(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072262
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 125/06 20060101AFI20240520BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240520BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240520BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240520BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
C09D125/06
C09D5/00 Z
C09D7/61
C09D7/62
C09C1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023190585
(22)【出願日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】22207499.9
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン ラザル
(72)【発明者】
【氏名】ベッティーナ ゲルハルツ カルテ
(72)【発明者】
【氏名】サラ リエバナ ヴィナス
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ライギン
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA18
4J037CB23
4J037CC28
4J037DD05
4J037DD06
4J037DD07
4J038CC021
4J038HA446
4J038KA08
4J038NA13
4J038NA21
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保管安定性が向上した、断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物、ならびにそれから製造され、改善された断熱作用を有するコーティングを提供する。
【解決手段】少なくとも1つの水性結合剤を含む、断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物であり、噴霧乾燥されたヒュームド二酸化ケイ素ペレットをベースとした第一成分と、二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマー、好ましくは膨張ポリスチレンペレットの群から選択されるペレット、およびそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの第二成分と、を含む組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの水性結合剤を含む、断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物であり、
‐噴霧乾燥されたヒュームド二酸化ケイ素ペレットをベースとした第一成分と、
‐二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマーの群から選択されるペレット、好ましくは膨張ポリスチレンペレット、ならびにそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの第二成分と、
を含む組成物。
【請求項2】
前記第一成分は、
‐中央粒径(d50):10~200μm、
‐BET表面積:20~600m2/g、
‐熱分解法で製造された水性二酸化ケイ素を噴霧乾燥することにより得られるタンプ密度:250~700g/L
の物理化学指数を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第一成分は、水銀ポロシメータで測定された細孔容積が0.5~2.5mL/g(d<4μm)である、請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記第一成分は、粒径分布(d90-d10/d50)が0.6~2.5、好ましくは0.8~2.0である、請求項1~請求項3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
前記第一成分は、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、またはそれらの混合物の群から選択される表面改質剤で表面改質されている、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される前記第二成分は、少なくとも1つの物理化学指数の点で前記第一成分と異なっている、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される前記第二成分は、タンプ密度が80g/L~250g/L、好ましくは100g/L~250g/Lである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記ペレットは、中央粒径(d50)が200μmを超え、好ましくは250μm~1,000μmである、請求項6または請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記ペレットは、水銀ポロシメータで測定された細孔容積が2.0~4.0mL/g(d<4μm)である、請求項6~請求項8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される前記第二成分の炭素含有量は、0.5重量%~10重量%である、請求項6~請求項9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される前記第二成分のメタノール湿潤性は、メタノールの50体積%より大きい、請求項6~請求項10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
前記第一成分の炭素含有量は、0.5重量%~10重量%である、請求項1~請求項11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
前記第一成分のメタノール湿潤性は、メタノールの50体積%より大きい、請求項1~請求項12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
前記第二成分に対する前記第一成分の重量比は、1:10~10:1、好ましくは1:8~8:1、より好ましくは1:4~4:1である、請求項1~請求項13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
(メタ)アクリレート、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アラビアゴム、カゼイン、植物油、ポリウレタン、シリコーン樹脂、有機変性シリコーンハイブリッド樹脂、ワックス、ポリエステル、ビニル樹脂、セルロース誘導体、シリカゾル、水ガラスおよびそれらの混合物からなる群から選択される結合剤を含む、請求項1~請求項14のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
必要に応じて、膜形成剤、顔料、充填剤、増粘剤、繊維、分散剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、保護コロイドおよび/または消泡剤も含む、請求項1~請求項15のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
断熱または遮音用コーティングの製造に適した硬化性組成物の製造方法であり、前記方法において、
‐少なくとも1つの水性結合剤、
‐噴霧乾燥されたヒュームドシリカペレットをベースとした第一成分、
‐二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマーの群から選択されるペレット、好ましくは膨張ポリスチレンペレット、ならびにそれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの第二成分
を含み、
必要に応じて、膜形成剤、顔料、充填剤、増粘剤、繊維、保護コロイド、分散剤、湿潤剤、防腐剤および/または消泡剤が後で添加され得る混合物
が製造される方法。
【請求項18】
前記第一成分は、請求項2~請求項5、請求項12および/または請求項13記載の物理化学指数を有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される前記第二成分は、請求項6~請求項11のいずれか一項記載の物理化学指数を有する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記第二成分に対する前記第一成分の重量比は、1:10~10:1、好ましくは1:8~8:1、より好ましくは1:4~4:1である、請求項17~請求項19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
断熱、電気絶縁または遮音用コーティング製造用のコーティング組成物中の添加剤としての、請求項2~請求項5および請求項12~請求項13のいずれか一項記載の前記第一成分の使用。
【請求項22】
請求項1~請求項16のいずれか一項記載の組成物の使用により得られるコーティング、ワニス、ペンキ、インク、カバー、シーラント、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物、その製造および使用、ならびにそれから製造されるコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングは、装飾、実用性または保護の目的で表面または基材に適用される。それらは、木材、金属またはプラスチックなどの材料を装飾、保護および保存する。したがって、一方では明るく光沢のあるコート層が必要とされ、他方では化学的および機械的安定性、コーティング上の一定の滑り、または特定の触感を確保するための連続的なコート層が必要とされる。表面保護の需要は、航空宇宙、自動車、鉄道車両、造船、建設および風力エネルギーなどのさまざまな産業分野で高まり続けている。
【0003】
断熱コーティングは、伝熱防止と省エネのためによく使用される。断熱コーティングには2種類ある:(1)熱反射の原理に基づく断熱コーティング、および(2)熱伝導率の低いコーティングの断熱効果に基づく断熱コーティング。
【0004】
輻射熱を防ぐために、通常、熱反射層が使用される。この場合、例えば、建物には熱線反射ペンキが使用される。この色は、建物への日射を軽減するために、太陽光の反射を手助けする。コーティングの断熱効果に基づく断熱コーティングは、伝熱の低減または防止が必要な用途を目的としている。
【0005】
エアロゲルやヒュームドシリカ、沈降シリカなどの多孔質断熱材は、伝熱係数が低い。ヒュームドシリカは、水素および酸素の火炎中での、有機および無機クロロシランなどの揮発性シリコン化合物の火炎加水分解により生成される。
【0006】
本発明では、シリカと二酸化ケイ素は同義語として使用される。
【0007】
国際公開第2006/097668号パンフレットには、ヒュームド二酸化ケイ素ペレットと、粒径0.25mm~2.5mmの乳白剤とを含む、繊維フリーの微多孔質断熱材ペレットが記載されている。
【0008】
国際公開第2018/134275号パンフレットには、950℃での熱処理の後に製造される、機械的安定性が向上した、ヒュームド二酸化ケイ素およびIR乳白剤をベースとした粒状材料が開示されている。この材料は、優れた断熱作用を示すが、ペレットの粒子形状は不規則で、粒径分布も広範である。
【0009】
国際公開第2017/036744号パンフレットには、低C含量、低密度、高細孔容積および低熱伝導率のシリカ成形体が記載されている。この成形体は、シリカ、結合剤および有機溶媒を含む湿潤混合物から溶媒を蒸発させることによって、あるいはシリカおよび結合剤を含む混合物を圧縮することによって形成される。シリカペレットの形状と粒径は不規則である。
【0010】
国際公開第2021/144170号パンフレットには、極性の高い疎水性粒状シリカ系材料が記載されており、ペレット化された材料の中央粒径(d50)は、200μmを超える。
【0011】
しかしながら、従来技術から知られているこれらのペレット化材料は、硬化性コーティング組成物の粘度を増大させる傾向があり、これにより流動特性が低下する可能性がある。したがって、適用がより難しくなり、組成物の全面的な拒絶につながり得る。
【0012】
さらに、既知のペレット化材料を用いて製造されたコーティングの表面は、良好な触感特性を有していない。表面は、滑らかで均一な外観を持たないため、そのようなコーティングの美的特性だけでなく、機能的効果にも悪影響を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2006/097668号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2018/134275号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2017/036744号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2021/144170号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、保管安定性が向上した、断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティング製造用の硬化性組成物、ならびにそれから製造され、少なくとも良好なまたは改善された断熱作用を有するコーティングを提供することである。同様に、表面の外観が改善されたコーティングを得ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、
少なくとも1つの水性結合剤と、
‐噴霧乾燥されたヒュームドシリカペレットをベースとした第一成分と、
‐二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマーの群から選択されるペレット、好ましくは膨張ポリスチレンペレット、ならびにそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの第二成分と
を含む最初に規定したタイプの硬化性組成物が提案される。
【0016】
驚くべきことだが、本発明による硬化性組成物を用いて製造されたコーティングは、良好な断熱作用を有する。
【0017】
コーティング組成物のレオロジー特性は、所望の適用特性を達成するために特に重要である。したがって、組成物のレオロジープロファイルの確立が特に重要である。このレオロジープロファイルは、使用される適用方法(例:噴霧法、ローリング法、ロールコート法、ポーリング法、ペンキ塗装法または印刷法)により定義され、配合の選択により確保される。
【0018】
一般に、レオロジープロファイルは、広いせん断速度範囲にわたって測定される。高せん断速度は、例えば、スプレーまたはブラシ耐性の傾向および噴霧ミストの形成を反映し、低せん断速度は、例えば、走行特性および塗装仕上げを反映することが知られている。
【0019】
しかし、事前に確立されたレオロジープロファイルは、保管中に頻繁に変化するため、組成物は特定の適用方法には適さなくなる。
レオロジープロファイルのこの変動は、特定のせん断速度でのコーティング組成物の粘度を保管の前後で測定することにより定量化される。ペンキ産業では、通常、せん断速度50rpm(1分あたりの回転数)での保管前 (例:コーティング組成物の製造後1日)および保管後(例:コーティング組成物の製造後1週間)、0秒後、30秒後、ならびに60秒後の粘度値が、コーティング組成物の適用特性について述べるために使用される。
【0020】
本発明による組成物は、例えば、噴霧法、浸漬法、ローリング法、ポーリング法またはペンキ塗装法、および種々の印刷法といった適用方法により、コーティングされるべき基材に適用される、様々な応用分野用の調製物であることが好ましい。
【0021】
予想外なことに、本発明による硬化性組成物は、従来技術から知られているペレット化材料を含む組成物と比較して、保管安定性が向上していることが分かった。
【0022】
第一成分
第一成分は、次の物理化学指数を有することが好ましい。
‐中央粒径(d50):10~200μm、
‐BET表面積:20~600m2/g、
‐熱分解法で製造された水性二酸化ケイ素を噴霧乾燥することにより得られるタンプ密度:250~700g/L
【0023】
従来技術には、第一成分としてこの種のペレット化材料が開示されている。多数の合成方法が、例えば欧州特許出願公開第0725037号明細書の教示から当業者に知られている。これらのペレット化材料は、今日まで触媒担体として使用が見出されている。それらは、その比較的高いタンプ密度のために、断熱材としては興味深いものではない。
【0024】
本発明において、用語「ペレット化材料」は、粒状で、容易に流し込むことができ、自由に流動する固体材料を意味すると理解される。
【0025】
さまざまな粉状または粗粒の粒状材料のタンプ密度は、DIN ISO 787-11:1995「顔料および増量剤の一般的な試験方法-第11部:タンピング後のタンプ体積および見掛け密度の測定」に準拠して測定できる。これには、撹拌およびタンピング後のバルク材料のかさ密度の測定が含まれる。
【0026】
本発明のペレット化材料の中央粒径は、ISO 13320:2009に準拠して、レーザー回折粒径分析によって測定できる。得られた測定粒径分布を使用して、全粒子の50%が超えていない粒径を平均粒径として反映する中央値d50を定義する。
【0027】
本発明によるペレット化材料は、BET表面積が20~600m2/g、より好ましくは50~400m2/g、最も好ましくは70~350m2/gであり得る。比表面積は、単にBET表面積とも呼ばれ、DIN 9277:2014に準拠して、ブルナウアー・エメット・テラー法による窒素吸着により測定される。
【0028】
第一成分は、好ましくは、水銀ポロシメーターにより測定された細孔容積が0.5~2.5mL/g(d<4μm)である。
【0029】
水銀細孔容積(d<4μm)の測定は、DIN 66133に準拠した水銀圧入法に基づいており、Micromeritics社の装置AutoPore V 9600が使用される。プロセス原理は、多孔質固体に注入される水銀容量を作用圧力関数として測定することに基づいている。
第一成分は、0.6~2.5、好ましくは0.8~2.0の粒径分布(d90-d10/d50)を有することが好ましい。
【0030】
第一成分は、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、またはそれらの混合物の群から選択される表面改質剤で表面改質されていることが好ましい。
【0031】
第二成分
本発明による組成物は、二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマーの群から選択されるペレット、好ましくは膨張ポリスチレンペレット、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される第二成分を含んでいる。
【0032】
ペレットは、好ましくは、1μm~2mmの中央粒径d50を有する。
【0033】
一般に、第二成分として標準的な市販品を使用することができる。これらのいくつかは次のとおりである。標準的な市販のケイ酸塩ガラス粒子は、例えば、Poraver GmbH社のPoraver(登録商標)である。既知のパーライトは、例えば、Lehmann&Voss&Co.KG社のTri-Spheres(登録商標)350およびTri-Spheres(登録商標)400S、Cabot Corporation社のEnova(登録商標)Aerogel IC3100、IC3110およびIC3120である。
【0034】
二酸化ケイ素は、いわゆるエアロゲル、キセロゲル、パーライト、沈降シリカ、ヒュームドシリカなどの一般的に知られているタイプのシリカを1つまたは複数含み得る。
【0035】
本発明による組成物は、好ましくは、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択されることが好ましい第二成分を含み、これは少なくとも1つの物理化学指数の点で第一成分とは異なる。
【0036】
ヒュームドシリカは、火炎加水分解または火炎酸化によって生成される。これには、一般に水素/酸素炎中で、加水分解性または酸化性の出発物質を酸化または加水分解することが含まれる。熱分解法に使用され得る出発物質には、有機物質と無機物質が含まれる。四塩化ケイ素が特に適している。このようにして得られた親水性シリカは非晶質である。ヒュームドシリカは通常、強凝集体である。「強凝集」とは、生成時に最初に形成されるいわゆる一次粒子が、反応のさらなる過程で強い相互結合を形成し、三次元ネットワークを形成することを意味すると理解されるものとする。一次粒子には細孔がほとんどなく、表面に遊離ヒドロキシル基を有している。
【0037】
従来技術は、そのようなヒュームドシリカペレットを開示している。多くの合成方法が、例えば国際公開第2021/144170号パンフレットの教示から当業者に知られている。
【0038】
このようなヒュームドシリカペレットは、80g/L~250g/L、好ましくは100g/L~250g/Lのタンプ密度を有することが好ましい。
【0039】
このようなヒュームドシリカペレットは、200μmを超える、好ましくは250μm~1,000μmの中央粒径(d50)を有することが好ましい。
【0040】
このようなヒュームドシリカペレットは、水銀ポロシメーターで測定された細孔容積が2.0~4.0mL/g(d<4μm)であることが好ましい。
【0041】
本発明による組成物は、ヒュームド二酸化ケイ素粒子をベースとした疎水化ペレットを含んでいる。本明細書の文脈における用語「疎水性」は、水などの極性媒体に対して親和性が低い粒子に関する。対照的に、親水性粒子は、水などの極性媒体に対して高い親和性を有している。疎水性材料の疎水性は通常、シリカ表面に適切な非極性基を適用することにより実現できる。疎水性シリカの疎水性の程度は、例えば、国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳述されているように、そのメタノール湿潤性などのパラメータにより測定することができる。純水中では、疎水性シリカは水から完全に分離し、溶媒で濡れることなく水面に浮遊する。対照的に、純粋なメタノール中では、疎水性シリカは溶媒全体に分散し、完全に湿潤となる。メタノール湿潤性の測定は、シリカの湿潤がまだ生じていない、すなわち、試験混合物と接触した後、使用されたシリカの100%が湿潤せずに残り、試験混合物から分離しているメタノール-水試験混合物の最大メタノール含有量を判定する。メタノール-水混合物中のメタノールの5体積%ずつの含有量がメタノール湿潤性と呼ばれる。このようなメタノール湿潤性が高いほど、シリカの疎水性は高くなる。メタノール湿潤性が低いほど、材料の疎水性は低くなり、親水性が高くなる。
【0042】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される第二成分のメタノール湿潤性は、好ましくはメタノールの50体積%を超え、より好ましくはメタノールの55体積%を超える。
【0043】
第一成分のメタノール湿潤性は、メタノールの50体積%を超えることが好ましい。
【0044】
熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットの群から選択される第二成分の炭素含有量は、0.5重量%~10重量%であることが好ましい。
第二成分は、好ましくは、オルガノシラン、シラザン、非環式ポリシロキサン、環式ポリシロキサン、またはそれらの混合物の群から選択される表面改質剤で表面改質されていてよい。
第一成分の炭素含有量は、0.5重量%~10重量%であることが好ましい。
【0045】
好ましくは、第二成分に対する第一成分の重量比は、1:10~10:1、好ましくは1:8~8:1、より好ましくは1:4~4:1である。
【0046】
本発明による組成物は、好ましくは、(メタ)アクリレート、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アラビアゴム、カゼイン、植物油、ポリウレタン、シリコーン樹脂、有機変性シリコーンハイブリッド樹脂、ワックス、ポリエステル、ビニル樹脂、セルロース誘導体、シリカゾル、水ガラス、およびそれらの混合物からなる群から選択される結合剤を含んでいる。
【0047】
本発明による組成物は、必要に応じて、膜形成剤、顔料、充填剤、増粘剤、繊維、分散剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、保護コロイドおよび/または消泡剤をさらに含んでいることが好ましい。
【0048】
本発明はさらに、断熱または遮音用コーティングの製造に適した硬化性組成物の製造方法を提供し、この方法では、以下を含む混合物が生成される。
‐少なくとも1つの水性結合剤、
‐噴霧乾燥されたヒュームドシリカペレットをベースとした第一成分、
‐二酸化ケイ素、好ましくはマイクロシリカ、熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレット、シリカエアロゲル、ケイ酸塩ガラス(発泡ガラス/膨張ガラス)、中空二酸化ケイ素粒子(中空ガラスビーズ)、またはパーライト、好ましくは膨張パーライトの群、バーミキュライトの群およびポリマーの群から選択されるペレット、好ましくは膨張ポリスチレンペレット、ならびにそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つの第二成分、
‐必要に応じて、その後に以下:膜形成剤、顔料、充填剤、増粘剤、繊維、保護コロイド、分散剤、湿潤剤、防腐剤および/または消泡剤を混合物に添加してもよい。
【0049】
第一成分を、第二成分より先に水性結合剤に混合すると有利であり得る。
【0050】
本発明による方法は、例えば混合装置内で実施することができる。本発明による組成物の製造に適したこの種の混合装置は、粉末または粒状の二酸化ケイ素を水相に簡単かつ穏やかに組み込むことができるすべての装置である。撹拌機は通常、コーティング業界ではこの目的のために使用され、その比較的単純な構造により、メンテナンスの手間がかからず、簡単に洗浄できる製造様式が可能となる。
【0051】
本発明の方法は、200rpm(毎分回転数)を超える、好ましくは400~5000rpm、特に好ましくは600~3000rpmの撹拌速度で実施されることが好ましい。
【0052】
本発明による方法に使用される第一成分は、好ましくは、上記の物理化学指数を有する噴霧乾燥されたヒュームド二酸化ケイ素ペレットであり得る。
【0053】
本発明による方法に使用される第二成分は、好ましくは、上記の物理化学指数を有する熱分解法で製造された二酸化ケイ素をベースとしたペレットであり得る。
【0054】
本発明による方法では、第二成分に対する第一成分の重量比が1:10~10:1、好ましくは1:8~8:1、より好ましくは1:4~4:1である。
【0055】
本発明はまた、断熱、電気絶縁または遮音用コーティング製造用の組成物中の添加剤としての第一成分の使用を提供する。驚くべきことだが、第一成分の発明的使用は、滑らかなコーティング表面を有する断熱、電気絶縁および/または遮音用コーティングの製造に適していることが初めて示され、これはいくつかの応用分野にとって興味深いものであり得る。
【0056】
したがって、本発明によれば、本発明による組成物の使用により、コーティング、ワニス、ペイキ、インク、カバー、シーラントおよび接着剤も得られる。
【0057】
全く驚くべきことだが、2つの成分を組み合わせると、例えば、本発明による組成物の保管安定性が良くなり、および/またはそれから製造されるコーティングの断熱性、電気絶縁性および/または遮音性が向上するなどの相乗効果を示すことが分かった。この場合において、第二成分は、少なくとも1つの物理化学指標の点で第一成分と相違している。さらに、コーティング表面は滑らかな触感となる。
【0058】
加えて、思いがけなくさらなる技術的効果が実施例において示された。これは、本発明による組成物の保管安定性を著しく低下させることなく、本発明による硬化性組成物を用いて製造されるコーティングの熱伝導率をさらに低くするために、本発明による組成物により多くのペレットを含有させることができるためである。
【0059】
さらに、本発明は、ユーザーの要求に完全に沿って柔軟な使用性を可能にする。例えば、重要なポイントは、必ずしも最高の断熱性、電気絶縁性および/または遮音性であるわけではなく、コーティングの視覚的な外観も重要であると考えられる。ユーザーは、必要に応じて、これらのプロパティを例えば設定または調整することができる。
【0060】
以下の実施例は、単に当業者に本発明を説明するためのものであり、特許請求の範囲に記載された用途を何ら限定するものではない。
【0061】
方法
タンプ密度[g/L]は、DIN ISO787-11:1995に準拠して測定した。
【0062】
BET比表面積[m2/g]は、DIN 9277:2014に準拠し、ブルナウアー・エメット・テラー法による窒素吸着により測定した。
【0063】
メタノール湿潤性[メタノール/水混合物中のメタノールの体積%]は、国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁記載の方法により測定した。
【0064】
炭素含有量[重量%]は、EN ISO3262-20:2000(第8章)に準拠し、C632炭素測定システム(製造元:LECO社)を用いた元素分析により測定した。分析対象の試料をセラミックるつぼに秤量し、燃焼添加剤と混合し、誘導オーブン内で酸素流下で加熱した。存在する炭素は酸化されてCO2となる。CO2ガスの量を赤外線検出器(IR)により定量化する。SiCが存在する場合、SiCは燃焼しないため、炭素含有量の値に影響しない。
【0065】
水銀細孔容積(d<4μm)の測定は、DIN 66133に準拠した水銀圧入法に基づいており、Micromeritics社の装置AutoPore V 9600を使用する。プロセス原理は、多孔質固体に注入される水銀容量を作用圧力関数として測定することに基づいている。
熱伝導率[単位:mW/(m*K)]は、EN 12667:2001に準拠し、保護熱板法(GHP)法により測定した。
【0066】
組成物の粘度は、ブルックフィールド回転粘度計DV2T Extraを用いて測定した。スピンドルと速度は、ハンドブックに規定されている粘度範囲に従って選択した。(業界標準)
【0067】
適用
本発明による組成物と比較組成物を、製造後24時間以内に、スプレーガンを用いて15cm×15cm×0.3cmの市販のアルミニウムシートに適用した。各スプレー作業による層厚は、充填レベルおよび粘度に応じて、1~2mmである。
【0068】
続いて、それらを室温で約24時間乾燥させ、重量の減少を常に監視しながら60℃のオーブンで残留水分を除去した。2回計量して重量が一定となったときに、乾燥作業を停止した。通常、これには1週間もかからない。
【0069】
硬化したコーティングアルミニウムシートを視覚的評価に使用する。熱伝導率を測定するには、1cmを超える層厚が必要である。この目的のために、シートに繰り返し噴霧し、乾燥させる。コーティングの表面を、測定装置内で接触するアルミニウムシートの下側平面と平行に機械加工する。
【0070】
コーティング表面の視覚的評価
コーティング表面の視覚的評価のために、画像を作成した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】第一成分および第二成分の各熱伝導率を示す。
【実施例0072】
1.第一成分および第二成分の熱伝導率の測定
1.1 第一成分
噴霧乾燥したヒュームドシリカペレットを、欧州特許出願公開第0725037号明細書の実施例8に従って製造した。
1.2 第二成分
国際公開第2021/144170号パンフレットの実施例2によるヒュームド二酸化ケイ素系ペレットを製造した。
【0073】
図1は、2つの成分の各熱伝導率を示している。第二成分は、第一成分よりも熱伝導率が低いため、断熱性能が優れている。当業者は、第一成分が触媒担体として使用されてきたことを知っている。
【0074】
2.保管時の粘度変化の測定
発明性のある組成物Z1、Z2、Z3およびZ4と、比較組成物VZ1を、表1の詳細に従って製造した。使用した比較例は、第一成分よりも断熱性能が高いことから、第二成分であった(
図1を参照)。
【0075】
組成物を次のように作製した。最初の工程では、撹拌容器とプロペラ撹拌機を備えた実験室用撹拌系とからなる標準的な実験室用混合装置で、繊維と、Kelco-visと、水とを激しく混合した。複数の実験用に予備混合物を作成し、表1に沿ってそこから各バッチの量を取得することが望ましい。続いて、結合剤を添加し、これを予備混合物と混合した。最終工程では、ペレットを段階的に、好ましくは第一成分から添加した。穏やかだが強力に混合するための渦が常に生じるように、粒子の含有量が増えるにつれて攪拌速度を上げた。最大含有量では、最大1200rpmを使用した。
【0076】
【0077】
製造した組成物の粘度を46日間にわたって測定した。試料の加速度的経時変化をシミュレートするために、測定の合間は試料を気密にシールし、50℃のオーブンで保管した。結果を
図2のグラフに示す。
【0078】
図2は、本発明による組成物のすべての粘度がより高い値に向かって変化し、例えば長期間保管した後にのみ噴霧コーティングを行うことができなくなることを示している。例えば、これらの組成物では、8000mPa・sは、21日目~42日目の間でのみ達成されている。対照的に、VZ1は、わずか約16日目で8000mPa・sまで粘度が上昇した。
【0079】
3.本発明によるコーティングの熱伝導率の測定
表2の詳細に沿って、発明性のある組成物Z5と比較組成物VZ2とを熱伝導率の測定のために製造および調製した。「適用」を参照。
【0080】
どちらの場合も、組成物の最大ペレット含有量は、噴霧コーティングが依然として可能であるような量であった。Z5中の2つの成分を組み合わせる(合計32.51重量%)と、比較組成物VZ2(合計わずか28.65重量%)よりもペレットの割合を高くできることが分かった。
【0081】
【0082】
予期せぬことに、組成物Z5から作製された発明性のあるコーティングは、平均測定温度23℃で乾燥した後、比較コーティングVZ2の熱伝達率48.8mW/(m・K)よりも、低い熱伝導率44.4mW/(m・K)を有し、これが断熱効果の向上につながることが分かった。
【0083】
4.コーティングの視覚的評価
発明性のある組成物Z5、Z6と比較例VZ2とを、表3に沿って製造し、上記の説明の通りに適用および乾燥した。
【0084】
【0085】
VZ2のコーティング表面の画像を
図3に示す。
Z5のコーティング表面の画像を
図4に示す。
Z6のコーティング表面の画像を
図5に示す。
【0086】
画像は、VZ2の非常に粗い表面(
図3)が、第一成分の添加によりはるかに滑らかになったことを明確に示している(
図4のZ5)。第一成分のみを含む表面は、非常に滑らかで凹凸がほとんどなく(
図5のZ6)、その熱伝導率は51.5mW/(m・K)であった。