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  • 特開-水蒸発抑制組成物及び水蒸発抑制方法 図1
  • 特開-水蒸発抑制組成物及び水蒸発抑制方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072363
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】水蒸発抑制組成物及び水蒸発抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/28 20060101AFI20240521BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240521BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
E03C1/28 Z
C02F1/00 K
B01J13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183106
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】501015770
【氏名又は名称】株式会社ピュアソン
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174540
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 廣美
(72)【発明者】
【氏名】堀内 一将
(72)【発明者】
【氏名】高寺 里弥
(72)【発明者】
【氏名】石田 智洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伊津子
【テーマコード(参考)】
2D061
4G065
【Fターム(参考)】
2D061DA00
2D061DD13
4G065AB33X
4G065BA20
4G065CA02
4G065DA03
(57)【要約】
【課題】従来製品よりも水蒸発抑制性能を向上させる技術を提供する。
【解決手段】水に添加することにより水の蒸発を抑制する水蒸発抑制組成物であって、上下方向に重なった複数の乳化相を備える、水蒸発抑制組成物及びその関連技術を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に添加することにより前記水の蒸発を抑制する水蒸発抑制組成物であって、
上下方向に重なった複数の乳化相を備える、水蒸発抑制組成物。
【請求項2】
前記水蒸発抑制組成物は、少なくとも10日以上は前記複数の乳化相が維持される、請求項1に記載の水蒸発抑制組成物。
【請求項3】
前記複数の乳化相は少なくとも上側乳化相及び下側乳化相を備え、
前記上側乳化相は比重が1未満である、請求項2に記載の水蒸発抑制組成物。
【請求項4】
前記上側乳化相と前記下側乳化相との間に中間乳化相を備える、請求項3に記載の水蒸発抑制組成物。
【請求項5】
前記水蒸発抑制組成物は水系成分と油系成分とを含有し、
前記油系成分は、菜種油及びひまし油の少なくともいずれかである、請求項4に記載の水蒸発抑制組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一つに記載の水蒸発抑制組成物を水に添加し、前記水の蒸発を抑制する、水蒸発抑制方法。
【請求項7】
前記水は、排水トラップ内の排水である、請求項6に記載の水蒸発抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸発抑制組成物及び水蒸発抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の請求項1には、比重が1.0未満で、蒸気圧が水よりも低い油系成分と、水系成分とを含む排水トラップの封水蒸発防止剤組成物であって、当該封水蒸発防止剤組成物が乳化又は分散された後、下水側及び排水口側に空気との界面を持つ排水トラップに溜められた封水へ排水口側から投入されると、前記油系成分が下水側にも移動し、分離し、前記下水側及び排水口側の封水の表面をカバーする封水蒸発防止剤組成物が開示されている。本明細書では、封水蒸発防止剤組成物のことを水蒸発抑制組成物と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4390831号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後掲の実施例の項目(試験例3、4)で示すように、特許文献1に記載の封水蒸発防止剤組成物に対応する製品名ピュアブロック(登録商標)(以降、従来製品とも称する。)を検体として用いた場合、水蒸発抑制性能という点で改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、従来製品よりも水蒸発抑制性能を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
乳化相を備える水蒸発抑制組成物ならば、排水管の排水トラップ内にある封水の中を排水口側から下水側へ容易に移動できる。封水が、毛細管現象により、従来製品で言うところの液面の蓋となった油系成分をかわして該汚れ層を伝って上昇して蒸発する。その一方、乳化相を備える水蒸発抑制組成物ならば、排水管の管壁内面に付着した汚れ層に浸入した後に汚れ層を目詰まりさせられる。その結果、汚れ層から蒸発することを防止することができる。その封水の上昇にしても目詰まりにしても、毛細管現象により生じる。
【0007】
それに加え、上下方向に重なった複数の乳化相を備える水蒸発抑制組成物を採用することにより、上側乳化相が蓋代わりになり、水の蒸発を抑制できつつ、下側乳化相のおかげで、管内の汚れがもたらす毛細管現象による水の上昇を抑制できる、という2段構えの効果をもたらす構成が、以下の通り創出された。
【0008】
本発明の第1の態様は、
水に添加することにより前記水の蒸発を抑制する水蒸発抑制組成物であって、
上下方向に重なった複数の乳化相を備える、水蒸発抑制組成物である。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記水蒸発抑制組成物は、少なくとも10日以上は前記複数の乳化相が維持される、第1の態様に記載の水蒸発抑制組成物である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
前記複数の乳化相は少なくとも上側乳化相及び下側乳化相を備え、
前記上側乳化相は比重が1未満である、第2の態様に記載の水蒸発抑制組成物である。
【0011】
本発明の第4の態様は、
前記上側乳化相と前記下側乳化相との間に中間乳化相を備える、第3の態様に記載の水蒸発抑制組成物である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
前記水蒸発抑制組成物は水系成分と油系成分とを含有し、
前記油系成分は、菜種油及びひまし油の少なくともいずれかである、第4の態様に記載の水蒸発抑制組成物である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
第1~第5のいずれか一つの態様に記載の水蒸発抑制組成物を水に添加し、前記水の蒸発を抑制する、水蒸発抑制方法である。
【0014】
本発明の第7の態様は、
前記水は、排水トラップ内の排水である、第6の態様に記載の水蒸発抑制方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来製品よりも水蒸発抑制性能を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態において、界面活性剤は少なくとも2種類、油系成分は少なくとも2種類の油を含有し、後掲の実施例に記載の手法にて作製した検体(水蒸発抑制組成物)の写真である。
図2】実施例において、試験開始から丸5日後(試験終了時)の結果が図2に示す写真の左側である。なお、図2に示す写真の右側は、本実施例(試験例5、6)で用いた検体である水蒸発抑制組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態を具体的に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0018】
本実施形態に係る洗浄剤組成物は、水に添加することにより前記水の蒸発を抑制する水蒸発抑制組成物であって、上下方向に重なった複数の乳化相を備える、水蒸発抑制組成物である。
【0019】
「上下方向に重なった複数の乳化相」は、水相と油相のように、略水平な両相の界面を間に挟み、上下方向に複数の乳化相が互いに重なった状態の乳化相(総乳化相とも言う。)を指す。「複数の乳化相」は、少なくとも上側乳化相及び下側乳化相を備える。
【0020】
複数の乳化相である総乳化相は、上側乳化相及び下側乳化相により構成されてもよいし、上側乳化相及び下側乳化相の間に中間乳化相を更に備えてもよい。本実施形態ではこの例を挙げる。或いは、総乳化相の上に、乳化相ではない油相を備えてもよく、総乳化相の下に、乳化相ではない水相を備えてもよく、この両方を備えてもよい。また、各乳化相内に油分が点在することで、更に水分が蒸発しない状況を作り出してもよい。
【0021】
乳化相が複数であるか否かの判別に関しては、上下方向に重なって別々の乳化相が存在することが目視で確認できればよく、言い方を変えると両乳化相の間に界面が目視で確認できればよい。
【0022】
乳化相であるか否かの判別に関しては、例えば、水道水と比べて濁っている状態が10日以上(好適には1か月以上、更に好適には3か月以上)維持されるか否かで判別してもよい。
【0023】
なお、中間乳化相が更に複数の乳化相を備えてもよい。つまり、乳化相は、複数の乳化相により上下方向に重なって構成されていれば限定は無い。
【0024】
本実施形態において複数の乳化相である総乳化相を構成する上側乳化相、中間乳化相及び下側乳化相のうち上側乳化相は比重が1未満であるのが好ましい。この構成により、水蒸発抑制組成物を水に添加した後の液面は、上側乳化相により構成される。つまり、上側乳化相が蓋代わりになり、水の蒸発を抑制できる。
【0025】
もちろん、水に添加した後に乳化相が形成されれば、その乳化相が蓋代わりになる。そのため、上側乳化相の比重が1以上(1近傍、例えば1.0~1.1)であっても、本発明の効果は奏される。但し、上側乳化相の比重が1未満であれば、水蒸発抑制組成物の投入対象が排水(別の言い方をすると主成分が水)である限り、水蒸発抑制組成物を水に添加した後の液面が上側乳化相により構成されることを確実化できる。
【0026】
総乳化相の残りの中間乳化相及び下側乳化相の比重も1未満であってもよい。その場合、総乳化相の全体が蓋代わりとなり、より顕著に水の蒸発を抑制できる。
【0027】
その一方、中間乳化相及び下側乳化相の比重は1以上であってもよい。特に下側乳化相は、投入対象となる排水全体と乳化する可能性もあるし、むしろその方が、目詰まりを効果的に生じさせるため都合がよい。排水全体との乳化を目指すのならば、下側乳化相の比重は1に近い値(例えば0.9~1.1、或いは1.0~1.1、或いは0.9~1.0)に設定するのがよい。
【0028】
下側乳化相のおかげで、管内の汚れがもたらす毛細管現象による水の上昇を抑制できる。詳しく言うと、以下の通りである。
【0029】
本実施形態に係る水蒸発抑制組成物の投入箇所の一例は、排水がトラップされた配管内である。配管の内壁には、多かれ少なかれ、汚れがこびりついている。この汚れが毛細管の役割を果たす。つまり、上側乳化相により蓋がされたとしても、上側乳化相より下方にある水が、配管の内壁の汚れを伝って上昇し、しかも上側乳化相と配管の内壁との間をすり抜けて上昇する。その結果、上側乳化相により蓋がされたとしても、水の蒸発が生じる。
【0030】
その一方、本実施形態に係る下側乳化相があれば、この問題を解決できる。具体的には、上側乳化相より下方にある下側乳化相が、配管の内壁の汚れを伝って上昇する。当然ながら、下側乳化相は水からなるものではなく、油と水とが乳化してなるものである。この乳化成分が配管の内壁の汚れを伝って上昇する際、汚れにより構成される毛細管に目詰まりを起こさせる。その結果、毛細管現象による水の上昇に伴う水の蒸発を抑制できる。
【0031】
いずれにせよ、上側乳化相、中間乳化相及び下側乳化相という上下の配置の関係上、比重は、当然ながら、上側乳化相、中間乳化相、下側乳化相という順番で大きい。
【0032】
上側乳化相はW/O型エマルジョンであり、下側乳化相はO/W型エマルジョンであってもよい。その場合、タイプの異なるエマルジョンを繋げる中間乳化相が、上側乳化相と下側乳化相との間に設けられてもよい。
【0033】
もちろん、上側乳化相及び下側乳化相が共にW/O型エマルジョンであってもよいし、共にO/W型エマルジョンであってもよい。但し、下側乳化相は排水と接触することを鑑みるとO/W型エマルジョンであるのが好ましい。
【0034】
前記水蒸発抑制組成物は、油系成分に対する乳化剤を含有する。乳化剤の一例が界面活性剤である。つまり、油系成分と水系成分と乳化剤とにより乳化されたものが水蒸発抑制組成物である。本明細書における「水蒸発抑制組成物」は、乳化状態即ち水道水と比べて濁っている状態が10日以上(好適には1か月以上、更に好適には3か月以上)維持可能なものを指す。そして、本明細書における水蒸発抑制組成物の各乳化相は、水蒸発抑制組成物を撹拌して均一化して少なくとも12時間後に形成される乳化相を指す。
【0035】
ちなみに、本実施形態に係る水蒸発抑制組成物は、撹拌すれば見た目は一つの乳化相になるものの、10分程度経過すれば複数の乳化相に戻る。
【0036】
前記水蒸発抑制組成物における下側乳化相の体積割合、上側乳化相の体積割合、及び中間乳化相の体積割合には限定はない。一例としては、下側乳化相の体積割合は80体積%未満であってもよい。下側乳化相の体積割合の数値範囲の一例としては、上限値は75体積%、70体積%、65体積%、60体積%、55体積%、50体積%、45体積%、40体積%、35体積%、30体積%が挙げられ、下限値は5体積%、10体積%、15体積%、20体積%、25体積%、30体積%、35体積%、40体積%、45体積%、50体積%、55体積%、60体積%が挙げられる。上側乳化相及び中間乳化相の体積割合は、100から下側乳化相の体積%を差し引いた値となる。上側乳化相の体積割合の数値範囲の一例としては、下限値は5体積%が挙げられる。
【0037】
推測ではあるが、分離の遅い中でも液中で完全にミセル化する等、乳化作用が強く働いたものが中間乳化相となり、長期間存在し得ると考えられる。
【0038】
上記水系成分には限定は無く、水道水を用いて構わない。その一方、上記油系成分は、菜種油及びひまし油の少なくともいずれかであるのが好ましい。この構成により、複数の乳化相が上下方向に重なった状態を長期間維持できる。
【0039】
上記油系成分及び上記水系成分以外の物質も、本実施形態に係る水蒸発抑制組成物に含有されてもよい。例えば、アルコール系界面活性剤、アルカリ剤、防カビ・抗菌剤(MIS)、防錆剤等を更に含有してもよい。説明の便宜上、本段落で列挙した成分は、本明細書では、特記無い限り、水系成分として扱うこともある。
【0040】
アルコール系界面活性剤としては以下のものが挙げられる。
高級アルコールへのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物及びポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型界面活性剤、並びにグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル及びアルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の多価アルコール型界面活性剤、等が挙げられる。
他、平均炭素数10~20アルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩、平均炭素数10~20のアルケニルスルホン酸塩(α-オレフィンスルホン酸)、平均炭素数10~20のアルキル基を有するアルキルスルホ酢酸塩、平均炭素数10~20のアルキル硫酸塩、平均炭素原子数10~20のアルカンスルホン酸塩、平均炭素数C6~C20アルキルトリメチルアンモニウム塩、平均炭素数C6~C20ジアルキルジメチルアンモニウム塩、及び平均炭素数C6~C20アルキル平均炭素数C6~C20ジメチルベンジルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、平均炭素数C6~C20アルキルアミン塩、平均炭素数C6~C20アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、アルキルピリジニウム塩、平均炭素数10~16のアルキル基を有するアルキルアミノプロピオン酸塩等のアミノ酸型界面活性剤、平均炭素数10~16のアルキル基を有するアルキルジメチルベタイン、ラウリルヒドロキシエチルベタイン等のベタイン型界面活性剤等を使用してもよく、1種単独で使用してもよく、また、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0041】
アルカリ剤としては、苛性ソーダ、苛性カリウム、アミン類(例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソパノールアミン等)、珪酸塩類(メタ珪酸ソーダ、A珪酸ソーダ等)炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
防カビ・抗菌剤(MIS)としては、例えば特許7104972号に記載の抗菌処理薬剤が挙げられる。
【0043】
防錆剤としては、モルホリン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン及びこれ等の炭酸塩、EDTA、リン酸二水素カリウム、エチルカルビトール等が挙げられる。商品名であればトリロンBパウダー等が挙げられる。
【0044】
なお、菜種油及びひまし油以外の代替物を列挙すると以下の通りである。但し、複数の乳化相が上下方向に重なった状態を長期間維持できるものに限る。
【0045】
精製物を含む常温で液体状である各種油性物(流動パラフィン、グリセリン、グリコール系、ワセリン等)、植物由来油分(ホホバ油、パーム油、サラダ油、ココナッツ油、椿油、ごま油、オリーブ油、コーン油、大豆油、白絞油、アザミ油、ひまわり油、こめ油等)、比重の軽い部分を選定した動物由来の油(馬油、羊油、牛油、兎油等)等が挙げられる。あるいは、これ等を含有する混合油、安全性が確認されていれば廃油でもよい。
【0046】
菜種油及びひまし油以外(代替物)としては、食品の製造や調理に使われた後の食用油も挙げられる。また、食品の製造や調理に使われた後の食用油から不純物の除去を経た再生油も挙げられる。上記食用油及び再生油を含めて本明細書では廃油と称する。
【0047】
廃油にはグレードがあり、ヨウ素価が概ね120超で品質の高い植物廃油のことを植物油Aグレードと称する。それに次ぐ品質の植物廃油のことを植物油Bグレードと称する。いずれのグレードの廃油であっても構わないが、乳化相を生じさせやすいこととコストを鑑みると、植物油Bグレードが好ましい。植物油BグレードはB廃油とも言われる。
【0048】
廃油のグレードについては、以下の各文献を参照可能である。特開2002-129080号、株式会社大口油脂作成の規格表、特開2002-121428号、「油脂」(Vol.53,No.10(2000),36~39頁)、「油脂」(Vol.51,No.10(1998),28~31頁)、「油脂」(Vol.50,No.7(1997),24~27頁)
【0049】
また、水に添加することにより水の蒸発を抑制する水蒸発抑制組成物の製造方法にも、本発明の技術的思想が反映されている。具体的には以下の通りである。
「界面活性剤を含有させつつ油系成分と水系成分とを乳化し、上下方向に重なった複数の乳化相を備える水蒸発抑制組成物を製造する、水蒸発抑制組成物の製造方法。
(条件1)界面活性剤は少なくとも2種類である。
(条件2)油系成分は少なくとも2種類の油を含有する。」
【0050】
推測ではあるが、上記複数の乳化相が形成されるのは、上記条件1、2の少なくともいずれかを満たすことに起因する。
【0051】
条件1についてであるが、先に列挙した界面活性剤の種類から少なくとも2つを組み合わせて原料として配合し、乳化すればよい。
条件1を満たせば、油系成分が1種でも乳化相は複数形成される。
【0052】
条件2についてであるが、菜種油及びひまし油と上記各油から少なくとも2つを組み合わせて原料として配合し、乳化すればよい。
条件2を満たせば、界面活性剤(乳化剤)が1種でも乳化相は複数形成される。
【0053】
条件1、2を共に満たし、後掲の実施例に記載の手法にて作製した検体(水蒸発抑制組成物)の写真を図1に示す。図1の矢印が示すように、この水蒸発抑制組成物では、5相以上の乳化相が形成されている。
【0054】
乳化の具体的な手段には限定は無い。例えば、界面活性剤と油系成分と水系成分とその他成分とを含有する溶液が入った容器を手動で撹拌してもよい。手動で撹拌する場合、例えば後掲の実施例の場合だと、振幅20cm前後での振とうを15秒前後行えば済み、転置撹拌の場合だと10秒程度行えば済む。そして、一度でも均一に分散且つ乳化状態にすれば、静置した際に、複数の乳化相が存在する状態を長期間保持できる。
【0055】
手動で撹拌ではなく、容器に対して機械乳化を行ってもよい。振動機等の機械を用いて機械乳化してもよいし、ホモジナイザーを使用して機械乳化してもよい。界面活性剤と油系成分との組み合わせの種類は、乳化状態がどれだけ維持されるかに影響を及ぼす。後掲の実施例に記載の組み合わせに代表されるように、適宜、上記に列挙した界面活性剤と油系成分とを組み合わせ、最終的に複数の乳化相が形成され、その状態が長期間維持されればよい。
【0056】
本実施形態によれば、上側乳化相が、投入対象である水の蓋代わりとなり水の蒸発を抑制でき、且つ、下側乳化相が、配管の内壁の汚れに伴う毛細管現象による水の蒸発を抑制できる。その結果、従来製品よりも水蒸発抑制性能を向上させられる。また、乳化状態の水蒸発抑制組成物により、毛細管現象による汚れ層への目詰まりを生じさせつつも、水面の封止状態を更に強化できる。
【0057】
本実施形態に係る水蒸発抑制組成物を水(例えば排水トラップ内の排水)に添加し、前記水の蒸発を抑制する、水蒸発抑制方法にも、本発明の技術的思想が反映されている。
【0058】
なお、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例0059】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
試験内容は以下の通りである。以下の作業は、大気雰囲気且つ室温(25℃)で行った。
【0061】
<手順1>各試験管を用意する。各試験管の内側側壁から外側側壁へと長尺な綿生地(ガーゼ、幅1.5cm×長さ15cm)を架け渡す。各試験管の外側側壁に対し、ガーゼをテープで貼り付ける。
【0062】
<手順2>手順1で用意した各試験管に、マクロピペットを使用して水道水を10mL添加する。その際、ガーゼに浸み込ませるように水道水を添加する。そして、薬さじを用いて該水道水を利用して各試験管の内側側壁にガーゼを貼り付ける。
【0063】
<手順3>手順2で用意した各試験管に、マクロピペットを使用して各検体を10mL添加した。その際、ガーゼに触れないように各検体を添加した。各検体は以下の通り。
試験例1、2の検体:水道水
試験例3、4の検体:ピュアブロック(登録商標)(株式会社ピュアソン製)
試験例5、6の検体:組成は以下の通りである。
白絞油:20%
ハッカ油:0.1~0.5%
トリオール:1~5%
高級アルコール系界面活性剤:0.5~5%
アルカリ剤:1~3%
防カビ抗菌剤:0.1%
防錆剤:0.1%
残部はアルカリイオン水
上記組成の原料を封入した容器に対し、転置撹拌を10秒行った。転置撹拌直後は、均一な白濁液となり、乳化が行われていることが確認できた。
【0064】
市販品のピュアブロック(登録商標)の成分表示は以下の通りである。
界面活性剤(5%ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)、水質軟化剤、防腐剤、防カビ剤、香料、防錆剤
【0065】
なお、市販品のピュアブロック(登録商標)にはパラフィンも含有されている。静置状態のピュアブロック(登録商標)は、パラフィンからなる油系成分が液面に位置し、その下側にその他の成分からなる水系成分が位置している。
【0066】
写真右側の大ビーカーは乳化後5日目の本実施例に係る検体である。
【0067】
乳化後5日目の本実施例だと、大ビーカーの内容物全体が濁っている。少なくとも、ピュアブロック(登録商標)における青色着色水に比べて大ビーカーの内容物全体が濁っており、液体全体が乳化されていると想定される。更に、乳化された液体全体内において、3つの乳化相が形成されている。この3つの相を、液面に近い方(比重が小さい方)から第1乳化相(濃い白濁)、第2乳化相(白濁且つ水系成分の青色の影響を受けて乳青色になっている)、第3乳化相(水系成分の青色の影響を濃く受けつつ濁り)と名付ける。
【0068】
試験例3、5においては、各検体の添加前に、相が目視できない状態になるまで各検体を振り混ぜ、検体の添加を行った。試験例4では、試験例3での各検体の振り混ぜの5分後に検体の添加を行った。試験例6では、試験例5での各検体の振り混ぜの5分後に検体の添加を行った。
【0069】
試験開始から24時間経過後、各試験例において、水位が5mm低下した。これは、ガーゼの毛細管現象による水の吸い上げ及びその後の蒸発によるものと評価試験の書面には記載されている。
【0070】
試験開始から丸5日後(試験終了時)の結果が図2に示す写真の左側である。なお、図2に示す写真の右側は、本実施例(試験例5、6)で用いた検体である水蒸発抑制組成物である。
【0071】
試験結果としては、水(試験例1、2)では、ガーゼによる毛細管現象により、水の蒸発が進み、水位が各試験管の上側黒線から下側黒線まで低下した。
【0072】
試験例3、4では、水(試験例1、2)よりも蒸発抑制効果は発揮できたが、本実施例(試験例5、6)の蒸発抑制効果ほどではなかった。そもそも、試験例4では、蒸発抑制効果が水(試験例1、2)以下という結果になった。
【0073】
本実施例(試験例5、6)では液全体が濁っているため液全体が乳化していると推測され、そういう意味では本実施例(試験例5、6)だと添加時(試験開始時)と比べても乳化状態は維持されたままである。
【0074】
既存商品であるピュアブロック(登録商標)(試験例3、4)のうち試験例3のみ、試験終了時に、パラフィンからなる油系成分とそれ以外の水系成分との界面にごく一部白濁している部分が存在しているのが確認できた。
【0075】
ただ、いずれにせよ、試験終了時には、パラフィンからなる油系成分は、それ以外の水系成分から明確に分離していた。
【0076】
試験例3と試験例4とで蒸発抑制効果に大きな違いがある理由は以下のように推察される。
【0077】
試験例3を実施した段階では、ピュアブロック(登録商標)は乳化或いは分散できていた一方、次の試験例4に至る5分前後という短い間に、試験管に投入前の水蒸発防止剤組成物において水系成分と油系成分との分離が進んでしまった。つまり、試験例3では乳化状態のピュアブロック(登録商標)がマクロピペットで採取出来た一方、試験例4では既に乳化状態が解消されその結果ピュアブロック(登録商標)のうち油系成分しかマクロピペットで採取できず、ひいては、毛細管現象の目詰まり効果を生じさせる乳化成分を採取できず、その結果、試験例4では蒸発抑制効果が発揮されなかったのでは、と推測される。
【0078】
別の要因として、ピュアブロック(登録商標)の水系成分は、ガーゼを構成するセルロースへの親和性が水よりも高く、その結果、ガーゼを伝い、水の蒸発が促進されたとも考えられる。また、逆に、ピュアブロック(登録商標)の油系成分(パラフィン)は、ガーゼを構成するセルロースへの親和性が低く、水がガーゼを伝うことをパラフィンが妨害できなかったことが考えられる。パラフィンがガーゼを伝わったこと自体は、外側側壁に対してガーゼを貼り付けたテープが、試験例3、4のみ剥がれていたこと、試験者がガーゼの端の触指時にべたついていたことからも推測される。ちなみに、外側側壁のガーゼの端部は、試験例3、4だと層状に着色が見られた。具体的には、試験例3だと端から青色→無色→青色→無色と段階的に変化し、試験例4だと端から青色→無色と段階的に変化していた。
【0079】
試験例5、6だと外側側壁のガーゼの端部は均等に着色し且つ乾いた状態であった。試験例1、2だと当然無色で湿った状態だった。
【0080】
試験管に投入前の封水蒸発防止剤組成物において水系成分と油系成分との分離が進んでしまったせいで、封水蒸発防止剤組成物の油系成分と水系成分とが乳化或いは分散した分散相が形成されず、そうなると必然的に該分散相がガーゼと接触することはない。その結果、排水管の管壁内面に付着した汚れ層に浸入した後に目詰まりさせることにより、封水が汚れ層から蒸発することを防止できない。そのため試験例4が試験例3よりも劣った結果となった、と推測される。
【0081】
ちなみに、試験例3、4は、配管内の汚れを想定しなければ(本例で言うところのガーゼを設けなければ)、良好な水蒸発抑制効果が得られる。
【0082】
本実施例に係る試験例5、6では、試験管内の液体全体が濁っている。なお、添加した本実施例に係る検体は、上掲写真の大ビーカーに示すように全体が濁っていたものを振り混ぜたものである。添加の際、試験管内には10mLの水道水が存在していた。つまり、本実施例に係る検体を添加しただけで、試験例5、6の試験管内は、上掲写真の大ビーカーに示すように液体全体が濁った。
【0083】
上記現象が生じた理由としては、推測ではあるが、本実施例における、水系成分の青色の影響を濃く受けつつ濁っている第3乳化相に、試験管内の10mLの水道水が取り込まれたのでは、と推測される。例えば牛乳はO/Wエマルジョンであるが該牛乳に水を加えても多少薄まるものの牛乳としての特徴は残る。
【0084】
このことから、最も下側の第3乳化相はO/Wエマルジョンであり、最も上側(液面)の第1乳化相(濃い白濁)はW/Oエマルジョン(例えばバターのような乳化相)であり、それらの間に挟まれる第2乳化相(白濁且つ水系成分の青色の影響を受けて乳青色になっている)は両エマルジョンが混在した中間相(連続相)になっているのではないか、とも推測される。
【0085】
本実施例(試験例5、6)が蒸発抑制効果を顕著に発揮できた理由は、推測ではあるが、水相の上の乳化相において複数の相が得られたことに起因する。第1乳化相は比重が小さく、乳化相の中でも油系成分の特徴を多く備えると推測される。但し、油系成分の特徴を多く備えるといっても、写真に示すように、第1乳化相は白濁しており、乳化していることに変わりはない。
【0086】
その結果、第1乳化相が、液面の蓋代わりになり、液面からの水の蒸発を抑制していると推察される。
【0087】
そして、第2乳化相、第3乳化相は比重が大きく、乳化の特徴(水相としての特徴)を多く備えると推察される。この第2、第3乳化相に含まれる乳化成分が、毛細管現象によりガーゼを伝って上昇し、目詰まりを生じさせ、水相の蒸発を防止していると推察される。この効果は、ピュアブロック(登録商標)からは得られない効果である。
図1
図2