(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072273
(43)【公開日】2024-05-27
(54)【発明の名称】需要抑制計画作成システム、需給調整システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240520BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192917
(22)【出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2022182424
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100217364
【弁理士】
【氏名又は名称】田端 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100216770
【弁理士】
【氏名又は名称】三品 明生
(72)【発明者】
【氏名】大澤 泰嗣
(72)【発明者】
【氏名】望月 ▲祥▼平
(72)【発明者】
【氏名】坪根 永
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】アグリゲータによる供給力の提供を容易にする需要抑制計画作成システム、需給調整システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】需要抑制計画作成システム1は、需要抑制の発動指令を受信する通信部13と、需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報を記憶する記憶部11と、需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する演算処理部12と、を備える。演算処理部12は、通信部13が発動指令を受信したことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように需要抑制計画を作成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要抑制の発動指令を受信する通信部と、
需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報を記憶する記憶部と、
前記需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する演算処理部と、を備え、
前記演算処理部は、前記通信部が前記発動指令を受信したことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように前記需要抑制計画を作成する、需要抑制計画作成システム。
【請求項2】
前記通信部は、前記演算処理部が作成した前記需要抑制計画を、当該需要抑制計画を受理する機関に送信する、請求項1に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項3】
前記需要家が需要を抑制しなかった場合を推定した需要をベースラインといい、
前記演算処理部が、前記ベースラインである第1ベースラインに基づいて前記需要抑制計画を作成し、
提供すべき供給力であるリクワイアメントの充足性の判定が、前記ベースラインである第2ベースラインに基づいて行われ、
前記演算処理部が前記第1ベースラインを算出するために参照する前記需要実績情報が、前記第2ベースラインを算出するために参照される前記需要実績情報と少なくとも一部が共通する、請求項1に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項4】
前記演算処理部が、前記第1ベースラインを算出する際に、前記需要抑制計画を作成する時点で前記記憶部が記憶している前記需要実績情報のうち、前記第2ベースラインを算出するために参照される前記需要実績情報と共通する部分の全部を参照する、請求項3に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項5】
前記第2ベースラインが、前記発動指令が発令された当日よりも前の日における前記需要実績情報に基づいて算出される調整前需要に、前記当日における需要抑制前の第1時間帯の前記需要実績情報を参照して算出される第1調整値による調整を経て算出されるものであって、
前記演算処理部が前記需要抑制計画を作成する時点で、前記記憶部が前記当日における前記第1時間帯における前記需要実績情報の少なくとも一部を記憶していない場合、
前記演算処理部は、前記記憶部が記憶している前記当日の第2時間帯の前記需要実績情報を参照して算出される第2調整値により前記調整前需要を調整することで前記第1ベースラインを算出する、請求項3または4に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項6】
前記第1時間帯と前記第2時間帯の長さが同一である、請求項5に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項7】
需給調整指令を受信する通信部と、
需給調整を要請する候補である需要家の需給実績の情報である需給実績情報を記憶する記憶部と、
前記需給実績情報に基づいて、前記需要家に対して需給の調整を指示する需給調整指示を作成する演算処理部と、を備え、
前記演算処理部は、前記通信部が前記需給調整指令を受信したことをトリガとして前記需給調整指示を作成し、前記通信部は、当該需給調整指示を前記需要家に送信する、需給調整システム。
【請求項8】
前記演算処理部は、前記需給調整指令が指定した期間内における前記需要家の需給実績である応動結果を作成し、
前記通信部は、前記演算処理部が作成した前記応動結果を、当該応動結果を受理する機関に送信する、請求項7に記載の需要抑制計画作成システム。
【請求項9】
需要抑制の発動指令を受け付ける処理と、
前記発動指令を受け付けたことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように、需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する処理と、
をコンピュータに実行させる、プログラム。
【請求項10】
需給調整指令を受け付ける処理と、
前記需給調整指令を受け付けたことをトリガとして、需要家に対して需給の調整を指示する需給調整指示を作成し、当該需給調整指示を前記需要家に対して送信する処理と、
をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要抑制計画を作成する需要抑制計画作成システム、需給調整システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力需給の逼迫を抑制するために、電力を消費する需要家に対して、需要の抑制(例えば、デマンドレスポンスとよばれる、負荷の消費電力量の低減、発電装置による発電量の増加または蓄電装置による放電量の増加などによる需要の低減のほか、消費する電力量よりも供給する電力量が大きくなり系統に電力を供給する逆潮流も含む。以下同じ。)が行われている。このような需要の抑制は、例えば、需給の逼迫が予測される場合において、一般送配電事業者等の要請に応じて、需要家が需要を抑制し、その見返りに報酬を得るという形式で実施される。
【0003】
また、需要の抑制は、アグリゲータが、電力会社等と需要家との間を仲介し、電力会社等に代わって需要家に対して要請する形式でも実施され得る。特に、諸外国と同様に日本でも将来の供給力(需要の抑制により系統にもたらされる電力量の余裕。以下同じ。)の提供を取引する容量市場が開始され、2024年から供給力の提供が開始される予定である。容量市場において将来の供給力を落札したアグリゲータは、落札した期間内に発動指令を受け取ると、約束した供給力を提供するために需要家に需要の抑制を要請し、約束した供給力を提供した見返りに報酬を得る。
【0004】
発動指令を受けたアグリゲータは、需要家の需要を抑制する計画である需要抑制計画を作成して提出しなければならないが、発動指令は予告なく発令されるため準備不足に陥り易い。そこで、特許文献1では、所定の基礎データに基づいて、発動指令の発令を予測するデマンドレスポンス発動予測システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されているデマンドレスポンス発動予測システムでは、発動指令の発令を予測することは可能であるが、発動指令の発令が予測される場合、当該システムのユーザである事業者が、発令に備えた態勢で待機する必要がある。特に、事業者の営業時間外や非営業日に発動指令の発令が予測される場合は、そのために事業者は人員を確保しなければならず、費用や労力が相当程度必要になる。そうすると、容量市場に対する魅力が薄れて参加する事業者が少なくなり、ひいては将来の供給力を確保するという容量市場を設けた目的が達成されなくなってしまう。
【0007】
さらに、例えば需給調整市場などの容量市場よりも早い対応が要求される市場に調整力を提供しようとする場合には、発令に対応する人員の費用や労力という容量市場と同様の問題のほか、発令に対して迅速に対応しなければならないという別の問題もある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、アグリゲータによる供給力の提供を容易にする需要抑制計画作成システム、アグリゲータによる調整力の提供を容易にする需給調整システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、以下に開示する需要抑制計画作成システムは、需要抑制の発動指令を受信する通信部と、需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報を記憶する記憶部と、前記需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する演算処理部と、を備え、前記演算処理部は、前記通信部が前記発動指令を受信したことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように前記需要抑制計画を作成する。
【0010】
また、上記の目的を達成するために、以下に開示する需給調整システムは、需給調整指令を受信する通信部と、需給調整を要請する候補である需要家の需給実績の情報である需給実績情報を記憶する記憶部と、前記需給実績情報に基づいて、前記需要家に対して需給の調整を指示する需給調整指示を作成する演算処理部と、を備え、前記演算処理部は、前記通信部が前記需給調整指令を受信したことをトリガとして前記需給調整指示を作成し、前記通信部は、当該需給調整指示を前記需要家に送信する。
【発明の効果】
【0011】
上記の需要抑制計画作成システムによれば、発動指令の受信をトリガとして、演算処理部が需要抑制計画を自動的に作成する。これにより、需要抑制計画の作成のために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができる。したがって、アグリゲータによる供給力の提供を容易にすることができる。
【0012】
また、上記の需給調整システムによれば、需給調整指令の受信をトリガとして、演算処理部が需給調整指示を自動的に作成し、通信部が当該需給調整指示を自動的に送信する。これにより、需給調整指令に対応するために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができるほか、需給調整指令に対して迅速に対応することができる。したがって、アグリゲータによる調整力の提供を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、アグリゲータ101が供給力を提供する仕組みを示した概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る需要抑制計画作成システム1の構成の一例について示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ベースライン及び供給力の計算方法について説明するための需要のグラフである。
【
図4】
図4は、ベースライン及び供給力の計算方法について説明するための需要のグラフである。
【
図5】
図5は、アグリゲータ101が調整力を提供する仕組みを示した概念図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る需給調整システム1Aの構成の一例について示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。また、以下の説明において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、実施形態および変形例に記載された各構成は、適宜組み合わされてもよいし、変更されてもよい。また、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、構成の一部が省略されたりしている。
【0015】
<需要抑制計画作成システム>
最初に、容量市場で供給力を落札したアグリゲータが供給力を提供する仕組みについて、図面を参照して説明する。
図1は、アグリゲータ101が供給力を提供する仕組みを示した概念図である。
【0016】
図1に示すアグリゲータ101は、容量市場において、将来のある期間における供給力を落札する。これにより、アグリゲータ101は、当該期間において、容量市場を運営する電力広域的運営推進機関(
図1及び以下において「広域機関」という。)から発動指令を受けた場合、当該発動指令に応じて供給力を提供する義務を負う。
【0017】
また、アグリゲータ101は、1または複数の需要家103との間で、アグリゲータの要請に応じて需要の抑制に応じる内容の契約を締結する。アグリゲータ101は、発動指令を受けた場合、上記の契約に基づいて需要家103に対して需要の抑制を要請し、需要家103による需要の抑制をもって、広域機関に対して供給力を提供する義務を履行する。
【0018】
なお、
図1及び上記の説明では、容量市場の運営及び発動指令を発令する主体がともに広域機関であるとしたが、例えば、広域機関から発令の委託を受けた一般送配電事業者や、卸電力取引所の価格高騰を起因とした小売電気事業者など、広域機関とは別の機関がこれらの主体になってもよい。また、容量市場の運営及び発動指令を発令するそれぞれの主体が異なっていてもよい。
【0019】
次に、本発明の実施形態に係る需要抑制計画作成システムの構成の一例について、図面を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る需要抑制計画作成システム1の構成の一例について示すブロック図である。
【0020】
図1に示すように、需要抑制計画作成システム1は、記憶部11と、演算処理部12と、通信部13とを備える。記憶部11は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶装置や、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記憶装置で構成される。演算処理部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算処理装置で構成される。通信部13は、例えばインターネット等のネットワークに接続するためのルータなどの通信機器で構成される。例えば、記憶部11及び演算処理部12は、パソコンまたはサーバコンピュータの一部として構成される。なお、記憶部11は、複数の記憶装置で構成されてもよく、例えば不揮発性の記憶装置と揮発性の記憶装置を組み合わせて構成されてもよい。また、記憶部11及び演算処理部12の一部が、他の部分から離れた場所に設置されているサーバ等の一部として構成され、通信部13やその他の通信機器を介して情報のやり取りを行うものであってもよい。
【0021】
記憶部11は、需要家103の需要の実績(過去の需要の履歴)の情報である需要実績情報と、需要家103が抑制可能な需要に関する情報である需要家情報と、を記憶する。需要実績情報は、定期的または不定期的に通信部13を介して需要抑制計画作成システム1に入力され、記憶部11に記憶される。需要家情報は、例えばアグリゲータ101と需要家103との契約内容に基づいて決定される情報であり、需要家が抑制可能な需要の大きさ及び時間帯などの情報が含まれる。また、記憶部11は、演算処理部12が需要抑制計画を作成するために必要なその他の情報(例えば、需要抑制計画作成のためのプログラムなど)も記憶している。
【0022】
演算処理部12は、通信部13が発動指令を受信したことをトリガとして、記憶部11が記憶する需要実績情報や需要家情報に基づいて、需要抑制計画を作成する。例えば、演算処理部12は、発動指令によって要請される供給力を需要家103に割り当てることによって、発動指令の定める条件を充足する需要抑制計画を作成する。最も単純な割当方法は、全ての需要家103に対して、提供すべき供給力を均等に割り当てるものであるが、それぞれの需要家103が抑制可能な需要の大きさに応じた重みをつけて割り当ててもよいし、抑制可能な需要が大きく余裕のある需要家103や、需要抑制の要請に対して応じる可能性が高い需要家103を優先的に選択して割り当ててもよい。なお、演算処理部12による需要家103への供給力の割当方法はどのようなものであってもよく、公知の割り当て方法を採用可能である。
【0023】
通信部13は、広域機関が発令する発動指令を受け付けるとともに、演算処理部12が作成した需要抑制計画を広域機関に提出する。なお、通信部13において、発動指令を受信する部分と、需要抑制計画を送信する部分とが、異なる通信機器で構成されてもよい。
【0024】
演算処理部12は、発動指令によって提供を要請された供給力を、需要家103に対して割り当てることによって需要抑制計画を作成するが、このときに、需要家103が提供する供給力の大きさを計算するために、需要の抑制を要請する需要家103ごとにベースラインとよばれる需要の基準値が必要になる。以下、ベースライン及び供給力の計算方法について説明する。
【0025】
図3及び
図4は、ベースライン及び供給力の計算方法について説明するための需要のグラフである。
図3及び
図4は、ある需要家103における1日の需要をグラフで示したものであり、
図3は需要家103が需要を抑制しなかった場合の需要であり、
図4は需要家103が需要を抑制した場合の需要である。なお、
図3及び
図4における発動時間帯とは、発動指令によって供給力を提供するように要請された時間帯である。
【0026】
図4に示すように、需要家103が提供した供給力の大きさは、需要家103が発動時間帯において供給力を提供しなかった場合の需要と、実際の需要家103の需要との差分として計算される。ただし、現実に需要家103が需要を抑制した場合、
図3に示すような需要家103が需要を抑制しなかった場合のグラフは得られない。そこで、
図4に示すように、需要を抑制しなかった(供給力を提供しなかった)場合における需要の大きさを推定し、この推定された需要であるベースラインBLと実際の需要との差分を、提供された供給力の大きさとして算出する。
【0027】
ベースラインの算出方法には様々な方法があるが、例えば、容量市場で落札された提供すべき供給力(以下、「リクワイアメント」という。)の充足性を判定する際には、供給力の提供が平日である場合、「High 4 of 5」という算出方法が用いられる。この方法では、供給力を提供する当日(以下「当日」という。)よりも前の平日かつ需要抑制を行わなかった日のうち直近の5日間について、発動時間帯における30分単位のコマ毎の平均需要量が大きい4日間が採用される。ただし、平均需要量の最小値が複数ある場合は、当日から最も遠い1日を除外する。また、直近の5日間の中に、発動時間帯における需要量が、当該5日間の総平均の25%未満となる日がある場合、当該日は除外してさらに前の日を追加して直近の5日間が構成される。なお、供給力を提供する当日より前の30日間を探索した結果、上記の条件に合致する日が4日間しかなければ、その4日間が採用され、4日未満であれば、当該30日以内で発動時間帯の平均需要量が最大となる日を追加して構成した4日間が採用される。そして、採用された4日間について、30分単位のコマ毎の平均需要量を算出する(以下、「調整前需要」という。)
【0028】
次に、発動時間帯よりも前である所定の時間帯(例えば、発動時間帯の5時間前から2時間前までの30分単位の6コマ)について、当日の需要から調整前需要を減算し、その差分の平均値を算出する(以下「調整値」という。)そして、調整前需要における発動時間帯の各コマに、調整値をそれぞれ加算することで、ベースラインが算出される。なお、算出されたベースラインのうちマイナスになるコマについては、例えばゼロに補正される。なお、上記の算出方法は、供給力の提供が平日の場合であるが、休日(土曜日、日曜日、祝日)の場合も同様の方法で計算される。ただし、休日は平日よりも少ないため、上記説明における直近の5日間を3日間に、採用される4日間を2日間に変更した、「High 2 of 3」にてベースラインが算出される。なお、上述したリクワイアメントの充足性を判定するためのベースラインの算出方法は一例に過ぎず、当該ベースラインは、「High 4 of 5」や「High 2 of 3」以外の方法で算出されてもよいし、「High 4 of 5」または「High 2 of 3」で算出するとしても上記とは異なる条件(例えば、上記とは異なる時間帯から調整値を算出するなど)で算出されてもよい。
【0029】
ところで、算出される供給力の大きさは、基準であるベースラインによって変動するため、適正な方法でベースラインを算出する必要がある。特に、演算処理部12が需要抑制計画を作成するために算出するベースラインと、リクワイアメントの充足性を判定するために算出されるベースラインとが異なると、需要抑制計画において想定されている供給力の大きさと、実際に需要家103が提供したとされる供給力との間に差が生じ、アグリゲータ101に対してリクワイアメントを充足していないとしてペナルティが課されることもあり得る。
【0030】
演算処理部12が採用するベースラインの算出方法として、最も好ましいのは、リクワイアメントの充足性を判定する際のベースラインの算出方法と同じ方法である。しかし、演算処理部12が需要抑制計画を作成する時点において、リクワイアメントの充足性を判定する際のベースラインの算出方法と同じ方法でベースラインを算出するために必要な情報の全てが記憶部11に記憶されているとは限らない。これは、演算処理部12による需要抑制計画を作成するタイミングが発動時間帯よりも前であるのに対し、リクワイアメントの充足性の判定が発動時間帯よりも後であるため、それぞれのタイミングにおいて記憶部11に記憶されている需要実績情報が異なることに起因している。
【0031】
そこで、演算処理部12は、需要抑制計画を作成する際に、その時点で記憶部11が記憶する需要実績情報のうち、リクワイアメントの充足性を判定するベースラインを算出するために参照される需要実績情報と共通する部分を参照する。これにより、演算処理部12が算出するベースラインと、リクワイアメントの充足性を判定する際に用いられるベースラインとが、共通の需要実績情報に基づいて算出されるため、両者のベースラインを近づけることが可能になる。
【0032】
さらに、演算処理部12がベースラインを算出する際に、需要抑制計画を作成する時点で記憶部11が記憶している需要実績情報のうち、リクワイアメントの充足性を判定するためのベースラインを算出するために参照される需要実績情報と共通する部分の全部を参照すると、好ましい。この場合、演算処理部12がベースラインを算出する際に参照する需要実績情報と、リクワイアメントの充足性を判定する際に用いられるベースラインを算出する際に参照される需要実績情報との共通部分を最大化することができるため、両者のベースラインをより好適に近づけることが可能になる。
【0033】
また、上記のとおり、リクワイアメントの充足性を判定する際に用いられるベースラインは、当日よりも前の日の需要に基づいて算出される調整前需要に、当日の所定時間帯(例えば、発動時間帯の5時間前から2時間前まで)における需要実績情報に基づく調整値による調整を経て算出される。演算処理部12が需要抑制計画を作成する時点において、当日よりも前の日の需要については、通信のトラブル等がない限りは記憶部11に記憶されている可能性が高いが、当日の当該所定時間帯における需要については記憶部11に記憶されていない可能性がある。そこで、演算処理部12は、リクワイアメントの充足性を判定する際に用いられるベースラインの算出方法と同様に調整前需要を算出し、記憶部11が当日の当該所定時間帯における需要実績情報を記憶していなければ、記憶部11が記憶している当日の別時間帯(例えば、発動時間帯の6時間前から3時間前まで)における需要実績情報に基づく調整値により調整前需要を調整してベースラインを算出する。この場合、演算処理部12が算出するベースラインと、リクワイアメントの充足性を判定する際に用いられるベースラインとにおいて、調整値による調整前の調整前需要が共通するため、両者のベースラインを好適に近づけることが可能になる。
【0034】
さらにこの場合、上記の所定時間帯と別時間帯とは、異なるとしても重複部分が大きいほど好ましい。また、上記の所定時間帯と別時間帯の長さが同一であると、イレギュラーな需要による影響の大きさも同程度になり、最終的に両者のベースラインを近づけることが可能になるため、好ましい。
【0035】
以上のように、本発明の実施形態に係る需要抑制計画作成システム1は、発動指令の受信をトリガとして、演算処理部12が需要抑制計画を自動的に作成する。これにより、需要抑制計画の作成のために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができる。したがって、アグリゲータ101による供給力の提供を容易にすることができる。
【0036】
さらに、演算処理部12が、発動指令の受信をトリガとして需要抑制計画を作成し、通信部13が、作成された需要抑制計画を広域機関などの受理する機関に提出すると、需要抑制計画を自動的に作成して提出することができるため、さらに費用や労力を削減するとともに、提出の失敗や遅れを防止することができる。
【0037】
また、需要抑制計画作成システム1では、需要抑制計画における供給力を計算するためのベースラインを算出する際に、リクワイアメントの充足性を判定する際に算出するベースラインに近づけた方法を採用する。そのため、作成された需要抑制計画に従って供給力を提供した際に、アグリゲータ101に対してペナルティを課され難くくすることができる。したがって、アグリゲータ101が容量市場へ参加し易くなり、ひいては国全体として供給力を確保し易くなり、需給の逼迫を緩和することが可能になる。
【0038】
以上、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0039】
例えば、上述の実施形態では、演算処理部12が、発動指令の受信をトリガとして需要抑制計画を作成する際に、上記の算出方法でベースラインを算出するとしたが、発動指令の受信をトリガとしない場合(自動的に需要抑制計画を作成しない場合)であっても、需要抑制計画を作成する際に上記の算出方法でベースラインが算出されるように構成してもよい。この場合も、アグリゲータ101に対してペナルティを課され難くくすることができる。
【0040】
また、通信部13が、需要抑制計画を、広域機関などのこれを受理する機関だけではなく、事前に設定したメールアドレス等に送信するように構成してもよい。このように構成すると、提出された需要抑制計画が好ましくないものであった場合に、迅速に訂正することが可能になる。
【0041】
<需給調整システム>
これまで、容量市場を対象として、自動的に需要抑制計画を作成する需要抑制計画作成システムについて説明したが、上記のシステムは、例えば需給調整市場などの応動時間が短い市場を対象として、需要家(または需要家が管理する機器、もしくは複数の需要家をまとめた需要家群)の需給を調整して調整力を提供する需給調整システムとして利用することも可能である。以下、この場合について
図5及び
図6を参照して説明する。なお、需給調整システムが調整する「需給」とは、需要家の需要のみであってもよいし、供給(発電)のみであってもよいし、両方の組み合わせであってもよい。
【0042】
図5は、アグリゲータ101が調整力を提供する仕組みを示した概念図である。
図5に示すように、例えば需給調整市場に調整力を提供する場合、アグリゲータ101は、一般送配電事業者から需給調整指令を受信すると、需要家103に対して需給の調整(発電や需要の抑制など)を指示する需給調整指示を出す。また、アグリゲータ101は、応動期間中における需要家103の需給実績である応動結果を一般送配電事業者104に送信する。
【0043】
図6は、本発明の実施形態に係る需給調整システム1Aの構成の一例について示すブロック図である。
図6に示すように、需給調整システム1Aも、
図2に示した需要抑制計画作成システム1と同様に、記憶部11A、演算処理部12A及び通信部13Aを備える。ただし、演算処理部12Aは、通信部13Aが需給調整指令を受信したことをトリガとして、需給調整指示を作成する。この需給調整指示は、需要家103における特定の機器(電力を消費する機器や、発電装置や蓄電装置などの電力を供給する機器)を自動的に制御する信号であってもよいし、需要家103に対して需給の調整を指示する信号であってもよい。通信部13Aは、この需給調整指示を需要家103に対して送信する。
【0044】
具体的に、記憶部11Aは、需要家103の需給の実績(過去の需給の履歴)の情報である需給実績情報と、需要家103が調整可能な需給に関する情報である需要家情報と、を記憶する。
図2に示した需要抑制計画作成システム1と同様に、需給調整システム1Aにおいても、演算処理部12Aが、記憶部11Aが記憶している需要家の需給実績情報に基づいて、需給調整指示を作成する。このとき、演算処理部12Aは、需給実績情報に基づいて、上述したベースライと同様にアグリゲータ101が提供した調整力を算出するための基準となる基準値計画を作成する。そして、演算処理部12Aは、この基準値計画に基づいて、需給調整指令の定める条件を充足するように需給調整指示を作成し、通信部13Aが当該需給調整指示を需要家103に対して送信する。
【0045】
また、演算処理部12Aは、需給調整指令が指定した期間内における需要家103の需給実績である応動結果を作成する。通信部13Aは、この応動結果を一般送配電事業者104に対して送信する。
【0046】
このように、需給調整システム1Aが、需給調整指示を需要家103に対して自動的に送信することで、需給調整市場などの応動時間が短い市場であっても、需給調整指令に対応することができる。特に、需給調整システム1Aでは、需給調整指令に対応するために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができるほか、需給調整指令に対して迅速に対応することができる。したがって、アグリゲータ101による調整力の提供を容易にすることができる。また、需要抑制計画作成システム1Aが、一般送配電事業者104に対して自動的に応動結果を送信することで、費用や労力を削減することができるほか、確実に応動結果を送信することができる。
【0047】
<変形等>
上記の需要抑制計画作成システム1の実施形態では、アグリゲータ101が容量市場に供給力を提供する場合を想定したが、容量市場以外の市場に供給力を提供してもよいし、需要抑制計画を受理する機関が広域機関102以外の機関であってもよい。また、上記の需給調整システム1Aの実施形態では、アグリゲータ101が需給調整市場に調整力を提供する場合を想定したが、需給調整市場以外の市場に調整力を提供してもよいし、応動結果を受理する機関が一般送配電事業者104以外の機関であってもよい。
【0048】
また、上述した需要抑制計画作成システム及び需給調整システムは、以下のように説明することができる。
【0049】
需要抑制計画作成システムは、需要抑制の発動指令を受信する通信部と、需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報を記憶する記憶部と、前記需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する演算処理部と、を備え、前記演算処理部は、前記通信部が前記発動指令を受信したことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように前記需要抑制計画を作成する(第1の構成)。この構成によれば、需要抑制計画の作成のために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができる。したがって、アグリゲータによる供給力の提供を容易にすることができる。
【0050】
第1の構成において、前記通信部は、前記演算処理部が作成した前記需要抑制計画を、当該需要抑制計画を受理する機関に送信してもよい(第2の構成)。この構成によれば、作成された需要抑制計画を自動的に提出することができるため、さらに費用や労力を削減することができるとともに、提出の失敗や遅れを防止することができる。
【0051】
また、第1または第2の構成において、前記需要家が需要を抑制しなかった場合を推定した需要をベースラインといい、前記演算処理部が、前記ベースラインである第1ベースラインに基づいて前記需要抑制計画を作成し、提供すべき供給力であるリクワイアメントの充足性の判定が、前記ベースラインである第2ベースラインに基づいて行われ、前記演算処理部が前記第1ベースラインを算出するために参照する前記需要実績情報が、前記第2ベースラインを算出するために参照される前記需要実績情報と少なくとも一部が共通するようにしてもよい(第3の構成)。この構成によれば、第1ベースラインと第2ベースラインとが、共通の需要実績情報に基づいて算出されるため、両者のベースラインを近づけることが可能になる。
【0052】
また、第3の構成において、前記演算処理部が、前記第1ベースラインを算出する際に、前記需要抑制計画を作成する時点で前記記憶部が記憶している前記需要実績情報のうち、前記第2ベースラインを算出するために参照される前記需要実績情報と共通する部分の全部を参照してもよい(第4の構成)。この構成によれば、演算処理部が第1ベースラインを算出する際に参照する需要実績情報と、第2ベースラインを算出する際に参照される需要実績情報との共通部分を最大化することができるため、両者のベースラインをより好適に近づけることが可能になる。
【0053】
また、第3または第4の構成において、前記第2ベースラインが、前記発動指令が発令された当日よりも前の日における前記需要実績情報に基づいて算出される調整前需要に、前記当日における需要抑制前の第1時間帯の前記需要実績情報を参照して算出される第1調整値による調整を経て算出されるものであって、前記演算処理部が前記需要抑制計画を作成する時点で、前記記憶部が前記当日における前記第1時間帯における前記需要実績情報の少なくとも一部を記憶していない場合、前記演算処理部は、前記記憶部が記憶している前記当日の第2時間帯の前記需要実績情報を参照して算出される第2調整値により前記調整前需要を調整することで前記第1ベースラインを算出してもよい(第5の構成)。この構成によれば、第1ベースラインと第2ベースラインとにおいて、調整値による調整前の調整前需要が共通するため、両者のベースラインを好適に近づけることが可能になる。
【0054】
また、第5の構成において、前記第1時間帯と前記第2時間帯の長さが同一であってもよい(第6の構成)。この構成によれば、第1ベースラインと第2ベースラインとにおいて、イレギュラーな需要による影響の大きさも同程度になり、最終的に両者のベースラインを近づけることが可能になる。
【0055】
需給調整指令を受信する通信部と、需給調整を要請する候補である需要家の需給実績の情報である需給実績情報を記憶する記憶部と、前記需給実績情報に基づいて、前記需要家に対して需給の調整を指示する需給調整指示を作成する演算処理部と、を備え、前記演算処理部は、前記通信部が前記需給調整指令を受信したことをトリガとして前記需給調整指示を作成し、前記通信部は、当該需給調整指示を前記需要家に送信する(第7の構成)。この構成によれば、需給調整指令に対応するために人員を確保する必要がなくなるため、費用や労力を削減することができるほか、需給調整指令に対して迅速に対応することができる。したがって、アグリゲータによる調整力の提供を容易にすることができる。
【0056】
また、第7の構成において、前記演算処理部は、前記需給調整指令が指定した期間内における前記需要家の需給実績である応動結果を作成し、前記通信部は、前記演算処理部が作成した前記応動結果を、当該応動結果を受理する機関に送信してもよい(第8の構成)。この構成によれば、応動結果を自動的に送信することができるため、費用や労力を削減することができるほか、確実に応動結果を送信することができる。
【0057】
また、上述した需要抑制計画作成システムで利用されるプログラムは、需要抑制の発動指令を受け付ける処理と、前記発動指令を受け付けたことをトリガとして、当該発動指令の定める条件を充足するように、需要抑制を要請する候補である需要家の需要実績の情報である需要実績情報に基づいて需要抑制計画を作成する処理と、をコンピュータに実行させる(第9の構成)。
【0058】
また、上述した需給調整システムで利用されるプログラムは、需給調整指令を受け付ける処理と、前記需給調整指令を受け付けたことをトリガとして、需要家に対して需給の調整を指示する需給調整指示を作成し、当該需給調整指示を前記需要家に対して送信する処理と、をコンピュータに実行させる(第10の構成)。
【符号の説明】
【0059】
1,1A…需要抑制計画作成システム、11,11A…記憶部、12,12A…演算処理部、13,13A…通信部、101…アグリゲータ、102…広域機関、103…需要家、104…一般送配電事業者、BL…ベースライン