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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072264
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】シアニン化合物
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240520BHJP
   C09B 23/04 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
G02B5/22
C09B23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191023
(22)【出願日】2023-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2022182509
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】持松 拓途
(72)【発明者】
【氏名】久野 美輝
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機溶媒への溶解性に優れたシアニン化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるシアニン化合物。

[式(1)中、R11とR21は炭素数3以上のアルキル基を表し、R15は、R14と連結して芳香環を形成するか、炭素原子であるYと連結して芳香環を形成している。R25は、R24と連結して芳香環を形成するか、炭素原子であるYと連結して芳香環を形成している。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするシアニン化合物。
【化1】

[式(1)中、
11およびR21はそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
12、R13、R22およびR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
15は、R14と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、
15がR14と連結して芳香環を形成する場合、YはCR1617を表し、R16とR17はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
15がYと連結して芳香環を形成する場合、R14は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
25は、R24と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、
25がR24と連結して芳香環を形成する場合、YはCR2627を表し、R26とR27はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
25がYと連結して芳香環を形成する場合、R24は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。]
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載のシアニン化合物。
【化2】
[式(2)中、R11~R13、R16~R17、R21~R23、R26~R27およびLは、上記と同じ意味を表し、
a1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。]
【請求項3】
下記式(3)で表される請求項1に記載のシアニン化合物。
【化3】

[式(3)中、R11~R14、R21~R24およびLは、上記と同じ意味を表し、
b1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。]
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシアニン化合物と樹脂成分とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
さらに溶媒を含む請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、波長800nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有するシアニン化合物Aと、前記シアニン化合物Aよりも長波長側に吸収極大波長を有するシアニン化合物Bを含有し、
前記シアニン化合物Aと前記シアニン化合物Bの少なくとも一方が前記シアニン化合物である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記シアニン化合物Aは、波長800nm~1000nmの範囲に吸収極大波長を有し、
前記シアニン化合物Bは、波長950nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有する請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシアニン化合物と溶媒を含むことを特徴とするシアニン化合物溶液。
【請求項9】
請求項4に記載の樹脂組成物から形成された樹脂層を有することを特徴とする光学フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアニン化合物、当該シアニン化合物含む樹脂組成物とシアニン化合物溶液、当該樹脂組成物から形成された光学フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シアニン化合物は近赤外領域に吸収域を有する色素であり、これまで様々なシアニン化合物が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/151344号
【特許文献2】国際公開第2021/085372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シアニン化合物は、近赤外領域に吸収域を有し、可視光領域の透明性が高い特性を利用して、近赤外光のカットフィルターや近赤外線吸収フィルム等への利用が期待されている。このような用途にシアニン化合物を適用する場合、シアニン化合物は有機溶媒や樹脂等に溶解させて取り扱うことが望ましく、これによりシアニン化合物の取り扱い性が向上し、加工性を高めることができる。しかし、シアニン化合物は一般に有機溶媒や樹脂への溶解性が低く、例えばシアニン化合物を含有する樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合など、シアニン化合物に由来する分光特性を発揮させるためには、光学フィルターの厚みをある程度厚く形成することが必要となる。一方、光学フィルターなどの電子デバイスは小型化や薄型化が求められていることから、より薄型の光学フィルターを形成するためには、光学フィルター中により高濃度でシアニン化合物を存在させることが必要となる。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶媒への溶解性に優れたシアニン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明のシアニン化合物、樹脂組成物、シアニン化合物溶液および光学フィルターは下記の通りである。
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とするシアニン化合物。
【化1】

[式(1)中、
11およびR21はそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、
12、R13、R22およびR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
15は、R14と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、
15がR14と連結して芳香環を形成する場合、YはCR1617を表し、R16とR17はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
15がYと連結して芳香環を形成する場合、R14は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
25は、R24と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、
25がR24と連結して芳香環を形成する場合、YはCR2627を表し、R26とR27はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、
25がYと連結して芳香環を形成する場合、R24は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、
Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。]
[2] 下記式(2)で表される[1]に記載のシアニン化合物。
【化2】

[式(2)中、R11~R13、R16~R17、R21~R23、R26~R27およびLは、上記と同じ意味を表し、
a1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。]
[3] 下記式(3)で表される[1]に記載のシアニン化合物。
【化3】

[式(3)中、R11~R14、R21~R24およびLは、上記と同じ意味を表し、
b1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。]
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のシアニン化合物と樹脂成分とを含むことを特徴とする樹脂組成物。
[5] さらに溶媒を含む[4]に記載の樹脂組成物。
[6] 前記樹脂組成物は、波長800nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有するシアニン化合物Aと、前記シアニン化合物Aよりも長波長側に吸収極大波長を有するシアニン化合物Bを含有し、前記シアニン化合物Aと前記シアニン化合物Bの少なくとも一方が前記シアニン化合物である[4]または[5]に記載の樹脂組成物。
[7] 前記シアニン化合物Aは、波長800nm~1000nmの範囲に吸収極大波長を有し、前記シアニン化合物Bは、波長950nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有する[6]に記載の樹脂組成物。
[8] [1]~[3]のいずれかに記載のシアニン化合物と溶媒を含むことを特徴とするシアニン化合物溶液。
[9] [4]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された樹脂層を有することを特徴とする光学フィルター。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシアニン化合物は、有機溶媒への溶解性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例で作製した樹脂積層基板1の透過スペクトルを表す。
図2】実施例で作製した樹脂積層基板2の透過スペクトルを表す。
図3】実施例で作製した樹脂積層基板3の透過スペクトルを表す。
図4】実施例で作製した樹脂積層基板4の透過スペクトルを表す。
図5】実施例で作製した樹脂積層基板5の透過スペクトルを表す。
図6】実施例で作製した光学フィルター1の透過スペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシアニン化合物は、下記式(1)で表されるものである。下記式(1)において、R11およびR21はそれぞれ独立して、炭素数3以上のアルキル基を表し、R12、R13、R22およびR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、R15は、R14と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、R15がR14と連結して芳香環を形成する場合、YはCR1617を表し、R16とR17はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、R15がYと連結して芳香環を形成する場合、R14は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、R25は、R24と連結して芳香環を形成するか、Yが炭素原子を表し、Yと連結して芳香環を形成しており、R25がR24と連結して芳香環を形成する場合、YはCR2627を表し、R26とR27はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、R25がYと連結して芳香環を形成する場合、R24は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。なお、シアニン化合物には、共鳴関係にある化合物が存在する場合があるが、式(1)のシアニン化合物には共鳴関係にある化合物も含まれる。
【0010】
【化4】
【0011】
式(1)で表されるシアニン化合物は、R15が、R14と連結して芳香環を形成するか、炭素原子であるYと連結して芳香環を形成しており、R25が、R24と連結して芳香環を形成するか、炭素原子であるYと連結して芳香環を形成しているため、メチン鎖Lの両側に結合しているインドール環構造を含む部分が高い平面性を有する。また、R11とR21が炭素数3以上のアルキル基を表し、R14が、R15と連結して芳香環を形成するか、炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、R24が、R25と連結して芳香環を形成するか、炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表すため、メチン鎖Lの両側に結合している基がR11からR14の方向およびR21からR24の方向に長い形状を有し、かつ当該基の長手方向の両側部分が有機溶媒に対して高い親和性を有するものとなる。そして、対アニオンとしてB(C を有し、塩形成することと相まって、式(1)で表されるシアニン化合物は、有機溶媒への溶解性に優れるものとなる。そのため、樹脂組成物中にシアニン化合物を高濃度に含有させることが可能になり、当該樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合など、厚みを薄く形成しても、シアニン化合物に由来して近赤外領域の光を好適に吸収させることができる。また、様々な溶媒にシアニン化合物を溶解させることが可能となる。シアニン化合物をインクに使用する場合などは、インク中にシアニン化合物を高濃度に含有させることができ、インクの発色性を高めることができる。
【0012】
式(1)において、R11とR21は炭素数3以上のアルキル基を表し、当該アルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。R11とR21のアルキル基の炭素数は4以上が好ましく、また20以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下がさらにより好ましい。R11とR21の直鎖状のアルキル基としては、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。R11とR21の分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、1-エチルプロピル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、tert-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。R11とR21は直鎖状のアルキル基であることが好ましく、これによりシアニン化合物の有機溶媒への溶解性が高まるとともに、耐熱性が高まる傾向となる。そのため、シアニン化合物を樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、シアニン化合物の分解を抑えやすくなる。
【0013】
式(1)において、R12、R13、R22およびR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表す。R12、R13、R22およびR23のハロゲン原子としては、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)、ヨウ素原子(ヨード基)等が挙げられる。
【0014】
式(1)のR12、R13、R22およびR23の有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。
【0015】
12、R13、R22およびR23のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の環状(脂環式)アルキル基等が挙げられる。アルキル基は置換基を有していてもよく、アルキル基が有する置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は1~20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~5であり、環状のアルキル基であれば炭素数4~10が好ましく、5~8がより好ましい。
【0016】
12、R13、R22およびR23のアルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のアルキル基に関する説明が参照される。
【0017】
12、R13、R22およびR23のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、6~20が好ましく、より好ましくは6~12である。
【0018】
12、R13、R22およびR23のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、7~25が好ましく、より好ましくは7~15である。
【0019】
12、R13、R22およびR23のアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基に含まれるアリール基の具体例は、上記のアリール基に関する説明が参照される。
【0020】
12、R13、R22およびR23のヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~20が好ましく、より好ましくは3~15である。
【0021】
12、R13、R22およびR23のアミノ基としては、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照され、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった基が挙げられる。Rc1とRc2は互いに連結して環形成していてもよい。
【0022】
12、R13、R22およびR23のアミド基としては、式:-NH-C(=O)-Rc3で表され、Rc3がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0023】
12、R13、R22およびR23のスルホンアミド基としては、式:-NH-SO-Rc4で表され、Rc4がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0024】
式(1)において、R15がR14と連結して芳香環を形成する場合、および/または、R25がR24と連結して芳香環を形成する場合、R15がR14と連結して形成される芳香環およびR25がR24と連結して形成される芳香環としては、芳香族炭化水素環および芳香族複素環が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、シクロテトラデカヘプタエン環等が挙げられる。芳香族複素環は、N(窒素原子)、O(酸素原子)およびS(硫黄原子)から選ばれる1種以上の原子を環構造に含み、芳香族性を有するものであり、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環等が挙げられる。
【0025】
15がR14と連結して形成される芳香環とR25がR24と連結して形成される芳香環は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、ハロゲノ基(ハロゲン原子)や前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。
【0026】
15がR14と連結して芳香環を形成する場合、YはCR1617を表し、R16とR17はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または有機基を表す。R25がR24と連結して芳香環を形成する場合、YはCR2627を表し、R26とR27はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または有機基を表す。R16、R17、R26およびR27の有機基としては前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。
【0027】
15がR14と連結して形成される芳香環およびR25がR24と連結して形成される芳香環としては、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。この場合、式(1)のシアニン化合物は下記式(2)で表されるものとなる。
【0028】
【化5】
【0029】
式(2)中、R11~R13、R16~R17、R21~R23、R26~R27およびLは上記と同じ意味を表し、Ra1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRa1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一または異なっていてもよい。Ra1およびRa2の有機基としては前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。
【0030】
式(1)のシアニン化合物において、R15がR14と連結して芳香環を形成し、R25がR24と連結して芳香環を形成する場合、あるいは式(2)のシアニン化合物において、R12、R13、R16、R17、R22、R23、R26、R27、Ra1およびRa2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R12、R13、R22、R23、Ra1およびRa2は、水素原子であることが特に好ましい。R16、R17、R26およびR27は、アルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが特に好ましい。
【0031】
式(1)において、Yが炭素原子を表し、R15がYと連結して芳香環を形成する場合、および/または、Yが炭素原子を表し、R25がYと連結して芳香環を形成する場合、R15がYと連結して形成される芳香環およびR25がYと連結して形成される芳香環としては、芳香族炭化水素環および芳香族複素環が挙げられ、これらの説明は前述したR15がR14と連結して形成される芳香環およびR25がR24と連結して形成される芳香環の説明が参照される。
【0032】
15がYと連結して形成される芳香環およびR25がYと連結して形成される芳香環は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、ハロゲノ基(ハロゲン原子)や前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。
【0033】
15がYと連結して芳香環を形成する場合、R14は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表し、R25がYと連結して芳香環を形成する場合、R24は炭素数4以上のアルキル基または炭素数3以上のアルコキシ基を表す。R14とR24のアルキル基、およびR14とR24のアルコキシ基に含まれるアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。R14とR24のアルキル基の炭素数は5以上が好ましく、また20以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下がさらにより好ましい。R14とR24のアルコキシ基に含まれるアルキル基の炭素数は4以上が好ましく、また20以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下がさらにより好ましい。R14とR24の直鎖状のアルキル基、およびR14とR24のアルコキシ基に含まれる直鎖状のアルキル基としては、n-プロピル基(R14とR24のアルキル基を除く)、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。R14とR24の分岐状のアルキル基、およびR14とR24のアルコキシ基に含まれる分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基(R14とR24のアルキル基を除く)、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、1-エチルプロピル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、tert-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。R14とR24のアルキル基、およびR14とR24のアルコキシ基に含まれるアルキル基は直鎖状のアルキル基であることが好ましく、これによりシアニン化合物の有機溶媒への溶解性が高まるとともに、耐熱性が高まる傾向となる。そのため、シアニン化合物を樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、シアニン化合物の分解を抑えることができる。R14とR24はアルコキシ基であることがより好ましい。
【0034】
15がYと連結して形成される芳香環およびR25がYと連結して形成される芳香環としては、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。この場合、式(1)のシアニン化合物は下記式(3)で表されるものとなる。
【0035】
【化6】
【0036】
式(3)中、R11~R14、R21~R24およびLは上記と同じ意味を表し、Rb1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表し、複数のRb1は互いに同一または異なっていてもよく、複数のRb2は互いに同一または異なっていてもよい。Rb1およびRb2の有機基としては前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。
【0037】
式(1)のシアニン化合物において、R15がYと連結して芳香環を形成し、R25がYと連結して芳香環を形成する場合、あるいは式(3)のシアニン化合物において、R12、R13、R22、R23、Rb1およびRb2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R12、R13、R22、R23、Rb1およびRb2は、水素原子であることが特に好ましい。
【0038】
式(1)~式(3)において、Lは炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、すなわち、5以上9以下のメチン基が繋がったメチン鎖を表す。メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。メチン基が有していてもよい置換基としては、ハロゲノ基(ハロゲン原子)や前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。なお、メチン鎖の炭素数は、メチン鎖に含まれるメチン基が置換基を有する場合は、置換基を除く炭素数を意味する。
【0039】
メチン鎖Lは奇数個のメチン基が繋がったものであることが好ましく、従って、メチン鎖は炭素数5、7または9であることが好ましく、5、7または9のメチン基が繋がったものであることが好ましい。この場合、式(1)で表されるシアニン化合物は、下記式(1A)~式(1C)で表されるものとなる。式(1A)~式(1C)において、R31~R39はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表す。
【0040】
【化7】
【0041】
メチン基が有していてもよい置換基としては、ハロゲノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基が好ましく、ハロゲノ基、アルキル基、アリール基、アミノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。アミノ基は、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基であるものが好ましく、当該アルキル基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、当該アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましい。
【0042】
メチン基の有する置換基が互いに連結する場合、2つ隣のメチン基の有する置換基が互いに連結して環を形成することが好ましい。式(1A)~式(1C)においては、R31とR33、R32とR34、R33とR35、R34とR36、R35とR37、R36とR38またはR37とR39が互いに連結して環を形成することが好ましい。
【0043】
メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、5~8員環であることが好ましく、5~7員環であることがより好ましく、5または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが特に好ましい。メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、メチン鎖と一部共有して形成されるが、メチン鎖と共有する部分以外に不飽和結合を有していてもよく、有していなくてもよい。好ましくは、メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は、メチン鎖と共有する部分以外に不飽和結合を有しない。
【0044】
メチン基の有する置換基が互いに連結して形成された環は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、ハロゲノ基(ハロゲン原子)や前述したR12、R13、R22およびR23の有機基が挙げられる。なかでも、当該置換基としては、ハロゲノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基が好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1または2がさらに好ましく、アリール基の炭素数は6~12が好ましい。アミノ基は、式:-NRc1c2で表され、Rc1およびRc2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基であるものが好ましく、当該アルキル基の炭素数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、当該アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましい。
【0045】
メチン基が有していてもよい置換基は、メソ位(中央)またはその隣のメチン基に結合していることが好ましく、それ以外のメチン基は置換基を有しないことが好ましい。式(1A)では、R32~R34がハロゲン原子または有機基であってもよく、R31とR35が水素原子であることが好ましい。式(1B)では、R33~R35がハロゲン原子または有機基であってもよく、R31、R32、R36、R37が水素原子であることが好ましい。式(1C)では、R34~R36がハロゲン原子または有機基であってもよく、R31~R33、R37~R39が水素原子であることが好ましい。より好ましくは、連結して環を形成しない置換基はメソ位のメチン基に結合し、連結して環を形成する置換基は、メソ位の隣のメチン基に結合し、互いに連結している。メチン鎖Lはまた、置換基を有しないことも好ましい。
【0046】
本発明のシアニン化合物は、上記のシアニン骨格を有するカチオンが、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートと塩形成している。これにより、本発明のシアニン化合物は有機溶媒への溶解性に優れるものとなる。また、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートと塩形成することにより、耐熱性に優れるものとなる。
【0047】
本発明の特に好ましいシアニン化合物として、下記式(2A)と式(3A)で表されるシアニン化合物が示される。下記式(2A)において、R11とR21は上記と同じ意味を表し、R16、R17、R26、R27はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。下記式(3A)において、R11、R14、R21、R24は上記と同じ意味を表す。
【0048】
【化8】
【0049】
【化9】
【0050】
本発明のシアニン化合物は、トルエン中で測定される波長600nm~1300nmの範囲の吸収スペクトルにおいて、波長750nm~1100nmの範囲に最大吸収ピークを有することが好ましい。すなわちシアニン化合物は、トルエン中で吸収スペクトルを測定したとき、波長750nm~1100nmの範囲に吸収極大を有するピークを有し、かつ当該吸収ピークの吸収極大が波長600nm~1300nmの範囲で最大値をとることが好ましい。なお、最大吸収ピークの吸収極大波長を、極大波長λmaxと称する。極大波長λmaxは、780nm以上がより好ましく、800nm以上がさらに好ましく、また1200nm以下がより好ましく、1100nm以下がさらに好ましく、1050nm以下がさらにより好ましい。
【0051】
本発明のシアニン化合物は溶媒への溶解性に優れることから、本発明は、式(1)で表されるシアニン化合物と溶媒とを含有するシアニン化合物溶液も提供する。溶媒としては有機溶媒を用いることが好ましく、これにより、従来よりも高濃度でシアニン化合物が溶解したシアニン化合物溶液を得ることができる。本発明のシアニン化合物溶液は、近赤外領域の光を効果的に吸収することができる。本発明のシアニン化合物溶液は、例えばセキュリティインクなどに適用することができ、インク組成物として用いることができる。
【0052】
シアニン化合物溶液に用いる溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;PGMEA(2-アセトキシ-1-メトキシプロパン)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体類(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;N-メチル-ピロリドン等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ケトン類、グリコール誘導体類、芳香族炭化水素類が特に好ましい。
【0053】
溶媒の使用量は、シアニン化合物溶液中のシアニン化合物の所望する濃度に応じて適宜設定すればよい。シアニン化合物溶液のシアニン化合物の濃度は、例えば0.01~10質量%の範囲で適宜設定すればよく、当該濃度は0.1質量%以上または0.5質量%以上であってもよく、また5質量%以下または3質量%以下であってもよい。
【0054】
シアニン化合物溶液に含まれる本発明のシアニン化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。シアニン化合物溶液は、本発明のシアニン化合物とともに他の色素を含有していてもよく、例えば、近赤外線吸収色素、可視光吸収色素、紫外線吸収色素から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。近赤外線吸収色素と可視光吸収色素と紫外線吸収色素の詳細は、後述の樹脂組成物に含まれ得る近赤外線吸収色素と可視光吸収色素と紫外線吸収色素の説明が参照される。
【0055】
本発明のシアニン化合物は、樹脂成分と混合して、樹脂組成物とすることができる。樹脂組成物は、本発明のシアニン化合物と樹脂成分を少なくとも含むものである。本発明の樹脂組成物は、例えばフィルム等の樹脂成形体とすることで、光学フィルターに好適に適用することができる。樹脂成形体はまた、省エネルギー用に熱線を遮断する近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板、可視光および近赤外光を利用した太陽電池用材料、プラズマディスプレイパネル(PDP)やCCD用の特定波長吸収フィルター等への適用も可能である。
【0056】
本発明のシアニン化合物は有機溶媒への溶解性に優れるため、樹脂組成物を製造する際、シアニン化合物を有機溶媒に溶解させてシアニン化合物溶液を調製し、これを樹脂成分と混合することにより、シアニン化合物を容易に樹脂組成物中に均一かつ高濃度に存在させるようにすることができる。本発明のシアニン化合物はまた、耐熱性に優れることから、例えば熱可塑性樹脂や熱硬化樹脂に配合して、これを加熱成形したり熱硬化させた場合でも、シアニン化合物に由来して近赤外領域の光を好適に吸収することができる硬化物を得ることができる。本発明の樹脂組成物およびその硬化物は、耐熱性に優れ、特定波長に大きな吸収を示すため、レーザー溶着法による樹脂の溶着に適用することもできる。例えば溶着対象となる樹脂に含ませて用いたり、レーザー光の吸収体として用いることができる。
【0057】
樹脂組成物に含まれる本発明のシアニン化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。樹脂組成物は、用途に応じた所望の性能が確保される限り、本発明のシアニン化合物とともに他の色素を含有していてもよく、例えば、近赤外線吸収色素、可視光吸収色素、紫外線吸収色素から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。
【0058】
樹脂組成物が、近赤外線吸収色素および/または可視光吸収色素をさらに含有していれば、当該樹脂組成物から光選択透過性を有する光学フィルターを得ることができる。例えば、樹脂組成物が本発明のシアニン化合物と近赤外線吸収色素を含有する場合は、赤色~近赤外領域の幅広い範囲の光の透過を抑え、可視光領域の光を優先的に透過させる光学フィルター用の樹脂組成物として用いることができる。樹脂組成物が本発明のシアニン化合物と可視光吸収色素を含有する場合は、着色フィルターやブルーライト軽減フィルター用などの樹脂組成物として用いることができる。
【0059】
近赤外線吸収色素は、波長600nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有するものが好ましい。より好ましくは、近赤外領域色素は、波長450nm~1100nmの範囲における吸収スペクトルにおいて、波長600nm~1100nmの範囲に吸収極大を有するピークを有し、かつ当該吸収ピークの吸収極大が波長450nm~1100nmの範囲で最大値をとる。当該吸収極大波長は630nm以上がより好ましく、660nm以上がさらに好ましく、また1000nm以下がより好ましく、900nm以下がさらに好ましく、800nm以下がさらにより好ましい。
【0060】
可視光吸収色素は、可視光領域(例えば、波長420nm超680nm未満の範囲)に最大吸収ピークの吸収極大波長を有するものであれば特に制限なく用いることができる。なかでも、可視光吸収色素としては、視感度が高い波長500nm以上680nm未満の範囲に最大吸収ピークの吸収極大波長を有するものを用いることが好ましい。
【0061】
近赤外線吸収色素と可視光吸収色素は、有機色素であっても、無機色素であっても、有機無機複合色素(例えば、金属原子またはイオンが配位した有機化合物)であっても、特に限定されない。近赤外線吸収色素および可視光吸収色素としては、例えば、本発明のシアニン化合物以外のシアニン系色素、スクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(例えば、ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、コリン類等)、アゾ系色素、キノン系色素、キサンテン系色素、インドリン系色素、アリールメタン系色素、クアテリレン系色素、ジイモニウム系色素、ペリレン系色素、キナクドリン系色素、オキサジン系色素、ジピロメテン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素等が挙げられる。これらの色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なかでも、近赤外線吸収色素および可視光吸収色素として、所望の波長光を効果的に吸収できる点から、スクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、フタロシアニン系色素、本発明のシアニン化合物以外のシアニン系色素、およびジピロメテン系色素から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。近赤外線吸収色素としては、スクアリリウム系色素、クロコニウム系色素、フタロシアニン系色素、および本発明のシアニン化合物以外のシアニン系色素から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより近赤外領域の光を効果的に吸収し、可視光透過率を高めることが容易になる。
【0062】
長波長側の近赤外領域の光を広い波長範囲にわたって吸収することができる樹脂組成物を得る観点から、樹脂組成物は、例えば2種以上のシアニン化合物を含有することが好ましい。この場合、樹脂組成物は、波長800nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有するシアニン化合物Aと、当該シアニン化合物Aよりも長波長側に吸収極大波長を有するシアニン化合物Bを含有することが好ましい。シアニン化合物は、シアニン化合物Aとシアニン化合物Bの少なくとも一方が本発明のシアニン化合物であればよい。このように吸収極大波長の異なる2種類のシアニン化合物を樹脂組成物に含有させることで、樹脂組成物から形成される光学フィルターは、より長波長側の近赤外領域の光を広い波長範囲にわたって吸収することができるものとなる。
【0063】
例えばスマートフォン用のカメラ等の撮像装置には、角度依存性や光学ノイズを低減するための近赤外線カットフィルターが備えられており、近年主流となっている反射吸収型の近赤外線カットフィルターでは青ガラスが広く使用されている。青ガラスは比較的長波長側の近赤外領域の光を吸収することができるが、波長1000nm~1100nmの近赤外光は、それよりも短波長側の近赤外光よりも吸収性能が低下する。これに対して上記のようにシアニン化合物Aとシアニン化合物Bの2種類以上のシアニン化合物を含有する樹脂組成物を用いれば、波長1000nm~1100nmの近赤外領域の光を効果的に吸収することができる光学フィルターを得ることができる。このような光学フィルターは、フレアやゴースト等の光学ノイズをより効果的に抑制できるものとなる。
【0064】
シアニン化合物Bの吸収極大波長は、シアニン化合物Aの吸収極大波長よりも30nm以上長波長であることが好ましく、50nm以上がより好ましく、70nm以上がさらに好ましく、また200nm以下長波長であることが好ましく、180nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。これにより、波長800nm~1100nmの範囲において、より広い範囲の近赤外領域の光を吸収することができる。
【0065】
シアニン化合物Aは、波長800nm~1000nmの範囲に吸収極大波長を有し、シアニン化合物Bは、波長950nm~1100nmの範囲に吸収極大波長を有することが好ましい。シアニン化合物Aとシアニン化合物Bがこのような吸収極大波長を有していれば、波長800nm~1100nmの範囲において、より広い範囲の近赤外領域の光を吸収することができる。また、青ガラスの吸収率が低い波長1000nm~1100nmの範囲の近赤外光を好適に吸収することができる光学フィルターを得ることが容易になる。シアニン化合物Aの吸収極大波長は825nm以上がより好ましく、850nm以上がさらに好ましく、また975nm以下がより好ましい。シアニン化合物Bの吸収極大波長は980nm以上がより好ましく、1000nm以上がさらに好ましく、また1080nm以下がより好ましい。
【0066】
シアニン化合物Bがシアニン化合物Aよりも長波長側に吸収極大波長を有するようにするためには、例えば、シアニン化合物Bのπ電子系がシアニン化合物Aのπ電子系よりも広い範囲に広がっていればよい。具体的には、シアニン化合物のメチン鎖を含むπ電子系のπ電子数が、シアニン化合物Bよりもシアニン化合物Aの方が多いことが好ましい。例えば、シアニン化合物Bの有するメチン鎖の炭素数が、シアニン化合物Aの有するメチン鎖の炭素数よりも多くてもよい。また、シアニン化合物Bのメチン鎖に結合した基に含まれ、当該メチン鎖から広がるπ電子系に含まれるπ電子数が、シアニン化合物Aのメチン鎖に結合した基に含まれ、当該メチン鎖から広がるπ電子系に含まれるπ電子数よりも多くてもよい。あるいは、シアニン化合物Bのπ電子系に電子求引性の置換基が結合したり、シアニン化合物Bに分子歪みを生じさせる置換基が結合することによっても、シアニン化合物Bの吸収極大波長の長波長化を図ることができる。
【0067】
シアニン化合物Aまたはシアニン化合物Bとして本発明のシアニン化合物以外のシアニン化合物(以下、「他のシアニン化合物」と称する)を用いる場合、他のシアニン化合物としては、例えば下記式(4)で表されるシアニン化合物が挙げられる。下記式(4)で表されるシアニン化合物は耐熱性に優れるため、樹脂に配合して加熱成形したり加熱硬化する際など、シアニン化合物の分解を抑えることができる。そのため、シアニン化合物に由来する吸収特性を示す樹脂層を備えた光学フィルターを製造することが容易になる。
【0068】
【化10】
【0069】
上記式(4)において、R41~R45はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表すか、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45の少なくとも1つは互いに連結して環を形成していてもよく、Y11は、酸素原子、硫黄原子、NR46またはCR4647を表すか、Y11は炭素原子または窒素原子を表し、R45と連結して環を形成していてもよく、Y11がNR46またはCR4647である場合、R46とR47はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表すか、R46とR47が互いに連結して環を形成していてもよく、R51~R55はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表すか、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55の少なくとも1つは互いに連結して環を形成していてもよく、Y12は、酸素原子、硫黄原子、NR56、またはCR5657を表すか、Y12は炭素原子または窒素原子を表し、R55と連結して環を形成していてもよく、Y12がNR56またはCR5657である場合、R56とR57はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または有機基を表すか、R56とR57が互いに連結して環を形成していてもよく、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とY11、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とY12が連結して形成される環は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭化水素環、または置換基を有していてもよい複素環であり、Lは、炭素数5以上9以下のメチン鎖を表し、当該メチン鎖に含まれるメチン基はそれぞれ独立して置換基を有していてもよく、当該置換基は互いに連結していてもよい。式(4)のメチン鎖Lの詳細は、式(1)のメチン鎖Lの説明が参照される。なお、式(4)のシアニン化合物から式(1)のシアニン化合物は除かれる。
【0070】
式(4)において、R41~R47、R51~R57の有機基の詳細は、上記のR12、R13、R22およびR23の有機基の説明が参照される。R41~R45、R51~R55の有機基は、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基が好ましく、R46~R47、R56~R57の有機基は、アルキル基、アリール基が好ましく、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0071】
41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とY11、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とY12が連結して形成される環としては、芳香族炭化水素環、芳香族複素環、非芳香族炭化水素環、非芳香族複素環が挙げられ、芳香族炭化水素環、芳香族複素環が好ましく、芳香族炭化水素環がより好ましい。これらの各環の環員数は、5~8であることが好ましく、5~7がより好ましく、5または6がさらに好ましい。これらの各環は置換基を有していてもよい。置換基としては、有機基や極性官能基が挙げられ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましく、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とY11、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とY12が連結して形成される環は置換基を有しないことも好ましい。
【0072】
他のシアニン化合物は、R41とR51が環を形成せず独立した基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。これにより、シアニン化合物の有機溶媒への溶解性を高めることができる。この場合のR41とR51のアルキル基は無置換であることが好ましい。R41とR51のアルキル基の炭素数は1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。R41とR51のアルキル基の炭素数は3以上であってもよく、4以上であってもよく、これによりシアニン化合物の耐熱性をさらに高めることができる。同様の観点から、R41とR51のアルキル基は直鎖状であることがより好ましい。他のシアニン化合物は、R41~R45、R51~R55が互いに連結して環を形成しないものであってもよい。
【0073】
42~R45、R52~R55が環を形成せず独立した基である場合、R42~R45、R52~R55は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、ハロゲノ基が好ましく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基がより好ましい。この場合のアルキル基、アルコキシ基の炭素数は1~8が好ましく、より好ましくは1~5であり、さらに好ましくは1~3であり、アリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、アラルキル基の炭素数は7~13が好ましく、7~11がより好ましい。R42~R45、R52~R55は水素原子であることも好ましい。
【0074】
他のシアニン化合物は、R45とY11が連結して環を形成していてもよく、R55とY12が連結して環を形成していてもよい。R45とY11が連結して形成された環とR55とY12が連結して形成された環は芳香性を有することが好ましく、これによりシアニン化合物のπ電子系が広範囲に広がるものとなる。
【0075】
樹脂組成物は、紫外線吸収色素を含有していてもよい。紫外線吸収色素は、例えば300nm~400nmの範囲に極大吸収を有するものが好ましい。樹脂組成物が紫外線吸収色素を含有することにより、当該樹脂組成物から、紫外~紫色領域の光の透過が抑えられた光選択透過性を有する光学フィルターを得ることができる。また、樹脂組成物の紫外~紫色領域の光に起因する劣化を抑制したり、樹脂組成物の保管の際や光学フィルターの製造・加工(例えば蒸着や実装など)の際に紫外光にさらされても、当該紫外光から樹脂成分や樹脂組成物中に含まれるシアニン化合物など他の成分の劣化を抑制することができる。
【0076】
紫外線吸収色素としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、メロシアニン系化合物、トリアジン系化合物等の公知の紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。紫外線吸収色素(紫外線吸収剤)は、市販の物質を用いてもよく、例えば、ADEKA社製のアデカスタブ(登録商標)シリーズや、BASF社製のTINUVIN(登録商標)シリーズ、三共化成社製のジスライザー(登録商標)シリーズ、住友化学社製のスミソーブ(登録商標)シリーズ、共同薬品社製のバイオソーブ(登録商標)シリーズ、シプロ化成社製のシーソーブ(登録商標)シリーズ等を用いることができる。また、特開2019-014707号公報や特開2022-158995号公報に開示されるエチレン化合物を紫外線吸収色素として用いることもできる。
【0077】
樹脂組成物中のシアニン化合物の含有量は、所望の性能を発現させる点から、樹脂組成物の固形分100質量%中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の成形性や成膜性等を高める点から、樹脂組成物中のシアニン化合物の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量%中、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物が他の色素をも含有する場合は、これらの合計含有量が上記範囲にあることが好ましい。なお、樹脂組成物の固形分量とは、樹脂組成物が溶媒を含有する場合に、溶媒を除いた樹脂組成物の量を意味する。
【0078】
樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、公知の樹脂を用いることができる。樹脂成分としては、透明性が高く、本発明のシアニン化合物を溶解できるものが好ましい。他の色素を併用する場合は、樹脂成分は、他の色素も溶解できるものが好ましい。このような樹脂成分を選択することにより、透過させたい波長域における高透過率と、遮断したい波長域における高吸収性を両立させることができる。
【0079】
樹脂成分としては、重合が完結した樹脂のみならず、樹脂原料(樹脂の前駆体、当該前駆体の原料、樹脂を構成する単量体等を含む)であって、樹脂組成物を成形する際に重合反応または架橋反応して樹脂に組み込まれるものも用いることができる。本発明においては、いずれの樹脂も樹脂成分に含まれる。なお後者の場合は、重合反応で得られた反応液中に存在する、未反応物、反応性末端官能基、イオン性基、触媒、酸・塩基性基等により、シアニン化合物の構造の一部または全部が分解してしまうこともあり得る。従って、そのような懸念がある場合には、重合が完結した樹脂にシアニン化合物を配合して、樹脂組成物を形成することが望ましい。
【0080】
樹脂成分としては、透明性の高い樹脂を用いることが好ましく、これにより樹脂組成物に含まれるシアニン化合物の光選択吸収特性を好適に活用することができる。樹脂成分は、例えば、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。樹脂成分としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、シクロオレフィン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリアリレート樹脂等)、ポリスルホン樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂(例えば、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、アルキルポリシロキサン系樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等)、フッ素系樹脂(例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、フッ素化ポリアリールエーテルケトン(FPEK)、フッ素化ポリイミド(FPI)、フッ素化ポリアミド酸(FPAA)、フッ素化ポリエーテルニトリル(FPEN)等)等が挙げられる。これらの中でも、透明性や耐熱性に優れる観点から、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素化芳香族ポリマーが好ましい。
【0081】
ポリイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にイミド結合を含む重合体であり、例えば、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを縮重合させてポリアミド酸を得て、これを脱水・環化(イミド化)させることにより製造することができる。ポリイミド樹脂としては、芳香族環がイミド結合で連結された芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、三菱ガス化学社製のネオプリム(登録商標)、デュポン社製のカプトン(登録商標)、三井化学社製のオーラム(登録商標)、サンゴバン社製のメルディン(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI3000シリーズ等を用いることができる。
【0082】
ポリアミドイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合とイミド結合を含む重合体である。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のトーロン(登録商標)、東洋紡社製のバイロマックス(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI5000シリーズ等を用いることができる。
【0083】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸またはその誘導体由来の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等の(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する樹脂が好ましく用いられる。(メタ)アクリル系樹脂は主鎖に環構造を有するものも好ましく、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、マレイミド環構造等のカルボニル基含有環構造;オキセタン環構造、アゼチジン環構造、テトラヒドロフラン環構造、ピロリジン環構造、テトラヒドロピラン環構造、ピペリジン環構造等のカルボニル基非含有環構造が挙げられる。なお、カルボニル基含有環構造には、イミド基などのカルボニル基誘導体基を含有する構造も含む。カルボニル基含有環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2004-168882号公報、特開2008-179677号公報、国際公開第2005/54311号、特開2007-31537号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0084】
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有するものであれば特に限定されない。シクロオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプラスチック社製のトパス(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)等を用いることができる。
【0085】
エポキシ樹脂は、エポキシ化合物(プレポリマー)を硬化剤や硬化触媒の存在下で架橋化することで硬化させることができる樹脂である。エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オグソール(登録商標)PG-100)、三菱化学社製のビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)828EL)や水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)YX8000)、ダイセル社製の脂環式液状エポキシ化合物(セロキサイド(登録商標)2021P)等を用いることができる。
【0086】
ポリエステル樹脂は、主鎖の繰り返し単位にエステル結合を含む重合体であり、例えば、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを縮重合させることにより得ることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のOKPシリーズ、帝人社製のTRNシリーズ、テオネックス(登録商標)、デュポン社製のライナイト(登録商標)、三菱化学社製のノバペックス(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のノバデュラン(登録商標)、東レ社製のルミラー(登録商標)、トレコン(登録商標)、ユニチカ社製のエリーテル(登録商標)等を用いることができる。
【0087】
ポリアリレート樹脂は、2価フェノール化合物と2塩基酸(例えば、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸)とを重縮合して得られる重合体であり、主鎖の繰り返し単位に芳香族環とエステル結合とを含む繰り返し単位を有する。ポリアリレート樹脂は、例えば、クラレ社製のベクトラン(登録商標)、ユニチカ社製のUポリマー(登録商標)やユニファイナー(登録商標)等を用いることができる。
【0088】
ポリアミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合を含む重合体であり、例えば、ジアミンとジカルボン酸とを縮重合させることにより得ることができる。ポリアミド樹脂は主鎖に脂肪族骨格を有するものであってもよく、このようなアミド樹脂として、例えばナイロンを用いることができる。ポリアミド樹脂は芳香族骨格を有するものであってもよく、このようなポリアミド樹脂としてアラミド樹脂が知られている。アラミド樹脂は、耐熱性に優れ、強い機械強度を有する点から好ましく用いられ、例えば、帝人社製のトワロン(登録商標)、コーネックス(登録商標)、デュポン社製のケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)等を用いることができる。
【0089】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖の繰り返し単位にカーボネート基(-O-(C=O)-O-)を含む重合体である。ポリカーボネート樹脂としては、帝人社製のパンライト(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチック社製のユーピロン(登録商標)、ノバレックス(登録商標)、ザンター(登録商標)、住化スタイロンポリカーボネート社製のSDポリカ(登録商標)等を用いることができる。
【0090】
ポリスルホン樹脂は、芳香族環とスルホニル基(-SO-)と酸素原子とを含む繰り返し単位を有する重合体である。ポリスルホン樹脂は、例えば、住友化学社製のスミカエクセル(登録商標)PES3600PやPES4100P、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUDEL(登録商標)P-1700等を用いることができる。
【0091】
フッ素化芳香族ポリマーは、1以上のフッ素原子を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合よりなる群から選ばれる少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を有する重合体であり、これらの中でも、1以上のフッ素原子を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須的に含む重合体であることが好ましい。フッ素化芳香族ポリマーは、例えば、特開2008-181121号公報に記載されたものを用いることができる。
【0092】
樹脂成分は透明性が高いことが好ましく、これにより樹脂組成物を光学用途に好適に適用しやすくなる。樹脂成分は、例えば、厚さ0.1mmでの全光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。樹脂成分の前記全光線透過率の上限は特に限定されず、全光線透過率は100%以下であればよいが、例えば95%以下であってもよい。全光線透過率は、JIS K 7105に基づき測定する。
【0093】
樹脂成分はガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましく、これにより、樹脂組成物やこれから得られる各種成形体の耐熱性を高めることができる。樹脂成分のガラス転移温度は、例えば、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。樹脂成分のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、樹脂組成物の成形加工性を確保する点から、例えば380℃以下が好ましい。
【0094】
樹脂組成物は、溶媒を含有するものであってもよい。例えば、樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、溶媒を含むことにより樹脂組成物の塗工が容易になる。溶媒を含有する樹脂組成物は、インク組成物として用いることもできる。
【0095】
溶媒は、樹脂組成物に含まれる各成分を溶解するように機能するものであっても、分散媒として機能するものであってもよいが、本発明のシアニン化合物が溶解するものが好ましい。溶媒としては、上記に説明したシアニン化合物溶液に使用可能な溶媒を使用することができる。
【0096】
溶媒の含有量は、樹脂組成物100質量%中、例えば50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、また100質量%未満が好ましく、95質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量をこのような範囲内に調整することにより、シアニン化合物濃度の高い樹脂組成物を得ることが容易になる。
【0097】
樹脂組成物は表面調整剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に、樹脂層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。表面調整剤としては、例えば、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズや信越化学工業社製のKFシリーズ等を用いることができる。
【0098】
樹脂組成物は分散剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物中でのシアニン化合物の一部が分散状態で存在しても、分散性が安定化され、シアニン化合物の再凝集を抑制することができる。分散剤の種類は特に限定されず、エフカアディティブズ社製のEFKAシリーズ、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズ、日本ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)シリーズ、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)シリーズ、味の素ファインテクノ社製のアジスパー(登録商標)シリーズ、信越化学工業社製のKPシリーズ、共栄社化学社製のポリフローシリーズ、ディーアイシー社製のメガファック(登録商標)シリーズ、サンノプコ社製のディスパーエイドシリーズ等を用いることができる。
【0099】
樹脂組成物は、シランカップリング剤やその加水分解物あるいは加水分解縮合物を含んでいてもよく、これにより樹脂組成物を基板上で硬化させて樹脂層を形成した場合に、樹脂層の基板への密着性を高めることができる。
【0100】
樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0101】
樹脂組成物は、硬化することにより硬化物とすることができる。樹脂組成物は、加熱(軟化)および冷却することによって硬化するものであってもよく、樹脂成分の反応(例えば、重合反応や架橋反応)によって硬化するものであってもよく、樹脂組成物に含まれる溶媒が除去されて硬化するものであってもよい。樹脂組成物としては、例えば、射出成形や押出成形等により成形することができる熱可塑性樹脂組成物や、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等により塗工できるよう塗料化された樹脂組成物を用いることができる。
【0102】
樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合は、当該樹脂組成物を、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等をすることにより硬化物を得ることができる。この方法では、熱可塑性樹脂にシアニン化合物を配合し、加熱成形することにより成形品を得ることができる。例えば、ベース樹脂の粉体またはペレットにシアニン化合物を添加し、150℃~350℃程度に加熱し、溶解させた後、成形するとよい。成形品の形状は特に限定されるものではないが、板状、シート状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。また樹脂を混練する際に、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。
【0103】
樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、シアニン化合物を含む液状またはペースト状の樹脂組成物を、基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工することで、厚さ200μm以下のフィルム状や、厚さ200μm超のシート状の硬化物を得ることができる。このようにして得られた硬化物は、基材から剥離してフィルムやシートとして取り扱うこともできるし、基材と一体化して取り扱うこともできる。
【0104】
樹脂組成物の硬化物は、単一の樹脂層(樹脂組成物が硬化して形成された層)から構成されていてもよく、複数の樹脂層から構成されていてもよい。硬化物が基材と一体化して取り扱われる場合は、硬化物は基材の一方面のみに形成されてもよく、両面に形成されてもよい。なお、硬化物と基材とが一体化したものは、樹脂組成物から形成された成形体を基材と熱圧着したり化学結合することによっても形成することができる。
【0105】
本発明の樹脂組成物は、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途で用いられるフィルター形成用の樹脂組成物として好ましく使用できる。樹脂組成物およびその硬化物は、例えば、近赤外線カットフィルター等の光学フィルターに好適に適用することができる。このようなフィルターは、単一または複数の樹脂層から形成されてもよく、支持体と一体化されて形成されてもよい。
【0106】
支持体と一体化されたフィルターは、例えば、樹脂組成物を、支持体表面(または、支持体と樹脂層との間にバインダー層等の他の層を有する場合は、当該他の層の表面)にスピンコート法や溶媒キャスト法により塗布し、乾燥または硬化することにより形成することができる。また、支持体に対して、樹脂組成物から形成された面状成形体を熱圧着することによりフィルターを形成してもよい。
【0107】
樹脂組成物から形成された樹脂層は、支持体の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、所望の近赤外線カット性能を確保する点から、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、また1mm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。支持体上に塗料化された樹脂組成物を塗工するなどして樹脂層を形成する場合は、支持体によってフィルターの強度を確保することができるため、樹脂層の厚さをさらに薄くすることができる。支持体上に樹脂層を形成する場合の樹脂層の厚さは、例えば、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0108】
支持体としては、樹脂板、樹脂フィルム、ガラス板等の透明基板を用いることが好ましい。支持体に用いられる樹脂板または樹脂フィルムは、例えば、上記に説明した樹脂成分から形成されたものが好ましく用いられる。光学フィルターの耐熱性を高める観点からは、支持体としてガラス基板を用いることが好ましく、このように形成された光学フィルターは、例えば、半田リフローにより電子部品に実装することが可能となる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、樹脂層との密着性を確保しやすくなる。支持体としてガラス基板を用いる場合は、支持体と樹脂層の間に、例えばシランカップリング剤から形成されたバインダー層を設けてもよく、これにより樹脂層とガラス基板との密着性を高めることができる。なお、樹脂層を形成する樹脂組成物に、密着性向上剤としてシランカップリング剤を含めるようにしても、樹脂層とガラス基板との密着性を高めることができる。
【0109】
支持体(基板)の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
【0110】
樹脂組成物から形成された樹脂層には、第2の樹脂層として、当該樹脂層と同一または異なる樹脂から構成された保護層を積層させてもよい。保護層を設けることにより、樹脂層に含まれるシアニン化合物の耐久性(耐分解性)を高めることができる。保護層は、樹脂層の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。樹脂層が支持体上に設けられる場合は、保護層は、樹脂層の支持体とは反対側の面に設けられることが好ましい。
【0111】
本発明の樹脂組成物から光学フィルターを形成する場合、光学フィルターは、蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性や防眩性を有する層(反射防止膜)、傷付き防止性能を有する層、その他の機能を有する透明基材等を有していてもよい。光学フィルターは、近赤外線反射膜や紫外線反射膜を有していてもよい。これらの反射防止膜や反射膜あるいはその他の層は、樹脂層よりも入光側に設けられていることが好ましい。
【0112】
近赤外線反射膜や紫外線反射膜や反射防止膜(可視光反射防止膜)は、誘電体膜から構成することができる。誘電体膜は、通常、高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層した誘電体多層膜として構成されるが、高屈折率材料層と低屈折率材料層の一方のみから構成されてもよい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.7以上2.5以下の材料が選択されることが好ましく、当該屈折率の範囲は1.8以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7未満の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.2~1.6の材料が選択されることが好ましく、1.3~1.5の材料が選択されることがより好ましい。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ、SiOx(x=1~2))、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、高屈折率材料層は酸化チタンから構成されることが好ましく、低屈折率材料層は酸化ケイ素から構成されることが好ましい。
【0113】
高屈折率材料層と低屈折率材料層の各厚みは、遮断しようとする光の波長λ(nm)の0.1λ~0.5λの範囲に調整することが好ましく、0.2λ~0.3λの範囲に調整することがより好ましい。このように誘電体膜を形成することにより、所望の波長域の光を選択的に反射させることができ、誘電体膜によって、近赤外線反射膜、紫外線反射膜、反射防止膜(可視光反射防止膜)等を形成することができる。紫外線反射膜と近赤外線反射膜は、1つで紫外線反射機能と近赤外線反射機能を有するものであってもよい。
【0114】
誘電体膜の層数は1層以上であれば特に限定されないが、近赤外線反射膜、紫外線反射膜、反射防止膜等としての所望の光学性能を発揮させる観点から、例えば2層~80層であることが好ましい。誘電体膜の層数は、5層以上、10層以上または20層以上であってもよく、また70層以下または60層以下であってもよい。誘電体膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01μm~10μmの範囲であればよいが、所望の波長域の光の入射を十分にカットする観点から、0.02μm以上が好ましく、0.03μm以上がさらに好ましく、また薄型化の観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
【0115】
光学フィルターは、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化スズを少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜等を有していてもよい。
【0116】
光学フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光学フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0117】
光学フィルターは、イメージセンサー(撮像素子)、照度センサー、近接センサー等のセンサーの構成部材の一つとして用いることができる。例えばイメージセンサーは、被写体の光を電気信号等に変換して出力する電子部品として用いられ、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等が挙げられる。イメージセンサーは、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いることができる。センサーは、上記の光学フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他のフィルター(例えば、可視光線カットフィルター、赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター等)やレンズを有していてもよい。
【実施例0118】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0119】
(1)化合物の合成
(1-1)合成例1:シアニン化合物1の合成
原料シアニン化合物として3-ブチル-2-(2-[3-[2-(3-ブチル-1,1-ジメチル-1,3-ジヒドロベンゾ[e]インドール-2-イリデン)エチリデン]-2-クロロ-シクロヘキサ-1-エニル]ビニル)-1,1-ジメチル-1H-ベンゾ[e]インドリウム ヘキサフルオロホスフェート(Few Chemicals社製、S0712、表1に示す比較シアニン化合物1)を用い、当該原料シアニン化合物50.0mg(0.06mmоl)をアセトン5gに溶解させ、ここに40℃に加熱した10.5%テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム水溶液0.45g(0.07mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。次いで、溶媒を留去し、得られた固体をイオン交換水で洗浄し、再結晶(溶媒:クロロホルム、メタノール)させることで、シアニン化合物1を73.5mg得た(収率:86.1%)。
【0120】
(1-2)合成例2:シアニン化合物2の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として6-ブトキシ-2-[5-(6-ブトキシ-1-ブチル-1H-ベンゾ[cd]インドール-2-イリデン)-ペンタ-1,3-ジエニル]-1-ブチル-ベンゾ[cd]インドリウム テトラフルオロボレート(Few Chemicals社製、S2437、表1に示す比較シアニン化合物2)を用いたこと以外は、合成例1と同様にしてシアニン化合物2を85.0mg得た(収率:89.8%)。
【0121】
(1-3)合成例3:比較シアニン化合物3の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として1-ブチル-2-[5-(1-ブチル-1H-ベンゾ[cd]インドール-2-イリデン)-ペンタ-1,3-ジエニル]-ベンゾ[cd]インドリウム テトラフルオロボレート(Few Chemicals社製、S0772、表1に示す比較シアニン化合物5)を用い、10.5%テトラキステトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム水溶液を0.64g(0.10mmol)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、比較シアニン化合物3を38.0mg得た(収率:37.3%)。
【0122】
(1-4)合成例4:比較シアニン化合物4の合成
原料シアニン化合物として3,3’-ジエチルチアトリカルボシアニンヨーダイド(東京化成工業社製、表1に示す比較シアニン化合物6)を用い、当該原料シアニン化合物40.0mg(0.07mmоl)をアセトン4gに溶解させ、ここに40℃に加熱した10.5%テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム水溶液0.54g(0.08mmol)を加え、室温で10分間撹拌した。次いで、イオン交換水を加え、得られた固体をイオン交換水で洗浄および真空乾燥し、再結晶(溶媒:アセトン、水)させることで、比較シアニン化合物4を66.4mg得た(収率:82.0%)。
【0123】
(1-5)合成例5:比較シアニン化合物7の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として1-ブチル-2-(2-[3-[2-(1-ブチル-1H-ベンゾ[cd]インドール-2-イリデン)-エチリデン]-2-フェニル-シクロペンタ-1-エニル]-ビニル)-ベンゾ[cd]インドリウム テトラフルオロボレート(Few Chemicals社製、S0813)を2g用いたこと以外は、合成例1と同様にして比較シアニン化合物7を3.4g得た(収率92.0%)。
【0124】
(1-6)合成例6:比較シアニン化合物8の合成
合成例1において、原料シアニン化合物として1-ブチル-2-(2-[3-[2-(1-ブチル-1H-ベンゾ[cd]インドール-2-イリデン)-エチリデン]-2-クロロ-シクロヘキサ-1-エニル]-ビニル)-ベンゾ[cd]インドリウム テトラフルオロボレート(Exciton社製、IR1014)を2g用いたこと以外は、合成例1と同様にして比較シアニン化合物8を3.5g得た(収率93.1%)。
【0125】
(1-7)合成例7:近赤外線吸収色素Aの合成
特開2016-74649号公報の実施例1-18に記載の方法に従い、表2に示す近赤外線吸収色素Aを合成した。
【0126】
(1-8)合成例8:近赤外線吸収色素Bの合成
特開2020-132699号公報の合成例2に従い、表2に示す近赤外線吸収色素Bを合成した。
【0127】
(1-9)合成例9:紫外線吸収色素Aの合成
200mLの4口フラスコに、4-フルオロベンズアルデヒド4.98g(0.039mol)、エチレングリコールビス(2-メルカプトエチル)エーテル3.57g(0.020mol)、炭酸カリウム10.86g(0.079mol)、アセトニトリル74gを仕込み、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながら60℃で12時間反応させた。反応終了後、減圧ろ過によって不溶分をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた濃縮物を200mLの4口フラスコに入れ、そこにシアノ酢酸イソブチル11.09g(0.079mol)、ピペリジン3.32g(0.039mol)、メタノール68gを加え、還流条件下で4時間反応させた。反応終了後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)により精製を行い、表2に示す紫外線吸収色素Aを得た。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
(2)シアニン化合物溶液の調製
(2-1)溶解性
10mLガラス製サンプル瓶に入れたトルエンに、表1に示したシアニン化合物1~2、比較シアニン化合物1~8を所定量加えて、25℃で撹拌した。シアニン化合物は、濃度が0.1質量%または0.5質量%となるようにトルエンに加え、得られた溶液の不溶分(濁り)の有無を目視にて確認した。濃度0.1質量%で不溶分が認められたときの評価をCとし、濃度0.1質量%で不溶分が認められず濃度0.5質量%で不溶分が認められたときの評価をBとし、濃度0.5質量%で不溶分が認められなかったときの評価をAとした。結果を表3に示す。なお、比較シアニン化合物1はFew Chemicals社から入手した品番S0712のシアニン化合物であり、比較シアニン化合物2はFew Chemicals社から入手した品番S2437のシアニン化合物であり、比較シアニン化合物5はFew Chemicals社から入手した品番S0772のシアニン化合物であり、比較シアニン化合物6は東京化成工業社から入手した製品コードD4773のシアニン化合物である。シアニン化合物1~2は、トルエンに対して高い溶解性を示した。
【0131】
(2-2)分光測定
シアニン化合物1~2、比較シアニン化合物1~8のトルエン溶液を調製し、波長300nm~1100nmにおける吸収スペクトルを測定した。シアニン化合物のトルエン溶液は、吸収極大波長における透過率が10%(±0.05%)となるように濃度を調整し、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて、測定ピッチ1nmで光線透過率を測定し、波長300nm~1100nmの範囲で吸収が最大となる波長(吸収極大波長λmax)を求めた。結果を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
(3)樹脂積層基板の作製
(3-1)ポリアリレート樹脂の合成
撹拌翼を備えた容量2Lの反応容器に、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10.0g(0.044モル)、水酸化ナトリウム3.6g(0.090mol)、イオン交換水300gを仕込み、溶解させた後、そこにトリエチルアミン0.89g(0.009mol)を加えて溶解させた。テレフタル酸ジクロリド3.6g(0.021mol)とイソフタル酸ジクロリド3.6g(0.021mol)を500gの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下漏斗に入れ、これを前記反応容器に取り付けた。反応容器中の溶液を20℃に保ちながら撹拌し、滴下漏斗から塩化メチレン溶液を60分間かけて滴下した。さらにそこに、塩化ベンゾイル0.71g(0.005mol)を10gの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加し、60分間撹拌した。得られた反応液に酢酸水溶液を加えて中和して、水相のpHを7にしてから分液漏斗を用いて油相と水相を分離した。得られた油相を、撹拌下、メタノールに滴下してポリマーを再沈させ、沈殿をろ過により回収し、80℃オーブンで乾燥して白色固体のポリアリレート樹脂を得た。収量は11.5gであった。得られたポリアリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)は33,780、数平均分子量(Mn)は8,130であった。ポリアリレート樹脂の重量平均分子量と数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めたポリスチレン換算の値である。
【0134】
(3-2)製造例1:樹脂積層基板1の作製
トルエン89.8質量部に、ポリアリレート樹脂を10質量部とシアニン化合物1を0.2質量部加え、40℃の湯浴中、1時間混合した。得られた混合液を孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過し、樹脂組成物1を得た。樹脂組成物1を、ガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用いてガラス基板上に樹脂組成物1を成膜した。樹脂組成物1を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて190℃の窒素雰囲気下で1時間乾燥させることにより、ガラス基板上に樹脂層を形成した樹脂積層基板1を得た。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは約2μmであった。なお、樹脂層の厚みは、樹脂層を形成したガラス基板の厚みとガラス基板単独の厚みをそれぞれマイクロメーターにより測定し、両者の差から求めた。
【0135】
(3-3)製造例2:樹脂積層基板2の作製
製造例1において、シアニン化合物1の代わりにシアニン化合物2を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂積層基板2を作製した。
【0136】
(3-4)製造例3:樹脂積層基板3の作製
トルエン277質量部と1,2,4-トリメチルベンゼン593質量部の混合溶媒にポリアリレート樹脂を99質量部加え、そこに近赤外線吸収色素Aを6.2質量部、近赤外線吸収色素Bを2.5質量部、紫外線吸収色素Aを11質量部、シアニン化合物1を1.3質量部、シアニン化合物2を0.4質量部加え、40℃で1時間撹拌した。次いで、さらにそこに表面調整剤としてビックケミー社製BYK-310(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を0.30質量部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン剤(ダウ・東レ社製、OFS-6040)の加水分解反応を進行させて調製したシラン加水分解物イソプロパノール溶液(OFS-6040濃度40%)を10質量部加え、25℃で均一に混合した。これを孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、樹脂組成物3を得た。樹脂組成物3を、ガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用いてガラス基板上に樹脂組成物3を成膜した。樹脂組成物3を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて190℃の窒素雰囲気下で1時間乾燥させることにより、ガラス基板上に樹脂層を形成した樹脂積層基板3を得た。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは約2μmであった。
【0137】
(3-5)製造例4:樹脂積層基板4の作製
シクロヘキサノン45.2質量部と4-メチルテトラヒドロピラン45.2質量部の混合溶液に、ポリアリレート樹脂を6.5質量部、シアニン化合物2を1質量部、比較シアニン化合物7を1質量部加え、40℃の湯浴中、1時間混合した。得られた混合液を孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過し、樹脂組成物4を得た。樹脂組成物4を、ガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に2cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用いてガラス基板上に樹脂組成物4を成膜した。樹脂組成物4を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて190℃の窒素雰囲気下で1時間乾燥させることにより、ガラス基板上に樹脂層を形成した樹脂積層基板4を得た。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは約2μmであった。
【0138】
(3-6)製造例5:樹脂積層基板5の作製
製造例4において、比較シアニン化合物7の代わりに比較シアニン化合物8を用いたこと以外は、製造例4と同様にして樹脂積層基板5を作製した。
【0139】
(3-7)分光測定
各樹脂積層基板について、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm~1100nmにおける光の透過率を求めた。結果を図1図5に示す。
【0140】
樹脂積層基板1は、シアニン化合物1に由来して839nmに吸収極大を有する吸収ピークを示し、樹脂積層基板2は、シアニン化合物2に由来して953nmに吸収極大を有する吸収ピークを示した。樹脂積層基板3は、シアニン化合物1,2に由来する吸収ピークを示すとともに、近赤外線吸収色素A,Bに由来する吸収ピークを示し、波長700nm~750nmの範囲の光の透過率が3%以下となった。樹脂積層基板3はさらに、紫外線吸収色素Aに由来して368nmに吸収極大を有する吸収ピークを示した。樹脂積層基板4は、シアニン化合物2と比較シアニン化合物7に由来して900nm~1100nmの広い波長範囲にわたる吸収ピークを示した。樹脂積層基板5は、シアニン化合物2と比較シアニン化合物8に由来して900nm~1080nmの広い波長範囲にわたる吸収ピークを示した。
【0141】
(4)光学フィルターの作製
(4-1)反射防止膜の蒸着
樹脂積層基板3の樹脂層側に蒸着法により反射防止膜(AR膜)を積層(TiO膜とSiO膜を交互に5層積層)することにより、光学フィルター1を作製した。
【0142】
(4-2)分光測定
樹脂積層基板3と光学フィルター1に対し、分光光度計(島津製作所社製、UV-1800)を用いて透過スペクトルを測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm~1100nmにおける光の透過率を求めた。結果を図6に示す。図6では、「AR蒸着前」が樹脂積層基板3の透過スペクトルの測定結果を表し、「AR蒸着後」が光学フィルター1の透過スペクトルの測定結果を表す。光学フィルター1は、反射防止膜の蒸着後においても、樹脂積層基板3の近赤外線領域の吸収を維持し、また樹脂積層基板3と比べて高い可視光透過性を有していた。光学フィルター1は、高温高湿試験後も透過スペクトルの変化や外観や密着性の変化がなく、高い耐久性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明のシアニン化合物は、例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の電子部品や、セキュリティインク等に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6