(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024072399
(43)【公開日】2024-05-28
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240521BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240521BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240521BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B17/10
C03C27/12 K
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183175
(22)【出願日】2022-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増田 嘉丈
(72)【発明者】
【氏名】澤本 恵子
(72)【発明者】
【氏名】宇都 孝行
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AG00C
4F100AG00D
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100BA05
4F100BA08
4F100EH20
4F100EJ38
4F100JA05A
4F100JA05B
4F100JB16B
4F100JK07
4F100JN06
4F100YY00A
4G061AA20
4G061BA01
4G061BA02
4G061CB16
4G061CD02
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】
【課題】
本発明は、積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に中間膜と支持体が配置された成形品において、加熱加圧成形による凹凸状の歪みを軽減し、成形体としたときに外観や意匠性を向上させることができる積層ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【解決手段】
ポリエステル樹脂(樹脂A)を主成分とする層(A層)と、前記樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とする層(B層)を交互に51層以上積層した積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表面における面配向係数が0.20以上0.30以下であり、tanδのピーク値、及び150℃でのtanδの値をそれぞれX、Yとしたときに、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
X/Y≧1.5 ・・・式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(樹脂A)を主成分とする層(A層)と、前記樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とする層(B層)を少なくとも含み、51層以上積層した積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表面における面配向係数が0.20以上0.30以下であり、tanδのピーク値、及び150℃でのtanδの値をそれぞれX、Yとしたときに、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
X/Y≧1.5 ・・・式(1)
【請求項2】
tanδの値がXとなるときの温度が120℃以下である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記樹脂Aおよび前記樹脂Bのガラス転移温度Tgが110℃以下である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
tanδの最大値が0.20以上である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値が0.005以上である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記樹脂A及び前記樹脂Bの少なくとも一方が式(2)で表される化学構造を有する、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
-O-(CnH2n-O)m- ・・・式(2)
(m、nは、m×nが5以上となる自然数である。)
【請求項7】
前記樹脂Aの主たるジカルボン酸単位がナフタレンジカルボン酸単位である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記樹脂Bがポリエステル樹脂であり、前記樹脂Aと前記樹脂Bの少なくとも一方が、全ジオール構成単位を100mol%としたときに前記式(2)で表される化学構造を有するジオール単位を0.5mol%以上40mol%以下含む、請求項6に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
示差走査熱量分析計により求められる微小吸熱ピークが220℃以下に存在する、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
900~1200nmの波長範囲において、反射率が20nm以上連続して50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項11】
内部ヘイズが1.0%以下である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項12】
請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルムを含んでなる、合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学特性が異なる2種以上の材料を光の波長レベルの層厚みで交互に積層することにより発現する光の干渉現象を利用して、特定の波長の光を選択的に反射させる積層ポリエステルフィルムが知られている。このような積層ポリエステルフィルムは、用いる材料の屈折率、層数、各層厚み等を調整することで種々の性能を具備せしめることが可能であるため、例えば、コールドミラー、ハーフミラー、レーザーミラー、ダイクロイックフィルタ、熱線反射フィルム、近赤外カットフィルタ、単色フィルター、偏光反射フィルム等の用途で使用されている。
【0003】
このような積層ポリエステルフィルムを硬い支持体に加熱加圧ラミネートして得られる成形体は、化粧版等の装飾材や、各種家電製品、建築部材、自動車関係の部品等に使われている。なかでも近年、環境保護による二酸化炭素排出規制を受けて、夏場の外部からの熱、特に太陽光による熱の流入を抑制できる熱線カットガラスが自動車や電車などの乗り物、建物の窓ガラスとして注目されている。
【0004】
このような熱線カットガラスの一例として、ガラス中や合わせガラスに用いられる中間膜中に熱線吸収材を含有させ、熱線を熱線吸収材にて遮断するもの(例えば特許文献1)、金属膜をガラス表面上にスパッタなどにより形成し熱線を反射させて遮断するもの(例えば特許文献2)、屈折率の異なるポリマーが交互に積層された積層ポリエステルフィルムをガラス及び中間膜の間に挿入して熱線を反射させて遮断するもの(例えば特許文献3)などがある。
【0005】
特許文献1の方法では、外部から入射される太陽光が熱エネルギーに変換されるため、その熱が室内へと放射されて熱線カット効率が低下する問題がある。加えて、当該方法では熱線を吸収することで部分的にガラス温度が上昇し、外気温との差によりガラス本体が破損する場合もある。特許文献2の方法では、熱線のみではなく可視光も反射するために着色しやすく、また、電磁波も遮蔽するために内部での通信機器の使用等に悪影響を及ぼす場合がある。一方、特許文献3の積層ポリエステルフィルムは、その層厚みを制御して反射する波長を選択できるため、温度上昇に寄与する近赤外領域の光を選択的に反射することができ、可視光線透過率を維持しつつ熱線カット性能を向上させることができる。また、金属など電波を遮断する成分を含まないために、優れた電波透過性を保持したものとなる。
【0006】
また、このような積層ポリエステルフィルムを溶融押出法にて得る場合、透明性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、強度および寸法安定性などの理由から、一方の樹脂層の主成分にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートといったポリエステル樹脂を使用し、もう一方の樹脂層に、当該ポリエステル樹脂とは光学特性の異なる熱可塑性樹脂(例えば共重合ポリエステル)を使用したものが用いられている(例えば特許文献4、5)。特に、一方の樹脂層の主成分にポリエチレンナフタレートを用いた場合、低屈折率の共重合ポリエステルとの屈折率差を大きくすることが出来るため、高い反射率を有する積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-17854号公報
【特許文献2】特許第3901911号公報
【特許文献3】特許第4310312号公報
【特許文献4】特開2005-059332号公報
【特許文献5】特開2004-249587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱線カットガラスは人の目に触れる場所に使われることが多く外観も重要となる。しかしながら、特許文献3の積層ポリエステルフィルムを貼着する態様においては、支持体との積層に用いる中間膜の厚みムラによる押圧ムラや、中間膜との熱収縮応力差等によって成形時に積層ポリエステルフィルムに凹凸状の歪みが発生し外観を損なうという問題がある。特に、積層ポリエステルフィルムにあっては、層厚みの制御による干渉反射現象を利用するものであることから、こうした凹凸は光学的な欠点として目立ち易くなる。さらに、支持体と中間膜と多層積層フィルムを積層して成形する場合、シワの問題もある。これは、積層ポリエステルフィルムが成形の際に、支持体の形状へ追従できないことや、中間膜との熱収縮率差等を原因として、主に成形体端部に発生する問題である。
【0009】
また、特許文献4や5に記載のとおり、溶融押出法にてポリエチレンナフタレートを主成分とした層と低屈折率の共重合ポリエステルの層からなる積層ポリエステルフィルムとした場合、相対的にポリエチレンナフタレートを主成分とした層の剛性が高いために変形し難く、積層ポリエステルフィルムを変形・加工して用いる用途には適用し難い。例えば、支持体と中間膜と積層ポリエステルフィルムを積層して成形する場合にシワや凹凸状の歪みが発生することがあるため、最終製品として適用しづらいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決し、積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に中間膜と支持体が配置された成形品において、加熱加圧成形による凹凸状の歪みを軽減し、成形体としたときに外観や意匠性を向上させることができる積層ポリエステルフィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。すなわち、本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂(樹脂A)を主成分とする層(A層)と、前記樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とする層(B層)を交互に51層以上積層した積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表面における面配向係数が0.20以上0.30以下であり、tanδのピーク値、及び150℃でのtanδの値をそれぞれX、Yとしたときに、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、積層ポリエステルフィルムである。
X/Y≧1.5 ・・・式(1)。
【0012】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは以下の態様とすることもでき、これを用いて合わせガラスとすることもできる。
[1] ポリエステル樹脂(樹脂A)を主成分とする層(A層)と、前記樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とする層(B層)を少なくとも含み、51層以上積層した積層ポリエステルフィルムであって、少なくとも一方の表面における面配向係数が0.20以上0.30以下であり、tanδのピーク値、及び150℃でのtanδの値をそれぞれX、Yとしたときに、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、積層ポリエステルフィルム。
X/Y≧1.5 ・・・式(1)
[2] tanδの値がXとなるときの温度が120℃以下である、[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3] 前記樹脂Aおよび前記樹脂Bのガラス転移温度Tgが110℃以下である、[1]または[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4] tanδの最大値が0.20以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5] 60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値が0.005以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[6] 前記樹脂A及び前記樹脂Bの少なくとも一方が式(2)で表される化学構造を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
-O-(CnH2n-O)m- ・・・式(2)
(m、nは、m×nが5以上となる自然数である。)
[7] 前記樹脂Aの主たるジカルボン酸単位がナフタレンジカルボン酸単位である、[1]~[6]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[8] 前記樹脂Bがポリエステル樹脂であり、前記樹脂Aと前記樹脂Bの少なくとも一方が、全ジオール構成単位を100mol%としたときに前記式(2)で表される化学構造を有するジオール単位を0.5mol%以上40mol%以下含む、[6]または[7]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[9] 示差走査熱量分析計により求められる微小吸熱ピークが220℃以下に存在する、[1]~[8]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[10] 900~1200nmの波長範囲において、反射率が20nm以上連続して50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する、[1]~[9]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[11] 内部ヘイズが1.0%以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルム。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを含んでなる、合わせガラス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、加熱加圧成形による凹凸状の歪みを軽減し、成形体としたときに外観や意匠性を向上させることができる積層ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲内においての種々の変更は当然あり得る。また、説明を簡略化する目的で一部の説明では異なる2種のポリエステル樹脂が交互に積層された多層積層フィルムを例にとり説明するが、3種以上のポリエステル樹脂を用いた場合やポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いる場合においても同様に理解されるべきものである。
【0015】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂(樹脂A)を主成分とする層(A層)と、樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とする層(B層)を少なくとも含む。ポリエステル樹脂は一般的に熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂と比べて安価であり、かつ公知の溶融押出により簡便かつ連続的にシート化することができることから、低コストで積層フィルムを得ることが可能となる。
【0016】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、樹脂Aと樹脂Bは互いに異なる樹脂である必要がある。ここでいう「異なる」とは、2種類の樹脂が以下の1~3の少なくとも一つに該当する場合をいい、好ましくは以下の2に該当する場合である。
1:面内で任意に選択される直交する2方向および該面に垂直な方向から選ばれる方向のいずれかにおいて屈折率が0.01以上異なる。
2:異なる融点または結晶化温度を有する(異なる融点または結晶化温度とは、後述の測定方法によって求められる融点と結晶化温度のいずれかが3℃以上異なることをいう。なお、一方の樹脂が融点を有しており、もう一方の樹脂が融点を有していない場合や、一方の樹脂が結晶化温度を有しており、もう一方の樹脂が結晶化温度を有していない場合も異なる融点または結晶化温度を有するものとする。)
3:核磁気共鳴分光法やガスクロマトグラフ質量分析によって分析される組成が1wt%以上異なる。
【0017】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、A層と前記B層を少なくとも含み、51層以上した構成を有する必要がある。このような構成の例として、A層とB層が交互に51層以上積層された例、すなわち、A層とB層が厚み方向に、A(BA)n、B(AB)n(nは積層数を表す自然数)といったように規則的な配列で積層されたものが挙げられる。このように主成分の樹脂が異なるA層とB層が交互に積層されることにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係よって特定される特定の波長の光を反射させることが可能となる。本発明の積層ポリエステルフィルムはこのような構成を有するため、積層ポリエステルフィルムの表層はA層またはB層を表層に有する。そのため、後述する積層ポリエステルフィルムの面配向係数などの諸物性はA層またはB層について計測されるものである。また、このような構成のその他の例として、A層とB層に加え、樹脂A、Bとは異なる樹脂CからなるC層の3種類の層が規則的に積層された態様が挙げられる。
【0018】
一般的に、干渉反射の原理から、構成する層数が多いほど広い帯域に渡り高い反射率を得ることが出来ることから、構成する層の数は、好ましくは101層以上であり、より好ましくは201層以上である。上記理由より層数は多いほど好ましいが、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化が生じるために、現実的には1001層以下が実用範囲となる。
【0019】
本発明の積層ポリエステルフィルムの一態様として、後述の方法で測定した反射率が20nm以上の波長で連続して30%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有することが挙げられる。より好ましくは、反射率が100nm以上にわたり連続して30%以上となる反射帯域を有することであり、更に好ましくは反射率が300nm以上にわたり連続して30%以上となる反射帯域を有すること、特に好ましくは反射率が500nmにわたり以上連続して30%以上となる反射帯域を有することである。また、反射帯域における反射率は、より好ましくは連続して50%以上であり、更に好ましくは連続して70%以上である。反射帯域や反射率の上限はないものの、上記の層数が増えることによる製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化が生じる理由と同様のために、現実的には反射帯域の上限は2000nm、反射率の上限は110%である。
【0020】
例えば、可視光領域(400~800nm)の光は透過し、可視光領域よりもやや大きな波長900~1200nm(全太陽光の強度の約18%)の光を反射することにより、透明でしかも高い熱線カット性能を持つ積層ポリエステルフィルムとすることができる。あるいは可視光領域(400~800nm)の光を50%程度反射させるフィルムを得ればハーフミラーとして適用できるなど、様々な用途に応用可能である。このような積層ポリエステルフィルムは、光学特性の異なる2種以上の樹脂の面内屈折率の差を大きくすることにより実現できる。そのため、二軸延伸フィルムとする場合は結晶性であるポリエステル樹脂を主成分とする層と、延伸時に非晶性を保持もしくは熱処理工程で融解される熱可塑性樹脂(低屈折率の共重合ポリエステルが好ましく用いられる)を主成分とする層が交互に積層された多層積層ポリエステルフィルムとすることが好ましい。
【0021】
また、熱線反射用途に用いる場合、900~1200nmの波長範囲において反射率が20nm以上連続して50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する積層ポリエステルフィルムとすることも好ましい。太陽光は可視光領域に主に強度分布を備えており、波長が大きくなるにつれてその強度分布は小さくなる傾向にある。しかしながら、熱線カットガラスのように高い透明性が求められる用途で使用するには、透明性と高い熱線カット性能の両立が必要である。このように、可視光領域よりもやや大きな波長900~1200nmの光を効率的に反射することにより、透明性と高い熱線カット性能を両立した積層ポリエステルフィルムとすることができる。上記観点から、より好ましくは、900~1200nmの波長範囲において、反射率が200nm以上連続して50%以上となる反射帯域を有することであり、更に好ましくは反射率が900~1200nmの波長範囲全体において連続して50%以上であることである。また、波長900~1200nmでの平均反射率が70%以上であることが好ましく、波長900~1200nmでの平均反射率が80%以上であることがさらに好ましい。波長900~1200nmでの平均反射率が大きくなるに従い、高い熱線カット性能を付与することが可能となる。また、積層ポリエステルフィルムを当該用途で用いる場合、波長400~800nmの平均反射率を好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下とすることで可視領域での反射を抑え、色付きやぎらつきを軽減することができる。このような積層ポリエステルフィルムは、光学特性の異なる2種以上の樹脂の面内屈折率の差を大きくすることにより実現できるので、二軸延伸フィルムとする場合は結晶性のポリエステル樹脂を主成分とする層と、延伸時においても非晶性を保持できる、あるいは熱処理工程で融解される熱可塑性樹脂を主成分とする層が交互に積層された積層ポリエステルフィルムとすればよい(換言すれば、樹脂Aとして結晶性のポリエステル樹脂を、樹脂Bとして延伸時においても非晶性を保持できる、あるいは熱処理工程で融解される熱可塑性樹脂を用いた積層ポリエステルフィルムとすればよい。)。
【0022】
ここで、隣接するA層とB層の光学厚みは下記式(3)、式(4)を同時に満たすことが好ましい。
【0023】
【0024】
【0025】
ここでλは反射波長、nαはA層の面内屈折率、dαはA層の厚み、nβはB層の面内屈折率、dβはB層の厚み、mは次数であり、自然数である。式(3)と式(4)とを同時に満たす層厚み分布を持つことで偶数次の反射を解消できる。そのため、波長900nm~1200nmの範囲における平均反射率を高くしつつ、可視光領域である波長400~800nmの範囲における平均反射率を低くすることができるため、透明でかつ、熱線カット性能の高いフィルムを得ることができる。一般的に熱可塑性樹脂を成形し、延伸した後のフィルムの屈折率としては、約1.4~1.9となるため、隣接するA層とB層の厚みの比(A層の厚み/B層の厚み)を0.7以上1.4以下とすることで、偶数次の反射を抑制したフィルムを得ることができる。従って、隣接するA層とB層の厚みの比(A層の厚み/B層の厚み)を0.7以上1.4以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.8以上1.2以下である。
【0026】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、樹脂Bは、前述の樹脂Aと異なる熱可塑性樹脂を主成分とする。前述の樹脂Aと異なる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。中でも、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有するポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、樹脂Aや樹脂B、必要に応じて設けることができるC層の主成分である樹脂Cに用いられる、ポリエステル樹脂のジカルボン酸単位としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸)、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル形成性誘導体などの構成単位が挙げられる。
【0028】
また、これらの樹脂に用いることができるジオール単位としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびこれらのエステル形成性誘導体などの構成単位が挙げられる。
【0029】
これらの樹脂を構成するジカルボン酸単位として、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸等の構成単位が挙げられ、ジオール単位としては、好ましくはエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の構成単位が挙げられる。
【0030】
本発明の積層ポリエステルフィルムの一態様として、前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面の屈折率が1.68以上1.80以下である態様が挙げられる。屈折率が1.68よりも低い場合には、反射率が30%以上となる反射帯域を有することが困難となることがある。屈折率が1.80よりも高い場合には樹脂Aと樹脂Bの積層性が悪化し、フィルムの白濁やA層とB層界面での剥離が顕著となる場合がある。この達成方法の例としては、樹脂Aの主たるジカルボン酸単位がナフタレンジカルボン酸単位である態様とする方法が挙げられる。このような態様とすることで、A層とB層との屈折率差を設けることができ、より反射性能に優れた積層ポリエステルフィルムを得ることが容易となる。また、A層とB層の屈折率差を大きくするために、樹脂Bは非晶性樹脂であることが好ましい。なお、本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂Aを主成分とする層(A層)、樹脂Bを主成分とする層(B層)を有するものであるが、ここでいう主成分とは各層を構成する成分の内、50重量%より多く占める成分を表す。本発明の積層ポリエステルフィルムの樹脂Aに、ジカルボン酸構成成分にナフタレンジカルボン酸を含有させるには、樹脂Aを構成する原料ポリエステル樹脂のジカルボン酸構成成分にナフタレンジカルボン酸を含むことが好ましい方法として挙げられる。
【0031】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、A層とB層の面内平均屈折率の差が0.05以上であることが好ましい。より好ましくは0.12以上であり、さらに好ましくは0.14以上0.35以下である。面内平均屈折率の差が0.05より小さい場合には、反射率が30%以上となる反射帯域を有することが困難となることがある。この達成方法の例としては、樹脂Aが結晶性のポリエステル樹脂であり、かつ樹脂Bが非晶性熱可塑性樹脂もしくは非晶性熱可塑性樹脂と結晶性熱可塑性樹脂の混合物であることである。この場合、フィルムの製造における延伸、熱処理工程において容易に屈折率差を設けることが可能となる。面内平均屈折率の差が0.35より大きい場合には、樹脂の積層性が悪化し積層そのものが困難になり、また耐熱性やハンドリング性に劣ったフィルムとなる。
【0032】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、合わせガラス等の成形体としたときの外観を良好とする観点から、tanδのピーク値、及び150℃でのtanδの値をそれぞれX、Yとしたときに、以下の式(1)を満たすことが必要である。なお、tanδは動的粘弾性測定により測定することができ、その詳細は後述する。
X/Y≧1.5 ・・・式(1)。
【0033】
積層ポリエステルフィルムを支持体と中間膜と積層して成形する場合、密着性を高めるために加熱と加圧が行われる。成形の際に、中間膜の厚みムラや、中間膜と多層積層ポリエステルフィルムとの間の熱収縮応力差によって、積層ポリエステルフィルムに凹凸状の歪みが発生し、その凹凸によって光が散乱、乱反射を起こし、成形品の外観が悪くなる。このとき支持体はほとんど変形しないため、中間膜の形状は支持体によって緩和することはほとんど無い。積層ポリエステルフィルムは、その中に異種の樹脂から形成される界面が存在するため、フィルム表面による光の散乱、乱反射以外に界面による散乱、反射が加わるため、一種類の樹脂からなるフィルムよりも凹凸が目立ち易くなる。したがって、凹凸が発生し難い積層ポリエステルフィルムを用いることができれば、成形品の外観不良問題を解消することができる。
【0034】
動的粘弾性測定により求められる損失正接(tanδ)は材料の粘弾性を評価する指標であり、この値が低いほど弾性的であり、高いほど粘性的であることを表す。ここで、積層ポリエステルフィルムを支持体と中間膜と積層して成形する場合、密着性を高めるために加熱と加圧が行われるが、材料を積層する界面に気泡が入らないようにすることや、中間膜の密着性や平滑性を高める観点から、成形する際には温度や圧力を徐々に上げていき(昇温工程)、中間膜の架橋や結合反応が進行する高温条件での保持が行われる(保持工程)ことが一般的である。この際、昇温工程においては積層ポリエステルフィルムや支持体は柔軟化すると共に収縮が起こり、これらの柔軟性や収縮挙動が大きく異なると気泡やシワの原因になる。そのため、昇温工程において、積層ポリエステルフィルムには粘性的であること、すなわちtanδが高いことが求められる。一方で保持工程では、中間膜の架橋や結合反応が進行する間、温度120~150℃という高温下で20~60分間曝されることとなり、この間に収縮やフィルムの柔軟化が起こるとシワの原因となる。そのため、保持工程において、積層ポリエステルフィルムには弾性的であること、すなわちtanδが低いことが求められる。
【0035】
そのため、式(1)の通り150℃におけるtanδをより低く、積層ポリエステルフィルムが最も粘性的になる損失正接のピークにおける値をより高くすることで、気泡やシワの発生を抑制できるため、外観に優れた成形体を得ることが可能となる。上記観点から、式(1)のX/Yは1.5以上であることが必要であり、より好ましくは1.8以上、更に好ましくは2.0以上である。1.8以上であると成形加工時の気泡やシワが発生し難くなり、2.0以上であるとより発生し難くなる。一方、X/Yが高くなりすぎるとフィルムが柔軟化しすぎることで生産性が悪くなることや成形加工時のハンドリングが悪くなることから、X/Yは10未満であることが好ましい。また、X/Yが1.5未満であると、気泡やシワが発生し易くなり外観不良が生じる。
【0036】
前記式(1)を満たすための方法は特に限られるものでは無いが、積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値を0.20以上とすることが挙げられる。前述の通り昇温工程においては粘性的であることが求められるため、本発明の積層ポリエステルフィルムは、tanδの最大値が0.20以上であることが好ましい。より好ましくは0.22以上0.35以下であり、更に好ましくは0.22以上0.30以下である。積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値が0.20以上であると、気泡やシワ無く成形することがより容易となる。tanδの最大値が0.35以下であることにより、樹脂の屈折率の低下に伴う反射率低下が軽減される。
【0037】
ポリエステル樹脂のtanδは昇温する過程でピーク温度から30~60℃かけて緩やかに低下するため、ガラス転移点を30~60℃超えた150℃以上の温度ではtanδの値が0.5~1.5程度と低い値で安定化する。そのため、積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値が0.20よりも低いと、X/Yが式(1)を満たすことが困難になることがある。一方、積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値が0.40以上であると、樹脂の屈折率の低下に伴う反射率の低下が軽減される点で好ましい。
【0038】
積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値を0.20以上とする方法としては、例えば樹脂Aおよび樹脂Bのガラス転移温度Tgを共に100℃以下とする方法や、後述の面内延伸倍率を9倍以上14倍以下とする方法等が挙げられる。なお、これらは適宜併用してもよい。
【0039】
前記式(1)を満たすための方法は特に限られるものでは無いが、その他の例として積層ポリエステルフィルムの60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値を0.005以上とする方法が挙げられる。前記昇温工程において気泡やシワ無く成形するためにはtanδが0.20以上であることが好ましいため、昇温工程においてより早くtanδ0.20以上に到達することが求められる。そのため、60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値を0.005以上とすることが好ましい。上記観点から、積層ポリエステルフィルムの60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値は、より好ましくは0.007以上0.10以下であり、更に好ましくは0.010以上0.10以下である。
【0040】
積層ポリエステルフィルムの60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値が0.005以上であると成形加工時の気泡やシワが発生し難くなる。一方、積層ポリエステルフィルムの60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値が0.10以下であると、積層ポリエステルフィルムの収縮やカールによるハンドリング性の悪化が軽減される。積層ポリエステルフィルムの60~120℃におけるtanδの1℃あたりの増加量の最大値を0.005以上とする方法としては、例えば樹脂Aおよび樹脂Bのガラス転移温度Tgを共に100℃以下とする方法や、後述の横延伸での熱処理温度を220℃以上とする方法が挙げられる。なお、これらの方法は適宜併用することもできる。
【0041】
前記樹脂Aおよび樹脂Bのガラス転移温度Tgを共に100℃以下とする方法は特に限られるものでは無いが、例として樹脂Aまたは樹脂Bに結晶性の低い成分を共重合および/または含有させることが挙げられる。一例として、ナフタレンジカルボン酸をジカルボン酸成分として含むポリエステルとして最も汎用的に用いられているポリエチレンナフタレート(PEN)のガラス転移温度は約120℃であるが、PENにPENよりも結晶性の低い成分を共重合および/または含有せしめることでガラス転移温度を低くすることが可能となり、式(1)を満たすことが容易となる。前記結晶性の低い成分としては、主たる成分となる樹脂より結晶性の低い成分であれば特に限られるものでは無いが、下記式(2)で表される化学構造を含む化合物であることが好ましい。すなわち、樹脂A及び樹脂Bの少なくとも一方が式(2)で表される化学構造を有することが好ましい。
-O-(CnH2n-O)m- ・・・式(2)
(m、nは、m×nが5以上となる自然数をあらわす。)
各層を構成する樹脂成分が不明な場合、式(2)で示される化学構造の有無は、例えば以下の方法により確認することができる。まず、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)により重量ピークを確認する。次に、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)にて、推定される化学構造が有する各原子間の結合に由来するピークの有無を確認する。さらに、プロトン核磁気共鳴分光法(1H-NMR、13C-NMR)にて、化学構造式上の水素原子または炭素原子の位置に由来する化学シフトの位置と水素原子の個数に由来するプロトン吸収線面積を確認する。これらの結果から式(2)で示される化学構造の有無を判断することができる。
【0042】
ここでm×nは6以上が好ましく、更に好ましくは8以上である。式(2)で表される化学構造を有する化合物としては、具体的にはポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
前記式(1)の達成を容易とする観点から、式(2)で表される化学構造を有する化合物をポリエステル樹脂が主成分である層に含む場合は、ポリエステル樹脂の全ジオール構成成分に対して0.5mol%以上40mol%以下含むことが好ましい。すなわち、樹脂Bがポリエステル樹脂である場合であれば、樹脂Aと樹脂Bの少なくとも一方が、全ジオール構成単位を100mol%としたときに前記式(2)で表される化学構造を有するジオール単位を0.5mol%以上40mol%以下含むことが好ましい。上記観点から、より好ましくは2mol%以上30mol%以下、更に好ましくは4mol%以上20mol%以下である。前述の範囲において式(2)で表されるジオール単位を含むと、前記式(1)を好適な範囲とすることが容易となる。
【0044】
樹脂Aと樹脂Bの少なくとも一方が、全ジオール構成単位を100mol%としたときに前記式(2)で表される化学構造を有するジオール単位を0.5mol%以上40mol%以下含むことで、高い屈折率を有するため積層ポリエステルフィルムに好ましく用いられるナフタレンジカルボン酸をジカルボン酸単位として含むポリエステル樹脂を樹脂AやBに用いても、式(1)のX/Yを高くすることが容易となり、気泡やシワの発生を抑制できる。そのため、このような積層フィルムを合わせガラス等の成形に用いた場合、外観に優れた成形体を得ることが可能となる。
【0045】
なお、ポリエステル樹脂を主成分とする層に式(2)で表される化学構造を含める場合、式(2)で表される化学構造をジオール構成成分として共重合によって含むことにより、これらの化学構造を有する成分が蒸散や昇華などによってフィルム系外に流出するのを抑制できるため好ましい。
【0046】
また、ポリエステル樹脂を主成分とする層に式(2)で表される化学構造を含める他の方法として、式(2)で表される化学構造を含む化合物を樹脂Aまたは樹脂Bに混合する方法が挙げられる。この方法の具体例としては、例えば、式(2)で表される化学構造を含む構成単位を共重合したポリエチレンテレフタレートを、樹脂Aまたは樹脂Bに混合する方法などが挙げられる。このような構成とした場合、積層ポリエステルフィルムにおける式(2)で表される化学構造の含有量が同じであっても、単一の樹脂に式(2)で表される化学構造を有している場合よりも粘性を高くすることが可能となり、積層ポリエステルフィルムのtanδの最大値を0.20以上とすることがより容易となる。
【0047】
前記式(1)を満たすための方法は特に限られるものでは無いが、その他の例として樹脂Aまたは樹脂Bにガラス転移温度の低いポリエステル樹脂を混合することが挙げられる。ガラス転移温度の低いポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸構成成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。ジオール構成成分としては、前述と同様の成分が挙げられるが、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオールが中でも好ましい。このようにすることで式(1)を満たし、成型時の気泡やシワを抑制することは可能となるものの、上記の例と比較して樹脂の屈折率が低くなることで反射率が低くなり易いことや、異なる樹脂が混合されることでフィルムの内部ヘイズが増加し易くなる。
【0048】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、反射特性の向上と層間剥離の軽減を両立する観点から、積層ポリエステルフィルムのtanδの値がX(ピーク)となるときの温度が120℃以下であることが好ましい。より好ましくは60℃以上120℃以下であり、更に好ましくは80℃以上110℃以下である。また、反射特性を優先する場合は特に好ましくは103℃以上110℃以下であり、層間剥離の軽減を優先する場合は特に好ましくは100℃以上102℃以下である。一般的に屈折率が低い樹脂は、ガラス転移温度も低くなる。そのため、積層ポリエステルフィルムを構成するA層とB層の屈折率の差を大きくしようとすると、樹脂Aと樹脂Bのガラス転移温度が乖離し、フィルムを延伸する際にA層とB層の延伸挙動に差異が生じるため、A層とB層の配向状態の違いによる剥離が起こり易くなる。積層ポリエステルフィルムのtanδの値がXとなるときの温度が120℃以下(好ましくは110℃以下)であることにより上記メカニズムによる剥離を軽減することができ、A層とB層の密着性を向上することができる。また、積層ポリエステルフィルムのtanδの値がXとなるときの温度が60℃以上であることにより屈折率が高く保たれるため、反射率の低下が抑えられる。
【0049】
積層ポリエステルフィルムのtanδの値がXとなるときの温度は、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度の影響を受けて変化するパラメーターであり、この値が低いほど、樹脂Aと樹脂Bのうち屈折率が高い樹脂のガラス転移温度が低いことを表し、この値が高いほど、樹脂Aと樹脂Bのうち屈折率が高い樹脂のガラス転移温度が高いことを表す。積層ポリエステルフィルムのtanδの値がX(ピーク)となるときの温度を前述の範囲とすると、樹脂Aと樹脂Bの屈折率の差を適切な範囲としながら、ガラス転移温度の差が層の界面での剥離が起こり難くなる程度に制御できるため好ましい。
【0050】
損失正接(tanδ)のピークとなる温度が120℃以下とする方法としては、前記式(2)からなる成分を共重合および/または含有する方法が挙げられる。
【0051】
上記の積層ポリエステルフィルムのtanδの値がX(ピーク)となるときの温度が120℃以下であることが好ましいことと同様の理由から、本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂Aおよび前記樹脂Bのガラス転移温度Tgが110℃以下であることが好ましい。より好ましくは60℃以上100℃以下であり、更に好ましくは70℃以上95℃以下である。樹脂Aおよび前記樹脂Bのガラス転移温度Tgが110℃以下であると延伸挙動の差異等による剥離が軽減され、60℃以上であると屈折率の低下による反射率低下が抑えられる。なお、フィルムが未延伸の場合であればガラス転移温度Tgとtanδのピークとなる温度はほぼ同じ値を示すが、フィルムが延伸されることでフィルムの配向結晶化が起こりtanδのピークとなる温度はガラス転移温度よりも高温化する。そのため、フィルムの延伸倍率を上げるほどtanδのピークとなる温度は高温化し、ガラス転移温度との乖離は大きくなる。
【0052】
本発明の積層ポリエステルフィルムを用いた成形体を得るための支持体としては、例えば、樹脂、金属、ガラス、セラミックによる支持体等があげられる。支持体の表面としては平面であっても曲面であっても良く、任意の形状をとりうる。樹脂の例としては、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ABS、トリアセチルセルロース等が挙げられる。支持体は透明であることが好ましく、支持体の厚みは0.05mm~5mmであることが好ましい。
【0053】
中間膜としては、接着剤層やフィルム層が好ましい。接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ニトリルゴム系、スチレン・ブダジエンゴム系、天然ゴム系、クロロプレンゴム系、ポリアミド系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、アクリル樹脂系、セルロース系、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン等が挙げられる。また、これら接着剤には、粘着性調整剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、架橋剤等を添加してもよい。中間膜を設けることによって、支持体と多層積層ポリエステルフィルムの密着性、成形品の意匠性、耐久性、耐候性、耐衝撃性等の機能を高めることができる。意匠性を高める方法として着色剤の添加があり、着色剤としてはアゾ系顔料、多環式系顔料、レーキ系顔料、ニトロ系顔料、ニトロソ系顔料、アニリンブラック、アルカリブルー、フタロシアニン系顔料、シアニン系顔料、アゾ系染料、アントラキノン系染料、キノフタロン系染料、メチン系染料、縮合多環系染料、反応染料、カチオン染料、六ホウ化ランタン、インジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物、セシウムタングステン酸化物等が挙げられる。また、加工性や中間膜としての密着力を向上させる観点から、中間膜の厚みは10μm~1mmであることが好ましい。
【0054】
成形体を得るための成形方法としては、押出ラミネート、ホットメルトラミネート、サーマルラミネート、プレスラミネート、真空ラミネート、オートクレーブラミネート等がある。押出ラミネートとは、溶融状態の多層積層ポリエステルフィルム及び中間膜それぞれをダイからフィルム状に押し出して支持体に積層し、2本のロール間に成形品を通し成形する方法である。ホットメルトラミネートとは、多層積層ポリエステルフィルムまたは、支持体に熱で溶かした中間膜を塗布し、多層積層ポリエステルフィルムと支持体を積層する成形方法である。サーマルラミネートとは、多層積層ポリエステルフィルムと中間膜と支持体を加熱ロールで加熱しつつ圧着して積層する成形方法である。プレスラミネートとは、多層積層ポリエステルフィルムと中間膜と支持体を加熱し、プレス機にて圧着して積層する成形方法である。真空ラミネートとは、多層積層ポリエステルフィルムと中間膜と支持体を加熱後、装置内を真空状態にし、プレスして積層する成形方法である。オートクレーブラミネートとは、多層積層ポリエステルフィルムと中間膜と支持体を加熱後、装置内をガス等で加圧して積層する成形方法である。
【0055】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の表面における面配向係数が0.20以上0.30以下である必要がある。より好ましくは0.22以上0.30以下である。このような構成とすることで、より広い波長帯域の光に対して高い反射率を達成できるようになり、高い光線カット性能を備えた積層ポリエステルフィルムが得られるようになる。面配向係数とは、面内屈折率(面内平均屈折率)から面直屈折率を引いた値であり、この値が高いほど面内方向により強く配向しており、高い屈折率を有していることを表す。干渉反射による反射率は積層される材料間の面内屈折率差に依存しており、屈折率差が高くなるほどより高い反射率が得られるため、面配向係数がより高いことが好ましい。また、ポリエステルフィルムとして汎用的に用いられるポリエチレンテレフタレートの面配向係数は0.15~0.17と上記の好ましい範囲よりも低い値であり、樹脂Aまたは樹脂Bとして用いた場合には十分な反射率を得ることが困難である。
【0056】
積層ポリエステルフィルムの面配向係数を0.20以上0.30以下とするためには、上記に樹脂Aまたは樹脂Bとして例示した成分を有することが有効であり、特にジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸(1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸)を含むことが挙げられる。また、面内屈折率を高める観点から、後述の面内延伸倍率(縦方向(フィルム搬送方向)の延伸倍率と横方向(幅方向)の延伸倍率の積)を9倍以上18倍以下とすることが好ましく、より好ましくは9倍以上14倍以下である。中でも縦延伸倍率は3.0倍以上3.8倍以下、横延伸倍率は3.6倍以上4.2倍以下であることが好ましい。面内延伸倍率が9倍以上であると、延伸が十分となるため屈折率の低下やそれに伴う反射率の低下が軽減される。一方、面内延伸倍率が18倍以下であると、延伸過多による製膜中の白化や、フィルムが破れによる生産性低下が抑えられる。また、面内延伸倍率が14倍より高く18倍以下であると、延伸による配向結晶化によってtanδのピークにおける温度が高くなる傾向にあり、式(1)のX/Yが低くなることで成形した際にわずかに外観不良が生じることがあるため、より好ましい範囲は9倍以上14倍以下である。
【0057】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、示差走査熱量分析計により求められる微小吸熱ピークが220℃以下に存在することが好ましい。より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。微小吸熱ピークは後述の横延伸の際の熱処理温度に対応する熱履歴に対応する吸熱ピークであり、吸熱ピークの温度によって積層ポリエステルフィルムの熱収縮率が変化する。微小吸熱ピーク温度の下限はないものの、熱処理を行わないことが下限となるため、実質的には通常のポリエステルフィルムの延伸温度として好適な80℃が下限値となる。微小吸熱ピークを220℃以下とすることで積層ポリエステルフィルムの収縮率が中間膜の収縮率と近似するため、合わせガラス化などの熱加工工程におけるシワなどの発生を抑制することが出来る。微小吸熱ピークは、通常、融点より低温側かつ融点近傍で観測され、示差走査熱量測定のファーストランで観測される。一度融点以上に昇温し熱履歴を消したセカンドランでは観測されないことから、両者のピークの比較により微小吸熱ピークの位置は確認できる。示差走査熱量分析計により求められる微小吸熱ピークが220℃以下に存在する方法としては、後述のテンターでの横方向への延伸後に行われる熱処理において、フィルムにかかる温度を230℃以下、好ましくは220℃以下とする方法が挙げられる。
【0058】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、示差走査熱量測定により求められる融解熱量が5J/g以上であることが好ましい。より好ましくは10J/g以上であり、更に好ましくは20J/g以上である。このような構成とすることで、結晶性の高い樹脂からなる積層ポリエステルフィルムとすることができ、A層とB層の屈折率差をより高くすることが出来る。このような積層ポリエステルフィルムとするためには、樹脂Aと樹脂Bのうち、屈折率の高い方の樹脂の結晶性を高くすることが好ましく、特にナフタレンジカルボン酸をより多く含む樹脂の融解熱量を5J/g以上とすることが好ましい。なお、融解熱量は示差走査熱量分析計(DSC) セイコー電子工業(株)製ロボットDSC-RDC220を用い、JIS-K-7122(1987年)およびJIS-K-7121(1987年)に従って測定、算出した。具体的には、25℃から290℃まで5℃/分で昇温し、このときの融点±20℃の範囲におけるベースラインからの積分値を融解熱量とした。
【0059】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、内部ヘイズが1.0%以下であることが好ましい。内部ヘイズとはフィルムの表面での光散乱を除外したフィルム内部のヘイズ(濁度)を表す指標であり、内部ヘイズを低くすることで、透明でしかも特定の波長の光を反射する積層ポリエステルフィルムとすることが出来、ハーフミラーや熱線反射フィルムなど透明性が求められる用途にも広く適用できる。より好ましくは内部ヘイズが0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。内部ヘイズを前述の範囲とするためには、A層中の樹脂A以外の成分の種類や量を調整することや、B層中の樹脂B以外の成分の種類や量を調整することで達成される。このような構成とすることで、樹脂との相溶性・分散性に優れる為に内部ヘイズを小さくすることが出来る。上記の条件を満たすための樹脂の組合せの一例として、樹脂Aとしてポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンナフタレート樹脂、樹脂Bとしてシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂の組合せが挙げられる。
【0060】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂Aが結晶性ポリエステル樹脂であり、かつ樹脂Bが非晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ここでいう結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)において、融解熱量が5J/g以上であることをいう。一方、非晶性とは、同様に融解熱量が5J/g未満であることをいう。結晶性ポリエステル樹脂は、延伸・熱処理工程において配向結晶化させることにより、延伸前の非晶状態のときよりも高い面内屈折率とすることができる。一方、非晶性ポリエステル樹脂の場合においては、熱処理工程においてガラス転移温度をはるかに超える温度で熱処理を行うことにより、延伸工程で生じる若干の配向も大きく緩和でき、非晶状態の低い屈折率を維持できるものである。このように、フィルムの製造における延伸、熱処理工程において結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂との間に容易に屈折率差を設けることができるため、前述のとおり反射率が20nm以上連続して50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有することが可能となる。
【0061】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい製造方法を、樹脂Aとして結晶性ポリエステル樹脂、樹脂Bとして非晶性ポリエステル樹脂を用いた例にとって以下に説明する。もちろん本発明は係る例に限定して解釈されるわけではない。また、積層ポリエステルフィルムの積層構成の形成自体は、特開2007-307893号公報の〔0053〕~〔0063〕段の記載を参考とすれば実現できるものである。また、樹脂A、樹脂Bとは異なる樹脂Cを主成分とする層(C層)を含む3種類の層からなる積層ポリエステルフィルムによっても、同様に解釈されるものである。
【0062】
樹脂Aおよび樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて、熱風中あるいは真空下で乾燥された後、別々の押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルター等を介して異物や変性した樹脂などを取り除かれる。これらの樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。そして、ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャスティングフィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。
【0063】
また、複数のポリエステル樹脂からなる積層ポリエステルフィルムを作製する場合には、複数の樹脂を2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、積層装置に送り込む。積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の構成を効率よく得るためには、多数の微細スリットを有する部材を少なくとも別個に2個以上含むフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、任意の層厚み構成を形成することも可能となる。この装置では、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため、任意の層厚みを達成することが可能となったものである。
【0064】
このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層体をダイへと導き、上述と同様にキャスティングフィルムが得られる。
【0065】
このようにして得られたキャスティングフィルムは、二軸延伸されることが好ましい。ここで、二軸延伸とは、長手方向および幅方向に延伸することをいう。延伸は、逐次に二方向に延伸しても良いし、同時に二方向に延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
【0066】
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸をいい、通常は、ロールの周速差により施され、この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~9倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンナフタレートの共重合樹脂を用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂の内、ガラス転移温度が高い方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲が好ましい。
【0067】
このようにして得られた一軸延伸されたフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0068】
また、幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、幅方向に延伸する。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~9倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンナフタレートの共重合樹脂を用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂の内、ガラス転移温度が高い方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃の範囲が好ましい。
【0069】
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。熱処理を行うことにより、フィルムの寸法安定性が向上する。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に弛緩処理などを併用してもよい。
【0070】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいては、延伸後の熱処理温度を樹脂Aの融点以下、かつ樹脂Bの融点以上とすることが好ましい。この場合、樹脂Aは高い配向状態を保持する一方、樹脂Bの配向は緩和されるために、容易にこれらの樹脂の屈折率差を設けることができる。
【0071】
同時二軸延伸の場合について次に説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0072】
次に、キャストフィルムを、同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6~30倍が好ましく、多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンナフタレートの共重合樹脂を用いた場合には、面積倍率として9~18倍が特に好ましく用いられる。特に同時二軸延伸の場合には、面内の配向差を抑制するために、長手方向と幅方向の延伸倍率を同一とするとともに、延伸速度もほぼ等しくなるようにすることが好ましい。また、延伸温度としては多層積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂の内、ガラス転移温度が高い方の樹脂のガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃の範囲が好ましい。
【0073】
こうして二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。
【実施例0074】
以下、本発明の積層ポリエステルフィルムの実施例を用いて説明する。
【0075】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0076】
(1)層厚み、積層数、積層構成
フィルムの積層構成や積層数の特定及び各層の厚みの測定は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルを用いて、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察及びその測長機能により行った。具体的には、透過型電子顕微鏡H-7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件でフィルムの断面を10000~40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影、層構成や積層数の特定、および各層厚みの測定を実施した。尚、場合によっては、層間のコントラストを高めるために、RuO4やOsO4などを使用した公知の染色技術を用いた。
【0077】
(2)反射率
5cm×5cmで切り出したサンプルを用いて、日立製作所製 分光光度計(U-4100 Spectrophotomater)に付属の積分球を用いた基本構成により、下記の測定条件で反射率測定を行った。反射率測定において、サンプルは長手方向を上下方向にして積分球の後ろに設置し、反射率は装置付属の酸化アルミニウムの副白板を基準とした相対反射率として算出した。なお、波長900~1200nmの平均反射率は1nm毎の反射率を全て平均した値とし、測定はサンプルの両面で行った上で波長900~1200nmの平均反射率が高い方の面の測定結果を採用した。
<測定条件>
スリット :2nm(可視)/自動制御(赤外)
ゲイン :2
走査速度 :600nm/分
開始波長 :2600nm
終了波長 :240nm
サンプリング間隔:1nm
入射角 :10°
(3)融点、ガラス転移温度、結晶化温度、微小吸熱ピーク
サンプルを5g採取し、示差走査熱量分析計(セイコー電子工業(株)製ロボットDSC-RDC220)を用い、JIS-K-7122(1987年)およびJIS-K-7121(1987年)に従って融点、ガラス転移温度、結晶化温度を測定、算出した。測定にあたっては、サンプルを25℃から290℃まで5℃/分で昇温した。また、微小吸熱ピークはDSCのファーストランで観測される融点より低温側かつ融点近傍のピークであり、一度融点以上に昇温し熱履歴を消したセカンドランでは観測されないことから、ファーストランとセカンドランのDSCチャートを比較することにより確認した。なお、ファーストランとセカンドランの昇温条件は同じとした。
【0078】
(4)内部ヘイズ
一辺が5cmの正方形状の積層ポリエステルフィルムサンプルを3点準備し、常態(23℃、相対湿度50%)環境下にて40時間放置した。その後、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」により、JIS-K-7105(1994年)に準じて各サンプルの内部ヘイズを測定した。測定は、積層ポリエステルフィルムサンプル表面の凹凸による光散乱を除去するために、流動パラフィンで満たされた石英セルに入れた状態で実施した。各サンプルの内部ヘイズの測定値を平均して、積層ポリエステルフィルムの内部ヘイズとした。
【0079】
(5)成形品外観
(成形品の作製)
成形品の作製には、日清紡 LAMINATOR0303Sを用いた。まず、積層ポリエステルフィルムの両側に支持体として、厚さ3mm、10cm角の板ガラスを重ね、積層ポリエステルフィルムと支持体との間にそれぞれ中間層として厚さ0.76mmのPVB(ポリビニルブチラール)を設置した。こうして得られた積層体を、25℃から温度150℃まで3℃/分で上昇するように加熱した後、600mmHgで5分間減圧し、圧力0.1MPaとなるようにして30分間プレスした。その後、プレスしたまま35℃になるまで3℃/分で徐冷し、プレスを解除して成形品を得た。
【0080】
(外観評価)
3波長蛍光灯下に設置した成形品に対して、評価部分の法線方向に対して20°、50°、70°の角度から評価部分を目視にて評価を行った。評価基準は次のとおりであり、◎、〇を良好な結果とした。
◎:いずれの角度から観察しても、シワや凹凸が見えなかった。
〇:少なくとも一つの角度から観察した場合に、シワや凹凸がごく僅かに見えたが、いずれの角度から観察しても、明確なシワや凹凸が成形体の一部または全体に見えることはなかった。
×:少なくとも一つの角度から観察した場合に、明確なシワや凹凸が成形体の一部または全体に見えた。
【0081】
(6)損失正接(tanδ)
積層ポリエステルフィルムサンプルを幅方向7mm×長手方向20mm(長手方向測定用)および長手方向7mm×幅方向20mm(幅方向測定用)に切り出し、それぞれについてセイコーインスツル株式会社製「DMS6100」を用いて、以下の測定条件でtanδを測定した。
<測定条件>
昇温温度:20℃~180℃
昇温速度:3℃/分
ホールド時間:5分
サンプリング:1秒
測定周波数:1Hz
その後、tanδ(tanD)と温度(Temp)の値から、tanδの最大値(ピーク値)をX、150℃でのtanδをYとし、またtanδが最大となるときの温度を求めた。長手方向測定用と幅方向測定用それぞれの測定結果から、Xがより高い方の結果を採用した。
【0082】
(7)面配向係数
SAIRON TECHNOLOGY,INC.製「SPA-4000」を用いて以下の測定条件で測定した。積層ポリエステルフィルムサンプルの長手方向の屈折率と幅方向の屈折率の平均値を求め、面直方向の屈折率をその値から引いた値(差)を面配向係数とした。
レーザー:波長632.8nm
プリズム:GGGプリズム。
【0083】
(8)A層とB層の密着性
JIS K5400(1990年)に基づき試験を行った。評価基準は次の通りであり、◎、○、△を良好な結果とした。
◎:全ての格子の目にはがれがない。
○:格子のはがれ発生が5%未満である。
△:格子のはがれ発生が5%以上90%未満である。
×:格子のはがれ発生が90%以上である。
【0084】
[積層ポリエステルフィルムの製造に使用した樹脂]
積層ポリエステルフィルムの製造には、A層用、B層用の樹脂として以下の樹脂を使用した。
【0085】
(A層用の樹脂)
PEN:ポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:267℃、ガラス転移温度:121℃)
PEN(1):平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して6mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:255℃、ガラス転移温度:95℃)。
PEN(2):平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコールを全ジオール構成成分に対して6mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:257℃、ガラス転移温度:90℃)。
PEN(3):ジプロピレングリコールを全ジオール構成成分に対して15mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:261℃、ガラス転移温度:108℃)。
PEN(4):平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して5mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:257℃、ガラス転移温度:101℃)。
PEN(5):平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して8mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:250℃、ガラス転移温度:89℃)。
PEN(6):平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して4mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:260℃)と、平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して8mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.64、融点:248℃)を90:10の質量比となるように混合したもの(ガラス転移温度:94℃)。
PEN(7):平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して4mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:253℃)と、アジピン酸を全ジカルボン構成成分に対して15mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.60、融点:223℃)を80:20の質量比となるように混合したもの(ガラス転移温度:95℃)。
PEN(8):ジエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して10mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:239℃、ガラス転移温度:115℃)。
PEN(9):ブチレングリコールを全ジオール構成成分に対して10mol%共重合したポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:253℃、ガラス転移温度:118℃)。
PEN(10):ポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:267℃)と、平均分子量400のポリエチレングリコールを全ジオール構成成分に対して9mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.65、融点:256℃)を50:50の質量比となるように混合したもの(ガラス転移温度:94℃)。
PEN(11):ポリエチレン2,6-ナフタレート(固有粘度:0.64、融点:267℃)と、アジピン酸を全ジカルボン構成成分に対して15mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.60、融点:223℃)を50:50の質量比となるように混合したもの(ガラス転移温度:94℃)。
PET:ポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製、固有粘度0.65、融点:256℃、ガラス転移温度:80℃)。
【0086】
(B層用の樹脂)
樹脂(1):全ジオール構成成分に対してシクロヘキサンジメタノール(CHDM)を31mol%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度:0.73、非晶性樹脂(融点なし)、ガラス転移温度:79℃)と、ポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製、固有粘度:0.65、融点:256℃、ガラス転移温度:80℃)を82:18の質量比となるように混合したもの。なお、樹脂(1)の融点は225℃、ガラス転移温度は79℃であった。
【0087】
(実施例1)
A層を形成するポリエステル樹脂(樹脂A)としてPEN(1)を用い、B層を形成するポリエステル樹脂(樹脂B)として樹脂(1)を用いた。各層を形成するポリエステル樹脂を、それぞれベント付き二軸押出機にて280℃の溶融状態とした後、ギヤポンプおよびフィルターを介して449層のフィードブロックにて合流させ、両側の最表層がA層となるように厚み方向に交互に449層積層した。その後、溶融積層体をT-ダイに導いてシート状に成形して吐出させ、溶融シート状物を静電印加にて表面温度25℃のキャスティングドラム上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。なお、このとき樹脂Aと樹脂Bの質量比が約1:1になるように吐出量を調整した。次いで、得られたキャストフィルムを、樹脂Aのガラス転移温度+10℃の温度に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向に3.6倍延伸して一旦冷却した。その後、この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施して濡れ張力を55mN/mとし、両面に(ガラス転移温度が18℃のポリエステル樹脂)/(ガラス転移温度が82℃のポリエステル樹脂)/平均粒径100nmのシリカ粒子からなる積層形成膜塗液を塗布し、透明・易滑・易接着層を形成した。この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、樹脂Aのガラス転移温度+20℃の温度で横方向に均一な延伸速度で3.8倍に延伸した。さらに同じテンター内で、延伸したフィルムに210℃の熱風で熱処理を行い、同温度にて幅方向に2%の弛緩処理を施した後、室温まで徐冷して巻き取った。得られた積層ポリエステルフィルムの厚みは40μmであった。評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2~16、比較例1~9)
各層に用いた樹脂、積層数、製膜条件を表1、2のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の条件にて積層ポリエステルフィルムを作製した。得られた積層ポリエステルフィルムの評価結果を表1、2に示す。なお、積層数の調整はフィードブロックのスリット数の調整により行った。
【0089】
【0090】