで用いられた成形条件を基準成形条件としても良いし、予め定められた数ショット前のショットで用いられた成形条件を基準成形条件としても良い。基準成形品質は、基準成形条件が用いられたショットで製造された成形品の品質を表す情報である。以下、基準成形条件および基準成形品質をまとめて基準情報、基準値などと呼ぶことがある。
【0021】
成形条件の調整量の計算に用いられるモデルは、成形条件の差分と成形品質の差分との関係を表す回帰モデルである。このモデルとしては、ニューラルネットワークを含む様々な回帰モデルを用いることができる。例えば、単純な線形回帰モデルを用いても良いし、ベイズ重回帰やガウス過程などの確率モデルを用いても良い。モデルには、回帰モデルを作成するうえで一般的な標準化等の前処理を施しても良い。モデルは、予め定められた更新条件に従って更新される。更新条件としては、例えば、成形条件調整部120による調整が予め定められた回数(1回または複数回)行われたこととしても良いし、定期的に更新するように定めても良い。モデルの更新は、逐次学習によって行っても良いし、数回分の差分の情報を蓄積し、蓄積した差分データを学習データとして用いて学習することにより行っても良い。
【0022】
成形条件の調整量を計算するために多変量の入出力に対応したモデルと、多目的最適化とを用いることで、それぞれ1つ以上の項目を取り扱うことができる。また、成形条件の差分と成形品質の差分との関係を表すモデルを用いることで、成形条件と成形品質との関係を表すモデルを用いる場合と異なり、成形品や金型に応じて設定された成形条件および成形品質の項目のみについての関係を表すモデルを作成すれば良い。このため、処理の負荷を軽減すると共に、様々な成形品や金型に適用するための汎用性の高いシステムを実現することができる。なお、原則的に成形条件が一定となる量産時において、成形条件の調整は、室温変化等の外乱によって生じる成形品質の変化を抑制するために行われる。このため、成形条件の調整量を計算するために成形条件と成形品質との関係をモデルに使用することは適切ではない。
【0023】
記憶部140は、射出装置20および型締装置30の制御に用いられる制御情報141を保持する。制御情報141に含まれる成形条件データセットは、製造対象の成形品や金型に対応付けられて用意されている。記憶部140は、製造対象の成形品や金型ごとの成形条件データセットを保持する。また、記憶部140は、成形条件の調整量の計算に用いられる基準情報142を保持する。基準情報142には、基準成形条件と基準成形品質とが含まれる。また、記憶部140は、目標とする成形品質の品質情報(以下、「目標成形品質」と呼ぶ)143を保持する。目標とする成形品質とは、不良と評価されない成形品質である。不良と評価されない成形品質に幅がある場合(言い換えれば、目標成形品質の値に対して幅が認められている場合)は、平均値等の代表値を目標成形品質としても良い。目標成形品質は、例えば、ユーザにより設定され、後述する入力手段等を用いて入力されて、記憶部140に格納される。
【0024】
また、図示しないが、記憶部140は、制御部110が射出装置20および型締装置30を制御するためのプログラム、成形条件調整部120が成形条件を調整するためのプログラム、調整量計算部130が成形条件の調整量を計算するためのプログラムおよびモデルを保持している。詳しくは後述するが、制御装置100においてプロセッサが記憶部140に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、制御部110、成形条件調整部120および調整量計算部130の機能が実現される。成形条件調整部120および調整量計算部130は、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御における成形条件を調整する調整装置の一例である。
【0025】
<データ処理装置200の構成>
図3は、データ処理装置200の構成を示す図である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が上記の成形品の製造に係る工程における動作を実行するのに伴って得られるデータを取得し、処理する。データ処理装置200は、例えば、コンピュータにより実現される。データ処理装置200は、データ取得部210と、処理部220と、記憶部230と、表示制御部240と、受け付け部250とを備える。
【0026】
データ取得部210は、射出装置20および型締装置30から処理対象のデータを取得する。射出装置20および型締装置30には、種々のセンサや検出器が取り付けられている。また、射出成形装置には計測機器を接続することもある。これらのセンサや検出器や計測機器により取得されるデータ(以下、「取得データ」と呼ぶ)は、射出装置20および型締装置30による成形結果を表す情報であり、成形品の品質管理に用いられる。具体的には、例えば、成形品の重量、成形品の寸法、型内圧、最小クッション位置、充填圧力の波形の特徴量などが含まれる。これらの取得データは、成形品の製造工程において得られる実績値である。データ取得部210は、センサや検出器や計測機器から送信された取得データを受信し、記憶部230に格納する。
【0027】
処理部220は、記憶部230に格納された取得データを処理する。具体的には、処理部220は、各工程における取得データの代表値の抽出、各工程における取得データを時系列化した時系列データの生成等の処理を行う。処理部220は、代表値の抽出において、取得データに対し、平均値の算出、値の取り得る範囲の特定、最大値や最小値の特定等の統計処理を行う。
【0028】
記憶部230は、データ取得部210により取得された取得データを保持する。記憶部230に保持される取得データのデータ形式として、例えば、バイナリ、テキスト、CSV(Comma Separated Values)、INI、YAML(“YAML Ain’t Markup Language)、JSON(JavaScript Object Notation)等を用いても良い。これらの汎用的なデータ形式によるデータファイルとすることで、調整条件のデータファイルを他の情報処理装置とデータ交換したり、外部装置から取得した調整条件のデータファイルを編集したりすることが可能となる。
【0029】
また、図示しないが、記憶部230は、処理部220がデータ処理を実行するためのプログラム、表示制御部240が表示装置300に画面を表示させるためのプログラム、受け付け部250が操作画面に対して行われたユーザの操作を受け付けるためのプログラムを保持している。詳しくは後述するが、データ処理装置200においてプロセッサが記憶部230に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、処理部220、表示制御部240および受け付け部250の機能が実現される。
【0030】
表示制御部240は、ユーザが種々の操作を行うための操作画面を生成し、表示装置300に表示させる。受け付け部250は、表示装置300に表示された操作画面に対してユーザが行った操作を受け付ける。具体的には、例えば、操作画面の入力欄に対して行われたデータの入力や、画面の切り替え操作等を受け付ける。
【0031】
<制御装置100およびデータ処理装置200のハードウェア構成>
図4は、制御装置100およびデータ処理装置200を実現するコンピュータ400のハードウェア構成例を示す図である。図4に示すコンピュータは、演算手段であるプロセッサ401と、記憶手段である主記憶装置(メイン・メモリ)402および補助記憶装置403を備える。プロセッサ401としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の種々の演算回路が用い得る。プロセッサ401は、補助記憶装置403に格納されたプログラムを主記憶装置402に読み込んで実行する。主記憶装置402としては、例えば、RAM(Random Access Memory)が用いられる。補助記憶装置403としては、例えば、磁気ディスク装置やSSD(Solid State Drive)等が用いられる。また、コンピュータは、表示装置(ディスプレイ)300に表示出力を行うための表示機構404と、コンピュータのユーザによる入力操作が行われる入力手段としての入力デバイス405とを備える。入力デバイス405としては、例えば、キーボードやマウス等が用いられる。なお、図4に示すコンピュータの構成は一例に過ぎず、本実施形態で用いられるコンピュータは図4の構成例に限定されるものではない。例えば、記憶装置としてフラッシュ・メモリ等の不揮発性メモリやROM(Read Only Memory)を備える構成としても良い。
【0032】
制御装置100が図4に示すコンピュータにより実現される場合、制御部110、成形条件調整部120および調整量計算部130の機能は、例えば、プロセッサ401がプログラムを読み込んで実行することにより実現される。記憶部140は、例えば、補助記憶装置403により実現される。
【0033】
データ処理装置200が図4に示すコンピュータにより実現される場合、データ取得部210および処理部220の機能は、例えば、プロセッサ401がプログラムを読み込んで実行することにより実現される。記憶部230は、例えば、補助記憶装置403により実現される。表示制御部240は、例えば、プログラムを読み込んで実行するプロセッサ401および表示機構404により実現される。受け付け部250は、例えば、プログラムを読み込んで実行するプロセッサ401および入力デバイス405により実現される。
【0034】
<調整量の計算>
次に、制御装置100の調整量計算部130による成形条件の調整量の計算について説明する。調整量計算部130は、成形条件の差分および成形品質の差分に基づくモデルを用いて調整量を計算することを述べた。より具体的には、調整量計算部130は、成形条件の差分および成形品質の差分に基づき、この成形条件の差分と成形品質の差分との関係を表すモデルを用い、現成形品質と目標成形品質との差分をこのモデルに適用することにより、目標成形品質を得るための成形条件を特定する。以下、調整量計算部130の機能についてさらに詳細に説明する。
【0035】
図5は、調整量計算部130の機能構成を示す図である。調整量計算部130は、成形条件差分計算部131と、成形品質差分計算部132と、モデル更新部133と、目標品質差分計算部134と、変更量計算部135とを備える。調整量計算部130には、基準成形条件(図では、「基準値(成形条件)」と記載)、現成形条件(図では、「現在値(成形条件)」と記載)、基準成形品質(図では、「基準値(成形品質)」と記載)、現成形品質(図では、「現在値(成形品質)」と記載)が入力される。基準成形条件および基準成形品質は、記憶部140から読み出される。現成形条件および現成形品質は、データ処理装置200から取得される。また、調整量計算部130からは、成形条件の調整に用いられる調整量が出力される。調整量計算部130から出力された調整量は、成形条件調整部120に送られる。
【0036】
成形条件差分計算部131は、基準成形条件と現成形条件とを取得し、これらの差分を計算する。以下、基準成形条件と現成形条件との差分を「成形条件の差分」と呼ぶ。基準成形条件は、記憶部140から読み出される。現成形条件は、最後に行われたショットで用いられた成形条件であり、制御部110から取得される。制御部110は、調整量計算部130からの要求に応じて、射出装置20および型締装置30の制御に用いた成形条件を送る。現成形条件は、調整量計算部130による成形条件の調整量の計算に用いられたのち、後の成形条件の調整量の計算で用いられる基準成形条件として記憶部140に格納される。
【0037】
成形品質差分計算部132は、基準成形品質と現成形品質とを取得し、これらの差分を計算する。以下、基準成形品質と現成形品質との差分を「成形品質の差分」と呼ぶ。基準成形品質は、記憶部140から読み出される。現成形品質は、最後に行われたショットで製造された成形品の品質を表す情報であり、データ処理装置200から取得される。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30から取得した取得データから品質情報を抽出し、制御装置100へ送る。現成形品質は、調整量計算部130による成形条件の調整量の計算に用いられたのち、後の成形条件の調整量の計算で用いられる基準成形品質として記憶部140に格納される。
【0038】
モデル更新部133は、成形条件差分計算部131により算出された成形条件の差分と、成形品質差分計算部132により算出された成形品質の差分とを取得し、これらの差分情報に基づき、成形条件の調整量を計算するのに用いられるモデルの更新を行う。モデル更新部133が成形条件の差分と成形品質の差分とを用いてモデルを更新することにより、成形品の量産時においても、射出装置20および型締装置30の状態変化に応じてモデルを学習させることができる。
【0039】
目標品質差分計算部134は、目標成形品質と現成形品質とを取得し、これらの差分を計算する。以下、目標成形品質と現成形品質との差分を「目標品質差分」と呼ぶ。目標成形品質は、記憶部140から読み出される。現成形品質は、上記のように、データ処理装置200から取得される。
【0040】
変更量計算部135は、目標品質差分計算部134により算出された目標品質差分を取得し、この目標品質差分に対してモデルを適用して、成形条件の変更量を計算する。本実施形態において、変更量計算部135により算出される成形条件の変更量は、成形条件調整部120による成形条件の調整における調整量として用いられる。よって、この変更量は、調整量として、調整量計算部130から成形条件調整部120へ送られる。変更量の計算で用いられるモデルは、製造対象の成形品および金型に応じて用意され、成形品の量産時には射出装置20および型締装置30の状態変化に応じてモデル更新部133により更新されたモデルである。
【0041】
変更量計算部135において成形条件の変更量を得るために用いられるモデルは、成形条件の差分と成形品質の差分との関係を表すモデルである。したがって、目標品質差分計算部134により得られる目標成形品質と現成形品質との差分に対してモデルを適用することにより、現成形条件と目標とする成形条件(以下、「目標成形条件」と呼ぶ)との差分が求まる。目標とする成形条件とは、その成形条件を適用して製造される成形品が目標成形品質を満足するような成形条件である。この現成形条件と目標成形条件との差分が、成形条件の変更量となる。以下、現成形条件と目標成形条件との差分を「目標条件差分」と呼ぶ。変更量計算部135は、適用するモデルを解析的に解くことにより、所望の目標品質差分を実現すると見込まれる目標条件差分を求めても良い。また、変更量計算部135は、モデルを、勾配法やベイズ最適化等の数値最適化アルゴリズムに適用することにより、目標条件差分を求めても良い。
【0042】
変更量計算部135により算出された目標条件差分の情報は、調整量計算部130により算出された成形条件の調整量として成形条件調整部120に送られる。成形条件調整部120は、制御部110の現在の成形条件(現成形条件)に対して、調整量計算部130により算出された目標条件差分に示される成形条件の調整量(すなわち、目標条件差分)を適用(加算または減算)することにより、成形条件を調整する。図5に示す調整量計算部130において、変更量計算部135により算出された変更量は、成形条件の調整量の一例である。
【0043】
成形条件調整部120による成形条件の変更は、製造される成形品の品質に影響する。したがって、成形条件の調整を行う目的は、射出装置20および型締装置30の状態変化等による成形品質の変化を抑制することにある。言い換えれば、成形品質に変化が無ければ、成形条件を調整する必要はない。しかしながら、成形条件の調整量を計算するために用いるモデルを効率よく学習させるために、現成形品質が目標成形品質と一致している場合であっても、成形条件を微小量変化させても良い。この場合、成形条件の変更は、変更後の成形条件により製造される成形品の品質が、目標成形品質とされる成形品質の幅の範囲内に収まるように行われる。
【0044】
あるショットにおいて取得された成形条件差分計算部131が取得した現成形条件、成形品質差分計算部132が取得した現成形品質、成形条件差分計算部131が算出した成形条件の差分、成形品質差分計算部132が算出した成形品質の差分などの値が、それまでのショットで取得された値やその推移の傾向と異なる場合、その他、予め定められた異常値とされる値である場合、そのショットで得られた値は、ノイズであったり、センサや検出器や計測機器の異常が反映されたものであったりする可能性がある。そこで、このような場合、成形条件の調整量を計算するために用いるモデルが崩壊するのを避けるため、モデルの更新を見送っても良い。また、そのような異常値に基づいて得られた成形条件の調整量に従って成形条件を調整することによって成形品質が悪化することを防ぐため、成形条件の調整を見送っても良い。
【0045】
<調整量の補正>
図5を参照して説明した上記の構成例では、調整量計算部130は、変更量計算部135により算出された目標条件差分(成形条件の変更量)をそのまま成形条件の調整量として成形条件調整部120に送った。これに対し、成形条件調整部120による成形条件の調整においてハンチングが生じることを防ぐ目的で、0≦α≦1の値を取る緩和係数αを目標条件差分の値に乗じて補正した値(以下、「補正値」と呼ぶ)を成形条件の調整量として成形条件調整部120に送ることが考えられる。以下、この補正値を成形条件の調整量として用いる場合の調整量計算部130の機能について説明する。なお、以下の説明において、目標条件差分の値をΔx、緩和係数αを乗じた補正値をαΔxとする。
【0046】
成形条件と成形品質との関係を機械学習等によりモデル化し、目標とする成形品質を得るための成形条件を算出する場合、モデルの確度を管理することが望ましい。機械学習等においては、モデルが常に目標とする成形品質を得るための成形条件を算出する機能を満たすレベルで生成されるとは限らない。このため、使用したモデルが確度の低いモデルであった場合、かかるモデルに基づく成形条件の調整を実施することにより、成形品の生産状況が悪化する可能性がある。また、センサや検出器や計測機器により取得されるデータには、一般的にノイズが含まれる。このノイズに対応してノイズを打ち消すような成形条件の調整を行うと、やはり成形品の生産状況が悪化する可能性がある。そこで、調整量計算部130において、算出した目標条件差分に対し、目標条件差分の信頼度(後述)に基づく補正を行うことが考えられる。信頼度が低い場合には、目標条件差分に基づく成形条件の調整量を抑制することにより、成形条件を調整するシステムとしての堅牢度が向上する。
【0047】
図6は、調整量の補正を行う場合の調整量計算部130の機能構成を示す図である。図6に示す調整量計算部130は、成形条件差分計算部131と、成形品質差分計算部132と、モデル更新部133と、目標品質差分計算部134と、変更量計算部135と、変更量補正部136とを備える。図6に示す構成において、成形条件差分計算部131、成形品質差分計算部132、モデル更新部133、目標品質差分計算部134および変更量計算部135は、図5に示した対応する各構成と同様であるので説明を省略する。
【0048】
変更量補正部136は、変更量計算部135により算出された目標条件差分Δxに緩和係数αを乗じて補正値αΔxを算出する。この補正値αΔxは、図6に示す調整量計算部130により算出された成形条件の調整量として成形条件調整部120に送られる。成形条件調整部120は、制御部110の現在の成形条件(現成形条件)に対して、調整量計算部130により算出された成形条件の調整量(すなわち、補正値αΔx)を適用(加算または減算)することにより、成形条件を調整する。図6に示す調整量計算部130において、変更量補正部136により算出された補正値αΔxは、成形条件の調整量の一例である。
【0049】
<緩和係数αの例>
緩和係数αには、0≦α≦1の値を取り、目標条件差分Δxに対する何らかの信頼度を表すような様々な係数を用い得る。また、確率分布を用いて緩和係数αを設定することもできる。緩和係数αとしては、変更量計算部135において成形条件の変更量を得るために用いられるモデルに応じた係数が用いられる。モデルに応じた係数とは、モデルに対応して予め定められた係数、あるいは、モデルに対応する関数が予め定められ、成形条件や成形品質等によって定まる係数である。なお、本実施例において緩和係数α(目標条件差分Δxの信頼度)は、モデルの信頼性にも基づく。モデルの信頼性は、ショットごとに異なり、ショットが繰り返されて取得されるデータが増えるほど信頼性が向上していくと考えられる。また、調整した結果の成形条件によって成形品質が改善した場合には信頼性が向上し、調整した結果の成形条件によって成形品質が改善されない場合、または、品質が悪化した場合には低下していくとも考えられる。そこで、定期的に、モデルの信頼性に基づいて緩和係数αを更新しても良い。データが増えたこと、または、調整結果の品質に基づいて、モデルの信頼性が変化していく。以下に、緩和係数αの具体例を挙げて、さらに説明する。
【0050】
(1)調整量計算部130において目標条件差分Δxを計算するためのモデルとしては、種々のモデルを使用できるが、例えば、線形回帰モデルとその決定係数(R2乗値)または決定係数を増加関数で変換した値を用いることができる。ここで、決定係数の値は、入力と出力の関係が完全に一致している場合には1となり、多くの場合に0以上となる。そこで、この決定係数をそのまま緩和係数αとして用いることが考えられる。この場合、決定係数の値として0以下の値が得られた場合は、緩和係数αの値を0としても良い。また、決定係数には、自由度調整済みの決定係数を用いても良い。
【0051】
(2)緩和係数αとして、目標条件差分Δxを計算するためのモデルの平均平方根二乗誤差(RMSE:Root Mean Squared Error)に基づいた値を用いることが考えられる。RMSEの取り得る値(残差)は、0以上であり、上限が存在しない。そして、値が大きいほどモデルの精度が低いという特徴がある。したがって、RMSEに基づいた値を緩和係数αとして用いるには、適当な関数を用いてRMSEが大きいほど値が小さく、且つ、0≦α≦1となるように変換する必要がある。
【0052】
図8は、RMSEのモデル残差を緩和係数αに変換する関数の例を示す図である。図8に示すグラフは、縦軸を緩和係数α、横軸をモデル残差としている。図8に示すグラフにより表される関数は、0<α≦1であり、モデル残差の値が大きくなるほどαの値が小さくなっている。なお、モデル残差を緩和係数αに変換する演算には、既存の演算方法を用いて良い。
【0053】
(3)緩和係数αの算出に確率分布を用いても良い。以下の説明において、成形品質をy、目標成形品質をytarget、現成形品質をycurrentとすると、目標品質差分Δyは、Δy=|ycurrent-ytarget|で表される。また、目標品質差分Δyの取り得る範囲をΔyrangeとすると、Δyrange=(UCL-LCL)/2で表される。ここで、UCLは上方管理限界(Upper Control Limit)、LCLは下方管理限界(Lower Control Limit)である。また、以下に示す例は、説明を簡単化するために、すべてyをスカラーとして扱うが、yをベクトルに拡張することも可能である。
【0054】
図7は、目標条件差分を用いて成形条件を調整する場合における信頼度を説明する図であり、図7(A)は目標条件差分の信頼度が高い場合の成形品質の予測分布を示す図、図7(B)は目標条件差分の信頼度が低い場合の成形品質の予測分布を示す図である。図7(A)、(B)において、グラフは、ある目標条件差分Δxを用いて成形条件を調整した場合に得られる成形品質の予測分布である。
【0055】
図示のグラフにおいて、予測分布がUCLとLCLの間にどの程度含まれるかによって目標条件差分Δxの信頼度が決まる。図7(A)の例では、予測分布のほとんどがUCLとLCLの間に含まれている。このような予測分布が得られる場合、緩和係数αは1に近い値となり、この場合の目標条件差分Δxの信頼度は高い。そして、補正値αΔxは、目標条件差分Δxに近い値となる。これに対し、図7(B)の例では、UCLからLCLまでの範囲(斜線で示した部分)を超えて予測分布が存在している。このような予測分布が得られる場合、緩和係数αは図7(A)の例よりも小さい値となり、この場合の目標条件差分Δxの信頼度は低い。そして、補正値αΔxは、目標条件差分Δxから離れた小さい値となる。
【0056】
例えば、調整後に成形品質がypredとなると予測される成形条件xに対する成形品質yの予測分布は、モデルのRMSEをσとすると、p(y)=N(y|ypred,σ2)と仮定することができる。なお、N(y|ypred,σ2)は、平均がypred、分散がσ2である正規分布を表す。そこで、緩和係数αとして、この成形品質yの予測分布である確率分布を用いることが考えられる。この確率分布βは、下記の数1により計算される。また、0以上の値を出力する単調増加関数fを用いて、f(β)を緩和係数αとして用いても良い。
【数1】
【0057】
上記の数1の式において、確率分布βを計算する際の積分区間Ymin、Ymaxには、ytarget±Δyを用いても良い。この他、積分区間Ymin、Ymaxには、ytarget±Δyrangeを用いても良いし、ytarget±ηΔyrangeを用いても良い。ここで、ηは、0より大きく1以下の値である。このように積分区間としてΔyに関連する値を用いる場合、変更量補正部136は、Δyを計算するために、現成形品質ycurrentと目標成形品質ytargetを取得する。現成形品質ycurrentは、データ処理装置200から取得される。目標成形品質ytargetは、記憶部140から読み出される。
【0058】
(4)緩和係数αにおいて、成形品質の確かさを表す要素を含めることが考えられる。この場合、変更量補正部136は、成形品質の確かさを表す要素としての成形品質の信頼度(以下、「品質信頼度」と呼ぶ)の情報を取得する。品質信頼度の情報は、品質情報により示される成形品質の種類に応じて特定される。一例として、成形品質の取得手段の精度を考慮して品質信頼度を決定しても良い。具体的には、品質情報が成形品の重量である場合、成形品の重量を計測する計測機器(重量計)の精度を品質信頼度とすることが考えられる。品質信頼度は全てのショットの品質情報に対して一定とするように定めても良いし、ショット毎に変化する値として設定しても良い。
【0059】
緩和係数αに成形品質測定の確かさの要素を含める操作の例として、データ処理装置200から取得される品質情報の値をy0とし、計測機器の精度をσ0とした場合の例を示す。この場合、成形品質の真の値は、N(y|y0,σ0 2)で分布すると仮定できる。この確率分布β0は、下記の数2により計算される。
【数2】
【0060】
図9は、確率分布β0と確率分布βとを示す図である。図9において、確率分布β0は、データ処理装置200から取得された品質情報y0を頂点とする分布を表すグラフで示され、確率分布βは、成形品質の予測値ypredを頂点とする分布を表すグラフで示されている。確率分布β0および確率分布βのグラフの斜線部分は、それぞれ積分区間Ymin、Ymaxの範囲における分布を示している。図9に示すような関係にある確率分布β0および確率分布βにおいて、成形条件の調整により成形品質が改善する程度を表す改善度γを、例えば、γ=β/β0と定義することができる。この改善度γは、0以上の値となり、1以下の値では調整が逆効果であること、1以上で値が大きくなるほど調整の効果が顕著であることを示す量である。この改善度γを緩和係数αとして用いるためには、算出値として1を上限とする増加関数で改善度γを変換する。
【0061】
図10は、改善度γの変換に用いられる関数の例を示す図である。図10に示す関数によれば、改善度γの値が1以下では、算出値としての緩和係数αの値は0となる。そして、改善度γの値が1以上では、値が大きくなるほど算出値としての緩和係数αの値は1に近づく。
【0062】
(5)調整量計算部130において目標条件差分Δxを計算するためのモデルに確率モデルを用いる場合、上記の(3)、(4)で用いた成形品質yの予測分布p(y)として事後予測分布を利用し、確率分布βや改善度γを計算しても良い。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、射出成形機10が制御装置100、データ処理装置200および表示装置300を備える構成として説明したが、かかる構成には限定されない。例えば、制御装置100の成形条件調整部120および調整量計算部130の機能をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置やネットワーク上のサーバで実現し、データ処理装置200から取得データや調整条件等の情報を取得して、制御装置100の制御部110による制御に用いられる成形条件を調整する構成としても良い。
【0064】
また、データ処理装置200の表示制御部240の機能と表示装置300の機能をパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等の情報処理装置で実現し、この情報処理装置がデータ処理装置200からデータを取得して操作画面を表示する構成としても良い。この場合、操作画面をウェブコンテンツとして作成し、情報処理装置においてウェブブラウザを介して表示する構成としても良い。
【0065】
また、成形条件として設定可能な範囲を予めユーザが設定しておき、この設定情報を用いて、制御条件の値が過剰に大きくなったり小さくなったりすることを防止する機能を制御装置100に設けても良い。この場合、調整後の成形条件が設定可能な範囲に基づいて定められる閾値に到達した際に、ユーザに対して警報を出力したり、射出装置20および型締装置30の動作を停止させたりする機能を、制御装置100に設けても良い。
【0066】
上記の実施形態では、成形条件の差分と成形品質の差分との関係を表すモデルを用いて成形条件の調整量を計算した。また、上記の実施形態では、モデルを用いて計算した調整量を用いて成形条件を調整する他、得られた調整量の信頼度に基づいて調整量を補正し、補正された調整量を用いて成形条件を調整する構成も採り得ることとした。ここで、成形条件の差分および成形品質の差分に基づくモデルを用いて成形条件の調整量を計算することと、得られた調整量を信頼度に基づいて補正することとは独立に実施可能である。例えば、成形条件の差分および成形品質の差分ではなく、成形条件および成形品質自体の関係を表すモデルを用いて成形条件の調整量を計算する制御装置であっても、得られた調整量に対し、上記の実施形態で説明した信頼度に基づく補正を行い、補正された調整量を用いて成形条件を調整することができる。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10…射出成形機、20…射出装置、30…型締装置、100…制御装置、110…制御部、120…成形条件調整部、130…調整量計算部、131…成形条件差分計算部、132…成形品質差分計算部、133…モデル更新部、134…目標品質差分計算部、135…変更量計算部、136…変更量補正部、140…記憶部、141…制御情報、142…基準情報、143…目標成形品質、200…データ処理装置、210…データ取得部、220…処理部、230…記憶部、240…表示制御部、250…受け付け部、300…表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10