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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072308
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20240521BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183005
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】平木 亨典
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC23
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DC08
3D232DD17
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB12
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CD53
3D333CE21
(57)【要約】
【課題】フィルタ回路を構成するコンデンサをチャージする時間を短縮してデジタル信号の誤差を小さくする。
【解決手段】信号処理装置400は、アナログ信号の所定周波数成分を低減させる第1のコンデンサC1を有するフィルタ回路420、これを通過したアナログ信号をサンプルホールドする第2のコンデンサC2を有するサンプルホールド回路440、この出力信号をデジタル信号に変換するAD変換回路460、第2のコンデンサC2に複数の所定電圧の中から選択された1つの所定電圧を印加可能である電圧印加回路480、及び制御パラメータに応じて第2のコンデンサC2に印加可能な複数の所定電圧の中から1つの所定電圧を選択して第2のコンデンサC2に印加してチャージした後、サンプルホールド回路440にフィルタ回路420を通過したアナログ信号をサンプリングさせるように構成されたプロセッサ222Aと、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号の所定周波数成分を低減させる、第1のコンデンサを有するフィルタ回路と、
前記フィルタ回路を通過したアナログ信号をサンプルホールドする、第2のコンデンサを有するサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換回路と、
前記第2のコンデンサに対して複数の所定電圧の中から選択された1つの所定電圧を印加可能である電圧印加回路と、
制御パラメータに応じて前記第2のコンデンサに印加可能な複数の所定電圧の中から1つの所定電圧を選択し、前記電圧印加回路を制御して前記所定電圧を前記第2のコンデンサに印加してチャージした後、前記サンプルホールド回路に前記フィルタ回路を通過したアナログ信号をサンプリングさせるように構成された制御部と、
を有する、信号処理装置。
【請求項2】
前記電圧印加回路は、0Vから前記AD変換回路の基準電圧までの範囲にある少なくとも2つの所定電圧を印加可能である、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記アナログ信号は、電動モータの駆動電流検出信号である、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御パラメータに対応する電圧に最も近い所定電圧を選択する、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記制御パラメータは、電動パワーステアリングシステムの操舵角又は操舵トルクに関するパラメータである、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記サンプルホールド回路は、サンプルモードとホールドモードとを切り替える切替スイッチを含み、
前記電圧印加回路は、前記切替スイッチと並列に接続された複数のスイッチを含み、当該スイッチのそれぞれが前記所定電圧を出力電圧とする電源と接続された、
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ信号をデジタル信号に変換して処理する信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-194193号公報(特許文献1)には、互いに直交するように配置された少なくとも1対のホール素子の出力信号により表現されるベクトルを用いて、ホール素子の磁界に対する相対的な回転角度を求めることで、モータの回転角度を検出する角度検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-194193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホール素子などで構成される回転角センサが出力する正弦波信号をデジタル信号に変換して処理するため、正弦波信号から高周波成分を除去するフィルタ回路と、フィルタ回路を通過した信号をサンプルホールドするサンプルホールド回路と、サンプルホールド回路の出力信号をAD変換するAD変換回路と、を有する信号処理装置が使用される場合がある。このような信号処理装置において、フィルタ回路を構成するコンデンサの容量を小さくすることで、信号の位相遅れが小さくなり、これによって、高速回転状態でのモータの回転角度を検出できるようになる。
【0005】
しかしながら、フィルタ回路のコンデンサの容量を小さくした場合、サンプルホールド回路が0Vをサンプリングした後、要するに、サンプルホールド回路を構成するコンデンサの電荷を空にした後に、回転角センサの出力信号をサンプリングすると、フィルタ回路のコンデンサとサンプルホールド回路のコンデンサとで電荷をチャージシェアすることになる。このため、フィルタ回路のコンデンサのチャージ時間が長くなり、フィルタ回路の出力電圧がチャージ時間だけ遅れて入力電圧に到達することになる。そして、フィルタ回路のコンデンサへのチャージ中、要するに、フィルタ回路の出力電圧が入力電圧まで到達していないときに、サンプルホールド回路が入力電圧をサンプリングすると、AD変換して得られるデジタル信号の誤差が大きくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、フィルタ回路を構成するコンデンサをチャージする時間を短縮してデジタル信号の誤差を小さくすることができる、信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
信号処理装置は、アナログ信号の所定周波数成分を低減させる、第1のコンデンサを有するフィルタ回路と、フィルタ回路を通過したアナログ信号をサンプルホールドする、第2のコンデンサを有するサンプルホールド回路と、サンプルホールド回路の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換回路と、第2のコンデンサに対して複数の所定電圧の中から選択された1つの所定電圧を印加可能である電圧印加回路と、制御パラメータに応じて第2のコンデンサに印加可能な複数の所定電圧の中から1つの所定電圧を選択し、電圧印加回路を制御して所定電圧を第2のコンデンサに印加してチャージした後、サンプルホールド回路にフィルタ回路を通過したアナログ信号をサンプリングさせるように構成された制御部と、を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルタ回路を構成するコンデンサをチャージする時間が短縮され、これによって、デジタル信号の誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電動パワーステアリングシステムの一例を示す概要図である。
図2】信号処理装置の一例を示す回路図である。
図3】コンデンサにGND電圧を印加する回路の説明図である。
図4】コンデンサに基準電圧の1/2倍の電圧を印加する回路の説明図である。
図5】コンデンサに基準電圧の3/4倍の電圧を印加する回路の説明図である。
図6】コンデンサに基準電圧の1/4倍の電圧を印加する回路の説明図である。
図7】コンデンサに基準電圧の1倍の電圧を印加する回路の説明図である。
図8】デジタル信号の取り込み処理の一例を示すフローチャートである。
図9】デジタル信号の取り込み処理の一例を示すフローチャートである。
図10】操舵トルクとモータ電流との相関関係の一例を示すグラフである。
図11】電流センサから出力されるモータ電流の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係る信号処理装置を適用することができる、電動パワーステアリング(EPS:Electronic Power Steering)システム100の一例を示している。ここで、EPSシステム100は、図示しない自動運転システムの一部を構成することもできる。
【0011】
EPSシステム100は、ステアリングホイール120と、操舵角センサ140と、操舵トルクセンサ160と、操舵力をアシストする三相ブラシレスモータなどの電動モータ180と、回転角センサ200と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)220と、バッテリー240と、を有している。操舵角センサ140は、車両の運転者により操作されたステアリングホイール120の中立位置からの操舵角θsを検出するように構成されている。操舵トルクセンサ160は、車両の運転者によりステアリングホイール120を介してステアリングシャフト260に加えられた操舵トルクTを検出するように構成されている。回転角センサ200は、例えば、90度の角度差をもって配置された2つのホール素子などからなり、電動モータ180のロータと一体化された出力軸の基準位置からの回転角θmを表す正弦波信号(アナログ信号)を出力する。そして、ステアリングシャフト260を回転自由に内包するステアリングコラム280の内部の所定箇所には、操舵角センサ140、操舵トルクセンサ160及び減速機300が夫々取り付けられている。ここで、操舵角θs及び操舵トルクTが、制御パラメータの一例として挙げられる。
【0012】
車両の運転者がステアリングホイール120を操作すると、操舵角θsを操舵角センサ140が検出するとともに、ステアリングシャフト260に加えられた操舵トルクTを操舵トルクセンサ160が検出する。そして、電子制御装置220は、図示しないマイクロコンピュータの不揮発性メモリに格納されたアプリケーションプログラムに従って、操舵角θs、操舵トルクT及び車速などに応じた操舵力のアシスト量を決定し、このアシスト量に応じた操作量を電動モータ180に出力することで、車両の走行状態に応じて操舵力をアシストする。
【0013】
電動モータ180に操作量が出力されると、ステアリングシャフト260の先端部に取り付けられたピニオンギヤ320が回転し、これと噛み合っているラック軸340が左右方向にスライドすることで、操舵力がアシストされつつ左右の操舵輪360に伝達されて車両の向きが変わる。このとき、電子制御装置220は、回転角センサ200から出力された回転角θmを逐次読み込み、これを用いて電動モータ180の回転角をフィードバック制御する。
【0014】
図2は、例えば、電動モータ180の駆動電流に比例したアナログ信号(駆動電流検出信号)を出力する電流センサ380の出力信号を読み込み、これをデジタル信号に変換して処理する信号処理装置400の一例を示している。信号処理装置400は、電子制御装置220のマイクロコンピュータ222の内部及び図示しない基板上に実装され、マイクロコンピュータ222のプロセッサ222Aを制御部として機能させて所定の演算処理を実行する。なお、信号処理装置400は、電流センサ380から出力されたアナログ信号に限らず、上述した回転角センサ200から出力されたアナログ信号など、車両に搭載された各種のセンサから出力されるアナログ信号を処理することができる。
【0015】
信号処理装置400は、電流センサ380から出力されたアナログ信号の所定周波数成分(例えば、ノイズを含む高周波成分)を低減させるフィルタ回路420と、フィルタ回路420を通過したアナログ信号をサンプルホールドするサンプルホールド回路440と、サンプルホールド回路440の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換回路460と、制御部として機能するプロセッサ222Aと、を有している。
【0016】
フィルタ回路420は、電流センサ380の出力端子に接続された電路L1に配置された第1の抵抗R1と、第1の抵抗R1の下流側において電路L1とグランドGNDとを接続する電路L2に配置された第1のコンデンサC1と、を有する1次ローパスフィルタである。サンプルホールド回路440は、フィルタ回路420の下流に位置する電路L1に配置された第2の抵抗R2と、第2の抵抗R2の下流側において電路L1とグランドGNDとを接続する電路L3に配置された第2のコンデンサC2と、を有している。AD変換回路460は、基準電圧VREFを利用して、アナログ信号をnビットの分解能を有するデジタル信号に変換する。
【0017】
信号処理装置400は、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に対して複数の所定電圧、例えば、0V(GND電圧)、並びに基準電圧VREFの1/4倍,1/2倍,3/4倍及び1倍の所定電圧を選択的に印加可能なように構成された電圧印加回路480を更に有している。具体的には、マイクロコンピュータ222においてサンプルホールド回路440の上流に位置する電路L1は、例えば、周知の半導体スイッチング素子からなる第1のスイッチSW1が配置された電路L4を介してグランドGNDに接続されている。また、マイクロコンピュータ222においてサンプルホールド回路440の上流に位置する電路L1は、例えば、周知の半導体スイッチング素子からなる第2のスイッチSW2が配置された電路L5を介して、基準電圧VREFの1/2倍の所定電圧(1/2VREF)を供給する外部電源に接続されている。フィルタ回路420とマイクロコンピュータ222との間に位置する電路L1は、例えば、周知の半導体スイッチング素子からなる第3のスイッチSW3、第4のスイッチSW4及び第5のスイッチSW5が並列に配置された電路L6~L8を介して、基準電圧VREFの3/4倍、1/4倍及び1倍の所定電圧(3/4VREF、1/4VREF及びVREF)を出力電圧とする外部電源に夫々接続されている。ここで、第1のスイッチSW1~第5のスイッチSW5が、後述する第7のスイッチSW7と並列に接続された複数のスイッチの一例として挙げられる。
【0018】
さらに、マイクロコンピュータ222において、電路L1に対する電路L4及びL5の接続点より上流に位置する電路L1には、この部分における電路L1を選択的に開通又は遮断すべく、例えば、周知の半導体スイッチング素子からなる第6のスイッチSW6が配置されている。ここで、第6のスイッチSW6は、例えば、ノーマルオープンタイプのスイッチング素子であって、電子制御装置220が起動されると端子間が接続して電路L1を開通させる。さらにまた、フィルタ回路420と電圧印加回路480との間に位置する電路L1には、この部分における電路L1を選択的に開通又は遮断することで、サンプルモードとホールドモードとを選択的に切り替える、例えば、周知の半導体スイッチング素子からなる第7のスイッチSW7が配置されている。ここで、第7のスイッチSW7が、切替スイッチの一例として挙げられる。
【0019】
そして、電圧印加回路480において、第1のスイッチSW1がONになると、図3の太線で示すように、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2のプラス端子は、第2の抵抗R2及び第1のスイッチSW1を介してグランドGNDに接続される。このため、第2のコンデンサC2にチャージされている電荷がグランドGNDへと流れ、その結果、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に対して0V、即ち、GND電圧を印加することができる。
【0020】
第2のスイッチSW2がONになると、図4の太線で示すように、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2のプラス端子は、第2の抵抗R2及び第2のスイッチSW2を介して、基準電圧VREFの1/2倍の所定電圧1/2VREFを供給する外部電源に接続される。このため、外部電源からサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧1/2VREFが印加されて、所定電圧1/2VREFにより第2のコンデンサC2がチャージされる。
【0021】
第3のスイッチSW3がONになると、図5の太線で示すように、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2のプラス端子は、第2の抵抗R2、第6のスイッチSW6及び第3のスイッチSW3を介して、基準電圧VREFの3/4倍の所定電圧3/4VREFを供給する外部電源に接続される。このため、外部電源からサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧3/4VREFが印加されて、所定電圧VREFにより第2のコンデンサC2がチャージされる。
【0022】
第4のスイッチSW4がONになると、図6の太線で示すように、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2のプラス端子は、第2の抵抗R2、第6のスイッチSW6及び第4のスイッチSW4を介して、基準電圧VREFの1/4倍の所定電圧1/4VREFを供給する外部電源に接続される。このため、外部電源からサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧1/4VREFが印加されて、所定電圧1/4VREFにより第2のコンデンサC2がチャージされる。
【0023】
第5のスイッチSW5がONになると、図7の太線で示すように、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2のプラス端子は、第2の抵抗R2、第6のスイッチSW6及び第5のスイッチSW5を介して、基準電圧VREFの1倍の所定電圧VREFを供給する外部電源に接続される。このため、外部電源からサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧VREFが印加されて、所定電圧VREFにより第2のコンデンサC2がチャージされる。
【0024】
従って、電圧印加回路480において、第1のスイッチSW1~第5のスイッチSW5のいずれか1つを選択的にONにすることで、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に複数の所定電圧の中から1つの所定電圧を選択しつつ、これを第2のコンデンサC2に印加してチャージすることができる。
【0025】
図8及び図9は、電子制御装置220が起動された後、そのプロセッサ222Aが、モータ電流を取得するタイミングになって割り込みが行われたことを契機として実行する、デジタル信号の取り込み処理の一例を示している。なお、プロセッサ222Aは、不揮発性メモリに予め格納されたアプリケーションプログラムに従って、デジタル信号の割り込み処理を実行する。
【0026】
ステップ10(図8では「S10」と略記する。以下同様。)では、プロセッサ222Aが、操舵トルクセンサ160からステアリングシャフト260に加えられた操舵トルクTを読み込む。
【0027】
ステップ11では、プロセッサ222Aが、操舵トルクTに基づいて電動モータ180に出力するモータ電流Iを算出する。具体的には、マイクロコンピュータ222の不揮発性メモリには、図10に示すように、操舵トルクとモータ電流との相関関係が予め定義されたマップが格納されている。そして、プロセッサ222Aは、このマップを参照し、操舵トルクTに関連付けられたモータ電流Iを算出する。なお、図10に示すマップでは、操舵トルクが増加するにつれてモータ電流が比例関係をもって増加しているが、これはあくまで一例であって、実機の特性などを考慮してマップを適宜定義することができる。
【0028】
ステップ12では、プロセッサ222Aが、電動モータ180の抵抗値などを考慮して、電圧印加回路480からサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2へと印加可能な複数の所定電圧の中から、モータ電流Iに対応する電圧に最も近い所定電圧を選択する。具体的には、電動モータ180の抵抗値をRとすると、プロセッサ222Aは、「電圧V=電流I×抵抗R」というオームの法則を利用して、モータ電流Iに対応する電圧(以下「選択電圧」という。)を求める。そして、プロセッサ222Aは、複数の所定電圧(GND電圧、1/4VREF、1/2VREF、3/4VREF、VREF)の中から、選択電圧に最も近い所定電圧を選択する。なお、選択電圧が2つの所定電圧に最も近い場合には、例えば、所定のルールに従ってどちらかの所定電圧を選択するようにすればよい。
【0029】
ステップ13では、プロセッサ222Aが、選択電圧がGND電圧であるか否かを判定する。そして、プロセッサ222Aは、選択電圧がGND電圧であると判定すれば(Yes)、処理をステップ17へと進める。一方、プロセッサ222Aは、選択電圧がGND電圧でないと判定すれば(No)、処理をステップ14へと進める。
【0030】
ステップ14では、プロセッサ222Aが、選択電圧が所定電圧1/4VREFであるか否かを判定する。そして、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧1/4VREFであると判定すれば(Yes)、処理をステップ19へと進める。一方、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧1/4VREFでないと判定すれば(No)、処理をステップ15へと進める。
【0031】
ステップ15では、プロセッサ222Aが、選択電圧が所定電圧1/2VREFであるか否かを判定する。そして、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧1/2VREFであると判定すれば(Yes)、処理をステップ21へと進める。一方、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧1/2VREFでないと判定すれば(No)、処理をステップ16へと進める。
【0032】
ステップ16では、プロセッサ222Aが、選択電圧が所定電圧3/4VREFであるか否かを判定する。そして、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧3/4VREFであると判定すれば(Yes)、処理をステップ23へと進める。一方、プロセッサ222Aは、選択電圧が所定電圧3/4VREFでない、要するに、選択電圧が所定電圧VREFであると判定すれば(No)、処理をステップ25へと進める。
【0033】
選択電圧がGND電圧である場合の処理を実行するステップ17では、プロセッサ222Aが、第1のスイッチSW1をONにする。第1のスイッチSW1がONになると、図3の太線で示すような回路が構成され、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2にGND電圧が印加される。第2のコンデンサC2にGND電圧が印加される、要するに、第2のコンデンサC2のプラス端子がグランドGNDに接続されると、第2のコンデンサC2にチャージされていた電荷がグランドGNDへと流れて空になる。このため、第2のコンデンサC2は、電流センサ380からGND電圧が供給された状態と同じになる。
【0034】
ステップ18では、プロセッサ222Aが、第1のスイッチSW1をOFFにする。第1のスイッチSW1がOFFになると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2へのGND電圧の印加が中止され、第2のコンデンサC2に操舵トルクTに対応した電荷(電圧)がチャージされた状態となる。その後、プロセッサ222Aは、処理をステップ27へと進める。
【0035】
選択電圧が所定電圧1/4VREFである場合の処理を実行するステップ19では、プロセッサ222Aが、第4のスイッチSW4をONにする。第4のスイッチSW4がONなると、図6の太線で示すような回路が構成され、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧1/4VREFが印加される。第2のコンデンサC2に所定電圧1/4VREFが印加されると、第2のコンデンサC2は所定電圧1/4VREFに対応した電荷でチャージされる。このため、第2のコンデンサC2は、電流センサ380から所定電圧1/4VREFが供給された状態と同じになる。
【0036】
ステップ20では、プロセッサ222Aが、第4のスイッチSW4をOFFにする。第4のスイッチSW4がOFFになると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2への所定電圧1/4VREFの印加が中止され、第2のコンデンサC2に操舵トルクTに対応した電荷(電圧)がチャージされた状態となる。その後、プロセッサ222Aは、処理をステップ27へと進める。
【0037】
選択電圧が所定電圧1/2VREFである場合の処理を実行するステップ21では、プロセッサ222Aが、第2のスイッチSW2をONにする。第2のスイッチSW2がONなると、図4の太線で示すような回路が構成され、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧1/2VREFが印加される。第2のコンデンサC2に所定電圧1/2VREFが印加されると、第2のコンデンサC2は所定電圧1/2VREFに対応した電荷でチャージされる。このため、第2のコンデンサC2は、電流センサ380から所定電圧1/2VREFが供給された状態と同じになる。
【0038】
ステップ22では、プロセッサ222Aが、第2のスイッチSW2をOFFにする。第2のスイッチSW2がOFFになると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2への所定電圧1/2VREFの印加が中止され、第2のコンデンサC2に操舵トルクTに対応した電荷(電圧)がチャージされた状態となる。その後、プロセッサ222Aは、処理をステップ27へと進める。
【0039】
選択電圧が所定電圧3/4VREFである場合の処理を実行するステップ23では、プロセッサ222Aが、第3のスイッチSW3をONにする。第3のスイッチSW3がONなると、図5の太線で示すような回路が構成され、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧3/4VREFが印加される。第2のコンデンサC2に所定電圧3/4VREFが印加されると、第2のコンデンサC2は所定電圧3/4VREFに対応した電荷でチャージされる。このため、第2のコンデンサC2は、電流センサ380から所定電圧3/4VREFが供給された状態と同じになる。
【0040】
ステップ24では、プロセッサ222Aが、第3のスイッチSW3をOFFにする。第3のスイッチSW3がOFFになると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2への所定電圧3/4VREFの印加が中止され、第2のコンデンサC2に操舵トルクTに対応した電荷(電圧)がチャージされた状態となる。その後、プロセッサ222Aは、処理をステップ27へと進める。
【0041】
選択電圧が所定電圧VREFである場合の処理を実行するステップ25では、プロセッサ222Aが、第5のスイッチSW5をONにする。第5のスイッチSW5がONなると、図7の太線で示すような回路が構成され、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に所定電圧VREFが印加される。第2のコンデンサC2に所定電圧VREFが印加されると、第2のコンデンサC2は所定電圧VREFに対応した電荷でチャージされる。このため、第2のコンデンサC2は、電流センサ380から所定電圧VREFが供給された状態と同じになる。
【0042】
ステップ26では、プロセッサ222Aが、第5のスイッチSW5をOFFにする。第5のスイッチSW5がOFFになると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2への所定電圧VREFの印加が中止され、第2のコンデンサC2に操舵トルクTに対応した電荷(電圧)がチャージされた状態となる。その後、プロセッサ222Aは、処理をステップ27へと進める。
【0043】
ステップ27では、プロセッサ222Aが、サンプルモードとホールドモードとを選択的に切り替える第7のスイッチSW7をONにする。第7のスイッチSW7がONになると、フィルタ回路420と電圧印加回路480との間に位置する電路L1が開通し、フィルタ回路420を通過した電流センサ380の出力信号がサンプルホールド回路440を通過してAD変換回路460へと供給される。そして、AD変換回路460において、基準電圧VREFを使用してアナログ信号がデジタル信号へと変換され、プロセッサ222Aがモータ電流を表すデジタル信号を読み込む準備が完了する。ここで、第7のスイッチSW7がONになることで、電流センサ380の出力信号がサンプルホールド回路440に供給されてサンプリングされるので、この状態はサンプルモードとなる。
【0044】
ステップ28では、プロセッサ222Aが、第7のスイッチSW7をOFFにする。ここで、第7のスイッチSW7がOFFになることで、電流センサ380の出力信号がサンプルホールド回路440に供給されなくなって従前の状態が保持されるので、この状態はホールドモードとなる。
【0045】
ステップ29では、プロセッサ222Aが、AD変換回路460の出力信号を読み込んで、モータ電流を表すデジタル信号を取得する。
ステップ30では、プロセッサ222Aが、AD変換回路460から読み込んだデジタル信号に基づいて、電動モータ180のモータ電流を算出する。その後、プロセッサ222Aは、今回の制御サイクルにおけるデジタル信号の取り込み処理を終了させる。
【0046】
かかるデジタル信号の取り込み処理によれば、モータ電流の取得タイミングになると、プロセッサ222Aは、電動モータ180によって実際に操舵力のアシストを行う前に、モータ電流と相関性が高い操舵トルクTに基づいてモータ電流Iを算出する。また、プロセッサ222Aは、電圧印加回路480がサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に印加可能な複数の所定電圧の中から、モータ電流Iに最も近い所定電圧を選定する。そして、プロセッサ222Aは、選定電圧に基づいて第1のスイッチSW1~第5のスイッチSW5のいずれか1つをON及びOFFし、選定電圧を第2のコンデンサC2に印加してチャージさせる。
【0047】
選定電圧は現在の操舵トルクTに対応した電圧であるため、この操舵トルクTに応じて将来電動モータ180を制御した結果のモータ電流を表している推定値であると見做すことができる。このため、このような選定電圧に基づいて電圧印加回路480の第1のスイッチSW1~第5のスイッチSW5のいずれか1つをON/OFFすると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2は、操舵トルクTに対応した選択電圧によりチャージされることとなる。そして、第2のコンデンサC2のチャージが行われた後、第7のスイッチSW7がON/OFFされて、図11に示すように時間経過に伴って変動する電流センサ380から出力されたアナログ信号は、フィルタ回路420によって所定周波成分が低減されつつ、サンプルホールド回路440へと供給される。
【0048】
このとき、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2が選択電圧で前もってチャージされているため、第7のスイッチSW7がON/OFFされると、サンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2の電荷によってフィルタ回路420の第1のコンデンサC1がチャージされることとなる。ここで、第1のコンデンサC1は信号の位相遅れを小さくするために容量が小さくなっているため、第2のコンデンサC2の電荷によって極短時間でチャージされることとなる。その後、プロセッサ222Aは、モータ電流を表すAD変換後のデジタル信号を取得し、例えば、AD変換回路460の分解能などを考慮して、電動モータ180のモータ電流を算出する。
【0049】
従って、上述したように、電流センサ380の出力信号を実際に読み込む前に、フィルタ回路420の第1のコンデンサC1が、電流センサ380から出力されるであろうと推測される選定電圧で事前にチャージされている。このため、電流センサ380の出力信号を読み込むとき、フィルタ回路420の第1のコンデンサC1をチャージする時間が不要となるか大幅に短くなり、その間にAD変換して得られるデジタル信号の誤差を小さくすることができる。その結果、サンプルホールド回路440がGND電圧をサンプリングした直後などであっても、電動モータ180のモータ電流を精度よく検出することができるようになる。
【0050】
時間経過に伴ってある値を中心として変動するアナログ信号のみならず、GND電圧付近や基準電圧VREFなどのアナログ信号の全出力範囲で、アナログ信号をAD変換して得られるデジタル信号の精度の検出誤差を低減することもできる。また、電圧印加回路480によって印加可能な所定電圧をGND電圧から基準電圧VREFまでの範囲にある少なくとも2つの2つの所定電圧とすることで、電流センサ380から出力されるアナログ信号の誤差を低減することができる。さらに、アナログ信号が電動モータ180の駆動電流検出信号であれば、モータ電流の検出精度が向上することから、電動モータ180の制御性を向上させることもできる。
【0051】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置き換えたりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0052】
その一例を挙げると、電圧印加回路480は、5つの所定電圧に限らず、0V(GND電圧)からAD変換回路460の基準電圧VREFまでの範囲にある少なくとも2つの所定電圧をサンプルホールド回路440の第2のコンデンサC2に印加可能であればよい。但し、電圧印加回路480がより多くの所定電圧を印加可能であれば、電流センサ380の出力信号を実際にサンプリングしたときの電圧との差が小さくなることから、サンプルホールド回路440における電流センサ380の出力信号のサンプリング時間を更に短縮することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る信号処理装置400は、電流センサ380の出力信号に限らず、回転角センサ、電圧センサなどの任意のアナログ信号を処理する場合にも適用することができる。さらに、図2図7に示す信号処理装置400は、一部の構成要素(例えば、常時ONとなる第6のスイッチSWなど)を省略したり、又はさらなる効果を発揮させるために他の構成要素を追加したりすることもできる。要するに、図2図7に示す信号処理装置400は、あくまで本実施形態の特徴を説明するための単なる一例であり、この構成に限定されると認識すべきではない。
【符号の説明】
【0054】
100…EPSシステム、180…電動モータ、220…電子制御装置、222…マイクロコンピュータ、222A…プロセッサ(制御部)、400…信号処理装置、420…フィルタ回路、440…サンプルホールド回路、460…AD変換回路、480…電圧印加回路、C1…第1のコンデンサ、C2…第2のコンデンサ、SW1~SW5…第1のスイッチ~第5のスイッチ(複数のスイッチ)、SW7…第7のスイッチ(切替スイッチ)、VREF…基準電圧
図1
図2
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図11