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特開2024-72249電動車両のトラクションコントロール方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072249
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】電動車両のトラクションコントロール方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240520BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240520BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
B60W30/02 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145344
(22)【出願日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】111143597
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】597127029
【氏名又は名称】光陽工業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廖 偉翔
(72)【発明者】
【氏名】李 立群
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241CC03
3D241DA13Z
3D241DB32Z
5H125AA01
5H125AB03
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA15
5H125CD02
5H125DD16
5H125EE41
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】速やかに前輪と後輪との車輪速度差を小さくして、電動車両の横滑り関連事故を防止する。
【解決手段】電動車両は前輪センサと、後輪センサと、スロットル位置センサと、制御ユニットとを含み、制御ユニットは、前輪センサと、後輪速度センサと、スロットル位置センサとに接続される。電動車両の前輪および後輪がスリップ値を生成すると、制御ユニットはスリップ値がスリップ上限閾値に達したかどうかを判定し、達した場合、制御ユニットはトラクションコントロール状態を実行し、現在のトルク値を基準トルク値とし、次いで、制御ユニット内蔵のトラクションコントロールアルゴリズムを通して、基準トルク値から比例制御量、積分制御量、およびスロットル補正量を減算して、指令トラクションコントロールトルク指令を生成し、トラクションコントロールトルク指令に従ってパワーモータを制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御ユニットによって実行される電動車両のトラクションコントロール方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
ステップ(a):前輪速度センサ、後輪速度センサ及びスロットル位置センサからそれぞれ前輪速度信号、後輪速度信号及びスロットルポジション信号を受信する、
ステップ(b):前輪速度信号及び後輪速度信号に基づいてスリップ値を算出する、
ステップ(c):スリップ値がスリップ上限閾値以上であるかどうかを判定する、
ステップ(d):スリップ値がスリップ上限閾値以上であるとき、現在のスロットルポジション信号に従って基準トルク値を計算し、その後、基準トルク値から比例制御量および積分制御量を減算し、トラクションコントロールトルク指令を生成する、及び、
ステップ(e):トラクションコントロールトルク指令に従ってパワーモータを制御する。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法において、
前記制御ユニットは、車両制御ユニットとモータコントローラとを備え、
前記ステップ(d)において、前記車両制御ユニットは、前記スリップ値が前記スリップ上限閾値以上であると判定した場合、前記車両制御ユニットは前記現在のスロットルポジション信号に応じて前記基準トルク値を算出し、前記基準トルク値から前記比例制御量と前記積分制御量とを減算して前記モータコントローラに前記トラクションコントロールトルク指令を出力し、前記モータコントローラが、前記ステップ(e)を実行することを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記制御ユニットは、車両制御ユニットとモータコントローラとが一体化された単一のコントローラであることを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項4】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記基準トルク値から、さらに、スロットル補正量を減算し、前記トラクションコントロールトルク指令を生成することを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記スリップ値が大きいほど、前記比例制御量が大きく、
前記積分制御量は積分増分量の積算であって、前記スリップ値が大きいほど、前記積分増分量が大きく、
前記基準トルク値が大きいほど、前記スロットル補正量が大きいことを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項6】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記電動車両は、前記前輪速度信号及び前記後輪速度信号を受信し、通信インターフェースを介して前記制御ユニットに前輪速度及び後輪速度を送信するアンチロックブレーキシステムをさらに含むことを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項7】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記電動車両は、ダッシュボードをさらに備え、前記ダッシュボードはトラクションコントロールスイッチインターフェースおよびトラクションコントロール表示灯を備え、
前記トラクションコントロールスイッチインターフェースはユーザの操作に応じて前記制御ユニットにスイッチ指令を出力し、
前記制御ユニットは前記スイッチ命令に応じて、前記トラクションコントロール表示灯にインジケータランプ信号を出力し、前記トラクションコントロール表示灯の状態を制御することを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記制御ユニットは車両制御ユニットを備え、
前記トラクションコントロールスイッチインターフェースは、ユーザの操作に応じて前記車両制御ユニットに前記スイッチ指令を出力し、
前記車両制御ユニットは前記スイッチ指令に応じて前記トラクションコントロール表示灯の状態を制御することを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項9】
請求項7に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記制御ユニットは、前記スリップ値が前記スリップ上限閾値以上である場合、前記トラクションコントロール表示灯を点滅させることを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項10】
請求項1に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
ステップ(f):前記スリップ値がスリップ下限閾値以下である場合に、前記スリップ値がスリップ下限閾値以下であるか否かを判定し、前記トラクションコントロールトルク指令の発生を停止し、前記トラクションコントロールトルク指令に従って前記パワーモータを停止するステップ、をさらに含むことを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項11】
請求項10に記載の電動車両のトラクションコントロール方法において、
ステップ(g):前記スリップ値が前記スリップ下限閾値以下である場合、前記制御ユニットが、現在のトルク値に基づいて、リカバリ増分量に応じて前記トルク値を、前記スロットルポジション信号に対応するモータトルク値へと徐々に増加させるステップ、をさらに含む電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項12】
請求項11に記載の電動車両のトラクションコントロール方法において、
前記スリップ値が大きいほど、前記リカバリ増分量が小さいことを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。
【請求項13】
請求項11に記載の電動車両のトラクションコントロール方法であって、
前記制御ユニットは車両制御ユニット及びモータコントローラを含み、前記車両制御ユニットが、前記リカバリ増分量を前記モータコントローラに出力することを特徴とする電動車両のトラクションコントロール方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両(EV)の制御方法に関し、特に、電動車両のトラクションコントロール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電動二輪車の動力源は主に、電動モータに必要な駆動力を供給するためのバッテリパックであり、電動モータの速度を変化させるように電動モータに印加される駆動力を調整するために、車両制御ユニット(VCU)を利用することができ、それによって、電動二輪車の速度を変化させることができる。
【0003】
電動二輪車が滑りやすい道路を走行しているとき、またはカーブを出入りするとき、前輪速度と後輪速度との車輪速度差(すなわち、スリップ)が生じる。車輪速差が大きすぎると、電動二輪車が横滑り(スキッド)することがあり、その結果、事故が発生することがある。そこで、電動二輪車の車両制御ユニットは、通常、フィードバック制御方法によって電動モータのトルクを低減し、車輪速度差の連続的な増加によって生じる横滑りを回避する。このフィードバック制御方法の基本原理では、車両制御ユニットは、車輪速度差が大きくなるほど、電動モータのトルクが小さくなるように制御する。一般的に、フィードバック制御方法は、積分制御方法または比例積分制御方法とすることができる。
【0004】
しかしながら、ある種の(高駆動力出力型等のような)電動二輪車では滑走時の駆動力を抑制する手段として前述のフィードバック制御方法を利用すると、このフィードバック制御方法では電動モータのトルクを低減するために積分制御方式又は比例積分制御方式のみを用いているため、電動二輪車を減速させる過程が比較的遅くなる。ユーザが電動二輪車を急激に加速すると、このフィードバック制御方法では電動モータトルクを抑制するには遅すぎて、電動二輪車に上述のような横滑りをもたらし、ユーザの運転安全性に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
特許文献1には、「電動車両のトラッキング・アンチスキッド制御システムとその制御方法」が開示され、「まず、正常力推定装置と駆動力推定装置を用いて路面摩擦係数を推定し、次に、路面状態推定装置を用いて、路面摩擦係数とタイヤスリップに従って摩擦曲線の傾きを求め、これを目的とするスリップに対する計算ルールの設計に用いる。最後に、アダプティブなファジィ滑り制御(スライディングコントロール)を用いて、スリップ制御を行う。」と記載されているが、特許文献1では前輪速度と後輪速度との車輪速度の差(即ち、スリップ)を補正する技術的手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特許出願公開第201134706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存の電動二輪車の前輪速度と後輪速度との車輪速度差がある場合、車輪速度差が連続的に増加するのを抑制するために、積分制御方式または比例積分制御方式のみを用いると、比較的遅い処理となる。したがって、電動二輪車モデルの種類によっては駆動力の抑制が間に合わず、その結果、依然として横滑りを起こし、ユーザの運転安全に影響を及ぼす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電動車両のためのトラクションコントロール方法を開示するものであり、この方法は、制御ユニットにより実行され、以下のステップを含む。
ステップ(a):前輪速度センサ、後輪速度センサ及びスロットルポジションセンサからそれぞれ前輪速度信号、後輪速度信号及びスロットルポジション信号を受信する、
ステップ(b):前輪速度信号及び後輪速度信号に基づいてスリップ値を算出する、
ステップ(c):スリップ値がスリップ上限閾値以上であるかどうかを判定する、
ステップ(d):スリップ値がスリップ上限閾値以上であるとき、現在のスロットルポジション信号に従って基準トルク値を計算し、次いで、比例制御量および積分制御量を基準トルク値から減算して、トラクションコントロールトルク指令を発生する、
ステップ(e):トラクションコントロールトルク指令に従ってパワーモータを制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動車両のトラクションコントロール方法は、電動車両の制御ユニットにより実行される。制御ユニットは、電動二輪車の前輪と後輪とがスリップ値を生じたときに、スリップ値がスリップ上限閾値に達したか否かを判定する。スリップ値がスリップ上限閾値に達したならば、それは、前輪と後輪との車輪速差が大きくなり、スリップの危険性が大きくなることを意味する。このとき、制御ユニットは現在のスロットルポジション信号に応じて基準トルク値を算出し、その基準トルク値から比例制御量と積分制御量とを減算してトラクションコントロールトルク指令を生成し、このトラクションコントロールトルク指令に応じてパワーモータを制御し、動力モータの駆動力を速やかに抑制し、パワーモータの速度を適切に減速させる。これにより、前輪と後輪との車輪速度差を小さくして、電動車両の横滑り関連事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態の電動車両の回路ブロック図
図2】モータトルク値とスロットル位置の相対関係のグラフ
図3】本発明の第1の実施形態の電動車両ダッシュボードの概略図
図4】アンチロックブレーキシステムを含む、本発明の第1の実施形態のための電動車両の回路ブロック図
図5】本発明の第1の実施形態の電動車両のトラクションコントロールシステムのフローチャート
図6】比例制御量とスリップ値との相対関係のグラフ
図7】積分増分量とスリップ値の相対関係のグラフ
図8】スロットル補正量と基準トルク値との相対関係のグラフ
図9】電動車両の車両制御ユニットのトラクションコントロールアルゴリズムの概略図
図10】スリップ値、比例制御量、積分制御量、およびスロットル補正量の時間に対するグラフ
図11】リカバリ増分量とスリップ値の相対関係のグラフ
図12】スリップ値、トラクションコントロール状態、トルク値の時間に対するグラフ
図13】本発明の第2の実施の形態の電動車両の回路ブロック図
図14】本発明の第2の実施の形態の電動車両のトラクションコントロールシステムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態における技術的解決手段を、実施形態における図面を参照して、明確かつ十分に説明する。ただし、以下説明する実施形態は、本発明の実施形態の一部に過ぎず、全てではないことは明らかであり、本発明の実施形態に基づいて、当業者が容易に想到可能な他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲内に入るものとする。
【0012】
図1に示すように、本発明は、電動車両のためのトラクションコントロール方法に関する。電動車両は、例えば、前輪速度センサ10と、後輪速度センサ11と、スロットルポジションセンサ(TPS)12と、パワーモータ40と、ダッシュボード50と、制御ユニット100とを含む電動二輪車であり、制御ユニット100は、車両制御ユニット20と、モータコントローラ30とを含んでいてもよい。
【0013】
前輪速度センサ10及び後輪速度センサ11は、それぞれ、電動二輪車の前輪及び後輪に隣接して配置され、それぞれ電動二輪車の前輪速度(単位: km/h)及び後輪速度(単位: km/h)を検出して、それぞれ前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2を発生する。電動二輪車は、ハンドルと、ハンドルに配置されたアクセルグリップとを有する。スロットルポジションセンサ12は電動二輪車のハンドル付近、又は電動二輪車本体のハンドルの下方の領域に配置されている。アクセルグリップが回されると、それに応じて、スロットルポジションセンサ12はスロットルポジション信号S3を発生する。この信号S3は、ユーザが要求するトルクを反映している。本発明の一実施形態では、例えば、スロットルポジションセンサ12は可変抵抗器を含み、可変抵抗器の抵抗値はアクセルグリップの回転範囲に対応している。アクセルグリップの回転範囲に応じて可変電圧信号が生成される。この電圧信号がスロットルポジション信号S3である。
【0014】
車両制御ユニット20は、前輪速度センサ10、後輪速度センサ11及びスロットルポジションセンサ12に接続され、前輪速度信号S1、後輪速度信号S2及びスロットルポジション信号S3を受け取る。車両制御ユニット20は、スロットルポジション信号S3に基づいて、モータトルク指令S4を発する。具体的には図2に示すように、車両制御ユニット20にはモータトルク値とスロットル位置との相対関係が予め組み込まれており、この関係から、スロットルポジション信号S3の値に対応するモータトルク値を求めることができる。モータトルク値はスロットル位置と正の相関があり、モータトルク値が大きいほどスロットル位置が大きくなる。車両制御ユニット20は、モータトルク値に応じたモータトルク指令S4を発生する。
【0015】
モータコントローラ30は、車両制御ユニット20に接続され、車両制御ユニット20が出力するモータトルク指令S4を受け取り、モータトルク指令S4に応じてパワーモータ40を回転駆動する。パワーモータ40にはパワーモータ40の回転速度を検出するための速度センサが設けられており、モータコントローラ30に検出結果を渡すことができ、その結果、モータコントローラ30はモータ速度信号S5を車両制御ユニット20に出力することができる。
【0016】
ダッシュボード50は、電動二輪車に配置され、車両制御ユニット20と接続されている。ダッシュボード50は、トラクションコントロールスイッチインターフェース51およびトラクションコントロール表示灯52を含む。トラクションコントロールスイッチインターフェース51は、車両制御ユニット20にスイッチ指令S6を出力する。車両制御ユニット20はスイッチ指令S6に基づいて、表示ランプ信号S7をダッシュボード50上のトラクションコントロール表示灯52に出力して、トラクションコントロール表示灯52のオンオフ状態を制御する。ここで、トラクションコントロールスイッチインターフェース51はダッシュボード50上に表示されるボタンまたはタッチインターフェースとすることができ、トラクションコントロール表示灯52は、電動二輪車のトラクションコントロール機能の作動状態であることをユーザに気づかせる。例えば、スイッチ指令S6がオフ指令(SW OFF)の場合、図3に示すように、トラクションコントロール機能がオフとなり、トラクションコントロール表示灯52が点灯される。スイッチ指令S6がオン指令(SW ON)である場合、トラクションコントロール機能がオンとなり、トラクションコントロール表示灯52が消灯される。
【0017】
さらに図4に示すように、電気自動二輪車は、アンチロックブレーキシステム(ABS)13をさらに含むことができる。アンチロックブレーキシステム13は、前輪速度センサ10、後輪速度センサ11及び車両制御ユニット20に接続され、前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2を受信し、前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2に応じて、前輪速度(単位: km/h)及び後輪速度(単位: km/h)を車両制御ユニット20に出力する。
【0018】
さらに、アンチロックブレーキシステム13、車両制御ユニット20、モータコントローラ30、及びダッシュボード50は、それぞれ通信インターフェースを備え、相互に通信可能であってもよい。通信インターフェースは、コントローラエリアネットワーク(CANまたはCANバスと呼ばれる)プロトコル、または他の有線/無線通信インターフェースをサポートしてもよい。
【0019】
本発明の電動車両のトラクションコントロール方法の第1の実施形態は、上述のハードウェア構成によって実現することができる。電動二輪車のトラクションコントロール機能がオンにされると、図5に示すように、以下のステップを含む制御方法が実行される。
【0020】
<P10>
制御ユニット100は、前輪速度センサ10、後輪速度センサ11及びスロットルポジションセンサ12から、それぞれ前輪速度信号S1、後輪速度信号S2及びスロットルポジション信号S3を受信する。具体的には、制御ユニット100の車両制御ユニット20が本ステップを実行する。
【0021】
<P11>
制御ユニット100は、前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2に基づいてスリップ値を算出する。本ステップは、具体的には制御ユニット100の車両制御ユニット20により実行される。車両制御ユニット20は、前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2に基づいて、前輪速度(単位: km/h)及び後輪速度(単位: km/h)を求め、次式式に従ってスリップ値を算出する。
スリップ値=後輪速度-前輪速度(単位:km/h)
【0022】
<P12>
制御ユニット100は、スリップ値がスリップ上限閾値以上(これは後輪が横滑りしていることを意味する)であるか否かを判断し、スリップ値がスリップ上限閾値以上である場合、制御ユニット100はトラクションコントロール状態(TCSオン)の制御を実行する。スリップ値がスリップ上限閾値未満である場合、制御ユニット100はP10に戻る。ここで、スリップ上限閾値は例えば、5(単位: km/h)とすることができる。
【0023】
<P13>
トラクションコントロール状態の制御が実行されると(TCS ON)、制御ユニット100は、現在のスロットルポジション信号S3に基づいて基準トルク値を算出し、基準トルク値から比例制御量、積分制御量、及びスロットル補正量を減算してトラクションコントロールトルク指令を発生する。具体的には、トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、車両制御ユニット20が現在のスロットルポジション信号S3に基づいて基準トルク値を算出し、この基準トルク値に基づいてトラクションコントロールトルク指令を算出し、モータコントローラ30に出力する。トラクションコントロール状態(TCS ON)の実行中、車両制御ユニット20はモータトルク指令S4の代わりにトラクションコントロールトルク指令をモータコントローラ30に出力し、トラクションコントロール表示灯52が点滅を開始し、ユーザに電動二輪車がトラクションコントロール状態であることを気づかせる。トラクションコントロールトルク指令の発生方法については、後に詳述する。
【0024】
<P14>
パワーモータ40は、トラクションコントロールトルク指令に従い、制御ユニット100によって制御される。具体的には、本ステップは、制御ユニット100のモータコントローラ30によって実行される。モータコントローラ30はトラクションコントロールトルク指令を受信し、トラクションコントロールトルク指令に従いパワーモータ40の速度を下げて、スリップ値の連続的な増加を回避するように制御する。
【0025】
トラクションコントロールトルク指令の発生方法について、図6図8を参照して説明する。車両制御ユニット20には、比例制御量、積分増分量、及びスロットル補正量の特性曲線が予め組み込まれている。図6および図7はそれぞれ、比例制御量とスリップ値との間の基本的な相対関係、および積分増分量とスリップ値との間の基本的な相対関係であり、比例制御量および積分増分量は、両方とも、スリップ値と正に相関する。図8は、スロットル補正量と基準トルク値との相対関係を示している。
トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、車両制御ユニット20は、基準トルク値に基づいて、対応するスロットル補正量を求めることができる。図9に示すように、車両制御ユニット20はトラクションコントロールアルゴリズムTAのプログラムデータを有しており、トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、車両制御ユニット20はトラクションコントロールアルゴリズムTAを実行して、比例制御量(変数)、積分制御量(変数)、およびスロットル補正量(固定値)を基準トルク値から減算して、トラクションコントロールトルク値を生成することができる。ここで積分制御量は累積積分増分量である。車両制御ユニット20は、トラクションコントロールトルク値に従ってトラクションコントロールトルク指令を生成する。
【0026】
図10に示すように、電動二輪車の前後輪と地面との間の摩擦が不十分であることによって、スリップ値は時間と共に増加する。時刻t1において、トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、モータコントローラ30は、トラクションコントロールトルク指令に基づいて、パワーモータ40を制御する。比例制御量は前輪速度および後輪速度が減少し始めるように即時にトルクを抑制するように作用するものの、地面と前輪および後輪との間の摩擦は依然として不十分な場合もあり、その結果、スリップ値は依然として増加する。そこで、連続的にトルクを抑制するために積分制御量を加える必要があり、その結果、スリップ値は、それに応じて変更され、そのスリップ値に対して比例制御量および積分制御量も変更される。スロットル補正量は固定値であり、即時のトルク低減に利用され、スリップ値の最大値を小さくし、スリップ値を連続的に増加させる時間を短縮することができる。例えば、スロットル補正量がない場合に最大スリップ値が20(単位: km/h)であるとすると、スロットル補正量による抑制がある場合には、最大スリップ値は10(単位: km/h)に低減される。
【0027】
上記では本実施形態の電動車両のトラクションコントロール方法が、パワーモータ40の駆動力をどのように低減するかを説明したが、トラクションコントロール状態が終了すると(TCS OFF)、現在のトルク値とユーザの現在のスロットル操作に対応するモータトルク値との間にトルク差が依然として存在することもあり得る。例えば、トラクションコントロール状態の終了時のトルク値は50%であり、スロットルポジション信号S3に対応するモータトルク値は80%であるとすると、トルク差は30%である。トルク差30%を直ちに補うようにパワーモータ40を制御すると、ユーザは、急激な駆動力の変動によるセットバック感を感じやすくなる。
【0028】
本実施形態の電動車両のトラクションコントロール方法は、トラクションコントロール状態が終了(TCS OFF)したときの駆動力変動時のパワーモータ40のトルク差を平滑化するために、以下のステップをさらに含むことができる。
【0029】
<P15>
制御ユニット100は、スリップ値がスリップ下限閾値以下であるか否かを判定し、スリップ値がスリップ下限閾値以下である場合、トラクションコントロール状態を終了する(TCS OFF)。具体的には制御ユニット100内の車両制御ユニット20が、スリップ値がスリップ下限閾値以下であるか否かを判定し、スリップ値がスリップ下限閾値以下である場合(これは、後輪が横滑りしていないことを意味する)、トラクションコントロールステート(TCSオフ)を終了する。スリップ下限閾値は、例えば、3(単位: km/h)に設定することができる。
【0030】
<P16>
トラクションコントロール状態が終了すると(TCS OFF)、制御ユニット100は、現在のトルク値に基づくリカバリ増加量に応じて、トルク値をモータトルク値まで徐々に増加させる。具体的には、図11に示すように、車両制御ユニット20には、リカバリ増分量とスリップ値との相対関係が予め組み込まれており、リカバリ増分量はスリップ値と負の相関関係にある、すなわち、スリップ値が大きいほどリカバリ増分量が小さい。トラクションコントロール状態が終了(TCS OFF)すると、スリップ値が大から小に徐々に変化し、リカバリインクリメント量が小から大に徐々に変化する。車両制御ユニット20が、リカバリインクリメント量をモータコントローラ30に出力することで、トルク値を、徐々に、現在のスロットルポジション信号S3に対応するモータトルク値へと補償する。
【0031】
電動二輪車のトラクションコントロール機能の全体動作について、図12を参照し説明する。スリップ値は時間と共に徐々に増加する。第1時点T1において、スリップ値がスリップ上限閾値に達すると、車両制御ユニット20は、トラクションコントロール状態(TCS ON)を実行する。車両制御ユニット20は、その時の(現在の)モータトルク値を基準トルク値として、トラクションコントロールアルゴリズムTAを介してトラクションコントロールトルク値を算出し、トラクションコントロールトルク指令を発生する。モータコントローラ30はトラクションコントロールトルク指令に応じてパワーモータ40を制御し、その結果、パワーモータ40のトルク値が低下すると、それに伴って前輪速度及び後輪速度が低下し、スリップ値は増加し続けることなく、その結果、スリップ値が低下する。
【0032】
第2の時点T2において、スリップ値がスリップ下限閾値に達すると、車両制御ユニット20はトラクションコントロール状態(TCS OFF)を終了し、トラクションコントロールトルク指令の発生を停止する。これにより、トルク値は、その時のトルク値をもとに、リカバリ増分量に従って徐々に回復する。モータコントローラ30は、トラクションコントロールトルク指令に基づいて、パワーモータ40の制御を停止する。第3の時点T3において、トルク値はモータトルク値に戻る。モータトルク値は、ユーザのスロットル操作によって必要とされるトルクを反映したスロットルポジション信号S3に従い、それに対応して生成されるものである。
【0033】
上述したスリップ上限閾値、スリップ下限閾値、比例制御量、積分制御量、スロットル補正量、リカバリ増分量は、電動二輪車の状態に応じて調整することができる。例えば、スリップ上限閾値は、電動二輪車の速度に応じて調整される。電動二輪車の速度が50(km/h)よりも大きい場合、スリップ上限閾値は大きく、電動二輪車の速度が50(km/h)よりも小さい場合、スリップ上限閾値は小さくする。これにより、ユーザは様々な乗車条件を採用することができる。
【0034】
本発明の第2の実施形態は、図13に示すハードウェア構成によって実現することができる。図13及び図1のハードウェア構成の相違点は制御ユニット100が単一のコントローラ60であり、コントローラ60が上述した車両制御ユニット20及びモータコントローラ30の両方の機能を有し、これらの機能が単一のコントローラ60に統合されている点である。図14に示すように、制御方法の第2の実施形態は、以下のステップを含む。
【0035】
<P20>
コントローラ60は、前輪速度センサ10、後輪速度センサ11及びスロットルポジションセンサ12から、それぞれ前輪速度信号S1、後輪速度信号S2及びスロットルポジション信号S3を受信する。
【0036】
<P21>
コントローラ60は、前輪速度信号S1及び後輪速度信号S2に基づいて、スリップ値を算出する。
【0037】
<P22>
コントローラ60は、スリップ値がスリップ上限閾値以上であるか否かを判定し、スリップ値がスリップ上限閾値以上である場合には、トラクションコントロール状態(TCS ON)を実行する。
【0038】
<P23>
トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、コントローラ60は現在のスロットルポジション信号S3に基づいて基準トルク値を算出し、基準トルク値から比例制御量、積分制御量及びスロットル補正量を減算してトラクションコントロールトルク指令を発生する。
【0039】
<P24>
パワーモータ40は、トラクションコントロールトルク指令に従って、コントローラ60により制御される。
【0040】
<P25>
コントローラ60は、スリップ値がスリップ下限閾値以下であるか否かを判定し、スリップ値がスリップ下限閾値以下であれば、トラクションコントロール状態を終了する(TCS OFF)。
【0041】
<P26>
トラクションコントロール状態が終了すると(TCS OFF)、コントローラ60は、現在のトルク値に基づいて、リカバリインクリメント量に応じて、トルク値をモータトルク値まで徐々に増加させる。
【0042】
上記のステップの具体的な実装は第1の実施形態のものと同様であり、ここでは説明を省略する。
【0043】
本実施形態の電動車両のトラクションコントロール方法は、電動車両の前輪及び後輪がスリップ値を発生したときに、スリップ値がスリップ上限閾値に達したか否かを判定し、スリップ値がスリップ上限閾値に達した場合に、トラクションコントロール状態(TCS ON)を実行する電動車両の制御ユニットに関する。
【0044】
トラクションコントロール状態が実行されると(TCS ON)、制御ユニットは現在のスロットルポジション信号に従って基準トルク値を計算し、次いで、制御ユニットに組み込まれたトラクションコントロールアルゴリズムを通して、基準トルク値から比例制御量、積分制御量、およびスロットル補正量を減算して、トラクションコントロールトルク指令を発生する。制御ユニットは、トラクションコントロールトルク指令に従って動力モータを制御する。本発明によれば、電動二輪車が滑りやすい道路を走行したり、カーブを出入りしたりすることにより横滑りする場合や、電動二輪車の長期走行による前後輪の摩耗と地面との摩擦不足により横滑りする場合に、速やかにパワーモータの駆動力を抑制することができるので、電動二輪車の横滑りやオフセットによる事故を回避することができる。
【0045】
以上は、本発明の好ましい実施形態を説明したが、当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、本発明の保護範囲内にあると見なされる本発明の特定の改良および修正を行うことができることは言うまでもない。
【0046】
本発明の多くの特徴および利点を、本発明の構造および機能の詳細とともに、前述の説明に記載してきたが、これらの開示は例示に過ぎない。特に、添付の特許請求の範囲で表現した用語の広い一般的な意味によって示される完全な範囲まで、本発明の原理内の部品の形状、サイズ、および配置の事項において、詳細な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
100:制御ユニット、10:前輪速度センサ、11:後輪速度センサ、12:スロットルポジションセンサ、20:車両制御ユニット、30:モータコントローラ。
図1
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