(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072311
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】印刷機及び版移動装置
(51)【国際特許分類】
B41F 13/00 20060101AFI20240521BHJP
B41F 27/12 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B41F13/00 514
B41F27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183011
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】714000460
【氏名又は名称】リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】瀬島 淳
【テーマコード(参考)】
2C020
【Fターム(参考)】
2C020DA06
2C020DA08
2C020DA10
2C020DA11
2C020DA12
(57)【要約】
【課題】版を移動させる時に版の揺れを抑制することができる印刷機及び版移動装置を提供する。
【解決手段】版胴を備える印刷ユニット1A~1Dと、前記版胴に対して着脱される版12Aを保持する版保持部4と、前記版保持部4を移動させる移動手段と、を備え、前記版保持部4は、前記版12Aの版面を保持する保持部45を備えると共に、該保持部45が保持する前記版12Aの版面を湾曲させる版湾曲手段を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴を備える印刷ユニットと、前記版胴に対して着脱される版を保持する版保持部と、前記版保持部を移動させる移動手段と、を備え、
前記版保持部は、前記版の版面を保持する保持部を備えると共に、該保持部が保持する前記版の版面を湾曲させる版湾曲手段を備えることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
前記保持部は、並置された複数の保持器を有し、前記版湾曲手段は、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面を湾曲させることを特徴とする請求項1に記載の印刷機。
【請求項3】
前記版保持部は、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面が平面の状態で前記版を保持した後、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面を湾曲させることを特徴とする請求項2に記載の印刷機。
【請求項4】
版胴を備える印刷ユニットを備える印刷機に設けられ、
前記版胴に対して着脱される版を保持する版保持部と、前記版保持部を移動させる移動手段と、を備え、
前記版保持部は、前記版の版面を保持する保持部を備えると共に、該保持部が保持する前記版の版面を湾曲させる版湾曲手段を備えることを特徴とする版移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機及び版移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる版移動装置としては、例えば特許文献1に示されるものが開示されている。特許文献1では、保持した刷版(版)と共に移動する刷版保持部を備えている。刷版保持部は、刷版を吸着するための複数の吸着パッドを備えている。複数の吸着パッドは、刷版の一辺側のみを保持するように構成されている。刷版保持部は、伸縮する腕金によって所定位置へ向かって移動する。
【0003】
この移動のとき、刷版は、一辺側のみを保持されていることから、対向する他辺側がフリーな状態となって揺れ易い。移動の際の加速度や風圧、空調設備の風等によって刷版の揺れが大きくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記揺れが大きくなると、例えば刷版が移動経路にある周辺部材と接触するなどの様々なトラブルの原因となってしまう。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、版を移動させる時に版の揺れを抑制することができる印刷機及び版移動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る印刷機は、版胴を備える印刷ユニットと、前記版胴に対して着脱される版を保持する版保持部と、前記版保持部を移動させる移動手段と、を備え、前記版保持部は、前記版の版面を保持する保持部を備えると共に、該保持部が保持する前記版の版面を湾曲させる版湾曲手段を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、版保持部が保持する版の版面を湾曲させることによって、版の腰を強くすることができる。これにより、版の移動時に版が揺れることを抑制できる。
【0009】
また、本発明に係る印刷機として、前記保持部は、並置された複数の保持器を有し、前記版湾曲手段は、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面を湾曲させる構成であってもよい。
【0010】
上記のように、並置された複数の保持器を有し、前記版湾曲手段は、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面を湾曲させることで版の腰を強くする。
【0011】
また、本発明に係る印刷機として、前記版保持部は、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面が平面の状態で前記版を保持した後、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面を湾曲させてもよい。
【0012】
上記のように、前記複数の保持器の保持面を繋ぐ面が平面の状態で前記版を保持した後、前記複数の保持器の保持面を湾曲させるので、版を確実に保持してから湾曲させることができる。
【0013】
また、本発明に係る版移動装置は、版胴を備える印刷ユニットを備える印刷機に設けられ、前記版胴に対して着脱される版を保持する版保持部と、前記版保持部を移動させる移動手段と、を備え、前記版保持部は、前記版の版面を保持する保持部を備えると共に、該保持部が保持する前記版の版面を湾曲させる版湾曲手段を備えることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、版保持部が保持する版の版面を湾曲させることによって、版の腰を強くすることができる。これにより、版の移動時に版が揺れることを抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、版保持部が保持する版の版面を湾曲させることによって、版を移動させる時に版の揺れを抑制することができる印刷機及び版移動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】同版移動装置を備えた印刷機の平面図である。
【
図3】版収納部の新版を吸着パッドで吸着した状態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)を左から見た側面図である。
【
図4】吸着パッドで吸着した縦長姿勢の新版を上昇させて横長姿勢に姿勢変更した状態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)を左から見た側面図である。
【
図5】
図4の状態から縦軸回りで回転させて新版を印刷ユニットに挿入可能な向きに変更した状態を示す正面図である。
【
図6】
図5の状態から新版を印刷ユニットの上方まで移動させた状態の正面図である。
【
図7】
図6の状態から新版を印刷ユニットに挿入した状態を示す正面図である。
【
図8】印刷ユニットから排出された旧版を排版ガイド部で支持した状態を示す正面図である。
【
図9】
図8の状態から旧版を吸着部で吸着して印刷ユニットの上方へ移動させた状態を示す正面図である。
【
図10】
図9の状態から旧版を版収納部側へ移動させて版の向き及び姿勢を変更した状態を示す正面図である。
【
図11】
図10の状態から版保持部を下降させて旧版を版収納部へ収納した状態を示す正面図である。
【
図12】
図3におけるXIIで囲まれた部分の拡大図である。
【
図14】版保持部の吸着部の側面図であり、(a)は吸着部で版をフラットな状態で吸着して保持した状態を示し、(b)は吸着部で吸着した版を湾曲させて保持した状態を示している。
【
図15】隣接している版移動装置の版保持部のうちの前側の版移動装置の版保持部が待機位置に位置し、後側の版移動装置の版保持部が新版を保持して上昇を開始する状態を示す左から見た側面図である。
【
図16】
図15の状態から後側の版移動装置の版保持部が保持した新版を少し上昇させてから斜め姿勢に変更した状態を示す左から見た側面図である。
【
図18】
図16の状態から新版をさらに上昇させた位置で斜め姿勢から横長姿勢に変更した状態を示す左から見た側面図である。
【
図20】新版を版着脱装置の位置決め部に向けて下降させる状態を示す正面図である。
【
図21】
図20の状態からさらに新版を版着脱装置の位置決め部に向けて下降させる状態を示す正面図である。
【
図22】新版の新版収納部の別の形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の版移動装置を備えた印刷機を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1及び
図2に示すように、印刷機1は、一枚ずつ枚葉紙(図示せず)を送り出すための給紙部7と、この給紙部7からの枚葉紙に印刷を行うための4台の印刷ユニット1A~1Dと、4台の印刷ユニット1A~1Dで印刷された枚葉紙(印刷物)を排紙するための排紙部8と、を備えている。尚、以下においては、
図1及び
図2に表記するように、給紙部7を前後方向前側、排紙部8を前後方向後側とし、前後方向と直交する幅方向を左右方向とすると共にオペレーションサイドを左右方向右側、ノンオペレーションサイドを左右方向左側として説明する。
【0019】
印刷ユニット1A~1Dの左右両側には、印刷ユニット1A~1Dに沿って前後方向に延びるステップ9,10が設置されている。ステップ9は右側(オペレーションサイド)に位置し、ステップ10は左側(ノンオペレーションサイド)に位置している。ステップ9,10は、床面から所定距離上方へ配置されている。
【0020】
印刷ユニット1A,1B,1C,1Dのそれぞれには版移動装置が設置されている。版移動装置は、支柱部2と、腕部3と、版保持部4と、排版ガイド部5と、版収納部6と、制御部(図示せず)と、を備えている。印刷ユニット1A,1B,1C,1Dには、図示していない版胴と、版胴に対して版を着脱するための版着脱装置70を備えている。前記版は、長方形状であり、天地方向の寸法よりも左右方向の寸法が長い横長の姿勢で版胴に巻き付けられる。版胴は、巻き付けられた版の天地方向両辺をそれぞれ挟持するための万力装置(不図示)を備えている。版着脱装置70は、万力装置による挟持を解除された版(旧版12B)を版胴から排出する機能と、版着脱装置70に予め供給(載置)されている版(新版12A)を版胴に巻き付けるために版胴へ向かって送り出す機能を有して構成されている。また、版移動装置は、版着脱装置70と版収納部6との間で版保持部4を移動させる移動手段を備えており、この移動手段は、前記支柱部2及び前記腕部3を備えて構成されている。尚、前記版は、縦横サイズのうちの縦が550mm~930mmの範囲で、かつ、横が650mm~1130mmの範囲で、版の厚みが0.2mm~0.3mmの範囲のものを用いる。
【0021】
<支柱部>
支柱部2は、ステップ10の手摺り11よりも左右方向外側に離間した位置に立設された支柱本体21と、腕部3を支柱本体21に沿って上下方向に移動させるための第1移動手段22(
図12参照)と、を備えている。第1移動手段22は、所謂ボールネジ機構として構成されている。すなわち、第1移動手段22は、螺旋状のボール溝が形成され、支柱本体21に沿って上下方向に延びて配置されるネジ軸23(
図1参照)と、ネジ軸23に対してボール溝に転動自在に嵌るボール(図示せず)を介して螺合するナット部材24と、ネジ軸23の両側において上下方向に延びて配置され、かつ、前記ナット部材24に貫通して該ナット部材24の移動を案内するための一対の案内部材25,25と、ネジ軸23を正逆方向へ回転させるモータ26と、を備えている。ネジ軸23は、支柱本体21の上下方向中間部から上端部へ延びている。ナット部材24には腕部3の左端部が支持されており、モータ26がネジ軸23を回転させることで、ナット部材24と共に腕部3が上下方向に移動する。
【0022】
<腕部>
腕部3は、支柱部2に対して上下方向に移動可能に支持されている。腕部3は、支柱部2から印刷ユニット(例えば1A)に備える版胴側(右側)へ向かって版胴軸方向(左右方向)に延びている。腕部3は、版保持部4を左右の水平方向に移動させるための第2移動手段31(
図12参照)を備えている。第2移動手段31は、所謂ボールネジ機構として構成されている。すなわち、第2移動手段31は、螺旋状のボール溝が形成され、腕部3の一端部(左端部)から他端部(右端部)まで左右方向に延びて配置されるネジ軸32と、ネジ軸32に対してボール溝に転動自在に嵌るボール(図示せず)を介して螺合するナット部材33と、ネジ軸32を正逆方向へ回転させるモータ34と、モータ34とネジ軸32とを連動させるベベルギア機構35(
図12参照)と、を備えている。ベベルギア機構35は、モータ34の駆動軸34Aに一体回転可能に取り付けられた駆動側ベベルギア35Aと、駆動側ベベルギア35Aと噛み合ってネジ軸32の左端部に一体回転可能に取り付けられた従動側ベベルギア35Bと、を備えている。また、第2移動手段31は、版保持部4の移動を案内するための案内機構を更に備えている。この案内機構は、
図12に示すように、ネジ軸32の上下方向両側であって、ナット部材33の上下端に取り付けられる左右方向に延びる上下一対のガイド部材36,37と、各ガイド部材36,37の左右端部にそれぞれ取り付けられ、ナット部材33及びガイド部材36,37の左右方向への移動時に腕部3の本体部の上端面、下端面及び上端部と下端部の前後両面を転動しながらナット部材33及びガイド部材36,37の移動を案内する12個のローラ38と、を備えている。モータ34がベベルギア機構35を介してネジ軸32を回転させることで、ナット部材33及びガイド部材36,37が左右方向へ移動する。
【0023】
<版保持部>
版保持部4は、腕部3に対して左右方向に移動可能に支持されている。版保持部4は、
図12に示すように、本体部43と、本体部43の下面に固定された第4移動手段44と、第4移動手段44の下側に取り付けられた吸着部45と、を備えている。本体部43は、腕部3の下側のガイド部材37に取り付けられた前後方向に延びる板状の支持部材41に対して第3移動手段42を介して前後方向に移動可能に支持されている。
【0024】
<第3移動手段>
第3移動手段42は、所謂ボールネジ機構として構成されている。すなわち、第3移動手段42は、螺旋状のボール溝が形成され、支持部材41の下面に前後方向に延びて支持されるネジ軸46と、ネジ軸46に対してボール溝に転動自在に嵌るボール(図示せず)を介して螺合するナット部材47と、ネジ軸46を正逆方向へ回転させるモータ48と、モータ48とネジ軸46とを連動させるベベルギア機構49と、を備えている。尚、ネジ軸46を台形雄ネジが形成された軸部材とし、ナット部材47を台形雄ネジに螺合する台形雌ネジが形成された部材とした、所謂送りネジ機構として第3移動手段42を構成することもできる。ベベルギア機構49は、モータ48の駆動軸48Aに一体回転可能に取り付けられた駆動側ベベルギア49Aと、駆動側ベベルギア49Aと噛み合ってネジ軸46の後端部に一体回転可能に取り付けられた従動側ベベルギア49Bと、を備えている。また、第3移動手段42は、吸着部45の前後移動を案内するための案内機構を更に備えている。この案内機構は、
図12に示すように、支持部材41の下面に固定された前後方向に長いレール部材50と、このレール部材50に係合して吸着部45を前後方向に移動案内する係合部材51と、を備えている。この係合部材51の下面に本体部43が取り付けられている。モータ48がベベルギア機構49を介してネジ軸46を回転させることで、本体部43が前後方向へ移動する。
【0025】
<第4移動手段>
図12に示すように、第4移動手段44は、吸着部45を上下軸(縦軸)X回りで回転させるエア駆動式のロータリアクチュエータから構成されている。吸着部45は、ロータリアクチュエータの回転軸に取り付けられた逆L字状のブラケット52に第5移動手段53を介して取り付けられている。前記第4移動手段44は、新版12A又は旧版12Bを保持した版保持部4を縦軸X回りで回動させて新版12A又は旧版12Bの向きを変更させる向き変更手段を構成している。
【0026】
<第5移動手段>
第5移動手段53は、回転軸を有するモータから構成されている。このモータは、取付部材54の下部(後述する斜め板部54B)に取り付けられている。この取付部材54は、その上端部がブラケット52の縦板部の下端部に連結されている。取付部材54は、ブラケット52の縦板部の下端部に取り付けられる上下方向に延びる縦板部54Aと、縦板部54Aの下端から下方へ延びる斜め板部54Bを有している。斜め板部54Bは、版収納部の新版12Aを吸着部45が吸着する状態(
図12の状態)においては、その下端が支柱部2に接近する方向に傾斜するよう折り曲げられている。そして、斜め板部54Bに取り付けられた第5移動手段53であるモータの回転軸(軸心Y)は、先端側ほど下方に位置する前下がり傾斜姿勢になっている。斜め板部54Bの傾斜角度は、斜め板部54Bが新版収納部6Aに収納された新版12Aと略平行になるように設定される。第5移動手段53は、吸着部45を吸着部45が保持した新版12A又は旧版12Bの厚み方向となる軸心Y回りに回動させて新版12A又は旧版12Bの姿勢を縦長姿勢と横長姿勢とに変更する姿勢変更手段を構成している。
【0027】
<吸着部>
吸着部45は、新版12A又は旧版12Bの一辺側の版面を吸着保持することができる。すなわち、吸着部45は、新版12A又は旧版12Bを保持する保持部として機能する。保持部である吸着部45は、第5移動手段53であるモータの回転軸に一端部が取り付けられ他端側が新版12A又は旧版12Bの長辺方向に沿って延びる板状の板部材45Aを備えている。この板部材45Aには、新版12A又は旧版12Bの長辺側に版面を保持するために、板部材45Aの長手方向に沿って間隔を置いて並置され、新版12A又は旧版12Bの裏面(版面のうち絵柄が形成された表面とは反対側の面)を吸着保持する複数(本実施形態では3個)の保持器である吸着パッド45B1,45B2,45B3(
図3(a),(b)参照)を備えている。
図3(a),(b)、
図4(b)、
図11、
図14及び
図15に示すように、3つの吸着パッド(保持器)45B1,45B2,45B3は、板部材45Aから同じ方向へ突出している。各吸着パッド45B1,45B2,45B3には、吸引エア(負圧エア)を供給するためのホースH(
図14(a),(b)参照)が接続されている。吸引エア(負圧エア)が供給されることで吸着パッド45B1,45B2,45B3が版の版面を吸着保持するように構成されている。各吸着パッド45B1,45B2,45B3の新版12A又は旧版12Bを吸着する部分は、ゴム材等の弾性部材からなり、その吸着面(保持面)の領域は略円形状となっている。
【0028】
<版湾曲手段>
版保持部4が備える吸着部45は、吸着部45が保持する版の版面を湾曲させる版湾曲手段を備えている。具体的には、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3のうちの板部材45Aの長手方向両側の2つの吸着パッド45B1,45B3が、板部材45Aからの突出量を変更可能に構成されている。
図14(a),(b)に示すように、2つの吸着パッド45B1,45B3のそれぞれは、板部材45Aに取り付けられたエアシリンダ55の伸縮可能なロッド55Aの先端に連結されている。したがって、2つのエアシリンダ55,55の作動を制御することで、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3の吸着面(保持面)全てが同一突出量(同一平面内)となる第1突出状態(
図14(a)参照)と、中央の吸着パッド45B2の吸着面(保持面)に対して両側の2つの吸着パッド45B1,45B3の吸着面(保持面)の突出量が異なる(小さくなる)第2突出状態(
図14(b)参照)とのいずれかの状態に切り替えることができる。つまり、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3は、2つのエアシリンダ55,55を伸長作動させることにより第1突出状態となり、2つのエアシリンダ55,55を短縮作動させることにより第2突出状態となるように構成されている。3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3の吸着面を繋ぐ面(版の版面)は、第1突出状態においては平面となり、第2突出状態においては湾曲した面となる。なお、2つのエアシリンダ55,55を作動させるための空圧配管の図示は省略している。
【0029】
上記構成により、第2突出状態においては、吸着パッド45B1,45B2,45B3が吸着する版(新版12A又は旧版12B)の版面を湾曲させて保持することができる。詳細には、吸着パッド45B1,45B2,45B3が吸着する一辺側の領域において版面が湾曲すると、この湾曲が版(新版12A又は旧版12Bの)の一辺に対向する他辺側に向かって拡大することになる。つまり、
図14(b)に実線で示す新版12Aの円弧状の湾曲形状は、版(新版12A又は旧版12B)のほぼ全域に拡がって形成されることになる。湾曲形状が版(新版12A又は旧版12B)の略全域に拡がって形成されることで、吸着部45で吸着保持された版(新版12A又は旧版12B)の腰を強くすることができる。従って、版保持部4に保持されて移動する版(新版12A又は旧版12B)の移動時の揺れを抑制することができる。その結果、移動中の版(新版12A)が移動経路にある周辺部材に接触することによる傷や折れが発生することを防止できる。また、移動中の版(旧版12B)が移動経路にある周辺部材に接触し、旧版12B上のインクが周辺部材に付着してしまうこと防止できる。なお、この実施形態では、吸着パッド45B1,45B2,45B3の吸着する部分が弾性材料からなることから、湾曲した版の形状に吸着パッド45B1,45B2,45B3が追従して変形することができるので、湾曲した時の版の吸着状態を容易に維持できる。
【0030】
なお、上記実施形態においては、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3は、版(新版12A又は旧版12B)を吸着する時には第1突出状態にし、吸着保持した版を移動させる時には第2突出状態にしている。これによりフラットな状態で版収納部6に収納されている版(特に新版収納部6Aに収納されている新版12A)を確実に吸着することができる。ただし、版を吸着する時に第2突出状態にしておくこともできる。
【0031】
なお、この実施形態では、第2突出状態では、2つの吸着パッド45B1,45B3の突出量を同一にしているが、異なる突出量であってもよい。また、この実施形態では、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3のうちの板部材45Aの長手方向両側の2つの吸着パッド45B1,45B3が、板部材45Aからの突出量を変更可能に構成されていたが、中央の吸着パッド45B2のみが、板部材45Aからの突出量を変更可能に構成されていてもよいし、3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3の全てが、板部材45Aからの突出量を変更可能に構成されていてもよい。
【0032】
また、この実施形態では、
図14(b)に示すように、版の中央(中央の吸着パッド45B2の位置)が板部材45Aから離れる方向に凸となる略円弧状に湾曲させているが、版の中央(中央の吸着パッド45B2の位置)が板部材45Aに近づく方向に凸となる略円弧状に湾曲させてもよい。また、略S字状や波状に湾曲させる等、湾曲させる形状は適宜変更できる。
【0033】
板部材45Aは、その一端部(
図12では上端部)が取り付けられた第5移動手段53であるモータの回転軸の軸心Yを中心として回動する。軸心Yは、版保持部4の吸着部45(吸着パッド45B1,45B2,45B3)で保持された新版12A又は旧版12Bの厚み方向に延びている。すなわち、第5移動手段53であるモータは、版保持部4の吸着部45(吸着パッド45B1,45B2,45B3)で保持された新版12A又は旧版12Bを該版の厚み方向の軸心回りに回動させる。
【0034】
また、
図5によく示されるように、軸心Yは、版保持部4の吸着パッド45B1,45B2,45B3で保持した新版12A又は旧版12Bの上側の幅方向中央よりも幅方向一方側(
図5では左側)に寄せて配置されている。そして、前記上下軸(縦軸)Xも、新版12A又は旧版12Bの幅方向中央よりも幅方向一方側(
図5では左側、軸心Yと同一の端部側)に寄せて配置されている。この配置により、第4移動手段44と第5移動手段53(
図4(a)参照)とを接近して配置することができるので、版移動装置、特に版保持部4の小型化を図ることができる。さらに、版の版胴へ供給可能な向き(
図5参照)から縦軸X回りの回動による向き変更と軸心Y回りの回動による姿勢変更を行った時に、印刷ユニットに対する版の位置が前後方向に大きくずれない。これにより、印刷ユニット1Aの側方(真横)で新版12A又は旧版12Bの出し入れを行うことができ、版収納部6を印刷ユニットの側方(真横)に配置することができる。
【0035】
また、版保持部4で保持した旧版12Bを旧版収納部6Bへ収納する際は、横長姿勢で保持した旧版12Bを軸心Y回りに回動させて縦長姿勢へ変更する。このとき、軸心Yを旧版12Bの幅方向中央よりも幅方向一方側に寄せて配置しているので、縦長姿勢となった旧版12Bの下端位置は、横長姿勢のときの旧版12Bの下端位置に対して腕部3からより下方に離れた位置となる。これにより、旧版12Bを旧版収納部6Bへ移動する際の腕部3の下降量を、横長姿勢のまま旧版12Bを旧版収納部6Bへ移動する際の腕部3の下降量よりも少なくすることができる。従って、第1移動手段22が備えるネジ軸23をより短く構成することができる。さらに、縦長姿勢の旧版12Bを旧版収納部6Bへ移動するために下降した腕部3の位置は、横長姿勢のまま旧版12Bを旧版収納部6Bへ移動するために下降した腕部3の位置よりも上方へ位置させることができるので、下降した腕部3と印刷ユニット上面とのクリアランスを容易に確保することができる。
【0036】
<排版ガイド部>
排版ガイド部5は、
図8に示すように、版着脱装置70によって版胴から排出される旧版12Bを案内すると共に、版胴から排出された旧版12Bを版保持部4で保持できるように旧版12Bを支持するものである。排版ガイド部5は、腕部3の支柱部2とは反対側の先端部に支持され、印刷ユニット(例えば1A)が備える版着脱装置70の上方に位置している。排版ガイド部5は、版胴から排出される旧版12Bの上部を前後方向から挟むように前後に配置される互いに連結された前後一対の板状のガイド13,14(
図10参照)と、一対のガイド13,14を上下方向に移動させる第6移動手段16と、第6移動手段16によるガイド13,14の上下方向の移動を案内するレール15と、を備えている。
【0037】
レール15は、
図13に示すように、腕部3の先端に固定された固定部材17の右側端部に取り付けられた固定側の固定レール15Aと、固定レール15Aに対して上下方向に移動可能に案内される可動レール15Bと、を備えている。可動レール15Bは固定レール15Aから下方に延びている。可動レール15Bに連結された連結プレート18の下端部には後述する左側の第1エアシリンダ16Aのピストンロッド16bの先端(下端)が連結されている。可動レール15Bには後述する右側の第2エアシリンダ16Bのシリンダチューブ16cが連結されている。右側の第2エアシリンダ16Bのピストンロッド16dの先端が後側のガイド14の上端部の後面に連結されている。
【0038】
ガイド13,14のうちの後側のガイド14は、
図10に示すように、左右両端部に位置し下方に延びる両端脚部14A,14Aと、両端脚部14A,14Aの間の中央に位置し下方に延びる中央脚部14Bと、を備えている。前側のガイド13は、後側のガイド14の一方(左側)の端脚部14Aと中央脚部14Bとの間に位置し互いに離間して下方に延びる2つの左側脚部13A,13Aと、後側のガイド14の他方(右側)の端脚部14Aと中央脚部14Bとの間に位置し互いに離間して下方に延びる2つの右側脚部13B,13Bと、を備えている。後側のガイド14の両端脚部14A,14A及び中央脚部14Bの下端部と前側のガイド13の4つの脚部13A,13A,13B,13Bの下端部とが下端側ほど互いに前後方向に離間する側に広がるように傾斜して構成されている。このようにガイド13,14の下端の開口を前後方向により広くすることによって、印刷ユニットから上方へ排出されてくる旧版12Bが前側のガイド13と後側のガイド14との間に確実に挿入されるようにしている。
【0039】
第6移動手段16は、
図13に示すように、伸縮自在でストロークが異なる左右のエアシリンダ16A,16Bから構成されている。ストロークが相対的に長い左側の第1エアシリンダ16Aは、腕部3の先端に固定された固定部材17に固定されたシリンダチューブ16aと、前記可動レール15Bの連結プレート18の下端部に先端(下端)が固定されたピストンロッド16bと、を備えている。ストロークが相対的に短い右側の第2エアシリンダ16Bは、前記可動レール15Bの上端部に固定されたシリンダチューブ16cと、後側のガイド14の上端部の前面に先端が連結されたピストンロッド16dと、を備えている。したがって、排版ガイド部5を下降させる場合には、まず左側の第1エアシリンダ16Aを伸長作動させて可動レール15Bを下降させることにより、短縮状態の第2エアシリンダ16B及び一対のガイド13,14を一体的に下降させる。次に、第2エアシリンダ16Bを伸長作動させて一対のガイド13,14を更に下降させることにより、印刷ユニットから上方へ排出される旧版12Bを案内及び支持可能な位置まで一対のガイド13,14を移動(下降)させる。下降させた一対のガイド13,14を上昇させる場合には、まず伸長状態の第2エアシリンダ16Bを短縮作動させて一対のガイド13,14を第2エアシリンダ16Bのストローク分だけ上昇させる。こののち、伸長状態の第1エアシリンダ16Aを短縮作動させて可動レール15Bを上昇させることにより、短縮状態の第2エアシリンダ16B及び一対のガイド13,14を一体的に上昇させる(
図9参照)。尚、一対のガイド13,14を下降させる場合の第1エアシリンダ16Aと第2エアシリンダ16Bの伸長作動は同時に行ってもよい。また、下降させた一対のガイド13,14を上昇させる場合の第1エアシリンダ16Aと第2エアシリンダ16Bの短縮作動は同時に行ってもよい。
【0040】
<版収納部>
版収納部6は、印刷ユニット毎に設けられた新しい新版12Aを収納する新版収納部6A(
図1~
図3に図示)と、版胴から排出された旧版12Bを収納する旧版収納部6B(
図11にのみ図示)と、を備えている。旧版収納部6Bも、印刷ユニット毎に設けてもよいし、1箇所にのみ設ける又は複数箇所に設けてもよい。尚、
図1及び
図2では、新版収納部6Aのみを図示している。新版収納部6A及び旧版収納部6Bのいずれも、左側のステップ10の外側、つまり手摺り11の外側に位置するように手摺り11に設けられている。旧版収納部6Bは、新版収納部6Aに左右方向で重なるように配置してもよいし、前後方向に隣り合うように並べて配置してもよい。新版収納部6Aは、例えば、
図3(a)に示すように、新版12Aを縦長姿勢で立て掛けることができるように上端側ほど手摺り11側に位置する傾斜板部6Kを備えて構成されているが、版収納箱内に版を仕切る仕切部を設けて1枚ずつ真っ直ぐ(垂直に)収納できる構成であってもよい。また、新版収納部6Aは、
図3(b)に示すように、新版12Aをその縦長方向が垂直方向となる姿勢で収納するよう構成されている。
【0041】
<制御部>
制御部は、印刷機と連携して前述の第1移動手段22~第6移動手段16の駆動を制御する。また、制御部は、第1移動手段22~第6移動手段16を駆動してエラーになったときのエラー対応を行う。エラー時は、例えば駆動手段の駆動を停止し、報知手段を作動させてオペレータにエラーになっている旨を報知する。
【0042】
上記のように構成された印刷機の版移動装置を用いて、新版12A又は旧版12Bを移動させる場合を説明する。
【0043】
<新版移動工程>
新版12Aを新版収納部6Aから印刷ユニットへ移動させる新版移動工程は、まず、
図3(a),(b)に示すように、新版収納部6Aに上下方向に長い縦長姿勢で立て掛けられた新版12Aを吸着パッド45B1,45B2,45B3で吸着するために、第1移動手段22のモータ26を駆動して腕部3を下降させる。新版12Aに対する版保持部4の吸着部45の高さが合う位置まで腕部3を下降させた後、第2移動手段31のモータ34を駆動して、
図3(a)において右側に少し移動させて吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3を縦長姿勢で収納されているフラットな状態の新版12Aの裏面に当接させる。詳細には、吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3が、新版12Aの裏面の左端部(新版12Aの天地方向天側の端部、
図3(b)参照)に当接するように第1移動手段22のモータ26及び第2移動手段31のモータ34を予め記憶されているプログラムに基づいて駆動制御する。
【0044】
そして、フラットな状態の新版12Aを吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3で吸着した後、第2移動手段31のモータ34を少し駆動して吸着保持した新版12Aを新版収納部6Aから上方へ所定量離間させる。その位置で2つのエアシリンダ55,55を短縮作動させて3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3を第1突出状態から第2突出状態に切り替えて、保持した新版12Aの版面を湾曲させる。そして、第1移動手段22のモータ26の駆動により新版12A(腕部3)を上昇させる。上昇後は、第5移動手段(モータ)53を駆動して縦長姿勢の新版12Aが横長姿勢になるように新版12Aを軸心Y回りに90度回転させて姿勢変更させる(
図4(a),(b)参照)。続いて、第4移動手段(ロータリアクチュエータ)44を駆動して新版12Aを縦軸X回りに90度回転させて、新版12Aの厚み方向が版胴の回転軸と直交する前後方向(版胴に版を供給可能な向き)になるように新版12Aの向きを変更する(
図5参照)。続いて、
図5の状態から、第2移動手段31のモータ34を駆動して印刷ユニットの上方まで新版12Aを移動させる(
図6参照)。移動後は、2つのエアシリンダ55,55を伸長作動させて3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3を第2突出状態から第1突出状態(
図14(a)参照)に切り替えることにより、湾曲していた新版12Aをフラットな状態に復帰させる。そして、この状態で、版保持部4の腕部3を第1移動手段22によって少し下降させてから、新版12Aの下端部を版着脱装置70が備える版案内板Sの後面上端部に軽く当接するように第3移動手段42のモータ48を駆動して吸着部45を少しだけ前方へ移動させる。これにより吸着部45で吊下げられた新版12Aの挙動が安定する。こののち、腕部3を更に下降させて新版12Aを版着脱装置70が備える版案内板Sの後面とローラRとの間を通して、所定位置まで移動(下降)させる(
図7参照)。移動後は、吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3の吸着を解除し、新版12Aを版着脱装置70が備える位置決め部80に載置させる。その後、予め設定されている待機位置まで版保持部4を移動させて待機状態とする。ここで待機位置は、ステップ10上で作業を行うオペレータの邪魔にならないよう版収納部6の上方位置に設定することが望ましい。具体的には、
図4(a)の状態(但し、新版12Aが無い状態)を待機位置として設定することが望ましい。
【0045】
上記のように、縦長姿勢で版保持部4に保持された新版12Aを新版12Aの厚み方向の軸心Y回りに回動させて横長姿勢に変更して、版胴へ供給することができる。これにより、新版収納部6Aを縦長姿勢に対応した構成にできるので、新版収納部6Aの前後方向のサイズを小さくすることができる。従って新版収納部6Aの設置スペースを小さく抑えることができる。
【0046】
<旧版移動工程>
旧版12Bを回収して旧版収納部6Bへ移動させる旧版移動工程は、版保持部4を待機位置から印刷ユニットの上方に位置させるように、制御部は、第2移動手段31のモータ34を駆動する。版保持部4が印刷ユニットの上方に位置すると、第1移動手段22のモータ26を駆動して腕部3と共に版保持部4及び排版ガイド部5を所定高さまで下降させる。続いて、第6移動手段16のエアシリンダ16A,16Bを伸長作動させて排版ガイド部5を下降させ、排版ガイド部5が印刷ユニットから上方へ排出される旧版12Bを案内及び支持可能な位置まで移動させる。制御部は、排版ガイド部5の下降後、版胴を回転させるともに版着脱装置70を作動させて旧版12Bを印刷ユニットの上方へ排出することによって、旧版12Bが排版ガイド部5の前後のガイド13,14の間に挿入される(
図8参照)。次に、第3移動手段42のモータ48を駆動させることにより、版保持部4を後方に少し移動させて吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3を旧版12Bの裏面に接触させる。このとき旧版12Bをガイド13,14が支持していることにより、吸着パッド45B1,45B3を確実に旧版12Bの裏面に接触させることができる。そして版保持部4の吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3で旧版12Bを吸着してから、第1移動手段22のモータ26を駆動して旧版12Bを上方へ移動させる(
図9参照)。このときの吸着パッド45B1,45B2,45B3は第1突出状態となっている。旧版12Bの上方への移動中に、第6移動手段16のエアシリンダ16A,16Bを短縮作動させて排版ガイド部5を上昇させる。上昇後(
図9の上昇位置D1の位置した時)に2つのエアシリンダ55,55を短縮作動させて3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3を第1突出状態から第2突出状態に切り替えて旧版12Bを湾曲させるとともに、第2移動手段31のモータ34を駆動して版保持部4を版収納部6(支柱部2)側へ移動させてから、第4移動手段(ロータリアクチュエータ)44を駆動することにより旧版12Bを縦軸X回りに90度回転させて、旧版12Bの厚み方向が版胴の回転軸に沿う左右方向になるように旧版12Bの向きを変更する。続いて、第5移動手段のモータ53を駆動して横長姿勢の旧版12Bを軸心Y回りに90度回転させて縦長姿勢になるように旧版12Bの姿勢を変更する(
図10参照)。変更後は、旧版12Bを所定位置まで下降させてから吸着部45の吸着パッド45B1,45B2,45B3による旧版12Bの吸着を解除すると同時(略同時でもよい)に、2つのエアシリンダ55,55を伸長作動させて3つの吸着パッド45B1,45B2,45B3を第2突出状態から第1突出状態に切り替えることにより湾曲していた旧版12Bを略フラットな状態に復帰させてから、旧版12Bを旧版収納部6Bに縦長姿勢で立て掛けた状態にする(
図11参照)。旧版12Bを旧版収納部6Bに縦長姿勢で立て掛けた後は、版保持部4を待機位置まで移動して待機状態にする。なお、連続して新版移動工程を行う場合、版保持部4は待機位置に移動することなく新版移動工程へ移行する。尚、新版12A及び旧版12Bを湾曲させるタイミングは、すなわち、第1突出状態と第2突出状態とを切り替えるタイミングは、上記説明したタイミング以外に設定してもよい。
【0047】
上記のように、版胴から排出される横長姿勢の旧版12Bを版保持部4で保持し、版保持部4で保持された旧版12Bを姿勢変更手段により旧版12Bの厚み方向の軸心Y回りに回動させて旧版12Bの姿勢を、横長の姿勢から縦長の姿勢に姿勢変更して旧版収納部6Bに収納することができる。これにより、旧版収納部6Bを縦長姿勢に対応した構成にできるので、旧版収納部6Bの前後方向のサイズを小さくすることができる。従って旧版収納部6Bの設置スペースを小さく抑えることができる。
【0048】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
前記実施形態では、新版移動工程において、新版収納部6Aの縦長姿勢の新版12Aを吸着部45で吸着して(
図3(a),(b)参照)第1移動手段22で上昇させる上昇移動工程では、新版12Aを吸着した吸着部は、第5移動手段(モータ)53のモータ軸による1点支持状態となるため、新版12Aの姿勢が安定しづらい。それを解消するために、上昇移動工程では、第5移動手段(モータ)53のモータ軸が支持する全部材(吸着部45、吸着部45に保持された新版12A、配管配線等)の合成重心Gがモータ軸(軸心Y)の略真下に位置すべく、第5移動手段(モータ)53を所定量回転させることが望ましい。この時の新版12Aは、
図16に示すように、縦長姿勢に対し所定角度傾斜した傾斜姿勢となる。この新版12Aの傾斜角度は、合成重心Gの位置により設定する。前記合成重心Gが軸心Yの略真下に位置することで、上昇移動工程中の新版12Aの姿勢が安定する。そして、上昇移動工程が終わると、再度第5移動手段(モータ)53を駆動して、新版12Aの姿勢を傾斜姿勢から横長姿勢(
図4(a),(b)参照)へ変更する。変更後は、前述した動作と同様の動作を行う。尚、旧版移動工程における旧版12Bを旧版収納部6Bに向けて下降させる時も同様に傾斜姿勢にすることが好ましい。
【0050】
また、前記実施形態では、1台の印刷ユニットについて版移動装置による新版移動工程及び旧版移動工程を説明したが、
図1に示す複数台の印刷ユニットにおいて同時に新版移動工程又は旧版移動工程を進めると、隣接する印刷ユニット間において版同士が接触してしまう動作があり、版を損傷するおそれがある。その対策として、隣接する印刷ユニット間において同時に新版移動工程又は旧版移動工程を進めると、隣接する印刷ユニット間において版同士が接触してしまう動作については、印刷ユニット間で時間差を設けて実行する、あるいは位置をずらして実行することが望ましい。
図15~
図19にはその一例を示している。尚、
図15~
図19では、支柱部2、腕部3、第2移動手段31、第4移動手段44等にカバー(符号は付けていない)が設置された状態を示している。
【0051】
図15~
図19は、新版移動工程の動作状態を示している。
図15における紙面右側の版移動装置の状態は、
図3に示される版移動装置の状態に対応している。また、
図18における紙面右側の版移動装置の状態は、
図4に示される版移動装置の状態に対応している。
図15~
図19に示すように、後側(
図15では紙面右側)の版移動装置の版保持部4が新版収納部6Aに収納された新版12Aを吸着して移送を行う時には、前側(
図15では紙面左側)の版保持部4は、
図15~
図17に示す位置、すなわち、腕部3を上昇させた位置で、かつ、後側の版保持部4に対して印刷ユニット側(
図17では紙面右側)に少しずれた位置に待機させている。
【0052】
このように版胴の軸線方向で前後の版保持部4の相対位置をずらすことで、
図18,19に示すように、後側の版移動装置において、第1移動手段22のモータ26の駆動により新版12A(腕部3)を上昇させた上で、第5移動手段(モータ)53を駆動して新版12Aの姿勢を
図16に示す傾斜姿勢(又は縦長姿勢)から横長姿勢になるように新版12Aを軸心Y回りに90度回転させて姿勢変更させるときに、新版12Aが前側の版保持部4に干渉しないようにしている。詳細には、新版12Aの端部が前側の版保持部4が備える吸着部45に干渉しないようにしている。
【0053】
さらに、
図18,19に示す状態の後、後側の版移動装置の第4移動手段(ロータリアクチュエータ)44を駆動して版保持部4が保持している新版12Aを縦軸X回りに90度回転させて、新版12Aの厚み方向が版胴の回転軸と直交する前後方向(版胴に版を供給可能な向き)になるように新版12Aの向きを変更するときにも、上記のように版胴の軸線方向で前後の版保持部4の相対位置をずらしておくことで、新版12Aが前側の版保持部4に干渉しないようにしている。そしてこの後、後側の版保持部4が新版12Aを保持して版着脱装置70側へ移動して前側の版保持部4を通り過ぎてから、前側の版保持部4は新版12Aを吸着して版着脱装置70側へ移送する動作を開始する。すなわち、前後の版移動装置間で動作に時間差を設けている。
【0054】
なお、上記説明は隣接する2つの印刷ユニット間について行った。
図1、
図2に示すような3つ以上の印刷ユニットが並んで配置される印刷機において、3つ以上の印刷ユニットで同時に新版移動工程又は旧版移動工程を行う場合は、全印刷ユニット間で版保持部4の相対位置をずらして工程動作を実行させる、又は時間差を設けて工程動作を実行させるようにすればよいが、時間短縮の観点から、全印刷ユニットを奇数番目の印刷ユニットのグループと偶数番目の印刷ユニットのグループに分け、これら2グループ間で版保持部4の相対位置をずらして工程動作を実行させる、又は時間差を設けて工程動作を実行させる方が良い。
【0055】
また、手動で版着脱装置70に新版が供給された状態にある時に、誤って版移動装置が別の新版を版着脱装置70に供給することを回避するために、版着脱装置70に供給された版を検知可能な検出手段としての版有無センサ61を設けてもよい。版有無センサ61は、検出距離限定タイプの非接触式のセンサが好ましい。
図20に示すように、本実施形態では、版有無センサ61は、版着脱装置70の版案内板Sの上部において上側のローラRの下側近傍の位置に1個設けられている。この位置は、版着脱装置70の位置決め部80に載置された状態の新版に覆われる位置である。この版有無センサ61は版を検知しているときは、新版移動工程を開始させないように制御することで、手動で版着脱装置70に新版が供給された状態にある時に、誤って版移動装置が別の新版を版着脱装置70に供給することを回避している。
【0056】
なお、この版有無センサ61は、新版移動工程において新版12Aが正常に移動しているか確認するためにも使用されている。具体的には、新版移動工程において新版12Aの下端縁が版案内板Sと上側のローラRとの間を設計上の正しいタイミングで下方へ通過したか否かを確認するためにも使用される。即ち、新版12Aの下端縁が版有無センサ61の検知領域を下方へ通過する設計上のタイミングの直後に版有無センサ61が新版12Aを検知したかどうかを確認することで、新版12Aが正常に移動しているかどうかを判断している。新版12Aが正常に移動していないと判断した場合には、エラー処理を行う。なお、新版12Aの下端縁が上側のローラRの版案内板S側を通過した場合にも、新版12Aと版有無センサ61との距離が大きくなり、その結果、新版12Aは版有無センサ61の検知領域から外れることになるため、新版12Aが正常に移動していないと判断する。
【0057】
また、新版移動工程において、新版12Aを版移動装置が版着脱装置70の所定位置(位置決め部80)へ移動(下降)させる時に、所定位置(位置決め部80)に正しく供給(載置)されるように、新版12Aの左右位置を調整する調整手段を備えていてもよい。この調整手段について
図20及び
図21を用いて説明する。調整手段は、新版12Aの左右位置を検出するための左右位置検出手段を備えている。この左右位置検出手段は、版着脱装置70の版案内板Sの下部に設置される位置決め部80の少し上側において左右方向に離間して配置される左右一対のセンサ58,59を備えている。この左右一対のセンサ58,59は、正しい位置にある新版12Aの左右端それぞれを同時に検知できる間隔で配置されている。新版移動工程において、制御部は、第1移動手段によって下降してきた新版12Aの下端が位置決め部80の少し上側の位置であって、左右のセンサ58,59が新版12Aの左右端を検知可能な上下位置で一旦停止するように制御する。そして、新版12Aが停止した時に各センサ58,59の検知状態を確認する。左右両方のセンサ58,59が新版12Aを検知している場合は、制御部は、新版12Aの左右位置が正常であると判断し、この左右位置の状態でさらに下降させて、吸着部45の吸着を解除させる。これにより、新版12Aをその下端に形成される被位置決め部(不図示)を位置決め部80の位置決めピン(不図示)に係合させた状態で、位置決め部80に載置させることができる。すなわち、新版12Aが版着脱装置70の所定位置に正しく供給(載置)される。一方、前記センサ58,59のうちの左右一方のセンサのみが新版12Aを検知している場合は、制御部は、新版12Aの左右位置が不適であると判断し、左右両方のセンサ58,59が同時に検知するように、第2移動手段31(モータ34)の駆動を制御して新版12A(新版12Aを保持している版保持部4)を左右他方のセンサの方向に移動させる。左右両方のセンサ58,59が新版12Aを検知した状態になると、制御部は、新版12Aの左右位置が正常であると判断し、この左右位置の状態でさらに下降させて、吸着部45の吸着を解除させる。尚、左右位置検出手段の構成は上記構成でなくてもよい。例えば、左右一対のセンサ58,59を、新版12Aの左右端それぞれを同時に検知しない最小間隔で配置することで新版12Aの左右位置を検出できるよう構成することもできる。要するに、左右位置検出手段は、新版12Aの左右位置を検出できるものであればよい。また、
図20及び
図21に示すように、位置決め部80の左右方向中央に位置し、かつ、前記左右一対のセンサ58,59よりも少し下側に位置する下端検知センサ60を設け、この下端検知センサ60が新版12Aの下端を検知すると、新版12Aをその下端に形成される被位置決め部(不図示)が位置決め部80の位置決めピン(不図示)に係合させた状態で、位置決め部80に載置させたと制御部が判断するように構成することもできる。
【0058】
また、前記実施形態では、新版収納部6Aは、新版12Aをその縦長方向が垂直方向となる姿勢で収納するよう構成されていたが、新版12Aの姿勢を、
図22に示すように、縦長方向が垂直方向に対して右側へ所定角度傾斜した姿勢になるように新版収納部6Aを構成することもできる。なお、本実施形態では上記所定角度を15度に設定している。但し、上記所定角度は、15度以外の角度にすることもできる。たとえば、
図16で示す新版12Aを傾斜姿勢と同じ角度に設定してもよい。そして、新版収納部6Aの傾斜板部6Kに新版12Aの下端及び右端をそれぞれ当接支持する支持部6a,6bを配置すれば、新版12Aを位置精度よく安定して新版収納部6Aに収納することができる。従って、吸着パッド45B1,45B2,45B3による新版収納部6Aに収納された新版12Aの吸着位置精度の低下を防止することができる。このように新版12Aを新版収納部6Aに傾斜して収納した場合でも、第5移動手段53の回動角度を調整すれば、新版12の姿勢変更を正確に行うことができる。尚、
図22においては、新版12Aの左側端部が天地方向天側の端部となる。
【0059】
また、前記実施形態では、版保持部4は、吸着により版を保持する構成であったが、これに限定されない。例えば、挟持により版を保持する構成であってもよい。また、実施形態では、版を保持する箇所を3か所にしたが、2箇所以上の任意の箇所であれば、何か所であってもよい。2箇所保持する場合、例えば、版の両端部の2箇所で保持し、版の中央部で版に当接する突起を設けて版を湾曲させるようにすることもできる。
【0060】
また、前記実施形態では、姿勢変更手段の回転軸の軸心Yを、版保持部4で保持した版の幅方向一端部に位置させたが、版保持部4で保持した版の幅方向中央よりも幅方向一方側に寄った位置であれば、どのような位置であってもよい。
【0061】
また、前記実施形態では、版収納部6を、印刷ユニットの横側方に設けられるステップ10の外側に設けたが、印刷ユニットの上方の天井に吊り下げて設けてもよく、印刷作業時に邪魔にならない位置であれば、どこに設けてもよい。
【0062】
また、前記実施形態では、複数の印刷ユニットを備えた印刷機であったが、1台の印刷ユニットを備えた印刷機であってもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、姿勢変更手段の回転軸の軸心Yが先端側ほど下方に位置する前下がり傾斜姿勢に構成したが、姿勢変更手段の回転軸の軸心を水平な軸心に構成してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…印刷機、1A,1B,1C,1D…印刷ユニット、2…支柱部、3…腕部、4…版保持部、5…排版ガイド部、6…版収納部、6A…新版収納部、6B…旧版収納部、6K…傾斜板部、6a,6b…支持部、7…給紙部、8…排紙部、9,10…ステップ、11…手摺り、12A…新版、12B…旧版、13,14…ガイド、13A,13B…脚部、14…ガイド、14A,14B…脚部、15…レール、15A…固定レール、15B…可動レール、16A,16B…エアシリンダ、16a…シリンダチューブ、16b…ピストンロッド、16cシリンダチューブ、16d…ピストンロッド、17…固定部材、18…連結プレート、21…支柱本体、22…第1移動手段、23…ネジ軸、24…ナット部材、25…案内部材、26…モータ、31…第2移動手段、32…ネジ軸、33…ナット部材、34…モータ、34A…駆動軸、35…ベベルギア機構、35A…駆動側ベベルギア、35B…従動側ベベルギア、36,37…ガイド部材、38…ローラ、41…支持部材、42…第3移動手段、43…本体部、44…第4移動手段(ロータリアクチュエータ)、45…吸着部、45A…板部材、45B1,45B2,45B3…吸着パッド(保持器)、46…ネジ軸、47…ナット部材、48…モータ、48A…駆動軸、49…ベベルギア機構、49A…駆動側ベベルギア、49B…従動側ベベルギア、50…レール部材、51…係合部材、52…ブラケット、53…第5移動手段(モータ)、54…取付部材、54A…縦板部、54B…斜め板部、55…エアシリンダ、55A…ロッド、58,59…センサ、60…下端検知センサ、61…版有無センサ、70…版着脱装置、80…位置決め部、D1…上昇位置、G…合成重心、H…ホース、R…ローラ、S…版案内板、X…上下軸(縦軸)、Y…回転軸(軸心)