(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072325
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】胚分類方法、コンピュータプログラム、および胚分類装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20240521BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240521BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240521BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240521BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N21/17 630
G01N33/483 C
C12M1/00 A
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183037
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 涼
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045CB01
2G045FA19
2G045HA16
2G045JA03
2G059AA05
2G059BB09
2G059BB14
2G059EE09
2G059FF02
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM04
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB11
4B029BB20
4B029FA03
4B029FA15
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】胚盤胞期胚を、三次元画像に基づいて定量的に分類できる技術を提供する
【解決手段】まず、光干渉断層撮影により、胚盤胞期胚の三次元画像D2を取得する。次に、三次元画像D2に基づいて、内部細胞塊の体積、内部細胞塊の厚さ、内部細胞塊の厚さ分布、栄養外胚葉の体積、栄養外胚葉の厚さ、栄養外胚葉の厚さ分布、栄養外胚葉の細胞数のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータPを算出する。そして、当該パラメータPを入力変数とし、胚盤胞期胚の分類結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルM1,M2,M3に、分類対象となる胚盤胞期胚のパラメータPを入力し、機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、胚盤胞期胚を分類する。これにより、胚盤胞期胚の分類を、三次元画像D2に基づいて定量的に行うことができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚盤胞期胚を分類する胚分類方法であって、
a)光干渉断層撮影により、前記胚盤胞期胚の三次元画像を取得する画像取得工程と、
b)前記三次元画像に基づいて、内部細胞塊の体積、内部細胞塊の厚さ、内部細胞塊の厚さ分布、栄養外胚葉の体積、栄養外胚葉の厚さ、栄養外胚葉の厚さ分布、栄養外胚葉の細胞数のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータを算出するパラメータ算出工程と、
c)前記パラメータを入力変数とし、前記胚盤胞期胚の分類結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルに、分類対象となる前記胚盤胞期胚の前記パラメータを入力し、前記機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚盤胞期胚を分類する分類工程と、
を有する、胚分類方法。
【請求項2】
請求項1に記載の胚分類方法であって、
前記分類結果は、前記内部細胞塊の評価結果を含む、胚分類方法。
【請求項3】
請求項1に記載の胚分類方法であって、
前記分類結果は、前記栄養外胚葉の評価結果を含む、胚分類方法。
【請求項4】
請求項1に記載の胚分類方法であって、
前記分類結果は、胚盤胞期胚の発育段階の推定結果を含む、胚分類方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
前記入力変数は、前記内部細胞塊の厚さを表すパラメータとして、前記内部細胞塊の厚さの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを含む、胚分類方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
前記入力変数は、前記内部細胞塊の厚さ分布を表すパラメータとして、前記内部細胞塊の厚さ分布の尖度、歪度、最頻値、ヒストグラムにおける各ビンの密度のうちの少なくともいずれか1つを含む、胚分類方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
前記入力変数は、前記栄養外胚葉の厚さを表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の厚さの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを含む、胚分類方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
前記入力変数は、前記栄養外胚葉の厚さ分布を表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の厚さ分布の尖度、歪度、最頻値、ヒストグラムにおける各ビンの密度のうちの少なくともいずれか1つを含む、胚分類方法。
【請求項9】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
前記入力変数は、前記栄養外胚葉の細胞数を表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の前記内部細胞塊と重ならない部分の細胞数または細胞密度を含む、胚分類方法。
【請求項10】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法であって、
d)前記パラメータと、前記パラメータに対応する前記胚盤胞期胚の既知の分類結果とを教師データとして、機械学習アルゴリズムにより、前記機械学習モデルを生成する学習工程
をさらに有する、胚分類方法。
【請求項11】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の胚分類方法を、コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項12】
胚盤胞期胚を分類する胚分類装置であって、
光干渉断層撮影により、前記胚盤胞期胚の三次元画像を取得する画像取得部と、
前記三次元画像に基づいて、内部細胞塊の体積、内部細胞塊の厚さ、内部細胞塊の厚さ分布、栄養外胚葉の体積、栄養外胚葉の厚さ、栄養外胚葉の厚さ分布、栄養外胚葉の細胞数のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータを入力変数とし、前記胚盤胞期胚の分類結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルに、分類対象となる前記胚盤胞期胚の前記パラメータを入力し、前記機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚盤胞期胚を分類する分類部と、
を備える、胚分類装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚分類方法、コンピュータプログラム、および胚分類装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療を目的とする生殖補助医療では、体外で受精させた胚を一定期間培養した後、胚を体内に戻すことが行われている。このような生殖補助医療においては、妊娠の成功率を高めるために、複数の胚の状態を的確に評価し、良好な胚を体内に戻すことが重要である。
【0003】
胚は、受精後、分割期を経て胚盤胞期へ至る。胚盤胞期の胚(以下「胚盤胞期胚」と称する)は、球面状の透明帯と、透明帯の中に収容された内部細胞塊および栄養外胚葉とを有する。従来、胚盤胞期胚の評価には、主にGardner分類が使用されている。Gardner分類は、胚盤胞期胚の発育段階を6段階に分類し、内部細胞塊の状態を3段階に分類し、栄養外胚葉の状態を3段階に分類するものである。従来の生殖補助医療では、胚培養士が、胚の顕微鏡画像を見ながら、Gardner分類の基準に沿って胚盤胞期胚を評価していた。
【0004】
しかしながら、従来、胚培養士が評価に使用する顕微鏡画像は、胚を一方向から見た二次元画像であるため、胚の立体的な構造を正確に把握することは難しい。そこで、近年、胚を光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)により胚を撮影し、得られた三次元画像を、胚の観察に利用することが提案されている。胚を光干渉断層撮影により撮影する従来の技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、光干渉断層撮影により得られた三次元画像に基づいて、胚盤胞期胚の状態を定量的に分類する方法については、まだ十分に確立されていない。上述した胚培養士による主観的な判断では、胚培養士の技量によって判断に差が生じる場合がある。生殖補助医療の成功率をより高めるために、胚培養士の技量に依存することなく、三次元画像に基づいて、胚盤胞期胚の状態を定量的に分類できる技術が求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、胚盤胞期胚を、三次元画像に基づいて定量的に分類できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、胚盤胞期胚を分類する胚分類方法であって、a)光干渉断層撮影により、前記胚盤胞期胚の三次元画像を取得する画像取得工程と、b)前記三次元画像に基づいて、内部細胞塊の体積、内部細胞塊の厚さ、内部細胞塊の厚さ分布、栄養外胚葉の体積、栄養外胚葉の厚さ、栄養外胚葉の厚さ分布、栄養外胚葉の細胞数のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータを算出するパラメータ算出工程と、c)前記パラメータを入力変数とし、前記胚盤胞期胚の分類結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルに、分類対象となる前記胚盤胞期胚の前記パラメータを入力し、前記機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚盤胞期胚を分類する分類工程と、を有する。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の胚分類方法であって、前記分類結果は、前記内部細胞塊の評価結果を含む。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の胚分類方法であって、前記分類結果は、前記栄養外胚葉の評価結果を含む。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記分類結果は、胚盤胞期胚の発育段階の推定結果を含む。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記入力変数は、前記内部細胞塊の厚さを表すパラメータとして、前記内部細胞塊の厚さの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを含む。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記入力変数は、前記内部細胞塊の厚さ分布を表すパラメータとして、前記内部細胞塊の厚さ分布の尖度、歪度、最頻値、ヒストグラムにおける各ビンの密度のうちの少なくともいずれか1つを含む。
【0014】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記入力変数は、前記栄養外胚葉の厚さを表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の厚さの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを含む。
【0015】
本願の第8発明は、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記入力変数は、前記栄養外胚葉の厚さ分布を表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の厚さ分布の尖度、歪度、最頻値、ヒストグラムにおける各ビンの密度のうちの少なくともいずれか1つを含む。
【0016】
本願の第9発明は、第1発明から第8発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、前記入力変数は、前記栄養外胚葉の細胞数を表すパラメータとして、前記栄養外胚葉の前記内部細胞塊と重ならない部分の細胞数または細胞密度を含む。
【0017】
本願の第10発明は、第1発明から第9発明までのいずれか1発明の胚分類方法であって、d)前記パラメータと、前記パラメータに対応する前記胚盤胞期胚の既知の分類結果とを教師データとして、機械学習アルゴリズムにより、前記機械学習モデルを生成する学習工程をさらに有する。
【0018】
本願の第11発明は、コンピュータプログラムであって、第1発明から第10発明までのいずれか1発明の胚分類方法を、コンピュータに実行させる。
【0019】
本願の第12発明は、胚盤胞期胚を分類する胚分類装置であって、光干渉断層撮影により、前記胚盤胞期胚の三次元画像を取得する画像取得部と、前記三次元画像に基づいて、内部細胞塊の体積、内部細胞塊の厚さ、内部細胞塊の厚さ分布、栄養外胚葉の体積、栄養外胚葉の厚さ、栄養外胚葉の厚さ分布、栄養外胚葉の細胞数のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータを算出するパラメータ算出部と、前記パラメータを入力変数とし、前記胚盤胞期胚の分類結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルに、分類対象となる前記胚盤胞期胚の前記パラメータを入力し、前記機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚盤胞期胚を分類する分類部と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本願の第1発明~第12発明によれば、従来、二次元の顕微鏡画像に基づいて、観察者が主観的な判断で行っていた胚盤胞期胚の分類を、三次元画像に基づいて定量的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】胚盤胞期胚の分類を行うためのコンピュータの機能を、概念的に示したブロック図である。
【
図5】胚盤胞期胚の分類処理の流れを示したフローチャートである。
【
図6】三次元画像における複数の領域を示した図である。
【
図7】厚さ分布を表すヒストグラムの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<1.胚分類装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る分類方法を実行可能な胚分類装置1の構成を示した図である。この胚分類装置1は、試料容器90内に保持された胚盤胞期胚9の光干渉断層撮影を行い、得られた三次元画像に基づいて、胚盤胞期胚9の状態を分類する装置である。胚盤胞期胚9は、一例としてはヒトの胚であるが、非ヒト動物の胚であってもよい。
【0024】
図1に示すように、胚分類装置1は、ステージ10、撮像部20、およびコンピュータ30を備えている。
【0025】
ステージ10は、試料容器90を支持する支持台である。試料容器90には、例えば、ウェルプレートが使用される。ウェルプレートは、複数のウェル(凹部)901を有する。各ウェル901は、U字状またはV字状の底部を有する。胚盤胞期胚9は、各ウェル901の底部付近に、培養液とともに保持される。試料容器90の材料には、光を透過する透明な樹脂またはガラスが使用される。
【0026】
ステージ10は、上下方向に貫通する開口部11を有する。試料容器90は、ステージ10の当該開口部11に嵌め込まれた状態で、水平に支持される。したがって、試料容器90の下面は、ステージ10に覆われることなく、撮像部20へ向けて露出する。
【0027】
撮像部20は、試料容器90内の胚盤胞期胚9を撮影するユニットである。撮像部20は、ステージ10に支持された試料容器90の下方に配置されている。撮像部20は、胚盤胞期胚9の断層画像および三次元画像を取得することが可能な、光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)装置である。
【0028】
図1に示すように、撮像部20は、光源21、物体光学系22、参照光学系23、検出部24、および光ファイバカプラ25を有する。光ファイバカプラ25は、第1光ファイバ251~第4光ファイバ254が、接続部255において連結されたものである。光源21、物体光学系22、参照光学系23、および検出部24は、光ファイバカプラ25により構成される光路を介して、互いに接続されている。
【0029】
光源21は、LED等の発光素子を有する。光源21は、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光を出射する。胚盤胞期胚9を侵襲することなく、胚盤胞期胚9の内部まで光を到達させるために、光源21から出射される光は、近赤外線であることが望ましい。光源21は、第1光ファイバ251に接続されている。光源21から出射される光は、第1光ファイバ251へ入射し、接続部255において、第2光ファイバ252へ入射する光と、第3光ファイバ253へ入射する光とに、分岐される。
【0030】
第2光ファイバ252は、物体光学系22に接続されている。接続部255から第2光ファイバ252へ進む光は、物体光学系22へ入射する。物体光学系22は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を含む複数の光学部品を有する。第2光ファイバ252から出射された光は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を通って、試料容器90内の胚盤胞期胚9に照射される。このとき、対物レンズ222により、光が胚盤胞期胚9へ向けて収束する。そして、胚盤胞期胚9において反射した光(以下「観察光」と称する)は、対物レンズ222およびコリメータレンズ221を通って、再び第2光ファイバ252へ入射する。
【0031】
図1に示すように、物体光学系22は、走査機構223に接続されている。走査機構223は、コンピュータ30からの指令に従って、物体光学系22を、鉛直方向および水平方向に微小移動させる。これにより、胚盤胞期胚9に対する光の入射位置を、鉛直方向および水平方向に微小移動させることができる。
【0032】
また、撮像部20は、図示を省略した移動機構により、水平方向に移動可能となっている。これにより、撮像部20の視野を、複数のウェル901の間で切り替えることができる。
【0033】
第3光ファイバ253は、参照光学系23に接続されている。接続部255から第3光ファイバ253へ進む光は、参照光学系23へ入射する。参照光学系23は、コリメータレンズ231およびミラー232を有する。第3光ファイバ253から出射された光は、コリメータレンズ231を通って、ミラー232へ入射する。そして、ミラー232により反射された光(以下「参照光」と称する)は、コリメータレンズ231を通って、再び第3光ファイバ253へ入射する。
【0034】
図1に示すように、ミラー232は、進退機構233に接続されている。進退機構233は、コンピュータ30からの指令に従って、ミラー232を、光軸方向に微小移動させる。これにより、参照光の光路長を変化させることができる。
【0035】
第4光ファイバ254は、検出部24に接続されている。物体光学系22から第2光ファイバ252へ入射した観察光と、参照光学系23から第3光ファイバ253へ入射した参照光とは、接続部255において合流して、第4光ファイバ254へ入射する。そして、第4光ファイバ254から出射された光は、検出部24へ入射する。このとき、観察光と参照光との間で、位相差に起因する干渉が生じる。この干渉光の分光スペクトルは、観察光の反射位置の高さによって異なる。
【0036】
検出部24は、分光器241および光検出器242を有する。第4光ファイバ254から出射された干渉光は、分光器241において波長成分ごとに分光されて、光検出器242へ入射する。光検出器242は、分光された干渉光を検出し、その検出信号を、コンピュータ30へ出力する。
【0037】
コンピュータ30の後述する画像取得部41は、光検出器242から得られる検出信号をフーリエ変換することで、観察光の鉛直方向の光強度分布を求める。また、走査機構223により、物体光学系22を水平方向に移動させつつ、上記の光強度分布の算出を繰り返すことにより、三次元空間の各座標における観察光の光強度分布を求めることができる。その結果、コンピュータ30は、胚盤胞期胚9の断層画像および三次元画像を得ることができる。
【0038】
断層画像は、二次元座標上に配列された複数の画素(ピクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。三次元画像は、三次元座標上に配列された複数の画素(ボクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。すなわち、断層画像および三次元画像は、いずれも、所定の座標上に輝度値が分布した撮影画像である。
【0039】
コンピュータ30は、撮像部20を動作制御する制御部としての機能を有する。また、コンピュータ30は、撮像部20から入力される検出信号に基づいて断層画像および三次元画像を作成し、得られた断層画像および三次元画像に基づいて、胚盤胞期胚9を分類するデータ処理部としての機能を有する。
【0040】
図2は、胚分類装置1の制御ブロック図である。
図2中に概念的に示したように、コンピュータ30は、CPU等のプロセッサ31、RAM等のメモリ32、およびハードディスクドライブ等の記憶部33を有する。記憶部33内には、胚分類装置1内の各部を動作制御するためのコンピュータプログラムである制御プログラムCP1と、断層画像D1および三次元画像D2を作成して胚盤胞期胚9を分類するためのコンピュータプログラムであるデータ処理プログラムCP2とが、記憶されている。
【0041】
制御プログラムCP1およびデータ処理プログラムCP2は、CDやDVDなどのコンピュータ30により読み取り可能な記憶媒体から読み取られて、記憶部33に記憶される。ただし、制御プログラムCP1およびデータ処理プログラムCP2は、ネットワーク経由でコンピュータ30にダウンロードされるものであってもよい。
【0042】
また、
図2に示すように、コンピュータ30は、上述した光源21、走査機構223、進退機構233、および光検出器242と、それぞれ通信可能に接続されている。また、コンピュータ30は、液晶ディスプレイ等の表示部70とも、通信可能に接続されている。コンピュータ30は、制御プログラムCP1に従って、上記の各部を動作制御する。これにより、試料容器90に保持された胚盤胞期胚9の撮影処理が進行する。
【0043】
図3は、胚盤胞期胚9の分類を行うためのコンピュータ30の機能を、概念的に示したブロック図である。
図3に示すように、コンピュータ30は、画像取得部41、領域抽出部42、パラメータ算出部43、発育段階推定部44、内部細胞塊評価部45、栄養外胚葉評価部46、および分類部47を有する。画像取得部41、領域抽出部42、パラメータ算出部43、発育段階推定部44、内部細胞塊評価部45、栄養外胚葉評価部46、および分類部47の各機能は、コンピュータ30のプロセッサ31が、上述したデータ処理プログラムCP2に従って動作することにより、実現される。画像取得部41、領域抽出部42、パラメータ算出部43、発育段階推定部44、内部細胞塊評価部45、栄養外胚葉評価部46、および分類部47が実行する処理の詳細については、後述する。
【0044】
<2.胚盤胞期胚の分類処理について>
続いて、上記の胚分類装置1を使用した胚盤胞期胚9の分類処理について、説明する。
【0045】
図4は、胚盤胞期胚9の構造を示した図である。胚盤胞期胚9は、受精後5~7日頃から着床までの胚である。胚は、受精後、分割期を経て胚盤胞期胚9となる。胚盤胞期胚9は、透明または半透明である。
図4に示すように、胚盤胞期胚9は、球面状の透明帯91と、透明帯91の中に収容された内部細胞塊92および栄養外胚葉93とを有する。内部細胞塊(Inner Cell Mass:ICM)92は、成長により胎児となる部分である。栄養外胚葉(Trophectoderm:TE)93は、成長により胎盤となる部分である。内部細胞塊92および栄養外胚葉93は、いずれも、複数の細胞により構成されている。また、透明帯91内には、内部細胞塊92および栄養外胚葉93に囲まれた胚盤胞腔94が存在する。
【0046】
胚盤胞期胚9は、第1初期胚盤胞、第2初期胚盤胞、完全胚盤胞、拡張胚盤胞、脱出胚盤胞、孵化胚盤胞の6段階の発育過程を経る。第1初期胚盤胞では、透明帯91内の胚盤胞腔94の割合が、50%未満である。第2初期胚盤胞では、透明帯91内の胚盤胞腔94の割合が、50%以上となる。完全胚盤胞では、透明帯91内の胚盤胞腔94の割合が、ほぼ最大化する。拡張胚盤胞では、胚盤胞期胚9が大きくなるとともに、透明帯91が薄くなる。脱出胚盤胞では、内部細胞塊92および栄養外胚葉93が、透明帯91から孵化する。孵化胚盤胞では、内部細胞塊92および栄養外胚葉93の透明帯91からの孵化が完了する。
【0047】
この胚分類装置1は、胚盤胞期胚9の発育段階、内部細胞塊92の状態、および栄養外胚葉93の状態を評価することにより、良好に培養が進んでいる胚盤胞期胚9を選別する。
【0048】
図5は、胚盤胞期胚9の分類処理の流れを示したフローチャートである。胚分類装置1において胚盤胞期胚9の分類を行うときには、まず、ステージ10に試料容器90をセットする(ステップS1:準備工程)。試料容器90内には、培養液とともに胚盤胞期胚9が保持されている。
【0049】
次に、胚分類装置1は、撮像部20により、胚盤胞期胚9の撮影を行う(ステップS2:画像取得工程)。撮像部20は、光干渉断層撮影を行う。具体的には、光源21から光を出射し、走査機構223により物体光学系22を微少移動させながら、観察光および参照光の干渉光を、波長成分ごとに、光検出器242で検出する。コンピュータ30の画像取得部41は、光検出器242から出力される検出信号に基づいて、胚盤胞期胚9の各座標位置における光強度分布を算出する。これにより、胚盤胞期胚9の断層画像D1および三次元画像D2が得られる。
【0050】
胚分類装置1は、1つの胚盤胞期胚9について、複数の断層画像D1と、1つの三次元画像D2とを取得する。また、胚分類装置1は、撮影対象となるウェル901を変更しながら、ステップS2の処理を繰り返すことにより、複数の胚盤胞期胚9の断層画像D1および三次元画像D2を取得する。得られた断層画像D1および三次元画像D2は、コンピュータ30の記憶部33に記憶される。また、コンピュータ30は、得られた断層画像D1および三次元画像D2を、表示部70に表示する。
【0051】
次に、コンピュータ30の領域抽出部42は、胚盤胞期胚9の三次元画像D2において、複数の領域を抽出する(ステップS3,領域抽出工程)。具体的には、領域抽出部42は、胚盤胞期胚9の三次元画像D2において、胚盤胞期胚9全体に相当する胚全体領域A0、透明帯91に相当する透明帯領域A1、内部細胞塊92に相当するICM領域A2、および栄養外胚葉93に相当するTE領域A3を、それぞれ抽出する。
【0052】
図6は、ステップS3において抽出された複数の領域を示した図である。
図6のように、領域抽出部42は、まず、三次元画像D2から胚全体領域A0を抽出する。次に、領域抽出部42は、胚全体領域A0の外表面から所定厚さの略球面状の領域を、透明帯領域A1として抽出する。次に、領域抽出部42は、胚全体領域A0から透明帯領域A1を除いた残りの領域(以下「内部領域Ai」と称する)を特定する。この内部領域Aiは、ICM領域A2とTE領域A3とを含む。
【0053】
続いて、領域抽出部42は、内部領域Aiにおいて、中心点Gに対する半径方向の厚みが相対的に小さい部分の厚みを、TE領域A3の厚みとして求める。そして、領域抽出部42は、内部領域Aiの外表面から、TE領域A3の厚み分の略球面状の領域を除いた残りの領域を、ICM領域A2として抽出する。その後、領域抽出部42は、内部領域AiからICM領域A2を除いた残りの領域を、TE領域A3として抽出する。
【0054】
コンピュータ30は、領域抽出部42により抽出された胚全体領域A0、透明帯領域A1、ICM領域A2、およびTE領域A3を、記憶部33に記憶する。また、コンピュータ30は、表示部70に表示された三次元画像D2において、透明帯領域A1、ICM領域A2、およびTE領域A3を、領域毎に色分けするなどして表示してもよい。
【0055】
次に、コンピュータ30のパラメータ算出部43が、上記の各領域A0,A1,A2,A3に基づいて、複数のパラメータPMを算出する(ステップS4:パラメータ算出工程)。複数のパラメータPMは、次の(1)~(7)のうちの少なくともいずれか1つを表すパラメータPMを含む。
(1)内部細胞塊92の体積
(2)内部細胞塊92の厚さ
(3)内部細胞塊92の厚さ分布
(4)栄養外胚葉93の体積
(5)栄養外胚葉93の厚さ
(6)栄養外胚葉93の厚さ分布
(7)栄養外胚葉93の細胞数
【0056】
(1)内部細胞塊92の体積
パラメータ算出部43は、上述したICM領域A2に基づいて、内部細胞塊92の体積を表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、ICM領域A2を構成するボクセルの数を、内部細胞塊92の体積を表すパラメータPMとする。ただし、パラメータ算出部43は、実空間中における1ボクセルあたりの体積に、ICM領域A2を構成するボクセルの数を乗算することにより、実空間における内部細胞塊92の体積を算出してもよい。
【0057】
(2)内部細胞塊92の厚さ
パラメータ算出部43は、上述したICM領域A2に基づいて、内部細胞塊92の厚さを表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、
図6のように、胚全体領域A0の重心Gを中心とする半径方向における、ICM領域A2の厚さw2を、内部細胞塊92の厚さを表すパラメータPMとする。また、パラメータ算出部43は、ICM領域A2の多点における厚さw2を算出し、それらの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを、内部細胞塊92の厚さを表すパラメータPMとして算出してもよい。
【0058】
(3)内部細胞塊92の厚さ分布
パラメータ算出部43は、上述したICM領域A2に基づいて、内部細胞塊92の厚さ分布を表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、ICM領域A2の上述した多点における厚さw2を集計し、それらの尖度、歪度、および最頻値のうちの少なくともいずれか1つを、内部細胞塊92の厚さ分布を表すパラメータPMとして算出する。
【0059】
また、
図7のように、パラメータ算出部43は、ICM領域A2の多点における厚さw2に基づいて、ヒストグラムHを作成してもよい。そして、パラメータ算出部43は、当該ヒストグラムHの各ビンBの全体に対する密度(density)を、内部細胞塊92の厚さ分布を表すパラメータPMとして算出してもよい。
【0060】
(4)栄養外胚葉93の体積
パラメータ算出部43は、上述したTE領域A3に基づいて、栄養外胚葉93の体積を表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、TE領域A3を構成するボクセルの数を、栄養外胚葉93の体積を表すパラメータPMとする。ただし、パラメータ算出部43は、実空間中における1ボクセルあたりの体積に、TE領域A3を構成するボクセルの数を乗算することにより、実空間における栄養外胚葉93の体積を算出してもよい。
【0061】
(5)栄養外胚葉93の厚さ
パラメータ算出部43は、上述したTE領域A3に基づいて、栄養外胚葉93の厚さを表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、
図6のように、胚全体領域A0の重心Gを中心とする半径方向における、TE領域A3の厚さw3を、栄養外胚葉93の厚さを表すパラメータPMとする。また、パラメータ算出部43は、TE領域A3の多点における厚さw3を算出し、それらの平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値、範囲のうちの少なくともいずれか1つを、栄養外胚葉93の厚さを表すパラメータPMとして算出してもよい。
【0062】
(6)栄養外胚葉93の厚さ分布
パラメータ算出部43は、上述したTE領域A3に基づいて、栄養外胚葉93の厚さ分布を表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、TE領域A3の上述した多点における厚さw3を集計し、それらの尖度、歪度、および最頻値のうちの少なくともいずれか1つを、栄養外胚葉93の厚さ分布を表すパラメータPMとして算出する。
【0063】
また、
図7と同様に、パラメータ算出部43は、TE領域A3の多点における厚さw3に基づいて、ヒストグラムHを作成してもよい。そして、パラメータ算出部43は、当該ヒストグラムHの各ビンBの全体に対する密度(density)を、栄養外胚葉93の厚さ分布を表すパラメータPMとして算出してもよい。
【0064】
(7)栄養外胚葉93の細胞数
パラメータ算出部43は、上述したTE領域A3に基づいて、栄養外胚葉93の細胞数を表すパラメータPMを算出する。例えば、パラメータ算出部43は、TE領域A3のうち、ICM領域A2と半径方向に重ならない部分(以下「非重複TE領域A31」と称する)において、厚さw3のピーク点Pの数を求める。そして、当該ピーク点Pの数に基づいて、栄養外胚葉93の細胞数を表すパラメータPMを算出する。
【0065】
ただし、非重複TE領域A31におけるピーク点Pの数は、栄養外胚葉93の内部細胞塊92と重なる部分における細胞数を反映していない。このため、パラメータ算出部43は、上記のピーク点Pの数により算出される細胞数を、非重複TE領域A31の体積で除算することにより、栄養外胚葉93の細胞密度を算出してもよい。そして、当該細胞密度を、栄養外胚葉93の細胞数を表すパラメータPMとしてもよい。
【0066】
また、パラメータ算出部43は、上記の細胞密度に、TE領域A3の体積を乗算することにより、栄養外胚葉93の全体における細胞数を表すパラメータPMを算出してもよい。
【0067】
コンピュータ30は、パラメータ算出部43により算出された複数のパラメータPMを、記憶部33に記憶する。また、コンピュータ30は、パラメータ算出部43により算出された複数のパラメータPMを、表示部70に表示してもよい。
【0068】
次に、コンピュータ30の発育段階推定部44が、胚盤胞期胚9の発育段階を評価する(ステップS5)。コンピュータ30の記憶部33には、胚盤胞期胚9の発育段階を推定するための発育段階推定モデルM1が記憶されている。発育段階推定モデルM1は、上述した複数のパラメータPMのうちの少なくともいずれか1つを入力変数とし、発育段階の推定結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルである。
【0069】
発育段階推定モデルM1は、予め、教師あり機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により作成される。機械学習を行うときには、上述したパラメータPMと、当該パラメータPMに対応する胚盤胞期胚9の既知の発育段階との組み合わせを多数用意する。そして、それらの組み合わせを教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習モデルの更新を行う。その結果、入力されたパラメータPMに基づいて、胚盤胞期胚9の発育段階を精度よく出力できる、発育段階推定モデルM1が作成される。
【0070】
ステップS5では、発育段階推定部44が、ステップS4において算出されたパラメータPMを、発育段階推定モデルM1に入力する。そうすると、発育段階推定モデルM1から、当該胚盤胞期胚9の発育段階の推定結果が出力される。
【0071】
発育段階推定部44は、Gardner分類に合わせて、第1初期胚盤胞、第2初期胚盤胞、完全胚盤胞、拡張胚盤胞、脱出胚盤胞、孵化胚盤胞の6段階で、胚盤胞期胚9の発育段階を推定する。ただし、発育段階の分け方は、必ずしもGardner分類の通りでなくてもよい。
【0072】
続いて、コンピュータ30の内部細胞塊評価部45が、内部細胞塊92の状態を評価する(ステップS6)。コンピュータ30の記憶部33には、内部細胞塊92の状態を評価するための内部細胞塊評価モデルM2が記憶されている。内部細胞塊評価モデルM2は、上述した複数のパラメータPMのうちの少なくともいずれか1つを入力変数とし、内部細胞塊92の評価結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルである。
【0073】
内部細胞塊評価モデルM2は、予め、教師あり機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により作成される。機械学習を行うときには、上述したパラメータPMと、当該パラメータPMに対応する内部細胞塊92の既知の評価結果との組み合わせを多数用意する。そして、それらの組み合わせを教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習モデルの更新を行う。その結果、入力されたパラメータPMに基づいて、内部細胞塊92の評価結果を精度よく出力できる、内部細胞塊評価モデルM2が作成される。
【0074】
ステップS6では、内部細胞塊評価部45が、ステップS4において算出されたパラメータPMを、内部細胞塊評価モデルM2に入力する。そうすると、内部細胞塊評価モデルM2から、当該胚盤胞期胚9の内部細胞塊92の評価結果が出力される。
【0075】
内部細胞塊評価部45は、Gardner分類に合わせて、内部細胞塊92の状態をA~Cの3段階に評価する。Aは、内部細胞塊92の細胞数が多く密であることを示す。Bは、内部細胞塊92の細胞数がAよりも少なく疎であることを示す。Cは、内部細胞塊92に細胞がほとんど認められないことを示す。ただし、内部細胞塊92の評価基準は、必ずしもGardner分類の通りでなくてもよい。
【0076】
続いて、コンピュータ30の栄養外胚葉評価部46が、栄養外胚葉93の状態を評価する(ステップS7)。コンピュータ30の記憶部33には、栄養外胚葉93の状態を評価するための栄養外胚葉評価モデルM3が記憶されている。栄養外胚葉評価モデルM3は、上述した複数のパラメータPMのうちの少なくともいずれか1つを入力変数とし、栄養外胚葉93の評価結果を出力変数とする学習済みの機械学習モデルである。
【0077】
栄養外胚葉評価モデルM3は、予め、教師あり機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により作成される。機械学習を行うときには、上述したパラメータPMと、当該パラメータPMに対応する栄養外胚葉93の既知の評価結果との組み合わせを多数用意する。そして、それらの組み合わせを教師データとして、教師あり機械学習アルゴリズムにより、学習モデルの更新を行う。その結果、入力されたパラメータPMに基づいて、栄養外胚葉93の評価結果を精度よく出力できる、栄養外胚葉評価モデルM3が作成される。
【0078】
ステップS7では、栄養外胚葉評価部46が、ステップS4において算出されたパラメータPMを、栄養外胚葉評価モデルM3に入力する。そうすると、栄養外胚葉評価モデルM3から、当該胚盤胞期胚9の栄養外胚葉93の評価結果が出力される。
【0079】
栄養外胚葉評価部46は、Gardner分類に合わせて、栄養外胚葉93の状態をA~Cの3段階に評価する。Aは、栄養外胚葉93の細胞数が多く密であることを示す。Bは、栄養外胚葉93の細胞数がAよりも少なく疎であることを示す。Cは、栄養外胚葉93の細胞数がBよりもさらに少なく細胞が大きいことを示す。ただし、栄養外胚葉93の評価基準は、必ずしもGardner分類の通りでなくてもよい。
【0080】
なお、コンピュータ30は、ステップS5~S7を、上記とは異なる順序で実行してもよい。また、コンピュータ30は、ステップS5~S7を、同時に実行してもよい。
【0081】
その後、コンピュータ30の分類部47が、上述したステップS5~S7の結果に基づいて、胚盤胞期胚9を分類する(ステップS8,分類工程)。例えば、ステップS5において胚盤胞期胚9の発育段階が6段階に推定され、ステップS6において内部細胞塊92の状態が3段階に評価され、ステップS7において栄養外胚葉93の状態が3段階に評価された場合、分類部47は、それらの結果を使って、胚盤胞期胚9を6×3×3の54グループに分類することができる。すなわち、本実施形態では、上述した発育段階の推定結果、内部細胞塊92の評価結果、および栄養外胚葉93の評価結果が、それぞれ分類結果として使用される。
【0082】
コンピュータ30は、胚盤胞期胚9の分類結果を記憶部33に記憶する。また、コンピュータ30は、胚盤胞期胚9の分類結果を表示部70に表示する。
【0083】
以上のように、本実施形態では、コンピュータ30が、三次元画像D2に基づいて、胚盤胞期胚9に関する複数のパラメータPMを算出する。そして、コンピュータ30が、当該パラメータPMを機械学習モデルへ入力し、機械学習モデルから出力される分類結果に基づいて、胚盤胞期胚9を分類する。このため、従来、二次元の顕微鏡画像に基づいて観察者が主観的な判断で行っていた胚盤胞期胚9の分類を、三次元画像D2に基づいて定量的に行うことができる。これにより、三次元画像D2に基づく精度のよい分類結果を得ることができる。したがって、本実施形態の分類方法を使用すれば、生殖補助医療における着床率、妊娠率などの成績を向上させることができる。また、胚培養士の負担を減らすことができるとともに、胚培養士の技量に依存しない客観的な胚盤胞期胚9の分類結果を得ることができる。
【0084】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0085】
上記の実施形態では、分類部47が、胚盤胞期胚9の発育段階を6段階に分類し、内部細胞塊92の状態を3段階に分類し、栄養外胚葉93の状態を3段階に分類していた。しかしながら、分類部47は、他の態様で、胚盤胞期胚9を分類するものであってもよい。例えば、分類部47は、胚盤胞期胚9の発育段階、内部細胞塊92の状態、および栄養外胚葉93の状態のうちのいずれか1つまたは2つのみを分類するものであってもよい。また、分類部47は、三次元画像D2から算出されたパラメータPMに基づいて、胚盤胞期胚9を「良好胚」と「非良好胚」の2種類のみに分類するものであってもよい。
【0086】
また、上記の実施形態では、光干渉断層撮影により取得した三次元画像D2のみに基づいて、胚盤胞期胚9に関するパラメータPMを算出していた。しかしながら、パラメータ算出部43は、光干渉断層撮影により取得した断層画像D1および三次元画像D2に基づいて、胚盤胞期胚9に関するパラメータPMを算出してもよい。また、パラメータ算出部43は、光干渉断層撮影により取得した三次元画像D2と、別途取得した顕微鏡画像とに基づいて、胚盤胞期胚9に関するパラメータPMを算出してもよい。
【0087】
また、機械学習モデルに入力されるパラメータPMは、上述した(1)~(7)に限定されるものではない。例えば、胚盤胞期胚9全体の体積や、透明帯91の厚さなどを、パラメータPMとして追加してもよい。
【0088】
上記の実施形態では、試料容器90が、複数のウェル(凹部)901を有するウェルプレートであった。そして、各ウェル901に、1つの胚盤胞期胚9が保持されていた。しかしながら、胚盤胞期胚9を保持する試料容器90は、ウェルプレートには限らない。例えば、試料容器90は、1つの凹部のみを有するディッシュであってもよい。
【0089】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 胚分類装置
9 胚盤胞期胚
10 ステージ
20 撮像部
30 コンピュータ
41 画像取得部
42 領域抽出部
43 パラメータ算出部
44 発育段階推定部
45 内部細胞塊評価部
46 栄養外胚葉評価部
47 分類部
70 表示部
90 試料容器
91 透明帯
92 内部細胞塊
93 栄養外胚葉
A0 胚全体領域
A1 透明帯領域
A2 ICM領域
A3 TE領域
CP1 制御プログラム
CP2 データ処理プログラム
D1 断層画像
D2 三次元画像
G 中心点
H ヒストグラム
M1 発育段階推定モデル
M2 内部細胞塊評価モデル
M3 栄養外胚葉評価モデル
PM パラメータ