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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072303
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】スラグの蒸気エージング方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20240521BHJP
   B09B 3/45 20220101ALI20240521BHJP
【FI】
C04B5/00 C
B09B3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182992
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
(72)【発明者】
【氏名】曹 寧源
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004BA01
4D004CA22
4D004CB02
4D004CB36
4D004CC02
4D004DA06
4G112JD03
4G112JE01
4G112JE02
(57)【要約】
【課題】処理槽内にスラグ層を積み付けて水蒸気を供給する蒸気エージング方法において、積み付け高さをある程度にまで高くしても、処理ムラがなく原単位の改善も可能なスラグの蒸気エージング方法を提供する。
【解決手段】スラグを処理槽1内に積み付けてスラグ層Aとし、このスラグ層A内に蒸気を供給する蒸気エージング方法において、スラグ層Aの複数箇所の温度分布に基づいて易通気箇所を判定し、該易通気箇所の上面に、追加層Bを布置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグを処理槽内に積み付けてスラグ層Aとし、このスラグ層A内に蒸気を供給する蒸気エージング方法において、
前記スラグ層Aの複数箇所の温度分布に基づいて易通気箇所を判定し、該易通気箇所の上面に、追加層Bを布置することを特徴とするスラグの蒸気エージング方法。
【請求項2】
前記追加層Bが、前記スラグ層Aよりも通気抵抗が大きい層であることを特徴とする請求項1に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項3】
前記追加層Bが、前記スラグ層Aを構成するスラグよりも平均粒径が小さい細粒スラグからなることを特徴とする請求項2に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項4】
前記細粒スラグは、篩目1.18~5.6mmのいずれかで篩った篩下を用いることおよび/または前記追加層Bの厚さが0.1~0.3mであることを特徴とする請求項3に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項5】
前記スラグ層Aを構成するスラグは平均粒径が15~40mmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項6】
前記スラグ層Aは、製鋼スラグからなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項7】
前記スラグ層Aは、製鋼スラグからなることを特徴とする請求項5に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項8】
前記温度分布に代えてあるいはさらに噴気分布としたことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項9】
前記温度分布に代えてあるいはさらに噴気分布としたことを特徴とする請求項5に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項10】
前記温度分布に代えてあるいはさらに噴気分布としたことを特徴とする請求項6に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【請求項11】
前記温度分布に代えてあるいはさらに噴気分布としたことを特徴とする請求項7に記載のスラグの蒸気エージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグの膨張を抑制して安定化させるためのスラグの蒸気エージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおける転炉などから発生する多量の鉄鋼スラグ(以下、単にスラグともいう)を利材化することは重要な課題の一つである。スラグは固い石質であることから、道路などの路盤材や骨材などとして利用されているが、なかでも製鋼スラグは特に遊離石灰(フリーライム)を含むことから、雨水などの水分と反応して膨張することが問題となる。製鋼スラグを道路用に用いる場合、所定の膨張特性(水浸膨張比で1.0%以下)を満たすことが規定されており(非特許文献1参照)、このため製鋼スラグは、使用前に遊離石灰を水分と反応させておく工程、すなわちエージング処理が必要である。なお、水浸膨張比の測定は、非特許文献1の付属書Bに準じている。
【0003】
製鋼スラグを効率的にエージング処理する方法として、水蒸気を用いて高温で水との反応を促進する方法、すなわち蒸気エージング法が広く知られている。
【0004】
蒸気エージングに関して、例えば、特許文献1には、側面と底面で囲われた容器内に製鋼スラグを収納し、この製鋼スラグ中に埋設されたノズルから水蒸気を送気して高温で急速に水分と反応させる方法が開示されている。また、特許文献2には、容器内に収納した製鋼スラグの表面を複数の区画に分割し、各区画で製鋼スラグ表面の温度推移を計測し、温度推移に基づき蒸気流量の分布を推定し、推定蒸気流量に基づき各区画毎に蒸気流量を制御する方法が開示されている。また、特許文献3には、所定の粒径に破砕された製鋼スラグを圧力容器に装入し、この圧力容器内で所定の条件で加圧蒸気エージングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-260842号公報
【特許文献2】WO2020-209174号公報
【特許文献3】特開平8-165151号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS A5015:2018「道路用鉄鋼スラグ」
【非特許文献2】Ergun,S.:Chem.Eng.Frog.,48,89(1952)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される方法では、スラグ層内で蒸気流れのばらつきが発生しやすく、これがエージングの処理のばらつき(処理ムラ)の原因となる。近年、1ピット当り数1000トンの多量の製鋼スラグを限られたエリアでエージング処理するため、蒸気エージングにおけるスラグ積み付け高さがある程度にまで(例えば3m程度にまで)高くなる傾向にある。スラグ積み付け高さが高くなるほどスラグ層内での蒸気流れのばらつきとこれに伴うエージングの処理ムラが発生しやすくなっている。
【0008】
この問題は、製鋼スラグの積み付け状態が不均一であることにも由来するが、スラグ自体の性状や積み付け作業上の制約から、製鋼スラグの積み付け状態を均一にすることは事実上困難である。特許文献1では、前述の処理ムラの発生をなくすことについては考慮されていない。
【0009】
一方、特許文献2では、スラグを収容し水蒸気を吹込む容器である処理槽内に積み付けたスラグの表面を複数の区画に分割し、分割した区画毎に計測した温度に基づき吹込む蒸気量を制御することが提案されている。温度の上昇が遅延している箇所は、積み付け状態等により圧力損失が高くそもそも蒸気が通りにくい箇所であるから、蒸気量を増やしても通りにくい箇所であることには変わりなく、周囲の圧力損失が低い箇所に蒸気が流れることになり、必ずしも蒸気が十分に効率的に利用されるとは言えない。
【0010】
特許文献3に示される方法では、前述の処理ムラの発生は抑制できる。しかし、この方法では加圧容器を用いた処理(加圧蒸気エージング処理)であるため装置が大規模となり、また、圧力管理や搬送ハンドリング、設備のメンテナンスなどの煩雑な工程が必要となる。
【0011】
そこで、本発明は、処理槽内にスラグ層を積み付けて水蒸気を供給する蒸気エージング方法において、積み付け高さをある程度にまで高くしても、処理ムラがなく原単位の改善も可能なスラグの蒸気エージング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
(ア)前述のとおり、積み付けられたスラグ層内に水蒸気を供給する蒸気エージングにおいて、スラグの積み付け状態を均一にすることは事実上困難であり、場所による温度のばらつきが発生する。
(イ)このように処理毎にランダムに発生する温度のばらつきは、スラグ層内の通気抵抗のばらつきと密接に関係し、通気抵抗の小さい箇所は水蒸気が通り易くて温度上昇が先行すると考えられる。
(ウ)そこで、これを防ぐために前記スラグ層の複数個所の温度分布および/または噴気分布に基づいて易通気箇所を判定し、該易通気箇所の上面に追加層を布置することが有効である。ここで、易通気箇所とは、前記スラグ層において、前記追加層を布置する前の水蒸気の通り易い箇所を意味する。また、前記スラグ層において前記易通気箇所以外の箇所を非易通気箇所という。前記追加層は、前記易通気箇所の通気抵抗を高めるための層である。
(エ)これにより、易通気箇所の通気量が低減し、一方、非易通気箇所の通気量が相対的に増加する。その結果、異箇所間で蒸気エージングの進行度が均等化し、処理ムラが低減する。
【0013】
本発明は、前述の知見に基づき、さらに検討を加えてなされたもので、その要旨構成は以下の通りである。
[1] スラグを処理槽内に積み付けてスラグ層Aとし、このスラグ層A内に蒸気を供給する蒸気エージング方法において、
前記スラグ層Aの複数箇所の温度分布に基づいて易通気箇所を判定し、該易通気箇所の上面に、追加層Bを布置することを特徴とするスラグの蒸気エージング方法。
[2] 前記追加層Bが、前記スラグ層Aよりも通気抵抗が大きい層であることを特徴とする前記[1]に記載のスラグの蒸気エージング方法。
[3] 前記追加層Bが、前記スラグ層Aを構成するスラグよりも平均粒径が小さい細粒スラグからなることを特徴とする前記[2]に記載のスラグの蒸気エージング方法。
[4] 前記細粒スラグは、篩目1.18~5.6mmのいずれかで篩った篩下を用いることを特徴とする前記[3]に記載のスラグの蒸気エージング方法。
[5] 前記追加層Bの厚さが0.1~0.3mであることを特徴とする前記[3]または[4]に記載のスラグの蒸気エージング方法。
[6] 前記スラグ層Aを構成するスラグは平均粒径が15~40mmであることを特徴とする前記[1]~[5]のいずれか一つに記載のスラグの蒸気エージング方法。
[7] 前記スラグ層Aは、製鋼スラグからなることを特徴とする前記[1]~[6]のいずれか一つに記載のスラグの蒸気エージング方法。
[8] 前記温度分布に代えてあるいはさらに噴気分布としたことを特徴とする前記[1]~[7]のいずれか一つに記載のスラグの蒸気エージング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理槽内にスラグ層を積み付けて水蒸気を供給する蒸気エージング方法において、積み付け高さを高くしても、処理ムラのない安定的な蒸気エージング処理が可能となる。蒸気エージング処理の進行度が異箇所間で均等化するため、非易通気箇所に対する処理時間の延長や蒸気吹込み量の増加の必要がない分、原単位の改善が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の一例を模式的に示す追加層B布置後の処理槽の縦断面図において、(a)はスラグ層Aおよび追加層Bを示す説明図、(b)は追加層Bの布置によるスラグ層A内での水蒸気の流れを示す説明図である。
図2】スラグ層Aの複数個所の温度分布を取得するための熱電対の設置形態の一例を示す平面図である。
図3】追加層Bを布置しない蒸気エージング処理進行下で、図2のa-x1~a-x5の箇所の熱電対による温度履歴の一例を示す図である。
図4】追加層Bを布置しない蒸気エージング処理進行下で、スラグ層Aの上面温度をサーモカメラにて経時的に計測した温度分布を色の濃淡で示す概念図である。
図5】製鋼スラグを篩分けした際の篩下のスラグであって、乾燥状態のスラグについて、篩目(スラグの粒径)とスラグの単位通気長さ当たりの圧力損失との関係の一例を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態の一例を模式的に示す追加層B布置前の処理槽の縦断面図において、(a)はスラグ層Aを示す説明図、(b)はスラグ層A内での水蒸気の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図6(a)に例示するように、本発明は、スラグを処理槽1内に積み付けてスラグ層Aとし、このスラグ層A内に蒸気を供給する蒸気エージング方法を前提とする。
【0018】
本発明は、前記前提下で、スラグ層Aの複数箇所の温度分布に基づいて易通気箇所を判定し、該易通気箇所の上面に、図1(a)に例示するように、追加層Bを布置することを特徴とする。
【0019】
[処理槽]
処理槽1(処理ピットと称される場合もある)は、スラグ層Aを積み付ける処理槽底部である養生床とこれを囲む少なくとも2面の側壁(スラグ保持壁)で構成される。養生床は、スラグ層A内に水蒸気を下方から供給する蒸気管(図示せず)を具備し、蒸気吹込み部2となっている。処理槽1の大きさは、養生床の面積が250~1000m2、側壁の高さが1~3mとされる。スラグ層Aの積み付け高さは1~3mとされる。スラグ処理量当たりの蒸気使用量は0.04~0.4(t蒸気/tスラグ処理)である。
【0020】
[スラグ層Aとするスラグ]
処理槽1に積み付けるスラグとしては道路用鉄鋼スラグが挙げられる。鉄鋼スラグは高炉スラグと製鋼スラグに大別されるが、なかでも製鋼スラグはフリーライムを含有するため蒸気エージングによる水浸膨張比の低減効果が大きい。したがって、本発明において前記スラグ層Aは製鋼スラグの層であることが、この効果を有効に得るために好ましい(本発明の[7])。
前記製鋼スラグの種類に制限はなく、例えば、脱燐スラグ、脱硫スラグ、転炉脱炭スラグ、脱珪スラグ、電気炉スラグなどの1種以上を対象とすることができる。
【0021】
[スラグ層Aの易通気箇所]
一般に粒径分布を持つ製鋼スラグを処理槽1内に積み付けると、スラグ層Aには粒径偏析により、細粒の割合が高くて圧力損失が高い部分と粗粒の割合が高くて圧力損失が低い部分が発生する。蒸気吹き込み部2から吹き込まれた水蒸気は、圧力損失の低い部分を優先的に流れて水蒸気の「通り道」が形成され、一度形成された「通り道」は粒子の再配置が起こらなければ変更され難い。その結果、追加層Bの布置前のスラグ層Aにおいて、図6(b)に例示されるように、易通気箇所(太線矢印で水蒸気の流れを示す)と非易通気箇所(細線矢印で水蒸気の流れを示す)ができ、蒸気エージングの処理ムラが発生することになる。図6の例では、横方向の中央部に粗粒割合の高い易通気箇所が偏在し、両端部に細粒割合の高い非易通気箇所が偏在している。
【0022】
[温度分布]
前記易通気箇所は、非易通気箇所に比べて最高到達温度(ほぼ100℃)に達するまでの時間が短くなる。したがって、スラグ層A内の複数個所の温度分布の情報に基づいて、温度上昇が先行している箇所、すなわち温度上昇が遅延している箇所を除いた箇所を易通気箇所と判定できる。
【0023】
温度分布は、熱電対またはサーモカメラを用いて、追加層Bを布置する前の蒸気エージング処理進行下でスラグ層Aの複数個所の温度監視(温度を時間と共に計測すること)により検出できる。この温度監視には、熱電対またはサーモカメラを用いることができる。
【0024】
(a)熱電対の使用
熱電対を用いる場合のスラグ層の内部の温度分布の検出方法について以下説明する。例えば図6に示されるように熱電対3はスラグ層Aの内部の複数個所に設置され温度監視に用いられる。複数個所の熱電対3の設置高さ(熱電対の検温点の養生床からの高さ)は、同一時刻に同一平面内での温度分布を取得するため、同じ高さとすることが好ましい。熱電対3の設置高さは、スラグ層Aの積み付け高さに対する比である「比高さ」が0.6以上となるようにすることが好ましい。前記比高さが0.6未満では箇所間での温度上昇の遅速の判別が困難である。なお、図6(b)では前記比高さを約0.7としている。
【0025】
また、温度分布を取得する複数箇所の熱電対の隣接間隔は、スラグ層Aの積み付け高さに対する比である「比間隔」が0.2~2.0の範囲となるようにすることが好ましい。前記比間隔が0.2未満では熱電対の隣接間隔が狭すぎて、易通気箇所の1個当たりの熱電対の個数が過多となる場合がある。また、前記比間隔が2.0超では熱電対の隣接間隔が広すぎて、易通気箇所の判定の信頼性を損なう場合がある。
【0026】
図2は、熱電対の設置形態の一例を示しており、スラグ層Aの処理面積(上面の面積)がx(m)×y(m)で、x座標x1~x5上の縦線とy座標a~f上の横線の交点(a-x1などと記す。計30点)を熱電対の設置箇所としている。例えばスラグ層Aの積み付け高さが3mである場合、熱電対の隣接間隔の好適範囲は3mの0.2倍~2.0倍の0.6m~6mとなる。
【0027】
また、図3は、追加層Bを布置しない蒸気エージング処理進行下で、図2のa-x1~a-x5(計5点)の箇所の熱電対による温度履歴の一例を示している。図3に示されるように、スラグ層Aの場所によって100℃に達する時間が半日~1日という単位で変動することがある。図3の例では、処理開始から約12~24時間経過時点の温度履歴に基づいてa-x1、a-x2、a-x5の箇所が易通気箇所であると判定できる。
【0028】
(b)サーモカメラの使用
サーモカメラを用いる場合のスラグ層の上面の温度分布の検出方法について説明する。サーモカメラの画素に対応した点数の測定データが得られる。画素分の測定データをそのまま取得してもよいし、画素間を補完した連続値として取得しても良いし、補完したデータを適宜複数の区画に再分割しても良い。
【0029】
図4は、追加層Bを布置しない蒸気エージング処理進行下で、スラグ層Aの上面温度をサーモカメラにて監視して取得した温度分布の一例を色の濃淡で示している。スラグ層Aの積み付け状態は、図2の例と同様である。スラグ層Aの上面をx方向に5分割、y方向に6分割して30個の矩形の区画に区分し、各矩形内の最高温度を前記温度分布に係る温度としている。図4の例では、処理開始から約12~24時間経過時点で、異区画間で濃淡が識別でき、濃色の区画の箇所を易通気箇所として判定できる。このように、サーモカメラを用いる場合でも、熱電対を用いる場合と同様、複数箇所の温度分布に基づいて易通気箇所の判定が可能である。したがって、スラグ層Aの場所による蒸気エージング処理の進行度の違いを把握できる。
【0030】
[スラグ層の噴気分布]
本発明では、前記温度分布の情報の取得に代えてあるいはさらに噴気分布の情報を取得することによって易通気箇所を判定してもよい(本発明の[8])。ここで、噴気分布とは、スラグ層Aの上面における水蒸気の噴出箇所である噴気箇所の分布を意味する。噴気箇所は目視で判別でき、偏在している噴気箇所は易通気箇所に相当すると考えられ、これを易通気箇所と判定できる。噴気箇所の偏在は、追加層Bの布置前の蒸気エージング処理進行下で、スラグ層Aの上面を所定の時間おきに(例えば1~8時間おきに)目視観察することで確認できる。この噴気分布情報を取得する方法は、前述の温度分布による方法と併用または単独で用いることができる。
【0031】
[追加層B]
図1(a)に例示されるように、追加層Bは、前記温度分布または前記噴気分布に基づいて判定された前記易通気箇所の上面に布置される。これにより、前記易通気箇所の圧力損失を増加させて前記非易通気箇所の圧力損失とバランスさせ、処理ムラの発生を抑制できる。図1(a)は、図6(a)において判定された易通気箇所(水蒸気の流れが太線矢印で示される)の上面に追加層Bを布置した状態を例示している。また図1(b)は、追加層Bの布置により易通気箇所の通気抵抗が増加して圧力損失が増加し、その結果、易通気箇所の水蒸気が非易通気箇所側へ偏流し、非易通気箇所の蒸気エージングを促進している状態(太線矢印で示される)を例示している。これにより、易通気箇所と非易通気箇所とで蒸気エージングの進行度が均等化する。
【0032】
本発明では、従来の蒸気エージング処理の操業における、蒸気エージングの進行の遅い箇所での蒸気使用量の増量や進行の速い箇所での保持時間の無用な延長は必要なく、原単位の改善が可能である。
【0033】
追加層Bは、スラグ層Aの易通気箇所の圧力損失を増加させるため、スラグ層Aよりも通気抵抗が大きい層であることが好ましい(本発明の[2])。スラグ層Aよりも通気抵抗が大きい追加層Bとしては、スラグ層Aを構成するスラグよりも平均粒径が小さい細粒スラグからなる層すなわち細粒スラグ層が挙げられる(本発明の[3])。図1(a)の例では追加層Bは細粒スラグ層である。ここで、平均粒径とは、篩下積算分布の値が50%になる粒子径すなわちD50(メジアン径)と定義する。
【0034】
[細粒スラグの好ましい粒径]
前記細粒スラグは、篩目1.18~5.6mmのいずれかで篩った篩下を用いることが好ましい(本発明の[4])。篩目が1.18mm未満では、圧力損失が大きすぎて追加層Bのエージングが不十分になり、5.6mm超では、スラグ層Aとの圧力損失の差が不十分な場合がある。
【0035】
前記細粒スラグ層(からなる追加層B)の厚さは、0.1~0.3mとすることが好ましい(本発明の[5])。この厚さが0.1m未満では、易通気箇所の通気抵抗を高める(圧力損失を増加させる)効果が不十分な場合があり、一方、0.3m超では、圧力損失が大きすぎて追加層Bのエージング不足が生じる。
【0036】
なお、以下の説明(実施例を含む)において、スラグの粒径(平均粒径ではない)について単に「‥‥mm以下」という場合には、その数値の篩目の篩下となる粒径を有することを意味する。また、後述するように「‥‥mm超」という場合には、その数値の篩目の篩上となる粒径を意味する。
【0037】
粉粒体中を気体が透過する際の圧力損失については、Ergun式(非特許文献2参照)が良く知られている。この式によれば、粉粒体の粒径が単一(粒径分布がない粒揃いの状態)であれば粒径が小さい粉粒体ほど圧力損失が増加する。一般には扱う粉粒体には粒径分布があり、粒径分布が変わるとErgun式の比表面積と空間率がともに変化するため通気抵抗が変化する。粉粒体を構成する粒子の粒径に幅があれば、細粒の存在比率が増加し、比表面積が増加するとともに、粗粒間に細粒が入り込んで、空間率が減少するため、圧力損失は増加する。
【0038】
非特許文献1で規定されている各粒度規格の製鋼スラグのサンプルについて、篩分けを行い、篩下のサンプルについて圧力損失を測定した。円筒容器内に充填した粒子層に空気を流入させ、フローメーターで流量を測定しつつ所定値になるように調整し、圧力計で圧力損失を測定した。篩下のサンプルに対する圧力損失の測定結果の一例を図5に示す。図5に示されるように、サンプルの粒径が細かくなるにつれ粒子層で圧力損失が上昇するが、篩目5mm付近でその上昇傾向が大きくなり、篩目1mm付近で急激に上昇することがわかった。
【0039】
追加層Bとして粒径が5mm以下の細粒スラグ層があれば、そこでは蒸気は自由に流れることができず大きな圧力損失が生じるため、圧力損失が高い追加層Bとして利用することができる。
【0040】
前記細粒スラグには、エージング対象のスラグを分級して得られた細粒スラグを用いることができるが、これに限定されるものではなく、別に用意された細粒スラグを用いてもよい。すなわち、エージング対象のスラグを毎回分級し、その細粒スラグを使用すると処理コストが嵩むなどの事情がある場合には、エージング対象のスラグを分級することなくスラグ層Aを構成し、予め別に用意された細粒スラグで追加層Bを構成してもよい。
【0041】
また、追加層Bにエージング対象のスラグを分級して得られた細粒スラグを用いる場合、対象のスラグに含まれる所定粒径の細粒スラグ(例えば、篩目5.6mm以下の篩下スラグ)の全部を用いてもよく、また、一部を用い、残りは対象のスラグに留め置いてもよい。
【0042】
なお、追加層Bとしては、前述の細粒スラグ層に限らず、例えば、目の細かいフィルターシートや多孔質体など圧力損失を増加させる物質であれば適用できる。このような物質はスラグ層Aの上面に布置するため、形状追従性のよい柔軟な素材が良い。蒸気エージング処理後に回収する物質であれば、蒸気が当たるため120℃程度の耐熱性を有することが望ましい。例えば水蒸気透過度の低いビニールシートが利用できる。あるいは蒸気エージング処理後に回収不要な物質でも良い。追加層Bとした細粒スラグ層以外の物質は、処理が終了した後は、一定時間経過後に除去される。
【0043】
[追加層Bの布置の方法]
前記易通気箇所を判定し追加層Bを布置するタイミングは、処理槽1の仕様、スラグ層Aの積み付け高さなどによって適宜選択すればよく、特に限定されない。図3の例では、処理開始から12時間経過時点で易通気箇所の判定が可能であり、判定でき次第、布置を実行すればよい。また、易通気箇所の温度上昇の程度によって、通気抵抗に差を設けてもよい。例えば、追加層Bとしての細粒スラグ層の平均粒径や厚さを変更してもよい。
【0044】
追加層Bを布置する作業は、ショベルカーの他、移動式ベルトコンベア、ガントリー型、チェーンブロック式、アーム型のクレーンやロボットを用いて実施することができる。
【0045】
[スラグ層Aのスラグ]
スラグ層Aを構成するスラグは特に限定されないが、道路用として需要が多く、また、追加層Bよりも平均粒径が大きいスラグが好ましい。かかるスラグとして、例えば、平均粒径が15~40mmのスラグが挙げられる(本発明の[6])。
【0046】
スラグ層の積み付け高さは1~3mが好ましい。積み付け高さが1m未満では積み付け回数が無用に増加し、処理効率が低下する場合がある。積み付け高さが3m超では処理ムラの抑制が困難となる場合がある。
【実施例0047】
37.5mmアンダー品に破砕したCS-40粒度規格(非特許文献1参照)の製鋼脱炭スラグをエージング対象の供試材とした。その粒径分布を表1に示す。この供試材(スラグ層A)の平均粒径(メジアン)は19mmである。底部(養生床)に複数本の蒸気配管が配置された蒸気エージング用の処理槽1(処理量:約2800t)に製鋼スラグ(転炉脱炭スラグ)を層厚さ(積み付け高さ)約3mで積み付けた。この積み付けたベッド(スラグ層A、上面の面積:24m×20m)に対して蒸気エージング処理を5日間実施した。
【0048】
本発明例において、易通気箇所の判定は、スラグ層Aの複数個所に設置した熱電対3の温度監視により取得した温度分布に基づいて行った。熱電対3の配置は図2において、x=20m、y=24mとして、約4m間隔とした。
【0049】
比較例として処理の途中で追加層Bを布置しない操業を実施したところ、a-x1~a-x5の熱電対温度について、図3に示す温度履歴が得られた。a-x3およびa-x4においてスラグ層Aの圧力損失が高く蒸気の通りが良くないことが予想される。他のb~fの箇所においても部分的に昇温が遅れる箇所が発生した。
【0050】
本発明例としてa~fの全30点の温度履歴を監視し取得した温度分布に基づいて、蒸気エージング処理開始から12時間経過時点で60℃を超えている箇所を易通気箇所と判定した。この易通気箇所の上面に5mm以下の細粒製鋼スラグ0.1m厚を追加層Bとして布置した。この追加層Bの平均粒径は2.36mmである。この布置作業は、移動式ベルトコンベアを用いて行った。
【0051】
表2にa~fの全30点について、98℃に達した時間を比較した結果を示す。平均値をみると本発明例の方が比較例よりも良好であるが、両者の差は1時間程度であった。しかし98℃に達した時間の最大値を比較すると、比較例の31.5時間に対し、本発明例では26時間であり、5時間の差があった。
【0052】
比較例では、従来と同様、蒸気エージングの未処理を防ぐために、エージング処理の進行が遅延する箇所に合わせて処理時間や蒸気量を設定している。したがって、本発明例よりは昇温に要する時間の最大値の差分だけ、処理効率や蒸気原単位が悪くなっている。すなわち、本発明によれば、従来と比べて、処理効率や蒸気原単位が改善することがわかる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
なお、本発明例、比較例とも、処理後に非特許文献1の付属書Bに準じて水浸膨張比を測定し、合格(1.0%以下)であることを確認している。
【符号の説明】
【0056】
1 処理槽
2 蒸気吹き込み部
3 熱電対
A スラグ層
B 追加層
図1
図2
図3
図4
図5
図6