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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072333
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】作業管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20230101AFI20240521BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20240521BHJP
   G01T 1/00 20060101ALI20240521BHJP
   G01T 1/02 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G06Q10/06
G01T1/167 G
G01T1/00 D
G01T1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183052
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】神田 憲一
【テーマコード(参考)】
2G188
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
2G188AA10
2G188AA19
2G188BB19
2G188EE21
2G188EE25
2G188GG09
5L010AA06
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】放射線管理区域内での作業において作業計画からのずれが生じても適切なリスク管理が可能な作業管理システムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、放射線管理区域の状態、放射線管理区域を有するプラントの状態、及び放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報である現状情報を取得する状態取得部と、作業計画における少なくとも一つの状態の情報である計画情報と状態取得部において取得された現状情報との差異を検出する差異検出部と、差異検出部によって差異が検出されたときに該差異が生じた状態でのリスク評価を行うリスク評価部と、を備える、ことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線管理区域の状態、前記放射線管理区域を有するプラントの状態、及び前記放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報である現状情報を取得する状態取得部と、
作業計画における前記少なくとも一つの状態の情報である計画情報と前記状態取得部において取得された前記現状情報との差異を検出する差異検出部と、
前記差異検出部によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態でのリスク評価を行うリスク評価部と、を備える、作業管理システム。
【請求項2】
前記差異検出部によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態よりリスクが小さくなるように前記作業計画を修正する計画修正部を備える、請求項1に記載の作業管理システム。
【請求項3】
被ばく線量を測定可能な線量計と、
RFIDタグと、
前記RFIDタグと通信可能な通信部と、を備え、
前記RFIDタグは、前記線量計によって測定された被ばく線量についての情報を前記通信部に送信可能であり、
前記状態取得部は、前記RFIDタグと前記通信部との通信に基づいて該RFIDタグの位置情報を取得すると共に前記被ばく線量についての線量情報を取得し、
これら位置情報及び線量情報の少なくとも一方の情報は、前記現状情報に含まれる、請求項1又は2に記載の作業管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所等のプラントに設けられた放射線管理区域での作業者の作業管理を行う作業管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放射線管理区域でのリスク管理を含めた作業管理を行う作業管理システムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この作業管理システムでは、作業員の認証用ID番号が記録されたIDカードと、無線通信機能及び個人被ばく線量計測機能を備えたモジュールとによって、作業員の個人被ばく線量を計測し、放射線管理区域の退域時にゲートを通過する毎に個人被ばく線量データを即座にデータベースに格納して、主コンピュータが管理することで、作業員の個人被ばく線量を定期的に把握することができる。
【0004】
そして、この作業管理システムでは、作業員が所定の作業のために放射線管理区域に入域する際に、その作業が計画通りに行われた場合に作業員の個人被ばく線量が所定の値以上になると判断された場合には、入域ゲートが開かず作業員の放射線管理区域への入域が制限され、又は警報等が発せられ、これにより、作業員の過剰な放射線被ばくを防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6220560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の作業管理システムでは、作業員の作業遅れ等によって作業計画において予定していた時間以上に作業に時間がかかってしまうと、対応できない場合があったり、また現場の扉の開閉状態や機器の運転状態が変更となっている場合には作業員への被ばく影響が変化する場合があり、即ち、放射線管理区域に入域して作業している作業員の作業が終了して退域するまでに該作業員の被ばく線量が所定の値以上になるか否かが判断できず、被ばく等の適切なリスク管理ができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、放射線管理区域内での作業において作業計画からのずれが生じても適切なリスク管理が可能な作業管理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の作業管理システムは、
放射線管理区域の状態、前記放射線管理区域を有するプラントの状態、及び前記放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報である現状情報を取得する状態取得部と、
作業計画における前記少なくとも一つの状態の情報である計画情報と前記状態取得部において取得された前記現状情報との差異を検出する差異検出部と、
前記差異検出部によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態でのリスク評価を行うリスク評価部と、を備える、作業管理システム。
【0009】
かかる構成によれば、作業計画に対して放射線管理区域内での実際の作業に遅れ等の差異(ずれ)が生じていても、リスク評価部が前記差異の生じた状態でのリスク評価を行うことで、作業計画から作業のずれが生じている状態においても適切なリスク管理を行うことができる。
【0010】
また、前記作業管理システムは、
前記差異検出部によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態よりリスクが小さくなるように前記作業計画を修正する計画修正部を備えてもよい。
【0011】
かかる構成によれば、計画修正部が、作業において作業計画からのずれが生じている状態よりリスクが小さくなるように作業計画を修正するため、この修正後の作業計画に沿って作業を行うことによってリスクを抑えることができる、即ち、適切なリスク管理を行うことができる。
【0012】
また、前記作業管理システムは、
被ばく線量を測定可能な線量計と、
RFIDタグと、
前記RFIDタグと通信可能な通信部と、を備え、
前記RFIDタグは、前記線量計によって測定された被ばく線量についての情報を前記通信部に送信可能であり、
前記状態取得部は、前記RFIDタグと前記通信部との通信に基づいて該RFIDタグの位置情報を取得すると共に前記被ばく線量についての線量情報を取得し、
これら位置情報及び線量情報の少なくとも一方の情報は、前記現状情報に含まれてもよい。
【0013】
かかる構成によれば、作業員が線量計とRFIDタグを所持することで、放射線管理区域内での作業時の作業員の被ばく線量と該作業員の放射線管理区域内の位置情報が得られるため、これら作業員の被ばく線量や作業員の位置をパラメータとするリスク評価がより精度よく行われる。
【発明の効果】
【0014】
以上より、本発明によれば、放射線管理区域内での作業において作業計画からのずれが生じても適切なリスク管理が可能な作業管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態に係る作業管理システムの構成を説明するための模式図である。
図2図2は、前記作業管理システムが備える制御部演算部の構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、前記作業管理システムによる作業管理のフローを示すフローチャートである。
図4図4は、リスク評価のフローを示すフローチャートである。
図5図5は、ベースケースデータの最適化処理のフローを示すフローチャートである。
図6図6は、過去の作業実績に基づく作業計画の作成工程のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図1図6を参照しつつ説明する。
【0017】
本実施形態に係る作業管理システムは、原子力発電所等の放射線管理区域を有するプラントの該放射線管理区域内での作業員の作業管理を行うシステムである。この作業管理システムは、図1に示すように、放射線の被ばく線量を測定可能な線量計11と、放射線管理区域内で作業を行う作業員が所持するRFIDタグ12と、RFIDタグ12と通信可能な複数のアンテナ(通信部)13と、作業管理システムの制御を行う制御部1と、を備える。本実施形態の作業管理システムは、複数の作業員の作業管理を行うため、複数(作業員の数に対応する数)の線量計11と、複数(作業員の数に対応する数)のRFIDタグ12と、を備える。尚、図1においては、作業管理システムの構成を理解し易いように、線量計11とRFIDタグ12とをそれぞれ一つずつ示している。
【0018】
複数のアンテナ13は、放射線管理区域内やその周辺の複数の場所に設置されており、各作業員が所持するRFIDタグ12のそれぞれと通信可能である。各アンテナ13は、制御部1に接続されており、RFIDタグ12から受信した信号(情報)を制御部1に入力する。また、各アンテナ13は、制御部1から出力された信号をRFIDタグ12に送信することもできる。
【0019】
これら複数のアンテナ13は、各作業員が放射線管理区域内のいずれの位置で作業していても、該作業員が所持するRFIDタグ12と通信できるようにそれぞれ配置されている。本実施形態の作業管理システムでは、各作業員が放射線管理区域内のいずれの位置で作業していても該作業員が所持するRFIDタグ12が同時に複数(少なくとも二つ)のアンテナ13と通信できるように、複数のアンテナ13の数と位置とが設定されている。
【0020】
線量計11は、放射線管理区域内での作業員の被ばく線量を測定するためのものであり、各作業員がそれぞれ身に着けて使用する。本実施形態の線量計11は、RFIDタグ12と接続され、測定した被ばく線量についての情報(線量情報)をRFIDタグ12に出力する。
【0021】
RFIDタグ12は、ICチップと該ICチップに接続されたアンテナとを内蔵するタグであり、各作業員がそれぞれ身に着けて使用する。例えば、RFIDタグ12は、ヘルメット、靴、作業服等に取り付けられることで作業員に所持される。このRFIDタグ12には、該RFIDタグ12を所持する作業員についてのID情報(個人情報等)が入力されている。本実施形態のRFIDタグ12は、作業の都度、該RFIDタグ12を身に着ける作業員の個人情報を読み込ませて(入力して)使用される。また、RFIDタグ12は、該RFIDタグ12を所持する作業員が身に着けている線量計11が測定した被ばく線量についての情報(線量情報)をアンテナ13に送信できる。
【0022】
制御部1は、各種の情報を処理する制御演算部2と、制御演算部2への情報等の入力が可能な入力部3と、を有する。また、制御部1は、データ等を記憶(格納)するために、例えばハードディスク等の比較的大容量の記憶部4を備える。また、制御部1は、警報等を出力するためスピーカーや表示部等の出力部Sp等も備える。この出力部Spは、放射線管理区域内の複数箇所に適宜配置されている。
【0023】
記憶部4は、例えばハードディスク等の比較的大容量の記憶装置等によって構成されており、制御演算部2から入力された各種情報(データ)や、入力部3から入力された各種情報(データ)等を引き出し可能に記憶(格納)する。また、本実施形態の記憶部4は、各種データベース等を記憶している。例えば、本実施形態の記憶部4は、データベースとして、ベースケースデータ(作業計画)、対策案データベース、作業員データベース、及び過去作業データベース等を記憶している。
【0024】
ここで、ベースケースデータ(作業計画)は、放射線管理区域内での作業員の作業管理の基本(ベース)となる情報が記録されているデータベースであり、例えば具体的には、プラントの通常の状態(事故等が発生していない状態)における機器等の状態であり、必要な台数の機器が運転及び待機状態にある場合であり、また建屋区画状態についても常態として想定される扉の開閉状態となっており、放射線遮蔽といった防護対策も通常行われている状態を想定する等の状態情報と、その状態を評価条件としたリスク情報のデータベースである。このベースケースデータは、機器や系統の計画外の待機除外がなく、区画の扉等の解放等のない標準的な状態を想定して作成されている。
【0025】
また、対策案データベースは、作業計画の各項目において、作業やプラントにおいて発生する可能性のある問題毎に、該問題が生じた場合に考えられる対策(作業)を入れ込んだ対策案(発生する問題に応じて対応する項目(作業等)を変更したベースケースデータ)が記録されているデータベースであり、該対策案データベースには複数の対策案が記録されている。
【0026】
また、作業員データベースは、放射線管理区域内で作業する作業員毎の過去の作業の実績、被ばく線量等の情報のデータベースであり、これら作業実績、被ばく線量等の情報は、作業員が放射線管理区域内で作業する毎に該作業員データベースに蓄積される。
【0027】
過去作業データベースは、放射線管理区域内での作業員による過去の作業についての情報のデータベースであり、作業員が放射線管理区域内で作業する毎に、例えば、作業内容、作業時間、人員数、作業範囲、被ばく線量等が該過去作業データベースに蓄積される。
【0028】
制御演算部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、このCPUによって実行される種々のプログラムやその実行に必要なデータ等を予め記憶するROM(Read Only Memory)やEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性記憶素子、このCPUのいわゆるワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶素子およびその周辺回路等を備えたマイクロコンピュータによって構成される。
【0029】
このように構成される制御演算部2には、図2に示すように、該制御演算部2がプログラムを実行することにより、機能的に、状態取得部5と、差異検出部6と、リスク評価部7と、報知部8と、最適化処理部(計画修正部)9と、が構成される。即ち、制御演算部2は、状態取得部5と、差異検出部6と、リスク評価部7と、報知部8と、最適化処理部9と、を有する。また、本実施形態の制御演算部2には、前記プログラムの実行によって、機能的に、作業計画作成部10も構成される。即ち、制御演算部2は、作業計画作成部10も有する。
【0030】
状態取得部5は、制御部1に接続されているプラントの各種機器等から、放射線管理区域の状態、放射線管理区域を有するプラントの状態、及び放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報である現状情報(実測値等)を取得する。
【0031】
この状態取得部5が取得する現状情報として、例えば、放射線管理区域の状態は、建屋の区画や部屋、各区画や部屋等の扉の開放状況等といった建屋区画状態についての情報であり、プラントの状態は、プラント自体やプラントに配置されている各種機器の状態についての情報や機器の故障等についての情報であり、作業者の状態は、建屋内の人員の配置等といった人員配置状態等についての情報である。
【0032】
また、状態取得部5は、リアルタイムで放射線管理区域内で作業する各作業員の位置(位置情報)及び各作業員の被ばく線量(線量情報)を取得することができる。即ち、これら各作業員の位置情報及び線量情報も、現状情報に含まれる。
【0033】
情報取得部5において、この各作業員の位置は、当該作業員が身に着けているRFIDタグ12から送信されたID情報、及び該RFIDタグ12と通信している各アンテナ13の位置や通信強度等からそれぞれ求められる。また、これら求められた各作業員の位置から放射線管理区域内での人員配置状態が得られる。また、各作業員の被ばく線量は、RFIDタグ12によって送信される線量計11の測定結果(被ばく線量についての情報)から得られる。
【0034】
差異検出部6は、ベースケースデータにおける放射線管理区域の状態、放射線管理区域を有するプラントの状態、及び放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報であるベース情報(計画情報)と、状態取得部5において取得された現状情報と、の差異(ずれ)を検出する。即ち、差異検出部6は、実作業における基本情報からのずれ(差異)を検出する。
【0035】
本実施形態の差異検出部6は、記憶部4に記憶されているベース情報(ベースケースデータ)と、状態取得部5が取得した現状情報(実測値、作業状況等)と、を比較し、ベース情報に対する差異(作業の遅れ等によるずれ)が生じたときにこの差異(ずれ)を検出する。この差異検出部6は、前記差異を検出すると差異検出信号を出力する。
【0036】
リスク評価部7は、差異検出部6によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態でのリスク評価を行う。このリスク評価部7でのリスク評価は、PRA(確率論的リスク評価:Probabilistic Risk Assessment)により行われる。このPRAとは、原子力施設等で発生するあらゆる事故を対象として、その発生頻度と発生時の影響を定量評価し、その積である「リスク」がどれほど小さいかで安全性の度合いを表現する方法である。このリスク評価部7は、リスク評価した結果(再評価されたリスク情報)を記憶部4に出力する。
【0037】
報知部8は、リスク評価部7によるリスク評価の結果、リスクが所定の閾値以上になると判断したときに、出力部Spに発報信号を出力することで該出力部Spに警報等を発報させる。
【0038】
最適化処理部9は、差異検出部6によって前記差異(ベース情報とのずれ)が検出されたときに、該差異が生じている状態よりリスクが小さくなるようにベースケースデータを最適化(修正)する。具体的に、最適化処理部9は、対策案データベースに記録されている複数の対策案のうちから所定の基準に基づいて検索した対策案、又は、オペレータ等によって入力部3から入力された対策案をリスク評価し、前記差異の生じた状態でのリスクよりリスクの低くなった対策案を、修正ベースケースデータ(即ち、最適化されたベースケースデータ)として出力する。この最適化処理部9における対策案のリスク評価も、リスク評価部7でのリスク評価と同様に、PRAによって行われる。
【0039】
作業計画作成部10は、記憶部4等に蓄積された過去の作業実績(各作業の作業時間、人員数、作業範囲、被ばく線量等)から導出した各作業での傾向に基づき、より適切な作業計画を作成する。
【0040】
次に、作業管理システムによる放射線管理区域での作業管理のフローについて図3図5も参照しつつ説明すると共に、制御演算部2の各構成のより詳しい動作等も説明する。
【0041】
作業員の放射線管理区域内への入域に伴い、状態取得部5が現状情報(実測値等)を取得することによって現状の監視を開始する(ステップS1)。
【0042】
このように、状態取得部5が現状の監視を開始すると、続いて、差異検出部6が、ベースケースデータに記録されているベース情報と、状態取得部5によって取得された現状情報との比較を行い、ベース情報と現状情報との差異が検出されていないときは(ステップS2:No)、ステップS1に戻って状態取得部5が現状の監視を続ける。
【0043】
一方、差異検出部6は、ベース情報と現状情報との差異(ずれ)を検出したときには(ステップS2:Yes)、リスク評価部7に差異検出信号を出力する。
【0044】
リスク評価部7は、差異検出信号を受信すると、現状のリスク評価(即ち、ベース情報からの差異が生じた状態でのリスク評価)を行う(ステップS3)。
【0045】
具体的に、このリスク評価では、図4に示すように、先ず、リスク評価部7が差異検出部6によって検出された差異(ずれ)がリスク評価におけるどの評価項目(リスク)に影響するパラメータかを判断する(ステップS31)。詳しくは、以下の通りである。
【0046】
本実施形態のリスク評価部7によるリスク評価では、i)事故進展評価、ii)人間信頼性評価(人的過誤確率)、iii)レベル1PRA(炉心損傷頻度)、iv)レベル2PRA(格納容器破損頻度)、v)レベル3PRA(被ばく評価)の五つの評価項目が評価される。
【0047】
このi)事故進展評価では、例えば、事故進展解析に考慮されている機器の待機除外があるか、及び、当該機器が待機除外となった場合に、事故進展解析に有意な差異が生じるか、等が考慮されてリスク評価が行われる。また、ii)人間信頼性評価では、例えば、事故進展解析から各操作の余裕時間が変化するか、及び、当該機器が待機除外となった場合に、対応に要する余裕時間が変化するか、等が考慮されてリスク評価が行われる。また、iii)レベル1PRAでは、例えば、レベル1PRAにて考慮されている機器の待機除外があるか、及び、当該機器が待機除外となった場合に、レベル1PRAに有意な差異が生じるか、等が考慮されてリスク評価が行われる。また、iv)レベル2PRAでは、例えば、レベル2PRAにて考慮されている機器の待機除外があるか、及び、当該機器が待機除外となった場合に、レベル2PRAに有意な差異が生じるか、等が考慮されてリスク評価が行われる。また、v)レベル3PRAでは、例えば、レベル3PRAにて考慮されている機器の待機除外、建屋区画の変更状態があるか、及び、機器が待機除外、区画が変更となった場合に、レベル3PRAに有意な差異が生じるか、等が考慮されてリスク評価が行われる。
【0048】
そして、リスク評価部7は、検出された差異の影響を受ける評価項目について、状態取得部5が取得した現状情報(実測値等)を反映してリスクの再評価を行う(ステップS32)。具体的に、リスク評価部7は、例えば、状態取得部5によって取得された現状情報がプラントの系統、機器が故障等により使用できない状態となっている点についての情報であり、これらの情報に起因するベース情報との差異が差異検出部6によって検出された場合には、上記のi)、ii)、iii)、iv)、v)を、状態取得部5によって取得された現状情報をベース情報に反映した上で再評価する。また、リスク評価部7は、例えば、建屋の貫通部の開放有無については、上記のv)を、状態取得部5によって取得された現状情報をベース情報に反映した上で再評価する。また、リスク評価部7は、例えば、建屋内の人員配置の変化については、上記のv)を、状態取得部5によって取得された現状情報をベース情報に反映した上で再評価する。また、リスク評価部7は、例えば、作業進捗状況を利用する場合は、作業に可用な余裕時間を人間信頼性解析に反映して再評価する。
【0049】
以上のようにして再評価されたリスク情報は、記憶部4に記憶される。
【0050】
このリスク情報において、再評価したリスクが所定の閾値以上になったときは(ステップS4:Yes)、報知部8が出力部Spを通じて所定の作業員に対して注意喚起の報知を行う(ステップS5)。詳しくは、以下の通りである。
【0051】
報知部8は、記憶部4からリスク評価部7が再評価したリスク情報を取り出す。そして、報知部8は、例えば、放射線管理区域内の作業エリアごとに被ばく線量の増加リスクが所定の確率値より大きくなるか否かを判断し、大きくなると判断したときに、該当する作業エリアに出力部Spを通じて注意喚起の警報を発報する。このとき、報知部8は、作業員毎の被ばく線量、確率値に応じて、注意、避難指示等の報知を作業員毎に分けて行う。
【0052】
また、報知部8は、例えば、特定の作業員について、被ばく線量が所定の閾値より大きくなる可能性が所定の確率より大きくなるか否かを判断し、大きくなると判断したときに、該当する作業員に対し出力部Spを介して注意喚起の警報等を発報する。このとき、報知部8は、作業員毎の被ばく線量、確率値に応じて、注意、避難指示等の報知を作業員毎に分けて行う。また、作業員への注意、避難指示等の報知は作業員の保有するRFIDタグ12を有する端末へアンテナ13より送信し、直接報知するようにしても良い。
【0053】
また、報知部8は、例えば、リスク上重要となる系統、機器について、ベース情報との差異が、所定の設定値より大きくなるか否かを判断し、大きくなると判断したときに、リスク上重要となる系統、機器について、出力部Spを通じた現場での注意喚起表示(警報、表示による注意や警告等)、当該作業に対応している作業員への注意喚起を行う。
【0054】
一方、リスク評価部7によるリスク評価において、再評価したリスクがいずれも所定の閾値未満になったときは(ステップS4:No)、ステップS1に戻って状態取得部5が現状の監視を続ける。
【0055】
ステップS5において報知部8による注意喚起の報知が行われると、続いて、最適化処理部9が、ベースケースデータの最適化処理(ベースケースデータの修正)を行う(ステップS6)。詳しくは、以下の通りである。
【0056】
最適化処理部9は、記憶部4に記憶されている対策案データベースから、所定の対策案を検索する(ステップS61)。このとき、制御部1のオペレータ等が入力部3から対策案を入力してもよい。
【0057】
最適化処理部9は、対策案データベースから検索した対策案(対策後のモデル)を用いてリスク評価を行う(ステップS62)。尚、最適化処理部9は、対策案データベースから検索した対策案が複数の場合は、各対策案に対してそれぞれリスク評価を行う。
【0058】
この対策案を用いたリスク評価は、リスク評価部7において行われるリスク評価と同じである。即ち、このリスク評価は、PRAによるリスク評価であり、i)事故進展評価、ii)人間信頼性評価(人的過誤確率)、iii)レベル1PRA(炉心損傷頻度)、iv)レベル2PRA(格納容器破損頻度)、v)レベル3PRA(被ばく評価)の各評価項目がそれぞれ評価される。
【0059】
尚、本実施形態の制御部1では、最適化処理部9が対策案のリスク評価(即ち、対策後のモデルを用いたリスク評価)を行っているが、このリスク評価をリスク評価部7が行い、その結果を最適化処理部9が受け取る構成でもよい。
【0060】
続いて、最適化処理部9は、対策前のリスク(報知部8が出力部Spを通じて発報した時点でのリスク:対策前リスク)と、対策案を用いたリスク評価で得られたリスク(対策後リスク)とを比較し、この対策後リスクの対策前リスクに比べた低減幅がある閾値より大きくなった場合(ステップS63:Yes)に、当該対策案を記憶部4に記憶させる。尚、対策前後でのリスク低減効果を判定する閾値は予め設定しておいても良いし、都度入力できるようにしても良い。
【0061】
一方、対策後リスクが対策前リスク以上であった場合(ステップS63:No)は、ステップS61に戻る。
【0062】
そして、記憶部4が記憶した対策案(即ち、対策後リスクが対策前リスクより小さくなった対策案)が所定の数になるまでステップS61~ステップS63が繰り返され(ステップS64:No)、記憶部4が記憶した対策案が所定の数になると(ステップS64:Yes)、最適化処理部9は、記憶部4の記憶している対策案の中からリスク低減効果の最も大きい対策案(最適化案)を選択する(ステップS65)。この選択において、重要視するリスク項目の順は、例えば、炉心損傷確率、格納容器破損確率、核分裂生成物大量放出確率、被ばくによる健康影響確率、の順である。また、対策案の選択(最適化)については、低減効果の大きいものをいくつか表示し、コストや安全性等の当該リスク評価含まれていない項目や定性的な考慮事項をふまえて管理者(オペレータ等)が判断、決定できるようにしても良い。
【0063】
最適化処理部9は、最適化案を選択すると(即ち、ベースケースデータの最適化処理が終了すると)、この最適化案を各作業員又は所定の作業員に対して報知する(ステップS7)。この報知は、出力部Spによる報知(例えば、警報やモニター等の表示部による表示等)、作業員の携帯する携帯端末や通信機器への送信等によって行われる。
【0064】
最適化案の報知後に全ての作業員が放射線管理区域から退出して作業が終了する場合には(ステップS8:No)、作業管理システムによる作業管理が終了する。一方、最適化案の報知後に作業員による放射線管理区域での作業が継続される場合には、ステップS1に戻り、作業員は最適化案に基づいて作業を続ける。
【0065】
次に、作業計画作成部10によるベースケースデータの作成のフローについて図6も参照しつつ説明すると共に、作業計画作成部10のより詳しい動作等も説明する。
【0066】
作業計画作成部10は、記憶部4に記憶されている過去作業データベースを用いて統計処理を行い、作業毎に各項目の標準的な数値(標準値)を算出する(ステップS10)。
【0067】
作業計画作成部10は、所定のベースケースデータ案(作業計画案)について、作業時間、人員数、作業範囲等の各項目が対応する標準値と比べて所定値以上乖離していないかをそれぞれ判断し、標準値と比べて所定値以上の乖離のあった項目を含む場合(ステップS11:Yes)は、別のベースケースデータ案を準備(ステップS12)した後、再度、該ベースケースデータ案(別の作業計画案)の各項目が対応する標準値と比べて所定の値以上乖離していないかをそれぞれ判断する(即ち、ステップS11に戻る)。
【0068】
この別のベースケースデータ案の準備では、作業計画作成部10が、前記乖離のあった項目のみを変更する(即ち、作業計画作成部10がベースケースデータ案を作成し直す)ことによって準備してもよく、オペレータ等が入力部3から別のベースケースデータ案を入力することによって準備してもよい。
【0069】
一方、ベースケースデータ案の全ての項目において標準値からの所定値以上の乖離が無い場合(ステップS11:No)は、作業計画作成部10は、記憶部4に記憶(蓄積)された作業員データベースを用い、該ベースケースデータ案通りに作業が行われた場合に推定される作業員の累積被ばく線量(即ち、作業終了時の累積被ばく線量)が所定の閾値を超えないか否かを判断する。
【0070】
作業計画作成部10は、累積被ばく線量が作業後に所定の閾値を超えないと判断したとき(ステップS13:No)は、作業時のプラントの系統構成、放射線管理区域内の区画の扉の状況、他作業による影響等の確定している情報をベースケースデータ案に反映させた上で、該ベースケースデータ案(前記情報を反映させたベースケースデータ案)のリスク評価を行う(ステップS14)。このリスク評価は、リスク評価部7で行われるリスク評価と同じである。即ち、このリスク評価は、PRAによるリスク評価であり、i)事故進展評価、ii)人間信頼性評価(人的過誤確率)、iii)レベル1PRA(炉心損傷頻度)、iv)レベル2PRA(格納容器破損頻度)、v)レベル3PRA(被ばく評価)の各評価項目がそれぞれ評価される。
【0071】
尚、本実施形態の制御部1では、作業計画作成部10がベースケースデータを作成する際のリスク評価を行っているが、リスク評価部7がリスク評価を行い、その結果を作業計画作成部10が受け取る構成でもよい。
【0072】
一方、作業計画作成部10は、累積被ばく線量が作業後に所定の閾値以上になると判断したとき(ステップS13:Yes)は、累積被ばく線量が所定の閾値以上になる作業員に関係する作業項目等の修正を行ってベースケースデータ案を作成し直し、ステップS11に戻る。
【0073】
続いて、作業計画作成部10は、作業員データベースを用い、前記情報を反映させた作業計画案通りに作業が行われた場合に推定される作業員の累積被ばく線量が所定の閾値を超えないか否かを判断する。
【0074】
作業計画作成部10は、累積被ばく線量が作業後に所定の閾値を超えないと判断したとき(ステップS15:No)は、このベースケースデータ案をベースケースデータとして出力し、ベースケースデータの作成作業を終了する。
【0075】
一方、作業計画作成部10は、累積被ばく線量が作業後に所定の値以上になると判断したとき(ステップS15:Yes)は、累積被ばく線量が所定の値以上になる作業員に関係する作業項目等の修正を行ってベースケースデータ案を作成し直し、ステップS11に戻る。
【0076】
以上の作業管理システムは、放射線管理区域の状態、放射線管理区域を有するプラントの状態、及び放射線管理区域内の作業者の状態、の少なくとも一つの状態の情報である現状情報を取得する状態取得部5と、ベースケースデータ(作業計画)における前記少なくとも一つの状態の情報であるベース情報(計画情報)と状態取得部5において取得された現状情報との差異を検出する差異検出部6と、差異検出部6によって前記差異が検出されたときに該差異が生じた状態でのリスク評価を行うリスク評価部7と、を備える。
【0077】
この構成によれば、ベースケースデータ(作業計画)に対して放射線管理区域内での実際の作業に遅れ等の差異(ずれ)が生じていても、リスク評価部7が前記差異の生じた状態でのリスク評価を行うことで、ベースケースデータから差異(作業の遅れ等のずれ)が生じた場合においても適切なリスク管理を行うことができる。
【0078】
また、本実施形態の作業管理システムは、差異検出部6によって差異が検出されたときに該差異が生じた状態よりリスクが小さくなるようにベースケースデータ(作業計画)を修正する最適化処理部(計画修正部)9を備えている。このように、本実施形態の作業管理システムでは、最適化処理部9が、作業においてベースケースデータからのずれが生じている状態よりリスクが小さくなるように前記ベースケースデータを修正する。このため、この修正後のベースケースデータ(作業計画)に沿って作業員が作業を行うことによってリスクを抑えることができる、即ち、適切なリスク管理(作業管理)を行うことができる。
【0079】
また、本実施形態の作業管理システムは、被ばく線量を測定可能な線量計11と、RFIDタグ12と、RFIDタグ12と通信可能なアンテナ(通信部)13と、を備える。そして、RFIDタグ12は、線量計11によって測定された被ばく線量についての情報をアンテナ13に送信可能であり、状態取得部5は、RFIDタグ12とアンテナとの通信に基づいて該RFIDタグ12の位置情報を取得すると共に被ばく線量についての線量情報を取得し、これら位置情報及び線量情報の少なくとも一方の情報は、現状情報に含まれる。このため、作業員が線量計11とRFIDタグ12を所持することで、放射線管理区域内での作業時の作業員の被ばく線量と該作業員の放射線管理区域内の位置情報が得られるため、これら作業員の被ばく線量や作業員の位置をパラメータとするリスク評価がより精度よく行われる。また、これら作業員の被ばく線量や作業員の位置に基づいて作業管理がより適切に行われる。
【0080】
尚、本発明の作業管理システムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0081】
上記実施形態の作業管理システムの制御部1は、作業計画作成部10を有しているが、この構成に限定されない。制御部1は、作業計画作成部10の無い構成であってもよい。
【0082】
また、上記実施形態の作業管理システムの制御部1は、最適化処理部(計画修正部)9を有しているが、この構成に限定されない。制御部1は、最適化処理部9の無い構成であってもよい。この構成によっても、ベースケースデータ(作業計画)に対して放射線管理区域内での実際の作業の遅れ等の差異(ずれ)が生じたときに、リスク評価部7が前記差異の生じた状態でのリスク評価を行うため、ベースケースデータ(作業計画)から差異(ずれ)が生じている状態においても適切なリスク管理を行うことができる。
【0083】
また、上記実施形態の作業管理システムでは、線量計11は、RFIDタグ12とアンテナ13との通信を利用して測定結果(被ばく線量)を制御部1に出力しているが、この構成に限定されない。線量計11は、携帯端末やGPS等によって測定結果を制御部1に出力する構成でもよい。かかる構成によっても、作業者の被ばく線量(線量計11の測定結果)がリアルタイムで制御部1に入力される。
【符号の説明】
【0084】
1…制御部、2…制御演算部、3…入力部、4…記憶部、5…状態取得部、6…差異検出部、7…リスク評価部、8…報知部、9…最適化処理部(計画修正部)、10…作業計画作成部、11…線量計、12…RFIDタグ、13…アンテナ(通信部)、Sp…出力部
図1
図2
図3
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図5
図6