(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072228
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】三次元造形用フードインクおよび該フードインクを用いた立体成形食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20240520BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240520BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022193826
(22)【出願日】2022-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】521424769
【氏名又は名称】高谷 和成
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和成
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE07
4B035LG15
4B035LG20
4B035LG21
4B035LG22
4B035LG23
4B035LG24
4B035LG25
4B035LG26
4B035LG27
4B035LG28
4B035LG29
4B035LK04
4B035LP31
4B035LT11
4B041LC10
4B041LD01
4B041LE06
4B041LH02
4B041LH06
4B041LH07
4B041LH08
4B041LH09
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH16
4B041LH17
4B041LH18
4B041LK16
4B041LK17
4B041LK25
4B041LP12
4B041LP27
(57)【要約】
【課題】高水分含量の様々な食材のフードインクを提供することを課題とする。
【解決手段】
増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、高水分含量の三次元造形用フードインクのかたさを3800(N/m
2)以上かつ付着性を500(J/m
2)以上に調整することで、吐出時の温度コントロールをすることなく、三次元造形機器から吐出して積層可能であるフードインク。また、該フードインクを用いた立体成形食品の製造方法、および三次元造形による立体成形食品製造時のフードインクの積層性の向上方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を含有し、かたさ3800N/m2以上かつ付着性500J/m2以上であることを特徴とする、水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインク。
【請求項2】
前記増粘・ゲル化能を有する親水性化合物が、グァーガム、キサンタンガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、アラビアガム、カラヤガム、ガティガム、トラガントガム、サイリウムシードガム、プルラン、大豆多糖類、脱アシル型ジェランガム、ネイティブジェランガム、アルギン酸、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、ハイメトキシルペクチン、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、グルコマンナン、カードラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、澱粉、加工澱粉、ゼラチン及びコラーゲンからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の三次元造形用フードインク。
【請求項3】
増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、かたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上に調整する、水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインクの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の三次元造形用フードインクを吐出して積層することにより立体造形物を形成する、立体成形食品の製造方法。
【請求項5】
吐出時の温度コントロールをすることなく三次元造形用フードインクを吐出して積層することにより立体造形物を形成することを特徴とする請求項4に記載の立体成形食品の製造方法。
【請求項6】
増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインクのかたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上に調整することによるフードインクの積層性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形用フードインクの製造方法および該フードインクを用いた立体成形食品の製造方法、さらには該フードインクを用いた立体成形食品製造時の積層性向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタを利用して食品を三次元造形する技術は、チョコレートやピザ、クッキー、グミ、砂糖などで実用化されている。
【0003】
近年、3Dプリンタにて様々な食材の三次元造形が検討されている。
特許文献1には、基材、基材を分解可能な分解剤及びゲル化剤を混合して一定時間経過後に三次元成型食品を得られる製造方法が開示されている。
非特許文献1には、カンテンやゼラチンのゲル化剤溶液に米粉や粉末納豆を添加したフードインクを、加温出力後冷却して積層する方法が開示されている。非特許文献2には、大豆たん白質のフードインクにキサンタンガムを添加する方法が開示されている。非特許文献3には、タンパク質とゲル化剤を添加し、タンパク質の加熱による保形性とゲル化剤を完全にゲル化せず流動性がある温度で吐出し、三次元造形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】設楽真理子(山形大学工学部)「食品用3Dゲルプリンタを用いた食の創成」日本機械学会論文集(2015 The Japan Society of Mechanical Engineers)
【非特許文献2】武政誠(東京電機大学)「大豆たん白質を利用した食品3Dプリンタ用フードインクの開発」大豆たん白質研究 Vol.22(2019)
【非特許文献3】堀内真美(山形大学大学院理工学研究科)「3Dフードプリンタによる介護食の造形および造形物評価」2021 Japan Society for Food Engineering
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年実用化されつつある3Dフードプリンタでは、チョコレートのような脂質は熱溶解積層法で、食材に適した温度で出力して積層することは可能である。また、クッキー生地やパイ生地のような低水分で高粘度、高付着性の食材は常温(28℃)で吐出積層することが可能であるが、利用できる食材は限られている。
【0007】
食材の利用範囲を広げるために、増粘材料やゲル材料の利用が考えられる。しかしながら、特に多量の水分を含むフードインクの積層造形を可能にするには、増粘材料やゲル材料の種類によって吐出温度と積層温度の複雑なコントロールが必要であることが課題になっていた。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、様々な食材を用いた場合でも三次元造形用フードインクとして吐出時の複雑なコントロールをせず利用可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく誠意検討した結果、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、三次元造形用フードインクのかたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上に調整することで、吐出時の温度コントロールをすることなく、吐出して積層することが可能になることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
(1)増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を含有し、かたさ3800N/m2以上かつ付着性500J/m2以上であることを特徴とする水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインク。
(2)前記増粘・ゲル化能を有する親水性化合物が、グァーガム、キサンタンガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、アラビアガム、カラヤガム、ガティガム、トラガントガム、サイリウムシードガム、プルラン、大豆多糖類、脱アシル型ジェランガム、ネイティブジェランガム、アルギン酸、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、ハイメトキシルペクチン、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、グルコマンナン、カードラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、澱粉、加工澱粉、ゼラチン及びコラーゲンからなる群から選択される1種以上である、上記(1)に記載の三次元造形用フードインク。
(3)増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、かたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上に調整する、水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインクの製造方法。
(4)上記(1)または(2)に記載の三次元造形用フードインクを吐出して積層することにより立体造形物を形成する、立体成形食品の製造方法。
(5)三次元造形用フードインク吐出時の温度コントロールをすることなく立体造形物を形成することを特徴とする請求項4に記載の立体成形食品の製造方法。
(6)増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、水分含量50重量%以上の三次元造形用フードインクのかたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上に調整することによるフードインクの積層性の向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる三次元造形用フードインクは、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を用いて、一定の物性(かたさを3800N/m2以上かつ付着性を500J/m2以上)に調整することで、温度コントロールすることなく三次元造形可能なフードインクを得ることができる。さらに、本発明の物性に調整された三次元造形用フードインクであれば、高水分含量で積層造形が困難な物性の食材をも、三次元造形による立体成形食品製造時の積層性を向上させ、三次元造形用フードインクとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】フードインク物性測定値(かたさと付着性グラフ) 表1記載のフードインク46種類のデータをグラフ化
【
図2】ゾル状フードインクの積層造形物の状態を示す(実施例1)
【
図3】ゲル状フードインクの積層造形物の状態を示す(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係わる三次元造形用フードインク(本明細書では単にフードインクと記載することもある)は、3Dプリンタや3Dプリントペンのような三次元造形機器を用いて、事前に充填した成形材料となる食材を、吐出口から射出または吐出することで立体造形を行うような立体成形食品の製造方法における成形材料を指す。本発明のフードインクの製造方法は、水に食材、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を添加、混合して行われる。増粘・ゲル化能を有する親水性化合物は、増粘材料および/またはゲル材料として知られている化合物である。
【0014】
本発明において「食材」とは、三次元造形において吐出可能な状態に調整するのに適した、粉末状、ペースト状、液状の食材をいう。具体的な材料としては、野菜、果物、魚介類、肉類、卵類、乳製品類、また、これらの加工品などがあげられる。
【0015】
本発明において増粘・ゲル化能を有する親水性化合物はフードインクの保形性、耐熱性を向上する食品、食品添加物であって、「増粘材料」とは増粘作用のある化合物、また、「ゲル材料」とは、ゲル化作用のある化合物をいう。増粘作用・ゲル化作用は、化合物によって、片方のみの作用を持つ場合もあるし、どちらの作用も示す場合もある。増粘材料および/またはゲル材料として具体的には、グァーガム、キサンタンガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、タマリンドガム、アラビアガム、カラヤガム、ガティガム、トラガントガム、サイリウムシードガム、プルラン、大豆多糖類、脱アシル型ジェランガム、ネイティブジェランガム、アルギン酸、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、ハイメトキシルペクチン、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、グルコマンナン、カードラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、澱粉、加工澱粉、ゼラチン及びコラーゲンなどが挙げられ、これらを1種類又は2種類以上混合して使用してもよい。
【0016】
そして、本発明のフードインクは、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物を含有することで、かたさ3800N/m2以上かつ付着性500J/m2以上に調整される。ここで、かたさ及び付着性の範囲について、三次元造形機器で吐出できれば上限は問わないが、かたさであれば5×105N/m2以下、付着性1200J/m2以下であると、本発明のフードインクを用いた立体成形食品が、高齢者など、咀嚼や嚥下の特性において食の物性パーソナライズが必要な者の食事にも適用できる。
【0017】
また、本発明のフードインクは特に、積層造形が困難な高水分含量の食材において、効果を発揮する。ここで高水分とは、食材が内包する水分およびフードインクとして調整するために添加する水の合計として、フードインク全体における水分含有量が50重量%以上の場合を指す。本発明のフードインクでは物性を調整することで、水分含有量50%以上でもフードインクとしての適性が良好となるが、60%以上ではより良好に、さらには70%以上のような、通常では三次元造形において積層が不可能となるようなものであっても、フードインクとして利用可能となる。
【0018】
本発明の、フードインクの一つの態様は、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物として、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ネイティブジェランガム、ペクチン、キサンタンガム・ローカストガム混合物、アルギン酸Naのいずれか1種以上を添加し、加熱溶解して、かたさと付着性を規定の値以上に調整し得られるフードインクである。必要に応じて増粘・ゲル化能を有する親水性化合物の加熱溶解後は冷却してもよい。このフードインクは、フードインク調整時~吐出時はゾルまたはゲル状態であり三次元造形機器のカートリッジではどのような温度帯(0~100℃)でもよく、吐出~造形時は室温以下で吐出することで、ゲル状態で吐出し、吐出線(線状食材)が接着して造形物の形状を保持することができる。このフードインクでは、吐出後には食材がゲル状で保持され、そのまま喫食することができる。
【0019】
また、本発明のもう一つのフードインクの態様は、増粘・ゲル化能を有する親水性化合物としてカードラン及び/またはネイティブジェランガムを添加し、かたさと付着性を規定の値以上に調整し、非加熱(室温以下)で得られるゾル状フードインクである。このフードインクは、フードインク調整時~吐出時はゾル状態であり、三次元造形機器のカートリッジでも非加熱(室温以下)でよく、吐出~造形時も室温以下で吐出するが、ゾル状態で吐出されても吐出線(線状食材)が接着して造形物の形状を保持することができる。そして、このフードインクでは、吐出後に加熱(調理)することができ、加熱により造形を保持したままゲル化させることで喫食するためのテクスチャーが発現する。
【0020】
本発明のフードインクは、三次元造形用機器の吐出口から線状に略二次元に吐出され、これを高さ方向に積み上げる(積層する)ことで、立体成形食品となる。
【0021】
(物性の測定)
本発明のフードインクの物性測定は、三次元造形機器から吐出した状態で測定する。測定装置としてクリープメーター(山電社製、製品名「RE2-33005C」)にて、ユニバーサルデザインフード(UDF)試験法を用い、直径40mmの容器に高さ15mmに充填し、直径20mmのプランジャーにより圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回圧縮して測定し、かたさ、付着性、凝集性を求める。
【0022】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお下記配合表に示す組成物の配合量は全て重量%で示す。
【実施例0023】
各種食材に増粘・ゲル材料を添加、あるいは水のみに増粘・ゲル材料を添加した水分70%以上のゾル状またはゲル状のフードインクを調整し、3Dフードプリンタ(ノズル径1.5mm、プリントスピード3500mm/min)にて温度コントロールすることなく吐出、造形を行い、造形状態を確認、フードインクはクリープメーターにて物性測定をおこない、かたさ、付着性を求めた。結果を表1に示す。
【0024】
<実施例1:ゾル状フードインク>
表1に示した実施例のうち、ゾル状インクの各例について詳細を抜粋して示す。
[フードインクNo.8 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 93.0
(2)加工でん粉 2.2
(3)ネイティブジェランガム 1.4
(4)カードラン 3.4
A.(1)に(2)(3)(4)を添加し混合する。
[フードインクNo.25 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 92.0
(2)加工でん粉 2.6
(3)ネイティブジェランガム 1.6
(4)カードラン 3.8
A.(1)に(2)(3)(4)を添加し混合する。
[フードインクNo.44 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 75.0
(2)大豆粉末 17.0
(3)加工でん粉 2.6
(4)ネイティブジェランガム 1.6
(5)カードラン 3.8
A.(1)に(2)(3)(4)(5)を添加し混合する。
【0025】
<実施例2:ゲル状フードインク>
表1に示した実施例のうち、ゲル状インクの各例について詳細を抜粋して示す。
[フードインクNo.6 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 97.5
(2)カラギーナン 2.5
A.(1)に(2)を添加し混合する。
B.Aを85℃まで加熱後、冷却してゲル化。
[フードインクNo.13 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 98.8
(2)ネイティブジェランガム 1.2
A.(1)に(2)を添加し混合する。
B.Aを90℃まで加熱後、冷却してゲル化。
[フードインクNo.18 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 96.5
(2)ネイティブジェランガム 0.5
(3)カラギーナン 2.5
(4)グァーガム 0.5
A.(1)に(2)(3)(4)を添加し混合する。
B.Aを90℃まで加熱後、冷却してゲル化。
[フードインクNo.35 配合]
成分 配合量(%)
(1)水 87.1
(2)おから 10.0
(3)ネイティブジェランガム 0.4
(4)カラギーナン 2.1
(5)グァーガム 0.4
A.(1)に(2)(3)(4)(5)を添加し混合する。
B.Aを90℃まで加熱後、冷却してゲル化。
【0026】
【0027】
表1の結果に示されるように、かたさが3800(N/m
2)以上かつ付着性が500(J/m
2)以上であるフードインクは積層造形が良好であった。一方かたさが3800(N/m
2)以上かつ付着性が500(J/m
2)以上ではないフードインクは積層造形が不良であった。さらに、実施例1に記載のゾル状フードインクと、実施例2に記載のゲル状フードインクにおいても、かたさが3800(N/m
2)以上かつ付着性が500(J/m
2)以上のNo.18、25、35、44のフードインクは積層造形が良好であり、この物性値以上ではないNo.6、8、13のフードインクでは、積層造形が不良であり、
図2、
図3に示すような造形となった。
本発明によって、温度コントロールすることなく、高水分含量のフードインクであっても吐出可能となり、様々な食材のフードインクを提供することができ、3Dフードプリンタをはじめとした三次元造形機器の利用範囲が拡大する。
また、フードインクの加温吐出、吐出後の冷却等の温度コントロールが不要になり、3Dフードプリンタ装置の簡素化に繋がる。